(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051558
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】補強アンカー、土留め壁の補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/76 20060101AFI20240404BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20240404BHJP
E02D 17/04 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
E02D5/76
E21D9/06 301E
E02D17/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157787
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輔
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
【テーマコード(参考)】
2D041
2D054
【Fターム(参考)】
2D041GC03
2D041GC12
2D041GC13
2D041GC14
2D041GD01
2D054AC01
2D054EA07
(57)【要約】
【課題】地下水による圧力や浮力の影響を軽減し安定して土留め壁に形成したアンカー固定穴に固定することができる補強アンカー及びそれを用いた土留め壁の補強方法の提供。
【解決手段】複数の樹脂繊維ワイヤー2をシース3の内部に備え、樹脂繊維ワイヤー2の一端部2Aの第1の端部構造4及び他端部2Bの第2の端部構造5とを備え、第1の端部構造4は樹脂繊維ワイヤー2の外周を覆い樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間に充填された第1の樹脂と、第1の樹脂を介して樹脂繊維ワイヤー2を覆うアンボンドチューブと、アンボンドチューブを束縛する第1の熱収縮部材とを有し、第2の端部構造5は樹脂繊維ワイヤー2を覆い樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間に充填された第2の樹脂と、第2の樹脂を介して樹脂繊維ワイヤー2を束縛する第2の熱収縮部材と、第2の熱収縮部材の外側に配置された充填材料からなる硬化部とを有する、補強アンカー1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手を同じ方向にして束ねた複数の樹脂繊維ワイヤーをシースの内部に備えた補強アンカーであって、
前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向の一端部に形成された第1の端部構造と、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向の他端部に形成された第2の端部構造と、を備え、
前記第1の端部構造は、前記樹脂繊維ワイヤーの外周を覆い、かつ前記樹脂繊維ワイヤーの素線同士の間に充填された第1の樹脂と、前記第1の樹脂を介して前記樹脂繊維ワイヤーを外側から覆うアンボンドチューブと、前記アンボンドチューブを外側から束縛する第1の熱収縮部材と、を有し、
前記第2の端部構造は、前記樹脂繊維ワイヤーの外周を覆い、かつ前記樹脂繊維ワイヤーの素線同士の間に充填された第2の樹脂と、前記第2の樹脂を介して前記樹脂繊維ワイヤーを外側から束縛する第2の熱収縮部材と、前記第2の熱収縮部材の外側に配置された充填材料からなる硬化部と、を有する、補強アンカー。
【請求項2】
前記充填材料は、膨張性のモルタルであり、
前記硬化部の膨張圧は、40MPa以上60MPa以下である、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項3】
前記第2の端部構造側に、前記第2の端部構造を挿入する引張部材を備え、
前記引張部材内に挿入される前記第2の端部構造の長手方向の長さは、10mm以上20mm以下である、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項4】
前記第1の樹脂および前記第2の樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項5】
前記第1の樹脂の含有量が、前記樹脂繊維ワイヤー1本の長さ60mm当たり1g以上10g以下である、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項6】
前記第2の樹脂の含有量が、前記樹脂繊維ワイヤー1本の長さ60mm当たり1g以上10g以下である、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項7】
前記シースの内部に、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向に延びる第1の定着材注入パイプを備えた、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項8】
前記シースの外側に、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向に延びる第2の定着材注入パイプを備えた、請求項1に記載の補強アンカー。
【請求項9】
請求項7または8に記載の補強アンカーを用いた切削可能領域を有する土留め壁の補強方法であって、
前記切削可能領域とその周囲の地盤に跨るアンカー固定穴を複数形成し、
前記定着材注入パイプに定着材を注入しながら、前記補強アンカーを前記アンカー固定穴に挿入する、土留め壁の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強アンカー、および補強アンカーを用いた土留め壁の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地下鉄、地下道、共同溝、下水道等(以下、「地下鉄等」ともいう。)のトンネル工事には、シールド掘削機を用いた、シールド工法が広く採用されている。
一般的に、シールド工法は、まず、開切工法によって、縦穴である立坑(発進立坑)を形成し、この発進立坑から地下にシールド掘削機を運び込み、そのシールド掘削機で発進立坑の掘削側面を掘削して、横方向に発進し、目的地点である終点までトンネルを掘削する工法である。
なお、通常、シールド工法においては、トンネルの目的地点である終点に、発進立坑と同様の縦穴(到達立坑)が形成され、その到達立坑にシールド掘削機を到達させる。
【0003】
ところで、開切工法によって形成された発進立坑や到達立坑(以下、総称して「立坑」ともいう。)の側面には、土圧や水圧(以下、「土圧等」という。)によるその側面の崩壊や、その側面からの地下水流出を防止するために、鉄筋コンクリートや、溝矢板、または、H型鋼等を用いた仮壁たる土留め壁が構築される。
【0004】
このように、シールド工法の立坑においては、土圧等に対抗して空間を保持するために、立坑の内周部に芯材を設置して、土留め壁が設けられる。また、こうして形成された土留め壁には、通常、シールド掘削機が発進・到達する際に開口を形成しなければならない(いわゆる、鏡切り)。そして、従来から、このような土留め壁の鏡切りの作業に対しては、重機や人力による手段がとられている。また、土留め壁は、土圧等に対抗するように設けられるものであるため、開口等を設けると、対抗力を低下させることがある。
【0005】
そこで、近年、立坑の土留め壁に、繊維で補強された樹脂成形体(FRP:Fiber Reinforced Plastics)等により構成された部材を組み込み、このFRPの部分(切削可能領域)をシールド掘削機で直接的に切削するシールド工法が実施されている(SEW工法:Shield Earth Retaining Wall System)。
【0006】
しかしながら、従来のSEW工法においては、切削可能領域を備えた土留め壁を、所定以上の土圧等が発生する環境下には採用することが困難であった。
そこで、このような環境下においても、SEW工法の採用を可能にするために、切削可能領域に、切削可能な補強アンカーを設けて、この補強アンカーによって、切削可能領域の強度を間接的に補強する方法(以下、「アンカー補強方法」という。)がある。
アンカー補強方法は、テンドングリップと樹脂繊維ワイヤーを備えた補強アンカーを用いて、切削可能領域を補強する方法である。
【0007】
アンカー補強方法では、芯材で囲まれた立坑の内部を掘削していく過程で、切削可能領域に補強アンカーを打設していく。補強アンカーの打設時には、芯材と芯材の間のソイルセメント部を掘削してアンカー固定穴(穴)を形成する。次に、そのアンカー固定穴に補強アンカーを挿入した後、アンカー頭部(ボルト・ナット構造)と受圧板で、補強アンカーを定着する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のアンカー固定穴を形成する工程において、補強アンカーを打設するためのアンカー固定穴が設けられている位置の上部に透水性が低い難透水層(加圧層)が存在する場合、地下水による圧力がアンカー固定穴に加わる。そのため、アンカー固定穴に補強アンカーを挿入する工程において、地下水による圧力や浮力により、樹脂製で軽量な補強アンカーが押し戻され、削孔部内に補強アンカーを全長分挿入できないという課題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載の補強アンカーは、自由長(アンカー設置時の定着長形成用のグラウトと付着しない領域)を形成するために、樹脂繊維ワイヤーが最大6本束ねられた状態で、樹脂繊維ワイヤーの一方の端部が自由長シースで被覆されている。上記のような地下水による圧力や浮力の影響を軽減するために、樹脂繊維ワイヤーを1本ずつシースで被覆する構造を採用する場合、樹脂繊維ワイヤーとシースの間の隙間を少なくして、定着長形成用のグラウトが自由長部に浸入しないよう(自由長部の樹脂繊維ワイヤーとグラウトが施工時に付着しないよう)にする必要がある。しかしながら、樹脂繊維ワイヤーの他方の端部では、樹脂繊維ワイヤーが最大6本束ねられた状態で、樹脂繊維ワイヤーを自由長シースで被覆することができないという課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、地下水による圧力や浮力の影響を軽減し、安定して、土留め壁に形成したアンカー固定穴に固定することができる補強アンカー、および補強アンカーを用いた土留め壁の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]長手を同じ方向にして束ねた複数の樹脂繊維ワイヤーをシースの内部に備えた補強アンカーであって、
前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向の一端部に形成された第1の端部構造と、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向の他端部に形成された第2の端部構造と、を備え、
前記第1の端部構造は、前記樹脂繊維ワイヤーを外側から覆うアンボンドチューブと、前記アンボンドチューブを外側から束縛する第1の熱収縮部材と、を有し、
前記第2の端部構造は、前記樹脂繊維ワイヤーの外周を覆い、かつ前記樹脂繊維ワイヤーの素線同士の間に充填された第2の樹脂と、前記第2の樹脂を介して前記樹脂繊維ワイヤーを外側から束縛する第2の熱収縮部材と、前記第2の熱収縮部材の外側に配置された充填材料からなる硬化部と、を有する、補強アンカー。
[2]前記充填材料は、膨張性のモルタルであり、
前記硬化部の膨張圧は、40MPa以上60MPa以下である、[1]に記載の補強アンカー。
[3]前記第2の端部構造側に、前記第2の端部構造を挿入する引張部材を備え、
前記引張部材内に挿入される前記第2の端部構造の長手方向の長さは、10mm以上20mm以下である、[1]に記載の補強アンカー。
[4]前記第1の樹脂および前記第2の樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である、[1]に記載の補強アンカー。
[5]前記第1の樹脂の含有量が、前記樹脂繊維ワイヤー1本の長さ60mm当たり1g以上10g以下である、[1]に記載の補強アンカー。
[6]前記第2の樹脂の含有量が、前記樹脂繊維ワイヤー1本の長さ60mm当たり1g以上10g以下である、[1]に記載の補強アンカー。
[7]前記シースの内部に、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向に延びる第1の定着材注入パイプを備えた、[1]に記載の補強アンカー。
[8]前記シースの外側に、前記樹脂繊維ワイヤーの長手方向に延びる第2の定着材注入パイプを備えた、[1]に記載の補強アンカー。
[9][7]または[8]に記載の補強アンカーを用いた切削可能領域を有する土留め壁の補強方法であって、
前記切削可能領域とその周囲の地盤に跨るアンカー固定穴を複数形成し、前記定着材注入パイプに定着材を注入しながら、前記補強アンカーを前記アンカー固定穴に挿入する、土留め壁の補強方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地下水による圧力や浮力の影響を軽減し、安定して、土留め壁に形成したアンカー固定穴に固定することができる補強アンカー、および補強アンカーを用いた土留め壁の補強方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る補強アンカーの長手方向の断面を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のA-A線に沿う断面の端面を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のB-B線に沿う断面の端面を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のC-C線に沿う断面の端面を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を示す正面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を示す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を示す断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の補強アンカー、および補強アンカーを用いた土留め壁の補強方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
[補強アンカー]
図1は、本発明の一実施形態に係る補強アンカーの長手方向の断面を示す断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のA-A線に沿う断面の端面を示す図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のB-B線に沿う断面の端面を示す図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る補強アンカーを示し、
図1のC-C線に沿う断面の端面を示す図である。
なお、以下の説明で用いる図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合がある。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の補強アンカー1は、長手を同じ方向にして束ねた複数の樹脂繊維ワイヤー2をシース3の内部に備えたものである。また、本実施形態の補強アンカー1は、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の一端部(先端部)2Aに形成された第1の端部構造4と、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の他端部(後端部)2Bに形成された第2の端部構造5とを備える。なお、第1の端部構造4は、補強アンカー1の一端部において、第1の樹脂(図示略)によって樹脂繊維ワイヤー2が覆われている部位のことである。また、第2の端部構造5は、補強アンカー1の他端部において、第2の樹脂(図示略)によって樹脂繊維ワイヤー2が覆われている部位のことである。
【0018】
図2に示すように、第1の端部構造4は、樹脂繊維ワイヤー2側から外側に向かって順に、第1の樹脂と、アンボンドチューブ18と、第1の熱収縮部材8とを有する。第1の樹脂は、複数の樹脂繊維ワイヤー(最大6本のうちの1本を指す)2の外周を覆い、かつ樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間に充填され、樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間の隙間を埋めている。アンボンドチューブ18は、第1の樹脂を介して複数の素線からなる樹脂繊維ワイヤー2(1本)を外側から覆っている。第1の熱収縮部材8は、アンボンドチューブ18を外側から束縛している。このようにして構成された樹脂繊維ワイヤー2が6本束ねられてシース3に内包されている。
【0019】
図3に示すように、第2の端部構造5は、樹脂繊維ワイヤー2側から外側に向かって順に、アンボンドチューブ18と、第2の熱収縮部材10と、硬化部11とを有する。第2の樹脂は、複数の樹脂繊維ワイヤー2の外周を覆い、かつ樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間に充填され、樹脂繊維ワイヤー2の素線同士の間の隙間を埋めている。第2の熱収縮部材10は、第2の樹脂を介して複数の樹脂繊維ワイヤー2を外側から束縛する。硬化部11は、第2の熱収縮部材10の外側に配置された充填材料からなる。また、第2の端部構造5の中央には、硬化部11を形成する充填材料の養生用の温調配管21が配置されている。
【0020】
補強アンカー1は、先端部、すなわち、第1の端部構造4の端部に、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の一端を覆う先端キャップ13を有する。
補強アンカー1は、先端キャップ13の後端側に、先端キャップ13から樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の他端部側に延びる先端グラウト止水部14を有する。先端グラウト止水部14は、複数の樹脂繊維ワイヤー2の外周を覆い、かつ複数の樹脂繊維ワイヤー2同士の間に充填されているグラウトからなる。
【0021】
補強アンカー1は、後端部、すなわち、第2の端部構造5の端部に、第2の端部構造5を挿入する引張部材(テンドングリップ)15を有する。引張部材15は、第2の端部構造5の一部を挿入可能な内部空間を有している。この内部空間は、引張部材15の内外に連通した空間である。
【0022】
図1に示すように、樹脂繊維ワイヤー2は、長手方向に延びる自由長部16と定着長部17とを有する。
自由長部16は、第2の端部構造5側に設けられ、補強アンカー1によって土留め壁を補強した際に、引張部材15に作用する引張力を定着長部17に伝達する部位である。また、自由長部16において、
図3および
図4に示すように、樹脂繊維ワイヤー2の外周がアンボンドチューブ18によって覆われている。
定着長部17は、補強アンカー1によって土留め壁を補強した際に、定着材を介して地盤と一体化する部位である。すなわち、定着長部17は、補強アンカー1によって土留め壁を補強した際に、定着材によって移動が規制されている部位である。
【0023】
補強アンカー1は、
図1に示すように、シース3の内部に、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向に延びる第1の定着材注入パイプ19を備えることが好ましい。第1の定着材注入パイプ19は、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向に沿って、引張部材15側から先端グラウト止水部14の近傍まで延びている。第1の定着材注入パイプ19を介して、引張部材15側からシース3の内部にグラウトを注入することができる。
【0024】
補強アンカー1は、
図1に示すように、シース3の外側に、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向に延びる第2の定着材注入パイプ20を備えることが好ましい。第2の定着材注入パイプ20は、樹脂繊維ワイヤー2の長手方向に沿って、引張部材15側から第1の端部構造4の近傍まで延びている。第2の定着材注入パイプ20を介して、引張部材15側からシース3の外側にグラウトを注入することができる。
【0025】
樹脂繊維ワイヤー2は、可撓性と切削容易性を有する綱状体である。
樹脂繊維ワイヤー2の材質は、繊維補強された樹脂であれば特に限定されないが、引っ張り強度が高く、軽量である観点から、炭素繊維で補強された熱硬化性樹脂が好ましい。なお、各樹脂繊維ワイヤー2を構成する芯線としては、ガラス繊維を有するものであってもよい。
樹脂繊維ワイヤー2は、繊維の方向がほぼ軸方向(補強アンカー1の長手方向)に揃うように設計されている。すなわち、樹脂繊維ワイヤー2は、補強アンカー1の長手方向に作用する引張力に対する強度が高い部材である。また、補強アンカー1は、強化繊維が炭素繊維であるため、シールド掘削機の切削による破壊が容易であり、切削容易性を備えた部材でもある。
【0026】
シース3は、特に限定されないが、例えば、表面に波形の加工が施されたコルゲートシースが挙げられる。
シース3の材質は、特に限定されないが、柔軟性や耐候性に優れる観点から、ポリプロピレン、ナイロン等が好ましい。
【0027】
第1の端部構造4の樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の長さは、100mm以上500mm以下が好ましく、100mm以上300mm以下がより好ましく、100mm以上200mm以下がさらに好ましい。第1の端部構造4の長さが前記下限値以上であると、十分な長さの止水部を形成でき、樹脂繊維ワイヤー2のアンボンドチューブ被覆部の端部の止水性を確保できる。第1の端部構造4の長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0028】
第2の端部構造5の樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の長さは、10mm以上50mm以下が好ましく、10mm以上30mm以下がより好ましく、10mm以上20mm以下がさらに好ましい。第2の端部構造5の長さが前記下限値以上であると、膨張モルタルによる樹脂繊維ワイヤー2との定着長部17の長さを損なわずに、同時にアンボンドチューブ被覆部の端部の止水性を確保できる。第2の端部構造5の長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0029】
第1の樹脂および第2の樹脂は、複数の樹脂繊維ワイヤー2の外周を覆い、かつ樹脂繊維ワイヤー2の素線の間に充填され、樹脂繊維ワイヤー2の素線の間の隙間を埋めることができるものであれば特に限定されないが、耐水性に優れる観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(Ethylen-Vinyl Acetate:EVA)が好ましい。
【0030】
第1の樹脂の含有量は、樹脂繊維ワイヤー2の1本の長さ60mm当たり1g以上20g以下が好ましく、1g以上15g以下がより好ましく、1g以上10g以下がさらに好ましい。第1の樹脂の含有量が前記下限値以上であると、樹脂繊維ワイヤー2の素線の間に十分な第1の樹脂を充填でき、止水性を高めることができる。第1の樹脂の含有量が前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0031】
第2の樹脂の含有量は、樹脂繊維ワイヤー2の1本の長さ60mm当たり1g以上20g以下が好ましく、1g以上15g以下がより好ましく、1g以上10g以下がさらに好ましい。第2の樹脂の含有量が前記下限値以上であると、樹脂繊維ワイヤー2の素線の間に十分な第2の樹脂を充填でき、止水性を高めることができる。第2の樹脂の含有量が前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0032】
アンボンドチューブ18の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン等が挙げられる。
【0033】
アンボンドチューブ18は、樹脂繊維ワイヤー2を覆う第1の樹脂の全体を覆っている。
【0034】
第1の熱収縮部材8は、熱を加えることにより収縮する部材である。第1の熱収縮部材8の材質は、特に限定されないが、例えば、住友電工社製のSUMITUBE F2(電子線架橋軟質難燃性ポリオレフィン樹脂)等が挙げられる。
【0035】
第1の熱収縮部材8によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さは、20mm以上200mm以下が好ましく、20mm以上150mm以下がより好ましく、20mm以上100mm以下がさらに好ましい。第1の熱収縮部材8によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さが前記下限値以上であると、グラウト注入時の止水性を確保することができる。第1の熱収縮部材8によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0036】
第1の熱収縮部材8は、アンボンドチューブ18を少なくとも一部を覆い、アンボンドチューブ18と重なっていればよい。第1の熱収縮部材8とアンボンドチューブ18が重なる長さは、20mm以上200mm以下が好ましく、20mm以上150mm以下がより好ましく、20mm以上100mm以下がさらに好ましい。第1の熱収縮部材8とアンボンドチューブ18が重なる長さが前記下限値以上であると、第1の熱収縮部材8とアンボンドチューブ18の一体化した部分の面積(付着長さ)を確保することができ、グラウト注入時の止水性を確保することができる。第1の熱収縮部材8とアンボンドチューブ18が重なる長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0037】
第2の熱収縮部材10は、第1の熱収縮部材8と同一の部材である。
【0038】
第2の熱収縮部材10は、樹脂繊維ワイヤー2を覆う第2の樹脂の全体を覆っている。
第2の熱収縮部材10によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さは、20mm以上200mm以下が好ましく、20mm以上150mm以下がより好ましく、20mm以上100mm以下がさらに好ましい。第2の熱収縮部材10によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さが前記下限値以上であると、グラウト注入時の止水性を確保することができる。第2の熱収縮部材10によって樹脂繊維ワイヤー2を覆う長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0039】
硬化部11を形成する充填材料としては、膨張性のモルタルが好ましい。膨張性のモルタルの具体例としては、養生時の温度が、摂氏10度以上摂氏60度以下に維持されていることで40MPa以上60MPa以下の膨張圧を発現するモルタル等が挙げられる。
【0040】
硬化部11の膨張圧は、40MPa以上60MPa以下が好ましく、40MPa以上50MPa以下がより好ましい。硬化部11の膨張圧が前記下限値以上であると、樹脂繊維ワイヤー2と引張部材15の一体化強度の向上が期待できる。硬化部11の膨張圧が前記上限値以下であると、引張部材15の寸法変化影響を軽減することができる。
【0041】
硬化部11の膨張圧は、同じ断面構造のダミー材を用意して汎用の圧力センサーを用いることで測定することができる。
【0042】
先端キャップ13は、
図1に示すように、先端側に向かうに従い縮径するテーパ状をなしている。
先端キャップ13の材質は、特に限定されないが、例えば、高密度ポリエチレンや塩化ビニル樹脂等が挙げられる。耐水性(止水性)に優れる観点から、高密度ポリエチレンが好ましい。
【0043】
先端グラウト止水部14を形成するグラウト(定着材)は、トンネル掘削の際に、注入工法、シールド工法等において、ロックボルトの定着や、地山と覆工の隙間を埋めるために用いられるものである。グラウトとしては、セメント(モルタル)系の材料、ガラス系の材料、合成樹脂等を用いることができる。
【0044】
先端グラウト止水部14の樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の長さは、50mm以上500mm以下が好ましく、50mm以上300mm以下がより好ましく、50mm以上200mm以下がさらに好ましい。先端グラウト止水部14の樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の長さが前記下限値以上であると、施工におけるグラウト注入時の、補強アンカー1の一端部側の止水性を確保することができる。先端グラウト止水部14の樹脂繊維ワイヤー2の長手方向の長さが前記上限値以下であると、止水に用いる材料費や先端グラウト止水部14の加工の工数を軽減することができる。
【0045】
引張部材15は、繊維強化プラスチック(FRP)によって形成された樹脂成形品である。
引張部材15は、繊維の配向がほぼ軸方向および周方向に揃うように設計されている。すなわち、引張部材15は、補強アンカー1の長手方向と交差する方向に作用する力の曲げモーメントに対する剛性が高い部材である。また、引張部材15は、FRP製であるため、シールド掘削機の切削による破壊が容易であり、切削容易性を備えた部材でもある。すなわち、引張部材15は、力の曲げモーメントに対する剛性が高く、切削容易性を備えた部材である。
【0046】
引張部材15内に挿入される第2の端部構造5の長手方向の長さは、10mm以上50mm以下が好ましく、10mm以上30mm以下がより好ましい。引張部材15内に挿入される第2の端部構造5の長さが前記下限値以上であると、施工におけるグラウト注入時の、補強アンカー1の他端部側の止水性を確保することができる。引張部材15内に挿入される第2の端部構造5の長さが前記上限値以下であると、引張部材15内における樹脂繊維ワイヤー2と膨張モルタルの付着長を確保することができる。
【0047】
第1の定着材注入パイプ19および第2の定着材注入パイプ20の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンや塩化ビニル樹脂等が挙げられる。グラウトに対する耐性に優れる観点から、ポリエチレンが好ましい。
【0048】
本実施形態の補強アンカー1は、のり面の補強にも使われるアンカーであり、後述するように、仮壁切削工法であるSEW工法(Shield Earth Retaining Wall System)に用いられる土留め壁の切削部分(切削可能領域)の補強に好適に用いられるものである。また、本実施形態の補強アンカー1は、シールドトンネルを掘削するにあたって形成される立坑の土留め壁を、補強して安定化するとともに、掘削時においては、シールド掘削機によって土留め壁とともに容易に切削できる機能を備えたものである。
【0049】
本実施形態の補強アンカー1によれば、上記の第1の端部構造4と上記の第2の端部構造5を有するため、地下水による圧力や浮力の影響を軽減し、安定して、土留め壁に形成したアンカー固定穴に固定することができる。従って、シールドトンネルの掘削の作業効率を向上することができる。
【0050】
[土留め壁の補強方法]
図5~
図9を参照して、本発明の一実施形態に係る土留め壁の補強方法を説明する。
【0051】
本実施形態の土留め壁の補強方法は、本実施形態の補強アンカーを用いた切削可能領域を有する土留め壁の補強方法であって、前記切削可能領域とその周囲の地盤に跨るアンカー固定穴を複数形成し、前記定着材注入パイプに定着材を注入しながら、前記補強アンカーを前記アンカー固定穴に挿入する。
【0052】
本実施形態の土留め壁の補強方法は、
図5に示すように、上述の実施形態の補強アンカー1を用いて、シールド掘削機Sによって、シールドトンネルを掘削するにあたって形成される立坑30の土留め壁31(構造体)を補強して安定化する方法である。
【0053】
図5に示すように、公知のソイルセメント工法を用いて、平面視形状が四角形の立坑30の側壁である土留め壁31を施工する。このとき、シールド掘削機Sの発進方向にあたる土留め壁31bには、シールド掘削機Sにより直接切削可能な切削可能領域41が形成される。すなわち、土留め壁31bの施工においては、
図6に示すように、切削可能領域41が位置する部分に複数の長尺樹脂体43を配置し、それ以外の部分(非切削領域)に金属部材45を配置する。
【0054】
より具体的には、土留め壁31bは、複数の金属部材45を垂直方向(高さ方向)に延伸させた姿勢で並列するように配置し、それらの一部の範囲が切削可能領域41に置換されるようにして形成される。すなわち、切削可能領域41の上下左右には、非切削領域が配されており、特に高さ方向上下においては、長尺樹脂体43と金属部材45とが、図示しない継手およびボルトナット等の締結要素によって接続される。そして、そのようにして並べられた長尺樹脂体43と金属部材45との間に、ソイルセメント硬化体46が充填される。すなわち、土留め壁31bは、長尺樹脂体43と金属部材45とソイルセメント硬化体46を複合して形成されている。なお、切削可能領域41を持たない土留め壁31は、複数の金属部材45とソイルセメント硬化体46のみで形成されている。
【0055】
このようにして、土留め壁31が完成した後、土留め壁31によって囲繞された部分を、所定の掘削機によって掘削(立坑掘削)する。
なお、立坑30には、土留め壁31に掛かる土圧や水圧(以下、「土圧等」という。)に対抗するために、一定深さごとに公知の切梁(図示しない)が設けられる。
【0056】
立坑掘削が実施されて、切削可能領域41の高さ方向中途に至るまで掘削が進むと、グラウンドアンカー工法に移行し、切削可能領域41の周囲から掛かる土圧等の条件に基づいて、切削可能領域41とその周囲の地盤に跨るアンカー固定穴37(
図7参照)を複数形成する(第1の工程)。より具体的には、アンカー固定穴37は、切削可能領域41から地盤に向けて所定の角度(例えば、5度~45度)の下り勾配を有するように形成される。
【0057】
また、補強アンカー1の大部分を、各アンカー固定穴37に挿入する。より具体的には、補強アンカー1の定着長部17(先端キャップ13、先端グラウト止水部14および第1の端部構造4)がアンカー固定穴37内に位置するように挿入する。すなわち、補強アンカー1は、
図7に示すように、自由長部16の一部および引張部材15が、アンカー固定穴37から立坑30側に露出するような姿勢で配される。
【0058】
そして、補強アンカー1をアンカー固定穴37に挿入した後、第1の定着材注入パイプ19からシース3の内部にグラウト22を注入し、養生してグラウト22を硬化する。グラウト22は、第1の端部構造4の周囲にあるシース3内全てに充填されるまで注入される(
図7から
図8)。
このとき、グラウト22としては、公知のグラウト材が採用できる。グラウト22としては、例えば、セメントミルクを用いることができる。
このとき、シース3は、グラウト22の充填に伴って膨張し、その膨張圧によりアンカー固定穴37の内側面を圧迫する。そして、その状態を維持してグラウト22が硬化する。そのため、アンカー固定穴37に対して補強アンカー1が密着し、アンカー固定穴37から補強アンカー1が抜け落ちなくなる。
また、シース3内の樹脂繊維ワイヤー2の定着長部17は、グラウト22に晒されているため、シース3に定着されている。
【0059】
また、補強アンカー1をアンカー固定穴37に挿入した後、第2の定着材注入パイプ20からシース3の外側にグラウト22を注入し、養生してグラウト22を硬化してもよい。グラウト22は、第1の端部構造4の周囲にあるシース3とアンカー固定穴37との間の隙間を全て埋めるまで注入される。グラウト22が硬化すると、グラウト22を介して、アンカー固定穴37と補強アンカー1が密着し、アンカー固定穴37から補強アンカー1が抜け落ちなくなる。
【0060】
第1の定着材注入パイプ19によるグラウト22の注入と第2の定着材注入パイプ20によるグラウト22の注入は、いずれか一方を行ってもよく、両方を行ってもよい。
【0061】
シース3内にグラウト22を注入し、シース3が膨張した状態でグラウト22が硬化してアンカー固定穴37内に固定された後、補強アンカー1に受圧板26を挿着する。具体的には、受圧板26は、立坑30側に露出した位置に配置される。
なお、受圧板26は、GFFUによって成形された部材である。
【0062】
次に、受圧板26上に支圧板27を配置し、その状態で、
図9に示すように、支圧板27の上部側からナット28を引張部材15のねじ切り部に螺合して、支圧板27を受圧板26側に締め付ける。
【0063】
その後、支圧板27上にジャッキアップ装置(図示しない)を据え付ける。そして、そのジャッキアップ装置によって、樹脂繊維ワイヤー2の自由長部16に引き抜き方向の力を掛けるとともに、ナット28をさらに締め付けて緊張状態を保持させる。
このとき、引張部材15に追随して、樹脂繊維ワイヤー2が緊張状態に保持される。
【0064】
そして、支圧板27上からジャッキアップ装置(図示しない)を取り除いて、再び立坑掘削を実施する。すなわち、補強アンカー1による切削可能領域41の補強が完了し、アンカー補強領域51が完成したことを条件に、切削可能領域41が完全に露出するまで立坑掘削および切梁の設置を行う。
こうして、切削可能領域41の施工が完了すれば、シールド掘削機Sを用いて、直接的に切削することが可能となる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の土留め壁の補強方法によれば、補強アンカー1の第1の端部構造4が止水されているため、アンカー固定穴37内に補強アンカー1を挿入し、固定する際に、地下水等の圧力により、アンカー固定穴37から補強アンカー1が抜け落ちることを抑制することができる。従って、トンネルを掘削する作業の効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 補強アンカー
2 樹脂繊維ワイヤー
3 シース
4 第1の端部構造
5 第2の端部構造
7 被覆パイプ
8 第1の熱収縮部材
10 第2の熱収縮部材
11 硬化部
13 先端キャップ
14 先端グラウト止水部
15 引張部材
16 自由長部
17 定着長部
18 アンボンドチューブ
19 第1の定着材注入パイプ
20 第2の定着材注入パイプ
21 温調配管