(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051557
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】遮蔽係数の予測システム
(51)【国際特許分類】
E06B 9/01 20060101AFI20240404BHJP
G01W 1/12 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
E06B9/01 Z
G01W1/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157783
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亜矢子
【テーマコード(参考)】
2E020
【Fターム(参考)】
2E020BA01
2E020BC01
2E020EA06
(57)【要約】
【課題】建物の開口部にルーバーを設けた場合に、その開口部が形成された室内の遮蔽係数を、より簡易的に算出することができる遮蔽係数の演算装置を提供する。
【解決手段】遮蔽係数の演算装置20は、特定の時間における太陽の位置において、開口部7の全体の面積に対して、ルーバー設定部11により設定された縦型ルーバー5により、開口部7のうち太陽の直射光Rにより照射される照射部分bの面積の割合を、直射率として算出する直射率算出部12と、建物3の地点における全日射量に対する地点における直接日射量の割合に、直射率を乗じた値を、直射熱遮蔽度として算出する直射熱遮蔽度算出部13と、全日射量から直接日射量を減じた拡散日射量を算出し、全日射量に対する拡散日射量の割合を、拡散熱遮蔽度として算出する拡散熱遮蔽度算出部14と、直射熱遮蔽度と間接熱取得率を加算することにより、遮蔽係数を算出する遮蔽係数算出部15と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽板部材が間隔を空けて保持されたルーバーを、建物の開口部に設置した状態において、前記ルーバーを介した室内の遮蔽係数を演算する処理装置を備えた遮蔽係数の予測システムであって、
前記処理装置は、
前記ルーバーを構成する羽板部材の寸法と、隣接する前記羽板部材同士の隙間の大きさと、を設定するルーバー設定部と、
特定の時間における太陽の位置において、前記開口部の全体の面積に対して、前記ルーバー設定部により設定された前記ルーバーが設置された状態で、前記開口部のうち太陽の直射光により照射される照射部分の面積の割合を、直射率として算出する直射率算出部と、
前記建物の地点における全日射量に対する前記地点における直接日射量の割合に、前記直射率を乗じた値を、直射熱遮蔽度として算出する直射熱遮蔽度算出部と、
前記全日射量から前記直接日射量を減じた拡散日射量を算出し、前記全日射量に対する前記拡散日射量の割合を、拡散熱遮蔽度として算出する拡散熱遮蔽度算出部と、
前記直射熱遮蔽度と前記拡散熱遮蔽度を加算することにより、前記遮蔽係数を算出する遮蔽係数算出部と、を備えることを特徴とする遮蔽係数の予測システム。
【請求項2】
前記開口部は、窓ガラスで覆われており、
前記ルーバー設定部は、前記窓ガラスに前記ルーバーの前記羽板部材が接触しているか否かを設定し、
前記拡散熱遮蔽度算出部は、前記羽板部材が、前記窓ガラスに接触している場合には、前記ルーバーの材料の熱伝導率に基づいて設定された補正係数で、前記拡散熱遮蔽度を補正することを特徴とする請求項1に記載の遮蔽係数の予測システム。
【請求項3】
前記開口部は、窓ガラスで覆われており、
前記ルーバー設定部は、前記窓ガラスに前記ルーバーの前記羽板部材が接触しているか否かを設定し、
前記拡散熱遮蔽度算出部は、前記羽板部材が、前記窓ガラスに接触していない場合には、前記羽板部材の厚さと前記隙間の大きさとに基づいて設定された補正係数で、前記拡散熱遮蔽度を補正することを特徴とする請求項1に記載の遮蔽係数の予測システム。
【請求項4】
前記ルーバーは、前記羽板部材が鉛直方向に延在し、複数の前記羽板部材が水平方向に間隔を空けて設置された縦型ルーバーであり、
前記直射率算出部は、前記特定の時間における太陽の方位角度と、前記開口部の方位角度に基づいて、前記直射率を算出することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の遮蔽係数の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽板部材が間隔を空けて保持されたルーバーを、建物の開口部に設置した状態において、ルーバーを介した室内の遮蔽係数を演算する処理装置を備えた遮蔽係数の予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、開口部を介した室内の遮蔽係数は、実環境や疑似的に日射を模擬した装置を使った試験から求められている。しかしながら、実際に、室内の日射を模擬した装置を作製することは、大掛かりであり、簡易的に、遮蔽係数を求めることは容易ではない。このような観点から、たとえば、気象データ、予め設定されたデータ及び計測データに基づき、日射熱負荷を演算する処理装置を備えたシステムが提案されている。この処理装置では、全天日射量、窓面積、および窓材質情報に基づき日射熱負荷を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、たとえば、建物の開口部にルーバーを設けた場合、特許文献1に示すシステムで、建物の室内の遮蔽係数を演算することは簡単ではなく、この演算において、太陽の直射光の影響まで加味されていない。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建物の開口部にルーバーを設けた場合に、その開口部が形成された室内の遮蔽係数を、より簡易的かつより精度良く予測することができる遮蔽係数の予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑みて、本発明に係る遮蔽係数の予測システムは、羽板部材が間隔を空けて保持されたルーバーを、建物の開口部に設置した状態において、前記ルーバーを介した室内の遮蔽係数を演算する処理装置を備えた遮蔽係数の予測システムであって、前記処理装置は、前記ルーバーを構成する羽板部材の寸法と、隣接する前記羽板部材同士の隙間の大きさと、を設定するルーバー設定部と、特定の時間における太陽の位置において、前記開口部の全体の面積に対して、前記ルーバー設定部により設定された前記ルーバーが設置された状態で、前記開口部のうち太陽の直射光により照射される照射部分の面積の割合を、直射率として算出する直射率算出部と、前記建物の地点における全日射量に対する前記地点における直接日射量の割合に、前記直射率を乗じた値を、直射熱遮蔽度として算出する直射熱遮蔽度算出部と、前記全日射量から前記直接日射量を減じた拡散日射量を算出し、前記全日射量に対する前記拡散日射量の割合を、拡散熱遮蔽度として算出する拡散熱遮蔽度算出部と、前記直射熱遮蔽度と前記拡散熱遮蔽度を加算することにより、前記遮蔽係数を算出する遮蔽係数算出部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
遮蔽係数は、一般的に日射遮蔽係数(SC値)と定義されるものであり、本発明に係る「遮蔽係数」は、ルーバーにより開口部を介して室内に伝わる熱の遮蔽性の度合いを示す係数であり、この遮蔽係数は、前記ルーバーを設置していない状態で上限値として1.0をとり、これに対してルーバーを設けたときに、日射取得率の割合を表すものであり、前記ルーバーにより前記開口部の遮蔽性が高くなるに従って、遮蔽係数が0に近づくように変化する評価変数である。換言すると、「遮蔽係数」は、その値が大きいほど、ルーバーによる遮蔽効果が小さい評価係数である。本発明によれば、直射率算出部は、特定の時間における太陽の位置において、開口部の全体の面積に対して、ルーバー設定部により設定されたルーバーにより、開口部のうち太陽の直射光により照射される照射部分の面積の割合を、直射率として算出することができる。これにより、直射熱遮蔽度算出部は、ルーバーを介して、太陽の直射光により、開口部を介して室内への直射熱遮蔽度を簡単に算出することができる。なお、「直射熱遮蔽度」は、太陽の直射光のみによるルーバーの遮蔽係数であり、前記ルーバーにより前記開口部の遮蔽性が高くなるに従って、遮蔽係数が0に近づくように変化する変数である。一方、太陽の直射光以外の拡散光による拡散熱遮蔽度は、拡散熱遮蔽度算出部により算出することができる。ここで拡散光は、室内に均一に拡散光が到達するということを前提とし、ルーバーの形状に依存しないため、「拡散熱遮蔽度」は、全日射量に対する拡散日射量の割合から算出することができる。なお、「拡散熱遮蔽度」は、太陽の拡散光のみに依存した遮蔽係数であり、拡散光による日射量(拡散日射量)が小さくなるに従って、遮蔽係数が0に近づくように変化する変数である。以上、ルーバーによる遮蔽係数は、直射熱遮蔽度と拡散熱遮蔽度を加算することにより、遮蔽係数算出部で簡単に算出することができる。
【0008】
より好ましい態様としては、前記開口部は、窓ガラスで覆われており、前記ルーバー設定部は、前記窓ガラスに前記ルーバーの前記羽板部材が接触しているか否かを設定し、前記拡散熱遮蔽度算出部は、前記羽板部材が、前記窓ガラスに接触している場合には、前記ルーバーの材料の熱伝導率に基づいて設定された補正係数で、前記拡散熱遮蔽度を補正する。
【0009】
ここで、太陽の直射光の影響を除いて算出される拡散熱遮蔽度は、ルーバーの羽板部材が、窓ガラスに接触しているときには、ルーバーの熱が窓ガラスを介して室内に伝達される。したがって、この態様によれば、拡散熱遮蔽度算出部は、羽板部材が、窓ガラスに接触している場合、ルーバーの材料の熱伝導率に基づいて設定された補正係数で拡散熱遮蔽度を補正することにより、算出された拡散熱遮蔽度の精度を高めることができる。
【0010】
より好ましい態様としては、前記開口部は、窓ガラスで覆われており、前記ルーバー設定部は、前記窓ガラスに前記ルーバーの前記羽板部材が接触しているか否かを設定し、前記拡散熱遮蔽度算出部は、前記羽板部材が、前記窓ガラスに接触していない場合には、前記羽板部材の厚さと前記隙間の大きさとに基づいて設定された補正係数で、前記拡散熱遮蔽度を補正する。
【0011】
この態様によれば、太陽の直射光を除いて算出される拡散熱遮蔽度は、ルーバーの羽板部材が、窓ガラスに接触していない場合には、羽板部材の厚さと隙間の大きさにより変化する。したがって、この態様によれば、拡散熱遮蔽度算出部は、羽板部材が、窓ガラスに接触していない場合、羽板部材の厚さと隙間の大きさとに基づいて設定された補正係数で、拡散熱遮蔽度を補正することにより、算出された拡散熱遮蔽度の精度を高めることができる。
【0012】
より好ましい態様としては、前記ルーバーは、前記羽板部材が鉛直方向に延在し、複数の前記羽板部材が水平方向に間隔を空けて設置された縦型ルーバーであり、前記直射率算出部は、前記特定の時間における太陽の方位角度と、前記開口部の方位角度に基づいて、前記直射率を算出する。
【0013】
ルーバーが縦型ルーバーの場合には、特定の時間における太陽の方位角度と、開口部の方位角度とから、開口部の全体の面積に対して、開口部のうち太陽の直射光により照射される照射部分の面積の割合(直射率)を、より正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建物の開口部にルーバーを設けた場合に、その開口部が形成された室内の遮蔽係数を、より簡易的に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、建物の外側から見た、縦型ルーバーの模式的概念図であり、(b)は、建物の室内から見た、縦型ルーバーの模式的概念図である。
【
図2】本実施形態に係る遮蔽係数の処理装置を含むシステムの模式図である。
【
図3】本実施形態に係る遮蔽係数の処理装置のブロック図である。
【
図4】
図3に示すルーバー設定部により設定された設定条件と、直射率算出部による算出を説明するための縦型ルーバーの部分的な断面図である。
【
図5】日射角度の変化に応じて、
図4に示す直射率算出部により算出した直射率の一例を示した説明図である。
【
図6】
図2に示す拡散熱遮蔽度の補正係数を設定するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に
図1~
図6を参照しながら、本実施形態に係る遮蔽係数の演算装置を説明する。
【0017】
1.建物100の開口部7と縦型ルーバー5について
図1(a)は、建物の外側から見た、縦型ルーバーの模式的概念図であり、
図1(b)は、建物の室内から見た、縦型ルーバーの模式的概念図である。本実施形態に係る処理装置10は、羽板部材51が間隔を空けて保持された縦型ルーバー5を、建物100の開口部7に設置した状態において、開口部7から室内21への遮蔽係数を演算する装置である。
【0018】
本実施形態では、開口部7には、窓ガラス71が取り付けられており、開口部7を覆うように、建物100の壁部4には、縦型ルーバー5が取り付けられている。本実施形態では、縦型ルーバー5は、鉛直方向に沿って延在する、複数の長尺状の羽板部材51、51、…から構成されており、隣接する羽板部材51、51同士は、水平方向に等間隔(等ピッチ)で間を空けて保持されている。本実施形態では、その1つとして、建物100の一部を構成する縦型ルーバー5を例示したが、たとえば、縦型ルーバー5の代わりに、横型ルーバーであってもよい。
【0019】
ここで、縦型ルーバー5の羽板部材51の寸法およびこれらの間隔、太陽の位置等により、縦型ルーバー5による太陽光(自然光を含む)の遮熱性は異なり、縦型ルーバー5を介して、太陽光から室内に取り込まれる遮蔽係数は異なる。そこで、本実施形態では、以下に示す処理装置10を用いて、遮蔽係数を簡易的にかつ精度良く演算する。
【0020】
2.遮蔽係数の予測システム1のハードウエア構成について
予測システム1は、
図2に示すように、ハードウエアとして、ROM、RAM等で構成された記憶部10Aと、CPU等で構成された演算部10Bと、を備えた処理装置10を有している。記憶部10Aは、後述する算出を行うためのプログラム、建物100の開口部7の寸法、羽板部材51の寸法、隣接する羽板部材51、51同士の隙間の大きさ、および材質などの条件を記録しており、演算部10Bは、プログラム等を実行する。
【0021】
予測システム1は、入力装置31と出力装置32とを備えてもよい。この場合、処理装置10には、入力装置31と出力装置32とが接続されている。本実施形態では、入力装置31と出力装置32とが一体となったタッチパネルディスプレイであってもよい。
【0022】
入力装置31を用いて、上述したプログラムを実行するための初期条件(たとえば、羽板部材の寸法、これらの間隔)、プログラムのデータが入力される。入力装置31で入力されたデータは、記憶部10Aに記憶される。出力装置32は、処理装置10で演算された結果が、表示される。
【0023】
3.処理装置10のソフトウエア構成について
本実施形態では、
図3に示すように、処理装置10は、ルーバー設定部11と、直射率算出部12と、直射熱遮蔽度算出部13と、拡散熱遮蔽度算出部14と、遮蔽係数算出部15と、を少なくとも備えている。
【0024】
3-1.ルーバー設定部11について
図3は、水平方向に沿った縦型ルーバー5の羽板部材51と、断面図であり、ルーバー設定部11は、入力装置31からの入力により、縦型ルーバー5を構成する羽板部材51の寸法と、隣接する羽板部材51同士の間の隙間の大きさSと、を設定する。例えば、本実施形態では、
図4に示すように、羽板部材51の寸法として、羽板部材51の厚さt、奥行き寸法Lが設定されている。本実施形態では、隣接する羽板部材51同士の配置間隔(ピッチ)Pは、等ピッチであり、羽板部材51の厚さtと羽板部材51同士の間の隙間の大きさSとの和に相当する。なお、隙間の大きさSは、複数の羽板部材51、51同士が配列された状態で、この配列方向(水平方向)に沿って対向する羽板部材51、51の表面間距離である。
【0025】
3-2.直射率算出部12について
直射率算出部12は、特定の時間における太陽の位置において、開口部7(本実施形態では窓ガラス71)の全体の面積に対して、ルーバー設定部11により設定された縦型ルーバー5が設置された状態で、開口部7のうち太陽の直射光Rにより照射される照射部分の面積の割合を、直射率として算出する。
【0026】
具体的には、
図4に示すように、日中、太陽の直射光Rが、開口部7に向かって照射されると、羽板部材51に照射された直射光Rの一部は、開口部7に到達せず、開口部7(窓ガラス71)には、影の部分(影部分)aが形成される。一方、羽板部材51、51同士の間を通過した直射光Rの一部は、開口部7に到達し、開口部7(窓ガラス71)には、照射される部分(照射部分)bが形成される。したがって、直射率は、開口部7(窓ガラス71)のうち照射部分bの総面積を、開口部7(窓ガラス71)の全体の面積に対して除算することにより、算出することができる。
【0027】
本実施形態では、縦型ルーバー5の羽板部材51、51は、水平方向に等間隔に設置されているため、
図4に示すように、水平方向において、影部分aの幅Aと照射部分bの幅Bとの和は、ピッチPに相当する。したがって、開口部7(窓ガラス71)には、ピッチPで、影の部分aと、日射される部分bとが、水平方向に沿って、繰り返し配列されることになる。このような点から、直射率Vは、“V=B/(A+B)=B/P”を算出することにより、簡易的に求めることができる。なお、遮蔽率Dは、A/Pとして表すことができ、”直射率V=1-遮蔽率D”の関係を満たしている。
【0028】
ここで、確認的に説明すると、影部分aの幅Aと照射部分bの幅Bとは、羽板部材51の厚さt、羽板部材51同士の間の隙間の大きさSと、水平方向における開口部7(窓ガラス71)の法線方向に対する直射光Rの成す日射角度θにより算出することができる。具体的には、影部分aの幅Aは、“A=L×sinθ+t”により算出することができる。照射部分bの幅Bは、“B=P-A”により算出すればよい。
【0029】
ここで、上述した日射角度θにより、直射率は変化することから、太陽の方位角度と、開口部7の方位角度とが分かれば、日射角度θを特定することができる。開口部7の方位角度は、
図5に示すように、たとえば、真北を0°とし、時計周りを正の角度として、太陽の方位角度の範囲160°~220°に設定し、開口部7の方位角度を180°(窓ガラス71が真南に向いている)とした場合には、日射角度θの範囲は、-20°~40°まで変化する。この日射角度θの範囲で、
図4で説明した方法と同様の方法で、直射率算出部12は、直射率を算出する。
【0030】
なお、
図5では、羽板部材51の厚さtが30mm、奥行き方向の寸法Lが150mm、ピッチPが150mmの時の直射率を算出している。たとえば、太陽の方位角度が160°にあるときには、太陽が南南東あたりに位置し、窓ガラス71が真南向きにあるため、日射角度θは、-20°である。この場合には、直射率は、65mm/150mmで、0.43になる。
【0031】
また、太陽の方位角度が180°にあるときには、太陽が真南に位置し、窓ガラス71が真南向きにあるため、日射角度θは、0°である。この場合には、太陽の直射光が、窓ガラス71の法線方向に一致するため、直射率は、120mm/150mmで、0.80になる。
【0032】
さらに、太陽の方位角度が220°にあるときには、太陽が南西あたりに位置し、窓ガラス71が真南向きにあるため、日射角度θは、40°である。この場合には、太陽の直射光は、縦型ルーバーにより完全に遮断されるため、直射率は、0.00になる。
【0033】
このようにして、太陽の方位角度と、開口部7の方位角度とから、開口部7の全体の面積に対して、開口部7のうち太陽の直射光により照射される照射部分bの面積の割合(すなわち、直射率)を、より正確に算出することができる。
【0034】
ここで、
図5では、太陽の方位角度の範囲を変化させたが、太陽の方位角度は、時刻とともに変化する。したがって、直射率算出部12は、たとえば、以下の表1に示すように、時刻ごとの太陽の方位角度を予め読み込み、この太陽の方位角度を用いて、直射率を算出してもよい。
【0035】
【0036】
表1を確認すると、10時までは、直射率は、0.00であり、14時以降も直射率は、0.00であることがわかる。ここで、日射熱取得量を算出する場合には、たとえば、11時、12時、13時の直射率の平均値を直射率として算出してもよい。このように、直射率算出部12は、0より大きい値の直射率が算出される時刻を等間隔に算出し、これらの平均値を算出することで、その日の平均の直射率を算出することができる。
【0037】
3-3.直射熱遮蔽度算出部13について
直射熱遮蔽度算出部13は、建物100の地点における全日射量に対する地点における直接日射量の割合に、直射率を乗じた値を、直射熱遮蔽度として算出する。ここで、全日射量は、気象データから取り込んでもよく、その地点における晴天時のデータから取り込んでもよい。直接日射量は、その地点において、回転式直達日射計を用いて測定することができる。なお、全日射量をStとし、直接日射量をSdとし、直射率をVとし、直射熱遮蔽度をVdとすると、直射熱遮蔽度は、“Vd=V×Sd/St”として算出することができる。
【0038】
3-4.拡散熱遮蔽度算出部14について
拡散熱遮蔽度算出部14は、全日射量から直接日射量を減じた拡散日射量を算出し、全日射量に対する拡散日射量の割合を、拡散熱遮蔽度として算出する。ここで、拡散日射は、太陽角度や高度に依存することなく、天空や地物反射により様々な角度から得られるものである。そのため、縦型ルーバー5と開口部7の窓ガラス71が接触(密接)していると、拡散熱遮蔽度に影響があり、縦型ルーバー5による拡散日射による陰影で若干の日射熱侵入が妨げられることが想定される。このような点から、拡散熱遮蔽度算出部14は、開口部7に配置された窓ガラス71に、縦型ルーバー5の羽板部材51が接触しているか否かにより、拡散熱遮蔽度Vrを補正する。
【0039】
ここで、全日射量をStとし、直接日射量をSdとし、拡散熱遮蔽度をVrとし、補正係数をkとすると、拡散熱遮蔽度は、“Vr=k(St-Sd)/St”として算出することができる。この補正係数kの決定の際には、
図6に示すフロー図のステップS601に示すように、羽板部材51が、窓ガラス71に接触しているか否かを判定する。羽板部材51が、窓ガラス71に接触している場合(YES)には、ステップS602に進む。
【0040】
ステップS602以降では、拡散熱遮蔽度算出部14は、羽板部材51が、窓ガラス71に接触している場合には、縦型ルーバー5の材料の熱伝導率に基づいて設定された補正係数kで、拡散熱遮蔽度を補正する。補正係数kは、0より大きく、1以下の値をとる。ここで、ステップS602で、縦型ルーバー5の羽板部材51の材料の熱伝導率が予め設定された所定値以上であると判断し、所定値以上である場合(YES)には、羽板部材51から窓ガラス71に熱が伝達され易いため、ステップS603に進み、補正係数k=1とする。この場合、実質的には、拡散熱遮蔽度の補正は行わない。
【0041】
一方、ステップS602で、縦型ルーバー5の羽板部材51の材料の熱伝導率が予め設定された所定値未満である場合(NO)には、縦型ルーバー5による拡散熱の遮蔽性が高いと考えられる。したがって、この場合には、ステップS604に進み、補正係数kに、時刻ごとに算出した直射率Vのうち、直射率Vの最大値を代入する。ただし、ステップS602~S604の代わりに、縦型ルーバー5の羽板部材51の材料の熱伝導率が高いほど、1に近づくような値に補正係数kを設定してもよい。
【0042】
このように、太陽の直射光Rを除いて算出される拡散熱遮蔽度は、縦型ルーバー5の羽板部材51が、窓ガラス71に接触しているときには、縦型ルーバー5の熱が窓ガラス71を介して室内に伝達される。したがって、拡散熱遮蔽度算出部14は、羽板部材51が、窓ガラス71に接触している場合、縦型ルーバー5の材料の熱伝導率に基づいて設定された補正係数kで拡散熱遮蔽度を補正することにより、算出された拡散熱遮蔽度の精度を高めることができる。
【0043】
一方、ステップS601で、羽板部材51が、窓ガラス71に接触してないと判断した場合(NO)には、ステップS605~ステップS607で、拡散熱遮蔽度算出部14は、羽板部材51の厚さtと隙間Sの大きさとに基づいて設定された補正係数kで、拡散熱遮蔽度を補正する。この場合、補正係数kは、0より大きく、1未満の値をとる。日射角度θが0°の条件の直射率をV0としたときに、この直射率V0に基づいて、補正係数kを決定する。なお、この直射率は、“V0=S/(S+t)=S/P”で算出することができる。
【0044】
ここで、直射率V0が大きいと、羽板部材51の厚さtが薄いため、直接日射による影部分aの幅Aが狭いので、拡散日射により熱の影響を受け易い。一方、直射率V0が小さいと、羽板部材51の厚さtが厚いため、直接日射による影部分aの幅Aが広いので、拡散日射により熱の影響を受け難い。
【0045】
したがって、ステップS605において、直射率V0が予め設定された所定値(たとえば0.75)以上である場合(YES)には、ステップS606に進み、拡散日射による縦型ルーバー5の遮蔽性が低いため、補正係数kを大きい一定値(たとえばk=0.90)に設定する。一方、直射率V0が予め設定された所定値(たとえば0.75)未満である場合(NO)には、ステップS607に進み、拡散日射による縦型ルーバー5の遮蔽性が高いため、補正係数kを、それよりも小さい一定値(たとえばk=0.85)に設定してもよい。なお、ステップS605~S607の代わりに、直射率V0の大きさが大きくなるに従って、補正係数kが大きくなるように、補正係数kを設定してもよい。
【0046】
このように、太陽の直射光を除いて算出される拡散熱遮蔽度は、縦型ルーバー5の羽板部材51が、窓ガラス71に接触していない場合、羽板部材51の厚さtと隙間の大きさSにより変化する。したがって、拡散熱遮蔽度算出部14は、羽板部材51が、窓ガラス71に接触していない場合、羽板部材51の厚さtと隙間の大きさSとに基づいて設定された補正係数kで、拡散熱遮蔽度を補正することにより、算出された拡散熱遮蔽度の精度を高めることができる。
【0047】
3-5.遮蔽係数算出部15について
遮蔽係数算出部15は、直射熱遮蔽度Vdと拡散熱遮蔽度Vrとを加算することにより、遮蔽係数SCを算出する。このようにして、一連の算出を1つの式でまとめると、遮蔽係数SCは、以下の式(1)により、表すことができる。
【0048】
SC=Vr+Vd=k(St-Sd)/St+V×Sd/St…(1)
ただし、
SC:遮蔽係数
Vr:拡散熱遮蔽度
Vd:直射熱遮蔽度
k:補正係数
St:全日射量
Sd:直接日射量
V:直射率(B/P)
B:照射部分bの幅
P:羽板部材のピッチ
【0049】
ここで、たとえば、直射率算出部12で算出した、10時~14時までの1時間ごとの直射率(平均値)Vが、0.29であり、全日射量Stが、1000W/m2であり、直接日射量Sdが、700W/m2であり、補正係数kが1.00である場合、
SC={1.00(1000-700)/1000}+{0.29×700/1000}=0.503
となる。
【0050】
このように、直射率算出部12は、特定の時間における太陽の位置において、開口部7の全体の面積に対して、ルーバー設定部11により設定された縦型ルーバー5により、開口部7のうち太陽の直射光Rにより照射される照射部分bの面積の割合を、直射率として算出することができる。これにより、直射熱遮蔽度算出部13は、縦型ルーバー5を介して、太陽の直射光Rにより、開口部7を介して室内21への直射熱遮蔽度を簡単に算出することができる。一方、太陽の直射光R以外の拡散熱遮蔽度は、拡散熱遮蔽度算出部14により算出されるため、開口部7を介した遮蔽係数は、直射熱遮蔽度と拡散熱遮蔽度を加算することにより、簡単に算出することができ、この値を、遮蔽係数として予測することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0052】
たとえば、本実施形態では、縦型ルーバーを用いたときの遮蔽係数を演算(予測)したが、羽板部材が水平方向に延在し、複数の羽板部材が鉛直方向に間隔を空けて設置された横型ルーバーを用いたときの遮蔽係数を演算(予測)してもよい。この場合には、太陽の高度に基づいて、直射率を産出すればよい。
【符号の説明】
【0053】
1:予測システム、10:処理装置、11:ルーバー設定部、12:直射率算出部、13:直射熱遮蔽度算出部、14:拡散熱遮蔽度算出部、15:遮蔽係数算出部、5:縦型ルーバー、51:羽板部材、7:開口部、71:窓ガラス、b:照射部分