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特開2024-51747炎症性腸疾患改善剤、炎症性腸疾患改善用食品添加剤、炎症性腸疾患改善用飲食品、炎症性腸疾患改善用製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051747
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患改善剤、炎症性腸疾患改善用食品添加剤、炎症性腸疾患改善用飲食品、炎症性腸疾患改善用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20240404BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240404BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240404BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240404BHJP
   A61K 36/752 20060101ALN20240404BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P1/04
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L33/105
A61K36/752
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158063
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399045868
【氏名又は名称】池田薬草株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 恒平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 志穂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克夫
(72)【発明者】
【氏名】敷島 康普
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018MD61
4B018ME07
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG02
4B117LG18
4B117LP01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086ZA68
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA32
4C088CA06
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA68
(57)【要約】
【課題】炎症性腸疾患を改善するための新規な成分が求められている点に鑑みて、本発明は新規な炎症性腸疾患改善剤を提供する。
【解決手段】本発明の炎症性腸疾患改善剤はスダチチンを含む。本発明によれば、炎症性腸疾患改善剤を提供することができる。斯かる炎症性腸疾患改善剤により、炎症性腸疾患を改善させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スダチチンを含む、炎症性腸疾患改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の炎症性腸疾患改善剤を含む、炎症性腸疾患改善用食品添加剤。
【請求項3】
請求項2に記載の食品添加剤を含む、炎症性腸疾患改善用飲食品。
【請求項4】
飲食品組成物の形態である、請求項1に記載の炎症性腸疾患改善剤。
【請求項5】
請求項1に記載の炎症性腸疾患改善剤を含む、炎症性腸疾患改善用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患改善剤、炎症性腸疾患改善用食品添加剤、炎症性腸疾患改善用飲食品、炎症性腸疾患改善用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患は、免疫機構が正常に作用しないことに起因して腸に炎症が引き起こされる病気であり、場合によっては、炎症性腸疾患者は慢性的な腹痛等の症状が発症し得る。代表的な炎症性腸疾患として、潰瘍性大腸炎が知られており、若年層に発症しやすく、近年、その患者数は増加傾向にある。
【0003】
炎症性腸疾患に治療効果を示す成分は種々知られている。例えば、ノベルチン類には大腸炎を抑制させる作用があること、また、大腸炎による発がんを抑制する効果があることが最近になって報告されている(例えば、非特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Food Funct.,2020,11,4940-4952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炎症性腸疾患を改善するための新規な成分が求められていることから、この点に鑑みて、本発明は、新規な炎症性腸疾患改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、スダチチンを有効成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った
【0007】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
スダチチンを含む、炎症性腸疾患改善剤。
項2
項1に記載の炎症性腸疾患改善剤を含む、炎症性腸疾患改善用食品添加剤。
項3
項2に記載の食品添加剤を含む、炎症性腸疾患改善用飲食品。
項4
飲食品組成物の形態である、項1に記載の炎症性腸疾患改善剤。
項5
項1に記載の炎症性腸疾患改善剤を含む、炎症性腸疾患改善用製剤。
項6
項1に記載の炎症性腸疾患改善剤を製造するためのスダチチンの使用。
項7
炎症性腸疾患改善が必要な対象にスダチチンを投与又は摂取する方法。
項8
炎症性腸疾患改善における使用のためのスダチチンを含む組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炎症性腸疾患改善剤を提供することができる。斯かる炎症性腸疾患改善剤により、炎症性腸疾患を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】試験1~4におけるDAIスコアの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、スダチチンを含む。つまり、本発明の炎症性腸疾患改善剤は、スダチチンを有効成分とする。斯かる炎症性腸疾患改善剤は、炎症性腸疾患を改善させる作用に優れる。
【0012】
本明細書において、「炎症性腸疾患改善」とは、ヒト又は動物(但し、ヒトを除く。以下同じ)、特には、ヒトの炎症性腸疾患を改善する作用を示すものである。また、「炎症性腸疾患を改善する作用」とは、腸の炎症を抑制する作用を意味する他、腸の炎症を予防する作用、及び、腸の炎症の発生を抑制する作用も包含する。
【0013】
スダチチンは、スダチの皮に多く含まれるスダチ独特の成分の一つであることが知られている。具体的にスダチチンは、ポリメトキシフラボンの一種であって、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0014】
【化1】
【0015】
つまり、スダチチンはノビレチンと同じ母核構造であり、ノビレチンの4’,5,7位のトリデメチル体である。なお、スダチチンには、その薬学的に許容される塩が含まれる。
【0016】
なお、本明細書において、「スダチチン」という用語には、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物の他、スダチチンの配糖体も含む。
【0017】
本発明の炎症性腸疾患改善剤に含まれるスダチチンは、スダチチンの脱配糖体であってもよいし、スダチチンの配糖体であってもよいし、スダチチンの脱配糖体及び配糖体の混合物であってもよい。
【0018】
スダチチンの配糖体としては、例えば、スダチチンに含まれる水酸基の一部または全部に、糖類がグリコシド結合により結合した化合物である。糖類は、特に限定されず、例えば、グルコースなどが挙げられる。
【0019】
本発明の炎症性腸疾患改善剤に含まれるスダチチンの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法で製造することができる。中でも本発明の炎症性腸疾患改善剤に含まれるスダチチンはスダチから得ることが好ましい。この場合、スダチチンは、スダチの果皮から抽出することができる。ここでいう「果皮」は、種子を除いた、内皮を含む果実全体をいう。スダチチンは果皮に限らず、その他、搾汁かすから抽出することもできる。スダチチンを効率よく抽出しやすいという点で、スダチチンは果皮から抽出することが好ましく、外皮から抽出することがより好ましい。
【0020】
スダチチンを抽出するにあたり、原料であるスダチ果皮は、未乾燥の状態で用いてもよいし、あるいは、乾燥状態で用いてもよい。スダチ果皮は、適宜の細かさに粉砕して用いることも好ましい。
【0021】
スダチチンを抽出する方法は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。例えば、スダチ果皮を溶媒中で抽出して抽出液を得る工程1によりスダチチンを得ることができる。
【0022】
工程1において使用する溶媒は、例えば、水、有機溶媒、及び、これらの混合溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等の炭素数1~4であるアルコールを挙げることができる。抽出効率が優れるという点で、溶媒は、水とアルコールの混合溶媒であることが好ましく、水とエタノールとの混合溶媒であることが特に好ましい。混合溶媒において、水は、例えば、3~70質量%含むことができる。
【0023】
工程1における抽出方法は特に限定されず、例えば、公知の抽出方法を広く採用することができる。スダチを抽出するにあたり、抽出温度は特に限定されず、例えば、20~100℃とすることができる。溶媒の使用量は、例えば、スダチ果皮3kgあたり、溶媒を1~30Lとすることができる。抽出時間は、溶媒種、原料及び溶媒の使用量等によって適宜調節することができる。
【0024】
工程1で抽出処理を行った後、抽出液を必要に応じて、ろ過及び/又は遠心分離等の処理を行うことができるまた、前記工程1で得られた抽出液を乾燥し、スダチチンを固形分として得ることもできる。乾燥方法は特に限定されず、例えば、噴霧乾燥等、公知の各種乾燥方法を用いることができる。
【0025】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、スダチチン以外のスダチの抽出物に由来する成分(スダチ由来成分)を含むことができる。スダチ由来成分としては、例えば、炭水化物、たんぱく質、脂質、水分、塩化ナトリウム、その他、灰分等が挙げられる。スダチ由来成分は、例えば、本発明の効果が阻害されない範囲で炎症性腸疾患改善剤に含まれていてもよい。
【0026】
また、本発明の炎症性腸疾患改善剤は、本発明の効果が阻害されない限り、前記スダチチン及びスダチ由来成分以外に、さらに他の添加剤を含むこともできる。他の添加剤としては、例えば、公知の製剤に含まれている各種成分を挙げることができ、賦形剤(ブドウ糖、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、デンプン、デキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、炭酸カルシウム、結晶セルロース、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等);結合剤(蒸留水、生理食塩水、エタノール水、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等);崩壊剤(アルギン酸ナトリウム、カンテン、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、アラビアゴム末、ゼラチン、エタノール等);崩壊抑制剤(白糖、ステアリン、カカオ脂、水素添加油等);吸収促進剤(第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等);吸着剤(グリセリン、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、硅酸等);滑沢剤(精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール等)などが挙げられる。これらは、本発明の炎症性腸疾患改善剤中に、例えば、95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、特に好ましくは80質量%以下含まれ得る。
【0027】
本発明の炎症性腸疾患改善剤の剤型は特に限定されず、半固形、固形、液状等が挙げられる。例えば、懸濁液状、乳液状、溶液状、シロップ状、粉末状、顆粒状、細粒状、錠剤状、カプセル状、トローチ、チュアブル、ゲル状、クリーム状、ペースト状、ムース状等が挙げられる。
【0028】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は液状であることが好ましい。この場合、媒体の種類は特に限定されず、水、生理食塩水、メチルセルロース水溶液(例えば、0.1~1質量%濃度)等が挙げられる。
【0029】
本発明の炎症性腸疾患改善剤が懸濁液、乳液等の液状である場合、炎症性腸疾患改善剤全量に対するスダチチンの含有割合は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上含むことが特に好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、例えば、経口摂取されるものであることが好ましい。もちろん、本発明の炎症性腸疾患改善剤は、経口摂取以外の摂取方法で摂取されるものであってもよい。
【0031】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、ヒト又は動物への摂取又は投与が可能であり、これにより、ヒト又は動物に対し、炎症性腸疾患を改善させることができる。本発明の炎症性腸疾患改善剤は、ヒトに対して摂取又は投与することが好ましい。
【0032】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、種々の炎症性腸疾患のうち、潰瘍性大腸炎に対して特に優れた改善効果をもたらすことができる。従って、本発明の炎症性腸疾患改善剤は、潰瘍性大腸炎の改善に使用されることが好ましい。
【0033】
本発明の炎症性腸疾患改善剤の摂取(投与)量は、目的とする効果が奏される限り特に限定されず、対象者(又は対象動物)の体格、年齢、症状、適用形態、使用目的等に応じて適宜設定することができる。例えば、1日当たり炎症性腸疾患改善剤の摂取(投与)量は、好ましくは1mg/kg以上、好ましくは10mg/kg以上、より好ましくは25mg/kg以上、さらに好ましくは30mg/kg以上、特に好ましくは40mg/kg以上であり、また、好ましくは10000mg/kg以下、より好ましくは5000mg/kg以下、さらに好ましくは1000mg/kg以下、特に好ましくは500mg/kg以下である。摂取(投与)回数は任意であり、例えば、1日あたり単回摂取(投与)であってもよく複数回摂取(投与)であってもよい。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、飲食品組成物の形態とすることができる。すなわち、本発明は、炎症性腸疾患改善剤を含む飲食品組成物及び炎症性腸疾患改善剤を含む食品添加剤も包含する。さらに本発明は、前記飲食品組成物を含む炎症性腸疾患改善用飲食品を包含し、また、本発明は、前記食品添加剤を含む炎症性腸疾患改善用飲食品を包含する。
【0035】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、飲食品組成物の形態である場合、斯かる飲食品組成物は、炎症性腸疾患の改善、とりわけ潰瘍性大腸炎の改善に好適に用いられるものである。飲食品には、一般食品だけでなく、保健機能食品(具体的には、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、病者用食品、サプリメント等が含まれる。
【0036】
飲食品組成物は、例えば、液状、ゲル状あるいは固形状の食品に好ましく適用できる。具体的には、飲料類(例えば、果汁飲料、野菜ジュース、清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク、滋養強壮ドリンク、栄養ドリンク等)、菓子類(例えば、スナック菓子、米菓、チョコレート、グミ、キャンディー、ゼリー、プリン、和菓子、洋菓子等)、調味料類(例えば、醤油、味噌、みりん風調味料、ミックススパイス、たれ、つゆ、ソース、ケチャップ等)、ドレッシング類、麺類(例えば、うどん、そば、スパゲッティ等)、畜肉魚肉加工食品類(例えば、ソーセージ、ウインナー、ハム、ハンバーグ等)、乳製品類(ヨーグルト、牛乳、チーズ、クリーム、バター等)等の食品を挙げることができる。
【0037】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、栄養補助食品の形態とすることができる。すなわち、本発明は、炎症性腸疾患改善剤を含む栄養補助食品組成物も包含する。斯かる栄養補助食品組成物は、炎症性腸疾患の改善、とりわけ潰瘍性大腸炎の改善に好適に用いられるものである。栄養補助食品組成物は、例えば、サプリメントに使用でき、いわゆるドクターズサプリメントに好適である。
【0038】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、食品添加剤の形態とすることができる。すなわち、本発明は、炎症性腸疾患改善剤を含む食品添加剤も包含する。斯かる食品添加剤は、炎症性腸疾患の改善、とりわけ潰瘍性大腸炎の改善に好適に用いられるものである。食品添加剤における食品は、前述の飲食品組成物における食品等同様の種類が例示される。
【0039】
本発明の炎症性腸疾患改善剤は、上述の食品用(健康食品及び健康増進剤を包含する)、栄養補助食品用、食品添加剤の他、医薬、化粧品、飼料などとしても用いることができる。
【0040】
本発明の症性腸疾患改善剤が医薬の形態である場合(例えば、医薬組成物である場合)は、スダチチンと共に必要に応じて薬学的に許容可能な賦形剤を組み合わせることができる。
【0041】
本発明は、スダチチンの使用も包含する。すなわち、本発明は、前記症性腸疾患改善剤を製造するためのスダチチンの使用(又は使用方法)を包含する。
【0042】
また、本発明はスダチチンを投与する方法を包含する。すなわち、本発明は、炎症性腸疾患改善が必要な対象、とりわけ潰瘍性大腸炎の改善が必要な対象にスダチチンを投与する方法を包含する。斯かる方法におけるスダチチンは、本発明の炎症性腸疾患改善剤に含まれるスダチチンと同様である。炎症性腸疾患改善が必要な対象が必要な対象は、ヒト又はヒト以外の動物である。
【0043】
また、本発明は炎症性腸疾患改善における使用のためのスダチチン又はスダチチンを含む組成物を包含する。
【0044】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
反応容器に、スダチ果皮3kg及び70質量%エタノール水溶液5Lを入れ、85℃で3時間攪拌したあと、ろ過および遠心分離を行うことにより残渣を取り除いて溶液を得た。続いて、溶液が1Lになるまで濃縮した後、スプレー乾燥を行なうことにより、粉末状のスダチチン精製品を得た。得られた粉末状のスダチチン500mgを、0.5質量%濃度のメチルセルロース(数平均分子量400)水溶液に加えて混合し、さらに、0.5質量%濃度のメチルセルロース(数平均分子量400)水溶液を加えて希釈することで、スダチチンの濃度が2.5mg/mLである懸濁液を得た。斯かる懸濁液を炎症性腸疾患改善剤とした。
【0047】
(実施例2)
反応容器に、スダチ果皮3kg及び70質量%エタノール水溶液5Lを入れ、85℃で3時間攪拌したあと、ろ過および遠心分離を行うことにより残渣を取り除いて溶液を得た。続いて、溶液が1Lになるまで濃縮した後、スプレー乾燥を行なうことにより、粉末状のスダチチン精製品を得た。得られた粉末状のスダチチンを、0.5質量%濃度のメチルセルロース(数平均分子量400)水溶液に加えて混合することで、スダチチンの濃度が50mg/mLである懸濁液を得た。斯かる懸濁液を炎症性腸疾患改善剤とした。
【0048】
(陽性対照物質)
アステラス製薬株式会社のタクロリムスと生理食塩水とを混合することで、0.1mg/mL溶液を調製した。斯かる溶液を陽性対照物質とした。
【0049】
(試験1)
マウスDSS誘発大腸炎モデルを用いて、実施例で得られた炎症性腸疾患改善剤の薬効を検証した。C57BL/6Jマウスに2%DSS(Sodium Dextran Sulfate;数平均分子量36,000~50,000)を6日間自由飲水させ、その後、注射用水に切り替えた。なお、DSSの飲水を開始した日を0日目とした。一方、実施例1で得られた炎症性腸疾患改善剤を、前記マウスに対し、スダチチンが25mg/kgとなる用量にて前記0日目から11日目迄、1日1回経口投与を行い、後記するDAIスコアにて炎症性腸疾患の改善効果を検証した。
【0050】
(試験2)
スダチチンが50mg/kgとなる用量に変更したこと以外は試験1と同様の方法で炎症性腸疾患の改善効果を検証した。
【0051】
(試験3)
実施例1で得られた炎症性腸疾患改善剤を実施例2で得られた炎症性腸疾患改善剤に変更し、スダチチンが500mg/kgとなる用量に変更したこと以外は試験1と同様の方法で炎症性腸疾患の改善効果を検証した。
【0052】
(試験4)
マウスDSS誘発大腸炎モデルを用いて、実施例で得られた炎症性腸疾患改善剤の薬効を検証した。C57BL/6Jマウスに2%DSS(Sodium Dextran Sulfate;数平均分子量36,000~50,000)を6日間自由飲水させ、その後、注射用水に切り替えた。なお、DSSの飲水を開始した日を0日目とした。一方、陽性対照物質を、前記マウスに対し、タクロリムスが1mg/kgとなる用量にて前記0日目から11日目迄、1日1回経口投与を行い、後記するDAIスコアにて炎症性腸疾患の改善効果を検証した。
【0053】
(DAIスコア)
マウスの体重減少、便の性状(便の硬さ、潜血・粘血便)を以下の基準で評価し、体重減少、便の硬さ、粘血便それぞれのスコアを加算した値をDAIスコアとした。なお、体重測定は、0日目、3日目、5日目、7日目、9日目、11日目の午前中に投与前に行った。また、便の硬さは、マウスを個別ケージに移して新鮮便を採取し、目視もしくはスパーテルで潰して確認した。また、潜血・粘血便は、ColoScreen-ES Lab Pack-Singles(Helena研究所)を用いて確認した。
<体重減少の判定基準>
0 :体重減少が1%未満であった。
0.5:体重減少が1%以上3%未満であった。
1 :体重減少が3%以上5%未満であった。
1.5:体重減少が5%以上7.5%未満であった。
2 :体重減少が7.5%以上10%未満であった。
2.5:10%以上12.5%未満であった。
3 :12.5%以上15%未満であった。
4 :体重減少が15%以上であった。
<便の硬さの判定基準>
0 :水気なし(潰すのが困難)
0.5:0と1の間
1 :軟膏様の硬さ
1.5:1と2の間
2 :形はあるが、すぐ潰れる
2.5:形は若干残るが、粘液入り
3 :形が残らない(粘液入り)
3.5:ケージに張り付く
4 :水下痢
<潜血・粘血便の判定基準>
0:発色なし、やや発色するが1分程で消えた。
1:発色が薄く、判断が困難であった。
2:塗布した中心部分のみが発色した。
3:塗布した全体が発色した。
4:鮮血便であった。
【0054】
(検証結果)
図1には、試験1~4におけるDAIスコアの結果を示している。あわせて図1には、正常群(0.5質量%濃度メチルセルロース水溶液を投与)及び病態群(DSS Vehicle群)のDAIスコアも示している。
【0055】
図1から、各実施例で得られた炎症性腸疾患改善剤を投与した場合、炎症惹起から3日目及び5日目の初期炎症段階では、病態群と比較してDAIスコア平均が低く、とりわけ、試験2及び3のようにスダチチン用量が50mg/kg及び500mg/kgとなる場合は、9日後の回復期間で病態群と比較してDAIスコアが低いことがわかった。
【0056】
また、5日目以降はスダチチン用量が50mg/kg及び500mg/kgである試験2及び3において、DAIスコアの平均値が病態群より低く推移していることが明白であった。なお、陽性対照群のタクロリムス(試験4)は明確な効果を示していることから、病態群のDAIスコアと併せて試験系の成立が確認された。
【0057】
以上より、スダチチンを含む投与群はいずれも初期炎症段階では病状改善効果があると判断した。特に、スダチチンを含む炎症性腸疾患改善剤は、病態初期の段階で大きな改善効果を発揮できることがわかった。従って、スダチチンを含む炎症性腸疾患改善剤は、寛解期に食品として日常的に摂取することにより、腸炎症疾患の増悪を予防することができる。
図1