(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051771
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B29B 15/12 20060101AFI20240404BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158094
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(72)【発明者】
【氏名】川邊 和正
(72)【発明者】
【氏名】牧野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】福留 秀渡
(72)【発明者】
【氏名】替地 慎
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘昌
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD44
4F072AG03
4F072AG16
4F072AH04
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH18
4F072AH20
4F072AH22
4F072AH25
4F072AH49
4F072AJ36
4F072AJ40
4F072AL02
4F072AL04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低コストかつ繊維分散性に優れた熱可塑性樹脂プリプレグシートを得るための製造方法及び製造装置について提供することを目的とする。
【解決手段】長繊維材料を走行させ熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法および製造装置であって、長繊維材料に目付け20~80g/m
2の開繊糸シートSaを用い、第1ガイド部材32aと第2ガイド部材34aの間に熱可塑性樹脂材料が吐出する樹脂付着部材33aを少なくとも1つ以上配置し、前記開繊糸シートに張力を付与して前記各部材に接触走行させて前記開繊糸シートの少なくとも片面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させた後、加熱加圧にて前記熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シートの各繊維間に含浸させる方法及び装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維材料を繊維長方向に引き揃えて走行させ熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法であって、前記長繊維材料に繊維が幅方向に分散された目付け20~80g/m2の開繊糸シートを用い、曲面形状の当接面がそれぞれ形成されている第1ガイド部材と第2ガイド部材を前記開繊糸シートの走行方向に所定の間隔を設けて配置し、前記第1ガイド部材と前記第2ガイド部材の間に、溶融した熱可塑性樹脂材料が連続して吐出する吐出口を有した曲面形状の当接面が形成されている樹脂付着部材を少なくとも1つ以上配置し、繊維長方向に張力を付与した前記開繊糸シートを前記第1ガイド部材の前記当接面に接触させながら走行後、少なくとも1つ以上の前記樹脂付着部材の前記当接面に摺接させながら走行させて、前記開繊糸シートの少なくとも片面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させた樹脂付着シートとした後、前記第2ガイド部材の前記当接面に前記樹脂付着シートを接触させながら走行させて、その後、前記樹脂付着シートを張力が付与された状態で走行させながら加熱加圧して前記熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項2】
前記第1ガイド部材、前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材のそれぞれの前記当接面に接触して走行する前記開繊糸シートまたは前記樹脂付着シートの張力において、それぞれの前記当接面に接触する前の張力である接触前張力と接触した後の張力である接触後張力の関係が、それぞれにおいて接触前張力≦接触後張力の関係である請求項1記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項3】
前記第1ガイド部材、1つ以上の前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材のそれぞれの前記当接面の区間を非接触状態で走行する前記開繊糸シートまたは前記樹脂付着シートにおいて、非接触状態で走行する距離が300mm以内である請求項1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項4】
前記第1ガイド部材、1つ以上の前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材を走行する前記開繊糸シートおよび前記樹脂付着シートが、走行方向と直行する方向に横振動する請求項1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法
【請求項5】
前記開繊糸シートの片面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させた後、前記開繊糸シートのもう一方の面を別の樹脂付着部材に接触させながら走行させて前記開繊糸シートの両表面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させ樹脂付着シートとする請求項1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂付着シートの前記熱可塑性樹脂材料が付着している面に、繊維長方向に所定の張力を付与した別の開繊糸シートを連続して当接させながら走行させ、その後、別の第1ガイド部材、1つ以上の別の樹脂付着部材そして別の第2ガイド部材のそれぞれの当接面に順に接触させながら走行させて、熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シートに付着させる請求項1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項7】
前記開繊糸シートは、複数本の繊維束が幅方向に配列し、各々の前記繊維束は繊維が幅方向に分散されている請求項1に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法。
【請求項8】
長繊維材料を繊維長方向に引き揃えて幅方向に分散させた目付け20~80g/m2の開繊糸シートを用いて熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置であって、繊維長方向に所定の張力を付与して走行する前記開繊糸シートに曲面形状の当接面を接触させる第1ガイド部材と、前記第1ガイド部材の前記開繊糸シートの走行方向下流側に配置されるとともに溶融した熱可塑性樹脂材料を連続して吐出する吐出口を有した曲面形状の当接面を前記開繊糸シートの片面に対して押し当てて前記熱可塑性樹脂材料を付着させ樹脂付着シートを得る樹脂付着部材を少なくとも1つ以上と、前記樹脂付着部材の前記走行方向下流側に配置されるとともに前記樹脂付着シートに曲面形状の当接面を接触させる第2ガイド部材を少なくとも備えている熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置。
【請求項9】
前記第1ガイド部材または/および前記第2ガイド部材が前記開繊糸シートの走行方向と直交する方向に横振動する請求項8に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置。
【請求項10】
複数の前記樹脂付着部材が、前記熱可塑性樹脂材料の吐出方向を相対するようにして前記開繊糸シートの走行方向に並列して配置される請求項8に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置。
【請求項11】
前記第1ガイド部材と、少なくとも1つ以上の前記樹脂付着部材と、前記第2ガイド部材を備えた樹脂付着機構部が、前記開繊糸シートの走行方向に複数配置される請求項8に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置。
【請求項12】
少なくとも1本以上の繊維束を開繊させ開繊糸シートに製造する開繊機構部を備えている請求項8に記載の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維が引き揃えられ束になった強化繊維束を連続して幅広く、薄い状態に開繊した開繊糸シートを用いて、PA6、PP、PPS、PEEKなどの熱可塑性樹脂材料を含浸させた繊維分散性に優れた一方向強化の熱可塑性樹脂プリプレグシートを得るための製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維を補強材料にして、PA6(ポリアミド6)、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などの熱可塑性樹脂材料をマトリックスとした熱可塑性樹脂複合材料は、高強度、高弾性、軽量などの特性の他、成形性、リサイクルの観点からも注目され、航空、自動車、スポーツなどの種々の分野において使用される期待の材料である。
【0003】
熱可塑性樹脂複合材料の製造方法は成形品の形状によりいろいろな手法があるが、強化繊維の力学的な特性を活かした成形品を得るには、強化繊維を一方向に引き揃え、熱可塑性樹脂材料を含浸させた熱可塑性樹脂プリプレグシートを使用してプレス成形する手法が一般的に用いられる。
【0004】
このため、熱可塑性樹脂プリプレグシートを品質良く、かつ低コストで製造することが重要になってくる。熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法にはいろいろな方法があるが、低コストな製造方法のひとつとして、熱可塑性樹脂材料の原料となる粉体、またはペレットを押出機などで溶融化させ、溶融状態となった熱可塑性樹脂材料をスリットダイから吐出して強化繊維に含浸させる方法があり、例えば、特許文献1に提案されている。
【0005】
特許文献1では、連続繊維束を均一に拡げ、非接触方式の加熱器で加熱させた後、張力をかけた状態で弓形の表面をした押出機ヘッド上を走行させながら、押出機ヘッドから連続繊維束中に溶融した熱可塑性樹脂材料を射出する方法が記載されている。押出機ヘッド上で射出された溶融樹脂が繊維間の空気を追い出して各繊維を被覆することによって熱可塑性樹脂プリプレグシートが得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている方法により、繊維分散性の良い開繊糸を用いて熱可塑性樹脂プリプレグシートを製造すると、繊維間隙間を生じた繊維分散性の悪い熱可塑性樹脂プリプレグシートが製造される課題がある。
【0008】
連続繊維束は無撚状態であっても、連続繊維束を構成する各繊維が全てまっすぐに配向しているわけではない。よって、連続繊維束を開繊し幅広い状態にすると各繊維はまっすぐに配向する繊維もあれば、繊維を渡って斜めに配向する繊維も存在してしまう。この状態にある開繊糸に張力を付与したとき、開繊糸全幅間において張力のムラを生じ易く、例えば、繊維長方向に対し斜めに渡る繊維などは付与される張力が小さくなる、もしくは張力が付与されない状態になってしまう。
【0009】
このような状態の開繊糸が押出機ヘッド上を走行し熱可塑性樹脂が射出されると、付与される張力が小さい、もしくは張力が付与されない弛みのある繊維は樹脂流動により幅方向に移動し、繊維分散性が悪いプリプレグシートになってしまうのである。
【0010】
また、開繊糸が押出機ヘッド上を接触走行する前工程で、開繊糸に張力を付与して非接触状態にて走行させると、斜めに配向した繊維の影響により各繊維を集束させようとする力が働き、全体的もしくは部分的に繊維が集束し、幅変動、隙間を生じた繊維分散性が悪い開繊糸となってしまう。この状態の開繊糸が押出機ヘッド上を接触走行すると、生じた隙間に樹脂が射出され、その部分は樹脂のみとなり、繊維がその隙間を埋めることが難しくなるのである。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、低コストかつ繊維分散性に優れた熱可塑性樹脂プリプレグシートを得るための製造方法及び製造装置について提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法は、長繊維材料を繊維長方向に引き揃えて走行させ熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法であって、前記長繊維材料に繊維が幅方向に分散された目付け20~80g/m2の開繊糸シートを用い、曲面形状の当接面がそれぞれ形成されている第1ガイド部材と第2ガイド部材を前記開繊糸シートの走行方向に所定の間隔を設けて配置し、前記第1ガイド部材と前記第2ガイド部材の間に、溶融した熱可塑性樹脂材料が連続して吐出する吐出口を有した曲面形状の当接面が形成されている樹脂付着部材を少なくとも1つ以上配置し、繊維長方向に張力を付与した前記開繊糸シートを前記第1ガイド部材の前記当接面に接触させながら走行後、少なくとも1つ以上の前記樹脂付着部材の前記当接面に摺接させながら走行させて、前記開繊糸シートの少なくとも片面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させた樹脂付着シートとした後、前記第2ガイド部材の前記当接面に前記樹脂付着シートを接触させながら走行させて、その後、前記樹脂付着シートを張力が付与された状態で走行させながら加熱加圧して前記熱可塑性樹脂材料を含浸させる。さらに、前記第1ガイド部材、前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材のそれぞれの前記当接面に接触して走行する前記開繊糸シートまたは前記樹脂付着シートの張力において、それぞれの前記当接面に接触する前の張力である接触前張力と接触した後の張力である接触後張力の関係が、それぞれにおいて接触前張力≦接触後張力の関係である。さらに、前記第1ガイド部材、1つ以上の前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材のそれぞれの前記当接面の区間を非接触状態で走行する前記開繊糸シートまたは前記樹脂付着シートにおいて、非接触状態で走行する距離が300mm以内である。さらに、前記第1ガイド部材、1つ以上の前記樹脂付着部材、および前記第2ガイド部材を走行する前記開繊糸シートおよび前記樹脂付着シートが、走行方向と直行する方向に横振動する。さらに、前記開繊糸シートの片面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させた後、前記開繊糸シートのもう一方の面を別の樹脂付着部材に接触させながら走行させて前記開繊糸シートの両表面に前記熱可塑性樹脂材料を付着させ樹脂付着シートとする。さらに、前記樹脂付着シートの前記熱可塑性樹脂材料が付着している面に、繊維長方向に所定の張力を付与した別の開繊糸シートを連続して当接させながら走行させ、その後、別の第1ガイド部材、1つ以上の別の樹脂付着部材そして別の第2ガイド部材のそれぞれの当接面に順に接触させながら走行させて、熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シートに付着させる。さらに、前記開繊糸シートは、複数本の繊維束が幅方向に配列し、各々の前記繊維束は繊維が幅方向に分散されている。
【0013】
本発明における熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置は、長繊維材料を繊維長方向に引き揃えて幅方向に分散させた目付け20~80g/m2の開繊糸シートを用いて熱可塑性樹脂材料を含浸させる熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置であって、繊維長方向に所定の張力を付与して走行する前記開繊糸シートに曲面形状の当接面を接触させる第1ガイド部材と、前記第1ガイド部材の前記開繊糸シートの走行方向下流側に配置されるとともに溶融した熱可塑性樹脂材料を連続して吐出する吐出口を有した曲面形状の当接面を前記開繊糸シートの片面に対して押し当てて前記熱可塑性樹脂材料を付着させ樹脂付着シートを得る樹脂付着部材を少なくとも1つ以上と、前記樹脂付着部材の前記走行方向下流側に配置されるとともに前記樹脂付着シートに曲面形状の当接面を接触させる第2ガイド部材を少なくとも備えている。さらに、前記第1ガイド部材または/および前記第2ガイド部材が前記開繊糸シートの走行方向と直交する方向に横振動する。さらに、複数の前記樹脂付着部材が、前記熱可塑性樹脂材料の吐出方向を相対するようにして前記開繊糸シートの走行方向に並列して配置される。さらに、前記第1ガイド部材と、少なくとも1つ以上の前記樹脂付着部材と、前記第2ガイド部材を備えた樹脂付着機構部が、前記開繊糸シートの走行方向に複数配置される。さらに、少なくとも1本以上の繊維束を開繊させ開繊糸シートに製造する開繊機構部を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、繊維分散性の良い開繊糸シートに溶融した熱可塑性樹脂材料を吐出させて含浸させる際、前記開繊糸シートを構成する各繊維が隙間を生じるような繊維移動を生じないようにして前記開繊糸シートの表面に溶融した前記熱可塑性樹脂材料を付着させて、その後、加熱加圧により前記熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シート中に含浸させるので、繊維分散性に優れた熱可塑性樹脂プリプレグシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置における側面からみた概略図である。
【
図2】第1ガイド部材に開繊糸シートが接触する説明図である。
【
図3】第2ガイド部材に樹脂付着シートが接触する説明図である。
【
図4】板状部材の端部に形成される当接面の説明図である。
【
図6】開繊糸シートの走行方向に並列して配置し、かつ熱可塑性樹脂材料の吐出方向が相対するようにして配置した樹脂付着部材の概略図である。
【
図7】本発明に係る別の熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置における側面からみた概略図である。
【
図8】本発明と比較するための熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造装置における側面からみた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置M1における側面からみた概略図を示している。この例では、クリルスタンド1a、開繊機構部2a、樹脂付着機構部3a、加熱加圧機構部4、冷却加圧機構部5、引き取り機構部6そして巻き取り機構部7から構成されている。
【0018】
繊維束Taは連続した長い繊維(長繊維)が複数本、集束された状態にあり、通常、紙管などのボビン11aに巻き付けられている。繊維の長さはいろいろであるが、数千m程度の長さが巻かれている繊維束が多い。このボビン11aを必要本数セットし、繊維束Taを解除撚りなく引き出すための機構部がクリルスタンド1aになる。
【0019】
本発明では繊維束Taが長繊維材料として使用されるが、繊維束Taとして炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの高強度繊維からなる強化繊維束が挙げられる。繊維束を構成する繊維の集束本数は、例えば、炭素繊維束では12000本から24000本が主に用いられるが、本発明では24000本を超える集束本数(例えば、50000本)の繊維束を用いることもできる。また、これらの繊維束は連続して、幅広く、薄い状態に開繊加工して使用するため、無撚状態もしくは解撚状態の繊維束を用いることが、幅の安定した、隙間のない熱可塑性樹脂プリプレグシートを得るためにも好ましい。
【0020】
クリルスタンド1aの構造として、例えば、ボビン11aが図示されないブレーキ機構によって制御されてある張力で繊維束Taが引き出される機構でも良いし、ボビン11aを回転制御できるモーター(図示されない)に連結し張力制御機構(図示されない)によって繊維束Taが一定張力で引き出される機構でも良い。
【0021】
クリルスタンド1aから繊維束Taがある一定の張力で走行方向Dに引き出された後、繊維束Taは開繊機構部2aに搬送される。なお、繊維束Taの仕様と熱可塑性樹脂プリプレグシートの製品仕様(幅、厚さなど)によりクリルスタンド1aに必要となるボビン11aの本数は決まる。ボビン11aの本数が複数本の場合、幅方向に一定の間隔で配列させ開繊機構部2aに搬送しても良い。開繊機構部2aでは、繊維束Taが連続して、幅広く、薄い状態に拡幅され、全体として繊維分散性に優れた開繊糸シートSaを得る。また、繊維束Taはクリルスタンド1aから一定の張力を付与された状態で搬送されるため、開繊機構部2aから開繊糸シートSaが排出される際、開繊糸シートSaの全幅においてある一定の張力が付与され走行する。
【0022】
開繊機構部2aで行われる開繊の処理方法としては、繊維束Taを繊維の分散性良く、幅方向に拡幅する方法であれば良い。例えば、繊維長方向にある間隔を設けて配列されたロールに繊維束Taをジグザグに接触走行させ開繊させる方法(ロール開繊)、または、吸引などにより一方向に空気が流れる区間に繊維束Taを放物線状に撓ませながら走行させ開繊させる方法(空気開繊)などがある。さらには、空気開繊とロール開繊を組み合わせた開繊方法であっても良い。
【0023】
空気開繊とロール開繊を組み合わせる方法としては、例えば、特許第4740131号公報に記載された
図12に示すような開繊装置を用いて複数本の繊維束を開繊して開繊糸シートを作製しても良い。また、特許第5326170号公報に記載された
図20に示すような開繊装置を用いると、太繊度繊維束、例えば炭素繊維束24Kや50Kなどの集束本数の多い繊維束を徐々に開繊して薄層の開繊糸シートSaを得ることもできる。さらには、特許第5553074号公報に記載された
図15A、
図15Bに示すような開繊装置を用いると、幅広な開繊が高速で実現できるようになる。
【0024】
上述したような開繊方法、装置を用いると、例えば、炭素繊維束などは目付け20~80g/m2の幅広く、薄い状態の繊維分散性に優れた開繊糸ができるようになる。炭素繊維束12K(単糸直径約7μm、集束本数12000本)を用いた場合、幅20mmに開繊すると目付け約40g/m2、幅40mmに開繊すると目付け約20g/m2の開繊糸を得ることができる。また、炭素繊維束50K(単糸直径約7μm、集束本数50000本)を用いた場合、幅42mmに開繊すると目付け約78g/m2、幅82mmに開繊すると目付け約40g/m2の開繊糸を得ることができる。そして、繊維束を幅方向に並べ複数本を同時に開繊することで、幅方向に複数本の開繊糸がシート状に並んだ、繊維分散に優れる開繊糸シートを得ることができる。なお、本発明では、繊維束1本を開繊させた開繊糸、および複数本の繊維束を幅方向に並べそれぞれを開繊させてシート状にしたもの、その両方共を開繊糸シートとする。
【0025】
これらの開繊糸シートは厚さ方向に並ぶ単糸の数が平均10本以下と少なくなる。例えば、炭素繊維束12Kを幅20mmに開繊した場合、幅方向に並ぶ単糸の最大数は20mm/0.007mm(炭素繊維の直径)で計算して約2857本以下であり、繊維分散性が良い状態でも単糸の並びは接するのではなく隙間を生じるため、幅方向には約1500~2500本程度が並ぶと考えられる。そして、12Kは12000本より、厚さ方向には約5~8本程度が並んでいると考えられる。同様に考えると、炭素繊維束12Kを幅40mmに開繊した場合は幅方向に約5000~5500本程度並び、厚さ方向には約2~3本程度並んでいると考えられる。さらに、炭素繊維束50Kを幅42mmに開繊した場合は、厚さ方向に約8~10本程度並んでいると考えられる。
【0026】
このように、繊維目付量を20~80g/m2にすることで、繊維束の厚さ方向に並ぶ繊維本数を少なくすることができる。このような繊維束状態にすることで樹脂含浸距離が短くなり、溶融粘度が高く繊維束中に含浸し難い熱可塑性樹脂においても、短時間でかつボイドが生じ難い樹脂含浸が行われるようになる。
【0027】
本実施形態では、クリルスタンド1aと開繊機構部2aが、樹脂付着機構部3aの前段工程に配置され、開繊糸シートSaを製造しながら、連続して樹脂付着機構部3aに搬送される方法となっている。しかし、クリルスタンドと開繊機構部を別工程にして、開繊糸シートSaを製造しながらボビンなどに巻き取り、その後、樹脂付着機構部3aの前段に巻き出し装置を配置して、開繊糸シートSaが巻かれたボビンを巻き出し装置にセットし、開繊糸シートSaを一定の張力を付与しながら巻き出して、樹脂付着機構部3aに搬送する方法を採用してもよい。
【0028】
開繊糸シートSaは全幅において一定の張力が付与された状態で、次の工程である樹脂付着機構部3aに搬送される。本実施形態の樹脂付着機構部3aは予熱ロール31a、第1ガイド部材32a、樹脂付着部材33a、そして第2ガイド部材34aから構成される。なお、開繊糸シートSaを事前に加熱する必要がない場合は、樹脂付着機構部3aとして予熱ロール31aを取り外した構成にしても良い。
【0029】
予熱ロール31aは開繊糸シートSaを事前に加熱させるものである。樹脂付着部材33aにおいて開繊糸シートSaに溶融した熱可塑性樹脂材料が付着する際、基材となる開繊糸シートSaが前記熱可塑性樹脂材料の溶融温度以上に加熱されている方が各繊維間への前記熱可塑性樹脂材料の含浸がより進行して、各繊維への前記熱可塑性樹脂材料の付着がよりしっかりしたものになる。なお、本発明では、開繊糸シートの表面に配置される各繊維に溶融した熱可塑性樹脂材料が引っ付いた状態、および開繊糸シートの内部途中まで各繊維間に溶融した熱可塑性樹脂材料が含浸した状態についても付着とする。溶融した熱可塑性樹脂材料が表面にある各繊維に引っ付く程度よりも、開繊糸シートの内部途中まで熱可塑性樹脂材料が含浸した方が付着はしっかりする、または付着度合いが向上するといえる。
【0030】
本実施形態では直径300mmの予熱ロール31aを1本用意し、開繊糸シートSaを予熱ロール31aに約半周以上接触させた。予熱ロール31aは固定でも回転でも良いが、固定の場合、接触長さが長くなるに従い開繊糸シートSaの全幅に付与される張力が高くなり、過剰な張力が付与される危険性がある。過剰な張力が開繊糸シートSaに付与されると部分的な繊維集束が生じ繊維分散性を悪くしたり、繊維切れが生じてしまう。よって、好ましくは、予熱ロール31aはフリー状態で開繊糸シートSaの走行速度に合わせて回転する、もしくは予熱ロール31aを駆動モーター(図糸されない)に接続して開繊糸シートSaの走行速度と同程度で回転するのが望ましい。この場合、開繊糸シートSaには、予熱ロール31aに接触前の張力とほぼ同等もしくは少し高くなる程度の張力が付与され次工程に搬送される。
【0031】
予熱ロール31aに接触して開繊糸シートSaは加熱されるが、好ましくは、付着させる熱可塑性樹脂材料の溶融温度以上に加熱されることが望ましい。本実施形態では直径300mmの予熱ロール31aを用いて半周以上を接触させている。開繊糸シートSaの走行速度が10m/minの場合、加熱温度は約2.8秒程度になる。開繊糸シートSaは厚さ方向に並ぶ繊維本数が少ないため、約2秒以上あれば十分に加熱できると考えられる。
【0032】
予熱ロール31aでの加熱を十分行うためには、加熱温度を高めに設定する方法、または、接触長さを半周以上とする、もしくは予熱ロール31aの本数を増やすなどして開繊糸シートSaが予熱ロール31aに接触する距離を長くする方法などがある。
【0033】
開繊糸シートSaは、予熱ロール31aにて加熱された後、シート全幅に張力が付与された状態で第1ガイド部材32aに搬送され接触する。
図2には、第1ガイド部材32aに開繊糸シートSaが接触する説明図、また
図3には、第2ガイド部材34aに樹脂付着シートCaが接触する説明図を示す。
【0034】
第1ガイド部材32aには曲面形状の当接面321が、また第2ガイド部材34aには曲面形状の当接面341が形成されている。本発明では、当接面とは、開繊糸シートSaなどのシート材料が接触して走行する面状の部分のことである。そして、曲面形状の当接面とは、
図4に示されるように凸状に曲面形状をした面状の部分をいう。
図4では、板状部材37の端部に凸状の曲面形状をした当接面38が形成されている。そして、
図2および
図3では、当接面321および当接面341は、回転または固定ロールの外周面によって形成される。
【0035】
開繊糸シートSaが第1ガイド部材32aに、または樹脂付着シートCaが第2ガイド部材34aに接触しながら走行するとき、接触前の張力(接触前張力FT1)と接触後の張力(接触後張力FT2)の関係は、開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaなどのシート材料が第1ガイド部材32aまたは第2ガイド部材34aの曲面形状の当接面321または当接面341にどのように接触するかで異なる。前記シート材料が前記当接面と接触し同速で移動するとき、FT1とFT2は同等の張力になる。前記シート材料が前記当接面に接触しながら移動する速度が前記当接面の移動速度より速くなる、つまり、前記シート材料が前記当接面に接触してすべるように走行する場合はFT2がFT1より大きくなる。なお、本発明では、接触してすべるように走行することを摺接しながら走行するとも表現する。
【0036】
よって、第1ガイド部材32aまたは第2ガイド部材34aが回転ロールであり回転負荷が非常に小さいとき、接触前張力FT1と接触後張力FT2はほぼ同等となる。しかし、回転負荷が多少なりとも大きいとき、その負荷分だけ接触後張力FT2は大きくなる。そして、第1ガイド部材32aまたは第2ガイド部材34aが固定ロールであるとき、開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaなどのシート材料はそれぞれ摺接しながら走行するため接触後張力FT2が接触前張力FT1より大きくなる。なお、第1ガイド部材32aまたは第2ガイド部材34aがロール形状であり駆動モーター(図示されない)などにより一定の回転速度で回転し、その表面を前記シート材料が摺接しながら走行する場合も接触後張力FT2が接触前張力FT1よりも大きくなる。
【0037】
接触後張力FT2が接触前張力FT1と同等もしくは大きくなることにより、前記開繊糸シートまたは前記樹脂付着シートを構成する各繊維には引っ張る力が作用し、より繊維をまっすぐに配向させる効果が得られる。
【0038】
そして、開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaなどのシート材料が前記第1または第2ガイド部材の曲面形状である前記当接面に接触して走行することで、前記シート材料には前記当接面に押さえつけられる力である押付力FT3が働く。前記当接面が凸状の曲面形状になっているため、前記シート材料が前記当接面に張力を付与されて接触すると押付力FT3が働くのである。そして、走行する接触前張力FT1と接触後張力FT2が大きくなるほど押付力FT3も大きくなる。
【0039】
開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaに押付力FT3が働くことにより、本発明におけるいくつかの重要な作用が得られる。まず、開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaに部分的な集束を生じ繊維分散性の悪くなった個所ができた際、その個所が前記当接面に押し付けられることにより、集束した繊維状態を崩して繊維の分散状態を良くする作用が働く。そして、次に、開繊糸シートSaまたは樹脂付着シートCaを構成する各繊維が前記当接面に押し付けられることで、各繊維は幅方向への移動が生じ難くなり、繊維分散性の良い状態を維持しようとする作用が得られることである。
【0040】
開繊糸シートSaは、第1ガイド部材32aを接触走行した後、開繊糸シートSaを構成する各繊維の分散状態がより良くなった状態で、次工程の樹脂付着部材33aに搬送される。
図5には樹脂付着部材33aの概略図が示されている。
【0041】
樹脂付着部材33aとして、溶融した熱可塑性樹脂材料をスリット状に押し出しできる金型であり、具体的にはTダイのようなものである。樹脂付着部材33aは、図示されない押出機に取り付けられ、開繊糸シートSaの幅方向にスリット状に溶融した熱可塑性樹脂材料を連続して吐出する構造であり、フィルムを成形する金型のようなものである。
【0042】
押出機は、熱可塑性樹脂材料の原料であるペレットまたは粉体などを、前記熱可塑性樹脂材料の溶融温度以上に加熱されたシリンダの中に投入して、シリンダ内の回転スクリューによって溶融させて、樹脂付着部材33aに連続して定量的に供給する設備である。そして、樹脂付着部材33aは、例えばTダイのようになっており、金型内における溶融樹脂が流れる部分の形状がハンガー形状のようになっており、供給された溶融した前記熱可塑性樹脂材料が金型内を拡がりながら進み、開繊糸シートSaの幅方向を長手としたスリット状の吐出口35aから連続して吐出されるようになっている。
【0043】
そして、本発明では、樹脂付着部材33aの先端は、
図5に示されるように凸状に曲面形状をした当接面36aが形成され、当接面36aの一部に吐出口35aが形成されている。第1ガイド部材32aから搬送された開繊糸シートSaは張力が付与された状態で当接面36aに摺接しながら走行し、吐出口35aを摺接して通過した際に、吐出される溶融した前記熱可塑性樹脂材料が開繊糸シートSaの表面および繊維間に含浸して付着するようになっている。
【0044】
前記熱可塑性樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどのどれか1種類の熱可塑性樹脂、またはこれらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合したポリマーアロイ樹脂などがある。
【0045】
開繊糸シートSaに付着する前記熱可塑性樹脂材料の量は、開繊糸シートSaの走行速度と吐出口35aからの吐出量により決められる。付着量は繊維体積含有率で20~75%の範囲で制御される。なお、吐出口35aからの吐出では、開繊糸シートSaの幅方向において均一な吐出が連続して行われることが重要で、吐出口35aの形状は開繊糸シートSaの幅方向において均一な吐出が連続して行える形状であれば良く、好ましくは、開繊糸シートSaの幅方向を長手としたスリット状の細幅形状が良い。
【0046】
開繊糸シートSaが張力を付与された状態で曲面形状した当接面36aに摺接して走行することで、開繊糸シートSaには第1または第2ガイド部材に接触して走行するのと同様、当接面36aに押し付けられ、各繊維は幅方向への移動が生じ難くなる。
【0047】
開繊糸シートSaの片面に溶融した前記熱可塑性樹脂材料が付着する際、吐出口35aから前記熱可塑性樹脂材料が吐出する勢いで繊維間にある程度含浸する、また、繊維間隙間が若干でも広い個所があるとその個所には勢いよく流れることになる。このとき、各繊維には繊維間を押し広げる力が働くが、第1ガイド部材32aの当接面321、第2ガイド部材34aの当接面341、そして樹脂付着部材33aの当接面36aに接触し走行することで、各繊維がそれぞれの前記当接面に押し付けられて幅方向に移動し難い状態にあることから、開繊糸シートSaは繊維分散性の良い状態を維持しながら、吐出口35aから吐出される前記熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シートの片面に付着させることができる。つまり、開繊糸シートに熱可塑性樹脂材料を付着させた樹脂付着シートCaを製造することができる。
【0048】
本発明では、目付け20~80g/m2の開繊糸シートSaを用いて、樹脂付着部材33aにて熱可塑性樹脂材料を付着させている。目付け20~80g/m2と低目付け長繊維材料を使用しているため、樹脂付着部材33aの吐出口35aから吐出される前記熱可塑性樹脂材料の量は少ない。よって、開繊糸シートSaの表面に付着される前記熱可塑性樹脂材料の量も少なくなる。このような状態にあるとき、前記熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)が樹脂付着部材33aの当接面36aから離れ次工程の第2ガイド部材34aに搬送される際、吐出された前記熱可塑性樹脂材料を当接面36aに付着残しすることを防止し、連続して次工程に搬送させることが可能となる。
【0049】
長繊維材料に目付けが80g/m2以上のシート材料を用いた場合、また、繊維体積含有率が小さいプリプレグシートを製造する場合などは、吐出口35aから吐出する前記熱可塑性樹脂材料の量が多くなる。前記熱可塑性樹脂材料を付着させた前記シート材料が当接面36aから離れ次工程の第2ガイド部材34aに搬送される際、吐出された前記熱可塑性樹脂材料が多いこともあり当接面36aに付着残しを生じてしまい、連続安定して搬送させることが難しくなってしまう。よって、目付け20~80g/m2の開繊糸シートSaを用いることにより連続した製造が可能となる。
【0050】
開繊糸シートSaが第1ガイド部材32aの当接面321と接触後、樹脂付着部材33aの当接面36aに摺接して走行するまでの非接触状態にて走行する距離が短いほど、開繊糸シートSaの繊維分散性は良い状態に保たれる。これは、開繊糸シートSaが第1ガイド部材32aの当接面321および樹脂付着部材33aの当接面36aに張力を付与された状態で接触することで、各繊維がそれぞれの前記当接面に押し付けられ各繊維が幅方向に移動し難い状態になり繊維の分散状態を維持するためと考えられる。
【0051】
開繊糸シートSaは、長繊維方向に対してまっすぐに配向する繊維もあれば、繊維を渡って斜めに配向する繊維も存在しうる。よって、この状態にある開繊糸シートSaが張力を付与され非接触で長い距離を走行すると、斜めに渡った繊維が影響して、繊維を部分的に集束させたり、張力が付与されない繊維を生じうる。このように、開繊糸シートの全幅において張力ムラを生じ、張力が付与されない、または付与張力が小さくなった繊維が生じた状態においては、樹脂付着部材33aの当接面36aに摺接しながら走行しても、吐出口35aから吐出する溶融した前記熱可塑性樹脂材料により、繊維の配向乱れを生じ、繊維分散性が悪くなってしまう。
【0052】
つまり、開繊糸シートが非接触状態で走行する距離が短いほど、開繊糸シートに存在する斜めに渡って走る繊維の影響を受けることが避けられ、各繊維が張力を付与された状態で、かつ繊維の分散状態を維持して次工程に搬送される。
【0053】
また、前記熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)が当接面36aから離れ、第2ガイド部材34aの当接面341に接触するまでの非接触状態で走行する距離が短いほど、同様に、樹脂付着シートCaの繊維分散性は良い状態に保たれる。逆に、非接触状態が長くなると、樹脂付着シートCaの全幅における張力ムラの影響に加え、溶融した前記熱可塑性樹脂材料の影響も受け、繊維の集束や隙間などが生じ、繊維分散性が悪い、またはシート間に裂けを生じた状態になってしまう。
【0054】
本発明者らが検討した結果、開繊糸シートSaが第1ガイド部材32aの当接面321から樹脂付着部材33aの当接面36aへ搬送される際の非接触状態で走行する距離、および樹脂付着シートCaが樹脂付着部材33aの当接面36aから第2ガイド部材34aの当接面341へ搬送される際の非接触状態で走行する距離が300mm以内、好ましくは100mm以内であるとき、開繊糸シートSaおよび樹脂付着シートCaなどのシート材料における繊維分散性は良好に保たれていた。
【0055】
第2ガイド部材34aの当接面341には樹脂付着シートCaが接触して走行する。樹脂付着シートCaは当接面341に押し付けられる力が作用するため、付着した前記熱可塑性樹脂材料は、開繊糸シートSa間を構成する各繊維間により含浸し、付着度合いが向上する。
【0056】
なお、第2ガイド部材34aには、樹脂付着シートCaが接触して走行するため、第2ガイド部材34aの当接面341には樹脂付着シートCaが摺接しながら走行することが望ましい。例えば、第2ガイド部材34aとしては固定ロールであったり、モーターに接続した回転ロールであって前記当接面の回転速度が樹脂付着シートCaの走行速度より遅く設定されているものが望ましい。このように、摺接しながら走行することで、開繊糸シートSaに付着した前記熱可塑性樹脂材料が当接面341に付着することを防止できる。
【0057】
第1ガイド部材32a、および第2ガイド部材34aは、前記熱可塑性樹脂材料が溶融する温度以上に加熱されていることが望ましい。第1ガイド部材32aが加熱されていることで、開繊糸シートSaが加熱され、樹脂付着部材33aにて溶融した前記熱可塑性樹脂材料を付着させる際、各繊維間隙間に前記熱可塑性樹脂材料がより含浸し付着度合いが向上するためである。
【0058】
また、第2ガイド部材34aが加熱されていることで、開繊糸シートSaに付着した前記熱可塑性樹脂材料が、開繊糸シートSa間を構成する各繊維間により含浸し、付着度合いを向上させることができる。
【0059】
第1ガイド部材32a、第2ガイド部材34aのどちらか一方または両方を横振動させると、第1ガイド部材32aの当接面321に接触して走行する開繊糸シートSaも横振動して繊維の分散性がより向上する。また、樹脂付着部材33aの当接面36aに摺接しながら走行する開繊糸シートSaについても横振動により、繊維の分散性がより高まるとともに、各繊維間への前記熱可塑性樹脂材料の含浸が進み付着度合いが向上する効果が得られる。さらに、第2ガイド部材34aの当接面341に摺接しながら走行する樹脂付着シートCaが横振動して、各繊維間への前記熱可塑性樹脂材料の含浸が進み付着度合いが向上する。
【0060】
樹脂付着部材33aの当接面36aにて開繊糸シートSaが横振動しながら吐出口35aから吐出される熱可塑性樹脂材料を付着させると、開繊糸シートSaの内部途中まで各繊維間に前記熱可塑性樹脂材料を含浸させるため、開繊糸シートSaの表面に付着する前記熱可塑性樹脂材料の量は減少するとともに、開繊糸シートSaへの前記熱可塑性樹脂材料の付着度合いを向上させる。よって、前記熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)が当接面36aから離れ次工程の第2ガイド部材34aに搬送される際、吐出された前記熱可塑性樹脂材料を当接面36aに付着残しをより生じさせない状態で、連続安定して次工程に搬送させることができる。
【0061】
樹脂付着シートCaは、第2ガイド部材34aの当接面341を摺接しながら走行した後、
図1では、加熱加圧機構部4、冷却加圧機構部5の工程に搬送される。シート材料を加熱加圧そして冷却加圧を連続的に行う方式として、ダブルベルトプレス方式、連続ロール方式などがあり、本発明では、いずれの方法を採用しても良い。
【0062】
ダブルベルトプレス方式とは、連続的に搬送される熱可塑性樹脂材料が付着した開繊糸シートを、離型処理された2本のスチールエンドレスベルト間に挟んで、加熱加圧工程そして冷却加圧工程を通過させて、前記熱可塑性樹脂材料を前記開繊糸シートに含浸させ、熱可塑性樹脂プリプレグシートを製造する方法である。
【0063】
連続ロール方式とは
図1に記載の方法である。前記熱可塑性樹脂材料の溶融温度以上に加熱された加熱ロール41を複数本と、前記熱可塑性樹脂材料が固化する温度以下に設定された冷却ロール51を複数本、開繊糸シートSaの走行方向に所定の間隔で配置し、前記熱可塑性樹脂材料が付着した開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)を長繊維方向に所定の張力を付与して、複数本の加熱ロール41と複数本の冷却ロール51にジグザグに接触するようにして走行させ、前記熱可塑性樹脂材料を開繊糸シートSaに含浸させて熱可塑性樹脂プリプレグシートPを連続して製造する方法である。
【0064】
樹脂付着シートCaを長繊維方向に所定の張力を付与してロールに接触走行させることで、
図3に記載のように、樹脂付着シートCaにはロールに押し付けられる力が作用する。この押付力が加圧力として働き、開繊糸シートSaを構成する各繊維間への前記熱可塑性樹脂材料の含浸を促進させるのである。
【0065】
樹脂付着シートCaが加熱ロール41に接触走行するときは、加熱ロール41に摺接させて走行することが望ましい。溶融した前記熱可塑性樹脂材料が加熱ロール41の表面に付着することが防止できる。加熱ロール41を固定ロールにするか、もしく加熱ロール41を図示されない駆動モーターに接続して樹脂付着シートCaの走行速度より遅い回転速度で回転させることで、樹脂付着シートCaを加熱ロール41に摺接させて走行させることができる。
【0066】
樹脂付着シートCaを走行方向に張力が付与された状態で複数本の前記加熱ロール41に通過させ開繊糸シート間に前記熱可塑性樹脂材料を含浸させるが、その後、複数本の冷却ロール51に接触走行させて前記熱可塑性樹脂材料を固化させ、連続した熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造する。
【0067】
冷却ロール51は回転ロールが望ましい。開繊糸シートの走行速度に応じて冷却ロール51が回転する状態が好ましい。回転ロールにすることで熱可塑性樹脂プリプレグシートPに過度の張力を付与することを防止できる。
【0068】
なお、冷却ロール51に溶融した前記熱可塑性樹脂材料が接触すると、ロール表面に接触した前記熱可塑性樹脂材料は冷却され固化するため、ロール表面に前記熱可塑性樹脂材料が付着するなどのトラブルを防止できる。
【0069】
また、樹脂付着シートCaおよび熱可塑性樹脂プリプレグシートPなどのシート材料の走行方向に所定の間隔で、加熱ロール41および冷却ロール51を複数本、配置するが、各ロール間隙間は、300mm以内、好ましくは100mm以内にすると良い。複数本の加熱ロール41の区間において、樹脂付着シートCaを非接触状態で長い距離を走行させると、前記熱可塑性樹脂材料が溶融していることもあり各繊維が集束したり、隙間を作るなどして、繊維分散性の悪い状態になる。また、複数本の冷却ロール51の区間においては、繊維分散性の良い状態のまま前記熱可塑性樹脂材料を素早く固化させることが重要で、そのためにも複数本の冷却ロールを、その間隔を短くして配置することが望ましい。
【0070】
冷却加圧機構部5を走行することで溶融樹脂が固化された熱可塑性樹脂プリプレグシートPが製造されるが、熱可塑性樹脂プリプレグシートPは引き取り機構部6により、所定の速度で引き取られる。
【0071】
引き取り機構部6は熱可塑性樹脂プリプレグシートPを所定の速度で引き取れる構造であれば良いが、
図1では、図示されないモーターに接続された引き取りロール61とシート押さえロール62によって熱可塑性樹脂プリプレグシートPを挟み、モーターの所定の回転駆動により引き取りロール61を回転させ、熱可塑性樹脂プリプレグシートPを引き取る構造となっている。
【0072】
引き取られた熱可塑性樹脂プリプレグシートPは、巻き取り機構部7により、所定のボビン71に、所定の張力が付与されながら連続して巻き取られる。
【0073】
図6は、開繊糸シートSaの走行方向に並列して配置し、かつ熱可塑性樹脂材料の吐出方向が相対するようにして配置した樹脂付着部材33bと樹脂付着部材33cの側面からみた概略図である。
【0074】
繊維長方向に所定の張力が付与された開繊糸シートSaが、第1ガイド部材32bの当接面321に接触して走行した後、開繊糸シートSaの上面が樹脂付着部材33bの当接面36bに摺接しながら走行し吐出口35bから吐出される溶融した熱可塑性樹脂材料を付着させて走行した後、開繊糸シートSaの下面が別の樹脂付着部材33cの当接面36cに摺接しながら走行し吐出口35cから吐出される溶融した熱可塑性樹脂材料を付着させて走行して、その後、第2ガイド部材34bの当接面341に接触して走行することにより、開繊糸シートSaの両表面に前記熱可塑性樹脂材料が付着される。
【0075】
この場合においても、並列する樹脂付着部材33bと樹脂付着部材33cの区間を樹脂付着シートCaが非接触状態で走行するが、その距離は300mm以内、好ましくは100mm以内であるとき、樹脂付着シートCaの繊維分散性は良好に保たれる。
【0076】
図7は、別の実施形態を説明する熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置M2の側面からみた概略図を示している。この例では、
図1の製造装置M1の第2ガイド部材34aの後に、別のクリルスタンド1b、別の開繊機構部2b、別の樹脂付着機構部3bを配置し、その後に、加熱加圧機構部4、冷却加圧機構部5、引き取り機構部6そして巻き取り機構部7を配置し構成されている。
【0077】
本実施形態では、開繊糸シートSaを樹脂付着部材33aの当接面に摺接させながら走行させて熱可塑性樹脂材料を連続付着させた後、第2ガイド部材34aに接触走行後、別の開繊糸シートSbを前記熱可塑性樹脂材料が付着した面に連続して当接させ、当接された開繊糸シートSbの面を別の樹脂付着機構部3bにおいて構成される予熱ロール31bに接触させて加熱し、その後、第1ガイド部材32bに搬送している。ここで、当接とは、樹脂付着部材33aで製造された樹脂付着シートCaの前記熱可塑性樹脂材料を付着させた面に、開繊糸シートSbを連続して沿わせるように当てて接触させた状態にすることである。
【0078】
なお、開繊糸シートSbは、クリルスタンド1bにセットされた複数のボビン11bから繊維束Tbを一定の張力で走行方向Dに引き出した後、開繊機構部2bに搬送して複数本の繊維束Tbを開繊処理して得られている。
【0079】
そして、前記樹脂付着シートCaに前記開繊糸シートSbを当接させたシート材料に張力が付与された状態で、樹脂付着部材33bの当接面に摺接させながら走行させて開繊糸シートSbの面に熱可塑性樹脂材料を付着させ、その後、樹脂付着部材33cにより開繊糸シートSaの前記熱可塑性樹脂材料が付着していないもう一方の面に熱可塑性樹脂材料を付着させて樹脂付着シートCbとして、第2ガイド部材34bの当接面に接触させて、その後、加熱加圧、冷却加圧を行い、前記開繊糸シートの繊維間中に前記熱可塑性樹脂材料を含浸させて、熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造し、ボビン71に巻き取っている。
【0080】
なお、本実施形態では、熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートの片面に連続して別の開繊糸シートを当接させて熱可塑性樹脂材料を付着させる手段が1回の場合を示しているが、熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートの片面に連続して別の開繊糸シートを当接させて熱可塑性樹脂材料を付着させる手段を必要に応じて2回以上、実施させることも可能である。
【0081】
このようにして、熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートSaに別の開繊糸シートSbを当接させて熱可塑性樹脂材料を付着させる方法を必要回数実施することにより、厚さのある熱可塑性プリプレグシートPを製造できる。また、開繊糸シートSaと開繊糸シートSbの間に熱可塑性樹脂材料を配置し存在させるため、加熱加圧を行った際、短時間で、かつボイドが生じ難い状態で前記開繊糸シートを構成する繊維間中に前記熱可塑性樹脂材料を含浸させることができる。
【実施例0082】
[実施例1]
<使用材料>
繊維材料:炭素繊維束(東レ株式会社製;T700SC-60E-12000本/束、単糸直径0.007mm)
熱可塑性樹脂材料:PA6樹脂(東レ株式会社製 アミランCM1017)
【0083】
<開繊糸シートの製造方法>
公知の開繊糸シート製造装置(例えば、特許第5553074号公報に記載された
図15A、
図15Bに示すような開繊装置に、製造された開繊糸シートを離型紙を挿入しながら巻き取る巻き取り装置を取り付けた装置)にて実施した。
【0084】
ボビンに巻かれた炭素繊維束を10本、22mm間隔にて幅方向に並べて、加工速度10m/minにて開繊を連続して実施し、幅220mm 、目付け約36g/m2の繊維分散性に優れた開繊糸シートSaを製造、得られた開繊糸シートSaに離型紙を当接させながら長さ約500mをボビンに巻き取った。
【0085】
<熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置>
図1の熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置M1において、クリルスタンド1a及び開繊機構部2aが設置されていない装置に、開繊糸シートを巻き出す巻き出し装置を樹脂付着機構部3aの前段に配置した装置にて実施した。
【0086】
巻き出し装置は、開繊糸シートSaが巻き取られたボビンをセットでき、一定の張力を付与して開繊糸シートSaを次工程に搬送できる装置であり、開繊糸シートSaに当接して巻き取られている離型紙は別のボビンをセットして回収する機構が取り付けられている。
【0087】
樹脂付着機構部3aは、
図1の概略図のような、予熱ロール31aが1本、第1ガイド部材32a、樹脂付着部材33aが1台、第2ガイド部材34aから構成した。
【0088】
予熱ロール31aは直径300mm、幅方向長さ300mmで、開繊糸シートSaが約半周接触するようにセットされている。また、予熱ロール31aは図示されないモーター駆動で回転するように制御した。ここで、幅方向長さにおける幅方向とは、連続して走行する開繊糸シートの幅方向と同方向で、開繊糸シートの走行方向と直交する方向でもある。
【0089】
第1ガイド部材32aおよび第2ガイド部材34aは直径50mm、幅方向長さ300mmの固定ロールで、材質はSUS304で、表面は梨地の硬質クロムメッキ加工を施した。また、前記固定ロール内部には棒状ヒーターが組み込まれており、設定温度に加熱できる機構とした。
【0090】
樹脂付着部材33aは、Tダイ形状の金型で、金型内の溶融樹脂流路はハンガー形状になっている。また、棒状ヒーターが組み込まれており、金型を設定温度に加熱することができる。外形形状は
図5のようになっており、先端部には、半径R50mmの半円形状で、幅方向長さが250mmの当接面36aが形成されている。材質はSKD材で、高硬度表面処理が施されている。当接面36aの中央位置に、幅0.05mm、幅方向長さ250mmのスリット状の吐出口35aが形成されている。そして、樹脂付着部材33aは押出機にセットされ、溶融した前記熱可塑性樹脂材料が定量に供給され、樹脂付着部材33aの吐出口35aから定量に樹脂が吐出するようになっている。
【0091】
第1ガイド部材32a、樹脂付着部材33a、そして第2ガイド部材34aの配置は、開繊糸シートSaおよび樹脂付着シートCaなどのシート材料が非接触状態で走行する長さが50mmになるように配置した。そして、開繊糸シートSaが第1ガイド部材32aの当接面321に摺接して走行する長さはロールへの接触角θが約120度分の長さに、開繊糸シートSaが樹脂付着部材33aの当接面36aに摺接して走行する長さは当接面36aへの接触角θが約80度分の長さに、樹脂付着シートCaが第2ガイド部材34aの当接面341に摺接して走行する長さはロールへの接触角θが約80度分の長さになるように設定した。
【0092】
第1ガイド部材32a、および第2ガイド部材34aは横振動できる構造とした。横振動の振幅量は0~10mmの範囲の任意の値に、振幅速度は0~1000Hzの範囲の任意の値に設定できるようにした。
【0093】
加熱加圧機構部4は、加熱ロール41を2本配置した。加熱ロール41は、直径50mm、幅方向長さが300mm、材質はSUS304で、表面は梨地の硬質クロムメッキ加工が施された固定ロールで、内部には棒状ヒーターが組み込まれており設定温度に加熱できる構造とした。加熱ロール41は、樹脂付着シートCaがロール表面に接触角約80度分、摺接して走行するようにして配置した。
【0094】
冷却加圧機構部5は、冷却ロール51を4本配置した。冷却ロール51は直径50mm、幅方向長さが300mm、材質はSUS304で、表面は梨地の硬質クロムメッキ加工が施された回転ロールで、内部に冷却水が満たされる構造とした。前記冷却水はチラーによって、設定水温にて循環するようにした。冷却ロール51は、シート材料がロール表面に接触角約80度分、接触して走行するようにして配置した。
【0095】
さらに、加熱加圧機構部4の加熱ロール41、および冷却加圧機構部5の冷却ロール51は、シート材料が非接触状態で走行する長さが50mmになるようにシート材料の走行方向に並列させて配置した。
【0096】
引き取り機構部6は、引き取りロール61に直径80mm、幅方向長さ300mmのSUS製ロールを採用し、シート押えロール62に直径60mm、幅方向長さ300mm、硬度80のウレタンゴムロールを採用して、熱可塑性樹脂プリプレグシートをニップして引き取る機構とした。引き取りロール61の材質はSUS304で、表面は梨地の硬質クロムメッキ加工を施した。
【0097】
巻き取り機構部7は、熱可塑性樹脂プリプレグシートPを3インチ紙管のボビン71に、設定した張力で巻き取ることができる機構とした。
【0098】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法>
前記熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置を使用し、熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造した。幅220mm 、目付け約36g/m2の繊維分散性に優れた開繊糸シートSaが巻かれたボビンを巻き出し装置にセットし、開繊糸シートSaの幅10mmあたりに300gの張力が付与されるようにして開繊糸シートSaを巻き出し、表面温度270度に加熱した予熱ロール31aに搬送した。なお、開繊糸シートSaは5m/minの速度で走行させた。
【0099】
予熱ロール31に接触走行した開繊糸シートSaを、第1ガイド部材32a、樹脂付着部材33a、第2ガイド部材34aのそれぞれの前記当接面に摺接させながら走行させ、樹脂付着部材33aであるTダイの吐出口35aから溶融したPA6樹脂を30g/minの量にて吐出させ開繊糸シートSaの片側表面に連続して付着させた。なお、第1ガイド部材32a、樹脂付着部材33a、第2ガイド部材34aはそれぞれ270度に加熱している。また、第1ガイド部材32a、および第2ガイド部材34aを同期させて、振幅量3mm、振幅速度200Hzにて横振動させた。
【0100】
その後、前記熱可塑性樹脂材料を付着させた開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)を、加熱加圧機構部4の加熱ロール41に摺接させ、そして冷却加圧機構部5の冷却ロール51に接触させて走行させ前記熱可塑性樹脂材料が開繊糸シートSaの各繊維間に含浸した熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造した。なお、加熱ロール41は270度に、冷却ロール51は20度に温度設定した。
【0101】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造状態>
幅約220mmの熱可塑性樹脂プリプレグシートが連続して製造できた。製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートの状態を目視確認したところ、繊維分散性に優れたプリプレグシートであった。製造中において、樹脂付着部材33aの当接面36aから第2ガイド部材34aの当接面341を走行する前記熱可塑性樹脂材料が付着した開繊糸シートSa(樹脂付着シートCa)の状態は、第1ガイド部材32aおよび第2ガイド部材34aが横振動する効果により、各繊維が横振動して各繊維間に前記熱可塑性樹脂材料をくい込ませるようにして付着させる状態が観察された。さらには、繊維間に微小な隙間が存在しても走行方向と直交する方向に振動する繊維によって、樹脂がかき取られる様子が観察された。また、樹脂付着シートCaが当接面36aから離れる部分においては、溶融樹脂の付着残しは生じず、安定した製造が連続した。製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートPの断面をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製;VHX-5000)を用いて観察したところ、PA6樹脂が各繊維間に含浸し、大きなボイドのない状態でプリプレグシートが製造できていることを確認できた。
【0102】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同じ材料および同じ熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置を用いて実施した。ただし、樹脂付着機構部3においては
図6のように、樹脂付着部材を2台、開繊糸シートの走行方向に、溶融した熱可塑性樹脂材料が吐出する方向を相対するようにして並列させる機構とした。
【0103】
<使用材料>
実施例1と同様の繊維材料及び熱可塑性樹脂材料を使用した。
【0104】
<開繊糸シートの製造方法>
実施例1と同様の製造方法にて開繊糸シートSaを製造した。
【0105】
<熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置>
実施例1と同様の製造装置にて実施した。ただし、樹脂付着機構部の第1ガイド部材と第2ガイド部材の間に配置する樹脂付着部材は、
図6のように、溶融した熱可塑性樹脂材料の吐出方向が相対するようにして2台、並列して配置した。
【0106】
樹脂付着部材33bおよび樹脂付着部材33cとも、Tダイ形状の金型で、その構造、材質、表面処理は実施例1と同様にした。ただし、先端部の形状は、半径R40mmの半円形状とした、幅方向長さ250mmの当接面36bと36cをそれぞれ形成した。当接面36bおよび36cの中央位置には実施例1と同様に、幅0.05mm、幅方向長さ250mmのスリット状の吐出口35bおよび35cが形成されている。そして、実施例1に同様、樹脂付着部材33bおよび樹脂付着部材33cは押出機にセットされ、それぞれの吐出口35bおよび35cから定量に樹脂が吐出するようにした。
【0107】
第1ガイド部材32bと樹脂付着部材33b、そして樹脂付着部材33cと第2ガイド部材34bの間において、開繊糸シートSaおよび開繊糸シートSaの両側表面に熱可塑性樹脂材料が付着した樹脂付着シートCaが非接触状態で走行する長さを50mmになるようにした。そして、樹脂付着部材33bと樹脂付着部材33cの間は開繊糸シートSaの片側表面に熱可塑性樹脂材料が付着した樹脂付着シートCaが非接触状態で走行する長さを30mmになるようにした。また、開繊糸シートSaが第1ガイド部材32bの当接面321に摺接して走行する長さ、および樹脂付着シートCaが第2ガイド部材34bの当接面341に摺接して走行する長さは実施例1と同様にし、樹脂付着シートCaが樹脂付着部材33bおよび33cの当接面36bおよび36cに摺接して走行する長さは当接面36bおよび36cへの接触角約80度分の長さになるように設定した。
【0108】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法>
前記熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置を使用し、開繊糸シートの搬送方法、第1および第2ガイド部材の横振動方法、加熱温度、冷却温度、そして走行速度などは、実施例1と同様にした。
【0109】
樹脂付着部材33bおよび33cであるTダイの吐出口35bおよび35cからは、溶融したPA6樹脂を23g/minの量にてそれぞれ吐出させ開繊糸シートSaの両表面に連続して付着させた。そして、加熱加圧機構部4および冷却加圧機構部5を走行させて前記熱可塑性樹脂材料が開繊糸シートSaの各繊維間に含浸した熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造した。
【0110】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造状態>
幅約220mmの熱可塑性樹脂プリプレグシートが連続して製造できた。製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートの状態を目視確認したところ、繊維分散性に優れたプリプレグシートが製造できていた。また、樹脂付着シートCaが当接面36bおよび当接面36cから離れる部分においては、溶融樹脂の付着残しは生じず、安定した製造が連続した。製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートPの断面をデジタルマイクロスコープを用いて観察したところ、PA6樹脂が各繊維間に含浸し、大きなボイドのない状態でプリプレグシートが製造できていることを確認できた。
【0111】
[比較例]
比較例では、実施例1と同じ材料および同じ熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置を用いて実施した。ただし、第1ガイド部材32aと第2ガイド部材34aを取り外した機構とした。
【0112】
<使用材料>
実施例1と同様の繊維材料及び熱可塑性樹脂材料を使用した。
【0113】
<開繊糸シートの製造方法>
実施例1と同様の製造方法にて開繊糸シートを製造した。
【0114】
<熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置>
図8の概略図に示すように、実施例1と同様の製造装置において第1ガイド部材32aと第2ガイド部材34aを取り外した装置を使用した。
【0115】
ボビンに巻き取った開繊糸シートSaを当接されている離型糸を外しながら所定の張力を付与して予熱ロール31aに搬送する機構とした。なお、開繊糸シートSaは予熱ロール31aに約4分の1周分接触して走行するようにした。
【0116】
開繊糸シートSaは予熱ロール31aを接触走行後、直接、樹脂付着部材33aの当接面36aに接触して摺接しながら走行し、吐出口35aから吐出する溶融したPA6樹脂が付着され、その後、加熱加圧機構部4および冷却加圧機構部5を走行して、熱可塑性樹脂プリプレグシートPが製造される機構とした。
【0117】
予熱ロール31aを接触走行後、樹脂付着部材33aの当接面36aに接触するまでの開繊糸シートSaが非接触状態で走行する距離を350mmに、樹脂付着部材33aの当接面36aを摺接しながら走行後、加熱ロール41に接触するまでの樹脂付着シートCaが非接触状態で走行する距離を350mmに設定した。
【0118】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造方法>
前記熱可塑性樹脂プリプレグシート製造装置を使用し、予熱ロール31a、加熱ロール41の加熱温度、冷却ロール51の冷却温度、そして走行速度などは実施例1と同様にした。
【0119】
樹脂付着部材33aであるTダイの吐出口35aからは、溶融したPA6樹脂を30g/minの量にて吐出させ開繊糸シートSaの片面に連続して付着させた。そして、加熱加圧機構部4および冷却加圧機構部5を走行させて熱可塑性樹脂プリプレグシートPを製造した。
【0120】
<熱可塑性樹脂プリプレグシートの製造状態>
製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートの状態を目視確認したところ、繊維間隙間の多い、厚さが一定しないプリプレグシートであった。樹脂付着部材33a前段部の開繊糸シートが非接触状態で走行する区間において、開繊糸シート間に隙間を生じる様子が観察された。開繊糸シートSaは厚さ方向の繊維本数が少ないためか、繊維集束などが生じると隙間ができ易いようであった。また、樹脂付着部材33aにおいては、吐出する前記熱可塑性樹脂材料の影響か繊維が幅方向に移動させられ隙間ができる部分も観察された。製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートにおいて、繊維も前記熱可塑性樹脂材料も無い隙間が幅3mm以上で、200mm以上連続する個所があると、その部分からシートの裂けを生じ、シートとしての形態維持が難しかった。
【0121】
これに対して、実施例1および実施例2で製造された熱可塑性樹脂プリプレグシートは繊維分散性が良く、繊維および前記熱可塑性樹脂材料がない隙間を生じたとしても隙間間隔3mm以上でかつその長さが200mm以上となる部分を生じさせることなく製造できていた。また、シートとしての形態が安定しており、途中で裂けるなどの不具合は生じていなかった。