(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051700
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 43/0864 20220101AFI20240404BHJP
H04L 43/0829 20220101ALI20240404BHJP
H04L 43/0882 20220101ALI20240404BHJP
H04L 43/06 20220101ALI20240404BHJP
【FI】
H04L43/0864
H04L43/0829
H04L43/0882
H04L43/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158000
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】芦野 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】日谷 尭
(72)【発明者】
【氏名】薬丸 美優
(57)【要約】
【課題】特定のネットワークの区間内に配置されたネットワーク機器の性能を評価することの可能な測定装置、測定方法、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを通信先に送信する送信部と、前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信する受信部と、時刻を計測する計時部と、前記応答パケットを分析する分析部と、分析結果を出力する出力部と、を有し、前記分析部は、前記計時部の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する、測定装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを通信先に送信する送信部と、
前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信する受信部と、
時刻を計測する計時部と、
前記応答パケットを分析する分析部と、
分析結果を出力する出力部と、を有し、
前記分析部は、前記計時部の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する、
測定装置。
【請求項2】
前記計時部は、前記調査パケットに応じた前記応答パケットの応答時間であるパケット応答時間と、前記調査パケットの送信開始からの経過時間と、を取得し、
前記分析部は、さらに前記パケット応答時間に基づくRTT(Round Trip Time)と、前記経過時間と、に基づいて回線帯域、及び前記測定対象の通信装置のバッファサイズを算出する、請求項1の測定装置。
【請求項3】
前記受信部は、パケットロスを検出し、
前記計時部は、前記受信部にてパケットロスの検出時刻を取得し、
前記分析部はさらに、前記パケットロスの数量及び前記パケットロスの前記検出時刻に基づいて前記測定対象の通信装置までのRTT、及び前記測定対象の通信装置から前記通信先通信装置までのRTTを算出する、請求項1の測定装置。
【請求項4】
前記分析部は、さらに前記測定対象の通信装置までの媒体速度、及び前記測定対象の通信装置から前記通信先通信装置までの媒体速度に基づいて、前記測定対象の通信装置までの距離を算出する、請求項3の測定装置。
【請求項5】
前記調査パケットの総数と、調査パケット当たりの容量と、を受け付ける受付部をさらに有する請求項1から4のいずれか一の測定装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記測定装置と、前記測定対象の通信装置と、前記通信先通信装置と、の配置を図式化し、前記分析部による前記分析結果を数値により提示する、請求項1から4のいずれか一の測定装置。
【請求項7】
前記出力部は、さらに、前記測定装置と、前記測定対象の通信装置と、前記通信先通信装置と、の間の距離及びRTTに応じて図式化された各装置間の間隔を決定し、各装置間の回線速度に応じて各装置を結ぶ線分の太さ及び色彩を決定する、請求項6の測定装置。
【請求項8】
測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有するパケットと、前記パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットと、を捕獲する捕獲部と、
時刻を計測する計時部と、
前記パケット及び前記応答パケットを分析する分析部と、
分析結果を出力する出力部と、を有し、
前記分析部は、前記計時部の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する、
測定装置。
【請求項9】
コンピュータが測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを前記通信先通信装置に送信するステップと、
前記コンピュータが前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信するステップと、
前記コンピュータが時刻を計測するステップと、
前記コンピュータが、前記応答パケットを分析するステップと、
前記コンピュータが分析結果を出力するステップと、を有し、
前記分析するステップは、前記時刻を計測するステップの計測結果に基づいて前記分析結果を算出するステップ、をさらに有する
測定方法。
【請求項10】
測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを前記通信先通信装置に送信する処理と、
前記調査パケットに応じた通信先からの応答パケットを受信する処理と、
時刻を計測する処理と、
前記応答パケットを分析する処理と、
分析結果を出力する処理と、を有し、
前記分析する処理は、前記時刻を計測する処理の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する処理を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、測定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ICT(Information and Communication Technology)システムの機能や規模を拡張するために、ICTシステム全体のネットワーク性能の向上を図る必要が生じる場合がある。全ての装置の機能を向上させれば確実に良好な結果が得られるが、導入・運用費には限りがあるため、最低限のコストで最大の効果を得るように設計する必要がある。
【0003】
また、ICTシステムは、設計時に想定する規模で見積を行っているが、実際の運用時には当初の見積と差異が出る場合がある。例えばどこがネットワークのボトルネックになっているのかを実情に合わせて把握するためには、実際のシステムの運用中の性能を評価する必要がある。
【0004】
特にインターネットを介したICTシステムは、全ての通信装置が自分たちの管理下であるとは限らない。また、安価なネットワーク装置では、装置の状態を把握する機能が備わっていなかったり、正確性に欠けたりする場合もある。そのため、ICTシステムのネットワーク全体の正確な性能を得ることが難しかった。
【0005】
特許文献1には以下のような通信制御装置等が開示されている。同装置等は、送信装置と受信装置との間に配置され、通信のスループットを向上させるための制御を行う。例えば送信装置と通信制御装置等との間、及び通信制御装置等と受信装置との間、の目標送信速度を推定し、その目標通信速度に基づき、パケットの送信タイミングの調整を行ったり、パケットの送信順序の調整を行ったりすることで、制御を行う。
【0006】
目標送信速度の推定に関し、具体的には、例えばデータパケットのサイズをデータパケットの受信間隔で割ったものを可用帯域とし、これにRTT(Round Trip Time)を乗じたものを目標送信速度と推定したり、ACKパケットによって到達確認されたデータ量をACKパケットの受信間隔で割ったものを可用帯域とし、これにRTTを乗じたものを目標送信速度と推定したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
なお、上記先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。以下の分析は、本発明者らによってなされたものである。
【0009】
特許文献1の技術により、スループット向上のための制御を行うために特定のネットワークの区間の通信速度を推定することが可能である。しかしながら、さらに特定のネットワークの区間内に配置された機器の処理能力を推定するまでには該技術の課題上、至っておらず、各ネットワーク機器の性能を評価することで、ネットワーク全体の正確な性能を評価するといった課題に対しては十分な解決手段ではなかった。
【0010】
そこで、本発明は特定のネットワークの区間内に配置されたネットワーク機器の性能を評価することの可能な測定装置、測定方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明乃至開示の第一の視点によれば、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを通信先に送信する送信部と、前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信する受信部と、時刻を計測する計時部と、前記応答パケットを分析する分析部と、分析結果を出力する出力部と、を有し、前記分析部は、前記計時部の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する、測定装置が提供される。
【0012】
本発明乃至開示の第二の視点によれば、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有するパケットと、前記パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットと、を捕獲する捕獲部と、時刻を計測する計時部と、前記パケット及び前記応答パケットを分析する分析部と、分析結果を出力する出力部と、を有し、前記分析部は、前記計時部の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する、測定装置が提供される。
【0013】
本発明乃至開示の第三の視点によれば、コンピュータが測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを前記通信先通信装置に送信するステップと、前記コンピュータが前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信するステップと、前記コンピュータが時刻を計測するステップと、前記コンピュータが、前記応答パケットを分析するステップと、前記コンピュータが分析結果を出力するステップと、を有し、前記分析するステップは、前記時刻を計測するステップの計測結果に基づいて前記分析結果を算出するステップ、をさらに有する測定方法が提供される。
【0014】
本発明乃至開示の第四の視点によれば、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを前記通信先通信装置に送信する処理と、前記調査パケットに応じた通信先からの応答パケットを受信する処理と、時刻を計測する処理と、前記応答パケットを分析する処理と、分析結果を出力する処理と、を有し、前記分析する処理は、前記時刻を計測する処理の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する処理を、コンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明乃至開示の各視点によれば、本発明は、特定のネットワークの区間内に配置されたネットワーク機器の性能を評価することの可能な測定装置、測定方法、及びプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る測定装置の、出力部による分析結果の出力の概要を示す図である。
【
図3】第1の実施形態の測定装置の動作の一例を示すためのフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態の測定装置の動作の詳細の一例を示すためのフローチャートである。
【
図5】RTTの時間毎の分布の一例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る測定装置のハードウエア構成の一例を示す図である。
【
図7】第2の実施形態の測定装置の動作の一例を示すためのフローチャートである。
【
図8】第3の実施形態の測定装置の処理の概要を示すための概略図である。
【
図9】第3の実施形態に係る測定装置の構成の一例を示すためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
初めに、一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。また、各図におけるブロック間の接続線は、双方向及び単方向の双方を含む。一方向矢印については、主たる信号(データ)の流れを模式的に示すものであり、双方向性を排除するものではない。さらに、本願開示に示す回路図、ブロック図、内部構成図、接続図などにおいて、明示は省略するが、入力ポート及び出力ポートが各接続線の入力端及び出力端のそれぞれに存在する。入出力インタフェースも同様である。
【0018】
図1は一実施形態に係る測定装置の構成の一例を示すブロック図である。この図にあるように、一実施形態に係る測定装置10は、送信部11と、受信部12と、計時部13と、分析部14と、出力部15と、を有する。
【0019】
送信部11は、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを通信先に送信する。受信部12は、前記調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信する。計時部13は、時刻を計測する。分析部14は、前記応答パケットを分析する。出力部15は、分析結果を出力する。
【0020】
分析部14は、さらに前記計時部13の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する。
【0021】
一実施形態の測定装置10は、送信部11より通信先通信装置に送信された調査パケットの応答パケットを受信部12にて受信し、計時部13において時刻を測定する。測定された時刻に基づいて分析を行い、通信経路内の通信容量や、通信経路内に配置されている測定対象の通信機器の性能を分析することが可能である。
【0022】
以下に具体的な実施の形態について、図面を参照してさらに詳しく説明する。なお、各実施形態において同一構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0023】
[第1の実施形態:構成]
図1にあるように、本実施形態の測定装置10は、上記一実施形態と同様に、送信部11と、受信部12と、計時部13と、分析部14と、出力部15と、を有する。
【0024】
送信部11は、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを通信先に送信する。上記の通り、「測定対象の通信装置」は、調査パケットを送信する測定装置と、通信先通信装置とに挟まれたネットワーク上の通信経路内に位置する。
「調査パケット」とは、測定のために測定対象の通信装置を介して通信先通信装置へ送られるパケットである。調査パケットは通信先通信装置に到達するとこれに応じて後述する応答パケットが通信先通信装置から送られ、測定装置において受信される。この時通信先から応答された応答パケットがどの調査パケットに対するものかを識別できるように、調査パケットに識別番号を付ける。調査パケットの具体的な例としてはPingコマンドであり、応答パケットは、通信先通信装置より送られるICMPのエコーパケットなどが挙げられる。
【0025】
調査パケットは、その総数と、そのパケット当たりの容量とを調整できることが望ましい。例えば、測定装置10は、調査パケットの総数と、パケット当たりの容量と、を受付ける受付部(図示せず)をさらに有する構成であってもよい。
【0026】
受信部12は、調査パケットに応じた通信先通信装置からの応答パケットを受信する。応答パケットについては上述の通りであるので説明は省略する。
【0027】
計時部13は、時刻を計測する。計時部13は各部の要求に応じて現在の時刻を提供する。例えば、送信部11にて調査パケットを送信した時刻tsと、受信部12にて応答パケットを受信した時刻trと、を取得して後述する分析部14にてtr-tsを演算することによりRTTを算出することが可能である。
【0028】
分析部14は応答パケットを分析する。「分析」とは、応答パケット内の情報から何らかの分析結果を得ることである。例えば計時部13の計測結果に基づいて前記分析結果を算出する。例えば上記のRTTを算出したり、算出したRTTに基づいて更なる分析結果(後述)を得たりする。
【0029】
出力部15は分析部14による分析結果を出力する。具体的には分析結果としてその数値などをディスプレイ等の入出力インタフェースにより出力する。出力部15は、測定装置と、測定対象の通信装置と、通信先通信装置と、の配置を図式化し、前記分析部による前記分析結果を数値により提示してもよい(
図2(a))。
【0030】
出力部15は、さらに、測定装置と、測定対象の通信装置と、前記通信先通信装置と、の間の距離及びRTTに応じて図式化された各装置間の間隔を決定し、各装置間の通信帯域(媒体速度)に応じて各装置を結ぶ線分の太さ及び色彩(図示せず)を決定するものであってもよい(
図2(b))。
【0031】
[動作の説明]
図3は本実施形態の測定装置10の動作の一例を示すフローチャートである。この図にあるように、測定装置10は、まずコンピュータが測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有する調査パケットを前記通信先通信装置に送信すると共に送信された時刻を計測する(ステップS0301)。次に、調査パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットを受信すると共に時刻を計測する(ステップS0302)。次に計測された時刻に基づいて応答パケットを分析する(ステップS0303)。最後に分析結果を出力して(ステップS0304)終了する。
【0032】
[動作の詳細な説明]
図4は本実施形態の測定装置10の分析処理の動作の一例の詳細を説明するためのフローチャートである。この図にあるように、まずRTTの時間毎の分布を取得する(ステップS0401)。
図5はRTTの時間毎の分布の一例を示す図である。縦軸がRTTであり、横軸が調査パケット送信開始時からの経過時間である。それぞれの軸において階級が定めてあり、階級の区間の数値と代表値(RTT区間及び時刻区間)が示されている。グラフ内の太線は分布に略近似する直線である。この図を参照し、RTTが最小の区間RTTmin(図では103[ms])と最大の区間RTTmax(図では106[ms])とを取得する。RTTminの取得については、調査パケット送信開始当初に、測定対象の通信装置と通信先通信装置との間の転送レートよりも調査パケットの送信レートを十分小さくして送信を行い(
図5のグラフ内の時刻区間10までの平らな直線部分)、RTTminの値を取得する。その後、調査パケットの送信レートを測定対象の通信装置と通信先通信装置との間の転送レートよりも大きくして、すなわちボトルネックを生じさせてRTTmaxの値を取得する処理(
図5のグラフ内の直線が斜めに立ち上がり、その後平らとなる直線部分)の流れとなる。そして、RTTminを最後に観測した時刻区間Trttmin(図では10[ms])とRTTmaxを初めて観測した時刻区間Trttmax(図では40[ms])を取得し、両者の差Trangeを算出する。Trangeはバッファにデータが蓄積され始めてから溢れるまでの時間であり、
図5で直線が斜めに立ち上がっている区間である。
【0033】
すでに、1つの調査パケットの容量|P|[バイト](一例として1500[バイト])と、Trangeの間に送信されたパケット数S(一例として30[個])と、が受付けられ、所与であるとする。これらは計測動作の前に受付けられていてもよい。
【0034】
ここで、測定装置10から測定対象の通信装置までの送信転送レートは、S÷Trange×|P|(30[個]÷0.030[s]×1500[バイト]=1,500,000[バイト/s])で求められる(ステップS0402)。
【0035】
次に、測定対象の通信装置のバッファサイズを求める(ステップS0403)。バッファサイズはネットワークの最大インフライト容量から最小インフライト容量の差を求めることで得られる。ここで「インフライト容量」とは、通信において、通信路や通信装置のバッファ内等に存在する、ACK(ACKnowledgement)による到達保証前のデータの容量を指す。
図5の数値を利用すると、最小インフライト容量は、上記で求めた測定装置10から測定対象の通信装置間の送信転送レートにRTTminを乗じた値である(一例として1,500,000×0.103=154,500[バイト])。また最大インフライト容量は、上記で求めた測定装置10から測定対象の通信装置間の送信転送レートにRTTmaxを乗じた値である(一例として1,500,000×0.106=159,000[バイト])。これらの差をとって測定対象の通信装置のバッファサイズを算出する。一例として、159,000-154,500=4,500[バイト]となる。
【0036】
最後に、バッファサイズを用いて、測定対象の通信装置と通信先通信装置との間の転送レートを算出する(ステップS0404)。算出は、(送信転送レート×Trange-バッファサイズ)÷Trangeで求められる。(一例として、(1,500,000×0.03-4,500)÷0.03=1,350,000[バイト/s])。
【0037】
なお、測定対象の通信装置と通信先通信装置との間の転送レートの算出処理(ステップS0404)は必須の処理ではなく、必要に応じて実行されるものであってもよい。
【0038】
[ハードウエア構成]
本実施形態の測定装置10は、情報処理装置(コンピュータ)により構成可能であり、
図6に例示する構成を備える。例えば、測定装置10は、内部バス65により相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)61、メモリ62、入出力インタフェース63及び通信手段であるNIC(Network Interface Card)64等を備える。
【0039】
但し、
図6に示す構成は、測定装置10のハードウエア構成を限定する趣旨ではない。測定装置10は、図示しないハードウエアを含んでもよいし、必要に応じて入出力インタフェース63を備えていなくともよい。また、測定装置10に含まれるCPU等の数も
図6の例示に限定する趣旨ではなく、例えば、複数のCPUが測定装置10に含まれていてもよい。
【0040】
メモリ62は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
【0041】
入出力インタフェース63は、図示しない表示装置や入力装置のインタフェースとなる手段である。表示装置は、例えば、液晶ディスプレイ等である。入力装置は、例えば、タッチパネル、キーボードやマウス等のユーザ操作を受付ける装置である。
【0042】
測定装置10の機能は、メモリ62に格納された送信プログラム、受信プログラム、計時プログラム、分析プログラム、出力プログラム、受付プログラム等といったプログラム群(処理モジュール)と、記憶域に保持されている分析結果等のデータ群により実現される。当該処理モジュールは、例えば、メモリ62に格納された各プログラムをCPU61が実行することで実現される。また、そのプログラムは、ネットワークを介してダウンロードするか、あるいは、プログラムを記憶した記憶媒体を用いて、更新することができる。さらに、上記処理モジュールは、半導体チップにより実現されてもよい。即ち、上記処理モジュールが行う機能を何らかのハードウエア、及び/又は、ソフトウェアで実行する手段があればよい。
【0043】
[ハードウエアの動作]
測定装置10は動作を開始すると、送信プログラムがメモリ62から呼び出され、CPU61にて実行状態となる。なお、その前に受付プログラムがCPU61にて実行され入出力インタフェース63により調査パケットの総数及び調査パケット当たりの容量を受付けていてもよい。受付けた総数及び容量はメモリ62に格納される。送信プログラムは、これら総数と容量とに基づいて、NIC64を介し調査パケットを送信する。
【0044】
ここで計時プログラムは、送信プログラムよりトリガを受けて時刻を計測する。計測された調査パケット送信時刻はメモリ62に格納される。また調査パケットの送信開始時に計測された時刻である調査パケット送信開始時刻をメモリ62へ格納する。
【0045】
次に、受信プログラムがメモリ62から呼び出され、CPU61にて実行状態となる。同プログラムは通信先通信装置からの応答パケットを待ち、NIC64を介して受信する。
【0046】
ここで計時プログラムは、受信プログラムよりトリガを受けて時刻を計測する。計測された応答パケット受信時刻はメモリ62に格納される。
【0047】
計時プログラムは、調査パケット送信時刻と応答パケット受信時刻とにより、パケット応答時間を算出しメモリ62に格納する。なおこの算出処理は後述する分析プログラムが行ってもよい。算出されたパケット応答時間を、RTTの値としてもよい。このとき計時プログラムは、受信プログラムからのトリガを受けて時刻を測定する。測定された時刻とメモリ62に格納されている調査パケット送信開始時刻とから調査パケットの送信開始からの経過時間を算出しメモリ62に格納する。
【0048】
上記送信プログラム、受信プログラム、計時プログラムの動作を調査パケットの数(≧応答パケットの数)だけ繰り返す。
【0049】
次に分析プログラムがメモリ62より呼び出されCPU61にて実行状態となる。同プログラムは、メモリ62に格納されている各パケットのパケット応答時間を読み込む。また、メモリ62に格納されている調査パケット送信開始時刻を読み込む。
【0050】
分析プログラムは、メモリ62に格納されている各応答パケットのパケット応答時間と、調査パケットの送信開始からの経過時間とを読み込む。また、分析プログラムは、送信時にメモリ62に格納された調査パケットの総数や調査パケット当たりの容量の値を読み込む。分析プログラムは上記[動作の詳細な説明]で述べた手続きにより、測定対象の通信装置のバッファサイズと、回線帯域(測定装置と測定対象の通信装置との間、及び測定対象の通信装置と、通信先通信装置との間)とを算出する。
【0051】
[効果の説明]
上記第1の実施形態に係る測定装置10により、パケット応答時間に基づくRTT(Round Trip Time)と、調査パケット送信開始からの経過時間と、に基づいて回線帯域、及び前記測定対象の通信装置のバッファサイズを算出することが可能である。
【0052】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、通信におけるパケットロスを測定対象の通信装置のバッファを飽和させることにより発生させてこれを検出し、検出されたパケットロスの数量や検出時刻に基づいて、各装置間のRTTを算出することが可能な測定装置の一例について説明する。
【0053】
[構成]
第2の実施形態にかかる測定装置10は、第1の実施形態と同一の構成である。第1の実施形態と第2の実施形態との差異は、受信部12がさらにパケットロスを検出し、計時部13は、受信部12にてパケットロスの検出時刻を取得し、分析部14はさらに、パケットロスの数量及び前記パケットロスの検出時刻に基づいて測定対象の通信装置までのRTT、及び前記測定対象の通信装置から前記通信先通信装置までのRTTを算出する処理を実行可能な点である。
【0054】
[動作の説明]
図7は本実施形態の測定装置の処理の流れの一例を示すためのフローチャートである。まず調査パケットの送信を開始し、送信の開始時刻t0を測定する(ステップS0701)。次に応答パケットを受信し、初めて受信した時刻t1を測定する(ステップS0702)。次にパケットロスを検出し、RTTmaxを初めて観測した時刻t2を測定する(ステップS0703)。次に、調査パケットの送信を停止し、停止時刻t3を測定する(ステップS0704)。その後、最後に応答パケットが到来した時刻t4を測定する(ステップS0705)。次に測定された上記時刻に基づいてRTTを算出する(ステップS0706)。
【0055】
具体的にはまずt2~t3の間の単位時間当たりのロスパケット数(ロスレート)をパケットロスの検出時刻に基づいて算出しロスレートAとする。また、t2~t4の間でロスレートがロスレートAより小さくなり始める時刻をtcとする。次に、測定装置と測定対象の通信装置との間のRTT値(2tx)を次の数式で算出する。
【数01】
【0056】
なお上記数式でRTT値を2txとしているのは、パケットの往路と復路を考慮に入れたからである。
【0057】
また、次の数式から測定対象の通信装置と、通信先通信装置との間のRTT値(2ty)を算出する。
【数02】
【0058】
最後に算出されたtx及びtyが出力されて(ステップS0707)、処理は終了する。
【0059】
なお、算出されたtxとtyに基づき、txとtyとにそれぞれの上記実施形態で算出された媒体速度を乗ずることでそれぞれの距離を算出することが可能である。
【0060】
本実施形態の測定装置は、第1の実施形態の測定装置と組み合わせることが可能である。組み合わせることによって、より正確に回線及び機器の性能を把握することが可能である。
【0061】
[効果の説明]
本実施形態の測定装置により、測定装置と測定対象の通信装置との間のRTT、及び前記測定対象の通信装置と前記通信先通信装置との間のRTTを算出することが可能であり、回線性能のより正確な把握が可能となる。
【0062】
[第3の実施形態]
上記実施形態では、調査パケットを送信し、これに応じた応答パケットを受信し、分析を実行することにより、回線帯域や、バッファサイズ等を算出することが可能である。すなわち、自己(測定装置)の制御下における通信に基づいて回線や測定対象の通信装置の性能を算出することが可能である。本実施形態の測定装置17では、測定装置の制御下にない通信に基づいて回線や測定対象の通信装置の性能を把握する。これは、ネットワークにおいて回線帯域や通信装置のバッファが一時的に飽和するというイベントは日常的に発生しており、比較的長期間にわたって通信データを漏れなく記録することが可能であれば記録された通信データを用いて回線帯域や、通信装置の性能を把握することが可能である、といった推定に基づくものである。
【0063】
図8は本実施形態の測定装置17の処理の概要を示すための概略図である。この図にあるように、本実施形態の測定装置17は通信元通信装置18と、測定対象の通信装置19との間の回線を流れる通信先通信装置20宛て、又は通信元通信装置18宛てのパケットを捕獲(キャプチャ)することで測定を行う。
【0064】
[構成]
図9は本実施形態の測定装置17の構成の一例を示すためのブロック図である。この図にあるように、測定装置17は、捕獲部16と、計時部13と、分析部14と、出力部15と、を有する。上記実施形態との相違点は送信部11と、受信部12に代えて、捕獲部16を有する点である。なお計時部13と、分析部14と、出力部15とについては上記実施例で説明済みであるので記載は省略する。
【0065】
捕獲部16は、測定対象の通信装置を通信先通信装置との通信経路内に有するパケットと、前記パケットに応じた前記通信先通信装置からの応答パケットと、を捕獲する。従来技術のいわゆるパケットキャプチャに相当する機能であり、パケットヘッダ情報を参照して、通信元通信装置18から測定対象の通信装置19を介して通信先通信装置20へのパケット、及び通信先通信装置20から測定対象の通信装置19を介して通信元通信装置18へ至る同パケットに応じた応答パケットをキャプチャする。キャプチャされたパケットは測定装置17の記憶域に蓄積される。
【0066】
なお、パケットの送信時刻や、応答パケットの受信時刻については、パケットの送信が測定装置17の制御下にないので、捕獲部16がパケットを捕獲した時刻を取得し、分析を行ってもよい。
【0067】
本実施形態の測定装置17は、パケットの送受信は自身の制御下にないため、例えば第2の実施形態で取得したt3(調査パケットの送信停止時刻)等は自発的に得ることは不可能である。しかしながら、分析対象の通信装置においてバッファが溢れることにより、パケットロスが生じ、その後通信元通信装置18がパケットの送信を停止するといった事象が結果的に起こる可能性は充分にある。すなわち、本実施形態の測定装置17は、上記実施形態とは異なり、充分に長い時間捕獲部16がパケットを捕獲し、これを蓄積することで、分析部14において上記事象を抽出し、分析に用いられる各指標(例えばt0~t4等)の数値を取得することが可能であり、上記実施形態と同様の分析結果を得ることが期待できる。
【0068】
[効果の説明]
本実施形態の測定装置により、自己(測定装置)の制御下にない通信についても、回線や測定対象の通信装置の性能を推定し、把握することが可能である。
【0069】
前述の実施形態の一部又は全部は、以下の各付記のようにも記載することができる。しかしながら、以下の各付記は、あくまでも、本発明の単なる例示に過ぎず、本発明は、かかる場合のみに限るものではない。
[付記1]
上述の第一の視点に係る測定装置のとおりである。
[付記2]
計時部は、調査パケットに応じた応答パケットの応答時間であるパケット応答時間と、調査パケットの送信開始からの経過時間と、を取得し、分析部は、さらにパケット応答時間に基づくRTT(Round Trip Time)と、経過時間と、に基づいて回線帯域、及び測定対象の通信装置のバッファサイズを算出する、好ましくは付記1の測定装置。
[付記3]
受信部は、パケットロスを検出し、計時部は、受信部にてパケットロスの検出時刻を取得し、分析部はさらに、パケットロスの数量及びパケットロスの検出時刻に基づいて測定対象の通信装置までのRTT、及び測定対象の通信装置から通信先通信装置までのRTTを算出する、好ましくは付記1の測定装置。
[付記4]
分析部は、さらに測定対象の通信装置までの媒体速度、及び測定対象の通信装置から通信先通信装置までの媒体速度に基づいて、測定対象の通信装置までの距離を算出する、好ましくは付記3の測定装置。
[付記5]
調査パケットの総数と、調査パケット当たりの容量と、を受付ける受付部をさらに有する好ましくは付記1から4のいずれか一の測定装置。
[付記6]
出力部は、測定装置と、測定対象の通信装置と、通信先通信装置と、の配置を図式化し、分析部による分析結果を数値により提示する、好ましくは付記1から4のいずれか一の測定装置。
[付記7]
出力部は、さらに、測定装置と、測定対象の通信装置と、通信先通信装置と、の間の距離及びRTTに応じて図式化された各装置間の間隔を決定し、各装置間の回線速度に応じて各装置を結ぶ線分の太さ及び色彩を決定する、好ましくは付記6の測定装置。
[付記8]
上述の第二の視点に係る測定装置のとおりである。
[付記9]
上述の第三の視点に係る測定方法のとおりである。
[付記10]
上述の第四の視点に係るプログラムのとおりである。
なお、付記8、9及び付記10は、付記1と同様に、付記2~付記7に展開することが可能である。
【0070】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲を含む全開示、技術的思想に従って当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0071】
10、17 :測定装置
11 :送信部
12 :受信部
13 :計時部
14 :分析部
15 :出力部
16 :捕獲部
18 :通信元通信装置
19 :測定対象の通信装置
20 :通信先通信装置
61 :CPU
62 :メモリ
63 :入出力インタフェース
64 :NIC
65 :内部バス