(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051961
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】トイレ装置及び排泄物分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240404BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20240404BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N21/17 A
E03D9/00 Z
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158370
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】家守 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 諒太
(72)【発明者】
【氏名】西島 かおり
【テーマコード(参考)】
2D038
2G059
4C038
【Fターム(参考)】
2D038KA00
2D038ZA03
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE13
2G059FF01
2G059HH02
2G059KK04
4C038VA04
4C038VB35
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析可能なトイレ装置及び排泄物分析システムを提供する。
【解決手段】トイレ装置12は、溜水W2が設けられる便鉢32を有する便器30と、撮影面58sが溜水W2に向くように設けられ、便鉢32内を撮影する画像センサ58と、画像センサ58による撮影で得られる画像の時系列を示す画像データ群118に基づいて、使用者の排泄によって溜水W2の中又は溜水W2の周辺に順次落下した大便の性状の変化を分析する性状分析部112と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溜水が設けられる便鉢を有する便器と、
撮影面が前記溜水に向くように設けられ、前記便鉢内を撮影する画像センサと、
前記画像センサによる撮影で得られる画像の時系列を示す画像データ群に基づいて、使用者の排泄によって前記溜水の中又は該溜水の周辺に順次落下した大便の性状の変化を分析する性状分析部と、
を備えることを特徴とするトイレ装置。
【請求項2】
前記使用者による着座、前記使用者が行う特定の操作、前記使用者が行う特定のジェスチャ、前記大便の落下に伴う音、及び、前記大便の落下に伴う前記溜水の揺れのうちの少なくとも1つの検知を契機として、前記便鉢内の撮影を開始するように、前記画像センサの動作を制御する撮影制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のトイレ装置。
【請求項3】
前記画像センサにより得られた前記画像データ群の中から、外部装置によるデータ処理又は前記性状分析部による分析処理に用いられる1つ以上の画像データを選定する画像選定部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のトイレ装置。
【請求項4】
前記画像データ群を構成する各々の画像データに対して物体検出処理を施して前記画像中の大便の有無及び位置を検出する物体検出部をさらに備え、
前記性状分析部は、前記物体検出部による検出結果を示す検出データを用いて前記大便を追跡するトラッキング処理を施し、前記溜水中における前記大便の挙動から前記大便中の含有物を分析することを特徴とする請求項1に記載のトイレ装置。
【請求項5】
前記画像データ群を構成する各々の画像データに対して物体検出処理を施して前記画像中の大便の有無及び位置を検出する物体検出部をさらに備え、
前記性状分析部は、前記物体検出部による検出結果を示す検出データを用いて前記大便を追跡するトラッキング処理を施し、前記大便の形状又は排泄順序を分析することを特徴とする請求項1に記載のトイレ装置。
【請求項6】
前記使用者に応じて設定された撮影間隔で前記便鉢内を撮影するように、前記画像センサの動作を制御する撮影制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のトイレ装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のトイレ装置と、
前記トイレ装置と通信可能に構成され、前記トイレ装置から収集した収集データに対してデータ処理を行うサーバ装置と、
を備えることを特徴とする排泄物分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ装置及び排泄物分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、トイレ装置に設けられた画像センサを用いて便鉢内を撮影し、得られた画像データに対して解析処理を施すことにより排泄物を分析する排泄物分析システムが開発されている。
【0003】
特許文献1には、落下中の大便を時系列に撮影して複数の静止画像を取得し、この複数の静止画像から大便の性状の変化を推定する便器装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された装置では、下方に高速移動する大便を画角内に収めた上で、被写体ブレを含む画像を解析する必要があるので、その分だけ画像撮影及び解析処理の高精度化が要求されるという問題がある。また、落下中の大便を撮影した画像からでは、大便の色や形状などの形態分析しか行えないという潜在的な問題もある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析可能なトイレ装置及び排泄物分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様に係るトイレ装置は、溜水が設けられる便鉢を有する便器と、撮影面が前記溜水に向くように設けられ、前記便鉢内を撮影する画像センサと、前記画像センサによる撮影で得られる画像の時系列を示す画像データ群に基づいて、使用者の排泄によって前記溜水の中又は該溜水の周辺に順次落下した大便の性状の変化を分析する性状分析部と、を備える。
【0008】
このように、画像センサの撮影面が便鉢内の溜水に向くように設けられているので、完全に静止して留まっている状態又は溜水の中を低速度で移動する状態で大便を撮影可能となり、撮影及び画像処理に要求される精度を高めなくても済む。換言すれば、撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析することができる。
【0009】
本発明の第2態様に係るトイレ装置は、前記使用者による着座、前記使用者が行う特定の操作、前記使用者が行う特定のジェスチャ、前記大便の落下に伴う音、及び、前記大便の落下に伴う前記溜水の揺れのうちの少なくとも1つの検知を契機として、前記便鉢内の撮影を開始するように、前記画像センサの動作を制御する撮影制御部をさらに備えてもよい。これにより、大便の排泄意思又は大便の落下に合わせて撮影を開始可能となり、その分だけ撮影又は画像処理に関わる演算負荷が軽減される。
【0010】
本発明の第3態様に係るトイレ装置は、前記画像センサにより得られた前記画像データ群の中から、外部装置によるデータ処理又は前記性状分析部による分析処理に用いられる1つ以上の画像データを選定する画像選定部をさらに備えてもよい。画像データの選定を通じて、取り扱うデータ量を削減可能となり、画像データの送信や分析に関わる演算負荷が軽減される。
【0011】
本発明の第4態様に係るトイレ装置は、前記画像データ群を構成する各々の画像データに対して物体検出処理を施して前記画像中の大便の有無及び位置を検出する物体検出部をさらに備え、前記性状分析部は、前記物体検出部による検出結果を示す検出データを用いて前記大便を追跡するトラッキング処理を施し、前記溜水中における前記大便の挙動から前記大便中の含有物を分析してもよい。これにより、トラッキング処理を通じて、大便中の含有物を分析することができる。
【0012】
本発明の第5態様に係るトイレ装置では、前記画像データ群を構成する各々の画像データに対して物体検出処理を施して前記画像中の大便の有無及び位置を検出する物体検出部をさらに備え、前記性状分析部は、前記物体検出部による検出結果を示す検出データを用いて前記大便を追跡するトラッキング処理を施し、前記大便の形状又は排泄順序を分析してもよい。これにより、トラッキング処理を通じて、大便の形状又は排泄順序を分析することができる。
【0013】
本発明の第6態様に係るトイレ装置は、前記使用者に応じて設定された撮影間隔で前記便鉢内を撮影するように、前記画像センサの動作を制御する撮影制御部をさらに備えてもよい。これにより、例えば、健康状態、排便の傾向又は習慣などの使用者の事情が反映された撮影間隔で画像データを得ることができる。
【0014】
本発明の第7態様に係る排泄物分析システムは、上記したいずれかのトイレ装置と、前記トイレ装置と通信可能に構成され、前記トイレ装置から収集した収集データに対してデータ処理を行うサーバ装置と、を備える。これにより、第1態様に係るトイレ装置の場合と同様に、撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態における排泄物分析システムの全体構成図である。
【
図2】
図1のトイレ装置が設置されたトイレルームを示す斜視図である。
【
図5】トイレ装置による画像処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】ブリストル便形状スケールの定義を示す図である。
【
図7】検出データが有するデータ構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
[排泄物分析システム10の構成]
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態における排泄物分析システム10の全体構成図である。排泄物分析システム10は、使用者の排泄物を分析して、得られた分析結果を使用者に提示するための「分析サービス」を提供可能に構成される。この排泄物分析システム10は、具体的には、1つ又は複数のトイレ装置12と、サーバ装置14と、1つ又は複数の使用者端末16と、を含んで構成される。
【0019】
トイレ装置12は、トイレルームR内に設けられ、排泄物の撮影を通じて画像データID(
図4)を取得する撮影機能と、画像データIDを含む収集データCD(
図4)を外部に送信する通信機能と、を備える。トイレ装置12の具体的な装置構成については、後ほど詳しく説明する。
【0020】
サーバ装置14は、上記した分析サービスに関する統括的な制御を行うコンピュータであり、クラウド型あるいはオンプレミス型のいずれであってもよい。ここで、サーバ装置14を単体のコンピュータとして図示しているが、サーバ装置14は、これに代わって分散システムを構築するコンピュータ群であってもよい。
【0021】
また、このサーバ装置14は、トイレ装置12と通信可能に構成されており、トイレ装置12から送信されたデータ(つまり、収集データCD)に対して様々なデータ処理を行う。データ処理の一例として、[1]詳細な分析処理、[2]データベースの構築処理、[3]データの検索処理、[4]閲覧画面の生成処理などが挙げられる。サーバ装置14は、具体的には、通信モジュールなどで構成されるサーバ側通信部20と、プロセッサなどで構成されるサーバ側制御部22と、メモリなどで構成されるサーバ側記憶部24と、を備える。
【0022】
使用者端末16は、上記した分析サービスの使用者が所有又は管理するコンピュータである。使用者端末16は、例えば、タブレット・ラップトップ・スマートフォン・ウェアラブルデバイスを含む携帯型の装置、又は、パーソナルコンピュータを含む据置型の装置から構成される。
【0023】
また、使用者端末16は、サーバ装置14と通信可能に構成されており、サーバ装置14のデータ処理を通じて得られた分析情報(例えば、使用者の排便履歴)を閲覧可能に構成される。使用者端末16は、具体的には、通信モジュール、プロセッサ、メモリ、表示パネル、タッチセンサ及びカメラ(いずれも不図示)などを備える。
【0024】
中継装置18は、コンピュータ同士をネットワーク接続するための通信機器であり、例えば、ルータ、ゲートウェイ、又は基地局から構成される。これにより、サーバ装置14は、中継装置18及びネットワークNTを介して、トイレ装置12から様々な情報を取得することができる。
【0025】
<トイレ装置12の構成>
図2は、
図1のトイレ装置12が設置されたトイレルームRを示す斜視図である。
図3は、
図2のI-I断面を示す断面図である。
【0026】
図2に示すように、トイレルームRの床面F上には便器30が設置されている。便器30は、大便器であり、使用者の便を受ける便鉢32と、便鉢32の周囲で立設するリム34と、を有している。例えば、トイレルームRに設けられた洗浄操作部(不図示)が使用者により操作されると、便鉢32に洗浄水が供給され、便鉢32の洗浄及び便鉢32からの便の排出が行われる。洗浄操作部は、トイレルームRに設けられる操作レバーや、後述する操作パネル60に設けられたボタンなど、種々の形態を採用し得る。
【0027】
トイレ装置12は、この便器30に適用される。トイレ装置12は、便座装置40と、操作パネル60と、を備える。なお、以下の説明では、後述する便座44に着座した使用者から見て前方を「前」、後方を「後」、左方を「左」、右方を「右」という。また、鉛直方向上方を「上」、鉛直方向下方を「下」という。
【0028】
便座装置40は、便器30の上部に開閉可能に取り付けられ、本体部42と、便座44と、便蓋46と、を備えている。便座装置40は、便器30に対して着脱可能に取り付けられてもよいし、便器30と一体となるように取り付けられてもよい。本体部42の前面には、使用者検知センサ52と、着座検知センサ54と、開閉検知センサ56と、が設けられている。
【0029】
使用者検知センサ52は、便器30の近傍に使用者が存在することを検知するために設けられている。この使用者検知センサ52は、例えば焦電型赤外線センサであり、所定サイクルで信号を送信するとともに、使用者が放出する特定波長の赤外線を受けると、その信号に変化が生じるように構成されている。
【0030】
着座検知センサ54は、使用者が便座44の着座面44bに着座していることを検知するために設けられている。この着座検知センサ54は、例えば赤外線を用いる測距センサであり、所定サイクルで信号を送信するとともに、対象物と着座検知センサ54との距離の変化に応じてその信号に変化が生じるように構成されている。
【0031】
開閉検知センサ56は、便座44の開閉状態を検知するために設けられている。この開閉検知センサ56は、例えばマイクロボタンであり、便座44が便器30から一定角度以上開くと便座44の開状態を検知する。
【0032】
便座44は、環状を呈し、その中央部には開口44aが形成されている。この開口44aは、便座44がリム34上に載置されているとき、便鉢32を開放する。便座44の後端部は本体部42に軸支されており、これにより、便座44は、リム34上に載置される姿勢と、リム34から離れて便鉢32を大きく開放する姿勢との間で回動可能とされている。このような便座44の裏面には、画像センサ58が設けられている。
【0033】
画像センサ58は、撮影面58sを介して光学的な撮影を行う光学カメラであり、2次元画像を示す画像信号を送信するように構成されている。ここで、撮影面58sは、画像センサ58に設けられる受光レンズがなす受光面を意味する。
【0034】
便蓋46は、便器30に対して開閉可能に本体部42に軸支されている。これにより、便蓋46は、便器30を覆う姿勢と、便器30から離れて便鉢32を大きく開放する姿勢との間で回動可能とされている。
【0035】
操作パネル60は、例えばトイレルームRの壁面に設置される。操作パネル60は、表示部62と、複数のボタン64と、を備える。表示部62は、例えば、操作パネル60の外側面に設けられた液晶パネルから構成され、様々な可視情報を表示する。複数のボタン64は、便座装置40の複数の動作にそれぞれ対応して設けられている。複数のボタン64には、例えば、便鉢32内を撮影するための撮影ボタン、あるいは便鉢32内に泡を吐出するための吐出ボタンが含まれる。
【0036】
図2に示すように、便器30は、便鉢32の底部に接続される排水通路部70と、便鉢32に形成されて洗浄水を吐出するための吐水口72と、をさらに備える。排水通路部70は、便鉢32内から下水側水路(不図示)に排出される汚物の通り道となる。排水通路部70の通水方向の途中位置には封水W1が溜められ、便鉢32の底部にはこの封水W1の一部が溜水W2として溜められる。
【0037】
便座44がリム34上に載置された姿勢にあるとき(
図2参照)、画像センサ58の撮影面58sは、便鉢32内の底側(つまり、溜水W2)を向くように配置されている。つまり、画像センサ58の撮影領域は、画角θの範囲内、溜水W2の水面Wsをすべて包含するように設けられる。これにより、溜水W2の中又は溜水W2の周辺に存在する物体が撮影され得る。
【0038】
図4は、
図1~
図3に示すトイレ装置12のブロック図である。トイレ装置12は、センサ群50と、操作パネル60(
図2)と、便座装置40(
図2及び
図3)に組み込まれるコントローラ80と、を含んで構成される。
【0039】
センサ群50には、大便の排泄意思を検知するセンサ、又は、大便が落下したことを検知するセンサが含まれる。前者の例として、[1]上記した使用者検知センサ52、着座検知センサ54、及び開閉検知センサ56の他に、[2]使用者による特定のジェスチャを検知するジェスチャ検知センサ、[3]使用者による特定の声を検知する音声センサなどが挙げられる。後者の例として、[1]上記した画像センサ58の他に、[2]大便の落下音を検知する音センサ、[3]溜水W2の水面Wsの揺れを検知する振動センサなどが挙げられる。
【0040】
操作パネル60には、大便を排泄する意思又は排泄した旨を伝えるための操作子が含まれる。操作子の例として、[1]連続撮影の開始を指示するためのボタン64、[2]連続撮影の終了を指示するためのボタン64、[3]一時的な撮影を指示するためのボタン64、[4]洗浄を含む他の動作を指示するためのボタン64などが挙げられる。
【0041】
コントローラ80は、トイレ装置12の各部を制御するためのコンピュータである。このコントローラ80は、具体的には、トイレ側通信部100と、トイレ側制御部102と、トイレ側記憶部104と、を含んで構成される。
【0042】
トイレ側通信部100は、内部又は外部の装置に対して電気信号を送受信するインターフェースである。これにより、コントローラ80は、トイレ装置12の内部に設けられる電動ユニットに制御信号を送信可能になるとともに、サーバ装置14に収集データCDを送信可能である。
【0043】
トイレ側制御部102は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)を含むプロセッサによって構成される。トイレ側制御部102は、トイレ側記憶部104に格納されたプログラム及びデータを読み出して実行することで、撮影制御部106、物体検出部108、性状分析部110、画像選定部112、及び送信処理部114として機能する。
【0044】
撮影制御部106は、所与の撮影条件に従って画像を撮影するように、画像センサ58による撮影動作を制御する。撮影の態様は、連続撮影、間欠撮影、又はスナップ撮影のいずれであってもよい。撮影条件には、撮影開始時点、撮影終了時点、又は撮影間隔が含まれる。撮影条件は、毎回の排泄で固定されてもよいし、排泄の度に決定されてもよい。
【0045】
撮影開始時点は、大便の排泄意思の検知又は大便の落下の検知を契機として決定されてもよい。例えば、撮影制御部106は、使用者による着座、使用者が行う特定の操作、使用者が行う特定のジェスチャ、大便の落下に伴う音、及び、大便の落下に伴う溜水W2の揺れのうちの少なくとも1つの検知を契機として、画像センサ58による撮影を開始してもよい。
【0046】
撮影終了時点は、排便が終了した意思又は状態の検知を契機として決定されてもよい。例えば、撮影制御部106は、使用者が行う特定の操作、使用者が行う特定のジェスチャ、大便の落下に伴う音、及び、大便の落下に伴う溜水W2の揺れのうちの少なくとも1つの検知を契機として、画像センサ58による撮影を終了してもよい。
【0047】
撮影間隔は、落下中の大便を検出する場合と比べて相対的に長い時間、例えば、0.5~5秒のいずれかの範囲内で設定され得る。その理由は、落下後の大便は、完全に静止して留まっているか、溜水W2の中を低速度で移動するためである。また、撮影間隔は、使用者に応じて決定されてもよい。例えば、排泄の所要時間が相対的に長い傾向がある利用者に対しては撮影間隔を長くし、排泄の所要時間が相対的に短い傾向がある利用者に対しては撮影間隔を短くしてもよい。また、間欠撮影の撮影間隔においては、大便の落下に伴う音、及び、大便の落下に伴う溜水W2の揺れのうちの少なくとも1つの検知を溜水W2に大便が落下したとみなし、それを契機として画像センサ58による撮影を開始してもよい。
【0048】
物体検出部108は、画像データ群118を構成する各々の画像データIDに対して物体検出処理を施して画像中の大便の有無及び位置を検出する。この物体検出部108は、例えば、いわゆる「物体検出モデル」が構築された学習済みのニューラルネットワークを含んで構成されてもよい。物体検出モデルの種類は、関心領域(ROI)の抽出器が物体の検出器とは別に設けられている「two-stage detector」(例えば、Faster R-CNN、Mask R-CNNやその派生モデル)であってもよいし、抽出器と検出器とが一体的に構成されている「one-stage detector」(例えば、YOLO、SSD、M2Detやこれらの派生モデル)であってもよい。
【0049】
性状分析部110は、画像センサ58により得られた画像データ群118に基づいて、使用者が排泄した大便の性状(性質又は状態)を分析する。大便の「性質」には、形状・色・含有物、又はこれらの時系列的な変化が含まれる。大便の「状態」には、量・大きさ、又はこれらの時系列的な変化が含まれる。
【0050】
例えば、性状分析部110は、物体検出部108による検出結果を示す検出データDDを用いて大便を追跡するトラッキング処理を施し、使用者の排泄によって溜水W2の中又は溜水W2の周辺に順次落下した大便を分析してもよい。このトラッキング処理を通じて、例えば、[1]大便中の含有物、[2]大便の形状又は排泄順序の分析がなされる。
【0051】
例えば、大便が溜水W2に着水した後にそのまま沈んで静止した場合、性状分析部110は、当該大便における固形物の含有率が相対的に高く、あるいは食物繊維の含有率が相対的に低いと分析してもよい。逆に、大便が溜水W2に着水した後に水面Wsに浮いた場合、性状分析部110は、当該大便における固形物の含有率が相対的に低く、あるいは食物繊維の含有率が相対的に高いと分析してもよい。
【0052】
例えば、追跡可能な大便の個数が増えた場合、性状分析部110は、新たに検出された大便に対してその検出順番に対応する排泄順序を付与してもよい。また、大便が途中で追跡不可(ロスト状態)になった場合、性状分析部110は、大便の変形、大便同士の合体若しくは積層、又は大便の分離が起こったと判定してもよい。
【0053】
画像選定部112は、後述する選定情報120を用いて、画像センサ58により得られた画像データ群118の中から1つ以上の画像データIDを選定する。選定された画像データIDは、[1]外部装置(例えば、サーバ装置14)によるデータ処理、又は[2]性状分析部110による分析処理に用いられてもよい。なお、画像選定部112により選定されなかった画像データIDは、トイレ側記憶部104におけるメモリ容量の確保の観点から、必要に応じて削除又は圧縮されてもよい。
【0054】
送信処理部114は、トイレ側制御部102が生成した収集データCDをサーバ装置14に送信するようにトイレ側通信部100を制御する。送信の態様は、リアルタイム送信又はバッチ送信のいずれであってもよい。
【0055】
トイレ側記憶部104は、トイレ側制御部102が各構成要素を制御するのに必要なプログラム及びデータを記憶している。トイレ側記憶部104は、非一過性であり、かつ、コンピュータ読み取り可能な記録媒体で構成されている。ここで、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD(Compact Disc)-ROM、フラッシュメモリなどの可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置である。本図の例では、トイレ側記憶部104には、使用者情報116、画像データ群118、選定情報120、及び収集データCDが格納されている。
【0056】
使用者情報116は、使用者に関する様々な情報を含む。使用者情報116には、例えば、[1]使用者を識別する識別情報、[2]使用者の健康状態に関する健康情報、[3]使用者の排便傾向に関する傾向情報、又は[4]使用者の排便習慣に関する習慣情報などが含まれる。
【0057】
画像データ群118は、画像センサ58による撮影で得られる画像の時系列を示す画像データIDの集合体である。各々の画像データIDは、撮影順序(例えば、画像番号・撮影時刻など)と対応付けて格納されている。
【0058】
選定情報120は、画像データIDを選定対象にすべきか否かを判定するための情報を含む。選定情報120には、例えば、[1]センサ群50を通じて大便の排泄意思を検知した時点、[2]センサ群50を通じて大便が落下したことを検知した時点、[2]操作パネル60を通じて特定の操作を受け付けた時点、[4]性状分析部110のトラッキング処理により新たな大便が検出された時点、又は[5]性状分析部110のトラッキング処理により大便が追跡不可になった時点に関する時間情報が含まれる。
【0059】
収集データCDは、サーバ装置14に提供する様々な情報を含むデータセットである。例えば、収集データCDには、選定された画像データID、結果データRD、及びタグデータTDが含まれる。
【0060】
結果データRDは、性状分析部110による分析結果を含む。分析結果の一例として、大便の排泄順序、量、大きさ、形状、又は含有物などが挙げられる。
【0061】
タグデータTDは、画像データID又は結果データRDに関する付帯情報を含む。付帯情報の一例として、撮影日時、分析日時、使用者情報116、トイレ装置12の識別情報などが挙げられる。
【0062】
[排泄物分析システム10の動作]
この実施形態における排泄物分析システム10は、以上のように構成される。続いて、排泄物分析システム10の一部を構成するトイレ装置12の動作、より詳しくは、コントローラ80による画像処理動作について、
図4のブロック図、及び
図5~
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0063】
図5は、トイレ装置12による画像処理動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、使用者が大便の排泄を行う度に実行される。
【0064】
ステップSP10において、コントローラ80のトイレ側制御部102は、トイレ装置12の使用者に関する使用者情報116を取得する。
【0065】
ステップSP12において、トイレ側制御部102(より詳しくは、撮影制御部106)は、ステップSP10で取得された使用者情報116を参照し、使用者に適した撮影間隔を設定する。
【0066】
ステップSP14において、撮影制御部106は、便鉢32内の撮影の開始タイミングが到来したか否かを確認する。開始タイミングがまだ到来していない場合(ステップSP14:NO)、撮影制御部106は、開始タイミングが到来するまでの間、ステップSP14に留まる。一方、開始タイミングが到来した場合(ステップSP14:YES)、撮影制御部106は、次のステップSP16に進む。
【0067】
ステップSP16において、撮影制御部106は、ステップSP12で設定された撮影間隔に従って便鉢32内の撮影を行うように画像センサ58を制御する。これにより、溜水W2の中又は溜水W2の周辺を撮影した画像データIDが得られる。なお、この画像データIDは、画像番号と対応付けた状態にてトイレ側記憶部104に記憶される。
【0068】
ステップSP18において、トイレ側制御部102(より詳しくは、物体検出部108)は、ステップSP16での撮影により得た画像データIDに対して物体検出処理を行う。その結果、画像データID(つまり、画像番号)毎に、大便の検出結果を示す検出データDDが得られる。
【0069】
図6は、ブリストル便形状スケールの定義を示す図である。本図の例では、大便の形状が、種類番号1~7の7種類に分類されている。具体的には、番号1は「コロコロ便」、番号2は「硬い便」、番号3は「やや硬い便」、番号4は「普通便」、番号5は「やや軟らかい便」、番号6は「泥状便」、番号7は「水様便」をそれぞれ示している。この分類によれば、番号が大きくなるにつれて消化官の通過時間が長くなり、番号が小さくなるにつれて消化管の通過時間が短くなる傾向がある。なお、大便の種類はこの例に限られず、「種類不明」又は「非該当」などの種類が設けられてもよい。
【0070】
図7は、検出データDDが有するデータ構造の一例を示す図である。本図の例では、検出データDDは、識別番号、種類、位置A、及び位置Bの間の対応関係を示すテーブル形式のデータである。「検出番号」は、大便が検出された順番を示している。「種類」は、
図6で示した種類番号に対応する。「位置A」は境界ボックスの左上頂点の座標を、「位置B」は境界ボックスの右下頂点の座標をそれぞれ示している。なお、境界ボックスは、物体(つまり、大便)に外接する矩形状の枠を意味する。
【0071】
図5のステップSP20において、撮影制御部106は、便鉢32内の撮影の終了タイミングが到来したか否かを確認する。終了タイミングがまだ到来していない場合(ステップSP20:NO)、撮影制御部106は、終了タイミングが到来するまでの間、ステップSP16~SP20を順次繰り返す。この繰り返し動作を通じて、画像データID及び検出データDDが、画像番号と対応付けてトイレ側記憶部104に順次記憶される。
【0072】
一方、終了タイミングが到来した場合(ステップSP20:YES)、トイレ側制御部102は、次のステップSP22に進む。
【0073】
ステップSP22において、トイレ側制御部102(より詳しくは、性状分析部110)は、ステップSP18で得られた検出データDDを用いて、使用者が排泄した大便の性状を分析する。
【0074】
図8は、画像データIDの処理流れを示す模式図である。物体検出部108は、各々の画像データIDに対して物体検出処理を施し、画像番号毎の検出データDDを生成する。そして、性状分析部110は、画像番号が隣り合う検出データDDのペア(つまり、検出結果の差分量)を参照し、画像中の大便を追跡するトラッキング処理を行う。その結果、大便の分析結果を示す結果データRDと、新たな大便が検出された時点又は大便が追跡不可になった時点を示す選定情報120とがそれぞれ生成される。
【0075】
図5のステップSP24において、画像選定部112は、ステップSP16の反復実行を通じて得られた画像データ群118の中から、1つ以上の画像データIDを選定する。この選定には、ステップSP22で生成された選定情報120が用いられる。
【0076】
図9は、画像の選定結果の一例を示す図である。左右方向に延びる軸は時間を示しており、左側から右側に向かうにつれて時間が進むことを意味する。点P1,P2,P3~P6,P7,P8はそれぞれ、使用者の着座時点、撮影開始時点、大便の落下時点、撮影終了時点、及び使用者の退出時点をそれぞれ示している。本図から理解されるように、大便の落下時点P3~P6の前後にわたる時間帯でそれぞれ撮影された画像が選定される。
【0077】
図5のステップSP26において、トイレ側制御部102(より詳しくは、送信処理部114)は、ステップSP22で生成された結果データRD及びステップSP24で選定された画像データIDを含む収集データCDをサーバ装置14に送信するように、トイレ側通信部100の動作を制御する。これにより、サーバ装置14は、中継装置18及びネットワークNTを介して、トイレ装置12からの収集データCDを取得する。トイレ側記憶部104に記憶されている画像データ群118又は収集データCDは、この送信動作が終了した後、必要に応じて消去され得る。このようにして、トイレ装置12(より詳しくは、
図4のコントローラ80)は、
図5に示すフローチャートの動作を終了する。
【0078】
以上のように、この実施形態における排泄物分析システム10は、トイレ装置12と、トイレ装置12と通信可能に構成され、トイレ装置12から収集した収集データCDに対してデータ処理を行うサーバ装置14と、を備える。
【0079】
このトイレ装置12は、溜水W2が設けられる便鉢32を有する便器30と、撮影面58sが溜水W2に向くように設けられ、便鉢32内を撮影する画像センサ58と、画像センサ58による撮影で得られる画像の時系列を示す画像データ群118に基づいて、使用者の排泄によって溜水W2の中又は該溜水W2の周辺に順次落下した大便の性状の変化を分析する性状分析部110と、を備える。
【0080】
このように、画像センサ58の撮影面58sが溜水W2に向くように設けられているので、落下後の大便が完全に静止して留まっている状態又は溜水W2の中を低速度で移動する状態で撮影可能となり、撮影及び画像処理に要求される精度を高めなくても済む。換言すれば、撮影及び画像処理に要求される精度を過度に高めることなく、大便の性状の変化を分析することができる。
【0081】
[変形例]
本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上記した実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0082】
上記した実施形態では、コントローラ80が画像データIDを選定してサーバ装置14に送信する場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、コントローラ80は、画像データ群118を構成するすべての画像データIDを送信してもよい。この場合、
図4に示す画像選定部112の構成、及び、
図5に示す選定ステップ(SP24)が省略され得る。
【0083】
上記した実施形態では、トイレ装置12が画像処理機能の一部を担うエッジコンピューティングの場合を例に挙げて説明したが、画像処理機能の分担方法はこの構成に限られない。例えば、[1]性状分析部110による分析機能、もしくは[2]物体検出部108による検出機能及び性状分析部110による分析機能をサーバ装置14(より詳しくは、
図1のサーバ側制御部22)に担わせてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…排泄物分析システム、12…トイレ装置、14…サーバ装置、30…便器、32…便鉢、58…画像センサ、58s…撮影面、80…コントローラ、106…撮影制御部、108…物体検出部、110…性状分析部、112…画像選定部、118…画像データ群、120…選定情報、120…選定情報、CD…収集データ、DD…検出データ、ID…画像データ、RD…結果データ、W2…溜水