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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051624
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】半導体受光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157893
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆志
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA04
5F149AB07
5F149AB17
5F149BA30
5F149BB01
5F149BB07
5F149DA27
5F149DA35
5F149GA06
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5F149XB18
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5F849AA04
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5F849BB07
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5F849DA35
5F849GA06
5F849GA17
5F849LA01
5F849XB18
5F849XB24
5F849XB37
(57)【要約】
【課題】入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する光吸収係数のスペクトルを備える半導体受光素子を提供する。
【解決手段】半導体受光素子は受光層を備え、受光層は、第1方向に積層された複数の単位構造を備え、複数の単位構造のそれぞれは、積層体とガリウムヒ素アンチモン層とを含み、積層体は、j個のガリウムヒ素単分子層を含む第1ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第1インジウムヒ素層と、k個の積層構造と、j-1個のガリウムヒ素単分子層を含む第2ガリウムヒ素層と、を含み、k個の積層構造のそれぞれは、n個のガリウムヒ素単分子層を含む第3ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第2インジウムヒ素層と、を含み、j、mおよびnのそれぞれは1以上の整数であり、kは0以上の整数である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1III-V族半導体層と、
第2導電型の第2III-V族半導体層と、
第1方向において、前記第1III-V族半導体層と前記第2III-V族半導体層との間に設けられた受光層と、
を備え、
前記受光層は、前記第1方向に積層された複数の単位構造を備え、
前記複数の単位構造のそれぞれは、積層体とガリウムヒ素アンチモン層とを含み、
前記積層体は、j個のガリウムヒ素単分子層を含む第1ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第1インジウムヒ素層と、k個の積層構造と、j-1個のガリウムヒ素単分子層を含む第2ガリウムヒ素層と、を含み、前記第2ガリウムヒ素層、前記k個の積層構造、前記第1インジウムヒ素層および前記第1ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、前記k個の積層構造のそれぞれは、n個のガリウムヒ素単分子層を含む第3ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第2インジウムヒ素層と、を含み、前記k個の積層構造のそれぞれにおいて、前記第2インジウムヒ素層および前記第3ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、
j、mおよびnのそれぞれは1以上の整数であり、kは0以上の整数である、半導体受光素子。
【請求項2】
インジウムリン基板をさらに備え、
前記第1方向において、前記第1III-V族半導体層は、前記インジウムリン基板と前記受光層との間に設けられ、
前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成をy、前記積層体におけるガリウムヒ素単分子層の数とインジウムヒ素単分子層の数との和に対するガリウムヒ素単分子層の数の割合をrとすると、
0.95<y+r<1.05
が満たされる、請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
j、mおよびnのそれぞれが6以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
kが1以上である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
kが13以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成が0.3から0.7である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
前記ガリウムヒ素アンチモン層が、p個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含み、
pが10から26の整数である、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項8】
前記第1ガリウムヒ素層、前記第2ガリウムヒ素層および前記第3ガリウムヒ素層のそれぞれの厚さが0.2から1.5nmである、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項9】
前記第1インジウムヒ素層および前記第2インジウムヒ素層のそれぞれの厚さが0.2から1.6nmである、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【請求項10】
前記ガリウムヒ素アンチモン層の厚さが2.5から6.3nmである、請求項1または請求項2に記載の半導体受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、n型のインジウムリン(InP)基板上に設けられた受光層を備えるフォトダイオードを開示する。受光層は、150ペアのタイプIIの超格子を有する。1ペアは、ガリウムインジウムヒ素(GaInAs)層とガリウムヒ素アンチモン(GaAsSb)層とを含む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rubin Sidhu, et al, "ALong-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-IIQuantum Wells" IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL. 17, NO. 12,DECEMBER 2005, p.2715-2717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記フォトダイオードでは、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向によって大きく変化する。
【0005】
本開示は、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する光吸収係数のスペクトルを備える半導体受光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る半導体受光素子は、第1導電型の第1III-V族半導体層と、第2導電型の第2III-V族半導体層と、第1方向において、前記第1III-V族半導体層と前記第2III-V族半導体層との間に設けられた受光層と、を備え、前記受光層は、前記第1方向に積層された複数の単位構造を備え、前記複数の単位構造のそれぞれは、積層体とガリウムヒ素アンチモン層とを含み、前記積層体は、j個のガリウムヒ素単分子層を含む第1ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第1インジウムヒ素層と、k個の積層構造と、j-1個のガリウムヒ素単分子層を含む第2ガリウムヒ素層と、を含み、前記第2ガリウムヒ素層、前記k個の積層構造、前記第1インジウムヒ素層および前記第1ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、前記k個の積層構造のそれぞれは、n個のガリウムヒ素単分子層を含む第3ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第2インジウムヒ素層と、を含み、前記k個の積層構造のそれぞれにおいて、前記第2インジウムヒ素層および前記第3ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、j、mおよびnのそれぞれは1以上の整数であり、kは0以上の整数である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する光吸収係数のスペクトルを備える半導体受光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1の半導体受光素子に含まれる受光層を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図2の受光層に含まれる単位構造を模式的に示す断面図である。
図4図4は、第1実験に係る半導体受光素子の受光層におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図5図5は、第2実験に係る半導体受光素子の受光層におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。
図6図6は、第1実験において得られる光吸収係数のスペクトルの例を示すグラフである。
図7図7は、第2実験において得られる光吸収係数のスペクトルの例を示すグラフである。
図8図8は、第1実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。
図9図9は、第1実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。
図10図10は、第2実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。
図11図11は、第2実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。
図12図12は、第1実験、第3実験から第25実験の単位構造における吸収端波長の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0010】
(1)半導体受光素子は、第1導電型の第1III-V族半導体層と、第2導電型の第2III-V族半導体層と、第1方向において、前記第1III-V族半導体層と前記第2III-V族半導体層との間に設けられた受光層と、を備え、前記受光層は、前記第1方向に積層された複数の単位構造を備え、前記複数の単位構造のそれぞれは、積層体とガリウムヒ素アンチモン層とを含み、前記積層体は、j個のガリウムヒ素単分子層を含む第1ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第1インジウムヒ素層と、k個の積層構造と、j-1個のガリウムヒ素単分子層を含む第2ガリウムヒ素層と、を含み、前記第2ガリウムヒ素層、前記k個の積層構造、前記第1インジウムヒ素層および前記第1ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、前記k個の積層構造のそれぞれは、n個のガリウムヒ素単分子層を含む第3ガリウムヒ素層と、m個のインジウムヒ素単分子層を含む第2インジウムヒ素層と、を含み、前記k個の積層構造のそれぞれにおいて、前記第2インジウムヒ素層および前記第3ガリウムヒ素層は、前記第1方向にこの順に積層され、j、mおよびnのそれぞれは1以上の整数であり、kは0以上の整数である。
【0011】
上記半導体受光素子によれば、各単位構造中の積層体が電子井戸層として機能する。上記半導体受光素子では、各単位構造中の電子井戸層がGaInAs層のみからなる場合に比べて、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する。これは、第1方向において電子井戸層の中心位置に関して原子配列が対称性を有するからと考えられる。
【0012】
(2)上記(1)において、半導体受光素子はインジウムリン基板をさらに備えてもよく、前記第1方向において、前記第1III-V族半導体層は、前記インジウムリン基板と前記受光層との間に設けられてもよく、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成をy、前記積層体におけるガリウムヒ素単分子層の数とインジウムヒ素単分子層の数との和に対するガリウムヒ素単分子層の数の割合をrとすると、
0.95<y+r<1.05
が満たされてもよい。この場合、ガリウムヒ素アンチモン層の格子歪みを小さくできる。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)において、j、mおよびnのそれぞれが6以下であってもよい。
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、kが1以上であってもよい。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つにおいて、kが13以下であってもよい。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムヒ素アンチモン層のヒ素組成が0.3から0.7であってもよい。
【0017】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムヒ素アンチモン層が、p個のガリウムヒ素アンチモン単分子層を含んでもよく、pが10から26の整数であってもよい。
【0018】
(8)上記(1)から(7)のいずれか1つにおいて、前記第1ガリウムヒ素層、前記第2ガリウムヒ素層および前記第3ガリウムヒ素層のそれぞれの厚さが0.2から1.5nmであってもよい。
【0019】
(9)上記(1)から(8)のいずれか1つにおいて、前記第1インジウムヒ素層および前記第2インジウムヒ素層のそれぞれの厚さが0.2から1.6nmであってもよい。
【0020】
(10)上記(1)から(9)のいずれか1つにおいて、前記ガリウムヒ素アンチモン層の厚さが2.5から6.3nmであってもよい。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一または同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0022】
図1は、一実施形態に係る半導体受光素子を模式的に示す断面図である。図1に示される半導体受光素子10は、第1導電型の第1III-V族半導体層12と、第2導電型の第2III-V族半導体層14と、受光層16とを備える。第1導電型は例えばn型である。第2導電型は第1導電型と反対である。第2導電型は例えばp型である。受光層16はノンドープである。半導体受光素子10は、例えばフォトダイオードである。受光層16は、第1方向D1において、第1III-V族半導体層12と第2III-V族半導体層14との間に設けられる。第1方向D1は、受光層16の厚さ方向である。第1方向D1は、第1III-V族半導体層12から第2III-V族半導体層14に向かう方向であってもよい。第1方向D1は、結晶成長方向であってもよい。あるいは、第1方向D1は、第2III-V族半導体層14から第1III-V族半導体層12に向かう方向であってもよい。第1方向D1は、結晶成長方向と反対の方向であってもよい。
【0023】
第1III-V族半導体層12はインジウムリン(InP)層であってもよい。第1III-V族半導体層12におけるドーパント濃度は1×1023から1×1024-3であってもよい。第1III-V族半導体層12の厚さは0.1から1μmであってもよい。n型ドーパントの例は、シリコン(Si)、テルル(Te)および錫(Sn)を含む。
【0024】
第2III-V族半導体層14はInP層であってもよい。第2III-V族半導体層14におけるドーパント濃度は1×1023から1×1024-3であってもよい。第2III-V族半導体層14の厚さは0.1から1μmであってもよい。p型ドーパントの例は、亜鉛(Zn)およびベリリウム(Be)を含む。
【0025】
半導体受光素子10は、基板18をさらに備えてもよい。基板18は、InP基板といったIII-V族半導体基板であってもよい。基板18は、半絶縁性基板であってもよい。第1方向D1において、第1III-V族半導体層12は、基板18と受光層16との間に設けられてもよい。第1III-V族半導体層12は、基板18の主面上に設けられてもよい。基板18の主面は{100}面であってもよい。{100}面は、(100)面、(010)面、(001)面、(-100)面、(0-10)面および(00-1)面を含む。(100)面、(010)面、(001)面、(-100)面、(0-10)面および(00-1)面は互いに等価である。基板18の主面は第1方向D1に直交してもよい。
【0026】
半導体受光素子10は、第1導電型のIII-V族半導体層20をさらに備えてもよい。III-V族半導体層20は、第1方向D1において、第1III-V族半導体層12と基板18との間に設けられる。III-V族半導体層20は、コンタクト層であってもよい。III-V族半導体層20はInP層であってもよい。III-V族半導体層20には、電極30が接続されてもよい。
【0027】
半導体受光素子10は、第2導電型のIII-V族半導体層22をさらに備えてもよい。第1方向D1において、第2III-V族半導体層14はIII-V族半導体層22と受光層16との間に設けられる。III-V族半導体層22は、コンタクト層であってもよい。III-V族半導体層22はGaIn1-zAs層(GaInAs層ともいう)であってもよい。zはガリウム(Ga)組成である。zは0より大きく1より小さい。III-V族半導体層22には、電極40が接続されてもよい。
【0028】
半導体受光素子10は、入射光Lを検出できる。入射光Lは、0.4から3μmの波長を有する可視光または赤外光であってもよい。入射光Lは、第1方向D1に進んでもよい。入射光Lは、基板18を通って受光層16に入射してもよい。半導体受光素子10は、ガス分析装置の分光システム、イメージングシステムまたは光通信システムにおいて使用され得る。
【0029】
図2は、図1の半導体受光素子に含まれる受光層を模式的に示す断面図である。図2に示されるように、受光層16は、第1方向D1に積層された複数の単位構造U1を備える。隣り合う単位構造U1は、互いに接触してもよい。単位構造U1の数は100から500であってもよい。複数の単位構造U1は超格子を構成する。
【0030】
図3は、図2の受光層に含まれる単位構造を模式的に示す断面図である。図3に示されるように、各単位構造U1は、積層体LMとガリウムヒ素アンチモン(GaAsSb1-y)層L1とを含む。GaAsSb1-y層L1および積層体LMは、第1方向D1にこの順に積層されてもよい。あるいは、積層体LMおよびGaAsSb1-y層L1が、第1方向D1にこの順に積層されてもよい。yはヒ素(As)組成である。yは0より大きく1より小さい。yは0.3から0.7であってもよい。この場合、GaAsSb1-y層L1をInP層に対して格子整合させることができる。GaAsSb1-y層L1は、p個のGaAsSb1-y単分子層を含んでもよい。pは10から26の整数であってもよい。単分子層とは、厚さ方向において単一の分子(III-V族化合物半導体分子)を含む層を意味する。閃亜鉛鉱型構造を有するIII-V族化合物半導体の場合、単分子層の厚さは、厚さ方向の格子定数の半分の長さである。単分子層の厚さは、例えば0.28から0.32nmである。単分子層の厚さは、材料の種類、温度または格子歪みの量により変化し得る。
【0031】
積層体LMは、ガリウムヒ素(GaAs)層L3(第1ガリウムヒ素層)と、インジウムヒ素(InAs)層L2(第1インジウムヒ素層)と、k個の積層構造LSと、GaAs層L4(第2ガリウムヒ素層)とを含む。GaAs層L3は、j個のGaAs単分子層を含む。InAs層L2は、m個のInAs単分子層を含む。GaAs層L4は、j-1個のGaAs単分子層を含む。各積層構造LSは、GaAs層L5(第3ガリウムヒ素層)とInAs層L6(第2インジウムヒ素層)とを含む。各積層構造LSは、単一のGaAs層L5と単一のInAs層L6とを含むペアであってもよい。GaAs層L5は、n個のGaAs単分子層を含む。InAs層L6は、m個のInAs単分子層を含む。GaAs層L4、k個の積層構造LS、InAs層L2およびGaAs層L3は、第1方向D1にこの順に積層される。各積層構造LSにおいて、InAs層L6およびGaAs層L5は、第1方向D1にこの順に積層される。積層体LMにおいて、GaAs層およびInAs層は、第1方向D1において交互に積層され得る。
【0032】
j、mおよびnのそれぞれは1以上の整数である。j、mおよびnのそれぞれは6以下であってもよい。jおよびmは、同じ整数であってもよいし、互いに異なる整数であってもよい。mおよびnは、同じ整数であってもよいし、互いに異なる整数であってもよい。nおよびjは、同じ整数であってもよいし、互いに異なる整数であってもよい。jが1の場合、積層体LMはGaAs層L4を含まない。kは0以上の整数である。kは1以上であってもよい。kは13以下であってもよい。kが0の場合、積層体LMは、積層構造LSを含まない。
【0033】
単位構造U1において、GaAs単分子層、InAs単分子層およびGaAsSb1-y単分子層の配列は以下のように表され得る。
(GaAs)(InAs)([GaAs][InAs](GaAs)j-1(GaAsSb1-y
【0034】
単分子層の配列順序は、第1方向D1とは反対の方向における順序である。各単分子の右下にあるj、m、n、(j-1)およびpのそれぞれは、上述のように単分子層の数を表す。kは([GaAs][InAs])で表されるペアの数を表す。
【0035】
InAs層L2は、GaAs層L3およびGaAs層L5に接触してもよい。InAs層L6は、GaAs層L5に接触してもよい。GaAs層L4は、InAs層L6およびGaAsSb1-y層L1に接触してもよい。1つの単位構造U1におけるGaAs層L3は、隣の単位構造U1におけるGaAsSb1-y層L1に接触してもよい。GaAsSb1-y層L1は、電子バリア層または正孔井戸層として機能し得る。積層体LMは、電子井戸層または正孔バリア層として機能し得る。
【0036】
InAs層L2,L6およびGaAs層L3,L4,L5のそれぞれは、GaAsSb1-y層L1よりも小さい厚さを有する。GaAsSb1-y層L1の厚さは2.5から6.3nmであってもよい。InAs層L2,L6のそれぞれの厚さは0.2から1.6nmであってもよい。GaAs層L3,L4,L5のそれぞれの厚さは0.2から1.5nmであってもよい。
【0037】
GaAsSb1-y層L1のAs組成をy、積層体LMにおけるGaAs単分子層の数とInAs単分子層の数との和に対するGaAs単分子層の数の割合をrとすると、以下の式(1)が満たされてもよい。
【0038】
0.95<y+r<1.05 …(1)
【0039】
積層体LMにおけるGaAs単分子層の数をN1、積層体LMにおけるInAs単分子層の数をN2とすると、rは以下の式(2)で表される。
r=N1/(N1+N2) …(2)
【0040】
N1は以下の式(3)で表される。
N1=n×k+2j-1 …(3)
【0041】
N2は以下の式(4)で表される。
N2=m×(k+1) …(4)
【0042】
rは、0.4より大きく0.6より小さくてもよい。この場合、yは0.35より大きく0.65より小さくなる。これにより、積層面内におけるGaAsSb1-y層L1の格子歪みεを-1.2%より大きく1.1%より小さくできる。その結果、GaAsSb1-y層L1の厚さが約10nm以下の場合、良好な結晶性が得られる。
【0043】
半導体受光素子10によれば、各単位構造U1中の積層体LMが電子井戸層として機能する。半導体受光素子10では、各単位構造中の電子井戸層がGaInAs層のみからなる場合に比べて、光吸収係数のスペクトルが、入射光Lの偏光方向に対して低い依存性を有する。これは、第1方向D1において電子井戸層の中心位置に関して原子配列が対称性を有するからと考えられる。半導体受光素子10によれば、入射光Lの偏光方向が変化しても信号強度の変化を抑制できる。
【0044】
以下、図3の単位構造U1の評価のために行った種々の実験について説明する。以下に説明する実験は、本開示を限定するものではない。
【0045】
(第1実験)
第1実験に係る半導体受光素子の受光層は以下の構成を有する。受光層中の各単位構造は、GaAs層L3と、InAs層L2と、GaAs層L5と、InAs層L6と、GaAs層L4と、GaAsSb1-y層L1とを含む(図3参照)。受光層は、InP基板の{100}面上に積層される。
【0046】
GaAs層L3中のGaAs単分子層の数jは2である。InAs層L2中のInAs単分子層の数mは2である。GaAs層L5中のGaAs単分子層の数nは2である。InAs層L6中のInAs単分子層の数mは2である。積層構造LSの数kは3である。GaAs層L4中のGaAs単分子層の数j-1は1である。GaAsSb1-y層L1のAs組成yは0.49である。GaAsSb1-y層L1中のGaAsSb1-y単分子層の数pは17である。
【0047】
受光層中の各単位構造において、GaAs単分子層、InAs単分子層およびGaAsSb1-y単分子層の配列は以下のようにも表される。
([GaAs][InAs](GaAs)(GaAs0.49Sb0.5117
【0048】
(第2実験)
第2実験に係る半導体受光素子の受光層は以下の構成を有する。受光層中の各単位構造は、GaAsSb1-y層とガリウムインジウムヒ素(GaIn1-xAs)層とを含む。受光層は、InP基板の{100}面上に積層される。yは0.51である。xは0.47である。GaIn1-xAs層中のGaIn1-xAs単分子層の数は17である。GaAsSb1-y層中のGaAsSb1-y単分子層の数は17である。
【0049】
(第1実験結果)
第1実験および第2実験に係る半導体受光素子の受光層について、シミュレーションにより、バンドオフセットエネルギーおよび波動関数の大きさの絶対値の二乗の値を算出した。結果を図4および図5に示す。
【0050】
図4および図5は、それぞれ第1実験および第2実験に係る半導体受光素子の受光層におけるエネルギーバンド図の一例を示すグラフである。図4および図5のグラフにおいて、横軸は、第1方向D1における各原子の位置を示す。グラフの左側縦軸は、バンドオフセットエネルギー(eV)を示す。ECBOは、波数が0であるΓ点における伝導帯(伝導帯端ともいう)のバンドオフセットエネルギーを示す。EVBOは、波数が0であるΓ点における価電子帯(価電子帯端ともいう)のバンドオフセットエネルギーを示す。グラフの右側縦軸は、波動関数の大きさの絶対値の二乗の値(任意単位)を示す。|ψCBM|は、伝導帯端における波動関数の大きさの絶対値の二乗の値を示す。|ψCBM|は、右側縦軸の値が0より上側に位置する。|ψVBM|は、価電子帯端における波動関数の大きさの絶対値の二乗の値を示す。|ψVBM|は、右側縦軸の値が0より下側に位置する。
【0051】
図4および図5に示されるように、第1実験と第2実験との間において、電子井戸層におけるエネルギーバンドおよび波動関数が異なっている。
【0052】
(第2実験結果)
第1実験および第2実験に係る半導体受光素子の受光層について、シミュレーションにより、200Kの動作温度における光吸収係数のスペクトルを算出した。入射光Lは、(001)面に対して直交する第1方向D1に進む(図1参照)。結果を図6および図7に示す。
【0053】
図6および図7は、第1実験および第2実験においてそれぞれ得られる光吸収係数のスペクトルの例を示すグラフである。図6および図7のグラフにおいて、縦軸は光吸収係数(cm-1)を表す。横軸は波長(μm)を示す。実線は、入射光Lの偏光方向が[100]方向である場合のスペクトルを示す。破線は、入射光Lの偏光方向が[110]方向である場合のスペクトルを示す。一点鎖線は、入射光Lの偏光方向が[1-10]方向である場合のスペクトルを示す。
【0054】
図6に示されるように、第1実験では、入射光Lの偏光方向が変化しても、光吸収係数のスペクトルは殆ど変化しなかった。一方、図7に示されるように、第2実験では、入射光Lの偏光方向が変化すると、光吸収係数のスペクトルも大きく変化した。よって、第1実験では、第2実験に比べて、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有することが分かる。以下、偏光方向に対する依存性が低下するメカニズムについて説明する。
【0055】
図8および図9は、第1実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。図8および図9において、[001]方向が結晶成長方向すなわち図3の第1方向D1である。図8では、上方向が[110]方向である。一方、図9では、上方向が[1-10]方向である。図8および図9において、MLは単分子層を示す。原子サイトAsSb1-yには、実際にはヒ素(As)原子およびアンチモン(Sb)原子のいずれか一方が配置される。結晶成長方向に直交する平面において、As原子およびSb原子は、原子数でy:(1-y)の割合で配置される。よって、当該割合の性質を有する仮想的なカチオン原子(AsSb1-y)が原子サイトAsSb1-yに配置されると考えることができる。
【0056】
図8において、[110]方向の成分を有する原子間結合の数を算出した。Ga-As結合、In-As結合およびGa-(AsSb1-y)結合の数は以下の通りである。
Ga-As結合:6個(4×1/2+2+4×1/2)
In-As結合:4個(4×1/2+2)
Ga-(AsSb1-y)結合:6個(2+4×1/2+2)
【0057】
直方体で示されるセルの表面に位置する原子間結合は、隣のセルと共有されるので、原子間結合の数は半分にされる。
【0058】
図9において、[1-10]方向の成分を有する原子間結合の数を算出した。Ga-As結合、In-As結合およびGa-(AsSb1-y)結合の数は以下の通りである。
Ga-As結合:6個(2+4×1/2+2)
In-As結合:4個(4×1/2+2)
Ga-(AsSb1-y)結合:6個(4×1/2+2+4×1/2)
【0059】
よって、第1実験では、[110]方向の偏光方向を有する電場に対して同じ方向の成分を有する原子間結合の数が、[1-10]方向の偏光方向を有する電場に対して同じ方向の成分を有する原子間結合の数と同じである。さらに、図4に示されるように、電子井戸層は第1電子バリア層と第2電子バリア層との間に配置される。第1電子バリア層と電子井戸層との界面におけるエネルギーは、第2電子バリア層と電子井戸層との界面におけるエネルギーと同じである。これは、第1方向D1において電子井戸層の中心位置に関して原子配列が対称性を有することに起因する。よって、図8に表示されたGa-As結合B1は図9に表示されたGa-As結合B2と等価である。同じように、図8に表示されたGa-(AsSb1-y)結合B3は図9に表示されたGa-(AsSb1-y)結合B4と等価である。したがって、偏光方向が[110]方向である場合の光吸収係数は、偏光方向が[1-10]方向である場合の光吸収係数と殆ど同じである。第1実験では、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する。
【0060】
図10および図11は、第2実験の単位構造における原子配列の例を示す斜視図である。原子サイトGaIn1-xには、実際にはガリウム(Ga)原子またはインジウム(In)原子が配置される。結晶成長方向に直交する平面において、Ga原子およびIn原子は、原子数でx:(1-x)の割合で配置される。よって、当該割合の性質を有する仮想的なカチオン原子(GaIn1-x)が原子サイトGaIn1-xに配置されると考えることができる。
【0061】
図10において、[110]方向の成分を有する原子間結合の数を算出した。(GaIn1-x)-As結合、Ga-(AsSb1-y)結合、Ga-As結合および(GaIn1-x)-(AsSb1-y)結合の数は以下の通りである。
(GaIn1-x)-As結合:6個(4×1/2+2+4×1/2)
Ga-(AsSb1-y)結合:6個(2+4×1/2+2)
Ga-As結合:0個
(GaIn1-x)-(AsSb1-y)結合:0個
【0062】
図11において、[1-10]方向の成分を有する原子間結合の数を算出した。(GaIn1-x)-As結合、Ga-(AsSb1-y)結合、Ga-As結合および(GaIn1-x)-(AsSb1-y)結合の数は以下の通りである。
(GaIn1-x)-As結合:4個(2+4×1/2)
Ga-(AsSb1-y)結合:4個(4×1/2+2)
Ga-As結合:2個
(GaIn1-x)-(AsSb1-y)結合:2個(4×1/2)
【0063】
よって、第2実験では、[110]方向の偏光方向を有する電場に対して同じ方向の成分を有する原子間結合の数が、[1-10]方向の偏光方向を有する電場に対して同じ方向の成分を有する原子間結合の数と異なる。したがって、偏光方向が[110]方向である場合の光吸収係数は、偏光方向が[1-10]方向である場合の光吸収係数と異なる。第2実験では、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向に対して高い依存性を有する。
【0064】
(第3実験から第25実験)
第3実験から第25実験に係る半導体受光素子の受光層に含まれる単位構造は、図12に示される。
【0065】
(第3実験結果)
第1実験、第3実験から第25実験に係る半導体受光素子の受光層について、シミュレーションにより、200Kの動作温度における吸収端波長λ(μm)を算出した。ここでは、吸収端波長(カットオフ波長)は、光吸収係数が1×10cm-1以上となる波長の最大値としている。結果を図12に示す。
【0066】
図12は、第1実験、第3実験から第25実験の単位構造における吸収端波長の例を示す図である。図12に示されるように、第1実験、第3実験から第25実験において、吸収端波長は2.45μm以上であった。第3実験から第25実験においても、第1実験と同じように、光吸収係数のスペクトルが、入射光の偏光方向に対して低い依存性を有する。
【0067】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本開示は上記実施形態に限定されない。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
10…半導体受光素子
12…第1III-V族半導体層
14…第2III-V族半導体層
16…受光層
18…基板
20…III-V族半導体層
22…III-V族半導体層
30…電極
40…電極
B1…Ga-As結合
B2…Ga-As結合
B3…Ga-(AsSb1-y)結合
B4…Ga-(AsSb1-y)結合
D1…第1方向
L…入射光
L1…GaAsSb1-y
L2…InAs層
L3…GaAs層
L4…GaAs層
L5…GaAs層
L6…InAs層
LM…積層体
LS…積層構造
U1…単位構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12