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特開2024-51742ジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051742
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/34 20060101AFI20240404BHJP
   H01J 25/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01J23/34 Z
H01J25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158057
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】520084881
【氏名又は名称】京都フュージョニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慶司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図る。
【解決手段】電子ビームを発生せる電子銃部2aを構成するカソード電極23と、カソード電極23より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部25と、相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部26と、電子銃部2a及びボディ部25間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むボディ側定電圧回路53と、ボディ部25及びコレクタ部26間に電圧を印加するための加速電源51と、ボディ部25とボディ側定電圧回路53との接点と、加速電源51との間に配置される制限抵抗52とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極と、
前記電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むボディ側定電圧回路と、
前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するための電源部と
前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に配置される抵抗手段と
を備えることを特徴とするジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項2】
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極及びアノード電極と、
前記カソード電極より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
前記カソード電極及び前記アノード電極間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むアノード側定電圧回路と、
前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むボディ側定電圧回路と、
前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するための電源部と前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に配置される抵抗手段と
を備えることを特徴とするジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項3】
前記定電圧回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項4】
前記定電圧回路は、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項5】
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極と、
前記電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
を備えたジャイロトロンにおいて、上記各部に係る電圧を制御するジャイロトロン用電源制御方法であって、
前記電子銃部及び前記ボディ部間に定電圧回路を含むボディ側定電圧回路を接続するとともに、前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に抵抗手段が配置された状態において、電源部が前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するステップと、
前記ボディ側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するステップと
を含むことを特徴とするジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項6】
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極及びアノード電極と、
前記カソード電極より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
を備えたジャイロトロンにおいて、上記各部に係る電圧を制御するジャイロトロン用電源制御方法であって、
前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に抵抗手段を配置された状態において、電源部が前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するステップと、
アノード側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記カソード電極及び前記アノード電極間の電圧を一定に保持するとともに、前記ボディ側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するステップと
を含むことを特徴とするジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項7】
前記定電圧回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項8】
前記定電圧回路は、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含むことを特徴とする請求項7に記載のジャイロトロン用電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、サイクロトロン共鳴メーザー作用を発信原理とする大電力ミリ波発信器であるジャイロトロンに係り、主としてミリ波からサブミリ波帯における大電力高周波源として核融合プラズマ加熱装置などに利用可能なジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のジャイロトロン用電源装置は、例えば、ジャイロトロンを駆動する電源で電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電力を供給する電源とを分けて構成された電子銃部を備えており、この電子銃部ではカソード電極とアノード電極との二極を有し、この電子銃部に対して、ボディ電極、コレクタ電極が設けられ、ボディ電極とコレクタ電極との間に、逆バイアス電圧を印加してエネルギー回収を行う。
【0003】
そして、コレクタ電極に電力を供給するコレクタ電源が設けられており、このコレクタ電源は、ジャイロトロン電源装置の中で最も大電力であり、近年のジャイロトロンの大電力化、長パルス化に伴って、直流電圧は数十KV~100KV、直流電流は数十A~150A程度を必要とするものがある。このような直流電源は、短パルス動作の場合にはコンデンサバンクが用いられ、一般的に負荷電圧の変動を抑制するために、大容量のコンデンサバンクが用いられる。
【0004】
ところで、このコンデンサバンクを用いた電源構成では、コンデンサから電流が放出されるとともに、時間とともに電圧が下がっていく傾向があり、これによりジャイロトロンの発振効率が下がっていくという問題があった。このような問題を解決するために、例えば、主回路にレギュレーターと称する4極管を挿入し、ここで電圧降下を生じさせ出力電圧を一定化させる、或いは特許文献1に開示された電源装置が提案されている。
【0005】
この特許文献1に開示された電源装置では、コレクタ電源、アノード電源、ボディ電源の出力電圧を各別に検出し、この検出された出力電圧を基に、コレクタ電源、アノード電源、ボディ電源の出力電圧を一定に各別に保持する定電圧制御手段を設け、コレクタ電源の出力電圧基準値を、予め記憶されている基準値パターンに変換して出力する。これにより、出力電圧立上時或いは停止時において、コレクタ電源の出力電圧が変動した場合に、ボディ電源が過電流となることなく、スムーズで安定した出力動作を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-162366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された電源装置では、電源の安定化を図るため、各部の電圧を測定し、スムーズで安定した出力を得るために主電源、アノード電源、ボディ電源の電圧のフィードバック制御を行い、過電流が生じないように積極的に制御することを前提としていることから、すなわち、連続出力を対象に、複雑且つ高精度な制御が要求され、そのための高価な制御手段と複雑な制御が必要となり、設備の製造コスト及び運用コストが増大する惧れがある。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させて、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることのできるジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のジャイロトロン用電源装置は、
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極と、
電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
電子銃部及びボディ部間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むボディ側定電圧回路と、
ボディ部及びコレクタ部間に電圧を印加するための電源部と
ボディ部とボディ側定電圧回路との接点と、電源部との間に配置される抵抗手段と
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のジャイロトロン用電源装置は、
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極及びアノード電極と、
前記カソード電極より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
前記カソード電極及び前記アノード電極間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むアノード側定電圧回路と、
前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含むボディ側定電圧回路と、
前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するための電源部と
前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に配置される抵抗手段と
を備えることを特徴とする。
【0011】
一方、本発明のジャイロトロン用電源制御方法は、
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極と、
前記電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
を備えたジャイロトロンにおいて、上記各部に係る電圧を制御するジャイロトロン用電源制御方法であって、
前記電子銃部及び前記ボディ部間に定電圧回路を含むボディ側定電圧回路を接続するとともに、前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に抵抗手段が配置された状態において、電源部が前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するステップと、
前記ボディ側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するステップと
を含む。
【0012】
また、本発明のジャイロトロン用電源制御方法は、
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するカソード電極及びアノード電極と、
前記カソード電極より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
を備えたジャイロトロンにおいて、上記各部に係る電圧を制御するジャイロトロン用電源制御方法であって、
前記ボディ部と前記ボディ側定電圧回路との接点と、前記電源部との間に抵抗手段が配置された状態において、電源部が前記ボディ部及び前記コレクタ部間に電圧を印加するステップと、
アノード側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記カソード電極及び前記アノード電極間の電圧を一定に保持するとともに、前記ボディ側定電圧回路に含まれる定電圧回路が、前記電子銃部及び前記ボディ部間の電圧を一定に保持するステップと
を含む。
【0013】
上記発明において、前記定電圧回路は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路とすることができる。また、前記定電圧回路は、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成とすることができる。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャイロトロンの電源装置において、ボディ電圧或いはアノード電圧を供給する回路に簡単な定電圧回路を用いることから、極めて安価に安定なジャイロトロン電源を構成することができる。具体的には、例えばボディ側定電圧回路やアノード側定電圧回路として、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路、或いは、例えばツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路のスタックなど、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を用いることができる。これにより、複雑で高精度な高価な制御機構を設けることなく、自動的に必要な電圧印加が可能となり、電圧サグによる発振停止などの不都合を抑えることができ、コンデンサバンク容量に応じたパルス幅での運転が可能となる。
【0015】
この結果、本発明によれば、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るジャイロトロン用電源装置の構成を模式的に示したブロック図である。
図2】実施形態に係るジャイロトロン用電源装置の構成を示す回路図である。
図3】実施形態に係るジャイロトロンの概略構成を模式的に示す概要図である。
図4】実施形態に係るジャイロトロン用電源装置による電源制御を示すシーケンス図である。
図5】変形例に係るジャイロトロン用電源装置の構成を模式的に示したブロック図である。
図6】変形例に係るジャイロトロン用電源装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るジャイロトロン用電源装置の実施形態についえ詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
(ジャイロトロンの構成)
先ず、本発明による電源制御の対象となるジャイロトロン2の構成について説明する。図3にジャイロトロンの概略構成を示す。ジャイロトロン2は、大電力マイクロ波発生装置であり、電子ビームを発生せる三極管式の電子銃部2aが備えられており、この電子銃部2aに、図1及び図2に示すカソード電極23及びアノード電極24が含まれる。また、ジャイロトロン2は、カソード電極23より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器251を含むボディ部25と、相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部26とから概略構成される。
【0019】
ボディ部25は、電子銃部2aの先端に設けられ、加速電圧を与えるボディ電極255を有するとともに、ソレノイドコイル(主コイル)252に囲繞されており、ジャイロトロン2の軸方向に静磁場が印加される。電子銃部2aに電圧を印加すると熱電子が引き出される。ここで、ジャイロトロン2における電子放出部であるエミッションベルト2bは、幅の細いリング形状をしており、円筒型の電子ビームが形成される。電子がエミッションベルト2bから引き出される際、電子の引き出し方向と静磁場の磁力線方向の間に有限の角度を付けると、引き出される電子に回転速度が与えられる。電子の軌道に沿って加速電界と磁場強度が変化する配位を設けると、有効に電子に回転速度が与えられる。ここから放出された電子は、静磁場に巻き付いて、磁力線に沿って下流の空胴共振器251に導入される。
【0020】
空胴共振器251は、磁場発生装置であるソレノイドコイル252の中心部に配置される。磁場の強度は、電子銃部2aから空胴共振器251に向かって強くなるため、電子の磁気モーメント保存則により、電子の進行エネルギーは回転エネルギーに変換され、電子の回転速度と進行速度の比、いわゆる回転比(ピッチファクタ)は進行するにつれて上昇し、空胴共振器251では回転エネルギー成分の大きい電子ビームができる。
【0021】
ジャイロトロン2は、空胴共振器251内において、電子サイクロトロン共鳴メーザーの効果で、電子の回転エネルギーを電磁波(マイクロ波)のエネルギーに変換する電子管であり、高い回転比の電子ビームを作る。電子放出部に含まれるカソード電極23と、引き出し電界を印加するためのアノード電極24とを含む電子銃部2aでは、電子ビームのエネルギーを一定に保ちながらアノード電圧を制御することにより、回転比を制御することができる。また、電子銃部の磁場を変えることによっても回転比は変化するが、この場合電子ビームの位置が変化するため、空胴共振器251の磁場(以下、空胴磁場)と連動させ、且つ空胴共振器内において、最適の電子ビーム位置にあわせる必要がある。
【0022】
空胴共振器251の内部では、電子ビームの位置と印加磁場強度に応じ、固有の共振周波数を持つ共振モードの電磁波が励起される。この電磁波は、電子銃部2a側には電磁波のカットとなるため漏れてこず、下流側にのみ伝播する。この電磁波をモード変換器254によりガウス型電磁ビームEMbに変換し、反射鏡241及び242によって誘導され、出力窓20aを介して外部に準光学電磁ビームMWbとして放出する。空胴共振器251で電磁波生起に利用された後のエネルギーを失った電子ビームEbは、絶縁セラミック243で囲繞された磁場に沿って進みコレクタ部26に捕捉される。
【0023】
そして、このような構成のジャイロトロン2では、カソード電極23から発した電子ビームが、アノード電極24によって形成される電界と、ソレノイドコイル252によって作られる磁場とによって螺旋運動を行うとともに、さらにカソード電極23とボディ部25の間の電界により加速される。この加速された電子ビームのエネルギーは、ソレノイドコイル252で作られた磁場によって回転エネルギーへと変換されていく。こうして得られた螺旋運動をする電子ビームはボディ部25の空胴共振器251内で相互作用を起こし電子ビームの持つエネルギーの一部が高周波エネルギーへと変換される。その相互作用を終えた電子ビームは、コレクタ部26で捕捉される。
【0024】
なお、図1及び図2示すように、ジャイロトロン2にはヒータートランス22と、このヒータートランス22へ電力を供給するヒーター電源21とが設けられており、ヒーター電源21の出力はヒータートランス22を介してジャイロトロン2に給電される。
【0025】
(ジャイロトロン用電源装置の構成)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン2には、図1及び図2に示すようなジャイロトロン用電源制御装置1が備えられている。図1及び図2に本実施形態に係るジャイロトロン用電源装置の構成を示す。
【0026】
上述したように、本実施形態に係るジャイロトロン2は、図1及び図2にも示すとおり、カソード電極23とアノード電極24を有する三極管式の電子銃部2aと、空胴共振器251を持つボディ部25と、コレクタ部26と、ヒータートランス22及びヒーター電源21とから概略構成される。
【0027】
ジャイロトロン用電源制御装置1は、付加対象となるジャイロトロン2に接続される限流リアクトル31と、スイッチ回路32と、アノード側定電圧回路54と、ボディ側定電圧回路53と、制限抵抗52と、加速電源51とを備えるとともに、これらに対して電圧を印加するため電力供給電源部4を備えている。電力供給電源部4は、コンデンサ41と、充電用高圧電源43と、抵抗手段42とを含んでいる。
【0028】
限流リアクトル31は、インダクター、ダイオード及び抵抗等から構成され、出力電圧を平滑させる平準化回路であり、交流回路に直列で接続されローパスフィルタの役割を果たしたり、短絡故障時の短絡電流を制限したりする。スイッチ回路32は、限流リアクトル31と直列に配置されており、具体的には、半導体スイッチ323と、ツェナーダイオード322及び電圧測定器321とを含んでいる。
【0029】
電力供給電源部4は、ジャイロトロン2にビーム電流を発生させ、発振電力を供給する電源であり、コンデンサ41と充電用高圧電源43と抵抗手段42を備え、コンデンサ41は充電用高圧電源43によって所定の電圧まで充電される。
【0030】
アノード側定電圧回路54はカソード電極23及びアノード電極24間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含み、ボディ側定電圧回路53は電子銃部2a及びボディ部25間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含む。これらボディ側定電圧回路53及びアノード側定電圧回路54それぞれの定電圧回路は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路とすることができる。また、この定電圧回路としては、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成としてもよい。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いることができ、例えば各200Vのリニアレギュレーター回路を50個用いることにより、50KVの定電圧回路を構成することができる。
【0031】
アノード側定電圧回路54の負端子はジャイロトロン2のカソード電極23に、ボディ側定電圧回路53の正端子はジャイロトロン2のボディ部25に接続されており、加速電源51はカソード電極23とボディ部25間に電圧を印加する。具体的にアノード側定電圧回路54は図2に示すように、接続点Ck~接続点Ca間の直流電圧を安定させるツェナーダイオード541(ここでは40KVに設定)と分圧用抵抗543と、電圧計542で構成されている。また、ボディ側定電圧回路53は、接続点Ca~接続点Cb間の直流電圧を安定させるツェナーダイオード531(ここでは20KVに設定)と抵抗533と、電圧計532で構成されている。
【0032】
加速電源51は、その正端子がジャイロトロン2のボディ部25側に、その負端子がジャイロトロン2のコレクタ部26に接続される電源装置であり、本実施形態では、30KVに設定されている。また、充電用高圧電源43は、その負端子がジャイロトロン2のカソード電極23側に、その正端子がジャイロトロン2のコレクタ部26に接続される。なお、接地47はコレクタ部26側で確保されている。
【0033】
加速電源51及び充電用高圧電源43はジャイロトロン発振のための電力供給を行うためのもので、加速電源51はボディ部25とコレクタ部26間を、電力供給電源部4はカソード電極23とコレクタ部26間を、それぞれバイアスする。また、接続点Ck~Cc間には、電圧測定器310が配置されているとともに、コレクタ負荷311及びビーム電力測定器312が配置されている。コレクタ負荷311は、本実施形態では2kΩであり、Vkcが70KVのとき、ビーム電流は35Aとなる。
【0034】
また、ボディ側定電圧回路53及びアノード側定電圧回路54が直列に接続され、ボディ側定電圧回路53とアノード側定電圧回路54の接続点Caがアノード電極24に接続される。これらボディ側定電圧回路53及びアノード側定電圧回路54は、電子ビームに初速を与えるための電界を形成させるものであり、カソード電極23と、アノード電極24との間にバイアスを与える。また、各接続点Ck~Ca間,Ca~Cb間及びCb~Cc間にはそれぞれ分圧用抵抗543,533,513が、ツエナー回路と並列に配置され、各接続点間に所定の電位差が形成され、アノード電極24やカソード電極23に印加される電圧が生成される。
【0035】
加速電源51は、ボディ部25及びコレクタ部26間に電圧を印加するための電源装置であり、カソード電極23から放出された電子ビームを加速させて、安定な発振を行うための高安定電界をカソード電極23とボディ部25間に形成するための電源である。本実施形態では、加速電源51の出力電圧は+80KVでその安定度を±0.2%程度とし、電流は、わずかにカソード電極23からボディ部25へ流入する電子ビームが供給されればよいから100mA程度であり、加速電源51としては8kW程度の電源である。充電用高圧電源43とは、基本的にカソード電極23からの電子ビームをコレクタ部26で捕捉できる程度であればよい。
【0036】
なお、加速電源51の電圧を電力供給電源部4の電圧より大きく取ることによりボディ部25の電位をコレクタ部26の電位より大きくして、ボディ部25とコレクタ部26との間に減速電界を生じさせ、且つ電子ビームがボディ部25を通過してコレクタで捕捉できる電圧配位とすることで電子ビームを減速させ、これによりコレクタにおける発熱を低減させるている。
【0037】
本実施形態の場合には、加速電源51は、出力電圧が+20KV、安定度が±5%程度、及び電流が15Aであり、また電力供給電源部4は、出力電圧が+40KV、安定度が±5%程度、電流が15Aである。これらの電力供給電源では上記のように±5%程度と、特に厳しい安定度を要求されるものではないので、一般的な直流用電子ビーム電源で実現可能なものである。
【0038】
また、この加速電源51の後段側において、ボディ部25及びボディ側定電圧回路53との接続点Cbと、当該加速電源51との間に制限抵抗52が配置されている。この制限抵抗52は、ツエナー回路電流制限抵抗であり、各定電圧回路54,53と直列になるように配置されるとともに、ボディ側定電圧回路53と加速電源51の正端子との間に接続され、ボディ側定電圧回路53と制限抵抗52の接続点Cbはボディ部25に接続されている。この制限抵抗52は、ジャイロトロン2のボディ部25に生じる過電圧を防止・抑制する手段としても作用する。
【0039】
そして、アノード側定電圧回路54のツェナーダイオードに係る電位差は、ボディ側定電圧回路53のツェナーダイオードに係る電位差よりも大きく設定されている。また、加速電源51によって印加される電位差は、アノード側定電圧回路54のツェナーダイオードに係る電位差よりも小さく、且つボディ側定電圧回路53のツェナーダイオードに係る電位差よりも大きく設定されている。
【0040】
(ジャイロトロン用電源装置の動作)
以上のように構成されたジャイロトロン用電源装置の動作について以下に説明する。図4に本実施形態に係るジャイロトロン用電源装置による電源制御を示す。
【0041】
本実施形態では、電力供給電源部4を立ち上げてから、加速電源51を立ち上げる運転方式を採る。この運転方式では、図4に示すように、電力供給電源部4を立ち上げた当初は、加速電源51の出力電圧は立ち上げっておらず、開始後1.6ms迄は、アノード・ボディ間の電圧(Vab)は20KVで安定し、アノード・カソード間の電圧(Vak)は40KVで安定している。このとき、コレクタ・ボディ間の電圧(Vbc)、及びコレクタ・カソード間の電圧(Vkc)は立ち上げの途中であり上昇する過程にあるが、発振に影響はない。このように、アノード・カソード間及びアノード・ボディ間の電圧のサグが抑えられ、1.6ミリ秒の間、安定な電圧供給が得られる。
【0042】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン用電源装置及び制御方法によれば、ジャイロトロンの電源装置において、アノード電圧、ボディ電圧を供給する回路に簡単な定電圧回路を用いることから、極めて安価に安定なジャイロトロン電源を構成することができる。
【0043】
具体的には、ボディ側定電圧回路53及びアノード側定電圧回路54として、シリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路や、リニアレギュレーター回路などの低損失定電圧制御回路を用いることにより、アノード・カソード間及びアノード・ボディ間の電圧のサグが抑えられ、図4に示したとおり、1.6ミリ秒の間、安定な電圧供給と、これによる安定なジャイロトロン動作が期待できる。このため、本実施形態によれば、複雑で高精度な高価な制御機構を設けることなく、自動的に必要な電圧印加が可能となり、電圧サグによる発振停止などの不都合を抑えることができ、コンデンサバンク容量に応じたパルス幅での運転が可能となる。
【0044】
この結果、本発明によれば、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。
【0045】
(変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、電子銃部2aが、アノード電極24を有する三極管式の場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図5及び図6に示すような、アノード電極24が省略された二極管式の電子銃部を備えたジャイロトロンについても適用することができる。このような二極管式の電子銃部では、上述したようなアノード電極24を具備しないため、このアノード電極24に関わる回路及び構成部品が省略される。
【0047】
図1若しくは図2で示したジャイロトロン用電源制御装置1において、定電圧回路53のみが設けられ、定電圧回路54が省略されるとともに接点Caからアノード電極24に接続されていた接続線も省略される。
【0048】
この変更例係るジャイロトロン用電源制御装置1は、アノード側定電圧回路54が省略されているが、他の回路構成は上述した実施形態と同様であり、付加対象となるジャイロトロン2に接続される限流リアクトル31と、スイッチ回路32と、ボディ側定電圧回路53と制限抵抗52と、加速電源51とを備えるとともに、これらに対して電圧を印加するため電力供給電源部4を備えている。
【0049】
ボディ側定電圧回路53は電子銃部2aのカソード電極23及びボディ部25間の電圧を一定に保持するための定電圧回路を含む。このボディ側定電圧回路53の定電圧回路は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路とすることができる。また、この定電圧回路としては、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成としてもよい。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いることができる。
【0050】
本変形例では、アノード側定電圧回路54が省略されており、ボディ側定電圧回路53の正端子はジャイロトロン2のボディ部25に接続され、加速電源51はコレクタ部26とボディ部25間に電圧を印加する。ボディ側定電圧回路53は、接続点Ck~接続点Cb間の直流電圧を安定させるツェナーダイオード531と抵抗533と、電圧計532で構成されている。
【0051】
この場合、ボディ側定電圧回路53は、電子ビームに初速を与えるための電界を形成させるものであり、カソード電極23と、ボディ部25との間にバイアスを与える。また、各接続点Ck~Cb間及びCb~Cc間にはそれぞれ分圧用抵抗533,513が、ツエナー回路と並列に配置され、接続点間に所定の電位差が形成される。
【0052】
このような本変更例によれば、アノード電極が省略された2極管式の電子銃部を備えたジャイロトロンにおいても、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
Ca,Cb,Cc,Ck…接続点
EMb…ガウス型電磁ビーム
Eb…電子ビーム
MWb…準光学電磁ビーム
1…ジャイロトロン用電源制御装置
2…ジャイロトロン
2a…電子銃部
2b…エミッションベルト
4…電力供給電源部
20a…出力窓
21…ヒーター電源
22…ヒータートランス
23…カソード電極
24…アノード電極
25…ボディ部
26…コレクタ部
31…限流リアクトル
32…スイッチ回路
41…コンデンサ
42…抵抗手段
43…充電用高圧電源
47…接地
51…加速電源
52…制限抵抗
53…ボディ側定電圧回路
54…アノード側定電圧回路
241,242…反射鏡
243…絶縁セラミック
251…空胴共振器
252…ソレノイドコイル
254…モード変換器
255…ボディ電極
310…電圧測定器
311…コレクタ負荷
312…ビーム電力測定器
321…電圧測定器
322,531,541…ツェナーダイオード
323…半導体スイッチ
532,542…電圧計
543,533,513…分圧用抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6