(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051490
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】花粉予測装置、空気処理システム、花粉予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 15/06 20240101AFI20240404BHJP
F24F 8/96 20210101ALI20240404BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N15/06 D
F24F8/96
F24F11/64
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157689
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】于 士▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】西野 淳
(72)【発明者】
【氏名】笹井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 啓
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB18
3L260BA09
3L260CA17
3L260FC23
(57)【要約】
【課題】対象空間全体における花粉の浮遊状況を予測する。
【解決手段】花粉予測装置(100)は、対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)と、室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と第1センサ(51)の検出値とに基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する制御部(63)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する装置であって、
前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)と、
室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する制御部(63)とを備える
花粉予測装置。
【請求項2】
前記制御部(63)は、室内で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された前記統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する
請求項1に記載の花粉予測装置。
【請求項3】
前記制御部(63)は、前記統計分布の中心からの距離を外れ度としたとき、該外れ度を用いて前記可能性を予測する
請求項1又は2に記載の花粉予測装置。
【請求項4】
前記統計分布は、前記室内において花粉が検出されなかったときの粉塵の量に基づいて生成される
請求項1又は2に記載の花粉予測装置。
【請求項5】
前記制御部(63)は、室内における粉塵の量及び花粉の量を変数とする関係式を取得し、該関係式に前記第1センサ(51)の検出値を入力することにより前記対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測する
請求項1又は2に記載の花粉予測装置。
【請求項6】
前記統計分布は、機械学習によって生成される
請求項1又は2に記載の花粉予測装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の花粉予測装置と、
前記花粉予測装置の予測結果に基づいて前記対象空間(S)の空気を処理する空気処理装置(20)とを備える
空気処理システム。
【請求項8】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する方法であって、
花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する工程と、
室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する工程とを含む
花粉予測方法。
【請求項9】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するためのプログラムであって、
花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する処理と、
室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する処理とをコンピュータに実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、花粉予測装置、空気処理システム、花粉予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、浮遊する花粉粒子を計測する花粉センサが開示されている。この花粉センサでは、浮遊粒子を含有する空気中に所定の偏光方向の照射光を照射し、浮遊粒子からの散乱光の強度と直交散乱光の強度とに基づいて、浮遊粒子の粒子径を計測する。これにより、花粉粒子を識別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような花粉センサでは、該花粉センサ付近の花粉粒子を検出できる一方、花粉センサから離れた場所に浮遊する花粉粒子を検出することができない。そのため、人が滞在する対象空間に特許文献1のような花粉センサを設置しても、対象空間の全体における花粉の浮遊状況を把握できない場合があった。
【0005】
本開示の目的は、対象空間全体における花粉の浮遊状況を予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する花粉予測装置を対象とする。花粉予測装置(100)は、前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)と、室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する制御部(63)とを備える。
【0007】
第1の態様では、制御部(63)が、予め生成された統計分布と対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)の検出値とに基づいて対象空間(S)の花粉の浮遊可能性を予測する。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊状況を予測できる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記制御部(63)は、室内で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された前記統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する。
【0009】
第2の態様では、室内で検出された粉塵の量に加えて、室内で検出された花粉の量に基づいて生成された統計分布を用いて、制御部(63)が花粉の浮遊可能性を予測するので、該可能性をより精度よく予測できる。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記制御部(63)は、前記統計分布の中心からの距離を外れ度としたとき、該外れ度を用いて前記可能性を予測する。
【0011】
第3の態様では、統計分布の中心からの距離である外れ度を用いて、対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性が予測される。そのため、取得した統計分布における粉塵の浮遊状態と、対象空間(S)における粉塵の浮遊状態との違いを把握できる。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0012】
第4の態様は、第1~第3のいずれか1つの態様において、前記統計分布は、前記室内において花粉が検出されなかったときの粉塵の量に基づいて生成される。
【0013】
第4の態様では、室内において花粉が検出されなかったときの粉塵の量に基づいて生成された統計分布を用いて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性が予測される。これによれば、取得した統計分布に対して第1センサ(51)の検出値が大きく外れる場合には、対象空間(S)内に花粉が浮遊している可能性が高いと判断しやすくなる。したがって、対象空間(S)における花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0014】
第5の態様は、第1~第4のいずれか1つの態様において、前記制御部(63)は、室内における粉塵の量及び花粉の量を変数とする関係式を取得し、該関係式に前記第1センサ(51)の検出値を入力することにより前記対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測する。
【0015】
第5の態様では、制御部(63)は、取得した関係式を用いることで、第1センサ(51)の検出値である対象空間(S)に浮遊する粉塵の量から、該対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測できる。
【0016】
第6の態様は、第1~第5のいずれか1つの態様において、前記統計分布は、機械学習によって生成される。
【0017】
第6の態様では、機械学習によって生成された統計分布に基づいて、対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性が予測されるので、該可能性をより精度よく予測できる。
【0018】
第7の態様は、第1~第6のいずれか1つの態様の花粉予測装置と、前記花粉予測装置の予測結果に基づいて前記対象空間(S)の空気を処理する空気処理装置(20)とを備える空気処理システムである。
【0019】
第7の態様では、花粉予測装置の予測結果に基づいて対象空間(S)の空気が処理されるので、対象空間(S)に滞在する人が花粉を吸入する前に早期に花粉を除去できる。
【0020】
第8の態様は、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する花粉予測方法を対象とする。花粉予測方法は、花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する工程と、室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する工程とを含む。
【0021】
第8の態様では、取得した統計分布と対象空間(S)に浮遊する粉塵の量とから対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性が予測される。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊状況を予測できる。
【0022】
第9の態様は、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するためのプログラムを対象とする。プログラムは、花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する処理と、室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する処理とをコンピュータに実行させる。
【0023】
第9の態様では、プログラムが実行されることにより、取得した統計分布と対象空間(S)に浮遊する粉塵の量とから対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性が予測される。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊状況を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態に係る花粉予測装置を備える空気処理システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、花粉予測装置が適用される対象空間の概略の構成図である。
【
図3】
図3は、統計分布生成部で用いるデータの選定について示した説明図である。
【
図5】
図5は、閾値について説明するための説明図である。
【
図6】
図6は、統計分布生成動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、花粉浮遊予測動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態の変形例1に係る
図1に相当する図である。
【
図9】
図9は、実施形態の変形例3に係る
図1に相当する図である。
【
図10】
図10は、実施形態の変形例3に係る関係式生成動作を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態の変形例3に係る花粉量予測動作を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施形態の変形例8に係る花粉浮遊可能性の割合を算出する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0026】
《実施形態》
実施形態に係る空気処理システム(1)について説明する。
【0027】
(1)空気処理システムの全体構成
図1に示すように、本実施形態の空気処理システム(1)は、花粉予測装置(100)と、空気処理装置としての空気清浄機(20)と、通信端末(30)とを備える。花粉予測装置(100)は、花粉センサユニット(40)と、粉塵センサユニット(50)と、サーバ装置(60)とを有する。
【0028】
粉塵センサユニット(50)及び花粉センサユニット(40)は、インターネット(N)を介してサーバ装置(60)に接続される。また、サーバ装置(60)は、インターネット(N)を介して、空気清浄機(20)及び通信端末(30)に接続する。
【0029】
図2に示すように、空気処理システム(1)は、人(H)が存在する対象空間(S)で使用される。対象空間(S)は、一般住宅やオフィス等の室内空間である。空気処理システム(1)の花粉予測装置(100)は、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する。具体的には、花粉予測装置(100)は、対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性(以下、花粉浮遊可能性という)を予測する。花粉予測装置(100)の詳細については、後述する。
【0030】
本実施形態の空気処理装置(20)は、空気清浄機である。空気清浄機(20)は、対象空間(S)に配置される。空気清浄機(20)は、通信部(21)と、空清制御部(22)とを有する。通信部(21)は、花粉予測装置(100)から送信された花粉浮遊可能性の予測結果を受信する受信部を含む。空清制御部(22)は、受信した予測結果に基づいて、対象空間(S)の空気を処理(浄化)するように空気清浄機(20)のファンを制御する。
【0031】
通信端末(30)は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、携帯電話などである。通信端末(30)は、通信部(31)と、通知部(32)とを有する。通信部(31)は、花粉予測装置(100)から送信された花粉浮遊可能性の予測結果を受信する受信部を含む。通知部(32)は、受信した予測結果を通知する。通知部(32)は、予測結果を表示する表示部や、予測結果を音として出力する音出力部を含む。表示部は、例えば液晶モニタで構成される。音出力部は、例えばスピーカで構成される。なお、空気清浄機(20)が通知部を有する場合には、空気清浄機(20)の通知部に花粉予測装置(100)の予測結果を通知部してもよい。
【0032】
(2)花粉予測装置の詳細
花粉予測装置(100)は、上述のように、花粉センサユニット(40)と、粉塵センサユニット(50)と、サーバ装置(60)とを有する。
図2に示すように、花粉センサユニット(40)及び粉塵センサユニット(50)は、対象空間(S)に配置される。本実施形態の花粉予測装置(100)は、花粉センサユニット(40)及び粉塵センサユニット(50)を一つずつ有する。
【0033】
(2-1)花粉センサユニット
花粉センサユニット(40)は、花粉センサ(41)と、データ処理部(42)と、通信部(43)とを有する。花粉センサ(41)は、室内に浮遊する花粉の量を検出する。加えて、本実施形態の花粉センサ(41)は、室内に浮遊する花粉の種類を検出する。本実施形態の花粉センサ(41)は、撮像装置(カメラ)である。
【0034】
データ処理部(42)は、花粉センサ(41)によって撮像された画像データを解析することにより、対象空間(S)に浮遊する花粉に関する情報を出力する。本実施形態の花粉に関する情報は、花粉粒子の個数、及び花粉の種類である。なお、対象空間(S)において花粉が検出されなかった場合には、データ処理部(42)は、花粉粒子の個数が0であるという出力をする。
【0035】
通信部(43)は、有線又は無線の通信回線を介して、インターネット(N)に接続される。通信部(43)は、インターネット(N)を経由して、データ処理部(42)が出力した花粉に関する情報をサーバ装置(60)に送信する送信部を含む。ここで、データ処理部(42)における処理には、花粉に関する有意な情報を出力するのに所定の時間が必要である。この処理にかかる時間は、例えば20分である。そのため、通信部(43)は、約20分毎に花粉に関する情報をサーバ装置(60)に送信する。
【0036】
(2-2)粉塵センサユニット
粉塵センサユニット(50)は、粉塵センサ(51)と、データ処理部(52)と、通信部(53)とを有する。粉塵センサ(51)は、室内に浮遊する粉塵の量を検出する。粉塵センサ(51)が本開示の第1センサに対応する。
【0037】
本実施形態の粉塵センサ(51)は、粒子径が2.5μm以下の微粒子を検出できるセンサ(いわゆるPM2.5センサ)である。なお、粉塵センサ(51)は、粒子径が10μm以下の微粒子を検出できるセンサ(いわゆるPM10センサ)であってもよく、粒子径が2.5μm以下の微粒子と10μm以下の微粒子の両方を検出できるセンサであってもよい。ここでいう粉塵には、塵、埃、黄砂、ダニの死骸、人の皮膚片などが含まれる。
【0038】
データ処理部(52)は、粉塵センサ(51)の出力を処理することにより、粉塵の量を対象空間(S)における粉塵の濃度として出力する。データ処理部(52)は、単位時間当たりの粉塵センサ(51)の出力における積算値(積算トレンド)を出力する。
【0039】
通信部(53)は、有線又は無線の通信回線を介して、インターネット(N)に接続される。通信部(53)は、インターネット(N)を経由して、データ処理部(52)が出力した粉塵の濃度をサーバ装置(60)に送信する送信部を含む。ここで、データ処理部(52)における処理には、所定の時間が必要である。この処理にかかる時間は、例えば、1分である。そのため、通信部(53)は、約1分毎に粉塵の濃度をサーバ装置(60)に送信する。
【0040】
ここで、花粉は、花粉粒子と、該花粉粒子の表面に付着した花粉微粒子とにより構成される。花粉微粒子には、オービクルと呼ばれる微粒子や、花粉粒子が粉砕されて生じた花粉片が含まれる。花粉粒子の粒子径は、約30μmである。一方、花粉微粒子は、その粒子径が約0.3μm~約12μmであり、花粉粒子に比べて非常に小さい。
【0041】
そのため、比較的重い花粉粒子は、室内空間に侵入すると、比較的短時間で落下する傾向がある。これに対して、軽い花粉微粒子は、室内空間を長時間に亘って浮遊しやすく、室内空間の全体に拡散して浮遊しやすいという特徴を有する。加えて、花粉微粒子は、1つの花粉粒子に多数付着しているため、花粉粒子に比べて浮遊する量が多いという特徴を有する。
【0042】
粉塵センサ(51)は、塵や埃等に加えて、この花粉微粒子を検出することができる。そのため、粉塵センサ(51)の出力から、花粉粒子が対象空間(S)に浮遊する可能性を予測することができる。
【0043】
ここで、空気処理システム(1)に備えるセンサとして花粉センサ(41)のみを採用することが考えられる。しかし、花粉センサユニット(40)では、花粉に関する情報を出力するのに約20分間かかるため、花粉センサユニット(40)の出力結果を待つ間に対象空間(S)内に花粉が拡散してしまい、対象空間(S)に滞在する人(H)の花粉症を悪化させる可能性がある。
【0044】
これに対し、本実施形態の空気処理システム(1)では、比較的短時間に検出結果を出力できる粉塵センサユニット(50)を備えることにより、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を早期に予測することができる。これにより、対象空間(S)に居る人(H)の花粉症の悪化を抑制できる。
【0045】
(2-3)サーバ装置
サーバ装置(60)は、インターネット(N)のクラウド上に設けられる。サーバ装置(60)は、制御部(63)と、記憶部(61)と、通信部(62)とを有する。
【0046】
通信部(62)は、花粉センサユニット(40)及び粉塵センサユニット(50)から送信されたデータを受信する受信部を含む。通信部(62)は、後述する花粉浮遊可能性の予測結果を空気清浄機(20)及び通信端末(30)に送信する送信部を含む。
【0047】
記憶部(61)は、通信部(62)において受信したデータを記憶する。また、記憶部(61)は、後述する統計分布を記憶する。記憶部(61)は、HDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)の少なくとも1つを含む。
【0048】
制御部(63)は、マイクロコンピュータ及びメモリディバイスを含む。メモリディバイスは、マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納する。制御部(63)は、機能的な構成要素として、統計分布生成部(64)と、可能性予測部(65)とを有する。言い換えると、制御部(63)は、メモリディバイスに記憶されたプログラムを実行することにより、統計分布生成部(64)及び可能性予測部(65)として機能する。
【0049】
制御部(63)のメモリディバイスに記憶されたプログラムが、本開示のプログラムに対応する。このプログラムは、第1処理と第2処理とをコンピュータとしての制御部(63)に実行させる。第1処理では、粉塵センサ(51)によって検出された対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する。第2処理では、対象空間(S)で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、取得した統計分布及び粉塵センサ(51)の検出値に基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する。
【0050】
(2-3―1)統計分布生成部
対象空間(S)で検出される粉塵の量は、都度変化するため、対象空間(S)における粉塵の浮遊状況は分布として表すことができる。そこで、統計分布生成部(64)は、過去に対象空間(S)で検出された粉塵の量に基づいて統計分布を生成する。詳細には、統計分布生成部(64)は、記憶部(61)に記憶された粉塵センサ(51)の検出値に基づいて統計分布を生成する。
【0051】
本実施形態の統計分布は、過去の粉塵センサ(51)の検出値に基づいて生成された確率密度関数である。この確率密度関数は、横軸を粉塵センサ(51)の検出値(具体的には、粉塵の濃度)とし、縦軸を発生頻度又は発生確率とした確率密度関数である。なお、統計分布生成部(64)で生成される統計分布は、過去の粉塵センサ(51)の検出値におけるヒストグラムであってもよい。
【0052】
本実施形態では、統計分布の生成に用いるデータは、対象空間(S)において花粉が検出されなかったときの粉塵の量である。詳細には、花粉センサユニット(40)から送信された花粉の量のデータが0であったときに、この花粉の量が0である期間において粉塵センサユニット(50)からサーバ装置(60)に送信された粉塵の量のデータ(花粉未検出時の粉塵の量)を用いて、統計分布が生成される。このように、統計分布生成部(64)は、花粉センサ(41)及び粉塵センサ(51)の検出値に基づいて統計分布を生成する。
【0053】
統計分布の生成に用いるデータの選定について、
図3を参照しながらより詳細に説明する。
図3に示すように、屋外で花粉が比較的飛散していない時期(以下、花粉シーズン外という。例えば6月~12月)における花粉センサ(41)の検出値をみると、稀に花粉センサ(41)が花粉を検出する場合がある。
【0054】
これは、花粉センサ(41)が、花粉でない粒子を花粉であると誤って検出している可能性がある。そのため、このときの粉塵センサ(51)の検出値には、検出した粉塵に花粉微粒子が含まれるのか否かが不明であり、粉塵センサ(51)の検出値のデータの信頼性が低いと言える。
【0055】
したがって、本実施形態では、花粉シーズン外において、花粉センサ(41)で花粉が検出されていないときの粉塵センサ(51)の検出値(
図3における領域F1)だけを選別して、選別した花粉未検出時の粉塵の量のデータのみを用いて統計分布を生成する。これにより、対象空間(S)に花粉が存在しない状態における粉塵センサ(51)の検出値の統計分布を生成できる。その結果、花粉浮遊可能性を判断するための基準となる、対象空間(S)に花粉が浮遊していないときの粉塵の量の傾向を正確に把握することができる。
【0056】
また、本実施形態の統計分布は、機械学習によって生成される。上述のように、花粉未検出時の粉塵の量のデータを用いて学習が行われるため、精度の高い統計分布が生成できる。
【0057】
(2-3―2)可能性予測部
可能性予測部(65)は、統計分布生成部(64)において予め生成された統計分布を取得し、取得した統計分布と現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cとに基づいて、対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性(以下、花粉浮遊可能性という)を予測する。
【0058】
具体的には、可能性予測部(65)は、取得した統計分布と現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cとを比較し、比較によって算出された外れ度Zを評価することで、花粉浮遊可能性を予測する。
【0059】
ここで、「外れ度Z」とは、
図4に示すように、統計分布の中心と、統計分布における現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cとの距離である。本実施形態における「統計分布の中心」は、平均値mである。なお、「統計分布の中心」は、中央値、又は最頻値であってもよい。
【0060】
このように、花粉浮遊可能性の予測に外れ度Zを用いることで、統計分布における粉塵の浮遊状態と、現時点での粉塵の浮遊状態との違いを把握できる。
【0061】
本実施形態の統計分布は、対象空間(S)において花粉が検出されなかったときの粉塵の量のデータに基づいて生成されている。そのため、該統計分布において外れ度Zを算出したときに、外れ度Zの値が大きい場合(現在時点の粉塵の量が統計分布の中心から離れている場合)には、現在時点での対象空間(S)の環境は、花粉が検出されなかったときの対象空間(S)の環境と異なると推測できる。これにより、現在時点の対象空間(S)には花粉が浮遊している可能性が高いと予測できる。
【0062】
本実施形態の外れ度Zの評価は、該外れ度Zが予め設定した閾値Aを越えるか否かによって行われる。具体的には、外れ度Zが閾値A以下であった場合には、花粉浮遊可能性がないと判断される(Z≦A)。一方、外れ度Zが閾値Aより大きい場合には、花粉浮遊可能性があると判断される(A<Z)。
【0063】
ここで、閾値Aは、例えば、
図5に示すように、花粉シーズン外に取得した粉塵の量のデータに基づいて生成された統計分布Pと、花粉シーズン中に取得した粉塵の量のデータに基づいて生成された統計分布Qとが重なる領域の値である。なお、花粉シーズン中とは、屋外で花粉が比較的飛散している時期のことであり、例えば1月~5月の期間である。
【0064】
花粉シーズン中の粉塵の量のデータには粉塵及び花粉が含まれる一方、花粉シーズン外の粉塵の量もデータには主に粉塵が含まれ花粉はほぼ含まれていない。そのため、
図5に示すように、花粉シーズン外の統計分布Pと花粉シーズン中の統計分布Qとは、互いに異なる傾向の分布となる。そこで、本実施形態では、花粉シーズン外の統計分布Pと花粉シーズン中の統計分布Qとが重なる領域の値を閾値Aとすることで、対象空間(S)における花粉浮遊可能性の有無を判断できる。なお、閾値Aは、例えば、花粉シーズン外の統計分布Pにおける最大値であってもよく、花粉シーズン中の統計分布Qにおける最小値であってもよい。また、花粉シーズン外の統計分布Pと花粉シーズン中の統計分布Qとが重ならない場合には、二つの統計分布の間のいずれかの値を閾値Aとしてもよい。
【0065】
(3)花粉予測装置の動作
花粉予測装置(100)の動作について説明する。花粉予測装置(100)が運転を開始すると、花粉センサユニット(40)及び粉塵センサユニット(50)が花粉及び粉塵の検出を開始する。花粉センサユニット(40)及び粉塵センサユニット(50)は、各ユニットで検出された検出値を、インターネット(N)を介して、サーバ装置(60)に順次送信する。サーバ装置(60)は、受信した検出値に基づいて、花粉浮遊可能性を予測し、予測した結果を出力する。
【0066】
ここで、サーバ装置(60)の動作について、
図6及び
図7を参照しながら詳細に説明する。制御部(63)は、統計分布生成動作と花粉浮遊予測動作を同時に行う。
【0067】
図6に示すように、統計分布生成動作では、サーバ装置(60)は、花粉センサユニット(40)から送信された花粉に関する情報を受信する(ステップST11)。次いで、サーバ装置(60)は、受信した花粉に関する情報を記憶部(61)に記憶する(ステップST12)。
【0068】
サーバ装置(60)は、ステップST11と同時に、粉塵センサユニット(50)から送信された粉塵の量のデータを受信する(ステップST13)。次いで、サーバ装置(60)は、受信した粉塵の量のデータを記憶部(61)に記憶する(ステップST14)。
【0069】
次いで、制御部(63)の統計分布生成部(64)は、記憶部(61)に記憶された粉塵の量のデータのうち、所定期間において対象空間(S)から花粉が検出されなかったときの粉塵の量のデータを取得し、取得した粉塵の量のデータから統計分布を生成する(ステップST15)。このとき、統計分布生成部(64)は、統計分布を機械学習によって生成する。次いで、サーバ装置(60)は、生成された統計分布を記憶部(61)に記憶する(ステップST16)。
【0070】
この統計分布生成動作は、所定時間ごとに繰り返される。これにより、記憶部(61)に記憶される統計分布は、定期的に最新の統計分布に更新される。
【0071】
図7に示すように、花粉浮遊予測動作では、制御部(63)の可能性予測部(65)は、記憶部(61)に記憶された最新の統計分布を取得する(ステップST21)。次いで、サーバ装置(60)は、現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cである粉塵の量のデータを受信する(ステップST22)。
【0072】
可能性予測部(65)は、取得した統計分布と現在時点での粉塵の量とに基づいて、外れ度Zを算出する(ステップST23)。具体的には、統計分布と現在時点での粉塵の量とを比較し、統計分布における外れ度Zを算出する。
【0073】
次いで、可能性予測部(65)は、算出された外れ度Zが予め設定した閾値Aを越えるか否かによって評価する。(ステップST24)。次いで、可能性予測部(65)は、外れ度Zを評価した結果を花粉浮遊可能性の予測結果として出力する(ステップST25)。次いで、通信部(62)は、可能性予測部(65)から出力された予測結果を空気清浄機(20)及び通信端末(30)に送信する(ステップST26)。
【0074】
この花粉浮遊予測動作は、所定時間(例えば、1分)ごとに繰り返される。これにより、対象空間(S)の環境の変化(例えば、換気の有無)に応じて最新の予測結果を出力できる。
【0075】
(4)空気処理システムの運転動作
空気処理システム(1)の運転動作について説明する。空気処理システム(1)の運転が開始すると、花粉予測装置(100)及び空気清浄機(20)が運転を開始する。
【0076】
通信端末(30)では、通信部(31)がサーバ装置(60)から花粉浮遊可能性の予測結果を受信すると、通知部(32)に受信した予測結果を通知する。これにより、対象空間(S)に滞在する人(H)に花粉症を予防するための行動を促すことができる。具体的には、対象空間(S)の清掃、花粉破裂防止剤の噴霧、空気清浄機のメンテナンス等の行動を促すことができる。
【0077】
また、空気清浄機(20)では、通信部(21)が予測結果を受信すると、空清制御部(22)が該予測結果に基づいて対象空間(S)の空気を浄化するようにファンを制御する。具体的には、通信部(21)が、花粉浮遊可能性がないという予測結果を受信した場合には、空清制御部(22)は受信時点での制御を変更しない。一方、通信部(21)が、花粉浮遊可能性があるという予測結果を受信した場合には、空清制御部(22)は、対象空間(S)の空気の浄化が促進されるようにファンの回転数を上げる。
【0078】
このように空清制御部(22)が受信した予測結果に基づいて空気清浄機(20)を制御するので、早期に対象空間(S)の空気を浄化できる。これにより、対象空間(S)に滞在する人(H)が花粉を吸入する前に花粉を除去することができる。その結果、花粉症の予防又は花粉症状の軽減をすることができる。
【0079】
(5)特徴
(5-1)
制御部(63)は、過去に対象空間(S)で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cとに基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する。
【0080】
ここで、粉塵センサ(51)は、花粉粒子に比べて粒子径が小さい花粉微粒子を検出することができる。花粉微粒子は小さく且つ軽いため、対象空間(S)内を長時間に亘って浮遊するとともに、対象空間(S)の全体に拡散して浮遊する。そのため、粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、対象空間(S)全体において花粉が浮遊している可能性を予測することができる。
【0081】
また、粉塵センサ(51)は、花粉センサ(41)に比べて、検出結果を短時間で出力できる。そのため、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するのに粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、早期に予測結果を出力することができる。
【0082】
(5-2)
制御部(63)は、過去に対象空間(S)で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された統計分布と、粉塵センサ(51)の検出値とに基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する。
【0083】
統計分布は、粉塵の量に加えて、過去に対象空間(S)で検出された花粉の量に基づいて生成されているので、花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0084】
(5-3)
制御部(63)は、統計分布における中心からの距離を外れ度Zとしたとき、該外れ度Zを用いて花粉の浮遊可能性を予測する。そのため、取得した統計分布における粉塵の浮遊状態と、対象空間(S)における粉塵の浮遊状態との違いを把握できる。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0085】
(5-4)
統計分布は、対象空間(S)において花粉が検出されなかったときの粉塵の量に基づいて生成される。これによれば、取得した統計分布に対して粉塵センサ(51)の検出値が大きく外れる場合には、対象空間(S)内に花粉が浮遊している可能性が高いと判断しやすくなる。したがって、対象空間(S)における花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0086】
(5-5)
統計分布は、機械学習によって生成される。そのため、花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0087】
(5-6)
空気処理システム(1)は、花粉予測装置(100)と、該花粉予測装置(100)の予測結果に基づいて対象空間(S)の空気を処理する空気清浄機(20)とを備える。これによれば、花粉予測装置の予測結果に基づいて対象空間(S)の空気が処理されるので、対象空間(S)に滞在する人が花粉を吸入する前に早期に花粉を除去できる。
【0088】
(5-7)
花粉予測方法は、花粉予測装置(100)の粉塵センサ(51)によって検出された対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する工程と、過去に対象空間(S)で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と粉塵センサ(51)の検出値とに基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する工程とを含む。
【0089】
これによれば、粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、対象空間(S)全体において花粉が浮遊している可能性を予測することができる。
【0090】
また、粉塵センサ(51)は、花粉センサ(41)に比べて、検出結果を短時間で出力できる。そのため、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するのに粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、早期に予測結果を出力することができる。
【0091】
(5-8)
プログラムは、花粉予測装置(100)の粉塵センサ(51)によって検出された対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する処理と、過去に対象空間(S)で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と粉塵センサ(51)の検出値とに基づいて対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する処理とをコンピュータに実行させる。
【0092】
これによれば、粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、対象空間(S)全体において花粉が浮遊している可能性を予測することができる。
【0093】
また、粉塵センサ(51)は、花粉センサ(41)に比べて、検出結果を短時間で出力できる。そのため、対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するのに粉塵センサ(51)の検出値を用いることで、早期に予測結果を出力することができる。
【0094】
(6)変形例
上記実施形態については以下のような変形例としてもよい。なお、以下の説明では、原則として上記実施形態と異なる点について説明する。
【0095】
(6-1)変形例1
図8に示すように、本実施形態の花粉予測装置(100)では、制御部(63)で生成される統計分布は、対象空間(S)以外の室内空間で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて生成されてもよい。
【0096】
具体的には、対象空間(S)以外の他の室内空間にセンサユニット(SU)が配置される。このセンサユニット(SU)は、花粉センサユニット(40)と粉塵センサユニット(50)とを合わせたものである。センサユニット(SU)は、他の室内空間における粉塵及び花粉を検出し、インターネット(N)を介してサーバ装置(60)に、粉塵の量及び花粉に関する情報を送信する。
【0097】
サーバ装置(60)の制御部(63)は、他の室内空間における粉塵の量及び花粉の量に基づいて統計分布を生成し、生成された統計分布と対象空間(S)に配置された粉塵センサ(51)の検出値とに基づいて、対象空間(S)における花粉浮遊可能性を予測する。
【0098】
本変形例では、対象空間(S)以外の他の室内空間におけるデータに基づいて統計分布が生成されるので、より多くのデータから統計分布が生成される。そのため、より精度よく花粉の浮遊可能性を予測できる。
【0099】
(6-2)変形例2
上記実施形態では、統計分布は、粉塵センサ(51)と花粉センサ(41)の検出値に基づいて生成されたが、粉塵センサ(51)の検出値のみに基づいて生成されてもよい。この場合には、例えば、花粉が比較的飛散していない時期の粉塵センサ(51)の検出値に基づいて統計分布を生成することで、花粉センサ(41)の検出値の情報がなくても、花粉浮遊可能性の予測の基準となる統計分布を生成できる。
【0100】
(6-3)変形例3
本実施形態の花粉予測装置(100)では、制御部(63)は、対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測してもよい。具体的には、
図9に示すように、制御部(63)は、機能的な構成要素として、関係式生成部(66)と、花粉量予測部(67)とを更に有する。
【0101】
関係式生成部(66)は、粉塵の量を説明変数とし、花粉の量を目的変数とする関係式を生成する。詳細には、関係式生成部(66)は、記憶部(61)に記憶された過去の粉塵センサ(51)の検出値及び花粉センサ(41)の検出値に基づいて関係式を生成する。本変形例における花粉の量は、花粉の個数である。
【0102】
花粉量予測部(67)は、関係式生成部(66)で生成された関係式を取得し、該関係式に現在時点の粉塵センサ(51)の検出値Cを入力することにより、対象空間(S)に浮遊する花粉の個数を予測する。
【0103】
花粉予測装置(100)のサーバ装置(60)の動作において、制御部(63)は、関係式生成動作及び花粉量予測動作を更に同時に行う。
【0104】
図10に示すように、関係式生成動作では、関係式生成部(66)は、記憶部(61)に記憶された粉塵の量及び花粉の個数のデータを取得する(ステップST31)。次いで、関係式生成部(66)は、取得したデータから、粉塵の量と花粉の量とを変数とする関係式を生成する(ステップST32)。このとき、関係式生成部(66)は、統計処理又は機械学習によって関係式を生成する。次いで、関係式生成部(66)は、サーバ装置(60)は、生成された関係式を記憶部(61)に記憶する(ステップST33)。
【0105】
この関係式生成動作は、所定時間ごとに繰り返される。これにより、記憶部(61)に記憶される関係式は、定期的に最新の関係式に更新される。
【0106】
図11に示すように、花粉量予測動作では、花粉量予測部(67)は、記憶部(61)に記憶された最新の関係式を取得する(ステップST41)。次いで、サーバ装置(60)は、現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cである粉塵の量のデータを受信する(ステップST42)。
【0107】
次いで、花粉量予測部(67)は、取得した関係式と現在時点での粉塵の量とに基づいて、花粉の個数の予測値を算出する(ステップST43)。具体的には、取得した関係式に現時点での粉塵の量の値を入力することで、花粉の個数の予測値を算出して出力する。
【0108】
次いで、通信部(62)は、花粉量予測部(67)から出力された予測値を通信端末(30)に送信する(ステップST44)。
【0109】
この花粉量予測動作は、所定時間(例えば、1分)ごとに繰り返される。これにより、対象空間(S)の環境の変化(例えば、換気の有無)に応じて最新の予測値を出力できる。
【0110】
本変形例によれば、制御部(63)は、取得した関係式を用いることで、粉塵センサ(51)の検出値である対象空間(S)に浮遊する粉塵の量から、該対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測できる。
【0111】
(6-4)変形例4
本実施形態の花粉予測装置(100)は、検出範囲の異なる複数の粉塵センサ(51)を有してもよい。例えば、粉塵センサ(51)として、粒子径が2.5μm以下の微粒子を検出できるセンサ(PM2.5センサ)と、粒子径が10μm以下の微粒子を検出できるセンサ(PM10センサ)とを有してもよい。この場合、各粉塵センサ(51)の検出値に基づいて統計分布が生成される。この場合、複数の2次元の統計分布を生成してもよく、3次元の統計分布を生成してもよい。
【0112】
また、この場合、各粉塵センサ(51)の検出値に基づいて生成された統計分布に加えて、各粉塵センサ(51)の出力値の比率に基づいて生成された統計分布を生成してもよい。具体的には、例えば、統計分布が、横軸をPM10センサの検出値に対するPM2.5センサの比率(PM2.5/PM10)とする確率密度関数であってもよい。
【0113】
(6-5)変形例5
本実施形態の花粉予測装置(100)の粉塵センサ(51)は、対象空間(S)に複数配置されてもよい。これにより、対象空間(S)全体における花粉の浮遊可能性をより精度よく予測できる。
【0114】
(6-6)変形例6
空気清浄機(20)に粉塵センサが備わっている場合には、本実施形態における花粉予測装置(100)の粉塵センサ(51)として空気清浄機(20)の粉塵センサを用いてもよい。
【0115】
(6-7)変形例7
本実施形態の花粉予測装置(100)では、可能性予測部(65)が用いる現在時点での粉塵センサ(51)の検出値Cは、現在時点を含む所定時間における粉塵センサ(51)の出力の分布であってもよい。具体的には、可能性予測部(65)では、取得した統計分布と、現在時点を含む所定期間における粉塵センサ(51)の検出値の分布(以下、現在時点の出力分布という)とを比較することにより、花粉浮遊可能性を予測する。
【0116】
この場合、花粉浮遊可能性の予測は、取得した統計分布と現在時点の出力分布とを比較することで外れ度Zを算出し、算出した外れ度Zを評価することにより行う。このとき、外れ度Zは、統計分布の中心(例えば、平均値、中央値、最頻値)と、現在時点の出力分布における中心(例えば、平均値、中央値、最頻値)との距離である。外れ度Zを用いて花粉浮遊可能性を予測する場合、上述の実施形態と同様に、可能性予測部(65)は、算出された外れ度Zが予め設定した閾値を越えるか否かによって評価する。
【0117】
本変形例によれば、可能性予測部(65)が、現在時点の出力分布に基づいて花粉浮遊可能性を予測するので、過去の統計分布と現在の粉塵センサ(51)の出力との時間的な特徴を比較することで花粉浮遊可能性が予測される。これにより、より精度よく花粉浮遊可能性を予測できる。
【0118】
(6-8)変形例8
本実施形態の花粉予測装置(100)では、可能性予測部(65)が出力する花粉浮遊可能性の予測結果は、該可能性を割合として出力してもよい。
【0119】
具体的には、花粉浮遊可能性を評価するための閾値として、第1閾値A1、及び第1閾値A1よりも大きい第2閾値A2を予め設定する。そして、
図12に示すように、可能性予測部(65)は、算出された外れ度Zが第1閾値A1以下である場合には「花粉浮遊可能性が0%」と出力し、算出された外れ度Zが第2閾値A2以上である場合には「花粉浮遊可能性が100%」を出力し、算出された外れ度Zが第1閾値A1より大きく且つ第2閾値A2より小さい場合には、外れ度Zに応じて花粉浮遊可能性の割合を出力する。
【0120】
ここで、例えば、
図12に示すように、花粉シーズン外の統計分布Pと花粉シーズン中の統計分布Qとが重なる場合、重なりの開始値を第1閾値A1とし、重なりの終了値を第2閾値A2としてもよい。
【0121】
(6-9)変形例9
本実施形態の花粉予測装置(100)では、統計分布生成部(64)が統計分布を生成する際に用いるデータは、対象空間(S)において花粉が検出されたときの粉塵の量であってもよい。詳細には、花粉センサユニット(40)から送信された花粉の量のデータが0より大きいときに、この花粉の量が0より大きい期間において粉塵センサユニット(50)からサーバ装置(60)に送信された粉塵の量のデータ(花粉検出時の粉塵の量)を用いて、統計分布が生成される。
【0122】
図3に示すように、花粉シーズン中における花粉センサ(41)の検出値をみると、花粉センサ(41)が花粉を検出していない場合がある。これは花粉センサ(41)が対象空間(S)に浮遊している花粉を検出できていない可能性がある。そのため、このときの粉塵センサ(51)の検出値のデータの信頼性が低いといえる。
【0123】
したがって、花粉シーズン中において、花粉センサ(41)で花粉が検出されたときの粉塵センサ(51)の検出値(
図3における領域F2)だけを選別して、選別した花粉検出時の粉塵の量のデータのみを用いて統計分布を生成することにより、対象空間(S)に花粉が存在する状態における粉塵センサ(51)の検出値の統計分布を生成できる。これにより、花粉浮遊可能性を判断するための基準となる、対象空間(S)に花粉が浮遊しているときの粉塵の量の傾向を正確に把握することができる。
【0124】
本変形例では、可能性予測部(65)は、上記実施形態と同様に、外れ度Zを評価することで花粉浮遊可能性を予測する。本変形例の統計分布は、対象空間(S)において花粉が検出されたときの粉塵の量のデータに基づいて生成されているため、該統計分布において外れ度Zを算出したときに、外れ度Zの値が小さい場合(現在時点の粉塵の量が統計分布の中心に近い場合)には、現在時点での対象空間(S)の環境は、花粉が検出されたときの対象空間(S)の環境と類似すると推測できる。これにより、現在時点の対象空間(S)には花粉が浮遊している可能性が高いと推測できる。
【0125】
(6-10)変形例10
本実施形態の空気処理装置は、空気清浄機能(例えば、空気清浄フィルタ)を有する空気調和装置や換気装置であってもよい。この場合においても、制御部(63)が、花粉予測装置(100)の予測結果に基づいて、空気調和装置や換気装置に備わるファンを制御することにより、空気清浄機能を作用させて、対象空間(S)の空気を浄化する。
【0126】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0127】
上記実施形態の花粉予測装置(100)では、制御部(63)及び記憶部(61)がサーバ装置(60)に備わっていなくてもよい。具体的には、花粉予測装置(100)の制御部(63)及び記憶部(61)は、空気清浄機(20)に設けられてもよく、また空気清浄機(20)とは別体のユニットに設けられて対象空間(S)に配置されてもよい。
【0128】
上記実施形態の花粉予測装置(100)では、統計分布における粉塵の浮遊状態と、対象空間(S)における粉塵の浮遊状態との違いを、外れ度という尺度を用いて評価しているが、これに限定する必要はなく、例えば、統計学の検定手法を利用して評価してもよい。
【0129】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0130】
以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上説明したように、本開示は、花粉予測装置、空気処理システム、花粉予測方法、及びプログラムについて有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 空気処理システム
20 空気清浄機(空気処理装置)
51 粉塵センサ(第1センサ)
63 制御部
100 花粉予測装置
S 対象空間
【手続補正書】
【提出日】2024-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する装置であって、
前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)と、
室内で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する制御部(63)とを備える
花粉予測装置。
【請求項2】
前記制御部(63)は、室内で検出された粉塵の量、花粉の量、及び花粉の種類に基づいて予め生成された前記統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する
請求項1に記載の花粉予測装置。
【請求項3】
前記制御部(63)は、前記統計分布の中心からの距離を外れ度としたとき、該外れ度を用いて前記可能性を予測する
請求項1又は2に記載の花粉予測装置。
【請求項4】
前記統計分布は、前記室内において花粉が検出されなかったときの粉塵の量に基づいて生成される
請求項1に記載の花粉予測装置。
【請求項5】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する装置であって、
前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を検出する第1センサ(51)と、
室内で検出された粉塵の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する制御部(63)とを備え、
前記制御部(63)は、室内における粉塵の量及び花粉の量を変数とする関係式を取得し、該関係式に前記第1センサ(51)の検出値を入力することにより前記対象空間(S)に浮遊する花粉の量を予測する
花粉予測装置。
【請求項6】
前記統計分布は、機械学習によって生成される
請求項1又は5に記載の花粉予測装置。
【請求項7】
請求項1又は5に記載の花粉予測装置と、
前記花粉予測装置の予測結果に基づいて前記対象空間(S)の空気を処理する空気処理装置(20)とを備える
空気処理システム。
【請求項8】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測する方法であって、
花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する工程と、
室内で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する工程とを含む
花粉予測方法。
【請求項9】
対象空間(S)における花粉の浮遊状況を予測するためのプログラムであって、
花粉予測装置(100)の第1センサ(51)によって検出された前記対象空間(S)に浮遊する粉塵の量を取得する処理と、
室内で検出された粉塵の量及び花粉の量に基づいて予め生成された統計分布を取得し、該統計分布と前記第1センサ(51)の検出値とに基づいて前記対象空間(S)に花粉が浮遊している可能性を予測する処理とをコンピュータに実行させる
プログラム。