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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051898
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/02 20060101AFI20240404BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B23K37/02 H
B23K9/12 350Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158279
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋平
(72)【発明者】
【氏名】森本 好信
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(57)【要約】
【課題】狭隘部に対して障害物が設けられる場合等でも、狭隘部内の溶接を適切に行う。
【解決手段】溶接装置は、長尺のブーム2と、溶接トーチ3と、ブーム2の一方の端部21に設けられ、ブーム2の長手方向に垂直な対象方向に溶接トーチ3を変位可能に支持する可動部4と、溶接トーチ3に対して対象方向への力を付与する溶接トーチ移動機構5とを備える。これにより、狭隘部に対して障害物が設けられる場合等でも、狭隘部内の溶接を適切に行うことができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置であって、
長尺のブームと、
溶接トーチと、
前記ブームの一方の端部に設けられ、前記ブームの長手方向に垂直な対象方向に前記溶接トーチを変位可能に支持する可動部と、
前記溶接トーチに対して前記対象方向への力を付与する溶接トーチ移動機構と、
を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記溶接トーチ移動機構の駆動源が、前記ブームの前記一方の端部よりも他方の端部に近い位置に配置されることを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記溶接トーチ移動機構が、前記溶接トーチに対して間接的または直接的に接続されたワイヤを用いて前記溶接トーチに対して前記対象方向への力を付与することを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記可動部が、前記対象方向に沿って前記溶接トーチを移動可能なスライド部を含むことを特徴とする溶接装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の溶接装置であって、
前記溶接トーチおよび前記ブームの前記長手方向への移動を案内する複数のガイドローラをさらに備え、
前記複数のガイドローラが、
前記溶接トーチの近傍に配置されるガイドローラと、
前記ブームの前記一方の端部に取り付けられ、前記ブームに近接した近接位置と、前記ブームから前記対象方向に離隔した離隔位置とに配置可能な可動ガイドローラと、
を含むことを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャスク(金属キャスク)が利用されている。キャスクには、原子炉から取り出された使用済燃料集合体(以下、単に「燃料集合体」という。)が収容される。キャスクは、例えば、燃料集合体を収容する胴本体と、胴本体の周囲を囲む外筒と、胴本体と外筒との間において周方向に配列される複数の伝熱フィンとを備える。キャスクの製造では、銅材である伝熱フィンと、鋼材である胴本体および外筒との、銅溶材による長距離異材すみ肉溶接が行われる。例えば、特許文献1では、このような溶接に適した溶接設備が開示されている。当該溶接設備では、溶接線に平行に設けた案内レールに沿って走行台車を走行させることにより、走行台車に取付けたブームが溶接線に平行に移動する。これにより、ブームの先端に設けた溶接トーチが、胴本体と外筒との間の狭隘部に挿入される。また、ブーム等に設けた案内ローラを胴本体等に当接転動させることにより、溶接トーチを溶接線に倣わせることが可能となる。
【0003】
なお、特許文献2では、中間連結管に溶接トーチを接続した溶接装置において、溶接角度に合わせて溶接トーチの形状を湾曲させることが記載されている。また、特許文献3では、溶接トーチが固着された牽引棒の先端部をバネ力により被溶接部に当接させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-257746号公報
【特許文献2】実公昭51-40275号公報
【特許文献3】実開昭62-146572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の溶接設備を用いる場合でも、溶接トーチの移動経路上に障害物が存在するときには、溶接トーチを当該経路に沿って移動させることができず、溶接を適切に行うことができない。したがって、狭隘部に対して障害物が設けられる場合等でも、狭隘部内の溶接を適切に行う手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、狭隘部に対して障害物が設けられる場合等でも、狭隘部内の溶接を適切に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、溶接装置であって、長尺のブームと、溶接トーチと、前記ブームの一方の端部に設けられ、前記ブームの長手方向に垂直な対象方向に前記溶接トーチを変位可能に支持する可動部と、前記溶接トーチに対して前記対象方向への力を付与する溶接トーチ移動機構とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の溶接装置であって、前記溶接トーチ移動機構の駆動源が、前記ブームの前記一方の端部よりも他方の端部に近い位置に配置される。
【0009】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の溶接装置であって、前記溶接トーチ移動機構が、前記溶接トーチに対して間接的または直接的に接続されたワイヤを用いて前記溶接トーチに対して前記対象方向への力を付与する。
【0010】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)の溶接装置であって、前記可動部が、前記対象方向に沿って前記溶接トーチを移動可能なスライド部を含む。
【0011】
本発明の態様5は、態様1ないし4のいずれか1つの溶接装置であって、前記溶接トーチおよび前記ブームの前記長手方向への移動を案内する複数のガイドローラをさらに備え、前記複数のガイドローラが、前記溶接トーチの近傍に配置されるガイドローラと、前記ブームの前記一方の端部に取り付けられ、前記ブームに近接した近接位置と、前記ブームから前記対象方向に離隔した離隔位置とに配置可能な可動ガイドローラとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、狭隘部に対して障害物が設けられる場合等でも、狭隘部内の溶接を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】キャスクを示す断面図である。
図2】伝熱フィンの近傍を拡大して示す断面図である。
図3】溶接装置を示す正面図である。
図4】溶接トーチの近傍を示す斜視図である。
図5】溶接トーチの近傍を示す正面図である。
図6】上位置に配置されたトーチユニットを示す図である。
図7】分割空間内に配置されたトーチユニットを示す図である。
図8】胴本体に設けられた障害物を示す図である。
図9】分割空間内に配置されたトーチユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、キャスク91を示す断面図であり、中心軸J1に垂直な断面を示す。キャスク91は、胴本体92と、外筒93と、複数の伝熱フィン94とを備える。胴本体92は、中心軸J1を中心とする筒状の容器である。胴本体92は、炭素鋼等の金属にて形成される。中心軸J1の方向における胴本体92の両端部には、2つの本体端部(図示省略)がそれぞれ設けられる。キャスク91では、蓋部である本体端部を取り外すことにより、胴本体92の内部に、複数の燃料集合体が収容可能である。外筒93は、中心軸J1を中心とする筒状であり、胴本体92の周囲を囲む。外筒93は、炭素鋼等の金属にて形成される。胴本体92の外周面と外筒93の内周面との間には、中心軸J1を中心とする筒状空間941が形成される。中心軸J1に垂直な断面における筒状空間941の形状は略円環状である。
【0015】
複数の伝熱フィン94は、筒状空間941において中心軸J1を中心とする周方向に配列される。複数の伝熱フィン94は、銅等の金属にて形成される。各伝熱フィン94は、胴本体92の外周面と外筒93の内周面とを接続する伝熱部材である。胴本体92の外周面に対する複数の伝熱フィン94の接続位置は、周方向にほぼ一定の間隔で配置される。外筒93の内周面に対する複数の伝熱フィン94の接続位置も、周方向にほぼ一定の間隔で配置される。図1の例では、複数の伝熱フィン94は、中心軸J1を中心とする径方向に対して一定の角度だけ傾斜する。キャスク91では、複数の伝熱フィン94により筒状空間941が複数の分割空間942に分割される。各分割空間942は、樹脂等の中性子遮蔽材が充填される空間である。
【0016】
図2は、一部の伝熱フィン94の近傍を拡大して示す断面図である。図2に示すように、各伝熱フィン94は、胴本体92および外筒93に対して溶接されている。詳細には、各伝熱フィン94と胴本体92の外周面とが鋭角に交差する交差部96には溶接部95が設けられ、各伝熱フィン94と外筒93の内周面とが鋭角に交差する交差部96にも溶接部95が設けられる。キャスク91の製造では、中性子遮蔽材を充填する前に、各伝熱フィン94が、胴本体92および外筒93に対して溶接される。以下、伝熱フィン94の溶接に利用される溶接装置1について説明する。
【0017】
図3は、溶接装置1を示す正面図であり、図3では、伝熱フィン94の溶接直前のキャスク91(すなわち、製造途中のキャスク91)も示している。図3では、互いに垂直なX方向、Y方向およびZ方向を矢印で示す(後述の図4ないし図9において同様)。図3の例では、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は重力方向である。溶接装置1の設計によっては、X方向およびY方向が水平方向に対して傾斜し、Z方向が重力方向に対して傾斜してもよい。溶接装置1による伝熱フィン94の溶接では、中心軸J1がY方向に略平行となるように、キャスク91が寝かされており、キャスク91の外周面(外筒93の外周面)は、複数の支持ローラ81により下方((-Z)側)から支持される。複数の支持ローラ81上において、キャスク91は中心軸J1を中心として回転可能である。
【0018】
溶接装置1は、Y方向においてキャスク91に隣接して配置される。溶接装置1は、ブーム2と、溶接トーチ3と、可動部4と、溶接トーチ移動機構5と、ブーム移動機構6とを備える。ブーム2は、長尺部材であり、Y方向に沿って延びる。ブーム2の長手方向に垂直な断面形状は、例えば、略矩形である。当該断面形状は、矩形以外であってもよい。溶接トーチ3は、ブーム2におけるキャスク91側((+Y)側)の端部21近傍に配置される。以下、当該端部21を「トーチ側端部21」という。可動部4は、ブーム2のトーチ側端部21に設けられ、溶接トーチ3をトーチ側端部21に対して上下方向(Z方向)およびX方向に変位可能に支持する。溶接トーチ移動機構5は、溶接トーチ3を上下方向に移動させる。溶接トーチ3、可動部4および溶接トーチ移動機構5の詳細については後述する。
【0019】
ブーム移動機構6は、第1昇降機構61と、第2昇降機構62と、送り機構63とを備える。第1昇降機構61は、Y方向においてキャスク91から離れた位置に配置される。第1昇降機構61は、移動体であるブーム保持部611を有し、ブーム保持部611は、ブーム2におけるキャスク91とは反対側の端部22を保持する。第1昇降機構61は、モータ等の駆動源により、ブーム2の当該端部22をブーム保持部611と共にX方向およびZ方向に移動する。ブーム保持部611では、X方向を向く軸部を中心としてブーム2が回転可能である。
【0020】
送り機構63は、例えば、移動体である支持プレート631を有し、支持プレート631上に第1昇降機構61が固定される。送り機構63は、一軸スライダであり、モータ等の駆動源により、支持プレート631を第1昇降機構61およびブーム2と共にY方向に移動させる。伝熱フィン94の溶接では、支持プレート631の移動により、ブーム2のトーチ側端部21が、キャスク91の筒状空間941(図1参照)に挿入される。支持プレート631には、後述するワイヤ送給部36およびワイヤ引張装置53も固定され、支持プレート631と共に移動する。
【0021】
第2昇降機構62は、第1昇降機構61とキャスク91との間に配置される。第2昇降機構62は、移動体であるブーム支持部621を有し、モータ等の駆動源により、ブーム支持部621をX方向およびZ方向に移動する。ブーム支持部621は、X方向を向く回転軸を中心とする送りローラ622を有し、送りローラ622は、ブーム2の下面に接触する。溶接装置1では、キャスク91の中心軸J1に対して、ブーム2が略平行となるように、第1昇降機構61および第2昇降機構62により、ブーム保持部611およびブーム支持部621の高さが調整される。送り機構63が支持プレート631をY方向に移動させる際には、ブーム2の下面が送りローラ622に常時接触することにより、ブーム2が滑らかに移動する。
【0022】
図4は、溶接トーチ3の近傍を示す斜視図であり、図5は、溶接トーチ3の近傍を示す正面図である。既述のように、可動部4は、ブーム2のトーチ側端部21に設けられ、溶接トーチ3をトーチ側端部21に対して上下方向およびX方向に変位可能に支持する。詳細には、可動部4は、左右揺動部41と、左右スライド部42と、上下スライド部43とを有する。
【0023】
左右揺動部41は、ブーム2のトーチ側端部21に取り付けられ、上下方向を向く回転軸を中心として回転可能(揺動可能)に左右スライド部42を支持する。左右スライド部42は、左右揺動部41に取り付けられる支持体と、当該支持体に対してX方向に沿う方向(以下、「左右方向」ともいう。)にスライド可能な移動体とを有する。当該移動体には、上下スライド部43が取り付けられ、左右スライド部42は、上下スライド部43を左右方向に移動可能に支持する。上下スライド部43は、左右スライド部42に取り付けられる支持体と、当該支持体に対して上下方向にスライド可能な移動体とを有する。当該移動体には、トーチ支持台39が取り付けられ、上下スライド部43は、トーチ支持台39を上下方向に移動可能に支持する。可動部4では、モータ等の駆動源は設けられておらず、トーチ支持台39等に作用する力に従って、トーチ支持台39が、左右方向への揺動、左右方向への移動、および、上下方向への移動を行う。すなわち、トーチ支持台39が、上下方向および左右方向に変位可能である。
【0024】
溶接トーチ3は、トーチ保持部38を介してトーチ支持台39上に固定される。トーチ保持部38では、調整ねじ等を用いて溶接トーチ3のX方向の位置が調整可能であってもよい。溶接トーチ3は、Y方向に沿って延びており、(+Y)側に設けられたノズル部31が下方に向かって湾曲する。ノズル部31の先端では、溶加材である溶接ワイヤ32が下方に向かって突き出る。溶接ワイヤ32は、図3のワイヤ送給部36から溶接トーチ3内に送り込まれる。溶接トーチ3およびキャスク91は、溶接電源(図示省略)に電気的に接続される。
【0025】
トーチ支持台39には、側方保護板111が取り付けられる。図4に示すように、側方保護板111は、法線がX方向に略平行な板状であり、溶接トーチ3のノズル部31の(-X)側に配置される。側方保護板111は、トーチ支持台39の(+Y)側の端部から(+Y)方向に向かって延びる。側方保護板111の(+Y)側の端部には、(+X)側に広がってノズル部31の(+Y)側を覆う前方保護板112が設けられる。前方保護板112には、カメラ支持板12が取り付けられる。カメラ支持板12は、法線が上下方向に略平行な板状であり、前方保護板112から(+Y)方向に向かって延びる。カメラ支持板12の(+Y)側の端部にはカメラ13が取り付けられる。カメラ13により、ノズル部31の先端から突き出る溶接ワイヤ32の先端近傍が撮像される。
【0026】
溶接装置1は、複数のガイドローラ71,72,73をさらに備える。図4および図5の例では、3個のガイドローラ71~73が設けられるが、ガイドローラの個数は、2個以下、または、4個以上であってもよい。複数のガイドローラ71,72,73は、Y方向に並ぶ。最も(+Y)側のガイドローラ71は、前方保護板112とカメラ支持板12との接続部の下側に取り付けられる。調整ねじ等を用いてガイドローラ71の上下方向の位置が調整可能であってもよい。中央のガイドローラ72は、トーチ支持台39の下側に取り付けられる。図5に示すように、最も(-Y)側のガイドローラ73は、ブーム2のトーチ側端部21の下側にローラ移動機構74を介して取り付けられる。ローラ移動機構74は、エアシリンダ等の駆動源を有し、ガイドローラ73をブーム2に近接した近接位置(図5中に二点鎖線にて示す位置)と、ブーム2から上下方向に離隔した離隔位置(図5中に実線にて示す位置)とに選択的に配置可能である。このように、ガイドローラ73の位置が可動であるため、以下、ガイドローラ73を「可動ガイドローラ73」という。
【0027】
溶接トーチ移動機構5は、駆動ワイヤ51と、滑車52と、ワイヤ引張装置53(図3参照)とを備える。図3および図4では、図示の都合上、駆動ワイヤ51を破線にて示す。駆動ワイヤ51の一端は、トーチ支持台39の上面に固定される。図5に示すように、滑車52は、滑車支持板521を介してブーム2のトーチ側端部21に固定され、トーチ支持台39における駆動ワイヤ51の固定位置の上方に配置される。駆動ワイヤ51は、滑車52に掛けられており、ブーム2の上方においてブーム2の他方の端部22に向かって延びる。ワイヤ引張装置53は、図3の支持プレート631上に設けられ、駆動ワイヤ51の他端はワイヤ引張装置53に接続される。ワイヤ引張装置53は、モータ等の駆動源を有し、駆動ワイヤ51の巻き取りおよび送り出しを行う。ワイヤ引張装置53では、駆動源としてエアシリンダ等が用いられてもよい。
【0028】
ワイヤ引張装置53が駆動ワイヤ51を巻き取ることにより、駆動ワイヤ51が引っ張られる。これにより、図6に示すように、トーチ支持台39が、上下スライド部43の移動体と共にブーム2に対して上方に移動する。既述のように、トーチ支持台39には、溶接トーチ3およびカメラ13等が固定されており、トーチ支持台39と共に溶接トーチ3およびカメラ13等もブーム2に対して上方に移動する。以下の説明では、トーチ支持台39およびトーチ支持台39に固定された構成(溶接トーチ3、ガイドローラ71,72、カメラ13等)を「トーチユニット30」と総称し、図6に示すトーチユニット30のブーム2に対する相対位置を「上位置」という。図6の例では、Y方向に沿って見た場合に、上位置に配置されたトーチユニット30におけるトーチ支持台39は、ブーム2とほぼ重なる。また、可動ガイドローラ73が近接位置に配置されており、複数のガイドローラ71~73の上下方向の位置が略同じである。トーチユニット30が上位置に配置され、かつ、可動ガイドローラ73が近接位置に配置された図6の状態では、Y方向に沿って見た、トーチユニット30周辺の構成の、上下方向における大きさが、図5の状態よりも小さくなる。
【0029】
図5に示すように、可動ガイドローラ73を離隔位置に配置した状態で、ワイヤ引張装置53が駆動ワイヤ51を送り出して弛緩させると、重力により、トーチユニット30が上位置から下方に移動し、図5に示す位置に配置される。以下の説明では、図5に示すトーチユニット30のブーム2に対する相対位置を「下位置」という。図5の例では、下位置に配置されたトーチユニット30におけるトーチ支持台39の全体は、ブーム2よりも下方に位置する。また、複数のガイドローラ71~73の上下方向の位置が略同じである。
【0030】
図7は、分割空間942内に配置されたトーチユニット30を示す図であり、(+Y)側から(-Y)方向を向いて見た様子を示す(後述の図9において同様)。図7では、後述の障害物99も図示している。伝熱フィン94を溶接する際には、トーチユニット30がブーム2の一部と共に筒状空間941に配置される。本処理例では、筒状空間941において、伝熱フィン94が仮固定されており、トーチユニット30が一の分割空間942に配置される。既述のように、分割空間942は、筒状空間941において互いに隣接する2つの伝熱フィン94により挟まれた狭隘部である。図7に示す分割空間942では、伝熱フィン94と胴本体92の外周面とが鋭角に交差する交差部96が、当該分割空間942における最下点に配置される。交差部96は、Y方向に延びる。図5および図7に示すように、ガイドローラ71,72および離隔位置に配置された可動ガイドローラ73が、交差部96近傍における伝熱フィン94の部位および胴本体92の部位に接触する。また、ノズル部31の先端が交差部96に対向する。
【0031】
溶接装置1では、溶接電源をON状態としつつ、送り機構63(図3参照)により支持プレート631が(+Y)方向に連続的に移動される。既述のように、溶接装置1では、トーチ支持台39の左右方向の移動および揺動、並びに、上下方向への移動が自由な状態である。したがって、トーチユニット30が、最下点である交差部96に倣って移動し、当該交差部96に対して溶接が行われる。その結果、Y方向における伝熱フィン94の略全長(例えば、3~4m)に亘って溶接部95が形成される。
【0032】
溶接部95の形成が完了すると、トーチユニット30を(-Y)方向に移動させることにより、トーチユニット30が当該分割空間942から抜き取られる。その後、キャスク91を中心軸J1を中心として僅かに回転させることにより、Y方向においてトーチユニット30が他の分割空間942に対向する。そして、上記と同様にして、当該他の分割空間942を形成する伝熱フィン94の溶接が行われる。伝熱フィン94と外筒93の内周面とが鋭角に交差する交差部96についても、同様の動作により溶接部95が形成される。なお、溶接部95の形成は、トーチユニット30を(-Y)方向に移動させつつ(すなわち、ブーム2を引き抜きながら)行われてもよい。
【0033】
ここで、キャスク91では、トーチユニット30の移動経路上において障害物99が存在する場合がある。図8は、胴本体92の外周面上に設けられた障害物99を示す図である。図8の右側では、(-Y)側から(+Y)方向を向いて見たキャスク91の一部を示し、図8の左側では、右側の図の矢印A-Aの位置におけるキャスク91の断面を示す。図8の左側では、切断面の背後も図示している。
【0034】
図8に示す障害物99は、胴本体92の外周面に設けられる突起部である。図8の右側において、障害物99の断面部分のZ方向の高さ(すなわち、切断線上における交差部96から障害物99の上端までの高さ)は、例えば50~80mmである。障害物99は、伝熱フィン94の(-Y)側に設けられており、Y方向に沿って見た場合に、障害物99が一部の分割空間942と部分的に重なる。当該分割空間942(以下、「注目分割空間942」という。)において交差部96に溶接部95を形成するには、トーチユニット30が障害物99と外筒93との間の隙間を通過し、さらに、障害物99を超えた位置にて、トーチユニット30が胴本体92の外周面に近づく必要がある。
【0035】
そこで、溶接装置1を用いた伝熱フィン94の溶接では、トーチユニット30が、障害物99と外筒93との間の隙間を通過する際に、図6および図9に示すように、溶接トーチ移動機構5によりトーチユニット30が上位置に配置され、かつ、ローラ移動機構74により可動ガイドローラ73が近接位置に配置される。これにより、トーチユニット30周辺の構成の上下方向における大きさが小さくなった状態で、トーチユニット30が、障害物99と外筒93との間の隙間を通過する。すなわち、障害物99を避けてトーチユニット30が移動する。また、トーチユニット30が障害物99を超えると、図5および図7に示すように、トーチユニット30が下位置に配置され、さらに、可動ガイドローラ73が離隔位置に配置される。これにより、ノズル部31の先端が交差部96に近接し、注目分割空間942において交差部96に溶接部95を形成することが可能となる。溶接装置1では、トーチユニット30が障害物99を通過する際、および、通過後において、ブーム2を上下方向および左右方向に大きく移動させる必要もない。
【0036】
溶接トーチ移動機構5、ローラ移動機構74、ブーム移動機構6および溶接電源等の操作は、外部から作業者が注目分割空間942内を目視する、または、カメラ13の撮像画像を確認することにより、作業者により行われる(注目分割空間942以外の分割空間942内の溶接時において同様)。もちろん、コンピュータ等が実現する制御部が設けられ、制御部により溶接トーチ移動機構5、ローラ移動機構74、ブーム移動機構6および溶接電源等の操作が自動的に行われてもよい。また、複数の溶接装置1が設けられ、複数の分割空間942に対して並行して、伝熱フィン94の溶接が行われてもよい。
【0037】
以上に説明したように、溶接装置1は、長尺のブーム2と、溶接トーチ3と、ブーム2の一方の端部に設けられ、上下方向に溶接トーチ3を変位可能に支持する可動部4と、溶接トーチ3に対して上下方向への力を付与する溶接トーチ移動機構5とを備える。これにより、狭隘部(上述の例では、分割空間942)に対して障害物99が設けられる場合等でも、当該障害物99を避けて溶接トーチ3を移動させることができ、狭隘部内の溶接を適切に行うことができる。
【0038】
好ましくは、溶接トーチ移動機構5の駆動源(上述の例では、ワイヤ引張装置53の駆動源)が、ブーム2のトーチ側端部21とは異なる端部22の近傍に配置される。これにより、溶接時の熱により当該駆動源が損傷することを防止する、すなわち、当該駆動源の耐久性を保つことができる。その結果、溶接トーチ移動機構5を安定して駆動させることが可能となる。
【0039】
好ましくは、溶接トーチ移動機構5が、溶接トーチ3に対して間接的に接続された駆動ワイヤ51を用いて、溶接トーチ3に対して上下方向への力を付与する。これにより、簡単な構成で溶接トーチ3を上下方向に移動させることができ、溶接装置1の製造コストの増大を抑制することができる。溶接装置1では、駆動ワイヤ51が溶接トーチ3に直接的に接続されてもよい。
【0040】
好ましくは、溶接装置1が、溶接トーチ3およびブーム2の長手方向への移動を案内する複数のガイドローラ71~73をさらに備える。複数のガイドローラ71~73が、溶接トーチ3の近傍に配置されるガイドローラ71,72と、ブーム2のトーチ側端部21に取り付けられる可動ガイドローラ73とを含む。可動ガイドローラ73は、ブーム2に近接した近接位置と、ブーム2から上下方向に離隔した離隔位置とに配置可能である。溶接装置1では、トーチ側端部21が障害物99を通過する間、可動ガイドローラ73が近接位置に配置され、トーチ側端部21が障害物99を通過した後、可動ガイドローラ73が離隔位置に配置される。これにより、障害物99の通過時および通過後において、上下方向におけるブーム2の位置を略一定に保ちつつ、可動ガイドローラ73によりトーチ側端部21を適切に支持することが可能となり、ブーム2の長手方向への移動を容易に行うことができる。
【0041】
上記溶接装置1では様々な変形が可能である。
【0042】
可動部4では、溶接トーチ3を上下方向に変位可能に支持することが可能であるならば、様々な構造が用いられてもよい。例えば、X方向に垂直、かつ、上下方向(Z方向)に対して傾斜した方向に溶接トーチ3を移動可能なスライド部により、溶接トーチ3が上下方向に変位可能に支持されてもよい。また、X方向を向く軸を中心としてトーチ支持台39を回転可能に支持する揺動部が設けられ、溶接トーチ3が上下方向に変位可能とされてもよい。一方、このような揺動部では、トーチ支持台39の揺動によって、交差部96に対するノズル部31の傾斜角(すなわち、X方向に沿って見た場合のノズル部31の傾斜角)が変化し、溶接部95の状態がばらつく可能性がある。また、上記揺動部から離れた位置に設けられる、カメラ13が上下方向に大きく移動してしまい、溶接トーチ3の上下方向への変位に支障をきたす場合がある。したがって、溶接トーチ3を上下方向に適切に変位させるとともに、ノズル部31の傾斜角を一定に保つには、可動部4が、上下方向に沿って(上下方向に対して傾斜した方向を含む。)溶接トーチ3を移動可能な上下スライド部43を含むことが好ましい。後述するように、溶接トーチ3を上下方向以外の方向に変位させる場合も同様である。
【0043】
溶接トーチ移動機構5は、溶接トーチ3に対して、上下方向以外の方向への力を付与するものであってもよい。例えば、トーチユニット30の移動経路において、X方向(左右方向)の一方側に障害物99が設けられる場合には、溶接トーチ3に対して左右方向への力を付与する溶接トーチ移動機構5が設けられる。図4の可動部4には、左右揺動部41および左右スライド部42が設けられており、溶接トーチ移動機構5による力の付与により溶接トーチ3がブーム2に対して左右方向に移動する。
【0044】
以上のように、障害物99を避ける等のために、溶接トーチ3をブーム2に対して変位させる対象方向は、ブーム2の長手方向に垂直な任意の方向であってよい。すなわち、溶接装置1における可動部4は、任意の対象方向に溶接トーチ3を変位可能に支持すればよく、溶接トーチ移動機構5は、溶接トーチ3に対して対象方向への力を付与すればよい。また、可動ガイドローラ73が設けられる場合、離隔位置は、ブーム2から対象方向に離隔した位置であればよい。
【0045】
溶接トーチ移動機構5は、様々な構造により実現されてよい。一例では、対象方向が左右方向である場合に、トーチ支持台39の(+X)側を向く面、および、(-X)側を向く面に、2本の駆動ワイヤ51がそれぞれ固定され、2本の駆動ワイヤ51の巻き取り量(引張量)を調整することにより、トーチ支持台39の左右方向の位置が変更される。他の例では、トーチ支持台39の(+X)側を向く面に、当該面を(+X)側に付勢する付勢部(例えば、ばねや空圧等を利用する付勢部)が設けられ、(-X)側を向く面に固定された駆動ワイヤ51の巻き取り量を調整することにより、トーチ支持台39の左右方向の位置が変更される。また、溶接トーチ移動機構5では、駆動ワイヤ51を用いない構造(例えば、リンク機構を利用した構造等)により、溶接トーチ3に対して対象方向への力が付与されてもよい。
【0046】
溶接トーチ移動機構5の駆動源は、ブーム2上に設けられてもよい。この場合でも、当該駆動源が、ブーム2のトーチ側端部21よりも他方の端部22に近い位置に配置されることにより、溶接時の熱により当該駆動源が損傷することを防止することができる。溶接時の温度等によっては、当該駆動源が、トーチ側端部21に近い位置に配置されてもよい。
【0047】
ローラ移動機構74では、可動ガイドローラ73が、近接位置および離隔位置を含む3つ以上の位置に(多段階に)配置可能であってもよい。この場合、可動ガイドローラ73の位置に合わせて、トーチユニット30の位置も多段階に変化する。ブーム2の長さ等によっては、可動ガイドローラ73が省略されてもよい。
【0048】
ブーム2のY方向への移動、および、駆動ワイヤ51の巻き取り等は、手動により行われてもよい。
【0049】
溶接装置1は、キャスク91以外の様々な対象物に対する溶接に利用されてよい。
【0050】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0051】
1 溶接装置
2 ブーム
3 溶接トーチ
4 可動部
5 溶接トーチ移動機構
21,22 (ブームの)端部
43 上下スライド部
51 駆動ワイヤ
71,72 ガイドローラ
73 可動ガイドローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9