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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051614
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】多結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
C01B33/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157878
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】523119425
【氏名又は名称】高純度シリコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】成田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 茂
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和也
(72)【発明者】
【氏名】城野 智也
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB03
4G072BB12
4G072DD01
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH08
4G072HH09
4G072JJ01
4G072LL01
4G072LL03
4G072MM01
4G072MM21
4G072NN01
4G072NN13
4G072NN14
4G072RR01
4G072RR04
4G072RR11
4G072RR21
4G072SS04
4G072TT19
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】簡易な手順で、シリコン多結晶製造用の反応炉内に持ち込まれる水分の総量を抑制し、これにより、不純物の少ない多結晶シリコンの製造を可能にする多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【解決手段】反応炉内でクロロシランを還元して、種棒に多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンの製造方法であって、前記反応炉内において使用されるカーボン部材によって前記反応炉内に持ち込まれる水分を低減させたことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内でクロロシランを還元して、種棒に多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンの製造方法であって、
前記反応炉内において使用されるカーボン部材によって前記反応炉内に持ち込まれる水分を低減させたことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記カーボン部材の室温環境における24時間あたりの水分放出量は、0.020mg/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記種棒に析出させた前記多結晶シリコンに含まれるリン濃度が0.030ppb(原子)以下、かつ鉄の濃度が0.015ppb(質量)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記カーボン部材は、使用時まで樹脂層と、金属層またはシリカ蒸着層を有する保管容器に収納することで、前記カーボン部材によって前記反応炉内に持ち込まれる水分を低減させることを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハの材料として用いられる単結晶シリコンは、高純度の多結晶シリコンを石英ルツボで溶融し、このシリコン融液に種結晶を接触させて引き上げながら成長させるチョクラルスキー法によって一般的に製造されている。
【0003】
こうした単結晶シリコンの製造原料である多結晶シリコンは、反応炉内に設置したシリコン芯棒(以下、種棒と称することがある)に通電して赤熱させ、この炉内に原料ガスであるトリクロロシランと水素の混合ガスを供給する。そして、種棒の表面にシリコンを還元または熱分解により析出させて棒状に成長させるシーメンス法によって一般的に製造されている。シーメンス法では、反応炉内で種棒を保持する保持材料として、成長させる多結晶シリコンを汚染させずに種棒に通電させるために、一般的にカーボン材料が用いられることが多い。
【0004】
近年の半導体技術の高度化に伴い、単結晶シリコンの製造原料となる多結晶シリコンへの品質の要求も高度化し、金属不純物については濃度がppt(10-12)レベルまで低減することが求められ、徹底した汚染源の排除が必要とされている。例えば、2004年に改正し発行されたJEITA EM-3601A(電子情報技術産業規格・高純度多結晶シリコン標準品規格)においては、バルクリン濃度が0.30ppba以下、表面のFe濃度が3.0ppbw以下という不純物濃度の品質が規定されているが、近年の高品質の多結晶シリコン製品に対しては、バルク、表面問わず、リン濃度であれば0.030ppba以下、Fe濃度は0.015ppbw以下といったレベルの不純物濃度が要求されるようになってきている。
【0005】
シーメンス法による多結晶シリコンの合成では、合成容器として、実験的には石英ガラスが用いられることもあるが、工業的には脆性材料である石英ガラス容器に、反応性の高いクロロシランや水素ガスを導入することにより起こる可能性のある容器破損等のリスクを避けるために、一般的にはステンレス系の材料によって反応容器が構成されている。
【0006】
しかしながら、ステンレス系の材料によって反応容器を構成する場合、金属汚染の可能性が高くなることが課題とされている。ステンレス系の金属材料を用いることで引き起こされる金属汚染の要因として、水分の存在が知られている。一例として、反応炉内の水分とクロロシランガスとが反応して塩化水素を発生する。こうした塩化水素と水分とが共存する状況においては、ステンレス系の材料からなる反応炉は著しい腐食を受ける。多結晶シリコン析出反応の初期段階でこのような腐食が発生すると、析出する多結晶シリコンの品質が大きく低下する虞がある。
【0007】
反応炉内への水分の持ち込み経路としては、反応炉内壁の吸着水が考えられる。これについては、反応開始前に反応炉内にクロロシランガスを導入し、吸着水とクロロシランガスとを反応させて除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、種棒を組み立てて反応炉内を密閉して減圧し、また不活性ガスを導入することによって反応炉内の水分を除去する方法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-164348号公報
【特許文献2】国際公開第2011/158404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された発明のように、反応炉の内壁に吸着された水分を除去しても、なおも水分とクロロシランガスとの反応による塩化水素ガスの発生や、水分とステンレス材料との反応による金属パーティクルの発生を抑制することが困難であった。即ち、反応炉内への水分の持ち込み経路として、反応炉内壁の吸着水以外にも水分を持ち込む要因があると考えられる。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、簡易な手順で、シリコン多結晶製造用の反応炉内に持ち込まれる水分の総量を抑制し、これにより、不純物の少ない多結晶シリコンの製造を可能にする多結晶シリコンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、多結晶シリコンの製造工程の様々な検証によって、反応炉内で使用しているカーボン部材が、多くの水分を反応炉内に持ち込んでいるという新たな知見を得た。カーボン部材は、通常2000℃以上の高温で焼結し、高純度が要求される加工品については、加工時の汚染を除去するためにハロゲンガス雰囲気での高温処理が行われ、処理完了後はポリエチレン等の樹脂製の保管袋で密封梱包されて保管されている。高温処理直後は、水分の残留は殆ど無いが、樹脂製の保管袋は空気中の水蒸気を一定量透過させるため、保管中に時間経過と共にカーボン部材が水分を吸収していることを見出した。
【0012】
本発明は上述した知見に基づいてなされたものであり、課題を解決するために、本発明の一実施形態の多結晶シリコンの製造方法は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の多結晶シリコンの製造方法は、反応炉内でクロロシランを還元して、種棒に多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンの製造方法であって、前記反応炉内において使用されるカーボン部材によって前記反応炉内に持ち込まれる水分を低減させたことを特徴とする。
【0013】
本発明の態様1の多結晶シリコンの製造方法によれば、カーボン部材を介して反応炉内に持ち込まれる水分を低減させることにより、例えばリンや鉄などの不純物が少ない多結晶シリコンを製造することができる。こうした不純物が少ない多結晶シリコンを原料に用いることで、高品質の単結晶シリコンの製造に寄与する。
【0014】
(2)本発明の態様2は、態様1の多結晶シリコンの製造方法において、前記カーボン部材の室温環境における24時間あたりの水分放出量は、0.020mg/g以下であることを特徴とする。
【0015】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の多結晶シリコンの製造方法において、前記種棒に析出させた前記多結晶シリコンに含まれるリン濃度が0.030ppb(原子)以下、かつ鉄の濃度が0.015ppb(質量)以下であることを特徴とする。
【0016】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つの多結晶シリコンの製造方法において、前記カーボン部材は、使用時まで樹脂層と、金属層またはシリカ蒸着層を有する保管容器に収納することで、前記カーボン部材によって前記反応炉内に持ち込まれる水分を低減させることを特徴とする。なお、前記カーボン部材を前記保管容器に収納した後、前記保管容器の内部を減圧することも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な手順で、シリコン多結晶製造用の反応炉内に持ち込まれる水分の総量を抑制し、これにより、不純物の少ない多結晶シリコンの製造を可能にする多結晶シリコンの製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の多結晶シリコンの製造方法に用いられる多結晶シリコン製造装置の一例を示す概略構成図である。
図2】反応炉の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態の多結晶シリコンの製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
まず最初に、本実施形態の多結晶シリコンの製造方法で用いられる多結晶シリコン製造装置の一例を説明する。
図1は、本実施形態の多結晶シリコンの製造方法に用いられる多結晶シリコン製造装置の一例を示す概略構成図である。また、図2は、反応炉の一例を示す模式図である。
多結晶シリコン製造装置10は、塩化炉11と、蒸留設備12と、反応炉13と、水素精製設備14と、を有している。
【0021】
塩化炉11は、原料となる金属シリコンと、塩化水素ガスとを300℃程度で反応させて、トリクロロシラン(SiHCl)を生成させる(式(1)を参照)。この時、副反応により、四塩化ケイ素も生じる(式(2)を参照)。
Si+3HCl→SiHCl+H・・・(1)
Si+4HCl→SiCl+2H・・・(2)
【0022】
蒸留設備12は、トリクロロシランと四塩化ケイ素との沸点差によって、トリクロロシランを精製し、高純度のトリクロロシランを得る。
【0023】
反応炉13は、蒸留設備12で得られた高純度のトリクロロシランと、水素精製設備14で得られた高純度の水素とを1000℃程度で反応させて、化学気相成長(CVD)によって多結晶シリコンを析出させる(式(3)、式(4)を参照)。
4SiHCl→Si+3SiCl+2H・・・(3)
SiHCl+H→Si+3HCl・・・(4)
【0024】
水素精製設備14は、反応炉13で生じたプロセスガス(水素、塩化水素、塩化ケイ素などを精製して、高純度の水素を反応炉13に供給するとともに、塩化ケイ素を蒸留設備12に還流させてトリクロロシランの原料とする。
【0025】
図2に示すように、反応炉13は、例えば、ステンレス系の合金からなる耐熱チャンバ21と、複数の電極22と、種棒Sを支持するカーボン部材23と、耐熱チャンバ21の開放面を気密に閉塞する支持板24と、を有する。電極22と支持板24の間は、地絡を避ける為に絶縁した構造となっている。
【0026】
電極22は、例えばステンレス等の金属からなり、図2に示すように下部で電源装置と繋がっており一対の電極を構成する。この一対の電極の間に、例えばコ字状のシリコンからなる種棒Sを、カーボン部材23を用いて立設させる。種棒Sと電極22が接触していると金属汚染に繋がる恐れがある為、カーボン部材23で中継することが必要となる。
【0027】
カーボン部材23は、種棒Sを支持する支持部材である。カーボン部材は多孔質となっており、カーボン部材の内部に侵入し吸着した水分は除去しにくい。
支持板24には、トリクロロシランおよび水素ガスを導入する給気管25、および反応によって生成した副生成物のガスを排出する排気管26がそれぞれ接続される。
【0028】
このような反応炉13の内部を例えば1000℃程度に加熱して、トリクロロシランおよび水素ガスを反応炉13内に導入することにより、上述した式(3)、式(4)の反応が進行し、種棒Sの周囲に多結晶シリコンが析出する。多結晶シリコンは種棒Sごとカーボン部材23から分離することによって、例えば直径が11~14cm程度の多結晶シリコンロッドRを得ることができる。
【0029】
以上の様な構成の多結晶シリコン製造装置10を用いた、本実施形態の多結晶シリコンの製造方法を説明する。
本実施形態の多結晶シリコンの製造方法は、反応炉13内において使用されるカーボン部材、例えば種棒Sを支持するカーボン部材23を介して反応炉13内に持ち込まれる水分を低減させる。具体的には、室温環境(25℃)における24時間あたりの水分放出量を、0.020mg/g以下にしたカーボン部材23を用いる。
【0030】
こうした水分放出量の少ないカーボン部材23を用いることにより、反応炉13内に持ち込まれる水分を低減することができる。これにより、反応炉13内で種棒Sに析出させた多結晶シリコンに含まれるリンの濃度を0.030ppb(原子)以下、かつ鉄の濃度を0.015ppb(質量)以下にすることができる。
【0031】
上述したような、カーボン部材23の水分放出量を低減する1つの具体例として、種棒Sを支持するためのカーボン部材23を保管する保管袋の水分透過率を低減させることが挙げられる。
【0032】
多結晶シリコン製造装置10に用いられるカーボン部材23は、通常、2000℃以上の高温で焼結して製造される。特に高純度が要求される加工品については、加工時の汚染を除去するために、ハロゲンガス雰囲気での高温処理が行われた後、保管容器に収容して密封梱包されて、使用時まで保管される。保管容器としては、柔軟な袋状の保管袋や、硬質な箱形状の保管箱などが挙げられる。なお、保管容器は、特定の形状に限定されるものではない。
【0033】
高温処理直後は、カーボン部材23に水分の残留は殆ど無い。カーボン部材の保管容器に用いられるポリエチレンは、樹脂のなかでも比較的蒸気透過性は低い方であるが、LDPEで2.7g/m・dayといった透過率データが示されており、高湿環境下に数日置かれた場合には無視できない量の水蒸気が透過する。その結果、時間経過と共に水分の吸収が起こっていたと考えられる。このため、本実施形態では、保管容器として保管袋を用いる場合、保管袋の構成材料として、従来のような、水分が透過するポリエチレン層(樹脂層)に加えて、水蒸気の透過率が低い金属層またはシリカ蒸着層を形成した複層の保管袋を用いている。
【0034】
なお、保管容器として保管箱を用いる場合、例えば、ポリエチレンからなる袋と金属製の箱体とを組み合わせたものや、ポリエチレンからなる硬質の箱体の内面、または外面に、金属やシリカの蒸着層を形成したものを用いることができる。
【0035】
保管容器として保管袋を用いる場合、保管袋の金属層としては、例えば、アルミニウム薄膜層であればよい。本実施形態の保管袋は、ポリエチレン層(樹脂層)の一面側に、アルミニウムやシリカを蒸着させることによって形成することができる。
【0036】
こうしたカーボン部材23を保管する保管袋は、ポリエチレン層(樹脂層)によって表面の金属等による汚染を抑制し、かつ、金属層またはシリカ蒸着層によって、水蒸気の透過が阻止される。保管袋の水蒸気透過率は、例えば、0.5(g/mday)以下、好ましくは0.3(g/mday)以下であればよい。
【0037】
保管袋として樹脂層に加えて更に金属層またはシリカ蒸着層を形成して、水蒸気透過率を上述した範囲にすることで、例えば、製造後のカーボン部材23を3ヵ月程度保管しても、カーボン部材23に含まれる水分量が殆ど変動しない状態で維持できる。
【0038】
こうしたポリエチレン層(樹脂層)と金属層またはシリカ蒸着層によって、水分の透過が抑制された保管袋に各カーボン部材を収納、保管することで、これらのカーボン部材を反応炉13内で用いた際に、反応炉13内での水分の放出が殆ど無くなり、析出させた多結晶シリコンの不純物濃度、例えばリンの濃度を0.030ppb(原子)以下、かつ鉄の濃度を0.015ppb(質量)以下にすることができる。
【0039】
本発明者らは、夏季の高温多湿の環境下でポリエチレン袋に3週間以上保管していたカーボン部材を使用して製造した多結晶シリコンについて、その不純物濃度を測定すると、下記の表1に示すように、その他に比べてリンの濃度、及び鉄の濃度が有意に高くなる傾向を知見として得ている。
【0040】
【表1】
【0041】
このため、種棒Sを支持するカーボン部材23の吸水量を定量的に評価すべく、密閉容器と露点計を用いた評価方法を考案した。こうした評価方法に用いる測定装置として、例えば、真空ポンプを接続したデシケータ(密閉容器)内に露点計を設置し、測定時において、デシケータ内に測定対象のカーボン部材23を収容し、デシケータ内を窒素ガスで置換する。
【0042】
JIS K1107によれば、窒素ガスの露点を1級で-65℃以下、2級で-60℃以下と定めており、露点が-65℃以下の十分に乾燥した窒素ガスは容易に入手できる。測定は、デシケータ内に露点計のみを入れ真空置換により1級相当の窒素ガスを充填し、露点測定を24時間行った。その後、露点計をデシケータから取り出し、窒素ガス置換完了直後と24時間後との各露点を比較し、増加した水分量を算出する。この結果の一例として、水分量は18mgであった。これがこの測定装置の定数とみなせるので、試料となるカーボン部材をデシケータ内に入れ、同様に露点の上昇を測定すれば、空の状態との差分がカーボン部材から放出された水蒸気の量となる。
【0043】
測定例として、東京の8月の平均気温は28℃前後、平均湿度は80%程度である。ポリエチレンの水蒸気透過率のデータから、8月の平均気温・平均湿度の条件と同等の水蒸気透過量になる条件として、温度40℃、湿度90%の恒温恒湿槽で3日間保管したカーボン部材(試料)について、上述した測定装置を用いて上述した測定方法で水分量を測定したところ、カーボン部材1gあたりの水分量は0.020mgであった。
【0044】
カーボン部材の使用量は、反応炉13の設計に依存するため、当然、カーボンの使用量が多いほど、反応炉13内に持ち込まれる水分は多くなる。実際に使用しているカーボンの重量と多結晶シリコンの生産量から、多結晶シリコンの製品1kgあたり0.80mg以上の水分の持ち込みがあると、所定の基準の品質を保った多結晶シリコンが得られにくくなることがわかった。
【0045】
従って、カーボン部材の吸収水分量を低減させることで、多結晶シリコンのバルクリン濃度及び鉄の濃度の上昇を防げることが確認できた。なお、ここでは、多結晶シリコンに含まれるリンの濃度を0.030ppb(原子)以下、かつ鉄の濃度を0.015ppb(質量)以下として評価したが、さらに品質要求が厳しくなると、水分量の制約もさらに厳しくなることが推定できる。よって、本発明のように、反応炉13内にカーボン部材由来で持ち込まれる水分を低減することで、水分量の制約が厳しくなっても、対応することができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0047】
以下、本実施形態の多結晶シリコンの製造方法を検証した。
各検証例は、以下の条件にした。
(実施例1)
水分透過対策として、メンテナンス中のカーボン部材の保管についてポリエチレンを内層、透過率が0.1(g/mday)以下のアルミニウムを外層とした二重包装の保管袋を用いた。
【0048】
高温処理炉でハロゲンガス雰囲気による純化処理を行ったカーボン部材について、上述した二重包装の保管袋に収容、密封して、3週間放置後、カーボン部材を保管袋から取り出して露点測定を実施した。
また、上述した二重包装の保管袋に収容、密封して、3週間放置した別のカーボン部材を使用して多結晶シリコンを製造し、不純物濃度を測定した。
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様に、純化処理を行ったカーボン部材についてポリエチレン袋で包装し、その包装済のカーボン部材をアルミニウム製容器(保管箱)へ収容、密封して3週間放置後、カーボン部材を容器から取り出して露点測定を実施した。
また、同様の保管方法によって3週間放置した別のカーボン部材を使用して多結晶シリコンを製造し、不純物濃度を測定した。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様の純化処理を行ったカーボン部材をポリエチレン層のみの保管袋に収容、密封して、3週間放置後、カーボン部材を保管袋から取り出して露点測定を実施した。
また、上述したポリエチレン層のみの保管袋に収容、密封して、3週間放置した別のカーボン部材を使用して多結晶シリコンを製造し、不純物濃度を測定した。
【0051】
(露点測定方法)
実施形態で説明した露点の測定装置を用いた。
(1)測定対象となるカーボン部材と露点計をデシケータに入れる。
(2)デシケータに接続された真空ポンプを作動させ、真空計のゲージ圧力が-0.09~-0.1MPaになるまでデシケータ内を減圧する。
(3)デシケータから真空ポンプのラインを閉じた後、窒素ガスのラインを開き、真空計のゲージ圧力が-0.005MPa程度になるまで窒素ガスをデシケータ内に導入する。(若干負圧にすることで、リークの有無が確認できる。)
(4)(2)と(3)の動作を5サイクル行うことで、デシケータの内部が乾燥した窒素ガスで満たされた状態となる。
(5)デシケータ内を窒素ガスで置換完了から24時間経過後、デシケータの内部を常圧に戻し、測定対象となるカーボン部材及び露点計を取り出す。
【0052】
以上の露点測定方法で測定した実施例1、2および比較例1のカーボン部材(試料)の測定結果を表2に示す。(表中の「ブランク」は、デシケータ内にカーボン部材を入れず露点計のみの状態で測定した時の結果である。段落「0041」も参照。)
【表2】
【0053】
表2に示す結果から、水蒸気の透過を抑制するアルミニウム層やアルミニウム材を含む保管容器で保管したカーボン部材(実施例1、2)は、水蒸気を透過するポリエチレン層だけで構成された保管袋で保管したカーボン部材(比較例1)よりも、水分量を大幅に低くできることが確認された。
【0054】
また、実施例1、2、および比較例1のカーボン部材を用いて製造した多結晶シリコンの不純物濃度の測定結果を表3に示す。
【表3】
【0055】
表3に示す結果から、水分吸収を抑制した実施例1、2のカーボン部材を用いて製造した多結晶シリコンは、水分吸収を抑制しなかった比較例1のカーボン部材を用いて製造した多結晶シリコンと比較して、リン濃度、および鉄濃度を低減できることが確認できた。
【0056】
次に、反応炉1炉あたりでカーボン部材により持ち込まれる水分量、及び製造した多結晶シリコン1kgあたりの炉内混入水分量を算出した。反応炉1炉あたりに使用されるカーボン部材の総重量、及び製造した反応炉1炉あたりの多結晶シリコンの量を考慮して、ポリエチレン層のみの保管袋に保管した場合とアルミニウム層を含む保管袋に保管した場合、ポリエチレン層を含む保管袋とアルミニウム製容器に保管した場合それぞれの水分量を求めた。
【0057】
反応炉1炉あたりに使用されるカーボン部材の総重量を200kgとして、カーボン部材がポリエチレン層だけの保管袋に収容して保管された時、吸収する水分は4000mg、このカーボン部材を電極の支持部材として使用して製造した反応炉1炉あたりのシリコン量を5000kgとする。この場合、炉内に入る水分量は多結晶シリコン1kgあたり0.80mgとなる。
【0058】
よって、カーボン部材により持ち込まれる水分は4000mg、炉内に入る多結晶シリコン1kgあたりの水分量は0.80mgとなった。同様にアルミニウム層を含む保管袋で保管した場合について算出すると、カーボン部材により持ち込まれる水分は1600mg、炉内に入る多結晶シリコン1kgあたりの水分量は0.32mgとなった。同様にポリエチレン層を含む保管袋とアルミニウム製容器に保管した場合について算出すると、カーボン部材により持ち込まれる水分は800mg、炉内に入る多結晶シリコン1kgあたりの水分量は0.16mgとなった。
【0059】
以上の結果から、本発明のように、反応炉内に持ち込まれる水分を抑制することで、製造する多結晶シリコンの不純物濃度を低減して、高品質な多結晶シリコンが得られることを実証できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、シリコン多結晶製造用の反応炉内に持ち込まれる水分の総量を抑制することで、高品質の単結晶シリコンの製造に必要な、不純物の少ない多結晶シリコンの製造を可能にすることができる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0061】
10…多結晶シリコン製造装置
11…塩化炉
12…蒸留設備
13…反応炉
14…水素精製設備
21…耐熱チャンバ
22…電極
23…カーボン部材
図1
図2