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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051729
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】車両用ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20240404BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240404BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240404BHJP
   B60G 15/06 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
F16F15/03 G
F16F15/04 A
F16F7/00 A
B60G15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158039
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】久保田 恒平
【テーマコード(参考)】
3D301
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301CA01
3D301DA51
3D301DA54
3D301DB16
3J048AA02
3J048AC08
3J048AD01
3J048BA24
3J048BE09
3J048EA16
3J066AA07
3J066BA01
3J066BA10
3J066BB01
3J066BC01
3J066BD05
(57)【要約】
【課題】過荷重入力時のダンパーマウントへの荷重負荷低減と、即応性の高い衝撃吸収による車両の挙動安定性向上と、高周波低荷重入力の遮断による乗り心地向上とを両立できる車両用ダンパーを提供する。
【解決手段】車輪側からの荷重入力に応じて直線運動する可動部材と、可動部材の直線運動を回転運動に変換する変換部材と、変換部材によって変換された回転運動に連動して回転するロータを有する電動モータと、電動モータを収容するモータハウジングと、車体に固定されて第1の弾性部材を介してモータハウジングと接続されるダンパーマウントハウジングとを備え、可動部材の直線運動を電動モータの電磁力によって減衰させる車両用ダンパーであって、モータハウジング及びダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方に、荷重の入力に伴ってモータハウジングとダンパーマウントハウジングとが近接した場合に他方側に当接する第2の弾性部材を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側からの荷重の入力に応じて直線運動する可動部材と、
前記可動部材の直線運動を回転運動に変換する変換部材と、
前記変換部材によって変換された回転運動に連動して回転するロータを有する電動モータと、
前記電動モータを収容するモータハウジングと、
車体に固定されるとともに第1の弾性部材を介して前記モータハウジングと接続されるダンパーマウントハウジングと、を備え、
前記可動部材の直線運動を前記電動モータの電磁力によって減衰させる車両用ダンパーであって、
前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方に、荷重の入力に伴って前記モータハウジングと前記ダンパーマウントハウジングとが近接した場合に他方側に当接する第2の弾性部材を有する、車両用ダンパー。
【請求項2】
前記第2の弾性部材は、前記第1の弾性部材よりも高い剛性を有する、請求項1に記載の車両用ダンパー。
【請求項3】
前記第2の弾性部材は、環形状を有する、請求項1又は2に記載の車両用ダンパー。
【請求項4】
前記モータハウジングは、前記第1の弾性部材を介して前記ダンパーマウントハウジングと接続される軸部を有し、
前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングは、前記軸部の周囲に互いに離隔して対向配置される対向面をそれぞれ有し、
前記第2の弾性部材は、前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方の前記対向面に配置される、請求項3に記載の車両用ダンパー。
【請求項5】
前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方に、他方側に向けて突出して前記第2の弾性部材の過圧縮を防止する凸部を有する、請求項1又は2に記載の車両用ダンパー。
【請求項6】
前記第2の弾性部材における他方側との接触面は、他方側における対向面に対して斜めに配置され、前記可動部材の直線運動方向に対して垂直な面に略平行に形成される、請求項1又は2に記載の車両用ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の振動を、ハウジング内に配置されるボールねじ軸とボールねじナットとを介して直線運動から回転運動へと変換してモータのロータに伝達させ、そのロータの回転力を電磁力に起因するトルクを利用して減衰させる車両用懸架装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用懸架装置では、ボールねじ軸の端部に配置される軸端部材に衝撃吸収性の良いストッパ部材を設け、過荷重入力時の大きな直線運動によって軸端部材がハウジング底面と衝突した際の衝撃を緩和するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-96536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用ダンパーにおいては、過荷重が入力した際に、ダンパーマウントへの荷重負荷が大きくなる。ダンパーマウントへの過荷重入力時の衝撃は車両の挙動安定性に影響を与えるため、車両用ダンパーにおいては、ダンパーマウントの剛性を高く設定し、過荷重入力時に、即応性の高い衝撃吸収を行うことによって、車両の挙動安定性を向上させることが望まれている。また、ダンパーマウントラバーの耐久性の観点からも、剛性を高く設定する必要が生じる。
【0006】
一方、高周波の低荷重路面入力に対しては、即応性を低く設定し入力を遮断して、車両の乗り心地を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明は、過荷重入力時における、ダンパーマウントへの荷重負荷の低減と、即応性の高い衝撃吸収による車両の挙動安定性の向上と、高周波低荷重入力の遮断による乗り心地の向上と、を両立できる車両用ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る車両用ダンパーは、車輪側からの荷重の入力に応じて直線運動する可動部材(例えば、後述の可動部材2)と、前記可動部材の直線運動を回転運動に変換する変換部材(例えば、後述の変換部材7)と、前記変換部材によって変換された回転運動に連動して回転するロータ(例えば、後述のロータ32)を有する電動モータ(例えば、後述の電動モータ3)と、前記電動モータを収容するモータハウジング(例えば、後述のモータハウジング4)と、車体(例えば、後述の車体BD)に固定されるとともに第1の弾性部材(例えば、後述のダンパーマウントラバー53)を介して前記モータハウジングと接続されるダンパーマウントハウジング(例えば、後述のダンパーマウントハウジング5)と、を備え、前記可動部材の直線運動を前記電動モータの電磁力によって減衰させる車両用ダンパー(例えば、後述の車両用ダンパー1)であって、前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方に、荷重の入力に伴って前記モータハウジングと前記ダンパーマウントハウジングとが近接した場合に他方側に当接する第2の弾性部材(例えば、後述の追加ラバー6,6A)を有する、車両用ダンパーである。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の車両用ダンパーにおいて、前記第2の弾性部材は、前記第1の弾性部材よりも高い剛性を有する。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の車両用ダンパーにおいて、前記第2の弾性部材は、環形状を有する。
【0011】
(4) 上記(3)に記載の車両用ダンパーにおいて、前記モータハウジングは、前記第1の弾性部材を介して前記ダンパーマウントハウジングと接続される軸部(例えば、後述の軸部452)を有し、前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングは、前記軸部の周囲に互いに離隔して対向配置される対向面(例えば、対向面454,523)をそれぞれ有し、前記第2の弾性部材は、前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方の前記対向面に配置される。
【0012】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかに記載の車両用ダンパーにおいて、前記モータハウジング及び前記ダンパーマウントハウジングの少なくともいずれか一方に、他方側に向けて突出して前記第2の弾性部材の過圧縮を防止する凸部(例えば、後述の凸部524)を有する。
【0013】
(6) 上記(1)~(5)のいずれかに記載の車両用ダンパーにおいて、前記第2の弾性部材(後述の追加ラバー6A)における他方側との接触面(例えば、後述の接触面6a)は、他方側における対向面に対して斜めに配置され、前記可動部材の直線運動方向に対して垂直な面(例えば、後述の面PL)に略平行に形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過荷重入力時における、ダンパーマウントへの荷重負荷の低減と、即応性の高い衝撃吸収による車両の挙動安定性の向上と、高周波低荷重入力の遮断による乗り心地の向上と、を両立できる車両用ダンパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】平常時の車両用ダンパーを示す断面図である。
図2】平常時の車両用ダンパーの一部を拡大して示す断面図である。
図3】過荷重入力時の車両用ダンパーの一部を拡大して示す断面図である。
図4A】平常時の車両用ダンパーの機能を説明する模式図である。
図4B】過荷重入力時の車両用ダンパーの機能を説明する模式図である。
図5】さらに過荷重が入力した時の車両用ダンパーの一部を拡大して示す断面図である。
図6】第2の弾性部材の平面図である。
図7】第2の弾性部材の斜視図である。
図8図6中のA-Aに沿う断面で示す第2の弾性部材と荷重の入力方向とを説明する図である。
図9図6図8に示す第2の弾性部材を有する車両用ダンパーの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用ダンパーの実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、車両用ダンパー1は、例えば、四輪車等の車体BDと車輪(図示せず)側のばね下部材を構成するロアアーム(図示せず)等との間に亘って懸架される。車両用ダンパー1は、可動部材2と、電動モータ3と、モータハウジング4と、ダンパーマウントハウジング5と、を備える。
【0017】
可動部材2は、円筒形状の外筒21を含む。外筒21の軸方向の一端(図1における右端)は、閉塞部材22によって閉鎖されている。閉塞部材22には、ロアアーム等と連結される連結部23が取り付けられている。なお、可動部材2における「可動」とは、車輪側からの荷重入力時に、車両用ダンパー1における車体BDに接続される構成部材に対して相対的に移動することを意味する。
【0018】
外筒21の内部には、閉塞部材22から外筒21の軸方向に延びる第1内筒24が収容されている。第1内筒24の軸方向の一端(図1における右端)には突軸部241が一体に形成されている。突軸部241は、閉塞部材22の中心に固定されている。これによって、第1内筒24は、閉塞部材22を介して外筒21に対して軸周りに回転不能に固定される。外筒21の内部において、第1内筒24の一端側の外周には、衝撃吸収性を有するゴム等の弾性部材からなる緩衝部材25が収容されている。
【0019】
第1内筒24の軸方向の他端(図1における左端)には、内径が拡大された拡径部242が一体に形成されている。拡径部242の外径は、外筒21の内径よりも小さい。拡径部242の内部には、後述のボールねじ43に螺合するボールねじナット26が、拡径部242に対して軸周りに回転不能に取り付けられている。
【0020】
電動モータ3は、コイル311が装着されたステータ31と、永久磁石(図示せず)が装着されたロータ32と、を有する。ロータ32はロータ軸321を有し、ステータ31の中心に回転可能に軸支される。電動モータ3は、車両(図示せず)に搭載される駆動装置(図示せず)からコイル311に供給される電流に応じた電磁力を発生させ、その電磁力に対応するトルクを利用して、ロータ32を回転させたり、ロータ32の回転力を減衰させたりする。
【0021】
モータハウジング4は、略円筒状に形成され、内部に電動モータ3を収容する。モータハウジング4の軸方向の一端(図1における右端)は、電動モータ3よりも突出して小径に形成されている。モータハウジング4の一端側の内側には、円筒形状の第2内筒41が接続され、モータハウジング4と同芯状に配置されている。第2内筒41は、可動部材2の外筒21よりも小径で、且つ第1内筒24の拡径部242よりも大径である。モータハウジング4の一端側の端縁には、衝撃吸収性を有するゴム等の弾性部材からなる環状のバンプラバー42が、第2内筒41の外周を取り囲むように取り付けられている。
【0022】
第2内筒41の内部には、ボールねじ43が収容されている。ボールねじ43は、モータハウジング4から第2内筒41略全長に亘って軸方向に延びている。ボールねじ43の基端43a(図1における左端)は、電動モータ3のロータ軸321に接続部材431を介して同軸状に連結されている。接続部材431は、モータハウジング4の内側に軸受44を介して軸周りに回転可能に支持されている。そのため、ボールねじ43が軸周りに回転すると、接続部材431及びロータ軸321を介して、電動モータ3のロータ32が回転する。
【0023】
第2内筒41には、可動部材2が同芯状に嵌合する。詳しくは、第2内筒41は、可動部材2の外筒21の内側に挿入されて収容されるとともに、可動部材2の第1内筒24を内側に挿入して収容する。第1内筒24に設けられるボールねじナット26は、第2内筒41内のボールねじ43に螺合する。第2内筒41の外周面と外筒21の内周面との間及び第2内筒41の内周面と第1内筒24の外周面との間は、それぞれ封止部材211,411によって封止されている。外筒21の他端(図1における左端)は、モータハウジング4のバンプラバー42に対向するように配置される。封止部材411が配置される第2内筒41の一端は、外筒21内の緩衝部材25に対向するように配置される。
【0024】
モータハウジング4の他端(図1における左端)は、端末部材45によって閉鎖されている。端末部材45は、モータハウジング4の他端を閉鎖する大径部451と、大径部451の中心から車体BDに向けて突出する軸部452と、を有する。軸部452の中途部の外周には、環状のフランジ453が固定されている。フランジ453は、軸部452から外径方向に円形に延びている。
【0025】
ダンパーマウントハウジング5は、車体BDの所定の位置にボルトBTによって固定されている。ダンパーマウントハウジング5は、車体BDに取り付けられる環状の取付部51と、取付部51の内径側からモータハウジング4に向けて隆起するように設けられる環状の支持台部52と、を一体に有する。
【0026】
図2に示すように、支持台部52は、中心に開口する開口部521と、車体BD側に向けて開口部521よりも大径に開口するラバー収容溝522と、を有する。ラバー収容溝522は、開口部521に連通して開口部521と同芯の円形に形成され、内部にゴム等の弾性部材からなる環状のダンパーマウントラバー53が収容されている。ダンパーマウントラバー53は、車体BD側からラバー収容溝522を閉鎖するように取り付けられる環状の閉鎖リング54によって、ラバー収容溝522内に保持される。このダンパーマウントラバー53は、第1の弾性部材に対応する。
【0027】
モータハウジング4における端末部材45の軸部452は、車体BDに取り付けられたダンパーマウントハウジング5に、ダンパーマウントラバー53を介して接続される。詳しくは、軸部452は、ダンパーマウントハウジング5の支持台部52の開口部521に、車体BDと反対側から挿入される。軸部452は、ラバー収容溝522に保持されるダンパーマウントラバー53及び閉鎖リング54の内側をそれぞれ貫通する。ダンパーマウントラバー53は、ラバー収容溝522内において、軸部452に設けられるフランジ453を両面から挟持して軸部452を支持している。これによって、ダンパーマウントハウジング5は、ダンパーマウントラバー53を介してモータハウジング4を接続する。
【0028】
モータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは、図2に示すように、車両用ダンパー1に過荷重入力がない平常時において、所定の間隔をあけて対向して配置される。すなわち、モータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは、フランジ453がダンパーマウントラバー53に挟持されている以外は互いに接触していない。
【0029】
詳しくは、端末部材45の大径部451において、軸部452の周囲にはダンパーマウントハウジング5との対向面454が配置される。対向面454は、軸部452の外径側に環状に拡がる平坦面である。一方、ダンパーマウントハウジング5の支持台部52において、開口部521の周囲にはモータハウジング4との対向面523が配置される。対向面523は、開口部521の周囲に配置され、環状に拡がる平坦面である。対向面523の外周には、モータハウジング4の対向面454に向けて環状に突出する凸部524が一体に設けられている。車両用ダンパー1に過荷重入力がない平常時において、2つの対向面454,523は、互いに離隔して対向配置される。モータハウジング4側の対向面454とダンパーマウントハウジング5側の凸部524とは、互いに接触せずに離隔している。
【0030】
2つの対向面454,523のうち、モータハウジング4側の対向面454には、ゴム等の弾性部材からなる追加ラバー6が取り付けられている。追加ラバー6は、環状に形成され、対向面454からダンパーマウントハウジング5側の対向面523に向けて突出している。但し、図2に示すように、車両用ダンパー1に過荷重入力がない平常時において、追加ラバー6は、ダンパーマウントハウジング5側の対向面523に接触しておらず、所定の隙間Sを介して凸部524の内側の対向面523に対峙している。なお、追加ラバー6の対向面454からの最大突出高さは、凸部524の対向面523からの突出高さよりやや大きく設定されている。また、追加ラバー6から対向面523への距離よりも凸部524から対向面454への距離の方が大きく設定されている。これにより、後程詳述するように、追加ラバー6への過荷重が入力されても、ダンパーマウントハウジング5の凸部524がモータハウジング4の対向面454に当接することで、追加ラバー6は過圧縮から保護される。この追加ラバー6は、第2の弾性部材に対応する。
【0031】
追加ラバー6は、ダンパーマウントラバー53と同一の弾性材料を用いて形成されてもよいし、ダンパーマウントラバー53とは異なる弾性材料を用いて形成されてもよい。また、追加ラバー6は、ダンパーマウントラバー53よりも高い剛性を有することが好ましい。追加ラバー6の剛性は、追加ラバー6の形状、使用される弾性材料の種類の選択、弾性材料中に配合するフィラー等の配合量の調整、製造条件の調整等によって適宜調整される。
【0032】
次に、荷重入力時の車両用ダンパー1の動作について説明する。
【0033】
車両用ダンパー1において、可動部材2は、車輪側からの荷重入力に応じて、第2内筒41に対して、図1及び図2中の両端矢印で示す伸び側X1及び縮み側X2に相対的に直線運動する。この可動部材2の直線運動によって、ボールねじナット26がボールねじ43に沿って移動し、ボールねじ43を軸周りに回転させる。これによって、ボールねじ43に連結される電動モータ3のロータ32が回転する。すなわち、車両用ダンパー1において、可動部材2のボールねじナット26及びモータハウジング4の第2内筒41内のボールねじ43は、可動部材2の直線運動を回転運動に変換する変換部材7を構成する。荷重入力時、電動モータ3のコイル311に所定の電流を供給してロータ32の回転力を減衰させることによって、電動モータ3の電磁力によって可動部材2の直線運動が減衰される。
【0034】
過荷重入力のない平常時、図2中の矢印線で示すように、車輪側からの荷重(振動)F1は、可動部材2からボールねじ43に伝達され、さらにボールねじ43から接続部材431及び軸受44を通ってモータハウジング4に伝達される。モータハウジング4に伝達された荷重F1は、軸部452及びフランジ453を通ってダンパーマウントラバー53に伝達され、ダンパーマウントラバー53によって減衰されて車体BDに伝達される。このときの可動部材2は、モータハウジング4のバンプラバー42に接触しない程度に、第2内筒41に対して伸び側X1及び縮み側X2に相対的に直線運動する。そのため、モータハウジング4に取り付けられた追加ラバー6は、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に接触せず、隙間Sを介して離隔したままである。
【0035】
すなわち、図4Aに示すように、過荷重入力のない平常時においては、車両用ダンパー1のモータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは、ダンパーマウントラバー53のみを介して接続され、ダンパーマウントラバー53が荷重F1を減衰させる。モータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは互いに離隔し、金属同士の接触がないため、常用域での車両の良好な乗り心地が確保される。
【0036】
一方、図3に示すように、車輪側から可動部材2の縮み側X2に向けて過荷重入力があると、可動部材2は、モータハウジング4に向けて大きく直線運動し、外筒21の先端縁21aとバンプラバー42との接触によって、モータハウジング4をダンパーマウントハウジング5に向けて移動させる。モータハウジング4は、軸部452のフランジ453によってダンパーマウントラバー53を圧縮しながらダンパーマウントハウジング5に近接し、やがて、モータハウジング4の追加ラバー6が、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に当接する。このとき、ダンパーマウントハウジング5の凸部524は、未だモータハウジング4の対向面454には接触していない。したがって、車輪側からの荷重(衝撃)F2は、図3中の矢印線で示すように、ボールねじ43を通ることなく、可動部材2の外筒21からバンプラバー42を介してモータハウジング4に伝達される。モータハウジング4に伝達された荷重F2は、追加ラバー6を介してダンパーマウントラバー53に伝達される。
【0037】
すなわち、図4Bに示すように、過荷重入力があると、車両用ダンパー1のモータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは、ダンパーマウントラバー53及び追加ラバー6を介して接続され、ダンパーマウントラバー53及び追加ラバー6が分担して荷重F2を受け止めて衝撃吸収する。そのため、ダンパーマウントラバー53の荷重負荷が低減し、ダンパーマウントラバー53の耐久性が確保される。追加ラバー6は、モータハウジング4が追加ラバー6と対向面523との間の隙間Sを移動するだけで荷重F2を受け止めるため、過荷重入力に対する即応性が高い。
【0038】
また、追加ラバー6は、ダンパーマウントラバー53よりも高い剛性を有するため、平常時は剛性の低い(柔らかい)ダンパーマウントラバー53によって防振性能を高めつつ、過荷重入力時には、剛性の高い追加ラバー6によって耐衝撃性を高めることができる。したがって、車両用ダンパー1は、防振性能と耐衝撃性を高度にバランスさせることができる。
【0039】
追加ラバー6は環形状を有するため、過荷重入力時の曲げ、捻りの応力に対して全周的に対応することができる。しかも、追加ラバー6は、モータハウジング4の軸部452の周縁に配置される対向面454に配置されるため、過荷重入力時の応力が軸部452からその周縁の対向面454にかけて伝達されるときに、その対向面454において応力を担うことができる。そのため、車両用ダンパー1において、追加ラバー6は、過荷重入力時の軸部452に対する曲げ、捻りの応力を効果的に緩和することができる。
【0040】
なお、可動部材2の縮み側X2に向けた荷重F2がさらに大きくなると、図5に示すように、追加ラバー6は対向面454,523の間で圧縮されて押し潰される。これによって、モータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とがさらに近接し、やがて、ダンパーマウントハウジング5の凸部524がモータハウジング4の対向面454に当接する。このとき、モータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは金属同士で接触するため、追加ラバー6は、さらに圧縮されることがなくなり、過圧縮から保護される。
【0041】
ところで、車両用ダンパー1の可動部材2への荷重の入力方向は、可動部材2の軸方向に対して常に平行な方向であるとは限らず、車輪に設定されるキャンバー角やキャスター角によって、可動部材2への荷重の入力方向は、可動部材2の軸方向に対して角度を持つ場合がある。この場合、環形状の追加ラバーは、全周に亘って同一厚みに形成されていなくてもよい。すなわち、図6図8に示す追加ラバー6Aのように、相手部材側との接触面6aが、追加ラバー6Aの軸方向Dに対して斜めに傾斜するように形成されてもよい。
【0042】
詳しくは、荷重の入力方向が可動部材2の軸方向に対して角度を持つ場合、図8に示すように、可動部材2の縮み側X2の直線運動方向は、追加ラバー6Aの軸方向Dに対して傾斜する。追加ラバー6Aの接触面6aは、この縮み側X2の直線運動方向に対して垂直な面PLに略平行に形成される。なお、追加ラバー6Aにおける接触面6aの反対側に配置される取付面6bは、追加ラバー6Aの軸方向Dに対して垂直に形成される。この取付面6bは、対向面454又は523に取り付けられる面であり、対向面454又は523に対して平行な面である。
【0043】
この追加ラバー6Aの取付面6bが、モータハウジング4の対向面454に取り付けられると、図9に示すように、接触面6aは、対向面454,523に対して斜めに配置される。可動部材2に追加ラバー6Aの軸方向に対して傾斜した縮み側X2に沿う過荷重入力があると、図9中の白抜き矢印に示すように、モータハウジング4に曲げモーメントが発生し、第2内筒41側が下向きに移動するとともに、モータハウジング4の端末部材45側が上向きに移動し、モータハウジング4が図9における時計方向に回転する。これによって、モータハウジング4全体がダンパーマウントハウジング5に対して曲がった状態で近接する。しかし、このとき、追加ラバー6Aの傾斜した接触面6aは、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に対して略平行になるように配置されるため、追加ラバー6Aの接触面6a全体で荷重を受け止めて応力を緩和することができる。
【0044】
以上の実施形態では、追加ラバー6,6Aは、モータハウジング4の対向面454に取り付けられるが、追加ラバー6,6Aは、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に取り付けられてもよい。
【0045】
追加ラバー6,6Aは1つ限らず、例えば、対向面454又は523に同心円状に複数配置されてもよい。同心円状の複数の追加ラバー6,6Aは、対向面454及び523にそれぞれ分かれて配置されてもよい。また、追加ラバー6,6Aを対向面454及び523にそれぞれ配置させる場合は、過荷重入力があった場合に、それぞれの対向面454,523の追加ラバー6,6A同士が当接するようにしてもよい。
【0046】
追加ラバー6,6Aは、過荷重入力のない平常時の防振性能を損なわない程度に、隙間Sを介さずに相手部材と接触する部分を有していてもよい。
【0047】
以上の実施形態では、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に、モータハウジング4の対向面454に向けて突出する凸部524を設けたが、このような凸部は、モータハウジング4の対向面454に、ダンパーマウントハウジング5の対向面523に向けて突出するように設けられてもよい。凸部は、過荷重入力があった場合に互いに当接するように、対向面454,523にそれぞれ設けられてもよい。また、凸部は、追加ラバー6,6Aの外径側に配置されるものに限らず、追加ラバー6,6Aの内径側に配置されてもよく、追加ラバー6,6Aの外径側及び内径側にそれぞれ配置されてもよい。
【0048】
以上の実施形態に示す車両用ダンパー1は、以下の効果を奏する。
【0049】
本実施形態に係る車両用ダンパー1は、車輪側からの荷重の入力に応じて直線運動する可動部材2と、可動部材2の直線運動を回転運動に変換する変換部材7(ボールねじナット26及びボールねじ43)と、変換部材7によって変換された回転運動に連動して回転するロータ32を有する電動モータ3と、電動モータ3を収容するモータハウジング4と、車体BDに固定されるとともにダンパーマウントラバー53(第1の弾性部材)を介してモータハウジング4と接続されるダンパーマウントハウジング5と、を備え、可動部材2の直線運動を電動モータ3の電磁力によって減衰させる車両用ダンパー1であって、モータハウジング4及びダンパーマウントハウジング5の少なくともいずれか一方に、荷重の入力に伴ってモータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とが近接した場合に他方側に当接する追加ラバー6,6A(第2の弾性部材)を有する。
【0050】
これによれば、車両用ダンパー1は、過荷重入力時に、ダンパーマウントラバー53と追加ラバー6,6Aから並列で過荷重を受けることができる。よって、ダンパーマウントラバー53に過荷重負荷を与えることなく即応性の高い衝撃吸収を行うことができる。そのため、この車両用ダンパー1によれば、車両の挙動安定性を向上させることができる。
【0051】
本実施形態において、追加ラバー6,6Aは、ダンパーマウントラバー53よりも高い剛性を有する。
【0052】
これによれば、過荷重入力のない平常時は剛性の低い(柔らかい)ダンパーマウントラバー53によって防振性能を高めつつ、過荷重入力時には、剛性の高い追加ラバー6によって耐衝撃性を高めることができる。したがって、車両用ダンパー1は、防振性能と耐衝撃性を高度にバランスさせることができる。
【0053】
本実施形態において、追加ラバー6,6Aは、環形状を有する。
【0054】
これによれば、追加ラバー6,6Aは、過荷重入力時の曲げ、捻りの応力に対して全周的に対応することができる。
【0055】
本実施形態において、モータハウジング4は、ダンパーマウントラバー53を介してダンパーマウントハウジング5と接続される軸部452を有し、モータハウジング4及びダンパーマウントハウジング5は、軸部452の周囲に互いに離隔して対向配置される対向面454,523をそれぞれ有し、追加ラバー6,6Aは、モータハウジング4及びダンパーマウントハウジング5の少なくともいずれか一方の対向面に配置される。
【0056】
これによれば、過荷重入力時の応力が軸部452からその周縁の対向面454にかけて伝達されるときに、その対向面454において応力を担うことができる。そのため、車両用ダンパー1において、追加ラバー6,6Aが、過荷重入力時の軸部452に対する曲げ、捻りの応力を効果的に緩和することができる。
【0057】
本実施形態において、モータハウジング4及びダンパーマウントハウジング5の少なくともいずれか一方に、他方側に向けて突出して追加ラバー6,6Aの過圧縮を防止する凸部524を有する。
【0058】
これによれば、過荷重入力時にモータハウジング4とダンパーマウントハウジング5とは金属同士で接触するため、追加ラバー6は過圧縮から保護される。
【0059】
本実施形態において、追加ラバー6Aにおける他方側との接触面6aは、他方側における対向面523に対して斜めに配置され、可動部材2の直線運動方向に対して垂直な面PLに略平行に形成される。
【0060】
これによれば、可動部材2の直線運動に応じて発生する曲げモーメントによってモータハウジング4が曲がった状態でダンパーマウントハウジング5に近接しても、追加ラバー6Aの接触面6a全体で荷重を受け止めて応力を緩和することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 車両用ダンパー
2 可動部材
3 電動モータ
32 ロータ
4 モータハウジング
452 軸部
454,523 対向面
5 ダンパーマウントハウジング
53 ダンパーマウントラバー(第1の弾性部材)
524 凸部
6,6A 追加ラバー(第2の弾性部材)
7 変換部材
BD 車体
PL 面


図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9