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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051540
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】光学積層体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20240404BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20240404BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240404BHJP
   G06K 19/06 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G02B5/00 A
G02B5/26
G06K19/06 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157759
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】葛田 真郷
(72)【発明者】
【氏名】沼田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】松田 祥一
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA16
2H042AA21
2H042BA02
2H042BA16
2H148FA09
2H148FA16
2H148FA22
2H148FA24
(57)【要約】
【課題】種々の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置しても、赤外線でパターンを読み取りすることが可能な光学積層体を提供する。
【解決手段】
光学積層体100Aは、第1主面S1と、第1主面の反対側の第2主面S2を有する光学積層体であって、赤外線を透過し、可視光を反射する光学フィルタ層110と、可視光を拡散する拡散層120とを有し、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に第2主面を配置したとき、第1主面側から、赤外線でパターンを読み取ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面を有する光学積層体であって、
赤外線を透過し、可視光を反射する光学フィルタ層と、
可視光を拡散する拡散層と
を有し、
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、光学積層体。
【請求項2】
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が10%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が1%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項4】
近赤外後方散乱率が10%未満である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項5】
近赤外前方散乱率が9%以上である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項6】
赤外線を透過し、可視光を吸収する可視光吸収層をさらに有する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記光学フィルタ層の前記第1主面側に配置された加飾層をさらに有する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項8】
前記拡散層は粒子を有する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項9】
可視光後方散乱率が30%以上、かつ、可視光前方散乱率が5%以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項10】
前記光学フィルタ層は、可視光透過性反射層を有する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項11】
前記光学フィルタ層は、標準光をD65光源としたときのCIE1931色度図上のx、y座標がそれぞれ0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40の範囲内にある、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項12】
前記光学フィルタ層は760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対し60%以上の直線透過率を有する、請求項11に記載の光学積層体。
【請求項13】
前記光学フィルタ層は、マトリクスと、前記マトリクス中に分散された光散乱体となる微粒子とを有する、請求項11に記載の光学積層体。
【請求項14】
前記微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成している、請求項11に記載の光学積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バーコード、QRコード(登録商標)、ArUco、カメレオンコードなどのAR(Augmented Reality:拡張現実)マーカーが種々の用途に用いられている(例えば、特許文献1)。ARマーカーは通常、利用者が見える位置に設けられるので、ARマーカーが設けられた物(印刷物など)の外観、意匠を損なうことになる。
【0003】
また、ARマーカーには不特定の人間がアクセスできるので、例えば秘密の情報を伝達する目的では利用できない。
【0004】
特許文献2、3には、赤外線を吸収または反射するトナーを用いることによって、可視光で視認できる画像と重ねて、可視光では視認されにくい画像を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-224485号公報
【特許文献2】特開2018-132720号公報
【特許文献3】特開2020-154305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2、3に記載の方法は、可視光で視認できる画像と重ねて、可視光では視認されにくい画像を形成するので、汎用性が低い。また、赤外線を吸収または反射するトナーは完全に透明ではないため、可視光で視認できる画像と組み合わせる際、図柄が限られてしまう。また、例えば、全面が白い場合に用いることが出来ないという課題がある。
【0007】
また、赤外線を吸収または反射するトナー(またはインク)を用いて形成されたパターン(例えばARマーカー)は、紙などの記録媒体層だけでなく、物品の表面、建築部材(例えば、壁、床、窓)にも形成され得る。本発明者の検討によると、赤外線を吸収または反射するトナーで形成されたパターンは、パターンを形成する下地によっては、読み取れないことがある。
【0008】
そこで、本発明は、種々の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置しても、赤外線でパターンを読み取りすることが可能な光学積層体を提供することを目的とする。本発明は、さらに、パターンを目視で視認されにくし、多様な意匠の付与を可能とする光学積層体を提供することを目的とする。
【0009】
なお、本明細書において、赤外線で読み取り可能なパターンは、例示したARマーカーに限られず、絵、文字、模様、色などを含む一般的な意匠全般を含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段が提供される。
[項目1]
第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面を有する光学積層体であって、
赤外線を透過し、可視光を反射する光学フィルタ層と、
可視光を拡散する拡散層と
を有し、
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、光学積層体。
[項目2]
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が10%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、項目1に記載の光学積層体。
[項目3]
波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が1%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に前記第2主面を配置したとき、前記第1主面側から、赤外線で前記パターンを読み取ることができる、項目1に記載の光学積層体。
[項目4]
近赤外後方散乱率が10%未満である、項目1から3のいずれかに記載の光学積層体。
[項目5]
近赤外前方散乱率が9%以上である、項目1から4のいずれかに記載の光学積層体。
[項目6]
赤外線を透過し、可視光を吸収する可視光吸収層をさらに有する、項目1から5のいずれかに記載の光学積層体。
[項目7]
前記光学フィルタ層の前記第1主面側に配置された加飾層をさらに有する、項目1から6のいずれかに記載の光学積層体。
[項目8]
前記拡散層は粒子を有する、項目1から7のいずれかに記載の光学積層体。
[項目9]
可視光後方散乱率が30%以上、かつ、可視光前方散乱率が5%以下である、項目1から8のいずれかに記載の光学積層体。
[項目10]
前記光学フィルタ層は、可視光透過性反射層を有する、項目1から9のいずれかに記載の光学積層体。
[項目11]
前記光学フィルタ層は、標準光をD65光源としたときのCIE1931色度図上のx、y座標がそれぞれ0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40の範囲内にある、項目1から9のいずれかに記載の光学積層体。
[項目12]
前記光学フィルタ層は760nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対し60%以上の直線透過率を有する、項目11に記載の光学積層体。
[項目13]
前記光学フィルタ層は、マトリクスと、前記マトリクス中に分散された光散乱体となる微粒子とを有する、項目11または12に記載の光学積層体。
[項目14]
前記微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成している、項目11から13のいずれか1項に記載の光学積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によると、種々の表面に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置することによって、多様な意匠の付与を可能とする光学積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態による光学積層体100Aの模式的な断面図である。
図2】本発明の実施形態による光学積層体100Bの模式的な断面図である。
図3】本発明の実施形態による光学積層体100Cの模式的な断面図である。
図4】赤外線で読み取り可能なパターン12pの例を示す平面図である。
図5】光学フィルタ層110の模式的な断面図である。
図6】光学フィルタ層110の断面TEM像の例を示す図である。
図7】最大透過率で規格化したグラフであり、光学フィルタ層110の直線透過率スペクトルの入射角依存性の例を示す図である。
図8】本発明の実施形態による光学積層体の光学特性を説明するための模式図である。
図9】光学積層体の拡散透過率の測定方法を示す模式図である。
図10】光学積層体の直線透過率の測定方法を示す模式図である。
図11】光学積層体の反射率の測定方法を示す模式図である。
図12】光学積層体の後方散乱率の測定方法を示す模式図である。
図13】QRコードの赤外線読み取り性の評価方法を示す模式図である。
図14A】比較例2の光学積層体の光学像である。
図14B】比較例2の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像である。
図15A】比較例4の光学積層体の光学像である。
図15B】比較例4の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像である。
図16A】実施例10の光学積層体の光学像である。
図16B】実施例10の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による光学積層体を説明する。本発明の実施形態による光学積層体は、以下で例示するものに限定されない。
【0014】
図1に本発明の実施形態による光学積層体100Aの模式的な断面図を示す。光学積層体100Aは、第1主面(前面)S1と、第1主面S1の反対側の第2主面(背面)S2を有し、赤外線を透過し、可視光を反射する光学フィルタ層110と、可視光を拡散する拡散層120とを有している。光学フィルタ層110と拡散層120との配置関係は、上下逆でもよい。
【0015】
図2に本発明の実施形態による光学積層体100Bの模式的な断面図を示す。光学積層体100Bは、光学フィルタ層110および拡散層120に加え、赤外線を透過し、可視光を吸収する可視光吸収層130をさらに有する。可視光吸収層130は、例えば、赤外線透過黒色層である。また、拡散層120と可視光吸収層130との配置関係は、上下逆でもよい。ただし、可視光吸収層130を第2主面S2側に配置した方が、下地の視認できるパターンを隠す効果が高くなる。
【0016】
図3に本発明の実施形態による光学積層体100Cの模式的な断面図を示す。光学積層体100Cは、光学フィルタ層110および拡散層120に加え、光学フィルタ層110の第1主面側に配置された加飾層140を有する。加飾層140を有すると、例えば、赤外線で読み取り可能なパターンをそれが付与された物の外観、意匠を損なうことなく、視認できないようにできる。加飾層140は、絵、文字、模様、色などの意匠を有し得る。
【0017】
光学積層体100A、100B、100Cは、必要に応じて、光学フィルタ層110、拡散層120、可視光吸収層130および加飾層140の隣接する層の間に透明な光学接着剤層を設けてもよい。光学積層体100A、100B、100Cは、さらに、第1主面S1側に、表面保護層をさらに有してもよい。表面保護層は、例えば、ハードコート層、防汚層、反射防止層、および/または防眩層であってよく、単層または2以上の層を積層してもよい。
【0018】
後に実験例を示すように、本発明の実施形態による光学積層体100A、100B、100Cは、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に第2主面S2を配置したとき、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができる。一方、比較例の光学積層体は、波長が850nmの赤外線の反射率が高い紙などの下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に第2主面S2を配置したときには、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができるが、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に配置したとき、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができない。
【0019】
本発明の実施形態による光学積層体100A、100B、100Cは、さらに、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が10%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンであっても、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が1%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンであっても、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができる。すなわち、本発明の実施形態による光学積層体100A、100B、100Cは、種々の下地の上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に配置することによって、多様な意匠を付与することができる。
【0020】
下地に形成される赤外線で読み取り可能なパターンは、例えば図4に平面図を示すパターン12pのような、QRコードなどのARマーカーなど、情報を含むパターンであってもよいし、一般的な意匠(例えば、絵、文字、模様、色を含む)であってもよい。光学積層体100A、100B、100Cは、典型的には、シート状である。ここで、「シート状」は、板状またはフィルム状を含む意味に用い、シートの剛性(柔軟性)および厚さを問わない。
【0021】
図4に、赤外線で読み取り可能なパターン12pの例として、QRコードの平面図を示す。パターン12pは、例えば、赤外線吸収インクで形成されている。赤外線吸収インクは、例えば、カーボン、油性インク、染料または顔料を含むインクで、市販されているものを広く利用できる。あるいは、パターン12pは、再帰反射性インク(例えば、株式会社小松プロセス製、再帰反塗料ブライトコート水性Nタイプ)で形成され得る。また、プリズム型の再帰性反射シート(日本カーバイド工業株式会社製、Nikkalite クリスタルグレード CRG-CFシリーズ)やビーズ型の再帰性反射シート(日本カーバイド工業株式会社製、Nikkalite RSシリーズ)から、パターン12pに対応する部分を切り抜くことによって作製され得る。また、再帰性反射シート上に赤外線吸収インクを印刷することによって、パターン12pを形成してもよい。
【0022】
光学フィルタ層110としては、図5図6および図7を参照して説明する様に、本出願人による国際公開第2021/187430号に記載の光学フィルタを光学フィルタ層110として好適に用いるが、これに限られず、赤外線の直進透過率が高く、可視光の拡散透過率が比較的低い光学フィルタを用いることができる。なお、本明細書において、「赤外線」は、波長が760nm以上2000nm以下の範囲内の光(電磁波)を少なくとも含むものとする。また、「可視光」は400nm以上760nm未満の範囲内の光をいう。
【0023】
次に、図5図6および図7を参照して、光学フィルタ層110の詳細を説明する。
【0024】
本発明の実施形態による光学積層体に好適に用いられる光学フィルタ層110は、マトリクスと、マトリクス中に分散された微粒子とを含む光学フィルタ層110であって、微粒子は、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成しており、780nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線透過率が60%以上である。例えば、波長が950nmおよび1550nmの光に対する直線透過率が60%以上の光学フィルタ層110を得ることができる。光学フィルタ層110の直線透過率が60%以上である光(近赤外線)の波長範囲は、例えば810nm以上1700nm以下であることが好ましく、840nm以上1650nm以下であることがさらに好ましい。ここで、マトリクスおよび微粒子はともに、可視光に対して透明(以下、単に「透明」という。)であることが好ましい。光学フィルタ層110は、白色を呈し得る。
【0025】
光学フィルタ層110は、コロイドアモルファス集合体を含む。コロイドアモルファス集合体とは、コロイド粒子(粒径1nm~1μm)の集合体で、長距離秩序を有さず、ブラッグ反射を起こさない集合体をいう。コロイド粒子が長距離秩序を有するように分布すると、いわゆるコロイド結晶(フォトニック結晶の一種)となり、ブラッグ反射が起きるのと対照的である。すなわち、光学フィルタ層110が有する微粒子(コロイド粒子)は、回折格子を形成しない。
【0026】
光学フィルタ層110が含む微粒子は、平均粒径が赤外線の波長の10分の1以上の単分散の微粒子を含む。すなわち、波長が780nm以上2000nm以下の範囲内の赤外線に対して、微粒子の平均粒径は少なくとも80nm以上であることが好ましく、150nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。平均粒径が異なる2以上の単分散の微粒子を含んでもよい。個々の微粒子はほぼ球形であることが好ましい。なお、本明細書において、微粒子(複数)は、微粒子の集合体の意味でも用い、単分散の微粒子とは、変動係数(標準偏差/平均粒径を百分率で表した値)が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは1~5%のものをいう。光学フィルタ層110は、粒径(粒子直径、体積球相当径)が波長の10分の1以上の粒子を利用することで、赤外線の直線透過率を高くする。
【0027】
平均粒径は、ここでは、3次元SEM像に基づいて求めた。具体的には、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(以下、「FIB-SEM」という。)として、FEI社製の型番Helios G4 UXを用いて、連続断面SEM像を取得し、連続画像位置を補正した後、3次元像を再構築した。詳細には、SEMによる断面反射電子像の取得とFIB(加速電圧:30kV)加工とを50nm間隔で100回繰り返し、3次元像を再構築した。得られた3次元像について、解析ソフト(Thermo Fisher Scientific社製のAVIZO)のSegmention機能を用いて2値化を行い、微粒子の像を抽出した。次に、個々の微粒子を識別するために、Separate object操作を実施した後、各微粒子の体積を算出した。各粒子を球と仮定し、体積球相当径を算出し、微粒子の粒径を平均した値を平均粒径とした。
【0028】
光学フィルタ層110は、微粒子およびマトリクスの屈折率、微粒子の平均粒径、体積分率、分布(非周期性の程度)および厚さのいずれかを調整することによって、780nm以上2000nm以下の波長範囲内の少なくとも一部の波長の光に対する直線透過率を60%以上とする。
【0029】
光学フィルタ層110は、白色を呈し得る。ここで、白色とは、標準光をD65光源としたときのCIE1931色度図上のx、y座標がそれぞれ0.25≦x≦0.40、0.25≦y≦0.40の範囲内にあるものをいう。もちろん、x=0.333、y=0.333に近いほど白色度は高く、好ましくは、0.28≦x≦0.37、0.28≦y≦0.37であり、さらに好ましくは0.30≦x≦0.35、0.30≦y≦0.35である。また、CIE1976色空間上のSCE方式で測定したLは20以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上がさらに好ましく、60以上であることが特に好ましい。Lが20以上であれば概ね白色と言える。Lの上限値は例えば100である。
【0030】
図5に、光学フィルタ層110の模式的な断面図を示す。光学フィルタ層110は、可視光に対して透明なマトリクス112と、透明なマトリクス112中に分散された透明な微粒子114とを含む。微粒子114は光散乱体として振る舞う。光学フィルタ層110は、マトリクス112中に光散乱体となる微粒子114が分散された層を含む。微粒子114は、例えば、少なくともコロイドアモルファス集合体を構成し得る。このとき、微粒子114が構成するコロイドアモルファス集合体を乱さない他の微粒子を含んでもよい。
【0031】
光学フィルタ層110は、図5に模式的に示すように、実質的に平坦な表面を有している。ここで、実質的に平坦な表面とは、可視光や赤外線を散乱(回折)または拡散反射させるような大きさの凹凸構造を有しない表面をいう。なお、光学フィルタ層110は、例えば、フィルム状であるが、これに限られない。
【0032】
透明な微粒子114は、例えば、シリカ微粒子である。シリカ微粒子として、例えばストーバー法により合成されたシリカ微粒子を用いることができる。また微粒子として、シリカ微粒子以外の無機微粒子を用いてもよく、樹脂微粒子を用いてもよい。樹脂微粒子としては、例えば、ポリスチレンおよびポリメタクリル酸メチルのうちの少なくとも1種からなる微粒子が好ましく、架橋したポリスチレン、架橋したポリメタクリル酸メチルまたは架橋したスチレン-メタクリル酸メチル共重合体からなる微粒子がさらに好ましい。なお、このような微粒子としては、例えば、エマルション重合により合成されたポリスチレン微粒子又はポリメタクリル酸メチル微粒子を適宜用いることができる。また、空気を含んだ中空シリカ微粒子および中空樹脂微粒子を用いることもできる。なお、無機材料で形成されている微粒子は、耐熱性・耐光性に優れるという利点を有する。微粒子の全体(マトリクスおよび微粒子を含む)に対する体積分率は、6%以上60%以下が好ましく、20%以上50%以下がより好ましく、20%以上40%以下がさらに好ましい。透明な微粒子114は光学的等方性を有してもよい。
【0033】
マトリクス112は、例えば、アクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリイミドが挙げられるが、これらに限られない。マトリクス112は、硬化性樹脂(熱硬化性または光硬化性)を用いて形成することが好ましく、量産性の観点から光硬化性樹脂を用いて形成することが好ましい。光硬化性樹脂としては、種々の(メタ)アクリレートを用いることができる。(メタ)アクリレートは、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。また、マトリクス112は光学的等方性を有していることが好ましい。多官能モノマーを含む硬化性樹脂を用いると、架橋構造を有するマトリクス112が得られるので、耐熱性および耐光性を向上させることができる。
【0034】
マトリクス112が樹脂材料で形成された光学フィルタ層110は、柔軟性を有するフィルム状であり得る。光学フィルタ層110の厚さは、例えば、10μm以上10mm以下である。光学フィルタ層110の厚さが、例えば、10μm以上1mm以下、さらには10μm以上500μm以下であれば、柔軟性を顕著に発揮することができる。
【0035】
微粒子として、表面が親水性のシリカ微粒子を用いる場合、例えば親水性のモノマーを光硬化することによって形成することが好ましい。親水性モノマーとして、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、あるいは、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートを挙げることができるが、これらに限られない。またこれらのモノマーは1種類を単独で用いてもよいし、または2種類以上を混合して用いてもよい。もちろん、2種類以上のモノマーは、単官能モノマーと多官能モノマーとを含んでもよく、あるいは、2種類以上の多官能モノマーを含んでもよい。
【0036】
これらのモノマーは光重合開始剤を適宜用いて硬化反応させることができる。光重合開始剤としては、例えばベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサン、ケタール、アセトフェノン等のカルボニル化合物や、ジスルフィド、ジチオカーバメート等のイオウ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾ化合物、遷移金属錯体、ポリシラン化合物、色素増感剤等が挙げられる。添加量は微粒子とモノマーとの混合物100質量部に対して0.05質量部以上3質量部以下が好ましく、0.05質量部以上1質量部以下がさらに好ましい。
【0037】
可視光に対するマトリクスの屈折率をn、微粒子の屈折率をnとするとき、|n-n|(以下、単に屈折率差ということがある。)が0.01以上であることが好ましく、0.6以下であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.11以下であることがより好ましい。屈折率差が0.03よりも小さいと散乱強度が弱くなり、所望の光学特性が得られにくくなる。また、屈折率差が0.11を超えると、赤外線の直線透過率が低下することがある。また、例えば、ジルコニア微粒子(屈折率2.13)とアクリル樹脂とを用いることで、屈折率差を0.6にした場合は、厚さを小さくすることによって赤外線の直線透過率を調整することができる。このように、赤外線の直線透過率は、例えば、光学フィルタ層の厚さと屈折率差とを制御することによって、調整することもできる。また、用途に応じて、赤外線を吸収するフィルタと重ねて用いることもできる。なお、可視光に対する屈折率は例えば546nmの光に対する屈折率で代表され得る。ここでは、特に断らない限り、屈折率は546nmの光に対する屈折率をいう。
【0038】
図6は、光学フィルタ層110の断面TEM像を示す図である。図中のTEM像における白い円はシリカ微粒子であり、黒い円はシリカ微粒子が抜け落ちた跡である。光学フィルタ層110の断面TEM像に示されるように、シリカ微粒子がほぼ均一に分散している。
【0039】
図7は、最大透過率で規格化したグラフであり、光学フィルタ層110の直線透過率スペクトルの入射角依存性を示す図である。図7に示される光学フィルタ層110の透過率曲線を見ると、可視光から赤外線にかけて直線透過率が単調に上昇する曲線部分が、入射角の増大につれて長波長側にシフト(約50nm)している。言い換えると、赤外線から可視光にかけて直線透過率が単調に減少する曲線部分が、入射角の増大につれて長波長側にシフトする。この特徴的な入射角依存性は、光学フィルムに含まれるシリカ微粒子がコロイドアモルファス集合体を構成していることに起因すると考えられる。
【0040】
なお、光学フィルタ層110の構造や光学特性、製造方法の詳細は、本出願人による国際公開第2021/187430号に記載されている。国際公開第2021/187430号の開示内容のすべてを参照により本明細書に援用する。図6および図7は、上記国際出願に記載の実施例1の結果である。
【0041】
光学フィルタ層110として、可視光透過性反射層を用いることもできる。可視光透過性反射層は、入射する可視光の一部を反射し、残りの可視光を透過させる透過特性および反射特性を有する。可視光透過性反射層の可視の透過率は、好ましくは10%~70%、より好ましくは15%~65%、さらに好ましくは20%~60%である。可視光透過性反射層の反射率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上である。赤外光に関しては、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上の透過率特性を有する。可視光透過性反射層としては、例えば、ハーフミラー、反射型偏光子、ルーバーフィルム、コールドミラー等を用いることができる。
【0042】
ハーフミラーとしては、例えば、屈折率の異なる2以上の誘電体膜が積層された多層積層体(「誘電体多層膜」ともいう。)を用いることができる。このようなハーフミラーは、好ましくは金属様光沢を有する。誘電体膜の形成材料としては、金属酸化物、金属窒化物、金属フッ化物、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET))等が挙げられる。誘電体膜の多層積層体は、積層した誘電体膜の屈折率差によって、界面で入射光の一部を反射させる。誘電体膜の厚さによって、入射光と反射光との位相を変化させ、2つの光の干渉の程度を調整することにより、反射率を調整することができる。ハーフミラー層積層体からなるハーフミラーの厚さは、例えば50μm以上200μm以下であり得る。このようなハーフミラーとしては、例えば、東レ株式会社製の商品名「ピカサス」等の市販品を用いることができる。
【0043】
光学積層体の光学特性は以下のようにして評価することができる。
【0044】
図8に示すように、光学積層体100に入射光Iが入射すると、入射光Iの一部は光学積層体100を透過し(透過光I)、一部は界面反射し(界面反射光Ri)、他の一部は散乱される。散乱光には、光学積層体100の前方に出射される前方散乱光Sと、後方に出射される後方散乱光Sとがある。後方散乱光Sによって、光学積層体100は白色を呈する。入射光Iの一部は、光学積層体100によって吸収されるが、ここで用いている樹脂およびシリカ微粒子は、400nm~2000nmの光に対する吸収率は小さい。
【0045】
図9は、光学フィルタの拡散透過率の測定方法を示す模式図であり、図10は、光学フィルタの直線透過率の測定方法を示す模式図である。拡散透過率は、図9に示すように、積分球32の開口部に試料(光学積層体100)を配置し、透過光Iおよび前方散乱光Sの合計の強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。また、直線透過率は、試料(光学積層体100)を積分球32の開口部から20cm離した位置に配置して測定した。この時に得られた透過光Iの強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。前方散乱率は、拡散透過率と直線透過率との差として求められる。開口の直径は1.8cmで、立体角で0.025srに相当する。
【0046】
図11は、光学積層体の反射率の測定方法を示す模式図であり、図12は、光学積層体の後方散乱率の測定方法を示す模式図である。反射率は、図11に示すように積分球32の奥側開口部に光学積層体100を斜めに配置し、界面反射光Riと後方散乱光Sbを積分球32に取り込み、得られた光の強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。後方散乱率は、図12に示すように積分球32の奥側開口部に光学積層体100を垂直に配置し、後方散乱光Sbのみを積分球32に取り込み、得られた光の強度の入射光Iの強度に対する百分率として求めた。分光器としては、紫外可視近赤外分光光度計UH4150(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いた。
【0047】
なお、後方散乱光Sの白色度は、例えば、分光測色計CM-2600-D(コニカミノルタジャパン株式会社製)を用いて測定できる。SCE(正反射除去)方式のLの値とともに、CIE1931色度図上のx、y座標の値を求めることができる。Lの値が大きいほど、x、yの値が0.33に近いほど、白色度は高い。
【0048】
以下、実験例(実施例1~11、比較例1~7)を示して、本発明の実施形態による光学積層体の特徴を説明する。
【0049】
赤外線で読み取り可能なパターンは、黒色インク(BC-345XL、キヤノン株式会社製)を用いて印刷することによって、図4に示したQRコード(15mm□)を形成した。表1に示す、反射率および後方散乱率の異なる7種類の下地(A~G)を用意した。
【0050】
【表1】
【0051】
下地Aには、光沢紙(GL-101A450、キヤノン株式会社製)を用いた。下地B~下地Dには、誘電体多層膜上に光拡散接着剤層を配置したものを用いた。誘電体多層膜には東レ株式会社製の商品名「ピカサス」を用い、光拡散接着剤層には、アクリル系粘着剤にシリカ粒子を分散しヘイズ値を制御したもの(厚さは約5μm~100μm)を用いた。下地Aについては、上記の方法で、下地Aの表面に直接QRコードを形成した。下地Eには、Al蒸着PETフィルム(アズワン株式会社製)を用い、下地Fには、誘電体多層膜(東レ株式会社製の商品名「ピカサス」)を用いた。下地Gには、OHPフィルム(CG3110、スリーエム社製、厚さ115μm)上に黒色イン(SAT-BK、セイコーエプソン株式会社製)を印刷したものを用いた。下地B~Gについては、予めOHPフィルム(CG3110、スリーエム社製)上に上記の方法でQRコードを形成したもの用意し、QRコードを形成したOHPフィルムを下地B~Gの表面上に配置した。
【0052】
実施例1~10、比較例1、2の光学積層体の光学フィルタ層には、上記国際出願に記載されている光学フィルタ層(実施例1)を用いた(以下、「光学フィルタN」という。)。実施例11、比較例5、6、7の光学積層体の光学フィルタ層には、誘電体多層膜(東レ株式会社製の商品名「ピカサス」)を用いた。
【0053】
比較例、実施例の光学積層体の構成は以下の通りである。図1に示した光学積層体100Aと同様の積層構造(2層)を有するものをタイプA、図2に示した光学積層体100Bと同様の積層構造(3層)を有するものをタイプBと呼ぶ。ここで透明光学接着剤層(OCA層)は層数に含めない。
比較例1 1層:光学フィルタN/OCA層
比較例2 タイプA:光学フィルタN/OCA層/赤外透過黒色層
比較例3 1層:白色PET
比較例4 タイプA:白色PET/OCA層/赤外透過黒色層
比較例5 タイプA:光拡散接着剤層/誘電体多層膜
比較例6 タイプA:光拡散接着剤層/誘電体多層膜
比較例7 タイプA:光拡散接着剤層/誘電体多層膜
実施例1 タイプA:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H30%)
実施例2 タイプA:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H50%)
実施例3 タイプA:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H80%)
実施例4 タイプB:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H30%)/赤外透過黒色層
実施例5 タイプB:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H50%)/赤外透過黒色層
実施例6 タイプB:光学フィルタN/光拡散接着剤層(H80%)/赤外透過黒色層
実施例7 タイプA:AG1/OCA層/光学フィルタN
実施例8 タイプA:AG2/OCA層/光学フィルタN
実施例9 タイプB:AG1/OCA層/光学フィルタN/OCA層/赤外透過黒色層
実施例10 タイプB:AG2/OCA層/光学フィルタN/OCA層/赤外透過黒色層
実施例11 タイプA:光拡散接着剤層(H80%)/誘電体多層膜
【0054】
ここで、積層構造は、上層/下層を表し、Hはヘイズ値を意味し、AGは防眩層を意味する。
OCA層:LUCIACS(日東電工株式会社製)、厚さ25~100μm
白PET:メリネックスポリエステルフィルム(デュポン社製)、厚さ50μm
光拡散接着剤層:アクリル系粘着剤にシリカ粒子を分散しヘイズ値を制御したもの、厚さは約5μm~100μm
赤外透過黒色層:OHPフィルム(CG3110、スリーエム製、115μm)上にSAT-BK(Epson製)を用いて印刷したもの
AG1:日東電工株式会社製 AG150
AG2:PFN60(株式会社ダイセル製、厚さ60μm)
【0055】
図13は、QRコードの赤外線読み取り性の評価方法を示す模式図である。各下地ULの上に配置された各光学積層体100に第1主面側から赤外線(850nm)を赤外線光源(株式会社ブロードウオッチ製SEC-IRLED-6B)200で、高さ15cmから入射角θi約15°~20°で照射しながら、光吸収・赤外透過フィルター320(IRフィルター、富士フィルム株式会社製)で検出部を保護したリーダー(NETUM社製F16)300を高さ15cm、検出角θd15°~20°に配置して、QRコードを読み取れるか否かを評価した。また、光吸収・赤外透過フィルター420(IRフィルター、富士フィルム株式会社製)で受光部を保護したカメラでQRコードの赤外線像を取得した。また、QRコード非視認性(隠ぺい性)は、光学積層体100を介してQRコードを目視で確認できるか否かで評価した。なお、黒色インクで形成したQRコードを視認できるか否かを評価することによって、下地の意匠を光学積層体100によって隠蔽できるか否かの評価をした。可視光を透過するインクを用いてQRコードを形成すれば、当然のことながら、QRコードを視認することはできない。
【0056】
比較例1~7の評価結果を表2に、実施例1~11の評価結果を表3に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
上記の結果からわかるように、実施例の光学積層体は、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に第2主面S2を配置したとき、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができる。一方、比較例の光学積層体は、波長が850nmの赤外線の反射率が高い紙などの下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に第2主面S2を配置したときには、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができるが、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が19%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターン上に配置したとき、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができない。
【0060】
さらに、実施例の光学積層体は、さらに、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が10%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンであっても、波長が850nmの赤外線の反射率が66%、後方散乱率が1%の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンであっても、第1主面S1側から、赤外線でパターンを読み取ることができる。すなわち、実施例の光学積層体は、種々の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置しても、赤外線でパターンを読み取りすることができる。
【0061】
また、実施例の光学積層体は、近赤外後方散乱率が10%未満である。実施例の光学積層体は、近赤外前方散乱率が9%以上である。近赤外後方散乱率が10%未満で、近赤外前方散乱率が9%以上の光学積層体は、一層多様な下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置しても、赤外線でパターンを読み取りすることができる。
【0062】
図14Aに、比較例2の光学積層体の光学像を示し、図14Bに比較例2の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像を示す。また、図15Aに比較例4の光学積層体の光学像を示し、図15Bに比較例4の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像を示す。比較例2、4の光学積層体では、赤外線の正反射が強く、QRコードを読み取れないことが分かる。また、比較例4の光学積層体では、QRコードの鮮明度も低い。
【0063】
図16Aに実施例10の光学積層体の光学像を示し、図16Bに実施例10の光学積層体を介して赤外線カメラでQRコードを観察した際の赤外線像を示す。実施例10の光学積層体を用いると、赤外線の正反射が抑制され、かつ、QRコードが鮮明に観察されることが分かる。
【0064】
図14A図15A図16Aの光学像では、下地のQRコードが見えていない(表2、表3において、QRコード非視認性が〇)。比較例2、比較例4、実施例10のように、十分なQRコード非視認性を得るためには、可視光後方散乱率が30%以上、かつ、可視光前方散乱率が5%以下であることが好ましく、可視光前方散乱率は3%以下であることがさらに好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の実施形態による光学積層体は、種々の下地上に形成された赤外線で読み取り可能なパターンの上に配置しても、赤外線でパターンを読み取りすることができる。本発明の実施形態による光学積層体は、さらに、パターンを目視で視認されににくし、多様な意匠の付与を可能とする。本発明の実施形態による光学積層体を用いると、例えば、紙などの記録媒体層だけでなく、物品の表面、建築部材(例えば、壁、床、窓)に形成された赤外線を吸収または反射するトナー(またはインク)を用いたパターン(例えばARマーカー)上に、多様な意匠を付与することができる。
【符号の説明】
【0066】
100、100A、100B、100C 光学積層体
110 光学フィルタ層
120 拡散層
130 可視光吸収層
140 加飾層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B