(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051871
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240404BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240404BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240404BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20240404BHJP
F16J 15/447 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/18
F16J15/3256
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158244
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲田 大介
(72)【発明者】
【氏名】森本 諒太
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA02
3J042DA03
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA09
3J043DA20
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA02
3J216BA04
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC35
3J216CC42
3J216CC68
3J216DA01
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701EA49
3J701FA31
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】外力によってスリンガ部材と芯体部材とが分離してしまうことを抑制するとともに、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制する密封装置を提供する。
【解決手段】環状空間Sを密封する密封装置10であって、芯体部材11及びスリンガ部材13のうち少なくとも一方の部材は、軸方向の外側に傾斜して他方の部材側に突出するとともに、前記他方の部材と近接してラビリンスR1を形成する弾性体製の第1突出部を備え、前記芯体部材が第1突出部125を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記スリンガ部材における前記第1突出部よりも軸方向の内側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている一方、前記スリンガ部材が第1突出部148を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記芯体部材における前記第1突出部よりも軸方向の外側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間を密封する密封装置であって、
前記外側部材の内周面に嵌合される芯体部材と、前記内側部材の外周面に嵌合されるスリンガ部材とを備え、
前記芯体部材は、前記外側部材の内周面に嵌合される第1円筒部と、該第1円筒部の軸方向の内側の端部から径方向の内側に延びる第1円輪部と、該第1円輪部に固着され、前記スリンガ部材に近接又は摺接する弾性体製のシールリップとを備え、
前記スリンガ部材は、前記内側部材の前記外周面に嵌合される第2円筒部と、該第2円筒部の軸方向の外側の端部から径方向の外側に延びる第2円輪部とを備え、
前記芯体部材及び前記スリンガ部材のうち少なくとも一方の部材は、軸方向の外側に傾斜して前記他方の部材側に突出するとともに、前記他方の部材と近接してラビリンスを形成する弾性体製の第1突出部を備え、
前記芯体部材及び前記スリンガ部材のうち少なくとも一方の部材は、前記第1突出部の先端部よりも軸方向の外側に配された突出面を備えており、
前記芯体部材が前記第1突出部を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記スリンガ部材における前記第1突出部よりも軸方向の内側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている一方、
前記スリンガ部材が前記第1突出部を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記芯体部材における前記第1突出部よりも軸方向の外側に位置する部分の一部と軸方向に重なっていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1突出部に隣接して、軸方向の外側に開口した凹状の空間部を備えており、
前記空間部は、前記第1突出部の軸方向の外側の面と、前記第1突出部に隣接する部材の面の一部とに囲まれて形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記他方の部材は、前記第1突出部の少なくとも前記先端部が挿入される凹部を備えており、
前記ラビリンスは、前記第1突出部と前記凹部との隙間によって形成されることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記一方の部材は、前記第1突出部よりも軸方向の内側に配され、前記他方の部材側に突出して前記他方の部材に近接する第2突出部を備えることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記他方の部材は、前記一方の部材側に突出して前記第1突出部と前記第2突出部との間に介在し、前記一方の部材に近接する第3突出部を備えることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、
前記第1円輪部の軸方向の内側の面に固着されている弾性体製の弾性円輪部を備え、
前記弾性円輪部は、前記芯体部材よりも軸方向の内側に配されることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2において、
前記スリンガ部材は、前記第2円輪部の径方向の外側の端部から軸方向の内側に延びて前記第1円筒部と対向する第3円筒部をさらに備え、
前記芯体部材は、前記第1突出部を備えており、
前記第3円筒部の軸方向の内側の端部は、前記第1突出部の前記先端部よりも径方向の内側に位置し、
前記第2円輪部は、前記第1突出部と軸方向に重なる部分を備えることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車輪の軸受装置には、外部からの泥水やダスト等の異物の侵入を抑制するために、上述のような外側部材と内側部材との間を密封する密封装置が装着されている。このような密封装置では、芯体部材に設けられたシールリップがスリンガ部材に接触することで、外部から侵入してきた泥水等の異物が軸受装置の内部に侵入することを抑制している。
【0003】
上述のような密封装置では、スリンガ部材に接触するシールリップの本数が増えるとそれに伴いトルクが増大しやすい傾向にある。スリンガ部材の円筒部に向けて延出するグリースリップは、スリンガ部材に接触しているが、そのグリースリップのスリンガ部材に対する締め代を小さくしたり、グリースリップをスリンガ部材とは非接触に形成したりすることで、トルクの増加を抑制する密封装置がある。しかしながら、このような密封装置は、グリースリップによるスリンガ部材に対する締め代が小さいまたは締め代がないために、梱包時・搬送時・軸受装置への組付け時などに外部からの衝撃(外力)によってスリンガ部材が芯体部材から脱落して分離してしまうおそれがある。
【0004】
梱包時・搬送時・軸受装置への組付け時などに外力によってスリンガ部材が芯体部材から脱落して分離してしまうことを抑制するために、下記特許文献1では、フランジ部(101)と軸方向に重なるばらけ防止部(92)を有する密封装置が開示されている。また、下記特許文献2では、密封装置は軸受装置(10)に組付けられることで軸方向の外側に変形する係止リップ(64)を備えていることが開示されている。そして、変形した係止リップ(64)は、エンコーダ(34)の傾斜面(39)との間にわずかな隙間によるラビリンスを形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-087901号公報
【特許文献2】特開2021-191966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2の密封装置は、上述のような構成にすることで、外力によってスリンガ部材が芯体部材から脱落して分離してしまうことを抑制することができる。ところが、特許文献1の密封装置は、特許文献1・
図3に示すように、ばらけ防止部(92)が径方向の内側に向けて略垂直に形成されてフランジ部(101)と軸方向に重なっている。そのため、ばらけ防止部(92)が周方向の全周に亘って形成されてフランジ部(101)と軸方向に重なっていると、密封装置内に泥水等の異物が侵入した場合に異物が排出されにくくなる懸念がある。また、特許文献2の密封装置は、軸受装置(10)に組付けられた際に係止リップ(64)が適切に変形しないと、傾斜面(39)に摺接してしまいトルクが増大する懸念がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、外力によってスリンガ部材と芯体部材とが分離してしまうことを抑制するとともに、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制する密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の密封装置は、相対的に回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間を密封する密封装置であって、前記外側部材の内周面に嵌合される芯体部材と、前記内側部材の外周面に嵌合されるスリンガ部材とを備え、前記芯体部材は、前記外側部材の内周面に嵌合される第1円筒部と、該第1円筒部の軸方向の内側の端部から径方向の内側に延びる第1円輪部と、該第1円輪部に固着され、前記スリンガ部材に近接又は摺接する弾性体製のシールリップとを備え、前記スリンガ部材は、前記内側部材の前記外周面に嵌合される第2円筒部と、該第2円筒部の軸方向の外側の端部から径方向の外側に延びる第2円輪部とを備え、前記芯体部材及び前記スリンガ部材のうち少なくとも一方の部材は、軸方向の外側に傾斜して前記他方の部材側に突出するとともに、前記他方の部材と近接してラビリンスを形成する弾性体製の第1突出部を備え、前記芯体部材及び前記スリンガ部材のうち少なくとも一方の部材は、前記第1突出部の先端部よりも軸方向の外側に配された突出面を備えており、前記芯体部材が前記第1突出部を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記スリンガ部材における前記第1突出部よりも軸方向の内側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている一方、前記スリンガ部材が前記第1突出部を備えている場合には、該第1突出部の少なくとも一部は、前記芯体部材における前記第1突出部よりも軸方向の外側に位置する部分の一部と軸方向に重なっていることを特徴とする。
【0009】
上記密封装置において、前記第1突出部に隣接して、軸方向の外側に開口した凹状の空間部を備えており、前記空間部は、前記第1突出部の軸方向の外側の面と、前記第1突出部に隣接する部材の面の一部とに囲まれて形成されてもよい。
【0010】
また、上記密封装置において、前記他方の部材は、前記第1突出部の少なくとも前記先端部が挿入される凹部を備えており、前記ラビリンスは、前記第1突出部と前記凹部との隙間によって形成されてもよい。
【0011】
また、上記密封装置において、前記一方の部材は、前記第1突出部よりも軸方向の内側に配され、前記他方の部材側に突出して前記他方の部材に近接する第2突出部を備えてもよい。
【0012】
また、上記密封装置において、前記他方の部材は、前記一方の部材側に突出して前記第1突出部と前記第2突出部との間に介在し、前記一方の部材に近接する第3突出部を備えてもよい。
【0013】
また、上記密封装置において、前記第1円輪部の軸方向の内側の面に固着されている弾性体製の弾性円輪部を備え、前記弾性円輪部は、前記芯体部材よりも軸方向の内側に配されてもよい。
【0014】
また、上記密封装置において、前記スリンガ部材は、前記第2円輪部の径方向の外側の端部から軸方向の内側に延びて前記第1円筒部と対向する第3円筒部をさらに備え、前記芯体部材は、前記第1突出部を備えており、前記第3円筒部の軸方向の内側の端部は、前記第1突出部の前記先端部よりも径方向の内側に位置し、前記第2円輪部は、前記第1突出部と軸方向に重なる部分を備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の密封装置は上述した構成とされるため、外力によってスリンガ部材と芯体部材とが分離してしまうことを抑制するとともに、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】各実施形態に係る密封装置が装着される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
【
図2】
図1のX部の拡大図であって、第1実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
【
図3】(a)は軸受装置に同密封装置を装着する前の状態を示す概略的縦断面図、(b)は同密封装置の芯体部材とスリンガ部材との分離の抑制を説明するための概略的縦断面図、(c)は同密封装置を複数積み重ねた状態を示す概略的縦断面図である。
【
図4】同実施形態の第1の変形例に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
【
図5】(a)は同実施形態の第2の変形例に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図、(b)は(a)のZ1部の拡大図であって、同密封装置の芯体部材とスリンガ部材との分離の抑制を説明するための概略的縦断面図である。
【
図6】同実施形態の第3の変形例に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
【
図7】(a)は第2実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図、(b)は(a)のZ2部の拡大図であって、同密封装置の芯体部材とスリンガ部材との分離の抑制を説明するための概略的縦断面図である。
【
図8】同実施形態の変形例に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
【
図9】(a)~(d)は、
図2、
図4、
図6、
図8に示す密封装置における第3円筒部を備えないさらなる変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態に係る密封装置について説明する。なお、一部の図には他図に付している詳細な符号の一部を省略している。また、以下において軸Lに沿って車輪に向く側(
図1等において左側)を軸方向の内側、車体に向く側(
図1等において右側)を軸方向の外側とする。また、図面において弾性体製のシール部12において二点鎖線で示す部分は変形前の原形状を示す。
【0018】
密封装置10は、相対的に回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間Sを密封する。密封装置10は、外側部材の内周面2cに嵌合される芯体部材11と、内側部材の外周面4bに嵌合されるスリンガ部材13とを備える。芯体部材11は、外側部材の内周面2cに嵌合される第1円筒部111と、第1円筒部111の軸方向の内側の端部111dから径方向の内側に延びる第1円輪部112とを備える。また、芯体部材11は、第1円輪部112に固着され、スリンガ部材13に近接又は摺接する弾性体製のシールリップ121,122a,122bを備える。スリンガ部材13は、内側部材の外周面4bに嵌合される第2円筒部131と、第2円筒部131の軸方向の外側の端部131cから径方向の外側に延びる第2円輪部132とを備える。芯体部材11及びスリンガ部材13のうち少なくとも一方の部材は、軸方向の外側に傾斜して他方の部材側に突出するとともに、他方の部材と近接してラビリンスR1を形成する弾性体製の第1突出部を備える。芯体部材11及びスリンガ部材13のうち少なくとも一方の部材は、第1突出部の先端部よりも軸方向の外側に配された突出面を備えている。
図2~
図6に示す第1実施形態及びその変形例では、芯体部材11が第1突出部125を備えており、第1突出部125の少なくとも一部は、スリンガ部材13における第1突出部125よりも軸方向の内側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている。一方、
図7、
図8に示す第2実施形態及びその変形例では、スリンガ部材13が第1突出部148を備えており、第1突出部148の少なくとも一部は、芯体部材11における第1突出部148よりも軸方向の外側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている。
以下、詳しく説明する。まず、
図1、
図2、
図3を参照しながら、第1実施形態に係る密封装置10について説明する。
【0019】
<軸受装置>
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、上述の外側部材に相当する外輪2と、上述の内側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状空間Sが形成される。環状空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向の外側に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。
【0020】
環状空間Sの軸方向に沿った両端部であって、外輪2と内輪部材4との間、及び、外輪2とハブ輪3との間には、密封装置10,20が装着され、環状空間Sの軸方向に沿った両端部が密封される。これによって、環状空間S内への泥水等の浸入や環状空間S内に充填されている潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
【0021】
<第1実施形態>
図2は、
図1のX部を拡大した部分断面図であり、
図2には、第1実施形態に係る密封装置10を示している。密封装置10は、車輪側となる外輪2と内輪部材4との間の軸方向の外側の端部に装着されて、環状空間Sを密封する。次に、密封装置10を構成する各部材について説明する。
【0022】
芯体部材11は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、
図2に示すように片側の断面が略逆L字形状の円筒形とされる。芯体部材11は、外輪2の内周面2cに嵌合される第1円筒部111と、第1円筒部111の軸方向の内側の端部111dから径方向の内側に延びる第1円輪部112とを備える。また、芯体部材11は、シールリップ121,122a,122bが形成された弾性体製のシール部12が固着されている。
【0023】
シール部12は、ゴム等の弾性体からなり、芯体部材11に対して加硫接着されることで一体成形されている。シール部12は、シール基部120と、シール基部120から延出されたシールリップ121,122a,122bと、環状突部123と、弾性円輪部124と、第1突出部125と、突出面126と、空間部127とを有する。
【0024】
シール基部120は、第1円輪部112の軸方向の内側の面112dにおける径方向の内側の一部を覆って第1円輪部112の径方向の内側の端部112bを回り込み、第1円輪部112の軸方向の外側の面112cの全面を覆う。さらに、シール基部120は、第1円筒部111の内周面111bの全面を覆って軸方向の外側の端部111cを回り込んで凹部111aaに至る。凹部111aaは、第1円筒部111の外周面111aにおける軸方向の外側の一部が径方向の内側に凹んで形成されている。この凹部111aaに至った部分におけるシール基部120の外周面には、径方向の外側に隆起する環状突部123が形成されている。環状突部123が外輪2の内周面2cと凹部111aaとの間に圧縮状態で介在することによって、外輪2と第1円筒部111との間に泥水等の異物の侵入を抑制することができる。
【0025】
また、シール部12は、第1円輪部112の軸方向の内側の面112dに固着されている弾性円輪部124を備えている。弾性円輪部124は、芯体部材11のよりも軸方向の内側に配されており、第1円輪部112の軸方向の内側の面112dから軸方向の内側に突出している。また、この弾性円輪部124は、後述するスリンガ部材13が備える突出面142と軸方向に重なる位置に設けられている。
【0026】
シールリップ121は、シール基部120から軸方向の外側に延出しながら拡径して第2円輪部132の軸方向の内側の面132dに弾接して摺接するアキシャルリップである。また、シールリップ122aは、シール基部120から軸方向の外側に延出しながら縮径して第2円筒部131の外周面131aに近接するラジアルリップである。また、シールリップ122bは、シール基部120から軸方向の内側に延出しながら縮径して第2円筒部131の外周面131aに近接するグリースリップである。シールリップ122a,122bは、シールリップ121とは異なり、スリンガ部材13に接触しない構成となっている。
【0027】
芯体部材11は、軸方向の外側に傾斜してスリンガ部材13側に突出するとともに、スリンガ部材13と近接して第1ラビリンスR1を形成する第1突出部125を備えている。本実施形態の第1突出部125は、第1円筒部111の内周面111bを覆うシール基部120から径方向の内側に延出しながら軸方向の外側に傾斜して設けられている。第1突出部125は、その先端部125aが第1円筒部111の軸方向の外側の端部111cよりも軸方向の外側に位置するように設けられている。第1実施形態における第1突出部125は、外部空間側(軸方向の外側)に露出する位置に設けられている。これにより、第1突出部125は、外部空間側から視認可能に構成されている。また、この第1突出部125は、第1突出部125よりも軸方向の内側に位置する後述する外縁部143と軸方向に重なっている。
【0028】
芯体部材11は、第1突出部125の先端部125aよりも軸方向の外側に配された突出面126を備えている。この突出面126は、第1円筒部111の軸方向の外側の端部111cを覆う部分のシール基部120における軸方向の外側の面である。また、第1突出部125の径方向の外側には、第1突出部125に隣接して、軸方向の外側に開口した凹状の空間部127が設けられている。空間部127は、第1突出部125の軸方向の外側の面125bと、第1突出部125に隣接する部材の面の一部とに囲まれて形成されている。本実施形態では、空間部127は、第1突出部125の軸方向の外側の面125bと、シール基部120における第1突出部125の軸方向の外側に隣接する部分の面120aとに囲まれて形成されている。
【0029】
スリンガ部材13は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、
図2に示すように片側の断面が略逆C字形状の円筒形のスリンガ本体部130とスリンガ本体部130の一部を覆う磁性ゴム製のスリンガ覆い部14とを備える。スリンガ本体部130は、内輪部材4の外周面4bに嵌合する第2円筒部131と、第2円筒部131の軸方向の外側の端部131cから径方向の外側に延びる第2円輪部132とを備える。第2円輪部132は、第1突出部125よりも軸方向の内側に位置している。また、スリンガ本体部130は、第2円輪部132の径方向の外側の端部132aから軸方向の内側に延びて第1円筒部111と径方向に対向する第3円筒部133をさらに備える。第3円筒部133の軸方向の内側の端部133dは、第1突出部125の先端部125aよりも径方向の内側に位置している。また、第1実施形態では、第2円輪部132は、その軸方向外側の全面が、スリンガ覆い部14によって覆われている。
【0030】
スリンガ部材13は、スリンガ本体部130の一部を覆う磁性ゴム製のスリンガ覆い部14を備えている。スリンガ覆い部14は、第2円輪部132よりも弾性を有する。スリンガ覆い部14は、第2円輪部132の軸方向の外側の面132cを覆う円輪覆い部141と、第3円筒部133の外周面133aを覆う円筒覆い部144とを備える。円輪覆い部141は、軸方向の外側の面が第1突出部125よりも軸方向の外側に位置しており、この面が突出面142となる。さらに、この突出面142は、シール部12の突出面126よりも軸方向の外側に位置している。
【0031】
円輪覆い部141は、N極とS極とが周方向に交互に着磁されている。円輪覆い部141は、車体に設けられた磁気センサ(不図示)に対峙するように設けられており、磁気センサと協働して車輪の回転速度等を検出することができる磁気エンコーダとして構成されている。
【0032】
円輪覆い部141の径方向の外側には、軸方向の外側に面取りされた外縁部143が設けられている。外縁部143は、径方向外側に向かう程、軸方向内側に傾くように傾斜するとともに、第1突出部125の軸方向の内側の面125cと平行となるように形成されている。外縁部143は、径方向の外側の端部143aとその近傍部分が第1突出部125の先端部125aと軸方向に重なっている。そして、外縁部143から軸方向の内側に延出して、第3円筒部133の外周面133aを覆う円筒覆い部144が設けられている。円筒覆い部144は、外縁部143の径方向の外側の端部143aから軸方向の内側にかけて傾斜して縮径する外周面144aが形成されている。また、スリンガ覆い部14は、第3円筒部133の軸方向の内側の端部133dを覆う端部覆い部145が形成されている。
【0033】
第1突出部125は、スリンガ部材13が備えるスリンガ覆い部14の外縁部143に近接して、片側縦断面形状が傾斜状のラビリンスシールである第1ラビリンスR1を形成している。第1突出部125は、その内周端の径が、外周面144aの軸方向外側の外径よりも小さく、外周面144aの軸方向内側の外径よりも大きくなるように形成されている。また、第1突出部125は、その内周端の径が、第3円筒部133の外周面よりも大きい。第1ラビリンスR1は、第1突出部の軸方向の内側の面125cと外縁部143との間に形成される。また、第1円筒部111の内周面111bに固着しているシール基部120と円筒覆い部144の外周面144aとの間には、第1ラビリンスR1に連通する軸方向に延びたラビリンスシールである第2ラビリンスR2が形成されている。また、端部覆い部145と軸方向に対向するシール基部120との間には、第2ラビリンスR2に連通して径方向に延びたラビリンスシールである第3ラビリンスR3が形成されている。
【0034】
上述した第1実施形態に係る密封装置10は、第1突出部125が軸方向の外側に傾斜してスリンガ部材13側に突出しているとともにスリンガ部材13に近接することで、第1ラビリンスR1を形成している。第1ラビリンスR1により、外部からの泥水等の異物の侵入が抑制される。また、第1突出部125が軸方向の外側に向けて傾斜しているので、密封装置10内に異物が侵入したとしても、片側縦断面形状が傾斜状の第1ラビリンスR1を通って外部空間側に排出されやすい。また、第1突出部125に隣接して、軸方向の外側に開口した凹状の空間部127を備えることで、外部からの泥水等の異物が空間部127内に留まり、密封装置10内に侵入することを抑制することができる。
【0035】
さらに密封装置10は、第1ラビリンスR1に連通する第2ラビリンスR2、第3ラビリンスR3を備えることにより、第1ラビリンスR1を異物が通過したとしても、それ以上の侵入を抑制することができる。また、例えば、第3ラビリンスR3を異物が通過したとしても、密封装置10は第2円輪部132に摺接するアキシャルリップであるシールリップ121を備えているので、それ以上の侵入が抑制される。第3ラビリンスR3を通過した泥水等の異物は、第1円輪部112、シールリップ121、第2円輪部132、第3円筒部133に囲まれた空間に溜まり、やがて軸受装置1の回転に伴う遠心力により第3ラビリンスR3に流れて外部空間に排出される。また、密封装置10は、第2円筒部131に近接するグリースリップであるシールリップ122bを備えているので、環状空間S内に充填されているグリース等が密封装置10内に侵入することを抑制する。
【0036】
また、第1突出部125は他の部材とは非接触の部材なので、第1突出部125を設けたことによるトルクの上昇がなく、低トルク化を図ることができる。密封装置10では、スリンガ部材に接触する部材が芯体部材11のシールリップ121だけなので、低トルク化を図ることができる。
【0037】
また、スリンガ部材13が第3円筒部133を備えることにより、泥水等の異物の侵入がより抑制され、シールリップ121に到達する異物の量がより低減される。また、第3円筒部133の軸方向の内側の端部133dが第1突出部125の先端部125aよりも径方向の内側に位置している。これにより、芯体部材11とスリンガ部材13とを組み立てる際に、第3円筒部133の軸方向の内側の端部133dが第1突出部125の先端部125aに干渉することが抑制される。
【0038】
また、スリンガ覆い部14の一部である外縁部143が第1突出部125と軸方向に重なる部分を備えることで、スリンガ部材13の変位(位置ずれ)を規制して、スリンガ部材13と芯体部材11との分離を抑制することができる。
図2、
図3(a)では、第1突出部125の最内径側の部分から軸方向の内側に延びた一点鎖線Yが示されている。本実施形態では、スリンガ本体部130は第1突出部125と軸方向に重ならず、外縁部143及び円筒覆い部144において
図2、
図3(a)に示す一点鎖線Yよりも径方向の外側の部分が、第1突出部125と軸方向に重なる。梱包時・搬送時・軸受装置1への組付け時などに外部からの衝撃(外力)によって
図3(a)に示す状態から変化して芯体部材11に対してスリンガ部材13が軸方向の外側へ変位することがある。芯体部材11に対してスリンガ部材13が変位しても、
図3(b)に示すように第1突出部125がスリンガ部材13に設けられたスリンガ覆い部14の外縁部143を保持して係止する。これにより、スリンガ部材13のそれ以上の軸方向の外側への変位を抑制し、スリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことを抑制することができる。また、第3円筒部133の外周面133aを覆う円筒覆い部144の一部も第1突出部125の一部と軸方向に重なっている。そのため、第1突出部125が外縁部143を乗り越えても円筒覆い部144に接触して係止されるので、スリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことを抑制することができる。このように、本実施形態の密封装置10では、グリースリップであるシールリップ122bが締め代を持って第2円筒部131に接触していなくても、上述した構成によりスリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことを抑制することができる。
【0039】
このように、本実施形態の密封装置10は、梱包時・搬送時・軸受装置1への組付け時などに外部からの衝撃(外力)によって芯体部材11とスリンガ部材13とが分離してしまうことを抑制するとともに、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制すことができる。そのため、低トルク化の抑制に応えるためにアキシャルリップ及び非接触のグリースリップをそれぞれ1本ずつしか備えていなくても、外部からの泥水等の異物の侵入を抑制しつつスリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことを抑制することができる。
【0040】
また、密封装置10は、第1突出部125よりも軸方向の外側に位置するシール部12の突出面126とスリンガ覆い部14の突出面142とを備える。これにより、
図3(c)に示すように、複数の密封装置10を積み重ねた際に突出面126,142を備えているので密封装置10の第1突出部125が他の密封装置10と接触して変形してしまうことを抑制する。また、密封装置10は、芯体部材11よりも軸方向の内側に位置する弾性円輪部124を備えている。この弾性円輪部124は、スリンガ覆い部14の突出面142と軸方向に重なっている。そのため、複数の密封装置10を積み重ねた際に弾性円輪部124が他の密封装置の突出面142と当接することで第1突出部125と他の密封装置との間の隙間が大きくなり、第1突出部125が他の部材に接触することがより抑制される。
【0041】
また、本実施形態では、第1突出部125は密封装置10において軸方向の外側に設けられて外部空間側(軸方向の外側)から視認可能に露出して構成されている。そのため、外部空間側から第1突出部125の有無を確認することによって本実施形態の密封装置10とその他の密封装置とを識別可能となる。そのため、本実施形態の密封装置10は、従来の密封装置に施されているような識別用のペイントを施さなくても、他の密封装置と識別可能となる。
【0042】
<第1実施形態の変形例>
次に
図4~
図6を参照しながら、第1実施形態の変形例に係る密封装置10について説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。まず、
図4に示す第1変形例に係る密封装置10’について説明する。
【0043】
<第1変形例>
図4に示す第1変形例10’は、スリンガ部材13はスリンガ本体部130によって構成され、スリンガ覆い部14が設けられていない点、シールリップ122aが設けられていない点が第1実施形態と異なる。スリンガ部材13は、第2円輪部132の径方向の外側の端部132aが第1実施形態のものよりも径方向の外側に延出して構成されている。第2円輪部132の径方向の外側の端部132aは、シール部12に設けられた第1突出部125の先端部125aと軸方向に重なる位置まで延びて形成されている。
【0044】
スリンガ部材13は、スリンガ覆い部14が設けられていないために、第1突出部125よりも軸方向の外側に突出する突出面が設けられていない。そのため、第1変形例の密封装置10’は、第1突出部125よりも軸方向の外側に突出する突出面として、シール部12に設けられた突出面126のみを備える構成となっている。第1ラビリンスR1は、第1突出部125の軸方向の内側の面125cと第2円輪部132の径方向の外側の端部132aとの間に形成されている。また、第1円筒部111の内周面111bに固着しているシール基部120と第3円筒部133の外周面133aとの間には、第1ラビリンスR1に連通する第2ラビリンスR2が設けられている。また、第3円筒部133の軸方向の内側の端部133dと、この端部133dと軸方向に対向するシール基部120との間には、第2ラビリンスR2に連通して径方向に延びる第3ラビリンスR3が設けられている。
【0045】
本変形例では、スリンガ部材13はスリンガ本体部130によって構成され、スリンガ覆い部14を備えていないが、
図4の一点鎖線Yに示すように、第2円輪部132の径方向の外側の端部132aが第1突出部125の先端部125aと軸方向に重なっている。スリンガ部材13が軸方向の外側に変位したとしても、第1突出部125の先端部125aが第2円輪部132の径方向の外側の端部132aを保持して係止する。そのため、梱包時・搬送時・軸受装置1への組付け時などに外部からの衝撃(外力)によってスリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことが抑制される。また、第3円筒部133が第1突出部125の一部と軸方向に重なっている。そのため、第1突出部125が第2円輪部132の径方向の外側の端部132aを乗り越えても第3円筒部133に接触して係止されるので、スリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことが抑制される。また、スリンガ覆い部14が設けられていなくても、芯体部材11のシール部12とスリンガ部材13との間に第1ラビリンスR1、第2ラビリンスR2、第3ラビリンスR3が構成されるので、泥水等の異物の侵入が抑制される。
【0046】
<第2変形例>
次に
図5を参照しながら第1実施形態の第2変形例に係る密封装置10’’について説明する。
図5(a)に示す第2変形例では、第1突出部125及び空間部127の形成されている位置が第1実施形態と異なっている。第1突出部125は、第1円筒部111における軸方向の略中心部に設けられて、第1円筒部111と第3円筒部133との間に設けられている。第1突出部125は、第1円筒部111の内周面111bに固着されているシール基部120から径方向の内側に延出しながら軸方向の外側に傾斜して設けられている。また、空間部127は、第1突出部125に隣接して設けられているため、第1突出部125と同じく第1円筒部111と第3円筒部133との間に設けられている。空間部127は、第1突出部125の軸方向の外側の面125bと第1円筒部111の内周面111bを覆うシール基部120とに囲まれて形成される。
【0047】
第1円筒部111の内周面111bに固着されている部分のシール基部120は、第1突出部125を境に径方向の厚みが大きく異なっている。第1円筒部111の内周面111bに固着されている部分のシール基部120は、第1突出部125よりも軸方向の外側に位置する部分が、第1突出部125よりも軸方向の内側に位置する部分よりも厚みが薄く構成されている。これにより、空間部127の容積を大きくしつつ、第2ラビリンスR2の径方向の隙間寸法を小さくしている。
【0048】
また、スリンガ本体部130に固着されているスリンガ覆い部14には、第1突出部125の少なくとも先端部125aが挿入される凹部146が設けられている。凹部146は、片側縦断面図において三角形状に凹んで周方向に延びた、径方向の外側に開口した溝である。第1突出部125の先端部125aは、凹部146に非接触に挿入されている。凹部146の第1縁部146aとその近傍部分は第1突出部125と軸方向に重なるとともに、軸方向内側に位置する。凹部146の第2縁部146bとその近傍部分は第1突出部125と軸方向に重なるとともに軸方向外側に位置する。また、凹部146に第1突出部125の先端部125aが挿入されることで、片側縦断面図において略V字状の第1ラビリンスR1が形成される。そして、第1突出部125よりも軸方向の内側には、第1ラビリンスR1に連通する軸方向に延びる第2ラビリンスR2と、径方向に延びる第3ラビリンスR3とが形成される。
【0049】
密封装置10’’では、第1ラビリンスR1は、略V字状に形成された、複雑な形状のラビリンスシールとなっているため、泥水等の異物がより侵入しにくくなっている。また、スリンガ部材13が変位したとしても、
図5(b)に示すように凹部146に挿入されている第1突出部125の一部と、凹部146に挿入されている第1突出部125の一部と軸方向に重なるとともに軸方向の内側に位置する凹部146の一部(第1縁部146aやその近傍部分)とが係止する。第1突出部125の一部と凹部146の一部とが係止するのでそれ以上のスリンガ部材13の変位を抑制して、スリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことが抑制される。
【0050】
<第3変形例>
次に
図6を参照しながら第1実施形態の第3変形例に係る密封装置10’’’について説明する。密封装置10’’’は、シール部12に第1突出部125よりも軸方向の内側に配され、スリンガ部材13側に突出してスリンガ部材13に近接する第2突出部128を備える。第2突出部128は、第1突出部125と軸方向に間隔をあけて設けられており、第1円筒部111の内周面111bに固着された部分のシール基部120から径方向の内側に突出して形成されている。
【0051】
また、スリンガ部材13は、第1突出部125と第2突出部128との間に介在し、芯体部材11に近接する第3突出部147を備える。第3突出部147は、スリンガ覆い部14の外縁部143から径方向の外側に突出して設けられている。
【0052】
密封装置10’’’は、第1突出部125よりも軸方向の内側に設けられた第2突出部128及び第3突出部147により、泥水等の異物の侵入が抑制される。また、密封装置10’’’は、軸方向の外側から第1突出部125、第3突出部147、第2突出部128の順に軸方向に重なっている。第1突出部125と、第3突出部147と、第2突出部128との間には第1ラビリンスR1が形成され、第1ラビリンスR1は、片側縦断面形状が蛇行形状の複雑なラビリンスシールとなっているので泥水等の異物の侵入をより抑制する。
【0053】
<第2実施形態>
次に
図7を参照しながら、第2実施形態に係る密封装置10Aについて説明する。なお、第1実施形態に係る密封装置10と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。第2実施形態に係る密封装置10Aでは、スリンガ部材13が第1突出部148を備えており、第1突出部148の少なくとも一部は、芯体部材11における第1突出部148よりも軸方向の外側に位置する部分の一部と軸方向に重なっている。以下詳しく説明する。
【0054】
図7(a)に示す密封装置10Aは、第1実施形態の密封装置10とは異なり、スリンガ部材13が第1突出部148を備える構成となっており、芯体部材11は第1突出部125を備えない構成となっている。スリンガ部材13は、スリンガ本体部130とスリンガ覆い部14とを備える構成となっている。スリンガ部材13が備える第1突出部148は、スリンガ覆い部14の円筒覆い部144の外周面144aから芯体部材11側に近接するように径方向の外側に延出しながら軸方向の外側に傾斜して形成されている。第1突出部148は、第1円筒部111と第3円筒部133との間に形成され、第3円筒部133における軸方向の略中心部に位置している。
【0055】
また、芯体部材11は第1突出部を備えていないため空間部127を備えていない構成となっている。本実施形態では、スリンガ部材13が第1突出部148の軸方向の外側に隣接して、軸方向の外側に開口した凹状の空間部149を備える構成となっている。空間部149は、第1突出部148の軸方向の外側の面148bと、円筒覆い部144の外周面144aとに囲まれて形成されている。
【0056】
芯体部材11は、第1円筒部111の内周面111bを覆うシール基部120に径方向の内側に開口した凹部129を備えている。この凹部129には、スリンガ部材13の第1突出部148の先端部148aが非接触に挿入されている。第1突出部148と凹部129との間には、片側縦断面形状が逆V字状の複雑な形状のラビリンスシールである第1ラビリンスR1が形成されているので、泥水等の異物侵入を抑制することができる。さらに、第1ラビリンスR1よりも軸方向の内側には、軸方向に延びる第2ラビリンスR2と径方向に延びる第3ラビリンスR3が形成されているので、第1ラビリンスR1を異物が通過したとしても、それ以上の侵入が抑制される。
【0057】
また、第1突出部148の先端部148aは凹部129に挿入されており、凹部129の縁部129aとその近傍部分が第1突出部148と軸方向に重なっている。そのため、スリンガ部材13が軸方向の外側に変位した際には、
図7(b)に示すように第1突出部148の先端部148aが凹部129に係止される。第1突出部148の先端部148aが凹部129に係止されることによって、それ以上のスリンガ部材13の軸方向の外側への変位を抑制し、スリンガ部材13が芯体部材11から分離してしまうことを抑制する。
【0058】
<第2実施形態の変形例>
次に
図8を参照しながら第2実施形態の変形例に係る密封装置10A’について説明する。なお、第2実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
図8に示す密封装置10A’では、スリンガ本体部130を覆うスリンガ覆い部14の外縁部143の径方向の外側の端部から径方向の外側に延出しながら軸方向の外側に傾斜して芯体部材11側に突出する第1突出部148が設けられている。第1突出部148は、芯体部材11に近接してシール基部120に形成された凹部129との間に第1ラビリンスR1を形成する。空間部149は、第1突出部148の軸方向の外側の面148bと外縁部143とに囲まれて形成されている。
【0059】
芯体部材11は、第1円筒部111の内周面111bにおける軸方向の外側に固着されている部分のシール基部120に、径方向の内側に開口した凹部129が設けられている。この凹部129には、第1突出部148の先端部148aが挿入されて第1ラビリンスR1が形成される。第1ラビリンスR1は、片側縦断面形状が略逆V字状の複雑な形状のラビリンスシールなので、泥水等の異物の侵入を抑制することができる。さらに、第1ラビリンスR1よりも軸方向の内側には、軸方向に延びる第2ラビリンスR2と径方向に延びる第3ラビリンスR3が形成されているので、第1ラビリンスR1を異物が通過したとしても、それ以上の侵入が抑制される。
【0060】
密封装置10,10’,10’’,10’’’,10A,10A’の構成は、他の密封装置が有する構成を備えるものでもよく、上述した構成や図示したものに限定されることはない。例えば、上述した第1実施形態の変形例1~3、及び第2実施形態では、アキシャルリップとしてシールリップ121のみを備える構成であるが、これに限定されることはなく複数のアキシャルリップを備える構成であってもよい。その場合には、スリンガ部材13に摺接せずに近接するアキシャルリップであれば、トルクが増大するおそれがない。
【0061】
また、
図6の密封装置10’’’では、第2突出部128、第3突出部147を備える構成となっているが、いずれか一方を備えない構成であってもよい。また、
図7、
図8の第3実施形態及びその変形例では、スリンガ部材13が第1突出部148に加えて、第1突出部148よりも軸方向の内側に位置する第2突出部を備える構成であってもよい。その場合には、第1突出部148と第2突出部との間に介在する第3突出部を芯体部材11が備える構成であってもよい。
【0062】
図2、
図4、
図6、
図8に示す実施形態では、第3円筒部133は第1突出部や凹部を備えない構成となっている。そのため、
図9に示すように、スリンガ部材13が第3円筒部133を備えない構成であってもよい。
図9(a)は
図2の密封装置10における第3円筒部133を備えない構成、
図9(b)は
図4の密封装置10’における第3円筒部133を備えない構成、
図9(c)は
図6の密封装置10’’’における第3円筒部133を備えない構成をそれぞれ示している。また、
図9(d)は
図8の密封装置10A’における第3円筒部133を備えない構成を示している。
【0063】
図9(a)~(c)に示すように、第3円筒部133を備えない構成であっても、芯体部材11の第1突出部125とスリンガ部材13との間に第1ラビリンスR1が構成されるので、泥水等の異物の侵入を抑制する。また、芯体部材11の第1突出部125の一部とスリンガ部材13との一部とが軸方向に重なるため、スリンガ部材13が変位したとしても、芯体部材11とスリンガ部材13との分離を抑制することができる。また、
図9(d)でも同様に、第3円筒部133を備えない構成であっても、スリンガ部材13の第1突出部148と芯体部材11との間に第1ラビリンスR1が構成されるので、泥水等の異物の侵入が抑制される。また、スリンガ部材13の第1突出部148の一部と芯体部材11の一部とが軸方向に重なるため、スリンガ部材13が変位したとしても、芯体部材11とスリンガ部材13との分離を抑制することができる。
【0064】
突出面142と突出面126との位置関係は、上述の実施形態の例に限らず、例えば、軸方向において同じ位置となるように設けられていてもよいし、突出面126の方が軸方向において外側に位置するように設けられていてもよい。第1突出部125の形状は各実施形態の例に限らない。第1突出部125の全体が軸方向外側に傾斜しなくともよく、例えば、基部の部分は軸方向内側又は径方向に沿って延びるとともに、先端部は軸方向外側に傾斜するような第1突出部125を設けてもよい。また、上述した各実施形態の密封装置は、環状空間Sの車輪側の端部に装着される密封装置20として適用されてもよい。その場合は、密封装置が環状空間Sの車体側の端部に装着される場合とは左右反転させて、環状空間Sの車輪側の端部に装着させればよい。
【符号の説明】
【0065】
1 軸受装置
2 外輪(外側部材)
2c 内周面
3 ハブ輪(内側部材)
3b 外周面
4 内輪部材(内側部材)
4b 外周面
5 内輪
10,10A 密封装置
11 芯体部材
111 第1円筒部
111d 軸方向の内側の端部
112 第2円筒部
12 シール部
121,122a,122b シールリップ
125 第1突出部
13 スリンガ部材
131 第2円筒部
131c 軸方向の外側の端部
132 第2円輪部
14 スリンガ覆い部
148 第1突出部
R1 第1ラビリンス(ラビリンス)