(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051788
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】圧縮成形型及び繊維強化樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20240404BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20240404BHJP
B29C 43/02 20060101ALI20240404BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240404BHJP
B29C 70/46 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C33/42
B29C43/02
B29C70/16
B29C70/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158118
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田辺 尚幸
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F202AA36
4F202AB25
4F202AD16
4F202AM34
4F202AM36
4F202AR12
4F202CA09
4F202CB01
4F202CK12
4F202CK83
4F204AA36
4F204AB25
4F204AD16
4F204AM34
4F204AM36
4F204AR12
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
4F205AA36
4F205AB25
4F205AD16
4F205AM34
4F205AM36
4F205AR12
4F205HA08
4F205HA24
4F205HA33
4F205HA36
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK31
(57)【要約】
【課題】圧縮成形によって得られた製品の成形不良を抑制する。
【解決手段】圧縮成形型20は、成形体本体11と、成形体本体11の端部に連なる延長部17と、を備えた成形体10を成形する。圧縮成形型20は、型締め及び型開き可能とされ、型締めされた状態において成形体10を成形するための成形空間21を形成する第1型30と第2型40とを備える。成形空間21は、成形体本体11を成形するための本体用成形空間23と、延長部17を成形するための延長部用成形空間25と、を有する。延長部用成形空間25は、本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がっている。第1型30は、第1パーティング面31を有する。第2型40は、第1パーティング面31と対向可能な第2パーティング面41を有する。第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、延長部用成形空間25の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体本体と、前記成形体本体の端部に連なる延長部と、を備えた成形体を成形する圧縮成形型であって、
型締め及び型開き可能とされ、型締めされた状態において前記成形体を成形するための成形空間を形成する第1型と第2型とを備え、
前記成形空間は、前記成形体本体を成形するための本体用成形空間と、前記延長部を成形するための延長部用成形空間と、を有し、
前記延長部用成形空間は、前記本体用成形空間の端部から型締め方向と交差する方向に広がっており、
前記第1型は、第1パーティング面を有し、
前記第2型は、前記第1パーティング面と対向可能な第2パーティング面を有し、
前記第1パーティング面及び前記第2パーティング面は、前記延長部用成形空間の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす、圧縮成形型。
【請求項2】
前記本体用成形空間の容積をAcm3とし、前記本体用成形空間と前記延長部用成形空間を併せた空間の容積をBcm3とし、
前記本体用成形空間を型締め方向に投影した面積をCcm2とし、前記本体用成形空間と前記延長部用成形空間の両空間を型締め方向に投影した面積をDcm2とした場合に、
下記式(1)及び/又は式(2)を満たす、請求項1に記載の圧縮成形型。
A/B≦0.80 ・・・(1)
C/D≦0.95 ・・・(2)
【請求項3】
前記第1型と前記第2型が型締めされた状態では、前記第1パーティング面と前記第2パーティング面との間に隙間が形成され、
前記隙間の型締め方向と直交する方向における寸法は、0mmより大きく0.1mm以下であり、
前記隙間の型締め方向における寸法は、3mm以上10mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の圧縮成形型。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の圧縮成形型を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材を加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の圧縮成形型を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材と、前記第1繊維よりも長い第2繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグとを積層し、共に加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮成形型及び繊維強化樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱プレス成形型のパーティングラインは、型内エアを効率よく排出するために横向き(型締め方向と直交する方向)が一般的であり、形状や外観などを向上させるために様々な工夫が施されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、繊維強化樹脂製風車翼を成形するための成形金型が開示されている。この成形金型は、翼前縁部を成形する位置、及び翼受風面を成形する位置等にパーティングラインが形成されないように複数の金型部品によって構成されている。
【0004】
また、特許文献2には、縦パーティングライン構造からなる上型及び下型を有する金型と、金型のキャビティ内の気密性を保持するシール部材と、を備える樹脂成形部材の成形システムが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、SMC成形用金型構造が開示されている。このSMC成形用金型構造は、縦向きパーティングラインが示されている。このような縦向きパーティングラインを用いることで、端部のトリミングを省略し、また、余分な材料を使用せずに済む効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-232141号公報
【特許文献2】特開2017-222122号公報
【特許文献3】実開平4-128814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、圧縮成形によって、多様な製品を得る技術が求められている。例えば、薄肉である製品、偏肉がある製品、大型の製品等を圧縮成形する場合には、成形体の端部まで材料を充填することが困難であり、成形体の端部でショートショットやウェルドによるクラックが発生しやすいという課題がある。また、一般的に用いられている熱プレス成形用の金型構造は、横向きのパーティングラインのため、樹脂圧が横に抜けやすく成形体の端部にヒケやボイド等が生じる一因となっている。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、圧縮成形によって得られた製品の成形不良を抑制することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
成形体本体と、前記成形体本体の端部に連なる延長部と、を備えた成形体を成形する圧縮成形型であって、
型締め及び型開き可能とされ、型締めされた状態において前記成形体を成形するための成形空間を形成する第1型と第2型とを備え、
前記成形空間は、前記成形体本体を成形するための本体用成形空間と、前記延長部を成形するための延長部用成形空間と、を有し、
前記延長部用成形空間は、前記本体用成形空間の端部から型締め方向と交差する方向に広がっており、
前記第1型は、第1パーティング面を有し、
前記第2型は、前記第1パーティング面と対向可能な第2パーティング面を有し、
前記第1パーティング面及び前記第2パーティング面は、前記延長部用成形空間の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす、圧縮成形型。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、圧縮成形によって得られた製品における成形不良を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る成形体から成形体本体を得る様子を説明する図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る圧縮成形型を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の一点鎖線で示す領域IIIを拡大して示す図である。
【
図4】
図4は、繊維樹脂成形体の成形体(その1)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
・前記本体用成形空間の容積をAcm3とし、前記本体用成形空間と前記延長部用成形空間を併せた空間の容積をBcm3とし、
前記本体用成形空間を型締め方向に投影した面積をCcm2とし、前記本体用成形空間と前記延長部用成形空間の両空間を型締め方向に投影した面積をDcm2とした場合に、
下記式(1)及び/又は式(2)を満たす、圧縮成形型。
A/B≦0.80 ・・・(1)
C/D≦0.95 ・・・(2)
・前記第1型と前記第2型が型締めされた状態では、前記第1パーティング面と前記第2パーティング面との間に隙間が形成され、
前記隙間の型締め方向と直交する方向における寸法は、0mmより大きく0.1mm以下であり、
前記隙間の型締め方向における寸法は、3mm以上10mm以下である、圧縮成形型。
・圧縮成形型を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材を加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
・圧縮成形型を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材と、前記第1繊維よりも長い第2繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグとを積層し、共に加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【0013】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0014】
1.圧縮成形型20
圧縮成形型20は、成形体本体11と、成形体本体11の端部に連なる延長部17と、を備えた成形体10を成形する。圧縮成形型20は、型締め及び型開き可能とされ、型締めされた状態において成形体10を成形するための成形空間21を形成する第1型30と第2型40とを備える。成形空間21は、成形体本体11を成形するための本体用成形空間23と、延長部17を成形するための延長部用成形空間25と、を有する。延長部用成形空間25は、本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がっている。第1型30は、第1パーティング面31を有する。第2型40は、第1パーティング面31と対向可能な第2パーティング面41を有する。第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、延長部用成形空間25の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。
【0015】
(1)成形体10
成形体10は、成形体本体11と、延長部17と、を備えている。
図1に、成形体10の一例を示す。成形体本体11は、製品となる部分である。延長部17は、製品としての成形体本体11を得る過程で除かれる部分である。成形体10から得られる製品の用途は特に限定されない。製品としては、電子機器等の筐体、自動車部品、構造部材が挙げられる。
【0016】
成形体10の材料は特に限定されない。成形体10は、軽量かつ高強度である観点から、繊維強化樹脂で形成されることが好ましい。成形体10は、1種の繊維強化樹脂層を有していてもよく、2種以上の繊維強化樹脂層を有していてもよい。このような成形体10の製造方法については、後に説明する。
【0017】
成形体本体11の形状は、特に限定されない。
図1の成形体本体11は、全体としては略箱形をなしている。成形体本体11は、底面部13と、底面部13の端部に連なる側面部15と、を備えている。
【0018】
成形体本体11の各部の厚さは特に限定されない。本実施形態では側面部15の厚さは、底面部13の厚さよりも大きい。側面部15の厚さが底面部13の厚さよりも大きい場合には、成形体本体11の全体を肉厚にすることなく、側面部15の剛性を確保できる。このため、例えば、側面部15を、図示しないねじ孔や開口等を形成するための部位として好適に利用できる。底面部13の厚さは、例えば0.50mm以上5.00mm以下であり、0.50mm以上2.00mm以下であってもよい。側面部15の厚さは、例えば1.00mm以上12.00mm以下であり、4.00mm以上9.00mm以下であってもよい。このような構成は、一般的な圧縮成形法では側面部15の端部に成形不良を生じやすく、本開示の技術が特に有効である。
【0019】
なお、側面部15の厚さは、底面部13の厚さと略同じであってもよい。例えば、成形体本体11の厚さは、0.50mm以上2.00mm以下であってもよい。このような構成も、一般的な圧縮成形法では側面部15の端部に成形不良を生じやすく、本開示の技術が特に有効である。成形体本体11の厚さが0.50mm以上2.00mm以下の場合には、成形体本体11の全体を薄くすることができ、製品の軽量化等に寄与できる。
また、側面部15は、相対的に厚い部位と、相対的に薄い部位を有していてもよい。このような構成も、一般的な圧縮成形法では側面部15の端部に成形不良を生じやすく、本開示の技術が特に有効である。側面部15が相対的に厚い部位と、相対的に薄い部位を有する場合には、相対的に厚い部位の近傍に配置される部品を好適に保護できる。
【0020】
延長部17は、成形体本体11の端部に連なっている。本実施形態の延長部17は、側面部15における底面部13とは反対側の端部に連なっている。成形体本体11の端部は、例えば、成形体10を成形する際に、成形体10の材料となる樹脂が流動する前方に位置し得る。成形体本体11の端部は、ショートショットやウェルドを生じやすい部位といえる。
【0021】
延長部17の範囲、形状及び寸法は特に限定されない。本実施形態の延長部17は、成形体本体11の端部の全域に亘って連なっている。延長部17は、成形体本体11の周端部から外周側に延びた鍔状(フランジ状)をなす。なお、延長部17は、成形体本体11の端部において、一般的な圧縮成形法で成形した場合に成形不良を生じる懸念のある領域にのみに連なっていてもよい。
【0022】
(2)第1型30と第2型40
第1型30と第2型40は、型締め及び型開き可能とされる。
図2に、圧縮成形型20の一例を示す。第1型30は下型であり、第2型40は上型である。圧縮成形型20は、図示しないプレス装置に組み込まれて、例えば、下型を固定型とし、上型を可動型として型締め及び型開きされる。
図2-
図4において、圧縮成形型20の型締め方向は上下方向である。各図において上下方向を矢印UP,DWで示す。
【0023】
第1型30と第2型40は、
図2に示すように、型締めされた状態において成形体10を成形するための成形空間21を形成する。以下、第1型30において、成形空間21を形成する面を第1成形面と称する。第2型40において、成形空間21を形成する面を第2成形面と称する。
【0024】
成形空間21は、
図2及び
図3に示すように、成形体本体11を成形するための本体用成形空間23と、延長部17を成形するための延長部用成形空間25と、を有する。延長部用成形空間25は、本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がっている。
図3の一点鎖線は、本体用成形空間23と延長部用成形空間25の境界線である。延長部用成形空間25は、第1成形面によって上面と周壁面が形成され、第2成形面によって下面が形成される。
【0025】
本体用成形空間23の各部の寸法は、成形体本体11と対応している。本実施形態においては、成形体10の成形後の樹脂の収縮等が十分に小さい。このため、本体用成形空間23の各部の寸法は、成形体本体11の対応する部位の寸法と略同じである。本体用成形空間23の各部の寸法については、成形体本体11の各部の寸法の説明をそのまま適用する。
【0026】
延長部用成形空間25の各部の寸法は特に限定されない。延長部用成形空間25が本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がる寸法L1は、好ましくは1mm以上100mm以下であり、より好ましくは5mm以上80mm以下であり、更に好ましくは10mm以上70mm以下である。この寸法L1は、延長部17が成形体本体11の端部から延長された寸法に対応する。延長部用成形空間25の型締め方向における寸法L2は、好ましくは1mm以上100mm以下であり、より好ましくは1mm以上50mm以下であり、更に好ましくは1mm以上30mm以下である。この寸法L2は、延長部17の厚さに対応する。
【0027】
第1型30は、
図3に示すように、第1パーティング面31を有する。第2型40は、第1パーティング面31と対向可能な第2パーティング面41を有する。なお、「パーティング面」とは、成形型の分割面のことである。本実施形態では、第1型30における第2型40と対向する面のうち、第1成形面以外の面が第1パーティング面31に相当する。第2型40における第1型30と対向する面のうち、第2成形面以外の面が第2パーティング面41に相当する。
【0028】
第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、延長部用成形空間25の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。以下、第1パーティング面31及び第2パーティング面41において、型締め方向に沿って延び始める形態をなす部位を縦パーティング部とも称する。本実施形態では、第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、縦パーティング部と、縦パーティング部が延びた先から型締め方向と交差する方向に沿って延びた横パーティング部と、を有する。換言すれば、第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、型締め方向に沿った断面において、略L字状に延びている。第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、横パーティング部において互いに接触可能であるとよい。このような構成によれば、型締め時に第1パーティング面31に第2パーティング面41が接触することで、型締め状態における第1型30に対する第2型40の位置を精度よく規定できる。
【0029】
(3)本体用成形空間23及び延長部用成形空間25に関する要件
圧縮成形型20は、本体用成形空間23の容積をAcm
3とし、本体用成形空間23と延長部用成形空間25を併せた空間の容積をBcm
3とし、
本体用成形空間23を型締め方向に投影した面積をCcm
2とし、本体用成形空間23と延長部用成形空間の両空間を型締め方向に投影した面積をDcm
2とした場合に、
下記式(1)及び/又は式(2)を満たすことが好ましい。
A/B≦0.80 ・・・(1)
C/D≦0.95 ・・・(2)
なお、
図3において、本体用成形空間23を型締め方向に投影した図形Cと、延長部用成形空間25を型締め方向に投影した図形Dを二点鎖線で示している。
【0030】
圧縮成形型20は、圧縮成形によって得られた製品の成形不良をより一層抑制する観点から、下記式(1-1)を満たすことがより好ましく、(1-2)を満たすことが更に好ましい。
A/B≦0.76 ・・・(1-1)
A/B≦0.73 ・・・(1-2)
圧縮成形型20は、材料の無駄を減らし、圧縮成形型20を小型化する観点から、下記式(1-3)、(1-4)を満たすことがより好ましい。
0.50≦A/B ・・・(1-3)
0.60≦A/B ・・・(1-4)
【0031】
圧縮成形型20は、圧縮成形によって得られた製品の成形不良をより一層抑制する観点から、下記式(2-1)を満たすことがより好ましく、(2-2)を満たすことが更に好ましい。
C/D≦0.90 ・・・(2-1)
C/D≦0.88 ・・・(2-2)
圧縮成形型20は、材料の無駄を減らし、圧縮成形型20を小型化する観点から、下記式(2-3)又は(2-4)を満たすことがより好ましい。
0.60≦C/D ・・・(2-3)
0.70≦C/D ・・・(2-4)
【0032】
なお、上述のA/Bの値と、C/Dの値は、延長部用成形空間25が本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がる寸法Lや、延長部用成形空間25の型締め方向における寸法L2等を調整してコントロールできる。
【0033】
(4)第1パーティング面31と第2パーティング面41との間の隙間27に関する要件
第1型30と第2型40が型締めされた状態では、第1パーティング面31と第2パーティング面41との間に隙間27が形成され得る。本実施形態において、隙間27は、上述の縦パーティング部に形成される。
【0034】
隙間27の型締め方向と直交する方向における寸法L3は、型締め時の第1型30及び第2型40の干渉(カジリ)を回避する観点から、好ましくは0mmより大きい。寸法L3は、成形空間21における樹脂圧を十分に高める観点から、好ましくは0.1mm以下である。これらの観点から、寸法L3は、好ましくは0mmより大きく0.1mm以下である。
隙間27の型締め方向における寸法L4は、成形空間21における樹脂圧を十分に高める観点から、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは延長部17の厚さよりも3mm以上大きい。寸法L4は、圧縮成形型20の小型化の観点から、好ましくは10mm以下である。これらの観点から、寸法L4は、好ましくは3mmより大きく103mm以下であり、より好ましくは延長部17の厚さよりも3mm以上大きく、10mm以下である。
【0035】
2.繊維強化樹脂成形体10の製造方法(その1)
繊維強化樹脂成形体10の製造方法(その1)として、圧縮成形型20を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材50を加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体10の製造方法を例示する。この繊維強化樹脂成形体10は、上述の成形体10の一例であり、同じ符号を付して説明する。
【0036】
繊維樹脂複合材50は、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する限り、特に限定されない。第1繊維は、短繊維であっても、長繊維であってもよい。繊維樹脂複合材50は、成形性の観点から、短繊維である第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有することが好ましい。そのような繊維樹脂複合材50として、SMC(シートモールディングコンパウンド)が例示される。
【0037】
第1繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維の群から選ばれる繊維が好ましく、軽量化と剛性向上の点から炭素繊維がより好ましい。短繊維である場合において、第1繊維の長さは、成形性の点から30mm以下が好ましく、また、剛性向上の点から5mm以上が好ましい。繊維樹脂複合材50の熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びこれらの混合樹脂の群から選ばれる樹脂であることが好ましい。
【0038】
繊維樹脂複合材50の大きさは特に限定されない。繊維樹脂複合材50の厚さは、例えば、0.5mm以上3.0mm以下である。
本体用成形空間23を型締め方向に投影した面積をCcm2とし、
繊維樹脂複合材50を型締め方向に投影した面積をEcm2とした場合に、
製品チャージ率E/Cは、下記式(3)を満たすことがより好ましく、(3-1)を満たすことがより好ましい。
0.60≦E/C≦1.15 ・・・(3)
0.85≦E/C≦1.15 ・・・(3-1)
また、本体用成形空間23と延長部用成形空間の両空間を型締め方向に投影した面積をDcm2とし、
繊維樹脂複合材50を型締め方向に投影した面積をEcm2とした場合に、
成形型チャージ率E/Dは、下記式(4)を満たすことがより好ましく、(4-1)を満たすことがより好ましい。
0.50≦E/D≦0.90 ・・・(4)
0.54≦E/D≦0.80 ・・・(4-1)
【0039】
図4を参照しつつ、繊維強化樹脂成形体10の製造方法(その1)を具体的に説明する。圧縮成形型20は、予め加熱炉に入れることにより、あるいは圧縮成形型20に設けた加熱手段(例えば電熱ヒータ等)により、所定温度に加熱される。加熱温度は、繊維樹脂複合材50に含まれる熱硬化性樹脂が硬化する温度に設定される。
【0040】
続いて、圧縮成形型20を開いた状態にして、第1型30の第1成形面に繊維樹脂複合材50を配置する。必要に応じて、繊維樹脂複合材50を重ねて配置してもよい。その後、
図4に示すように圧縮成形型20を型締めし、繊維樹脂複合材50を加熱圧縮して、繊維強化樹脂成形体10を得る。この繊維強化樹脂成形体10から延長部17を除いて、成形体本体11としての製品を得ることができる(
図1参照)。
【0041】
3.繊維強化樹脂成形体の製造方法(その2)
繊維強化樹脂成形体の製造方法(その2)として、圧縮成形型20を用いて、第1繊維と熱硬化性樹脂とを含有する繊維樹脂複合材と、第1繊維よりも長い第2繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグとを積層し、共に加熱圧縮する、繊維強化樹脂成形体の製造方法を例示する。この繊維強化樹脂成形体は、上述の成形体10の他の例である。
【0042】
繊維樹脂複合材は、第1繊維が短繊維である繊維樹脂複合材50と同じものを用いることができる。第1繊維と、熱硬化性樹脂については、繊維樹脂複合材50の説明をそのまま適用する。
【0043】
プリプレグは、第1繊維よりも長い第2繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたものである。第2繊維は、繊維シートを構成する。繊維シートは、織物、編み物、不織布等であってもよい。織物としては、平織、綾織、朱子織、三軸織等がある。また、繊維シートは、一方向あるいは複数方向に配向した繊維で構成されていてもよい。繊維シートは、剛性向上の点から、繊維織物が好ましい。
【0044】
第2繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維の群から選ばれる繊維が好ましく、軽量化と剛性向上の点から炭素繊維がより好ましい。プリプレグの熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、及びこれらの混合樹脂の群から選ばれる樹脂であることが好ましい。
【0045】
繊維強化樹脂成形体の製造方法(その2)を具体的に説明する。圧縮成形型20は、予め加熱炉に入れることにより、あるいは圧縮成形型20に設けた加熱手段(例えば電熱ヒータ等)によって所定温度に加熱される。加熱温度は、繊維樹脂複合材及びプリプレグに含まれる熱硬化性樹脂が硬化する温度に設定される。
【0046】
圧縮成形型20を開いた状態にして、第1型30の第1成形面にプリプレグを配置する。配置したプリプレグの上に繊維樹脂複合材を積層して、配置する。なお、繊維樹脂成形体から得る製品に応じて、積層するプリプレグの枚数は1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。また、繊維樹脂成形体から得る製品に応じて、繊維樹脂複合材の上にプリプレグを積層して、配置してもよい。なお、その他の手法は、繊維強化樹脂成形体の製造方法(その1)と同様であり、その説明を省略する。
【0047】
プリプレグで形成される層は、加工性が低い反面、高い強度を有する。繊維樹脂複合材で形成される層は、プリプレグで形成される層よりも強度がわずかに落ちる反面、加工性が高い。繊維強化樹脂成形体の製造方法(その2)によれば、繊維強化樹脂成形体の強度と加工性を両立できる。
【0048】
4.本実施形態の作用効果
本実施形態の圧縮成形型20は、本体用成形空間23の端部から型締め方向と交差する方向に広がる延長部用成形空間25を備える。この構成によれば、成形体10の端部、すなわち延長部17の端部にウェルドによる成形不良を生じたとしても、そのような成形不良が製品となる成形体本体11に及びにくい。また、この構成によれば、本体用成形空間23を型締め方向に投影した面積に対する繊維樹脂複合材50を型締め方向に投影した面積である製品チャージ率E/Cを高くでき、例えば、SMCの場合、1.0に近い数値とすることも可能となる。このため、製品となる成形体本体11におけるショートショットを抑制できる。
【0049】
さらに、本実施形態における、第1パーティング面31及び第2パーティング面41は、延長部用成形空間25の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。この構成によれば、型締めの過程で第1パーティング面31に対して第2パーティング面41が対向した時点から、第2パーティング面41が圧縮成形型20の内部から外部に向かって流出する樹脂を堰き止める壁のように作用する。このため、圧縮成形型20の内部の樹脂圧が高まりやすく、成形体10におけるヒケやボイドを抑制できる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、圧縮成形によって得られた成形体本体11(製品)の成形不良を抑制できる。
【実施例0051】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0052】
1.繊維強化樹脂成形体の作製
表1及び表2に示す圧縮成形型を用いて、実施例1-5及び比較例1-4の繊維強化樹脂成形体を成形した。なお、表1において、各項目は実施形態で説明した以下の事項を表す。
「製品厚み」は、繊維強化樹脂成形体の厚さを表す。なお、実施例1-3及び比較例1,2は、成形体全体が略同じ厚さのである。実施例1-3及び比較例1,2は、いわゆる薄肉成形体である。実施例4,5及び比較例3,4は、成形体の最も薄い部位の厚さと、最も厚い部位の厚さを示している。実施例4,5及び比較例3,4は、いわゆる偏肉成形体である。
「延長部成形空間の有無」は、成形空間が延長部成形空間を有する場合が「あり」であり、延長部成形空間を有しない場合が「なし」である。
「パーティング面の形態」は、第1パーティング面及び第2パーティング面が成形空間の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす場合が「縦」であり、延長部用成形空間の端部から型締め方向と交差して延びている場合が「横」である。
【0053】
「製品容積」は、本体用成形空間の容積Acm3を表す。
「成形型容積」は、本体用成形空間と延長部用成形空間を併せた空間の容積Bcm3を表す。
「容積比率」は、A/Bを表す。
「製品投影面積」は、本体用成形空間を型締め方向に投影した面積Ccm2を表す。
「成形型投影面積」は、本体用成形空間と延長部用成形空間の両空間を型締め方向に投影した面積Dcm2を表す。
「投影面積比率」は、C/Dを表す。
「SMC面積」は、繊維樹脂複合材(SMC)を型締め方向に投影した面積Ecm2を表す。
「製品チャージ率」は、E/Cを表す。
「成形型チャージ率」は、E/Dを表す。
なお、実施例1-5の圧縮成形型は、実施形態で説明した、「(3)本体用成形空間23及び延長部用成形空間25に関する要件」、「(4)第1パーティング面31と第2パーティング面41との間の隙間27に関する要件」を満たしていた。
【0054】
【0055】
【0056】
圧縮成形型を140℃に加熱し、その圧縮成形型を開いて型面に離型剤を塗布した後、第1型の型面に、所定のサイズに切り出した繊維樹脂複合材(SMC、ジャパンコンポジット株式会社製、品名:IM-642、厚さ1.5mm、繊維含有率45%)を配置した。そして、圧縮成形型を閉じ、140℃で15分間、5MPaの圧力を加えて繊維樹脂複合材を加熱圧縮した。
【0057】
その後、圧縮成形型を室温まで冷却した後、第1型と第2型を開き、実施例1-5及び比較例1-4の繊維強化樹脂複合成形体を得た。なお、繊維強化樹脂複合成形体から、グラインダー等を用いて延長部を除き、成形体本体としての製品を得ることができる。
【0058】
2.評価
実施例1-5及び比較例1-4の繊維強化樹脂複合成形体について、製品となる成形体本体のボイド及びヒケと、ショートショットに関する成形不良を以下の基準で評価をした。評価結果を表1の「ボイド・ヒケ」と、「ショートショット」の欄に併記する。
<ボイド・ヒケ>
良 :目視にて観察して、ボイド及びヒケの成形不良がない。
不良:目視にて観察して、ボイド及びヒケの成形不良がある。
<ショートショット>
良 :目視にて観察して、ショートショットの成形不良がない。
不良:目視にて観察して、ショートショットの成形不良がある。
【0059】
3.結果
実施例1-3、比較例1,2は、薄肉成形体を成形した例である。実施例1-3の圧縮成形型は、下記要件(a)(b)を満たす。これに対して比較例1,2の圧縮成形型は、要件(b)を満たしていない。
・要件(a):成形空間は、成形体本体を成形するための本体用成形空間と、延長部を成形するための延長部用成形空間と、を有し、延長部用成形空間は、本体用成形空間の端部から型締め方向と交差する方向に広がっている。
・要件(b):第1パーティング面及び第2パーティング面は、延長部用成形空間の端部から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。
【0060】
比較例1は、製品となる成形体本体のショートショットに関する成形不良はないものの、ボイド及びヒケに関する成形不良があった。比較例2は、製品となる成形体本体のボイド及びヒケに関する成形不良と、ショートショットに関する成形不良があった。比較例1の製品チャージ率は、0.97であり、比較例2の製品チャージ率は、0.62である。比較例1と比較例2を比較すると、製品チャージ率を高くすることで、ショートショットに関する成形不良はある程度改善できたとしても、ボイド及びヒケに関する成形不良の改善が難しいことが推察される。
実施例1-3は、製品となる成形体本体のボイド及びヒケに関する成形不良と、ショートショットに関する成形不良がなかった。要件(a)及び要件(b)を満たすことによって、製品となる成形体本体のショートショットに関する成形不良と、ボイド及びヒケに関する成形不良の改善に有効であることが示唆された。
【0061】
実施例4,5、比較例3,4は、偏肉成形体を成形した例である。実施例4,5の圧縮成形型は、下記要件件(a)(b)を満たす。これに対して、比較例3の圧縮成形型は、要件(b)を満たしていない。比較例4の圧縮成形型は、要件(a)を満たしていない。
・要件(a):成形空間は、成形体本体を成形するための本体用成形空間と、延長部を成形するための延長部用成形空間と、を有し、延長部用成形空間は、本体用成形空間の端部から型締め方向と交差する方向に広がっている。
・要件(b):第1パーティング面及び第2パーティング面は、延長部用成形空間の端部(但し、延長部用成形空間がない場合は成形空間の端部)から型締め方向に沿って延び始める形態をなす。
【0062】
比較例3は、製品となる成形体本体のショートショットに関する成形不良はないものの、ボイド及びヒケに関する成形不良があった。比較例4は、製品となる成形体本体のボイド及びヒケに関する成形不良はないものの、ショートショットに関する成形不良があった。比較例3と比較例4を比較すると、要件(a)は、主にショートショットに関する成形不良の改善に寄与し、要件(b)は、主にボイド及びヒケに関する成形不良の改善に寄与し得ることが推察される。
実施例4,5は、製品となる成形体本体のボイド及びヒケに関する成形不良と、ショートショットに関する成形不良がなかった。要件(a)及び要件(b)を満たすことによって、製品となる成形体本体のショートショットに関する成形不良と、ボイド及びヒケに関する成形不良の改善に有効であることが示唆された。
【0063】
4.実施例の効果
実施例1-5は、製品となる成形体本体のボイド及びヒケに関する成形不良と、ショートショットに関する成形不良がなく、圧縮成形によって得られた製品の成形不良を抑制できた。
【0064】
本開示は上記で詳述した実施例に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。