(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051519
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】低膨張鋳型用鋳物砂
(51)【国際特許分類】
B22C 1/00 20060101AFI20240404BHJP
B22C 1/20 20060101ALI20240404BHJP
B22C 5/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B22C1/00 K
B22C1/00 B
B22C1/20
B22C5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157732
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】林田 修雄
【テーマコード(参考)】
4E092
4E093
【Fターム(参考)】
4E092AA04
4E092AA45
4E092AA50
4E092BA08
4E092CA03
4E093AA01
(57)【要約】
【課題】鋳型の低膨張化を実現して、鋳造時における寸法変形が効果的に抑制され得る鋳型を与える鋳物砂を有利に提供する。
【解決手段】SiO2 質の耐火性骨材を主体とする鋳物砂において、形状係数が1.40以上とし、且つ砂表面に存在するオーリチックス量が、鋳物砂全体の10質量%以上となるように構成して、低膨張鋳型用鋳物砂とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2 質の耐火性骨材を主体とする鋳物砂であって、形状係数が1.40以上であり、且つ砂表面に存在するオーリチックス量が、鋳物砂全体の10質量%以上であることを特徴とする低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項2】
前記耐火性骨材が、天然骨材であることを特徴とする請求項1に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項3】
前記耐火性骨材が、硅砂を主体とするものであることを特徴とする請求項1に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項4】
前記耐火性骨材が、SiO2 を75~90質量%の割合で含有していることを特徴とする請求項1に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項5】
前記耐火性骨材が、鋳造工程において回収される回収砂から再生されたものであることを特徴とする請求項1に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項6】
前記回収砂を再生して得られた再生砂が、1~10質量%のMgO及び5~20質量%のAl2O3を含有していることを特徴とする請求項5に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項7】
磁着分の含有量が、4.0質量%以上であることを特徴とする請求項5に記載の低膨張鋳型用鋳物砂。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の低膨張鋳型用鋳物砂を粘結剤にて被覆してなることを特徴とする低膨張鋳型用コーテッドサンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低膨張鋳型用の鋳物砂に係り、特に、鋳型の熱膨張を効果的に抑えることの出来る鋳物砂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳造用鋳型の造型に用いられる鋳物砂を構成する耐火性骨材として、シリカ(SiO2 )を主成分とする珪砂を始め、各種の天然骨材や、合成ムライト等の人工砂がよく知られており、それらの中でも、珪砂が常用されてきているのであるが、そのような珪砂の如きSiO2 質の耐火性骨材は、一般的に、そのSiO2 含有量によって異なるものの、注湯される金属溶湯による高温の鋳造温度に晒されると、大きな熱膨張を生じる性質を有している。このため、そのような耐火性骨材からなる鋳物砂を用いて造型された鋳型は、熱膨張が大きくなり、それに伴う鋳造欠陥(例えば、型割れ、ベーニング、スクワレ、焼着等)が発生し易いという問題を内在している。
【0003】
そこで、そのような鋳型の熱膨張の問題を解消すべく、各種の提案が為されており、例えば、特開平11-188454号公報においては、ニッケル鉱滓の溶融スラグから得られる2MgO・SiO2 を主成分とし、耐火温度が約1450℃であり、粒径係数が1.2以下である球状砂からなる耐火性骨材が明らかにされ、また特開2003-251434号公報においては、アルミナ40~90重量%、シリカ60~10重量%の合成ムライトを主とする球状物からなり、所定の粒度分布と単位体積当たりの表面積を有する鋳型用砂が提案されている。更に、特開2006-7319号公報においては、非晶化度が50~100%であり、Al2O3及びSiO2 を主成分として含有する、球形度が0.95以上である、火炎溶融法によって製造される、球形の鋳物砂が、明らかにされている。
【0004】
しかしながら、それら従来から提案されている低膨張性乃至は低熱膨張性の鋳型用砂乃至は鋳物砂は、何れも、真球に近い粒径係数(形状係数)乃至は球形度を有する球状粒子が対象とされているために、その製造に手間がかかり、耐火性骨材が高価となる問題を内在しているのである。しかも、それら提案されている鋳型用砂や鋳物砂における特性は、人工砂によって実現され得るものであり、例えば、粒径係数や球形度にて規定される球状粒子を、天然骨材から得ることは、極めて困難なことであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-188454号公報
【特許文献2】特開2003-251434号公報
【特許文献3】特開2006-7319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、低膨張鋳型用鋳物砂を有利に提供することにあり、また他の課題とするところは、鋳造時における寸法変形が効果的に抑制され得る鋳型を与える鋳物砂を有利に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合せにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて理解されるものであることが、考慮されるべきである。
【0008】
先ず、上記した課題を解決するための本発明の第一の態様は、SiO2 質の耐火性骨材を主体とする鋳物砂であって、形状係数が1.40以上であり、且つ砂表面に存在するオーリチックス量が、鋳物砂全体の10質量%以上であることを特徴とする低膨張鋳型用鋳物砂にある。
【0009】
また、本発明の第二の態様は、前記耐火性骨材が、天然骨材であることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の第三の態様は、前記耐火性骨材が、硅砂を主体とするものであることを特徴としている。
【0011】
加えて、本発明の第四の態様は、前記耐火性骨材が、SiO2 を75~90質量%の割合で含有していることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明の第五の態様は、前記耐火性骨材が、鋳造工程において回収される回収砂から再生されたものであることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の第六の態様は、前記回収砂を再生して得られた再生砂が、1~10質量%のMgO及び5~20質量%のAl2O3を含有していることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に従う第七の態様は、磁着分の含有量が、4.0質量%以上であることを特徴としている。
【0015】
加えて、本発明の第八の態様は、第一の態様乃至第七の態様の何れか1つに記載の低膨張鋳型用鋳物砂を粘結剤にて被覆してなることを特徴とする低膨張鋳型用コーテッドサンドを、その対象とするものである。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う低膨張鋳型用鋳物砂は、形状係数が1.0の真球形状から、大幅に非球状化してなる、形状係数が1.40以上となるものを対象とするものであるところから、従来の如き、球形化乃至は真球化する工程を採用する必要が全くなく、そのために、砂製造コストの上昇を効果的に回避しつつ、砂表面のオーリチックス量が、鋳物砂全体の10質量%以上となるように、大量に存在させることによって、耐火性骨材(鋳物砂)のSiO2 質に基づくところの石英分の熱膨張を効果的に抑制せしめ得て、そのような鋳物砂から造型された中子等の鋳型の熱膨張を抑えて、かかる鋳型の寸法変形を有利に抑制し得ることとなったのであり、以て、鋳造して得られる鋳物の寸法精度の向上、更には鋳物砂の膨張に基因するところの各種鋳造欠陥の発生の防止にも、有利に寄与し得ることとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明に従う低膨張鋳型用鋳物砂は、SiO2 質の耐火性骨材、一般にSiO2 を主成分とする珪砂の如き耐火性骨材、特に、天然骨材(粒子)を、その対象とするものである。そこにおいて、珪砂を主体とする耐火性骨材としては、珪砂(珪石原鉱を粉砕して、篩い分けしたものをも含む。以下同じ)のみを使用する場合の他、珪砂に、公知の各種の耐火性骨材(砂)を混合せしめてなる混合砂であっても、何等差し支えなく、更に、それらの回収砂や再生砂、中でも、鋳造工程において回収される回収砂から再生された耐火性骨材(再生砂)が、本発明においては、特に有利に使用されることとなる。なお、そのような耐火性骨材は、一般に、50質量%以上のSiO2 を含有していることが望ましく、特に75~90質量%のSiO2 含有量であることが望ましい。このようなSiO2 含有量を採用することにより、骨材としての強度を確保しつつ、本発明による低膨張特性の発揮を有利に実現することが出来るのである。
【0018】
そして、本発明にあっては、かくの如き耐火性骨材を主体とする鋳物砂として、形状係数が1.40以上であるものが用いられることとなる。このような形状係数を有する砂(骨材)を用いることにより、鋳型の熱膨張特性の低減に有利に寄与し得るのである。なお、かかる形状係数が1.80を越えるようになると、鋳物砂として使用することが困難となるところから、本発明に従う鋳物砂は、実用上、1.80程度までの形状係数を有するものとして、構成されることとなる。
【0019】
ここで、本発明において用いられる鋳物砂(耐火性骨材)の形状係数は、粒径係数乃至は粒径指数とも称され、一般に、粒子の外形形状を示す一つの尺度として用いられるものであって、その値が1に近づくほど球形(真球)に近づくことを意味しているものであるところから、形状係数が1.40以上となる本発明に従う鋳物砂(骨材)は、球形形状から相当に離隔した、非球形のものと言うことが出来る。そして、そのような形状係数は、公知の各種の手法で測定され、例えば、特許第3253579号公報に明らかにされている如く、砂表面積測定器(ジョージ・フィッシャー社製)を用いて、1gあたりの実際の砂粒の表面積を測定し、その値を、砂粒が全て球形であると仮定した場合の表面積である理論的表面積で割った値を形状係数とする方法がある。
【0020】
また、本発明に従う鋳物砂は、その砂表面に存在するオーリチックス量が、鋳物砂全体の10質量%以上となるように、多量のオーリチックスを表面に存在せしめてなるものであって、これにより、鋳物砂中のSiO2 質の耐火性骨材における石英の熱膨張が、効果的に抑制され、以て、そのような鋳物砂を用いて造型される鋳型の熱膨張を、効果的に抑制乃至は阻止して、中子等の鋳型、ひいては鋳造して得られる鋳物の寸法精度を向上せしめ、更には、鋳物砂の膨張に基因するところの鋳造欠陥(型割れ、ベーニング、スクワレ、焼着等)の発生を有利に解消乃至は抑制せしめ得たのである。ここで、かかる砂表面に存在するオーリチックス量が多くなり過ぎると、造型して得られる鋳型の強度が低下するようになるところから、その上限は、一般に、鋳物砂全体の50質量%程度に留めるようにすることが望ましい。
【0021】
ここで、砂表面に存在するオーリチックスとは、珪砂の如きSiO2 質の耐火性骨材に含まれる石英以外の長石等の鉱物にて砂粒子上に形成される、焼死粘土や灰分等からなる被膜層形成成分であって、一般に、生型砂のシリカプログラム試験方法(日本鋳造工学会・東海支部・砂型研究部会・試験方法:TJFS-210)に準拠して求められるものである。即ち、オーリチックス量(O:%)は、塩酸洗浄後の試料について、30%フッ化水素酸溶液による溶解処理を施すことにより、得られたフッ化水素酸処理後の試料質量(FW:g)と、塩酸洗浄後の試料質量(HW:g)に基づいて、下式により算出されることとなる。
O=[HW×(5-FW)]/1.25
【0022】
なお、本発明に従う鋳物砂において、中でも、鋳造工程において回収される回収砂から再生して得られる再生砂からなる場合においては、MgOの含有量が1~10質量%となるように、またAl2O3の含有量が5~20質量%となるように調整されることが望ましく、これによって、本発明の特徴、特に、低膨張の効果をより有利に発揮させ易くなるのである。
【0023】
また、そのような鋳物砂中の磁着分の含有量にあっても、4.0質量%以上とすることにより、熱膨張率の上昇を効果的に抑制乃至は阻止する等という特徴が発揮され得ることとなる。なお、この磁着分の含有量の上限としては、一般に、20.0質量%程度とされることとなる。磁着分の含有量が多くなり過ぎると、鋳型の強度等が充分に確保され難くなる等の問題が生じるようになるからである。
【0024】
さらに、鋳物砂中のイグロス量としては、1.0質量%以下とすることが望ましく、これによって、そのような鋳物砂を用いて得られる鋳型による鋳造操作において、ガス欠陥等の問題から有利に回避され得ることとなる。
【0025】
ところで、上述の如き砂表面に存在するオーリチックスは、鋳物砂(耐火性骨材)が焙焼処理等の熱履歴を受けることにより、形成されるようになるものであるところから、本発明に従う鋳物砂は、鋳造工程において回収される廃珪砂乃至は回収珪砂を主体とする回収砂から、従来と同様にして、磁選処理(磁気分離処理)、焙焼処理及び研磨処理を含む再生工程に従って再生して得られた再生砂が、有利に用いられることとなる。尤も、そのような再生砂を得るための再生工程においては、研磨処理を短縮したり、弱めたり、或いは省略したりすることにより、再生砂を角張った形状のままにして、形状係数が1.40以上の非球形の粒子としつつ、粒子表面のオーリチックスを充分に残すことにより、その粒子表面に存在するオーリチックス量が10質量%以上としてなる再生砂を有利に得ることが出来るのである。なお、磁着分についても、そのような再生工程において採用される磁選処理の条件を短縮したり、弱めたり、或いは省略するなどの調整をすることにより、再生砂中の磁着分の含有量が4.0質量%以上となるようにすることも、容易となるものである。
【0026】
このように、本発明に従う鋳物砂は、鋳造工程において回収される回収砂から、所定の再生処理を施すことにより、例えば焙焼処理と1000G以上(~5000G)の磁選処理の1回以上を実施することにより、容易に得られるものであるが、そのような再生砂に限定されるものではなく、天然の新砂や人工砂であっても、本発明に規定する形状係数及びオーリチックス量を満足する限りにおいて、本発明の対象とされるものであることは、言うまでもないところであり、更に、オーリチックス量が少ない場合にあっては、ベントナイト等のオーリチックスを形成する成分を耐火性骨材に加えて、焙焼等の熱処理を施すことにより、オーリチックス量を高めて、本発明にて規定する範囲内のオーリチックス量を実現せしめてなるものも、本発明においてその対象とすることが可能である。
【0027】
なお、上述のような鋳物砂(耐火性骨材)は、一般に、30~90のAFS指数を有していることが望ましく、中でも、好ましくは35~80、より好ましくは40~70のAFS指数を有していることが望ましい。このAFS指数が30よりも小さくなると、鋳物砂の粒度が大きくなり過ぎて、鋳型としての特性を低下せしめる恐れがあり、更に、鋳肌の悪化等の問題も惹起されることとなる。一方、AFS指数が90を越えるようになると、鋳物砂の粒度が小さくなり過ぎて、鋳型用粘結剤と混練したときに、鋳物砂の凝集物であるダマの発生量が多くなることに加えて、本発明の特徴を充分に実現し難くなる等の問題が惹起され易くなる。
【0028】
また、かくの如き本発明に従う鋳物砂は、その単独にて、目的とする鋳型の造型に用いられて、本発明の特徴を発揮せしめ得ることとなる他、他の鋳物砂と混合されて、鋳物砂組成物として、目的とする鋳型の造型に用いられるようにすることも可能である。その場合において、鋳物砂組成物中の本発明に従う鋳物砂の割合としては、少なくとも、全体の5質量%以上の割合となるように、配合せしめられることとなる。また、本発明に従う鋳物砂の配合相手となる他の鋳物砂としては、公知の各種の鋳物砂(耐火性骨材)が、その対象とされ得るものであるが、特に、公知の各種の低膨張砂、例えばオリビンサンド、ジルコンサンド、アルミナサンド、フェロクロム系やフェロニッケル系等のフェロアロイ残渣、合成ムライト粒子、フォレステライト粒子等があり、また、それら他の鋳物砂の形状としては、本発明の如き非球形形状のみならず、球状形状を呈する粒子であっても、何等差し支えない。
【0029】
そして、かかる本発明に従う鋳物砂又はそれを含む鋳物砂組成物を用いて、目的とする中子等の鋳型を造型するに際しては、先ず、そのような鋳物砂又は鋳物砂組成物と、従来から公知の鋳型用粘結剤とを混練して、鋳物砂(骨材乃至は粒子)の表面を鋳型用粘結剤にて被覆することによって、優れた特徴を発揮するコーテッドサンド(CS)が形成されることとなる。
【0030】
なお、そのようなCSを製造するために用いられる鋳型用粘結剤としては、水ガラスにて代表されるような無機粘結剤や、フェノール系樹脂にて代表される樹脂粘結剤の何れもが、適宜に採用され得るところであるが、特に、本発明にあっては、樹脂粘結剤が好適に用いられることとなる。なお、この樹脂粘結剤としては、従来から公知の各種のものを挙げることが出来、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、アミンポリオール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂等の中から、適宜に選択して用いられるものであるが、中でも、フェノール樹脂が有利に用いられることとなる。
【0031】
また、樹脂粘結剤として好適に用いられるフェノール樹脂は、よく知られているように、フェノール類とアルデヒド類とを酸性触媒又は塩基性触媒の存在下において反応させることにより得られる、固体状乃至は液体状(ワニス形態のものやエマルジョン形態のものを含む)の縮合生成物であって、そこで用いられる触媒の種類によって、ノボラック型又はレゾール型と称されるものであり、所定の硬化剤乃至は硬化触媒の存在下又は非存在下において加熱することにより、熱硬化性を発現するフェノール樹脂である。
【0032】
なお、ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを用いて、よく知られているように、酸性触媒を用いて縮合反応させて、形成されるものであり、また、レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを用いて、従来と同様にして、塩基性触媒にて縮合反応せしめることにより、形成されるものである。そして、それらノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂は、それぞれ、単独で用いられる他、適宜の割合で混合して用いられても、何等差支えなく、また、公知の如く、フェノールの一部をビスフェノールA、ナフトール等の成分に変更して得られる変性フェノール樹脂も使用可能であり、更には、ベンジリックエーテル型のフェノール樹脂として用いることも可能である。
【0033】
また、上記したフェノール樹脂の如き樹脂粘結剤を、鋳物砂に混練せしめるに際して、かかる樹脂粘結剤の配合量としては、使用する樹脂の種類や要求される鋳型の強度等を考慮して、適宜に決定されるところであって、一義的に規定され得るものではないが、一般的には、鋳物砂の100質量部に対して、0.2~10質量部程度の範囲内であり、好ましくは0.5~8質量部、更に好ましくは1~5質量部の範囲内とされることとなる。
【0034】
ところで、本発明に従う鋳物砂を用いて目的とする鋳型を造型するためのCSを製造するに際しては、かかる鋳物砂又はそれを含む鋳物砂組成物に対して、上述の如き鋳型用粘結剤や従来と同様な他の配合成分が常法に従って混練せしめられることとなるのであるのであるが、そこで採用される製造法としては、特に限定されるものではなく、ドライホットコート法やセミホットコート法、コールドコート法、粉末溶剤法等の、従来から公知の方法が、何れも採用され得るところである。尤も、本発明にあっては、特に、ワールミキサーやスピードミキサー等の混練機内で、予熱された鋳物砂と鋳型用粘結剤とを混練した後、ヘキサメチレンテトラミン等の所定の硬化剤や硬化促進剤の水溶液、更には他の配合成分等を加えると共に、送風冷却によって塊状内容物を粒状に分離させ、次いで、ステアリン酸カルシウムの如き滑剤を加える、所謂ドライホットコート法の採用が、推奨されることとなる。なお、鋳型用粘結剤や硬化剤/硬化促進剤等を鋳物砂と混練せしめるタイミングとしては、当業者の知識に基づいて適宜に選定されるところであって、単独に、順次添加混練せしめられる他、適宜に組み合わせて混練することも可能である。
【0035】
そして、上述の如くして得られるCSを用いて、シェルモールド鋳型の如き、所定の鋳型を造型するに際しては、かかるCSの加熱硬化を図るべく、加熱下において、目的とする鋳型の造型が行なわれることとなるが、そのような加熱造型方法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が、何れも、有利に用いられることとなる。例えば、上述せる如きCSを、目的とする鋳型を与える所望の形状空間を有する、150~300℃程度に予熱された成形型内に、重力落下方式や吹込み方式等によって充填せしめ、硬化させた後、かかる成形型から硬化した鋳型を抜型することにより、目的とする鋳造用鋳型を得ることが出来るのである。
【0036】
このように造型して得られた鋳型を用いて、アルミニウム溶湯等の所定の金属溶湯の鋳造を行い、目的とする鋳物を製造する際に、金属溶湯からの高熱が鋳型に作用しても、そのような鋳型は、本発明に従う低膨張鋳型用鋳物砂を用いて造型されたものであるところから、鋳型の熱膨張が効果的に抑制され得て、鋳型、特に中子の寸法変形を効果的に抑えることが出来るところから、得られる鋳物の寸法精度が、有利に向上せしめられ得ることとなるのであり、併せて鋳造欠陥の発生も、有利に抑制乃至は阻止され得ることとなるのである。
【実施例0037】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。なお、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0038】
また、以下の記載において、部及び%は、特に断りのない限り、それぞれ、質量部及び質量%を意味するものである。更に、以下において製造された鋳物砂の磁着分、球状係数、オーリチックス量や、それを用いて得られたレジンコーテッドサンド(RCS)の融着点、更には、それぞれのRCSから得られた鋳型の抗折力や熱膨張率については、以下の方法に従って、評価されたものである。
【0039】
-磁着分の測定-
測定器具として、電子天秤(感度0.1g)と磁石(1500G)を用いる。先ず、鋳物砂の約10gを正確に秤量した後、その秤量した鋳物砂を測定用の紙上に載置する。次いで、紙上の鋳物砂の上を磁石で軽く撫でるように動かして、磁性分(砂)を磁石に付着せしめた後、その磁石に付着した磁性分を取り出す操作を繰り返し、磁石に砂が付着しなくなったときを終点とする。そして、その磁石に付着した磁性分(砂)を集積して、その質量を、電子天秤にて秤量する。磁着分(%)は、磁石付着磁性分の総量を磁石処理前の鋳物砂質量にて除して、百分率表記することにより、算出される。
【0040】
-形状係数の測定-
それぞれの鋳物砂について、砂表面積測定器(ジョージ・フィッシャー社製)を使用して、その1gあたりの実際の砂粒の表面積を測定し、その得られた値を、砂粒が全て球形であると仮定した場合の表面積である理論的表面積で割った値を求め、それを、形状係数とする。
【0041】
-オーリチックス量の測定-
生型砂のシリカプログラム試験方法(日本鋳造工学会・東海支部・砂型研究部会・試験方法:TJFS-210)における「4.7オーリチックスの定量」に準拠して、塩酸洗浄後の試料5gを用い、それに、30%フッ化水素酸溶液30mLを加えて、1分間撹拌し、次に、1分間静置した後、更に1分間の撹拌を行い、その後、水洗処理を繰り返した後、乾燥し、かかるフッ化水素酸処理後の試料の重量を求める。そして、本件明細書本文中の先に示した式に従って、オーリチックス量(O%)を算出する。
【0042】
-RCS融着点の測定-
JACT試験法C-1の「融着点試験法」に準拠して、各鋳物砂から、後述の如くして製造されたRCSについて、融着点(℃)をそれぞれ求める。
【0043】
-抗折力の測定-
JACT試験法SM-1の「曲げ強さ試験法」に準拠して、後述する各RCSを用いて得られた、幅:10mm×厚み:10mm×長さ:60mmの大きさの試験片(成形温度:250℃)について、その破壊荷重を、測定器(高千穂精機株式会社製:デジタル鋳物砂強度試験機)を用いて、測定する。そして、この測定された破壊荷重を用いて、抗折強度を、下記の式により算出して、抗折力(N/cm2 )とする。また、その抗折力をkgf/cm2 に換算して、表示する。
抗折強度(N/cm2)=1.5×LW/ab2
[但し、L:支点間距離(cm)、W:破壊荷重(N)、a:試験片の幅(cm)、 b:試験片の厚み(cm)]
【0044】
-熱膨張率の測定-
JACT試験法M-2の「熱膨張率測定試験法」に記載の急熱膨張率測定試験法に従って行なった。先ず、焼成温度:280℃、焼成時間:120秒で作製したテストピース(28.3mmφ×51mmL、円周の約1/4カット)を、炉内温度:1000℃に調節された高温鋳物砂試験器中に設置し、0.0分保持(曝熱前)から、0.5分刻みにて、4.0分間までの保持を行い、それぞれの保持時間後に、テストピースを取り出す。そして、曝熱前(0.0分保持)と曝熱後(0.5分間隔での保持後)のテストピース長から、下記の計算式に従って、それぞれの保持時間後の熱膨張率(%)を算出する。
熱膨張率(%)=[(曝熱後-曝熱前)テストピース長]×100/(曝熱前のテスト ピース長)
【0045】
-鋳物砂A~Hの製造-
各種の鋳造工程から回収されて、集積されている、使用済みの珪砂(回収珪砂)を主体とする回収砂を用いて、磁気分離処理、焙焼処理及び研磨処理を含む再生工程を実施する際に、研磨処理を施さなかったり、或いは研磨処理を施しても、その処理条件を変化させることにより、回収砂表面に存在するオーリチックス量を調整したり、形状係数を調整したりして、下記表1に示される如き各種の鋳物砂A~Hを製造した。
【0046】
また、それら得られた鋳物砂A~Hについて、磁着分含有量と共に、形状係数及びオーリチックス含有量について、それぞれ、前記した方法に従って測定し、それらの結果を、下記表1に併せ示した。
【0047】
【0048】
-RCSの作製-
上記の表1に示される各種の鋳物砂A~Hを用いて、それぞれ、以下のようにして、実施例1~5及び比較例1~4に係るレジンコーテッドサンド(RCS)を作製した。
【0049】
具体的には、表1に示される各種鋳物砂の中から選択されて、150℃に加熱された鋳物砂の100部に、市販の樹脂バインダ(粘結剤X、Y)の下記表2~3に示される量を加えて、スピードミキサーで50秒間混練した後、硬化剤であるヘキサメチレンテトラミンの0.35部を水1.5部にて溶解してなる溶液を添加して、砂が個々の粒子に分離するようになるまで混練し、更に、ステアリン酸カルシウムの0.1部を添加して15秒間混合した後、ミキサーから取り出すことにより、鋳物砂の表面がバインダ樹脂にて被覆されてなる、目的とするRCSを得た。なお、樹脂バインダである粘結剤Xとしては、ノボラック型フェノール樹脂である、旭有機材株式会社製SP6384を用い、また粘結剤Yとしては、ビスフェノールA変性ノボラック型フェノール樹脂である、旭有機材株式会社製BP399を用いた。
【0050】
-鋳型特性の評価-
そして、かかる得られた実施例1~5及び比較例1~4に係るRCSから、それぞれ、抗折力評価用試験片や、熱膨張率評価用テストピースを造型して、抗折力の測定と共に、熱膨張率の測定を、先の説明に従って実施し、それら得られた結果を、下記表2及び表3に併せ示した。
【0051】
【0052】
【0053】
上記した表1~表3の結果の対比から明らかな如く、実施例1~5に係るRCSにおいて用いられた鋳物砂は、何れも、形状係数が1.40以上であると共に、砂表面のオーリチックス量が10%以上である特性を有しているところから、実施例1~5に係るRCSを用いることにより、充分な鋳型の強度(抗折力)を確保しつつ、熱膨張率の低い鋳型が実現されており、これによって鋳型の変形が抑制され、以て、寸法精度が有利に向上せしめられ得ることを認めることが出来る。
【0054】
これに対して、比較例1~4に示されるRCSを用いた鋳型にあっては、鋳物砂として充分な研磨処理が施されて、形状係数が1.40未満となって、球形に近づいていたり、或いはオーリチックス量が10%未満となっていたりしているところから、熱膨張率が高くなっており、これによって、比較例1~4に係るRCSを用いた場合においては、鋳型の変形が惹起され、以て、得られる鋳物の寸法精度が低下したり、鋳造欠陥が惹起されたりする恐れがあることが認められるのである。