(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051574
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240404BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20240404BHJP
G01P 3/481 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
F16D65/12 U
F16D65/12 B
B60T8/171 Z
G01P3/481
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157814
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】金子 直博
(72)【発明者】
【氏名】梶山 径吾
【テーマコード(参考)】
3D246
3J058
【Fターム(参考)】
3D246GA25
3D246HA64A
3J058AA43
3J058AA53
3J058BA31
3J058CB23
3J058CB28
3J058DB20
3J058EA03
3J058FA01
(57)【要約】
【課題】簡単な構成によって被検出部への熱影響を低減することができるブレーキディスクを提供する。
【解決手段】センサによって回転状態を検出するための被検出部(5,5a)と、ブレーキ摺動面(2)に設けられる肉抜き孔(3)とを有するブレーキディスク(1,11,12,13,14)において、被検出部(5,5a)と肉抜き孔(3)との間に溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)を設ける。ブレーキディスク(1)の径方向において、肉抜き孔(3)と溝(4)との間の距離(T1)を、被検出部(5)と溝(4)との間の距離(T2)より短くする。溝(4)が角断面形状とする。溝(4)を複数設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサによって回転状態を検出するための被検出部(5,5a)と、ブレーキ摺動面(2)に設けられる肉抜き孔(3)とを有するブレーキディスク(1,11,12,13,14)において、
前記被検出部(5,5a)と前記肉抜き孔(3)との間に溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)が設けられることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
前記ブレーキディスク(1)の径方向において、前記肉抜き孔(3)と前記溝(4)との間の距離(T1)が、前記被検出部(5,5a)と前記溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)との間の距離(T2)より短いことを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記溝(4)が角断面形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記溝(4)が複数設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクに係り、特に、センサによって回転状態を検出するための被検出部を有するブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、センサによって回転状態を検出するための被検出部を有するブレーキディスクが知られている。
【0003】
特許文献1には、肉抜き孔を有するブレーキ摺動部の径方向内側に、センサによって回転状態を検出するための被検出部を設けたブレーキディスクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ブレーキ摺動面と被検出部との距離が近いと、ブレーキ摺動面で生じた熱が被検出部に影響を与える可能性があり、これを避けるためにブレーキ摺動面と被検出部との間の距離を大きくすると、ブレーキディスクが大径化するという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、簡単な構成によって被検出部への熱影響を低減することができるブレーキディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、センサによって回転状態を検出するための被検出部(5,5a)と、ブレーキ摺動面(2)に設けられる肉抜き孔(3)とを有するブレーキディスク(1,11,12,13,14)において、前記被検出部(5,5a)と前記肉抜き孔(3)との間に溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)が設けられる点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記ブレーキディスク(1)の径方向において、前記肉抜き孔(3)と前記溝(4)との間の距離(T1)が、前記被検出部(5,5a)と前記溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)との間の距離(T2)より短い点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記溝(4)が角断面形状を有する点に第3の特徴がある。
【0010】
さらに、前記溝(4)が複数設けられる点に第4の特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
第1の特徴によれば、センサによって回転状態を検出するための被検出部(5,5a)と、ブレーキ摺動面(2)に設けられる肉抜き孔(3)とを有するブレーキディスク(1,11,12,13,14)において、前記被検出部(5,5a)と前記肉抜き孔(3)との間に溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)が設けられるので、溝を設けることによってブレーキディスクの表面積が増えることでブレーキ摺動面で生じる熱を放熱しやすくなる。これにより、ブレーキディスクを大径化することなく、被検出部の熱歪みを防ぐことができる。
【0012】
第2の特徴によれば、前記ブレーキディスク(1)の径方向において、前記肉抜き孔(3)と前記溝(4)との間の距離(T1)が、前記被検出部(5,5a)と前記溝(4,4a,4b,4c,4d,4e)との間の距離(T2)より短いので、熱の放出効果を高める溝が肉抜き孔により接近することで、ブレーキ摺動面で生じた熱が被検出部に影響を与える可能性をさらに低減することができる。
【0013】
第3の特徴によれば、前記溝(4)が角断面形状を有するので、例えば、溝の断面形状が半円形状である場合に比して溝の表面積が大きくなり、放熱効果をより一層高めることができる。
【0014】
第4の特徴によれば、前記溝(4)が複数設けられるので、溝の表面積が増えることで、ブレーキ摺動面で生じた熱の放熱効果をさらに高めることが可能となる。また、ブレーキディスクの外観性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るブレーキディスクの正面図である。
【
図4】本実施形態の変形例に係る溝の形状を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の第2変形例に係る溝の形状を示す断面図である。
【
図6】本実施形態の第3変形例に係る突起の形状を示す断面図である。
【
図7】本実施形態の第4変形例に係る溝の形状を示すブレーキディスクの一部拡大図である。
【
図8】本実施形態の第5変形例に係る溝の形状を示すブレーキディスクの一部拡大図である。
【
図9】本実施形態の第6変形例に係る溝の形状を示すブレーキディスクの一部拡大図である。
【
図10】本実施形態の変形例に係る被検出部の形状を示す拡大図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るブレーキディスクの構成を示す一部拡大図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係るブレーキディスクの構成を示す一部拡大図である。
【
図13】本発明の第4実施形態に係るブレーキディスクの構成を示す一部拡大図である。
【
図14】本発明の第5実施形態に係るブレーキディスクの構成を示す一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るブレーキディスク1の正面図である。また、
図2はブレーキディスク1の一部拡大図である。車両に制動力を与えるために車輪に固定される円盤状のブレーキディスク1は、鋳鉄やステンレス等の鋼材で構成されている。ブレーキディスク1は、制動力を発生するためにブレーキパッドが押し付けられるブレーキ摺動面2と、ブレーキディスク1を車輪に固定するための締結孔6とを有する。ブレーキ摺動面2には、円形の貫通孔からなる複数の肉抜き孔3が設けられている。
【0017】
ブレーキ摺動面2と締結孔6との間で、径方向内側寄りの位置には、センサによってブレーキディスク1の回転状態を検出するための被検出部5が設けられている。径方向に長い略長方形の貫通孔からなる被検出部5は、周方向に等間隔で並べられている。被検出部5は、径方向に長い形状とすることで、万一、ブレーキ摺動面2からの熱影響を受けた際にも隣り合う孔同士の周方向の間隔が変わりにくく、回転状態の検出に影響を与える可能性を低減することができる。
【0018】
本実施形態に係るブレーキディスク1は、ブレーキ摺動面2に設けられる肉抜き孔3と被検出部5との間に、円環状の溝4が設けられている点に特徴がある。この溝4を設けることにより、ブレーキディスク1の表面積が増えることでブレーキ摺動面2で生じる熱を放熱しやすくなる。これにより、ブレーキディスク1を大径化することなく、被検出部5の熱歪みを防ぐことが可能となる。また、肉抜き孔3と被検出部5との間に溝4を設けることで、被検出部5の周囲を塗装することが容易となる。また、締結孔6が溝4に対して被検出部5側に配置されることで、締結孔6の周囲の防錆を図りやすくなる。
【0019】
図3は、
図2のIII-III線断面図である。本実施形態では、ブレーキディスク1の径方向において、肉抜き孔3と溝4との間の距離T1が、被検出部5と溝4との間の距離T2より短くなるように構成されている。これにより、熱の放出効果を高める溝4が肉抜き孔3に接近することで、ブレーキ摺動面2で生じた熱を早い段階で逃がすことができ、被検出部5に影響を与える可能性をさらに低減することが可能となる。
【0020】
また、本実施形態において、溝4は2つの角がそれぞれ略90度をなす角断面形状とされている。これにより、溝4を設けることによる表面積の増大幅を極力大きくし、放熱効果をより一層高めることができる。
【0021】
図4は、本実施形態の変形例に係る溝4aの形状を示す断面図である。溝4aは、前記したような角断面形状に限られず、底面に連なる2つの角を小さな曲線形状として構成してもよい。溝4aによれば、溝を形成するための切削工具の消耗を抑えて効率よく溝を形成することが可能となる。
【0022】
図5は、本実施形態の第2変形例に係る溝4bの形状を示す断面図である。溝4bは、半楕円形や半円形のように、全体を曲線でつないだ形状としてもよい。溝4bによれば、溝を形成する切削工具の消耗が抑えられるほか、鋳造によってブレーキディスク1を製造する場合に切削加工を行わずに溝を形成することが容易となる。
【0023】
図6は、本実施形態の第3変形例に係る突起10の形状を示す断面図である。肉抜き孔3と被検出部5との間で、ブレーキディスク1の表面積を増大するためには、前記したような溝ではなく、例えば、全体で円環状をなす突起10を設けてもよい。この突起10によっても、ブレーキ摺動面2で生じる熱を放熱しやすくなり、センサおよび被検出部5への熱影響を低減して、被検出部5の熱歪みを防ぐことが可能となる。
【0024】
図7は、本実施形態の第4変形例に係る溝4cの形状を示すブレーキディスク1の一部拡大図である。本変形例に係る溝4cは、同一円上に等間隔で並べられた断続的な溝によって構成されている。このような溝4cによれば、溝の全長を抑えてブレーキディスク1の剛性を確保するほか、ブレーキディスク1の外観性を高めることができる。
【0025】
図8は、本実施形態の第5変形例に係る溝4dの形状を示すブレーキディスク1の一部拡大図である。本変形例に係る溝4dは、振れ幅が一定ののこぎり歯のようなギザギザ形状とされている。このような溝4dによれば、溝の全長を伸ばして放熱効果を高めるほか、ブレーキディスク1の外観性を高めることが可能となる。
【0026】
図9は、本実施形態の第6変形例に係る溝4eの形状を示すブレーキディスク1の一部拡大図である。本変形例に係る溝4eは、径方向内側に位置する被検出部5と重なる位置に設けられている。このような溝4eによれば、ブレーキディスク1の直径を低減すると共に、溝の存在を目立たなくしてブレーキディスク1の外観性を高めることが可能となる。
【0027】
図10は、本実施形態の変形例に係る被検出部5aの形状を示す拡大図である。被検出部5aは、回転状態を検出するために径方向に延びる2本の直線部の両端に、周方向に拡径する拡径部5bを有する形状とされている。この被検出部5aによれば、被検出部の内周面の面積を増大することで放熱効果を高めることが可能となる。
【0028】
図11は、本発明の第2実施形態に係るブレーキディスク11の構成を示す一部拡大図である。この第2実施形態では、ブレーキディスク11の径方向外側から内側に向かって、被検出部5、溝4、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、締結孔6の順に並ぶ点に特徴がある。この配置においても、溝4は、肉抜き孔3と被検出部5との間に配設されている。ブレーキディスク11によれば、被検出部5の数が増えることで回転状態の分解能を高めると共に、被検出部5へ熱影響が及ぶ可能性を低減することができる。
【0029】
図12は、本発明の第3実施形態に係るブレーキディスク12の構成を示す一部拡大図である。この第3実施形態では、ブレーキディスク12の径方向外側から内側に向かって、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、締結孔6、溝4、被検出部5の順に並ぶ点に特徴がある。この配置においても、溝4は、肉抜き孔3と被検出部5との間に配設されている。ブレーキディスク12によれば、ブレーキ摺動面2と被検出部5との間に締結孔6が配設されることで、被検出部5へ熱影響が及ぶ可能性を低減することができる。
【0030】
図13は、本発明の第4実施形態に係るブレーキディスク13の構成を示す一部拡大図である。この第4実施形態では、ブレーキディスク13の径方向外側から内側に向かって、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、溝4、被検出部5、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、締結孔6の順に並ぶ点に特徴がある。この配置においても、溝4は、肉抜き孔3と被検出部5との間に配設されている。ブレーキディスク13によれば、被検出部5へ熱影響が及ぶ可能性を低減すると共に、斬新な外観を得ることができる。
【0031】
図14は、本発明の第5実施形態に係るブレーキディスク14の構成を示す一部拡大図である。この第5実施形態では、ブレーキディスク14の径方向外側から内側に向かって、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、溝4、被検出部5、溝4、肉抜き孔3を有するブレーキ摺動面2、締結孔6の順に並ぶ点に特徴がある。この配置においても、溝4は、肉抜き孔3と被検出部5との間に配設されている。ブレーキディスク14によれば、2本の溝4によって被検出部5が挟まれることとなり、被検出部5に熱影響が及ぶ可能性を低減すると共に、斬新な外観を得ることができる。
【0032】
上記したように、本実施形態に係るブレーキディスクによれば、センサによって回転状態を検出するための被検出部と、ブレーキ摺動面に設けられる肉抜き孔とを有するブレーキディスクにおいて、被検出部と肉抜き孔との間に溝が設けられるので、溝を設けることによってブレーキディスクの表面積が増えることでブレーキ摺動面で生じる熱を放熱しやすくなる。これにより、ブレーキディスクを大径化することなく、被検出部の熱歪みを防ぐことができる。
【0033】
なお、ブレーキディスクが取り付けられる構造物の形態、ブレーキディスクの直径や厚さ、溝の形状や配置、溝の深さ、肉抜き孔や被検出部の形状等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、肉抜き孔の形状は、円形に限られず、長円形や長方形等としてもよい。また、被検出部は、回転状態を検知に用いられる2本の直線部の他の部分の形状の種々の変更が可能であり、例えば、長円形等としてもよい。さらに、被検出部は、貫通孔ではなく有底の凹部としてもよい。また、溝を突起に代えた場合の突起の形状や配置も種々の変形が可能である。本発明に係るブレーキディスクは、自動二輪車、三輪車や四輪車等の種々の車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…ブレーキディスク、2…ブレーキ摺動面、3…肉抜き孔、4…溝、5…被検出部、T1…肉抜き孔と溝との間の距離、T2…被検出部と溝との間の距離