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特開2024-51770電子ペン、入力システム、及び筆圧調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051770
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】電子ペン、入力システム、及び筆圧調整方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/03 20060101AFI20240404BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G06F3/03 400A
G06F3/044 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158091
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】小池 健
(57)【要約】
【課題】インクレンダリングを行う電子機器の仕様の影響を受けない態様で、ホバー状態における望まないインクレンダリングを抑制可能な電子ペン、入力システム、及び筆圧調整方法を提供する。
【解決手段】電子ペン12は、筆圧センサ26から出力された検出信号が示す検出値を、変換規則に従って筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部68を備える。値変換部68は、受信回路46による受信信号の強度に応じて、変換規則により特定される変換特性曲線84~86,104上において筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する。
【選択図】図10

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状センサを有する電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示する電子ペンであって、
前記電子機器から送信された信号を受信する受信回路と、
ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力する筆圧センサと、
前記筆圧センサから出力された前記検出信号が示す検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部と、
を備え、
前記値変換部は、前記受信回路による受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する、電子ペン。
【請求項2】
前記値変換部は、前記受信信号の強度が大きくなるにつれて前記立ち上がり感度を相対的に上げる一方、前記受信信号の強度が小さくなるにつれて前記立ち上がり感度を相対的に下げる、
請求項1に記載の電子ペン。
【請求項3】
前記変換特性曲線が、前記検出値を第1軸とし、前記変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、
前記値変換部は、前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点の位置を前記第1軸に沿って移動することにより前記立ち上がり感度を調整する、
請求項1に記載の電子ペン。
【請求項4】
前記変換特性曲線が、前記検出値を第1軸とし、前記変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、
前記値変換部は、前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点における傾きを変更することにより前記立ち上がり感度を調整する、
請求項1に記載の電子ペン。
【請求項5】
前記変換値は、値が大きくなるにつれて前記筆圧量が線形的に大きくなるように定義される、
請求項1に記載の電子ペン。
【請求項6】
前記変換特性曲線を更新する特性更新部をさらに備え、
前記値変換部は、前記特性更新部により更新された前記変換特性曲線上における前記立ち上がり感度を調整する、
請求項1に記載の電子ペン。
【請求項7】
前記特性更新部は、前記検出値の標本として複数の標本値を取得し、前記複数の標本値に関する統計量に基づいて前記変換特性曲線を決定して更新する、
請求項6に記載の電子ペン。
【請求項8】
前記変換特性曲線は、前記検出値を第1軸とし、前記変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点に対応する前記検出値が、前記受信信号の強度にかかわらず、前記複数の標本値のうちの最大値以上になるように決定される、
請求項7に記載の電子ペン。
【請求項9】
前記変換特性曲線は、前記受信回路により過去に得られた前記受信信号の強度の最大値に基づいて決定される、
請求項7に記載の電子ペン。
【請求項10】
前記複数の標本値は、前記受信信号の強度が閾値よりも小さい間に前記筆圧センサから逐次出力された前記検出信号を示す検出値のセットである、
請求項7に記載の電子ペン。
【請求項11】
前記複数の標本値は、前記電子機器との間の通信セッションの開始を契機として前記筆圧センサから逐次出力された前記検出信号を示す検出値のセットである、
請求項7に記載の電子ペン。
【請求項12】
前記特性更新部は、前記電子機器との間の通信セッション毎に前記変換特性曲線を更新する、
請求項6に記載の電子ペン。
【請求項13】
面状センサを有する電子機器と、
前記電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示する電子ペンと、
を備え、
前記電子ペンは、
前記電子機器から送信された信号を受信する受信回路と、
ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力する筆圧センサと、
前記筆圧センサから出力された前記検出信号が示す検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部と、
を備え、
前記値変換部は、前記受信回路による受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する、入力システム。
【請求項14】
面状センサを有する電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示する電子ペンに関する筆圧調整方法であって、
前記電子ペンが、
前記電子機器から送信された信号を受信し、
ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力し、
出力された前記検出信号が示す検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換し、
受信した受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する、筆圧調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ペン、入力システム、及び筆圧調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、位置指示器である電子ペン(あるいは、スタイラス)と、タッチセンサを備える電子機器と、から構成される入力システムが知られている。この類のシステムでは、電子ペンのペン先に設けられる筆圧センサがペン先に作用する筆圧量を検出し、この筆圧量を用いてアナログライクの書き味を再現したインクレンダリングが行われる。
【0003】
例えば、誤動作、摩擦、筆圧センサの摩耗などが原因で、電子ペンがホバー状態であっても筆圧センサにより正の筆圧量が検出されることがある。そこで、ホバー状態と整合しない筆圧量が検出された場合であっても、望まないインクレンダリングを防止する方法が様々提案されている。
【0004】
特許文献1には、タッチデバイスからの送信信号を第1アンテナ及び第2アンテナから受信し、この受信信号からタッチデバイスとの距離を決定し、当該距離に応じてインクレンダリングを実行させるための命令信号をタッチデバイスに送信する電子ペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第11163396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示される方法では、電子ペン自身が距離の決定及び実行可否の判定を順次行うので、電子機器のソフトウェア仕様又はハードウェア仕様に応じて異なる判定処理を実装しなければならない場合がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクレンダリングを行う電子機器の仕様の影響を受けない態様で、ホバー状態における望まないインクレンダリングを抑制可能な電子ペン、入力システム、及び筆圧調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における電子ペンは、面状センサを有する電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示するペンであって、前記電子機器から送信された信号を受信する受信回路と、ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力する筆圧センサと、前記筆圧センサから出力された前記検出信号が示す検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部と、を備え、前記値変換部は、前記受信回路による受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する。
【0009】
本発明における入力システムは、面状センサを有する電子機器と、前記電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示する電子ペンと、を備え、前記電子ペンは、前記電子機器から送信された信号を受信する受信回路と、ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力する筆圧センサと、前記筆圧センサから出力された前記検出信号が示す検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部と、前記受信回路による受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する感度調整部と、を備える。
【0010】
本発明における筆圧調整方法は、面状センサを有する電子機器との間の通信によって前記面状センサ上の位置を指示する電子ペンに関する方法であって、前記電子ペンが、前記電子機器から送信された信号を受信し、ペン先に作用する筆圧量に相関する検出値を出力し、出力された前記検出値を、変換規則に従って前記筆圧量の大きさを示す変換値に変換し、受信した受信信号の強度に応じて、前記変換規則により特定される変換特性曲線上において前記筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクレンダリングを行う電子機器の仕様の影響を受けない態様で、ホバー状態における望まないインクレンダリングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における入力システムの全体構成図である。
図2図1の電子ペンの内部構造を模式的に示す図である。
図3図1及び図2に示す電子ペンの電気的なブロック図である。
図4図3に示す制御回路の機能ブロック図である。
図5】検出値、変換値及び筆圧量の対応関係についての一例を示す図である。
図6図5の対応関係における変換特性曲線を示す図である。
図7】電子ペンの使用時における電子ペンの位置の時間変化の一例を示す図である。
図8図3及び図4の制御回路による変換特性曲線の更新動作の一例を示すフローチャートである。
図9】変換特性曲線の決定方法の一例を示す図である。
図10】筆圧感度の動的調整方法の第1例を示す図である。
図11】筆圧感度の動的調整方法の第2例を示す図である。
図12】筆圧感度の動的調整方法の第3例を示す図である。
図13】検出値、変換値及び筆圧量の対応関係についての別の例を示す図である。
図14図13の対応関係における変換特性曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
[電子ペン12の構成]
<入力システム10の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における電子ペン12が組み込まれた入力システム10の全体構成図である。この入力システム10は、ユーザによる手書きコンテンツをデジタルデータとして取り扱う「デジタルインクサービス」を提供可能に構成される。この入力システム10は、具体的には、電子ペン12と、この電子ペン12とともに用いられる電子機器14と、を含んで構成される。
【0015】
電子ペン12は、ペン型のポインティングデバイスであり、電子機器14との間で一方向又は双方向に通信可能に構成される。この実施形態では、電子ペン12は、アクティブ静電結合方式(AES)のスタイラスである。電子ペン12及び電子機器14は、容量Cpenによって互いに静電容量結合がなされる。
【0016】
電子機器14は、ユーザが所有するコンピュータであって、例えば、タブレット、スマートフォン、パーソナルコンピュータなどから構成される。具体的には、電子機器14は、面状センサ16及びセンサコントローラ18の他に、ホストプロセッサ、メモリ、通信モジュール、又は表示パネル(いずれも不図示)を含んで構成される。ホストプロセッサは、センサコントローラ18から逐次出力される位置データを用いて、デジタルインクの生成処理やポインタの表示処理などを行う。
【0017】
面状センサ16は、例えば、複数の検出電極を面状に配置してなる静電容量方式のタッチセンサである。この面状センサ16は、例えば、センサ座標系のX軸の位置を検出するための複数本のXライン電極と、Y軸の位置を検出するための複数本のYライン電極とを含んで構成される。各々のライン電極は、ITO(Indium Tin Oxide)を含む透明導電性材料から構成されてもよいし、ワイヤメッシュセンサから構成されてもよい。なお、面状センサ16は、上記した相互容量方式のセンサに代えて、ブロック状の電極を二次元格子状に配置した自己容量方式のセンサであってもよい。
【0018】
センサコントローラ18は、面状センサ16に接続されており、面状センサ16を介して電子ペン12との間の通信を制御するための制御回路である。具体的には、センサコントローラ18は、電子ペン12に向けてアップリンク信号USを送信し、電子ペン12からのダウンリンク信号DSを受信して電子ペン12の指示位置を検出する。
【0019】
<電子ペン12の構成>
図2は、図1の電子ペン12の内部構造を模式的に示す図である。この電子ペン12は、芯20と、チップ電極22と、リング電極24と、筆圧センサ26と、回路基板28と、電池30と、筐体32と、を含んで構成される。
【0020】
芯20は、電子ペン12のペン軸に沿って配置される棒状の部材である。チップ電極22及びリング電極24はそれぞれ、金属などの導電性材料からなり又は導電性材料を含む。具体的には、チップ電極22は、芯20の先端に取り付けられた円錐状の 電極である。また、リング電極24は、先端側に向かうにつれて径が徐々に小さくなるテーパ環状の電極である。
【0021】
筆圧センサ26は、芯20と物理的に接続されており、芯20の先端側(つまりペン先)に作用する筆圧量を検出可能に構成される。筆圧センサ26の検出方式として、例えば、静電容量方式、膜抵抗方式、圧電素子方式、光学方式、又はMEMS(Micro Electro-Mechanical System)方式が用いられる。
【0022】
回路基板28は、電子ペン12を作動するための電気回路を構成する基板である。電池30は、回路基板28上に設けられる電子部品又は電子素子に対して駆動電力を供給する電源である。筐体32は、上記したそれぞれの構成部品を収容可能に構成される。
【0023】
図3は、図1及び図2に示す電子ペン12の電気的なブロック図である。電子ペン12は、上記したチップ電極22及び筆圧センサ26(図2)の他に、電源回路40と、DC/DCコンバータ42と、送信回路44と、受信回路46と、スイッチ48と、制御回路50と、を含んで構成される。なお、説明の便宜上、リング電極24の構成及び電気的な接続関係についての図示を省略する。
【0024】
電源回路40は、電子ペン12の駆動電圧を生成し、得られた直流電圧をDC/DCコンバータ42に向けて出力する。具体的には、電源回路40は、上記した電池30(図2)と、電池30の電力管理を司るパワーマネジメントIC(以下、PMIC41)から構成される。
【0025】
DC/DCコンバータ42は、電源回路40から入力された直流電圧を各々の回路に適した直流電圧に変換した後、当該直流電流を送信回路44及び制御回路50にそれぞれ出力する。
【0026】
送信回路44は、ダウンリンク信号DSを生成した後、該ダウンリンク信号DSをスイッチ48及びチップ電極22に向けて出力する回路である。具体的には、送信回路44は、所定の周波数で振動する搬送波信号を生成する発振回路と、制御回路50からの制御信号に含まれるデータを用いて搬送波信号を変調する変調回路を含んで構成される。
【0027】
受信回路46は、チップ電極22及びスイッチ48を介してアップリンク信号USを取得した後、制御回路50に向けて出力する回路である。具体的には、受信回路46は、増幅回路及びAD変換回路を含むアナログ回路と、マッチドフィルタ及びデータ復元部を含むデジタル回路と、を含んで構成される。
【0028】
スイッチ48は、入力端がチップ電極22に、第1出力端が送信回路44に、第2出力端が受信回路46にそれぞれ接続されるように設けられる。このスイッチ48により、チップ電極22が、送信回路44又は受信回路46に選択的に接続される。
【0029】
制御回路50は、ダウンリンク信号DSの送信動作及びアップリンク信号USの受信動作を含む制御を司るマイクロコンピュータである。制御回路50は、各部の制御を通じて、受信回路46からのアップリンク信号US及び筆圧センサ26からの検出信号を入力するとともに、送信回路44へのダウンリンク信号DS及びスイッチ48への制御信号を出力する。
【0030】
<制御回路50の機能ブロック図>
図4は、図3に示す制御回路50の機能ブロック図である。制御回路50は、検出値取得部60、モードスイッチ62、強度取得部64、モード制御部66、値変換部68、及び特性更新部70として機能する。
【0031】
検出値取得部60は、筆圧センサ26(図2及び図3)から出力される検出信号を処理し、筆圧量に相関する検出値を取得する。検出値の量子化ビット数は、ADC(Analog-to-Digital Converter)の仕様により定められる。
【0032】
モードスイッチ62は、入力端が検出値取得部60に、出力端M1が値変換部68に、出力端M2が特性更新部70にそれぞれ接続されるスイッチである。このモードスイッチ62により、検出値取得部60が取得した検出値が、値変換部68又は特性更新部70に選択的に供給される。
【0033】
強度取得部64は、図3の受信回路46を介して受信したアップリンク信号USの強度(以下、「受信強度」ともいう)を取得する。この受信強度は、モード制御部66及び値変換部68にそれぞれ供給される。
【0034】
モード制御部66は、[1]検出値に対して変換処理を施して変換値を出力する「変換モード」と、[2]検出値の変換規則を更新する「更新モード」と、の実行を切り替える制御を行う。具体的には、モード制御部66は、強度取得部64から供給された受信強度に基づいて、モードスイッチ62の出力先を切り替えるスイッチ制御を行う。
【0035】
モード制御部66は、例えば、受信強度の時間変化を解析して電子機器14との通信セッションの開始を検知した場合に、実行モードを「変換モード」から「更新モード」に切り替える指令信号を出力する。モード制御部66は、例えば、変換特性曲線84の更新が終了した旨の通知を受け付けた場合、あるいは「更新モード」に切り替えた時点から制限時間を経過した場合に、実行モードを「更新モード」から「変換モード」に切り替える指令信号を出力する。
【0036】
値変換部68は、検出値取得部60により取得された検出値を、変換規則に従って筆圧量の大きさを示す変換値に変換する。この変換規則は、値変換部68にセットされた変換用データTDにより記述され、より詳しくは、第1軸を検出値とし、第2軸を変換値とする座標系上の関数(以下、「変換特性曲線84」ともいう)により表現される。ここで、変換特性曲線84は、1本以上の直線、1本以上の曲線又はこれらを組み合わせてなる連続関数である。
【0037】
値変換部68は、特性更新部70を通じて変換用データTDが更新される度に、変換用データTDが記述する新たな変換規則に従って変換処理を行う。この変換処理を実現する演算処理には、関数演算、ルックアップテーブル(LUT)演算、クリッピング演算、ビットシフト演算、オフセット調整、ゲイン調整、又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0038】
なお、検出値及び変換値はそれぞれ、値が大きくなるにつれて筆圧量が大きくなるように定義される。特に、値が大きくなるにつれて筆圧量が線形的に大きくなるように変換値が定義される場合、実際の筆圧量との相関性が高くなるので、電子機器14は、アナログライクにより近いインクレンダリングを行うことができる。
【0039】
また、値変換部68は、強度取得部64により取得された受信強度に応じて、変換規則により特定される変換特性曲線84(図10)の形状を動的に調整してもよい。具体的には、値変換部68は、上記した受信強度に応じて、変換特性曲線84~86上において筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整してもよい。例えば、値変換部68は、受信強度が大きくなるにつれて立ち上がり感度を相対的に上げる一方、受信強度が小さくなるにつれて立ち上がり感度を相対的に下げてもよい。
【0040】
値変換部68は、例えば、筆圧量がゼロから非ゼロに移行する点(以下、変曲点)の位置を第1軸(つまり、検出値に関する軸)に沿って移動することにより立ち上がり感度を調整してもよい。この場合、変曲点の位置を原点に近づけることで立ち上がり感度が上がる一方、変曲点の位置を原点から遠ざけることで立ち上がり感度が下がる。
【0041】
値変換部68は、例えば、筆圧量がゼロから非ゼロに移行する点(つまり、変曲点)における傾きを変更することにより立ち上がり感度を調整してもよい。この場合、変曲点における傾きを大きくすることで立ち上がり感度が上がる一方、変曲点における傾きを小さくすることで立ち上がり感度が下がる。
【0042】
特性更新部70は、値変換部68が行う変換処理に用いられる変換特性曲線84(図10)を更新する。具体的には、特性更新部70は、検出値取得部60により取得された検出値を用いて、変換特性曲線84を記述する変換用データTDを生成し、値変換部68に供給する。この変換用データTDが有するデータ形式は、変換処理時の演算の種類に応じて定められる。
【0043】
変換特性曲線84の更新タイミングは、定期的であってもよいし、不定期であってもよい。前者の例として、計画された更新時期(例えば、1か月毎)が到来した場合が挙げられる。後者の例として、電子機器14との間の通信セッションが開始した場合、又は、ユーザによる更新指示操作を受け付けた場合が挙げられる。
【0044】
また、特性更新部70は、検出値取得部60から検出値の標本として複数の標本値を取得し、この複数の標本値に関する統計量に基づいて変換特性曲線84~86を決定してもよい。標本数は、統計的に有意なデータ数であれば様々な値であってもよい。統計量の一例として、平均値、最大値、最小値、最頻値、又は中央値などが挙げられる。
【0045】
変換特性曲線84は、検出値を第1軸とし、変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、上記した変曲点に対応する検出値が、受信強度にかかわらず、複数の標本値のうちの最大値以上になるように決定されてもよい。
【0046】
また、変換特性曲線84の形状は、過去に得られた受信強度の最大値に基づいて決定されてもよい。ここで、「過去に得られた受信強度」とは、今回の通信セッションで得られた受信強度に限られず、同一の電子機器14に対して過去に行われた複数回の通信セッションにわたって得られた受信強度を意味する。例えば、受信強度の最大値が、検出値に関する複数の標本値のうちの最小値に対応付けられるように、変換特性曲線84の形状が決定されてもよい。
【0047】
標本値の取得タイミングは、筆圧センサ26が筆圧量を検出可能な時間帯であればいつでもよいが、変換特性曲線84を更新する直前であることがより好ましい。具体的には、標本値は、[1]受信信号の強度が閾値よりも小さい間に取得されてもよいし、[2]電子機器14との間の通信セッションの開始を契機として取得されてもよい。
【0048】
[電子ペン12の動作]
この実施形態における電子ペン12は、以上のように構成される。続いて、この電子ペン12の動作(より詳しくは、筆圧調整に関する動作)について、図5図12を参照しながら説明する。
【0049】
<1.変換特性曲線84の説明>
図5は、検出値、変換値及び筆圧量の対応関係についての一例を示す図である。グラフの左方に延びる第1軸は、12ビットの検出値(0~4095)を示している。グラフの上方に延びる第2軸は、筆圧量(単位:任意、例えばgf)を示している。グラフの右方に延びる第3軸は、10ビットの変換値(0~1023)を示している。なお、検出値又は変換値の量子化ビット数は図5に示す例に限られない。
【0050】
第1特性曲線80は、第1軸(検出値)及び第2軸(筆圧量)に関する曲線である。本図の例では、第1特性曲線80は、[1]原点(0,0)を通り、[2]筆圧量が検出値に対して概ね線形的に増加する関係を示している。
【0051】
第2特性曲線82は、第2軸(筆圧量)及び第3軸(変換値)に関する曲線である。本図の例では、第2特性曲線82は、[1]筆圧量がP1以下の場合には変換値が一定(最小値=0)であり、[2]筆圧量がP1を上回ると変換値が線形的に増加し、[3]筆圧量がP2以上の場合には変換値が一定(最大値=1023)である関係を示している。ここで、筆圧量P1は、検出値D1に対応する。また、筆圧量P2は、検出値D2及び変換値の最大値(1023)にそれぞれ対応する。また、筆圧量P3は、検出値の最大値(4095)及び変換値の最大値(1023)にそれぞれ対応する。
【0052】
図6は、図5の対応関係における変換特性曲線84を示す図である。より詳しくは、変換特性曲線84は、図5の第1特性曲線80及び第2特性曲線82を合成した曲線に相当する。グラフの横軸は12ビットの検出値を示すとともに、グラフの縦軸は10ビットの変換値を示している。変換特性曲線84は、[1]検出値がD1以下の場合には変換値が最小値(0)であり、[2]検出値がD1を上回ると変換値が線形的に増加し、[3]検出値がD2以上の場合には変換値が最大値(1023)である関係を示している。
【0053】
ここで、変曲点Q1(D1,0)は、変換特性曲線84における立ち上がりの起点に相当する。また、変曲点Q2(D2,0)は、変換特性曲線84における飽和の起点に相当する。以下、変曲点Q1を下限、変曲点Q2を上限とする範囲を「有効範囲」ともいう。
【0054】
<2.変換特性曲線84の更新>
図7は、電子ペン12を使用する際の電子ペン12の位置の時間変化の一例を示す図である。ここでは、電子ペン12と電子機器14との間で通信ができない領域を「通信不可領域90」、電子ペン12と電子機器14との間で通信ができる領域を「通信可能領域92」という。ユーザは、手書き入力を行う際に、電子ペン12を把持しながらペン先を電子機器14のタッチ面に近づける。電子ペン12は、通信不可領域90と通信可能領域92との間の境界位置94に到達すると、アップリンク信号US1を受信できるようになる。このイベントを契機として、電子ペン12及び電子機器14は、通信セッションを開始する。
【0055】
そして、電子ペン12が通信可能領域92内にある間、上記した通信セッションが継続される。電子ペン12のペン先がセンサ面に接触する「コンタクト状態」の場合に、電子ペン12の受信強度が最大となり、ペン先がセンサ面から離れるにつれて電子ペン12の受信強度が小さくなる。本図の例では、アップリンク信号US2の受信強度は、アップリンク信号US1の受信強度よりも大きくなる。
【0056】
そして、ユーザは、手書き入力を中断又は終了する際に、電子ペン12を把持しながらペン先を電子機器14のタッチ面から遠ざける。電子ペン12は、境界位置94に到達すると、アップリンク信号US3を受信できなくなる。このイベントを契機として、電子ペン12及び電子機器14は、通信セッションを終了する。
【0057】
続いて、図3及び図4の制御回路50による変換特性曲線84の更新動作の一例について、図8のフローチャート及び図9を参照しながら説明する。このフローチャートの開始時点では、電子ペン12と電子機器14の間で通信セッションがまだ開始されていない。
【0058】
図8のステップSP10において、モード制御部66は、強度取得部64により取得される受信強度を参照し、電子ペン12と電子機器14の間で通信セッションを開始したか否かを確認する。通信セッションの開始が確認されていない場合(ステップSP10:NO)、モード制御部66は、開始の状態になるまでステップSP10に留まる。一方、通信セッションの開始が確認された場合(ステップSP10:YES)、モード制御部66は、モードスイッチ62の出力先をM1端子側(つまり、更新モード)に切り替えた後、次のステップSP12に進む。
【0059】
ステップSP12において、検出値取得部60は、筆圧センサ26から逐次出力される検出信号を処理して検出値の標本(つまり、標本値)を取得し、モードスイッチ62を経由して特性更新部70に供給する。
【0060】
ステップSP14において、特性更新部70は、変換特性曲線84の決定に必要な数(例えば、N個)の標本値を取得できたか否かを確認する。必要な数をまだ取得できていない場合には(ステップSP14:NO)、特性更新部70は、ステップSP12に戻って、必要な数を取得できるまでの間、ステップSP12,SP14を順次繰り返す。一方、必要な数を取得できた場合には(ステップSP14:NO)、特性更新部70は、次のステップSP16に進む。
【0061】
ステップSP16において、特性更新部70は、ステップSP12で逐次取得された複数の標本値を用いて、今回の通信セッションにおける変換特性曲線84を決定する。具体的には、特性更新部70は、複数の標本値に対する統計量を求め、この統計量に基づいて今回の変換特性曲線84を決定し、この変換特性曲線84を特定するための変換用データTDを生成する。
【0062】
図9は、変換特性曲線84の決定方法の一例を示す図である。本図のグラフは、図6における変曲点Q1の座標、換言すれば、有効範囲の下限値(検出値D1)を決定するための決定関数88に相当する。グラフの横軸は受信強度Sを示すとともに、グラフの縦軸は下限値(D1)を示している。
【0063】
本図の例では、決定関数88は、2点R1,R2を結ぶ1次関数である。R1の座標は(0,Dmax+Δ)であり、R2の座標は(Smax,Dmax)である。Δ=Dmax-Dminで定義される。Dmaxは、今回の通信セッションの開始時に得られたN個中の標本値における最大値である。Dminは、今回の通信セッション開始時に得られたN個中の標本値における最小値である。Smaxは、過去の通信セッションにおいて電子ペン12がコンタクト状態である場合に得られた受信強度Sの最大値である。
【0064】
図8のステップSP18において、値変換部68は、ステップSP16により決定された変換特性曲線84を設定する。具体的には、値変換部68は、特性更新部70により生成された変換用データTDを取得し、この変換用データTDを利用可能な状態にセットする。
【0065】
ステップSP20において、モード制御部66は、モードスイッチ62の出力先をM1端子側(「変換モード」に対応)に切り替えた後、強度取得部64により取得される受信強度の時間変化を解析し、電子ペン12と電子機器14の間で通信セッションを終了したか否かを確認する。通信セッションの終了が確認されていない場合(ステップSP20:NO)、モード制御部66は、終了の状態になるまでステップSP20に留まる。一方、通信セッションの終了が確認された場合(ステップSP20:YES)、図8のフローチャートを終了する。
【0066】
<3.筆圧感度の動的調整>
続いて、値変換部68による筆圧感度の動的調整方法について、図10図12を参照しながら説明する。
【0067】
図10は、筆圧感度の動的調整方法の第1例を示す図である。本図のグラフの横軸は検出値を、グラフの縦軸は変換値をそれぞれ示している。電子ペン12の受信強度(あるいは、高さ位置)に応じて、変換特性曲線84のオフセット量が調整されることで、有効範囲の幅が一定に保たれたまま、有効範囲が横軸方向に平行移動する。
【0068】
例えば、電子ペン12が電子機器14から遠ざかるにつれて、変換特性曲線84の有効範囲が右方(原点から遠ざかる方向)に平行移動することにより、筆圧量の立ち上がり感度が下がっていく。これにより、電子ペン12がホバー状態にもかかわらず描画される現象(いわゆる、インク漏れ)の発生を抑制することができる。
【0069】
これとは反対に、電子ペン12が電子機器14に近づくにつれて、変換特性曲線84の有効範囲が左方(原点に近づく方向)に平行移動することにより、筆圧量の立ち上がり感度が上がっていく。これにより、電子ペン12による描画の応答性を高めることができる。
【0070】
図11は、筆圧感度の動的調整方法の第2例を示す図である。本図のグラフの横軸は検出値を、グラフの縦軸は変換値をそれぞれ示している。電子ペン12の受信強度(あるいは、高さ位置)に応じて、変換特性曲線85のゲイン量が調整されることで、有効範囲の下限値が固定されたまま、有効範囲の幅が拡大又は縮小する。
【0071】
例えば、電子ペン12が電子機器14から遠ざかるにつれて、変換特性曲線85の有効範囲の幅が右方(原点から遠ざかる方向)に拡大することにより、変曲点Q1を含む有効範囲の全体にて筆圧量の感度が下がっていく。これにより、電子ペン12がホバー状態にもかかわらず描画される現象(いわゆる、インク漏れ)の発生を抑制することができる。
【0072】
これとは反対に、電子ペン12が電子機器14に近づくにつれて、変換特性曲線85の有効範囲の幅が左方(原点に近づく方向)に縮小することにより、変曲点Q1を含む有効範囲の全体にて筆圧量の感度が上がっていく。これにより、電子ペン12による描画の応答性を高めることができる。
【0073】
図12は、筆圧感度の動的調整方法の第3例を示す図である。本図のグラフの横軸は検出値を、グラフの縦軸は変換値をそれぞれ示している。電子ペン12の受信強度(あるいは、高さ位置)に応じて、変換特性曲線86のガンマ値が調整されることで、有効範囲の上限値及び下限値が固定されたまま、カーブの形状(つまり、傾きのバランス)が変化する。
【0074】
例えば、電子ペン12が電子機器14から遠ざかるにつれて、ガンマ値が増加することにより、変曲点Q2近傍における筆圧量の感度が相対的に高くなる反面、変曲点Q1近傍における筆圧量の感度が相対的に下がっていく。これにより、電子ペン12がホバー状態にもかかわらず描画される現象(いわゆる、インク漏れ)の発生を抑制することができる。
【0075】
これとは反対に、電子ペン12が電子機器14に近づくにつれて、ガンマ値が低下することにより、有効範囲の全体における筆圧量の感度が均一化されるので、変曲点Q1近傍における筆圧量の感度が相対的に上がっていく。これにより、電子ペン12による描画の応答性を高めることができる。
【0076】
<4.変換特性曲線104の説明>
上記した図5の例では、ペン先に作用する荷重(つまり、筆圧量)が大きくなるにつれて、筆圧センサ26から出力される検出値が増加する場合を想定している。筆圧センサ26の検出方式や構造などによって、検出値と筆圧量の間の相関関係が、図5の例とは異なる場合もあり得る。
【0077】
図13は、検出値、変換値及び筆圧量の対応関係についての別の例を示す図である。グラフの第1軸~第3軸の定義は、図5の場合と同じであるので、その説明を省略する。
【0078】
第1特性曲線100は、第1軸(検出値)及び第2軸(筆圧量)に関する曲線である。本図の例では、第1特性曲線100は、[1]点(0,P3)を通り、[2]筆圧量が検出値に対して概ね線形的に減少する関係を示している。
【0079】
第2特性曲線102は、第2軸(筆圧量)及び第3軸(変換値)に関する曲線である。本図の例では、第2特性曲線102は、図5の第2特性曲線82と同一の形状を有する。また、筆圧量P1~P3は、図5の場合と同様に定義される。
【0080】
図14は、図13の対応関係における変換特性曲線104を示す図である。より詳しくは、変換特性曲線104は、図13の第1特性曲線100及び第2特性曲線102を合成した曲線に相当する。変換特性曲線104は、[1]検出値がD2以下の場合には変換値が最大値(1023)であり、[2]検出値がD2を上回ると変換値が線形的に減少し、[3]検出値がD1以上の場合には変換値が最小値(0)である関係を示している。ここで、変曲点Q1(D1,0)は、変換特性曲線104における立ち上がりの起点に相当する。また、変曲点Q2(D2,0)は、変換特性曲線104における飽和の起点に相当する。
【0081】
このように、ペン先に作用する荷重(つまり、筆圧量)が大きくなるにつれて、筆圧センサ26から出力される検出値が減少する場合であっても、値変換部68は、図14に示す変換特性曲線104を用いることにより、筆圧感度を動的に調整することができる。調整方法は、図10図12に示す第1例~第3例の場合と同様である。
【0082】
[実施形態による効果]
以上のように、この実施形態における入力システム10は、面状センサ16を有する電子機器14と、電子機器14との間の通信によって面状センサ16上の位置を指示する電子ペン12と、を備える。電子ペン12は、電子機器14から送信された信号(ここでは、アップリンク信号US)を受信する受信回路46と、ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力する筆圧センサ26と、筆圧センサ26から出力された検出信号が示す検出値を、変換規則に従って筆圧量の大きさを示す変換値に変換する値変換部68と、を備える。値変換部68は、受信回路46による受信信号の強度に応じて、変換規則により特定される変換特性曲線84~86,104上において筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する。
【0083】
この実施形態における筆圧調整方法によれば、電子ペン12が、電子機器14から送信された信号を受信し、ペン先に作用する筆圧量に相関する検出信号を出力し、出力された検出信号が示す検出値を、変換規則に従って筆圧量の大きさを示す変換値に変換し、受信した受信信号の強度に応じて、変換規則により特定される変換特性曲線84~86,104上において筆圧量がゼロから非ゼロに移行する立ち上がり感度を調整する。
【0084】
このように、受信回路46による受信信号の強度に応じて立ち上がり感度を調整することにより、インクレンダリングを行う電子機器14の仕様の影響を受けない態様で、ホバー状態における望まないインクレンダリングを抑制することができる。
【0085】
また、値変換部68は、受信信号の強度が大きくなるにつれて立ち上がり感度を相対的に上げる一方、受信信号の強度が小さくなるにつれて前記立ち上がり感度を相対的に下げてもよい。これにより、ホバー状態でのインク漏れを抑制しつつも、コンタクト時の描画応答性を高めることができる。
【0086】
また、変換特性曲線84~86,104が、検出値を第1軸とし、変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、値変換部68は、筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点の位置を第1軸に沿って移動することにより立ち上がり感度を調整してもよい。あるいは、値変換部68は、筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点における傾きを変更することにより立ち上がり感度を調整してもよい。また、変換値は、値が大きくなるにつれて筆圧量が線形的に大きくなるように定義されてもよい。
【0087】
また、電子ペン12が、変換特性曲線84~86,104を更新する特性更新部70をさらに備えてもよく、この場合、値変換部68は、特性更新部70により更新された変換特性曲線84~86,104上における立ち上がり感度を調整する。これにより、電子ペン12の現在の状態に応じた筆圧量の感度調整を行うことができる。
【0088】
また、特性更新部70は、検出値の標本として複数の標本値を取得し、複数の標本値に関する統計量に基づいて変換特性曲線84~86,104を決定して更新してもよい。これにより、検出値のばらつきが反映された変換特性曲線84~86,104を得ることができる。
【0089】
また、変換特性曲線84~86,104は、検出値を第1軸とし、変換値を第2軸とする座標系上で表現される場合、筆圧量がゼロから非ゼロに移行する変曲点Q1に対応する検出値が、受信信号の強度にかかわらず、複数の標本値のうちの最大値以上になるように決定されてもよい。これにより、電子機器14からの受信状況によらず、検出値の下限値が標本値の最大値を下回らないように調整される。
【0090】
また、変換特性曲線84~86,104は、受信回路46により過去に得られた受信信号の強度の最大値に基づいて決定されてもよい。これにより、受信強度の最大値が反映された変換特性曲線84~86,104を得ることができる。
【0091】
また、複数の標本値は、受信信号の強度が閾値よりも小さい間に筆圧センサ26から逐次出力される検出信号が示す検出値のセット、あるいは、電子機器14との間の通信セッションの開始を契機として筆圧センサ26から逐次出力される検出信号が示す検出値のセットであってもよい。これにより、電子機器14から受信した信号に起因する電気ノイズの影響をより少なくすることができる。
【0092】
また、特性更新部70は、電子機器14との間の通信セッション毎に変換特性曲線84~86,104を更新してもよい。これにより、筆圧センサ26による筆圧量の検出バラツキを通信セッション毎に調整することができる。
【0093】
[変形例]
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0094】
上記した実施形態では、電子ペン12がアクティブ静電結合方式(AES)のスタイラスである場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、電子ペン12が電磁誘導方式(EMR)のスタイラスであってもよい。この装置構成の場合、電子機器には複数のループコイルが形成された面状センサが設けられ、電子ペンには面状センサが発する磁界信号を受信する受信回路が設けられる。
【0095】
上記した実施形態では、電子ペン12が、電子機器14が有する面状センサ16との間の静電容量結合を利用した通信によって信号を受信し、その受信信号の強度に応じて立ち上がり感度を調整する場合を例に挙げて説明したが、通信方法はこれに限られない。例えば、Bluetooth(登録商標)などの他の無線通信手段を通じて得られた受信信号の強度が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…入力システム、12…電子ペン、14…電子機器、16…面状センサ、26…筆圧センサ、46…受信回路、50…制御回路、68…値変換部、70…特性更新部、84~86,104…変換特性曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14