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  • 特開-散気装置用散気膜の劣化評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051975
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】散気装置用散気膜の劣化評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240404BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20240404BHJP
   B01F 25/452 20220101ALI20240404BHJP
   B01F 23/231 20220101ALI20240404BHJP
   C02F 3/20 20230101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N3/00 P
G01N3/08
B01F25/452
B01F23/231
C02F3/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158388
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 萌
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 浩司
【テーマコード(参考)】
2G050
2G061
4D029
4G035
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050AA07
2G050EB01
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA01
2G061BA15
2G061BA20
2G061CA16
2G061CB01
2G061EA03
2G061EC02
4D029AA01
4D029AB07
4G035AB08
4G035AB09
4G035AB28
4G035AC26
(57)【要約】
【課題】散気膜の材質が経年劣化しにくい場合でも、散気膜の残存耐用年数を評価することができる散気装置用散気膜の劣化評価方法を提供する。
【解決手段】本開示の散気装置用散気膜の劣化評価方法は、散気膜の引張強度と膜厚を測定する測定工程と、測定工程で測定した引張強度と膜厚を掛け合わせた値を装置耐力とし、装置耐力を指標として用い、散気膜の残存耐用年数を評価する評価工程を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散気装置に用いられる散気膜の劣化を評価する散気装置用散気膜の劣化評価方法において、
前記散気膜の引張強度と膜厚を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した前記引張強度と前記膜厚を掛け合わせた値を装置耐力とし、前記装置耐力を指標として用い、前記散気膜の残存耐用年数を評価する評価工程を含む散気装置用散気膜の劣化評価方法。
【請求項2】
前記測定工程では、前記引張強度及び前記膜厚を少なくとも2回測定し、
前記評価工程では、前記測定工程で測定された少なくとも2回の測定値から前記装置耐力と時間との相関関係を求め、前記相関関係から前記残存耐用年数を評価する請求項1に記載の散気装置用散気膜の劣化評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、散気装置に用いられる散気膜の劣化を評価する散気装置用散気膜の劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
散気装置は、例えば下水処理施設等の槽内に貯留された水中に、微生物に必要な酸素を含んだ空気等の気体を送り込むために利用される。下記特許文献1に開示された散気装置は、一方向に長手の本体を備える。本体は、ステンレス製の板状の底パネルと、ステンレス製の枠状の上パネルと、底パネルと上パネルの間に挟み込まれる軟質の散気膜(散気体)とを有する。散気膜には、膜厚方向に貫通する多数の散気孔が開設されている。散気膜の長手方向の端部には導気管が接続されている。導気管を介して散気膜と底パネルとの間に空気が導入されると、空気圧により散気膜が上方へ膨らむように変形し、散気孔から水中に空気が送り込まれる。水中に送り込まれた空気は微細な気泡であるため、水中に効率良く空気を溶解させることができる。
【0003】
このような散気装置用の散気膜は、経年使用によって劣化する。散気膜が劣化すると、劣化した箇所が破れて粗大気泡が集中して発生する異常発泡が生じ、水中に効率良く空気を溶解させることができなくなる。このため、散気膜の劣化(劣化度合)を評価し、散気膜を適切な時期に交換する必要がある。従来、引張強度を指標として用いて、散気膜の劣化度合、つまり、散気膜の残存耐用年数を評価していた。なお、下記特許文献2には、屋外に設置される農業用フィルムの残存耐用年数を、農業用フィルムの引張強度に基づき評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-49499号公報
【特許文献2】特開2004-317151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
散気膜の引張強度は、断面積あたりの破断応力[MPa=N/mm]である。引張強度は、散気膜の材質としての強度指標ではあるが、散気膜の装置としての強度指標であるとは言えない。引張強度を指標として用いると、材質の劣化に伴う散気膜の残存耐用年数を評価できる一方で、散気膜の材質の劣化が無視できる程度に小さい場合、言い換えると、散気膜が膜素材として弱くなりにくい場合には散気膜の残存耐用年数を評価できない。例えば、経年使用により散気膜の膜厚が薄くなると、散気膜の装置としての強度が低下し、最終的には膜厚の薄くなった部分から破れる。散気膜が破れると、破れた箇所から粗大気泡が集中して発生する異常発泡が生じ、水中に効率良く空気を溶解させることができなくなる。
【0006】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、散気膜の材質が経年劣化しにくい場合でも、散気膜の残存耐用年数を評価することができる散気装置用散気膜の劣化評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
散気装置に用いられる散気膜の劣化を評価する本開示に係る散気装置用散気膜の劣化評価方法は、散気膜の引張強度と膜厚を測定する測定工程と、測定工程で測定した引張強度と膜厚を掛け合わせた値を装置耐力とし、装置耐力を指標として用い、散気膜の残存耐用年数を評価する評価工程を含む。
【0008】
本開示において、測定工程では、引張強度及び膜厚を少なくとも2回測定し、評価工程では、測定工程で測定された少なくとも2回の測定値から前記装置耐力と時間との相関関係を求め、前記相関関係から前記残存耐用年数を評価することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、散気膜の引張強度と膜厚を掛け合わせた値を装置耐力とし、装置耐力を指標として用いることで、散気膜の材質が経年劣化しにくい場合でも、散気膜の残存耐用年数を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態による散気装置用散気膜の劣化評価方法を適用する散気膜を備える散気装置の構成を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿う散気装置の断面図である。
図3図2に示す散気装置の作動状態を示す断面図である。
図4】実施の形態による散気装置用散気膜の劣化評価方法を説明するための図である。
図5】実施の形態の効果を説明するためのグラフである。
図6】実施の形態の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。各図において共通または対応する要素には、同一の符号を付して、説明を簡略化または省略する。各図においては、作図の都合上、一部の構成要素の図示が省略されている場合がある。
【0012】
図1は、実施の形態による劣化評価方法を適用する散気膜を備える散気装置の構成を示す斜視図である。図2は、図1のII-II線に沿う散気装置の断面図である。図3は、図2に示す散気装置の作動状態を示す断面図である。
【0013】
散気装置1は、長方形状の本体2を備える。本体2の幅D及び長さLは、本体2が設置される槽(図示省略)のサイズに応じて設定される。本体2の短手方向の幅Dは、例えば80mm~200mmの範囲内に設定することができ、本体2の長手方向の長さLは、例えば300mm~5000mmの範囲内に設定することができる。
【0014】
本体2は、板状の底パネル21と、枠状の上パネル22と、底パネル21と上パネル22の間に挟み込まれる散気膜23とを有する。底パネル21と上パネル22は、散気膜23の固定枠であり、例えば、ステンレス製である。底パネル21の外周部には上方に起立する周壁部21aが一体に形成され、周壁部21aの上面に上パネル22が固定されている。散気膜23は、その外周部が底パネル21と上パネル22の間に挟み込まれる形で保持される。散気膜23は、例えばポリウレタン樹脂などの伸縮可能な軟質の樹脂からなる。散気膜23には、膜厚方向に貫通する多数の散気孔23aが開設され、散気膜23の長手方向の端部には、接続部31を介して導気管3の一端が接続されている。導気管3の他端は、図示省略する送風機に接続されている。送風機を稼働させると、導気管3を介して、散気膜23と底パネル21の間に空気を供給することができる。送風機からの空気の供給を停止した状態では、槽内に貯留される水Wの圧力(水圧)により、図2に示すように散気膜23が底パネル21に密着し、散気孔23aが閉じられる。一方、送風機から空気を供給すると、空気の圧力により、図3に示すように散気膜23が上方へ膨らむように変形し、散気孔23aから水中に空気が放出される。
【0015】
次に、散気膜23の残存耐用年数の評価方法について説明する。図4は、本実施の形態による散気膜の劣化評価方法を説明するための図である。
【0016】
先ず、使用開始前(未使用時)の時間t0において、散気膜23の引張強度S0[N/mm]と膜厚T0[mm]を測定する(測定工程)。引張強度S0及び膜厚T0の測定箇所は特に限定されない。また、散気膜23の複数個所で測定し、それらの測定値の平均値を引張強度S0及び膜厚T0としてもよい。引張強度Sと膜厚Tの測定方法は、例えばJIS規定(JISK6251)に示されている。
【0017】
その後、散気膜23を例えば下水処理施設等の槽内に設置し、時間t0から所定時間経過(使用)した時間t1において、時間t0と同様の方法で、引張強度S1[N/mm]と膜厚T1[mm]を測定する(測定工程)。図4に示す例では、時間t1の引張強度S1は、時間t0の引張強度S0と同じである。即ち、引張強度Sの経時劣化はない、あるいは無視できるほどに劣化が少ないため、散気膜23の材質が経年劣化していないとみなすことができる。このため、従来例の如く引張強度を指標として用いると、散気膜23の残存耐用年数を評価することができない。なお、使用開始後の引張強度S[N/mm]及び膜厚T[mm]の測定は、時間t1のみの1回に限定されず、2回以上行ってもよい。つまり、測定工程では、引張強度S0,S1[N/mm]及び膜厚T0,T1[mm]が少なくとも2回測定される。
【0018】
次に、測定工程で測定された引張強度S0,S1と膜厚T0,T1を掛け合わせることで装置耐力E0,E1[N/mm]を求める(評価工程)。評価工程では、少なくとも2点の装置耐力E0,E1[N/mm]が求められる。
【0019】
本実施の形態では、評価工程において、装置耐力E0,E1を指標として用いる。具体的には、装置耐力E0,E1[N/mm]から、図4に示すような装置耐力Eと時間の相関関係を求める。この相関関係から、装置耐力Eが基準値E2に達する時刻t2を求め、時刻t2までの残存耐用年数を評価することができる。基準値E2は、散気膜23が破れない程度の散気膜23の強度が保持されるようにマージンを持って設定される。なお、図4に示すように直線で相関関係が表される場合には引張強度及び膜厚を夫々2回以上測定すればよく、後述する図5及び図6に示すように曲線で相関関係が表される場合には引張強度及び膜厚を夫々3回以上測定すればよい。また、引張強度及び膜厚の測定回数を増やすことで、相関関係を精度良く求めることができる。
【0020】
本実施の形態によれば、散気膜23の引張強度S[N/mm]と膜厚T[mm]を掛け合わせた値を装置耐力E[N/mm]とし、装置耐力Eを指標として用いることで、散気膜23の材質が経年劣化しにくい場合でも、散気膜23の残存耐用年数を評価することができる。
【0021】
更に、本実施の形態の効果について説明する。図5及び図6は、実施の形態の効果を説明するためのグラフである。各グラフにおいて、時間t0における値を100%として、散気膜23の引張強度S、膜厚T及び装置耐力Eを夫々示している。図5には、引張強度Sの経時変化が共通する一方で膜厚Ta,Tbの経時変化が異なる、散気膜の材質が劣化しにくい場合における、素材の異なる2種類の散気膜23の装置耐力Ea,Ebの経時変化を示している。また、図6には、膜厚Tの経時変化が共通する一方で引張強度Sa,Sbの経時変化が異なる、引張強度Sbを呈する散気膜の材質が劣化する場合における、素材の異なる2種類の散気膜23の装置耐力Ea,Ebの経時変化を示している。これらの装置耐力Ea,Ebの経時変化は、装置耐力Ea,Ebと時間の相関関係に相当する。
【0022】
本実施の形態の如く装置耐力Ea,Ebを指標として用いることで、図5及び図6に示される何れの例でも、散気膜23の残存耐用年数を確実に評価することができる。
【0023】
それに対し、従来例の如く引張強度Sを指標として用いると、図5に示す例では、膜厚Taと膜厚Tbは経時的に低下しており、散気膜の残存耐用年数に影響していることが予想されるものの、引張強度Sの経時的な低下を捉えられないために残存耐用年数を評価することができない。また、膜厚Tを指標として用いると、図6に示す例では、一方では引張強度Saが経時的に変わらず(即ち、材質が経年劣化せず)、他方では引張強度Sbが経年劣化している(即ち、材質が経年劣化している)のに、膜厚Tは両方とも違いはない。引張強度は散気膜の残存耐用年数に強く影響すると考えられるが指標とは無関係なので、残存耐用年数を不適切に評価してしまうことになる。つまり、引張強度S及び膜厚Tのいずれか一方のみを指標として用いると、散気膜23の装置としての強度低下を見逃してしまい、残存耐用年数を評価し損ねる虞がある。
【符号の説明】
【0024】
1…散気装置、23…散気膜、S,S0,S1,Sa,Sb…引張強度、T,T0,T1,Ta,Tb…膜厚、E,E0,E1,Ea,Eb…装置耐力
図1
図2
図3
図4
図5
図6