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特開2024-51681バッフルプレート、及びめっき鋼板の製造方法
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  • 特開-バッフルプレート、及びめっき鋼板の製造方法 図1
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  • 特開-バッフルプレート、及びめっき鋼板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051681
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】バッフルプレート、及びめっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/20 20060101AFI20240404BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C23C2/20
C23C2/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157970
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 顕一
(72)【発明者】
【氏名】小山 琢実
(72)【発明者】
【氏名】山城 研二
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AC32
4K027AC52
4K027AD22
(57)【要約】
【課題】より亜鉛剥離性の高いバッフルプレートを提供し、ガスワイピング装置によるメッキ付着量の調整精度を良好とする。
【解決手段】めっき浴中に浸漬した後、めっき浴から引き上げられた鋼板の表面に対しガスを吹き付けることで鋼板の表面のめっき付着量を調整するガスワイピング装置に設けられて、上記ガスの吹き付けの領域を調整するためのバッフルプレートであって、炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴中に浸漬した後、めっき浴から引き上げられた鋼板の表面に対しガスを吹き付けることで鋼板の表面のめっき付着量を調整するガスワイピング装置に設けられて、上記ガスの吹き付けの領域を調整するためのバッフルプレートであって、
炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなる、バッフルプレート。
【請求項2】
炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなるバッフルプレートを備えるガスワイピング装置を用いて、鋼板表面のめっき付着量を調整して、めっき鋼板を製造することを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスワイピング装置用のバッフルプレート、及びそれを用いためっき鋼板の製造方法に関する技術である。
なお、炭素繊維強化炭素複合材料は、黒鉛グラファイト等の炭素をマトリックスとし、炭素繊維で強化した材料である。炭素繊維強化炭素複合材料は、軽量にも関わらず、耐熱性及び強度が高く、しかも熱膨張率が低く熱衝撃にも優れた材料である。
【背景技術】
【0002】
連続溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインでは、還元雰囲気の連続焼鈍炉を通過した鋼板は、スナウトから亜鉛めっき浴に浸漬される(特許文献1の図1を参照)。亜鉛めっき浴中に浸漬した鋼板は、シンクロールで搬送方向が変更されると共に浴中サポートロールを介して亜鉛めっき浴から引き上げられる。亜鉛めっき浴から引き上げられた鋼板は、ガスワイピング装置によってめっきの付着量が調整される。具体的には、鋼板を挟んで配置される1組のワイピングノズルから噴出されるガスにより、所定のめっき厚に調整される。このワイピングノズルを利用する方法では、ワイピングノズルからワイピングガスを吐出させる、すなわち、鋼板の表面にワイピングガスが吹き付けられる(特許文献1の図2)。これによって、鋼板の表面に付着して引き上げられてくる溶融亜鉛をワイピングし、所要の付着量に制御する。
【0003】
このとき、鋼板の表裏面にワイピングガスを吹き付ける際、鋼板の幅方向の端部において、一対のワイピングノズルから吹き出されたガスが互いに干渉する(特許文献2参照)。この干渉が発生すると、エッジオーバーコート(鋼板のエッジ部のめっき厚がセンター部のめっき厚に比べて厚くなる現象)が発生することがある。
このような問題を解決するために、特許文献1や2に記載のように、鋼板の幅方向端部の外側にバッフルプレートを配置することが行われている。すなわち、バッフルプレートを鋼板の幅方向端部に近接させる。これによって、バッフルプレートと鋼板の端部との間に隙間が生じないようにして、エッジオーバーコートの発生を抑制している。
【0004】
ここで、バッフルプレートは、溶融した亜鉛が付着した場合でも亜鉛が固着せず、約500℃の亜鉛に常時浸漬しても変形しないという性質が求められている。
特許文献3では、バッフルプレート本体をSi3N4で形成することで、濡れ性が低くなり、スプラッシュによる溶融金属の金属密着性が大幅に低下することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-1400号公報(図1図4
【特許文献2】特開2021-42413号公報(図3
【特許文献3】特開2012-140693号公報(段落番号0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載のように、バッフルプレートの材料をSi3N4とした場合、亜鉛剥離性が良好でなく、バッフルプレートに亜鉛が残存する。このため、鋼板のエッジ部に亜鉛が付着して品質不良が発生しやすくなる。このため、より亜鉛剥離性の高いバッフルプレートが望まれている。
また、特許文献3に記載のバッフルプレートは、Si3N4からなるバッフルプレート本体を金属板に取り付けて構成される。このため、その分、バッフルプレートの構造が複雑化すると共に板厚などに制限が発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、より亜鉛剥離性の高いバッフルプレートを提供し、ガスワイピング装置によるメッキ付着量の調整精度を良好とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題解決のために、本発明の一態様は、めっき浴中に浸漬した後、めっき浴から引き上げられた鋼板の表面に対しガスを吹き付けることで鋼板の表面のめっき付着量を調整するガスワイピング装置に設けられて、上記ガスの吹き付けの領域を調整するためのバッフルプレートであって、炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなる、バッフルプレートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、バッフルプレートの材料として炭素繊維強化炭素複合材料を用いることで、バッフルプレートは、軽量にも関わらず、耐熱性及び強度が高く、しかも熱膨張率が低く熱衝撃にも優れたものとなる。
また、本発明の態様によれば、炭素繊維強化炭素複合材料は、耐熱性及び亜鉛剥離性に優れる炭素をマトリックスとしているため、より亜鉛剥離性の高いバッフルプレートとなる。そして、本発明の態様によれば、バッフルプレートへの亜鉛付着を抑制し、エッジドロスの発生量を抑える。この結果、鋼板エッジが平面化して、ガスワイピング装置によるメッキ付着量の調整精度を良好とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ガスワイピング装置の配置位置を示す図である。
図2】ガスワイピング装置及びバッフルプレートの配置例を示す模式図である。
図3】第2実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(バッフルプレート)
本実施形態では、ガスワイピング装置で用いられるバッフルプレートを、炭素繊維強化炭素複合材料で構成する。
炭素繊維強化炭素複合材料は、黒鉛グラファイト等の炭素をマトリックスとし、炭素繊維で強化した材料である。炭素繊維強化炭素複合材料は、軽量にも関わらず、耐熱性及び強度が高く、しかも熱膨張率が低く熱衝撃にも優れた材料である。本開示では、500℃以上、好ましくは800℃以上の耐熱性がある炭素繊維強化炭素複合材料を採用する。
【0012】
本実施形態のバッフルプレートを構成する炭素繊維強化炭素複合材料は、例えば、黒鉛グラファイト等の炭素をマトリックスとし、炭素繊維及び炭素強化樹脂で強化した構成とする。炭素繊維強化炭素複合材料は、例えば、マトリックス炭素10wt%、炭素繊維60wt%、炭素強化樹脂20wt%、気孔10%で組成される。炭素強化樹脂は、例えばCFRP等の熱硬化性樹脂である。なお、炭素強化樹脂を組成に含まない炭素繊維強化炭素複合材料を用いてもよい。
また、炭素繊維強化炭素複合材料は、耐熱性及び亜鉛剥離性に優れる炭素をマトリックスとしているため、亜鉛剥離性も高い。
【0013】
このような性能を有する炭素繊維強化炭素複合材料でバッフルプレートを構成することで、バッフルプレートは、耐熱性を有し、且つ亜鉛剥離性に優れたプレートとなる。また、バッフルプレートは、強度もあり、熱膨張率が低く熱衝撃にも優れたプレートとなるため、炭素繊維強化炭素複合材料単体でプレートを構成でき、厚さなど寸法の自由度も高くなる。
炭素繊維強化炭素複合材料からなるバッフルプレートの厚さは、例えば、鋼板の厚さ相当(例えば、鋼板厚さに対し、-0.5mm~+0.1mmの厚さ)とする。例えば、バッフルプレートは、厚さ4mm、例えば、縦288mm×240mmの長方形形状とする。
【0014】
(めっき鋼板の製造)
連続溶融亜鉛めっき鋼板製造設備では、図1に示すように、還元雰囲気の連続焼鈍炉を通過した鋼板Sは、スナウト1から亜鉛めっき浴2に浸漬される。亜鉛めっき浴2中に浸漬した鋼板Sは、シンクロール3で搬送方向が上方に変更され、浴中サポートロール4を介して亜鉛めっき浴2から引き上げられる。亜鉛めっき浴2から引き上げられた鋼板Sは、ワイピングノズル5(ガスワイピング装置)によってめっきの付着量が調整される。
ガスワイピング装置は、図2に示すように、1組のワイピングノズル5と本実施形態のバッフルプレート8とを備える。なお、ガスワイピング装置の配置構成は、公知のガスワイピング装置と同様であるが、上述のように、バッフルプレート8の材料が異なる。
1組のワイピングノズル5は、搬送される鋼板Sを挟んで配置されて、ノズルから噴出するガス6を鋼板Sに吹き付けて溶融亜鉛をワイピングし、鋼板Sのメッキ量を制御する。
【0015】
また、バッフルプレート8は、図2に示すように、鋼板Sの幅方向端部(鋼板エッジ部)の外方に配置されている。バッフルプレート8は、不図示のブラケットに取り付ける。ブラケットは、浴上機器に脱着可能に装着すればよい。
ここで、バッフルプレート8が無い場合、鋼板エッジ部の外側において、1組のワイピングノズル5から噴出された対向するガス6が衝突することで乱流が発生する。この乱流の影響を受けて、鋼板エッジ部のワイピング量が低下する。これによって、鋼板エッジ部の亜鉛付着量が鋼板Sの他の部分と比較して多くなる、エッジオーバーコートと呼ばれる現象が発生することがある。これに対し、鋼板エッジ部の外側において、1組のワイピングノズル5間にバッフルプレート8を配置することで、上記乱流を抑えて、エッジオーバーコートを防止する。
【0016】
また、エッジオーバーコートを防止するためにバッフルプレート8を配置した場合、鋼板Sから飛散する溶融亜鉛がバッフルプレート8に付着し固着するおそれがある。そして、バッフルプレート8を鋼板エッジ部に長時間近づけることで、バッフルプレート8に固着する亜鉛が大きく成長すると、ワイピングノズル5からの気流の流れを乱す原因とする。気流の流れが乱れると、エッジオーバーが発生するおそれがある。
【0017】
これに対し、本実施形態のバッフルプレート8は、亜鉛剥離性に優れたプレートであるため、上記の固着亜鉛の成長が抑えられる。この結果、鋼板幅方向における、めっき付着量がより均一化する。すなわち、鋼板エッジ部に亜鉛が付着することを抑制し、鋼板エッジ部の亜鉛付着による品質不良を改善し、生産性向上につながる。つまり、より精度の良い、高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板を製造可能となる。
ここで、バッフルプレート8は、炭素繊維強化炭素複合材料からなる一枚の板で出来ているため、他の補強板に接続する必要が無い。また、炭素繊維強化炭素複合材料からなるバッフルプレート8は軽量であるため、移動の応答遅れも小さい。
【0018】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)めっき浴中に浸漬した後、めっき浴から引き上げられた鋼板の表面に対しガスを吹き付けることで鋼板の表面のめっき付着量を調整するガスワイピング装置に設けられて、上記ガスの吹き付けの領域を調整するためのバッフルプレートであって、
炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなる、バッフルプレート。
(2)炭素をマトリックスとして炭素繊維で強化した炭素繊維強化炭素複合材料からなるバッフルプレートを備えるガスワイピング装置を用いて、鋼板表面のめっき付着量を調整して、めっき鋼板を製造することを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【実施例0019】
(第1実施例)
実施形態で説明した連続溶融亜鉛めっき鋼板製造設備における、ガスワイピング装置用バッフルプレートについて検討した。
本実施例では、搬送される鋼板の幅方向両側にそれぞれバッフルプレートを設けた。バッフルプレートは、一枚の板からなる。すなわち、平面視、長方形状の板形状とした。具体的には、バッフルプレートは、厚さ4mm、縦287.9mm×横240mmの寸法の平板形状とした。
なお、バッフルプレートの大きさについては、板厚同等の厚みが必要であるため、鋼帯厚さ3.2mmと同等以上になるよう厚さ4mmとした。バッフルプレートと鋼帯の位置は板と接触せずに安定して操業可能な3mmの間隔を取って設置した。
【0020】
そして、実施例1では、バッフルプレートを、炭素繊維wt60%、炭素強化樹脂20wt%、マトリックス炭素10wt%、気孔10wt%で組成された炭素繊維強化炭素複合材料で構成した。すなわち、バッフルプレートを炭素繊維強化炭素複合材料製の板とした。一方、比較例1では、バッフルプレートを、特許文献3に記載のSi3N4で構成した。
ガスワイピングの条件は、ワイピングガス圧を3.0kPaとし、鋼板の搬送速度を38mpmとした。搬送する鋼板は、厚さ3.2mmとした。そして、実施例1及び比較例1の各バッフルプレートをそれぞれ用いて溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
なお、ガスワイピング装置での目標付着量を185g/mとした。
【0021】
実施例1では、付着量が188g/mであり、目標値に近い値が得られた。一方、比較例1では、付着量が198g/mであった。
このように、実施例1は、比較例1に比べて、めっき鋼板の品質精度が向上することが分かった。
ここで、本実施例1のバッフルプレートは、比較例1のバッフルプレートに比べ、耐熱衝撃性、800度までの耐熱性、亜鉛剥離性に優れ、熱膨張率が低く、高温まで高強度であるという特性を有しており、めっき槽のめっき液に対して十分な濡れ性を有している。
したがって、実施例1のバッフルプレートは、ワイピング温度及び溶融亜鉛の温度である500度に耐えることができる。
【0022】
(第2実施例)
また、上記の連続溶融亜鉛めっき鋼板製造設備で実験を行う前に、ラボ実験として、下記に示す確認評価試験を行った。
まず、ラボ実験として、実施例1及び比較例1の各バッフルプレートから、試験片をサンプリングした。実施例1では、65mm×90mmの略矩形の試験片を採取した。比較例1では、直径20mmの円板形状の試験片を採取した。
そして、各試験片の上にそれぞれに亜鉛片0.06gを載せて、各試験片を600℃に加熱したマッフル炉に3時間投入した。その後、試験片を取り出して、ホットプレートで加熱した鋼板上に試験片を移動した。そして、移動した各試験片上の亜鉛片をスケールを用いて均し、テープで剥離した。
【0023】
確認結果を図3に示す。
図3から分かるように、実施例1の試験片では、亜鉛が綺麗に剥離して、亜鉛片剥離が良好であり、耐熱性が高く、亜鉛剥離性も高かった。一方、比較例1の試験片では、亜鉛が一部残存していた。図3中、丸で囲った位置は、亜鉛が残存していた箇所である。
このように、実施例1の方が、耐熱性も亜鉛剥離性も高いことが分かった。
【符号の説明】
【0024】
1 スナウト
2 亜鉛めっき浴
3 シンクロール
4 浴中サポートロール
5 ワイピングノズル(ガスワイピング装置)
6 ワイピングガス
8 バッフルプレート
図1
図2
図3