(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051962
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】織物製品
(51)【国際特許分類】
A41D 27/00 20060101AFI20240404BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20240404BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20240404BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240404BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240404BHJP
【FI】
A41D27/00 Z
D03D15/56
D03D15/292
D01F8/14 B
A41D31/00 502B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158371
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】501376936
【氏名又は名称】丸井織物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和也
(72)【発明者】
【氏名】磯見 亜紀奈
(72)【発明者】
【氏名】直塚 崇浩
【テーマコード(参考)】
3B035
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
3B035AB05
3B035AD01
3B035AD02
3B035AD03
4L041BA02
4L041BA05
4L041BB05
4L041BB06
4L041CA06
4L041CA08
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA22
4L048AA30
4L048AA34
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC12
4L048CA04
4L048CA15
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】 積極的に生地の伸縮性を抑えた織物製品を提供する。
【解決手段】 本実施形態における織物製品は、伸縮性のある経糸22と、経糸22より伸縮性のある緯糸21とを含み、織って形成された織物生地20と、少なくとも一部に織物生地20を含む衣服本体10とを有する。織物生地20は、繊度33dtex以上672dtex以下である緯糸21及び経糸22を含み、織物生地20となる前の状態における生機のカバーファクターが平織物換算で1400以上1750以下である。衣服本体10全体のうち5割以上の範囲に、織物生地20が設けられてなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性のある第1の糸と、当該第1の糸より伸縮性のある第2の糸とを含み、織って形成された織物生地と、
少なくとも一部に前記織物生地を含む衣服本体と
を有し、
前記織物生地は、繊度33dtex以上672dtex以下である前記第1の糸及び前記第2の糸を含み、
前記織物生地となる前の状態における生機のカバーファクターが平織物換算で1400以上1750以下であり、
前記衣服本体全体のうち5割以上の範囲に、前記織物生地が設けられてなることを特徴とする
織物製品。
【請求項2】
前記第2の糸の太さは、前記第1の糸と同じ太さ、又は、前記第1の糸より太い太さであり、
前記第2の糸は、ポリブチレンテレフタレート繊維を含むコンジュゲートヤーンであり、
前記衣服本体全体のうち8割以上の範囲に、前記織物生地が設けられてなることを特徴とする
請求項1に記載の織物製品。
【請求項3】
前記第2の糸は、ポリブチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンテレフタレート繊維からなるコンジュゲートヤーンである
請求項2に記載の織物製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物製品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ポリエステル複合仮撚糸を含むストレッチ性織物であって、前記ポリエステル複合仮撚糸は、単繊維繊度が1.6~4.3dtexであるポリエステルコンジュゲート糸Aと単繊維繊度が0.2~1.1dtexであるポリエステルフィラメント糸Bとを含み、前記ポリエステル複合仮撚糸の表面部分において、前記ポリエステルフィラメントBによる突出部が形成されており、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」の「b)B法(織物の定荷重法)」に規定されている方法で測定されるタテ方向またはヨコ方向のいずれか一方の伸長率が5%以上であり、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.2 伸長弾性率(伸長回復率)及び残留ひずみ率」の「b)B-1法(定荷重法)」に規定されている方法(4.7Nの荷重を除いてから初荷重を加えるまでの時間を1 時間に設定)で測定されるタテ方向またはヨコ方向のいずれか一方の伸長回復率が80%以上である、ストレッチ性織物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、積極的に生地の伸縮性を抑えた織物製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る織物製品は、伸縮性のある第1の糸と、当該第1の糸より伸縮性のある第2の糸とを含み、織って形成された織物生地と、少なくとも一部に前記織物生地を含む衣服本体とを有し、前記織物生地は、繊度33dtex以上672dtex以下である前記第1の糸及び前記第2の糸を含み、前記織物生地となる前の状態における生機のカバーファクターが平織物換算で1400以上1750以下であり、前記衣服本体全体のうち5割以上の範囲に、前記織物生地が設けられてなることを特徴とする。
【0006】
好適には、前記第2の糸の太さは、前記第1の糸と同じ太さ、又は、前記第1の糸より太い太さであり、前記第2の糸は、ポリブチレンテレフタレート繊維を含むコンジュゲートヤーンであり、前記衣服本体全体のうち8割以上の範囲に、前記織物生地が設けられてなることを特徴とする。
【0007】
好適には、前記第2の糸は、ポリブチレンテレフタレート繊維及びポリエチレンテレフタレート繊維からなるコンジュゲートヤーンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、積極的に生地の伸縮性を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における衣服1を例示する図である。
【
図4】実施例及び比較例の織物生地における構成を例示する図である。
【
図5】試験体の織物生地の構成を例示する図である。
【
図6】実施例及び比較例の織物生地における各伸長時の応力の関係性を例示した図である。
【
図7】試験体の織物生地における各伸長時の応力の関係性を例示した図である。
【
図8】実施例、比較例、及び試験体における応力・ひずみ曲線を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
新型コロナウイルス感染症による流行で、感染症の感染拡大を防止する観点から、不要不急の外出自粛の要請により、外出する機会が減少し、自宅にいる機会が増加傾向にある。例えば、社会活動においては、テレワーク(情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方)の導入が推奨とされ、例えば終日在宅勤務又は部分在宅勤務を導入し、多様な働き方を選択できる傾向となっている。そのため、スーツを着て出勤する機会が減り、自宅にて在宅勤務する機会が増えるため、内着需要が高まってきている。
また、内着においては、現状編物で形成される事が多く、内着は、例えばジャージ若しくはパジャマの様なニット、又は、丸編素材が主軸であり、編目によるループが伸長すると共に、糸が伸び縮みする編物構造であるため、ルーズ感やリラックス感を感じる事が出来る。この種の先行技術としては、ポリウレタン弾性糸を含むニットや、コンジュゲートヤーンを含むニット素材が提案されている。ポリウレタン弾性糸を含むニットに関して言うと、加水分解性もあり商品寿命としては3年程度と短いため、長く着用する観点や昨今のSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))の流れにおいてサステナブルとは言い難い。また、コンジュゲートヤーンを含むニット素材で言えば、織物対比目付が重いデメリットもある為、より軽く、リラックス感の味わえる素材に着目する事は昨今望まれている。
【0011】
一方で、内着を織物で構成すると、経糸及び緯糸が交錯する事により構成し拘束される織物構造となるため、生地を伸ばす事ができても、戻りが早く生地の締め付けが強いため、ニットの様なルーズ感やリラックス感を体感し難い。また、ストレッチ織物、経伸び、緯伸び、経緯伸びは、一般的であるが、伸びて戻る伸長回復率や、伸び方向に着目した素材や商品が主であり伸びる事でニット代替と定義する素材ならびに商品は存在しても、弱い力で伸びて戻りが弱いリラックス感を定義する織物素材や商品は皆無である。ルーズ感やリラックス感を出す為に、極限まで織物の密度を落とし、糸及び加工構成をしても伸長回復率が乏しく、又、縫目滑脱抵抗値も繊維物性基準外となる。そこで、上記事情を一着眼点にして本発明の実施形態を創作するに至った。本発明の実施形態によれば、製織、加工、および縫製の技術を組み合わせる事で、ニットの様なルーズ感やリラックス感とストレッチ性を兼備した、緯方向に弱い力で伸長し、伸長する前の状態にゆっくりと戻るストレッチ織物とすることが可能である。
【0012】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。ただし、本発明の範囲は、図示例に限定されるものではない。
まず、実施形態の衣服1の構成を説明する。
図1は、本実施形態における衣服1を例示する図である。
図1に例示するように、本実施形態における衣服1は、本発明に係る織物製品の一例であり、例えばボトム、ジャケット、セットアップ若しくはシャツ地などの衣料ウエア、スポーツウェア、コート、ブルゾン、ブラウス、又は、スカート等であり、本例ではジャケットである。衣服1は、衣服本体10と織物生地20とを含む。
衣服本体10は、少なくとも一部に織物生地20(後述)を含む、衣服の本体である。衣服本体10は、衣服本体10全体のうち5割以上の範囲、具体的には8割以上の範囲に織物生地20が設けられてなる。なお、本例の衣服本体10は、全体が織物生地20により形成される。衣服本体10は、本発明における衣服本体の一例である。
【0013】
織物生地20(以下織物20と称呼することもある)は、緯糸21及び経糸22を含む布帛であり、本例の織物20は、緯糸21及び経糸22により織って形成した布帛である。なお、緯糸21及び経糸22の詳細は後述する。織物生地20は、例えば平織、綾織(ツイル)、朱子織、二重織、梨地織、又は繻子織等の織組織である。なお、本例の衣服本体10は、平織である。織物生地20は、衣服本体10の各パーツ(織物生地片)を形成する。
【0014】
衣服本体10は、織物生地20からなる各パーツ(織物生地片)を、縫い糸により縫製してなる。縫い糸は、織物20のストレッチ性に対応できる程度の伸縮性のある糸であり、例えば、レジロン糸等である。縫い糸は、ストレッチ生地専用の糸切れに強い糸であれば、レジロン糸に限定せず、その他代用可能な糸であってもよい。
【0015】
図2は、繊維の結晶構造を例示する図である。
図3は、繊維の物性を例示する図であり、
図3(A)は、繊維の物性を示する表であり、
図3(B)は、繊維の伸長回復性を示するグラフである。
織物生地20は、緯糸21、経糸22、及び生地本体23を含む。生地本体23は、織物生地20の少なくとも一部にあり、緯糸21と経糸22とを含み織って形成される。本例の生地本体23は、織物生地20全体に設けられ、実質的に織物生地20となっている。
(織物生地20:緯糸21)
生地本体23に含まれる緯糸21は、経糸22と同様に伸縮する糸、又は、経糸22より伸縮性のある糸であり、本例の緯糸21は、経糸22より伸縮性のある糸である。
緯糸21は、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)繊維、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維、PU(ポリウレタン)繊維、又は、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維の少なくとも1つを含むコンジュゲートヤーンである。なお、本例の緯糸は、PBT繊維を含むコンジュゲートヤーンであり、具体的には、PBT繊維とPET繊維とにより形成したコンジュゲートヤーンである。なお、緯糸21は、本発明に係る第2の糸の一例である。
図2に例示するように、PET繊維、PTT繊維、及びPBT繊維は、ポリアルキレンテレフタレートに属する繊維である。PET繊維は、2個のアルキレン鎖のメチレン基を有し、PTT繊維は、3個のアルキレン鎖のメチレン基を有し、PBT繊維は、4個のアルキレン鎖のメチレン基を有する。各繊維の特有な性質は、この結晶構造が決定付ける場合が多い。
また、
図3に例示するように、繊維の物性を例示する表[
図3(A)]は、繊維の物性を示す列項目に、「引張強度」、「伸度」、「弾性率」、「20%伸張回復率」、「比重」、「水分量」、「沸水収縮率」、「融点」、「耐候性」、及び「耐黄変性」を設け、繊維の種類を示す行項目に、「PTT繊維(PTT)」、「PET繊維(PET)」、「PBT繊維(PBT)」、及び「ナイロン6」を設けている。20%伸長回復率項目において、PBT繊維は、PET繊維やナイロン6に比して伸長回復率が高く、PTT繊維に比して伸長回復率が低い繊維である。また、結晶弾性率項目において、PBT繊維は、PET繊維に比して弾性率が低く、PTT繊維に比して弾性率が概ね同等の繊維である。また、繊維の伸長回復性を示するグラブ[
図3(B)]は、各種繊維を一定量伸長させた時の伸長回復率を示し、縦軸に伸張回復率を設け、横軸に伸び率を設けている。PBT繊維は、繊維の伸び20%、及び、繊維の伸び30%において、PTT繊維及びナイロン6に比して低い伸張回復性を示し、PET繊維に比して高い伸張回復性を示す。これらより、PBT繊維は、繊維の特性上、PTT繊維及びナイロン6より弱い力で伸び、かつ、比較的柔らかい繊維である。すなわち、衣服本体10を形成する織物20は、緯糸方向において伸びやすく、結果としてリラックス感を与える。
【0016】
(織物生地20:経糸22)
生地本体23に含まれる経糸22は、伸縮性のある糸であり、緯糸21より伸縮しない糸である。経糸22は、例えば合成繊維または天然繊維である。経糸22は、例えばポリエステル系繊維(PET繊維)、ナイロン(ポリアミド)、綿等である。なお、経糸22は、合成繊維及び天然繊維に限定するものではない。
緯糸21に選択した繊維の兼ね合いと染色合理性の観点から、例えばポリエステル系繊維である。本例の経糸22は、ポリエステル系繊維の素材ポリマーであるPET繊維である。なお、経糸22は、本発明に係る第1の糸の一例である。
【0017】
(繊度)
衣服本体10を形成する織物20の緯糸21及び経糸22の繊度において、緯糸21の太さは、経糸22と同じ太さ又は経糸22より太い太さである。緯糸21における繊度は、33dtex(デシテックス)以上672dtex以下であり、具体的には、33dtex以上585dtex以下であり、より具体的には80dtex以上252dtex以下である。また、経糸22における繊度は、33dtex(デシテックス)以上672dtex以下であり、具体的には、33dtex以上585dtex以下であり、より具体的には70dtex以上252dtex以下である。なお、後述する実施例1の緯糸の繊度は、84dtexであり、経糸の繊度は、72dtexである。また、実施例2の緯糸及び経糸の繊度は、同じ太さであり、84dtexである。良好なストレッチ性と機械的特性を満足するため、並びに衣料用テキスタイルとしての風合いや高い生産性を確保するための観点から、緯糸21及び経糸22の繊度は、33dtex以上672dtex以下の繊度であることが好ましい。
【0018】
(カバーファクター)
織物20となる前の状態、具体的には染色及び仕上げ加工をする前の状態の布生地(以下、生機)において、生機のカバーファクターCFが平織物換算で1400以上1750以下である。縫目滑脱抵抗力とストレッチ性の良好な機械的特性を得る観点から、カバーファクターCFが平織物換算で1400以上1750以下であることが好ましい。なお、生機のカバーファクターCFは、次式により求められる。
【0019】
【0020】
この数式1において、DWpは経糸の太さ[dtex]、MWpは経糸織密度[本/2.54cm]、DWfは緯糸の太さ[dtex]、MWfは緯糸織密度[本/2.54cm]である。
【0021】
(織物20の生地特性)
衣服本体10を形成する織物20は、引裂強さにおいて、JIS L1096:2010 D法(ペンジュラム法)で測定した引裂強さが例えば8N(ニュートン)以上であり、より好ましくは、引裂強さが15N以上である。引裂強さが15N以上であれば、スポーツ用途等の過酷な使用にも耐え、実用的に極めて有用である。また、引裂強さが8N未満では生活環境において破れが発生しやすい。
また、衣服本体10を形成する織物20は、JIS L1096:2010 縫目滑脱法(B法)により、滑脱に対する縫目部分の抵抗力(滑脱抵抗力)を測定した。規定の縫い方で縫われた縫目を挟んで、両端に一定の荷重を与えた後に、縫目部分にできる縫目の滑りの最大孔の大きさ(滑脱抵抗値)を測定した。なお、生地の物性特定において、通常は、厚地の場合は荷重117.7
Nの引張荷重を与えて滑脱抵抗値を測定し、薄地の場合は49.0Nの引張荷重を与えて滑脱抵抗値を測定する。例えば、140g/m2以下の中衣織物シャツ品等は、通常49Nの引張荷重を与えるが、本実施形態では、全ての生地に117.7Nの引張荷重を与えて測定する。本例の織物20の物性特定においては、117.7Nの引張荷重を与えて測定している。
織物20の滑脱抵抗値は、例えば3mm以下であり、好ましくは1mm以下である。滑脱抵抗値が3mmを超えると着用時や洗濯時に滑脱しやすく、実用性が低く使用してしまい衣服の種類が制限される。
【0022】
次に、実施形態の衣服1の製造方法を説明する。
ステップ100(S100)において、製造作業者(以下作業者)は、織機を使用して衣服本体10の布生地となる平織組織の布帛を製織する(製織工程)。作業者は、PBT繊維を含むコンジュゲートヤーンである緯糸21と、PET繊維である経糸22とにより生機を製織する。製織する生機のカバーファクターCFは、平織物換算で1400以上1750以下である。
【0023】
ステップ102(S102)において、作業者は、製織された生機に対して、例えば、毛焼き、糊抜き、精練、漂白、アルカリ減量加工、マーセライズ加工、防縮加工、及びプレセット等の少なくとも1つの加工を行い、染色する前の準備加工を行う(準備工程)。本例の作業者は、糊抜き、精練、及びプレセットを選択し、糊抜き、精練、及びプレセットの順に準備工程を行う。なお、生機のストレッチ性を維持する観点から、プレセットは、例えば160℃以上190℃以下で行う。なお、精練後すぐに、例えば170℃を超える高温でプレセットを行うと、熱可塑性繊維であるPBT繊維やPET繊維は、縮み変形してしまうため、その後の湿熱工程で収縮が起きず、ストレッチ性が損なわれる。
なお、準備工程の選択において、PBT繊維及びPET繊維の加水分解によって糸繊度が細くなり空間率(カバーファクター)が変化する観点から、アルカリ減量加工は実施しなくてもよいし、必要に応じて実施してもよい。ただし、生地特性を維持する観点から、84dtex以下の繊度構成の織物においては、アルカリ減量加工による加水分解により、引裂強さ及び滑脱抵抗値が低下する為、アルカリ減量加工は好ましくはない。
【0024】
ステップ104(S105)において、作業者は、所望の配色となるよう、準備加工した生機を、例えば酸性染料、分散染料、反応染料、又は、カチオン染料等の染料により、糸染め、無地染め(バッチ式)、無地染め(連続式、捺染、又は製品染めを行う(染色工程)。
【0025】
ステップ106(S106)において、作業者は、染色して湿った状態の生機を、160℃以下の湿熱セット加工を行う。本例では、150℃以上の温度で30秒以上60秒以下の条件下でセット加工を行う。これにより、生機の経糸及緯糸を熱セットさせることにより織物として歪みをなくす。
【0026】
ステップ108(S108)において、作業者は、セット加工後の生機において、仕上げ剤による生機繊維の被膜形成を行う(仕上加工)。これにより、生機に対して風合い改善、外観変化、機能性付与を行う。なお、被膜形成において、生機の風合いやストレッチ性を損ねない観点から、生機の風合い損傷しない仕上げ剤、又は、糸の屈折に影響を与えない仕上げ剤を使用することが好ましい。例えば、硬仕上げ剤の主成分である自己架橋型アクリルエマルジョン、若しくは水溶性アクリル樹脂の様な薄い被膜形成する仕上剤、又は、水溶性ポリアクリルアミド樹脂、若しくは水溶性ポリエステル樹脂は、糸の拘束力が高まりストレッチ性が抑制され好ましくはない。
【0027】
ステップ110(S110)において、作業者は、織物生地20から各パーツを裁断し、裁断した複数の織物生地片を縫機(ミシン)で縫製して衣服1を得る。作業者は、織物生地20のストレッチ性に合わせてミシンの糸調子を適宜変えると共に、レジロン糸の張力を調整しながら各織物生地片を縫製する。作業者は、レジロン糸の張力(テンション)を調整において、ステッチの間隔が開きすぎたりパンク(糸外れ)が起きたりするため、なるべく弱めのテンションで縫製する。また、衣服1がボトムス(パンツ)の場合、着用した場合に、特に臀部近傍部分の生地に対して引張圧力のかかるため、レジロン糸のテンション調整が重要となる。
【0028】
次に、上記実施形態に基づいた各実施例を説明する。
図4は、実施例及び比較例の織物生地の構成を例示する図である。
[実施例1]
図4に例示するように、実施例1の織物生地(以下、実施例1)は、太さが72dtexであるPET繊維の経糸と、太さが84dtexであるPBT/PET繊維により構成したコンジュゲートヤーンの緯糸とをそれぞれ互いに1本ずつ交差して織り、経糸密度99本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmの平織物の生機を製織した。次いで、上記製造方法による、準備加工、染色加工、熱セット加工、及び、仕上加工を行い、経糸密度147本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cmのアウター用織物を得た。
【0029】
[実施例2]
図4に例示するように、実施例2の織物生地(以下、実施例2)は、太さが84dtexであるPET繊維の経糸と、太さが84dtexであるPTT/PET繊維により構成したコンジュゲートヤーンの緯糸とを交差して織り、経糸密度134本/2.54cm、緯糸密度105本/2.54cmの2/2ツイル織物の生機を製織した。次いで、上記製造方法による、準備加工、染色加工、熱セット加工、及び、仕上加工を行い、経糸密度205本/2.54cm、緯糸密度124本/2.54cmのアウター用織物を得た。
【0030】
[比較例1]
図4に例示するように、比較例1の織物生地(以下、比較例1)は、太さが72dtexであるPET繊維の経糸と、太さが84dtexであるPTT/PET繊維により構成したコンジュゲートヤーンの緯糸とをそれぞれ互いに1本ずつ交差して織り、経糸密度128本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cmの平織物の生機を製織した。次いで、上記製造方法による、準備加工、染色加工、熱セット加工、及び、仕上加工を行い、経糸密度174本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのアウター用織物を得た。
【0031】
[比較例2]
図4に例示するように、比較例2の織物生地(以下、比較例2)は、太さが84dtexであるPET繊維の経糸と、太さが84dtexであるPTT/PET繊維により構成したコンジュゲートヤーンの緯糸とを交差して織り、経糸密度134本/2.54cm、緯糸密度105本/2.54cmの2/2ツイル織物の生機を製織した。次いで、上記製造方法による、準備加工、染色加工、熱セット加工、及び、仕上加工を行い、経糸密度205本/2.54cm、緯糸密度緯糸密度124本/2.54cmのアウター用織物を得た。仕上加工として、自己架橋型アクリルエマルジョン、水溶性アクリル樹脂を用い、被膜形成する仕上剤で160℃で1分の処理条件で、仕上加工を行った。
【0032】
[その他の試験体]
実施例及び比較例の他、試験体として試験1~46の織物生地(以下、試験1~46)を対象する。そのうち、試験1~9、試験11~16、及び試験46の織物生地の構成を例示する。
図5は、試験体の織物生地の構成を例示する図である。
図5に例示したように、試験1~9、試験11~16、及び試験46における織物組織、経糸、緯糸、及び、生機カバーファクターの各項目に記載した条件に基づいた生地となっている。
以下、実施例、比較例、試験体(試験1~46)の各織物生地の物性を下記の項目にて評価した。
【0033】
[特性の評価基準]
上記実施例及び比較例の各織物生地(以下織物)における特性の評価を行うにあたり、繊度、カバーファクター、引裂強さ、滑脱抵抗力、引張伸度、及び、伸長回復率は、以下の基準に従っている。
(繊度)
繊度は、JIS L-1013(2010)8.3.1 A法の測定方法に従って、測定される数値を経糸および緯糸の繊度[dtex]とする。
(カバーファクター)
生機のカバーファクターCFは、前述した、数式1により求められる。
なお、密度は、JIS L-1096(2010)8.6.1 A法に従って、作製した織物の異なる5箇所からサンプリングして、その表面を島津製実体顕微鏡にて20倍に拡大し2.54cm当たりの本数を数え、平均値を単位長さとして算出し、少数点以下1桁に丸めることにより求めた。また、作製した織物に対するカバーファクターCFは、作製した織物に対し全て平織物に数値換算して算出した。
【0034】
(引裂強さ)
上記実施例及び比較例の各織物における引裂強さ(N)において、JIS L-1096(2010)8.17 引裂強さ8.17.4D法(ペンジュラム法)従って、織物の経方向の引裂強さと、織物の緯方向の引裂強さとを測定した。各5回測定し、測定結果に基づいて算術平均値を求めた。
【0035】
(滑脱抵抗力)
上記実施例及び比較例の各織物における滑脱抵抗力において、JIS L1096(2010)8.23 滑脱抵抗力の8.23.1縫目滑脱法(B法)従って、117.0N荷重時の縫い目滑りの最大孔の大きさを、織物の経方向と緯方向とについて、それぞれ0.1mm単位で測定した。各5回測定し、測定結果に基づいて算術平均値を求めた。
【0036】
(引張伸度:SS曲線(応力・ひずみ曲線))
上記実施例及び比較例の各織物における引張強さ及び伸び率(以下、伸長率と称呼する場合もある)の関係性について、JIS L-1096:ストリップ(A法)に従って、標準状態時(非伸長状態時)から伸び率が10%、20%、及び30%のときにおける生地伸長時の応力=引張強さの大きさを、織物の緯方向について0.1N単位で測定した。3回測定し、測定結果に基づいて算術平均値を求めた。
【0037】
(伸長率/伸び率)
上記実施例及び比較例の各織物における伸長率について、「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法(B法)(定荷重法)に従って、幅50mm長さ300mmの試験片をたて方向及びよこ方向に3枚ずつ調整し、全幅をつかむように引張試験機又はこれと同等の性能を持つ装置にセットした後、200mm間隔(L0)に印を付け14.7Nの荷重を加え、1分間保持後の印間の長さ(L1)を測定する。これらより、伸長率(%)は、次式により求められる。
【0038】
【0039】
(伸長回復率)
上記実施例及び比較例の各織物における伸長回復率について、「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法(B-1法)(定荷重法)に従って、幅50mm長さ300mmの試験片をたて方向及びよこ方向に3枚ずつ調整し、幅方向全体を掴むように、引張試験機又はこれと同等の性能を持つ装置にセットする。試験片を引張試験機にセットした後、セットした試験片に200mm間隔(L0)に印を付け14.7Nの引張荷重を加える。試験片に荷重を加えた状態で1時間保持した後に印間の長さ(L1)を測定し、試験片から荷重を取り除いた後、30秒後又は1時間(60分)後に初荷重(14.7N)を再度試験片に加えて印間の長さ(L2)を測定する。そして、測定結果に基づいて、30秒後再び荷重を加えた場合の伸長回復率(%)と、60分後再び荷重を加えた場合の伸長回復率(%)とをそれぞれを求めた。なお、伸長回復率(%)は、次式により求められる。
【0040】
【0041】
[ストレッチ性の測定]
図6は、実施例及び比較例の織物生地における各伸長時の応力の関係性を例示した図である。
図6に例示するように、実施例及び比較例の応力の関係性について、測定結果から算術平均値を求めた。実施例1は、伸長率が10%の場合に引張強さが3.97Nであり、伸長率が20%の場合に引張強さが7.9Nであり、伸長率が30%の場合に引張強さが15.48Nである。比較例1は、伸長率が10%の場合に引張強さが8.25Nであり、伸長率が20%の場合に引張強さが17.6Nであり、伸長率が30%の場合に引張強さが37.82Nである。
また、実施例2は、伸長率が10%の場合に引張強さが3.5Nであり、伸長率が20%の場合に引張強さが7.53Nであり、伸長率が30%の場合に引張強さが15.85Nである。比較例2は、伸長率が10%の場合に引張強さが4.78Nであり、伸長率が20%の場合に引張強さが10.9Nであり、伸長率が30%の場合に引張強さが22.12Nである。
【0042】
図7は、試験体の織物生地における各伸長時の応力の関係性を例示した図である。
図8は、実施例、比較例、及び試験体における応力・ひずみ曲線を例示した図である。
図7に例示するように、試験1~46の応力の関係性について、各測定結果からそれぞれの算術平均値を求めた。試験1~46の伸長率10%時、伸長率20%時、及び伸長率30%時に加えた引張強さを例示する。また、
図8に例示するように、実施例、比較例、及び試験1~46において、引張強さ=応力を[N]を縦軸とし、伸長率を示すひずみ[%]を横軸としたSS曲線を描画した。
【0043】
[物性評価]
(引張伸度)
図8に例示したように、本実施形態の織物生地20の引張強さにおいて、JIS L1096生地特性として、伸長率が30%伸長時における引張強さが20N以下、好ましくは、伸長率が20%伸長時における引張強さが10N以下である。
図6~
図8に例示したように、実施例1及び実施例2の引張強さは、伸長率が30%伸長時における引張強さが20N以下、かつ、伸長率が20%伸長時における引張強さが10N以下であることを確認した。
(伸長率/伸び率)
本実施形態の織物生地20の初期緯方向の伸長率において、着用時に快適性を感じさせる観点から、初期緯方向の伸長率が15%以上であることが望ましい。実施例1及び実施例2の初期緯方向の伸長率は、30%以上であることを確認した。
(伸長回復率)
本実施形態の織物生地20の伸長回復率において、60分後再び荷重を加えた場合の伸長回復率が80%以上、より好ましくは、85%以上である。実施例1及び実施例2の伸長回復率において、60分後再び荷重を加えた場合の伸長回復率が83%以上であることを確認した。また、実施例1及び実施例2の伸長回復率において、30秒後再び荷重を加えた場合の伸長回復率が74%以上であることを確認した。
[触感評価]
実施例1及び実施例2の生地触感は、緯方向に生地を引っ張り伸長するときにおいて、抵抗がほとんどないため、生地を伸ばしている感覚が認識しにくいが、引っ張り完了後、引っ張りを解除すると、僅かにキックバックする。このときに、初めて、生地が伸長していたことが認識できた。
【0044】
以上説明したように、本実施形態における衣服1の織物によれば、経糸方向より緯糸方向に伸びやすく、緯糸方向において弱い力で伸びて戻りが弱い織物生地であるため、ニットの代替生地として採用でき、新しい着心地を提供することすることができる。また、本実施形態における衣服1の織物は、洗濯等が繰り返されても、機械的特性が損なわれることはない。
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、これらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…衣服
10…衣服本体
20…織物生地
21…緯糸
22…経糸
23…生地本体