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特開2024-51741物体検出システム、物体検出方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051741
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】物体検出システム、物体検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/4865 20200101AFI20240404BHJP
   G01S 17/89 20200101ALI20240404BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01S7/4865
G01S17/89
G02B26/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158056
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】518237336
【氏名又は名称】Dolphin株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123881
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100080931
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 敬
(72)【発明者】
【氏名】段 志輝
【テーマコード(参考)】
2H045
5J084
【Fターム(参考)】
2H045AB01
2H045AB38
2H045BA13
2H045CB63
2H045DA11
5J084AA05
5J084AC02
5J084AC06
5J084AC08
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA36
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB28
5J084CA03
5J084CA32
5J084CA65
(57)【要約】
【課題】所定の視野範囲をパルス発光するレーザ光により走査しつつ物体を検出する場合において、小型かつ低コストの手法で外乱光の影響を低減する。
【解決手段】パルス発光する光ビームにより視野内を往復走査する走査部と、受光素子と、投光と逆向きの光路でミラーに入射する光を受光素子に導く導光部とを設け、上記光ビームの投光と上記受光素子による受光との時間差を測定し(S15)、相互に投光方向が近接する上記光ビームの複数回の点灯であって、往路の走査における点灯と該往路の走査に続く復路の走査における点灯とを含むように設定した(S14)グループの各点灯について測定した上記時間差を、階級毎に集計し(S16)、視野内に設定されたグループの各々についての、上記光ビームの投光方向及び上記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する(S17,S18)。
【選択図】 図24
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、
所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向の往路の走査における点灯と該往路の走査に続く復路の走査における点灯とを含む一のグループの各点灯について前記測定部が測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計部と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出部とを備えることを特徴とする物体検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物体検出システムであって、
前記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように前記駆動信号の周波数を調整する調整部と、
前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定部とを備え、
前記物体検出部は、前記判定部が、前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、前記集計により得られた度数を前記物体検出に用いることを特徴とする物体検出システム。
【請求項3】
請求項2に記載の物体検出システムであって、
前記第1方向の前記往路の走査と該往路の走査に続く前記復路の走査とにおいて同じパターンで前記光ビームをパルス発光させ、
前記光ビームの各発光が前記往路の走査又は前記復路の走査中の何回目の点灯であるかに基づいて前記複数のグループを作成するグループ作成部を備えることを特徴とする物体検出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の物体検出システムであって、
前記光走査部は、前記第1回転軸と平行でない第2回転軸を中心に回転駆動される第2反射材をさらに含み、
前記光ビームの走査は、前記第1方向の主走査と、前記第2反射材の回転と対応する副走査とを含み、
前記各グループに含まれる前記往路の走査における点灯と前記復路の走査における点灯とは、投光方向が前記副走査方向に隣接する点灯であることを特徴とする物体検出システム。
【請求項5】
請求項4に記載の物体検出システムであって、
前記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように前記駆動信号の周波数を調整する調整部と、
前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定部とを備え、
前記物体検出部は、前記判定部が、前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、前記集計による度数を前記検出に用いることを特徴とする物体検出システム。
【請求項6】
請求項5に記載の物体検出システムであって、
前記主走査方向の往路の走査と、該往路の走査と副走査方向に隣接する位置の復路の走査とにおいて同じパターンで前記光ビームをパルス発光させ、
前記光ビームの各発光が前記往路の走査又は前記復路の走査中の何回目の点灯であるかに基づいて前記複数のグループを作成するグループ作成部を備えることを特徴とする物体検出システム。
【請求項7】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、
所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向に隣接する複数回の点灯を含む一のグループの各点灯について前記測定部が測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計部と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出部とを備えることを特徴とする物体検出システム。
【請求項8】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復主走査を含む光走査部と、
所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定部と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であってそれぞれ異なる回の主走査に含まれる点灯を含む一のグループの各点灯について前記測定部が測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計部と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出部と、
前記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように前記駆動信号の周波数を調整する調整部と、
前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定部とを備え、
前記物体検出部は、前記判定部が、前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、前記集計により得られた度数を前記物体検出に用いることを特徴とする物体検出システム。
【請求項9】
請求項8に記載の物体検出システムであって、
前記光検出部は、それぞれガイガーモードで動作させるアバランシェフォトダイオードである複数のピクセルによりピクセルごとに光を検出し、前記光ビームの前記各点灯と対応する入射光を同じ前記複数のピクセルにより検出し、前記複数のピクセルの各々からの光検出に応じた出力の合算を、該検出期間における入射光の検出結果として出力することを特徴とする物体検出システム。
【請求項10】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査手順と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射し導光部により導光された光を、光検出部により所定の位置で受光し検出する光検出手順と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向の往路の走査における点灯と該往路の走査に続く復路の走査における点灯とを含む一のグループの各点灯について前記測定手順で測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順とを備えることを特徴とする物体検出方法。
【請求項11】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査手順と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射し導光部により導光された光を、光検出部により所定の位置で受光し検出する光検出手順と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向に隣接する複数回の点灯を含む一のグループの各点灯について前記測定手順で測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順とを備えることを特徴とする物体検出方法。
【請求項12】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復主走査を含む光走査手順と、
投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射し導光部により導光された光を、光検出部により所定の位置で受光し検出する光検出手順と、
前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差を測定する測定手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であってそれぞれ異なる回の主走査に含まれる点灯を含む一のグループの各点灯について前記測定手順で測定した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順と、
前記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように前記駆動信号の周波数を調整する調整手順と、
前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定手順とを備え、
前記物体検出手順は、前記判定手順で、前記駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、前記集計により得られた度数を前記物体検出に用いる手順であることを特徴とする物体検出方法。
【請求項13】
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部とを備える光走査装置をプロセッサに制御させて、
請求項10乃至12のいずれか一項に記載の物体検出方法を実行させるためのプログラム。
【請求項14】
プロセッサに、
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部とを備える光走査装置が生成した、前記光ビームの各投光ついての前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差の測定結果を取得する取得手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向の往路の走査における点灯と該往路の走査に続く復路の走査における点灯とを含む一のグループの各点灯について前記取得手順で取得した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、前記光走査装置から見た、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順とを実行させるためのプログラム。
【請求項15】
プロセッサに、
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部とを備える光走査装置が生成した、前記光ビームの各投光ついての前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差の測定結果を取得する取得手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、前記第1方向に隣接する複数回の点灯を含む一のグループの各点灯について前記取得手順で取得した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、前記光走査装置から見た、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順とを実行させるためのプログラム。
【請求項16】
プロセッサに、
パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を前記光ビームで走査し、該走査が前記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される前記光ビームと逆向きの光路で前記第1反射材に入射する光を前記光検出部に導く導光部とを備える光走査装置が生成した、前記光ビームの各投光ついての前記光ビームの投光と前記光検出部による受光との時間差の測定結果及び、前記第1アクチュエータの駆動信号の周波数が前記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否かの判定結果を取得する取得手順と、
前記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であってそれぞれ異なる回の主走査に含まれる点灯を含む一のグループの各点灯について前記取得手順で取得した前記時間差を、前記時間差の値の階級毎に集計する集計手順と、
前記視野範囲内に設定された複数の前記グループの各々についての、前記光ビームの投光方向及び前記集計により得られた前記階級毎の度数に基づき、前記光走査装置から見た、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出手順であって、前記取得手順で取得した前記判定結果が一致である場合に前記集計により得られた度数を前記物体検出に用いる物体検出手順とを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、投光するレーザ光の光路上の物体を検出するための物体検出システム及び物体検出方法、ならびに、コンピュータに必要なハードウェアを制御させてこのような物体検出に係る手順を実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ光のパルスを外部へ照射し、物体により反射されて戻ってきたレーザ光を検出することにより、照射から反射光の検出までの時間(TOF:Time of flight)に基づきレーザ光の光路上にある物体及びその物体までの距離を検出する物体検出装置が知られている。このような物体検出装置は、ライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)と呼ばれる。
このようなライダーは近年、自動車の自動運転をはじめとする様々な分野で活用されるようになっている。
【0003】
ところで、ライダーによる物体検出においては、外乱光のノイズが問題となる。光検出部で入射光を検出する場合、光の有無のみでは、検出した光が照射光に対する反射光であるのか、照射光と無関係に入射する外乱光であるのか区別できないためである。
この問題に対処する技術として、特許文献1及び2に記載のようにヒストグラムを利用する技術が知られている。また、ヒストグラムを利用する技術は、特許文献3にも開示されている。
また、本件出願人の特許又は特許出願に係る公報として、特許文献4乃至特許文献7も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-91377号公報
【特許文献2】特開2020-112443号公報
【特許文献3】特開2020-26969号公報
【特許文献4】特許第6830698号公報
【特許文献5】特開2021-132416号公報
【特許文献6】特許第7097647号公報
【特許文献7】特許第6519033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2には、パルス光投光時間とパルス光受光時間との時間差を繰り返し又は複数のSPAD(Single Photon Avalanche Diode)により計測して、その時間差のヒストグラムを作成し、そのヒストグラムのピーク位置に基づいて対象物までの距離を算出する技術が記載されている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術は、測定対象をカバーする広がりのある光を照射して、その反射光を2次元アレイ化した受光素子に結像させて受光する、光での走査を行わないタイプのライダーに関する技術である。このため、視野範囲をレーザ光で走査するタイプのライダーに容易に適用できるものではなかった。
【0006】
また、特許文献3には、照射光が照射される一の方位あたり、反射光を受光する受光位置を複数の位置に変更したり、反射光の受光を行う一の受光位置あたり、照射光を照射する方位を複数の方位に変更するようにしたりしつつ、投光と受光の時間差のヒストグラムを作ることが記載されている。
【0007】
しかし、特許文献3に記載の技術は、光測距装置に用いられるレンズやホルダ等の部材が周辺温度に応じて変形することにより、受光範囲において反射光を適正に受光することができない可能性があることに対処し、多少受光の位置がずれても測距を行えるようにしたものであり、外乱光の影響低減のためにも有用であるか否かは不明である。
また、投光の方向に応じて異なる位置で反射光を受光できるよう、大型の受光素子アレイを用いるものであり、小型の装置には適用しにくいものであった。さらに、受光位置や光の照射方向について複雑な制御を行うことを前提としており、この点で低コスト化が難しかった。
【0008】
この発明は、これらの問題を解決し、所定の視野範囲をパルス発光するレーザ光により走査しつつ、反射光の受光タイミングに基づき物体を検出する場合において、小型かつ低コストの手法で、外乱光の影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の物体検出システムは、パルス発光する光ビームを、第1アクチュエータにより第1回転軸を中心に周期的に往復回転駆動される第1反射材により反射して投光することにより、所定の視野範囲を上記光ビームで走査し、該走査が上記第1反射材の回転方向と対応する第1方向の往復走査を含む光走査部と、所定の位置で光を受光し検出する光検出部と、投光される上記光ビームと逆向きの光路で上記第1反射材に入射する光を上記光検出部に導く導光部と、上記光ビームの投光と上記光検出部による受光との時間差を測定する測定部とを備える。
【0010】
このような物体検出システムが、上記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、上記第1方向の往路の走査における点灯と該往路の走査に続く復路の走査における点灯とを含む一のグループの各点灯について上記測定部が測定した上記時間差を、上記時間差の値の階級毎に集計する集計部と、上記視野範囲内に設定された複数の上記グループの各々についての、上記光ビームの投光方向及び上記集計により得られた上記階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出する物体検出を行う物体検出部とをさらに備えるとよい。
【0011】
また、上記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように上記駆動信号の周波数を調整する調整部と、上記駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定部とをさらに備え、上記物体検出部は、上記判定部が、上記駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、上記集計により得られた度数を上記物体検出に用いるとよい。
【0012】
さらに、上記第1方向の上記往路の走査と該往路の走査に続く上記復路の走査とにおいて同じパターンで上記光ビームをパルス発光させ、上記光ビームの各発光が上記往路の走査又は上記復路の走査中の何回目の点灯であるかに基づいて上記複数のグループを作成するグループ作成部を備えるとよい。
【0013】
あるいは、上記光走査部が、上記第1回転軸と平行でない第2回転軸を中心に回転駆動される第2反射材をさらに含み、上記光ビームの走査が、上記第1方向の主走査と、上記第2反射材の回転と対応する副走査とを含み、上記各グループに含まれる上記往路の走査における点灯と上記復路の走査における点灯とは、投光方向が上記副走査方向に隣接する点灯であるとよい。
【0014】
さらに、上記第1アクチュエータに印加する駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致するように上記駆動信号の周波数を調整する調整部と、上記駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致しているか否か判定する判定部とを備え、上記物体検出部は、上記判定部が、上記駆動信号の周波数が上記第1アクチュエータの共振周波数と一致していると判定した場合に、上記集計による度数を上記検出に用いるとよい。
【0015】
さらに、上記主走査方向の往路の走査と、該往路の走査と副走査方向に隣接する位置の復路の走査とにおいて同じパターンで上記光ビームをパルス発光させ、上記光ビームの各発光が上記往路の走査又は上記復路の走査中の何回目の点灯であるかに基づいて上記複数のグループを作成するグループ作成部を備えるとよい。
【0016】
また、上述した集計部に代えて、上記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であって、上記第1方向に隣接する複数回の点灯を含む一のグループの各点灯について上記測定部が測定した上記時間差を、上記時間差の値の階級毎に集計する集計部を設けてもよい。
あるいは、上述した集計部に代えて、上記光ビームの、相互に投光方向が近接する複数回の点灯であってそれぞれ異なる回の主走査に含まれる点灯を含む一のグループの各点灯について上記測定部が測定した上記時間差を、上記時間差の値の階級毎に集計する集計部を設けてもよい。
【0017】
また、上記の各物体検出システムにおいて、上記光検出部が、それぞれガイガーモードで動作させるアバランシェフォトダイオードである複数のピクセルによりピクセルごとに光を検出し、上記光ビームの上記各点灯と対応する入射光を同じ上記複数のピクセルにより検出し、上記複数のピクセルの各々からの光検出に応じた出力の合算を、該検出期間における入射光の検出結果として出力するものであるとよい。
【0018】
また、以上説明した各発明は、システムの態様のみならず、装置、方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体等、任意の態様で実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のような本発明によれば、所定の視野範囲をパルス発光するレーザ光により走査しつつ、反射光の受光タイミングに基づき物体を検出する場合において、小型かつ低コストの手法で、外乱光の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施形態である物体検出装置10の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。
図2】物体検出装置10における物体検出の原理について説明するための図である。
図3】物体検出装置10の主な構成要素の構造を示す分解斜視図である。
図4】物体検出装置10の外観を示す斜視図である。
図5図3に示したアクチュエータ300の、ミラーユニット301の回転軸に垂直な断面での断面図である。
図6】アクチュエータ300の駆動コイル316に印加する駆動信号の波形の例を示す図である。
図7】アクチュエータ300におけるミラー301の走査角と角速度の絶対値との関係の一例を示す図である。
図8図7と別の例を示す、図7と対応する図である。
図9図7とさらに別の例を示す、図7と対応する図である。
図10】出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置及び有効反射領域66aの位置との関係を示す模式図である。
図11】出射光L2が反射部66の有効反射領域66aにより反射されるタイミングの検出法について説明するための図である。
図12】ミラー301の走査角と角速度が図7の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す図である。
図13】ミラー301の走査角と角速度が図8の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す図である。
図14】ミラー301の走査角と角速度が図9の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す図である。
図15】走査部30により視野範囲中に形成される走査線の構成について説明するための模式図である。
図16】アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致している場合の、図15に示した走査から得られる物体像について説明するための図である。
図17】アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致していない場合の、図15に示した走査から得られる物体像について説明するための図である。
図18】LDのパルス発光により走査線上に形成されるスポットS及び、そのスポットSに関して設定するグループGの例について説明するための図である。
図19図19A乃至図19Dは、図18に示したグループG(n,x)内の各スポットの投光タイミングと、それに対応した光検出のタイミングとの関係の例を示す図である。
図20】グループG(n,x)内の各スポットSと対応するTOFの検出結果の集計例を示すヒストグラムである。
図21図1の受光部40の構成及び戻り光L4の光路をより詳細に示す図である。
図22図1の受光素子43の構成と、戻り光L4の入射位置との関係及び、受光素子43が出力する検出信号について説明するための図である。
図23図18に示した例における複数のグループGの位置関係を示す図である。
図24図1に示したプロセッサ53が実行する、物体検出のための処理の一例を示すフローチャートである。
図25】第1実施形態の第1変形例におけるグループGの設定例を示す図である。
図26】同じく第2変形例におけるグループGの設定例を示す図である。
図27】同じく第3変形例におけるグループGの設定例を示す図である。
図28】同じく第4変形例におけるグループGの設定例を示す図である。
図29】この発明の第5変形例においてプロセッサ53が実行する、図24と対応する処理のフローチャートである。
図30】第5変形例におけるグループGの別の設定例を示す図である。
図31】第6変形例において走査部30により視野範囲中に形成される走査線の構成について説明するための模式図である。
図32】グループGのさらに別の設定例を示す図である。
図33】この発明のさらに別の変形例においてプロセッサ53が実行する、図24と対応する処理のフローチャートである。
図34】走査部30におけるアクチュエータの別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔1.物体検出装置の全体構成(図1乃至図4)〕
まず、この発明の一実施形態である物体検出装置の全体構成について、図1及び図2を用い、主な構成要素をその機能に注目して区分して説明する。図1は、物体検出装置の主な構成要素をその機能に注目して区分して示すブロック図である。図2は、物体検出装置における物体検出の原理について説明するための図である。
【0022】
この発明の物体検出システムの一実施形態である物体検出装置10は、レーザビームを外部へ投光すると共に、外部の物体で反射されて戻ってくるレーザビームを検出し、その投光タイミングと反射光の検出タイミングとの差に基づき、レーザビームの光路上にある物体までの距離及びその物体がある方向を検出する装置である。この物体検出装置10は、図1に示すように、投光部20、走査部30、受光部40、フロントエンド回路51、TDC(時間-デジタル変換器:Time-to-Digital Converter)52、プロセッサ53、入出力部54を備える。
【0023】
これらのうち投光部20は、レーザビームを外部へ投光するためのモジュールであり、LD(レーザダイオード)モジュール21、レーザ駆動回路22、投光光学系23を備える。
LDモジュール21は、レーザ駆動回路22から印加される駆動信号に応じてレーザ光を出力するレーザ光源である。ここでは、複数の発光点を備えるものを用い、出力の強度を高めているが、発光点は1つであってもよい。レーザ光の波長に特に制約はないが、たとえば近赤外光のレーザ光を用いることが考えられる。レーザ光は、光ビームの一例である。
レーザ駆動回路22は、プロセッサ53から供給されるパラメータに従ったタイミングでLDモジュール21を点灯させるための駆動信号を生成し、LDモジュール21に印加するための回路である。LDモジュール21の点灯は、パルス波により間欠的に行う。
【0024】
投光光学系23は、LDモジュール21が出力するレーザ光を平行光のビームにするための光学系であり、この実施形態では、LDモジュール21が備える複数の発光点の中心に焦点が位置する凸レンズによるコリメートレンズを用いている。
なお、投光光学系23により形成されたレーザビームL1は、受光部40のミラー41の透孔41aを通過し、走査部30のミラー31により反射されて、出射光L2として物体検出装置10の外部へ出力される。
【0025】
次に、走査部30は、投光部20により出力されるレーザビームを偏向して、所定の視野(FOV:Field of View)70内を走査させるためのモジュールであり、反射材であるミラー31を有するアクチュエータ32を備える。アクチュエータ32は、レーザビームの光路上に設けたミラー31の向きを周期的に変動させることにより、レーザビームの投光方向を周期的に変動させる。
【0026】
また、図1ではアクチュエータ32を1つしか示していないが、実際にはアクチュエータ32は図3に示すようにそれぞれ異なる軸を中心にミラーを揺動させる2つのアクチュエータ300,380で構成される。そして、アクチュエータ300は往復駆動され、主走査方向(第1方向)の走査を担当して主走査方向(Horizontal)走査線71,72を形成し、アクチュエータ380は、主走査方向の走査の端部においてミラーの向きを変化させ、副走査方向の走査位置を調整する。なお、走査線71は図で左から右へ、走査線72は図で右から左へ向けて走査する。ここでは前者を往路走査、後者を復路走査と呼ぶが、これは単に両者を区別するためのもので、往路と復路が逆であってもよい。
【0027】
なお、LDモジュール21は間欠的に点灯するので、実際には走査線71,72は連続した線ではなくビームスポットの集合となる。
また、投光される出射光L2の光路上には反射部66を備えている。この反射部66は、主走査方向の一部分であって予め定められた位置において、出射光L2の少なくとも一部を、出射光L2の入射光路に向けて反射する部材である。反射部66については後に詳述する。
以上の投光部20及び走査部30が、光走査装置を構成する。
【0028】
次に、受光部40は、物体検出装置10の外部から入射する光を検出するためのモジュールであり、ミラー41、集光レンズ42、受光素子43、アパーチャー44を備える。この受光部40により検出したい光は、物体検出装置10から投光され外部の物体により反射されて戻ってくるレーザビーム及び、反射部66で反射されて戻ってくるレーザビームである。外部の物体で反射されるレーザビームは、物体面において乱反射されるが、そのうち投光時の光路と逆向きに反射された成分のみが、戻り光L3として物体検出装置10に戻る。この戻り光L3は、出射光L2とほぼ同じ経路を逆向きに進み、戻り光L4としてミラー41に到達する。
【0029】
反射部66で反射されて戻ってくるレーザビームも、同様に投光時の光路と逆向きに反射された成分が、戻り光L4としてミラー41に到達する。外部の物体で反射された場合との違いは、本質的にはレーザビームの走行距離の違いのみである。
【0030】
ミラー41は、投光部20から出力されるレーザビームを通過させるための透孔41aを備えると共に、戻り光L4を受光素子43へ導くための固定のミラーである。ここで、LDモジュール21が出力するレーザ光は一般に、コリメートレンズを通しても完全な平行光にはならず、小さな発散角を持つ。従って、ミラー41の位置において、戻り光L4はレーザビームL1に比べると広がりが大きいため、透孔41aよりも広い範囲でミラー41に当たり、透孔41a以外の位置に当たる成分が、受光素子43へ向けて反射される。
【0031】
集光レンズ42は、ミラー41で反射された戻り光L4を集光して所定の焦点面上に集光するレンズである。
受光素子43は、所定の受光面上に当たった光の強度に応じた検出信号を出力する光検出素子である。この実施形態では、受光素子としてシリコンフォトマルチプライヤー(SiPM)を用いている。この点については後に詳述する。
【0032】
アパーチャー44は、集光レンズ42の焦点面上に配置され、開口部以外の光を遮光することにより、外乱光が受光素子43に入射することを防止する。より具体的には、アパーチャー44は、投光時の光路と逆向きにミラー41に入射してミラー41により反射された戻り光L4の成分を所定の径で通過させ、それ以外の光を遮光する。このため、反射部66により出射光L2の入射光路と異なる向きに反射されたレーザビームは、ミラー41まで到達しても、アパーチャー44により遮光され、受光素子43には到達しない。
外乱光も同様に、たまたま戻り光L4とほぼ同じ経路で入射したわずかな成分以外はアパーチャー44により遮光され、受光素子43には到達しない。このため、アパーチャー44によって外乱光の大半はカットできる。
以上のうちミラー41、集光レンズ42及びアパーチャー44が、受光光学系を構成する。また、これら受光光学系に加えてミラー31が、導光部に該当する。
【0033】
次に、フロントエンド回路51は、受光素子43が出力する検出信号を、TDC52でのタイミング検出に適した波形に整形する回路である。
TDC52は、レーザ駆動回路22から供給される駆動信号と、フロントエンド回路51から供給される整形後の検出信号とに基づき、出射光となるレーザビームL1の点灯パルスのタイミングt0と、これと対応する戻り光L4のパルスのタイミングt1との時間差を示すデジタル出力を形成する回路である。このTDC52は、レーザ光の投光と受光素子43による受光との時間差を測定する測定部として機能する。
【0034】
なお、後述するように、戻り光L4とほぼ同じ経路で入射した外乱光の光子が受光素子43に到達した場合、そのことによっても受光素子43は検出信号を出力する。このため、TDC52が測定する時間差は、レーザ光の投光と外乱光の検出との時間差となってしまうこともある。これを前提に、戻り光L4由来の時間差と外乱光由来の時間差とを区別して戻り光L4由来の時間差を特定するための構成が、本実施形態の特徴の一つである。
【0035】
出射光のパルスと、戻り光のパルスでは、光が光路上の物体に到達して戻ってくるのに要する時間だけの時間差があるので、戻り光L4由来の時間差が特定できれば、その時間差Δt(以下、このΔtを「TOF(Time of Flight)」とも呼ぶ)に基づき、図2に示すように物体検出装置10から物体までの距離sを、s=c(Δt)/2として求めることができる。cは光速である。
なお、上記sは、正確には物体から受光素子43までの光路長である。レーザビームが反射部66により反射されて戻ってくる場合には、sは基本的には反射部66から受光素子43までの光路長である。しかし、LDモジュール21からミラー41までの距離とミラー41から受光素子43までの距離とが大きく異なる場合、この距離差による誤差を適宜に補正することが好ましい。
【0036】
プロセッサ53は、図1に示した各部の動作を制御する制御部である。CPU、ROM、RAM等を備え、ソフトウエアを実行する汎用のコンピュータにより構成してもよいし、専用のハードウエアにより構成してもよいし、それらの組み合わせであってもよい。プロセッサ53は例えば、TDC52からの出力信号に基づく物体までの距離の算出、戻り光の検出時点での走査部30による走査のタイミング(出射光L2の投光方向)に基づく物体のある方向の算出を行う。また、後に詳述するが、アクチュエータ300の駆動周波数をその共振周波数に合わせるための調整の処理及び、戻り光L4由来の時間差と外乱光由来の時間差とを区別して戻り光L4由来の時間差を特定するための処理も行う。
【0037】
入出力部54は、外部との間の情報の入出力を行うモジュールである。ここでいう情報の入出力には、外部の装置との間での有線あるいは無線による通信、ボタンやタッチパネル等を用いたユーザからの操作の受け付け、ディスプレイ、ランプ、スピーカ、バイブレータ等を用いたユーザへの情報の提示を含む。入出力部54が外部へ出力すべき情報としては、例えば、検出した物体に関する情報(距離や方向の生データでも、それらに基づき所定のサイズ、位置、移動速度等の物体を検出したことを示す情報でもよい)、物体検出装置10の動作状態や設定状態に関する情報が考えられる。入出力部54が外部から入力を受け付けるべき情報としては、例えば、物体検出装置10の動作の設定に関する情報が考えられる。
【0038】
入出力部54による通信の相手としては、例えば自動運転システムを備えた自動車やドローンなどの移動体、拡張現実(Augmented Reality:AR)分野等で用いるウェアラブルデバイスが考えられる。物体検出装置10が検出した物体の情報を自動運転システムに供給すれば、自動運転システムは、その情報を参照し、検出した物体を回避するような走行ルートを計画することができる。物体検出装置10が検出した物体の情報をウェアラブルデバイスに供給すれば、カメラで取り込んだ画像情報から周囲の物体を推定する場合と比べ、より高精度に周囲の物体の位置を検出して、物体画像に対し人工的に加工した情報を融合させることができる。
【0039】
なお、この発明を、物体検出装置10と、その通信相手の自動車やドローン、航空機、ウェアラブルデバイス等の装置とを含むシステムとして実施することも考えられる。なお、ここで説明する実施形態は、小型化や低消費電力化の要求が大きいウェアラブルデバイスに物体検出装置10を搭載する場合に、特に有用である。
【0040】
次に、物体検出装置10の概略の構造について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、物体検出装置の主な構成要素の構造を示す分解斜視図、図4は、物体検出装置の外観を示す斜視図である。
物体検出装置10は、図3及び図4に示すように、トップカバー61とリアカバー62を、2つのカバークリップ63,63により結合した外装を備える。また、トップカバー61は、出射光L2を通過させるための窓を備え、その窓には塵の侵入を防ぐための、出射光L2の波長において透明な保護材64が嵌められている。反射部66は、この保護材64の内側表面上に設けている。
【0041】
これらの筐体の内側に、図1に示した各構成要素が格納されている。なお、図1に示したアクチュエータ32は、主走査方向の走査を担当するアクチュエータ300と、副走査方向の走査を担当するアクチュエータ380との、2つのアクチュエータとして示している。ミラーユニット301は、アクチュエータ300が備えるミラーである。
また、ミラー48は、図1には示していないが、ミラー41と集光レンズ42の間にあって戻り光L4の向きを変えるための光学素子である。破線65は、物体検出装置10の視野(出射光L2による走査範囲)を示し、図1の視野70と対応する。レーザ駆動回路22、プロセッサ53等の回路やモジュール間の配線は、図を見やすくするため図3では図示を省略している。
以上で全体構成の説明を終え、以下、物体検出装置10のいくつかの構成要素について個別に説明する。
【0042】
〔2.アクチュエータ300の構成(図5)〕
走査部30が、アクチュエータ300と380を備えることは既に述べたが、これらのうちアクチュエータ300についてまず説明する。
図3に示したように、アクチュエータ300とアクチュエータ380は、その構成が大きく異なる。
アクチュエータ380は、出射光L2の副走査方向の偏向のために用いるので、さほど高速な運動は要求されないことから、物理的な軸を中心にミラー381を回転運動させるタイプのガルバノミラーと呼ばれるアクチュエータを用いている。
【0043】
一方、アクチュエータ300は、出射光L2の主走査方向の偏向のために用いるので、高速な運動が要求され、またその高速な運動を長時間継続できる耐久性も求められる。そこで、アクチュエータ300としては、このような目的に合ったアクチュエータを用いている。
【0044】
図5に、図3に示したアクチュエータ300の、ミラー301の回転軸に垂直な断面での断面図を示す。
概略としては、アクチュエータ300は、ミラーユニット301を、直線状の突起部を有するねじりばね302の一方の面に、突起部を跨ぐように固定し、ねじりばね302の端部を支持部材としてのトップヨーク314に固定して構成されている。そして、ねじりばね302の他方の面側に配置された永久磁石321及び駆動コイル316の作用により、駆動コイル316に印加された電圧に応じて、ねじりばね302及びミラーユニット301が、ねじりばね302の突起部の略中心に位置する回転軸304を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動する。
【0045】
すなわち、永久磁石321が、ねじりばね302の、突起部302cと反対側の面に、突起部を跨いた一方側にN極321nが、他方側にS極321sが位置するように固定される。
駆動コイル316の軸の一端が、トップヨーク314の開口部を通してこの永久磁石321のN極321nとS極321sの中間点と対向する。
【0046】
この状態で駆動コイル316に通電し、例えば永久磁石321と対向する側の端部がN極となると、永久磁石321のS極321sは駆動コイル316に引き寄せられ、N極321nは駆動コイル316と反発し、永久磁石321には、図5で見て時計回りに回転しようとする力が働く。その力により、ねじりばね302は、突起部302cの断面の中心付近にある仮想的な回転軸304を中心に時計回りに回転してねじれる。これにつれて、ねじりばね302に固定されたミラーユニット301も、回転軸304を中心に時計回りに回転する。
そして、駆動コイル316と永久磁石321の間に生じる磁力と、ねじりばね302の復元力とが釣り合う位置で回転が止まる。駆動コイル316に流す電流の強さを変えることにより、この回転の速さと停止位置を調整可能である。
【0047】
駆動コイル316への通電方向を逆向きにすると、ねじりばね302及びミラーユニット301は同様に反時計回りに回転する。
駆動コイル316に印加する駆動信号の電圧又は電流の向きを定期的に反転させることにより、図5に矢印Vで示すようにミラーユニット301に上記の時計回り及び反時計回りの回転を交互に行わせ、回転軸304の廻りを所定の角度範囲で往復回転運動させることができる。そして、このことにより、図1を用いて説明した、主走査方向の走査に必要なレーザビームL1の周期的な偏向を実現することができる。
【0048】
センシングコイル317は、永久磁石321が揺動することによって生じる磁界の強さの変動による誘導起電力により流れる電流の検出を通して、永久磁石321と共に回転するミラー301の回転角速度を検出するために設けたものである。この検出を行わない場合にはセンシングコイル317は不要である。
以上のようなアクチュエータ300としては、例えば本件出願人が提案した特許第6519033号公報(特許文献7)に記載のものを用いることができる。
【0049】
〔3.アクチュエータの駆動周波数の調整(図6乃至図14)〕
次に、上述した物体検出装置10が実行する、アクチュエータの駆動周波数を共振周波数に合わせるための調整に関する動作について説明する。この動作について、上述のアクチュエータ300を用いる場合を例として説明するが、同様な調整は、後述するアクチュエータ400を含め、共振周波数を持つアクチュエータであれば、任意の形態のものに適用可能である。
【0050】
図6に、アクチュエータ300を駆動するために駆動コイル316に印加する駆動信号drv_pの波形の例を示す。
ここで用いる駆動信号drv_pは、図6に示すように、一定周期で+vと-vの電圧が繰り返す矩形波である。この周期の逆数(本明細書において、これを「駆動周波数」と呼ぶ)が、可動子であるミラーユニット301(以下「ミラー301」と呼ぶ)を含む可動子320の共振周波数と一致する場合に、アクチュエータ300のミラー301を効率よく、すなわち低消費電力で駆動することができる。また、往路と復路との間で、容易に主走査線上の各スポットの主走査方向位置を一致させることができる。
なお、上記のような、アクチュエータ中における反射材を含む可動子の共振周波数を、「アクチュエータの共振周波数」と呼ぶことにする。
【0051】
ここで、図7乃至図9に、ミラー301の走査角と角速度の絶対値との関係を、いくつかの場合について示す。図7は、駆動周波数がアクチュエータ300の共振周波数と一致している場合の例、図8及び図9は、駆動周波数がアクチュエータ300の共振周波数からずれている場合の例である。図7乃至図9では、ミラー301の揺動経路上の位置(適宜な位置を基準とした回転角により表現し、これを「走査角」と呼んでいる)を横軸に、その位置での角速度の絶対値を縦軸に取って速度の変化を図示している。往路走査時の関係を実線501で、復路走査時の関係を破線502で示している。
なお、以後の説明について、特に断らずに「速度」あるいは「角速度」といった場合には、速度あるいは角速度の絶対値を指す。
【0052】
ここで、アクチュエータ300により揺動されるミラー301の移動速度は一定ではないことがわかっている。ミラー301は揺動経路の端部では停止し他の部分では動いているので、移動速度に変動があるのは明らかだが、発明者らの実験によれば、その速度は、図7乃至図9に示すように、概ね揺動経路の端部に行くほど遅く、中央部に行くほど速くなっている。
【0053】
また、発明者らの実験により、駆動周波数がアクチュエータ300の共振周波数と(ほぼ)一致している図7の場合には、時計回りと反時計回りのどちらに回転する場合でも、すなわち往路走査と復路走査のどちらの場合でも、移動の向きが異なるのみで、同じ位置であれば角速度はほぼ等しいこともわかってる。また、主走査の中央位置が角速度のピークとなる。このため、図7では実線501と破線502は重なっており、図には実線501のみが表れている。
【0054】
一方、発明者らの実験により、駆動周波数がアクチュエータ300の共振周波数とずれている場合には、図8又は図9に示すように、往路走査と復路走査とで、走査角と角速度との関係が異なることもわかっている。このとき、各走査における角速度のピークも、主走査の中央位置からずれる。
図8の例では往路走査、復路走査ともに角速度のピークが中央位置よりも後方にずれている。図9の例では逆にピークが中央位置よりも前方にずれている。
【0055】
発明者らの実験により、駆動周波数とアクチュエータ300の共振周波数とが比較的近い場合には、駆動周波数を共振周波数(と想定される周波数)に徐々に近づけ、共振周波数を通り越して変化させると、往復走査における走査角と角速度との関係は次のように変化することがわかった。
【0056】
すなわち、初めは図8図9の一方の関係をとり、駆動周波数が共振周波数に近づくにつれて往路走査と復路走査の差が小さくなり、ある値となったとき図7に示す関係となる。この値が共振周波数であると考えられる。その後、駆動周波数が共振周波数を通り過ぎると、図8図9のうち他方の関係となり、駆動周波数が共振周波数から離れるにつれて往路走査と復路走査の差が大きくなっていく。
【0057】
この実施形態におけるアクチュエータ300の駆動周波数の制御は、ミラー301の走査角と角速度との間のこれらの関係を利用し、アクチュエータ300の駆動周波数をアクチュエータ300の共振周波数と一致させるために行うものである。図1及び図4に示した反射部66は、この駆動周波数制御のために設けたものである。
【0058】
次に、この駆動周波数制御の原理について図10乃至図14も用いて説明する。
図10に、出射光L2の走査範囲と反射部66を設ける位置及び有効反射領域66aの位置との関係を示す。
図10に示すように、二点鎖線で示す出射光L2の走査範囲65は、出射光L2が透過可能な保護材64内に長方形状に形成される。図で横方向が主走査方向であり、縦方向が副走査方向である。71と72は、それぞれ往路と復路の主走査線の例を示す。
【0059】
反射部66は、出射光L2の走査範囲内の主走査方向の一部分の領域であって、少なくとも1往復分の主走査線が通過するだけの副走査方向の広がりを持つ、予め定めた領域に設けている。反射部66は、入射する出射光L2を正反射するように形成する。この結果、主走査方向で見た場合には、有効反射領域66aに入射する出射光L2が出射光L2と同じ光路に向けて反射される。
逆に言えば、出射光L2が反射面に対してほぼ垂直に入射する位置が有効反射領域66aとなり、反射部66は、このような有効反射領域66aを包含する主走査方向範囲に形成するとよい。
【0060】
図11は、出射光L2が有効反射領域66aにより反射されるタイミングの検出法についての説明図である。
物体検出装置10が物体検出を行う場合、LDモジュール21を間欠的に点灯させ走査線71,72をビームスポット73の集合として形成することは図1の説明で述べた通りである。そして、ビームスポット73が有効反射領域66aに入射し有効反射領域66aで反射されると、TDC52が、点灯パルスのタイミングt0と、これと対応する戻り光L4のパルスのタイミングt1との時間差として、有効反射領域66aから受光素子43までの距離と対応する時間差の信号を出力する。プロセッサ53は、あるビームスポットについてこの時間差の信号を検出した場合に、そのビームスポットの出射光L2が有効反射領域66aにより反射されたと判定すればよい。
【0061】
有効反射領域66aは主走査方向に一定の幅を持つため、主走査線が有効反射領域66aを通る場合、その主走査線を構成するビームスポットのうち一定数は有効反射領域66aにより反射される。図11ではこれらのスポットにハッチングを付している。プロセッサ53は、有効反射領域66aにより反射される各スポットの点灯タイミングから、一主走査中で出射光L2が有効反射領域66aに入射する時間範囲を特定できる。
外光によるノイズが混じる場合もあるが、有効反射領域66aによる反射はある程度の主走査範囲で連続して起こるので、主走査方向に連続した複数のビームスポットについて時間差の信号をモニタすることにより、外光によるノイズは容易に除外できる。
【0062】
図11乃至図14では、この時間範囲にハッチングを付し、有効反射領域66aのうち図10で左側の端部と対応するタイミングをRa、同じく右側の端部と対応するタイミングをRbで示している。RaとRbは、受光素子43による反射光の検出有無が入れ替わる光学的端部のタイミングであるということができる。
【0063】
またプロセッサ53は、アクチュエータ300の駆動信号drv_pの電圧反転のタイミングを、各主走査の始点及び終点のタイミングとして参照することができる。図11乃至図14では、往路の主走査の始点をTs、終点をTeで示し、復路の主走査の始点をTs′、終点をTe′で示している。
以上の通り、プロセッサ53は、物体検出に用いるハードウエア及びアルゴリズムをほぼそのまま使って、各主走査を行った時間のうちどの時間範囲でレーザビームが有効反射領域66aで反射されたかの情報を得ることができる。
【0064】
なお実際には、主走査線の端部が見切られている等して、主走査線を基準に見ると往路走査の期間と復路走査の期間とが連続していないこともあり得る。しかし、駆動周波数の調整に際しては、往復回転運動するミラー301が揺動経路の一方側の端部で回転を開始してから他方側の端部まで回転して静止し回転方向を変えるまでを一主走査とカウントし、往路走査と復路走査とは連続して行われるものとする。すなわち、往路のTeと次の復路のTs′は一致し、復路のTe′と次の往路のTsとは一致すると考えて以降の説明をする。
【0065】
図12乃至図14にそれぞれ、ミラー301の走査角と角速度とが図7乃至図9の関係にある場合の、一主走査中で有効反射領域66aからの反射光が検出される時間範囲を示す。なお、往路走査と復路走査との間では駆動周波数を変更せず、往路走査と復路走査で一主走査に要する時間(Te-Ts又はTe′-Ts′)は共通であるとする。
【0066】
図12に示す、駆動周波数がミラー301の共振周波数と(ほぼ)一致している状態では、往路走査において、グラフ511に示すように走査期間の中央よりやや早い時点で出射光L2が有効反射領域66aにより反射されその反射光が受光素子43により検出される。これは、反射部66が、往路走査の経路の前半に配置されていることと対応する。逆に復路走査では、グラフ512に示すように走査期間の中央よりやや遅い時点で反射光が受光素子43により検出される。
【0067】
また、この状態では図7に示すように往路と復路でミラー301の走査角と角速度との関係が同じであることから、復路走査の各ビームスポットについてのTDC52の出力を逆順に並べると、グラフ513に示すように往路走査における出力と(ほぼ)一致すると考えられる。
【0068】
すなわち、往路走査と復路走査で、出射光L2が有効反射領域66aの端部により反射されるタイミング(第1参照タイミング)と、走査が走査線の端部に達するタイミング(第2参照タイミング:ミラー301が揺動経路の端部で回転方向を変えるタイミング)との時間差は一致する。ただし、ここでいう「端部」は、視野範囲の同じ側に位置する端部(特定の端部)である。すなわち、例えば往路走査におけるRa-Tsは復路走査におけるTe′-Raと等しい。また、往路走査におけるTe-Rbは復路走査におけるTs′-Rbと等しい。
【0069】
図12の例に対し、図8のように走査の後半側で角速度が大きくなる条件では、図13に示すように、往路走査復路走査ともに、図12の場合と比べ有効反射領域66aからの反射光が検出されるタイミングが走査の後半側にずれる。
逆に、図9のように走査の前半側で角速度が大きくなる条件では、図14に示すように、往路走査復路走査ともに、図12の場合と比べ有効反射領域66aからの反射光が検出されるタイミングが走査の前半側にずれる。図13及び図14において、仮想線で示す位置が図12における検出タイミングの位置である。
【0070】
従って、駆動周波数がミラー301の共振周波数と一致していない状態では、第1参照タイミングと第2参照タイミングとの時間差が異なることになる。
また、駆動周波数と共振周波数とのずれが小さくなれば、上記時間差の違いも小さくなる。
以上から、往路走査と復路走査で、第1参照タイミングと第2参照タイミングとの時間差が一致するようにアクチュエータ300の駆動周波数を調整すれば、駆動周波数をミラー301の共振周波数と一致させることができる。
【0071】
実際の調整に際しては、例えば、往路走査と復路走査で、第1参照タイミングと第2参照タイミングとの時間差が一致していない場合に、駆動周波数を増減適当な方向へわずかに調整して往路と復路の差分の増減を求め、当該差分が減る方向へ向けて、当該差分がゼロになるまで駆動周波数を調整すればよい。
以上のような駆動周波数調整の具体的手法については、例えば本件出願人が提案した特許第7097647号公報(特許文献6)に記載のものを用いることができる。
【0072】
〔4.外乱光によるノイズの低減(図15乃至図22)〕
次に、上述した物体検出装置10が実行する、物体検出に際して外乱光によるノイズの影響を低減するための動作について説明する。
【0073】
まず図15に、走査部30により視野範囲中に形成される走査線の構成を示す。
図15に示すように、走査部30は、図10に示した反射部66を通る主走査線を含め、互いに平行な多数の主走査線71,72を、視野範囲65内に形成する。往路の走査による主走査線71と復路の走査による主走査線72とは、副走査方向に交互に並ぶ。これは、主走査が主走査範囲の端部に達したタイミングでアクチュエータ380を駆動してミラー381を主走査線間の間隔に対応する角度だけ回転させ、その後に逆向きの主走査を行うことを繰り返すことにより実現される。
【0074】
ここでは、副走査方向の走査は図15の上から下に向かってなされるものとする。副走査方向の走査が下端に達した後は、アクチュエータ380を副走査中と逆向きに回転させてミラー381を副走査開始位置に向け、次のフレームの走査を行う。
出射光L2により主走査線71,72上を走査する間、パルス状の駆動信号をLDモジュール21に印加してLDをパルス発光させ、投光される出射光L2により各走査線71,72上に多数のスポットを形成することは上述の通りである。
【0075】
ここで、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致していれば、1主走査期間中のLDの発光間隔が各主走査線上で一致するようにLDの発光タイミングを制御することにより、往路の主走査線71上の各スポットと、復路の主走査線72上の各スポットとで、主走査方向の位置を合わせることができる。すなわち、1から一主走査線上のスポット数Xまでの任意の自然数xについて、往路の主走査線71上の初めからx番目のスポットと復路の主走査線72上の終わりからx番目のスポットとで主走査方向の位置をほぼ一致させることができる。
【0076】
すなわち、この場合には図7に示したように走査角と角速度との関係が往路と復路で一致し、かつ主走査の中央位置に対して対称であるため、同じ発光間隔でLDを点灯させると、スポットの分布が、往路と復路で共通な、主走査の中央位置に対して対称な分布となるためである。
【0077】
従ってこの場合、実質的に、視野範囲65内にスポットが主走査方向だけでなく副走査方向にも整列した状態で分布することになる。LDの発光間隔が主走査線上の位置によって変動する場合でも、主走査線上での発光間隔の分布が主走査の中央位置に対して対称であれば、同様なことが言える。
【0078】
図16に、この状態を模式的に表している。図16に破線で示すのは、概ね物体80に入射する位置にある、往路の主走査線71上の初めからx番目のスポットの主走査方向の位置と、復路の主走査線72上の終わりからx番目のスポットの主走査方向の位置であり、これらは一致する。
従って、単純にこれら双方を「主走査方向のx番目の位置の画素」と捉えて往路と復路の走査から得られる物体80の位置や距離を合成して、両方向の走査線を合わせた解像度で、物体80の位置や形状を反映した物体像81を得ることができる。
【0079】
一方、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致していない場合、図8及び図9に示したように、走査角と角速度との関係が往路と復路で異なる。従って、1主走査期間中のLDの発光間隔が各主走査線上で一致するようにLDの発光タイミングを制御しても、往路の主走査線71上の各スポットと、復路の主走査線72上の各スポットとで、主走査方向の位置は合わない。例えば図8の関係である場合、往路では図15の左側でスポットが密に、右側で疎になり、復路では逆に左側で疎に、右側で密になる。
ただし、安定した往復走査ができている限りにおいては、往路同士、復路同士では、各主走査線上の各スポットの主走査方向の位置は概ね一致する。
【0080】
図17に、この状態を模式的に表している。図17に破線で示すのも、図16と同様、往路の主走査線71上の初めからx番目のスポットの主走査方向の位置と、復路の主走査線72上の終わりからx番目のスポットの主走査方向の位置である。しかしこれらは一般に一致しない。どちらが右側に来るかは状況や主走査方向の位置によって異なる。
従って、単純にこれら双方を「主走査方向のx番目の位置の画素」と捉えて往路と復路の走査から得られる物体80の位置や距離を合成してしまうと、往路の走査から得られる物体像82と、復路の走査から得られる、物体像82と異なる物体像83とが混在したような物体像が得られてしまう。
ただし、物体像82及び物体像83のそれぞれは、図16の物体像81に比べて副走査方向の解像度が半分であるが、それぞれ物体80の位置や形状を反映したものになる。
【0081】
ところで、物体検出装置10は、物体検出に際して外乱光によるノイズの影響を低減するために、複数のスポットと対応する反射光のTOFの検出結果を集計し、その集計結果に基づき、当該複数のスポットと対応する方向における物体までの距離を算出するようにしている。この、複数のスポットの集まりをスポットの「グループ」と呼ぶことにする。
【0082】
図18に、グループの設定例を示す。
図18において、往路の主走査線71と復路の主走査線72の符号には、それぞれ図15で上から何番目の主走査線であるかを示す枝番号をつけている。例えば主走査線71-nは、n番目の主走査線であることを示す。この番号は、往路と復路とを区別せずに数えている。このため、主走査線71-nのすぐ下側の主走査線は復路の主走査線72-(n+1)となる。
【0083】
また、n番目の主走査線上の、図15で左側からx番目のスポットに、S(n,x)の符号を付している。左側からx番目のスポットは、往路では初めからx番目、復路では終わりからx番目に該当する。
さらに、スポットSのグループGは、グループ内の左上端に位置するスポットの位置を用いて、例えば左上端のスポットがスポットS(n,x)であれば、G(n,x)の符号で示している。
【0084】
図18の例では、主走査方向と副走査方向にそれぞれ2スポット、合計で2×2=4スポットを、グループG(n,x)と定めた例を示している。グループGを構成するスポットは、S(n,x)、S(n,x+1)、S(n+1,x)、S(n+1,x+1)の4つである。
このように相互に近接した位置にある(すなわち相互に近接した投光方向の)スポットであれば、もし投光方向に物体があれば物体上の近接した位置に入射し、TOFも近い値になることが想定される。
【0085】
図19A乃至図19Dは、図18に示したグループG(n,x)内の各スポットの投光タイミングと、それに対応した受光素子43による光検出のタイミングとの関係の例を示す図である。この例において、4つのスポットSの入射する位置において、物体検出装置10から物体までの距離はほぼ等しいとする。
【0086】
まず、物体からの反射光については、各スポットに共通して、LD駆動信号の点灯パルスのタイミングからTOFに相当する時間Tだけ後のタイミングで検出されるはずである。各図ではPD出力のパルスによりこの検出信号を示している。しかし、反射光の光量が少なく光子が1つも返ってこない場合には、図19Dに示すように反射光のパルスが検出されない可能性もある。
【0087】
一方、受光素子43には、点灯パルスと無関係に外乱光に由来する光子も入射し、この入射があると受光素子43は検出信号を出力する。パルス自体では、反射光を受光した場合の検出信号と区別がつかない。また、検出信号が発生するタイミングを予め予測することもできない。
図19A乃至図19Dの例では、図19Aにおいて点灯パルスより時間T1だけ後のタイミングで、図19Bにおいて点灯パルスより時間T2だけ後のタイミングで、外乱光の検出信号が出力されている。図19C及び図19Dの例では、外乱光の検出信号は出力されていない。
【0088】
なお、図19A及び図19Bから明らかなように、受光素子43は、1の点灯パルスに対応する複数回の受光を検出し、それぞれに対応する検出信号を出力することができる。受光素子43としては例えば、予め定めた分解能に対応する時間範囲毎に、その時間範囲内で光(光子)が入射した場合に検出信号としてパルスを出力し、光が入射しない場合にはそのことを示すフラットな信号を出力するものを用いることが考えられる。
【0089】
図1のTDC52は、各スポットと対応する点灯パルスから、点灯パルスの間隔よりも短い所定時間以内に受光素子43から出力されフロントエンド回路51により整形された出力信号に基づき、各スポットと対応する反射光のTOFを求めてプロセッサ53に渡す。1のスポットと対応するTOFの値が複数あることもあり得る。
プロセッサ53は、グループ毎に、グループ内の各スポットと対応するTOFの値を、所定の階級毎に集計する。
【0090】
次に、図20に、図19に示したTOFの検出結果の集計例を示す。
図20では、集計結果をヒストグラムとして表しており、横軸がTOFの階級、縦軸が度数である。もちろん、プロセッサ53の処理としてはTOFの階級毎の度数を求めるのみでよい。
図19に示した4つのスポットと対応するTOFの値を集計すると、図20に示すように、Tを含む階級の度数が3、T1及びT2を含む階級の度数がそれぞれ1となる。このように、物体からの反射光については、複数のスポットで共通のTOFが検出されるので、その部分の度数は大きくなると考えられる。
【0091】
そこで、プロセッサ53は、所定の閾値(図20の例では2)以上の度数となった階級の代表値を、グループの投光方向に存在する物体からの反射光のTOFであるとして、物体までの距離を求める。代表値は階級の中央の値であってもよいし、階級内の他の値であってもよい。所定の閾値以上の度数となった階級がない場合、グループの投光方向からは反射光は返ってこず、その方向には検出できる物体はないと判断する。
【0092】
なお、図19Dのように反射光が検出できない場合もあるので、閾値は、グループ内のスポット数よりは小さい値とするとよい。度数が小さい階級の値は、ランダムに入射した外乱光が検出されたものと考えることができるので、閾値は外乱光ではほぼ達しないような値とすることが好ましい。ただし、小さい閾値を採用した結果少数のグループで外乱光を物体からの反射光と誤認したとしても、全体的な物体像の構成に大きな影響はないことが通常である。
【0093】
また、グループの投光方向は、グループ内の各スポットの投光方向を平均した値とすることが考えられる。あるいは、グループ内のいずれかのスポットの投光方向とすることも考えられる。
各グループについてのこのような投光方向及び集計により得られた階級毎の度数に基づき、物体が存在する方向及び該物体までの距離を検出することで、受光素子43が出力する外乱光由来の検出信号を効率よく除去し、外乱光の影響を受けにくい物体検出を行うことができる。
【0094】
なお、集計時のTOFの階級は、TOFの測定時の分解能と同じでもよいし、分解能よりも粗くてもよい。階級が細かすぎると、スポット毎の物体までの距離のわずかな違いで、物体からの反射光のTOFが異なる階級に分類されてしまうので、TOFの階級は、TOFの測定時の分解能よりも粗いことが好ましい。
また、グループと対応するTOFを決める際には、閾値以上の度数となった階級に分類された全てのTOFの平均値を採用する等すれば、階級が粗くても、TOFの分解能は測定時の値を維持できる。
【0095】
また、グループと対応する1つのTOFを求めるのではなく、グループを構成する各スポットと対応するTOFのうち、図20の集計で閾値以上の度数となった階級に分類されたTOFを、当該スポットの投光方向に存在する物体からの反射光のTOFとして採用するようにしてもよい。このようにすれば、図20の集計を行う場合でも、グループ毎でなくスポット毎に物体までの距離を求めることができる。この場合、1グループと対応する投光方向が複数あることになるが、各グループについての投光方向及び集計により得られた階級毎の度数に基づき物体検出を行うことに変わりはない。
【0096】
ここで、図21に、受光部40の集光レンズ42、受光素子43及びアパーチャー44の構成及び戻り光L4の光路を図1よりも詳細に示す。また図22は、受光素子43の構成と、戻り光L4の入射位置との関係及び、受光素子43が出力する検出信号について説明するための図である。
図1の説明でも述べたが、受光部40では、図21に示すように集光レンズ42によりミラー41で反射された戻り光L4を集光してアパーチャー44の位置にある焦点面上に集光する。アパーチャー44は集光レンズ42が形成可能な焦点径と対応する極めて小さな径の開口部を有し、その開口部から戻り光L4を通過させる。アパーチャー44を通過した戻り光L4は若干広がったスポットとして受光素子43の受光面に入射する。
【0097】
そして、この実施形態で受光素子43として用いるSiPMは、図22に示すように受光面上にガイガーモードで動作するアバランシェフォトダイオード(APD)43aのアレイを設けた構成である。この受光素子43は、戻り光L4が概ねAPD43aの形成範囲全体に入射するような位置に配置される。
【0098】
走査部30及び受光部40は、このように投光される出射光L2と逆向きの光路でミラー31に入射する光を受光素子43に導くようにしているため、ミラー41以降は、出射光L2の投光方向によらず同じ光路で戻り光L4を受光素子43の同じ位置に入射させることができる。このため、常にAPD43aのアレイ全体で戻り光L4を検出することができるので、さほど大型のアレイを用いなくても、十分な感度で戻り光L4を検出することができ、受光素子43の、ひいては物体検出装置10全体のサイズやコストを抑えることができる。
【0099】
また、各APD43aは、光子1個の入射に応じてパルス信号を出力することができる。そして受光素子43は、各APD43aと対応する出力信号線43bを備え、全ての出力信号線43bの出力信号を加算した信号を、検出信号46として出力信号線43cから出力する。
物体検出装置10においては、走査線やスポットの間隔、走査の周期等の走査条件に応じてAPD43aのうち出力信号を加算する範囲を変更する必要がないので、このような1系統の出力信号線43cから検出信号を出力することができ、ハードウエア構成を単純化し、低コスト化できる。
【0100】
次に、図23に、複数のグループの配置例を示す。
物体検出装置10において、プロセッサ53は、以上説明してきたようなグループ内の各スポットについてのTOFの集計を、グループ毎に行って、その集計結果に基づき各グループの(又はグループ内の各スポットの)投光方向にある物体までの距離を求める。
このため、グループは、図23に示すように視野範囲65内に間隔を開けずに密に配置する。図23の例ではG(n,x)、G(n,x+2)、G(n+2,x)、G(n+2,x+2)の4つのグループのみ示しているが、この上下左右にも同様に2×2スポットのグループを設定する。なお、あるグループと隣接するグループとの間にどのグループにも属さないスポットを設けたとしても、物体検出の解像度が下がる以上の支障はなく、物体検出自体は可能である。
【0101】
なお、通常は検出対象の物体には凹凸があるし、物体検出装置10に対して正対しているわけではない。このため、スポットの位置が離れてしまうと、物体までの距離が変わってしまう可能性が高まる。従って、各グループはなるべく投光方向が近接したスポットにより構成されることが好ましい。一方で、特に外乱光の光量が大きい場合、少なくとも4つ程度のスポットをグループ化しないと、外乱光と物体との反射光との区別が難しい。
【0102】
このとき、例えばグループを同じ主走査線上のスポットのみで構成すると、両端のスポットの間隔が開いてしまい、不都合がある。そこでこの実施形態では、図18及び図23に示すように、グループを隣接する複数の主走査線に跨るように設定することで、なるべく投光方向が近接したスポットにより構成するようにしている。この場合、各グループには、往路の主走査におけるスポットと該往路の主走査に続く復路の主走査における点灯とが含まれることになる。
【0103】
ただし、図16及び図17を用いて説明したように、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と合っている状態でないと、往路の主走査線71上の何番目のスポットが、復路の主走査線72上の何番目のスポットと近接しているかを把握することは難しい。そこで、この実施形態の物体検出装置では、物体検出の開始前に上述したようなアクチュエータ300の駆動周波数を共振周波数と一致させる駆動周波数調整を行い、一致が確認できた後で、物体検出を行うようにしている。すなわち、当該一致が確認できた場合に、TOFの集計結果を物体検出に用いるようにしている。
当該一致が確認できていれば、図18及び図23に示したように各スポットが往路の走査又は復路の走査中の何回目の点灯であるかに基づいて、投光方向が相互に近接しているスポットによるグループを作成することができる。あるいは、このように予め作成しておいた各グループ内の各スポットの投光方向が、実際に相互に近接した方向となる。
【0104】
次に、図24に、物体検出装置10のプロセッサ53が実行する、以上説明してきた、外乱光の影響を低減した物体検出のための処理のフローチャートを示す。この処理は、ソフトウエアによって実現可能である他、専用のハードウエアによっても実現可能である。この処理は、この発明の物体検出方法に係る処理である。
プロセッサ53は、ユーザの操作、他のプロセスあるいは他の装置からの要求などの何らかのトリガによる物体検出開始指示を検出すると、図24に示す処理を開始する。
【0105】
この処理において、プロセッサ53はまず、アクチュエータ300及び380、LDモジュール21及び受光素子43を起動し、以後、プロセッサ53からの制御信号によりこれらの動作を制御できる状態とする(S11)。処理開始時点で既にこの状態となっている場合、ステップS11は省略できる。
【0106】
次に、プロセッサ53は、アクチュエータ300の駆動周波数を、図6乃至図14を用いて説明した手法により、アクチュエータ300の共振周波数と一致するように調整する(S12)。プロセッサ53は、駆動周波数が共振周波数と一致しているか否か判定し、一致したら(S13のYes)、ステップS14以下に進む。
ステップS13でYesとなると、プロセッサ53は、図18及び図23を用いて説明したようなスポットのグループを、物体検出に用いる視野範囲65内の各スポットについて作成する(S14)。
【0107】
そして、LDの各発光について、発光タイミングとその後の受光素子43の光検出タイミングとの時間差(TOF)を取得し(S15)、取得した時間差を、ステップS14で作成したグループ毎に、図20を用いて説明したように時間差の値の階級毎に集計する(S16)。
【0108】
その後、グループ毎に、度数が閾値以上となった階級があった場合に、その階級の代表値を、当該グループにおける物体からの反射光のTOF値として記録し(S17)、各グループのTOF値に基づき、検出した物体の方向及び物体までの距離を算出して出力する(S18)。この出力は例えば、各グループと対応する方位と物体までの距離との組み合わせを、グループ毎に出力するものである。これ以外に、上述したように、グループを構成する各スポットと対応する方位と物体までの距離との組み合わせを出力するものであってもよい。
そして、物体検出を続ける場合にはステップS15に戻って処理を繰り返し、物体検出を終了する場合には図24の処理を終了する(S19)。
【0109】
以上の処理は、ステップS13でYes(一致)と判定した場合に、各グループについての投光方向及び階級毎の度数に基づき物体検出を行うものである。逆に言えば、ステップS13でNoである間は、各グループについての投光方向及び階級毎の度数を物体検出に用いないのみならず、物体検出自体を行わないし、その結果も出力しないものである。
【0110】
以上の処理において、ステップS12が調整手順、ステップS13が判定手順、ステップS14がグループ作成手順、ステップS16が集計手順、ステップS17及びS18が物体検出手順の処理である。これらの手順において、プロセッサ53はそれぞれ調整部、判定部、グループ作成部、集計部、および物体検出部として機能する。
なお、グループは、ステップS15よりも前に予め作成して記憶しておくのでなく、グループ作成の規則のみ予め用意しておき、ステップS15の後で、各点灯をその規則に従ってグループに分けてステップS16の集計を行うようにしてもよい。
【0111】
以上説明してきた実施形態によれば、所定の視野範囲をパルス発光するレーザ光により走査しつつ、反射光の受光タイミングに基づき物体を検出する場合において、小型の物体検出装置10により、外乱光の影響を効率よく排除して精度のよい物体検出を行うことができる。また、このための処理はさほど複雑でなく、ソフトウエアとハードウエアを含む物体検出装置10のコストを抑えることもできる。
発明者らによる実験では、以上説明してきた実施形態の物体検出装置10により、屋外において太陽の方向に存在する物体を検出しようとした場合にはわずかに誤検出が発生したが、それ以外の場合には適切に外乱光の影響を排除して物体を検出することができた。
【0112】
〔5.第1乃至第4変形例(図25乃至図28)〕
次に、上述した実施形態の第1乃至第4変形例について説明する。これらの変形例は、グループの設定方法が上述した実施形態と異なるのみであるので、この点についてのみ説明する。特に断らない限り、上述した実施形態と共通の又は対応する箇所には共通の符号を用いる。この点は、他の変形例においても同様である。
【0113】
図25乃至図28にそれぞれ、第1乃至第4変形例に係るスポットのグループの設定例を示す。これらの図において、各主走査線の符号は、対応する主走査線の左側に記載している。
第1変形例においては、図25に示すように、複数のグループの範囲が主走査方向に重なるようにグループを設定している。各グループのサイズは2×2=4スポットで、図23の場合と同様である。この例では、グループG(n,x)の右側には、1スポットずれた位置にグループG(n,x+1)を設けている。従って、スポットS(n,x+1)とスポットS(n+1,x+1)は、これら双方のグループに含まれることになる。同様に、グループG(n+2,x)の右側には、1スポットずれた位置にグループG(n+2,x+1)を設けている。
【0114】
第2変形例においては、図26に示すように、複数のグループの範囲が副走査方向に重なるようにグループを設定している。各グループのサイズは2×2=4スポットで、図23及び図25の場合と同様である。この例では、グループG(n,x)の下側に、1スポット(1主走査線)ずれた位置にグループG(n+1,x)を設けている。従って、スポットS(n+1,x)とスポットS(n+1,x+1)は、これら双方のグループに含まれることになる。同様に、グループG(n,x+2)の下側には、1スポットずれた位置にグループG(n+1,x+2)を設けている。
【0115】
グループ毎に物体の方向及び距離の情報を出力する場合、図23のように各グループが重ならないようにグループを設けると、物体検出の解像度が、1グループ内のスポット数分だけ低下してしまうことになる。しかし、図25及び図26に示すように各グループが重なるようにグループを設ければ、解像度の低下が防げる。もちろん、主走査方向と副走査方向の両方で、グループの範囲が重なるようにグループを設定してもよい。一番右と一番下以外の全てのスポットについて、当該スポットが左上端に来るような2×2スポットのグループを設定する等である。このようにすれば、解像度を落とさずに、外乱光の影響を排除した物体検出を行うことができる。
【0116】
第3変形例においては、図27に示すように、3×3=9スポットを1つのグループとしている。各グループは範囲が重ならないようにしているため、グループG(n,x)の右隣はグループG(n,x+3)となり、これらの下隣はグループG(n+3,x)及びグループG(n+3,x+3)である。
このように1グループ内のスポット数を増やすと、外乱光に比べて戻り光L4の光量が小さい場合でも、ほぼ同じTOFを有する戻り光L4について、ランダムに入射する外乱光にくらべて図20の集計の際に大きな度数を得ることができる。従って、戻り光L4のTOFを精度よく識別することができる。
【0117】
第4変形例においては、図28に示すように、2主走査線分離れた位置のスポットを1つのグループとしている。これは、往路の主走査線上のスポットのみ、復路の主走査線上のスポットのみでグループを構成するためである。
すなわち、図28の例では、往路の主走査線71-n及びこれに最も近い別の往路の主走査線71-(n+2)上の各2スポットをグループG(n,x)としている。また、復路の主走査線72-(n+1)及びこれに最も近い別の復路の主走査線72-(n+3)上の各2スポットをグループG(n+1,x+2)としている。図示の都合上省略しているが、グループG(n,x)から1スポット分下側にずれた位置には、グループG(n+1,x+2)の左側に隣接する位置に、グループG(n+1,x)が設定されている。同様に、グループG(n+1,x+2)から1スポット分上側にずれた位置には、グループG(n,x)の右側に隣接する位置に、グループG(n,x+2)が設定されている。
【0118】
従って、図28の例では、図23の場合と同様、各グループは互いに重ならないように隙間なく配置されていることになる。各グループに、異なる回の主走査に含まれるスポットが含まれる点も、図23の場合と同様である。
グループ内の各スポットの投光方向が相互になるべく近くなるという観点では図23の例よりも劣るが、このような不連続な位置のスポットによりグループを構成しても、上述した実施形態と同様な外乱光の影響排除自体は可能である。
【0119】
また、このように往路の主走査線上のスポットのみ、復路の主走査線上のスポットのみでグループを構成することで、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と合っていなくても、支障なく図20の集計を行うことができる。この状態でも、往路の主走査線同士、復路の主走査線同士であれば、各主走査線上のスポットの主走査方向の位置は揃っているためである。
【0120】
〔6.第5変形例(図29及び図30)〕
次に、上述した実施形態の第5変形例について説明する。第5変形例は、第4変形例のように往路の主走査線上のスポットのみ、復路の主走査線上のスポットのみでグループを構成する場合に適用できるものであり、図24に示した処理に変えて図29に示す処理を実行する点が上述した実施形態と異なるのみであるので、この点についてのみ説明する。
【0121】
図29は、この発明の第5変形例においてプロセッサ53が実行する、図24と対応する処理のフローチャートである。
プロセッサ53は、図24の処理の場合と同様、物体検出開始指示を検出すると図29に示す処理を開始する。
【0122】
この処理において、プロセッサ53はまず、図24のステップS11の場合と同様に、アクチュエータ300及び380、LDモジュール21及び受光素子43を起動する(S31)。処理開始時点で既にこの状態となっている場合、ステップS31は省略できる。
次に、プロセッサ53は、図24を用いて説明したようなスポットのグループを、物体検出に用いる視野範囲65内の各スポットについて作成する(S32,S33)。
【0123】
その後、図24のステップS12と同様にアクチュエータ300の駆動周波数を共振周波数に合わせる調整を行ってもよいが(S34)、これは必須ではない。調整を行う場合も、調整完了を待たずにステップS35以降の処理に進んでもよい。
ステップS35~S37の処理は、グループの構成が異なるのみで、図24のステップS15乃至S17の場合と同様である。
【0124】
ステップS37の後、プロセッサ53は、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致しているか否か判断する(S38)。そして、一致していれば、往路及び復路の双方の各グループのTOF値に基づき、検出した物体の方向及び物体までの距離を算出して出力する(S39)。一致していなければ、往路又は復路の一方の各グループのTOF値に基づき、検出した物体の方向及び物体までの距離を算出して出力する(S40)。
その後、いずれの場合も、物体検出を続ける場合にはステップS34に戻って処理を繰り返し、物体検出を終了する場合には図29の処理を終了する(S41)。
【0125】
以上の処理において、ステップS40で往路と復路の一方のみを用いるのは、図17を用いて説明したように、この状態では往路の主走査線に基づく物体検出結果と復路の主走査線に基づく物体検出結果とで、異なる物体像が示されてしまうためである。
しかし、以上の処理を行うことにより、アクチュエータ300の駆動周波数を共振周波数に合わせる調整を行わなくても、あるいは調整を行っても完了する前に、上述した実施形態の場合よりも精度は落ちるものの、外乱光の影響を排除した物体検出を行うことができる。
【0126】
駆動周波数調整の機能を省略したい場合や、物体検出装置の起動から物体検出までの時間を短縮したい場合には、この変形例が有用である。起動時には図29の処理を行い、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数に一致した後で、グループを設定し直して図24の処理に移行することも考えられる。
また、以上の図29の処理においても、図24について説明したものと同様な変形を適用可能である。
【0127】
なお図30に、第5変形例に適用可能なグループの別の設定例を示す。
図30の例では、同じ主走査線上で、主走査方向に連続する3つのスポットを1つのグループとしている。往路の主走査線71-n上にはグループG(n,x)とその右隣のグループG(n,x+3)が設定され、そのすぐ下の復路の主走査線72-(n+1)上にはグループ(n+1,x)とその右隣のグループG(n+1,x+3)が設定されている。
【0128】
このようにグループを設定しても、往路の主走査線上のスポットのみ、復路の主走査線上のスポットのみでグループを構成することに変わりはなく、図29の処理を適用可能である。
また、図24の処理を行う場合に図30のようなグループを設定することも、可能である。
【0129】
〔7.第6変形例(図31)〕
次に、上述した実施形態の第6変形例について説明する。第6変形例は、走査部30が副走査方向の走査を行わず、主走査方向にのみ走査する点が、上述した実施形態と異なるので、この点についてのみ説明する。
図31に、第6変形例において走査部30により視野範囲中に形成される走査線の構成を示す。
【0130】
図31に示すように、第6変形例においては、走査線は、物体検出用の走査線171と、駆動周波数調整用の走査線172の2本のみである。そして、走査線172が通過する位置に、反射部66を設けている。いずれの走査線も、往路と復路で同じ位置を走査する。
走査線171と走査線172は近接した位置にある必要はなく、互いに平行である必要もない。図3に示したアクチュエータ380を用いず、駆動周波数調整を行う場合のみ、ミラーやプリズム等の何らかの光学素子を出射光L2の光路上に挿入して、走査線を反射部66を通る位置に移動させてもよい。
【0131】
2次元の視野範囲が不要である場合、このように、副走査方向の走査を行わず物体検出用の走査線171が1本しかない物体検出装置10であっても、上述した実施形態と同様な外乱光の影響排除は実現可能である。
この場合、フレームの境界は特に定義されないが、往路の走査と、それに続く復路の走査によりそれぞれスポットが形成されることも、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致していれば往路と復路で各スポットの主走査方向位置が一致することも、上述した実施形態の場合と同様である。
【0132】
従って、図23図25乃至図28、さらには図30の場合と同様なグループを設定し、図24図29の処理を実行可能である。これらの図に示した各走査線が、同じ位置を、n回目、n+1回目等の異なる走査タイミングで走査する走査線であると捉えればよい。
また、n回の走査に跨るようにグループを設定する場合、それらn回の走査が完了した時点で、当該グループに関するTOFの集計と、集計結果に基づく物体の存在方向及び物体までの距離の出力を行えばよい。
【0133】
〔8.その他の変形例(図32乃至図34)〕
次に、以上説明してきた実施形態のその他の変形例について説明する。
まず、上述した実施形態及び各変形例では、主走査方向のグループ境界は副走査方向の位置によらず共通であった。しかし、図32に示すように、副走査方向の位置によって、主走査方向のグループ境界が異なっていてもよい。
【0134】
図32では、n番目及びn+1番目の主走査線上には、グループG(n,x)及びグループG(n,x+2)が設定されるが、n+2番目及びn+3番目の主走査線上には、これらと主走査方向に1スポット分ずれた位置に、グループG(n+2,x+1)及びグループG(n+2,x+3)が設定される。
このようにグループを設定しても、上述した実施形態及び各変形例の場合と同様に外乱光の影響排除の効果を得ることができる。
【0135】
また、上述した実施形態では、図24で、駆動周波数が共振周波数と一致しない場合に物体検出自体を行わない例について説明したが、これは必須ではない。
図33に、この点に関する変形例においてプロセッサ53が実行する、図24と対応する処理のフローチャートを示す。図33において図24と共通する処理には同じステップ番号を付し、この箇所の説明は省略する。
【0136】
図33では、図29の場合と同様、アクチュエータ300の駆動周波数を共振周波数に合わせる調整(S12)を行うことは必須ではない。
そして、ステップS13の判定を経ずにステップS14及びS15を実行し、ステップS15の後で、ステップS13と同様な、アクチュエータ300の駆動周波数が共振周波数と一致しているか否かの判定を行う(SA)。
これがYesであれば、図24の場合と同様に、ステップS16以下の処理を行う。ステップSAでNoであれば、グループは用いず、各発光(スポット)と対応するTOF値に基づき、検出した物体の方向及び物体までの距離を算出して出力する。
【0137】
すなわち、図24の場合と異なり、駆動周波数が共振周波数と一致していなくても、物体検出自体は行い、その結果も出力する。ステップSBを実行するケースではグループを用いないので外乱光の影響排除の効果は得られないが、外乱光自体が少ない暗い環境であれば、物体検出の精度にさほど影響がない場合もある。したがって、当初は外乱光の影響のリスクを受け入れても物体検出装置の起動から物体検出までの時間を短縮したい場合には、この変形例が有用である。
図29の場合と同様、駆動周波数が共振周波数と一致していない場合には、往路又は復路の一方の走査線上の発光と対応するTOF値に基づき、物体検出を行うようにしてもよい。
【0138】
また、主走査方向の走査を担うアクチュエータとして、磁気ばねを利用したアクチュエータを用いることもできる。
図34に、このようなアクチュエータ400を用いた走査部30の構成例を示す。
図34に示すアクチュエータ400は、ミラー401を、永久磁石410に固定し、永久磁石410をベアリング403,405により保持して構成されている。そして、永久磁石410の磁力と、永久磁石410の周りに配置されたヨーク430と、永久磁石410とヨーク430との間に配置された駆動コイルを流れる電流との相互作用により、コイルに印加された電圧に応じて、永久磁石410とミラー401とが一体として、永久磁石410の中心を通る回転軸404を中心に回転し、所定の角度範囲を往復運動するものである。このようなアクチュエータ400も、ミラー401を含む可動部が共振周波数を有する。
具体的には、例えば本件出願人が提案し特許第6830698号公報(特許文献4)又は特開2021-132416号公報(特許文献5)に記載されたアクチュエータを用いることが考えられる。
【0139】
また、上述した実施形態ではプロセッサ53が物体の方向及び物体までの距離を算出する処理まで行う例について説明した。しかし、プロセッサ53は各スポットと対応するTOFの値を取得する処理(図24のステップS15又は図27のステップS35まで)及び、駆動周波数が共振周波数に一致しているか否かの判定を行って、その結果を入出力部54を介して外部装置に出力し、当該外部装置において、グループの設定、TOFの集計、グループ毎の集計結果に基づく物体の方向及び物体までの距離の算出、およびそれらに基づく物体像のグラフィカルな表示等を行うようにしてもよい。この場合、物体検出装置10と当該外部装置とで、物体検出システムが構成される。
【0140】
また、以上説明したもの以外の点でも、この発明において、装置の具体的な構成、具体的な動作の手順、部品の具体的な形状等は、実施形態で説明したものに限るものではない。
また、以上の各項目において説明した特徴は、それぞれ独立して装置やシステムに適用し得るものである。
【0141】
また、この発明のプログラムの実施形態は、1のコンピュータに、あるいは複数のコンピュータを協働させて、所要のハードウエアを制御させ、以上説明してきた駆動周波数調整や外乱光の影響排除に係る機能の一部又は全部を実現させ、あるいは上述した実施形態にて説明した処理を実行させるためのプログラムである。
【0142】
このようなプログラムは、はじめからコンピュータに備えるROMや他の不揮発性記憶媒体(フラッシュメモリ,EEPROM等)などに格納しておいてもよい。メモリカード、CD、DVD、ブルーレイディスク等の任意の不揮発性記録媒体に記録して提供することもできる。さらに、ネットワークに接続された外部装置からダウンロードし、コンピュータにインストールして実行させることも可能である。
【0143】
また、以上説明してきた実施形態及び変形例の構成は、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施可能であり、また、一部のみを取り出して実施することができることは、勿論である。
【符号の説明】
【0144】
10…物体検出装置、20…投光部、21…LDモジュール、22…レーザ駆動回路、23…投光光学系、30…走査部、31…ミラー、32…アクチュエータ、40…受光部、41…ミラー、42…集光レンズ、43…受光素子、43a…APD、43b,43c…出力信号線、44…アパーチャー、46…検出信号、51…フロントエンド回路、52…TDC、53…プロセッサ、54…入出力部、61…トップカバー、62…リアカバー、63…カバークリップ、64…保護材、65…視野範囲、66…反射部、66a…有効反射領域、70…視野、71,72…走査線、73…ビームスポット、80…物体、81~83…物体像、、300,380,400…アクチュエータ、301…ミラーユニット、302…ねじりばね、304,404…回転軸、316…駆動コイル、317…センシングコイル、320…可動子、321…永久磁石、321s…S極、321n…N極、381,401…ミラー、403,405…ベアリング、410…永久磁石、430…ヨーク、G…グループ、L1…レーザビーム、L2…出射光、L3,L4…戻り光、S…スポット
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