(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051570
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】鋳型用有機粘結剤及びこれを用いて得られる鋳物砂組成物並びに鋳型
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20240404BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20240404BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240404BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B22C1/22 L
C08L61/06
C08K5/17
C08K5/09
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157807
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】前田 博信
【テーマコード(参考)】
4E092
4J002
【Fターム(参考)】
4E092AA27
4E092AA47
4E092BA02
4E092BA04
4E092CA03
4J002CD061
4J002EF097
4J002EN036
4J002FD156
4J002FD157
4J002GR00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】鋳型造型の際の硬化速度に優れ、且つ、得られる鋳型が優れた強度を発揮する鋳型用有機粘結剤を提供すること。
【解決手段】樹脂粘結成分としての、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びノボラック型キシレノール樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上の樹脂と共に、トリエチレンジアミンを用いて、鋳型用有機粘結剤を構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びノボラック型キシレノール樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上の樹脂を、樹脂粘結成分として含むと共に、トリエチレンジアミンを含むことを特徴とする鋳型用有機粘結剤。
【請求項2】
芳香族カルボン酸を更に含む請求項1に記載の鋳型用有機粘結剤。
【請求項3】
前記トリエチレンジアミンを、前記樹脂粘結成分の100質量部に対して0.5~20質量部の割合において含む請求項1又は請求項2に記載の鋳型用有機粘結剤。
【請求項4】
前記芳香族カルボン酸を、前記樹脂粘結成分の100質量部に対して0.5~5質量部の割合において含む請求項2に記載の鋳型用有機粘結剤。
【請求項5】
前記芳香族カルボン酸が、安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸、及びp-アミノ安息香酸からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである請求項2に記載の鋳型用有機粘結剤。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の鋳型用有機粘結剤と、鋳物砂とから構成される鋳物砂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなる鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型用有機粘結剤及びこれを用いて得られる鋳物砂組成物並びに鋳型に係り、特に、最終的に優れた特性を有する鋳型を短時間で製造することの出来る鋳型用有機粘結剤や、それを用いて得られる鋳物砂組成物、更には、そのような鋳物砂組成物を用いて造型してなる鋳型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、シェルモールド鋳造に代表される砂型鋳造においては、耐火性粒子(鋳物砂)及びバインダーとしてのフェノール樹脂と共に、更に必要に応じてヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を混練して、得られるレジンコーテッドサンド(以下、適宜「RCS」という)を用いて、それを加熱成形せしめ、所望の形状としてなるシェル鋳型が、一般的に用いられている。そして、シェル鋳型等の砂型の製造に使用されるRCSや、かかるRCSの製造に用いられるバインダーについては、従来より様々なものが提案され、使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平1-135814号公報)においては、シェル鋳型造型時に発生する悪臭の少ないシェルモールド用ノボラック型フェノール樹脂として、フェノール類とホルムアルデヒド類とを酸性物質を触媒として反応して得られるノボラック型フェノール樹脂において、フェノール樹脂中の1核体成分の含有量が1重量%未満であり、且つ2核体成分の含有量が2重量%未満であることを特徴とするものが、提案されている。また、特許文献2(特開2003-170244号公報)においては、硬化剤であるヘキサミンを低減しても、鋳型造型が可能な硬化性を有し、造型性に優れたシェルモールド鋳型用レジンコーテッドサンドとして、耐火性粒状材料と、アルカリ金属弱酸塩又はアルカリ金属水酸化物と、ノボラック型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンとを混練してなるものが、提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3(特開昭58-119433号公報)においては、鋳型への注湯時に発生するクラックを防止するレジンコーテッドサンドとして、フェノール樹脂で鋳型用耐火性粒状物を被覆したコーテッドサンドにおいて、ポリエチレングリコールを存在させてなるものが提案され、更にまた、特許文献4(特許第4369653号公報)においては、鋳型の製造時間をより短縮化することができる鋳型用レジンコーテッドサンドとして、フェノール樹脂粘結剤及び反応性硬化促進剤によって耐火骨材の表面が被覆されており、かかるフェノール樹脂粘結剤は、所定割合(質量比率)のレゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂からなり、反応性硬化促進剤としてメラミン、尿素、ジシアンジアミドから選ばれるアミン系化合物を用いることを特徴とするものが、提案されているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-135814号公報
【特許文献2】特開2003-170244号公報
【特許文献3】特開昭58-119433号公報
【特許文献4】特許第4369653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の下、本発明者が、レジンコーテッドサンド並びにそれに用いられる樹脂粘結成分(バインダー)について鋭意、検討を進めたところ、樹脂粘結成分として変性ノボラック型フェノール樹脂等を用いると、未変性のフェノール樹脂を用いたものと比較して、最終的に得られる鋳型の強度は向上するものの、鋳型の硬化速度が遅いという問題を内在していることが判明した。そして、更なる鋭意、検討を進めたところ、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂等の特定の樹脂とトリエチレンジアミンとを含むものを鋳型用有機粘結剤として用いて、得られる鋳物砂組成物(レジンコーテッドサンド)にあっては、鋳型造型の際の硬化速度が速く、また、優れた強度を発揮する鋳型が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、鋳型造型の際の硬化速度に優れ、且つ、得られる鋳型が優れた強度を発揮する鋳型用有機粘結剤を提供することにある。また、本発明は、そのような鋳型用有機粘結剤を用いて得られる鋳物砂組成物、更には、かかる鋳物砂組成物を用いて造型してなる鋳型を提供することも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、かくの如き課題の解決のために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されるものではなく、明細書全体の記載に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びノボラック型キシレノール樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上の樹脂を、樹脂粘結成分として含むと共に、トリエチレンジアミンを含むことを特徴とする鋳型用有機粘結剤。
(2) 芳香族カルボン酸を更に含む前記態様(1)に記載の鋳型用有機粘結剤。
(3)前記トリエチレンジアミンを、前記樹脂粘結成分の100質量部に対して0.5~20質量部の割合において含む前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の鋳型用有機粘結剤。
(4) 前記芳香族カルボン酸を、前記樹脂粘結成分の100質量部に対して0.5~5質量部の割合において含む前記態様(2)に記載の鋳型用有機粘結剤。
(5) 前記芳香族カルボン酸が、安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸、及びp-アミノ安息香酸からなる群より選ばれる一種又は二種以上のものである前記態様(2)に記載の鋳型用有機粘結剤。
(6) 前記態様(1)又は前記態様(2)に記載の鋳型用有機粘結剤と、鋳物砂とから構成される鋳物砂組成物。
(7) 前記態様(6)に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなる鋳型。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に従う鋳型用有機粘結剤にあっては、樹脂粘結成分として、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びノボラック型キシレノール樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上の樹脂を含むと共に、トリエチレンジアミンが用いられて構成されているところから、そのような鋳型用有機粘結剤を用いてなる鋳物砂組成物が硬化する際、トリエチレンジアミンが硬化剤及び硬化促進剤として効果的に機能し、以て、かかる鋳物砂組成物は、鋳型造型の際の硬化速度に優れ、且つ、得られる鋳型が優れた強度を発揮することとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、本発明に従う鋳型用有機粘結剤は、樹脂粘結成分として、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びノボラック型キシレノール樹脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上の樹脂を含むものである。
【0012】
そのような特定の樹脂について、先ず、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、酸性触媒等の存在下において、クレゾール及びフェノールをアルデヒド類と反応せしめて得られる、クレゾールとフェノールとの共縮合型のクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂や、かかる共縮合型のクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂を変性剤(改質剤)で改質してなる、改質型のクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びそれらの混合物等を、例示することが出来る。
【0013】
上述の如きクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂における変性率(クレゾール及びフェノールの合計量に対するクレゾールの割合)は、低過ぎると本発明の効果を有利に享受することが出来ない恐れがある一方、高過ぎると鋳型製造時の硬化速度が低下する恐れがあるところから、本発明で用いられるクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂における変性率は、5~70%であることが好ましく、5~50%であることがより好ましく、10~40%であることが最も好ましい。尤も、変性率が高いクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂であっても、未変性のノボラック型フェノール樹脂と併用することにより、本発明の優れた効果を有利に享受することが可能である。尚、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂との併用については、それらの樹脂を各々、合成(製造)した後に溶融混合する手法や、それらの樹脂をRCSの製造時に同時に投入し、混練する手法等を例示することが出来、本発明の目的を阻害しない限り、如何なるタイミングで併用しても構わない。
【0014】
また、ノボラック型クレゾール樹脂とは、酸性触媒等の存在下において、クレゾールとアルデヒド類とを反応せしめて得られるものである。本発明においてノボラック型クレゾール樹脂を用いる場合、その使用量(樹脂粘結成分における割合)が多過ぎると、本発明の効果を有利に享受し得ない恐れがあるところから、ノボラック型クレゾール樹脂はノボラック型フェノール樹脂と併用することが好ましい。尚、ノボラック型クレゾール樹脂とノボラック型フェノール樹脂との併用については、それらの樹脂を各々、合成(製造)した後に溶融混合する手法や、それらの樹脂をRCSの製造時に同時に投入し、混練する手法等を例示することが出来、本発明の目的を阻害しない限り、如何なるタイミングで併用しても構わない。
【0015】
なお、クレゾールは、3種類の構造異性体(オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール)の存在が知られているところ、本発明で使用されるクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂は、何れの構造異性体で変性されたものであっても良く、同様に、本発明で使用されるノボラック型クレゾール樹脂は、何れの構造異性体を用いて合成(製造)されたものであっても良い。
【0016】
一方、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、酸性触媒等の存在下において、キシレノール及びフェノールをアルデヒド類と反応せしめて得られる、キシレノールとフェノールとの共縮合型のキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂や、かかる共縮合型のキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂を変性剤(改質剤)で改質してなる、改質型のキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂、及びそれらの混合物等を、例示することが出来る。
【0017】
上述の如きキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂における変性率(キシレノール及びフェノールの合計量に対するキシレノールの割合)は、低過ぎると本発明の効果を有利に享受することが出来ない恐れがある一方、高過ぎると鋳型製造時の硬化速度が低下する恐れがあるところから、本発明で用いられるキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂における変性率は、5~70%であることが好ましく、5~50%であることがより好ましく、10~40%であることが最も好ましい。尤も、変性率が高いキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂であっても、未変性のノボラック型フェノール樹脂と併用することにより、本発明の優れた効果を有利に享受することが可能である。尚、キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂との併用については、それらの樹脂を各々、合成(製造)した後に溶融混合する手法や、それらの樹脂をRCSの製造時に同時に投入し、混練する手法等を例示することが出来、本発明の目的を阻害しない限り、如何なるタイミングで併用しても構わない。
【0018】
また、ノボラック型キシレノール樹脂とは、酸性触媒等の存在下において、キシレノールとアルデヒド類とを反応せしめて得られるものである。本発明においてノボラック型キシレノール樹脂を用いる場合、その使用量(樹脂粘結成分における割合)が多過ぎると、本発明の効果を有利に享受し得ない恐れがあるところから、ノボラック型キシレノール樹脂はノボラック型フェノール樹脂と併用することが好ましい。尚、ノボラック型キシレノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂との併用については、それらの樹脂を各々、合成(製造)した後に溶融混合する手法や、それらの樹脂をRCSの製造時に同時に投入し、混練する手法等を例示することが出来、本発明の目的を阻害しない限り、如何なるタイミングで併用しても構わない。
【0019】
なお、キシレノールは、6種類の構造異性体(2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール)の存在が知られているところ、本発明で使用されるキシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂は、何れの構造異性体で変性されたものであっても良く、同様に、本発明で使用されるノボラック型キシレノール樹脂は、何れの構造異性体を用いて合成(製造)されたものであっても良い。
【0020】
本発明は、上述した特定の樹脂を、樹脂粘結成分として必須の構成要素とするものであるが、上記した特定の樹脂以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他の樹脂を併用することも可能である。
【0021】
そして、本発明に従う鋳型用有機粘結剤にあっては、クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂を始めとする特定の樹脂と共に、トリエチレンジアミンが必須の構成要素とされて、構成されているのである。本発明者の知得したところによれば、トリエチレンジアミンは、上述した特定の樹脂に対して硬化剤及び硬化促進剤としての機能を有利に発揮し、以て、鋳型造型の際の硬化速度を向上させると共に、得られる鋳型において優れた強度を発現させることとなるのである。
【0022】
そのようなトリエチレンジアミンは、その使用量が少な過ぎると、本発明の効果を享受することが出来ない恐れがあり、その一方、使用量が多過ぎると、最終的に得られる鋳型が十分な強度を発揮し得なくなる恐れがある。このため、本発明において、トリエチレンジアミンは、樹脂成分の総量の100質量部に対して0.5~20質量部の割合において、使用されることが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、トリエチレンジアミンの添加(使用)効果をより有利に発現させるために、トリエチレンジアミンと共に芳香族カルボン酸を使用することが好ましく、その使用量は、樹脂成分の総量の100質量部に対して0.5~5質量部の割合であることが好ましい。芳香族カルボン酸の使用量が少な過ぎると、その効果を有利に享受することが出来ない恐れがあり、その一方、使用量が多過ぎると、RCS融着点が低くなり、RCSのブロッキングを誘発し易くなる恐れがある。本発明において使用可能な芳香族カルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸、p-アミノ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アセチルサリチル酸、o-トルイル酸、m-トルイル酸、p-トルイル酸、o-アニス酸、m-アニス酸、p-アニス酸、o-クレソチン酸、m-クレソチン酸、p-クレソチン酸、没食子酸、トリメリット酸、ヒドロケイ皮酸、ケイ皮酸、クレソチン酸等を例示することが出来、それらの中でも、安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸及びp-アミノ安息香酸が有利に使用され、安息香酸が最も有利に使用される。
【0024】
そして、かくの如き構成からなる本発明に従う鋳型用有機粘結剤は、公知の鋳物砂に配合されて、その表面を被覆することにより、シェルモールド鋳型等の鋳型を造型するための鋳物砂組成物たるRCSが形成されることとなる。そのようなRCSを得るための鋳型用有機粘結剤の使用量としては、そこに含まれる樹脂粘結成分の種類や要求される鋳型の強度等を考慮して決定されるものであるため、一概に限定はされないが、一般的には、鋳物砂の100質量部に対して、0.2~10質量部程度の範囲内であり、好ましくは0.5~8質量部、更に好ましくは0.5~5質量部の範囲内である。
【0025】
また、そのような鋳型用有機粘結剤にて被覆せしめられる鋳物砂に関して、従来から公知のものが適宜に選択されて、用いられ得るところであって、その種類は、本発明にあっては、特に限定されるものではない。そのような鋳物砂は、鋳型の基材を為すものであるところから、鋳造に耐え得る耐火性と、鋳型形成(造型)に適した粒径を有する無機の耐火性粒子であれば、従来からシェルモールド鋳造に用いられてきた公知の無機粒子が、何れも、用いられ得るものである。また、そのような耐火性粒子としては、例えば、一般的によく用いられているけい砂の他にも、オリビンサンドやジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂、フェロクロム系スラグやフェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系粒子、ナイガイセラビーズ(商品名:伊藤忠セラテック株式会社製)のようなムライト系人工粒子、或いは、これらを鋳造後に回収・再生した再生粒子等が挙げられ、これらが単独で或いは2種以上が組み合わされて、用いられることとなる。
【0026】
なお、本発明に従う鋳型用有機粘結剤を用いて、目的とするRCSを製造するに際して、その製造方法は特に限定されるものではなく、ドライホットコート法やセミホットコート法、コールドコート法、粉末溶剤法等の、従来から公知の方法が、何れも採用され得る。本発明にあっては、特に、ワールミキサーやスピードミキサー等の混練機内で、予熱された鋳物砂と鋳型用有機粘結剤を構成する樹脂粘結成分とを混練した後、必要に応じて硬化促進剤の水溶液を加えると共に、送風冷却により、塊状内容物を粒状に崩壊させて、ステアリン酸カルシウム(滑材)を加える、所謂ドライホットコート法の採用が推奨される。また、本発明に従う鋳型用有機粘結剤を鋳物砂と混練せしめるタイミングは、適宜に選定され得るところである。
【0027】
さらに、上述の如くして得られるRCSを用いて、シェルモールド鋳型の如き所定の鋳型を造型するに際して、かかるRCSの加熱硬化を図るべく、加熱下において、目的とする鋳型の造型が行なわれることとなるが、そのような加熱造型方法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が、何れも有利に用いられ得ることとなる。例えば、上述せる如きRCSを、目的とする鋳型を与える所望の形状空間を有する、150℃~300℃に加熱された成形型内に、重力落下方式や吹込方式等によって充填し、硬化させた後、かかる成形型から硬化した鋳型を抜型して、鋳造用鋳型を得ることが出来るのである。そして、そのようにして得られた鋳型にあっては、前述したような優れた特徴が、有利に付与せしめられることとなるのである。
【実施例0028】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0029】
なお、以下において製造されたRCSの各特性は、下記の試験法に従って測定した。各試験による各RCSの測定値については、比較例1に係る鋳型用有機粘結剤(未変性のノボラック型フェノール樹脂のみからなる鋳型用有機粘結剤)を用いて得られたRCSについての測定値と対比すべく、比較例1に係るRCSの測定値を基準値(100)として算出したものを、下記表1乃至表3に評価として記載した。
【0030】
-実施例1-
温度計、撹拌装置及びコンデンサを備えた反応容器に、フェノールの658質量部、オルソクレゾールの282質量部、47%ホルマリンの399質量部、及びシュウ酸の4.7質量部を投入した。なお、フェノール類(フェノール及びオルソクレゾール)とホルマリンの配合モル比(F/P類)は0.65である。次いで、反応容器を徐々に昇温して、還流温度に到達せしめた後、240分間還流反応させ、更に反応液温度が190℃になるまで加熱および減圧濃縮することにより、変性率が30%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂a)を得た。減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂aに、トリエチレンジアミンを、樹脂aの100質量部に対して5質量部の割合において添加し、混合することにより、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例1)。
【0031】
-実施例2~実施例5-
樹脂aの100質量部に対するトリエチレンジアミンの配合割合を、下記表1に示すように0.5質量部、2質量部、10質量部、20質量部と変更したこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例2~実施例5)。
【0032】
-実施例6~実施例8-
下記表1に示すように、トリエチレンジアミンと共に安息香酸を、樹脂aの100質量部に対して2質量部、0.5質量部又は5質量部の割合において添加し、混合したこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例6~実施例8)。
【0033】
-実施例9~実施例11-
下記表1に示すように、トリエチレンジアミンと共に、サリチル酸、アントラニル酸又はp-アミノ安息香酸の何れかを、樹脂aの100質量部に対して2質量部の割合において添加し、混合したこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例9~実施例11)。
【0034】
-実施例12-
温度計、撹拌装置及びコンデンサを備えた反応容器に、フェノールの893質量部、オルソクレゾールの47質量部、47%ホルマリンの412質量部、及びシュウ酸の4.7質量部を投入した。なお、フェノール類(フェノール及びオルソクレゾール)とホルマリンの配合モル比(F/P類)は0.65である。次いで、反応容器を徐々に昇温して、還流温度に到達せしめた後、240分間還流反応させ、更に反応液温度が190℃になるまで加熱および減圧濃縮することにより、変性率が5%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂b)を得た。減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂bに、トリエチレンジアミンを、樹脂bの100質量部に対して5質量部の割合において添加し、混合することにより、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例12)。
【0035】
-実施例13-
フェノールの799質量部と、オルソクレゾールの141質量部と、47%ホルマリンの407質量部とを用いたこと以外は実施例12と同様の条件及び手法に従い、変性率が15%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂c)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例13)。
【0036】
-実施例14-
フェノールの470質量部と、オルソクレゾールの470質量部と、47%ホルマリンの388質量部とを用いたこと以外は実施例12と同様の条件及び手法に従い、変性率が50%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂d)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例14)。
【0037】
-実施例15-
フェノールの282質量部と、オルソクレゾールの658質量部と、47%ホルマリンの377質量部とを用いたこと以外は実施例12と同様の条件及び手法に従い、変性率が50%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂e)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例15)。
【0038】
-実施例16-
オルソクレゾールに代えてメタクレゾールを用いたこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%のメタクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂g)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例16)。
【0039】
-実施例17-
オルソクレゾールに代えてパラクレゾールを用いたこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%のパラクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂h)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例17)。
【0040】
-実施例18-
オルソクレゾールの282質量部に代えて、メタクレゾールの141質量部とパラクレゾールの141質量部とを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%のメタ/パラクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂i)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例18)。
【0041】
-実施例19-
オルソクレゾールの282質量部に代えて、メタクレゾールの169質量部とパラクレゾールの113質量部とを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%のメタ/パラクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂j)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例19)。
【0042】
-実施例20-
オルソクレゾールに代えて2,5-キシレノールを使用し、また、47%ホルマリンの386質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%の2,5-キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂k)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例20)。
【0043】
-実施例21-
オルソクレゾールに代えて3,5-キシレノールを使用し、また、47%ホルマリンの386質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%の3,5-キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂l)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例21)。
【0044】
-実施例22-
オルソクレゾールに代えて3,4-キシレノールを使用し、また、47%ホルマリンの386質量部を用いたこと以外は実施例1と同様の条件及び手法に従い、変性率が30%の3,4-キシレノール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂m)を得た後、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例22)。
【0045】
-実施例23-
先ず、温度計、撹拌装置及びコンデンサを備えた反応容器に、オルソクレゾールの940質量部、47%ホルマリンの361質量部、及びシュウ酸の4.7質量部を投入した。なお、オルソクレゾールとホルマリンの配合モル比(F/P類)は0.65である。次いで、反応容器を徐々に昇温して、還流温度に到達せしめた後、240分間還流反応させ、更に反応液温度が190℃になるまで加熱および減圧濃縮することにより、ノボラック型クレゾール樹脂(樹脂f)を得た。一方、オルソクレゾールに代えてフェノールを使用し、また、47%ホルマリンの415質量部を用いたこと以外は同様の条件及び手法に従い、ノボラック型フェノール樹脂(樹脂n)を得た。
【0046】
減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂fの30質量部と、同様に減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂nの70質量部との混合物に対して、トリエチレンジアミンを、かかる混合物の100質量部に対して5質量部の割合において添加し、混合することにより、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例23)。
【0047】
-実施例24-
減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂g(変性率が30%のメタクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂)の50質量部と、同様に減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂h(変性率が30%のパラクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂)の50質量部との混合物に対して、トリエチレンジアミンを、かかる混合物の100質量部に対して5質量部の割合において添加し、混合することにより、鋳型用有機粘結剤を得た(実施例24)。
【0048】
-比較例1-
樹脂n(ノボラック型フェノール樹脂)のみを用いて、鋳型用粘結剤とした(比較例1)。
【0049】
-比較例2-
樹脂a(変性率が30%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂)のみを用いて、鋳型用粘結剤とした(比較例2)。
【0050】
-比較例3-
減圧濃縮直後から徐冷して約170℃となった樹脂n(ノボラック型フェノール樹脂)に、トリエチレンジアミンを、樹脂nの100質量部に対して5質量部の割合において添加し、混合することにより、鋳型用有機粘結剤を得た(比較例3)。
【0051】
-鋳型用有機粘結剤を用いたRCSの製造-
145℃に加熱したフラタリーけい砂の7000部を、ワールミキサーに投入し、更に上記で得られた鋳型用有機粘結剤の105質量部を投入して、砂粒が崩壊するまで混練を行ない、そして送風冷却した後、更にステアリン酸カルシウムの7部を添加して、鋳型用有機粘結剤の各々を用いたシェルモールド用RCSを得た。
【0052】
-曲げ強度の測定-
上述の如くして得られたRCSの各々を用いて、JIS-K-6910に準拠して、JIS式テストピース(10mm×10mm×60mm、焼成条件:250℃×60秒間)を作製し、その得られたJIS式テストピースについて、JACT試験法:SM-1に準じて、その曲げ強度(kgf/cm2 )を測定した。下記表1乃至表3に示す数値が大きい程、鋳型が高強度となることを示している。
【0053】
-ベンド(300gf)量の測定-
JACT試験法:SM-3の撓み試験法に準拠して、それぞれのRCSを用いて得られた各試験片(180mm×40mm×5mm、焼成条件:250℃×40秒間)に対して、その中央部に300gfの荷重を加えて、3分間放置した後の、試験片中央部の歪み量(mm)をダイヤルゲージで読み、その値をベンド(300gf)量とした。このベンド量(撓み量)は、鋳型造型直後のハンドリング性及び鋳型硬化速度を示す目安指標であり、下記表1乃至表3に示す数値が小さい程、鋳型の硬化速度が速く、ハンドリング性が良くなることを意味している。
【0054】
-RCS融着点の測定-
それぞれのRCSの融着温度について、JACT試験法:C-1(融着点試験法)に準拠して、測定した。下記表1乃至表3に示す数値が大きい程、RCSの耐ブロッキング性が優れていることとなる。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
本発明の効果を確認する前に、ノボラック型フェノール樹脂(樹脂n)のみからなる鋳型用有機粘結剤たる比較例1と、変性率が30%のオルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂a)のみからなる鋳型用有機粘結剤たる比較例2とを比較すると、比較例2においては、最終的に得られる鋳型において強度の向上は認められるものの、ベンド量の数値が大きく、鋳型の硬化速度が遅いことが認められる。このような認識の下、実施例1~実施例24の結果について検討するに、本発明に従う鋳型用有機粘結剤を用いて得られるRCSにあっては、i)それより得られる鋳型が、ノボラック型フェノール樹脂(樹脂n)のみを含む鋳型用有機粘結剤(比較例1)を用いたRCSからなる鋳型と比較して、優れた強度を発揮すると共に、ii)オルソクレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂(樹脂a)のみを含む鋳型用有機粘結剤(比較例2)を用いたRCSと比較して、鋳型造型の際の硬化速度が速いことが、認められるのである。