(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051791
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】焼結用金属粉末および金属焼結体
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240404BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240404BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240404BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240404BHJP
B22F 10/14 20210101ALN20240404BHJP
C22C 38/50 20060101ALN20240404BHJP
B22F 10/18 20210101ALN20240404BHJP
【FI】
B22F1/00 T
C22C33/02 C
C22C38/00 304
C22C38/00 302Z
B33Y70/00
B22F10/14
C22C38/50
B22F10/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158122
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】川崎 琢
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 一真
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA33
4K018BA17
4K018BB04
4K018BC01
4K018CA07
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA29
4K018CA31
4K018CA44
4K018DA03
4K018DA31
4K018DA32
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA06
4K018KA01
4K018KA25
4K018KA28
4K018KA32
4K018KA57
4K018KA58
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】研磨面において高い鏡面性が得られる金属焼結体、および、かかる金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末を提供すること。
【解決手段】焼結に供される焼結用金属粉末であって、フェライト系ステンレス鋼の組成と、含有率が0.05質量%以上1.00質量%以下のCと、含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、不純物と、で構成されていることを特徴とする焼結用金属粉末。また、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbが、0.10以上1.80以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結に供される焼結用金属粉末であって、
フェライト系ステンレス鋼の組成と、
含有率が0.05質量%以上1.00質量%以下のCと、
含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、
不純物と、
で構成されていることを特徴とする焼結用金属粉末。
【請求項2】
Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbが、0.10以上1.80以下である請求項1に記載の焼結用金属粉末。
【請求項3】
Cの含有量とNbの含有量の和をC+Nbとするとき、C+Nbが、0.20質量%以上1.50質量%以下である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【請求項4】
Siの含有率が0.20質量%以上0.80質量%以下であり、
Crの含有率が12.0質量%以上30.0質量%以下である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【請求項5】
フェライト系ステンレス鋼の組成と、
含有率が0.02質量%以上1.00質量%以下のCと、
含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、
不純物と、
で構成されていることを特徴とする金属焼結体。
【請求項6】
Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbが、0.40以上1.80以下である請求項5に記載の金属焼結体。
【請求項7】
平均厚さが150μm以上の緻密層を表面に有する請求項5または6に記載の金属焼結体。
【請求項8】
JIS G 0577:2014に規定されているステンレス鋼の孔食電位測定方法のB法に準じて測定される電流密度が100μA/cm2となる電位が、200mV以上である請求項5または6に記載の金属焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用金属粉末および金属焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フェライト系ステンレス鋼の合金粉末に有機バインダを混合して混練し、これを射出成形法により成形して、脱脂処理を施した後、焼結させてなる焼結体により構成された時計用外装部品が開示されている。フェライト系ステンレス鋼は、実質的にNiを含有していない。このため、特許文献1に記載の時計用外装部品は、金属アレルギーを防止することができる。また、フェライト系ステンレス鋼は、磁性体である。このため、特許文献1に記載の時計用外装部品は、ムーブメントの耐磁性能を向上させることにも寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、フェライト系ステンレス鋼は、結晶構造の充填率が比較的低いため、拡散速度が速く緻密化がよいという特徴を有する。このため、フェライト系ステンレス鋼粉末で構成された成形体を焼結させると、成形体の内部と表層とで焼結に至るまでの時間差が大きくなりやすい。その結果、焼結時に温度が上がりやすい表層が先に焼結し、表層に存在していた気孔が閉塞する。そうすると、内部には残留ガスが閉じ込められ、最終的に、焼結体の内部に気孔が発生する。
【0005】
この場合、気孔が閉塞した表層、すなわち緻密層の厚さは、非常に薄い。このため、焼結体の表面に研磨を施した場合には、緻密層が容易に除去されてしまい、内部に発生していた気孔が表面に露出する。その結果、研磨したにもかかわらず、研磨面において十分な鏡面性が得られないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係る焼結用金属粉末は、
焼結に供される焼結用金属粉末であって、
フェライト系ステンレス鋼の組成と、
含有率が0.05質量%以上1.00質量%以下のCと、
含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、
不純物と、
で構成されている。
【0007】
本発明の適用例に係る金属焼結体は、
フェライト系ステンレス鋼の組成と、
含有率が0.02質量%以上1.00質量%以下のCと、
含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、
不純物と、
で構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態に係る金属焼結体の表層近傍を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図3】サンプルNo.1の金属焼結体の切断面についての観察像である。
【
図4】サンプルNo.7の金属焼結体の切断面についての観察像である。
【
図5】サンプルNo.1(実施例1)の金属焼結体から得られた電位と電流密度との関係、および、サンプルNo.7(比較例1)の金属焼結体から得られた電位と電流密度との関係を、それぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の焼結用金属粉末および金属焼結体を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
1.焼結用金属粉末
まず、実施形態に係る焼結用金属粉末について説明する。
粉末冶金技術では、焼結用金属粉末とバインダーとを含む組成物を、所望の形状に成形した後、脱脂処理および焼結処理に供することにより、所望の形状の金属焼結体を得ることができる。このような粉末冶金技術によれば、その他の技術に比べ、複雑で微細な形状の焼結体をニアネットシェイプ、すなわち最終形状に近い形状で製造することができる。
【0011】
実施形態に係る焼結用金属粉末は、フェライト系ステンレス鋼の組成に対し、必要に応じてCおよびNbを添加するとともに、後述する含有率に調整した粉末が用いられる。
【0012】
フェライト系ステンレス鋼の組成としては、例えば、JIS規格に規定される化学成分が挙げられる。JIS規格では、フェライト系ステンレス鋼の鋼種を記号で表している。この鋼種としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430F、SUS430LX、SUS430J1L、SUS443J1、SUS434、SUS436J1L、SUS436L、SUS444、SUS445J1、SUS445J2、SUSXM27、SUS447J1、SUH409、SUH409L等が挙げられる。
【0013】
フェライト系ステンレス鋼は、本来、焼結時の拡散速度が速い。このため、フェライト系ステンレス鋼粉末を含む成形体では、表面と内部とで焼結の進度に差が生じやすい。そうすると、内部よりも先に表面の焼結が完了し、内部には焼結に伴って生じるガスが残留する。その結果、焼結が完了した緻密な層(緻密層)は、表層に極薄く形成される一方、内部はガスの残留に伴う密度の低い領域となる。そうすると、緻密層が極薄くなってしまい、表面を研磨したときに緻密層が失われてしまう。
【0014】
これに対し、本実施形態に係る焼結用金属粉末を用いることで、焼結速度を遅らせることができる。これにより、表面と内部とで焼結の進度の差が小さくなる。その結果、内部にガスが残留するのを抑制するとともに、表面に形成される緻密層をより厚くすることができる。このような厚い緻密層を表面に伴う金属焼結体は、表面を研磨しても緻密層が失われにくいので、高い鏡面性を持つ研磨面を得ることができる。また、緻密層は、耐食性に優れる。このため、厚い緻密層を有する金属焼結体は、良好な耐食性を有する。また、その一方、得られる金属焼結体では、例えば実質的なニッケルフリーといったフェライト系ステンレス鋼に特有な特性を維持することができる。
【0015】
以下、実施形態に係る焼結用金属粉末について詳述する。
1.1.組成
実施形態に係る焼結用金属粉末の組成は、前述したように、フェライト系ステンレス鋼の組成に対し、Nbが添加されているとともに、必要に応じてCが添加されている。したがって、焼結用金属粉末における各元素の含有率は、C、Nbおよび不純物を除いてフェライト系ステンレス鋼の規格に準じていればよいが、好ましくは以下の通りである。
【0016】
Cの含有率:0.05質量%以上1.00質量%以下
Siの含有率:1.00質量%以下
Mnの含有率:1.00質量%以下
Pの含有率:0.03質量%以下
Sの含有率:0.02質量%以下
Crの含有率:12.0質量%以上30.0質量%以下
Nbの含有率:0.05質量%以上1.50質量%以下
また、上記元素以外の残部は、Feおよび不純物である。
【0017】
上記組成のうち、C(炭素)は、焼結を阻害する物質、例えば酸化ケイ素や酸化クロム等の酸化物を還元する。酸化物の還元反応としては、例えば、以下の反応式で表される反応が挙げられる。
【0018】
SiO2(s)+C(s)→SiO(g)+CO(g)
Cr2O3(s)+3C(s)→2Cr(s)+3CO(g)
【0019】
上式では、(s)が固体、(g)が気体を表す。この例では、酸化ケイ素SiO2が炭素Cと反応し、気化しやすい物質に変化して成形体中から除去される。また、酸化クロムが金属クロムに還元される。その結果、焼結を阻害しやすい酸化物を成形体中から減らすことができ、焼結体の高密度化を図ることができる。
【0020】
一方、上記の還元反応では、副生成物としてガスが発生する。このガスは、焼結体の内部に残留するおそれがある。本実施形態に係る焼結用金属粉末では、このガスの残留を抑制することができる。
【0021】
具体的には、C(炭素)およびNb(ニオブ)が併用されることで、焼結時、焼結用金属粉末の粒子表面にNbC(炭化ニオブ)を析出させる。このNbCは、焼結用金属粉末が焼結に至るとき、焼結速度を遅らせることができ、成形体(脱脂体)の表面における急速な焼結の進行を抑制する。これにより、成形体の表面と内部とで焼結の進度の差を小さくすることができ、内部にガスが残留するのを抑制するとともに、表面に形成される緻密層をより厚くすることができる。
【0022】
Cの含有率は、0.05質量%以上1.00質量%以下とされるが、好ましくは0.08質量%以上0.50質量%以下とされ、より好ましくは0.13質量%以上0.30質量%以下とされる。Cの含有率が前記下限値を下回ると、Nbの量に対してCの量が不足し、前述した還元反応が生じにくくなったり、NbCの析出が減少したりする。一方、Cの含有率が前記上限値を上回ると、Nbの量に対してCの量が過剰になり、焼結反応が阻害され、焼結密度が低下する。また、製造される金属焼結体において、鏡面性や耐食性を低下させる析出物が生じやすくなるおそれがある。
【0023】
Nbの含有率は、0.05質量%以上1.50質量%以下とされるが、好ましくは0.10質量%以上1.20質量%以下とされ、より好ましくは0.15質量%以上0.70質量%以下とされる。Nbの含有率が前記下限値を下回ると、Cの量に対してNbの量が不足するため、NbCの析出が減少する。一方、Nbの含有率が前記上限値を上回ると、Cの量に対してNbの量が過剰になるため、焼結反応が阻害され、焼結密度が低下するおそれがある。また、製造される金属焼結体において、鏡面性や耐食性を低下させる析出物が生じやすくなるおそれがある。
【0024】
また、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbは、0.10以上1.80以下であるのが好ましく、0.20以上1.20以下であるのがより好ましく、0.30以上1.00以下であるのがさらに好ましい。これにより、Cの含有量とNbの含有量のバランスを最適化することができる。その結果、CやNbに余剰や不足が発生しにくくなり、適量のNbCを析出させることができ、焼結速度を遅らせるとともに、焼結密度の低下を抑制することができる。これにより、金属焼結体の表面に形成される緻密層をより厚くすることができる。
【0025】
なお、C/Nbが前記下限値を下回ると、Nbの量に対してCの量が不足したり、Cの量に対してNbの量が過剰になったりするおそれがある。一方、C/Nbが前記上限値を上回ると、Nbの量に対してCの量が過剰になったり、Cの量に対してNbの量が不足したりするおそれがある。
【0026】
また、Cの含有率とNbの含有率の和をC+Nbとするとき、C+Nbは、0.20質量%以上1.50質量%以下であるのが好ましく、0.25質量%以上1.20質量%以下であるのがより好ましく、0.30質量%以上0.80質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、適度なNbCを析出させることができ、焼結速度を遅らせるとともに、焼結密度の低下を抑制することができる。その結果、全体として高密度で、かつ、緻密層が十分に厚い金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0027】
Si(ケイ素)の含有率は、前述したように、1.00質量%以下とされるが、好ましくは0.20質量%以上0.80質量%以下とされ、より好ましくは0.30質量%以上0.50質量%以下とされる。これにより、焼結用金属粉末の焼結性をより高めることができる。
【0028】
Cr(クロム)の含有率は、前述したように、12.0質量%以上30.0質量%以下とされるが、好ましくは15.0質量%以上25.0質量%以下とされ、より好ましくは18.0質量%以上23.0質量%以下とされる。これにより、金属焼結体の耐食性および耐熱性を高めることができる。
【0029】
焼結用金属粉末は、必要に応じて、Mo、Ni、Al、Ti、Cu、ZrおよびNの少なくとも1種を含有していてもよい。
【0030】
Mo(モリブデン)の含有率は、3.00質量%以下であるのが好ましく、0.70質量%以上2.80質量%以下であるのがより好ましく、1.80質量%以上2.60質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Cu(銅)、Zr(ジルコニウム)およびN(窒素)の含有率は、それぞれ、1.00質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以上0.80質量%以下であるのがより好ましい。
【0032】
Fe(鉄)および不純物は、前述した成分以外の残部を占める。
このうち、Feは、焼結用金属粉末の主成分であり、含有率が最も高い。Feの含有率は、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましい。
【0033】
不純物の濃度は、元素ごとに0.10質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以下であるのがより好ましい。また、不純物の濃度の合計は、1.00質量%以下であるのが好ましい。なお、この範囲内であれば、不可避的に混入した元素であっても、意図的に添加された元素であっても、焼結用金属粉末が奏する効果に影響を与えないので、不純物とみなすことができる。
【0034】
なお、不純物は、O(酸素)を含んでいてもよい。酸素の濃度は、最終的に還元されることを踏まえると、上記の不純物の濃度より高くてもよい。具体的には、酸素の濃度は、0.70質量%以下であるのが好ましく、0.50質量%以下であるのがより好ましい。この程度であれば、Oが含まれていても、最終的に目的とする特性の金属焼結体を製造することができる。
【0035】
1.2.分析方法
以上、焼結用金属粉末の組成について詳述したが、上記の組成は、以下のような分析手法により特定される。
【0036】
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0037】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0038】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定においては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0039】
さらに、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定においては、JIS G 1228:1997に規定された鉄及び鋼-窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
【0040】
1.3.粉末特性
焼結用金属粉末の平均粒径は、特に限定されないが、0.5μm以上30.0μm以下であるのが好ましく、0.5μm以上15.0μm以下であるのがより好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、金属焼結体に形成される緻密層において、さらなる緻密化を図ることができる。その結果、製造される金属焼結体を研磨したとき、研磨面において特に高い鏡面性を得ることができる。
【0041】
なお、焼結用金属粉末の平均粒径が前記下限値を下回った場合、粉末が凝集しやすく、充填性が下がるため、焼結密度が低下するおそれがある。一方、焼結用金属粉末の平均粒径が前記上限値を上回った場合、成形時の充填性が低下するため、焼結密度が低下するおそれがある。
【0042】
平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得された焼結用金属粉末の体積基準での累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から50%である粒子径D50のことをいう。
【0043】
焼結用金属粉末について、前述した累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒子径をD10とし、小径側からの累積が90%となるときの粒子径をD90とするとき、(D90-D10)/D50は、1.0以上2.5以下程度であるのが好ましく、1.2以上2.3以下程度であるのがより好ましい。(D90-D10)/D50は粒度分布の広がりの程度を示す指標であるが、この指標が前記範囲内であることにより、焼結用金属粉末の充填性が特に良好になる。その結果、高密度の金属焼結体を製造することができる。
【0044】
2.焼結体の製造方法
図1は、金属焼結体の製造方法を示す工程図である。
図1に示す金属焼結体の製造方法は、組成物調製工程S102と、成形工程S104と、脱脂工程S106と、焼結工程S108と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0045】
2.1.組成物調製工程
組成物調製工程S102では、焼結用金属粉末と有機バインダーとを含む成形用組成物を得る。
【0046】
焼結用金属粉末は、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく、水アトマイズ法または回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましい。アトマイズ法は、溶湯を、高速で噴射された液体または気体に衝突させることにより、微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。焼結用金属粉末をアトマイズ法によって製造することにより、微小な粉末を効率よく製造することができる。
【0047】
なお、焼結用金属粉末には、例えば、加熱処理、プラズマ処理、オゾン処理、還元処理等の各種前処理が施されていてもよい。
【0048】
有機バインダーとしては、脱脂処理および焼結処理において短時間で分解可能な樹脂が用いられる。かかる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
なお、成形用組成物の形態としては、例えば、混練物、造粒粉末等が挙げられる。
【0049】
有機バインダーの混合比率は、成形用組成物の0.2質量%以上20.0質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下程度であるのがより好ましい。
【0050】
組成物中には、これらの他に、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物が添加されていてもよい。
【0051】
2.2.成形工程
成形工程S104では、成形用組成物を目的とする形状に成形する。これにより、成形体が得られる。
【0052】
成形方法としては、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、積層造形法等が挙げられる。このうち、積層造形法としては、例えば、材料押出堆積法やバインダージェッティング法が挙げられる。
【0053】
2.3.脱脂工程
脱脂工程S106では、成形体に脱脂処理を施し、脱脂体を得る。
脱脂処理としては、例えば、成形体を加熱して有機バインダーを分解する方法、有機バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。脱脂処理により、成形体中の有機バインダーの全部または一部が除去される。
【0054】
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、有機バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度が100℃以上750℃以下、時間が0.1時間以上20時間以下であるのが好ましく、温度が150℃以上600℃以下、時間が0.5時間以上15時間以下であるのがより好ましい。
【0055】
成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、大気のような酸化性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0056】
有機バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法としては、例えば酸脱脂法が用いられる。酸脱脂法は、酸含有雰囲気下で成形体を加熱することにより、酸の触媒作用を利用して脱脂する方法である。酸脱脂法によれば、有機バインダーを低温でも短時間で分解することができるので、体積の大きな成形体であっても、効率よく脱脂処理を施すことができる。
【0057】
酸含有雰囲気とは、有機バインダーを分解可能な酸を含む雰囲気のことをいう。酸としては、例えば、硝酸、シュウ酸、オゾン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの酸と他のガスとを混合した混合ガスを用いるようにしてもよい。混合ガスの一例としては、発煙硝酸が挙げられる。なお、雰囲気圧力は、大気圧下であっても、減圧下であっても、加圧下であってもよい。
【0058】
酸含有雰囲気下における成形体の加熱条件は、前述した加熱条件よりも低温または短時間で済む。このため、成形体に加える熱量を減らすことができ、焼結用金属粉末の酸化を抑制しやすい。
【0059】
2.4.焼結工程
焼結工程S108では、脱脂体に焼結処理を施し、金属焼結体を得る。
焼結温度は、焼結用金属粉末の組成比や粒径等によって異なるが、一例として980℃以上1330℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1260℃以下程度とされる。
【0060】
また、焼結時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上6時間以下程度とされる。
【0061】
焼結処理の雰囲気は、例えば、水素等の還元性雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。減圧雰囲気の圧力は、常圧(100kPa)未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。これにより、脱脂体中に残留するガスを特に効率よく排出し、最終的に得られる金属焼結体の高密度化を図ることができる。
なお、得られた金属焼結体には、必要に応じて、焼き鈍し等の後処理が施されてもよい。
【0062】
3.金属焼結体
次に、実施形態に係る金属焼結体について説明する。
【0063】
実施形態に係る金属焼結体は、フェライト系ステンレス鋼の組成と、含有率が0.02質量%以上1.00質量%以下のCと、含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、不純物と、で構成されている。フェライト系ステンレス鋼の組成、Cの含有率、Nbの含有率および不純物については、基本的には、焼結用金属粉末と同様である。
【0064】
なお、前述したCによる還元反応により、金属焼結体におけるCの含有率は、前述した焼結用金属粉末におけるCの含有率よりも低下する場合がある。したがって、金属焼結体におけるCの含有率は、0.02質量%以上1.00質量%以下とされ、好ましくは0.05質量%以上0.50質量%以下とされ、より好ましくは0.08質量%以上0.30質量%以下とされる。Cの含有率が前記下限値を下回ると、十分に厚い緻密層が形成されないため、金属焼結体の研磨面の鏡面性および耐食性が低下する。一方、Cの含有率が前記上限値を上回ると、焼結密度が低くなったり、析出物が生じやすくなったりするため、鏡面性や耐食性が低下する。
【0065】
また、金属焼結体におけるNbの含有率は、0.05質量%以上1.50質量%以下とされるが、好ましくは0.10質量%以上1.20質量%以下とされ、より好ましくは0.15質量%以上0.70質量%以下とされる。Nbの含有率が前記下限値を下回ると、Cの量に対してNbの量が不足するため、緻密層が薄くなるため、金属焼結体の研磨面の鏡面性および耐食性が低下する。一方、Nbの含有率が前記上限値を上回ると、Cの量に対してNbの量が過剰になって、焼結密度が低くなったり、析出物が生じやすくなったりするため、鏡面性や耐食性が低下する。
【0066】
また、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbは、0.10以上1.80以下であるのが好ましく、0.20以上1.20以下であるのがより好ましく、0.30以上1.00以下であるのがさらに好ましい。これにより、Cの含有量とNbの含有量のバランスを最適化することができる。その結果、金属焼結体は、適量のNbCを含み、より厚い緻密層を有するとともに、焼結密度の高いものとなる。
【0067】
また、Cの含有率とNbの含有率の和をC+Nbとするとき、C+Nbは、0.20質量%以上1.50質量%以下であるのが好ましく、0.25質量%以上1.20質量%以下であるのがより好ましく、0.30質量%以上0.80質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、適度なNbCを析出させることができ、全体として高密度で、かつ、緻密層が十分に厚い金属焼結体が得られる。
【0068】
図2は、実施形態に係る金属焼結体1の表層近傍を模式的に示す部分拡大断面図である。
図2に示す金属焼結体1は、表面SF近傍に位置する緻密層CLを有している。緻密層CLとは、研磨されたとき、異物10が少なく、良好な鏡面性が得られる領域のことをいう。異物10とは、非金属または空孔である。非金属には、酸化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。
【0069】
金属焼結体1では、緻密層CLの厚さtが十分に厚いため、表面SFを研磨しても緻密層CLが失われにくい。緻密層CLを研磨した場合、研磨面は異物10が少ない面となり、良好な鏡面性を有する面となる。
【0070】
緻密層CLの厚さtは、150μm以上であるのが好ましく、200μm以上であるのがより好ましく、300μm以上であるのがさらに好ましい。このような厚さtの緻密層CLを有する金属焼結体1は、研磨によって緻密層CLの全てが失われてしまう確率が低くなる。また、このような金属焼結体1は、複数回の研磨に供されても緻密層CLが失われにくい。このため、金属焼結体1は、例えば、美的外観を必要とする各種金属製品や、1回または複数回の研磨による修繕が想定される各種金属製品に好ましく用いられる。
【0071】
緻密層CLは、前述したように、異物10が少ない領域、すなわち、高密度部11を主とする領域であるが、わずかな異物10を含んでいてもよい。緻密層CLにおいて許容される異物10は、緻密層CLにおける面積率で0.50%以下、平均径が2.5μm以下、という条件を満たす。この条件を満たす異物10であれば、緻密層CLに含まれていても、鏡面性に影響を与えにくい。なお、異物10の面積率および平均径は、以下の手順で測定、算出される。
【0072】
まず、金属焼結体1の断面を電子顕微鏡で観察し、観察像上で表面SFに接する、例えば100μm×100μmの範囲Mを選択する。次に、範囲Mに対して2値化の画像処理を行い、密度や組成の違いによって濃度が異なることを利用し、高密度部11および異物10を特定する。次に、異物10について、面積率と平均径とを算出する。なお、面積率は、範囲Mの面積に対する、範囲Mに映っている異物10の面積の合計の比率である。また、平均径は、範囲Mに映っている異物10を無作為に10個選択し、それらの直径を計測した後、10個の計測値を平均した値である。なお、範囲Mに映っている異物10の数が10個未満の場合には、異物10の全数についての計測値を平均した値である。
【0073】
また、このようにして算出された異物10の面積率および平均径の双方が前記条件を満たすか否かを、正方形である範囲Mの一辺の長さを変えながら調べる。そして、前記条件が満たされるときの最大長さが厚さtとなる。そして、10か所以上において厚さtを測定し、平均値を求めることにより、緻密層CLの平均厚さが得られる。
【0074】
また、異物10の面積率は、好ましくは0.30%以下とされ、より好ましくは0.20%以下とされる。また、異物10の平均径は、好ましくは2.0μm以下とされ、より好ましくは1.0μm以下とされる。
【0075】
金属焼結体1の相対密度は、98.5%以上であるのが好ましく、99.0%以上であるのがより好ましい。金属焼結体1の相対密度が前記範囲内であれば、金属焼結体1の機械的特性、研磨面の鏡面性および耐食性が特に良好になる。
【0076】
金属焼結体1の耐食性は、JIS G 0577:2014に規定されているステンレス鋼の孔食電位測定方法のB法に準じて評価することができる。B法は、3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液中における動電位法による孔食電位測定法である。そして、B法により、金属焼結体1についての電流密度が100μA/cm2となるときの孔食電位を測定する。つまり、電流密度が100μA/cm2となる電位を便宜的に腐食が進行し始めた電位、すなわち孔食電位とする。また、孔食電位は、飽和カロメル電極(SCE)基準値とする。塩化ナトリウム水溶液のpHは7とし、温度は30℃とする。また、電位掃引速度は20mV/分とする。
【0077】
このような方法で測定された金属焼結体1の孔食電位は、200mV以上であることが好ましく、300mV以上であることがより好ましい。孔食電位が前記範囲内であれば、金属焼結体1の腐食が十分に抑えられ、特に良好な耐食性が得られる。
なお、孔食電位の上限値は、特に設定されていなくてもよいが、個体差を抑えるという観点では、1500mV以下であることが好ましい。
【0078】
以上のような金属焼結体1は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品、医療用メス、鉗子のような医療器具、の全体または一部を構成する材料として用いられる。
【0079】
4.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係る焼結用金属粉末は、焼結に供される焼結用金属粉末であって、フェライト系ステンレス鋼の組成と、含有率が0.05質量%以上1.00質量%以下のCと、含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、不純物と、で構成されている。
【0080】
このような構成によれば、拡散速度を遅らせることができるので、成形体の表面と内部とで焼結の進度の差を小さくすることができる。これにより、内部にガスが残留するのを抑制し、金属焼結体の表面に形成される緻密層をより厚くすることができる。その結果、表面を研磨しても緻密層が失われにくい。したがって、研磨面において高い鏡面性が得られる金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。また、その一方、得られる金属焼結体では、例えば実質的なニッケルフリーといったフェライト系ステンレス鋼に特有な特性を維持することができる。
【0081】
また、焼結用金属粉末では、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbが、0.10以上1.80以下であることが好ましい。これにより、Cの含有量とNbの含有量のバランスを最適化することができる。その結果、CやNbに余剰や不足が発生しにくくなり、適量のNbCを析出させることができ、焼結速度を遅らせるとともに、焼結密度の低下を抑制することができる。これにより、金属焼結体の表面に形成される緻密層をより厚くすることができる。
【0082】
また、焼結用金属粉末では、Cの含有量とNbの含有量の和をC+Nbとするとき、C+Nbが、0.20質量%以上1.50質量%以下であることが好ましい。これにより、適度なNbCを析出させることができ、焼結速度を遅らせるとともに、焼結密度の低下を抑制することができる。その結果、全体として高密度で、かつ、緻密層が十分に厚い金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0083】
また、焼結用金属粉末では、Siの含有率が0.20質量%以上0.80質量%以下であり、Crの含有率が12.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。
このような焼結用金属粉末は、焼結性が良好である。また、耐食性および耐熱性に優れる金属焼結体を得ることができる。
【0084】
また、実施形態に係る金属焼結体1は、フェライト系ステンレス鋼の組成と、含有率が0.02質量%以上1.00質量%以下のCと、含有率が0.05質量%以上1.50質量%以下のNbと、不純物と、で構成されている。
【0085】
このような構成によれば、厚い緻密層CLを有する金属焼結体1が得られる。このような金属焼結体1では、表面を研磨しても緻密層CLの全てが失われる確率が低いため、研磨面において高い鏡面性が得られる。
【0086】
また、金属焼結体1では、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbが、0.40以上1.80以下であることが好ましい。
【0087】
これにより、Cの含有量とNbの含有量のバランスを最適化することができる。その結果、金属焼結体1は、適量のNbCを含み、より厚い緻密層CLを有するとともに、焼結密度の高いものとなる。
【0088】
また、金属焼結体1では、平均厚さが150μm以上の緻密層CLを表面に有することが好ましい。
【0089】
このような平均厚さの緻密層CLを有する金属焼結体1は、研磨によって緻密層CLの全てが失われてしまう確率が低くなる。また、このような金属焼結体1は、複数回の研磨に供されても緻密層CLが失われにくい。このため、金属焼結体1は、例えば、美的外観を必要とする各種金属製品や、1回または複数回の研磨による修繕が想定される各種金属製品に好ましく用いられる。
【0090】
また、金属焼結体1では、孔食電位が200mV以上であることが好ましい。孔食電位は、JIS G 0577:2014に規定されているステンレス鋼の孔食電位測定方法のB法に準じて測定される電流密度が100μA/cm2となる電位である。
【0091】
このような孔食電位を満たすことにより、金属焼結体1の腐食が十分に抑えられ、特に良好な耐食性が得られる。
【0092】
以上、本発明の焼結用金属粉末および金属焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、金属焼結体は、上述した焼結用金属粉末とは異なる金属粉末を用いて製造された焼結体であってもよい。
【実施例0093】
次に、本発明の実施例について説明する。
5.金属焼結体の製造
5.1.サンプルNo.1
まず、水アトマイズ法により製造された焼結用金属粉末とバインダーとを含む混練物(組成物)を調製した。なお、焼結用金属粉末には、表1に示す組成を有する平均粒径8.0μmの粉末を用いた。また、バインダーには、ポリプロピレンとワックスの混合物を使用した。混練物におけるバインダーの混合比率は10質量%とした。
【0094】
次に、混練物を射出成形機で成形し、成形体を得た。なお、成形体の形状は、縦15mm、横15mm、高さ3mmの直方体とした。次に、成形体に脱脂処理を施し、脱脂体を得た。脱脂処理は、窒素雰囲気下、450℃で2時間、成形体を加熱する処理とした。
【0095】
次に、脱脂体に焼結処理を施し、金属焼結体を得た。焼結処理は、アルゴン雰囲気下、1250℃で3時間、脱脂体を加熱する処理とした。
【0096】
5.2.サンプルNo.2~11
焼結用金属粉末の組成を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして金属焼結体を得た。
【0097】
【0098】
なお、表1では、本発明に相当するものを「実施例」、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
【0099】
また、各実施例および各比較例において、得られた金属焼結体の組成は、Cの含有率およびOの含有率を除いて、焼結用金属粉末と同様であった。また、各実施例の金属焼結体では、Cの含有率が、焼結用金属粉末よりも0.10~0.30質量%程度少なくなっていた。また、各実施例の金属焼結体では、Oの含有率が0.10~0.50質量%の範囲内であった。
【0100】
6.金属焼結体の評価
6.1.断面の観察
各実施例および各比較例で得られた金属焼結体を切断した。そして、切断面を研磨し、研磨面を電子顕微鏡で観察した。
次に、観察像から、緻密層の厚さを算出した。算出結果を表2に示す。
【0101】
また、サンプルNo.1の金属焼結体の切断面についての観察像を
図3に示す。
図3に示すように、サンプルNo.1の金属焼結体では、厚さが約300μmの緻密層を確認することができた。
【0102】
一方、サンプルNo.7の金属焼結体の切断面についての観察像を
図4に示す。
図4に示すように、サンプルNo.7の金属焼結体では、緻密層の厚さが約100μmであった。
【0103】
6.2.相対密度
各実施例および各比較例で得られた金属焼結体について、JIS Z 2501:2000に規定の方法に準じて相対密度を算出した。算出結果を表2に示す。
【0104】
6.3.鏡面性
各実施例および各比較例で得られた金属焼結体について、表面にバフ研磨処理を施した。なお、バフ研磨処理では、表面から厚さ50μmの範囲を除去するように研磨した。次いで、研磨面を目視にて観察した。そして、研磨面の鏡面性を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0105】
A:研磨面の鏡面性が特に高い(美的外観が特に良好)
B:研磨面の鏡面性が高い(美的外観が良好)
C:研磨面の鏡面性がやや高い(美的外観がやや良好)
D:研磨面の鏡面性がやや低い(美的外観がやや不良)
E:研磨面の鏡面性が低い(美的外観が不良)
F:研磨面の鏡面性が特に低い(美的外観が特に不良)
【0106】
6.4.耐食性
各実施例および各比較例で得られた金属焼結体について、JIS G 0577:2014に規定されているステンレス鋼の孔食電位測定方法のB法に準じて、孔食電位を測定した。そして、測定した孔食電位を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0107】
A:孔食電位が300mV以上である
B:孔食電位が250mV以上300mV未満である
C:孔食電位が200mV以上250mV未満である
D:孔食電位が150mV以上200mV未満である
E:孔食電位が100mV以上150mV未満である
F:孔食電位が100mV未満である
【0108】
【0109】
表2では、本発明に相当するものを「実施例」、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
【0110】
表2に示すように、各実施例の金属焼結体は、各比較例の金属焼結体に比べて、十分に厚い緻密層を有し、かつ、相対密度が十分に高いことが認められた。また、各実施例の金属焼結体は、各比較例の金属焼結体に比べて、鏡面性および耐食性が良好であった。
【0111】
また、サンプルNo.1(実施例1)の金属焼結体から得られた電位と電流密度との関係、および、サンプルNo.7(比較例1)の金属焼結体から得られた電位と電流密度との関係を、それぞれグラフとして
図5に示す。なお、
図5では、サンプルNo.1を「実施例1」と表記し、サンプルNo.7を「比較例1」と表記している。また、
図5では、電流密度が100μA/cm
2である位置に破線を引いた。この破線と各グラフとの交点に対応する電位がそれぞれの孔食電位である。また、
図5には、併せて、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)焼結体から得られた電位と電流密度との関係も、参考例として示している。
【0112】
図5に示すグラフから、サンプルNo.1(実施例1)の金属焼結体から得られる孔食電位は、サンプルNo.7(比較例1)の金属焼結体から得られる孔食電位に比べて十分に高いことがわかった。特に、前者の孔食電位は、一般に耐食性が高いとされているオーステナイト系ステンレス鋼焼結体の孔食電位を上回っている。このため、各実施例の金属焼結体が示す耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼焼結体と同等以上の良好なものであることが認められた。
1…金属焼結体、10…異物、11…高密度部、CL…緻密層、M…範囲、S102…組成物調製工程、S104…成形工程、S106…脱脂工程、S108…焼結工程、SF…表面、t…厚さ