(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051980
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】消泡剤の添加方法
(51)【国際特許分類】
D21H 21/12 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D21H21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158396
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】岡原 孝一
(72)【発明者】
【氏名】乾 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】大倉 優作
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AH35
4L055BD10
4L055BD12
4L055DA13
4L055DA17
4L055EA08
4L055EA20
(57)【要約】
【課題】抄紙する銘柄の変更など運転条件の変化に対応して迅速に、且つ安定的に白水に発生する泡の量を抑制することができる、消泡剤の添加方法を提供すること。
【解決手段】消泡剤添加量に対して重要度が高い抄紙系の運転条件のうち、2つ以上を抽出すること、抽出した運転条件を説明変数、消泡剤添加量を目的変数として回帰式を決定すること、及び回帰式に従って、白水に添加する消泡剤の添加量を調節すること、を含む、抄紙系の白水に消泡剤を添加する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消泡剤添加量に対して重要度が高い抄紙系の運転条件のうち、2つ以上を抽出すること、
抽出した運転条件を説明変数、消泡剤添加量を目的変数として回帰式を決定すること、及び
回帰式に従って、白水に添加する消泡剤の添加量を調節すること、
を含む、抄紙系の白水に消泡剤を添加する方法。
【請求項2】
前記抽出した運転条件は、坪量、抄造速度及び白水温度を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抄紙系の白水に消泡剤を添加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボール原紙及びコピー用紙等の紙製品は、高品質の製品を安定して安価に供給するために、自動化された大規模な設備を使用して製造されている。本明細書では、紙原料から紙製品を製造する製造設備を抄紙系という。
【0003】
紙原料は、主成分である木材や古紙等のパルプを水に分散して、紙力剤、染料、サイズ剤等の製紙用薬品を添加したスラリーである。紙原料中のパルプ等の固形分が積層して湿紙が形成されるとともに、紙原料の水分は、白水として固形分から分離される。白水とは、紙原料から紙を抄いた後に残される濾水をいう。白水は、様々な製紙用薬品などを含んだまま抄紙系を循環し、再利用される。また、抄紙系の白水流路は開放系で、白水は高速で流動する。そのために、白水には空気が混入し、発泡しやすい性質がある。
【0004】
一方、白水は、湿紙を形成する紙原料のキャリヤである。白水が発泡した場合は、白水の泡が湿紙に混入して、製品に穴開き等の欠陥が発生する問題がある。そのため、白水の発泡は抑制することが所望されている。白水の発泡を抑制する方法としては、一般に消泡剤を添加する方法が行われている。
【0005】
特許文献1及び2には、液体における発泡の程度を定量的に検出し、検出された発泡の程度に基づいて、消泡剤の添加量を調節する工程を有する、消泡剤を添加する方法が記載されている。特許文献1及び2の方法では、液体の表面に形成された泡の高さ又は液面の高低差に基づいて、前記発泡の程度を定量している(特許文献1の
図2、特許文献2の
図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-27853号公報
【特許文献2】特開2012-76059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、消泡剤を添加して白水の発泡を抑制する方法では、白水に実際に発生した泡の量を確認し、その泡の量に基づいて消泡剤の添加量を決定し、白水に添加している。そのため、抄紙系の規模が大きくなるにつれて、白水に泡が発生してから消泡剤が添加されるまでの時間差も大きくなり、泡の量が大幅に増大した後に消泡剤が機能を発現するために製品の欠陥数も大幅に増加し、製品品質を安定させることができないという問題があった。また、白水の泡の量を定量的に検出する場合、その測定値に依存し過ぎると、それを検出する測定装置の設置環境によっては、結露や埃の付着による測定誤差が発生し易いため、適切な消泡剤の添加量を決定できないおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、抄紙する銘柄の変更など運転条件の変化に対応して迅速に、且つ安定的に白水に発生する泡の量を抑制することができる、消泡剤の添加方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0010】
[態様1]
消泡剤添加量に対して重要度が高い抄紙系の運転条件のうち、2つ以上を抽出すること、
抽出した運転条件を説明変数、消泡剤添加量を目的変数として回帰式を決定すること、及び
回帰式に従って、白水に添加する消泡剤の添加量を調節すること、
を含む、抄紙系の白水に消泡剤を添加する方法。
【0011】
[態様2]
前記抽出した運転条件は、坪量、抄造速度及び白水温度を含む、態様1の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抄紙系に白水に泡が発生し易い条件、あるいは発生し難い条件になってから時間差を生じることなく、消泡剤の添加量が過不足なく適切に調節されるので、白水に発生する泡の量を安定的に抑制することができる、消泡剤の添加方法が提供される。本発明の消泡剤の添加方法を行う場合、消泡剤の無駄もなく、製品の泡に起因する欠陥数の増加が抑制され、製品品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】抄紙系の構成例の一つの概略を示した模式図。
【
図2】本願技術の導入前後の泡高さ実測値と消泡剤流量の推移を示したグラフ。
【
図3】泡高さ及び欠点発生頻度の推移を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は抄紙系の構成例の一つの概略を示した模式図である。ここで、抄紙系は、ヘッドボックス1、ワイヤ2、セーブオール3、ハイドロミックス4、ファンポンプ5、スクリーン6及びこれらの装置を結ぶ流路7を有している。ヘッドボックスとは、スラリー状の紙原料を整流して、ワイヤ上に均一に吐出する装置をいう。ワイヤとは、紙を抄く網をいう。セーブオールとは、ワイヤの下で白水を受ける樋をいう。ハイドロミックスとは、セーブオールからファンポンプまでの白水の流路に設置し、白水中の空気を脱気させるL字型タンク状の装置をいう。
【0015】
紙原料は、ヘッドボックス1からワイヤ2へ供給され、その水分は、白水8としてワイヤ下に分離される。ワイヤ2は矢印で示した方向に進行し、その上のフォーミングパート9には脱水された固形分が積層して湿紙が形成される。白水8はセーブオール3で受けられ、ハイドロミックス4で脱気され、新たに供給される原料11とともにファンポンプ5で混合送液され、スクリーン6を通過後、流路7を通って、ヘッドボックス1へ還流する。この抄紙系では、ハイドロミックス4の中の白水の流れる方向が変わって下方向に落下する部分に、泡高さ測定装置10を備えている。
【0016】
まず、正常状態下に抄紙系を運転する。正常状態とは、抄紙系の装置を所望に応じて制御することができる状態をいう。故障、事故、災害等により、装置を制御することができない場合は異常状態であり、正常状態には含まれない。
【0017】
抄紙系を運転する際に、製品製造者は適宜運転条件を調節する。本発明の方法では、正常状態下における抄紙系の運転期間に、調節された抄紙系の運転条件を記録する。運転条件の記録は継続して行うのが好ましく、製品製造者によって製造日報等へ手書きしても良いが、抄紙系の制御システムを介して記録媒体へ保存したり、制御システムとは別に設けたプラント情報管理システムなどに蓄積したりするのがより好ましい。特に、長期間のデータを自動記録するには、プラント情報管理システムを使用するのが有用である。運転期間は製造する製品の生産量や抄紙系の運転状態等によって決定されるが、できるだけ長期間であることが好ましい。それにより、運転条件として蓄積されたデータ量が増大して、記録されたデータの信頼性が増加する。運転期間は不連続であってもよいが、その場合は、連続している部分を合計して運転期間とする。運転期間は、一般に、1ヶ月~3ヶ月、好ましくは3ヶ月~6ヶ月である。
【0018】
前記抄紙系の運転条件とは、例えば、製造する紙の銘柄及び生産量、製紙用薬品の種類及び添加量、乾燥温度、運転速度等が該当し、より具体的には、坪量、抄造速度、白水温度、消泡剤添加量、紙力剤添加量、硫酸バンド添加量、染料添加量、濾水剤添加量、サイズ剤添加量、バージンパルプ添加量、段ボール古紙添加量、雑誌古紙添加量、工業用水流量、インレット濃度、インレット流量、白水濃度及び白水灰分などが挙げられる。
【0019】
また、前記運転期間に、白水の発泡量を代表する特性値を測定し、消泡剤添加量と併せて記録する。白水の発泡量を代表する特性値とは、白水がどの程度発泡しているかを定量的に示す値であり、具体的には、白水の液面に発生した泡の体積、液面からの泡の高さ、白水中の溶存ガス量等が挙げられる。白水の発泡量を代表する特性値を、以下「発泡量特性値」という。発泡量特性値の測定及び記録は継続して行う。
【0020】
発泡量特性値としては、白水の液面からの泡の高さが、測定方法として簡便なため好ましい。白水の液面からの泡の高さは、例えば、特許文献1又は2に記載された方法を使用して、測定及び決定することができる。白水の液面からの泡の高さを、以下「泡高さ」という。
【0021】
泡高さは、白水の流路のなかで、液面が空気と接し、かつ液面変動が小さい箇所で測定することが好ましい。そうすることで、泡高さ測定装置の設置及び保守管理を簡単に行うことができる上に、測定値の信頼性が向上する。適切な測定箇所の具体例としては、
図1ではハイドロミックスの中の白水が落下する部分が挙げられる。
【0022】
白水の発泡量が増加したり、製品中に泡に起因する欠点が増加したりすると、消泡剤の添加量は、発泡量測定値に相当する量の白水の泡を、製品に欠陥が形成されない程度に抑制することができる量(以下、「適量」という。)に調整する。消泡剤の添加量が適量よりも多い場合、消泡剤の添加に関わるコストが高くなり、また過剰の消泡剤により白水の水質が悪化することで排水処理等のコストも高くなる。従来、消泡剤の添加量は、運転条件や使用する消泡剤の種類などを考慮して、過去の製品製造者の経験、又は試行錯誤の結果に基づいて決定されてきた。
【0023】
こうして決定された量の消泡剤を白水に添加する。消泡剤は、所定の濃度に調節したものを容器に入れ、ポンプを取り付け、そこから白水の流路まで液送管を設置し、決定された添加量に対応する流量になるようにポンプを駆動して、白水の流路に導入する。
【0024】
消泡剤の添加位置は、白水に泡が発生しやすい箇所より上流側とすることで、消泡剤の効果を有効に発揮させることができる。
図1の抄紙系であれば、ハイドロミックスの中の白水が落下する部分よりも上流とすることが好ましい。
【0025】
白水に消泡剤を添加した結果、白水の発泡が抑制される。上述の通り、発泡量特性値及び消泡剤の添加量、例えば消泡剤流量は、抄紙系の運転期間にこれらのデータが収集される。このときに収集されたデータでは、抄紙系の規模が大きくなるにつれて、泡高さの増減傾向と消泡剤の添加量の増減傾向との間に時間差が確認される。
【0026】
運転期間が終了した後、抄紙系の運転条件の中から、消泡剤添加量と相関の高いものの抽出と解析を行なう。その手法としては、データ解析に適した市販の表計算ソフトの他、PythonやR言語などのプログラミング言語で作成されたプログラムを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
消泡剤添加量との相関性から各運転条件の重要度を決定する。その手法としては、単回帰分析や重回帰分析があるが、消泡剤添加量という1つの目的変数を1つの説明変数で予測することが困難なことから重回帰分析が好ましい。また、重回帰分析には、リッジ回帰、ラッソ回帰、エラスティックネット回帰などの方法があるが、重要度を算出しやすい、すなわち相関の高い運転条件を抽出しやすいという点からエラスティックネット回帰が好ましい。
【0028】
消泡剤添加量に対して重要度が高い運転条件のうち、2つ以上のものを抽出する。「重要度が高い運転条件」とは、決定される重要度の値が高い順に並べた場合に、上位10番以内、好ましくは6番以内、より好ましくは4番以内の運転条件をいう。説明変数として、前記以外の重要度が高いとされない運転条件を抽出した場合は、目的変数である消泡剤添加量の予測精度が低下する可能性がある。具体的に抽出する運転条件は、測定のし易さや測定値の精度などを考慮して消泡剤添加量の予測精度が高くなるものを適宜選択することができる。
【0029】
抽出する運転条件の数は2~10、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。説明変数である運転条件が1つでは、目的変数である消泡剤添加量の予測精度が低下する可能性があり、10を超えて増加させても予測精度の向上は限定的であり、測定のための作業負担が増加する。
【0030】
重要度が高い運転条件として、具体的には、坪量、抄造速度、白水温度、紙力剤添加量、硫酸バンド添加量、濾水剤添加量、サイズ剤添加量、バージンパルプ添加量、段ボール古紙添加量、雑誌古紙添加量、インレット濃度、白水濃度及び白水灰分などが挙げられ、好ましくは、坪量、抄造速度及び白水温度が挙げられる。
【0031】
こうして抽出した運転条件を説明変数、消泡剤添加量を目的変数として回帰式を決定する。決定された回帰式に従って、白水に添加する消泡剤の添加量を調節する。例えば、運転条件が変更になれば、それに応じた回帰式で消泡剤添加量を決定し、抄紙系の制御システムによって消泡剤収納容器に設置されたポンプの出力をこれに連動させることで、消泡剤添加量を自動的に変更することができる。そうすることで、消泡剤添加モデルを構築することができる。
【0032】
図2は、泡高さ実測値と消泡剤流量の推移を、本願技術の導入前後で比較したグラフである。ここでは、坪量、抄造速度及び白水温度を用いた消泡剤添加モデルを適用した。
図2のグラフは、導入前では白水の泡高さが増大した後に消泡剤流量を増加させたことで時間差が生じていたのに対し、導入後は白水の泡高さの変動が小さい状態が維持されていることから、モデル精度が良好と認められ、ここで坪量、抄造速度及び白水温度を抽出したことが妥当であると確認された。
【0033】
図3は、泡高さ及び欠点発生頻度の推移を示したグラフである。これは、抄紙系の運転期間中、月ごとに発生した欠点の総数と、最も発泡しやすい銘柄の抄造での泡高さの最大値を比較したグラフを示している。
【0034】
泡高さ測定装置を設置した2020年秋ごろを境に、それ以前に見られた白水の流路中で紙原料を希釈して貯留するタンクから泡がオーバーフローする問題は起こらなくなった。これについては、泡高さが数値化されたことで現場での確認作業が不要となり、発泡状態の変動に速やかに対応できるようになったためと思われる。またこれに伴い、総欠点数に大幅な減少がみられた。欠点数減少についてさらに詳細な解析を行うことで、欠点(1)および欠点(2)が総欠点の減少に寄与していることが分かり、これらの欠点が発泡に起因して発生していることが明らかとなった。尚、前記「欠点(1)」は、
図3中の欠点まる1を意味し、前記「欠点(2)」は
図3中の欠点まる2を意味する。
【0035】
その後、消泡剤添加量の自動制御を開始した2021年8月からも欠点数はより減少する傾向にあり、現在まで発泡に起因する問題は特に見られていない。またこの自動制御により現場での作業負担の軽減が実現した。さらに、白水の泡高さ測定装置が制御系と独立して動作することで監視機能の役割を担っており、万が一の異常に対するチェックが可能となっている。