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特開2024-51684金属ナノ粒子の非水系分散液、塗膜、及び積層体
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  • 特開-金属ナノ粒子の非水系分散液、塗膜、及び積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051684
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子の非水系分散液、塗膜、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20240404BHJP
   C09C 1/62 20060101ALI20240404BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240404BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240404BHJP
   B22F 1/0545 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/068 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 1/107 20220101ALI20240404BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C1/62
C09D7/61
C09D201/00
B22F1/0545
B22F1/06
B22F1/068
B22F1/00 K
B22F1/17
B22F1/107
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157975
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 暁生
(72)【発明者】
【氏名】中村 愛美
(72)【発明者】
【氏名】宗 芳和
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4J037AA04
4J037CC16
4J037DD05
4J037DD09
4J037DD10
4J037FF02
4J038CG142
4J038FA282
4J038HA066
4J038KA03
4J038NA19
4J038PA01
4J038PB08
4J038PC08
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA08
4K017DA07
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB05
4K018BC22
4K018BD04
(57)【要約】
【課題】本発明は、コーティング材(塗料)などの非水系分散液において、アスペクト比が1を超える金属ナノ粒子の新たな用途を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液に関しており、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が10~100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で1:0.67~4の割合で含まれている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液であって、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が10~100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で1:0.67~4の割合で含まれている、非水系分散液。
【請求項2】
(1)前記金属ナノ粒子の濃度が、前記非水系分散液の全質量に対して0.1~50質量%であり、及び/又は、
(2)前記金属ナノ粒子が、平板状であり、及び/又は、
(3)前記金属が、銀又は金を含み、及び/又は、
(4)前記金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、
請求項1に記載の非水系分散液。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、金被覆銀ナノプレートである、請求項1に記載の非水系分散液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系分散液から成膜された塗膜。
【請求項5】
第1の基材と、前記第1の基材の上に形成された請求項4に記載の塗膜とを備える、積層体。
【請求項6】
前記塗膜を挟んで前記第1の基材とは反対側に位置する第2の基材をさらに備える、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
金属ナノ粒子を含む塗膜であって、無色透明の基材上で前記塗膜が形成されたときに、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)及び/又は前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)が、マンセル色相環において、前記塗膜の透過色(α)と右回りで+90~+270度異なる区画に位置する、塗膜。
【請求項8】
前記反射色(β)が、マンセル色相環において、前記反射色(γ)と右回りで-126~+90度異なる区画に位置している、請求項7に記載の塗膜。
【請求項9】
膜厚が20nm~50μmである、請求項7又は8に記載の塗膜。
【請求項10】
前記塗膜中の前記金属ナノ粒子の濃度が20~60質量%である、請求項7又は8に記載の塗膜。
【請求項11】
第1の基材と、前記基材の上に形成された請求項7又は8に記載の塗膜とを備える、積層体。
【請求項12】
前記塗膜を挟んで前記第1の基材とは反対側に位置する第2の基材をさらに備える、請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
請求項7又は8に記載の塗膜を形成する方法であって、
金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液であるコーティング材を用意する工程と、
前記コーティング材を第1の基材上に適用して塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が10~100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で1:0.67~4の割合で含まれている、方法。
【請求項14】
(1)前記金属ナノ粒子の濃度が、前記非水系分散液の全質量に対して0.1~50質量%であり、及び/又は、
(2)前記金属ナノ粒子が、平板状であり、及び/又は、
(3)前記金属が、銀又は金を含み、及び/又は、
(4)前記金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金属ナノ粒子が、金被覆銀ナノプレートである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の非水系分散液、塗膜、及び積層体に関しており、特に特徴的な反射色を呈する塗膜を形成できる非水系分散液(コーティング材又は塗料を含む)、それから成膜された塗膜、及び当該塗膜を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学部材や光学センサーなどの分野で、光吸収の波長選択性を有するフィルムが求められており、そのようなフィルムを作製するためのコーティング材の開発が行われている。光吸収の波長選択性を有する材料としては、各用途に対応するため、光吸収の波長域を容易に制御できる材料、すなわち可視領域の波長帯では特定波長を選択的に吸収する調色設計や、複数の波長を組み合わせたマルチカラー設計に適用可能な材料が好まれている。このような材料は、可視領域から近赤外領域の波長帯を利用する人体センサー、近赤外線センサー、セキュリティセンサーなどに使用される光学センサー、光学デバイス、光通信システムなどへの適用が期待されている。また、高級感が求められるプラスチックやガラスなどの基材上への加飾技術の分野においては、鮮やかな吸収を示す色材や金属調の反射が得られる材料としての適用が期待されている。
【0003】
金ナノプレートや銀ナノプレートなどのアスペクト比が1を超える金属ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)により光を吸収することが知られており、その大きさや形状を制御することにより、光吸収の波長域を制御できることが知られている。例えば、銀ナノプレートは、水系中で調製され、その水懸濁液は、その銀ナノプレートの吸収波長に応じた色を示す(特許文献1、非特許文献1~3)。銀ナノプレートは安定性が低く、特に酸化によって形状が変化すると、意図していた色の変化を引き起こし得るので、安定な銀ナノプレートの水懸濁液を調製する方法が研究されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、銀ナノプレートなどの金属ナノプレートの非水系分散液が記載されており、当該金属ナノプレートの塗料及び塗膜などを形成できる旨が記載されている。特許文献3には、基材上に銀ナノ粒子を含む銀ナノ粒子積層膜を備える銀ナノ粒子積層体が記載されている。他方、特許文献2には、銀濃度の薄い塗料及び塗膜しか記載されておらず、特許文献3には、球状の銀ナノ粒子(アスペクト比が1)を利用した積層体しか記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願第PCT/JP2015/065658号
【特許文献2】特開2017-119827号公報
【特許文献3】特開2019-206735号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science (2001), Vol. 294, pp. 1901-1903
【非特許文献2】Chemistry - A European Journal (2010), Vol. 16, No. 42, pp. 12559-12563
【非特許文献3】Langmuir (2002), Vol. 18, pp. 8692-8699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、アスペクト比が1を超える金属ナノ粒子は、塗料中の単なる着色剤としてしか利用されておらず、さらなる応用の可能性が模索されていた。本発明は、塗料などの非水系分散液において、アスペクト比が1を超える金属ナノ粒子の新たな用途を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の粒子径を有しアスペクト比が1を超える金属ナノ粒子を、樹脂に対して従来よりも高濃度で非水系分散液に配合することによって、当該非水系分散液から形成された塗膜が、前記金属ナノ粒子の極大吸収波長に関連する透過色だけでなくそれと異なる反射色を呈することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す金属ナノ粒子の非水系分散液、塗膜、及び積層体、並びに、当該塗膜を形成する方法を提供するものである。
〔1〕金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液であって、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が10~100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で1:0.67~4の割合で含まれている、非水系分散液。
〔2〕
(1)前記金属ナノ粒子の濃度が、前記非水系分散液の全質量に対して0.1~50質量%であり、及び/又は、
(2)前記金属ナノ粒子が、平板状であり、及び/又は、
(3)前記金属が、銀又は金を含み、及び/又は、
(4)前記金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、
前記〔1〕に記載の非水系分散液。
〔3〕前記金属ナノ粒子が、金被覆銀ナノプレートである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の非水系分散液。
〔4〕前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の非水系分散液から成膜された塗膜。
〔5〕第1の基材と、前記第1の基材の上に形成された前記〔4〕に記載の塗膜とを備える、積層体。
〔6〕前記塗膜を挟んで前記第1の基材とは反対側に位置する第2の基材をさらに備える、前記〔5〕に記載の積層体。
〔7〕金属ナノ粒子を含む塗膜であって、無色透明の基材上で前記塗膜が形成されたときに、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)及び/又は前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)が、マンセル色相環において、前記塗膜の透過色(α)と右回りで+90~+270度異なる区画に位置する、塗膜。
〔8〕前記反射色(β)が、マンセル色相環において、前記反射色(γ)と右回りで-126~+90度異なる区画に位置している、前記〔7〕に記載の塗膜。
〔9〕膜厚が20nm~50μmである、前記〔7〕又は〔8〕に記載の塗膜。
〔10〕前記塗膜中の前記金属ナノ粒子の濃度が20~60質量%である、前記〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の塗膜。
〔11〕第1の基材と、前記基材の上に形成された前記〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の塗膜とを備える、積層体。
〔12〕前記塗膜を挟んで前記第1の基材とは反対側に位置する第2の基材をさらに備える、前記〔11〕に記載の積層体。
〔13〕前記〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の塗膜を形成する方法であって、
金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液であるコーティング材を用意する工程と、
前記コーティング材を第1の基材上に適用して塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が10~100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で1:0.67~4の割合で含まれている、方法。
〔14〕
(1)前記金属ナノ粒子の濃度が、前記非水系分散液の全質量に対して0.1~50質量%であり、及び/又は、
(2)前記金属ナノ粒子が、平板状であり、及び/又は、
(3)前記金属が、銀又は金を含み、及び/又は、
(4)前記金属ナノ粒子の表面が、別の金属により被覆されている、
前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記金属ナノ粒子が、金被覆銀ナノプレートである、前記〔13〕又は〔14〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、特定の粒子径を有しアスペクト比が1を超える金属ナノ粒子を、樹脂に対して従来よりも高濃度で配合した非水系分散液を用いることによって、前記金属ナノ粒子の極大吸収波長に関連する透過色だけでなくそれと異なる反射色を呈する塗膜を形成することができる。したがって、塗膜のバリエーションを増やし、デザインの幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マンセル色相環図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の非水系分散液は、アスペクト比が1を超える金属ナノ粒子を含んでいる。本明細書に記載の「アスペクト比」とは、粒子の最大長径対最大長径に直交する幅の比(例えば、棒状粒子の場合は長軸/短軸、平板状粒子の場合は平面最大長/厚さ)で定義される指数のことをいい、これは粒子の形状を表すために用いることができる。アスペクト比が1を超える前記金属ナノ粒子は、球状ではない異方性の形状を有する粒子であって、金属から製造された、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを有する粒子である。前記金属ナノ粒子の形状が変わると、その最大吸収波長の位置も変化する。アスペクト比が1を超える前記金属ナノ粒子は、球状(アスペクト比が1)の金属ナノ粒子では達成することのできない色調を示すことができる。ある態様では、前記金属ナノ粒子のアスペクト比は、約1.5以上であってもよく、約1.5~約10であってもよい。
【0012】
本明細書に記載の「粒子径」とは、粒子の最大長径のことをいい、例えば円形の場合は直径に相当し、三角形の場合は最大辺の長さに相当する。本発明が規定する前記金属ナノ粒子の粒子径は、約10nm~約100nmであり、ある態様では、約10nm~約70nmであってもよい。前記金属ナノ粒子の粒子径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)観察、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察、又は透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行って計測してもよく、動的光散乱式粒度分布測定装置(DLS)で測定してもよい。SEM観察写真、STEM観察写真、又はTEM観察写真を用いて前記銀ナノプレートの粒子径を計測する場合には、任意の銀ナノプレート100個の粒子径を計測した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって平均粒子径を算出してもよい。
【0013】
前記金属ナノ粒子の材料となる金属は、アスペクト比が1を超えるナノ粒子形状とした際にLSPRにより光を吸収することができるものであれば特に制限されず、例えば、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、又はスズ(Sn)であってもよく、好ましくは銀又は金である。
【0014】
前記金属ナノ粒子の表面は、別の金属によって被覆されていてもよい。前記金属と前記別の金属との組合せは、特に限定されないが、例えば、前記金属が銀である場合、前記別の金属は金であってもよく、前記金属が金である場合、前記別の金属はパラジウムであってもよい。被覆方法としては、前記金属ナノ粒子の表面の被覆という目的を達成できるものであれば特に制限されず、公知の被覆方法を適宜採用することができる。
【0015】
前記金属ナノ粒子の具体的な形状は、特に限定されないが、例えば、多面体状、立方体状、双錘状、棒状(ロッド状)、又は平板状(プレート状)であってもよく、当該形状が平板状である場合には、その上面と下面の形状は、三角形、四角形、五角形、及び六角形などの多角形(角が丸みを帯びた形状を含む)又は円形などであり得る。
【0016】
本発明が規定する前記金属ナノ粒子は、可視光領域に極大吸収波長を有するものであり、例えば、赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、又は、薄水色の色調を示すことができる。前記極大吸収波長は、前記金属ナノ粒子のアスペクト比、粒子径、及び形状を調整することによって、意図するものに適宜設定することができる。前記金属ナノ粒子の極大吸収波長は、特に限定されないが、例えば、約400nm~約700nm又は約450nm~約650nmの範囲となるように設定してもよい。
【0017】
本発明の非水系分散液は、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂を含んでいる。本明細書に記載の「分散剤」とは、水相中に分散している金属ナノプレートを有機相中に移行させ、その有機相中で金属ナノプレートを均一に分散させるための成分のことをいう(特許文献2を参照)。前記分散剤は、酸価と塩基価によって特徴付けることができる。「酸価」とは、試料1g中に存在する酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数(単位:mg KOH/g)のことをいい、JIS K2501:2003で定められた方法によって測定することができる。「塩基価」(「アミン価」とも呼ばれることがある)とは、試料1g中に含まれている塩基性成分を中和するのに要する塩酸又は過塩素酸と当量の水酸化カリウムのミリグラム数(単位:mg KOH/g)のことをいい、JIS K2501:2003で定められた方法によって測定することができる。前記分散剤の酸化及び塩基価は、前記金属ナノ粒子を非水系分散液中で分散させることができる限り特に制限されないが、例えば、酸価は約90以下(0も含む)であってもよく、好ましくは約0~約70、さらに好ましくは0~50であり、塩基価は約5~約100であってもよく、好ましくは約5~約70、さらに好ましくは約5~約40である。特に酸価が約90以下で塩基価が約5以上の分散剤を使用すると、前記金属ナノ粒子が、水相から有機相へと容易に移行し、金属ナノプレートの非水系分散液を効率よく調製することができる。また、塩基価が約100以下の分散剤を使用すると、前記金属ナノ粒子の凝集、粒子成長又は過度の還元が起きにくくなり、金属光沢を生じず、前記金属ナノ粒子特有の光学特性を維持しやすくなる。前記酸価の前記塩基価に対する比率は、特に制限されないが、例えば、酸価/塩基価=2.0以下であってもよく、好ましくは1.1以下、さらに好ましくは0.9以下である。
【0018】
上記特性を有する分散剤としては、特に制限されないが、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製の「DisperBYK」、味の素ファインテクノ株式会社製の「アジスパー」、日本ルーブリゾール株式会社製の「ソルスパーズ」、又は、共栄社化学株式会社製の「フローレン」などの中から、本発明が規定する酸価及び塩基価(アミン価)を満たすものを採用してもよく、具体的には、DisperBYK108、DisperBYK142、DisperBYK145、DisperBYK164、DisperBYK185、DisperBYK2001、DisperBYK2008、DisperBYK2013、DisperBYK2022、DisperBYK2025、DisperBYK2050、DisperBYK2150、DisperBYK9076、DisperBYK9077、ソルスパーズ11200、ソルスパーズ13240、ソルスパーズ13940、ソルスパーズ20000、ソルスパーズ24000SC、ソルスパーズ24000GR、ソルスパーズ32000、ソルスパーズ33000、ソルスパーズ34750、ソルスパーズ35100、ソルスパーズ37500、ソルスパーズ39000、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-17HF、フローレンDOPA-35、フローレンDOPA-35、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB824又はアジスパーPB881などを採用することができる。これらは、金属ナノプレートへの吸着性の高い元素である窒素原子(例えばアミノ基)を主鎖中に有し、かつ非水溶媒に対して親和性のある側鎖を有する化合物であり得る。なお、分散剤の酸価及び塩基価(アミン価)は、メーカー作成のデータシートなどによって公開されている。
【0019】
前記分散剤の重量平均分子量Mwは、特に制限されないが、例えば、10,000以上であってもよく、好ましくは20,000以上、さらに好ましくは30,000~100,000である。このような分散剤を使用すると、Mwが10,000未満の分散剤を使用したときと比較して、前記金属ナノ粒子の非水溶媒への分散性が向上し、酸化などによる色調変化が生じにくくなるので、前記金属ナノ粒子特有の光学特性をより安定に維持することができる。また、分子量が10,000以上で、かつ室温において固体の分散剤を使用すると、前記金属ナノ粒子を含む固体組成物が得やすくなる。一方で、分子量が100,000以下の分散剤は有機溶媒中への溶解度が高く、分散剤として有利に使用できる。なお、分散剤の分子量は、その測定のために通常用いられる質量分析計(例えば、高速GPC装置HLC-8320GPC、東ソー株式会社)によって測定してもよい。
【0020】
ある態様では、前記樹脂は、バインダーを含んでもよい。これは、一般的なコーティング材(塗料ともいう。)に含まれて塗膜を形成する主成分となり得るものである。本発明の非水系分散液は、前記バインダーなしでも塗料として利用して、塗膜を形成することができるが、前記バインダーが用いられる場合には、前記金属ナノ粒子に関連する透過色及び反射色の発現を妨げない限り、当技術分野で通常使用されているバインダーを特に制限されることなく採用することができる。例えば、前記バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びポリビニルアルコールなどの樹脂や、ラジカル重合性のオリゴマーやモノマー、さらにはアルコキシシランやそれを重縮合して得られる無機樹脂が挙げられる。
【0021】
ある態様では、本発明の非水系分散液は、塗料(非水系塗料)の形態であってもよく、場合によっては、活性エネルギー線硬化型の塗料であってもよい。前記活性エネルギー線硬化型の塗料においては、ラジカル重合性のモノマーやオリゴマーをバインダーとして配合することにより調製することができ、あるいはカチオン重合性のモノマーやオリゴマーを配合して調製することもできる。
【0022】
前記ラジカル重合性のモノマーやオリゴマーとしては、例えば、公知の単官能(メタ)アクリレート、2官能以上の多官能(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマーなどを挙げることができる。単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ステアリルアクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、デシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、N-ビニルカプロラクタム、イソアミルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、EO(エチレンオキシド)変性2-エチルヘキシルアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、及びエトキシ-ジエチレングリコールアクリレートなどが挙げられる。
【0023】
前記2官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、1,10-デカンジオールジアクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジアクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,8-オクタンジオールジアクリレート、1,7-ヘプタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、及びジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びEO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
前記ラジカル重合性のモノマーやオリゴマーを硬化させるために、当技術分野で通常使用される光重合開始剤を特に制限されることなく採用することができる。前記光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、及び2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0025】
前記カチオン重合性のモノマーやオリゴマーとしては、例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チオビニルエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、エチレン性不飽和化合物、環状エーテル化合物、及び環状チオエーテル化合物などが挙げられる。
【0026】
本発明の非水系分散液においては、固形分中における前記金属ナノ粒子の比率が従来よりも高く、具体的には、前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で約1:約0.67~約4の割合で含まれている。好ましくは、前記金属ナノ粒子及び前記樹脂の質量比は、約1:約1~約3であってもよい。なお、前記金属ナノ粒子が別の金属によって被覆されている場合、その被膜は、通常はコアとなっている前記金属ナノ粒子に対して十分に薄いので、前記質量比は被膜を考慮せずにコアとなっている前記金属ナノ粒子の質量に基づいて計算することができる。
【0027】
本発明の非水系分散液をコーティング材(塗料)として用いると、前記金属ナノ粒子及び前記樹脂を含む塗膜を形成することができる。前記非水系分散液から成膜された塗膜は、意外なことに、前記金属ナノ粒子の極大吸収波長に関連する透過色だけでなくそれと異なる反射色を呈する。例えば、無色透明の基材上に塗膜を形成した場合、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)及び/又は前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)は、マンセル色相環において、前記塗膜の透過色(α)と右回りで約+90~約+270度又は約+108~約+252度異なる区画に位置する色であってもよい。透過色の色調については、基材側から法線方向に国際照明委員会(CIE)標準光源D65の光を照射し、塗膜を透過してきた光を塗膜側から自然光の下で目視により観察し、塗膜側又は基材側の反射光については、それぞれの側から入射角45°でCIE標準光源D65の光を照射し、その入射角に対する反射光(反射角45°)を自然光の下で目視により観察して、マンセル色相環上の位置をそれぞれ特定することができる。なお、本明細書に記載の「マンセル色相環」とは、赤、橙、黄、緑、青、紫というように連続的に変化して知覚される色相を円環状に配置し、これを100等分して目盛を付したものである(図1参照)。
【0028】
ある態様では、前記非水系分散液から成膜された塗膜は、表と裏で異なる反射色を呈することがあり得る。例えば、無色透明の基材上に塗膜を形成した場合、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)が、マンセル色相環において、前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)と右回りで約-126~約+90度又は約-90~約+54度異なる区画に位置していてもよい。
【0029】
本発明の非水系分散液は、有機溶媒を主たる分散媒として利用した分散液であり得る。製造工程などに由来する微量の水の混入は許容されるが、前記非水系分散液は実質的に水を含むものではない。前記有機溶媒としては、前記分散剤の存在下で前記金属ナノ粒子を分散させることができる限り、当技術分野で通常使用される有機溶媒を特に制限されることなく採用することができる。前記有機溶媒は、例えば、炭化水素、ケトン、エステル及びエーテルからなる群から選択される1種以上を含んでもよく、好ましくは、トルエン(SP値8.9)、キシレン(SP値8.8)、酢酸エチル(SP値9.1)、酢酸ブチル(SP値8.5)、アセトン(SP値9.9)、メチルエチルケトン(SP値9.3)、メチルイソブチルケトン(SP値8.4)、ジアセトンアルコール(SP値9.2)、シクロヘキサノン(SP値9.9)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値10.1)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値8.7)からなる群から選択される1種以上を含む。
【0030】
前記有機溶媒の溶解度パラメータ(SP値)(単位:(cal/cm31/2)は、例えば、蒸発潜熱から求めた場合には8~12であってもよく、好ましくは9~11である。ここで、溶解度パラメータとは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義された値であり、溶剤や有機化合物の溶解性や相溶性の指標として用いられるものである。前記溶解度パラメータは、化学物質の構造や物理特性から公知の方法で求めることができる。SP値が12以下の有機溶媒を使用すると、水相から有機相への移行が容易になる。また、SP値が8~12の範囲の有機溶媒を使用すると、金属ナノ粒子の分散安定性が向上する。
【0031】
本発明の非水系分散液は、公知の方法で調製した金属ナノ粒子の水分散液(特許文献1などを参照)を、前記分散剤を含む前記有機溶媒に公知の方法で置換することで調製することができる(特許文献2などを参照)。例えば、前記金属ナノ粒子の水分散液に前記分散剤を含む前記有機溶媒を添加し、振とう混合すると、前記金属ナノ粒子は水分散液中から有機溶媒中に移行する。そして、この有機溶媒を抽出すれば、前記金属ナノ粒子及び前記分散剤を含む非水系分散液を調製することができる。調製された金属ナノプレートの非水系分散液を遠心分離すると、前記金属ナノ粒子及び前記分散剤が沈降するので、この沈降物を別の有機溶媒に再分散させることで、追加の置換を行ってもよい。なお、この沈降物には、前記金属ナノ粒子に付着し、一緒に沈降している前記分散剤も含まれているので、溶媒置換の前後で非水系分散液中の溶媒以外の成分は同等であり得る。
【0032】
あるいは、本発明の非水系分散液は、前記金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む調製用固体組成物に、前記有機溶媒を添加し、前記金属ナノ粒子を再分散させることによって調製することもできる。前記調製用固体組成物は、例えば、一度調製した本発明の非水系分散液から有機溶媒を除去し、乾燥させることで調製することができる。前記調製用固体組成物に有機溶媒を添加して、前記金属ナノ粒子を再分散させれば、本発明の非水系分散液を再度調製することができる。再分散して調製した非水系分散液は、前記調製用固体組成物の調製前の非水系分散液と同等の分光スペクトルを示す。
【0033】
本発明の非水系分散液は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される添加剤などの任意の成分をさらに含んでもよく、任意の着色剤をさらに含んでもよい。
【0034】
別の態様では、本発明は、前記非水系分散液から成膜された塗膜にも関している。(なお、「成膜された」という用語は、単に状態を示すことにより塗膜の構成を特定しているにすぎず、塗膜の製造方法を特定しているわけではない。)本発明の塗膜は、上述したように、前記金属ナノ粒子の極大吸収波長に関連する透過色だけでなくそれと異なる反射色を呈する。さらなる別の態様では、本発明は、金属ナノ粒子を含む塗膜に関しており、無色透明の基材上で前記塗膜が形成されたときに、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)及び/又は前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)は、マンセル色相環において、前記塗膜の透過色(α)と右回りで約+90~約+270度又は約+108~約+252度異なる区画に位置する色である。
【0035】
ある態様では、本発明の塗膜は、表と裏で異なる反射色を呈することがあり得る。例えば、無色透明の基材上に塗膜を形成した場合、前記塗膜側から光を照射したときの反射色(β)が、前記基材側から光を照射したときの反射色(γ)と右回りで約-126~約+90度又は約-90~約+54度異なる区画に位置していてもよい。
【0036】
本発明の塗膜の厚さは、特に制限されないが、例えば、約20nm~約50μmであってもよく、好ましくは約200nm~約20μmである。また、本発明の塗膜中の前記金属ナノ粒子の濃度は、特に制限されないが、例えば、前記塗膜の全質量に対して約20~60質量%であってもよく、好ましくは約30~約50質量%である。
【0037】
本発明の塗膜の形成方法は特に限定されず、従来から公知の方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコーター法、リバースロールコーター法、キスコーター法、ブレードコーター法、スライドコーター法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、フローコーター法、スピンコーター法、凸版印刷法、凹版印刷(グラビア印刷など)、インクジェット法、ディスペンサ(液体定量吐出装置)などを用いてもよい。
【0038】
別の態様では、本発明は、第1の基材と、その基材の上に形成された前記塗膜とを備える、積層体にも関している。前記第1の基材は、その上に塗膜を形成できる限り特に制限されないが、例えば、ガラス、及びプラスチックフィルム(厚さ250μm未満)又はプラスチックシート(厚さ250μm以上)などを含んでもよい。そのプラスチックの材質は、透明であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)などを含んでもよい。
【0039】
ある態様では、本発明の積層体は、前記塗膜の上にバインダー層(粘着層、接着層、又はオーバーコート層)を備えていてもよい。前記バインダー層は、特に制限されないが、例えば、前述のバインダーを含むコーティング材(塗料)により形成してもよい。
【0040】
ある態様では、前記積層体は、前記塗膜を挟んで前記第1の基材とは反対側に位置する第2の基材をさらに備えてもよい。前記第2の基材は、前記第1の基材と同じであっても異なってもよい。前記塗膜を前記第1の基材及び前記第2の基材で挟むことにより、当該塗膜を安定化することができ、耐候性も向上する。
【0041】
別の態様では、本発明は、前記塗膜を形成する方法にも関しており、
金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子の分散剤を含む樹脂とを含む非水系分散液であるコーティング材を用意する工程と、
前記コーティング材を第1の基材上に適用して塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記金属ナノ粒子のアスペクト比が1を超え、
前記金属ナノ粒子の粒子径が約10~約100nmであり、
前記金属ナノ粒子が可視光領域に極大吸収波長を有し、
前記金属ナノ粒子及び前記樹脂が、質量比で約1:約0.67~約4の割合で含まれている。本発明の方法における各用語は、本発明の別の態様としてこれまでに詳述したとおりである。
【0042】
本発明の方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の工程をさらに含んでもよい。
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0044】
〔製造例〕
(1)銀ナノプレート水分散液(AgNP水分散液)の調製
特許文献1(国際公開第2015/182770号)の実施例1に記載の方法に従って、銀ナノプレート種粒子水分散液(水懸濁液)を調製した。そして、超純水200mLに10mMのアスコルビン酸水溶液4.5mLを添加したところへ、当該銀ナノプレート種粒子水分散液12mLを添加した。得られた溶液を攪拌しながら、0.5mMの硝酸銀水溶液120mLを4分かけて徐々に添加した。硝酸銀水溶液の添加が終了した4分後に攪拌を停止し、25mMのクエン酸ナトリウム水溶液20mLを添加し、得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(30℃)中で100時間静置して、AgNP水分散液1を作製した。
【0045】
また、銀ナノプレート種粒子水分散液の添加量を8.5mL、4mL、又は2.5mLに変更した以外はAgNP水分散液1の調製方法と同様にして、AgNP水分散液2~4をそれぞれ調製した。
【0046】
(2)金被覆銀ナノプレート水分散液(Ag@Au水分散液)の調製
350gのAgNP水分散液1に、2.4mMの塩化金酸水溶液0.56gを攪拌しながら添加した。添加終了後に5分間攪拌し、得られた溶液を30℃下で一晩静置して、Ag@Au水分散液1を調製した。AgNP水分散液2~4についても、それぞれ同様の処理を行って、Ag@Au水分散液2~4を調製した。
【0047】
以下の表1に各Ag@Au水分散液中の金被覆銀ナノプレートの特性を示す。平均粒子径は、SEM観察写真において、任意の金被覆銀ナノプレート100個の粒子径を計測した合計100点のデータから、上下10%を除いた80点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって算出した。平均厚さは、SEM観察写真において、視野に対して垂直に立った金被覆銀ナノプレート10個の粒子径を計測した合計10点のデータから、上下10%を除いた8点のデータを用意し、それらの平均値を求めることによって算出した。金層の厚さは、金の添加量から算出した。極大吸収波長は、株式会社島津製作所製の紫外可視近赤外分光光度計MPC3100UV-3100PCを用いて測定した。各水分散液中の金被覆銀ナノプレートは、いずれも三角形を含む多角形又は円形のプレート状の形状を有していた。
【0048】
【表1】
【0049】
(3)金被覆銀ナノプレートPM分散液の調製
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)58gに分散剤であるアジスパーPB822(酸価:14、塩基価:17)を0.5g溶解して、抽出液を調製した。次に、Ag@Au水分散液1(銀濃度:0.0044質量%)10,000gを攪拌しながら、上記抽出液を58g添加した。30分間攪拌後、室温下で一晩静置し、金被覆銀ナノプレートを沈殿させた。上清約9Lをデカンテーションで除去後、残液を濾過し、濾紙上に金被覆銀ナノプレートを回収して、減圧下で一晩乾燥した。得られた金被覆銀ナノプレート粉末を回収し、PMを添加して金被覆銀ナノプレート粉末を分散させて、金被覆銀ナノプレートのPM分散液1を作製した。このとき、作製されるPM分散液の全質量に対する銀濃度が1質量%になるようにPMの添加量を調整した。
【0050】
また、Ag@Au水分散液2~4(いずれも、銀濃度:0.0044質量%)についても、それぞれ同様の処理を行って、PM分散液2~4を調製した。なお、PM分散液をPMで2,000倍希釈後に紫外-可視分光スペクトルを測定し、極大吸収波長における吸光度(1cm光路長)が0.7のとき、希釈前のPM分散液における銀濃度は1質量%であった。PM分散液1~4の極大吸収波長は、それぞれ460nm、486nm、530nm、及び586nmであった。
【0051】
(4)粒子径の大きい銀ナノプレートの水分散液の調製
超純水10,000mLに、100mMのアスコルビン酸水溶液22.5mLを添加したところへ、上記(1)で作製した銀ナノプレート種粒子水分散液40mLを添加した。十分攪拌してから5mMの硝酸銅水溶液50mLを添加し、次に7.35mMの硝酸銀水溶液600mLを約5分かけて徐々に添加した。硝酸銀水溶液の添加が終了した4分後に攪拌を停止し、250mMのクエン酸ナトリウム水溶液100gを添加し、得られた溶液を大気雰囲気下のインキュベーター(30℃)中で100時間静置して、AgNP水分散液5を作製した。
【0052】
また、銀ナノプレート種粒子水分散液添加後の攪拌時間を調整した以外はAgNP水分散液5の調製方法と同様にして、AgNP水分散液6及び7をそれぞれ調製した。AgNP水分散液5~7中の銀ナノプレートの特性を上記(2)に記載の方法と同様の方法で算出又は測定し、以下の表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
(5)粒子径の大きい銀ナノプレートのPM分散液の調製
AgNP水分散液5~7(いずれも、銀濃度:0.0044質量%)について、上記(3)に記載の方法と同様の処理を行い、銀ナノプレートのPM分散液5~7をそれぞれ調製した。ただし、PM分散液5~7の銀濃度は、PM分散液の全質量に対して5質量%となるように調整した。
【0055】
(6)コーティング材の調製
上記(3)で調製したPM分散液1~4及び上記(5)で調製したPM分散液5~7は、そのままコーティング材1~7としてそれぞれ使用可能である(表3参照)。また、PM分散液3に、UV硬化樹脂であるUV-1700B(三菱ケミカル社製、ウレタンアクリレートオリゴマー)及び開始剤であるOmnirad 127(IGM Resins B.V.社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤)を以下の表3に記載の比率で混合することにより、コーティング材3-2~3-5を調製した。
【表3】

*1 質量比。PM分散液1~4中の金被覆銀ナノプレートの金被覆の量はコアの銀ナノプレートと比較して十分に少ないため、「樹脂/金属ナノ粒子」は、PM分散液中の銀の質量に対する樹脂の質量とみなした。
【0056】
〔試験例〕
(1)PETフィルム上での金属ナノプレート含有塗膜の形成
無色透明のPETフィルムT4100(東洋紡株式会社製、屈折率1.66、厚さ100μm)を基材として用い、当該基材上にコーティング材1、3、又は4をそれぞれへらで塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜1(P)、塗膜3(P)及び塗膜4(P)を形成させた。また、当該基材上にコーティング材3-3、3-4又は3-5をそれぞれバーコーター#20で塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜3-3(P)、3-4(P)及び3-5(P)を形成させた。各塗膜の厚さを走査型白色干渉顕微鏡を用いて測定した。
【0057】
また、外観については、所定の方向からCIE標準光源D65の光を照射して、透過光及び反射光の色調を目視により観察した。透過光の色調については、基材側から法線方向に光を照射し、塗膜を透過してきた光を塗膜側から観察した。塗膜側反射色の色調については、塗膜側から入射角45°で光を照射し、その入射光に対する反射光(反射角45°)を観察した。基材側反射色の色調については、基材側から入射角45°で光を照射し、その入射光に対する反射光(反射角45°)を観察した。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

*2 マンセル色相環上での右回りの差。
【0059】
塗膜1(P)、3(P)、及び4(P)は、銀の光沢(銀色と塗膜側反射色が混ざったような色)を有しており、そこに含まれているAg@Auナノプレートの種類に応じて異なる透過色が観察された。また、これらの塗膜においては、光を照射したときに、それぞれ異なる塗膜側反射色及び基材側反射色が観察された。他方、塗膜3-3(P)~塗膜3-5(P)は、銀濃度が低いため光沢はほとんど有しておらず、透過色は観察されたものの、反射色は観察されなかった。
【0060】
(2)白板ガラス上での金属ナノプレート含有塗膜の形成
基材として白板ガラスを使用し、当該基材上にコーティング材2をへらで塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜2(G)を形成させた。また、当該基材上にコーティング材5、6及び7のそれぞれをバーコーター#40で塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜5(G)、塗膜6(G)及び塗膜7(G)を形成させた。各塗膜の厚さを走査型白色干渉顕微鏡を用いて測定した。そして、試験例(1)と同様の方法で、外観の色調を観察した。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】

*3 マンセル色相環上での右回りの差。
【0062】
塗膜2(G)及び塗膜5(G)~7(G)は、そこに含まれている金属ナノプレートの種類に応じて異なる透過色が観察された。また、塗膜2(G)においては、光を照射したときに、異なる塗膜側反射色及び基材側反射色が観察された。他方、塗膜5(G)、塗膜6(G)及び塗膜7(G)は、いわゆる銀鏡の状態であり、局在表面プラズモン共鳴に基づく反射色は観察されなかった。なお、バーコーターではなくスピンコーターでコーティング材5~7を塗布すると、塗膜表面がより平坦となるため、より濁りのない銀白色の塗膜が形成されたが、局在表面プラズモン共鳴に基づく反射色は観察されなかった。
【0063】
(3)PETフィルム上での膜厚の異なる金属ナノプレート含有塗膜の比較
無色透明のPETフィルムT4100(東洋紡株式会社製、屈折率1.66、厚さ100μm)を基材として用い、当該基材上にコーティング材3-2をバーコーター#10(塗布膜厚22.90μm)、バーコーター#5(塗布膜厚11.45μm)、又はバーコーダー#3(塗布膜厚6.87μm)で塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜3-2(P)#10、3-2(P)#5、及び3-2(P)#3を形成させた。そして、各塗膜の厚さは、塗布膜厚にコーティング材3-2の固形分体積濃度(0.78体積%)を乗じることによって計算した。また、外観については、所定の方向からCIE標準光源D65の光を照射したときの透過光及び反射光の色調を、上記(1)と同様にして目視により観察した。結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

*4 マンセル色相環上での右回りの差。
【0065】
どの塗膜も銀の光沢を有しており、紫色の透過色が観察された。また、これらの塗膜に光を照射すると、透過色と異なる反射色が観察されたが、塗膜3-2(P)#3においては、塗膜側反射色と基材側反射色とは同じ色調だった。このことから、塗膜側反射色は、膜厚が薄いときには基材側反射色と同じ色調になり、膜厚が厚いときには基材側反射色と異なる色調になることが分かった。
【0066】
(4)フッ素フィルム上での膜厚の異なる金属ナノプレート含有塗膜の比較
無色透明のフッ素フィルム(屈折率約1.3、厚さ250~260μm)を基材として用い、当該基材上にコーティング材3-2をバーコーター#20(塗布膜厚45.8μm)、バーコーター#10(塗布膜厚22.90μm)、バーコーター#5(塗布膜厚11.45μm)、又はバーコーダー#3(塗布膜厚6.87μm)で塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させて、塗膜3-2(F)#20、3-2(F)#10、3-2(F)#5、及び3-2(F)#3を形成させた。そして、上記(3)に記載の方法と同様の方法で、膜厚を計算し、外観の色調を観察した。結果を表7に示す。
【0067】
【表7】

*5 マンセル色相環上での右回りの差。
【0068】
基材の種類を変更しても、紫色の透過色及び当該透過色と異なる反射色が観察された。また、基材の種類を変更しても、塗膜側反射色は、膜厚が薄いときには基材側反射色と同じ色調になり、膜厚が厚いときには基材側反射色と異なる色調になるという傾向も観察された。
【0069】
(5)積層体の形成
無色透明のPETフィルムT4100(東洋紡株式会社、屈折率1.66、厚さ100μm)を基材として用い、当該基材上にコーティング材3-2をバーコーター#10(塗布膜厚22.90μm)で塗布し、常温乾燥により溶剤を揮発させた。この上にアクリレート系モノマー及び光重合開始剤を含む紫外線硬化系接着剤を塗布し、無色透明のPETフィルムT4100(ラミネートフィルム)を被せ、紫外線を照射することにより、コーティング材3-2に由来する塗膜をフィルムで挟んだ積層体を作製した。そして、上記(3)に記載の方法と同様の方法で、コーティング材3-2に由来する塗膜の膜厚を計算し、外観の色調を観察した。結果を表8に示す。
【0070】
【表8】

*6 マンセル色相環上での右回りの差。
【0071】
コーティング材3-2に由来する塗膜を基材であるフィルムで挟んで積層体の形態としても、挟まなかったときの単なる塗膜と同様に、透過色及びそれと異なる反射色が観察された。
【0072】
以上より、特定の粒子径を有しアスペクト比が1を超える金属ナノ粒子を、樹脂に対して従来よりも高濃度で配合した非水系分散液を用いることによって、前記金属ナノ粒子の極大吸収波長に関連する透過色だけでなくそれと異なる反射色を呈する塗膜を形成することができることが分かった。したがって、塗膜のバリエーションを増やし、デザインの幅を広げることができる。
図1