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特開2024-51812水性中塗り用塗料組成物および塗装物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051812
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】水性中塗り用塗料組成物および塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240404BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158150
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】有村 淳也
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038GA03
4J038GA06
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA11
4J038NA15
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】防火性能および優れた塗膜強度を有し、かつ被塗物に凹凸形状を付与することのできる水性中塗り用塗料組成物を提供する。
【解決手段】エマルション樹脂と無機顔料と増粘剤と溶媒とを含み、塗料組成物に含まれる有機質固形分割合が5質量%以下であり、エマルション樹脂は、0℃以上のガラス転移点を有し、25℃および回転数62.5rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η62.5は、100dPa・s以上400dPa・s以下であり、25℃および回転数6rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度ηを、25℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η60で除して得られるTI値:η/η60が、3以上5以下であり、塗料組成物から得られる塗膜において、無機顔料の顔料体積率は無機顔料の臨界顔料体積濃度より大きい、水性中塗り用塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション樹脂と、無機顔料と、増粘剤と、溶媒と、を含む塗料組成物であって、
前記塗料組成物に含まれる有機質固形分割合が、5質量%以下であり、
前記エマルション樹脂は、0℃以上のガラス転移点を有し、
25℃および回転数62.5rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η62.5は、100dPa・s以上400dPa・s以下であり、
25℃および回転数6rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度ηを、25℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η60で除して得られるTI値:η/η60が、3以上5以下であり、
前記塗料組成物から得られる塗膜において、前記無機顔料の顔料体積率は、前記無機顔料の臨界顔料体積濃度より大きい、水性中塗り用塗料組成物。
【請求項2】
前記無機顔料は、
平均粒子径が15μm超25μm以下である第1顔料と、
平均粒子径が7μm超15μm以下である第2顔料および平均粒子径が3μm以上7μm以下である第3顔料の少なくとも一方と、を含み、
前記第1顔料の含有質量P1と、前記第2顔料の含有質量P2と、前記第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/4≦P1/(P2+P3)≦3/2
を満たす、請求項1に記載の水性中塗り用塗料組成物。
【請求項3】
前記無機顔料は、
平均粒子径が7μm超15μm以下である第2顔料と、
平均粒子径が3μm以上7μm以下である第3顔料と、を含み、
前記第2顔料の含有質量P2と、前記第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/2≦P2/P3≦2/1
を満たす、請求項1に記載の水性中塗り用塗料組成物。
【請求項4】
被塗物と、
前記被塗物上に設けられた下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に、請求項1~3のいずれか一項に記載された水性中塗り塗料組成物を用いて設けられた中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備える、塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性中塗り用塗料組成物および塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁等に意匠性を付与するために、樹脂粒子や充填材といわれる無機粒子を配合した塗料が用いられている(例えば、特許文献1および2)。このような塗料によれば、被塗物に凹凸形状を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-270324号公報
【特許文献2】特開2011-006591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗膜で凹凸形状を表現するには、塗料に多量の上記粒子を配合する必要がある。その結果、塗膜に含まれる樹脂分が少なくなって、塗膜強度が低下し易い。さらに、建築物には防火性能が求められるため、塗膜の燃焼成分となる樹脂成分を塗料中に多く配合することは難しい。この点も、塗膜強度を向上させ難い要因となっている。また、塗料を被塗物に塗付するには、適切な粘性に調整されていることが必要であるが、無機粒子が多く、樹脂分が少ない塗料の粘性調整は、非常に困難である。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、防火性能および優れた塗膜強度を有し、かつ被塗物に凹凸形状を付与することのできる水性中塗り用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
エマルション樹脂と、無機顔料と、増粘剤と、溶媒と、を含む塗料組成物であって、
前記塗料組成物に含まれる有機質固形分割合が、5質量%以下であり、
前記エマルション樹脂は、0℃以上のガラス転移点を有し、
25℃および回転数62.5rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η62.5は、100dPa・s以上400dPa・s以下であり、
25℃および回転数6rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度ηを、25℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される前記塗料組成物の粘度η60で除して得られるTI値:η/η60が、3以上5以下であり、
前記塗料組成物から得られる塗膜において、前記無機顔料の顔料体積率は、前記無機顔料の臨界顔料体積濃度より大きい、水性中塗り用塗料組成物。
[2]
前記無機顔料は、
平均粒子径が15μm超25μm以下である第1顔料と、
平均粒子径が7μm超15μm以下である第2顔料および平均粒子径が3μm以上7μm以下である第3顔料の少なくとも一方と、を含み、
前記第1顔料の含有質量P1と、前記第2顔料の含有質量P2と、前記第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/4≦P1/(P2+P3)≦3/2
を満たす、上記[1]の水性中塗り用塗料組成物。
[3]
前記無機顔料は、
平均粒子径が7μm超15μm以下である第2顔料と、
平均粒子径が3μm以上7μm以下である第3顔料と、を含み、
前記第2顔料の含有質量P2と、前記第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/2≦P2/P3≦2/1
を満たす、上記[1]の水性中塗り用塗料組成物。
[4]
被塗物と、
前記被塗物上に設けられた下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に、請求項1~3のいずれか一項に記載された水性中塗り塗料組成物を用いて設けられた中塗り塗膜と、
前記中塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備える、塗装物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、防火性能および優れた塗膜強度を有し、かつ被塗物に凹凸形状を付与することのできる水性中塗り用塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水性中塗り用塗料組成物]
本開示に係る水性中塗り用塗料組成物は、建築用仕上塗材として使用することができる。建築用仕上塗材は、JIS A 6909に記載されており、「セメント,合成樹脂などの結合材,顔料,骨材などを主原料とし,主として建築物の内外壁又は天井を,吹付け,ローラー塗り,こて塗りなどによって立体的な造形性をもつ模様に仕上げる」。本開示に係る水性中塗り用塗料組成物は、JIS A 6909に示された「表1-仕上塗材の種類及び呼び名」における複層仕上塗材として適しており、特に、けい酸質系複層仕上塗材(複層塗材Si)、合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(複層塗材E)、反応硬化形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(複層塗材RE)として適している。
【0009】
JIS A 6909において、けい酸質系とは、結合材としてけい酸質結合材又はこれに合成樹脂エマルションを混合した仕上塗材をいう。合成樹脂エマルション系とは、結合材として合成樹脂エマルションを使用した仕上塗材をいう。反応硬化形合成樹脂エマルション系とは、結合材としてエポキシ系などの使用時に反応硬化させる合成樹脂エマルションを使用した仕上塗材をいう。
【0010】
複層仕上塗材は、典型的には、下塗材、主材および上塗材からなる層構成を有する。JIS A 6909によれば、下塗材は、「主として下地に対する主材の吸込み調整及び付着性を高める目的で使用するもの」である。主材は、「主として仕上がり面に立体的又は平たんな模様を形成する目的で使用するもの」である。上塗材は、「仕上げ面の着色,光沢の付与,耐候性の向上,吸水防止などの目的で使用するもの」である。本開示に係る水性中塗り用塗料組成物は、上記の「主材」に相当する。
【0011】
本開示に係る塗料組成物は、吹付塗装方法およびローラー塗装方法のいずれによっても、建築物に対して塗装することができる。
【0012】
本開示に係る水性中塗り用塗料組成物(以下、水性中塗り塗料と称する場合がある。)は、エマルション樹脂と、無機顔料と、増粘剤と、溶媒と、を含む。水性中塗り塗料に含まれる有機質固形分割合は、5質量%以下である。この水性中塗り塗料と所定の下塗り塗料と上塗り塗料とを組み合わせて、防火材料として認定された基材に塗装して得られる塗装物品は、当該基材と同等の防火性能を有する。
【0013】
本明細書において、水性とは、溶媒として水を含むことを言う。水性中塗り塗料において、溶媒に占める水の割合は、20質量%以上であり、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0014】
本明細書において、「防火性能を有する」水性中塗り塗料とは、防火材料に係る国土交通大臣認定団体「日本建築仕上材工業会」の定める複合型化粧用仕上材の主材の条件である、有機質固形分割合5質量%以下を満たす水性の中塗り塗料を言う。本開示の水性中塗り塗料は、有機質固形分割合が5質量%以下であるため、上記の要件を満たしており、上記の防火性能を有する。
【0015】
有機質固形分とは、水性中塗り塗料に含まれるすべての有機質成分(炭素原子を含む成分)の固形分である。具体的には、有機質固形分は、エマルション樹脂、およびその他の有機成分(例えば、増粘剤)であって、乾燥後の塗膜に含まれているものである。有機質固形分割合(質量%)は、有機質成分の固形分質量を、水性中塗り塗料に含まれる全成分(溶媒等の揮発成分、無機質固形分および有機質固形分)の質量で除して、100を乗じて得られる。
【0016】
塗料中の有機質は、無機顔料同士を繋ぐバインダーの役割を有している。本開示では、無機顔料の顔料体積率: Pigment Volume Concentration(PVC)がその臨界顔料体積濃度:Critical Pigment Volume Concentration(CPVC)より大きいため、無機顔料同士は凝集し易い。CPVCは、固体粒子間の空隙がバインダーでちょうど充填されるときの顔料の体積濃度である。塗料に含まれる無機顔料の体積濃度(PVC)を、このCPVCよりも大きくすることにより、無機顔料は最密充填に近い状態で塗膜中に存在することになる。そのため、バインダーである有機質固形分濃度が非常に低くても、無機顔料同士の隙間を十分に埋めることが出来て、塗膜強度の低下が抑制される。加えて、エマルション樹脂を、0℃以上のガラス転移点を有する樹脂で構成することにより、塗膜強度をより向上させることができる。
【0017】
塗膜強度は、例えば、塗膜の凝集破壊の有無によって評価できる。本開示に係る水性中塗り用塗料によって形成される塗膜は、付着性試験において凝集破壊が抑制される。さらに、耐水性試験後の付着性試験においても凝集破壊が抑制される
【0018】
水性中塗り塗料の、25℃および回転数62.5rpmの条件下でB型粘度計により測定される粘度η(以下、粘度η62.5と称する)は、100dPa・s以上400dPa・s以下である。また、水性中塗り塗料の、25℃および回転数6rpmの条件下でB型粘度計により測定される粘度ηを、25℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される粘度η60で除して得られるTI値:η/η60は、3以上5以下である。粘度η62.5およびTI値を上記の範囲に調整することにより、水性中塗り塗料は吹付塗装およびローラー塗装可能となる。吹付塗装およびローラー塗装が可能とは、これらの塗装方法を採用する場合に、作業性がよく、かつ、被塗物に所望の凹凸形状を形成できることを意味する。凹凸形状は、いわゆる玉吹き模様を含む。
【0019】
(粘度)
水性中塗り塗料の粘度η62.5は、100dPa・s以上400dPa・s以下である。粘度η62.5が100dPa・s以上であることにより、ローラー塗装可能となる。粘度η62.5が400dPa・s以下であることにより、吹付塗装可能となる。粘度η62.5は、130Pa・s以上であってよく、150Pa・s以上であってよく、230Pa・s以上であってよい。粘度η62.5は、380Pa・s以下であってよく、370Pa・s以下であってよく、350Pa・s以下であってよい。
【0020】
(TI値)
TI値(チキソトロピックインデックス)は、試料の非ニュートン性(例えば、タレ性、分散性)を評価する際に用いられるパラメータである。TI値は、一般的には、10倍異なる2つの回転数で試料の粘度をそれぞれ測定し、その比として求められる。
【0021】
本開示において、TI値は、25℃および回転数6rpmの条件下でB型粘度計により測定される水性中塗り塗料の粘度ηを、25℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される水性中塗り塗料の粘度η60で除すことにより得られる(TI値:η/η60)。
【0022】
水性中塗り塗料のTI値は、3以上5以下である。特にTI値が3以上であると、塗装時のタレが抑制される。TI値が5以下であると、吹付塗装時の塗料の吐出性が確保される。TI値が3以上5以下であることにより、所望の凹凸形状を得ることができる。TI値は、3.6以上であってよく、3.8以上であってよく、4.1以上であってよい。TI値は、4.9以下であってよく、4.8以下であってよく、4.4以下であってよい。
【0023】
(PVC)
顔料体積率(%)は、JIS K5500 塗料用語 番号1029に規定されており、以下の通りである。「塗料の不揮発分全体の容積の中で,顔料,及び/又は体質顔料,及び/又はその他の非塗膜形成要素の固体粒子全体の容積が占める百分率で表した割合。塗膜の性質を同種の塗料間で比較するのに役立つ。」
【0024】
本開示において、PVCは、無機顔料の容積Vp、エマルション樹脂に含まれる樹脂の容積Vbを用いて下記式:
PVC(%)=100×Vp/(Vp+Vb)
により求められる。
【0025】
(CPVC)
臨界顔料体積濃度(%)は、JIS K5500 塗料用語 番号1113に規定されており、以下の通りである。「固体粒子間の空げきがバインダーでちょうど充てんされて,その近傍で,ある種の塗膜の性質が急激に変化する顔料体積濃度の値。それを超えると,顔料粒子をつなぐバインダーが不足して塗膜が多孔質になり始める。」
【0026】
臨界顔料体積濃度(CPVC)は、乾燥塗膜の性能(光沢,耐食性,機械的強度,接着力など)が急激に低下するときのPVCである。CPVC(%)は、吸油量OAmを用いて、下記の式により算出できる。
CPVC=100/(1+OAm)
吸油量は、油(ml)/顔料(ml)で表わされる。
【0027】
吸油量の異なる複数種の無機顔料を混合して使用する場合、まず、上記式に基づき1種の無機顔料のCPVCを算出する。このCPVCに、すべての無機顔料に占める当該無機顔料の質量割合を乗じる。この計算をすべての無機顔料に対して行って、得られた複数の値の合計を、水性中塗り塗料に含まれる無機顔料のCPVC(%)とする。
【0028】
(エマルション樹脂)
エマルション樹脂は、JIS A 6909における結合材に相当する。エマルション樹脂は、溶媒中に分散した粒子状の樹脂であり、分散樹脂粒子と称することもできる。エマルション樹脂は、例えば、原料モノマーを水性溶媒中で乳化重合することによって得られる。以下、分散樹脂粒子および水性溶媒を含む液体を樹脂エマルションという場合がある。
【0029】
エマルション樹脂は、0℃以上のガラス転移点(Tg)を有する。これにより、得られる塗膜の強度が向上する。上記樹脂のTgは、5℃以上であってよく、10℃以上であってよい。上記樹脂のTgは、50℃以下であってよく、40℃以下であってよく、30℃以下であってよい。
【0030】
エマルション樹脂のTgは、実測により求めることができる。あるいは、エマルション樹脂のTgは、原料モノマーの種類および配合量を考慮して、算出してもよい。本明細書において、Tgは、原料モノマーの種類および配合量を考慮して、算出された値である。
【0031】
エマルション樹脂の平均粒子径は、例えば、50nm以上500nm以下である。エマルション樹脂の平均粒子径は、100nm以上であってよく、150nm以上であってよく、200nmであってよい。エマルション樹脂の平均粒子径は、500nm以下であってよく、300nm以下であってよい。エマルション樹脂の平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。
【0032】
エマルション樹脂の数平均分子量は、例えば、5,000以上30,000以下である。エマルション樹脂の数平均分子量は、7,000以上であってよい。エマルション樹脂の数平均分子量は、28,000以下であってよい。数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法により決定することができる。
【0033】
エマルション樹脂の水酸基価は、1mgKOH/g以下であり、低い方がより好ましい。エマルション樹脂の水酸基価は、0.5mgKOH/g以下であってよく、0.2mgKOH/g以下であってよく、0mgKOH/gであってよい。
【0034】
塗膜の硬化性の観点から、エマルション樹脂の酸価は、3mgKOH/g以上であってよく、7mgKOH/g以上であってよい。エマルション樹脂の酸価は、40mgKOH/g以下であってよく、50mgKOH/g以下であってよい。酸価および水酸基価は、既知の方法を用いた実測または計算により求めることができる。
【0035】
エマルション樹脂の酸価および水酸基価は、実測により求めることができる。あるいは、エマルション樹脂の酸価および水酸基価は、原料モノマーにおける不飽和モノマーの配合量を考慮して、算出してもよい。本明細書において、酸価および水酸基価は、原料モノマー中の不飽和モノマーの配合量を考慮して、算出された値である。
【0036】
エマルション樹脂の含有量は、有機質固形分が5質量%以下になるように設定される。エマルション樹脂の含有量は、水性中塗り塗料の有機質固形分の60質量%以上90質量%以下であってよい。エマルション樹脂の含有量は、水性中塗り塗料の有機質固形分の65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよい。エマルション樹脂の含有量は、水性中塗り塗料の有機質固形分の85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよい。
【0037】
エマルション樹脂は、例えば、原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。
【0038】
原料モノマーとしては、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、水酸基含有不飽和モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε-カプロラクトン付加物)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン(ST)、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)が挙げられる。原料モノマーは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
水性中塗り塗料が後述する架橋剤を含む場合、原料モノマーの1つとして、架橋剤と反応し得る官能基を有しているモノマーを用いてよい。例えば、架橋剤が、1分子中に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物である場合、原料モノマーの1つとして、ケトン基またはアルデヒド基含有モノマーを用いてよい。ケトン基またはアルデヒド基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(具体的には、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等)、アセトアセトキシエチルメタクリレートが挙げられる。なかでも、反応性が高い点で、ジアセトン(メタ)アクリルアミドを用いてよい。
【0040】
架橋剤が、1分子中に2つ以上のカルボジイミド基またはアジリジン基を有する化合物である場合、原料モノマーの1つとして、カルボキシ基含有モノマーを用いてよい。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸が挙げられる。なかでも、反応性が高い点で、(メタ)アクリル酸を用いてよい。
【0041】
乳化重合は、一段階重合であってよく、二段階重合であってよく、三段階以上の多段階重合であってよい。二段階重合では、原料モノマーの一部をエマルション重合した後、ここに残りの原料モノマーを加えて乳化重合が行われる。
【0042】
重合開始剤の例として、例えば、アゾ系の油性化合物あるいは水性化合物、レドックス系の油性過酸化物あるいは水性過酸化物が挙げられる。アゾ系の油性化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。アゾ系の水性化合物としては、例えば、アニオン系の4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン、カチオン系の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)が挙げられる。レドックス系の油性過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt-ブチルパーベンゾエートが挙げられる。レドックス系の水性過酸化物としては、例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0043】
乳化剤は、当業者において一般的に用いられている乳化剤を用いることができる。乳化剤は、反応性乳化剤であってよい。反応性乳化剤として、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE-20(旭電化社製)およびアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0044】
分子量を調節するために、ラウリルメルカプタン等のメルカプタン化合物、そしてα-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0045】
反応温度は重合開始剤により決定され、例えば、アゾ系の重合開始剤では60℃以上90℃以下であり、レドックス系の重合開始剤では30℃以上70℃以下で行うことできる。一般に、反応時間は1時間以上8時間以下である。モノマーの全量に対する重合開始剤の量は、一般に0.1質量%以上5質量%以下であり、0.2質量%以上2質量%以下であってよい。
【0046】
エマルション樹脂は、必要に応じて塩基で中和されていてもよい。エマルション樹脂は、0℃以上のTgを有する異なる複数種の樹脂から構成されていてもよい。
【0047】
エマルション樹脂は、Tgが0℃未満の樹脂を含んでよい。ただし、その含有量は少ないことが望ましい。例えば、Tgが0℃未満の樹脂の含有質量は、すべてのエマルション樹脂の質量の5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、0質量%であってよい。
【0048】
(無機顔料)
無機顔料は、JIS A 6909における顔料および骨材に相当する。無機顔料としては、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、カオリン、マイカおよびタルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、炭酸カルシウムであってよい。
【0049】
無機顔料のPVCは、例えば、50体積%以上97体積%以下である。これにより、被塗物に所望の凹凸形状が形成され易くなる。無機顔料のPVCは、70体積%以上であってよく、80体積%以上であってよい。無機顔料のPVCは、95体積%以下であってよく、90体積%以下であってよい。
【0050】
無機顔料の平均粒子径は、3μm以上25μm以下であってよい。この場合、PVCがCPVCより大きくなり易い。
【0051】
平均粒子径は、1次粒子径であって、レーザ回折・散乱法により得られた体積基準の粒度分布における50%平均粒子径(D50)である。
【0052】
無機顔料は、異なる粒度分布を有する複数種の組み合わせであってよい。これにより、さらに細密充填構造が形成され易くなって、塗膜強度がより向上し得る。大粒径および中粒径の無機顔料(代表的には、後述する第1顔料および第2顔料)は、主に上塗り塗膜との密着性向上、クラック発生抑制、コスト上昇抑制等に貢献する。小粒径の無機顔料(代表的には、後述する第3顔料)は、大粒径の無機顔料間の隙間を埋めて塗膜強度を向上させ、また、光沢性の向上等に貢献する。無機顔料が異なる粒度分布を有する複数種からなることは、粒度分布において、ピーク(極大値)が2以上存在することにより確認できる。
【0053】
一態様において、無機顔料は、平均粒子径が15μm超25μm以下である第1顔料と、平均粒子径が7μm超15μm以下である第2顔料および平均粒子径が3μm以上7μm以下である第3顔料の少なくとも一方と、を含む。この場合、第1顔料の含有質量P1と、第2顔料の含有質量P2と、第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/4≦P1/(P2+P3)≦3/2
を満たしてよい。これにより、塗膜強度がより向上して、塗膜の凝集破壊が抑制される。
【0054】
P1/(P2+P3)は、1/3以上であってよく、1/2以上であってよい。P1/(P2+P3)は、4/3以下であってよく、1/1以下であってよい。
【0055】
他の一態様において、無機顔料は、第2顔料と第3顔料とを含む。この場合、第2顔料の含有質量P2と、第3顔料の含有質量P3とは、以下の関係式:
1/2≦P2/P3≦2/1
を満たしてよい。これにより、塗膜強度がより向上して、塗膜の凝集破壊が抑制される。
【0056】
P2/P3は、2/3以上であってよく、3/4以上であってよい。P2/P3は、3/2以下であってよく、4/3以下であってよい。
【0057】
平均粒子径が3μm未満あるいは25μm超の無機顔料(言い換えれば、第1,第2,第3顔料以外の無機顔料)を含んでよい。ただし、その含有量は少ないことが望ましい。例えば、平均粒子径が3μm未満あるいは25μm超の無機顔料の含有質量は、すべての無機顔料の質量の5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、0質量%であってよい。
【0058】
(増粘剤)
水性中塗り塗料は、増粘剤を含んでよい。増粘剤としては、例えば、無機増粘剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型増粘剤、ポリアマイド型増粘剤およびアルカリ膨潤型増粘剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
無機増粘剤は、無機結晶層が多数積み重なった積層構造を有する層状物であってよい。このような層状構造を有する無機増粘剤は、水性中塗り塗料中で膨潤し、カードハウス構造を形成する。そのため、水性中塗り塗料に適度な粘性をもたらす。
【0060】
無機増粘剤の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状および無定形等が挙げられ、円盤状または板状のものであってよい。
【0061】
無機増粘剤としては、例えば、層状シリケート(ケイ酸塩鉱物)、ハロゲン化鉱物、酸化鉱物、炭酸塩鉱物、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物、リン酸塩鉱物、ヒ酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物が挙げられる。
【0062】
セルロース誘導体としては、例えば、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテルが挙げられる。
【0063】
ウレタン会合型増粘剤としては、例えば、疎水性鎖を分子中に持つポリウレタン系増粘剤、主鎖の少なくとも一部が疎水性ウレタン鎖であるウレタン-ウレア系増粘剤が挙げられる。ウレタン会合型増粘剤は、低シェア時には粘度が発現しやすく、高シェア時には、粘度が発現し難いという特性を有しており、チキソ性に優れている。
【0064】
ポリアマイド型粘性調整剤としては、例えば、市販されているBYK-430、BYK-431(いずれもビックケミー社製)、ディスパロンAQ-580、ディスパロンAQ-600、ディスパロンAQ-607(いずれも楠本化成社製)、チクゾールW-300、チクゾールW-400LP(いずれも共栄社化学製)が挙げられる。
【0065】
アルカリ膨潤型増粘剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系増粘剤が挙げられる。具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸-ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩、疎水基変性ポリアクリル酸が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸塩としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウムが挙げられる。疎水基変性ポリアクリル酸は、カルボキシル基の一部が、スチレン基、アルキル基などの疎水基によって変性されている。
【0066】
少量の使用で、水性中塗り塗料を吹付塗装およびローラー塗装に適した粘性に調整し易い点で、セルロースエーテルと、ウレタン会合型増粘剤と、アルカリ膨潤型増粘剤とを組み合わせて用いてよい。アルカリ膨潤型増粘剤のなかでも、疎水基変性ポリアクリル酸を使用してよい。
【0067】
増粘剤の含有量は、有機質固形分が5質量%以下になるように設定される。増粘剤の含有量は、水性中塗り塗料の固形分の0.01質量%以上5.0質量%以下であってよい。増粘剤の含有量は、水性中塗り塗料の固形分の0.02質量%以上であってよく、0.03質量%以上であってよい。増粘剤の含有量は、水性中塗り塗料の固形分の3.0質量%以下であってよく、1.0質量%以下であってよい。
【0068】
(溶媒)
水性中塗り塗料は、溶媒として水を含む。水性中塗り塗料は、水とともに有機溶媒を含み得る。
【0069】
有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;
プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メチルメトキシブタノール、エトキシプロパノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メトキシブタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール、プロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;スワゾール、シェルゾール、ミネラルスピリットなどの脂肪族炭化水素系溶剤;キシレン、トルエン、ソルベッソ-100(S-100)、ソルベッソ-150(S-150)などの芳香族系溶剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0070】
(架橋剤)
水性中塗り塗料は、架橋剤を含んでよい。架橋剤は、JIS A 6909における結合材に相当する。架橋剤としては、例えば、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物が挙げられる。
【0071】
ヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド、20~100個のヒドラジド基を有するポリアクリル酸のポリヒドラジド、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、ジトリヒドラジン-トリアジン、トリヒドラジン-トリアジン、チオカルボヒドラジド、N,N’-ジアミノグアニジン、2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、3-クロル-2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、6-クロル-2-ヒドラジノピリジン-4-カルボン酸ヒドラジド、2,5-ジヒドラジノピリジン-4-カルボン酸、1,4-ジヒドラジノベンゾール、1,3-ジヒドラジノベンゾール、2,3-ジヒドラジンナフタリン、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントインが挙げられる。なかでも、入手し易い点で、アジピン酸ジヒドラジドであってよい。
【0072】
カルボジイミド化合物としては、例えば、変性ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。変性ポリカルボジイミド化合物は、1分子中に少なくとも2個のカルボジイミド基を有し、炭素数4以上のモノアルコキシ基で片側末端を封鎖されたポリアルキレンオキサイドユニットを有している。1分子中に含まれるカルボジイミド基の数は、2個以上20個以下であってよい。市販のカルボジイミド化合物としては、例えば、カルボジライトV-02-L2、カルボジライトE-01(いずれも多価カルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0073】
アジリジン化合物としては、例えば、ビスフェニルメタン-ビス、4,4’-N,N’-エチレン尿素が挙げられる。市販のアジリジン化合物としては、例えば、ケミタイトDZ-22E(2価アジリジン、株式会社日本触媒製)が挙げられる。
【0074】
(その他)
水性中塗り塗料は、その他の成分、例えば有機顔料、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えばヒンダードアミン)、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤を含んでよい。
【0075】
[塗装物品]
本開示に係る塗装物品は、被塗物と、被塗物上に設けられた下塗り塗膜と、下塗り塗膜上に、上記の水性中塗り塗料を用いて設けられた中塗り塗膜と、中塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備える。以下、下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を含む層を、複層塗膜と称する場合がある。
【0076】
(被塗物)
被塗物としては、建築物の外部および準外部に通常用いられるものが挙げられる。例えば、金属基材、その他の無機基材、プラスチック基材が挙げられる。金属基材としては、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板が挙げられる。その他の無機基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、セメントボード、押出形成板、スレート板、PC板、ALC板、JIS A5422、JIS A 5430に記載された窯業系サイディング材あるいは繊維強化セメント板等の窯業建材、ガラス基材が挙げられる。上記プラスチック基材としては、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板が挙げられる。
【0077】
被塗物は、上記基材と、当該基材を覆う古い塗膜(複層塗膜であってよい)を有していてよい。すなわち、本開示の複層塗膜は、補修のために設けられてもよい。
【0078】
(下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、下塗り塗料により形成される。下塗り塗料は、JIS A 6909における下塗材に相当する。
下塗り塗料としては、従来公知のものが用いられる。例えば、水性アクリル樹脂エマルション塗料、エポキシ/マイケル硬化系塗料、エポキシ/アミン系塗料、エポキシディスパージョン塗料、2液型ウレタン硬化系塗料が挙げられる。下塗り塗料は、溶剤型であってよく、水性であってよい。環境負荷低減の観点から、水性であってよい。
【0079】
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜は、上塗り塗料により形成される。上塗り塗料は、JIS A 6909における上塗材に相当する。
上塗り塗料としては、従来公知のものが用いられる。例えば、水性アクリル樹脂エマルション塗料、エポキシ/アミン系塗料、2液型ウレタン硬化系塗料、1液型ウレタン硬化系塗料、カルボジイミド硬化系塗料、アクリル樹脂系塗料、アルキド樹脂系塗料、シリコン樹脂系塗料等が挙げられる。環境負荷低減の観点から、水性であってよい。
【0080】
下塗り塗料、水性中塗り塗料および上塗り塗料は、例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー(典型的には、タイルガン)、エアレススプレー、コテを用いる方法により塗布される。塗布量は、用途、目的、被塗物の種類に応じて適宜設定される。水性中塗り塗料は、特にローラー塗装および吹付塗装に適している。
【0081】
各塗膜は、自然乾燥され得る。自然乾燥は、常温(23℃±3℃)で、2時間以上、24時間以上、さらには1週間以上行われてよい。
【0082】
中塗り塗膜の乾燥後の厚さは、例えば、0.5mm以上10mm以下である。中塗り塗膜の乾燥後の厚さは、1mm以上であってよい。中塗り塗膜の乾燥後の厚さは、5mm以下であってよい。
【実施例0083】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。表1および2に記載された成分の詳細は、以下の通りである。
【0084】
エマルション樹脂
(A1)商品名:サイビノールUC‐1631、サイデン化学社製、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂のTg:0℃、平均粒子径:180nm
(A2)商品名:サイビノールUC‐404、サイデン化学社製、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂のTg:6℃、平均粒子径:170nm
(A3)商品名:サイビノールUC‐440、サイデン化学社製、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂のTg:12℃、平均粒子径:170nm
(A4)商品名:サイビノールCA‐6181、サイデン化学社製、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂のTg:17℃、平均粒子径:220nm
(B1)商品名:サイビノールUC‐808、サイデン化学社製、アクリル樹脂エマルション、アクリル樹脂のTg:-15℃、平均粒子径:160nm
【0085】
無機顔料
(L)炭酸カルシウム、D50:20μm、吸油量:0.41(ml/ml)
(M)炭酸カルシウム、D50:12μm、吸油量:0.68(ml/ml)
(S)炭酸カルシウム、D50:5.5μm、吸油量:0.76(ml/ml)
【0086】
増粘剤
(a)セルロースエーテル、商品名:セロサイズ QP 52000H、ヒドロキシエチルセルロース、ダウケミカル社製
(b)アルカリ膨潤型、商品名:SNシックナー640、サンノプコ社製
(c)ウレタン会合型、商品名:アデカノールUH-420、ADEKA社製
【0087】
造膜助剤
(I)商品名:CS-16、JNC社製
【0088】
その他の添加剤
有機質固形分:セルロース繊維、分散剤、乳化剤、消泡剤
有機質固形分以外:pH調整剤、珪酸質結合剤
【0089】
[実施例1]
各成分を表1に示す配合量で混合して、水性中塗り塗料を調製した。粘度η62.5は320dPa・s、TI値は4.2、CPVCは71.3%、PVCは87.2%であった。粘度η62.5の測定方法、TI値およびCPVCの算出方法は、以下の通りである。
【0090】
(粘度η62.5
25℃、回転数62.5rpmの条件下にて、B型粘度計(商品名:ビスコメータ VT-06、2号ロータ、リオン株式会社製)を用い、JIS-Z8803「液体の粘度測定方法 9.単一円筒形回転粘度計による粘度測定方法」に準じて、粘度η62.5を測定した。
【0091】
(TI値)
25℃条件下にて、B型粘度計(商品名:VISCOMETER TVB-10U、H4~H7ロータ、東機産業株式会社製)を用い、JIS-Z8803「液体の粘度測定方法 9.単一円筒形回転粘度計による粘度測定方法」に準じて、回転数6rpmおよび60rpmにおける粘度を測定した。得られた粘度から、TI値(η/η60)を求めた。
【0092】
(CPVC)
下記式に従って算出された各無機顔料のCPVCの和(CPVC+CPVC+・・・)を、水性中塗り塗料に含まれる無機顔料のCPVCとした。
第1顔料のCPVC
第2顔料のCPVC
第3顔料のCPVC
【0093】
[実施例2-11、比較例1-5]
各成分を表1に示す配合量で混合して、水性中塗り塗料を調製した。
【0094】
[評価]
水性中塗り塗料および塗膜の評価を、下記の通りに行った。塗膜の評価は、以下の通りに作製した試験板A、BまたはCを用いて行った。評価結果を表5および6に示す。
【0095】
(試験板Aの作製)
地面に対してスレートボード(TP技研社製、長さ15cm、幅7cm)を水平に置いた。下塗り塗料(日本ペイント社製、商品名:ニッペ水性カチオンシーラー透明)を平刷毛で上記スレートボードに塗装して、下塗り塗膜を得た。翌日、内法寸法12cm×6cm×0.1cmの合成樹脂製の型枠を下塗り塗膜上に置き、粘度が100~150dPa・sに調整された水性中塗り塗料を充填し、金べらを用いて上面を平らにして、中塗り塗膜を得た。さらに翌日、上塗り塗料(日本ペイント社製、商品名:ニッペタイルラック水性トップつや一番)を平刷毛で下塗り塗膜及び中塗り塗膜上に2回塗装し、上塗り塗膜を得た。これらの塗膜を有するスレートボードを室温で1週間静置し、試験板Aを得た。
【0096】
(防火性能)
水性中塗り塗料の有機質固形分割合が5質量%以下の場合を、防火性能有りとした。
【0097】
・光沢性
目視にて、試験板Aの塗膜表面の光沢の有無を評価した。光沢を感じられる場合を良、感じられない場合を不良とした。
【0098】
・クラック
試験板A作製において、中塗り塗装の翌日、上塗り塗装前の塗膜のクラックの有無を目視にて評価した。
【0099】
・カット時の耐剥離性
試験板Aに対して、JIS K 5600-5-6 第5部-第6節:付着性(クロスカット法)に基づき試験を行ったときの、凹凸部分の剥落性を評価した。凹凸部分がボロボロと落ちた場合を不良、落ちなかった場合を良とした。
【0100】
・一次密着性
上記の剥落性を評価した試験板Aを、JIS K 5600-5-6 第5部-第6節:付着性(クロスカット法)に基づき分類(分類0~5)した。さらに、凝集破壊の有無を確認した。
【0101】
0 カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
1 カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に5%を上回ることはない。
2 塗膜がカットの縁に沿って,及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3 塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4 塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に35%を上回ることはない。
5 分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0102】
・耐水性
循環機能の付いた恒温水槽を室温(23℃)に設定し、脱イオン水で満たした。ここに、試験板Aを浸漬した。1週間浸漬した後、試験板Aを引き上げて、水滴を軽くふき取った。引き上げた後、試験板Aを室温(23℃)で1時間放置して、塗膜を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。
良:異常なし
不良:全体に1mm以上のフクレ(ブリスター)が発生している
【0103】
・二次密着性
上記の耐水性試験を行った試験板Aを室温(23℃)で24時間放置した後、JIS K 5600-5-6 第5部-第6節:付着性(クロスカット法)に基づき試験および分類を行った。さらに、凝集破壊の有無を確認した。
【0104】
(試験板Bの作製)
以下のように、ローラー塗装によって試験板Bを作製した。
まず、地面に対してスレートボード(TP技研社製、長さ90cm、幅45cm)を垂直に立てた。下塗り塗料(日本ペイント社製、商品名:ニッペ水性カチオンシーラー透明)を中毛ローラーで上記スレートボードに塗装して、下塗り塗膜を得た。次いで、粘度が100~150dPa・sに調整された水性中塗り塗料を砂骨ローラー(標準目)で下塗り塗膜上に塗装し、中塗り塗膜を得た。中塗り塗膜の乾燥膜厚は約1mmであった。これらの塗膜を有するスレートボードを室温で1週間静置した。このようにして、ローラー塗装によって形成された波型模様の塗膜を有する、試験板Bを得た。
【0105】
・ローラー塗装適性
試験板Bを作製する際の塗装性を、下記の表に基づいて評価し、これらの評価結果を総合して適性を判断した。総合評価では、一項目でも不良であれば「不適合」とし、一項目も不良がなく、かつ、一項目以上良がある場合を「好適」、これら以外(一項目も不良も良もなく、全て可)である場合を「可」とした。
【0106】
【表1】
【0107】
・ローラー塗装による凹凸形状の形成性
目視にて、試験板Bの塗膜に形成された波型模様を、下記の表に基づいて評価し、これらの評価結果を総合して、凹凸成形性を判断した。総合評価では、一項目でも不良であれば「不良」とし、一項目も不良がなく、かつ、一項目以上良がある場合を「良」、これら以外(一項目も不良も良もなく、全て可)である場合を「可」とした。
【0108】
【表2】
【0109】
・吹付塗装適性
以下のように、吹付塗装によって試験板Cを作製した。
まず、地面に対してスレートボード(TP技研社製、長さ90cm、幅45cm)を垂直に立てた。下塗り塗料(日本ペイント社製、商品名:ニッペ水性カチオンシーラー透明)を中毛ローラーで上記スレートボードに塗装して、下塗り塗膜を得た。次いで、粘度が200~250dPa・sに調整された水性中塗り塗料をタイルガン(吹付け圧力:3.0~3.5kgf/cm)で下塗り塗膜上に塗装し、中塗り塗膜を得た。これら塗膜を有するスレートボードを室温で1週間静置した。このようにして、吹付塗装によって形成された玉吹き模様の塗膜を有する、試験板Cを得た。
【0110】
試験板Cを作製する際の塗装性を、下記の表に基づいて評価して適性を判断した。吐出性が不良であれば「不適合」とし、吐出性が可である場合を「可」、吐出性が良である場合を「好適」とした。
【0111】
【表3】
【0112】
・吹付塗装による凹凸形状の形成性
目視にて、試験板Cの塗膜に形成された玉吹き模様を、下記の表に基づいて評価し、これらの評価結果を総合して、凹凸成形性を判断した。総合評価では、一項目でも不良であれば「不良」とし、一項目も不良がなく、かつ、一項目以上良がある場合を「良」、これら以外(一項目も不良も良もなく、全て可)である場合を「可」とした。
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の水性中塗り用塗料組成物は、防火性能および優れた塗膜強度を有し、かつ被塗物に凹凸形状を付与することできるため、建築物の様々な部分に使用可能である。