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特開2024-51516シリコーンゴムシートおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051516
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】シリコーンゴムシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/36 20060101AFI20240404BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240404BHJP
   B81B 1/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C08J9/36 CFH
C08J7/00 306
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157725
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】巽 聡司
【テーマコード(参考)】
3C081
4F073
4F074
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA23
3C081CA14
3C081CA40
3C081DA10
3C081EA27
3C081EA28
3C081EA29
4F073AA06
4F073AA10
4F073AA30
4F073BA33
4F073BB10
4F073CA01
4F073CA62
4F073CA65
4F073CA67
4F073GA05
4F073HA01
4F073HA04
4F073HA11
4F074AA95M
4F074BB01
4F074CB91
4F074CC03X
4F074CC04X
4F074CC06X
4F074CD11
4F074CD17
4F074CE98
4F074DA03
4F074DA13
4F074DA14
4F074DA23
4F074DA43
4F074DA53
(57)【要約】
【課題】 複数の微細な貫通孔を有し、タック性が低減されハンドリング性が良好なシリコーンゴムシートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコーンゴムシート1は、厚さが5μm以上100μm以下であり、厚さ方向に貫通する複数の微細な貫通孔10を有し、該厚さ方向の二面のうちの第一面20の表層部21および貫通孔10の表層部11にフッ素成分を有する。シリコーンゴムシート1の製造方法は、複数の凸部800を有する転写型80に、シリコーンゴム組成物Sを配置して加圧して硬化させた後、転写型80を取り外すことにより、第二面40側に複数の凹部41を有する凹部形成シート4を得る転写工程と、凹部形成シート4を支持材83の表面に配置して、第一面44をフッ素および酸素を含むガス雰囲気でドライエッチングすることにより、凹部41を厚さ方向に貫通させる貫通孔形成工程と、を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが5μm以上100μm以下であり、厚さ方向に貫通する複数の微細な貫通孔を有するシリコーンゴムシートであって、
該厚さ方向の二面のうちの第一面の表層部および該貫通孔の表層部にフッ素成分を有することを特徴とするシリコーンゴムシート。
【請求項2】
前記表層部は、前記第一面および前記貫通孔の表面から内部に向かう深さ1μm以内の領域である請求項1に記載のシリコーンゴムシート。
【請求項3】
厚さ方向の前記二面のうちの第二面の表層部にフッ素成分を有しない請求項1に記載のシリコーンゴムシート。
【請求項4】
前記貫通孔の開口部径は、5μm以上100μm以下である請求項1に記載のシリコーンゴムシート。
【請求項5】
複数の前記貫通孔は、面方向に規則的に配置されている請求項1に記載のシリコーンゴムシート。
【請求項6】
複数の前記貫通孔は、面方向に2.5μm以上100μm以下の間隔を空けて配置されている請求項1に記載のシリコーンゴムシート。
【請求項7】
請求項1に記載のシリコーンゴムシートの製造方法であって、
シリコーンゴムシートの貫通孔に対応する複数の凸部を有する転写型に、シリコーンゴム組成物を配置して加圧して硬化させた後、該転写型を取り外すことにより、厚さ方向の二面のうちの第二面側に、該凸部の転写により形成された複数の凹部を有する凹部形成シートを得る転写工程と、
該凹部形成シートを支持材の表面に、該第二面が該支持材と接するように配置して、該厚さ方向の二面のうちの第一面をフッ素および酸素を含むガス雰囲気でドライエッチングすることにより、該凹部を該厚さ方向に貫通させて貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
を有することを特徴とするシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項8】
前記ドライエッチングする際の前記支持材の温度は、10℃以上120℃以下である請求項7に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項9】
前記支持材は、導電性を有する請求項7に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項10】
前記ドライエッチングは、条件が異なる複数のステップにより実施される請求項7に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項11】
複数の前記ステップは、最初に実施される第一ステップと、該第一ステップよりもエッチング速度が小さい第二ステップと、を有する請求項10に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項12】
複数の前記ステップは、前記凹部が貫通する直前に実施され、前記厚さ方向に垂直な面方向のエッチング速度が該厚さ方向のエッチング速度よりも小さい最終ステップを有する請求項10に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項13】
前記貫通孔形成工程の後、前記第一面をヘリウムを主成分とするガスから発生させたプラズマに暴露して、該第一面および形成された前記貫通孔の表面に存在するフッ素成分を内部に叩き込むノックオン工程を有する請求項7に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項14】
前記転写工程において、前記転写型は、複数の前記凸部とは別に該凸部よりも体積が大きい基準凸部を有し、得られる前記凹部形成シートは、複数の前記凹部とは別に該基準凸部の転写により形成された基準凹部を有し、
前記貫通孔形成工程において、該基準凹部が貫通した時点を基準にして前記ドライエッチングを終了する請求項7に記載のシリコーンゴムシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の微細な貫通孔を有するシリコーンゴムシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なくぼみ(ウエル)や溝に試料を収容して、検査、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を行うマイクロ流体デバイスが知られている。マイクロ流体デバイスを構成する部材の材料としては、光透過性、耐薬品性などに優れるという観点から、シリコーンが多く用いられている。例えば、特許文献1には、細胞培養用の支持体として使用され、規則的に配列された複数の微細な貫通孔を有し、厚さが5μm以上200μm以下のシリコーンゴムシートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/256452号
【特許文献2】特許第2597396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、マイクロ流体デバイスに用いられるシリコーンゴムシートは薄い。加えて、シリコーンゴムシートは粘着性(タック性)を有し、帯電しやすいため、取り扱いが難しい。すなわち、シリコーンゴムシートはすべり性が悪く、平滑面に容易に貼り付いてしまう。そして、貼り付くと密着力が強いため、剥がしにくい。また、静電気によりシートが変形しやすく、シート同士がくっつきやすい。さらに、シリコーンゴムシートには、空気中の塵埃や、試料の細胞、タンパク質などが吸着しやすいという問題もある。
【0005】
また、シリコーンゴムシートに複数の微細な貫通孔を規則的に形成する場合、個々の貫通孔の形状および寸法には高い精度が要求される。薄いシートに微細な貫通孔を形成する方法としては、シートを形成した後、刃物によるパンチング、またはレーザー加工などが知られている。パンチングの場合、超微細な刃物構造が必要であり、シリコーンゴムのような伸縮性がある材料においては、シート面に対して垂直に貫通させることが難しく、孔径が安定しないなどの問題がある。レーザー加工の場合、レーザー照射による熱溶解により端面がきれいにならない他、孔の部分を削り取る際にデブリが発生し、シート表面に付着するなどの問題がある。
【0006】
この点、特許文献2には、半導体装置などにおけるシリコーンゴム膜のパターン形成方法として、次の(A)~(E)の工程が記載されている(第1図(A)~(E))。(A)シリコンウエハ(1:基体)にポリイミド膜(4)をスピンコートする。(B)ポリイミド膜(4)の一部をフォトリソグラフィにより除去してパターン化する。(C)シリコンウエハ(1)の全体にシリコーンゴム膜(5)をスピンコートする。(D)シリコーンゴム膜(5)をフッ化物系ガスでプラズマエッチングしてポリイミド膜(4a、4b)を露出させる。(E)ヒドラジン系エッチング液でポリイミド膜(4a、4b)のみを除去する。
【0007】
特許文献2に記載されているように、基体上にパターン形成されたマスク(ポリイミド膜)を利用して、シリコーンゴムシートをプラズマエッチングして貫通孔を形成することも可能であるが、時間を要する上、毎回マスクを形成する必要があり工程が煩雑である。また、エッチング時に基体が200℃近い高温になったり、マスクを除去する際に使用するエッチング液により表面が酸化されるため、シリコーンゴムに対するダメージが大きい。このように、従来の方法では、複数の微細な貫通孔が精度良く形成されたシリコーンゴムシートを実現することは極めて困難であり、ハンドリング性も改善されない。
【0008】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、複数の微細な貫通孔を有し、タック性が低減されハンドリング性が良好なシリコーンゴムシートを提供することを課題とする。また、複数の微細な貫通孔が精度良く形成され、タック性が低減されハンドリング性が良好なシリコーンゴムシートを実用的に製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本開示のシリコーンゴムシートは、厚さが5μm以上100μm以下であり、厚さ方向に貫通する複数の微細な貫通孔を有するシリコーンゴムシートであって、該厚さ方向の二面のうちの第一面の表層部および該貫通孔の表層部にフッ素成分を有することを特徴とする。
【0010】
本開示のシリコーンゴムシートにおいて、「表層部」は、第一面および貫通孔の表面から内部方向の比較的浅い部分を意味する。「表層部にフッ素成分を有する」とは、フッ素成分が、第一面および貫通孔のシリコーンゴム中に侵入していることを意味する。フッ素成分がシリコーンゴム中に侵入している形態としては、ポリマー鎖の間に存在したり、ポリマー鎖と結合している形態が考えられる。フッ素成分がシリコーンゴム中に侵入している形態は、表面にフッ素成分を有する皮膜が形成されているだけの形態と比較して、フッ素成分が落ちにくく、フッ素成分により奏される効果が持続する。フッ素成分は、全てシリコーンゴム中に侵入していてもよく、一部が侵入し、残部が表面に皮膜などの状態で存在していてもよい。
【0011】
本開示のシリコーンゴムシートにおいては、第一面の表層部および貫通孔の表層部にフッ素成分が存在する。これにより、第一面のタック性が低減され、すべり性が増し、他の部材に貼り付きにくくなる。また、シートの帯電が低減されるため、静電気による変形などが抑制され、ハンドリング性が向上する。さらには、空気中の塵埃、試料の細胞、タンパク質などの吸着も抑制され、シートに汚れが付きにくいという効果も発揮される。
【0012】
(2)上記構成において、前記表層部は、前記第一面および前記貫通孔の表面から内部に向かう深さ1μm以内の領域である構成としてもよい。本構成によると、フッ素成分によるタック性の低減、帯電の低減などの効果が発揮されやすい。
【0013】
(3)上記いずれかの構成において、厚さ方向の前記二面のうちの第二面の表層部にフッ素成分を有しない構成としてもよい。本構成によると、厚さ方向の二面のうちの一方(第二面)は、シリコーンゴム本来のタック性を有する。よって、第二面を他の部材に接触させることにより、他の部材との接着を容易に行うことができる。
【0014】
(4)上記いずれかの構成において、前記貫通孔の開口部径は、5μm以上100μm以下である構成としてもよい。本構成によると、微細な貫通孔を多数形成することができるため、細胞培養シート、細胞観察シート、細胞分離シート、血球分離フィルター、粒子分離・回収フィルターなどの用途に好適である。例えば、人の細胞の大きさは約5~30μm、赤血球は約7~9μm、白血球は6~30μmである。よって、本構成によると、所望の観察、分離、回収などを精度良く実施することができる。
【0015】
(5)上記いずれかの構成において、複数の前記貫通孔は、面方向に規則的に配置されている構成としてもよい。微細な貫通孔が規則的に配列されると、特に観察を伴う用途において定量化や画像による判定の自動化が容易になるため、例えば、細胞培養シート、細胞観察シート、粒子観察シートなどの用途に好適である。また分離用途、フィルター用途においても、不安定要素が少なくなり、特に生物学的処理や精密試験などで重要な要素である再現性の向上につながる。
【0016】
(6)上記いずれかの構成において、複数の前記貫通孔は、面方向に2.5μm以上100μm以下の間隔を空けて配置されている構成としてもよい。本構成によると、微細な貫通孔を多数形成することができるため、細胞培養シート、細胞観察シート、細胞分離シート、血球分離フィルター、粒子分離・回収フィルターなどの用途に好適である。
【0017】
(7)本開示のシリコーンゴムシートの製造方法の一形態である本開示のシリコーンゴムシートの製造方法は、シリコーンゴムシートの貫通孔に対応する複数の凸部を有する転写型に、シリコーンゴム組成物を配置して加圧して硬化させた後、該転写型を取り外すことにより、厚さ方向の二面のうちの第二面側に、該凸部の転写により形成された複数の凹部を有する凹部形成シートを得る転写工程と、該凹部形成シートを支持材の表面に、該第二面が該支持材と接するように配置して、該厚さ方向の二面のうちの第一面をフッ素および酸素を含むガス雰囲気でドライエッチングすることにより、該凹部を該厚さ方向に貫通させて貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本開示の製造方法において使用する転写型の型面は、複数の凸部とその間に形成される凹部とからなる凹凸形状を有する。供給されるシリコーンゴム組成物の一部は、型面の凹部に充填され、シリコーンゴム組成物が硬化すると、厚さ方向の二面のうちの第二面側に型面の凹凸形状が転写された凹部形成シートになる。凹部形成シートに形成された凹部は、後の貫通孔形成工程において、第一面側が削られることにより貫通孔になる。本開示の製造方法においては、転写型を使用してシリコーンゴム組成物の硬化物である凹部形成シートを得る。転写型は、フォトリソグラフィにより形成され最終的に除去されるマスクとは異なり、繰り返し使用することができる。また、転写工程は、プレス成形などを利用して実施することができる。したがって、本開示の製造方法によると、製造工程を単純化し、製造時間を短縮することができ、ひいては製造コストを削減することができる。
【0019】
貫通孔形成工程においては、凹部形成シートの第一面をドライエッチングすることにより、第一面側が削られ、第二面側に形成された凹部が貫通する。第一面を削る手法として、エッチング液による処理ではなくドライエッチングを採用するため、表面が過度に酸化するおそれは少ない。また、ドライエッチングによると、転写型により形成された凹部形状を維持したまま、寸法精度良く貫通孔を形成することができる。ドライエッチングは、フッ素および酸素を含むガス雰囲気で行う。これにより、当該ガス雰囲気に晒される第一面および貫通孔などにフッ素成分が供給され、各々の表層部にフッ素成分を存在させることができる。
【0020】
(8)上記(7)の構成において、前記ドライエッチングする際の前記支持材の温度は、10℃以上120℃以下である構成としてもよい。本構成によると、支持材の温度を比較的低温に維持して、凹部形成シートの過度の温度上昇を抑制することができるため、シリコーンゴムシートにおける熱ダメージを抑制することができる。
【0021】
(9)上記(7)または(8)の構成において、前記支持材は、導電性を有する構成としてもよい。本構成によると、凹部が貫通した際に生じるおそれがある、支持材とプラズマとの間の異常放電を抑制することができる。
【0022】
(10)上記(7)から(9)のいずれかの構成において、前記ドライエッチングは、条件が異なる複数のステップにより実施される構成としてもよい。本構成によると、エッチングの進行状態に応じて、プラズマエネルギー、凹部形成シートの温度、使用するガスの組成比および圧力などの条件を変更することにより、全体のエッチング速度や、厚さ方向のエッチング速度、面方向のエッチング速度などを調整することができる。結果、所望の形状および寸法を有する貫通孔を効率良く形成することができる。
【0023】
(11)上記(10)の構成において、複数の前記ステップは、最初に実施される第一ステップと、該第一ステップよりもエッチング速度が小さい第二ステップと、を有する構成としてもよい。本構成によると、ドライエッチング開始直後には比較的エッチング速度を大きくし、途中でエッチング速度を小さくすることにより、生産性を高めつつ、光透過性を高めたり、貫通孔の形状精度および寸法精度を高めることができる。
【0024】
(12)上記(10)または(11)の構成において、複数の前記ステップは、前記凹部が貫通する直前に実施され、前記厚さ方向に垂直な面方向のエッチング速度が該厚さ方向のエッチング速度よりも小さい最終ステップを有する構成としてもよい。本構成においては、凹部貫通直前に面方向のエッチング速度を小さくする。これにより、凹部貫通時の異常放電を抑制し、凹部貫通時における面方向へのエッチングを抑制して、孔径が必要以上に大きくなるのを抑制することができる。
【0025】
(13)上記(7)から(12)のいずれかの構成において、前記貫通孔形成工程の後、前記第一面をヘリウムを主成分とするガスから発生させたプラズマに暴露して、該第一面および形成された前記貫通孔の表面に存在するフッ素成分を内部に叩き込むノックオン工程を有する構成としてもよい。ヘリウムは、反応性が低い貴ガスのなかでも分子量が小さくエッチングに寄与するエネルギーが小さい。このため、ヘリウムを主成分とするプラズマにシリコーンゴムシートを暴露すると、シリコーンゴムシートを削ることなく、ヘリウムイオンなどがシリコーンゴムシートの内部に侵入する。この際、表面に存在するフッ素成分は、ヘリウムイオンなどと共に内部に押し込まれる。このようにしてヘリウムイオンを第一面および貫通孔の表面に当てることにより、フッ素成分が内部に侵入しやすくなる。
【0026】
(14)上記(7)から(13)のいずれかの構成において、前記転写工程において、前記転写型は、複数の前記凸部とは別に該凸部よりも体積が大きい基準凸部を有し、得られる前記凹部形成シートは、複数の前記凹部とは別に該基準凸部の転写により形成された基準凹部を有し、前記貫通孔形成工程において、該基準凹部が貫通した時点を基準にして前記ドライエッチングを終了する構成としてもよい。ドライエッチングは、時間により制御してもよいし、プラズマの発光強度、チャンバーからの排気ガス成分、支持材に流れる電流量などを測定し、その変化に基づいて制御してもよい。本構成においては、凹部形成シートに、貫通孔を形成する凹部とは別に基準凹部が形成される。基準凹部は、凹部よりも体積が大きい。すなわち、基準凹部は、凹部よりも深く形成されていたり、径が大きく形成されていたりするため、凹部よりも先に貫通する。よって、基準凹部が貫通した時点を基準にして、ドライエッチングの終了時を容易に決定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示のシリコーンゴムシートは、複数の微細な貫通孔を有し、タック性が低減されハンドリング性が良好である。本開示のシリコーンゴムシートの製造方法によると、複数の微細な貫通孔を精度良く形成することができ、タック性が低減されハンドリング性が良好なシリコーンゴムシートを実用的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本開示のシリコーンゴムシートの一実施形態を示す一部平面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図2の円IIIの拡大図である。
図4】本開示のシリコーンゴムシートの製造方法における転写工程を説明するための断面模式図である。
図5】同転写工程により得られた凹部形成シートの断面図である。
図6】本開示のシリコーンゴムシートの製造方法における貫通孔形成工程を説明するための断面模式図である。
図7】本開示のシリコーンゴムシートの製造方法におけるノックオン工程を説明するための断面模式図である。
図8】基準凹部を形成する一実施形態の貫通孔形成工程を説明するための断面模式図である。
図9】台座温度60℃における垂直方向のエッチング速度の測定結果を示すグラフである。
図10】台座温度60℃における水平方向のエッチング速度の測定結果を示すグラフである。
図11】台座温度20℃における垂直方向のエッチング速度の測定結果を示すグラフである。
図12】台座温度20℃における水平方向のエッチング速度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示のシリコーンゴムシートおよびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0030】
<シリコーンゴムシート>
まず、図面を用いて、本開示のシリコーンゴムシートの一実施形態を説明する。図1に、本実施形態のシリコーンゴムシートの一部平面図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。図3に、図2の円IIIの拡大図を示す。本実施形態において、シリコーンゴムシートの厚さ方向は上下方向に対応し、面方向は前後左右方向に対応する。
【0031】
図1図2に示すように、シリコーンゴムシート1は、矩形薄膜状を呈しており、その厚さTは50μmである。シリコーンゴムシート1の上面20は、厚さ方向の二面のうちの第一面に対応し、下面30は第二面に対応する。シリコーンゴムシート1には、厚さ方向に貫通する微細な貫通孔10が多数形成されている。形成されている貫通孔10の形状、大きさは、全て同じである。貫通孔10の開口部の形状は、上面20と下面30とにおいて同じ円形状であり、その直径Dは30μmである。貫通孔10は、軸線が面方向に対して垂直な円筒状を呈している。貫通孔10のピッチP(開口部の中心間距離)は、60μmである。すなわち、貫通孔10は、各々、30μmの間隔を空けて、面方向に規則的に配置されている。図3に拡大して示すように、シリコーンゴムシート1は、上面20の表層部21および貫通孔10の表層部11に、フッ素成分を有している。他方、シリコーンゴムシート1の下面30の表層部には、フッ素成分は存在していない。
【0032】
次に、本開示のシリコーンゴムシートの好適な形態を説明する。本開示のシリコーンゴムシートは、シリコーンゴムを有するシリコーンゴム組成物から製造される。「シリコーンゴム」は、ポリマー成分(ベースポリマー)に加えて、それを架橋するための架橋剤、触媒などを含む概念である。シリコーンゴムのベースポリマーとしては、オルガノポリシロキサンとして広く知られているものを使用すればよい。シリコーンゴムは、液状ゴムでも固形(ミラブル)ゴムでもよい。凹凸などの微細構造を寸法精度よく形成できるという点において、液状ゴムが望ましい。シリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムのみから構成されてもよく、親水性などの所望の特性を付与するために、シリコーンオイル、イオン導電剤、界面活性剤、シランカップリング剤などの他の成分が配合されてもよい。
【0033】
本開示のシリコーンゴムシートは、用途に応じて硬さ、透明性(光透過性)などを調整すればよい。例えば、光透過性を高めるという観点から、シート部分の可視光線透過率は80%以上であることが望ましい。85%以上であるとより好適である。本明細書においては、可視光線透過率として、JIS A5759:2016に準じ、(株)島津製作所製の分光光度計「UV3100PC」により波長380~780nmの透過スペクトルを測定して計算された値を採用する。
【0034】
本開示のシリコーンゴムシートの厚さは、5μm以上100μm以下の範囲において、用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、15μm以上、30μm以上、50μm以上にすると、成形しやすいという利点がある。シリコーンゴムシートの厚さ以外の大きさ、形状などは、用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、シリコーンゴムシートを、容器、チューブなどの立体的形状にして用いてもよい。
【0035】
シリコーンゴムシートに形成される貫通孔の形状、大きさ、数、配置形態などは、特に限定されない。例えば、開口部の形状は、円形、楕円形、多角形などが挙げられる。厚さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状が挙げられる。貫通孔の孔径は厚さ方向において一定であることが望ましく、軸線は面方向に対して垂直であることが望ましい。貫通孔は、面方向に規則的に配置されることが望ましい。但し、貫通孔の全てが同じ形状、大きさである必要はない。
【0036】
微細な貫通孔を多数形成するという観点から、貫通孔の開口部径は、5μm以上100μm以下であるとよい。15μm以上、30μm以上、あるいは75μm以下にすると、より好適である。本明細書において、開口部径は、開口部の最大長さを意味する。また、分析、分離、回収、フィルタリングなどに用いるため、独立した貫通孔であり、エッチングバラツキによる貫通孔同士の連結を防止する、破れや変形を防止するという観点から、貫通孔は、面方向に2.5μm以上100μm以下の間隔を空けて配置されることが望ましい。隣り合う貫通孔の間隔は、15μm以上、30μm以上、あるいは75μm以下にすると、より好適である。
【0037】
本開示のシリコーンゴムシートにおいては、厚さ方向の二面のうちの第一面の表層部および貫通孔の表層部にフッ素成分が存在する。フッ素成分は、フッ素原子を含む成分であり、F、CF、CF、SiFなどが挙げられる。表層部は、第一面および貫通孔の表面から内部方向の比較的浅い部分を意味する。例えば、表面から内部方向の数nmの領域、数十nmの領域、または数μmの領域などで特定することができる。例えば、表層部が表面から深さ1μm以内の領域である場合には、フッ素成分が落ちにくく、タック性の低減、帯電の低減などの効果が持続しやすい。フッ素成分は、表層部に加えて、表面に皮膜などの状態で存在していてもよい。
【0038】
第一面および貫通孔以外の部分については、表面および表層部におけるフッ素成分の有無は問わない。例えば、第一面と反対側の第二面を、表層部にフッ素成分を有しない形態にすることができる。フッ素成分を存在させずにシリコーンゴム本来のタック性を維持することにより、第二面と他の部材とが接着しやすくなる。また、本開示のシリコーンゴムシートには、必要に応じて、一部または全部の表面に、親水性を付与する処理が施されてもよい。
【0039】
<シリコーンゴムシートの製造方法>
まず、図面を用いて、上記実施形態のシリコーンゴムシート1の製造方法を説明する。シリコーンゴムシート1の製造方法は、転写工程と、貫通孔形成工程と、ノックオン工程と、を有する。図4に、転写工程を説明するための断面模式図を示す。図5に、転写工程により得られた凹部形成シートの断面図を示す。図6に、貫通孔形成工程を説明するための断面模式図を示す。図7に、ノックオン工程を説明するための断面模式図を示す。前述したとおり、本実施形態において、シリコーンゴムシート1の厚さ方向は上下方向に対応する。
【0040】
図4に示すように、転写工程においては、まず、転写型80を下型81に設置して、その上にシリコーンゴム組成物Sを流し込む。転写型80は樹脂製であり、その上面には、製造するシリコーンゴムシート1の貫通孔10に対応する多数の凸部800が形成されている。凸部800は、直径30μm、高さ50μmの円柱状を呈している。凸部800のピッチ(円柱の中心間距離)は60μmであり、凸部800は、各々、30μmの間隔を空けて、面方向に規則的に配置されている。次に、上方から上型82を被せ、130℃下で150秒間プレス成形することにより、シリコーンゴム組成物Sを硬化させる。その後、離型して、図5に示すように、下面40側に多数の凹部41を有する凹部形成シート4を得る。凹部41は、凸部800の形状が転写された有底円筒状を呈している。凹部形成シート4は、厚さ方向の下側に配置され多数の凹部41を有する凹部転写層42と、上側に配置される平板層43と、からなる。凹部形成シート4の厚さは70μmであり、そのうち、凹部転写層42の厚さは50μm、平板層43の厚さは20μmである。
【0041】
図6に示すように、貫通孔形成工程においては、まず、マイクロ波プラズマ装置の台座83に、凹部形成シート4を凹部転写層42側が下になるように配置する。台座83は銅製である。台座83の温度は、本工程および次のノックオン工程中、10℃以上120℃以下に制御される。次に、フッ化炭素(CF)ガスおよび酸素(O)ガス雰囲気で、凹部形成シート4の上方にマイクロ波プラズマP1を発生させて、ドライエッチングする。これにより、平板層43(図6中の厚さT分)が削られ、凹部41が厚さ方向に貫通して、貫通孔410になる。本工程において、台座83は、本開示における支持材の概念に含まれる。
【0042】
図7に示すように、ノックオン工程においては、貫通孔410が形成された凹部形成シート4の上方に、ヘリウム(He)ガス雰囲気でマイクロ波プラズマP2を発生させる。こうすることにより、凹部形成シート4の上面44および形成された貫通孔410の表面に存在するフッ素成分が内部に叩き込まれる。このようにして、多数の貫通孔10を有するシリコーンゴムシート1(前出図2参照)が製造される。
【0043】
次に、本開示のシリコーンゴムシートの製造方法の好適な形態を説明する。
[転写工程]
本工程は、シリコーンゴムシートの貫通孔に対応する複数の凸部を有する転写型に、シリコーンゴム組成物を配置して加圧して硬化させた後、該転写型を取り外すことにより、厚さ方向の二面のうちの第二面側に、該凸部の転写により形成された複数の凹部を有する凹部形成シートを得る工程である。
【0044】
転写型には、シリコーンゴムシートに形成する貫通孔と同じ大きさ、形状の凸部が、同じ数、ピッチで配置されていればよく、それ以外の形状、材質などは特に限定されない。転写型は、例えば、フォトレジスト、光造形樹脂、切削樹脂、金属メッキ、金属電鋳などにより作製すればよい。シリコーンゴム組成物は、シリコーンゴム(ベースポリマー、それを架橋するための架橋剤、触媒などを含む)単独でもよく、それにシリコーンオイル、イオン導電剤、界面活性剤、シランカップリング剤などの他の成分を加えて調製されてもよい。
【0045】
シリコーンゴム組成物は、転写型の凸部が配置されている型面に配置される。シリコーンゴム組成物が流動性を有する場合には、型面に塗布したり流し込めばよく、シート状に予備成形されているなどして流動性を有しない場合には、当該シート状のシリコーンゴム組成物を、型面に配置すればよい。シリコーンゴム組成物を加圧して硬化させるには、押圧型などを用いてプレス成形すればよい。プレス成形の温度は、シリコーンゴムの硬化温度、生産性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、100℃以上130℃以下の温度で行うことが望ましい。成形時間は、成形温度に応じて硬化反応が十分に進行する時間にすればよい。
【0046】
シリコーンゴム組成物が硬化すると、第二面側に型面の凹凸形状が転写された凹部形成シートになる。凹部形成シートは、厚さ方向に、凹部を有する凹部転写層と、凹部を有しないシート状の平板層と、が積層された構成を有する。平板層は、押圧型と凸部との隙間(キャビティ)に配置されたシリコーンゴム組成物の硬化物である。平板層の厚さは特に限定されないが、平板層が薄いほど、後の貫通孔形成工程において削る部分が少なくて済む。しかしながら、平板層が薄くなるほど、押圧型と凸部との隙間が狭くなるため、液状のシリコーンゴム組成物が流れにくくなり成形性が低下する。これらを考慮すると、平板層の厚さは、5μm以上40μm以下であるとよい。
【0047】
[貫通孔形成工程]
本工程は、先の工程で得られた凹部形成シートを支持材の表面に、該第二面が該支持材と接するように配置して、該厚さ方向の二面のうちの第一面をフッ素および酸素を含むガス雰囲気でドライエッチングすることにより、該凹部を該厚さ方向に貫通させて貫通孔を形成する工程である。
【0048】
支持材は、凹部形成シートを配置することができればよく、板状の部材でも、ドライエッチングを行う装置の一部でも構わない。ドライエッチング中における凹部形成シートの過度の温度上昇を抑制するという観点から、支持材の温度を10℃以上120℃以下にするとよい。支持材は、温度制御の観点から、熱伝導率が比較的大きいことが望ましい。また、ドライエッチングにより凹部が貫通した際に生じるおそれがある、支持材とプラズマとの間の異常放電を抑制するという観点から、支持材は、導電性を有することが望ましい。支持材の材質は、例えば、シリコン、金属、金属酸化物などから選択すればよい。
【0049】
フッ素および酸素を含むガス雰囲気は、フッ素化合物のガスおよび酸素ガスを用いて形成すればよい。当該ガス雰囲気は、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの貴ガスや窒素ガスなどのキャリアガスが混合されていてもよい。フッ素化合物のガスと酸素ガスとの組成比は、エッチング速度などを考慮して適宜決定すればよい。フッ素化合物のガスとしては、C(x、yは任意の整数)ガス、HFガス、NFガスなどが挙げられる。Cは、水素原子(H)またはフッ素以外のハロゲン原子を含んでいてもよく、例えば、CHF、CH、CHF、CF、C、Cなどが挙げられる。ドライエッチングする際のガスの圧力は、0.1~100Pa程度にすればよい。
【0050】
ドライエッチングは、比較的短時間の処理で効果が得られ、シリコーンゴムシートに熱ダメージを与えにくいという理由から、プラズマ処理が好適である。プラズマ処理は、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを照射すればよい。フッ素および酸素を含むガスから発生させたプラズマを凹部形成シートの第一面に照射することにより、凹部形成シートの平板層が削られて凹部が貫通する。同時に、第一面および貫通孔に対してフッ素成分が付与される。他方、凹部形成シートの第二面は、支持材に接しているためプラズマに暴露されない。このため、第二面側にはフッ素成分は付与されない。
【0051】
エッチング速度は、プラズマエネルギー、凹部形成シートの温度、使用するガスの組成比および圧力などの条件により変化する。生産性を考慮すると、エッチング速度は大きい方が望ましい。但し、エッチング速度を大きくすると、凹部形成シートの表面が荒れやすくなるため、得られるシリコーンゴムシートが白濁しやすい。よって、用途により、シリコーンゴムシートに高い光透過性が必要な場合には、生産性を考慮しつつ、所望のエッチング速度になるよう、種々の条件を決定することが望ましい。
【0052】
例えば、ドライエッチングを、条件が異なる複数のステップにより実施してもよい。エッチングの進行状態に応じて、プラズマエネルギー、凹部形成シートの温度、使用するガスの組成比および圧力などの条件を変更することにより、全体のエッチング速度や、厚さ方向のエッチング速度、面方向のエッチング速度を各々調整することができる。例えば、ドライエッチングを、最初に実施される第一ステップと、該第一ステップよりもエッチング速度が小さい第二ステップと、を有するように構成することができる。ドライエッチング開始直後には比較的エッチング速度を大きくし、途中でエッチング速度を小さくすることにより、生産性を高めつつ、光透過性を高めたり、貫通孔の形状精度および寸法精度を高めることができる。また、凹部が貫通する直前に実施され、面方向のエッチング速度が厚さ方向のエッチング速度よりも小さい最終ステップを有するよう構成してもよい。凹部貫通直前に面方向のエッチング速度を小さくすることにより、凹部貫通時の異常放電を抑制し、凹部貫通時における面方向へのエッチングを抑制して、孔径が必要以上に大きくなるのを抑制することができる。
【0053】
ドライエッチングは、時間により制御してもよいし、プラズマの発光強度、チャンバーからの排気ガス成分、支持材に流れる電流量などを測定し、その変化に基づいて制御してもよい。また、凹部形成シートの第二面側から、レーザーなどにより凹部の深さをセンシングして制御してもよい。さらに、凹部形成シートに、貫通孔に対応する凹部よりも先に貫通する基準凹部を形成し、当該基準凹部の貫通の有無を基準にして制御してもよい。
【0054】
基準凹部を形成する一実施形態として、本開示のシリコーンゴムシートの製造方法を、転写工程において、前記転写型は、複数の前記凸部とは別に該凸部よりも体積が大きい基準凸部を有し、得られる前記凹部形成シートは、複数の前記凹部とは別に該基準凸部の転写により形成された基準凹部を有し、前記貫通孔形成工程において、該基準凹部が貫通した時点を基準にして前記ドライエッチングを終了するように、構成することができる。図8に、基準凹部を形成する一実施形態における貫通孔形成工程の断面模式図を示す。図8は、前出図6に対応する。図8中、図6と対応する部材については同じ符号で示す。
【0055】
図8に示すように、貫通孔形成工程においては、マイクロ波プラズマ装置の台座83に、凹部形成シート5を配置する。凹部形成シート5は、下面50側に多数の凹部51と、一つの基準凹部52と、を有している。基準凹部52は、図示しない転写型の基準凸部の転写により形成されている。基準凹部52は、凹部51と同じ大きさの円形状の開口部を有し、軸線が面方向に対して垂直な有底円筒状を呈している。基準凹部52の深さは、凹部51の深さよりも大きい。このため、基準凹部52と上面53との間の厚さは、凹部51と上面53との間の厚さよりも小さい。凹部形成シート5の上方にマイクロ波プラズマP1を発生させてドライエッチングすると、基準凹部52は、凹部51よりも先に貫通する。よって、基準凹部52が貫通した時点を基準にして、ドライエッチングの終了時を決定すればよい。例えば、ドライエッチングを、基準凹部52の貫通とほぼ同時に終了させてもよく、貫通してから所定時間経過後に終了させてもよい。
【0056】
[ノックオン工程]
本開示のシリコーンゴムシートの製造方法は、前述した転写工程、貫通孔形成工程を有すればよいが、フッ素成分のシリコーンゴム中への侵入を促進するために、貫通孔形成工程の後、さらにノックオン工程を有してもよい。ノックオン工程においては、貫通孔形成工程の後、シリコーンゴムシートの第一面をヘリウムを主成分とするガスから発生させたプラズマに暴露して、該第一面および形成された貫通孔の表面に存在するフッ素成分を内部に叩き込む。
【0057】
ヘリウムは、反応性が低い貴ガスのなかでも分子量が小さくエッチングに寄与するエネルギーが小さい。このため、ヘリウムを主成分とするプラズマにシリコーンゴムシートを暴露すると、シリコーンゴムシートを削ることなく、ヘリウムイオンなどがシリコーンゴムシートの内部に侵入する。この際、表面に存在するフッ素成分は、ヘリウムイオンなどと共に内部に押し込まれる。本工程においては、ヘリウムイオンを第一面および貫通孔の表面に当てることにより、フッ素成分がシリコーンゴムの内部に侵入しやすくなる。プラズマを発生させるガスは、ヘリウムが主成分であれば、他の貴ガスや窒素ガスなどのキャリアガスが混合されていてもよく、ガス中のヘリウムの比率は、65体積%以上であればよい。ガスの圧力は、0.1~30Pa程度にすればよい。暴露時間は、5~60秒程度にすればよい。ちなみに、ネオン、アルゴンなどの他の貴ガスが主成分になると、表面のフッ素成分およびシリコーンゴムシートがエッチングされて形状が変化するだけでなく、分子量が大きいため、フッ素成分の押し込み現象が発生しにくくなる。このため、本工程においては、ヘリウムを主成分とするプラズマへの暴露が好適である。
【0058】
[その他の工程]
本開示のシリコーンゴムシートの製造方法は、前述した三つの工程以外の工程を排除するものではない。例えば、シリコーンゴムシートの表面に親水性を付与する処理を施す親水化処理工程を有してもよい。親水化処理としては、コーティング剤を用いた成膜処理、高エネルギーを照射することによる改質処理などが挙げられる。成膜処理としては、スプレーコーティング、ディップ処理、転写法、プラズマCVD法などが挙げられる。改質処理としては、プラズマの照射、エキシマ光などの紫外線(UV)照射、コロナ放電、電子線照射、γ線照射などが挙げられる。
【実施例0059】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0060】
<予備実験>
シリコーンゴムシートをマイクロ波プラズマ処理した際のエッチング速度を、ガスの組成比と支持材温度とを変更して調べた。マイクロ波プラズマ処理は、上記実施形態の製造方法における貫通孔形成工程(前出図6参照)と同様に、シリコーンゴムシートのサンプルを銅製の台座の上に載置して行った。エッチング速度は、垂直方向(シートの厚さ方向)と水平方向(シートの面方向)との二方向において測定した。表1に、マイクロ波プラズマ処理の条件およびエッチング速度の測定結果をまとめて示す。また、図9に、台座温度60℃における垂直方向のエッチング速度の測定結果をグラフで示す。図10に、台座温度60℃における水平方向のエッチング速度の測定結果をグラフで示す。図11に、台座温度20℃における垂直方向のエッチング速度の測定結果をグラフで示す。図12に、台座温度20℃における水平方向のエッチング速度の測定結果をグラフで示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1および図9図12に示すように、ガスの組成比を変えると、垂直方向、水平方向共に、エッチング速度が変化することが確認された。また、台座(支持材)の温度を変えるとエッチング速度が変化し、20℃よりも60℃の方がエッチング速度が大きくなることが確認された。なお、CFまたはOを含まないガス雰囲気で処理した場合には、エッチングは進行しなかった。さらに、ガスの組成比により、エッチング後のシリコーンゴムシートの透明性が異なることが確認された。透明性を目視で確認したところ、台座温度が60℃の場合には、ガス組成をCF/O=200/100sccmにして処理したサンプルが最も透明性が高かった。台座温度が20℃の場合には、ガス組成をCF/O=200/100sccm、またはCF/O=100/200sccmにして処理したサンプルが最も透明性が高かった。
【0063】
<ハンドリング性評価>
[サンプルの製造]
(1)実施例1
上記実施形態のシリコーンゴムシート(前出図1図3参照)と同じ構成のサンプルを、上記実施形態の製造方法と同じ方法(前出図4図7参照)で製造した。まず、シリコーンゴム組成物として、液状シリコーンゴム(信越化学工業(株)製「KE-2061-50A/B」を準備した。液状シリコーンゴムには、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、架橋剤、遅延剤および触媒が含まれている。この液状シリコーンゴムを、多数の円柱状の凸部を有する転写型の上面に流し込み、130℃下で150秒間プレス成形した。その後、離型して、下面側に多数の凹部を有する凹部形成シートを得た。得られた凹部形成シートは矩形薄膜状を呈し、その大きさは縦50mm、横50mm、厚さ70μmである。
【0064】
次に、マイクロ波プラズマ装置の銅製の台座に、凹部形成シートを下面側が下になるようにして配置した。そして、条件を変えた次の二つのステップにて、マイクロ波プラズマによるドライエッチングを行った。
(i)第一ステップ
マイクロ波出力1500W、圧力30Pa、台座温度60℃、ガス組成:CF/O=200/100sccm、処理時間280秒間。
(ii)第二ステップ
マイクロ波出力1500W、圧力30Pa、台座温度20℃、ガス組成:CF/O=200/100sccm、処理時間63秒間。
【0065】
ドライエッチングにより全ての凹部が貫通した。その後、装置内のガスを入れ替え、Heガス雰囲気にてマイクロ波プラズマを発生させて、ノックオン工程を行った。ノックオン工程の条件は、マイクロ波出力1000W、バイアスRF出力50W、圧力5Pa、台座温度20℃、He200sccm、処理時間30秒間とした。このようにして、多数の貫通孔を有するシリコーンゴムシートのサンプルを製造した。製造したサンプルを実施例1とした。
【0066】
(2)比較例1
ガス組成を、CF/O=0/300sccmに変更して、実施例1と同じ二つのステップにてドライエッチングを行った。使用した凹部形成シート、ガス組成以外のエッチング条件は、全て実施例1と同じである。しかしながら、凹部形成シートはエッチングされず、凹部は貫通しなかった。このため、ノックオン工程は実施しなかった。このようにして製造された、貫通孔を有しないシリコーンゴムシートのサンプルを比較例1とした。
【0067】
(3)比較例2
ガス組成を、CF/O=300/0sccmに変更して、実施例1と同じ二つのステップにてドライエッチングを行った。使用した凹部形成シート、ガス組成以外のエッチング条件は、全て実施例1と同じである。しかしながら、凹部形成シートはエッチングされず、凹部は貫通しなかった。このため、ノックオン工程は実施しなかった。このようにして製造された、貫通孔を有しないシリコーンゴムシートのサンプルを比較例2とした。
【0068】
[評価方法]
実施例1および比較例1、2のシリコーンゴムシートを、エッチング面(プラズマ照射面)を下側にしてガラス板上に載置して、1分間放置した後、ピンセットで剥がした。その際、剥がしやすければハンドリング性良好(後出の表2中、〇印で示す)と評価し、剥がしにくければハンドリング性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0069】
[評価結果]
表2に、ハンドリング性の評価結果を示す。
【表2】
【0070】
表2に示すように、実施例1のシリコーンゴムシートにおいては、エッチング面のタック性が低減されており、すべり性が高くハンドリング性は良好であった。これに対して、比較例1のシリコーンゴムシートにおいては、貫通孔が形成できなかっただけでなく、タック性が維持されているため、ガラス板から剥がすことが難しくハンドリング性は不良であった。また、比較例2のシリコーンゴムシートにおいては、貫通孔は形成できなかったが、CFガスを用いてドライエッチングを行ったため、タック性は低減された。しかしながら、フッ素成分が表面に付着しているに過ぎないため、数回のハンドリング試行にてタック性が一部回復し、部分的な付着が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示の製造方法により得られるシリコーンゴムシートは、マイクロ流体デバイスなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1:シリコーンゴムシート、10:貫通孔、11:表層部、20:上面(第一面)、21:表層部、30:下面(第二面)、4:凹部形成シート、40:下面(第二面)、41:凹部、42:凹部転写層、43:平板層、44:上面(第一面)、410:貫通孔、5:凹部形成シート、50:下面(第二面)、51:凹部、52:基準凹部、53:上面(第一面)、80:転写型、81:下型、82:上型、83:台座(支持材)、800:凸部、P1、P2:マイクロ波プラズマ、S:シリコーンゴム組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12