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特開2024-51793検査デバイスパッケージ及び、検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051793
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】検査デバイスパッケージ及び、検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158125
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松井 崚
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 元気
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
(57)【要約】
【課題】検査デバイスパッケージ及び、検査システムを提供する。
【解決手段】脂質二重膜の小胞体に含まれる検出対象物質の検査デバイスと、検査デバイスを減圧封止する封止袋と、を有し、検査デバイスは、基材と、基材の内部に、設けられたマイクロ流路と、を有し、基材は、高分子材料を材料とし、マイクロ流路の一端は、基材の表面に開口する流入部を有し、マイクロ流路の他端は、気密に閉じられており、マイクロ流路の内壁は、脂質二重膜に含まれる膜タンパク質との結合能を有する抗体を含む第一化合物と、第四級アンモニウムイオンの構造を含む第二化合物と、で表面修飾され、封止袋のガス透過率は、10g/m・day・atm以下である検査デバイスパッケージ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質二重膜の小胞体に含まれる検出対象物質の検査デバイスと、
前記検査デバイスを減圧封止する封止袋と、を有し、
前記検査デバイスは、基材と、
前記基材の内部に、設けられたマイクロ流路と、を有し、
前記基材は、高分子材料を材料とし、
前記マイクロ流路の一端は、前記基材の表面に開口する流入部を有し、
前記マイクロ流路の他端は、気密に閉じられており、
前記マイクロ流路の内壁は、前記脂質二重膜に含まれる膜タンパク質との結合能を有する抗体を含む第一化合物と、
第4級アンモニウムイオンの構造を含む第二化合物と、で表面修飾され、
前記封止袋のガス透過率は、10g/m・day・atm以下である検査デバイスパッケージ。
【請求項2】
前記第4級アンモニウムイオンの構造は、エポキシ基を有する請求項1に記載の検査デバイスパッケージ。
【請求項3】
前記検査デバイスは、前記流入部に対し前記第二化合物が設けられた箇所よりも下流側に、前記検出対象物質の検出部を有し、
前記検出部における前記マイクロ流路の内壁は、前記検出対象物質と結合する部位を含む第三化合物で表面修飾されている請求項1に記載の検査デバイスパッケージ。
【請求項4】
前記マイクロ流路は、前記流入部から下流側に向けて下り勾配を有する請求項1に記載の検査デバイスパッケージ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の検査デバイスパッケージと、
前記検出対象物質を検出する検出装置と、を有する検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査デバイスパッケージ及び、検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本人の三大死因の一つである。がんはステージが進行するに従って、5年後生存率が低下するため、検診等で早期ステージの段階でがんを発見し治療することが望まれている。しかしながら、がんの検査は、大型な精密機器、熟練の検査技師等を要するため、結果を得るまでに時間がかかり、その結果として受診率が低いことが現状である。検査結果を得るまでの時間を短縮し、定期的な受診を促進するために、安価で簡便ながんの診断方法と、生体内の物質を診断に用いるバイオマーカーとして活用することが期待されている。
【0003】
安価で簡便な診断方法としては、臨床現場即時検査(point-of-care-testing(POCT))が注目されている。POCTは、被検者の傍らで医療従事者が行う検査を指し、検査時間の短縮及び被検者が検査を身近に感じるという利点を生かし、医療の質や被検者のQOLを向上させる検査である。
【0004】
バイオマーカーは、その濃度等に疾病の存在や進行度を反映する、生体内の物質である。最近では、バイオマーカーとして、がんのバイオマーカーとして期待されるmiRNAやたんぱく質等を含む、エクソソーム等の細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)が注目されている。エクソソームは、細胞から分泌される脂質二重膜の小胞であり、内包物だけでなく、その分泌量やサイズ、表面分子等にも種々の疾病の存在等を反映するためバイオマーカーとして期待されている。
【0005】
POCTを実現化するデバイスとしては、マイクロ流体チップ(マイクロチップ)が知られている。マイクロチップは、10μm~1mm程度の幅と深さのマイクロ流路を有するデバイスである。POCTでは、マイクロ流路を有するマイクロデバイスを用い、バイオマーカーを分析する手法が開発されている。このようなマイクロデバイスとして、検体をマイクロデバイス内に送液するために、外部からの動力を必要としないマイクロチップが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-31070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のデバイス(マイクロチップ)では、検体を送液するために、使用直前に真空状態で脱気する必要がある。脱気のためには、真空チャンバー等の機器が必要になることから、POCT用のデバイスとしては不適切である。
【0008】
また、EVを用いたPOCTの操作を想定した場合、検体(EV)に含まれるバイオマーカーの捕捉技術、捕捉したバイオマーカーの簡便な検出方法等の各要素技術はすでに開発されている。しかし、各要素技術を統合することはできておらず、改善が求められていた。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、バイオマーカーの検査デバイスパッケージ及び、バイオマーカーの検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]脂質二重膜の小胞体に含まれる検出対象物質の検査デバイスと、前記検査デバイスを減圧封止する封止袋と、を有し、前記検査デバイスは、基材と、前記基材の内部に、設けられたマイクロ流路と、を有し、前記基材は、高分子材料を材料とし、前記マイクロ流路の一端は、前記基材の表面に開口する流入部を有し、前記マイクロ流路の他端は、気密に閉じられており、前記マイクロ流路の内壁は、前記脂質二重膜に含まれる膜タンパク質との結合能を有する抗体を含む第一化合物と、第4級アンモニウムイオンの構造を含む第二化合物と、で表面修飾され、前記封止袋のガス透過率は、10g/m・day・atm以下である検査デバイスパッケージ。
【0012】
[2]前記第4級アンモニウムイオンの構造は、エポキシ基を有する[1]に記載の検査デバイスパッケージ。
【0013】
[3]前記検査デバイスは、前記流入部に対し前記第二化合物が設けられた箇所よりも下流側に、前記検出対象物質の検出部を有し、前記検出部における前記マイクロ流路の内壁は、前記検出対象物質と結合する部位を含む第三化合物で表面修飾されている[1]に記載の検査デバイスパッケージ。
【0014】
[4]前記マイクロ流路は、前記流入部から下流側に向けて下り勾配を有する[1]に記載の検査デバイスパッケージ。
【0015】
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の検査デバイスパッケージと、前記検出対象物質を検出する検出装置と、を有する検査システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出対象物質の検査デバイスパッケージ及び、検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、検査デバイスパッケージ100の概略斜視図である。
図2図2は、図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
図3図3は、マイクロ流路4の内壁の一部を示す模式図である。
図4図4は、マイクロ流路4の内壁の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の検査デバイスパッケージに含まれる検査デバイスでは、脂質二重膜の小胞体に含まれる物質を検査対象物質としている。脂質二重膜としては、細胞外小胞(EV)、エンベローブウイルス等をあげることができる。脂質二重膜の小胞体に含まれる検出対象物質としては、miRNA、タンパク質等を挙げることができる。また脂質二重膜を含む試料としては、血液や尿、間質液等を挙げることができる。
【0019】
すなわち、本実施形態の検査デバイスパッケージによれば、脂質二重膜の小胞体に含まれる検出対象物質を検出することができ、検出対象物質の測定が可能となる。これにより、検出対象物質をバイオマーカーとして扱うことが可能となる。
【0020】
以下、図1図4を参照しながら、本実施形態に係る検査デバイスパッケージ100について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0021】
図1は、検査デバイスパッケージ100の概略斜視図である。図2は、図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。図1、2に示すように、検査デバイスパッケージ100は、検査デバイス1と、検査デバイス1を減圧封止する封止袋2から構成される。検査デバイスパッケージ100において、検査デバイス1は、減圧された封止袋2の中に封止されている。検査デバイス1は、使用直前に封止袋2から取り出し、流入部41に脂質二重膜を含有する試料を添加して使用する。封止袋2の詳細は後述する。
【0022】
(検査デバイス)
検査デバイス1は、基材3と、基材3の内部に設けられたマイクロ流路4と、を有している。図1に示す検査デバイス1では、平面視で長手方向に延びるマイクロ流路4を3本有することとして示しているが、これに限らず、マイクロ流路4の数は適宜変更可能である。マイクロ流路4は、例えば幅100μm、高さ25μmとすることができるが、これに限らない。
【0023】
(基材)
基材3は、第一基材31と、第二基材32から構成される。第一基材31は、平面視矩形の平板である。第二基材32は、マイクロ流路4に対応した所定の深さの凹部を有する部材である。第一基材31の上面31aに第二基材32の凹部32aを有する面を重ねることで、上面31aと凹部32aとで囲まれた空間であるマイクロ流路4が形成される。凹部32aの形状(平面視形状、深さ)は、検出対象物質に併せて、適宜選択することができる。
【0024】
図1,2においては、第一基材31の平面視形状と、第二基材32の平面視形状とが一致し、基材3において第一基材31の外周と第二基材32の外周とが一致することとして示しているが、これに限らない。第一基材31と第二基材32とを重ね合わせた際にマイクロ流路4が形成されるならば、第一基材31及び第二基材32の平面視形状は種々の形状を採用することができる。例えば、第一基材31と第二基材32とを重ね合わせた際に、平面視で第一基材31の外周が第二基材32の外周よりも外側に位置していてもよい。
【0025】
検査デバイス1を水平面に載置したとき、第一基材31の上面31aは、水平面に対して平行であってもよく、マイクロ流路4の流入部41(後述)からマイクロ流路4の下流側に向けて傾斜する下り勾配を有していてもよい。
【0026】
基材3は、高分子材料を形成材料としている。詳しくは、基材3において少なくともマイクロ流路4に面する部分は、高分子材料で形成されている。なかでも、基材3は、大量の気体を溶解することができる高分子材料で構成されることが好ましい。「大量に気体を溶解することが可能な高分子材料」としては、固体のミクロ構造が疎であり、かつ、固体分子の運動自由度が大きい、ゴム材料等を挙げることができる。基材3が、大量の気体を溶解することができる高分子材料で構成されることで、後述の試料の吸い込みが容易となり使いやすくなる。
【0027】
基材3においては、平板である第一基材31の材料としては、光透過性を有する高分子材料やガラスが好ましく、凹部32aを有する第二基材32の材料としては、成形が容易であり、ガス溶解性の高い材料が好ましい。このような第二基材32の好ましい材料としては、光透過性を有するエラストマーを挙げることができ、特にPDMS(ポリジメチルシロキサン)が好ましい。
【0028】
(マイクロ流路)
マイクロ流路4の一端は、基材3の表面(第二基材32の上面32b)に開口する流入部41を有する。マイクロ流路4の他端は、気密に封止されている。図2に示すように、マイクロ流路4の他端は、基材3の表面に開口する開口部42となっていてもよい。その場合、開口部42は、着脱可能な封止材45によって気密に封止されている。マイクロ流路4の他端には、マイクロ流路の幅、高さよりも広い液溜まりの空間が設けられていてもよい。
【0029】
図3,4は、マイクロ流路4の内壁43の一部を示す模式図である。マイクロ流路4は、脂質二重膜の小胞体を破砕し、小胞体の中から検出対象物質を漏出させる破砕部47を有する。破砕部47の内壁43は、脂質二重膜からなる小胞体の膜たんぱく質と特異的に結合する抗体を有す第一化合物5と、第4級アンモニウムイオンの構造を有する第二化合物6によって、表面修飾されている。
【0030】
(第一化合物)
第一化合物5は、試料中に含まれる脂質二重膜の小胞体の膜たんぱく質と特異的に結合する抗体51と、抗体51によって修飾され、内壁43に結合するポリマー(リンカー部位)52から構成される。
【0031】
第一化合物5が有する抗体51は、試料中に含まれる脂質二重膜の小胞体の膜たんぱく質と特異的に結合する抗体であればよく、検出対象の脂質二重膜の小胞体の膜たんぱく質の種類に応じて適宜選択することができる。抗体51は、検出対象物質に直接結合する抗体そのものを用いてもよく、抗体のなかの抗原結合部位のみを用いてもよい。
【0032】
ポリマー52としては、抗体51と結合可能な官能基を有するポリマーを挙げることができる。「結合可能な官能基」としては、例えば抗体51が有するアミノ基と縮合可能なカルボキシ基や、抗体51に対して付加反応を行うエポキシ基などを挙げることができる。上記官能基を有するポリマーとしては、アクリレート、メタクリレートを挙げることができる。
【0033】
(第二化合物)
第二化合物6は、第4アンモニウムイオンの構造を有する部位(置換基)61と、第4アンモニウムイオンの構造を有する部位を含み、内壁43に結合するポリマー(リンカー部位)62から構成される。
【0034】
本実施形態において、第4級アンモニウムイオンの構造を有する部位61は、脂質二重膜の小胞体を破砕する陽イオン界面活性剤として機能する。ポリマー62としては、アクリレート、メタクリレートを挙げることができる。
【0035】
上述のような部位61を有するポリマー62としては、ポリ-2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(pDMAEMA)を挙げることができる。
【0036】
なお、図では第一化合物5が有する抗体51と、第二化合物6が有する第4級アンモニウムイオンの構造を有する部位61とは、それぞれ別のポリマー52,62に結合している事としたが、これに限らない。例えば、同一のポリマー鎖に抗体51と第4級アンモニウムイオンの構造を有する部位61とが結合していてもよい。
【0037】
(検出部)
検査デバイス1は、流入部41に対し、第二化合物6が設けられた箇所よりも下流側に、検出対象物質の検出部48を有してもよい。検出部48を有する場合、検出部48における内壁43は、検出対象物質と特異的に結合する部位を有する第三化合物7によって、表面修飾されているとよい。
【0038】
(第三化合物)
第三化合物7は、検出対象物質と特異的に結合する部位71と、検出対象物質と特異的に結合する部位を含み、内壁43に結合するポリマー(リンカー部位)72から構成される。検出対象物質と特異的に結合する部位71は、検出対象物質の種類に応じて、当業者が適宜選択することができる。検出対象物質と特異的に結合する部位71としては、たとえば、DNA等の各種核酸分子及びオリゴヌクレオチド等のその断片、抗原・抗体等のタンパク質及びペプチド類、脂質及び糖類又は薬剤などの低分子化合物等を挙げることができる。ポリマー72としては、アクリレート、メタクリレートを挙げることができる。
【0039】
なお、第一化合物5、第二化合物6及び第三化合物7は、それぞれ内壁43と結合するポリマー(ポリマー52,62,72)を有することとしたが、これに限らない。例えば、第一化合物5であれば、内壁43に抗体51を導入可能であれば、ポリマー52を有さなくてもよい。第一化合物5がポリマー52を有さない場合、例えば内壁43の表面に「抗体51と結合可能な官能基」を設ける前処理を行い、内壁43の表面に設けられた官能基と抗体51とを結合させることとしてもよい。
【0040】
第二化合物6においては、例えば内壁43の表面にアミノ基と結合可能な官能基(例えばカルボキシ基)を設ける前処理を行い、内壁43の表面にアミノ基を導入した後に、当該アミノ基を第4級アンモニウムイオンの構造に変換してもよい。
【0041】
第三化合物7においては、例えば内壁43の表面に「部位71と結合可能な官能基」を設ける前処理を行い、内壁43の表面に設けられた官能基と部位71とを結合させることとしてもよい。
【0042】
第一化合物5、第二化合物6及び第三化合物7の密度(内壁43の表面積に対する高分子の割合)は、それぞれ脂質二重膜を破砕することができる密度、検出対象物質を検出可能な程度に捕捉できる密度に設定するとよい。破砕することができる密度、捕捉することができる密度は、事前に予備実験を行い、検出対象の脂質二重膜及び検出対象物質に併せて設定するとよい。
【0043】
検査デバイス1が第三化合物7を有することで、第一化合物5、第二化合物6によって漏出した検出対象物質を、マイクロ流路4の内部(検出部48)に固定し、その後、公知の方法で検出することができる。
【0044】
検出部48の第三化合物7によって固定された検出対象物質は、蛍光検出によって検出してもよい。
【0045】
EVに含まれる検出対象物質を検出する場合、公知の層流樹状増幅法(LFDA)を採用してもよい。この場合、蛍光試薬としては、Streptavidin fluorescein isothiocyanate from Streptomyces avidinを用いることができる。
【0046】
LFDAでは、二股に分岐したマイクロ流路を用いる。LFDAで用いるマイクロ流路は、一端に流入部を2つ有し、他端に1つの開口部を有し、開口部が封止されている。2つの流入部から延びる2つの流路は、途中で合流し相互に接続した後に、他端側に延びている。以下の説明では、便宜上、2つの流入部を第1流入部、第2流入部と区別し、第1流入部から延びる流路を第1流路、第2流入部から延びる流路を第2流路とする。
【0047】
まず、第1流路にEVを含む試料の溶液(試料溶液)を流し、第2流路に検出対象物質と結合可能な抗体(例えばビオチン標識されたanti-CD63抗体)の溶液(抗体溶液)を流す。このとき、第1流路の内壁に上述の第一化合物と第二化合物とを設けることにより、試料溶液中にEVに含まれる検出対象物質が試料溶液中に放出される。
【0048】
LFDAでは、以下のように検出対象物質が増幅される。
マイクロ流路においては、第1流路及び第2流路の合流箇所の下流で、試料溶液と抗体溶液との層流が形成される。試料溶液と抗体溶液との界面と重なる位置の内壁に、上述の第三化合物を設けることにより、第三化合物は検出対象物質を捕捉する。捕捉された検出対象物質には、さらに第2流路を流動する抗体が結合する。検出対象物質に結合した抗体には、さらに第1流路から流れ込む検出対象物質が結合する。
【0049】
このように、第三化合物が検出対象物質を捕捉した後には、第2流路から供給される抗体が検出対象物質に結合し、第1流路から供給される検出対象物質が抗体に結合し、且つこれらの結合が各流路からの供給に応じて連続的に繰り返し生じる。これらの結合により、第三化合物が設けられた領域では、検出対象物質が樹状に繋がりながら増幅される。
【0050】
次いで、第1流路に蛍光ラベル(例えば、蛍光標識されたstreptavidin(F-SA))、第2流路に増幅試薬(例えば、ビオチン標識されたanti-streptavidin(Bio-anti-SA))を流す。これにより、第三化合物に結合した抗体に、増幅試薬と蛍光ラベルとが交互に結合し、検出感度を増幅することができる。
【0051】
LFDAにおいては、試料を含まないバッファーのみを流すブランク実験を同時に行い、試料溶液を流した場合の蛍光強度と比較して、検出対象物質を検出するとよい。
【0052】
蛍光検出に加え、電気化学的な方法を用いて検出対象物質を検出してもよい。電気化学的な検出は、公知の方法を使用することができる。
【0053】
(封止袋)
封止袋2は、ガスバリアフィルムを材料とする包装袋である。ガスバリアフィルムは、基材と、ガスバリア層とを有する積層体である。ガスバリアフィルムは、ガスバリア層上にさらにヒートシール層を有していてもよい。
【0054】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等が考えられる。
【0055】
基材の厚さは、例えば6μm以上200μm以下であるとよい。
【0056】
基材のガスバリア層側の表面は、ガスバリア層との密着性を高めるため、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の物理的処理や、酸やアルカリによる薬液処理等の化学的処理を施してもよい。
【0057】
ガスバリア層は、珪素酸化物又はアルミニウム酸化物を含有する蒸着膜を採用することができる。ガスバリア層には、更に、亜鉛、スズ、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、又は当該金属の酸化物を含んでもよい。
【0058】
ガスバリア層の厚さは、5nm以上500nm以下であるとよい。
【0059】
基材とガスバリア層との間には、基材とガスバリア層との密着性を高めるアンカーコート層が設けられているとよい。アンカーコート層の材料は、ヒドロキシル基を含有するアクリルポリオールと、分子内にイソシアネート基を少なくとも2個以上有するイソシアネート系化合物との複合物が好ましい。
【0060】
アクリルポリオールとは、末端と側鎖とにヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物、又は末端と側鎖とにヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物である。アクリルポリオールは、末端と側鎖とにヒドロキシル基を有し、イソシアネート系化合物のイソシアネート基と反応する。
【0061】
上記(メタ)アクリル酸誘導体モノマーの例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が考えられる。
【0062】
上記その他のモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド等が考えられる。
【0063】
上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)等の脂肪族系イソシアネート等が考えられる。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体若しくは誘導体も使用可能である。
【0064】
アンカーコート層12の厚さは、50nm以上500nm以下であるとよい。
【0065】
ガスバリア層の表面には、ガスバリア層に接して、ガスバリア層におけるクラックを抑制するオーバーコート層が設けられているとよい。オーバーコート層は、ヒドロキシル基を有する水溶性高分子、又はカルボキシル基を有する水溶性高分子を含む。
【0066】
オーバーコート層の材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)を用いることができる。
【0067】
オーバーコート層の厚さは、100nm以上1000nm以下であるとよい。
【0068】
封止袋2の材料であるガスバリアフィルムのガス透過率は、10g/m・day・atm以下である。すなわち、封止袋2のガス透過率は10g/m・day・atm以下である。
【0069】
ガスバリアフィルムは、ヒートシール層が封止袋2の内側に面する姿勢で袋状に成形されている。基材の外面には、内容物(検査デバイス1)に関する情報が印刷されていてもよい。このようなガスバリアフィルムとしては、透明バリアフィルム(商品名:GL BARRIER。凸版印刷株式会社製)を用いることができる。
【0070】
検査デバイスパッケージ100においては、このような封止袋2を用いて検査デバイス1を減圧封止することで、検査デバイス1を減圧環境下に長期的に保存することができる。封止袋2から取り出した検査デバイス1は、取り出す直前まで減圧環境下に置かれることとなる。
【0071】
検査デバイス1は、使用直前に封止袋2から取り出し、流入部41に脂質二重膜の小胞体を含有する試料を添加することで、外部の電力を要することなく、マイクロ流路4の内部に試料を導入することができる。以下、順に説明する。
【0072】
上述したように、検査デバイスパッケージ100の検査デバイス1は、脱気された封止袋2の中に封入されている。減圧環境下の検査デバイス1では、基材3を構成する高分子材料から、溶解する気体(空気)が放出されている。
【0073】
この検査デバイス1が、封止袋2から取り出され、減圧状態から大気圧に戻ると、検査デバイス1の基材3を構成する高分子材料へ空気の再溶解がはじまる。このとき、流入部41を塞ぐように流入部41に試料を添加すると、マイクロ流路4の内部空間は、外部から閉鎖される(以下、閉鎖空間という)。閉鎖空間中に存在する空気は、マイクロ流路4の内壁43から、基材3に再溶解する。閉鎖空間中の空気が基材3に再溶解することで、閉鎖空間の圧力が低下し、試料がマイクロ流路4の内部に導入される。
【0074】
試料がマイクロ流路4に導入されると、試料に含まれる脂質二重膜の小胞体は、マイクロ流路4の内壁を表面修飾している第一化合物5に特異的に捉えられ、さらに第一化合物5の近傍に存在する第二化合物6によって破砕される。詳細には、脂質二重膜の小胞体は、脂質二重膜からなる小胞体の膜たんぱく質と特異的に結合する抗体を有す第一化合物5に特異的に捉えられ、第4級アンモニウムイオンの構造を有する第二化合物6によって破砕される。破砕された脂質二重膜の小胞体からは、検出対象物質が漏出する。
【0075】
得られた検出対象物質は、種々の方法により検査に用いられる。マイクロ流路4に、上述の検出部48が設けられている場合には、検出対象物質は第三化合物7に捉えられ、検出部48における検査に用いられる。
【0076】
検査デバイス1の開口部42が、着脱可能な封止材45で封止されている場合には、検査デバイス1に脂質二重膜の小胞体を含む試料を導入し、検出対象物質を漏出させた後、封止材45を取り除くことで、露出する開口部42から検出対象物質を含む試料を回収することができる。これにより、例えば、脂質二重膜の小胞体内に含まれるmiRNAを回収することができ、PCR検査の前処理を簡便に行うことができる。そのため、検査デバイスパッケージ100を用いることで、PCR検査に要する時間を短縮することができる。
【0077】
このように試料がマイクロ流路4に導入され、試料に含まれる検出対象物質が検出される検査デバイス1を有する検査デバイスパッケージ100は、検査デバイス1が封止袋2で減圧封止されることで、真空チャンバー等の機器がない場面でも使用することができる。
【0078】
[検査デバイスパッケージの製造方法]
(1)検査デバイスの製造方法
(基材(マイクロ流路)の製造)
検査デバイス1の第二基材32は、以下のようなソフトリソグラフィ法によって製造される。まず、第二基材32の凹部32aと相補的な形状を有するモールドを公知の方法、例えば、金属材料に対してフォトリソグラフィの後エッチング処理を行うことで作製する。モールドが有する「相補的な形状」として、凹部32aに対応する凸状部(例えば、幅100μm、高さ25μm)とすることができる。凸形状の端部には、流入部41、開口部42に対応する突起を設けてもよい。
【0079】
完成したモールドにPDMSを流しこみ、幅100μm、高さ25μmの凹部を有するPDMSチップを作製する。
作製したPDMSチップの凹部を有する面に、スライドガラスを貼り付け、マイクロ流路を形成する。
【0080】
上記方法の他、第二基材32について、マイクロ射出成型により製造してもよい。また、平板を公知のフォトリソグラフィ法でパターニングし、ドライエッチングすることにより第二基材32を製造してもよい。
【0081】
(第一化合物、第三化合物による表面修飾)
形成したマイクロ流路内を、光重合開始であるbenzophenone(10質量%アセトン溶液、3μL)で満たし、5分ほど室温で静置して、流路内に開始剤を担持させる。次にPDMSチップを、室温にて、超純水で5分間、超音波洗浄する。超音波洗浄後、エアダスターを用いて水分を飛ばし、新しいスライドガラスに貼り付ける。
【0082】
次に、例えば、第三級アミンを有するモノマーである2-(dimethylamino)ethyl methacrylate(DMAEMA)(2.0mol/L水溶液,6.0μL)を、流路に通液する。通液後、UV(365nm,100W)を10分間照射しUVグラフト重合することによりpoly(2-(dimethylamino)ethyl methacrylate)(PDMAEMA)を流路内壁に修飾することができる。
【0083】
PDMSチップを、室温にて、超純水で5分間、超音波洗浄する。超音波洗浄後、エアダスターを用いて水分を飛ばし,新しいスライドガラスに貼り付け、PDMAEMA修飾PDMSチップを作製する。
【0084】
抗体(例えば、anti-integrin β1抗体(0.0~1.40mg/mL,PBS溶液,10μL))と、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(縮合剤。4.5mg/mL,1.0μL)との溶液(2.0μL)を調整する。得られた溶液でPDMAEMA修飾PDMSチップのマイクロ流路を満たす。
【0085】
次いで、37℃で2時間、湿度100%で静置し、anti-integrin β1抗体を固定する。
【0086】
次いで、超純水を用い、第二基材を5分間室温下で超音波洗浄する。エアダスターを用いて水分を飛ばした後、第二基材を第一基材(スライドガラス)に貼り付け、第一化合物を流路内壁に固定したマイクロ流路を作製することができる。
【0087】
抗体の代わりに、第三化合物が有する「検出対象物質と特異的に結合する部位」に対応する化合物を用いることで、第三化合物を流路内壁に固定したマイクロ流路を作製することができる。
【0088】
(第二化合物による表面修飾)
PDMAEMA修飾PDMSチップにbromoethane(1.28mol/L),epichlorohydrin(1.28mol/L)の混合溶液(DMF溶液,8.0μL)を通液する。通液後、流路の入り口と出口をテフロン(登録商標)製のテープで塞ぎ、40℃で12時間静置することにより、第4級アミン修飾PDMSチップを作製する。
【0089】
4級化の確認は、polyT-TMRを用いる。室温で、超純水で超音波洗浄し、真空脱気した後、POLYT-TMR(10μmol/L carbonate buffer溶液,3.0μL)を通液し、再び超音波洗浄する。その後、carbonate buffer(5.0μL,pH9.5)を通液し、蛍光観察する。4級化の操作前後の赤色蛍光の値を調べることにより,第3級アミンの4級化を確認することができる。
【0090】
(2)封止袋の製造方法
樹脂フィルム(例えば、二軸延伸PETフィルム)に対し、上述したガスバリア層の材料を真空蒸着することにより、ガスバリア層を有するガスバリアフィルムを形成することができる。ガスバリア層を形成する面は、予めコロナ処理を施しておくとよい。
【0091】
また、ガスバリア層を形成する前に、コロナ処理を施した面にアンカーコート層の形成材料を塗布し、アンカーコート層を形成してもよい。アンカーコート層の形成材料としては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートと、メチルメタクリレートとの共重合体(アクリルポリオール(質量平均分子量10×10))を主剤とし、HDIヌレート型のイソシアネート系硬化剤を主剤のヒドロキシル基量に対して1当量配合したメチルエチルケトン5%溶液を用いることができる。塗布方法は、グラビアコート等、公知の印刷方法を含む塗布方法を適宜採用することができる。塗布した形成材料を乾燥させることにより、アンカーコート層を形成することができる。
【0092】
さらに、ガスバリア層の表面に、オーバーコート層の形成材料を塗布し、オーバーコート層を形成してもよい。オーバーコート層の形成材料としては、上述の水溶性高分子の水溶液を用いることができる。塗布方法は、グラビアコート等、公知の印刷方法を含む塗布方法を適宜採用することができる。塗布した形成材料を乾燥させることにより、オーバーコート層を形成することができる。
【0093】
得られたガスバリアフィルムを、ヒートシール又は適宜接着剤を用いて袋状に成型することで、封止袋を製造する。
【0094】
(3)検査デバイスパッケージの製造方法
減圧環境下において上述の検査デバイスを封止袋に入れ封止することで、検査デバイスパッケージを製造することができる。封止袋に封止する前に、検査デバイスは、第二基材32に含まれる気体が十分に除去されるまで減圧環境下に保存しておく。第二基材の材料、体積等に応じて、第二基材の適切な減圧条件(減圧度、減圧環境下の保存時間)が異なるため、予備実験を行い、第二基材から適切に気体が除去される減圧条件を設定するとよい。
【0095】
以上、本実施形態における検査デバイスパッケージ100、検査デバイス1及び封止袋2の製造方法について説明したが、製造方法はこれらに限られず、検査デバイス1を構成する材料及び封止袋2の材料に応じて、適宜製造方法を選択することができる。
【0096】
[検査システム]
本実施形態の検査システムは、上述した本実施形態の検査デバイスパッケージ100と、検出対象物質を検出する検出装置と、を有する。
【0097】
検出装置としては、蛍光顕微鏡(オールインワン蛍光顕微鏡、型番BZ-8100、キーエンス株式会社製)を採用することができる。
【0098】
このような検査システムによれば、脂質二重膜に含まれる検出対象物質の捕捉技術と、捕捉した検出対象物質の簡便な検出技術を統合することができる。
【0099】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、このような事情に鑑みてなされたものであって、検出対象物質の検査デバイスパッケージ及び、検出対象物質の検査システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0101】
100 検査デバイスパッケージ
1 検査デバイス
2 封止袋
31 第一基材
32 第二基材
4 マイクロ流路
41 流入部
42 開口部
43 (マイクロ流路の)内壁
45 封止材
47 破砕部
48 検出部
5 第一化合物
6 第二化合物
7 第三化合物
図1
図2
図3
図4