(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051883
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】立向溶接装置及び立向溶接装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/02 20060101AFI20240404BHJP
B23K 25/00 20060101ALI20240404BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20240404BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B23K37/02 G
B23K25/00 N
B23K9/127 504A
B23K9/173 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158260
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 元章
(72)【発明者】
【氏名】戸田 亮
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB10
4E001CA01
4E001DA03
4E001DF05
(57)【要約】
【課題】溶接台車の作業姿勢を安定に維持できる自走式の立向溶接装置と、立向溶接装置の制御方法を提供する。
【解決手段】2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置であって、被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、溶接台車は、溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、開先の延設方向に沿って進行するガイドローラと、開先の延設方向に対する溶接台車の溶接進行方向のズレ量を検出する検出手段と、を有し、ガイドローラの少なくとも一つは、駆動手段を用いて溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、駆動手段は、検出手段によって検出されたズレ量をキャンセルする方向に動くように、前記可動ガイドローラを開先面に押圧する駆動制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置であって、
前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラと、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出する検出手段と、
を有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、駆動手段を用いて前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記駆動手段は、前記検出手段によって検出されたズレ量をキャンセルする方向に動くように、前記可動ガイドローラを開先面に押圧する駆動制御を行う
ことを特徴とする立向溶接装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記ズレ量に対して予め閾値を設定し、前記ズレ量が前記閾値以上であることが検出された場合には、前記駆動制御を行い、前記ズレ量が前記閾値未満であることが検出された場合には、前記可動ガイドローラが前記溶接進行方向に対して直交する方向に自由に平行移動可能な状態にする
ことを特徴とする請求項1に記載の立向溶接装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
視覚センサ、光学センサ、磁気センサのうち、少なくとも一つのセンサを含み、
前記ズレ量は、前記センサにより取得された、所定の基準位置と、前記溶接台車の現在位置との差に基づいて検出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の立向溶接装置。
【請求項4】
前記ガイドローラのうち前記溶接進行方向に対して最も前方に配置された前記ガイドローラが、前記可動ガイドローラである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の立向溶接装置。
【請求項5】
吊り下げ式の立向溶接装置であって、
前記溶接台車を吊り上げる電動ウインチを設けた
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の立向溶接装置。
【請求項6】
エレクトロスラグ溶接又はエレクトロガス溶接用の立向溶接装置であって、
前記溶接台車は、
前記被溶接材の一方側の面である表面側に配置されて、前記開先に沿って摺動する表銅板と、
前記被溶接材の他方側の面である裏面側に配置されて、前記開先に沿って摺動する裏銅板と、
前記表銅板と前記裏銅板とを前記被溶接材を挟持する方向に作動させるリンク機構と、
前記リンク機構を制御するアクチュエータと、を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の立向溶接装置。
【請求項7】
前記駆動手段は、前記可動ガイドローラを平行移動させるエアシリンダであり、前記検出手段により検出された前記ズレ量に基づいて、前記エアシリンダの出力を算出するように構成された
ことを特徴とする請求項2に記載の立向溶接装置。
【請求項8】
2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置の制御方法であって、
前記立向溶接装置は、前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラを有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出した場合に、前記可動ガイドローラによって前記ズレ量が検出された方向の開先面を押圧する
ことを特徴とする立向溶接装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走式の立向溶接装置及び立向溶接装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、建築鉄骨、エネルギープラントなど、様々な業種の製造において立向姿勢の溶接が行われている。この立向姿勢の溶接は自動化が求められており、これを実現する溶接装置として、レール式の立向溶接装置や、非レール式の立向溶接装置(以降、自走式の立向装置とも称する。)等が従来公知である。
【0003】
これらの溶接装置のうち、レール式の立向溶接装置は、溶接精度は高いが被溶接材側に予めレールを設置する必要があるため作業効率に問題がある一方で、自走式の立向溶接装置は、レール等の設備を被溶接材側に予め設置する必要がないため、レール式の立向溶接装置に比べて作業効率に優れている。なお、自走式の立向溶接装置としては、溶接装置を引っ張りあげる吊り下げ方式や、磁力によって被溶接材に接着させる磁石車輪式等がある。
【0004】
この自走式の立向溶接装置としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、溶接台車の走行ローラを電動機で回転駆動させるとともに、その走行ローラのローラ表面全周に細溝を設けることによって、溶接台車を被溶接時側に確実に保持させることができる構成であり、溶接台車が落下等する危険性がなく、開先の目違いを矯正しながら溶接を行うことができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の自走式の立向溶接装置は、施工条件や外乱の要因によって溶接台車の姿勢が変わることにより、溶接位置にズレが生じる場合がある。上記施工条件の要因としては、例えば、2つの被溶接材の突合せ部に形成される開先を溶接するにあたり、2つの被溶接材の板厚が異なる場合や、板継部分での板厚が異なる場合がある。また、上記外乱の要因としては、例えば、板厚方向の目違い等が挙げられる。
【0007】
自走式の立向溶接装置は、一般的に突合せ部を跨ぐように配置された左右一対の走行ローラを有し、溶接進行方向である開先の延設方向に沿って自走しながら溶接作業が行われる。しかしながら、上記要因によって、向かい合う被溶接材を跨いで配置される左側の走行ローラ間と右側の走行ローラとで走行距離の差が生じてしまうことがある。これにより、従来の自走式の立向溶接装置は、溶接台車の姿勢が開先内に押し当てられるガイドローラを支点として、溶接進行方向に対して左右方向に旋回するため、溶接台車の進行方向後方に設置している溶接トーチの左右位置にもズレが生じ、結果として溶接位置が開先位置から外れて溶接品質の低下を招く場合があり得る。このため、様々な施工条件や外乱に対しても溶接台車の姿勢を安定させることができる自走式の立向溶接装置が求められている。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接台車の作業姿勢を安定的に維持できる自走式の立向溶接装置と、自走式の立向溶接装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、立向溶接装置に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置であって、
前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラと、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出する検出手段と、を有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、駆動手段を用いて前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記駆動手段は、前記検出手段によって検出されたズレ量をキャンセルする方向に動くように、前記可動ガイドローラを開先面に押圧する駆動制御を行う
ことを特徴とする立向溶接装置。
【0010】
本発明の上記目的は、立向溶接装置の制御方法に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置の制御方法であって、
前記立向溶接装置は、前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラを有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出した場合に、前記可動ガイドローラによって前記ズレ量が検出された方向の開先面を押圧する
ことを特徴とする立向溶接装置の制御方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レール設置を必要としない自走式の立向溶接装置及び立向溶接装置の制御方法において、溶接台車の姿勢を安定的に維持して溶接トーチ先端位置のズレを抑制することにより、良好な溶接品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図8】(A)は、視覚センサにより基準位置及び現在位置を撮影したモデル図であり、(B)は、視覚センサによりズレ量が閾値未満であることを検出した状態を示したモデル図であり、(C)は、視覚センサによりズレ量が閾値以上であることを検出した状態を示したモデル図である。
【
図9】(A)~(D)は、駆動制御の効果を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る自走式の立向溶接装置と、立向溶接装置の制御方法についての実施形態を説明する。なお、各図は、本発明の説明のために作成されたものであり、本発明の実施形態は、図示の内容に限らない。また、立向溶接装置が適用される溶接方法は特に問わないが、例えば、エレクトロスラグ溶接やエレクトロガス溶接といった溶接方法が挙げられる。本実施形態においては、エレクトロスラグ溶接に用いる場合を例として説明する。
【0014】
本実施形態においては、溶接線方向をX軸とする。このX軸の溶接線方向は開先中心線に沿った方向と同義とし、後述する開先の延設方向とも同義とする。また、被溶接材の溶接を行う面であるX-Y平面上であって、溶接線と直交する方向をY軸とする。このY軸の方向は開先幅方向と同義とする。さらに、被溶接材の板厚方向であって、溶接が行われる被溶接材の平面と直交する方向をZ軸とする。
【0015】
また、被溶接材の溶接が行われる面について、後述する溶接台車が走行する面を「表面」と称し、その反対側の面を「裏面」と称する。表面は+Z方向の面であり、裏面は-Z方向の面である。Z軸の方向について立向溶接装置を基準に表面方向である+Z方向を「上方」、裏面方向である-Z方向を「下方」と称する。
【0016】
また、立向溶接装置を基準として溶接が進行する方向を「前方」、後退する方向を「後方」と称する。前方は+X方向であり、後方は-X方向と称する。本実施形態の溶接装置は、被溶接材上を立向姿勢で上進溶接するため、前方に向かって溶接するということは、上進で溶接すると同義になる。
【0017】
-X軸に沿う進行方向に対して旋回する方向を「右方」、「左方」と称する。右方は+Y方向であり、左方は-Y方向である。
【0018】
<立向溶接装置>
図1~6は、実施形態に係る立向溶接装置の構成例を示している。
図1~3は、立向溶接装置を示した斜視図、正面図、側面図である。
図4は、
図2のA-A断面図である。
図5は、
図2のB-B断面図である。
図6は、
図3のC-C断面図である。
【0019】
立向溶接装置1は、被溶接材である一対の鋼板5,5上を立向姿勢で前進走行する溶接台車2と、溶接台車2が鋼板5の表面を上進走行するように吊り上げる電動ウインチ3と、溶接台車2に搭載された溶接トーチ4と、を備えている。一対の鋼板5,5は、互いの間に上下方向に延びる開先10が形成されるように、左右方向に互いに離間して配置されている。なお、溶接が進行する方向に対して、一対の鋼板5,5のうち左方の被溶接材を鋼板5Aとし、右方の被溶接材を鋼板5Bとする。また、鋼板5A,5Bをセットとして説明する場合は、鋼板5と示す。
【0020】
図1等に示すように、溶接台車2は、本体枠部6と、鋼板5の表面を滑走する走行ローラ7と、溶接作業中に開先10内に配置されるガイドローラ8と、開先10の表側に表銅板9を押し付け可能に支持する表銅板支持部11と、開先10の裏側に裏銅板12を押し付け可能に支持する裏銅板支持部13と、溶接作業位置を検出するための検出手段としての視覚センサ14と、制御部(不図示)と、を備える。溶接台車2は、上下方向の開先10の間を溶接しながら溶接線方向であるX軸方向に沿って前進走行するエレクトロスラグ溶接が実行可能に構成されている。以下、各構成について具体的に説明する。
【0021】
<電動ウインチ>
電動ウインチ3は、溶接作業を行う鋼板5の上方側且つ溶接台車2の前方側に設置され、溶接台車2を吊り下げ支持する。そして電動ウインチ3は、溶接台車2を引き上げることによって、溶接台車2を上下方向となる溶接線方向であるX軸方向に沿って前進走行させることができるように構成されている。溶接台車2の走行速度は、電動ウインチ3の巻き上げ速度に依存し、電動ウインチ3の巻き上げ速度を調整することにより、溶接作業時の走行速度、すなわち溶接速度を調整することができる。電動ウインチ3の巻き上げ速度は、制御部によって制御可能に構成されている。溶接台車2を電動ウインチ3によって吊り上げる構成とすることにより、一般的なウインチと吊荷(溶接台車)が分離する場合と比較し、モータ動力線や信号線を離れた場所まで配線する必要がなくなるため、立向溶接装置全体をコンパクトに構成することができる。
【0022】
なお、溶接台車2が鋼板5上を立向姿勢で上進走行する自走式の立向溶接装置としては、溶接台車2の走行ローラ7を鋼板5に接着する強力な磁石とし、溶接台車2側に設けた駆動部(不図示)によって鋼板5に接着した走行ローラ7を駆動させることにより、溶接台車2を立向姿勢で上進走行可能にする構成としても良い。
【0023】
<溶接トーチ>
溶接トーチ4は、詳しくは後述するトーチ支持部16を介して溶接台車2側に支持されている。これにより、溶接トーチ4は、溶接台車2の左右旋回方向となる開先幅方向であるY軸方向と、鋼板5の板厚方向であるZ軸方向と、で溶接位置を調整することができるように構成されている。また、トーチ支持部16は、溶接トーチ4の上下揺動位置を調整する姿勢調整機構17を有し、溶接トーチ4を溶接作業に適した角度でスラグ浴に向けることができるように構成されている。トーチ支持部16の具体的な構成については後述する。
【0024】
溶接トーチ4は、コンタクトチップを有しており、コンタクトチップが溶接ワイヤを開先10側に送給するように案内するとともに、溶接電源(不図示)から供給される溶接電流を溶接ワイヤに供給することによって、一対の鋼板5A,5Bの間に形成される開先10を溶接することができるように構成されている。
【0025】
具体的に説明すると、溶接トーチ4は、コンタクトチップにより案内される溶接ワイヤを、一対の鋼板5A,5B、表銅板9、及び裏銅板12に囲まれた開先10内に送給することにより、溶接ワイヤを開先10内に形成された溶融池であるスラグ浴内に送り込み、これと同時に、溶接電流を溶接ワイヤからスラグ浴を通して溶融金属へと流すことができる。これにより、スラグ浴に流した溶接電流及びスラグ浴の電気抵抗によりジュール熱が発生するため、溶接ワイヤ及び鋼板を溶融しながら溶接を進行するエレクトロスラグ溶接を実行することができる。
【0026】
<本体枠部>
図1及び
図2等に示すように、本体枠部6は、溶接台車2の進行方向に沿って延設された左右一対の板状部材である本体フレーム18と、左右一対の本体フレーム18,18の対向面同士を連結するように左右方向に延設された前後一対の連結杆19,20と、を有し、前後方向であるX軸方向と、上下方向であるZ軸方向とが開放された枠状に形成されている。本体枠部6の前端側には、平面視で前方に突出するU字状のウインチ支持フレーム21が架け渡されるように形成されており、該ウインチ支持フレーム21を介して溶接台車2を吊り上げる電動ウインチ3が取付固定されている。
【0027】
<走行ローラ>
走行ローラ7は、左右一対の前輪7A,7Aと、左右一対の後輪7B,7Bと、が本体枠部6側に設けられており、本体枠部6が鋼板5の表面を安定して滑走可能となるように構成されている。
【0028】
図4等に示すように、左右方向に延設された棒状部材である前輪支持軸22は、前側の連結杆19の中央側に上下揺動可能に軸支されている。そして、前輪支持軸22の左右両端側に、左右一対の前輪7A,7Aは軸支されている。同様に、左右方向に延設された棒状部材である後輪支持軸23は、後側の連結杆20の中央側に上下揺動可能に軸支されている。そして、後輪支持軸23の左右両端側に、左右一対の後輪7B,7Bは軸支されている。
【0029】
該構成によれば、自走する鋼板5の表面に軽微な凹凸や傾斜があった場合であっても、前輪支持軸22や後輪支持軸23の揺動作動によって本体枠部6や溶接トーチ4の位置ズレを吸収することができるため、自走する溶接台車2による溶接作業がより安定する。
【0030】
<表銅板支持部>
表銅板支持部11は、鋼板5の表面の溶接台車2後部側に配置される表銅板9を支持する。表銅板支持部11は、表銅板9を鋼板5の表面に押し付ける左右一対のアクチュエータとしての表銅板用エアシリンダ24,24と、一対の表銅板用エアシリンダ24,24により表銅板9を操作する表側リンク機構25と、溶接トーチ4を支持するトーチ支持部16と、を有している。
【0031】
表銅板9は、鋼板5の表面に当接する加圧面が形成された板状部材であって、一般的には水冷式からなる冷却機構(不図示)を備えている。また、表銅板9は、鋼板5の表面に当接することによってスラグ浴の一部を形成し、該状態で溶接台車2が溶接作業しながら自走することにより、スラグ浴を冷却しながら開先10上を摺動させることができるように構成されている。
【0032】
図1~3等に示すように、表銅板用エアシリンダ24は、本体枠部6を挟むように左右一対設けられており、そのヘッド側の前端が、前後方向の板状部材である固定板26を介して、本体フレーム18の前部外面側に取付固定され、作動ロッド側の後端が、表側リンク機構25側に連結されている。これにより、表銅板用エアシリンダ24は、作動ロッドの作動方向を後方斜め上側に向けた状態で本体枠部6の本体フレーム18側に取付固定されている。
【0033】
図3に示すように、表側リンク機構25は、前後方向の延設された原動節である表側駆動リンク部材28と、前後方向に延設された従動節である表側従動リンク部材31と、上下方向に延設された中間節である表側中間リンク部材32と、を有している。
【0034】
表側駆動リンク部材28は、表銅板用エアシリンダ24に対応して左右一対設けられたリンク部材であって、その前端側が第1連結節27を介して本体フレーム18の後部下側に連結され、その後端側が第3連結節33を介して表側中間リンク部材32側に連結されている。
【0035】
表側従動リンク部材31は、本体枠部6の左右外側に左右一対設けられたリンク部材であって、その前端側が第2連結節29を介して本体フレーム18の後部上側に連結され、その後端側が第4連結節34を介して表側中間リンク部材32側に連結されている。
【0036】
表側中間リンク部材32は、鋼板5の板厚方向である上下方向に延設され、その下端側が第3連結節33を介して表側駆動リンク部材28の後端側に連結され、その上下方向中途部が第4連結節34を介して表側従動リンク部材31の後端側に連結されている。
【0037】
図1等に示すように、第3連結節33は、左右方向に延設された棒状部材によって左右一対の表側駆動リンク部材28,28の後端側同士を連結し、第4連結節34は、左右方向に延設された棒状部材によって左右一対の表側従動リンク部材31,31の後端側同士を連結している。
【0038】
このとき、表側駆動リンク部材28と表側従動リンク部材31とは、略同じ長さとなるように形成されている。また、第1連結節27と第2連結節29とを結ぶ線は、溶接台車2の進行方向と直交するように配置されている。また、表側中間リンク部材32上の第3連結節33と第4連結節34との間は、第1連結節27と第2連結節29との間と略同じ長さとなるように形成されている。すなわち、表側リンク機構25は、側面視で平行四辺形状に形成されたクローズドループ構造の4節リンクを構成している。
【0039】
また、
図3等に示すように、表側駆動リンク部材28は、第1連結節27から前方上方に延設された表側操作アーム部28aが一体形成されており、表側操作アーム部28aの前端側に表銅板用エアシリンダ24の作動ロッドが連結されている。表側操作アーム部28aと作動ロッドとの連結節は、側面視で第2連結節29よりも前方上方側に配置されている。
【0040】
また、
図3等に示すように、表側中間リンク部材32は、第3連結節33よりも下方に、すなわち鋼板5側に、突出形成された下端側に表銅板9が設けられており、表銅板9の加圧面を鋼板5の表面に当接させることができるように支持されている。
【0041】
該構成の表側リンク機構25によれば、表銅板用エアシリンダ24の作動ロッドの伸縮作動に伴う作動力を、作動ロッド→表側操作アーム部28a→表側駆動リンク部材28→表側中間リンク部材32及び表銅板9→表側従動リンク部材31の順番に作用させることにより、鋼板5に対して直交する表側中間リンク部材32及び表銅板9を、該姿勢を保ったまま上下動させることができる。すなわち、上述の表銅板支持部11によれば、表銅板9を鋼板5の表面側に押付ける加圧作動と、表銅板9の加圧作動の解除と、を操作することができる。なお、表側リンク機構25を操作するアクチュエータとしては、表銅板用エアシリンダ24に代えて、電動シリンダやモータを用いた構成としても良い。
【0042】
トーチ支持部16は、左右一対の表側中間リンク部材32の上端側同士を連結する左右方向の連結支持部35と、連結支持部35の前面側に取付固定されて下端側に鋼板5の板厚方向に伸縮作動する作動部を有する溶接位置調整機構36と、溶接トーチ4を上下揺動することで角度調整可能に支持する姿勢調整機構17と、溶接位置調整機構36の作動部と姿勢調整機構17とを連結する支持ブラケット37と、を有している。なお、該支持ブラケット37は、姿勢調整機構17を開先の延設方向であるX軸方向に位置調整可能に支持する。
【0043】
姿勢調整機構17は、前方に向かうにしたがって裏面側に延びる円弧状の融通孔17aが形成された扇型の板状部材であって、溶接トーチ4を支持するトーチ把持部38が融通孔17a上の任意の位置で保持可能に構成されている。該トーチ把持部38は、モータ等によって上下揺動位置を制御可能に構成しても良い。
【0044】
<裏銅板支持部>
裏銅板支持部13は、鋼板5の裏面の溶接台車2後部側に配置される裏銅板12を支持する。裏銅板支持部13は、本体枠部6側に着脱可能に構成された裏側リンク支持フレーム41と、裏側リンク支持フレーム41を鋼板5の裏面側に引付けるアクチュエータとしての引付エアシリンダ42,42と、裏銅板12を鋼板5の裏面に向けて押し付けるアクチュエータとしての裏銅板用エアシリンダ43と、裏銅板用エアシリンダ43によって作動する裏側リンク機構44と、を有している。
【0045】
裏銅板12は、鋼板5の裏面に当接する加圧面が形成された板状部材であって、一般的には水冷式からなる冷却機構を備えている。また、裏銅板12は、鋼板5の裏面に当接することによってスラグ浴の一部を形成し、該状態で溶接台車2が溶接作業しながら自走することにより、スラグ浴等を冷却しながら開先10上を摺動させることができるように構成されている。
【0046】
図3及び
図4等に示すように、裏側リンク支持フレーム41は、溶接台車2の進行方向に沿って前後方向に延設されて、鋼板5の裏面側に配置される左右一対の板状部材である。裏側リンク支持フレーム41の前後方向中途部には、延設方向と直交する方向すなわち鋼板5の板厚方向に延設される引付フレーム45が挟持されるようにして取付固定されることにより、全体がT字状に形成されている。また、裏側リンク支持フレーム41の前後端側には、左右一対の裏側前輪46A,46Aと、左右一対の裏側後輪46B,46Bとからなる裏走行ローラ46が軸支されている。
【0047】
また、引付フレーム45は、一対の鋼板5A,5Bの間に形成される隙間である開先10を介して、鋼板5の表面側から裏面側に延設された板状部材である。引付フレーム45の一端側は、引付エアシリンダ42,42を介して延設方向に沿って押引作動可能な状態で本体枠部6側に取付けられている。引付フレーム45の他端側は、裏側リンク支持フレーム41の長手方向中途部が着脱可能にピン固定されている。
【0048】
図5等に示すように、引付エアシリンダ42は、本体枠部6内の左右一対の本体フレーム18,18の間の後部側に左右一対設けられている。一対の引付エアシリンダ42は、上下方向上向きに支持された一対の作動ロッドが、連結部材47を介して、引付フレーム45側と連結することができるように構成されている。
【0049】
すなわち、引付エアシリンダ42は、作動ロッドの伸長作動によって引付フレーム45を鋼板5の表面に配置された溶接台車2側に引き上げることにより、裏側リンク支持フレーム41側に設けた裏走行ローラ46を、鋼板5の裏面側に押付けることができるように構成されている。
【0050】
図4等に示すように、裏銅板用エアシリンダ43は、ヘッド側を左右で挟持するように配置されたシリンダ支持板48,48と、一対のシリンダ支持板48,48を架け渡すように左右方向に延設された前後一対の固定部材49,50とを介して、作動ロッドを上下方向真下側に向けた状態で本体枠部6内に取付固定されている。
【0051】
図4等に示すように、裏銅板用エアシリンダ43は、作動ロッド側が一対のシリンダ支持板48,48の間で固定部材50を軸に揺動可能に軸支されたL字状の操作片51の一端に連結されている。また、操作片51の他端側には、裏側リンク操作体52が設けられており、該裏側リンク操作体52は、裏銅板用エアシリンダ43の伸縮作動によって前後方向に揺動操作されることにより、裏側リンク機構44を操作することができるように構成されている。
【0052】
図3及び
図4等に示すように、裏側リンク機構44は、上下方向に延設された原動節である裏側駆動リンク部材61と、リンク機構の後部側に設けられた従動節である裏側従動リンク部材62と、前後方向に延設された中間節である裏側中間リンク部材63と、を有している。
【0053】
裏側駆動リンク部材61は、本体枠部6や前輪7Aの前側で上下方向に延設されるリンク部材である。裏側駆動リンク部材61は、その下部側が第1連結節57を介して裏側リンク支持フレーム41の前端側に連結され、そのさらに下方側が第3連結節59を介して裏側中間リンク部材63の前端側に連結されている。
【0054】
裏側従動リンク部材62は、本体枠部6の後側で且つ鋼板5の裏面側に配置されるリンク部材である。裏側従動リンク部材62は、その前端上部側が第2連結節58を介して裏側リンク支持フレーム41の後端側に連結され、その前端下部側が第4連結節60を介して裏側中間リンク部材の後端側と連結されている。
【0055】
裏側中間リンク部材63は、裏側リンク支持フレーム41に沿って前後方向に延設されたリンク部材である。裏側中間リンク部材63は、その前端側が裏側駆動リンク部材61の下端側に連結され、その後端側は、裏側従動リンク部材62の前端下部側に連結されている。
【0056】
このとき、裏側中間リンク部材63上の第3連結節59と第4連結節60との間は、第1連結節57と第2連結節58との間と略同じ長さとなるように形成されている。なお、第1連結節57と第2連結節58との間の長さは、裏側リンク支持フレーム41の長さとも言える。このように、裏側リンク機構44は、側面視で平行四辺形状に形成されたクローズドループ構造の4節リンクを構成している。
【0057】
また、
図4等に示すように、裏側駆動リンク部材61は、第1連結節57から上方に延設されることにより裏側操作アーム部61aが一体形成されており、裏側操作アーム部61aの上部側には、裏銅板用エアシリンダ43によって操作される裏側リンク操作体52と当接するように構成されている。
【0058】
また、
図3及び
図4等に示すように、裏側従動リンク部材62は、前後方向に延設された板状に形成されるとともに、その後部上側に切欠部62aが形成されており、該切欠部62aに裏銅板12が支持されている。これにより、裏銅板12は、加圧面が鋼板5の裏面側と平行に支持されることにより、加圧面の全面が鋼板5の裏面に当接するように構成されている。
【0059】
該構成の裏側リンク機構44によれば、裏銅板用エアシリンダ43の伸縮作動に伴う作動力を、作動ロッド→裏側リンク操作体52→裏側操作アーム部61a→裏側駆動リンク部材61→裏側中間リンク部材63→裏側従動リンク部材62及び裏銅板12の順番に作用させることにより、裏銅板12を鋼板5の裏面側に対して上下動させることができる。なお、裏側リンク機構44を操作するアクチュエータとしては、裏銅板用エアシリンダ43に代えて、電動シリンダやモータを用いた構成としても良い。
【0060】
すなわち、上述の裏銅板支持部13によれば、開先10が形成された鋼板5の表面と裏面とを、本体枠部6側の走行ローラ7と、裏側リンク支持フレーム41側の裏走行ローラ46とで強力に挟持することができるため、電動ウインチ3で吊り下げられた立向姿勢の溶接台車2を鋼板5の表面で自走可能な状態で保持することができる。また、裏銅板12を鋼板5の裏面側に押付ける加圧作動と、裏銅板12の加圧作動の解除と、を操作することができる。
【0061】
<ガイドローラ>
ガイドローラ8は、溶接を行う溶接トーチ4の前方側で開先10内に位置させることで、溶接台車2の溶接進行方向が開先10の延設方向に沿うように、すなわち、溶接線に沿うようにガイドするための倣いローラである。より具体的には、ガイドローラ8は、開先10を形成する一対の鋼板5A,5Bの開先面5a,5bに当接するように、開先10内に位置する。なお、溶接が進行する方向に対して、左方の開先面を5a、右方の開先面を5bとする。ガイドローラ8は、開先10の延設方向に沿って複数設けられている。なお、図示の例では、ガイドローラ8は2つ設けられている。
【0062】
本実施例では、ガイドローラ8は、支点ガイドローラ8Bと、支点ガイドローラ8Bよりも前方側に配置される可動ガイドローラ8Aと、を有する。支点ガイドローラ8Bは、前輪7A及び後輪7Bの間の前後方向位置に配置されて、上下方向に移動可能に支持される。可動ガイドローラ8Aは、溶接台車2の前方に配置されて、左右方向と上下方向に移動可能に支持される。なお、ガイドローラ8の位置や数はこれらに限られないが、少なくとも一つは、溶接台車2の前方に配置することが好ましい。
【0063】
図4等に示すように、支点ガイドローラ8Bは、該支点ガイドローラ8Bを軸支する支点ローラ軸66と、支点ローラ軸66の両端側に取付固定される左右一対の支点ローラ支持板67,67と、該支点ローラ支持板67を上下方向に変位可能に支持する左右一対の支点用ガススプリング68と、を有している。
【0064】
ここで、支点用ガススプリング68は、その下端側が支点ローラ支持板67に取付固定され、その上端側が左右一対の本体フレーム18を架け渡すように形成された連結杆69側に取付固定されている。これにより、支点ガイドローラ8Bは、上下方向に弾性変位可能とされ、開先10内に向かって付勢される構成で本体枠部6側に支持されている。
【0065】
図4及び
図6等に示すように、可動ガイドローラ8Aは、可動ガイドローラ8Aを上下方向に変位可能な構成で本体枠部6側に支持する可動ローラ支持部と、可動ガイドローラ8Aを左右方向に駆動可能に支持する可動ローラ駆動部と、を備え、可動ガイドローラ8Aの左右位置は制御部によって制御することができるように構成されている。
【0066】
可動ローラ支持部は、可動ガイドローラ8Aを軸支する可動ローラ軸71と、可動ローラ軸71から後方斜め上方に向けて延設されて該可動ローラ軸71を挟むように左右一対設けられた上下揺動フレーム72,72と、作動ロッドが前方に向けられた左右一対の上下駆動エアシリンダ73,73と、を有している。このとき、上下駆動エアシリンダ73の作動ロッドは、上下方向の連携ロッド74を介して、上下揺動フレーム72の基端側と連結されることにより、上下揺動フレーム72を下方に付勢可能に構成されている。
【0067】
該構成によれば、可動ガイドローラ8Aは、上下方向に揺動可能に本体枠部6側に支持されるとともに、上下駆動エアシリンダ73の付勢力により、可動ガイドローラ8Aを開先10側に押付けるように付勢することができる。また、可動ガイドローラ8Aは、左右一対の上下揺動フレーム72,72の間において可動ローラ軸71上を左右方向にスライド移動可能に構成されている。詳しくは以下で説明する。
【0068】
可動ローラ駆動部は、上下揺動フレーム72前端の可動ローラ軸71の左右外側に設けられて可動ガイドローラ8Aを可動ローラ軸71上でスライド移動可能にする左右一対の駆動手段としての左右駆動エアシリンダ75,75と、左右駆動エアシリンダ75の駆動を制御する上述の制御部と、を備えている。
図6等に示すように、本実施例では、可動ローラ駆動部は、制御部によって制御される左右駆動部エア回路を介して、左右駆動エアシリンダ75の駆動推力を制御することができるように構成されている。なお、可動ガイドローラ8Aをスライド移動させるアクチュエータは、左右駆動エアシリンダ75に限られず、電動シリンダや、モータを用いても良い。
【0069】
図7に基づき、駆動部エア回路について説明する。
図7は、駆動部エア回路の構成を示した図である。駆動部エア回路は、図示されるように、左右の左右駆動エアシリンダ75,75と、メーターインの流量制御弁76と、方向制御弁(3ポジション、エキゾーストセンタ)77と、電空レギュレータ78と、を含んでいる。なお、駆動部エア回路の構成は上記には限られず、流量制御弁76を省略して構成したものとしても良い。
【0070】
具体的に説明すると、駆動部エア回路は、可動ガイドローラ8Aを右方にスライド移動させる場合には、方向制御弁77を切替え、電空レギュレータ78と流量制御弁76を通すことにより、左側の左右駆動エアシリンダ75のヘッド側と右側の左右駆動エアシリンダ75のロッド側にエアを充填し、左側の左右駆動エアシリンダ75のロッド側と右側の左右駆動エアシリンダ75のヘッド側のエアを排出する。同様に、可動ガイドローラ8Aを左方にスライド移動させる場合には、方向制御弁77を切替え、電空レギュレータ78と流量制御弁76を通すことにより、左側の左右駆動エアシリンダ75のロッド側と右側の左右駆動エアシリンダ75のヘッド側にエアを充填し、左側の左右駆動エアシリンダ75のヘッド側と右側の左右駆動エアシリンダ75のロッド側のエアを排出する。
【0071】
また、駆動エア回路は、
図7に示されるように、左右の左右駆動エアシリンダ75のロッド側、ヘッド側ともにエアが排出される状態に切替えることにより、可動ガイドローラ8Aが可動ローラ軸71上で左右方向に自由に平行移動可能なフリー状態とすることができる。
【0072】
制御部は、詳しくは後述する視覚センサ14により、溶接作業中の溶接台車2の溶接進行方向と、開先10の延設方向と、の間に、予め設定した所定の閾値以上のズレ量を検出した場合には、検出されるズレ量が小さくなる方向に溶接台車2が旋回走行するように、左右駆動エアシリンダ75を介して可動ガイドローラ8Aのスライド位置を調整する。一方、検出センサにより検出されたズレ量が所定の閾値未満であった場合には、左右の左右駆動エアシリンダ75のロッド側とヘッド側のエアが排出される状態とすることにより、可動ガイドローラ8Aが左右方向に自由に平行移動可能なフリー状態とする駆動制御が実行可能に構成されている。駆動制御の具体的な制御方法について後述する。
【0073】
<視覚センサ>
図1~8に基づいて、視覚センサについて具体的に説明する。
図8(A)は、視覚センサにより基準位置及び現在位置を撮影したモデル図であり、
図8(B)は、視覚センサによりズレ量が閾値未満であることを検出した状態を示したモデル図であり、
図8(C)は、視覚センサによりズレ量が閾値以上であることを検出した状態を示したモデル図である。
【0074】
本実施例では、X軸方向に延びる開先10の延設方向すなわち溶接線に対する溶接台車2の溶接進行方向のズレ量を検出する検出センサとして、溶接部位の画像を撮影する視覚センサ14を用いた。
図3及び
図4等に示すように、視覚センサ14は、本体枠部6を構成する後側の連結杆20に設けられることによって、開先10内に沿って設置されている。このため、視覚センサ14は、溶接台車2が溶接作業をしながら鋼板5の表面を上進走行している最中に、溶接部位であるスラグ浴を常に画角に収めた画像80を撮影することにより、溶接台車2の溶接進行方向と、X軸方向に延びる開先10の延設方向すなわち溶接線と、の間のズレ量を検出することができるように構成されている。
【0075】
具体的に説明すると、まず、溶接作業を開始する前に、溶接台車2を溶接線に対して左右方向すなわちヨー角方向に傾きがないように鋼板5側に固定し、撮影される画像80の中央にスラグ浴が位置するように視覚センサ14の取付位置を調整する。次に、
図8(A)に示すように、視覚センサ14により撮影された画像80の中からスラグ浴の形状Xを解析して、スラグ浴の形状Xの重心位置を基準位置Yとして取得する。なお、スラグ浴の形状Xは、開先10の形状と略同一である。なお、基準位置Yは、スラグ浴の重心位置に限らず任意の位置に設定してよい。このとき、視覚センサ14は、基準位置Yと、画像80の中心位置Cと、が重なるように設置する。
【0076】
次に、
図8(B)及び(C)に示すように、溶接作業を開始後に、視覚センサ14により撮影される画像80内のスラグ浴の基準位置Yが、溶接台車2の現在位置としての画像80の中心位置Cから左右方向にズレた場合に、そのズレ量を、溶接線に対する溶接台車2の溶接進行方向のズレ量すなわちヨー角変位量として検出することができる。すなわち、上記ズレ量は、スラグ浴の基準位置Yと、溶接台車2の現在位置としての画像の中心位置Cと、の差に基づいて検出される。
【0077】
このとき、視覚センサ14により取得される画像80内には、駆動制御で用いる上述の閾値を示す枠Tが表示される構成としても良い。この場合、
図8(C)に示すように溶接作業中に基準位置Yが枠Tの外側に出た場合には、ズレ量が閾値を超えたことになるため、作業者はズレ量を直観的にも把握することができる。なお、画像80内の枠Tの大きさは設定される閾値によって変動する。
【0078】
なお、上記ズレ量を検出する検出センサは、開先10の延設方向に対して溶接台車2の溶接進行方向が変位している変位量、具体的にはヨー角変位量、を検出可能な構成であれば上述の視覚センサ14に限られない。検出センサとしては、レーザセンサなどの光学センサや磁気センサの他、ジャイロセンサ等であっても良いし、これらを組み合わせて検出する構成としても良い。
【0079】
<制御方法>
次に、
図9(A)~(D)及び
図10に基づき、制御部による駆動制御の具体的な処理内容について説明する。制御部は、例えばプロセッサの一部で、演算装置や記憶装置の読み書き、入出力等を制御する制御装置であって、入力側には視覚センサ14が接続され、出力側には方向制御弁77、電空レギュレータ78が接続されている。
【0080】
図9(A)~(D)に基づいて、駆動制御の概要について説明する、
図9(A)~(D)は、駆動制御の効果を示した概要図である。制御部は、
図9(A)に示すように溶接台車2が鋼板5を上進走行しながら溶接を行う溶接作業が開始されると、視覚センサ14を用いて溶接台車2の溶接進行方向と開先10の延設方向との間のズレ量の検出を開始し、ズレ量が閾値未満の場合には、可動ガイドローラ8Aをフリー状態として溶接作業を続行する。
【0081】
図9(B)には、溶接作業時に、視覚センサ14によって、溶接台車2の溶接進行方向が開先10の延設方向に対して左方向、即ち鋼板5A側に接近する方向に傾き、このズレ量が閾値以上となったことが検出された場合が示されている。この場合、
図9(C)において矢印で示すように、一対の左右駆動エアシリンダ75,75の駆動を制御することにより、可動ガイドローラ8Aをズレ量が発生した左方向の開先面5aを押圧するようにスライド移動させる。
【0082】
これにより、
図9(D)に示すように、溶接台車2は、可動ガイドローラ8Aが押圧した左側の開先面5aから反作用が生じるため、開先10内の支点ガイドローラ8Bを支点として可動ガイドローラ8Aのスライド方向と反対方向である右側に旋回する。言い換えると、溶接台車2は、溶接進行方向が開先10の延設方向に沿う方向へと旋回する。すなわち、溶接台車2は、開先10の延設方向から外れはじめた溶接台車2の進行方向を開先10の延設方向に沿った進行方向に戻すことによって、視覚センサ14により検出されるズレ量を補正することができる。なお、この「ズレ量を補正する」は「ズレ量をキャンセルする」と言い換えても良い。
【0083】
該構成によれば、溶接作業中の溶接台車2が、様々な施工条件や外乱の要因、例えば、開先を形成する鋼板5Aと鋼板5Bの板厚が違ったり、板継部分で板厚が異なったり、傾斜があったり、開先10の左右位置にズレがあったりすることによって、溶接台車2の溶接進行方向と溶接線との間にズレ量が発生し、該ズレ量を前記視覚センサ14が検出した場合には、左右駆動エアシリンダ75,75は、検出されたズレ量をキャンセルする方向に溶接台車2が動くように、可動ガイドローラ8Aで一方側の開先面5a,5bを押圧する駆動制御を行うことができる。
【0084】
次に、
図10に基づき、駆動制御の処理フローについて説明する。
図10は、駆動制御の処理を示したフロー図である。制御部は、駆動制御の処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、視覚センサ14によって、溶接台車2の溶接進行方向と、開先10の延設方向との間のズレ量を検出し、ステップS2に進む。
【0085】
ステップS2では、視覚センサ14によって検出されたズレ量が、予め設定された閾値以上であるか否かが確認され、検出されたズレ量が閾値以上であることが検出された場合には、ステップS3に進む。
【0086】
ステップS3では、制御部は、検出されたズレ量に基づいて、左右駆動エアシリンダ75を駆動させてズレ量を補正するために必要なエア圧力を算出し、算出されたエア圧力に基づいて、一対の左右駆動エアシリンダ75,75を駆動する。これにより、可動ガイドローラ8Aを左右方向にスライド移動させ、ズレ量が検出された方向の開先面(開先面5aまたは開先面5bのいずれか一方)を押圧する。その後、リターンする。
【0087】
これにより、溶接台車2は、開先10内の支点ガイドローラ8Bを支点として可動ガイドローラ8Aのスライド方向と反対方向に押し返されることにより、溶接台車2をズレ量が小さくなる方向へと旋回させることができる。これを視覚センサ14により検出されるズレ量が閾値未満になるまで続けることにより、溶接台車2の溶接進行方向を溶接線に沿った正位置に戻すことができる。
【0088】
左右駆動エアシリンダ75,75を駆動させるエア圧力の算出方法としては、検出されるズレ量と、ズレ量の補正に必要なエア圧力との関係を予めデータベース化しておき、データベースと検出されたズレ量の値とに基づいて、一対の左右駆動エアシリンダ75,75に供給するエア圧力を決定する構成としても良い。また、エア圧力と、ズレ量の補正具合のデータを記録して自動学習する構成としても良いし、エア圧力の算出は行わず、常に一定のエア圧力で左右駆動エアシリンダ75を駆動する構成としても良い。
【0089】
なお、ステップS2において、視覚センサ14により検出されたズレ量が、予め設定された閾値未満であることが検出された場合には、ステップS4に進む。
【0090】
ステップS4では、左右駆動エアシリンダ75による可動ガイドローラ8Aのスライド移動は行わず、左右駆動エアシリンダ75のヘッド側、ロッド側ともにエアが排出される状態、言い換えると、可動ガイドローラ8Aが可動ローラ軸71上を左右方向に自由に平行移動可能なガイドローラフリー状態に切替え、その後、リターンする。これにより上下板継時など、開先の左右位置が急激に変化する箇所に可動ガイドローラ8Aが接触するような外乱を受けた場合であっても、可動ガイドローラ8Aが左右方向に逃げることで、溶接台車2への急峻なヨー変化を回避することができる。
【0091】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0092】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置であって、
前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラと、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出する検出手段と、
を有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、駆動手段を用いて前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記駆動手段は、前記検出手段によって検出されたズレ量をキャンセルする方向に動くように、前記可動ガイドローラを開先面に押圧する駆動制御を行う
ことを特徴とする立向溶接装置。
本構成によれば、レール設置を必要としない自走式の立向溶接装置において、溶接台車の姿勢を安定に維持して溶接トーチ先端位置のズレを抑制することができるため、良好な溶接品質を確保することができる。
【0093】
(2) 前記検出手段は、前記ズレ量に対して予め閾値を設定し、前記ズレ量が前記閾値以上であることが検出された場合には、前記駆動制御を行い、前記ズレ量が前記閾値未満であることが検出された場合には、前記可動ガイドローラが前記溶接進行方向に対して直交する方向に自由に平行移動可能な状態にする
ことを特徴とする(1)に記載の立向溶接装置。
本構成によれば、ズレ量が閾値以上の場合にのみ可動ガイドローラを駆動制御するため、立向姿勢での溶接作業の作業効率をなるべく落とすことなく、正確性を向上させることができる。
【0094】
(3) 前記検出手段は、
視覚センサ、光学センサ、磁気センサのうち、少なくとも一つのセンサを含み、
前記ズレ量は、前記センサにより取得された、所定の基準位置と、前記溶接台車の現在位置との差に基づいて検出する
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の立向溶接装置。
本構成によれば、溶接台車の進行方向と、開先の延設方向との間のズレ量を簡易且つ正確に検出することができる。
【0095】
(4) 前記ガイドローラのうち前記溶接進行方向に対して最も前方に配置された前記ガイドローラが、前記可動ガイドローラである
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の立向溶接装置。
本構成によれば、左右方向に駆動する可動ガイドローラを最も前方に配置したことにより、溶接台車の溶接進行方向のズレの補正作動がスムーズになる。
【0096】
(5) 吊り下げ式の立向溶接装置であって、
前記溶接台車を吊り上げる電動ウインチを設けた
ことを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載の立向溶接装置。
本構成によれば、装置全体の大きさや重量をコンパクトにすることができるとともに、作業開始前の準備工程も比較的簡易なため、メンテナンス性や作業効率が高くなる。
【0097】
(6) エレクトロスラグ溶接又はエレクトロガス溶接用の立向溶接装置であって、
前記溶接台車は、
前記被溶接材の一方側の面である表面側に配置されて、前記開先に沿って摺動する表銅板と、
前記被溶接材の他方側の面である裏面側に配置されて、前記開先に沿って摺動する裏銅板と、
前記表銅板と前記裏銅板とを前記被溶接材を挟持する方向に作動させるリンク機構と、
前記リンク機構を制御するアクチュエータと、を有する
ことを特徴とする(1)~(5)のいずれか1つに記載の立向溶接装置。
本構成によれば、被溶接材を挟持する表銅板と裏銅板とを比較的簡易な構造で正確に操作することができる。
【0098】
(7) 前記駆動手段は、前記可動ガイドローラを平行移動させるエアシリンダであり、前記検出手段により検出された前記ズレ量に基づいて、前記エアシリンダの出力を算出するように構成された
ことを特徴とする(2)に記載の立向溶接装置。
本構成によれば、ズレ量を補正するために必要なエアシリンダの出力計算を容易に行うことができる。
【0099】
(8) 2つの被溶接材により形成される開先に対し、立向姿勢による溶接を行うための立向溶接装置の制御方法であって、
前記立向溶接装置は、前記被溶接材の板厚方向に対して垂直となる一方側の表面側を前記開先に沿って走行しながら溶接する溶接台車と、前記溶接台車に搭載された溶接トーチと、を備え、
前記溶接台車は、
溶接進行方向に沿って少なくとも2以上並べて配置されて、前記開先の延設方向に沿って進行するガイドローラを有し、
前記ガイドローラの少なくとも一つは、前記溶接進行方向に対して直交する方向に平行移動可能な可動ガイドローラであり、
前記開先の延設方向に対する前記溶接台車の前記溶接進行方向のズレ量を検出した場合に、前記可動ガイドローラによって前記ズレ量が検出された方向の開先面を押圧する
ことを特徴とする立向溶接装置の制御方法。
本構成によれば、レール設置を必要としない自走式の立向溶接装置の制御方法において、溶接台車の姿勢を安定に維持して溶接トーチ先端位置のズレを抑制することができるため、良好な溶接品質を確保することができる。
【符号の説明】
【0100】
2 溶接台車
3 電動ウインチ
4 溶接トーチ
8A 可動ガイドローラ(ガイドローラ)
8B 支点ガイドローラ(ガイドローラ)
9 表銅板
12 裏銅板
14 視覚センサ(検出手段)
15 制御部
24 表銅板用エアシリンダ(アクチュエータ)
25 表側リンク機構(リンク機構)
43 裏銅板用エアシリンダ(アクチュエータ、エアシリンダ)
44 裏側リンク機構(リンク機構)
75 左右駆動エアシリンダ(駆動手段、エアシリンダ)