(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051491
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240404BHJP
B60W 50/16 20200101ALI20240404BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240404BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240404BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W50/16
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157690
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 美砂子
(72)【発明者】
【氏名】藤元 岳洋
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC09
3D232CC20
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA29
3D232DA32
3D232DA33
3D232DA77
3D232DA78
3D232DC02
3D232DC09
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3D232EB11
3D232EC23
3D232EC34
3D232FF01
3D232GG01
3D241BA59
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC25Z
3D241DC30Z
3D241DC31Z
(57)【要約】
【課題】より効果的に操舵回避を運転者に促すことが可能な運転支援装置、運転支援方法、およびプログラムを提供すること。
【解決手段】少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定する決定部と、前記決定部により、前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させる、誘導制御を行う制御部と、を備える運転支援装置。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定する決定部と、
前記決定部により、前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、
まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、
次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させる、
誘導制御を行う制御部と、
を備える運転支援装置。
【請求項2】
前記第1期間は、5ヘルツの逆数の1/4以下、30ヘルツの逆数の1/4以上の期間であり、
前記第2期間は、4ヘルツの逆数の1/4以上の期間である、
請求項1記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記移動体に搭載される操舵装置は、前記操舵操作子と操舵輪が機械的に連結されたものであり、
前記制御部は、前記誘導制御において、
前記第2期間で前記アクチュエータに出力させる力をゼロに到達させた後、前記アクチュエータに、前記第1期間よりも長い第3期間で前記操舵方向と反対方向の第2目標力に到達するように力を出力させてその状態を維持させ、
次いで第4期間で出力させる力をゼロに到達させる、
請求項1または2記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記誘導制御において前記アクチュエータに出力させる力の前記操舵方向と同じ方向に関する積分値を、前記誘導制御において前記アクチュエータに出力させる力の前記操舵方向と反対方向に関する積分値と等しくする、
請求項3記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記第4期間と前記第1期間が等しい、
請求項3記載の運転支援装置。
【請求項6】
運転支援装置が、
少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定し、
前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、
まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、
次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させる、
運転支援方法。
【請求項7】
運転支援装置のプロセッサに、
少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定することと、
前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、
まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、
次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させることと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置、運転支援方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前方の障害物との接触回避を支援する車両用接触回避支援装置の発明が開示されている(特許文献1)。この装置は、車両の転舵輪を転舵するための転舵アクチュエータを備え、ステアリングホイールの操作に応じて転舵輪を転舵する操舵装置と、障害物の車両との相対位置を取得する相対位置取得センサと、相対位置に基づいて接触回避のための運転操作支援の要否を判定し、運転操作支援が必要であると判定したときに、障害物との接触を回避するように転舵アクチュエータの転舵量を制御する転舵制御を実行するように構成された制御装置と、ステアリングホイールに対する運転者の把持状態を検出する把持状態検出センサとを備え、制御装置は、転舵制御を実行するための制御モードとして正常モードと制限モードとを備え、把持状態に基づいて、選択的に制限モードで転舵制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、転舵制御における転舵方向と同じ方向への転舵速度が転舵制御における転舵方向と逆の方向への転舵速度に比べて大きくなるように報知制御を実行するが、具体的にどの程度、転舵速度を大きくするのか明確にされていない。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、より効果的に操舵回避を運転者に促すことが可能な運転支援装置、運転支援方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る運転支援装置、運転支援方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る運転支援装置は、少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定する決定部と、前記決定部により、前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させる、誘導制御を行う制御部と、を備えるものである。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記第1期間は、5ヘルツの逆数の1/4以下、30ヘルツの逆数の1/4以上の期間であり、前記第2期間は、4ヘルツの逆数の1/4以上の期間であるものである。
【0008】
(3):上記(1)または(2)の態様において、記移動体に搭載される操舵装置は、前記操舵操作子と操舵輪が機械的に連結されたものであり、前記制御部は、前記誘導制御において、前記第2期間で前記アクチュエータに出力させる力をゼロに到達させた後、前記アクチュエータに、前記第1期間よりも長い第3期間で前記操舵方向と反対方向の第2目標力に到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで第4期間で出力させる力をゼロに到達させるものである。
【0009】
(4):上記(3)の態様において、前記制御部は、前記誘導制御において前記アクチュエータに出力させる力の前記操舵方向と同じ方向に関する積分値を、前記誘導制御において前記アクチュエータに出力させる力の前記操舵方向と反対方向に関する積分値と等しくするものである。
【0010】
(5):上記(3)の態様において、前記第3期間と前記第1期間が等しいものである。
【0011】
(6):本発明の他の態様に係る運転支援方法は、運転支援装置が、少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定し、前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させるものである。
運転支援方法。
【0012】
(7):本発明の他の態様に係るプログラムは、運転支援装置のプロセッサに、少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定することと、前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで前記第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させることと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
(1)~(7)の態様によれば、より効果的に操舵回避を運転者に促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る運転支援装置100を中心とした構成図である。
【
図3】交通参加者行動予測部120により設定されるリスクの概要を示す図である。
【
図4】誘導制御部160によるアクチュエータ226の制御内容と、運転者に与える作用とについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の運転支援装置、運転支援方法、およびプログラムの実施形態について説明する。運転支援装置は、移動体の運転を支援する装置である。「移動体」とは、車両、マイクロモビ、自律移動ロボット、船舶、ドローンなど、自身が備える駆動機構によって移動可能な構造体をいう。以下の説明では、移動体は地上を移動する車両であることを前提とし、専ら車両に地上を移動させるための構成および機能について説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る運転支援装置100を中心とした構成図である。運転支援装置100は、車両に搭載される。この車両(以下、車両Mと称する)には、運転支援装置100の他に、例えば、物体検知装置10、車両センサ40、ブレーキ装置200、操舵装置220等の構成が搭載される。なお、
図1に示す構成はあくまで一例であり、構成の一部が省略されてもよいし、更に別の構成が追加されてもよい。車両Mはエンジンや走行用モータなどの駆動力出力装置を備えるが、これについて図示および説明を省略する。
【0017】
物体検知装置10は、例えば、カメラ、レーダ装置、LIDAR(Light Detection and Ranging)、センサフュージョン装置などのうち一部または全部を含む。物体検知装置10は、少なくとも車両Mの進行方向側を検知範囲とし、物体を検知するための装置である。カメラは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。カメラは、車両Mの任意の箇所に取り付けられる。前方を撮像する場合、カメラは、フロントウインドシールド上部やルームミラー裏面等に取り付けられる。カメラは、例えば、周期的に繰り返し車両Mの周辺を撮像する。カメラは、ステレオカメラや測距センサであってもよい。レーダ装置は、車両Mの周辺にミリ波などの電波を放射すると共に、物体によって反射された電波(反射波)を検出して少なくとも物体の位置(距離および方位)を検出する。レーダ装置は、FM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって物体の位置および速度を検出してもよい。LIDARは、車両Mの周辺に光(或いは光に近い波長の電磁波)を照射し、散乱光を測定する。LIDARは、発光から受光までの時間に基づいて、対象までの距離を検出する。照射される光は、例えば、パルス状のレーザー光である。センサフュージョン装置は、カメラ、レーダ装置、およびLIDARのうち一部または全部による検出結果に対してセンサフュージョン処理を行って、物体の位置、種類、速度などを認識する。物体検知装置10は、センサフュージョン装置に代えて、専らカメラの画像解析を行う画像解析装置を備えてもよい。この画像解析装置は、運転支援装置100の一機能であってもよい。物体検知装置10は、認識結果を運転支援装置100に出力する。
【0018】
車両センサ40は、車両Mの速度を検出する車速センサ、加速度を検出する加速度センサ、鉛直軸回りの角速度を検出するヨーレートセンサ、車両Mの向きを検出する方位センサ等を含む。
【0019】
運転支援装置100の説明に先立ち、ブレーキ装置200、および操舵装置220について説明する。
【0020】
ブレーキ装置200は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、ブレーキECUとを備える。ブレーキECUは、運転支援装置100から入力される情報、或いは運転操作子(不図示)から入力される情報に従って電動モータを制御し、制動操作に応じたブレーキトルクが各車輪に出力されるようにする。ブレーキ装置200は、ブレーキペダルの操作によって発生させた油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップとして備えてよい。なお、ブレーキ装置200は、上記説明した構成に限らず、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。
【0021】
図2は、操舵装置220の構成図である。操舵装置220は、例えば、操舵操作子222と、トルクセンサ224と、アクチュエータ226と、操舵角センサ228と、操舵輪230とを備える。これらの構成要素は、ステアリングシャフト、ギヤ機構などを含む連結部232によって機械的に連結されている。なお、連結部232は一時的に連結を解除する機能等を備えてもよい。また、操舵装置220は、操舵ECU(Electronic Control Unit)240を備える。なお、操舵装置220は、操舵操作子222と操舵輪230との機械的連結が無い、いわゆるステアバイワイヤの操舵装置であってもよい。
【0022】
操舵操作子222は、例えばステアリングホイールである。これに代えて操舵操作子222は、異形ステア、ジョイスティック、レバー、十字キー、その他の操舵操作子であってもよい。以下の説明では操舵操作子222はステアリングホイールであるものとする。操舵操作子222は、回転操作されることで連結部232に回転力(以下、トルクと称する。操舵操作が回転操作でない場合、本発明における「力」はトルクに限定されない。)を伝える。連結部232の少なくとも一部は、回転軸として動作する。トルクセンサ224は、操舵操作子222に加えられたトルクを検出して操舵ECU240に出力する。アクチュエータ226は、例えばモータであり、そのステータは車体に連結され、ロータが連結部232と共に回転するようになっている。アクチュエータ226は、操舵ECU240からの指示に応じて連結部に力を出力し、いわゆるパワーステアリング機能を実現する。アクチュエータ226が連結部232にトルクを出力すると、そのトルクは操舵操作子222にも伝達される。アクチュエータ226から微小なトルクが出力されることで、車両Mの運転者の手に振動が伝わり、何らかの気付きを与えることができる。また、アクチュエータ226は操舵操作子222に加えられたトルクに対して反力を与え、操舵操作を抑制するように動作してもよい。これによって、LKAS(Lane Keeping Assist System)などの運転支援が実現される。パワーステアリング機能を実現するためのアクチュエータと反力を出力するアクチュエータは別々に設けられてもよいが、ここでは一つのものとして表現している。操舵角センサ228は、操舵輪230の回転角(操舵角)を検出して操舵ECU240に出力する。操舵ECU240は、トルクセンサ224および操舵角センサ228から入力された情報に基づいて、或いは運転支援装置100からの指示に応じて、アクチュエータ226を動作させる。
【0023】
図1に戻り、運転支援装置100は、例えば、認識部110と、交通参加者行動予測部120と、軌道予測部130と、決定部140と、緊急停止制御部150と、誘導制御部160とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め運転支援装置100のHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装置に装着されることで運転支援装置100のHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0024】
認識部110は、物体検知装置10から入力された情報に基づいて、車両Mの周辺にある物体の種別、位置、速度、加速度等を認識する。物体の位置は、例えば、車両Mの代表点(重心や駆動軸中心など)を原点とした絶対座標上の位置として認識され、制御に使用される。物体の位置は、その物体の重心やコーナー等の代表点で表されてもよいし、表現された領域で表されてもよい。物体の「状態」とは、物体の加速度やジャーク、あるいは「行動状態」(例えば車線変更をしている、またはしようとしているか否か)を含んでもよい。このように、認識部110は、車両Mの少なくとも進行方向側に存在する、車両Mが接触を回避すべき物体を認識する。
【0025】
また、認識部110は、例えば、車両Mが走行している車線(走行車線)を認識する。例えば、認識部110は、走行車線に対する車両Mの位置や姿勢を認識する。認識部110は、例えば、車両Mの基準点の車線中央からの乖離、および車両Mの進行方向の車線中央を連ねた線に対してなす角度を、走行車線に対する車両Mの相対位置および姿勢として認識してもよい。これに代えて、認識部110は、走行車線のいずれかの側端部(道路区画線または道路境界)に対する車両Mの基準点の位置などを、走行車線に対する車両Mの相対位置として認識してもよい。
【0026】
交通参加者行動予測部120は、認識部110が認識した物体のうち、走行車線上あるいは走行車線に隣接する隣接車線上に存在し、自ら移動する主体(交通参加者)の将来の行動を予測する。交通参加者は、他車両、歩行者、自転車などを含む。例えば、交通参加者行動予測部120は、交通参加者の過去の移動履歴に基づいて、速度一定、加速度一定などの前提の下で交通参加者の将来の行動を予測してもよいし、カルマンフィルタ等の手法で交通参加者の将来の行動を予測してもよい。また、交通参加者の向き(車両であれば車体軸の向き、歩行者であれば顔向き)を考慮して交通参加者の将来の行動を予測してもよい。将来の行動とは、例えば、将来の複数時点における交通参加者の位置を意味する。
【0027】
更に、交通参加者行動予測部120は、予測した交通参加者の将来の行動等に基づいて、車両Mの周辺の空間を上空から見た二次元平面で表した想定平面Sにおいて、車両Mが進入ないし接近すべきでない度合いを示す指標値であるリスクを設定してもよい。換言すると。リスクは、物標(交通参加者だけでなく、路肩やガードレール、白線外領域などの走行不可能領域も含むものとする)の存在確率を示すものである(厳密な意味での「確率」でなくてもよい)。リスクは、値が大きいほど車両Mが進入ないし接近すべきでないことを示し、値がゼロに近いほど車両Mが走行するのに好ましいことを示すものとする。但し、この関係は逆でもよい。
【0028】
交通参加者行動予測部120は、想定平面Sにおけるリスクを、現在時刻t、Δt後(時刻t+Δt)、2Δt後(時刻t+2Δt)、…というように一定の時間間隔で規定される将来の各時点についても設定する。
【0029】
図3は、交通参加者行動予測部120により設定されるリスクの概要を示す図である。交通参加者行動予測部120は、交通参加者について、想定平面S上で、進行方向および速度に基づく楕円ないし円を等高線とするリスクを設定し、走行不可能領域について一定値のリスクを設定する。図中、R(M1)は停止車両M1のリスクであり、R(P)は歩行者Pのリスクである。歩行者Pは道路を横断する方向に移動しているので、将来の各時点について現在時刻とは異なる位置にリスクが設定される。移動している車両や自転車などについても同様である。R(BD)は走行不可能領域BDのリスクである。図中、ハッチングの濃さがリスクの値を示しており、ハッチングが濃いほどリスクが大きいことを示している。交通参加者行動予測部120は、車線の中央から離れる程、値が大きくなるようにリスクを設定してもよい。なお、交通参加者行動予測部120は、このようなリスクの設定を行わず、単に将来の複数時点における交通参加者の位置を予測するものであってもよい。
【0030】
軌道予測部130は、車両センサ40に含まれる車速センサにより検出される車両Mの速度VM、および操舵装置220の操舵角センサ228により検出される車両Mの操舵角θMを車体モデル(円弧モデル、二輪モデル等)に入力し、将来の一定期間における車両Mの軌道を予測する。車体モデルに関しては種々の手法が知られているため詳細な説明を省略する。
【0031】
決定部140は、交通参加者行動予測部120および軌道予測部130の処理結果を参照し、認識部110により認識された物体との接触を操舵によって回避すること(操舵回避)が困難であるか否かを判定する。例えば、決定部140は、物体とのTTC(Time To Collision)が閾値以下である場合、或いは、接触を回避できる回避軌道を生成した場合に回避行動中の横加速度が上限を超える場合に、操舵回避が困難であると判定する。操舵回避が困難であると判定した場合、決定部140は緊急停止制御部150を作動させる。これに応じて緊急停止制御部150は、ブレーキ装置200に指示して車両Mを停止させる。
【0032】
操舵回避が困難で無いと判定した場合、決定部140は、操舵回避を車両Mの運転者に促すことと、操舵方向(どちらの方向に操舵させるか)とを決定する。操舵方向に関して、決定部140は、回避すべき物体が軌道予測部130によって予測された車両Mの軌道の左右どちら側に存在するかに基づいて決定してもよいし、車両Mが車線内のどの横位置を移動しているかを更に加味して決定してもよい。操舵方向の決定手法について特段の制約は存在せず、任意の手法で操舵方向が決定されてよい。
【0033】
誘導制御部160は、決定部140により、前記物体との接触を操舵によって回避するように運転者に促すことが決定された場合、以下のように操舵ECU240を介してアクチュエータ226を制御する誘導制御を行う。
【0034】
図4は、誘導制御部160によるアクチュエータ226の制御内容と、運転者に与える作用とについて説明するための図である。以下の説明において操舵操作子222の操作方向のうち、操舵方向と同じ方向を正、操舵方向の反対方向を負とする。
【0035】
まず、誘導制御部160は、操舵方向と同じ方向の(つまり図中、正の)第1目標トルクT1に、第1期間P1で到達するように、トルク徐々に増加させながらトルクを出力するようにアクチュエータ226を制御し、トルクが第1目標トルクT1に到達すると、そのトルクを第1維持期間Pm1の間、維持するようにアクチュエータ226を制御する。
【0036】
次いで、誘導制御部160は、トルクが、第1期間P1よりも長い第2期間P2でゼロに到達するように、アクチュエータ226を制御する。
【0037】
次いで、誘導制御部160は、操舵方向と反対方向の第2目標トルクT2に、第3期間P3で到達するように、アクチュエータ226を制御し、トルクが第2目標トルクT2に到達すると、そのトルクを第2維持期間Pm2の間、維持するようにアクチュエータ226を制御する。
【0038】
次いで、誘導制御部160は、トルクを徐々に弱めさせ、トルクが第4期間P4でゼロに到達するように、アクチュエータ226を制御する。
【0039】
ここで、第1期間P1は、例えば、5[Hz(ヘルツ)]の1/4波長に相当する期間(5ヘルツの逆数の1/4)以下、30[Hz]の1/4波長に相当する期間(30ヘルツの逆数の1/4)以上の期間である。つまり、第1期間P1は、0.0083[sec]以上、0.05[sec]以下の期間である。ここで、人の上腕の共振周波数は、5~30[Hz]の間であるとの知見が得られている。第1期間P1を上記のように定めることで、第1期間P1において出力されるトルクは、人の上腕の共振周波数の波動の一部を構成するため、運転者の腕に共振を発生させることが想定される。
【0040】
一方、第2期間P2は、例えば、4[Hz]の1/4波長に相当する期間(4ヘルツの逆数の1/4)以上の期間である。つまり、第2期間P2は、0.0675[sec]以上の期間である。4[Hz]以下の範囲は人の上腕の共振周波数の範囲から外れているため、第2期間P2において出力されるトルクは、運転者の腕に共振を発生させないことが想定される。
【0041】
図では、第2期間P2と第3期間P3におけるトルクの変化率が同じであるように示しているが、それらは異なってもよい。誘導制御部160は、例えば、第3期間P3においてトルクの変化率が徐々に緩やかになるようにアクチュエータ226を制御してもよい。その場合であっても、第2期間P2と第3期間P3を通してトルクに変曲点が発生しないように、滑らかにトルクが変化することが望ましい。
【0042】
第4期間P4は、第1期間P1と同じであってもよいし、異なってもよい。第4期間P4を第1期間P1と等しくすることで、トルク抜けの第4期間P4においても運転者の腕に共振が発生する可能性がある。第4期間P4は、第3期間P3と同程度の期間であってもよい。
【0043】
このようにすることで、運転者に対して、操舵方向を強く意識させると共に、反対方向に関してはそれほど意識させないようにすることができる。誘導制御部160は、正のトルクの積分値と負のトルクの積分値が等しくなるように、第1目標トルクT1、第2目標トルクT2、および上記した各種期間を設定してもよい。こうすることで、特に操舵操作子と操舵輪との機械的連結がある操舵装置において、誘導制御によって車両Mに不要な旋回が生じるのを抑制することができる。この結果、あくまで手動運転のフィーリングを維持しつつ、より効果的に操舵回避を運転者に促すことができる。なお、第1目標トルクT1と第2目標トルクT2の大小関係について特に制約はない。これらは同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0044】
操舵装置220がステアバイワイヤの操舵装置である場合、第3期間P3と第4期間P4におけるトルクの出力は省略されてもよい。つまり、第2期間P2の経過後にアクチュエータ226のトルクをゼロにした時点で、誘導制御が終了されてもよい。ステアバイワイヤの操舵装置において、操舵操作子にトルクを出力しても、そのトルクは操舵輪に伝達されないようにすることが可能だからである。
【0045】
以上説明した実施形態によれば、アクチュエータ226に、まず操舵方向と同じ方向の第1目標トルクT1に、第1期間P1で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、次いで第1期間P1よりも長い第2期間P2で、出力させる力をゼロに到達させることにより、より効果的に操舵回避を運転者に促すことができる。
【0046】
運転支援装置は、緊急停止処理部を有さず、専ら回避軌道生成と誘導制御のみ行うものであってもよい。また、運転支援装置は、自動運転制御装置の一部(専ら手動運転期間にのみ動作するもの)として構成されてもよい。
【0047】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
コンピュータによって読み込み可能な命令(computer-readable instructions)を格納する記憶媒体(storage medium)と、
前記記憶媒体に接続されたプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、前記コンピュータによって読み込み可能な命令を実行することにより(the processor executing the computer-readable instructions to:)
少なくとも移動体の進行方向側を検知範囲とする物体検知装置によって検知された物体との接触を操舵によって回避することを、前記移動体の運転者に促すことと、前記物体との接触を回避するための操舵方向とを決定し、
前記物体との接触を操舵によって回避するように前記移動体の運転者に促すことが決定された場合、操舵操作子に力を出力可能なアクチュエータに、
まず前記操舵方向と同じ方向の第1目標力に、第1期間で到達するように力を出力させてその状態を維持させ、
次いで第1期間よりも長い第2期間で、出力させる力をゼロに到達させる、
運転支援装置。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 物体検知装置
40 車両センサ
100 運転支援装置
110 認識部
120 交通参加者行動予測部
130 軌道予測部
140 決定部
150 緊急停止処理部
160 誘導制御部
200 ブレーキ装置
220 操舵装置
226 アクチュエータ