(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051541
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】多孔質複合体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/00 20060101AFI20240404BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20240404BHJP
A61L 27/30 20060101ALI20240404BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240404BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240404BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20240404BHJP
A61K 38/23 20060101ALI20240404BHJP
A61K 31/593 20060101ALI20240404BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20240404BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20240404BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240404BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20240404BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240404BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20240404BHJP
【FI】
A61L27/00
A61L27/06
A61L27/30
A61L27/34
A61K45/00
A61L27/42
A61K38/23
A61K31/593
A61K31/122
A61L27/56
A61L27/54
A61F2/28
A61P19/00
B22F10/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157760
(22)【出願日】2022-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「機能性金属イオンの徐放により骨形成と抗菌性を制御する多孔構造を備えた近未来型積層造形チタンインプラントの創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠二
(72)【発明者】
【氏名】新谷 正嶺
(72)【発明者】
【氏名】藤林 俊介
(72)【発明者】
【氏名】寺内 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 富春
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4C097
4C206
4K018
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB04
4C081AB05
4C081BA12
4C081BA16
4C081CE02
4C081CF141
4C081CF142
4C081CF21
4C081CF24
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4C081CG03
4C081DA01
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4C084NA14
4C084ZA96
4C086AA01
4C086DA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA67
4C086NA14
4C086ZA96
4C097AA01
4C097DD06
4C097DD09
4C097DD10
4C097EE02
4C097EE03
4C097EE13
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4C097MM03
4C206AA01
4C206CB28
4C206KA03
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA87
4C206NA14
4C206ZA96
4K018AA06
4K018BA03
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA22
(57)【要約】
【課題】独立気孔が無く、且つ大きい平均気孔径を有する多孔質部分と小さい気孔径を有する多孔質部分とが連通し、適度な力学的強度を有する多孔質複合体であって、設計しやすいものを提供する。
【解決手段】開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径Dを有する多孔質部αと、開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径d(d<D)を有する多孔質部βと、多孔質部αと多孔質部βとを接続するとともに、接続面方向においては開気孔が均一に分布し、接続面と直交する方向においては多孔質部αに近くなるほどによりDと近似した平均気孔径を有し、多孔質部βに近くなるほどによりdと近似した平均気孔径を有するように、段階的に変化する平均気孔径を有する中間部とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径Dを有する多孔質部αと、
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径d(d<D)を有する多孔質部βと、
多孔質部αと多孔質部βとを接続するとともに、接続面方向においては開気孔が均一に分布し、接続面と直交する方向においては多孔質部αに近くなるほどによりDと近似した平均気孔径を有し、多孔質部βに近くなるほどによりdと近似した平均気孔径を有するように、段階的に変化する平均気孔径を有する中間部と
を備えることを特徴とする多孔質複合体。
【請求項2】
多孔質部α、多孔質部β及び前記中間部は、各々繰り返し配列した基本ユニットからなり、多孔質部αにおける基本ユニットの繰り返し周期と多孔質部βにおける基本ユニットの繰り返し周期の比が整数である、請求項1に記載の多孔質複合体。
【請求項3】
多孔質部α、多孔質部β及び前記中間部の各基本ユニットが、一定の外径を有し互いに結合された複数の支柱からなる、請求項2に記載の多孔質複合体。
【請求項4】
多孔質部αにおける支柱径と多孔質部βにおける支柱径の比が整数である、請求項3に記載の多孔質複合体。
【請求項5】
請求項3に記載の多孔質複合体からなる骨修復材料。
【請求項6】
多孔質部α及びβの基本ユニットのうち前記中間部に近接するものの支柱の50%以上が、前記中間部の基本ユニットの支柱と結合している、請求項5に記載の多孔質複合体。
【請求項7】
多孔質部α及び多孔質部βの各基本ユニットが、ダイヤモンド構造をなしている、請求項5に記載の骨修復材料。
【請求項8】
多孔質部βが前記中間部を介して多孔質部αによって囲まれている、請求項5に記載の骨修復材料。
【請求項9】
前記各支柱が、チタン又はチタン合金からなる基材と、基材表面の膜とからなる、請求項6に記載の骨修復材料。
【請求項10】
前記膜が、チタン酸塩又は生分解可能な有機物からなる、請求項9に記載の骨修復材料。
【請求項11】
前記膜が、チタン酸塩からなり、Sr、Ga、Mg、Ca、Na、K、Ag、I、Cu、Zn及びLiのうちから選ばれる一種以上の元素のイオンを含んでいる、請求項9に記載の骨修復材料。
【請求項12】
前記膜が、生分解可能な有機物からなり、ビスフォスフォネート、SERM、カルシトニン、活性型ビタミンD3及びビタミンK2のうちから選ばれる一種以上の薬剤を含んでいる、請求項9に記載の骨修復材料。
【請求項13】
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径Dを有する多孔質部αと、
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径d(d<D)を有する多孔質部βと、
多孔質部αと多孔質部βとを接続するとともに、接続面方向においては開気孔が均一に分布し、接続面と直交する方向においては多孔質部αに近くなるほどによりDと近似した平均気孔径を有し、多孔質部βに近くなるほどによりdと近似した平均気孔径を有するように、段階的に変化する平均気孔径を有する中間部と
をコンピュータ上で設計し、
得られた設計データに基づいて積層造形を行うことを特徴とする多孔質複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多孔質複合体とその製造方法に関する。この複合体は、大腿骨、股関節、脊椎、歯根等のように大きな荷重の加わる部分における骨修復材料として、あるいは骨修復のための骨再生の足場として好適に利用され得る。
【背景技術】
【0002】
生体材料開発において、速やかな骨侵入や生体骨との力学的整合性を目的として、金属、セラミックス、高分子からなる多孔体人工骨の開発が近年加速している。速やかな骨侵入には300~1100μmの気孔径の連通孔を有するものが適することが明らかになってきており(非特許文献1)、その範囲内においては気孔径の大きな多孔体ほど生体組織から骨侵入を促しやすい。また、内部構造のパターンも骨侵入に影響を及ぼし、特にダイヤモンド構造が骨侵入を促しやすいと報告されている(非特許文献2)。
【0003】
フィルター材や電極材としても多孔体が広く利用されている。多孔体の気孔率、気孔径を制御することにより表面積、流体抵抗、力学的強度、弾性率などを調整することができる。気孔径が傾斜的に変化するように複数の多孔質部が互いに連通しあって滑らかに接続している傾斜多孔体は、力学的強度を保ちつつ表面積を増大させるなど相反する特性を同時に満たすことが出来るため、非常に有用である。
【0004】
多孔体の構造設計には、海綿骨構造を模倣するレプリカ法や気孔形成材と金属粉末を混合して焼結する粉末冶金法などがしばしば用いられる。氷柱成長を利用した一軸配向性の多孔構造を作る方法も公開されている(特許文献1)。環境用フィルタ、触媒担持体、固体電解質などへの応用を目的とした傾斜構造をもつ多孔体の製造方法として、異なる気孔径の多孔体を焼結により接続する技術(特許文献2)、電圧、遠心力あるいはマイクロ波を加えることにより所望の気孔密度分布を作る技術(特許文献3-5)が報告されている。
【0005】
また、積層造形は、設計したデジタルデータに基づいて粉末あるいは液滴材料を1層ずつ積層、硬化することにより3次元構造物を造形する手法で、金属、セラミックス、樹脂のいずれにも適用でき、内部構造を精密に制御した多孔体の造形が可能である。積層造形用にデジタル的に設計された傾斜多孔体として、直交座標X,Y,Zをパラメータとした三角関数の積の組み合わせで表現されるTriply Periodic Minimal Surface(TPMS)構造が報告されている(非特許文献3)。
【0006】
一方、チタン金属やチタン合金の骨形成や抗菌性を高めるための表面処理技術が種々開発されている。このうち、水溶液-加熱処理によりCa2+,Sr2+,Mg2+,Ga3+,I3+,Ag+などの機能性金属イオンを含有させたチタン酸塩を形成したチタン表面は、イオン徐放能に優れ、連通孔を有する多孔体においては内壁まで均一に処理層を形成することができる(特許文献6、7)。薬剤を添加したゼラチンをディップコートし、架橋処理を施すことにより薬剤徐放性を付与することも可能であると報告されている(特許文献8)。
バイオガラス、アパタイト、OCP、β-TCPなどのリン酸カルシウムを原料とするセラッミクス多孔体においては、ガラス中あるいは結晶中の特定のサイトに機能性イオンを導入することができる。PEEK、PE、PMMAなどの高分子を原料とする高分子多孔体においては原料中に機能性イオンを含むセラッミクス粒子や薬剤を分散させることができる。
いずれにおいても一般に多孔体の気孔径を小さくすることで前記イオンや薬剤の徐放性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5024780号公報
【特許文献2】特開2005‐255439号公報
【特許文献3】特開2004‐114631号公報
【特許文献4】特開2004‐359529号公報
【特許文献5】特開2001‐342082号公報
【特許文献6】特許第 6206880号公報
【特許文献7】特許第 7016464号公報
【特許文献8】特開2021-151409号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F.Baino et al., Biomimetics, 5(2020)57
【非特許文献2】F. Deng, et al., J.Biol. Eng. 15(2021)4
【非特許文献3】X.Zhou et al., Materials, 13(2020)5046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のとおり、多孔体への骨侵入において大きな気孔径が有利であり、イオンや薬剤の徐放において小さな気孔径が有利である。したがって、双方の機能を発揮させるためには多孔体のうち生体組織と接する部分に大きい気孔径を配置し、生体組織から離れた部分に小さい気孔径を配置し、かつこれらが連通した構造が望ましい。
【0010】
しかし、レプリカ法や粉末冶金法では、独立気孔を完全に排除することは難しく、任意の傾斜多孔構造を作ることも困難である。特許文献1に記載の方法では、異なる気孔径の分布を3次元傾斜的に作ることは困難である。特許文献2に記載の方法では、接続面において多くの気孔が不連続となる。特許文献3-5に記載の方法では、いずれも確率分布的に気孔密度を調整するので独立気孔を完全に排除することは難しく、内部構造を任意の形状に設計することができない。
非特許文献3に記載の方法は、対象となる多孔構造全体を数式化する必要があり複雑な形状を有する多孔体の気孔分布を所望の構造に造形することは難しい。また、多孔体サイズが大きくなると設計に要する計算量も増加し、一般的に普及している電子計算機の処理能力を超え得る。
【0011】
それ故、この発明の課題は、独立気孔が無く、且つ大きい平均気孔径を有する多孔質部分と小さい気孔径を有する多孔質部分とが連通し、適度な力学的強度を有する多孔質複合体であって、設計しやすいものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その課題を解決するために、この発明の多孔質複合体(以下、「複合体」)は、
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径Dを有する多孔質部αと、
開気孔が均一に分布し、100μm~1800μmの範囲の平均気孔径d(d<D)を有する多孔質部βと、
多孔質部αと多孔質部βとを接続するとともに、接続面方向においては開気孔が均一に分布し、接続面と直交する方向においては多孔質部αに近くなるほどによりDと近似した平均気孔径を有し、多孔質部βに近くなるほどによりdと近似した平均気孔径を有するように、段階的に変化する平均気孔径を有する中間部と
を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、「開気孔が均一に分布する」とは、ある気孔径aの気孔が均一に分布しているものに限らず、気孔径aの気孔と気孔径b(b≠a)の気孔とがabab・・・のように交互に分布している構成や、aabaab・・・のように群単位で均一に分布している構成も含む。中間部における気孔の分布状況は、多孔質部αと多孔質部βとが連通するように、接続する多孔質部のそれに極力合わせられていればよい。気孔径は、気孔が隣の気孔との連通部分を除いて球形空間をなしている場合はその内径を指す。後述のように複合体の実体部分が多数の支柱からなる場合は、隣り合う支柱によって囲まれる空間が気孔であり、気孔径はその内接球の直径を指す。前記の特徴を有する限り、平均気孔径D、dのいずれとも異なる第三の平均気孔径を有する第三の多孔質部が第二の中間部を介して多孔質部α、βの両方又はいずれかと接続されていてもよい。いずれにしても、異なる平均気孔径を有する複数の多孔質部が、段階的に変化する平均気孔径を有する中間部を介して接続しているので、複合体全体が互いに連通しているうえに中間部によって応力が分散されて高い力学的強度を有する。
【0014】
この複合体を製造する適切な方法は、前記多孔質部α、β及び中間部を備える複合体をコンピュータ上で設計し、得られた設計データに基づいて積層造形を行うことを特徴とする。原料は、チタン、ジルコニア、タンタル、ニオブ及びそれらを含む合金、アルミナ、ジルコニウム、リン酸カルシウムなどのセラミックス、ケイ酸、ホウ酸、リン酸を含むガラス、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子、及びこれらの組み合わせであってよい。各部において開気孔が均一に分布しているので、計算量は少なく、一般に普及しているコンピュータで設計可能である。積層造形にレーザービームや電子ビームを用いる場合、得られる複合体の寸法精度は、原料粉末の粒径によって定まる。例えば、平均粒径45μm以下のチタン粉末を原料としてレーザービームで積層造形することにより、最長2.2cmの複合体からなる骨修復材料を製造する場合、その長さ方向の寸法精度は±0.1mm以下である。これは、骨修復材料として十分な寸法精度である。
【0015】
多孔質部α、多孔質部β及び前記中間部は、好ましくは各々繰り返し配列した基本ユニットからなり、多孔質部αにおける基本ユニットの繰り返し周期と多孔質部βにおける基本ユニットの繰り返し周期の比が整数である。周期の比が整数であるから、接続部分の構造も全体的に均一となり、全体的に均一な力学的強度を有する。しかも各部の基本ユニットを設計するだけで全体の設計がほぼ完成するので、ますます計算量が少なくてすむ。
【0016】
多孔質部α、多孔質部β及び前記中間部の各基本ユニットは、好ましくは互いに結合された複数の支柱からなる。これにより、支柱の外径、長さ、配置、本数などを定めるだけで基本ユニットを設計することができる。通常、1本の支柱が多数の原料粒子からなる。例えば、気孔率一定のダイヤモンド構造においては、基本ユニットがこのように支柱からなるときは、多孔質部αにおける支柱径と多孔質部βにおける支柱径の比を整数にすることで、両部の基本ユニットの繰り返し周期の比も整数にすることができる。中間部の支柱径及び気孔径は接続する2種の多孔質部のそれらのいずれかと同等又はそれらの間であることが望ましい。
【0017】
基本ユニットが複数の支柱からなる前記複合体は、骨修復材料として好適である。骨置換速度や生体骨との力学的整合性を高めるため気孔率を任意に増減させることができるし、非対称な気孔分布を設定することにより力学特性や骨侵入経路に異方性を持たせることもできるからである。この複合体においては、多孔質部α及びβの基本ユニットのうち前記中間部に近接するものの支柱の50%以上が、前記中間部の基本ユニットの支柱と結合しているのが好ましい。結合している支柱の割合が50%に満たないと、結合している支柱に加わる応力が過大となり、複合体全体の力学的強度が低下し、骨修復材料として適さなくなることがあるからである。多孔質部α及び多孔質部βの各基本ユニットは、ダイヤモンド構造をなしているとよい。前記の通り、骨侵入を促しやすいからである。多孔質部βは、前記中間部を介して多孔質部αによって囲まれていてもよい。多孔質部αが外側にあることでますます骨侵入を促すとともに、多孔質部βが内側にあることでイオンや薬剤の徐放性を維持し、長期に亘ってそれらの機能を発揮させることができるからである。
【0018】
複合体が骨修復材料として用いられるとき、前記各支柱は、チタン又はチタン合金からなる基材と、基材表面の膜とからなるものであってよい。膜は、例えばチタン酸塩又は生分解可能な有機物からなる。膜がチタン酸塩からなるときは、Sr、Ga、Mg、Ca、Na、K、Ag、I、Cu、Zn及びLiのうちから選ばれる一種以上の元素のイオンを含むことができる。これらのイオンは、抗菌性を示したり、アパタイトを形成したりする。膜が生分解可能な有機物からなるときは、ビスフォスフォネート、SERM、カルシトニン、活性型ビタミンD3及びビタミンK2のうちから選ばれる一種以上の薬剤を含むことができる。これらの薬剤は、骨粗鬆症の予防及び治療に寄与する。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、この発明の複合体は、大きい気孔を有する多孔体によって発揮される効果と小さい気孔を有する多孔体によって発揮される効果を併有し、高い機械強度を示すうえ、積層造形により所望の形状に製造可能であるから、様々な分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)はダイヤモンド構造の単位格子を4等分した小立方体を示す模式的斜視図、(b)は前記小立方体の各点に支柱の幾何学的中心が位置すると仮定してCGで描いた斜視図である。
【
図2】ダイヤモンド構造を示す模式的斜視図である。
【
図3】(a)は多孔質部α、βにおける各基本ユニットの繰り返し周期の比が整数である場合の複合体の模式図、(b)は同じく非整数である場合の複合体の模式図である。
【
図4】実施形態の複合体の基本ユニットをCGで描いた斜視図である。
【
図5】(a)は実施例1の複合体をCGで描いた斜視図、(b)は同じく断面図である。
【
図6】(a)は実施例1の複合体の外観写真、(b)は同じく断面写真である。
【
図7】(a)は実施例2の複合体の外観写真、(b)は同じく断面写真である。
【
図8】(a)は実施例3の複合体をCGで描いた斜視図、(b)は同じく断面図、(c)は同複合体の外観写真である。
【
図9】(a)は実施例5の複合体をCGで描いた斜視図、(b)は同じく断面図である。
【
図10】実施例1~3及び比較例1~4の複合体に負荷をかけて力学シミュレーションを行った際の応力分布を示す負荷方向断面図である。
【
図11】実施例1の複合体に圧縮荷重を負荷した際の応力-ひずみ曲線を示す。
【
図12】実施例2の複合体に圧縮荷重を負荷した際の応力-ひずみ曲線を示す。
【
図13】実施例5の複合体に圧縮荷重を負荷した際の応力-ひずみ曲線を示す。
【
図14】実施例4及び比較例5~7の試料をSBFに3日間浸漬した後の試料内壁の電子顕微鏡像を示す。
【
図15】実施例4及び比較例5~7の試料のイオン徐放性を誘導結合プラズマ発光分光分析により測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
表1に示す多孔質部A、B、Cの3層とそれらの間に介在する2つの中間部からなる複合体Pと、同じく多孔質部A‘、B’、C‘の3層とそれらの間に介在する2つの中間部からなる複合体Qとを設計する場合を考える。多孔質部Aと多孔質部Bの関係は前記多孔質部αと多孔質部βの関係に相当し、多孔質部Bと多孔質部Cの関係も前記多孔質部αと多孔質部βの関係に相当する。多孔質部A‘、B’、C‘も同様である。表1中、「立体一辺」は
図1の立方体の一辺の長さ、「半周期」は各多孔質部の基本ユニットの繰り返し周期を決定するもので、
図1の立方体の一面(例えば底面)の対角線(図中の矢印)の1/2を示す。
図1の立方体を合計4個組み合わせたものが
図2に示すダイヤモンド構造の単位立方格子である。同じ気孔径のダイヤモンド構造のみの場合は、この単位立方格子を基本ユニットとすることができる。
【0022】
表1に示すように複合体Pは、多孔質部A、B、Cの支柱径比及び支柱長さ比が整数であることから、各多孔質部の繰り返し周期の比も整数になる。従って、周期比が2である多孔質部Bと多孔質部Cを取り出し、支柱の肉厚を無視してその中心軸線のみを描けば、
図3(a)に示すように、多孔質部Bの基本ユニットの接続面方向における端点の位置は、常に多孔質部Cの基本ユニットの同方向における端点の位置と一致する。その結果、概ね基本ユニットの設計と繰り返し回数の設定を行うだけで複合体P全体を設計することができ、設計時間は短いうえ、応力も均等に分散される。
【0023】
【0024】
一方、複合体Qは、多孔質部A‘、B’、C‘の支柱径比及び支柱長さ比が整数でないことから、繰り返し周期の比も整数にならない。従って、
図3(b)に示すように、多孔質部B’の基本ユニットの接続面方向における端点の位置は、多孔質部C‘の基本ユニットの同方向における端点の位置と一致しない。その結果、複合体Qの対象空間全てにおいて細部にわたり設計しなければならず、多大の設計時間を要するうえ、応力の加わり度合いが不均一である。
複合体Pの基本ユニットの設計画像を
図4に示す。
【0025】
本発明の複合体は、骨修復材料としてはもとより、骨修復のために生体外で細胞を培養する足場材料としての使用にも適する。播種する細胞は骨芽細胞、線維芽細胞、軟骨細胞やそれらの前駆細胞、人工多能性細胞(iPS)などから使用目的に応じて選択することができ、細胞増殖、分化や臓器再生に利用できる。
また、本発明の複合体は、粉塵用等種々のフィルタ-、触媒の担持体、燃料電池用固体電解質等の流体透過部材にも利用し得る。連通構造を維持したまま気孔率、気孔率を変化させる傾斜多孔構造により、液体、気体の流量を調整し、表面積を増大させて粉塵の収集や触媒の担持効率を調整し、かつ中間部により均一な応力分散を示す多孔体設計が可能となる。
【実施例0026】
-実施例1-
気孔径900、600、300μmのダイヤモンド構造の単位立方格子から成る多孔質部A、B、Cとそれらを互いに接続する中間部を備えた気孔率54%の複合体を下記の手順で製造した。
まず、Fusion360(Autodesk,CA, USA)ソフトウェアを使用して、気孔径900μm、支柱径690μm、支柱長さ843.22μmの多孔質部Aの単位立方格子(一辺1.948mm)、気孔径600μm、支柱径460μm、支柱長さ636.40μmの多孔質部Bの単位立方格子(一辺1.298mm)、気孔径300μm、支柱径230μm、支柱長さ281.07μmの多孔質部Cの単位立方格子(一辺0.649mm)を設計した。
【0027】
つぎに、多孔質部A、Bを互いに連通可能にする中間部AB(支柱径460μm、支柱長さ1452μmの支柱、支柱径460μm、支柱長さ1124μmの支柱、支柱径460μm、支柱長さ649μmの支柱で構成される)と、同じく多孔質部B、Cの中間部BC(支柱径230μm、支柱長さ726μmの支柱、支柱径230μm、支柱長さ562μm、及び支柱径230μm、支柱長さ325μmの支柱で構成される)を設計した。そして、多孔質部Aの単位立方格子16個を4行4列1層に接続し、多孔質部Bの単位立方格子72個を6行6列2層に接続し、多孔質部Cの単位格子576個を12行12列4層に接続し、更にこれらの多孔質部同士を中間部AB及び中間部BCで接続することにより、気孔径900-600-300μmの傾斜多孔構造(7.792×7.792×8.114mm3)の基本ユニットを設計し、STLデータとして出力した。
【0028】
この基本ユニットと、同じ基本ユニットを上下逆さにしたものとを合わせ、更に多孔質部Cの層数を増したものを一対とし、3D builder(Microsoft Co.,WA, USA)ソフトウェアを使用して奥行き方向及び幅方向に繰り返し配列させて多数対接続することにより、厚さ1mmの多孔質部Aと中間部ABと厚さ1.3mmの多孔質部Bと中間部BCと厚さ3.9mmの多孔質部CとがA、AB、B、BC、C、BC、B、AB、Aの順に合計9部積層するように接続された複合体を設計した。この複合体が奥行き12×幅22×高さ9mm3の寸法の直方体となるように同ソフトウェアによりコンピュータ上で切削し、直方体の6面のうち上下面を除く4面に厚さ0.2mmの緻密体の外壁を結合してSTLデータとして出力した。
得られたSTLデータに基づいて選択的レーザー溶融法でチタン粉末を積層造形することにより、緻密な外壁を有する複合体を製造した。
【0029】
-実施例2-
実施例1の多孔質部A、B、Cにおいて、それぞれの厚さが0.7、1.3、および3mmになるように調整した他は実施例1と同様の手順で複合体を製造した。
【0030】
-実施例3-
実施例1で設計された切削前の複合体をコンピュータ上でφ6×9mm3の円柱状に切削し、外周面に厚さ0.2mmの緻密体の外壁を結合した他は実施例1と同様に複合体を製造した。
【0031】
-実施例4-
実施例3の複合体に次のヨウ素処理を施すことにより試料を製造した。
ヨウ素処理は次の手順で実施した。5mol/L NaOH水溶液25mlに60℃で24時間浸漬し、超純水で洗浄液が中性になるまで洗浄した。実施例3のチタン複合体を100mMの塩化カルシウム水溶液50mlに40℃で24時間浸漬し、超純水で前記の洗浄時間と同じ時間洗浄した。次いで、チタン板を電気炉中で常温から600℃まで5℃/minの速度で昇温し、大気中600℃で1時間保持して、炉内で放冷した。その後、10mMの三塩化ヨウ素水溶液50mlに80℃で24時間浸漬し、超純水で前記の洗浄時間と同じ時間洗浄することにより、骨修復用試料を製造した。
【0032】
-実施例5-
実施例1の多孔質部Cが中間部を介して多孔質部B中に分散された複合体(5.845×5.836×5.203mm3)を設計した。これを繰り返し配列させて接続し、外形寸法が12×22×9mm3の直方体となるようにコンピュータ上で切削し、直方体の4側面に厚さ0.2mmの緻密体の外壁を結合し、STLデータとして出力した。得られたSTLデータに基づいて選択的レーザー溶融法でチタン粉末を積層造形することにより、緻密な外壁を有する複合体を製造した。
【0033】
-比較例1-
実施例1において多孔質部を全て多孔質部Aにした他は実施例1と同様の手順で多孔体を製造した。
【0034】
-比較例2-
実施例1において多孔質部を全て多孔質部Bにした他は実施例1と同様の手順で多孔体を製造した。
【0035】
-比較例3-
実施例1において多孔質部を全て多孔質部Cにした他は実施例1と同様の手順で多孔体を製造した。
【0036】
-比較例4-
実施例1において厚さ4mmの多孔質部Cが中間部を介さず厚さ1mmの多孔質部Aと厚さ1.5mmの多孔質部Bに挟まれ、A、B、C、B、Aの順に合計5部積層するように接続された比較複合体を設計し、この比較複合体の寸法がφ6×9mm3となるように同ソフトウェアによりコンピュータ上で切削した他は実施例1と同様の手順で設計し、STLデータとして出力した。
【0037】
-比較例5-
実施例4において多孔質部を全て多孔質部Aにした他は実施例4と同様の手順で試料を製造した。
【0038】
-比較例6-
実施例4において多孔質部を全て多孔質部Bにした他は実施例4と同様の手順で試料を製造した。
【0039】
-比較例7-
実施例4において多孔質部を全て多孔質部Cにした他は実施例4と同様の手順で試料を製造した。
【0040】
以上の実施例及び比較例の設計条件をまとめて表2に記載する。表中、全体寸法とは、緻密体からなる外壁部分を含めた寸法をいう。各多孔質部の厚さは、切削された前記直方体の高さ方向の概略寸法である。
【表2】
【0041】
[多孔構造分析]
図5に示すように実施例1の複合体の設計画像は、
図4に示した基本ユニットを複数配列して接続された構造となっている。そして、
図6に示すように、設計通りの構造の複合体が製造されている。
図7に示すように、実施例2においても設計通りの構造の複合体が製造されている。従って、
図8に示す実施例3の複合体や、
図9に示す実施例5の複合体など、様々な寸法及び形状の複合体を製造可能であることは明らかである。一方、中間部を有しない比較例4の比較複合体においては、多孔質部A-Cの界面で不連続な構造や孤立気孔が生じた。
【0042】
[力学シミュレーション評価]
実施例1~3及び比較例1~4のSTLデータを用いてMechanical Finder(計算力学センター、東京)ソフトウェアにより材質を平均粒径45μmのSLM造形チタンとして、実施例1,2の複合体に10kNの荷重をかけ、実施例3の複合体及び比較例1~3の多孔体に1071Nの荷重をかけた場合について表3の条件で力学シミュレーションを行い、多孔構造への応力分布を評価した。
図10にみられるように、実施例1,2ともに200MPa程度の応力が均一に分布しており、チタン金属の降伏応力360MPaよりも低い値を示した。実施例3の複合体においては比較例1~3の単純多孔体と同程度の均一な応力分布がみられた。一方、中間部がない比較例4においては多孔質部Aと多孔質部Bの界面及び多孔質部Bと多孔質部Cの界面に400MPa以上の応力が集中した(図中白矢印)。したがって中間部AB、中間部BCの挿入が応力分散にも効果的であり、実施例で設計した複合体が頑強な多孔構造を有することがわかった。
【0043】
【0044】
[圧縮強度評価]
実施例1、2、5の複合体に10kNの圧縮荷重を1mm/minの速度で負荷した際の応力-ひずみ曲線をそれぞれ
図11、
図12及び
図13に示す。いずれにおいても少なくとも10kNまで弾性変形領域であり製造した複合体も高強度であることがわかった。曲線から求めた弾性率はそれぞれ1.4、1.6及び0.7 GPaであり骨の弾性率(0.14~20GPa)の範囲内となった。
【0045】
[疲労強度評価]
実施例1の複合体について、ASTM2077-18”Test Methods for Intervertebral Body Fusion Devices”の規格に準じて、最大荷重10kN、最小荷重1kN、周波数5Hzの条件で100万回の疲労試験を実施した。その結果、試験検体にき裂、変形は認められなかった。
【0046】
[アパタイト形成評価]
実施例4及び比較例5~7を36.5℃に保たれたISO規格23317の擬似体液(SBF)に浸漬したところ、
図14に示すように実施例4の試料では多孔質部Cの中心(半径0mm地点)、及びその周辺(半径5mm地点)に均一に80%以上の被覆率でアパタイトが形成されていた。これは比較例5,6と同等であり、多孔質部Cのみからなり約50%の比較例7よりも優れていた。
【0047】
[イオン徐放性評価]
実施例4及び比較例5~7の試料を36.5℃に保たれた4mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に50ストローク/minの速度で振とうしながら浸漬し、PBS中に徐放されるイオン濃度を経時的に測定した結果を
図15に示す。
図15(a)に示すように、実施例4の濃度は比較例5,6よりも大きく比較例7よりは小さい値となった。浸漬1日以降に溶出する濃度を調べたところ、
図15(b)に示すように、比較例5,6は1日以降に浸漬時間の平方根に比例して濃度が上昇しており、これはイオン徐放が拡散律速によることを示している。ヨウ素処理により導入されるヨウ素イオンはチタン金属表面に形成されたチタン酸カルシウムの結晶内に存在するため、本結果によりみられた拡散はヨウ素イオンがチタン酸カルシウム結晶を移動することに起因する。一方、実施例4は浸漬7日までは浸漬時間の平方根に比例した濃度上昇は見られなかった。これは、多孔質部Cの微小構造が試料内の液体の対流を遅らせたためであり、多孔構造由来の徐放性が付与されたことを示している。比較例7はこの効果がさらに顕著となり浸漬14日以降に拡散律速に達することがわかった。