(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051520
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】蒸留方法
(51)【国際特許分類】
B01D 3/32 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B01D3/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157733
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 航
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚人
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076AA13
4D076AA22
4D076AA24
4D076BB04
4D076BB05
4D076CB02
4D076EA02Y
4D076EA02Z
4D076EA16Y
4D076EA16Z
4D076FA12
4D076JA04
(57)【要約】
【課題】沸点範囲の異なる2種類以上の留分を蒸留塔に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法において、必要なエネルギーを削減でき、かつ、安定的な運転が可能となる蒸留方法の提供。
【解決手段】沸点範囲の異なる2種類以上の留分D1~Dn(nは2以上の整数であり、留分の種類を示し、nが小さい方が、沸点範囲が低い留分を示す)をそれぞれ蒸留塔の異なる供給口S1~Sn(nは前記と同じであり、前記留分D1~Dnに対応する供給口を示す)に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法であって、前記留分D1~Dnの内の1つの留分Dpの一部を、他の1つの留分Dqに混合して得られる混合留分を、供給口Sqに供給する、蒸留方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点範囲の異なる2種類以上の留分D1~Dn(nは2以上の整数であり、留分の種類を示し、nが小さい方が、沸点範囲が低い留分を示す)をそれぞれ蒸留塔の異なる供給口S1~Sn(nは前記と同じであり、前記留分D1~Dnに対応する供給口を示す)に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法であって、
前記留分D1~Dnの内の1つの留分Dpの一部を、他の1つの留分Dqに混合して得られる混合留分を、供給口Sqに供給する、蒸留方法。
【請求項2】
前記供給口S1~Snは、前記蒸留塔の塔頂から塔底方向に順番に位置する、請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項3】
前記留分Dpの沸点範囲は、前記他の1つの留分Dqの沸点範囲より低い、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項4】
前記留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、2~15%である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項5】
前記留分Dpの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、40%以上である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項6】
前記留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、1~15%である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項7】
前記留分D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、前記供給口Spに供給する留分Dpの流量[kL/h]の割合が、5%以下である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項8】
前記留分Dpは、留分D1である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項9】
前記nは2以上7以下である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項10】
前記nは2である、請求項9に記載の蒸留方法。
【請求項11】
前記化学品は石油基材である、請求項1又は2に記載の蒸留方法。
【請求項12】
前記石油基材は軽油又は灯油である、請求項11に記載の蒸留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留は、液体の蒸気圧の差を利用して、混合物から目的の物質を分離する操作である。蒸留は、化学工業において、精製、分離、回収等の工程で広く用いられている。
【0003】
例えば、石油製品を製造する原油の精製プロセスでは、蒸留は非常に重要である。原油はまず、常圧蒸留装置で常圧蒸留され、オフガス、LPG、直留ナフサ、直留灯油、直留軽油、常圧蒸留残渣油等の留分に分離される。これらの留分は、さらに脱硫工程、蒸留工程等の精製工程を経て、石油製品が製造される。
【0004】
特許文献1は、原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られた直留軽油を、特定の構造を有する水素化脱硫触媒を用いて水素化処理(脱硫処理)することを特徴とする炭化水素油の精製方法を開示している。
【0005】
特許文献1に記載の方法によって得られた炭化水素油(脱硫直留軽油)は、ナフサ留分、ガス等を含むため、さらなる精製工程を経て、石油製品である軽油が製造される。
【0006】
具体的には、前記脱硫直留軽油を蒸留塔に供給し、蒸留を行い、軽質留分と、重質留分に分離する。前記軽質留分は、前記軽質留分に含まれるガスを分離した後に前記重質留分に混合し、混合留分とする。前記混合留分を蒸留塔に供給し、再度蒸留を行い、蒸留塔の塔頂からナフサ留分、ガス等が排出され、蒸留塔の塔底から石油製品である軽油が製造される(以下、この精製方法を「精製方法1」ともいう)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、石油製品である軽油は、引火点が高いことが求められる。軽油の引火点は、軽油中のナフサ留分の含有量と関係があり、ナフサ留分の含有量が低い軽油は引火点が高くなる。すなわち、引火点の高い軽油を得るためには、精製方法1における2番目の蒸留におけるナフサ留分の分離が重要となる。ナフサ留分を充分に分離する方法として、塔底部からスチームを投入して蒸留塔内の留分の分圧を下げることによりナフサ留分の蒸留を促進する方法が知られている。
【0009】
本願の発明者は、エネルギー削減の観点から、スチーム供給量を削減することを目的に精製方法1の改良検討を行った。具体的には、前記ガスを分離した後の前記軽質留分と、前記重質留分を混合せずに、蒸留塔の別々の供給口より蒸留塔に供給して蒸留を行う精製方法(以下、「精製方法2」ともいう)を検討した。なお、精製方法2においては、前記軽質留分を蒸留塔の塔頂側の供給口から、前記重質留分を蒸留塔の塔底側の供給口から蒸留塔に供給する。
【0010】
その結果、精製方法2によると、精製方法1と比べ、スチーム供給量を低減しても同等の引火点を有する軽油を製造可能となることを見出した。一方、精製方法2の場合、精製方法1と比較して蒸留塔の塔頂付近の温度が低下するという知見も得られた。
【0011】
原油の精製プロセスに使用される蒸留塔では、腐食を防止するために塔頂付近の温度が露点よりも高くなるように管理を行っている。蒸留塔の塔頂付近では、蒸留する留分に含まれる塩分が分解して塩化水素ガスが発生することがあり、塔頂付近に液体の水が存在すると腐食性の高い塩酸となり、蒸留塔を腐食するためである。本願の発明者らが、精製方法2の運転を継続した所、塔頂付近の温度が露点以下となり、安定的な運転が困難となることを知見した。すなわち、精製方法2は、精製方法1に比べると、エネルギーを削減することはできるものの、安定的な運転が困難となる。
【0012】
原油の精製プロセス以外で使用される蒸留塔においても、蒸留塔内に水が存在し、かつ、凝縮水の発生により腐食等の問題が発生し得る精製プロセスであれば、同様の問題が生じると考えられる。
【0013】
本願は上記事情に鑑みてなされたものであって、沸点範囲の異なる2種類以上の留分を蒸留塔に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法において、必要なエネルギーを削減でき、かつ、安定的な運転が可能となる蒸留方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 沸点範囲の異なる2種類以上の留分D1~Dn(nは2以上の整数であり、留分の種類を示し、nが小さい方が、沸点範囲が低い留分を示す)をそれぞれ蒸留塔の異なる供給口S1~Sn(nは前記と同じであり、前記留分D1~Dnに対応する供給口を示す)に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法であって、前記留分D1~Dnの内の1つの留分Dpの一部を、他の1つの留分Dqに混合して得られる混合留分を、供給口Sqに供給する、蒸留方法。
[2] 前記供給口S1~Snは、前記蒸留塔の塔頂から塔底方向に順番に位置する、[1]に記載の蒸留方法。
[3] 前記留分Dpの沸点範囲は、前記他の1つの留分Dqの沸点範囲より低い、[1]又は[2]に記載の蒸留方法。
[4] 前記留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、2~15%である、[1]~[3]のいずれかに記載の蒸留方法。
[5] 前記留分Dpの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、40%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の蒸留方法。
[6] 前記留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合が、1~15%である、[1]~[5]のいずれかに記載の蒸留方法。
[7] 前記留分D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、前記供給口Spに供給する留分Dpの流量[kL/h]の割合が、5%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の蒸留方法。
[8] 前記留分Dpは、留分D1である、[1]~[7]のいずれかに記載の蒸留方法。
[9] 前記nは2以上7以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の蒸留方法。
[10] 前記nは2である、[9]に記載の蒸留方法。
[11] 前記化学品は石油基材である、[1]~[10]のいずれかに記載の蒸留方法。
[12] 前記石油基材は軽油又は灯油である、[11]に記載の蒸留方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、沸点範囲の異なる2種類以上の留分を蒸留塔に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法において、必要なエネルギーを削減でき、かつ、安定的な運転が可能となる蒸留方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の蒸留方法を実施するための蒸留設備の一例を示す模式図である。
【
図2】軽油又は灯油の製造方法を実施するための製造設備の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0018】
≪蒸留方法≫
本実施形態の蒸留方法は、沸点範囲の異なる2種類以上の留分D1~Dn(nは2以上の整数であり、留分の種類を示し、nが小さい方が、沸点範囲が低い留分を示す)をそれぞれ蒸留塔の異なる供給口S1~Sn(nは前記と同じであり、前記留分D1~Dnに対応する供給口を示す)に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法である。前記留分D1~Dnの内の1つの留分Dpの一部を、他の1つの留分Dqに混合して得られる混合留分を、供給口Sqに供給する。
【0019】
留分Dpの沸点範囲は、前記他の1つの留分Dqの沸点範囲より低いことが好ましい。本明細書において、複数の留分の沸点範囲の比較は、複数の留分のX容量%留出温度を比較することにより行うことができる。Xは0超100以下である。X容量%留出温度とは、留分の総容積に対して、X容量%が留出されるときの温度である。Xとしては、10、50、90などが挙げられる。
本実施形態の蒸留方法により精製される化学品が石油製品(石油基材も含む)の場合、10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度は、JIS K2254(2018)「石油製品-蒸留性状の求め方」に準拠して求めることができる。
【0020】
留分Dpと留分Dqの10容量%留出温度の差は、96~144℃であることが好ましく、103~137℃であることがより好ましく、110~130℃であることがさらに好ましい。
留分Dpと留分Dqの50容量%留出温度の差は、52~83℃であることが好ましく、57~78℃であることがより好ましく、62~73℃であることがさらに好ましい。
Dpと留分留分Dqの90容量%留出温度の差は、47~78℃であることが好ましく、50~75℃であることがより好ましく、53~71℃であることがさらに好ましい。
【0021】
留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dpの流量[kL/h]の割合は、2~15%であることが好ましく、2~12%であることがより好ましく、2~10%であることがさらに好ましい。前記割合が前記範囲の下限値以上であると、Dpの流量を制御しやすい。前記割合が前記範囲の上限値以下であると、蒸留効率が向上する。
【0022】
留分Dpの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。前記割合が前記下限値以上であると、蒸留塔の塔頂付近の温度が露点以下となりにくく、蒸留塔の塔頂部にて凝縮水の発生を抑制することができる。留分Dpの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合は、100%未満であればよい。
【0023】
前記留分Dqの流量[kL/h]を100%としたときの、前記留分Dqに混合する前記留分Dpの流量[kL/h]の割合は、1~15%であることが好ましく、1~12%であることがより好ましく、2~10%であることがさらに好ましい。前記割合が前記範囲の下限値以上であると、供給口Sqに供給する留分Dpの流量を制御しやすい。前記割合が前記範囲の上限値以下であると、蒸留効率が向上する。
【0024】
D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、Dpの流量[kL/h]の割合は、2~13%であることが好ましく、2~11%であることがより好ましく、2~9%であることがさらに好ましい。前記割合が前記範囲の下限値以上であると、Dpの流量を制御しやすい。前記割合が前記範囲の上限値以下であると、蒸留効率が向上する。
【0025】
D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、前記供給口Spに供給する留分Dpの流量[kL/h]の割合は、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。前記割合が前記上限値以下であると、蒸留塔の塔頂付近の温度が露点以下となりにくく、蒸留塔の塔頂部にて凝縮水の発生を抑制することができる。D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、前記供給口Spに供給する留分Dpの流量[kL/h]の割合は、0%超であればよい。
【0026】
D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、前記供給口Sqに供給する留分Dpの流量[kL/h]の割合は、1~13%であることが好ましく、1~11%であることがより好ましく、1~9%であることがさらに好ましい。前記割合が前記範囲の下限値以上であると、供給口Sqに供給する留分Dpの流量を制御しやすい。前記割合が前記範囲の上限値以下であると、蒸留効率が向上する。
【0027】
D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、留分Dqの流量[kL/h]の割合は、87%~99%であることが好ましく、89~98%であることがより好ましく、91~98%であることがさらに好ましい。前記割合が前記範囲の下限値以上であると、蒸留効率が向上する。前記範囲の上限値以下であるとDpの流量を制御しやすい。
【0028】
D1~Dnの総流量[kL/h]を100%としたときの、留分Dpと留分Dqの合計流量[kL/h]の割合は、80~100%であることが好ましく、90~100%であることがより好ましく、95~100%であることがさらに好ましい。
【0029】
nは2以上7以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。DpはD1であることが好ましい。
【0030】
本実施形態において、供給口S
1~S
nは、前記蒸留塔の塔頂から塔底方向に順番に位置することが好ましい。以下、
図1を参照しながら、本実施形態の蒸留方法に好適に用いられる蒸留設備、及び運転方法を説明する。
【0031】
(蒸留設備)
図1は、本実施形態の蒸留方法を実施するための蒸留設備の一例を示す模式図である。
図1は、留分D
1~D
n、供給口S
1~S
nにおいて、n=5、D
p=D
2、D
q=D
3である場合の本実施形態の蒸留方法を実施するための蒸留設備である。
【0032】
蒸留設備は、蒸留塔1を備える。蒸留塔1としては、本分野で公知の蒸留塔を使用することができる。例えば、塔内に水平な棚板(トレイ)をいくつも設置して区切ったタイプの蒸留塔である棚段塔、塔内に充填物が設置された蒸留塔である充填塔などが例示される。蒸留塔の種類、大きさは、その目的に応じて選択することができる。
【0033】
蒸留塔1には、塔頂から塔底方向に順番に供給口S
111、供給口S
212、供給口S
313、供給口S
414、供給口S
515が位置している。
図1に示すように供給口S
1~S
5は、蒸留塔1の塔頂から塔底方向に順番に位置することが好ましい。
【0034】
配管L11、配管L12、配管L13、配管L14、配管L15はそれぞれ、蒸留塔1の供給口S111、供給口S212、供給口S313、供給口S414、供給口S515に接続されている。蒸留塔1が棚段塔である場合、配管L11、配管L12、配管L13、配管L14、配管L15はそれぞれ、蒸留塔1の供給口S111、供給口S212、供給口S313、供給口S414、供給口S515を介して蒸留塔内部のトレイに接続されていることが好ましい。蒸留塔1の塔頂には配管L17が接続されている。蒸留塔1の塔底には配管L18が接続されている。
配管L16は、配管L12と配管L13と接続している。
配管L12の配管L16との合流部より下流には、コントロールバルブV1が設置されている。配管L16には、コントロールバルブV2が設置されている。
【0035】
(運転方法)
留分D1を、配管L11を通じて供給口S111より蒸留塔1に供給する。留分D3を、配管L13を通じて供給口S313より蒸留塔1に供給する。留分D4を、配管L14を通じて供給口S414より蒸留塔1に供給する。留分D5を、配管L15を通じて供給口S515より蒸留塔1に供給する。
コントロールバルブV1及びコントロールバルブV2を開として、留分D2の一部を配管L12、配管L16、配管L13を通じて供給口S313より蒸留塔1に供給する。また、留分D2の残りは、配管L12を通して供給口S212より蒸留塔1に供給する。
【0036】
供給口S
212に供給する留分D
2の流量と、供給口S
313に供給する留分D
2の流量の割合は、コントロールバルブV1及びコントロールバルブV2の開度等を制御することにより調整することできる。なお、
図1では、コントロールバルブV1及びコントロールバルブV2により供給口S
212に供給する留分D
2の流量と、供給口S
213に供給する留分D
2の流量の割合を制御しているが、コントロールバルブに限定されず、マスフローコントローラーなどの同様の機能を有する機器を使用することもできる。
【0037】
蒸留塔1内を必要に応じて加熱し、蒸留を行う。軽質留分が蒸留塔1の塔頂に接続された配管L17から得られ、重質留分が蒸留塔1の塔底に接続された配管L18から得られる。本実施形態の蒸留方法により精製される化学品(すなわち、製造される化学品)は、前記軽質留分でも、前記重質留分でもよいが、前記重質留分であることが好ましい。蒸留塔1の加熱は、本分野で公知の方法により行うことができる。例えば、留分D1~Dnを予熱してから蒸留塔1に供給してもよいし、熱交換器、などで加熱してもよい。また、本実施形態においては、蒸留塔内の留分の分圧を下げるために、スチームを供給することが好ましい。
【0038】
<化学品>
本実施形態の蒸留方法により精製される化学品は、沸点範囲の異なる2種類以上の留分を蒸留塔に供給し、蒸留することにより精製され、かつ、蒸留塔の塔頂付近で凝縮水が発生することにより、運転が困難になる蒸留方法により精製される化学品である限り、特に限定されない。すなわち、蒸留塔内に水が存在し、かつ、凝縮水の発生により腐食等の問題が発生し得る蒸留方法により精製される化学品が好ましい。中でも、化学品としては、石油製品であることが好ましく、石油基材であることがより好ましい。石油基材等の石油製品の精製の際には、蒸留塔内に原油由来の塩素化合物が存在することがあり、凝縮水が発生すると、腐食性の高い塩酸となり、蒸留塔(トレイ等)を腐食することが知られている。
本明細書において「石油製品」は、消費者に提供される製品、及び前記製品の前段階の石油基材の両方を含む。具体的には、石油精製設備で製造される、液化石油ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料油、軽油、潤滑油ベースオイル、重油、及びアスファルト等の原油由来の製品、並びに芳香族化合物及びオレフィンなどの石油化学製品等を意味する。前記原油由来の製品は、消費者に提供される製品、及び前記製品の前段階の石油基材の両方を含む。以下、消費者に提供される製品の場合、名称の頭に「製品」をつけて表記し、石油基材の場合は名称のみで表記する。例えば、消費者に提供される製品である軽油製品を「製品軽油」と、その前段階の石油基材である軽油基材を「軽油」と表記する。
石油製品としては、石油基材であることが好ましく、軽油又は灯油であることがより好ましい。
【0039】
(軽油又は灯油の製造方法)
本実施形態の蒸留方法を適用した軽油又は灯油の製造方法について説明する。軽油又は灯油の製造方法の場合、以下に説明するように留分D1~Dn、供給口S1~Snにおいて、n=2、Dp=D1、Dq=D2である。
【0040】
(軽油又は灯油製造設備)
図2は、軽油又は灯油の製造方法を実施するための製造設備の一例を示す模式図である。
製造設備は、灯軽油脱硫装置2と、セパレータ3と、ガスセパレータ4と、蒸留塔(棚段塔)5を備える。棚段塔5には、塔頂から塔底方向に順番に供給口S
151、供給口S
252が位置している。なお、セパレータ3とは塔内に水平な棚板(トレイ)を有しない蒸留塔である。
【0041】
灯軽油脱硫装置2の上部(装置入り口)は、配管L21を介して常圧蒸留装置(不図示)と接続されている。灯軽油脱硫装置の下部(装置出口)と、セパレータ3の中段は、配管L31を介して接続されている。セパレータ3の塔頂と、ガスセパレータ4は、配管L41を介して接続されている。ガスセパレータの上部には配管L42が接続されている。セパレータ3の塔底と、棚段塔5の供給口S
252は、配管L52を介して接続されている。ガスセパレータ4と、棚段塔5の供給口S
151は、配管L51を介して接続されている。棚段塔5の内部には複数のトレイ54が設置されている。配管L51、配管L52はそれぞれ、棚段塔5の供給口S
151、供給口S
252を介して棚段塔5内部のトレイ54に接続されている。棚段塔5の塔頂には配管L55が接続されている。棚段塔5の塔底には配管L56が接続されている。棚段塔5の塔底と最も下部のトレイ54との間の位置には、配管L54が接続されている。なお、
図2中では、配管L54は、棚段塔5の塔底と最も下部のトレイ54との間に接続されているが、配管L54の接続位置は適宜変更できる。
配管L53は、配管L51と配管L52に接続されている。
配管L51の配管L53との合流部より下流には、コントロールバルブV3が設置されている。配管L53には、コントロールバルブV4が設置されている。
【0042】
(運転方法)
以下、軽油の製造方法の運転方法を説明するが、灯油の場合も実質的に同様に行うことができる。
原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られた直留軽油、間接脱硫装置又は直接脱硫装置から得られた分解軽油、若しくは流動接触分解装置から得られた接触改質軽油(以下、これらを総称して「脱硫直留軽油等」ともいう。)を、配管L21を通じて灯軽油脱硫装置2に供給する。なお、図示していないが、配管L21は、間接脱硫装置又は直接脱硫装置から得られた分解軽油、若しくは流動接触分解装置から得られた接触改質軽油が供給される配管と接続されていてもよい。灯軽油脱硫装置2で脱硫処理して得られた脱硫直留軽油等を、配管L31を通じてセパレータ3に供給する。セパレータ3の塔底から得られた重質留分1を、配管L52を通じて供給口S252より棚段塔5に供給する。セパレータ3の塔頂から得られた軽質留分1を、配管L41を通じてガスセパレータ4に供給する。ガスセパレータ4の配管L42からガスを除去して軽質留分1’とする。コントロールバルブV3及びコントロールバルブV4を開として、軽質留分1’の一部を配管L51、配管L53、配管L52を通じて供給口S252より棚段塔5に供給する。また、軽質留分1’の残りは、配管L51を通じて供給口S151より棚段塔5に供給する。供給口S151に供給する軽質留分1’の流量と、供給口S252に供給する軽質留分1’の流量の割合は、コントロールバルブV3及びコントロールバルブV4の開度等を制御することにより調整することできる。
【0043】
コントロールバルブV3及びコントロールバルブV4より上流の配管L51及び配管L53における軽質留分1’は、液体であり、コントロールバルブV3又はコントロールバルブV4を通過することにより、液体と気体の混合物となる。コントロールバルブV3の下流より上流の方が、圧力が高い。同様に、コントロールバルブV4の下流より上流の方が、圧力が高い。
セパレータ3の塔底から得られた配管L52における重質留分1は液体であり、配管L52に設置されたコントロールバルブ(不図示)を通過することにより、液体と気体の混合物となる。コントロールバルブ(不図示)の下流より上流の方が、圧力が高い。コントロールバルブ(不図示)は、配管L52において、コントロールバルブV4よりも上流に設置されている。
【0044】
配管L54から棚段塔5内部にスチームを供給して蒸留を行う。ナフサ留分、ガス等が棚段塔5の塔頂に接続された配管L55から排出され、軽油が棚段塔5の塔底に接続された配管L56から得られる。
【0045】
軽油又は灯油の製造方法の場合、スチーム供給量としては、1.0~7.0[Ton/h]であることが好ましく、1.5~6.5[Ton/h]であることがより好ましく、2.0~6.0[Ton/h]であることがさらに好ましい。
【0046】
軽油又は灯油の製造方法の場合、供給口S151に供給する軽質留分1’の流量としては、17[KL/h]以下であることが好ましく、13[KL/h]以下であることがより好ましく、10[KL/h]以下であることがさらに好ましい。
【0047】
軽油又は灯油の製造方法の場合、供給口S252に供給する軽質留分1’の流量としては、2~43[KL/h]であることが好ましく、2~36[KL/h]であることがより好ましく、3~30[KL/h]であることがさらに好ましい。
【0048】
軽油又は灯油の製造方法の場合、供給口S252に供給する重質留分1の流量としては、130~324[KL/h]であることが好ましく、134~320[KL/h]であることがより好ましく、137~317[KL/h]であることがさらに好ましい。
【0049】
軽油の製造方法の場合、軽質留分1’の10容量%留出温度は、120~150℃であることが好ましく、125~145℃であることがより好ましく、130~140℃であることがさらに好ましい。50容量%留出温度は、216~233℃であることが好ましく、219~230℃であることがより好ましく、222~227℃であることがさらに好ましい。90容量%留出温度は、277~289℃であることが好ましく、279~287℃であることがより好ましく、281~285℃であることがさらに好ましい。
【0050】
軽油の製造方法の場合、重質留分1の10容量%留出温度は、246~264℃であることが好ましく、248~262℃であることがより好ましく、250~260℃であることがさらに好ましい。50容量%留出温度は、285~299℃であることが好ましく、287~297℃であることがより好ましく、289~295℃であることがさらに好ましい。90容量%留出温度は、336~355℃であることが好ましく、337~354℃であることがより好ましく、338~352℃であることがさらに好ましい。
【0051】
軽油又は灯油の製造方法の場合、供給口S151は、棚段塔中のトレイの総数を100%とした時に、塔頂側から3~43%の位置のトレイに接続されていることが好ましく、5~40%の位置のトレイに接続されていることがより好ましく、7~30%の位置のトレイに接続されていることがさらに好ましい。
【0052】
軽油又は灯油の製造方法の場合、供給口S252は、棚段塔中のトレイの総数を100%とした時に、塔頂側から43~57%の位置のトレイに接続されていることが好ましく、44~56%の位置のトレイに接続されていることがより好ましく、45~55%の位置のトレイに接続されていることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態の軽油の製造方法により製造される軽油は、以下の性状であることが好ましい。
【0054】
軽油の引火点は、45~110℃であることが好ましく、50~110℃であることがより好ましく、70~110℃であることがさらに好ましい。軽油の引火点は、「JIS K2265:2007」に準拠して求めることができる。
【0055】
軽油の10容量%留出温度は、170~260℃であることが好ましく、180~260℃であることがより好ましく、220~260℃であることがさらに好ましい。50容量%留出温度は、260~320℃であることが好ましく、270~320℃であることがより好ましく、280~310℃であることがさらに好ましい。90容量%留出温度は、295~360℃であることが好ましく、310~360℃であることがより好ましく、325~360℃であることがさらに好ましい。
【0056】
軽油の硫黄分は、10[質量ppm]以下であることが好ましい。
【0057】
軽油の15℃における密度は、0.800~0.860g/mLであることが好ましく、0.805~0.860g/mLであることがより好ましく、0.810~0.860g/mLであることがさらに好ましい。
【0058】
本実施形態の灯油の製造方法により製造される灯油は、以下の性状であることが好ましい。
【0059】
灯油の引火点は、40~60℃であることが好ましく、41~60℃であることがより好ましい。灯油の引火点は、「JIS K2265:2007」に準拠して求めることができる。
【0060】
灯油の初留点は、135~170℃であることが好ましく、140~170℃であることがより好ましい。50容量%留出温度は、165~220℃であることが好ましく、190~220℃であることがより好ましい。95容量%留出温度は、215~270℃であることが好ましく、220~270℃であることがより好ましい。
【0061】
灯油の硫黄分は、80[質量ppm]以下であることが好ましく、10[質量ppm]以下であることがより好ましい。
【0062】
灯油の15℃における密度は、0.780~0.810g/mLであることが好ましく、0.790~0.810g/mLであることがより好ましい。
【0063】
上記製造方法により製造された軽油、灯油をそのまま製品軽油、製品灯油としてもよいし、その他の基材、各種添加剤を配合することにより製品軽油、製品灯油としてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例に記載の符号は、
図2の符号を意味する。
【0065】
<測定方法>
蒸留塔の塔頂付近の露点は、蒸留塔に投入するスチーム量、蒸留塔の塔頂から抜き出されるナフサ留分、蒸留塔の塔頂付近の温度、蒸留塔の塔頂付近の圧力、塔頂のリフラックス量に基づき、アントワンの式により求めた。
軽油の引火点は、「JIS K2265:2007」に準拠して求めた。
【0066】
[実施例1]
原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られた直留軽油を、配管L21を通じて灯軽油脱硫装置2に供給した。灯軽油脱硫装置2で脱硫処理して得られた脱硫直留軽油を、配管L31を通じてセパレータ3に供給した。セパレータ3の塔底から得られた重質留分1を、配管L52を通じて供給口S252より棚段塔5に供給した。セパレータ3の塔頂から得られた軽質留分1を、配管L41を通じてガスセパレータ4に供給した。ガスセパレータ4の配管L42からガスを除去して軽質留分1’を得た。コントロールバルブV3及びコントロールバルブV4を開として、軽質留分1’の一部を配管L51、配管L53、配管L52を通じて供給口S252より棚段塔5に供給した。また、軽質留分1’の残りは、配管L51を通じて供給口S151より棚段塔5に供給した。供給口S151に供給する軽質留分1’の流量と、供給口S252に供給する軽質留分1’の流量の割合は、コントロールバルブV3及びコントロールバルブV4の開度等を制御することにより調整した。
配管L54から棚段塔5にスチームを供給して蒸留を行った。ナフサ留分、ガス等が棚段塔5の塔頂に接続された配管L55から排出され、軽油が棚段塔5の塔底に接続された配管L56から得られた。
供給口S151に供給した軽質留分1’の流量、供給口S252に供給した軽質留分1’の流量、供給口S252に供給した重質留分1の流量を表1に示す。また、棚段塔5の塔底から得られた軽油の引火点、棚段塔5の塔頂付近の露点温度、棚段塔5の塔頂付近の温度、スチーム供給量を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
コントロールバルブV3を閉として、軽質留分1’の全てを、配管L51、配管L53、配管L52を通じて供給口S252より棚段塔5に供給し、スチーム供給量を変更した以外は、実施例1と同様にして軽油の製造を行った。
供給口S252に供給した軽質留分1’の流量、供給口S252に供給した重質留分1の流量を表1に示す。また、棚段塔5の塔底から得られた軽油の引火点、棚段塔5の塔頂付近の露点温度、棚段塔5の塔頂付近の温度、スチーム供給量を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
コントロールバルブV4を閉として、軽質留分1’の全てを、配管L51を通じて供給口S151より棚段塔5に供給し、スチーム供給量を変更した以外は、実施例1と同様にして軽油の製造を行った。
供給口S151に供給した軽質留分1’の流量、供給口S252に供給した重質留分1の流量を表1に示す。また、棚段塔5の塔底から得られた軽油の引火点、棚段塔5の塔頂付近の露点温度、棚段塔5の塔頂付近の温度、スチーム供給量を表1に示す。
【0069】
【0070】
実施例1では、スチームの供給量を減らすことが可能となり、かつ、塔頂付近の温度を塔頂付近の露点温度超として安定的に運転することが可能であった。比較例1では、塔頂付近の温度を塔頂付近の露点温度超として運転することが可能であったが、実施例1に比べ、大量のスチームを必要とした。比較例2では、比較例1に比べ、スチームの供給量を減らすことが可能であったが、塔頂付近の温度が塔頂付近の露点温度となり、長期間の運転は困難であった。
【0071】
本願発明では、軽質留分1’と重質留分1を別々の供給口から供給する。軽質留分1’を塔頂側の供給口から供給することにより、実質的に塔底側に軽質留分1’が含まれないため、効率的に蒸留を行うことができると考えられる。また、本発明では、軽質留分1’の一部を、重質留分1に混合して得られる混合留分を塔底側の供給口から供給することにより、前記軽質留分1’が塔頂に向かって蒸発していく際に、スチームを同伴し、塔頂付近の温度の低下が抑制されると考えられた。
本発明に係る蒸留方法は、沸点範囲の異なる2種類以上の留分を蒸留塔に供給し、蒸留することにより化学品を精製する蒸留方法において、必要なエネルギーを削減でき、かつ、安定的な運転が可能となるため有用である。