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特開2024-51743ジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051743
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/34 20060101AFI20240404BHJP
   H01J 25/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01J23/34 Z
H01J25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158058
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】520084881
【氏名又は名称】京都フュージョニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慶司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図る。
【解決手段】主電源51が電子銃部2a及びコレクタ部26に電圧を印加するメイン電圧回路5に給電するとともに、ボディ電源31がボディ部25及びコレクタ部26に電圧を印加するボディ電圧回路3に給電し、メイン電圧回路5における主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電圧回路3におけるボディ電源31のボディ側供給ライン31bと、の間で変動する入出力電圧をボディ電源安定化回路33が所定の出力電圧に維持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生せる電子銃部と、
前記電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と
を備えたジャイロトロンの電源制御装置であって、
前記電子銃部及び前記コレクタ部に電圧を印加するメイン電圧回路に給電する主電源と、
前記ボディ部及び前記コレクタ部に電圧を印加するボディ電圧回路に給電するボディ電源と、
前記メイン電圧回路における前記主電源の電子銃側供給ラインと、前記ボディ電圧回路における前記ボディ電源のボディ側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するボディ電源安定化回路と、
前記ボディ電源安定化回路と前記ボディ側供給ラインとの接続点と、前記ボディ電源との間に接続されるボディ電源抵抗手段と
を備えることを特徴とするジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項2】
前記ボディ電源安定化回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項1に記載のジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項3】
前記電子銃部を構成するアノード電極と前記コレクタ部との間に電圧を印加するアノード電圧回路に給電するアノード電源と、
前記メイン電圧回路における前記主電源の前記電子銃側供給ラインと、前記アノード電圧回路における前記ボディ電源の前記アノード側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するアノード電源安定化回路と、
前記アノード電源安定化回路と前記アノード側供給ラインとの接続点と、前記アノード電源との間に接続されるアノード電源抵抗手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項4】
前記アノード電源安定化回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項3に記載のジャイロトロン用電源制御装置。
【請求項5】
電子ビームを発生せる電子銃部と、
前記電子銃部より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
前記相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と、
を備えたジャイロトロンにおいて、上記各部に係る電圧を制御するジャイロトロン用電源制御方法であって、
主電源が前記電子銃部及び前記コレクタ部に電圧を印加するメイン電圧回路に給電するとともに、ボディ電源が前記ボディ部及び前記コレクタ部に電圧を印加するボディ電圧回路に給電する給電ステップと、
前記メイン電圧回路における前記主電源の電子銃側供給ラインと、前記ボディ電圧回路における前記ボディ電源のボディ側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を、ボディ電源安定化回路が所定の出力電圧に維持する電源安定化ステップと、
前記ボディ電源安定化回路と前記ボディ側供給ラインとの接続点と、前記ボディ電源との間において、ボディ電源抵抗手段が電圧を調節する電源整流ステップと
を含むことを特徴とするジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項6】
前記ボディ電源安定化回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項5に記載のジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項7】
前記給電ステップでは、さらに、前記電子銃部を構成するアノード電極と、前記コレクタ部との間に電圧を印加するアノード電圧回路に、アノード電源が給電し、
前記電源安定化ステップでは、さらに、前記メイン電圧回路における前記主電源の前記電子銃側供給ラインと、前記アノード電圧回路における前記ボディ電源の前記アノード側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を、アノード電源安定化回路が所定の出力電圧に維持し、
前記電源整流ステップでは、前記アノード電源安定化回路と前記アノード側供給ラインとの接続点と、前記アノード電源との間において、アノード電源抵抗手段が電圧を調節する
ことを特徴とする請求項6に記載のジャイロトロン用電源制御方法。
【請求項8】
前記アノード電源安定化回路は、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことを特徴とする請求項7に記載のジャイロトロン用電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合炉のプラズマなどを加熱する大電力のミリ波帯の電磁波を発生させるジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャイロトロンは、大電力高周波発生源として例えば核融合プラズマ加熱用電子サイクロトロン共鳴加熱装置に用いられている。従来のジャイロトロンは、ジャイロトロン内の電子銃(electron gun)で電子ビームを発生させ、共振器(Cavity)に射出して大電力高周波(RF)を発振させ、出力窓を介して外部に出力させる。
【0003】
ここで電子ビームのエネルギーは、例えば主電源(Main PS)の電圧と、主電源及びボディ部電源(Body PS)の電圧差とにより生じる電圧差で加速されることになる。この主電源は、ジャイロトロンを駆動する電源で、コレクタ部と電子銃とに電圧を印加する直流電源であり、ボディ部電源は、ボディ部とコレクタ部間に印加される加速電源である。
【0004】
そして、主電源によりカソード電極を加熱することで熱電子を放出させて電子ビームを形成し、この電子ビームは、共振器に入射されて共振器内の電界と共振作用を起こしてRFが発生されるとともに、このRFが共振器で発振したTEm,nのような導波管モードから伝送に適した空間ビームモードに変換され、反射ミラー及び出力窓を介してジャイロトロン外部に出力される。
【0005】
ところで、ジャイロトロンの主電源(Main PS)は、50Aレベルの大電力電源であり、通常数%の電圧変動が生じる。図3にジャイロトロン出力のビーム電圧依存性を示す。同図からも分かるように、ジャイロトロンの発振効率は、+/-0.5%の電圧変動に対し200kWレベルの出力変動が生じ得ると言うように、電圧の安定性に大きく依存することから、高い電圧安定性が求められる。この電源電圧の安定性を確保するために、従来では、例えば、特許文献1に開示された電源装置が提案されている。
【0006】
この特許文献1に開示された電源装置では、コレクタ電源、アノード電源、ボディ電源の出力電圧を各別に検出し、この検出された出力電圧を基に、コレクタ電源、アノード電源、ボディ電源の出力電圧を一定に各別に保持する定電圧制御手段を設け、コレクタ電源の出力電圧基準値を、予め記憶されている基準値パターンに変換して出力する。これにより、出力電圧立上時或いは停止時において、コレクタ電源の出力電圧が変動した場合に、ボディ電源が過電流となることなく、スムーズで安定した出力動作を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-162366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1に開示された電源装置では、電源の安定化を図るため、各部の電圧を測定し、スムーズで安定した出力を得るために主電源、アノード電源、ボディ電源の電圧のフィードバック制御を行い、過電流が生じないように積極的に制御することを前提としていることから、連続出力を対象に、複雑且つ高精度な制御が要求され、そのための高価な制御手段と複雑な制御が必要となり、設備の製造コスト及び運用コストが増大する惧れがある。
【0009】
そこで、本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることのできるジャイロトロン用電源装置及び電源制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明のジャイロトロン用電源装置は、
電子ビームを発生せる電子銃部を構成するアノード電極と、
アノード電極より発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器を含むボディ部と、
相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部と
を備えたジャイロトロンの電源制御装置であって、
電子銃部及びコレクタ部に電圧を印加するメイン電圧回路に給電する主電源と、
ボディ部及びコレクタ部に電圧を印加するボディ電圧回路に給電するボディ電源と、
メイン電圧回路における主電源の電子銃側供給ラインと、ボディ電圧回路におけるボディ電源のボディ側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するボディ電源安定化回路と、
ボディ電源安定化回路とボディ側供給ラインとの接続点と、ボディ電源との間に接続されるボディ電源抵抗手段と
を備える。
【0011】
また、本発明のジャイロトロン用電源制御方法は、
主電源が電子銃部及びコレクタ部に電圧を印加するメイン電圧回路に給電するとともに、ボディ電源がボディ部及びコレクタ部に電圧を印加するボディ電圧回路に給電する給電ステップと、
メイン電圧回路における主電源の電子銃側供給ラインと、ボディ電圧回路におけるボディ電源のボディ側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を、ボディ電源安定化回路が所定の出力電圧に維持する電源安定化ステップと、
ボディ電源安定化回路とボディ側供給ラインとの接続点と、ボディ電源との間において、ボディ電源抵抗手段が電圧を調節する電源整流ステップと
を含む。
【0012】
上記発明において、
アノード電極及びコレクタ部に電圧を印加するアノード電圧回路に給電するアノード電源と、
メイン電圧回路における主電源の電子銃側供給ラインと、アノード電圧回路におけるボディ電源のアノード側供給ラインと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するアノード電源安定化回路と、
アノード電源安定化回路とアノード側供給ラインとの接続点と、アノード電源との間に接続されるアノード電源抵抗手段と
をさらに備えることが好ましい。
【0013】
上記発明において、各電源安定化回路は、例えば、制御素子の電圧降下により、入力電圧を所定の出力電圧に調整するリニアレギュレーター回路を含むことが好ましい。また、各電源安定化回路としては、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成とすることができる。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャイロトロンの電源装置において、電源回路に安定した電圧を供給する電源安定化回路及び抵抗手段を用いることから、極めて安価に安定なジャイロトロン電源を構成することができる。具体的には、主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間にボディ電源安定化回路33を配置する。また、ボディ電源安定化回路33とボディ側供給ライン31bとの接続点34と、ボディ電源31との間にボディ電源抵抗32を配置する。
【0015】
これにより、主電源51の電子銃側供給ライン51bとボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間の電圧差が小さいときには所定の電圧まで増幅され、過電圧が印加されたときには吸収し、所定の出力を維持することができる。これにより、電子銃側供給ライン51bとボディ側供給ライン31bとの間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持することができ、ビーム電圧が一定に保たれることから、極めて安定な高効率発振が期待できる。
【0016】
この結果、本発明によれば、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。また、発振効率を向上させられる結果、コレクタの小型化、電源、冷却系の小型化を促進できるとともに、発生するX線をも大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るジャイロトロン用電源装置(3極管式)の構成を示す回路図である。
図2】第2実施形態に係るジャイロトロン用電源装置(3極管式)の構成を示す回路図である。
図3】変更例に係るジャイロトロン用電源装置(2極管式)の構成を示す回路図である。
図4】実施形態に係る電力とビーム電圧との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下に添付図面を参照して、本発明に係るジャイロトロン用電源装置の第1実施形態について詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
(ジャイロトロンの構成)
先ず、本発明による電源制御の対象となるジャイロトロン2の構成について説明する。図1にジャイロトロン2用の電源制御装置の概略構成を示す。ジャイロトロン2は、大電力マイクロ波発生装置であり、電子ビームを発生せる3極管式の電子銃部2aが備えられており、この電子銃部2aにカソード電極23及びアノード電極24が含まれる。また、ジャイロトロン2は、電子銃部2aから発生した電子ビームとの相互作用により大電力高周波を発振する空胴共振器251を含むボディ部25と、相互作用を行った後の電子ビームを捕捉するコレクタ部26とから概略構成される。
【0020】
そして、主電源51によりカソード電極23の電子放出部を加熱し、電界を印加することにより熱電子を放出させて電子ビームを形成し、この電子ビームは、ソレノイドコイル252により形成された磁場により旋回運動をしながら磁力線に沿って進行して空胴共振器251に入射される。ここでソレノイドコイル252により発生した磁場は空洞共振器251で最大となるよう調整されるが、磁場強度に応じて旋回電子の回転比(回転速度/直進速度)が増大するため、空洞共振器で電子の旋回運動エネルギーは最大となる。
【0021】
旋回運動エネルギーが増大された電子ビームは、空胴共振器251の内部を通過する際、空胴共振器251内の電界と共振作用を起こし、電界により減速された旋回運動のエネルギーが、電磁波へと変換される。この電磁波は、空胴共振器251に接続されたモード変換器254により所定モード、通常電磁ビームモードに変換され、ミラー261及び出力窓20aを介して核融合炉に送出される。このエネルギー変換を終えた電子ビームは、ボディ電源31により印加されたボディ部25とコレクタ部26の電位差により減速された後、コレクタ部26に吸収される。
【0022】
各部について詳述すると、ボディ部25は、電子銃部2aの先端に設けられ、加速電圧を与えるボディ電極を有するとともに、ソレノイドコイル(主コイル)252に囲繞されており、ジャイロトロン2の軸方向に静磁場が印加される。電子銃部2aに電圧を印加すると熱電子が引き出される。ここで、ジャイロトロン2におけるカソード電極23の電子放出部は、幅の細いリング形状をしており、円筒型の電子ビームが形成される。電子がカソード電極23の電子放出部から引き出される際、電子の引き出し方向と静磁場の磁力線方向の間に有限の角度を付けると、引き出される電子に回転速度が与えられる。電子の軌道に沿って加速電界と磁場強度が変化する配位を設けると、有効に電子に回転速度が与えられる。ここから放出された電子は、静磁場に巻き付いて、磁力線に沿って下流の空胴共振器251に導入される。
【0023】
空胴共振器251は、磁場発生装置であるソレノイドコイル252の中心部に配置される。磁場の強度は、電子銃部2aから空胴共振器251に向かって強くなるため、電子の磁気モーメント保存則により、電子の進行エネルギーは回転エネルギーに変換され、電子の回転速度と進行速度の比、いわゆる回転比(ピッチファクタ)は進行するにつれて上昇し、空胴共振器251では回転エネルギー成分の大きい電子ビームができる。
【0024】
ジャイロトロン2は、空胴共振器251内において、電子サイクロトロン共鳴メーザーの効果で、電子の回転エネルギーを電磁波(マイクロ波)のエネルギーに変換する電子管であり、高い回転比の電子ビームを作る。カソード電極23と、引き出し電界を印加するためのアノード電極24とを含む電子銃部2aでは、電子ビームのエネルギーを一定に保ちながらアノード電圧を制御することにより、回転比を制御することができる。また、電子銃部2aの磁場を変えることによっても回転比は変化するが、この場合電子ビームの位置が変化するため、空胴共振器251の磁場(以下、空胴磁場)と連動させ、且つ空胴共振器251内において、最適の電子ビーム位置に合わせられる。
【0025】
空胴共振器251の内部では、電子ビームの位置と印加磁場強度に応じ、固有の共振周波数を持つ共振モードの電磁波が励起される。この電磁波は、電子銃部2a側には電磁波のカットとなるため漏れてこず、下流側にのみ伝播する。この電磁波をモード変換器254により準光学電磁ビームMWbに変換し、反射鏡241及び242によって誘導し、出力窓20aを介して外部に放出する。空胴共振器251で電磁波生起に利用された後のエネルギーを失った電子ビームEbは磁場に沿って進みコレクタ部26に捕捉される。
【0026】
そして、このような構成のジャイロトロン2では、カソード電極23から発した電子ビームが、アノード電極24によって形成される電界と、ソレノイドコイル252によって作られる磁場とによって螺旋運動を行うとともに、さらにカソード電極23とボディ部25の間の電界により加速される。この加速された電子ビームのエネルギーは、ソレノイドコイル252で作られた磁場によって回転エネルギーへと変換されていく。こうして得られた螺旋運動をする電子ビームはボディ部25の空胴共振器251内で相互作用を起こし電子ビームの持つエネルギーの一部が高周波エネルギーへと変換される。その相互作用を終えた電子ビームは、コレクタ部26で捕捉される。
【0027】
(ジャイロトロン用電源装置の構成)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン2には、図1に示すようなジャイロトロン用電源制御装置1が備えられている。上述したように、本実施形態に係るジャイロトロン2は、カソード電極23とアノード電極24を有する三極式の電子銃部2aと、空胴共振器251を持つボディ部25と、コレクタ部26とから概略構成される。
【0028】
ジャイロトロン用電源制御装置1は、負荷対象となるジャイロトロン2に接続される電源系の回路として、メイン電圧回路5と、ボディ電圧回路3と、アノード電圧回路4とを備えている。メイン電圧回路5は、電子銃部2a及びコレクタ部26に電圧を印加する主電源回路であり、主電源51により給電される。
【0029】
アノード電圧回路4は、アノード電極24及びコレクタ部26間に電圧を印加する電源回路であり、ここではアノード電源41により給電され、コレクタ部26を基準電位(0V)としてアノード電極24に電圧を印加する。
【0030】
ボディ電圧回路3は、ボディ部25及びコレクタ部26間に電圧を印加する電源回路であり、を基準電位としてボディ部25に電圧を印加する電源回路であり、ここではボディ電源31により給電され、コレクタ部26を基準電位(0V)としてボディ部25の電極に電圧を印加する。なお、これら各電源31,41,51のコレクタ側供給ライン31a,41a,51a側で接地50に接続され、コレクタ部26が基準電位(0V)となるように設定されている。
【0031】
そして、メイン電圧回路5における主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電圧回路3におけるボディ電源31のボディ側供給ライン31bと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するボディ電源安定化回路33が配置されている。また、ボディ電源安定化回路33とボディ側供給ライン31bとの接続点34と、ボディ電源31との間に接続されるボディ電源抵抗32が配置されている。
【0032】
本実施形態において、ボディ電源安定化回路33は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路で構成されている。ここでは、図1に示すように、ボディ電圧回路3にボディ電源抵抗32を入れるとともに、ボディ電圧回路3とメイン電圧回路5の電子銃側供給ライン51bの間にボディ電源安定化回路33を挿入する。
【0033】
なお、この電源安定化回路としては、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成としてもよい。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いることができ、ボディ電源31による電圧を例えば30kVに設定するとともに、リニアレギュレーター回路を例えば80kVに設定すると、主電源51が50kVを超える際には、ボディ電源安定化回路33のリニアレギュレーター回路からボディ電源抵抗32に電流が流れる。
【0034】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン用電源装置及び制御方法によれば、主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間にボディ電源安定化回路33を配置するとともに、ボディ電源安定化回路33とボディ側供給ライン31bとの接続点34と、ボディ電源31との間にボディ電源抵抗32を配置した。これにより、図4に示すように、主電源51の電子銃側供給ライン51bとボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間の電圧差が小さいときであっても、或いは過電圧が印加されたときでも所定の出力を維持することができる。
【0035】
これにより、電子銃側供給ライン51bとボディ側供給ライン31bとの間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持することができる。特に、本実施形態に係るボディ電源安定化回路33を、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路としたため、主電源51が所定の電圧を超える際には、ボディ電源安定化回路33からボディ電源抵抗32に電流が流れることとなり、ビーム電圧が一定に保たれ、極めて安定な高効率発振が期待できる。
【0036】
このとき、主電源51の電圧変動はボディ電源抵抗32に流れ電圧が発生するより吸収でき、この電圧でエネルギー回収電圧が軽減されることになるが、発振効率が大きく改善されるため、総合効率の大きな向上が期待できる。なお、このリニアレギュレーター回路の設定電圧をリモート化することにより、使い勝手のよい電源システムを構築することができる。
【0037】
この結果、本実施形態によれば、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。また、発振効率を向上させられる結果、コレクタの小型化、電源、冷却系の小型化を促進できる。
【0038】
[第2実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。図2に第2実施形態に係るジャイロトロン用電源装置の概略構成を示す。本実施形態では、上述した第1実施形態の構成に、アノード電圧回路4上に電源安定化回路及び電源抵抗を追加したことを要旨とする。なお、本実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その機能等は特に言及しない限り同一であり、その説明は省略する。
【0039】
(ジャイロトロン用電源装置の構成)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン2には、図1に示すようなジャイロトロン用電源制御装置1が備えられている。上述したように、本実施形態に係るジャイロトロン2は、カソード電極及びアノード電極24を有する3極管式の電子銃部2aと、空胴共振器251を持つボディ部25と、コレクタ部26とから概略構成される。
【0040】
ジャイロトロン用電源制御装置1は、負荷対象となるジャイロトロン2に接続される電源系の回路として、メイン電圧回路5と、ボディ電圧回路3と、アノード電圧回路4とを備えている。メイン電圧回路5は、電子銃部2a及びコレクタ部26に電圧を印加する主電源回路であり、主電源51により給電される。
【0041】
アノード電圧回路4は、アノード電極24及びコレクタ部26間に電圧を印加する電源回路であり、ここではアノード電源41により給電され、コレクタ部26を基準電位(0V)としてアノード電極24に電圧を印加する。
【0042】
ボディ電圧回路3は、ボディ部25及びコレクタ部26間に電圧を印加する電源回路であり、を基準電位としてボディ部25に電圧を印加する電源回路であり、ここではボディ電源31により給電され、コレクタ部26を基準電位(0V)としてボディ部25の電極に電圧を印加する。なお、これら各電源31,41,51のコレクタ側供給ライン31a,41a,51a側で接地50に接続され、コレクタ部26が基準電位(0V)となるように設定されている。
【0043】
そして、メイン電圧回路5における主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電圧回路3におけるボディ電源31のボディ側供給ライン31bと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するボディ電源安定化回路33が配置されている。また、ボディ電源安定化回路33とボディ側供給ライン31bとの接続点34と、ボディ電源31との間に接続されるボディ電源抵抗32が配置されている。
【0044】
本実施形態において、ボディ電源安定化回路33は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路とすることができる。また、この電源安定化回路としては、例えば、ツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成としてもよい。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いることができ、このリニアレギュレーター回路を例えば80kVに設定すると、主電源51が50kVを超える際には、ボディ電源安定化回路33のリニアレギュレーター回路からボディ電源抵抗32に電流が流れる。
【0045】
さらに、メイン電圧回路5における主電源51の電子銃側供給ライン51bと、アノード電圧回路4におけるアノード電源41のアノード側供給ライン41bと、の間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持するアノード電源安定化回路43が設けられている。また、アノード電源安定化回路43とアノード側供給ライン41bとの接続点44と、アノード電源41との間に接続されるアノード電源抵抗42が配置されている。
【0046】
本実施形態において、アノード電源安定化回路43は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路を含む構成となっている。詳述すると、図2に示すように、アノード電圧回路4にアノード電源抵抗42を入れるとともに、アノード電源安定化回路43とメイン電圧回路5の電子銃側供給ライン51bの間に、シリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのレギュレーター回路を挿入する。このリニアレギュレーター回路を例えば40kVに設定すると、主電源51が50kVを超える際には、アノード電源安定化回路43のリニアレギュレーター回路からアノード電源抵抗42に電流が流れる。
【0047】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態に係るジャイロトロン用電源装置及び制御方法によれば、主電源51の電子銃側供給ライン51bと、ボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間にボディ電源安定化回路33を配置するとともに、ボディ電源安定化回路33とボディ側供給ライン31bとの接続点44と、ボディ電源31との間にボディ電源抵抗32を配置する。さらに、本実施形態では、主電源51の電子銃側供給ライン51bと、アノード電源41のアノード側供給ライン41bとの間にアノード電源安定化回路43を配置するとともに、アノード電源安定化回路43とアノード側供給ライン41bとの接続点44と、アノード電源41との間にアノード電源抵抗42を配置する。
【0048】
これにより、主電源51の電子銃側供給ライン51bとボディ電源31のボディ側供給ライン31bとの間の電圧差が小さいとき、或いは過電圧が印加されたときでも所定の出力を維持することができる。また、主電源51の電子銃側供給ライン51bとアノード電源41のアノード側供給ライン41bとの間の電圧差が小さいとき、或いは過電圧が印加されたときでも所定の出力を維持することができる。
【0049】
さらに、電子銃側供給ライン51bと、ボディ側供給ライン31b若しくはアノード側供給ライン41bとの間で変動する入出力電圧を所定の出力電圧に維持することができる。特に、本実施形態に係るボディ電源安定化回路33及びアノード電源安定化回路43を、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路を含む構成としたため、主電源51が所定の電圧を超える際には、ボディ電源安定化回路33からボディ電源抵抗32に電流が流れることとなり、ビーム電圧が一定に保たれ、極めて安定な高効率発振が期待できる。
【0050】
また、電子ビームは磁場を螺旋状に進むが、その回転のピッチファクタはアノード及びカソード管電圧によって決まることから、アノード電源安定化回路43によってもビーム電圧を一定に保つことから、発振に重要な電子ビームのピッチファクタを極めて安定させることができ、高効率発振が期待できる。
【0051】
このとき、主電源51の電圧変動はアノード電源抵抗42に流れ電圧が発生するより吸収でき、この電圧でエネルギー回収電圧が軽減されることになるが、発振効率が大きく改善されるため、総合効率の大きな向上が期待できる。なお、このリニアレギュレーター回路の設定電圧をリモート化することにより、使い勝手のよい電源システムを構築することができる。
【0052】
これらの結果、本実施形態によれば、ジャイロトロンにおいて、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。また、発振効率を向上させられる結果、コレクタの小型化、電源、冷却系の小型化を促進できる。
【0053】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0054】
例えば、上述した第1実施形態及び第2実施形態では、電子銃部2aが、アノード電極24を有する3極管式の場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図3に示すような、アノード電極24が省略された2極管式の電子銃部2bを備えたジャイロトロンについても適用することができる。このような2極管式の電子銃部2bでは、上述したようなアノード電極24を具備しないため、このアノード電極24に関わる回路が省略される。
【0055】
図1若しくは図2で示したジャイロトロン用電源制御装置1において、メイン電圧回路5及びボディ電圧回路3のみが設けられ、アノード電圧回路4が省略されるとともに、アノード電圧回路4に関わる回路構成も省略される。メイン電圧回路5及びボディ電圧回路3の間には、上述した実施形態と同様に、電子銃側供給ライン51bとボディ側供給ライン31bとの間にボディ電源安定化回路33が配置され、接続点34とボディ電源31との間にボディ電源抵抗32が配置される。
【0056】
本変更例においても、ボディ電源安定化回路33は、例えば、バイポーラトランジスタやMOSFET等の制御素子の電圧降下により入力電圧を所定の出力電圧に調整するシリーズレギュレーターやシャントレギュレーターなどのリニアレギュレーター回路を含む構成とすることができる。また、この電源安定化回路としては、例えばツェナーダイオードとトランジスタから構成されるリニアレギュレーター回路など、出力電圧の帰還電圧に応じて抵抗値が調整される可変抵抗により、入力電圧を線形的に所定の出力電圧に調整する低損失定電圧制御回路を含む構成としてもよい。なお、このリニアレギュレーター回路は単数で用いてもよく、また、複数を配列したスタックとして用いることができる。この場合には、ボディ電圧回路3にボディ電源抵抗32を入れるとともに、ボディ電圧回路3とメイン電圧回路5の電子銃側供給ライン51bの間に低損失定電圧制御回路としてのリニアレギュレーター回路を含むボディ電源安定化回路33を挿入する。
【0057】
このような本変更例によれば、アノード電極が省略された2極管式の電子銃部を備えたジャイロトロンにおいても、設備の製造コスト及び運用コストを抑えつつ、電子ビームを加速する電源と、発振に必要な電源とに印加する電圧をより安定させることができ、ジャイロトロンの発振効率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
Eb…電子ビーム
MWb…準光学電磁ビーム
1…ジャイロトロン用電源制御装置
2…ジャイロトロン
2a,2b…電子銃部
3…ボディ電圧回路
4…アノード電圧回路
5…メイン電圧回路
20a…出力窓
21…ヒーター電源
22…ヒータートランス
23…カソード電極
24…アノード電極
25…ボディ部
26…コレクタ部
31…ボディ電源
31a,41a,51a…コレクタ側供給ライン
31b…ボディ側供給ライン
32…ボディ電源抵抗
33…ボディ電源安定化回路
41…アノード電源
41b …アノード側供給ライン
42…アノード電源抵抗
43…アノード電源安定化回路
50…接地
51…主電源
51b…電子銃側供給ライン
241,242…反射鏡
243…絶縁セラミック
251…空胴共振器
252…ソレノイドコイル
254…モード変換器
261…ミラー
図1
図2
図3
図4