(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051993
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240404BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240404BHJP
F16J 15/326 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/326
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158415
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 寛朗
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA08
3J043DA10
3J043DA20
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216DA01
3J216DA12
3J216EA05
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701FA13
3J701FA60
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】ハブユニット軸受に設けた磁気エンコーダの識別性が高く、磁気エンコーダの識別に使用される塗料の劣化を抑えることのできるハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】内周面に複列の軌道面が形成された外方部材と、外周面に複列の軌道面が形成された内方部材と、外方部材の前記複列の軌道面と、内方部材の前記複列の軌道面と、の間に配置される複数の転動体と、外方部材と内方部材との間の軸受内部空間のインボード側を塞ぐシール部材と、シール部材のインボード側の側面に設けられる円環状の磁気エンコーダと、を備えるハブユニット軸受において、磁気エンコーダは、内径側に凹部を有し、前記凹部は、接着剤を着色した接着塗料により着色された。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の軌道面が形成された外方部材と、
外周面に複列の軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材の前記複列の軌道面と、前記内方部材の前記複列の軌道面と、の間に配置される複数の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材との間の軸受内部空間のインボード側を塞ぐシール部材と、
前記シール部材のインボード側の側面に設けられる円環状の磁気エンコーダと、
を備えるハブユニット軸受において、
前記磁気エンコーダは、内径側に凹部を有し、前記凹部は、接着剤を着色した接着塗料により着色された
ことを特徴とするハブユニット軸受。
【請求項2】
前記磁気エンコーダは、前記凹部を内径に沿って複数並べることによりローレット部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記磁気エンコーダは、内径側に沿ってアウトボード側に凹設した段差面を有し、該段差面に前記ローレット部を設けたことを特徴とする請求項2に記載のハブユニット軸受。
【請求項4】
前記磁気エンコーダは、前記ローレット部より外径側に着磁部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、類似形状の磁気エンコーダを識別可能な磁気エンコーダ付きのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブユニット軸受は、類似形状で極数違いのエンコーダがセットされたハブユニット軸受が複数存在するが、エンコーダは黒色ないし濃い褐色をしているため識別が困難な場合がある。このため、例えば類似形状のエンコーダが同一工場に納入されて、同じ工場内で組付作業が行われる場合、組付作業時に異なるエンコーダがセットされたハブユニット軸受を車両側に組付けてしまう虞がある。異なるエンコーダが組付けられた車両は回転センサが誤作動してしまうため、ハブユニット軸受には、車両へ組付ける際に取り間違いが起きないように識別するための識別手段を設ける必要がある。
【0003】
特許文献1には、エンコーダの外表面に形成した凹所による模様や、エラストマの色相によってエンコーダの種類を識別可能にしたハブユニット軸受が記載されており、特許文献2には、エンコーダの磁性ゴム表面を種類に応じた色に着色することによって識別可能にしたハブユニット軸受が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-162546号公報
【特許文献2】特開2022-108082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のハブユニット軸受は、エンコーダはフェライト粉等で黒色又は濃い褐色であることが多いため、特にハブユニット軸受がナックルに圧入された状態では凹部による模様があっても識別が困難な場合がある。また、特許文献2のハブユニット軸受によれば、エンコーダを着色することによって識別性は向上するものの、エンコーダ表面に塗った溶剤等の影響で磁性ゴム表面にソルベントクラックや膨潤の発生が懸念される他、色により識別された面を押してエンコーダを回転輪に圧入する際に塗料が剥がれる場合もある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハブユニット軸受に設けた磁気エンコーダの識別性が高く、磁気エンコーダの識別に使用される塗料の剥がれを抑えることのできるハブユニット軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に複列の軌道面が形成された外方部材と、
外周面に複列の軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材の前記複列の軌道面と、前記内方部材の前記複列の軌道面と、の間に配置される複数の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材との間の軸受内部空間のインボード側を塞ぐシール部材と、
前記シール部材のインボード側の側面に設けられる円環状の磁気エンコーダと、
を備えるハブユニット軸受において、
前記磁気エンコーダは、内径側に凹部を有し、前記凹部は、接着剤を着色した接着塗料により着色された
ことを特徴とするハブユニット軸受。
(2) 前記磁気エンコーダは、前記凹部を内径に沿って複数並べることによりローレット部が形成されたことを特徴とする(1)に記載のハブユニット軸受。
(3) 前記磁気エンコーダは、内径側に沿ってアウトボード側に凹設した段差面を有し、該段差面に前記ローレット部を設けたことを特徴とする(2)に記載のハブユニット軸受。
(4) 前記磁気エンコーダは、前記ローレット部より外径側に着磁部を有することを特徴とする(2)又は(3)に記載のハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハブユニット軸受によれば、円環状の磁気エンコーダの内径側に沿ってローレット部を形成し、ローレット部を構成する凹部内を着色した接着塗料で着色することにより、磁気エンコーダを識別し易くするとともに、塗料によるソルベントクラックや膨潤の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】(A)及び(B)は、シール部材の周辺を示す断面図と、磁気エンコーダの要部正面図である。
【
図3】(A)及び(B)は、第2実施形態のシール部材の周辺を示した断面図と、磁気エンコーダの要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るハブユニット軸受の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、ハブユニット軸受を示す要部断面図であり、
図2(A)及び(B)は、シール部材の周辺を示す断面図と、磁気エンコーダの要部正面図である。
【0011】
なお、本明細書において、「インボード側」とは、車体に取付けた際のハブユニット軸受の車体側を表し、「アウトボード側」とは、車体に取付けた際のハブユニット軸受の車輪側を表す。「軸方向」とは、ハブユニット軸受の回転軸が延びる方向を表し、「径方向外側」とは、内方部材の回転軸から遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材の回転軸を中心に近づく方向を表す。「周方向」とは、内方部材の回転軸を中心に同心円方向に旋回する方向を表す。
【0012】
(第1実施形態)
まず、
図1を参照して、本発明に係るハブユニット軸受の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、車輪支持構造1に設けられたハブユニット軸受10は、外方部材11と、内方部材12,13と、複数の転動体14と、一対のシール部材15,20とを備える。
【0013】
外方部材11は、外周面を円筒面とする外輪であり、内周面に断面円弧状の複列(2列)の外輪軌道面11aを有している。外方部材11は、使用時に懸架装置を構成するナックル2に形成した支持孔3に内嵌固定されており、使用時に、ナックル2に支持された状態で回転しない。支持孔3の内端開口部には、内向フランジ状のナックル肩部4を形成しており、ナックル肩部4に、外輪11のインボード側端面を突き当てている。この状態で、支持孔3の外端部内周面に形成した係止溝に係止した止め輪5により外輪のアウトボード側端面を押さえ付けて、外方部材11が支持孔3から抜け出ないようにしている。
なお、ナックル肩部4が外輪11に対してアウトボード側に設けられてもよく、その場合には、ナックル肩部4に、外輪11のアウトボード側端面を突き当て、止め輪5により外輪11のインボード側端面を押さえ付けてもよい。
【0014】
内方部材12,13は、ハブ輪12と一対の内輪13,13とを結合することにより構成されている。内方部材12,13は、外方部材である外輪11の内径側で外輪11と同軸上に配置されている。
【0015】
ハブ輪12には、外方部材11のアウトボード側から軸方向外側に突出した部分から外径側に延出し、車輪及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定するための環状の回転側フランジ12aが設けられている。
【0016】
ハブ輪12の外周面には、回転側フランジ12aの近傍からインボード側に円筒状の小径段部16が形成される。そして、一対の内輪13は、互いの肩落とし部を当接させた状態で、小径段部16の外周面に圧入によって外嵌され、ハブ輪12のインボード側端部に形成されたかしめ部17によりインボード側の内輪13のインボード側端面を押さえ付けることができる。これにより内輪13がハブ輪に位置決め固定される。
【0017】
外方部材11の内周面に設けられたアウトボード側の外輪軌道面11aと対向する部分には、アウトボード側の内輪13の外周面に形成された断面円弧状の内輪軌道面13aが設けられる。また、外方部材11の内周面に設けられたインボード側の外輪軌道面11aと対向する部分には、インボード側の内輪13の外周面に形成された断面円弧状の内輪軌道面13aが設けられる。
【0018】
これにより、アウトボード側の外輪軌道面11aと内輪軌道面13aとの間には、軸受内部空間10aが形成される。軸受内部空間10aには、転動体14がそれぞれ複数ずつ、保持器18により保持された状態で転動自在に設けられる。
【0019】
また、軸受内部空間10aのインボード側端部とアウトボード側端部には、シール板30とスリンガ40との組合せからなる一対のシール部材15,20が配置されている。これにより、複数の転動体14が設けられた軸受内部空間10aに封入したグリース等の潤滑剤が外部に漏洩するのを防止すると共に、外部から軸受内部空間10aに泥水等の異物が侵入することを防止している。
【0020】
なお、インボード側のシール部材20には、磁気エンコーダ50が設けられており、ハブ輪12及び内輪13の回転速度、回転数、回転方向を検出できるように構成されている
【0021】
以上より、本実施形態の車輪支持構造1は、第1世代のハブユニット軸受10の外輪11の外周面にナックル2が嵌合し、一対の内輪13の内周面側に回転側フランジ12aを有するハブ輪12が内嵌される構成となる。
【0022】
図2に示されるように、シール部材20は、外方部材11の内周面のインボード側端部に固定されるシール板30と、内方部材である内輪13の外周面のインボード側端部に固定されるスリンガ40とを有する。
【0023】
シール板30は、芯金31とシールリップ33とを有する。芯金31は、例えば、防錆処理された冷間圧延鋼板等から構成されている。芯金31は、円環状の鋼板がプレス加工等により屈曲されて形成されており、断面視で略L字状に形成されている。したがって、芯金31は、軸方向に延びる円筒部31aと、円筒部31aのアウトボード側端部から径方向内側に向かって延びるフランジ部31bとを有している。
【0024】
シールリップ33は、例えば、ニトリル系合成ゴム、アクリル系合成ゴム、シリコーン系合成ゴム、フッ素系合成ゴム、四ふっ化エチレン樹脂等から構成される。シールリップ33は、主にシール板30のインナーボード側の側面を覆うように、シール板30に加硫接着されている。
【0025】
本例のシールリップ33は、インボード側及び径方向外側に向けて斜めに延びる第一リップ33aと、インボード側及び径方向内側に向けて斜めに延びる第二リップ33bと、アウトボード側及び径方向内側に向けて斜めに延びる第三リップ33cとを有する。
【0026】
スリンガ40は、磁気エンコーダ50のバックヨークとなるため、磁性体であるフェライト系ステンレスから構成されている。スリンガ40と内輪13との嵌合面に発生する錆によって、磁気エンコーダ50が摩耗することを防止するためにも、スリンガ40はフェライト系ステンレスから構成されることが好ましい。
【0027】
スリンガ40は、円環状の鋼板がプレス加工等により屈曲されて形成されており、断面視で略L字状である。したがって、スリンガ40は、軸方向に延びる円筒部40aと、円筒部40aのインボード側端部から径方向外側に向かって延びるフランジ部40bとを有する。これに対し、スリンガ40のフランジ部40bには、第一リップ33aが摺接し、スリンガ40の円筒部40aには、第二リップ33b及び第三リップ33cが摺接している。これにより、軸受内部空間10aから外部へのグリース漏れや、外部からの軸受内部空間10aへの泥水等の侵入を防止できる。
【0028】
スリンガ40のフランジ部40bのインボード側側面40cには、磁気エンコーダ50が設けられる。磁気エンコーダ50は、フェライト等の磁性体が混入された磁性ゴム製である。磁気エンコーダ50は、環状に形成されており、N極とS極とが周方向に沿って交互で且つ等間隔に着磁されている。なお、本例の磁気エンコーダ50は、質量比で80~90%がフェライトを含み、ゴムのポリマーの質量比が10~20%程度と低いため、ソルベントクラックや膨潤の影響が比較的大きくなる。
【0029】
磁気エンコーダ50は、スリンガ40のインボード側側面40cに固定された本体部51と、スリンガ40のフランジ部40bの径方向外側端部を覆うフック状の係止部53とを有している。また、本体部51のインボード側には、磁気エンコーダの種類を識別する識別部としてローレット部55が設けられている。磁気エンコーダ50は、スリンガ40に加硫接着により固定されており、スリンガ40及び内方部材12,13とともに一体的に回転可能である。
【0030】
ちなみに、ハブユニット軸受10は、磁気エンコーダ50と軸方向で対向する位置に不図示のセンサが設けられており、このセンサによって、磁気エンコーダ50の回転状態が検出される。言い換えると、磁気エンコーダ50とセンサによって、ハブ輪12及び内輪13の回転速度を検出できる。
【0031】
ローレット部55は、
図2(A)及び(B)に示すように、円環状の本体部51の内径側に沿って複数設けられる凹部55Aを連ねたものである。ローレット部55を構成する凹部55Aは、着色した接着塗料56によって着色されている。
【0032】
凹部55Aは、磁気エンコーダ50をインサート成型する際の型により成型されている。また、凹部55Aは、図示する例では、本体部51のインボード側が開放されるように正面視で方形状に凹設された貫通しない穴であるが、形状はこれに限られない。凹部55Aは、着色された際に識別し易い形状であれば良く、正面視で円形状、楕円状、多角形状等の図形の他、文字や数字、記号等の情報を表す形状であっても良いし、貫通した孔としても良い。
【0033】
凹部55Aは、ローレット部55に沿った円周方向の長さや、隣接する凹部55Aとの間の長さ(ピッチ)は任意である。凹部55Aの形状や配置は、形状が同じ若しくは似ている磁気エンコーダ50の種類の識別が容易になるものであれば良い。
【0034】
その一方で、ローレット部55を構成する凹部55Aの数は、磁気エンコーダ50の極数に対し、公約数や公倍数にならない数とし、磁気エンコーダ50の極数と、ローレット部の凹部55Aの数とが特別な数学的関係で結ばれないようにする。これにより、凹部55Aがエンコーダ信号誤差の原因の一つになることを防止できる。
【0035】
また、磁気エンコーダ50は、着磁される着磁部をローレット部55よりも外径(大径)側のみとして、着磁部の内径側にあるローレット部55が形成される範囲は着磁しない構成としてもよい。これにより、凹部55Aがエンコーダ信号誤差の原因の一つになることを防止できる。
【0036】
また、磁気エンコーダ50は、凹部55Aが形成されるローレット部55と、本体部51と同一平面上に形成されるため、磁気エンコーダ50を取付ける際にその一部が押圧されることによる圧入不良が起き難くなる。
【0037】
接着塗料56は、本実施例では、ビニルメチルシリコーンゴムや、ポリビニルアルコール等のゴム用接着剤を、顔料や染料で着色したものである。接着塗料56を、磁性ゴムからなる磁気エンコーダ50に設けられた凹部55A内に塗布することによって、凹部55Aを着色できる。接着塗料56は、凹部55A内が着色されるように内壁側、底面側を塗ったり、凹部55A内の中途部まで充填したりすることで凹部55Aを残す構成としても良いし、凹部55Aを接着塗料56で埋めるように充填して、接着塗料56が充填された凹部55Aと磁気エンコーダ50の本体部51とを面一にしてもよい。
【0038】
接着塗料56に用いられるゴム用接着剤は、ゴムの膨潤を起こさせないものが好ましく、不活性あるいは親水性の接着剤が用いられる。また、接着塗料56に用いられる顔料や染料は、鮮やかな色が好ましいが、これらに限られず、ハブユニット軸受10をナックルに圧入した後であれば、凹部55A内の着色が失われるものとしても良い。なお、接着塗料56を塗布する方法は、自動機や手塗などの手段は問わない。
【0039】
磁気エンコーダ50の表面は、フェライトにより通常は黒色、濃い褐色、濃い茶色となるため、発色の良い色鮮やかな接着塗料56を選択することにより、ローレット部55の美観が向上するとともに、類似形状で仕様の異なる(例えば、極数が異なる)磁気エンコーダ50の識別もより容易になる。
【0040】
また、ローレット部55の位置が磁気エンコーダ50の内径側に配置されたことにより、
図1に示されるように、該ローレット部55をハブユニット軸受10が取付られたナックル2のナックル肩部4から内径側に離れて配置することができる。このため、ハブユニット軸受10がナックル2に圧入された状態においても、磁気エンコーダ50の識別性が高くなる。すなわち、ハブユニット軸受10をナックル2側に組付けた状態からでも、ハブユニット軸受10に取付けられた磁気エンコーダ50が間違っていることに気づき易くなる。これがハブ輪12の圧入前であれば正しい磁気エンコーダ付きハブユニット軸受10への交換もスムーズに行うことができる。
【0041】
また、接着塗料56がローレット部55を構成する凹部55A内のみに設けられるため、接着塗料56のソルベントクラックや膨潤を防止できるとともに、ハブユニット軸受10をナックル側へ圧入する際に接着塗料56が剥離する事態も防止できる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のハブユニット軸受について説明する。本実施形態のハブユニット軸受は、第1実施形態と比較して、磁気エンコーダの識別部の構成が相違し、その他の構成は同様である。
図3(A)及び(B)は、第2実施形態のシール部材の周辺を示した断面図と、磁気エンコーダの要部正面図である。
【0043】
本実施形態の磁気エンコーダ50は、
図3(A)及び(B)に示すように、本体部51の内径側をアウトボード側に凹設することによって円環状に引っ込んだ段差面57を形成し、該段差面57上にローレット部55を設けた。磁気エンコーダ50は、段差面57を形成する段差を境として、段差の外径側を着磁されたエンコーダ部(着磁部)58とし、段差の内径側である段差面57を着磁されない非エンコーダ部としてもよい。
【0044】
ローレット部55を、本体部51のインボード側表面(エンコーダ部58)から引っ込めた段差面57上に設けたことにより、ローレット部55がより着磁され難くなる。言い換えると、段差面57側に用いられる接着塗料56がエンコーダ部58へ影響し難くなる。これにより、磁気エンコーダ50に設けたローレット部55がエンコーダ信号誤差の原因になることを防止できる。
【0045】
また、本実施例によれば、磁気エンコーダ50の取付作業等を行う場合に、本体部51側の着磁されていない段差面57のみを押圧できるため、着磁されたエンコーダ部58が強く押されて変形したり歪んだりすることを防止できる。
【0046】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上述の実施例では、第1世代のハブユニット軸受10に磁気エンコーダ50を設けた構成について説明したが、本発明は磁気エンコーダ50付きのハブユニット軸受10であれば世代が異なるものであっても同様に適用することができる。
【0047】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に複列の軌道面が形成された外方部材と、
外周面に複列の軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材の前記複列の軌道面と、前記内方部材の前記複列の軌道面と、の間に配置される複数の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材との間の軸受内部空間のインボード側を塞ぐシール部材と、
前記シール部材のインボード側の側面に設けられる円環状の磁気エンコーダと、
を備えるハブユニット軸受において、
前記磁気エンコーダは、内径側に凹部を有し、前記凹部は、接着剤を着色した接着塗料により着色された
ことを特徴とするハブユニット軸受。
本構成によれば、形状が近似又は同一の磁気エンコーダの識別性が高くなるため、組付作業時における磁気エンコーダの取り違いを防止できるとともに、組付けられた磁気エンコーダの確認作業も容易に行うことができる。また、接着塗料がローレット部を構成する凹部内に入れられたことにより、識別に使用される塗料の劣化を抑えることができる。
【0048】
(2) 前記磁気エンコーダは、前記凹部を内径に沿って複数並べることによりローレット部が形成されたことを特徴とする(1)に記載のハブユニット軸受。
本構成によれば、磁気エンコーダに凹部が並べて配置されたローレット部が設けられることにより、磁気エンコーダの識別性がより向上する。
【0049】
(3) 前記磁気エンコーダは、内径側に沿ってアウトボード側に凹設した段差面を有し、該段差面に前記ローレット部を設けたことを特徴とする(2)に記載のハブユニット軸受。
本構成によれば、凹部を着色する接着塗料が磁気エンコーダの外径側に影響し難くなる。
【0050】
(4) 前記磁気エンコーダは、前記ローレット部より外径側に着磁部を有することを特徴とする(2)又は(3)に記載のハブユニット軸受。
本構成によれば、磁気エンコーダの取付作業等に、着磁されていないローレット部のみを押圧できるため、着磁された部分が変形したり歪んだりして、磁気エンコーダに信号誤差が発生することを防止できる。
【符号の説明】
【0051】
10 ハブユニット軸受
10a 軸受内部空間
11 外輪(外方部材)
12 ハブ輪(内方部材)
13 内輪(内方部材)
11a 外輪軌道面(軌道面)
12a 回転側フランジ
13a 内輪軌道面(軌道面)
14 転動体
20 シール部材
50 磁気エンコーダ
55 ローレット部
55A 凹部
56 接着塗料
57 段差面
58 エンコーダ部(着磁部)