(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051869
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】重金属含有排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20230101AFI20240404BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20240404BHJP
【FI】
C02F1/62
C02F1/62 E
C02F1/58 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158239
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】濱 理奈
(72)【発明者】
【氏名】入佐 一之
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB59
4D038AB69
4D038AB71
4D038AB74
4D038AB87
4D038BB16
4D038BB17
4D038BB18
(57)【要約】
【課題】カルシウムイオンを含有する重金属含有排水、例えば、カドミウム、鉛、亜鉛から選択される1種以上の重金属を含有する排水を処理するにあたり、薬剤の添加量を極力抑え、効率よく処理できる方法を提供する。
【解決手段】カルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程と、前記炭酸塩を接触させた前記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程とを有することを特徴とする重金属含有排水の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程と、
前記炭酸塩を接触させた前記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程とを有する
ことを特徴とする重金属含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記カルシウムイオンを含有する重金属含有排水は、カドミウム、鉛及び亜鉛から選択される少なくとも1種を含有する排水である請求項1記載の重金属含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記キレート剤は、ジチオカルバミン酸系化合物及び/又はピペラジン系化合物である請求項1又は2記載の重金属含有排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムイオンを含有する重金属含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物などの焼却施設から発生する焼却灰について、脱塩洗浄処理してセメント原料として再利用することが知られている。これらの焼却灰には鉛、亜鉛、カドミウム、ヒ素、セレン、水銀などの重金属が含まれており、脱塩処理した排水にはこれらの重金属が多く含まれている。
また、セメント製造工程の塩素バイパス設備から回収されるダストにも重金属が多く含まれており、ダストを脱塩洗浄処理した排水についても、排水規制に適合するように重金属を除去する必要がある。
さらに、メッキ排水、塗装排水等もこれらの重金属を含有する排水であり、これらの重金属を除去して排水規制に適合するように処理する必要がある。
【0003】
このような重金属含有排水を処理する方法として、例えば、特許文献1には、カドミウムを含む廃水を曝気下において、炭酸カルシウムによる中和工程と、苛性ソーダによるpH調整工程と、生成された水酸化物を沈澱させる固液分離工程と、該工程で得られた上澄水をキレート剤に吸着させるキレート処理工程と、該液を濾過する濾過工程とからなるカドミウムを含む廃水の処理方法が開示されている。
また、特許文献2には、(a)排水中に酸化剤を添加して、排水中のCOD成分である窒素-硫黄化合物を分解した後、さらに還元剤を添加して、過剰の酸化剤を分解除去するCOD成分分解工程と、(b)該COD成分分解工程で処理された排水に、重金属捕集用キレート剤と、アルミニウム化合物と、pH調整用アルカリ剤とを添加し、フッ素および重金属を含む固形物を析出させて分離する凝集沈澱工程(A)と、(c)該凝集沈澱工程(A)で処理された排水に、炭酸ナトリウムとpH調整用アルカリ剤とを添加し、カルシウムおよびフッ素を含む固形物を析出させて分離する凝集沈澱工程(B)とを含む排煙脱硫排水の処理方法が開示されている。
また、特許文献3には、重金属を含有する排水に重金属捕集剤を添加して蒸発濃縮し、蒸発濃縮によって発生した蒸気を凝縮させて純水製造用原水として回収する重金属含有排水からの高純度凝縮水の回収方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の重金属含有排水の処理方法は、重金属の含有量を十分に低減させるためには薬剤の添加量を多くする必要があった。また、排水中の重金属の含有量を十分に低減させる過程に、固液分離や気液分離をしたのちに薬剤を添加するなどの工程を設ける必要があり、より効率よく簡便な重金属の除去が可能な排水処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-099688号公報
【特許文献2】特開平11-137958号公報
【特許文献3】特開2000-024640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、カルシウムイオンを含有する重金属含有排水、例えば、カドミウム、鉛、亜鉛から選択される1種以上の重金属を含有する排水を処理するにあたり、薬剤の添加量を極力抑え、効率よく処理できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カルシウムイオンを含む重金属含有排水を炭酸塩及びキレート剤の順に接触させることで、薬剤の添加量を抑制しつつ重金属の処理を高効率で行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
(1)本発明は、カルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程と、前記炭酸塩を接触させた前記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程とを有することを特徴とする重金属含有排水の処理方法である。
(2)また本発明は、前記カルシウムイオンを含有する重金属含有排水は、カドミウム、鉛及び亜鉛から選択される少なくとも1種を含有する排水である(1)記載の重金属含有排水の処理方法である。
(3)また、本発明は、前記キレート剤は、ジチオカルバミン酸系化合物及び/又はピペラジン系化合物である(1)又は(2)記載の重金属含有排水の処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薬剤の添加量を極力抑え、効率よく重金属を含有する排水の処理をすることができる。
すなわち、本発明によれば、排水中に含まれる重金属の含有量が環境省が定める一般排水基準値を充足でき、本発明の方法で処理した排水をそのまま自然界に放出しても、環境に対する影響が非常に少なくできることから、本発明の方法は産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0011】
本発明に係る重金属含有排水の処理方法(以下、本発明に係る処理方法ともいう)は、カルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程を有する。
本発明において、上記重金属含有排水とは重金属を含有する排水であり、例えば、一般廃棄物や産業廃棄物などの焼却施設からの排水や火力発電所の脱硫排水のほか、化学工場、鉱山、製錬所、製鉄所、鍍金工場等からの排水等が挙げられる。
【0012】
本発明に係る処理方法において、上記カルシウムイオンを含有する重金属含有排水は、カドミウム、鉛及び亜鉛から選択される少なくとも1種を含有する排水であることが好ましい。
排水に含有されるカドミウム、鉛及び亜鉛のほとんどは、環境省が定める一般排水基準の有害物質に指定されており、その許容濃度は極めて低い。また鉛、亜鉛は両性金属に属し、各々に適した処理条件が異なる。これら重金属類が共存する状態で各々の一般排水基準を満たしつつ一括処理することが重要であった。本発明に係る処理方法によると、重金属としてカドミウム、鉛及び亜鉛から選択される少なくとも1種を含有する排水であっても一般排水基準を満たしつつ一括処理することが可能である。
【0013】
本発明に係る処理方法において、上記重金属含有排水はカルシウムイオンを含有する。
上記カルシウムイオンは、後述する炭酸塩と反応することで炭酸カルシウムを形成するが、その際上記排水中の重金属を捕集する。その結果、例えば、排水中に含まれる重金属濃度の上限は、10mg/L程度に適応される。
上記重金属含有排水におけるカルシウムイオンとしては特に限定されないが、例えば、350~4000mg/L程度であることが好ましい。350mg/L未満であると本発明に係る処理方法により十分な重金属の処理ができないことがあり、4000mg/Lを超えるとスラッジ量が増加し、産業廃棄物コストが高くといったデメリットを生ずることがある。上記カルシウムイオンのより好ましい下限は400mg/L、より好ましい上限は2000mg/Lである。
なお、本発明に係る処理方法では、上記重金属含有排水中のカルシウムイオンが上述した範囲未満である場合、例えば、塩化カルシウム、臭化カルシウム、よう化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム等を添加する等してカルシウムイオンが上述した範囲に入るよう適宜調整することが好ましい。
【0014】
本工程では、上記カルシウムイオンを含む重金属含有排水に炭酸塩を接触させる。
上記炭酸塩を重金属含有排水に接触させることで、該重金属含有排水中のカルシウムイオンと上記炭酸塩とが反応して水不溶性の炭酸カルシウムが生成されるが、この炭酸カルシウムは、生成時に上記重金属含有排液中に含まれる重金属を捕集して沈降する。
上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
なお、本発明では、上記重金属含有排水に含まれるカルシウムイオンと反応して水不溶性化合物を生成し、その際に重金属を捕集するものであれば上述した炭酸塩以外の化合物を本工程で上記重金属含有排水と接触させてもよい。
このような化合物としてはカルシウムイオンと反応して水不溶性化合物を生成するものであれば特に限定されず、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の無機塩、シュウ酸、酒石酸、クエン酸などのジカルボン酸やヒドロキシ酸等の有機酸や二酸化炭素等が挙げられる。
【0015】
上記炭酸塩の添加量としては、上記重金属含有排水に含まれるカルシウムイオンに対するモル比で0.5~5.0であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0である。上記モル比が0.5未満であると、炭酸カルシウムの生成及び重金属の捕集が不十分となり、最終的な本発明による重金属の処理が不十分となることがあり、上記モル比が5.0を超えると、薬剤の使用量が多くなり非経済的となることがある。
【0016】
本工程で上記重金属含有排水と炭酸塩とを接触させる方法としては、上記重金属含有排水中に炭酸塩を添加して攪拌混合する方法や、上記重金属含有排水に乱流を生じる流路や装置において上記炭酸塩を添加する方法等が挙げられ、上記炭酸塩以外の化合物として二酸化炭素のような気体を本工程で重金属含有排水と接触させる場合は通気により排水と接触させる方法等が挙げられる。
【0017】
本発明に係る処理方法は、次いで、上記炭酸塩を接触させた上記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程を有する。
本工程では、上述した炭酸塩を接触させた上記重金属含有排水にキレート剤を接触させることで、該重金属含有排水中に残留した重金属がキレート剤に捕集される。
【0018】
上記キレート剤としては上記重金属を捕集できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジチオカルバミン酸系化合物及び/又はピペラジン系化合物であることが好ましい。
【0019】
上記ジチオカルバミン酸系化合物としては、例えば、ジチオカルバミン酸、ジアルキルジチオカルバミン酸、シクロアルキルジチオカルバミン酸、テトラエチレンペンタミンジチオカルバミン酸、ポリアミンのジチオカルバミン酸、若しくはこれらの塩、ポリアルキレン(炭素数2~4)ポリアミンが5~80モル%のジチオカルバミン酸で修飾されたポリアルキレンポリアミンを含有する高分子化合物、及び、ポリアルキレン(炭素数2~4)ポリイミンが2~80モル%のジチオカルバミン酸で修飾されたポリアルキレンポリイミンを含有する高分子化合物が挙げられる。
上記ピペラジン系化合物としては、例えば、ジカリウム=ピペラジン-1,4-ジカルボチアート等が挙げられる。
【0020】
上記キレート剤の添加量としては上記重金属含有排水中に残留した重金属を捕集して一般排水基準を充足する排水にできる量であれば特に限定されないが、20~1000mg/Lであることが好ましく、50~500mg/Lであることがより好ましい。20mg/L未満であると重金属の捕集が不十分で一般排水基準を充足する排水とすることができないことがあり、1000mg/Lを超えると、スラッジ量の増加や薬剤コストの増加により非経済的となることがある。
【0021】
上記キレート剤を上記重金属含有排水に接触させる方法としては、例えば、上記重金属含有排水中にキレート剤を添加して攪拌混合する方法や、上記重金属含有排水に乱流を生じる流路や装置において上記キレート剤を添加する方法等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る処理方法は、上述したカルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程、及び、上記炭酸塩を接触させた上記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程をこの順に行うことで、処理後の重金属含有排水中の重金属の含有量が一般排水基準を満たす程度まで低減されたものとなり、薬剤の添加量を抑制しつつ重金属の処理を高効率で行うことができる。
この理由は明確ではいないが、カルシウムイオンを含む重金属含有排水に、炭酸塩を接触させる工程における炭酸カルシウムの生成と併せた重金属捕集効果と、上記炭酸塩を接触させた上記重金属含有排水にキレート剤を接触させる工程におけるキレート剤による重金属捕集効果とが相乗的に働くためであると推測される。
【0023】
また本発明に係る処理方法は、排水処理フローの一部に組み込むことができ、排水中に含まれる重金属処理以外の有害物処理を前段、後段に組み合わせてもよい。このような有害物処理としては、例えば、過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を用いたシアン処理やアンモニア処理等が挙げられる。
また反応で生じた懸濁物質を除去する工程も適宜選択してもよく、このような工程としては、例えば、砂濾過等を用いた濾過工程や、ポリ塩化アルミニウムや塩化第二鉄等の無機凝結剤や、高分子凝集剤をさらに添加することによる固液分離工程等が挙げられる。
【実施例0024】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(試験水の準備)
国内の某焼却施設の排水を、カルシムイオンを含む重金属含有排水の試験水として採取して成分を分析し表1に示した。
【0026】
【0027】
(実施例1~2)
試験水300mLをビーカーに量り取り、炭酸ナトリウム(20w/v%)を使用し、炭酸ナトリウムとして表2に示した量となるように添加し、30分間攪拌した。
その後、ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)を表2に示した量となるように添加し、5分間攪拌した。
【0028】
(比較例1~3)
試験水300mLをビーカーに量り取り、炭酸ナトリウム(20w/v%)を使用し、炭酸ナトリウムとして表2に示した量となるように添加し、35分間攪拌した。
【0029】
(比較例4~6、参考例1)
試験水300mLをビーカーに量り取り、30分間撹拌した。
その後、ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)を表2に示した量となるように添加し、5分間攪拌した。
【0030】
(比較例7~8)
試験水300mLをビーカーに量り取り、ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)を表2に示した量となるように添加し、5分間攪拌した。
その後、炭酸ナトリウム(20w/v%)を使用し、炭酸ナトリウムとして表2に示した量となるように添加し、30分間攪拌した。
【0031】
実施例、比較例及び参考例で得られた各処理排水に対し、カドミウム、鉛及び亜鉛の各濃度を分析し、結果を表2に示した。
【0032】
【0033】
表2に示したように、カルシウムイオンを含む重金属含有排水に対し、炭酸塩(炭酸ナトリウム)を接触させた後、キレート剤を接触させた実施例1、2は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったのに対し、炭酸塩(炭酸ナトリウム)だけを接触させた比較例1~3、キレート剤だけを接触させた比較例4~6、キレート剤を接触させた後、炭酸塩(炭酸ナトリウム)を接触させた比較例8、9は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満ではなかった。
一方、参考例1は、カドミウム、鉛及び亜鉛の濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったが、キレート剤の濃度が400mg/Lであり、薬剤の添加量が実施例と比較して高濃度で、薬剤の添加量の抑制が不十分であった。
【0034】
(合成水の調製)
表1に示した試験水の分析結果に基づき、下記表3に示す合成水を調製した。
【0035】
【0036】
(実施例3~4)
合成水300mLをビーカーに量り取り、炭酸ナトリウム(20w/v%)を使用し、炭酸ナトリウムとして表4に示した量となるように添加し、30分間攪拌した。
その後、ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)を表4に示した量となるように添加し、5分間攪拌した。
【0037】
(比較例9~12)
合成水300mLをビーカーに量り取り、炭酸ナトリウム(20w/v%)を使用し、炭酸ナトリウムとして表4に示した量となるように添加し、35分間攪拌した。
【0038】
(比較例13~14、参考例2)
合成水300mLをビーカーに量り取り、30分間撹拌した。
その後、ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)を表4に示した量となるように添加し、5分間攪拌した。
【0039】
実施例、比較例及び参考例で得られた各処理排水に対し、カドミウム、鉛及び亜鉛の各濃度を分析し、結果を表4に示した。
【0040】
【0041】
表4に示したように、カルシウムイオンと重金属とを含有する合成水に対し、炭酸塩(炭酸ナトリウム)を接触させた後、キレート剤を接触させた実施例3、4は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったのに対し、炭酸塩(炭酸ナトリウム)だけを接触させた比較例9~12、キレート剤だけを接触させた比較例13~14は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満ではなかった。
一方、参考例2は、カドミウム、鉛及び亜鉛の濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったが、キレート剤の濃度が150mg/Lであり、薬剤の添加量が実施例と比較して高濃度で、薬剤の添加量の抑制が不十分であった。
【0042】
(実施例5)
ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所社製、フロクラン7000)に代えてピペラジン系キレート剤(東ソー社製、TX-20)を用い、表5に示した量となるように添加した以外は、実施例3と同様にした。
【0043】
(比較例15~17、参考例3)
ジチオカルバミン酸系キレート剤(片山化学工業研究所製、フロクラン7000)に代えてピペラジン系キレート剤(東ソー社製、TX-20)を用い、表5に示した量となるように添加した以外は、比較例14と同様にした。
【0044】
実施例、比較例及び参考例で得られた各処理排水に対し、カドミウム、鉛及び亜鉛の各濃度を分析し、結果を表5に示した。
【0045】
【0046】
表5に示したように、実施例5は、キレート剤としてピペラジン系化合物を用いた場合であっても、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったのに対し、キレート剤だけを接触させた比較例15~17は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満ではなかった。
一方、参考例3は、カドミウム、鉛及び亜鉛の濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったが、キレート剤の濃度が400mg/Lであり、薬剤の添加量の抑制が実施例と比較して高濃度であった。
【0047】
(実施例6~8、参考例4)
合成水中のカルシウムイオンを表6に示した量に変えた以外は、実施例3と同様にした。
【0048】
【0049】
表6に示したように、カルシウムイオンが400~800mg/Lの実施例6~8は、カドミウム、鉛及び亜鉛の全ての濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L、Zn:2.0mg/L)未満であったのに対し、カルシウムイオンが300mg/Lの参考例4は、カドミウム及び鉛の濃度が環境省の定める一般排水基準値(Cd:0.03mg/L、Pb:0.1mg/L)未満ではなかった。
【0050】
以上の試験結果より、次のことが分かった。
(1)実施例の結果より、カルシウムイオンを含む重金属含有排水を、炭酸塩及びキレート剤の順に接触させることで、重金属(カドミウム、鉛及び亜鉛)は、環境省の定める環境省の定める一般排水基準値未満の濃度に処理できる。
(2)比較例7、8の結果より、カルシウムイオンを含む重金属含有排水を、キレート剤及び炭酸塩の順に接触させた場合、重金属(カドミウム、鉛及び亜鉛)は、環境省の定める一般排水基準値未満の濃度とならない。
(3)比較例1~6、9~17より、炭酸塩又はキレート剤単独では実施例と同程度の添加量では、重金属(カドミウム、鉛及び亜鉛)は、環境省の定める環境省の定める一般排水基準値未満の濃度とならないが、参考例1~3より、実施例と比較して過剰に添加することで、重金属(カドミウム、鉛及び亜鉛)は、環境省の定める環境省の定める一般排水基準値未満となる。