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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051459
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】記録装置および記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 305
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157647
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】松村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EB27
2C056EC12
2C056EC31
2C056EC34
2C056FA10
(57)【要約】
【課題】搬送ローラー誤差の影響を排除し、濃度むらを抑制するための調整値を正しく取得することに役立つTPが求められている。
【解決手段】記録装置であって、搬送ローラーの周長は、搬送方向におけるノズル列長とは異なり、搬送方向において位置が異なる第1パッチと第2パッチとにより形成されるTPが主走査方向に複数並ぶTP群であって、第1パッチと第2パッチとの境界部に対する液体吐出量がTP毎に異なるTP群を記録するTP記録制御を行い、TP記録制御では、第1TP群と第2TP群とを、媒体上の搬送方向において異なる位置に記録し、TPの第1パッチの記録と第2パッチの記録との間の搬送として、ノズル列長に基づく第1距離の搬送をし、第1TP群の第2パッチの記録と第2TP群の第1パッチの記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と第1距離×2との差分である第2距離の搬送をする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体へ液体を吐出可能な複数のノズルが所定のノズル並び方向に並ぶノズル列を有し、前記ノズル並び方向に交差する第1方向へ移動しながら前記液体の吐出による記録を行う記録ヘッドと、
前記媒体を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、前記媒体を前記第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部と、
前記記録ヘッドによる記録および前記搬送部による搬送を制御する制御部と、を備え、
前記搬送ローラーの周長は、前記第2方向における前記ノズル列の長さであるノズル列長とは異なり、
前記制御部は、
前記第2方向において位置が異なる第1パッチと第2パッチとにより形成されるテストパターンが前記第1方向に複数並ぶテストパターン群であって、前記第1パッチと前記第2パッチとの境界部に対する前記液体の吐出量が前記第1方向における前記テストパターン毎に異なる前記テストパターン群を前記媒体へ記録するTP記録制御を行い、
前記TP記録制御では、
前記テストパターン群である第1テストパターン群と第2テストパターン群とを、前記媒体上の前記第2方向において異なる位置に記録し、
前記テストパターンの前記第1パッチの記録と前記第2パッチの記録との間の搬送として、前記ノズル列長に基づく第1距離の搬送をし、
前記第1テストパターン群の前記第2パッチの記録と前記第2テストパターン群の前記第1パッチの記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と前記第1距離×2との差分である第2距離の搬送をする、ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記搬送ローラーが前記第2方向に沿って複数配置されている場合、
前記制御部は、複数の前記搬送ローラーの周長の公倍数と前記第1距離×2との差分を前記第2距離とする、ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記搬送ローラーの周長が前記第1距離のN倍(ただしNは2以上の整数)である場合、
前記制御部は、前記TP記録制御では、前記第1テストパターン群および前記第2テストパターン群を含むN個の前記テストパターン群を、前記媒体上の前記第2方向において異なる位置に記録する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記TP記録制御では、前記境界部の位置を示す目印を前記テストパターンとともに記録する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記TP記録制御では、前記テストパターン群を形成する複数の前記テストパターンを前記第1方向において等間隔に記録する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項6】
記録装置による記録方法であって、
前記記録装置は、
媒体へ液体を吐出可能な複数のノズルが所定のノズル並び方向に並ぶノズル列を有し、前記ノズル並び方向に交差する第1方向へ移動しながら前記液体の吐出による記録を行う記録ヘッドと、
前記媒体を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、前記媒体を前記第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部と、を備え、
前記搬送ローラーの周長は、前記第2方向における前記ノズル列の長さであるノズル列長とは異なり、
前記第2方向において位置が異なる第1パッチと第2パッチとにより形成されるテストパターンが前記第1方向に複数並ぶテストパターン群であって、前記第1パッチと前記第2パッチとの境界部に対する前記液体の吐出量が前記第1方向における前記テストパターン毎に異なる前記テストパターン群を前記媒体へ記録するTP記録工程を有し、
前記TP記録工程では、
前記テストパターン群である第1テストパターン群と第2テストパターン群とを、前記媒体上の前記第2方向において異なる位置に記録し、
前記テストパターンの前記第1パッチの記録と前記第2パッチの記録との間の搬送として、前記ノズル列長に基づく第1距離の搬送をし、
前記第1テストパターン群の前記第2パッチの記録と前記第2テストパターン群の前記第1パッチの記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と前記第1距離×2との差分である第2距離の搬送をする、ことを特徴とする記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する複数のノズルが並ぶノズル列を有する記録ヘッドの媒体に対する走査と、記録ヘッドの走査の方向に交差する搬送方向への媒体の搬送とを交互に繰り返して媒体へ記録する記録装置が知られている。このような記録装置では、搬送精度に関して設計値との誤差があり、また、このような搬送誤差には個体差がある。搬送誤差に起因して、1回の走査で記録される画像であるバンドと、次の回の走査で記録されるバンドとの境界部に、相対的に濃度が高い又は低い筋状の濃度むらが発生することがある。このような濃度むらの発生を抑えるために、2回の走査によりテストパターンを媒体へ記録し、テストパターンにおける前記境界部の濃度を評価して、走査と走査との間に行う1回分の搬送の搬送量が調整される。
【0003】
関連技術として、記録ヘッドの走査方向に配列する複数のパッチで構成される調整パターンを記録する内容が開示されている(特許文献1参照)。前記文献1によれば、各パッチは、第1記録走査により記録される基準パターンと、その後の搬送を挟んだ第2記録走査により記録される、パッチ毎に基準パターンとのずらし量が異なるずらしパターンと、により構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022‐57288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した搬送量の調整をする場合、テストパターンの記録のための2回の走査の間に、搬送方向におけるノズル列の長さに相当する所定距離の搬送を行う。ここで、媒体を搬送するために回転する搬送ローラーが、その断面形状が真円でなかったり、偏芯していたりすることがある。このような真円ではない、偏芯している、といった搬送ローラー自体の誤差である「搬送ローラー誤差」が有ると、搬送ローラーの1回転の中で回転量に対する搬送量が変動する。そのため、ノズル列の長さと搬送ローラーの周長とが異なる場合は、テストパターンの記録結果に、搬送ローラー誤差の影響が及び、テストパターンの記録結果から搬送量の調整値を正しく取得することが困難であった。
【0006】
このような事情から、搬送ローラー誤差の影響をできるだけ排除して、濃度むらを抑制するための調整値を正しく取得することに役立つテストパターンが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
記録装置は、媒体へ液体を吐出可能な複数のノズルが所定のノズル並び方向に並ぶノズル列を有し、前記ノズル並び方向に交差する第1方向へ移動しながら前記液体の吐出による記録を行う記録ヘッドと、前記媒体を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、前記媒体を前記第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部と、前記記録ヘッドによる記録および前記搬送部による搬送を制御する制御部と、を備え、前記搬送ローラーの周長は、前記第2方向における前記ノズル列の長さであるノズル列長とは異なり、前記制御部は、前記第2方向において位置が異なる第1パッチと第2パッチとにより形成されるテストパターンが前記第1方向に複数並ぶテストパターン群であって、前記第1パッチと前記第2パッチとの境界部に対する前記液体の吐出量が前記第1方向における前記テストパターン毎に異なる前記テストパターン群を前記媒体へ記録するTP記録制御を行い、前記TP記録制御では、前記テストパターン群である第1テストパターン群と第2テストパターン群とを、前記媒体上の前記第2方向において異なる位置に記録し、前記テストパターンの前記第1パッチの記録と前記第2パッチの記録との間の搬送として、前記ノズル列長に基づく第1距離の搬送をし、前記第1テストパターン群の前記第2パッチの記録と前記第2テストパターン群の前記第1パッチの記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と前記第1距離×2との差分である第2距離の搬送をする。
【0008】
記録装置による記録方法であって、前記記録装置は、媒体へ液体を吐出可能な複数のノズルが所定のノズル並び方向に並ぶノズル列を有し、前記ノズル並び方向に交差する第1方向へ移動しながら前記液体の吐出による記録を行う記録ヘッドと、前記媒体を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、前記媒体を前記第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部と、を備え、前記搬送ローラーの周長は、前記第2方向における前記ノズル列の長さであるノズル列長とは異なり、前記第2方向において位置が異なる第1パッチと第2パッチとにより形成されるテストパターンが前記第1方向に複数並ぶテストパターン群であって、前記第1パッチと前記第2パッチとの境界部に対する前記液体の吐出量が前記第1方向における前記テストパターン毎に異なる前記テストパターン群を前記媒体へ記録するTP記録工程を有し、前記TP記録工程では、前記テストパターン群である第1テストパターン群と第2テストパターン群とを、前記媒体上の前記第2方向において異なる位置に記録し、前記テストパターンの前記第1パッチの記録と前記第2パッチの記録との間の搬送として、前記ノズル列長に基づく第1距離の搬送をし、前記第1テストパターン群の前記第2パッチの記録と前記第2テストパターン群の前記第1パッチの記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と前記第1距離×2との差分である第2距離の搬送をする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の装置構成を簡易的に示すブロック図。
図2】記録ヘッドと媒体との関係性を上方からの視点により簡易的に示す図。
図3図3Aは記録ヘッドや搬送ローラーを含む構成を主走査方向と平行な向きの視点により簡易的に示す図、図3Bは記録ヘッドや搬送ローラーを含む構成であって図3Aと異なる例を主走査方向と平行な向きの視点により簡易的に示す図。
図4】本実施形態の制御部が実行する処理を示すフローチャート。
図5】TP記録制御により媒体へ複数のTP群が記録された状態を示す図。
図6】第2パッチの記録方法を説明するための図。
図7】搬送ローラー誤差が有る場合の搬送ローラーの回転量に対する搬送量の誤差をグラフにより示す図。
図8図8Aは第1TP群の読取結果から得られた筋濃度をグラフにより示す図、図8Bは第2TP群の読取結果から得られた筋濃度をグラフにより示す図。
図9】搬送ローラーの周長が第1距離のN倍である場合のTP記録制御を示すフローチャート。
図10図9のTP記録制御により媒体へ複数のTP群が記録された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状や濃淡が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0011】
1.装置構成の概略説明:
図1は、本実施形態にかかる記録装置10の構成を簡易的に示している。記録装置10により記録方法が実行される。
記録装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、記憶部15、通信IF16、搬送部17、キャリッジ18、記録ヘッド19等を備える。IFはインターフェイスの略である。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、RAM11c等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0012】
制御部11では、プロセッサーつまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存されたプログラム12に従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより、TP記録制御部12a、調整値算出部12bといった各種機能を実現する。TPは、テストパターンの略である。プログラム12は、記録制御プログラムに該当する。TP記録制御部12aや調整値算出部12bは、記録装置10がプログラム12に従って実現する機能の一部に過ぎない。プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成としてもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成としてもよい。
【0013】
表示部13は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路と、を含む構成であってもよい。
操作受付部14は、ユーザーによる操作や入力を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。表示部13および操作受付部14を含めて、記録装置10の操作パネルと呼んでもよい。タッチパネルとしての操作受付部14は、表示部13の一機能として実現される。従って、表示部13は操作受付部14を含んだ構成と解してもよい。
【0014】
記憶部15は、例えば、ハードディスクドライブや、ソリッドステートドライブや、その他のメモリーによる記憶手段である。制御部11が有するメモリーの一部を記憶部15と捉えてもよい。記憶部15を、制御部11の一部と捉えてもよい。
【0015】
通信IF16は、記録装置10が公知の通信規格を含む所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部装置と通信を実行するための一つまたは複数のIFの総称である。通信IF16は通信部に該当する。外部装置は、例えば、パーソナルコンピューター(PC)、サーバー、スマートフォン、タブレット型端末等の通信装置である。図1の例では、記録装置10は、通信IF16を介して読取装置1と接続している。記録装置10が通信可能に接続する外部装置の台数は1台に限られない。読取装置1は、記録装置10による記録後の媒体30を読み取り可能な手段であり、スキャナーであったり、測色器であったりする。読取装置1は、記録装置10の一部であってもよい。
【0016】
搬送部17は、制御部11による制御下で媒体30を所定の搬送経路に沿って搬送するための手段である。搬送部17は、回転して媒体30を搬送する搬送ローラーや、回転の動力源としてのモーター等を備える。媒体30は、例えば用紙であるが、液体による記録の対象となり得る媒体であればよく、フィルムや生地等、紙以外の素材であってもよい。
【0017】
キャリッジ18は、制御部11による制御下で、図示しないキャリッジモーターの動力により所定の主走査方向に沿って往復移動を行う移動手段である。キャリッジ18は、記録ヘッド19を搭載している。主走査方向は「第1方向」に該当する。
記録ヘッド19は、制御部11による制御下でインクジェット方式により液体を媒体30へ吐出して記録を行う手段である。記録ヘッド19が吐出する液滴をドットと言う。液体とは主にインクである。
【0018】
記録ヘッド19は、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)といった各色のインクを吐出可能である。むろん、記録ヘッド19は、CMYK以外の色のインクや、インク以外の液体を吐出可能であってもよい。キャリッジ18の移動と記録ヘッド19の移動とは同義である。キャリッジ18と記録ヘッド19とをまとめて記録ヘッドと捉えてもよいし、これらを記録部と称してもよい。
【0019】
記録装置10は、その構成が一体的にまとめられた1台のプリンターである。
あるいは、記録装置10は、複数台の装置や機器が互いに通信可能に接続することにより実現される記録システムであってもよい。記録システムは、例えば、主に制御部11の役割を担う情報処理装置と、搬送部17やキャリッジ18や記録ヘッド19を含んで情報処理装置による制御下で記録を実行するプリンターとを含む。この場合、情報処理装置を、記録制御装置や画像処理装置等として把握することができる。表示部13や操作受付部14や記憶部15は、情報処理装置またはプリンターの一部であったり、情報処理装置またはプリンターに接続された周辺機器であったりする。
【0020】
図2は、記録ヘッド19と媒体30との関係性を、上方からの視点により簡易的に示している。記録ヘッド19は、液体を吐出可能な複数のノズル20を有する。図2に示す白丸の1つ1つが、個々のノズル20である。主走査方向D1に交差する方向D2を、副走査方向D2と言ったり、搬送方向D2と言ったりする。主走査方向D1と搬送方向D2との交差は、直交或いはほぼ直交である。搬送方向D2は「第2方向」に該当する。搬送部17は、搬送方向D2の矢印が示すように、搬送方向D2の上流から下流へ媒体30を搬送する。搬送方向D2の上流、下流を、単に上流、下流と言う。
【0021】
記録ヘッド19は、液体種別毎にノズル列を有する。図2では、ノズル列として、ごく簡単にノズル列21C,21M,21Y,21Kを示している。ノズル列21C,21M,21Y,21Kのそれぞれは、複数のノズル20が所定のノズル並び方向D3に並ぶことにより構成されている。図2の例では、ノズル並び方向D3と搬送方向D2とは平行である。ただし、記録ヘッド19の構造として、ノズル並び方向D3は搬送方向D2に対して斜めに傾いていてもよい。いずれにしても、ノズル並び方向D3は主走査方向D1に交差している。1つのノズル列は、搬送方向D2におけるノズル20同士の間隔であるノズルピッチが一定或いはほぼ一定の複数のノズル20が並んで構成されている。
【0022】
ノズル列21Cは、Cインクを吐出する複数のノズル20が並ぶノズル列である。同様に、ノズル列21Mは、Mインクを吐出する複数のノズル20が並ぶノズル列であり、ノズル列21Yは、Yインクを吐出する複数のノズル20が並ぶノズル列であり、ノズル列21Kは、Kインクを吐出する複数のノズル20が並ぶノズル列である。複数のノズル列21C,21M,21Y,21Kは、主走査方向D1に沿って並んでおり、搬送方向D2において位置が同一である。
【0023】
搬送方向D2におけるノズル列の長さを「ノズル列長」と呼ぶ。ノズル列長は、ノズル列の最も下流のノズル20と最も上流のノズル20との搬送方向D2における距離と解してよい。ただし、ノズル列の下流端や上流端における幾つかのノズル20は元々液体吐出に用いない仕様であれば、ノズル列のうち、そのような下流端や上流端における不使用のノズル20を除いた範囲の長さをノズル列長と捉えればよい。
【0024】
制御部11は、記録対象の画像を表現する記録データに基づいて記録ヘッド19にインクを吐出させる。知られているように、記録ヘッド19ではノズル20毎に駆動素子が設けられており、記録データに応じて各ノズル20の駆動素子への駆動信号の印加が制御されることにより、各ノズル20が対応するインクのドットを吐出したりドットを吐出しなかったりして、記録データが表現する画像が媒体30に記録される。記録データは、画素毎かつCMYK等のインク色毎にドットの吐出又はドットの非吐出を規定したデータである。ドットの吐出をドットオン、ドットの非吐出をドットオフとも言う。
【0025】
キャリッジ18による主走査方向D1に沿う記録ヘッド19の移動に伴う、記録ヘッド9による液体吐出を「走査」と呼んだり「パス」と呼んだりする。また、パスとパスとの間に搬送部17が実行する下流への搬送を「紙送り」と呼ぶ。制御部11は、パスと紙送りとを交互に繰り返すことにより、媒体30に2次元の画像を記録する。主走査方向D1に沿った一方側から他方側への移動を往路移動、前記他方側から前記一方側への移動を復路移動と呼ぶ。また、往路移動によるパスを往路パス、復路移動によるパスを復路パスと呼ぶ。往路パスおよび復路パスによる記録が双方向記録であり、往路パスと復路パスとのいずれか一方のみによる記録が単方向記録である。本実施形態では、双方向記録、単方向記録のいずれを採用してもよい。
【0026】
図3Aは、記録ヘッド19や搬送ローラーを含む構成を、主走査方向D1と平行な向きの視点により簡易的に示している。媒体30の上方に、記録ヘッド19が配設されている。図3Aでは、記録ヘッド19と、記録ヘッド19を搭載するキャリッジ18とを、一体的に示している。記録ヘッド19の下面は、ノズル面19aである。ノズル面19aでは、各ノズル20が開口しており、ノズル面19aから媒体30に向けてドットが吐出される。
【0027】
搬送部17は、搬送ローラー17aと、搬送ローラー17aに回転の動力を与える搬送モーター17bとを有する。搬送モーター17bから搬送ローラー17aまでは、動力を伝えるための図示しないギヤ輪列やベルト等で接続されている。搬送ローラー17aは、記録ヘッド19よりも上流に配設されており、媒体30に接した状態で回転することで媒体30を搬送する。搬送ローラー17aの断面形状は図示のように円形であり、この円の円周が搬送ローラー17aの周長である。図3Aでは省略しているが、搬送部17は、媒体30に接して従動的に回転するローラーや、媒体30を支持するプラテン等を有していてもよい。
【0028】
図3Bは、図3Aと同様の視点により、図3Aとは異なる例を示している。図3Bに関して、図3Aと共通する説明は省略する。搬送ローラーは、搬送方向D2に沿って複数配置されていてもよい。なお、搬送方向D2における位置が同じ搬送ローラー同士は、本実施形態では複数の搬送ローラーと言わない。例えば、搬送ローラー17aは、主走査方向D1において分割されていてもよい。図3Bの例では、搬送部17は、搬送モーター17bにより回転する搬送ローラーとして、搬送ローラー17aおよび搬送ローラー17cを有する。搬送モーター17bから搬送ローラー17cまでは、動力を伝えるための図示しないギヤ輪列やベルト等で接続されている。搬送ローラー17cは、記録ヘッド19よりも下流に配設されており、媒体30に接した状態で回転することで媒体30を搬送する。搬送ローラー17cの断面形状は図示のように円形であり、この円の円周が搬送ローラー17cの周長である。図3Bの例では、単位時間あたりの搬送量が搬送ローラー17aと搬送ローラー17cとで釣り合うように設計されている。
【0029】
以下では、搬送ローラーの数は図3Aのように1つであってもよいし、図3Bのように複数であってもよい。ただし、搬送ローラーの数が複数である場合は、複数の搬送ローラーを仮想的に1つの搬送ローラーとみなし、複数の搬送ローラーの周長の公倍数を“搬送ローラーの周長”として扱う。ここで言う公倍数は基本的に最小公倍数と解してよいが、必ずしも最小公倍数でなくてもよい。図3Bの例を採用する場合は、搬送ローラー17aの周長と搬送ローラー17cの周長との最小公倍数が“搬送ローラーの周長”である。
本実施形態では、ノズル列長と、搬送ローラーの周長とが異なる場合を想定して説明を続ける。ノズル列長と搬送ローラーの周長とは、それぞれ製品において既知の値である。
【0030】
2.TP群の記録から調整値取得まで:
図4は、制御部11がプログラム12に従って実行する、TP群の記録から調整値の取得までの処理をフローチャートにより示している。当該フローチャートのうちステップS100~S160は、本実施形態の「TP記録制御」や「TP記録工程」に相当する。
図5は、TP記録制御において記録ヘッド19により媒体30へ複数の「TP群」が記録された状態を、図2と同様の視点により示している。図5では、記録ヘッド19を単なる矩形で示し、キャリッジ18の記載は省略している。
【0031】
ステップS100では、制御部11のTP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御し、TP群を表現する記録データであるTP群記録データに基づいて記録ヘッド19にインク吐出をさせて、1回のパスで第1TP群44の複数の第1パッチ41を媒体30へ記録する。TP群記録データは、例えば、記憶部15に予め記憶されている。
【0032】
本実施形態では、1つのTP群は、主走査方向D1において間隔を空けて並ぶ複数のTPにより形成される。以下では、上流から下流を向く視点を基準とした右、左を、単に右、左と言う。図5の例では、第1TP群44は、左から右に等間隔に並ぶ5つのTP40a,40b,40c,40d,40eにより形成されている。同様に、第2TP群45は、左から右に等間隔に並ぶ5つのTP40a,40b,40c,40d,40eにより形成されている。むろん、1つのTP群を形成するTPの数は5つに限定されない。1つのTPは、搬送方向D2において位置が異なる第1パッチ41と第2パッチ42とにより形成される。1つのTPにおいて、下流側のパッチが第1パッチ41であり、上流側のパッチが第2パッチ42である。図5では、TP40c以外のTP40a,40b,40d,40eについては、符号41,42や「境界部」を指す符号43を省略している。
【0033】
第1パッチ41や第2パッチ42は、それぞれが1色のインクで記録される無地の画像である。第1パッチ41の色と第2パッチ42の色は、同じであっても異なる色であってもよい。ここでは簡単に、第1パッチ41および第2パッチ42は同じ色、例えばCインクで記録されるものとする。従って、図5では、記録ヘッド19を、ある1色のインクを吐出する1つのノズル列、例えばノズル列21Cと捉えてもよい。
【0034】
搬送方向D2において、第1パッチ41、第2パッチ42のそれぞれは、ノズル列長に亘る全てあるいはほぼ全てのノズル20を用いて記録されるバンドサイズの画像であってもよい。ただし、TPは、後述するように境界部43の濃度を評価可能な画像であればよいため、第1パッチ41、第2パッチ42のそれぞれは、搬送方向D2においてバンドサイズよりも小さいサイズの画像であってもよい。図5の例では、第1パッチ41は、ノズル列のうち上流側において連続して並ぶ一部のノズル20により記録される画像であり、第2パッチ42は、ノズル列のうち下流側において連続して並ぶ一部のノズル20により記録される画像である。これにより、TPの記録に際してインクの消費量を抑えることができる。
【0035】
図5において搬送方向D2に沿って位置をずらして記載した4つの記録ヘッド19は、全て同じ記録ヘッド19である。符号19の隣に括弧書きで示す符号P1,P2…は、何回目のパスであるかを意味する。つまり、図5では、記録ヘッド19が1回目~4回目のパスP1,P2,P3,P4を実行したこと、および、媒体30の搬送により、パスP1,P2,P3,P4の度に搬送方向D2における記録ヘッド19と媒体30との位置関係が異なっていること、を示している。図5から解るように、第1TP群44の複数の第1パッチ41は、パスP1により記録される。
【0036】
ステップS110では、TP記録制御部12aは、搬送部17を制御し「第1紙送り」を実行させる。ステップS110や後述のステップS150の第1紙送りは、TPの第1パッチ41の記録と第2パッチ42の記録との間の搬送である。TP記録制御部12aは、ノズル列長に基づく「第1距離」の搬送を搬送部17に指示することで、第1紙送りを実行させる。符号L1は、第1距離L1を示している。ノズル列長に基づく第1距離L1は、予め定められた1回分の紙送り量であり、例えばノズル列長そのものであってもよい。ただし、連続するパスそれぞれで記録した画像間に搬送方向D2において隙間が生じないように、また、後述するTP40a,40b,40c,40d,40e毎の調整値による調整を考慮して、第1距離L1はノズル列長よりも所定数ノズルピッチ分、短い距離であるとする。
【0037】
第1距離L1をノズル列長よりも所定数ノズルピッチ分短い距離とすることで、第1パッチ41の上流側の端部と第2パッチ42の下流側の端部とが重なり易くなる。
搬送部17による搬送精度に設計上の理想と比べたときの誤差、すなわち「搬送誤差」が無ければ、搬送部17にある距離の搬送を指示したとき、指示した距離の搬送が正確に実行される。ただし、搬送誤差が有り得るため、搬送部17に対して指示した距離の搬送が実際に実現されるとは限らない。従って、本実施形態において、第1距離の搬送をする、第1距離の搬送を搬送部17に指示して第1紙送りを実行させる、等と言った場合でも、これらは第1距離の搬送が正確に実現されることを指す訳ではない。このような解釈は、後述する第2距離の搬送、第2紙送りにも同様に適用される。
【0038】
ステップS120では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御し、TP群記録データに基づいて記録ヘッド19にインク吐出をさせて、1回のパスで第1TP群44の複数の第2パッチ42を媒体30へ記録する。つまり、図5によれば、第1TP群44の複数の第2パッチ42がパスP2により記録される。
【0039】
本実施形態では、1つのTP群において、第1パッチ41と第2パッチ42との境界部43に対する液体の吐出量が、主走査方向D1に並ぶTP40a,40b,40c,40d,40e毎に異なる。境界部43とは、主走査方向D1に並ぶTP40a,40b,40c,40d,40eにおいて、第1パッチ41と第2パッチ42とが互いに最も接近し合っている部分を含む範囲である。具体的には、境界部43は、各TP40a~40eにおいて第1パッチ41と第2パッチ42とが主走査方向D1から見て重複する領域と、第1パッチ41の上流側の端と第2パッチ42の下流側の端との隙間の領域とのうち、搬送方向D2において大きい方の領域である。例えば、図5に示す第1TP群44においてはTP40aの黒い筋状の領域の搬送方向D2の幅が境界部43の幅であり、第1TP群45においてはTP40eの白い筋状の領域の搬送方向D2の幅が境界部43の幅に該当する。あるいは、境界部43は、各TP40a~40eにおいて第1パッチ41と第2パッチ42とが主走査方向D1から見て重複する領域の最大幅と、第1パッチ41の上流側の端と第2パッチ42の下流側の端との隙間の最大幅とを足し合わせた範囲であってもよい。また、1つのTP群のそれぞれのTPは、主走査方向D1からみて同一の位置に同一サイズの境界部43を有するものとする。
【0040】
図5に示す、0、+α、+2α、+3α、+4αは、TP40a,40b,40c,40d,40eそれぞれに関する、境界部43に対する液体吐出の調整値である。具体例として、αは所定距離を意味する数値である。このような調整値は、対応するTPの近傍にTPと共に媒体30へ記録されてもよいし、記録されないものであってもよい。TP40a,40b,40c,40d,40eのうち、最も左に位置するTP40aの調整値は0であり、これは第1パッチ41と第2パッチ42との位置関係は、第1距離L1に従っており、その他に調整していないことを意味する。つまり、TP40aは、第1パッチ41を記録したパスP1の後、ステップS110の第1紙送りを経て、パスP2により第2パッチ42が記録されている。
【0041】
境界部43における、第1パッチ41と第2パッチ42とが重複する重複部の量が多くなると、境界部43の濃度が高くなり、暗い筋状のむらとして視認され易くなる。一方、境界部43における重複部の量が少な過ぎたり、重複部が無く隙間が生じたりすると、境界部43の濃度が低くなり、明るい筋状のむらが視認され易くなる。以下では、周囲の色と比べて暗い筋状の濃度むらを「黒筋」と称し、周囲の色と比べて明るい筋状の濃度むらを「白筋」と称する。黒筋は必ずしも黒色でなくてもよく、同様に、白筋は必ずしも白色でなくてもよい。
【0042】
図5において、TP40aの右隣に記録されたTP40bの調整値は+αである。これは、第1パッチ41を記録したパスP1の後、「第1距離L1+α」の紙送りが実行されたようにパスP2で第2パッチ42を記録したことを意味する。同様に、TP40bの右隣に記録されたTP40cの調整値は+2αである。これは、第1パッチ41を記録したパスP1の後、「第1距離L1+2α」の紙送りが実行されたようにパスP2で第2パッチ42を記録したことを意味する。TP40cの右隣に記録されたTP40dの調整値は+3αである。これは、第1パッチ41を記録したパスP1の後、「第1距離L1+3α」の紙送りが実行されたようにパスP2で第2パッチ42を記録したことを意味する。TP40dの右隣に記録されたTP40eの調整値は+4αである。これは、第1パッチ41を記録したパスP1の後、「第1距離L1+4α」の紙送りが実行されたようにパスP2で第2パッチ42を記録したことを意味する。
【0043】
図6は、ステップS120における複数の第2パッチ42の記録方法を説明するための図であり、ノズル列および媒体30の一部を拡大示している。図6では、ノズル列としてのノズル列21Cを、搬送方向D2に長尺な矩形により簡易的に示している。図6ではスペースの都合上、第1TP群44に含まれるTP40a,40b,40c,40d,40eのうち、TP40a,40eのみを部分的に示している。また図6では、見易さを優先して、1つのTPを形成する関係性の第1パッチ41と第2パッチ42とを、主走査方向D1にずらして示している。1つのTPを形成する第1パッチ41および第2パッチ42は、実際は主走査方向D1において同じ位置に記録される。ノズル列21Cに括弧書きで付記した符号P1,P2の意味は、図5と同じである。
【0044】
TP記録制御部12aは、TP40a,40b,40c,40d,40eそれぞれの第2パッチ42を記録するためのパスP2において、第2パッチ42毎に、ノズル20の使用範囲を変更して記録する。つまり、調整値が0であるTP40aの第2パッチ42については、ノズル列長に亘る複数のノズル20の中で最も下流のノズル20を含む範囲を使用したインク吐出により第2パッチ42を記録させればよい。一方で、TP40b,40c,40d,40eそれぞれの第2パッチ42の記録については、+α、+2α、+3α、+4αといった調整値に応じて、最も下流のノズル20を含むノズル列21Cの下流側範囲に、TP40b,40c,40d,40e毎に異なる不使用のノズル範囲を設定する。そして、同じパスP2の中で、TP40b,40c,40d,40e毎に異なる、不使用ではない範囲の各ノズル20を使用したインク吐出により、TP40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42を記録すればよい。
【0045】
例えば、調整値=+4αのTP40eの第2パッチ42は、その下流端が、調整値=0のTP40aの第2パッチ42の下流端に比べて、4×αに相当する距離だけ上流にずれている必要がある。そのため、制御部11は、パスP2の途中、TP40eの第2パッチ42を記録する期間は、搬送方向D2において4×αに相当する不使用のノズル範囲を最も下流のノズル20を含むノズル列21Cの下流側範囲に設定する。図6では、パスP2の途中の、TP40eの第2パッチ42を記録する期間における不使用のノズル範囲を、グレー色で塗って例示している。図示は省略しているが、TP記録制御部12aは、このような不使用のノズル範囲を、TP40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42を記録するとき、段階的に上流側へ拡大していく。
【0046】
このような第2パッチ42の記録方法によれば、1回のパスP2の中で、対応する第1パッチ41との位置関係が搬送方向D2において異なる各第2パッチ42を記録することができる。つまり、図6のように、第1パッチ41と第2パッチ42との境界部43に対する液体の吐出量が相対的に多いTP40aや、相対的に少ないTP40eを記録することができる。これまでの説明から解るように、調整値が0に近いTPほど、境界部43に対する液体の吐出量が多いため境界部43に黒筋が発生し易く、調整値が大きいTPほど、境界部43に対する液体の吐出量が少ないため境界部43に白筋が発生し易い。図6から解るように、TP40aの境界部43およびTP40eの境界部43は、搬送方向D2において、TP40a,40eにとって共通の範囲である。また、図6に示す境界部43は、各TP40a~40eにおいて第1パッチ41と第2パッチ42とが主走査方向D1から見て重複する領域の最大幅と、第1パッチ41の上流側の端と第2パッチ42の下流側の端との隙間の最大幅とを足し合わせた範囲、の具体例である。さらに、図6に示す境界部43は、TP40aの第2パッチ42の記録時に使用するノズルの範囲と、TP40eの第2パッチ42の記録時に使用するノズルの範囲との差に相当する範囲と言える。
【0047】
ステップS130では、TP記録制御部12aは、搬送部17を制御し「第2紙送り」を実行させる。第2紙送りは、第1TP群44の第2パッチ42の記録と第2TP群45の第1パッチ41の記録との間の搬送である。TP記録制御部12aは、搬送ローラーの周長×nと第1距離L1×2との差分である「第2距離」の搬送を搬送部17に指示することで、第2紙送りを実行させる。図5の符号L2は、第2距離L2を示している。
【0048】
nは、1以上の整数であり、搬送ローラーの周長×n-第1距離L1×2>0が成り立つときの最小の整数である。
従って、搬送ローラーの周長>第1距離L1×2であれば、n=1となる。
仮に、第1距離L1×2>搬送ローラーの周長>第1距離L1であれば、n=2となる。
仮に、搬送ローラーの周長<第1距離L1であれば、nは3以上の整数となる。
【0049】
ステップS140では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御し、TP群記録データに基づいて記録ヘッド19にインク吐出をさせて、1回のパスで第2TP群45の複数の第1パッチ41を媒体30へ記録する。図5によれば、第2TP群45の複数の第1パッチ41は、パスP3により記録される。
【0050】
ステップS150では、TP記録制御部12aは、搬送部17を制御して第1紙送りを実行させる。
ステップS160では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御し、TP群記録データに基づいて記録ヘッド19にインク吐出をさせて、1回のパスで第2TP群45の複数の第2パッチ42を媒体30へ記録する。図5によれば、第2TP群45の複数の第2パッチ42は、パスP4により記録される。
【0051】
ステップS140~S160の説明は、ステップS100~S120の説明を準用する。このようにステップS140~S160のパスP3と、1回の第1紙送りと、パスP4とにより第2TP群45を記録する処理は、搬送方向D2における媒体30上のTP群を記録する位置を除き、ステップS100~S120のパスP1と、1回の第1紙送りと、パスP2とにより第1TP群44を記録する処理と違いが無い。ステップS100~S160によれば、第1TP群44と第2TP群45とが媒体30上の搬送方向D2において異なる位置に記録される。また、ステップS110,S130,S150の第1紙送り、第2紙送り、第1紙送りの合計の距離は、搬送ローラーの周長×nとなる。
【0052】
搬送誤差が無ければ、媒体30における第1TP群44の記録結果と第2TP群45の記録結果とには差が無いか殆ど無い。しかし、実際には搬送誤差が有るため、第1TP群44の記録結果と第2TP群45の記録結果とには差が生じ得る。図5の例では、第1TP群44において、TP40a,40b,40cそれぞれの境界部43に黒筋が発生しており、TP40eの境界部43に白筋が発生しており、TP40dの境界部43には黒筋も白筋も殆ど発生していない。一方、第2TP群45においては、TP40aの境界部43に黒筋が発生しており、TP40c,40d,40eそれぞれの境界部43に白筋が発生しており、TP40bの境界部43には黒筋も白筋も殆ど発生していない。
【0053】
図5の例では、第1TP群44に比べて第2TP群45の方が、全体的に白筋が発生する傾向が強いことから、ステップS110の第1紙送りによる実際の搬送量よりも、ステップS150の第1紙送りによる実際の搬送量の方が多かったと推認される。上述したように、搬送ローラーは、その断面形状が真円でなかったり、偏芯していたりすることがある。真円ではない、偏芯している、といった「搬送ローラー誤差」は、搬送誤差の原因の一つとなる。特に、搬送ローラー誤差により、第1紙送りによる実際の搬送量にばらつきが生じる。
【0054】
図7は、搬送ローラー誤差が有る場合の、搬送ローラーの回転量に対する搬送量の誤差をグラフにより例示している。図7では、横軸を搬送ローラーの軸の回転量とし、縦軸を搬送ローラー誤差に起因する搬送量の誤差としている。設計上、搬送ローラーの一定の回転量に対して搬送量も一定であることが理想であるが、実際には搬送ローラー誤差に起因し、搬送ローラーが1回転する1周期内に、一定の回転量に対する搬送量が設計値よりも多くなったり少なくなったりしてばらつく。そのため、搬送部17に、一定距離である第1距離L1の紙送りを指示したとしても、搬送ローラーが回転を開始するときの位相が異なれば、当該指示に応じて実際に搬送される量も異なってくる。なお、図3Bのように搬送ローラーが複数在る構成においては、図7に示す誤差の波形は、複数の搬送ローラーそれぞれの搬送ローラー誤差に起因する搬送量の誤差を、合成した波形と解釈すればよい。
【0055】
図7の説明においては、第1距離L1×2>搬送ローラーの周長>第1距離L1が成立し、n=2であると仮定する。角度P°は、設計上、第1距離L1の搬送に相当する搬送ローラーの軸の回転量であり、ステップS110では、TP記録制御部12aは、現在の搬送ローラーの軸の角度を基準の0°としたとき、そこからP°回転させることにより第1紙送りを行う。これが第1距離L1の搬送指示に該当する。図7の例では0°~P°ではプラスの誤差が優勢であるため、ステップS110の結果、図5の例とは逆に、実際の搬送量は第1距離L1よりも多くなる。
【0056】
n=2である場合、ステップS110,S130,S150の合計で搬送ローラーの周長の2倍の搬送、つまり搬送ローラーを2回転させることになる。そのため、ステップS130では、TP記録制御部12aは、搬送ローラーの軸を、その時点のP°から720°-P°まで回転させることにより第2紙送りを行う。これが第2距離L2の搬送指示に該当する。そして、ステップS150では、TP記録制御部12aは、搬送ローラーの軸を、その時点の720°-P°から720°まで回転させることにより第1紙送りを行う。これが第1距離L1の搬送指示に該当する。図7の例では720°-P°~720°ではマイナスの誤差が優勢であるため、ステップS150の結果、図5の例とは逆に、実際の搬送量は第1距離L1よりも少なくなる。
【0057】
図7から解るように、ステップS130の第2紙送りが行われることにより、ステップS110の第1紙送りで発生する搬送量の誤差と、ステップS150の第1紙送りで発生する搬送量の誤差とは、真逆の関係になり、それらは互いに打ち消しあうことができる。本実施形態では、ステップS110の第1紙送りで発生する搬送量の誤差の影響を受ける境界部43を有する第1TP群44と、ステップS150の第1紙送りで発生する搬送量の誤差の影響を受ける境界部43を有する第2TP群45とを媒体30へ記録することで、第1TP群44と、第2TP群45との両方を評価することが可能となる。この結果、搬送ローラー誤差の影響を無くした、適切な調整値が得られ易くなる。
【0058】
ステップS170では、制御部11の調整値算出部12bは、第1TP群44および第2TP群45の読取データを取得する。つまり、第1TP群44および第2TP群45が記録された媒体30を読取装置1が読み取り、その読取結果としての読取データを、記録装置10へ出力する。これにより、制御部11は、第1TP群44および第2TP群45の読取データを取得することができる。読取装置1が出力する読取データのフォーマットは特に限定されず、RGB(レッド、グリーン、ブルー)のカラー画像データであったり、モノクロの輝度データであったり、その他の表色系の測色値であったりする。
【0059】
ステップS180では、調整値算出部12bは、第1TP群44の読取データからTP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度を取得し、これら筋濃度の近似直線を算出する。同様に、調整値算出部12bは、第2TP群45の読取データからTP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度を取得し、これら筋濃度の近似直線を算出する。
【0060】
図8Aは、媒体30に記録された第1TP群44の読取結果から得られた筋濃度を示している。図8Aによれば、縦軸を筋濃度、横軸を調整値としたグラフ上に調整値0、+α、+2α、+3α、+4α毎、つまりTP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度が、黒丸によりプロットされている。筋濃度は、TP毎の境界部43の明るさである。筋濃度は、パッチの境界部43以外の濃度と境界部43の濃度との差と解してもよい。筋濃度D0は、筋濃度の理想的な値であり、パッチの濃度との差が無い状態、つまり実質的に黒筋も白筋も見えない状態を指す。
【0061】
グラフにおいて筋濃度D0よりも下、つまり高濃度側の筋濃度は黒筋に該当し、グラフにおいて筋濃度D0よりも上、つまり低濃度側の筋濃度は白筋に該当する。このような筋濃度は、搬送方向D2における第1パッチ41と第2パッチ42とのずれ量を表しているとも言える。第1TP群44のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度を取得した調整値算出部12bは、これら筋濃度の近似直線を算出する。図8Aによれば、TP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度から、最小二乗法により近似直線F1が算出される。
【0062】
図8Bは、媒体30に記録された第2TP群45の読取結果から得られた筋濃度を示している。図8Bの見方は図8Aと同じであるため、共通の説明は省略する。第2TP群45のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度を取得した調整値算出部12bは、これら筋濃度の近似直線を算出する。図8Bによれば、TP40a,40b,40c,40d,40e毎の筋濃度から、最小二乗法により近似直線F2が算出される。
【0063】
ステップS190では、調整値算出部12bは、近似直線F1が筋濃度D0を与えるときの調整値としてβ1を得る。図8Aによれば、調整値β1は、+2αよりも大きくて+3αよりも小さい。調整値β1は、第1距離L1に対する調整値であって、第1TP群44の記録結果に注目して導き出した調整値である。同様に、調整値算出部12bは、近似直線F2が筋濃度D0を与えるときの調整値としてβ2を得る。図8Bによれば、調整値β2は、0よりも大きくて+αよりも小さい。調整値β2は、第1距離L1に対する調整値であって、第2TP群45の記録結果に注目して導き出した調整値である。
【0064】
調整値β1は、これまでの説明から解るように、ステップS110の第1紙送りで発生する搬送量の誤差の影響を受けている。一方、調整値β2は、ステップS150の第1紙送りで発生する搬送量の誤差の影響を受けている。そこで、調整値算出部12bは、調整値β1と調整値β2との平均値である調整値βavを算出し、保存する。以上で、図4のフローチャートを終える。
【0065】
調整値βavは、搬送ローラー誤差に起因してステップS110の第1紙送り、ステップS150の第1紙送りのそれぞれで発生する搬送量の誤差を打消し、かつ、搬送部17による第1紙送りを黒筋や白筋ができるだけ発生しないように適正化する調整値と言える。言い換えると、ステップS100~S160のTP記録制御は、このような調整値βavの算出に適した複数のTP群を記録する処理である。以後、制御部11は、ユーザーが任意に選択した画像の記録処理に際して、調整値βavを採用し、搬送部17に1回の紙送り量として「第1距離L1+βav」を指示する。これにより、各パスで媒体30に記録されたバンドサイズの各画像同士の境界部に黒筋や白筋が発生しないか殆ど発生しない良好な記録画質が得られるようになる。
【0066】
3.変形例:
本実施形態に含まれる変形例を幾つか説明する。
搬送ローラーの周長が、第1距離L1のN倍である場合について説明する。Nは2以上の整数である。搬送ローラーの周長が第1距離L1のN倍ということは、当然に、搬送ローラーの周長>第1距離L1である。このような場合、制御部11は、TP記録制御では、第1TP群44および第2TP群45を含むN個のTP群を、媒体30上の搬送方向D2において異なる位置に記録する。
【0067】
図9は、搬送ローラーの周長が第1距離L1のN倍である場合のTP記録制御を、フローチャートにより示している。制御部11は、搬送ローラーの周長が第1距離L1のN倍である場合は、図4のステップS100~S160の替わりに図9のフローチャートを実行する。
図10は、図9のTP記録制御において記録ヘッド19により媒体30へ複数のTP群が記録された状態を、図2と同様の視点により示している。図10の見方については、図5の見方を適宜準用し、図5と共通の説明は省略する。図10では、TP40a,40b,40c,40d,40e毎の調整値は記載を省略しているが、これについても図5と同様に解せばよい。以下、図9,10の説明において、一例としてN=4とする。
【0068】
ステップS200では、TP記録制御部12aは、TP群の番号を示す変数iを初期値としての1に設定する。
ステップS210では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御して、第iTP群の第1パッチを媒体30へ複数記録する。ステップS210における第iTP群とは、第1TP群であるから、ステップS210は、図4のステップS100と同じ処理である。
【0069】
ステップS220では、TP記録制御部12aは、搬送部17に対して第1距離L1の搬送を指示して第1紙送りを実行させる。ステップS220は、図4のステップS110やステップS150と同じ処理である。
ステップS220の後、ステップS230においてTP記録制御部12aは、現在の変数iがNと等しいか否かを判定する。iがNに達していなければ、ステップS230の“Nо”の判定からステップS240へ進み、i=Nであれば、ステップS230の“Yes”の判定からステップS260へ進む。
【0070】
ステップS240では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御して、第iTP群の第2パッチを媒体30へ複数記録すると共に、第i+1TP群の第1パッチを媒体30へ複数記録する。1つのTP群における複数の第2パッチの記録方法は、既に説明した通りである。つまり、1回のパスで第iTP群の複数の第2パッチの記録と第i+1TP群の複数の第1パッチの記録とを同時に実行する。図10によれば、パスP2により、第1TP群44のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42の記録と、第2TP群45のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第1パッチ41の記録とが行われる。このように図9,10で説明するTP記録制御には、本実施形態における第2紙送りが例外的に無い。
【0071】
ステップS250では、TP記録制御部12aは、変数iをインクリメントする。つまり、現在の変数iに1を足して変数iを更新する。ステップS250の後は、ステップS220の第1紙送りを実行してステップS230の判定に進む。このような処理の流れによれば、図10に示すように、パスP2の後、第1紙送りを経て、パスP3により、第2TP群45のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42の記録と、第3TP群46のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第1パッチ41の記録とが行われる。同様に、パスP3の後、第1紙送りを経て、パスP4により、第3TP群46のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42の記録と、第4TP群47のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第1パッチ41の記録とが行われる。
【0072】
ステップS230から進んだステップS260では、TP記録制御部12aは、キャリッジ18および記録ヘッド19を制御して、第iTP群の第2パッチを媒体30へ複数記録する。つまり図10によれば、パスP4の後、第1紙送りを経て、パスP5により、第4TP群47のTP40a,40b,40c,40d,40e毎の第2パッチ42の記録が行われる。図10に示す、N個つまり4つのTP群44,45,46,47は、搬送方向D2における媒体30上の記録位置を除き、全て同じように記録されたTP群である。ただし、TP群44,45,46,47のそれぞれは、第1パッチ41の記録と第2パッチ42の記録との間に実行されるステップS220の第1紙送りによる“実際の搬送量”が、搬送ローラー誤差の影響でばらついており、そのため境界部43の濃度もTP群44,45,46,47のそれぞれで異なる。
【0073】
ステップS260の後は、制御部11は、図4のステップS170以降を実行すればよい。つまり、調整値算出部12bは、第1TP群44、第2TP群45、第3TP群46および第4TP群47が記録された媒体30の読取データを取得する。そして、第1TP群44、第2TP群45、第3TP群46、第4TP群47毎に、各TPの境界部43の筋濃度に基づいて近似直線を算出し、第1TP群44、第2TP群45、第3TP群46、第4TP群47毎に、近似直線から調整値を算出し、これら第1TP群44、第2TP群45、第3TP群46、第4TP群47毎の調整値から平均値を算出し、平均値としての調整値βavを保存すればよい。
【0074】
制御部11は、TP記録制御では、境界部43の位置を示す「目印」をTPとともに記録してもよい。図5を参照すると、第2TP群45のTP40dは、TP40dの外側の目印パターン50と共に媒体30へ記録されている。目印パターン50は、目印の具体例であり、対応するTP40dの境界部43の近傍に位置し、主走査方向D1に長さ成分を有する罫線である。
【0075】
TP記録制御部12aは、例えば、第2TP群45のTP40dの第1パッチ41を記録するタイミングで、記録ヘッド19を制御し、第1パッチ41の記録に用いるノズル20のうち最も上流側のノズル20か、このノズル20から1,2ノズルほど下流側に在るノズル20を用いて、目印パターン50の1つを第1パッチ41の外側に記録することができる。同様に、TP記録制御部12aは、第2TP群45のTP40dの第2パッチ42を記録するタイミングで、第2パッチ42の記録に用いるノズル20のうち最も下流側のノズル20か、このノズル20から1,2ノズルほど上流側に在るノズル20を用いて、目印パターン50の1つを第2パッチ42の外側に記録することができる。
【0076】
図示は省略しているが、言うまでもなく、目印パターン50のような目印は、図5図10に示した全てのTP40a,40b,40c,40d,40eに対して同様に記録することが可能である。目印パターン50がTPと共に記録されていることで、調整値算出部12bは、複数のTP群の読取データを取得したとき、TP毎の目印パターン50を目印にして、読取データの中からTP毎の境界部43の筋濃度を効率的かつ正確に取得することが可能となる。
【0077】
また、目印パターン50は、媒体30に記録された複数のTP群をユーザーが目視で評価する場合も役立つ。ユーザーは、TPにおける目印パターン50近傍の位置を境界部43と認識し、境界部43に黒筋や白筋が発生しているか否かを判断することができる。ユーザーがTP群を目視で評価する場合、ユーザーは、TP群毎に黒筋や白筋が最も目立たない良好な画質のTPを選択し、その選択結果を、操作受付部14を通じて制御部11へ入力する。調整値算出部12bは、TP群毎の適切な調整値として、ユーザーにより選択されたTPに対応する調整値を認識し、そのようなTP群毎の適切な調整値から平均値を求め、この平均値を調整値βavとすればよい。
【0078】
TPと共に記録する目印は、TPにおける境界部43の位置を適切に示すものであればよい。従って、目印としては、目印パターン50のような罫線以外にも、特定形状や特定色のマーク、特定の文字列等、様々な態様が考えられる。
【0079】
4.まとめ:
このように本実施形態によれば、記録装置10は、媒体30へ液体を吐出可能な複数のノズル20が所定のノズル並び方向D3に並ぶノズル列を有し、ノズル並び方向D3に交差する第1方向へ移動しながら液体の吐出による記録を行う記録ヘッド19と、媒体30を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、媒体30を第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部17と、記録ヘッド19による記録および搬送部17による搬送を制御する制御部11と、を備える。搬送ローラーの周長は、第2方向におけるノズル列の長さであるノズル列長とは異なる。制御部11は、第2方向において位置が異なる第1パッチ41と第2パッチ42とにより形成されるTPが第1方向に複数並ぶTP群であって、第1パッチ41と第2パッチ42との境界部43に対する液体の吐出量が第1方向におけるTP毎に異なるTP群を媒体30へ記録するTP記録制御を行う。制御部11は、TP記録制御では、TP群である第1TP群44と第2TP群45とを、媒体30上の第2方向において異なる位置に記録し、TPの第1パッチ41の記録と第2パッチ42の記録との間の搬送として、ノズル列長に基づく第1距離L1の搬送をし、第1TP群44の第2パッチ42の記録と第2TP群45の第1パッチ41の記録との間の搬送として、前記周長の整数倍(n倍)と第1距離L1×2との差分である第2距離L2の搬送をする。
【0080】
搬送ローラーの周長がノズル列長と異なるために、ノズル列長に基づく第1距離L1の指示に応じて実行される搬送の実際の搬送量が、搬送ローラー誤差の影響でばらつき易い。本実施形態の構成によれば、このような状況において、上述のように第2方向の異なる位置に第1TP群44と第2TP群45とを記録する。これにより、搬送ローラー誤差の影響をできるだけ排除して搬送量の調整値を正しく取得することに役立つTPを記録する、と言える。
【0081】
また、本実施形態によれば、搬送ローラーが第2方向に沿って複数配置されている場合、制御部11は、複数の搬送ローラーの周長の公倍数と第1距離L1×2との差分を第2距離L2とする。
このように、搬送ローラーが複数であっても、複数の搬送ローラーを仮想的に1つの搬送ローラーとみなす。つまり、制御部11は、複数の搬送ローラーの周長の公倍数を、仮想的な1つの搬送ローラーの周長として扱うことで、第2距離L2を算出することができる。この場合、nは基本的に1である。ただし、場合によってはnを2以上とし、複数の搬送ローラーの周長の最小公倍数×2-第1距離L1×2といった式で第2距離L2を求めることもある。最小公倍数×2や最小公倍数×3も公倍数なので、結局、複数の搬送ローラーの周長の公倍数-第1距離L1×2であることに変わりはない。
また、このような構成によれば、搬送部17が複数の搬送ローラーを有していたとしても、それぞれの搬送ローラーの誤差による影響を排除して、搬送量の調整値を正しく取得することに役立つTPを記録することができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、搬送ローラーの周長が第1距離L1のN倍(ただしNは2以上の整数)である場合、制御部11は、TP記録制御では、第1TP群44および第2TP群45を含むN個のTP群を、媒体30上の第2方向において異なる位置に記録するとしてもよい。
前記構成によれば、例外的に第2距離L2の搬送を無くし、第1距離L1の指示による搬送をN回実行して搬送ローラーを1回転させる過程で、N個のTP群を記録することができる。搬送ローラー誤差に起因する搬送誤差は、搬送ローラーの1周期の中でも変化するため、より多くのTP群を記録することで、より適切な調整値の取得に繋がる。
【0083】
また、本実施形態によれば、制御部11は、TP記録制御では、境界部43の位置を示す目印をTPとともに記録するとしてもよい。
前記構成によれば、目印が境界部43の位置を示してくれるので、制御部11がTP群の読取データから境界部43の位置や濃度を検出したり、ユーザーが境界部43を目視で評価したりする際の効率や正確性が向上する。制御部11にとっては、境界部43の位置や濃度を検出する際、無駄な範囲を検出することを回避し、処理時間やメモリー消費の節約に繋がる。
【0084】
また、本実施形態によれば、制御部11は、TP記録制御では、TP群を形成する複数のTPを第1方向において等間隔に記録するとしてもよい。
第1方向の位置の違いも媒体30におけるTPの濃度に影響を与える原因の1つになることを想定すると、各TPの境界部43の筋濃度の近似直線からTP群毎の調整値を算出する場合に、第1方向においてTPが等間隔である方が、算出される調整値の精度が向上すると言える。
【0085】
本実施形態は、記録装置やシステムといった物だけでなく、それらが実行する方法や、方法をプロセッサーに実行させるプログラム12といった各種カテゴリーの発明を開示する。
例えば、記録装置10による記録方法であって、記録装置10は、媒体30へ液体を吐出可能な複数のノズル20が所定のノズル並び方向D3に並ぶノズル列を有し、ノズル並び方向D3に交差する第1方向へ移動しながら液体の吐出による記録を行う記録ヘッド19と、媒体30を搬送するために回転する搬送ローラーを有し、媒体30を第1方向に交差する第2方向へ搬送する搬送部17と、を備え、搬送ローラーの周長は、第2方向におけるノズル列の長さであるノズル列長とは異なり、第2方向において位置が異なる第1パッチ41と第2パッチ42とにより形成されるTPが第1方向に複数並ぶTP群であって、第1パッチ41と第2パッチ42との境界部43に対する液体の吐出量が第1方向におけるTP毎に異なるTP群を媒体30へ記録するTP記録工程を有する。TP記録工程では、TP群である第1TP群44と第2TP群45とを、媒体30上の第2方向において異なる位置に記録し、TPの第1パッチ41の記録と第2パッチ42の記録との間の搬送として、ノズル列長に基づく第1距離L1の搬送をし、第1TP群44の第2パッチ42の記録と第2TP群45の第1パッチ41の記録との間の搬送として、前記周長の整数倍と第1距離L1×2との差分である第2距離L2の搬送をする。
【0086】
これまでの説明では、制御部11は、第1パッチ41と第2パッチ42との境界部43に対する液体の吐出量が第1方向におけるTP40a,40b,40c,40d,40e毎に異なるTP群を記録する場合、TP40a,40b,40c,40d,40e毎の調整値により第2方向における第1パッチ41と第2パッチ42との位置関係を異ならせていた。しかしながら、境界部43に対する液体の吐出量が第1方向におけるTP40a,40b,40c,40d,40e毎に異なるTP群を記録する方法は、このような位置の調整に限らない。
【0087】
例えば、制御部11は、1つのTP群内の複数のTP40a,40b,40c,40d,40eについては、第2方向における第1パッチ41と第2パッチ42との位置関係は全て同じとする。つまり、上述したような第2パッチ42を記録する際の不使用のノズル20の範囲を設けない。その上で、制御部11は、TP40a,40b,40c,40d,40e毎の調整値に応じて、境界部43に対するインクの吐出量をTP40a,40b,40c,40d,40e毎に異ならせる。例えば、調整値が小さいTPほど、境界部43の記録に用いるノズル20として予め決められているノズル20が吐出するドット数を減らし、調整値が大きいTPほど、境界部43の記録に用いるノズル20が吐出するドット数を増やす。このような構成によれば、調整値は、搬送部17による搬送量に対する調整値ではなく、境界部43の記録に用いるノズル20に関する吐出量の調整値ということになる。
【0088】
搬送ローラーは、媒体30に接して搬送する手段でなくてもよい。例えば、搬送ローラーは回転することによりベルトやパレットを移動させ、これらベルトやパレットに媒体30が搭載されて搬送される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0089】
10…記録装置、11…制御部、12…プログラム、12a…TP記録制御部、12b…調整値算出部、13…表示部、14…操作受付部、15…記憶部、16…通信IF、17…搬送部、17a,17c…搬送ローラー、17b…搬送モーター、18…キャリッジ、19…記録ヘッド、20…ノズル、21C,21M,21Y,21K…ノズル列、30…媒体、40a,40b,40c,40d,40e…TP、41…第1パッチ、42…第2パッチ、43…境界部、44…第1TP群、45…第2TP群、46…第3TP群、47…第4TP群、50…目印パターン
図1
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図10