(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051840
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】所持物検査装置
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
G06T1/00 340B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158196
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 翠
(72)【発明者】
【氏名】石毛 隆晴
(72)【発明者】
【氏名】北川 朝靖
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真起
【テーマコード(参考)】
5B057
【Fターム(参考)】
5B057AA19
5B057BA01
5B057CA02
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB02
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CC02
5B057CD03
5B057CE08
5B057DA07
5B057DA08
5B057DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象物に対して傾いた方向から計測を行って検出像に歪みが生じた場合であっても、所持物の検査を容易にする所持物検査装置を提供すること。
【解決手段】所持物検査装置100は、所定波長の電磁波であるテラヘルツ波等から対象画像を得る撮像装置50A~50Dと、対象画像Pに対して姿勢推定処理により決定した複数の基準点により座標変換関数Hを決定し、座標変換関数Hに基づいて対象画像Pを正対画像すなわち正面画像等に変換する画像処理装置を有する制御装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長の電磁波から対象画像を得る撮像装置と、
前記対象画像に対して姿勢推定処理により決定した複数の基準点により座標変換関数を決定し、前記座標変換関数に基づいて前記対象画像を正対画像に変換する画像処理装置と
を備える所持物検査装置。
【請求項2】
前記正対画像に対して人物に対応する輪郭線を有する枠状のピクトグラム像を合成する、請求項1に記載の所持物検査装置。
【請求項3】
前記正対画像において、検出強度が相対的に低い影領域が所定以上のサイズである場合に、前記正対画像に対して前記影領域を囲む検出マークを合成する、請求項1に記載の所持物検査装置。
【請求項4】
前記影領域は、検出強度が相対的に高い明示領域に囲まれている、請求項3に記載の所持物検査装置。
【請求項5】
通路に沿って所定間隔で並ぶとともに通路を挟んで対向する4つの前記撮像装置を備え、
前記画像処理装置は、前記通路を通過する人物を右前及び左前の2方向から捉えた前記対象画像を前記正対画像に変換しつつ合成して正面画像を作成し、前記通路を通過する人物を右後及び左後の2方向から捉えた前記対象画像を前記正対画像に変換しつつ合成して背面画像を作成する、請求項1に記載の所持物検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定波長帯域の電磁波を受信して対象画像を検出する所持物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の一部である共通の被写体部分を含む複数の画像間で位置合わせ処理を行う画像の位置合わせ処理装置であって、画像内に少なくとも1つの部分領域を設定し、設定された部分領域毎に独立に画像間の位置合わせ処理を行うものが公知となっている(特許文献1)。この装置は、時系列的な画像間で位置合わせを行うものであり、具体的には、解剖学的構造に基づいて設定された部分的領域ごとに画像の座標変換式を独立に設定し、画像間の位置合わせを行っている。
【0003】
上記特許文献1の手法では、対象物に対して傾いた方向から計測を行った場合に生じる検出像の歪みに対する対処が考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、対象物に対して傾いた方向から計測を行って検出像に歪みが生じた場合であっても、所持物の検査を容易にする所持物検査装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するための所持物検査装置は、所定波長の電磁波から対象画像を得る撮像装置と、対象画像に対して姿勢推定処理により決定した複数の基準点により座標変換関数を決定し、座標変換関数に基づいて対象画像を正対画像に変換する画像処理装置とを備える。
【0007】
上記所持物検査装置では、画像処理装置が姿勢推定処理によって決定した基準点により座標変換関数を決定し、座標変換関数に基づいて対象画像を正対画像に変換するので、対象画像が正対方向に対して傾いた面内にある計測点について計測された場合であっても、計測点の分布に起因する対象画像の歪みを補正した正対画像を検査結果又は検査画像として表示することができる。これにより、係員が画像処理装置によって得た検査画像を目視で観察し、検査画像から所持物の有無を判定する際の信頼性を高めることができる。
【0008】
本発明の具体的な側面では、正対画像に対して人物に対応する輪郭線を有する枠状のピクトグラム像を合成する。対象画像を正対画像に変換しただけでは、輪郭に歪みが残り滲みが発生し、人物の部位として見ることが必ずしも容易ではないが、ピクトグラムによって人物の部位への当てはめが直感的で容易なものとなる。
【0009】
本発明の別の側面では、正対画像において、検出強度が相対的に低い影領域が所定以上のサイズである場合に、正対画像に対して影領域を囲む検出マークを合成する。この場合、所持物の有無の判定を機械的に支援することができ、検査の信頼性を高めることができる。
【0010】
本発明の別の側面では、影領域は、検出強度が相対的に高い明示領域に囲まれている。明示領域は、人体の映像に対応し、影領域が明示領域に囲まれていれば、隠し持った所持物の可能性が高いと言える。
【0011】
本発明の別の側面では、通路に沿って所定間隔で並ぶとともに通路を挟んで対向する4つの撮像装置を備え、画像処理装置は、通路を通過する人物を右前及び左前の2方向から捉えた対象画像を正対画像に変換しつつ合成して正面画像を作成し、通路を通過する人物を右後及び左後の2方向から捉えた対象画像を正対画像に変換しつつ合成して背面画像を作成する。この場合、4つの撮像装置のうち前側の一対の撮像装置を用いて、正面画像を少ない歪みで合成することができるとともに、後側の一対の撮像装置を用いて、背面画像を少ない歪みで合成することができるので、人物を前後から見た検査画像によって所持物の有無に関する判定を行う際の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の所持物検査装置の概要を説明する概念的斜視図である。
【
図2】(A)は、所持物検査装置を構成する1つの撮像装置を示す斜視図であり、(B)は、撮像装置の内部構造を説明する概念的断面図である。
【
図3】撮像装置の回路的な構造を説明するブロック図である。
【
図4】(A)及び(B)は、撮像装置の動作を説明する平面図及び正面図である。
【
図5】第1撮像装置によって得た第1対象画像の一例を説明する図である。
【
図7】(A)は、対象画像に対して修正を加えるための座標変換関数の算出を説明する図であり、(B)は、対象画像に対する座標変換関数を用いた画像処理を説明する図である。
【
図8】正面画像に対してピクトグラム像等を合成する処理を説明する図である。
【
図9】制御装置による処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1等を参照して、本発明に係る所持物検査装置の一実施形態について説明する。
図1は、所持物検査装置100の全体外観を示す概念的斜視図であり、
図2(A)及び2(B)は、所持物検査装置100を構成する1つの撮像装置50を説明する斜視図及び断面図である。なお、
図1等において、通路PWの延びる方向、すなわち検査を受ける対象者PAの進行方向をY方向とし、通路PWと直交し水平面に沿って延びる横方向をX方向とし、鉛直方向又は上下方向をZ方向としている。
【0014】
所持物検査装置100は、4つの撮像装置50(50A~50D)と、4つの撮像装置50A~50Dの撮像動作を制御する制御装置70とで構成されている。所持物検査装置100は、通路PWをY方向すなわち通過方向D1に移動して通路PW上に設けられた平面視で四角形のゲート領域GAを通過する対象者PAの身体を着衣のまま非接触で監視する。4つの撮像装置50A~50Dは、通路PWに沿って所定間隔で並ぶとともに通路PWを挟んで対向している。より具体的には、4つの撮像装置50A~50Dは、ゲート領域GAの四隅に配置されており、第1撮像装置50Aは、ゲート領域GAを左前方から監視し、第2撮像装置50Bは、ゲート領域GAを右前方から監視し、第3撮像装置50Cは、ゲート領域GAを左後方から監視し、第4撮像装置50Dは、ゲート領域GAを右後方から監視する。4つの撮像装置50A~50Dは、対象者PAから周囲に放射された電磁波RWを受信し、制御装置70は、撮像装置50A~50Dが受信した電磁波RWを解析し、対象者PAが所持する所持物に危険物が含まれているか否かを検査する。すなわち、制御装置70は、対象者PAの衣服や所持物の内部を透視して危険物の有無等に関する情報の収集を可能にする解析部ANとして機能し、必要な検査を行う。なお、制御装置70は、上記のような解析処理に際して、4つの撮像装置50A~50Dが調和した動作を行うように、4つの撮像装置50A~50Dに対して、各種指令を出力し応答信号の入力を受け付けることで、これらの動作状態を管理する。
【0015】
所持物検査装置100では、取扱いの対象となる電磁波RWの波長帯域を、テラヘルツ波長帯域とする。すなわち、各撮像装置50において、受信対象又は検出対象とする所定波長帯域の電磁波RWは、テラヘルツ波長帯域の電磁波である。
【0016】
図2(A)は、第1撮像装置50Aの斜視図であり、
図2(B)は、第1撮像装置50Aの内部構造を説明する概念的断面図である。第1撮像装置50Aは、柱状の筐体CSに覆われており、筐体CS中に受信器51と、人感センサ55とを備える。
【0017】
受信器51が電磁波RWを取り込む方位S1は、水平方向に関して+X方向と-Y方向との略中間であり、具体的には+X方向及び-Y方向に対して45°をなす方向となっている。電磁波RWは、方位S1から所定の仰角及び俯角で受信器51に取り込まれるので、第1撮像装置50A又は受信器51が感度を有する検出面は、方位S1及びZ方向に平行に延びる鉛直面となっている。筐体CSには、スリット状の窓11が形成され、窓11は、カバー部材12で覆われている。窓11は、所定方向から筐体CS内に電磁波RWが入射することを許容し、カバー部材12は、電磁波RWを透過させるとともに第1撮像装置50Aの内部を保護するレドームとして機能している。カバー部材12は、具体的には、例えば樹脂製のシートと、樹脂製又は金属製の網目構造からなる補強部材とを積層したものである。
【0018】
人感センサ55は、赤外線の光源や受光素子を含み、近接する物体の存在や移動速度を検出ことができる。人感センサ55は、第1撮像装置50Aの監視領域内に対象者PA(
図1参照)の存在を検出した場合に、第1撮像装置50Aによる撮像動作を開始させるといった処理を可能にする。人感センサ55は、
図1に示す制御装置70の制御下で動作しており、監視領域内に人が存在するか否かを検出し、検出結果を制御装置70に出力する。
【0019】
図2(B)に示すように、受信器51は、走査部20と受信部30とを備える。走査部20は、ミラー21を有し、ミラー21を回転軸RXの周りに所定回転速度N(例えばN=2000rpm)で回転させることで、所定角度範囲θ(例えばθ=100°)で、筐体CSの窓11から入射する電磁波RWを反射によって内部に取り込み、筐体CSの内部に設けた受信部30に導く。受信部30は、電磁波RWを検出すべく、例えばテラヘルツ波長帯域の電磁波を検出可能な検出器等で構成される。
【0020】
図3を参照して、受信器51において、走査部20は、ミラー21の他に、ミラー21を回転軸RXの周りに所定回転速度で回転させる回転駆動部22を有する。回転駆動部22は、制御装置70の制御下で動作する。受信部30は、凹面状の反射部材MRと、受信アンテナRAと、信号強度検出部DTとを有する。窓11から入射しミラー21で反射された電磁波RWは、反射部材MRによって受信アンテナRAに向けて反射される。受信アンテナRAが電磁波RWを受けると、受信アンテナRAに接続された信号強度検出部DTは、電磁波RWの強度を検出する。信号強度検出部DTは、制御装置70の制御下で動作しており、電磁波RWの検出強度に対応する検出信号が、制御装置70に出力される。
【0021】
ミラー21を回転させつつ、これに同期して信号強度検出部DTの検出信号を取り込むことで、ミラー21の回転角αの関数として電磁波RWすなわちテラヘルツ波の放射強度を計測することができる。ミラー21の回転角αは、Z方向の位置に比例する値(例えばtan(α/2-45°)に変換できるので、ミラー21の一回の主走査によって縦方向の走査線又は画像が得られる。対象者PAが通路PWを通過方向D1に略一定速度で移動する場合(
図1参照)、電磁波RWの主走査に対応し鉛直方向に延びる走査線は、対象者PAの正面の移動とともに左側から右側に向かって徐々に移動する。これにより、副走査が行われ、各走査線に対応して得た信号強度を輝度情報に変換し繋ぎ合わせた2次元的な画像は、対象者PAの左斜め前方からの近似的正面画像に相当するものとなる。
【0022】
図1等に戻って、第2撮像装置50Bは、
図2(B)や
図3に示す第1撮像装置50Aの構造と同様の構造を有し、制御装置70の制御下で対象者PAの右斜め前方からの近似的正面画像を検出する。第3撮像装置50Cは、第1撮像装置50Aの構造と同様の構造を有し、制御装置70の制御下で対象者PAの左斜め後方からの近似的背面画像を検出し、第4撮像装置50Dは、第1撮像装置50Aの構造と同様の構造を有し、制御装置70の制御下で対象者PAの右斜め後方からの近似的背面画像を検出する。
【0023】
以上では、所持物検査装置100が取り扱う電磁波RWをテラヘルツ波としたが、所持物検査装置100が取り扱う電磁波RWの波長帯域は、ミリ波長帯域からテラヘルツ波長帯域までのうちから定められた任意の波長帯域とすることができる。
【0024】
図4(A)及び4(B)を参照して、第1撮像装置50Aによる第1対象画像の取得方法について説明する。
図4(A)は、4つの撮像装置50A~50Dの平面図であり、
図4(B)は、4つの撮像装置50A~50Dの正面図である。
【0025】
第1撮像装置50Aの検出面SS1は、+X方向と-Y方向との略中間方向に延びている。対象者PAの前面は、近似的には、全体としてXZ面に略平行に延びるとみなすことができる。対象者PAが通路PWを通過方向D1に向かって略一定速度で移動する場合、検出面SS1による対象者PAの前面上の走査線状領域SLは、全体として鉛直方向に細長く延び、対象者PAの前面の移動とともに奥の左側から手前の右側に向かって徐々に移動する。走査線状領域SLは、厳密には対象者PAの前面の凹凸形状に依存するが、図面中では説明の便宜上直線として示している。対象者PAの通過により、走査線状領域SL1,…,SLk,…SLn,…SLp,…が検出面SS1に沿って切り換わり、走査線状領域SL1,SL1,SL2,…で得られた強度検出情報すなわち信号強度を輝度情報に変換し繋ぎ合わせることで、2次元的な強度分布の画像を得ることができる。
【0026】
図5は、第1撮像装置50Aを動作させることによって得た加工前の第1対象画像について一例を説明する図である。第1対象画像P1において、縦長の画像領域Rkは、
図4(B)に示す走査線状領域SLkに対応し、縦長の画像領域Rnは、
図4(B)に示す走査線状領域SLnに対応し、縦長の画像領域Rpは、
図4(B)に示す走査線状領域SLpに対応する。第1撮像装置50Aの近傍を通過する対象者PA(
図1参照)は、黒体放射を行う物体であり、第1対象画像P1中において、対象者PAに相当する人物部分Phは、対象者PAの体温を反映した明るいシルエット画像となっている。第1対象画像P1中の人物部分Phは、
図4(B)に示す対象者PAの正面画像からすると、輪郭が大きく異なるものとなっている。
【0027】
図4(B)に戻って、例えば対象者PAの肩に着目すると、対象者PAが通路PWを通過すると、初期の段階において、対象者PAの上部に関して右肩が先行して検出面SS1を通過し、この右肩に対応する計測点をD11とする。この計測点D11は、走査線状領域SLkに含まれる。対象者PAが通路PWを通過する最終の段階では、対象者PAの上部に関して左肩が検出面SS1を通過し、この左肩に対応する計測点をD12とする。この計測点D12は、走査線状領域SLpに含まれる。これらの計測点D11,D12の下方において、計測点D11,D12の検出前後のタイミングで、対象者PAの膝関節が検出面SS1を通過し、膝関節に対応する計測点をD13,D14とする。
【0028】
制御装置70は、詳細は後述するが、
図5に示す第1対象画像P1から対象者PAの形状的又は骨格的な特徴部分に対応する計測点D11,D12,D13,D14(
図4(B)参照)に対応する基準点I1,I2,I3,I4を抽出し、基準点I1,I2,I3,I4が人体の標準的な部位に対応する位置に配置されるように、画像処理によって、第1対象画像P1に対して変形を加える。この変形は、近似的には、第1対象画像P1を斜め方向から見た状態から正対方向から見た状態に変換することに相当する。
【0029】
第2撮像装置50Bの検出面SS2は、-X方向と-Y方向との略中間方向に延びている。第2撮像装置50Bを動作させることによって、詳細な説明を省略するが、第1撮像装置50Aによる計測と同様の原理で、対象者PAの正面から右側にかけての斜め方向に関して、正面から左側にかけての斜め方向に関してよりも、解像度が高い第2対象画像を得ることができる。第2対象画像に対しても、対象者PAの形状的又は骨格的な特徴部分に対応する計測点を抽出し、画像処理によって、計測点が人体の標準的な位置に配置されるように変形を加える。
【0030】
第1撮像装置50Aが取得した第1対象画像は、対象者PAの正面から左側にかけての斜め方向に解像度が高く、第2撮像装置50Bが取得した第2対象画像は、対象者PAの正面から右側にかけての斜め方向に解像度が高い。よって、制御装置70において、第1撮像装置50Aによって取得した第1対象画像と、第2撮像装置50Bによって取得した第2対象画像とを合成することで、より解像度又は精度が高い正対画像すなわち正面画像を得ることができる。第1対象画像と第2対象画像とを合成する手法としては、第1撮像装置50Aによって取得した第1対象画像のうち左半身側の画像部分(
図4(B)に示す走査線状領域SLn,SLp等に相当)と、第2撮像装置50Bによって取得した第2対象画像のうち右半身側の画像部分(図示省略)とを繋ぎ合わせることが考えられる。半身画像を繋ぎ合わせる際には、境界領域すなわち中央領域において連続的変化を達成するように画像の平滑化処理を伴うものとすることができる。第1対象画像と第2対象画像とを合成する手法は、半身画像を繋ぎ合わせるものに限らず、第1対象画像と第2対象画像とを加算平均するもの、或いは所定の重み付けで加算するものであってもよい。
【0031】
第3撮像装置50Cの検出面SS3は、+X方向と+Y方向との略中間方向に延びている。第3撮像装置50Cを動作させることによって、詳細な説明を省略するが、第1撮像装置50Aによる計測と同様の原理で、対象者PAの背面から左側にかけての斜め方向又は半身側で解像度が高い第3対象画像を得ることができる。また、第4撮像装置50Dの検出面SS4は、-X方向と+Y方向との略中間方向に延びている。第4撮像装置50Dを動作させることによって、詳細な説明を省略するが、第1撮像装置50Aによる計測と同様の原理で、対象者PAの背面から右側にかけての斜め方向又は半身側で解像度が高い第4対象画像を得ることができる。制御装置70は、第3撮像装置50Cによって取得した第3対象画像に対して、斜め方向から見た状態から正対方向から見た状態に変換する修正を加え、第4撮像装置50Dによって取得した第4対象画像に対して、斜め方向から見た状態から正対方向から見た状態に変換する視点的な修正を加える。さらに、制御装置70は、視点的な修正が加えられた第3対象画像と、視点的な修正が加えられた第4対象画像とを合成し、より解像度又は精度が高い正対画像すなわち背面画像を作成する。
【0032】
図6に示すように、制御装置70は、演算処理装置71と記憶装置72と通信装置73表示装置75とを含む。これらのうち、演算処理装置71と記憶装置72とは、画像処理装置70aとして機能する。演算処理装置71は、これに組み込まれたインターフェース回路(不図示)を介して撮像装置50A~50Dを構成する受信器51及び人感センサ55と通信し、受信器51及び人感センサ55の動作状態を管理する。この際、演算処理装置71は、受信器51の主走査によって得た画像を時系列的に合成して2次元画像としての対象画像を得る処理、対象画像に対して視点的な修正を加える処理、修正後の対象画像に対して枠状のピクトグラム像(具体的には起立した人の輪郭枠)を合成する処理、対象画像のうち人物に対応する領域内に比較的大きな影領域が存在する場合に影領域に対してマーキング(具体的には円その他の外縁線)を施す処理等を行う。その際、演算処理装置71は、視点的な修正が加えられた第1対象画像及び第2対象画像を合成して前側からの正対画像である正面画像を作成する。また、演算処理装置71は、視点的な修正が加えられた第3対象画像及び第4対象画像を合成して後側からの正対画像である背面画像を作成する。記憶装置72は、演算処理装置71を動作させるプログラムやデータを保管する。通信装置73は、外部システムとの連携を可能にするものであり、制御装置70と管理サーバとの交信を可能にし、監視結果を管理サーバに提供する。表示装置75は、監視員に検査結果を提示するものであり、例えば正面用のピクトグラム像が合成されマーキングが施された正面画像と、背面用のピクトグラム像が合成されマーキングが施された背面画像とを並べて表示する。
【0033】
図7(A)は、撮像装置50によって得た対象画像に対して視点的な修正を加えるための座標変換関数の算出を説明する図である。座標変換関数の目的は、目視観察を容易にするため、対象画像P中の人物部分Phを標準像SHに変形させることである。このことは、斜め方向からの観察像に対応する人物部分Phを正対方向から見た状態に相当する正面画像又は正対画像に変形することに対応する。人物部分Phにおいて、基準点I1(x1,y1)は、対象者PAの右肩に対応し、
図4(B)における計測点D11に相当し、基準点I2(x2,y2)は、対象者PAの左肩に対応し、
図4(B)における計測点D12に相当する。また、基準点I3(x3,y3)は、対象者PAの右膝に対応し、
図4(B)における計測点D13に相当し、基準点I4(x4,y4)は、対象者PAの左膝に対応し、
図4(B)における計測点D14に相当する。標準像SHは、標準的な体型を想定した輪郭である。標準像SHにおいて、基準点M1(x1',y1')は、右肩であり、基準点M2(x2',y2')は、左肩であり、基準点M3(x3',y3')は、右膝であり、基準点M4(x4',y4')は、左膝である。基準点M1~M4は、標準的な体型を想定して予め提供されるデータである。
【0034】
人物部分Phから基準点I1~I4を抽出する手法として、姿勢推定処理すなわち姿勢推定アルゴリズムを用いる。姿勢推定アルゴリズムは、人物部分Phの画像から胴体や手足を抽出し、人体の姿勢や関節を推定するものである。姿勢推定アルゴリズムとして公知のものを利用することができるが、撮像装置50によって得られる対象画像に特化したAI型の処理を行う姿勢推定ソフトウェアを用いることができる。姿勢推定ソフトウェアは、教師あり又は教師なしの深層学習を組み込んだ学習プログラムによって適正に動作するようなものとすることができる。姿勢推定ソフトウェアは、例えば撮像装置50によって得られる対象画像を入力することで、出力として関節構造JSを出力するものとする。関節構造JSは、具体的には、人物部分Ph中の肩関節及び膝関節の座標を含み、具体例では4つの基準点I1~I4の座標情報を含むものである。
【0035】
姿勢推定ソフトウェアによって得た基準点I1(x1,y1)~I4(x4,y4)は、座標変換関数によって、標準的な基準点M1(x1',y1')~M4(x4',y4')に変換される。このような座標変換関数によって、撮像装置50によって得られた対象画像が全体として座標変換され、対象画像の歪みが補正される。座標変換関数は、具体的にはホモグラフィ変換の手法を用いて得られる投影変換行列又は座標変換行列である。座標変換関数Hは、以下の式で与えられる。
ここで、h11,h12,h13,h21,h22,h23,h31,h32は、当初変数であり、(x,y)は、変換前の位置(x1,y1)~(x4,y4)を意味し、(x',y')は、返還後の位置(x1',y1')~(x4',y4')を意味する。また、W(x,y)は、変換前の位置(x,y)での対象画像の輝度情報である。(x1,y1)~(x4,y4)及び(x1',y1')~(x4',y4')の組み合わせから、変数h11,h12,h13,h21,h22,h23,h31,h32を計算することができ、座標変換関数Hを決定することができる。
【0036】
図7(B)は、撮像装置50によって得た対象画像Pに対して座標変換行列による投影変換を行う画像処理を説明する図である。元の対象画像Pは、視点に起因する歪を低減するような補正が施され、半身の正対画像である正面画像OPに変換される。なお、対象画像Pや正面画像OPには、比較的大きな影領域FAが存在し、影領域FAは所持物に相当すると考えれる。
【0037】
対象画像Pから影領域FAを抽出する手法として、物体検出アルゴリズムを用いる。物体検出アルゴリズムは、人物部分Phの画像から検出強度又は輝度が相対的に低い影領域FAの有無を判定するものであり、検出強度が低い領域が例えば直径10cmの円内に収まらないといった所定以上のサイズである場合や、検出強度の低い領域が検出強度の相対的に高い明示領域CAに囲まれている場合に、所持物に相当する影領域FAであると判断する。物体検出アルゴリズムは、撮像装置50によって得られる対象画像Pに特化した物体検出ソフトウェアである。物体検出ソフトウェアは、教師あり又は教師なしの深層学習を組み込んだ学習プログラムによって適正に動作するようなものとすることができる。
【0038】
図8は、修正後の正面画像OPに対して枠状のピクトグラム像PGを合成する処理等を説明する図である。ピクトグラム像PGは、人物に対応する輪郭線を有する枠状のパターンであり、起立した人物に対応する輪郭線G1と、白い頭部シルエットG2とを有する。加工後の正面表示像DPにおいて、右半身の正面画像OP1は、第1撮像装置50Aによって撮影した対象画像Pを座標変換関数によって歪補正し、ピクトグラム像PG外の映像を除去したものである。左半身の正面画像OP2は、第2撮像装置50Bによって撮影した対象画像Pを座標変換関数によって歪補正し、ピクトグラム像PG外の映像を除去したものである。正面画像OP1と正面画像OP2との繋ぎ目には、平滑化の画像処理が施されている。正面画像OP1については、影領域FAが検出されており、画像処理により、所持物の検出を示すマーキングとして、影領域FAを囲む検出マークDMが合成されている。検出マークDMは、影領域FAの外縁に沿ったものであるが、正確に外縁に沿って加工される必要はなく、図示のような円形や楕円とすることができる。
【0039】
図示を省略するが、背面表示像は、正面表示像DPと同様のものである。つまり、背面表示像は、第3撮像装置50Cによって撮影した対象画像Pを座標変換関数によって歪補正した右半身の背面画像と、第4撮像装置50Dによって撮影した対象画像Pを座標変換関数によって歪補正した左半身の背面画像とを繋ぎ合わせ、ピクトグラム像を重ね合わせて外側の像を除去し、影領域FAが存在する場合、検出マークDMを合成したものとなる。なお、背面表示像の場合、ピクトグラム像PGの頭部シルエットG2は、後頭部であり、顔面上のパターンを有しない。
【0040】
図9は、制御装置70又は演算処理装置71による処理を説明するフローチャートである。画像処理装置70aである演算処理装置71は、撮像装置50A~50Dを動作させ、撮像装置50A~50Dから対象画像Pを取り込む(ステップS11)。その後、演算処理装置71は、姿勢推定アルゴリズムを用いて、各対象画像Pから着目する関節に対応する基準点I1(x1,y1)~I4(x4,y4)を抽出する(ステップS12)。その後、演算処理装置71は、標準的な基準点M1(x1',y1')~M4(x4',y4')を設定する(ステップS13)。基準点M1(x1',y1')~M4(x4',y4')に関する情報は、例えば記憶装置72に予め保管されている。演算処理装置71は、基準点I1(x1,y1)~I4(x4,y4)を基準点M1(x1',y1')~M4(x4',y4')に変換する座標変換関数すなわち変換行列を計算する(ステップS14)。演算処理装置71は、座標変換関数に基づいて、各対象画像Pを変形し歪補正した正対画像を得る(ステップS15)。なお、撮像装置50A~50Dから得たすべての対象画像Pに対して座標変換関数による画像処理が行われ、右前の正面画像と、左前の正面画像と、右前の背面画像と、左前の背面画像とが得られる。右前の正面画像と左前の正面画像とは繋ぎ合わされ、ピクトグラム像PGが重ね合わされ、該当する場合は、検出マークDMが合成される(ステップS16)。同様に右前の背面画像と左前の背面画像とは繋ぎ合わされ、ピクトグラム像PGが重ね合わされ、該当する場合は、検出マークDMが合成される(ステップS16)。このようにして得られた正面表示像DPは、表示装置75に他の関連情報とともに表示される。正対画像にピクトグラム像PGを合成することにより、正対画像の人物の部位への当てはめが直感的で容易なものとなる。また、正対画像に対して影領域を囲む検出マークDMを合成することにより、所持物の有無の判定を機械的に支援することができ、検査の信頼性を高めることができる。
【0041】
以上で説明した実施形態の所持物検査装置100は、所定波長の電磁波であるテラヘルツ波等から対象画像Pを得る撮像装置50A~50Dと、対象画像Pに対して姿勢推定処理により決定した複数の基準点により座標変換関数Hを決定し、座標変換関数Hに基づいて対象画像Pを正対画像(具体的には正面画像又は背面画像)に変換する画像処理装置70aとを備える。
【0042】
上記所持物検査装置100では、画像処理装置70aが姿勢推定処理によって決定した基準点I1(x1,y1)~I4(x4,y4)により座標変換関数Hを決定し、座標変換関数Hに基づいて対象画像Pを正対画像に変換するので、対象画像Pが正対方向に対して傾いた面内にある計測点D11,D12,D13,D14について計測された場合であっても、計測点の分布に起因する対象画像Pの歪みを補正した正対画像を検査結果又は検査画像として表示することができる。これにより、係員が画像処理装置70aによって得た検査画像を目視で観察し、検査画像から所持物の有無を判定する際の信頼性を高めることができる。
【0043】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0044】
以上の説明では、所持物検査装置100が取り扱う電磁波RWについて、ミリ波長帯域からテラヘルツ波長帯域までのうちから定められた任意の波長帯域に設定できるとしたが、電磁波RWは、これに限らず、衣服等に対する透過性があれば、X線であってもよく、マイクロ波であってもよく、赤外線であってもよい。
【0045】
以上の説明では、撮像装置50が受信器51のみで構成されるとしたが、撮像装置50は、受信器51が検出する電磁波RWを発生し対象に向けて送信する送信器を備えるものであってもよい。
【0046】
以上の説明では、撮像によって取得した対象画像Pに対して姿勢推定処理又は姿勢推定アルゴリズムを行っているが、対象画像Pに対して台形補正といった前処理を行い前処理後の画像に対して姿勢推定処理を行うこともできる。この場合、前処理によって画像の歪を低減することができ、姿勢推定処理の精度をより向上させることができる。また、計測点D11~D14は、4つに限らず、例えば5点以上とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
50A~50D、50…撮像装置、11…窓、20…走査部、21…ミラー、22…回転駆動部、30…受信部、51…受信器、55…人感センサ、70…制御装置、70a…画像処理装置、71…演算処理装置、72…記憶装置、75…表示装置、100…所持物検査装置、D1…通過方向、D11,D12,D13,D14…計測点、DM…検出マーク、DP…正面表示像、DT…信号強度検出部、FA…影領域、GA…ゲート領域、I1~-I4…基準点、JS…関節構造、M1~-M4…基準点、OP,OP1,OP2…正面画像、P…対象画像、PA…対象者、PG…ピクトグラム像、Ph…人物部分、PW…通路、RW…電磁波、SH…標準像、SLk,SLn,SLp…走査線状領域、SS1,SS2,SS3,SS4…検出面