(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051529
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】寝返り支援用照明装置、照明システムおよび照明制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H05B 47/105 20200101AFI20240404BHJP
A61M 21/02 20060101ALI20240404BHJP
H05B 47/155 20200101ALI20240404BHJP
H05B 47/19 20200101ALI20240404BHJP
【FI】
H05B47/105
A61M21/02 B
A61M21/02 G
H05B47/155
H05B47/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157744
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】511168291
【氏名又は名称】ユウロピウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】藍 杏林
【テーマコード(参考)】
3K273
【Fターム(参考)】
3K273PA02
3K273QA13
3K273SA07
3K273SA40
3K273SA60
3K273TA15
3K273TA28
3K273TA38
3K273TA41
3K273TA52
3K273TA54
(57)【要約】
【課題】睡眠の質を損なうことなく、適切なタイミングで強制的に寝返りを打たせることが可能な製品を提供する。
【解決手段】
本発明にかかる照明装置11は、ベッドの頭部側左右に設置され、睡眠中の対象者に向けて光を照射する2つの照明部である右側照明部22aおよび左側照明部22bと、対象者の睡眠状態を示す信号を受信し、この信号を解析した結果として、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出した場合に、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射するための点灯制御を行う制御部21(照明制御部31を含む)と、を備える構成とした。そして、照明制御部31は、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出する度に、点灯制御を行う照明部を切り替えることとした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドの頭部側左右に設置され、睡眠中の対象者に向けて光を照射する2つの照明部である右側照明部および左側照明部と、
対象者の生体情報を示す信号を受信し、当該信号を解析した結果として生体情報の状態変化を検出した場合に、前記右側照明部および前記左側照明部のいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する点灯制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記状態変化を検出する度に、前記点灯制御を行う照明部を切り替える、
ことを特徴とする寝返り支援用照明装置。
【請求項2】
前記生体情報を、対象者の睡眠状態とし、
前記制御部は、前記生体情報の状態変化として、ノンレム睡眠への移行を検出した場合に前記点灯制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項3】
さらに、
光を照射するいずれか一方の照明部の情報を記憶する記憶部、
を備え、
前記制御部は、
ノンレム睡眠への移行を検出した場合に、前記記憶部から照明部の情報を読み出し、当該照明部に対して前記点灯制御を行う第1の工程と、
前記一定時間経過後に前記点灯制御を行った照明部を消灯する制御を行うとともに、次回の検出時に点灯する照明部の情報として、消灯した照明部の反対側に設置された照明部の情報を前記記憶部に記憶する第2の工程と、
を実行し、
その後、前記生体情報の状態変化として、目覚めの状態である覚醒ステージを検出するまで、ノンレム睡眠への移行を検出する度に、前記第1の工程および前記第2の工程を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項4】
前記生体情報を、対象者の睡眠状態とし、
前記制御部は、前記生体情報の状態変化として、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合に前記点灯制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項5】
さらに、
光を照射するいずれか一方の照明部の情報を記憶する記憶部、
を備え、
前記制御部は、
ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合に、前記記憶部から照明部の情報を読み出し、当該照明部に対して前記点灯制御を行う第1の工程と、
前記一定時間経過後に前記点灯制御を行った照明部を消灯する制御を行うとともに、次回の検出時に点灯する照明部の情報として、消灯した照明部の反対側に設置された照明部の情報を前記記憶部に記憶する第2の工程と、
を実行し、
その後、前記生体情報の状態変化として、目覚めの状態である覚醒ステージを検出するまで、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出する度に、前記第1の工程および前記第2の工程を実行する、
ことを特徴とする請求項4に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項6】
前記生体情報を、体温、心拍、脈波、脳波、呼吸、血圧または体動とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項7】
前記右側照明部および前記左側照明部と、前記制御部とを有線ケーブルで接続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項8】
前記右側照明部および前記左側照明部と、前記制御部とを近距離無線通信により接続する、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項9】
前記制御部を、前記右側照明部または前記左側照明部の内部に設ける、
ことを特徴とする請求項1に記載の寝返り支援用照明装置。
【請求項10】
請求項2~5のいずれか1つに記載の寝返り支援用照明装置と、
睡眠中の対象者の睡眠状態を計測可能なセンサーとして動作し、対象者の睡眠状態を示す信号を前記寝返り支援用照明装置に対して送信する計測装置と、
を備える、
ことを特徴とする照明システム。
【請求項11】
前記計測装置から前記寝返り支援用照明装置への信号送信を、近距離無線通信により行う、
ことを特徴とする請求項10に記載の照明システム。
【請求項12】
前記計測装置から前記寝返り支援用照明装置への信号送信を、配線接続による有線通信により行う、
ことを特徴とする請求項10に記載の照明システム。
【請求項13】
コンピュータとして動作する請求項3に記載の寝返り支援用照明装置の制御部に、
前記点灯制御を実行させるための照明制御プログラム。
【請求項14】
コンピュータとして動作する請求項5に記載の寝返り支援用照明装置の制御部に、
前記点灯制御を実行させるための照明制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠中に寝返りを打たせるための寝返り支援用照明装置、照明システムおよび照明制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人が寝返りをする基本的な理由は、同じ姿勢で寝ることによって体圧が集中する部位の負荷を軽減させるため、と考えられている。たとえば、寝返りを打たずに長時間同じ姿勢のまま寝続けていると、身体の同じ箇所ばかりに負荷がかかり、体圧が集中する部位は血液の循環が悪くなる。そして、上記負荷によって身体の歪みや腰痛、さらには床ずれ(褥瘡)等を発症することもある。一方で、寝返りを打つことで、体圧による負担が分散され、血流を改善することができるとともに、体の歪み、腰痛および床ずれ等を予防することも可能である。
【0003】
そこで、従来から、寝返りを促進するための製品として、たとえば、寝返りを打たせることが可能なベッドや寝返りをサポートする枕等の実用化が進められている。
【0004】
たとえば、下記特許文献1には、寝たきりの患者であっても自動的かつ安全に寝返りが打てるベッドが開示されている。このベッドは、本体の床部分を左右2部分に分割し、分割された左右2部分が水平に並んで1面の床部分を形成する。そして、この状態から分割部分にて折り曲げられて傾斜し得るように、左右2部分を分割線と略平行な軸回りに回転可能に形成する。左右2部分を回転駆動することにより、寝たきりの患者であっても自動的に横向きの姿勢をとることができ、寝返りを打たせることもできる。
【0005】
また、下記特許文献2には、寝返りを促す寝返りサポート枕が開示されている。この枕は、エアシート部と、エアシート部の上側に配置される枕部と、エアシート部と枕部とを重ねた状態でそれらを収納する袋状のピロケースで構成されている。そして、エアシート部には、エアが収納された複数のエア収納部が配置され、エア収納部間は、エアが移動可能となるように内部が相互に連通している。これにより、使用者が頭部を動かすと、その頭部の動きに合わせてエア収納部間でエアの移動が起こり、そのエアの移動が寝返りを促すことになる。
【0006】
なお、一般的には、ベッドの上で姿勢を変えることができる人(自分で寝返りを打てる人)に上記身体の歪みや腰痛が発症している場合は、寝返りをしていないかあるいは寝返りの回数が少ないことが原因の発症である可能性があるため、たとえば、寝返りを促す枕等の簡易な製品(たとえば、特許文献2に記載された寝返りサポート枕)が適している。一方、身体を動かすことができない人(自分で寝返りを打てない人)は、枕等の簡易な製品よりも、強制的に寝返りを打たせることで体圧分散効果が得られるベッド等の製品(たとえば、特許文献1に記載されたベッド)が適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-65760号公報
【特許文献2】特開2021-29707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
たとえば、ベッドの上で姿勢を変えることができる人であっても、睡眠中に寝返りを打たずに長時間同じ姿勢のまま寝続けていると、身体の同じ箇所ばかりに負荷がかかり、体圧が集中する部位は血液の循環が悪くなって痺れることがある。また、病気や怪我等で長時間に渡ってベッドでの生活を強いられる場合等には、たとえば、寝返りの回数が少ないこと(寝返りをしていない場合を含む)による身体への負荷が原因で、身体の歪みや腰痛等を発症することもある。
【0009】
一方、睡眠には、レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)があり、一晩の睡眠は、これらの睡眠を交互に繰り返すことで構成され、質の高い眠りにはこの繰り返しが重要である。そして、睡眠中に行われる無意識行動(自然)の寝返りは、レム睡眠のときよりもノンレム睡眠のときの方が多い。この睡眠中に行われる寝返りにより、疲れやストレスの残っている部位や体圧が集中する部位が回復し、睡眠の質が向上する。
【0010】
そのため、睡眠中に強制的に行わせる寝返りを、自然の寝返りと同様に、できるだけノンレム睡眠のときに強制的に打たせることができれば、睡眠の質を損なうことなく、上記寝返りの頻度(回数)が原因で発症した身体の歪みや腰痛等を改善することができる。
【0011】
しかしながら、睡眠中に、たとえば、上記特許文献1に記載のベッドで強制的に寝返りを行わせると、ベッドを操作する人(介護者等)には寝ている人の正確な睡眠周期がわからず、ノンレム睡眠のタイミングを認識することができないことから、たとえば、ベッド操作のタイミングがレム睡眠(浅い眠り)のときには強制的に睡眠が中断され、睡眠の質が損なわれる、という問題があった。また、上記特許文献2に記載の枕については、頭部の動きに合わせてエアが移動する力を利用して、寝返りをし易くサポートするものあって、睡眠中の強制的な寝返りや、睡眠中の寝返りのタイミングおよび回数等、をコントロールすることによって睡眠の質を向上させるものではない。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、睡眠の質を損なうことなく、適切なタイミングで強制的に寝返りを打たせることが可能な製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる寝返り支援用照明装置は、ベッドの頭部側左右に設置され、睡眠中の対象者に向けて光を照射する2つの照明部である右側照明部および左側照明部と、対象者の生体情報を示す信号を受信し、当該信号を解析した結果として生体情報の状態変化を検出した場合に、前記右側照明部および前記左側照明部のいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する点灯制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記状態変化を検出する度に、前記点灯制御を行う照明部を切り替えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置においては、前記生体情報を対象者の睡眠状態とし、前記制御部は、前記生体情報の状態変化として、ノンレム睡眠への移行を検出した場合に前記点灯制御を行うことが望ましい。
【0015】
すなわち、本発明にかかる寝返り支援用照明装置によれば、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が低いノンレム睡眠のときに、右側照明部および左側照明部のいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する。そして、対象者は、照射された光による刺激を回避する行動として、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。これにより、睡眠の質を損なうことなく、適切なタイミングで強制的に対象者に寝返りを打たせることができる。
【0016】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置は、さらに、光を照射するいずれか一方の照明部の情報を記憶する記憶部を備えることとした。そして、前記制御部は、ノンレム睡眠への移行を検出した場合に、前記記憶部から照明部の情報を読み出し、当該照明部に対して前記点灯制御を行う第1の工程と、前記一定時間経過後に前記点灯制御を行った照明部を消灯する制御を行うとともに、次回の検出時に点灯する照明部の情報として、消灯した照明部の反対側に設置された照明部の情報を前記記憶部に記憶する第2の工程と、を実行し、その後、前記生体情報の状態変化として、目覚めの状態である覚醒ステージを検出するまで、ノンレム睡眠への移行を検出する度に、前記第1の工程および前記第2の工程を実行することとした。
【0017】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置においては、前記生体情報を対象者の睡眠状態とし、前記制御部は、前記生体情報の状態変化として、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合に前記点灯制御を行うことが望ましい。
【0018】
すなわち、本発明にかかる寝返り支援用照明装置によれば、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が比較的低い状態である、ノンレム睡眠からレム睡眠への以降時に、右側照明部および左側照明部のいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する。そして、対象者は、照射された光による刺激を回避する行動として、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。これにより、適切なタイミングで強制的に対象者に寝返りを打たせることができる。
【0019】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置は、さらに、光を照射するいずれか一方の照明部の情報を記憶する記憶部を備えることとした。そして、前記制御部は、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合に、前記記憶部から照明部の情報を読み出し、当該照明部に対して前記点灯制御を行う第1の工程と、前記一定時間経過後に前記点灯制御を行った照明部を消灯する制御を行うとともに、次回の検出時に点灯する照明部の情報として、消灯した照明部の反対側に設置された照明部の情報を前記記憶部に記憶する第2の工程と、を実行し、その後、前記生体情報の状態変化として、目覚めの状態である覚醒ステージを検出するまで、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出する度に、前記第1の工程および前記第2の工程を実行することとした。
【0020】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置においては、前記生体情報を、体温、心拍、脈波、脳波、呼吸、血圧または体動とすることが望ましい。
【0021】
また、本発明にかかる寝返り支援用照明装置は、前記右側照明部および前記左側照明部と前記制御部とを有線ケーブルで接続すること、または、前記右側照明部および前記左側照明部と前記制御部とを近距離無線通信により接続すること、が望ましい。さらに、前記制御部を、前記右側照明部または前記左側照明部の内部に設けることとしてもよい。
【0022】
また、本発明にかかる照明システムは、前記寝返り支援用照明装置と、睡眠中の対象者の睡眠状態を計測可能なセンサーとして動作し、対象者の睡眠状態を示す信号を前記寝返り支援用照明装置に対して送信する計測装置と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる照明システムは、前記計測装置から前記寝返り支援用照明装置への信号送信を近距離無線通信により行うこと、または、前記計測装置から前記寝返り支援用照明装置への信号送信を配線接続による有線通信により行うこと、が望ましい。
【0024】
また、本発明にかかる照明制御プログラムは、コンピュータとして動作する前記寝返り支援用照明装置の制御部に前記点灯制御を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる寝返り支援用照明装置によれば、睡眠の質を損なうことなく、適切なタイミングで強制的に寝返りを打たせることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明にかかる照明システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかる照明システムのイメージの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、制御部として動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、照明制御処理の一例(第1の実施形態)を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、照明制御処理の一例(第2の実施形態)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかる寝返り支援用照明装置、照明システムおよび照明制御プログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0028】
<第1の実施形態>
本発明にかかる寝返り支援用照明装置、照明システムおよび照明制御プログラムの第1の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
<システム構成>
図1は、本発明にかかる照明システムの全体構成の一例を示す図である。本実施形態の照明システム1は、制御部21の制御に従い、ベッドの頭部側左右に設置された右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から睡眠中の人(以後、対象者と呼ぶ)に向けて光を照射する寝返り支援用照明装置11(以下、単に照明装置11と呼ぶ)と、対象者の睡眠状態を計測する計測装置12と、を備え、照明装置11は、たとえば、対象者の睡眠状態がノンレム睡眠のときに、その対象者に向けて光を照射する。なお、右側照明部22aおよび左側照明部22bについては、説明の便宜上、単に「照明部」と呼ぶ場合もある。
【0030】
ここで、ノンレム睡眠のときに対象者に向けて光を照射する理由を説明する。睡眠には、睡眠周期(ウルトラディアンリズム)と呼ばれるサイクルがあり、この睡眠周期は、浅い眠りとされるレム睡眠と深い眠りとされるノンレム睡眠で構成されている。さらに、ノンレム睡眠には、ステージ(1)~(4)に分類される睡眠の段階がある。一晩の睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠(各ステージを含む)とを繰り返すことで構成され、質の高い眠りにはこの繰り返しが重要であると考えられている。たとえば、より深い眠りとされるステージ(3)や(4)の眠りが常に続くような睡眠や、レム睡眠が常に続くような睡眠は、よい睡眠とは言えない。
図2は、睡眠周期の一例を示す図である。
図2に示すように、睡眠周期の1つのサイクル(1周期)は約90分~120分であり、このサイクルを一晩で4サイクルから5サイクル(6時間~10時間程度)に渡って繰り返し、その後、目を覚ます(睡眠周期の終了)。
【0031】
また、
図2において、レム睡眠は、身体の運動機能が制止している状態であって、かつ脳が覚醒している状態である。すなわち、レム睡眠は、身体は眠っているが脳は活動している、目覚めの一歩手前の状態(浅い眠りの状態)であるため、この睡眠状態のときに対象者に強制的に寝返りを打たせると、睡眠が中断される(目覚める)可能性が高い。
【0032】
一方、ノンレム睡眠中は、心拍数および呼吸数は安定し、深くゆったりとした呼吸となり、深い眠りの状態であるため、たとえば、物音が発せられたり、身体を揺さぶられたりしても、目覚める可能性は低い。そして、睡眠中に行われる無意識行動(自然)の寝返りは、レム睡眠のときよりもノンレム睡眠のときの方が多いことが知られている。具体的には、ノンレム睡眠のステージ(3)または(4)の時間帯、およびレム睡眠に移行する前のノンレム睡眠中、等に寝返りが打たれる。これにより、疲れやストレスが残っている部位や体圧が集中する部位が回復し、睡眠の質が向上する。
【0033】
そこで、本実施形態の照明システム1において、照明装置11は、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が低いノンレム睡眠のときに、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する。これにより、対象者は、光による刺激を回避するために、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。すなわち、本実施形態においては、睡眠の質を損なうことなく(睡眠を中断することなく)、睡眠中の寝返りを、自然の寝返りと同様に、ノンレム睡眠のときに強制的に打たせることができる。
【0034】
図3は、本実施形態の照明システム1のイメージの一例を示す模式図である。本実施形態において、照明装置11は、一例として、ベッドの頭部側左右の端部にそれぞれ取り付けられた右側照明部22aおよび左側照明部22bが、所定の台の上に配置された制御部21に有線ケーブルで接続されている。また、本実施形態の計測装置12は、帯状シートに形成されたセンサーであり、ベッド上に敷かれたマット(敷布団)の下に敷設する。この状態で、制御部21は、計測装置12から送られてくる対象者(図示せず)の睡眠状態を示す信号(以後、睡眠状態信号と呼ぶ)を解析し、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出した場合に、左右のいずれか一方の照明部(右側照明部22aまたは左側照明部22b)から対象者に向けて光を照射し、一定時間経過後に消灯する制御を行う。その後、制御部21は、睡眠周期においてつぎのサイクルのノンレム睡眠(レム睡眠からノンレム睡眠への移行)を検出した場合に、前回と反対側の他方の照明部から(たとえば、前回光を照射した照明部が右側照明部22aの場合は、その反対に設置された左側照明部22bから)対象者に向けて光を照射し、一定時間経過後に消灯する制御を行う。その後、制御部21は、睡眠周期が終了するまで(睡眠周期が終了する4サイクルから5サイクルの期間)、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出する度に、点灯する照明部を切り替えて対象者に向けて光を照射する。このように、本実施形態の照明装置11は、左右の照明部を交互に点灯する動作を繰り返し実行する。
【0035】
また、本実施形態の照明システム1において、計測装置12から照明装置11への睡眠状態信号の送信は、たとえば、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の近距離無線通信により行われる。そして、上記無線通信機能を搭載する計測装置12としては、たとえば、既知のベッドセンサーが使用可能である。このベッドセンサーは、たとえば、ベッド上に敷かれたマットの下に敷設し対象者がベッド上に横臥するだけで、呼吸数、心拍数、睡眠の深さ(上記睡眠状態に相当)を計測できる帯状シートに形成されたセンサーであり、このセンサーが計測した情報は、上記睡眠状態信号としてBluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)を利用して送信される。本実施形態の照明装置11において、制御部21は、受信した睡眠状態信号から睡眠状態(睡眠の深さ)を解析し、睡眠周期における1つのサイクル内でレム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出した場合に、いずれか一方の照明部を一定時間だけ点灯する制御を実行する。
【0036】
なお、本実施形態においては、計測装置12の一例として既知のベッドセンサーを使用することとしたが、これに限るものではなく、睡眠状態(睡眠周期)に関する情報を通知可能であれば、どのようなセンサー(装置)を使用することとしてもよい。たとえば、腕に巻き付けるタイプのベルト状のセンサーであってもよいし、頭部に装着するタイプのセンサーであってもよい。また、本実施形態においては、計測装置12から照明装置11への睡眠状態信号の送信を近距離無線通信により行うこととしたが、これに限るものではなく、たとえば、配線接続による有線通信により行うこととしてもよい。
【0037】
また、計測装置12から照明装置11へ通知する情報は、上記睡眠状態に関する情報に限らず、たとえば、心拍、脈波、脳波、呼吸、体動等の情報のいずれか、またはそれらの情報のいくつか、を生体情報として照明装置11へ通知することとしてもよい。この場合は、制御部21が、受け取った生体情報に基づいて睡眠状態(睡眠周期)を判定する。上記生体情報に基づいて睡眠状態を判定する方法は、従来から各種提案されており、どのような方法を用いてもよい。
【0038】
また、本実施形態の照明装置11においては、右側照明部22aおよび左側照明部22bと、制御部21とを、
図3に示すように有線ケーブルで接続することとしたが、これに限るものではなく、近距離無線通信を利用して接続することとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態の照明装置11においては、右側照明部22aおよび左側照明部22bと、制御部21とを、
図3に示すように有線ケーブルで接続することで一体型に形成したが、これに限るものではなく、右側照明部22aと左側照明部22bを有線または無線にて接続し、制御部21を、右側照明部22aまたは左側照明部22bの内部に設けることとしてもよい。
【0040】
<制御部の構成>
つづいて、本実施形態の照明装置11を制御する制御部21の構成を具体的に説明する。
図4は、制御部21として動作するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図4において、制御部21は、CPU(Central Processing Unit)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等で構成される照明制御部31と、ROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等の各種メモリを含む記憶部32と、所定のネットワークを介して外部と通信を行う通信部33とを備える。
【0041】
図4において、照明制御部31は、本実施形態の照明装置11による照明制御処理を実現するために、たとえば、睡眠状態に応じて照明を制御する照明制御プログラムを実行する。記憶部32は、本実施形態の照明制御処理にかかるプログラム(照明制御プログラム)および各種情報(睡眠状態の情報等)や、処理の過程で得られた各種データ等を記憶する。照明制御部31では、記憶部32に記憶されている照明制御プログラムを読み出すことにより、本実施形態の照明制御処理を実行する。なお、本実施形態の照明制御部31のハードウェア構成は、説明の便宜上、本実施形態の照明制御処理にかかわる構成を列挙したものであり、照明制御部31を構成するコンピュータのすべての機能を表現したものではない。
【0042】
<照明制御処理>
つづいて、本実施形態の照明装置11における照明制御部31による照明制御処理を詳細に説明する。なお、本実施形態においては、ベッド上に敷設された計測装置12が動作中(電源ON状態)であることを前提とする。
【0043】
図5は、照明制御部31による照明制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5において、照明制御部31は、照明装置11の電源ONで(ステップS1)、計測装置12から送られてくる信号の待ち受け状態に移行し、対象者がベッド上に横臥した時点から、通信部33を介した睡眠状態信号の受信を開始する。
【0044】
計測装置12と照明装置11の間で睡眠状態信号の送受信が開始されると、照明制御部31は、通信部33を介して受信した信号を解析し、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出する処理を行う(ステップS2,No)。
【0045】
ステップS2において、たとえば、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出した場合(ステップS2,Yes)、照明制御部31は、現サイクルにおいて点灯するいずれか一方の照明部(右側照明部22aまたは左側照明部22b)の情報、予め設定済みの点灯時間の情報、および光の強度(輝度)の情報等の各種情報を、記憶部32から読み出す(ステップS3)。なお、現サイクルが睡眠周期の1サイクル目の場合には、点灯するいずれか一方の照明部の情報として、予め設定済みの初期設定情報(初期情報として設定された右側照明部22aまたは左側照明部22bの情報)を読み出す。本実施形態では、初期設定情報として、たとえば、右側照明部22aの情報が記憶部32に設定されている場合を想定する。
【0046】
記憶部32から各種情報を読み出した照明制御部31は、設定された強度で、設定された点灯時間だけ点灯するように、右側照明部22aに対する調光制御を行う(ステップS4)。そして、照明制御部31は、設定された点灯時間経過後に右側照明部22aを消灯する制御を行うとともに、次回のサイクルにおいて点灯する照明部の情報として、右側照明部22aの反対側に設置された左側照明部22bの情報を記憶部32に記憶する(ステップS5)。その後、上記ステップS2と同様の処理で、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出する処理を行う(ステップS6,No、ステップS7,No)。
【0047】
ステップS6において、たとえば、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出した場合(ステップS6,Yes)、照明制御部31は、前回のサイクルの点灯時において記憶した左側照明部22bの情報、予め設定済みの点灯時間の情報、および光の強度(輝度)の情報等の各種情報を、記憶部32から読み出し(ステップS3)、上記同様、ステップS4およびステップS5の処理を実行する。この際、照明制御部31は、次回のサイクルにおいて点灯する照明部の情報として、左側照明部22bの反対側に設置された右側照明部22aの情報を記憶部32に記憶する(ステップS5)。
【0048】
以降、照明制御部31は、通信部33を介して受信した信号を解析し、睡眠周期における覚醒ステージ(目覚めの状態)への移行を検出するまで(ステップS6,No,ステップS7,Yes)、レム睡眠からノンレム睡眠への移行を検出する度に(ステップS6,Yes)、記憶部32に記憶する照明部の情報を交互に書き換えながらステップS3からステップS7の処理を繰り返し実行する。
【0049】
上記制御により、本実施形態の照明装置11は、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が低いノンレム睡眠のときに、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて光を照射することが可能となる。そして、対象者は、照射された光による刺激を回避する行動として、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。
【0050】
<効果>
以上のように、本実施形態の照明装置11は、ベッドの頭部側左右に設置され、睡眠中の対象者に向けて光を照射する2つの照明部である右側照明部22aおよび左側照明部22bと、対象者の睡眠状態を示す信号を受信し、この信号を解析した結果として、ノンレム睡眠への移行を検出した場合に、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射するための点灯制御を行う制御部21(照明制御部31を含む)と、を備える構成とした。そして、照明制御部31は、ノンレム睡眠への移行を検出する度に、点灯制御を行う照明部を切り替えることとした。すなわち、本実施形態の照明システム1において、照明装置11は、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が低いノンレム睡眠のときに、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて一定時間にわたって光を照射する。そして、対象者は、照射された光による刺激を回避する行動として、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。これにより、睡眠の質を損なうことなく、適切なタイミングで強制的に寝返りを打たせることができる。
【0051】
なお、本実施形態においては、ノンレム睡眠への移行をトリガーとして上記点灯制御を行うこととしたが、これに限るものではなく、たとえば、ノンレム睡眠のステージ(1)~(4)のうちのいずれか1つの段階への移行をトリガーとして上記点灯制御を行うこととしてもよい。
【0052】
<第2の実施形態>
つづいて、本発明にかかる寝返り支援用照明装置、照明システムおよび照明制御プログラムの第2の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、第2の実施形態のシステム構成および制御部の構成については、前述した第1の実施形態と同様であるため(
図1~
図4参照)、同一の符号を付しそれらの説明を省略する。本実施形態においては、前述した第1の実施形態と異なる処理について説明する。
【0053】
本実施形態の照明システム1は、照明装置11と計測装置12とを備え、照明装置11は、たとえば、対象者の睡眠状態がレム睡眠のときに、その対象者に向けて光を照射する。
【0054】
具体的には、制御部21が、計測装置12から送られてくる対象者の睡眠状態を示す信号(睡眠状態信号)を解析し、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合に、左右のいずれか一方の照明部(右側照明部22aまたは左側照明部22b)から対象者に向けて光を照射し、一定時間経過後に消灯する制御を行う。その後、制御部21は、睡眠周期においてつぎのサイクルのレム睡眠(ノンレム睡眠からレム睡眠への移行)を検出した場合に、前回と反対側の他方の照明部から(たとえば、前回光を照射した照明部が右側照明部22aの場合は、その反対に設置された左側照明部22bから)対象者に向けて光を照射し、一定時間経過後に消灯する制御を行う。その後、制御部21は、睡眠周期が終了するまで(睡眠周期が終了する4サイクルから5サイクルの期間)、レム睡眠への移行を検出する度に、点灯する照明部を切り替えて対象者に向けて光を照射する。このように、本実施形態の照明装置11は、強制的に寝返りを打たせても対象者が目覚める可能性が比較的低い状態である、ノンレム睡眠からレム睡眠への以降時に、左右の照明部を交互に点灯する動作を繰り返し実行する。
【0055】
<照明制御処理>
つづいて、第2の実施形態の照明装置11における照明制御部31による照明制御処理を詳細に説明する。なお、本実施形態においては、ベッド上に敷設された計測装置12が動作中(電源ON状態)であることを前提とする。
【0056】
図6は、照明制御部31による照明制御処理の一例を示すフローチャートである。
図6において、照明制御部31は、対象者がベッド上に横臥した時点から、通信部33を介した睡眠状態信号の受信を開始し、睡眠状態信号を解析し、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出する処理を行う(ステップS11,No)。
【0057】
ステップS11において、たとえば、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出した場合(ステップS11,Yes)、照明制御部31は、前述した第1の実施形態と同様に、ステップS3~S5の処理を実行する。
【0058】
以降、照明制御部31は、通信部33を介して受信した睡眠状態信号を解析し、睡眠周期における覚醒ステージ(目覚めの状態)への移行を検出するまで(ステップS12,No,ステップS7,Yes)、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行を検出する度に(ステップS12,Yes)、記憶部32に記憶する照明部の情報を交互に書き換えながらステップS3~S5、S12およびS7の処理を繰り返し実行する。
【0059】
上記制御により、本実施形態の照明装置11は、レム睡眠のときに、右側照明部22aおよび左側照明部22bのいずれか一方から対象者に向けて光を照射することが可能となる。そして、対象者は、照射された光による刺激を回避する行動として、照射される光とは逆方向に向かって寝返りを打つ。
【0060】
<変形例>
前述した第1の実施形態および第2の実施形態においては、制御部21が、計測装置12から送られてくる生体情報の1つとして、対象者の睡眠状態を示す信号(睡眠状態信号)を解析し、ノンレム睡眠への移行またはレム睡眠への移行を検出する度に、頭部側左右に設置された照明部を切り替え、交互に点灯制御を行っていた。しかしながら、本発明にかかる照明システム1および照明装置11においては、上記制御に限るものではなく、たとえば、睡眠中に計測装置12から送られてくる睡眠状態信号以外の生体情報(体温、心拍、脈波、脳波、呼吸、血圧または体動)を解析し、解析結果として得られる状態変化のタイミングで、上記同様、照明部を切り替え、交互に点灯制御を行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 照明システム
11 寝返り支援用照明装置(照明装置)
12 計測装置
21 制御部
22a 右側照明部
22b 左側照明部
31 照明制御部
32 記憶部
33 通信部