(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052006
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 310
B23K20/12 360
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158433
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502444733
【氏名又は名称】日軽金アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
(72)【発明者】
【氏名】小泉 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】熊井 雅章
(72)【発明者】
【氏名】菊 和雄
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG14
4E167BG22
4E167BG25
4E167DB01
(57)【要約】
【課題】回転ツールの移動ルートが重複している場合であっても被接合部材の表面に欠陥の生成を抑える摩擦撹拌接合を提供する。
【解決手段】被接合部材上に設定された移動ルートに沿って、回転ツールFを移動させて被接合部材を接合する接合工程を備え、移動ルートは、回転ツールFの移動により、被接合部材を摩擦攪拌して塑性化領域を形成する第一移動ルートと、回転ツールFの移動により、第一移動ルートで形成された塑性化領域W(Wa)の一部を第一移動ルートと同じ側から回転ツールFを挿入した状態で被接合部材を摩擦攪拌して再度塑性流動化する第二移動ルートと、有するように設定されており、第二移動ルートにおいて回転ツールFが再度塑性流動化する際の回転ツールFの挿入深さは、第一移動ルートにおいて塑性化領域W(Wa)を形成した際の回転ツールFの挿入深さよりも深いこと、を特徴とする。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ツールを用いて被接合部材を摩擦攪拌接合する方法であって、
前記被接合部材上に設定された移動ルートに沿って、前記回転ツールを移動させて前記被接合部材を接合する接合工程を備え、
前記移動ルートは、前記回転ツールの移動により、前記被接合部材を摩擦攪拌して塑性化領域を形成する第一移動ルートと、
前記回転ツールの移動により、前記第一移動ルートで形成された前記塑性化領域の一部を前記第一移動ルートと同じ側から前記回転ツールを挿入した状態で前記被接合部材を摩擦攪拌して再度塑性流動化する第二移動ルートと、有するように設定されており、
前記第二移動ルートにおいて前記回転ツールが再度塑性流動化する際の前記回転ツールの挿入深さは、前記第一移動ルートにおいて前記塑性化領域を形成した際の前記回転ツールの挿入深さよりも深い、ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの回転軸の位置は、前記第一移動ルートにおける前記回転軸の位置を基準としたとき、前記回転ツールの進行方向に対して左右方向に変位している、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの挿入深さをD2、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの挿入深さをD1とした時に、D1×1.05<D2<D1×1.25となる、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と同じ方向となるように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過する、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と反対方向となるように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過する、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と交差するように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過する、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項7】
前記接合工程では、
前記被接合部材同士が重ね合わせられて形成された重合部を接合し、前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの先端の位置が前記重合部よりも低い、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項8】
前記被接合部材は、開口部を有する第一被接合部材及び前記開口部を封止する第二被接合部材を有し、
前記第一被接合部材は、
底部と、
前記底部から立ち上がり前記開口部を備える周壁部と、
第一段差底面及び前記第一段差底面から立ち上がる第一段差側面を有し、前記周壁部の端面の内周縁に設けられた第一段差部と、
前記第一段差底面と連続し略同一の高さ位置となる第一底面と、を有し、
前記第一段差底面及び前記第一底面に前記第二被接合部材を載置することで、前記第一底面と前記第二被接合部材の裏面とが重ね合わされて重合部が形成されるとともに、前記第一段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第一突合せ部が形成される載置工程をさらに備え、
前記接合工程では、
前記重合部において、前記回転ツールの移動により、少なくとも前記第二被接合部材を摩擦攪拌して塑性化領域を形成する前記第一移動ルートと、
前記第一突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第三移動ルートと、
前記重合部において、前記回転ツールの移動により、前記第一移動ルートで形成された塑性化領域の一部を前記第一移動ルートと同じ側から前記回転ツールを挿入した状態で前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌して再度塑性流動化する前記第二移動ルートと、を有し、
前記第一移動ルート、前記第三移動ルート及び前記第二移動ルートの順で前記回転ツールを移動させて前記第一被接合部材及び前記第二被接合部材を接合する、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項9】
前記接合工程では、前記第一移動ルートを接合する際に前記回転ツールが前記第二被接合部材のみに接触している、請求項8に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項10】
前記接合工程では、
前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一段差底面と同じ高さであり、
前記第二移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一底面よりも低い、請求項8に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項11】
前記第一被接合部材は、
前記第一段差底面と連続して略同一の高さ位置となる第二段差底面及び前記第二段差底面から立ち上がる第二段差側面を有する第二段差部
と、
前記第一段差底面と連続して略同一の高さ位置となる第三段差底面及び前記第三段差底面から立ち上がる第三段差側面を有する第三段差部と、を有し、
前記載置工程では、
前記第一段差底面、前記第二段差底面、前記第三段差底面、及び前記第一底面に前記第二被接合部材を載置することで、前記第二段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第二突合せ部が形成されるとともに、前記第三段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第三突合せ部が形成され、
前記接合工程では、
前記第二突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第四移動ルートと、
前記第三突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第五移動ルートと、を有し、
前記第四移動ルート、前記第一移動ルート、前記第三移動ルート、前記第二移動ルート、前記第五移動ルートの順で前記回転ツールを移動させて前記第一被接合部材及び前記第二被接合部材を接合する、請求項8に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項12】
前記接合工程では、
前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一段差底面と同じ高さであり、
前記第四移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第二段差底面と同じ高さであり、
前記第五移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第三段差底面と同じ高さであり、
前記第二移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一底面よりも低い、請求項11に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項13】
前記第四移動ルートから前記第一移動ルートに移行する際に、前記回転ツールを移動させながら前記回転ツールの挿入深さを浅くする、請求項11に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項14】
前記第二被接合部材の厚さを、前記第一段差側面の高さ寸法よりも大きくする、請求項8に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項15】
前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの回転軸が前記第一突合せ部よりもわずかに前記第二被接合部材側に位置した状態で前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌接合する、請求項8に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項16】
前記第一被接合部材は第一アルミニウム合金で形成されており、前記第二被接合部材は第二アルミニウム合金で形成されており、
前記第一アルミニウム合金は、前記第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種である、請求項15に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項17】
前記回転ツールは、ショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央から垂下する攪拌ピンと、を備えており、
前記接合工程では、前記ショルダ部の下端面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項18】
前記回転ツールは、基部と、前記基部の下端面の中央から垂下する攪拌ピンと、を備えており、
前記接合工程では、前記基部を前記被接合部材から離間させつつ、前記攪拌ピンのみを前記被接合部材に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項19】
前記回転ツールは、
基部と、前記基部に設けられた攪拌ピンと、を有し、
前記攪拌ピンは、前記基部に連続する基端側ピンと、前記基端側ピンに連続する先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、
前記接合工程では、前記基端側ピンの外周面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う、請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転ツールの移動経路が閉じた形状である場合や、複雑形状の被接合部材を摩擦攪拌接合する際には、回転ツールの移動ルートを一部重複させることで塑性化領域の一部をオーバーラップさせることがある(特許文献1参照)。
【0003】
摩擦攪拌接合においては接合状態を均質にし、欠陥やバリの発生を抑えるために回転ツールの挿入深さを一定に保つことが一般的であり、特許文献1のように回転ツールの移動ルートを一部重複させる場合であっても、接合部においては回転ツールの挿入深さを一定に保ちながら摩擦攪拌接合が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被接合部材に回転ツールを挿入し摩擦撹拌接合を行うと、回転ツールの移動した軌跡には凹溝が形成される。換言すると、回転ツールが一度移動した軌跡では材料が減肉化されているため、同じ回転ツールの挿入深さで回転ツールの移動ルートを重複させて摩擦撹拌接合を行うと、2回目に回転ツールが摩擦撹拌接合を行う際には巻き込むことができる材料が少なくなり、その結果として摩擦撹拌接合後の被接合部材表面に欠陥が発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
このような観点から本発明は、回転ツールの移動ルートが重複している場合であっても被接合部材の表面に欠陥の生成を抑える摩擦撹拌接合を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、回転ツールを用いて被接合部材を摩擦攪拌接合する方法であって、前記被接合部材上に設定された移動ルートに沿って、前記回転ツールを移動させて前記被接合部材を接合する接合工程を備え、前記移動ルートは、前記回転ツールの移動により、前記被接合部材を摩擦攪拌して塑性化領域を形成する第一移動ルートと、前記回転ツールの移動により、前記第一移動ルートで形成された前記塑性化領域の一部を前記第一移動ルートと同じ側から前記回転ツールを挿入した状態で前記被接合部材を摩擦攪拌して再度塑性流動化する第二移動ルートと、有するように設定されており、前記第二移動ルートにおいて前記回転ツールが再度塑性流動化する際の前記回転ツールの挿入深さは、前記第一移動ルートにおいて前記塑性化領域を形成した際の前記回転ツールの挿入深さよりも深いこと、を特徴とする。
【0008】
また、前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの回転軸の位置は、前記第一移動ルートにおける前記回転軸の位置を基準としたとき、前記回転ツールの進行方向に対して左右方向に変位していることが好ましい。
【0009】
また、前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの挿入深さをD2、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの挿入深さをD1とした時に、D1×1.05<D2<D1×1.25となることが好ましい。
【0010】
また、前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と同じ方向となるように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過することが好ましい。
【0011】
また、前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と反対方向となるように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過することが好ましい。
【0012】
また、前記回転ツールが前記第一移動ルートを通過した後に、前記第一移動ルートにおける前記回転ツールの進行方向と交差するように前記回転ツールが前記第二移動ルートを通過することが好ましい。
【0013】
また、前記接合工程では、前記被接合部材同士が重ね合わせられて形成された重合部を接合し、前記第二移動ルートにおける前記回転ツールの先端の位置が前記重合部よりも低いことが好ましい。
【0014】
また、前記被接合部材は、開口部を有する第一被接合部材及び前記開口部を封止する第二被接合部材を有し、前記第一被接合部材は、底部と、前記底部から立ち上がり前記開口部を備える周壁部と、第一段差底面及び前記第一段差底面から立ち上がる第一段差側面を有し、前記周壁部の端面の内周縁に設けられた第一段差部と、前記第一段差底面と連続し略同一の高さ位置となる第一底面と、を有し、前記第一段差底面及び前記第一底面に前記第二被接合部材を載置することで、前記第一底面と前記第二被接合部材の裏面とが重ね合わされて重合部が形成されるとともに、前記第一段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第一突合せ部が形成される載置工程をさらに備え、前記接合工程では、前記重合部において、前記回転ツールの移動により、少なくとも前記第二被接合部材を摩擦攪拌して塑性化領域を形成する前記第一移動ルートと、前記第一突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第三移動ルートと、前記重合部において、前記回転ツールの移動により、前記第一移動ルートで形成された塑性化領域の一部を前記第一移動ルートと同じ側から前記回転ツールを挿入した状態で前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌して再度塑性流動化する前記第二移動ルートと、を有し、前記第一移動ルート、前記第三移動ルート及び前記第二移動ルートの順で前記回転ツールを移動させて前記第一被接合部材及び前記第二被接合部材を接合することが好ましい。
【0015】
また、前記接合工程では、前記第一移動ルートを接合する際に前記回転ツールが前記第二被接合部材のみに接触していることが好ましい。
【0016】
また、記接合工程では、前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一段差底面と同じ高さであり、前記第二移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一底面よりも低いことが好ましい。
【0017】
また、前記第一被接合部材は、前記第一段差底面と連続して略同一の高さ位置となる第二段差底面及び前記第二段差底面から立ち上がる第二段差側面を有する第二段差部と、前記第一段差底面と連続して略同一の高さ位置となる第三段差底面及び前記第三段差底面から立ち上がる第三段差側面を有する第三段差部と、を有し、前記載置工程では、前記第一段差底面、前記第二段差底面、前記第三段差底面、及び前記第一底面に前記第二被接合部材を載置することで、前記第二段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第二突合せ部が形成されるとともに、前記第三段差側面と前記第二被接合部材の側面とが突き合わされて第三突合せ部が形成され、前記接合工程では、前記第二突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第四移動ルートと、前記第三突合せ部において、前記回転ツールの移動により、前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌する第五移動ルートと、を有し、前記第四移動ルート、前記第一移動ルート、前記第三移動ルート、前記第二移動ルート、前記第五移動ルートの順で前記回転ツールを移動させて前記第一被接合部材及び前記第二被接合部材を接合することが好ましい。
【0018】
また、前記接合工程では、前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一段差底面と同じ高さであり、前記第四移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第二段差底面と同じ高さであり、前記第五移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第三段差底面と同じ高さであり、前記第二移動ルートにおいて、前記回転ツールの先端の位置が前記第一底面よりも低いことが好ましい。
【0019】
また、前記第四移動ルートから前記第一移動ルートに移行する際に、前記回転ツールを移動させながら前記回転ツールの挿入深さを浅くすることが好ましい。
【0020】
また、前記第二被接合部材の厚さを、前記第一段差側面の高さ寸法よりも大きくすることが好ましい。
【0021】
また、前記第三移動ルートにおいて、前記回転ツールの回転軸が前記第一突合せ部よりもわずかに前記第二被接合部材側に位置した状態で前記第一被接合部材と前記第二被接合部材とを摩擦攪拌接合することが好ましい。
【0022】
また、前記第一被接合部材は第一アルミニウム合金で形成されており、前記第二被接合部材は第二アルミニウム合金で形成されており、前記第一アルミニウム合金は、前記第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種であることが好ましい。
【0023】
また、前記回転ツールは、ショルダ部と、前記ショルダ部の下端面の中央から垂下する攪拌ピンと、を備えており、前記接合工程では、前記ショルダ部の下端面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0024】
また、前記回転ツールは、基部と、前記基部の下端面の中央から垂下する攪拌ピンと、を備えており、前記接合工程では、前記基部を前記被接合部材から離間させつつ、前記攪拌ピンのみを前記被接合部材に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0025】
また、前記回転ツールは、基部と、前記基部に設けられた攪拌ピンと、を有し、前記攪拌ピンは、前記基部に連続する基端側ピンと、前記基端側ピンに連続する先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記接合工程では、前記基端側ピンの外周面を前記被接合部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る摩擦攪拌接合方法によれば、回転ツールの移動ルートが重複している場合であっても被接合部材の表面に欠陥の生成を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る接合体を示す分解斜視図である。
【
図2】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の載置工程を示す斜視図である。
【
図8】
図2のVIII-VIII矢視断面図である。
【
図10】第一実施形態に係る回転ツールを示す側面図である。
【
図11】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の移動ルートを示す全体概略図である。
【
図12】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図11のXII-XII矢視断面図である。
【
図13】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の第四移動ルートを示す拡大概略図である。
【
図14】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図11のXIV-XIV矢視断面図である。
【
図15】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図11のXV-XV矢視断面図である。
【
図16】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の第三移動ルートを示す拡大概略図である。
【
図17】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図16のXVII-XVII矢視断面図である。
【
図18】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の第五移動ルートを示す拡大概略図である。
【
図19】第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図18のXIX-XIX矢視断面図である
【
図20】本発明の第二実施形態に係る接合体を示す分解斜視図である。
【
図21】第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の載置工程を示す斜視図である。
【
図24】第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の移動ルートを示す全体概略図である。
【
図25】第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図24のXXV-XXV矢視断面図である
【
図26】第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図24のXXVI-XXVI矢視断面図である。
【
図27】第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図24のXXVII-XXVII矢視断面図である。
【
図28】本発明の第三実施形態に係る接合体を示す分解斜視図である。
【
図29】第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の載置工程を示す斜視図である。
【
図30】第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図29のXXX-XXX矢視断面図である。
【
図31】第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の接合工程において、
図29のXXXI-XXXI矢視断面図である。
【
図32】第一変形例に係る回転ツールを示す側面図である。
【
図33】第二変形例に係る回転ツールを示す側面図である。
【
図34】第二変形例に係る回転ツールを示す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。実施形態及び変形例における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。当該方向は、説明のために便宜上用いるものであって、本発明を限定するものではない。
【0029】
[1.第一実施形態]
[1-1.被接合部材及び接合体]
本発明の第一本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、
図1に示すように、液冷ジャケット(接合体)1を形成する場合を例示する。液冷ジャケット1は、ジャケット本体(第一被接合部材)2と封止体(第二被接合部材)3とで構成されている。液冷ジャケット1は、内部に流体を流通させて、配置される発熱体を冷却する機器である。ジャケット本体2と封止体3とは摩擦攪拌接合で一体化される。以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面を意味する。
【0030】
ジャケット本体(第一被接合部材)2は、底部10、周壁部11及び横架部15で構成されている。ジャケット本体2は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第一アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第一アルミニウム合金は、例えば、JISH5302 ADC12(Al-Si-Cu系)等のアルミニウム合金鋳造材を用いている。
【0031】
底部10は、矩形を呈する板状部材である。周壁部11は、底部10の周縁部から枠状に立ち上がる壁部である。底部10及び周壁部11の内側には、中空部となる凹部16が形成されるとともに、上方に開口する開口部17が形成されている。周壁部11の内側は、底部10に対していずれも垂直に立ち上がる内側面11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11Hで構成されている。
【0032】
内側面11Aは、内側面11Gと平行に対向するとともに、内側面11Aの両端からそれぞれ延設される内側面11B,11Hに対して垂直になっている。
内側面11Bは、内側面11Hと平行に対向するとともに、内側面11Bの両端からそれぞれ延設される内側面11A,11Cに対して垂直になっている。
内側面11Cは、内側面11Eと平行に対向するとともに、内側面11Cの両端からそれぞれ延設される内側面11B,11Dに対して垂直になっている。
【0033】
内側面11Dは、内側面11Hと平行に対向するとともに、内側面11Dの両端からそれぞれ延設される内側面11C,11Eに対して垂直になっている。
内側面11Eは、内側面11Cと平行に対向するとともに、内側面11Eの両端からそれぞれ延設される内側面11D,11Fに対して垂直になっている。
内側面11Fは、内側面11Hと平行に対向するとともに、内側面11Fの両端からそれぞれ延設される内側面11E,11Gに対して垂直になっている。
【0034】
内側面11Gは、内側面11Aと平行に対向するとともに、内側面11Gの両端からそれぞれ延設される内側面11F,11Hに対して垂直になっている。
内側面11Hは、内側面11Dと平行に対向するとともに、内側面11Hの両端からそれぞれ延設される内側面11A,11Gと垂直になっている。
【0035】
また、内側面11B及び内側面11Fは、同一平面状に形成されている。内側面11A,11B,11Cで平面視クランク状を呈する。また、内側面11E,11F,11Gで平面視クランク状を呈する。
【0036】
内側面11Cと内側面11Eに架け渡されるように横架部15が形成されている。横架部15は、断面矩形の板状部である。横架部15の表面(第一底面)15aは、後記する段差底面12に連続し、面一になっている。横架部15の側面15bは、内側面11B,11Fとそれぞれ面一になっている。横架部15を設けることで、凹部16の前側(一方側)は小さな中空部に、後側(他方側)は大きな中空部に隔てられている。
【0037】
周壁部11の内周縁には、周方向全体に亘って段差部14が形成されている。段差部14は、段差底面12と、段差底面12から立ち上がる段差側面13とで形成されている。段差底面12、段差側面13及び段差部14は、各内側面11A~11Hに対応する部位によって符号を分けて付して区別する。各段差部については追って詳述するが、例えば、
図1に示すように、内側面11Aに対応する部位の第二段差部14Aは、第二段差底面12Aと、第二段差側面13Aとで構成されている。
【0038】
なお、各段差底面の幅寸法は、適宜設定すればよいが、本実施形態では全て同一になっている。また、各段差底面の高さ位置は、適宜設定すればよいが、本実施形態では全て同じ高さ位置になっている。また、各段差側面の高さ寸法は、適宜設定すればよいが、本実施形態ではすべて同一になっている。また、本実施形態のジャケット本体2は一体形成されているが、例えば、周壁部11を分割構成としてシール部材で接合して一体化してもよい。
【0039】
封止体(第二被接合部材)3は、ジャケット本体2の開口部17を封止する板状部材である。封止体3は、大きな部位となる大板部3Aと、大板部3Aより小さな部位となる小板部3Bとで構成されている。大板部3Aは、横架部15及び内側面11A,11B,11F,11G,11Hを覆う部位である。小板部3Bは、内側面11C,11D,11Eを覆う部位である。封止体3は、段差部14に概ね隙間なく配置されるように、段差部14の外縁と略同等の形状になっている。封止体3は、表面3j、裏面3k及び側面3a~3hを備えている。
【0040】
封止体3は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第二アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第二アルミニウム合金は、第一アルミニウム合金よりも硬度の低い材料である。第二アルミニウム合金は、例えば、JIS A1050,A1070,A1100,A6063等のアルミニウム合金展伸材で形成されている。
【0041】
[1-2.製造方法]
次に、本実施形態に係る接合体の製造方法(摩擦攪拌接合方法)について説明する。本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、を行う。
【0042】
<準備工程>
準備工程は、ジャケット本体2及び封止体3を準備する工程である。ジャケット本体2及び封止体3は、製造方法については特に制限されないが、ジャケット本体2は、例えば、ダイキャストで成形する。封止体3は、例えば押出成形により成形する。
【0043】
<載置工程>
載置工程は、
図2に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置して各突合せ部及び重合部を形成する工程である。本実施形態では、第一突合せ重ね部J1、第二突合せ重ね部J2、第三突合せ重ね部J3及び第四重合部Uを形成する。第一突合せ重ね部J1は、内側面11C,11D,11Eに対応し、太線で示すように平面視略C字状を呈する。第二突合せ重ね部J2は、内側面11A,11Bに対応し、ドット線で示すように平面視略L字状を呈する。第三突合せ重ね部J3は、内側面11F,11G,11Hに対応し、破線で示すように左右が反転した平面視略J字状を呈する。第四重合部Uは、仮想線で示すように平面視細長の矩形状を呈する。
【0044】
図3に示すように、封止体3の側面3eと、第一段差側面13Eとが突き合わされて第一突合せ部J1Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第一段差底面12Eとが重ね合わされて第一重合部J1Bが形成される。封止体3の表面3jと、周壁部11の端面11aとは面一になる。
さらに、封止体3の側面3cと、第一段差側面13Cとが突き合わされて第一突合せ部J1Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第一段差底面12Cとが重ね合わされて第一重合部J1Bが形成される。
【0045】
図4に示すように、封止体3の側面3dと、第一段差側面13Dとが突き合わされて第一突合せ部J1Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第一段差底面12Dとが重ね合わされて第一重合部J1Bが形成される。以上説明した3つの第一突合せ部J1Aと、3つの第一重合部J1Bとで第一突合せ重ね部J1が形成されている。
【0046】
図5に示すように、封止体3の側面3aと、第二段差側面13Aとが突き合わされて第二突合せ部J2Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第二段差底面12Aとが重ね合わされて第二重合部J2Bが形成される。
【0047】
図6に示すように、封止体3の側面3bと、第二段差側面13Bとが突き合わされて第二突合せ部J2Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第二段差底面12Bとが重ね合わされて第二重合部J2Bが形成される。以上説明した2つの第二突合せ部J2Aと、2つの第二重合部J2Bとで第二突合せ重ね部J2が形成されている。
【0048】
図7に示すように、封止体3の側面3fと、第三段差側面13Fとが突き合わされて第三突合せ部J3Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第三段差底面12Fとが重ね合わされて第三重合部J3Bが形成される。
また、封止体3の側面3hと、第三段差側面13Hとが突き合わされて第三突合せ部J3Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第三段差底面12Hとが重ね合わされて第三重合部J3Bが形成される。
【0049】
図8に示すように、封止体3の側面3gと、第三段差側面13Gとが突き合わされて第三突合せ部J3Aが形成される。また、封止体3の裏面3kと、第三段差底面12Gとが重ね合わされて第三重合部J3Bが形成される。以上説明した3つの第三突合せ部J3Aと、3つの第三重合部J3Bとで第三突合せ重ね部J3が形成されている。
【0050】
図9に示すように、封止体3の裏面3kと、横架部15の表面(第一底面)15aとが重ね合わされて第四重合部Uが形成される。
【0051】
<回転ツール>
接合体の製造に用いられる回転ツールFについて説明する。
図10に示すように、回転ツールFは、ショルダ部F1と、攪拌ピンF2とを備えている。回転ツールFは、例えば、工具鋼で形成されている。ショルダ部F1は、接合装置(図示省略)の出力軸に連結される部位であって、柱状又は推台状を呈する。攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F1aの中央から垂下している。攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F1a側を基端として先端側に向かうにつれて縮径する、円錐台状を呈する。下端面F1aは平面状であってもよいし、上方(攪拌ピンF2から離間する方向)に凹むすり鉢状であってもよい。攪拌ピンF2の先端F2aは平坦になっている。攪拌ピンF2の外周面には、高さ方向全体に亘って螺旋溝が形成されている。螺旋溝は、右巻き又は左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻き(上方から見て反時計回り)になっている。
【0052】
螺旋溝が左巻きの場合に回転ツールFを右回転させる場合、又は、螺旋溝が右巻きの場合に回転ツールFを左回転させる場合、摩擦攪拌によって軟化された塑性流動材が螺旋溝に導かれて攪拌ピンF2の先端側に流動する。これにより、摩擦攪拌時に塑性流動材が外部に溢れ出るのを防ぐことができ、バリの発生を抑制することができる。また、ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材に接触させて摩擦攪拌接合を行うことで、軟化された塑性流動材を押し込むことができるため、バリの発生を抑制することができる。
【0053】
<接合工程>
接合工程は、
図11に示すように、回転ツールFを用いてジャケット本体2と封止体3とを摩擦攪拌接合する工程である。接合工程では、回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、
図11に示すように、各突合せ重ね部及び第四重合部Uに沿って回転ツールFを移動させ、途中で回転ツールFを離脱させずに連続的に摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、周壁部11の端面11aに設定された開始位置SP1に回転ツールFを挿入した後、中間位置S1に突入し、第二突合せ重ね部J2、第四重合部U、第一突合せ重ね部J1、第四重合部U、第三突合せ重ね部J3を摩擦攪拌接合し、周壁部11の端面11aに設定された終了位置EP1で回転ツールFを周壁部11から離脱させる。換言すると、回転ツールFの通り道が重複する第四重合部Uに対して二度摩擦攪拌接合を行いつつ、回転ツールFを8の字状に移動させて摩擦攪拌接合を行う。
【0054】
なお、中間位置S1は、封止体3の表面3jにおいて、第二突合せ重ね部J2と第三突合せ重ね部J3とが交差する位置の近傍に設定されている。また、第二突合せ重ね部J2と第四重合部Uとの繋ぎ目となる位置の近傍に中間位置S2を設定している。さらに、第四重合部Uと第一突合せ重ね部J1(及び第三突合せ重ね部J3)との繋ぎ目となる位置の近傍に中間位置S3を設定している。
【0055】
<第二突合せ重ね部J2:第四移動ルートL4>
まず、開始位置SP1を周壁部11の端面11aに設定する。開始位置SP1は、封止体3の表面3j上に設けてもよい。回転ツールFを正回転させつつ開始位置SP1に挿入したら、第二突合せ重ね部J2に向けて移動させつつ徐々に深く押し込んでいく。
図12に示すように、第二突合せ重ね部J2に達したら、ショルダ部F1の下端面F1aを周壁部11の端面11a及び封止体3の表面3jにわずかに押込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第二段差底面12Aと同じ高さ位置となるように設定された挿入深さD4まで挿入する。当該挿入深さD4を維持した状態で、回転ツールFを第二突合せ重ね部J2に沿って移動させることにより、第二突合せ部J2A及び第二重合部J2Bが摩擦攪拌接合される。回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域Wが形成される。
【0056】
回転ツールFの回転軸Cは、第二突合せ部J2Aと重なるようにしてもよいが、本実施形態では、回転軸Cが第二突合せ部J2Aよりも内側(封止体3側)となるように変位させつつ摩擦攪拌接合を行う。より詳しくは、
図13に示すように、第二突合せ重ね部J2を摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルート(回転軸Cが通るルート)を第四移動ルートL4とすると、第四移動ルートL4は、第二突合せ部J2Aに沿いつつ、第二突合せ部J2Aの内側に若干変位させた位置に設定している。第二突合せ部J2Aから第四移動ルートL4までの変位量P1は、好ましくは0.1<P1(mm)であり、より好ましくは0.2<P1(mm)であり、好ましくはP1<0.5(mm)であり、より好ましくはP1<0.4(mm)である。中間位置S2に回転ツールFが達したら、そのまま第四重合部Uの一回目の摩擦攪拌接合に移行する。
【0057】
<第四重合部U:一回目:第一移動ルートL1>
図14に示すように、一回目の第四重合部Uの摩擦攪拌接合では、ショルダ部F1の下端面F1aを封止体3の表面3jに接触させつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第四重合部Uに達しないように挿入深さD1を設定する。攪拌ピンF2の先端F2aは横架部15の表面15aに達していないが、塑性化領域Wが表面15aに達するため、第四重合部Uを摩擦攪拌接合することができる。第二突合せ重ね部J2から第四重合部Uの摩擦攪拌接合に移行する際には、回転ツールFを移動させつつ回転ツールFの高さ位置を徐々に上げながら(浅くしながら)摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0058】
図14に示すように、第四重合部Uを一回目に摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第一移動ルートL1とすると、第一移動ルートL1は、第四重合部Uの幅方向の概ね中央部に設定している。回転ツールFが中間位置S3(
図11参照)の近傍に達したら、そのまま第一突合せ重ね部J1の摩擦攪拌接合に移行する。
【0059】
<第一突合せ重ね部J1:第三移動ルートL3>
図15に示すように、第一突合せ重ね部J1に達したら、ショルダ部F1の下端面F1aを周壁部11の端面11a及び封止体3の表面3jにわずかに押込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第一段差底面12Eと同じ高さ位置となるように設定された挿入深さD3まで挿入する。当該挿入深さD3を維持した状態で、回転ツールFを第一突合せ重ね部J1に沿って移動させることにより、第一突合せ部J1A及び第一重合部J1Bが摩擦攪拌接合される。また、ジャケット本体2側と封止体3側で、回転ツールFのシアー側とフロー側を一定にするために、第一突合せ重ね部J1を摩擦攪拌接合する際には回転ツールFの回転方向を逆回転にしても良い。
【0060】
なお、中間地点S3において、攪拌ピンF2の先端F2aが第一段差底面12Eよりも浅い場合、第一突合せ重ね部J1の接合不良の原因となるおそれがある。そのため、第四重合部Uから第一突合せ重ね部J1に移行する際には、中間位置S3に到達した時点で攪拌ピンF2の先端F2aが第一段差底面12Eと同じ高さとなるように設定されていればよく、例えば、第四重合部Uから第一突合せ重ね部J1に移行する際に、回転ツールFを移動させつつ回転ツールFの高さ位置を徐々に下げながら(深くしながら)摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0061】
回転ツールFの回転軸Cは、第一突合せ部J1Aと重なるようにしてもよいが、本実施形態では、回転軸Cが第一突合せ部J1Aよりも内側(封止体3側)となるように変位させつつ摩擦攪拌接合を行う。より詳しくは、
図16に示すように、第一突合せ重ね部J1を摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第三移動ルートL3とすると、第三移動ルートL3は、第一突合せ部J1Aに沿いつつ、第一突合せ部J1Aの内側に若干変位させた位置に設定している。第一突合せ部J1Aから第三移動ルートL3までの変位量P2は、好ましくは0.1<P2(mm)であり、より好ましくは0.2<P2(mm)であり、好ましくはP2<0.5(mm)であり、より好ましくはP2<0.4(mm)である。回転ツールFが中間位置S2の近傍に達したら、第四重合部Uの二回目の摩擦攪拌接合に移行する。
【0062】
<第四重合部U:二回目:第二移動ルートL2>
図17に示すように、二回目の第四重合部Uでは、ショルダ部F1の下端面F1aを封止体3の表面3jにわずかに押込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが横架部15(第四重合部U)に達するように設定された挿入深さD2を設定する。第一突合せ重ね部J1から第四重合部Uに移行する際には、回転ツールFを移動させつつ、回転ツールFの高さ位置を徐々に下げながら(深くしながら)摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0063】
図17及び
図18に示すように、第四重合部Uを二回目に摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第二移動ルートL2とすると、第二移動ルートL2は、第一移動ルートL1を基準としたとき、回転ツールFの進行方向に対して左右方向(ここでは左方向)に若干変位している。これにより、一回目の塑性化領域W(Wa)と、二回目の塑性化領域W(Wb)とは若干ずれて形成される。第四重合部Uにおいて、第一移動ルートL1(一回目)と第二移動ルートL2(二回目)との変位量P3は適宜設定すればよいが、好ましくは0.1<P3(mm)であり、より好ましくは0.2<P3(mm)であり、さらに好ましくは0.3<P3(mm)であり、好ましくはP3<1.2(mm)であり、より好ましくはP3<1.0(mm)であり、さらに好ましくはP3<0.8mmである。
【0064】
また、第二移動ルートL2(二回目)における回転ツールFの挿入深さをD2、第一移動ルートL1(一回目)における回転ツールFの挿入深さをD1とした時に、D1×1.05<D2<D1×1.25となることが好ましい。上限値は、好ましくはD2<D1×1.25であり、より好ましくはD2<D1×1.20であり、さらに好ましくはD2<D1×1.15である。挿入深さとは、被接合部材の表面(ここでは、封止体3の表面3j)から攪拌ピンF2の先端F2aまでの距離である。
図18に示すように、回転ツールFが中間位置S3の近傍に達したら、そのまま第三突合せ重ね部J3の摩擦攪拌接合に移行する。
【0065】
<第三突合せ重ね部J3:第五移動ルートL5>
図19に示すように、回転ツールFが中間位置S3に達したら、ショルダ部F1の下端面F1aを周壁部11の端面11a及び封止体3の表面3jにわずかに押込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第三段差底面12Fと同じ高さ位置となるように設定された挿入深さD5まで挿入する。当該挿入深さD5を維持した状態で、回転ツールFを第三突合せ部J3Aに沿って移動させることにより、第三突合せ部J3A及び第三重合部J3Bが摩擦攪拌接合される。二回目の第四重合部Uから第三突合せ重ね部J3に移行する際には、回転ツールFが第三突合せ重ね部J3に移行する中間位置S3に到達した時点で攪拌ピンF2の先端F2aが第一段差底面12Eと同じ高さとなるように設定すればよく、例えば、回転ツールFを移動させつつ回転ツールFの高さ位置を徐々に上げながら(浅くしながら)摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0066】
回転ツールFの回転軸Cは、第三突合せ部J3Aと重なるようにしてもよいが、本実施形態では、回転軸Cが第三突合せ部J3Aよりも内側(封止体3側)となるように変位させつつ摩擦攪拌接合を行う。より詳しくは、
図18及び
図19に示すように、第三突合せ重ね部J3を摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第五移動ルートL5とすると、第五移動ルートL5は、第三突合せ部J3Aに沿いつつ、第三突合せ部J3Aの内側に若干変位させた位置に設定している。第三突合せ部J3Aから第五移動ルートL5までの変位量P4は、好ましくは0.1<P1(mm)であり、より好ましくは0.2<P1(mm)であり、好ましくはP1<0.5(mm)であり、より好ましくはP1<0.4(mm)である。回転ツールFが中間位置S1に達したら、回転ツールFの高さ位置を徐々に上げながら、終了位置EP1で回転ツールFを周壁部11から離脱させる。以上の工程により、ジャケット本体2と封止体3とが摩擦攪拌接合により一体化される。
【0067】
[1-3.作用効果]
以上説明した本実施形態に係る摩擦攪拌接合では、回転ツールFが重複して被接合部材を塑性流動化する領域(第四重合部U)において、1回目に被接合部材を塑性流動化するときの回転ツールFの挿入深さD1よりも、被接合部材を再度塑性流動化するときの回転ツールFの挿入深さD2を深く設定している。
これにより塑性流動化していない被接合部材の領域、特には深さ方向の塑性流動化していない被接合部材の領域からも材料を巻き込んで再度の摩擦攪拌接合が行われるため、1回目の摩擦攪拌による材料表面の減肉分を補うことができる。その結果、回転ツールFが重複して被接合部材を塑性流動化する移動軌跡をとる場合においても被接合部材の表面に欠陥を生じさせることを抑制でき、良好な接合を行うことができる。また、移動ルートの自由度、及び被接合部材の設計の自由度を増加させることができるとともに、移動ルートを効率化して接合に要する時間を短縮することができるため、生産性を向上させることができる。
【0068】
また、第四重合部Uにおいて、第一移動ルートL1と第二移動ルートL2とは同じ位置でもよいが、本実施形態では進行方向に対して左右方向にずらしている。一回目と二回目の摩擦攪拌接合における回転ツールFの位置を、進行方向に対して左右(水平方向)にずらすことで、上下方向からの材料を補充するだけではなく、左右方向からも材料を補充することができるため、被接合部材の表面に欠陥を生じさせることを抑制できる。また、接合幅が増え、接合強度を大きくすることができる。
【0069】
また、第一移動ルートL1及び第二移動ルートL2で摩擦攪拌接合する際の挿入深さは適宜設定すればよいが、第二移動ルートL2において回転ツールFが深く入り過ぎると被接合部材の表面に生じる凹溝の接合跡が大きくなるおそれがある。この点、本実施形態では第二移動ルートL2における回転ツールFの挿入深さをD1、第一移動ルートL1における回転ツールFの挿入深さをD2とした時に、D1×1.05<D2<D1×1.25に設定した。これにより、第二移動ルートL2において回転ツールFが深く入り過ぎることに起因して被接合部材の表面に生じる凹溝の接合跡が大きくなるのを防ぐことができる。
【0070】
また、本実施形態では、第四重合部Uを同じ側(封止体3の表面3j側)から二回摩擦攪拌接合するものであるが、このような場合においても、被接合部材の表面に欠陥が発生するのを防ぐことができる。
【0071】
また、回転ツールFの挿入深さは、被接合部材を接合可能な範囲で適宜設定すればよいが、本実施形態では、被接合部材同士が重ね合わせられて形成された第四重合部Uを接合する第二移動ルートL2における回転ツールFの先端F2aの位置が第四重合部Uよりも低くなっている。これにより、ジャケット本体2と封止体3とを確実に接合させることができ、ジャケット本体2と封止体3との接合強度を高めることができる。一方、第一移動ルートL1における回転ツールFの先端F2aの位置が第四重合部Uよりも高いことで、第二移動ルートL2における回転ツールFの高さを下げるための余裕(マージン)を確保することができる。よって、第二移動ルートL2における回転ツールFの挿入量を抑えることができるため、被接合部材の表面に生じる凹溝の接合跡と、封止体3からの材料の過度の流入を抑えることができる。
【0072】
また、本実施形態の接合工程では、第一移動ルートL1で第四重合部Uを接合する際に、回転ツールFが横架部15に接触せず、封止体3(第二被接合部材)のみに接触している。この場合であっても、一回目の塑性化領域W(Wa)が第四重合部Uに達することで、第四重合部Uを接合することができる。また、塑性化領域Wが第四重合部Uに達していない場合であっても、回転ツールFの作用により、封止体3とジャケット本体2との間で凹凸を形成して嵌合する場合や、封止体3とジャケット本体2との間の酸化被膜が破壊されることで両者の基材が一部混ぜ合わされることによって、圧接することができる。これにより、接合装置(図示省略)に作用する負荷を軽減することができる。
【0073】
また、本実施形態の接合工程では、回転ツールFの挿入深さは、被接合部材を接合可能な範囲で適宜設定すればよいが、第三移動ルートL3において、攪拌ピンF2の先端F2aの高さ位置を第一段差底面12C,12D,12Eと同じ高さに設定し、第二移動ルートL2において、回転ツールFの先端F2aの高さ位置を横架部15の表面(第一底面)15aよりも低く設定した。これにより、第三突合せ重ね部J3での酸化被膜の巻き上がりを防ぐとともに、十分な接合深さを確保することで接合強度の低下を抑えることができる。
【0074】
また、摩擦攪拌接合を行う順番は適宜設定すればよいが、本実施形態では、第四移動ルートL4、第一移動ルートL1、第三移動ルートL3、第二移動ルートL2及び第五移動ルートL5をこの順で摩擦攪拌接合した。このように、第一移動ルートL1(第四重合部U)を摩擦攪拌接合する前に、第四移動ルートL4を摩擦攪拌接合することで、ジャケット本体2に封止体3を仮接合(仮止め)することができる。
【0075】
また、回転ツールFの挿入深さは、被接合部材を接合可能な範囲で適宜設定すればよいが、本実施形態の接合工程では、第三移動ルートL3において、攪拌ピンF2の先端F2aの高さ位置を第一段差底面12C,12D,12Eと同じ高さ位置に設定し、第四移動ルートL4において、攪拌ピンF2の先端F2aの高さ位置を第二段差底面12A,12Bと同じ高さ位置に設定し、第五移動ルートL5において、攪拌ピンF2の先端F2aの高さ位置を第三段差底面12F,12G,12Hと同じ高さ位置に設定し、第二移動ルートL2において、攪拌ピンF2の先端F2aの高さ位置を横架部15の表面(第一底面)15aよりも低く設定した。これにより、各突合せ重ね部での酸化被膜の巻き上がりを防ぐとともに、十分な接合深さを確保することで接合強度の低下を抑えることができる。
【0076】
また、回転ツールFの深さは、被接合部材を接合可能な範囲で適宜設定すればよいが、本実施形態の第四移動ルートL4から第一移動ルートL1に移行する際、及び第二移動ルートL2から第五移動ルートL5に移行する際、回転ツールFを移動させながら回転ツールFの挿入深さを浅くしている。回転ツールFの挿入深さを変化させる際、深くする場合は急激に変化させても問題ないが、浅くする場合は回転ツールFを移動させながら浅くすることで、表面欠陥の生成を抑えることができる。
【0077】
また、本実施形態の接合工程では、第三移動ルートL3、第四移動ルートL4及び第五移動ルートL5において、回転ツールFの回転軸Cが各突合せ部よりもわずかに封止体(第二被接合部材)3側に位置した状態でジャケット本体(第一被接合部材)2と封止体(第二被接合部材)3とを摩擦攪拌接合する。つまり、回転ツールFとジャケット本体2とはわずかに接触させた状態で摩擦攪拌を行うため、ジャケット本体(第一被接合部材)2から封止体(第二被接合部材)3への材料の混入を極力少なくすることができる。これにより、各突合せ部においては主として封止体(第二被接合部材)側の材料が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
【0078】
また、被接合部材の材料は適宜選択すればよいが、本実施形態では、ジャケット本体(第一被接合部材)2は第一アルミニウム合金で形成されており、封止体(第二被接合部材)3は第二アルミニウム合金で形成されており、第一アルミニウム合金は、第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種になっている。仮に、回転ツールFの回転軸Cと各突合せ部とを重ね合わせた状態で摩擦攪拌接合を行うと、各被接合部材から受ける材料抵抗が異なるため、材料が均一に撹拌されず接合不良の原因となることがある。しかし、本実施形態によれば、回転ツールFの回転軸Cが各突合せ部に対して封止体3側に変位しており、攪拌されやすい第二アルミニウム合金を多く巻き込んで摩擦攪拌を行うことができるため、均一な攪拌を行いやすく接合不良を生じさせにくい。
【0079】
また、回転ツールはどのような形態であってもよいが、本実施形態ではショルダ部F1を備えた回転ツールFを用い、ショルダ部F1を被接合部材に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う。これにより、摩擦攪拌接合の際に軟化した塑性流動材を押さえ込むことができ、欠陥の発生を防ぐことができる。
【0080】
[1-4.その他]
上記実施形態では、接合工程において、第四移動ルートL4、第一移動ルートL1、第三移動ルートL3、第二移動ルートL2及び第五移動ルートL5をこの順で摩擦攪拌接合する場合を例示して説明した。接合工程では、少なくとも、第一移動ルートL1で形成された塑性化領域の一部を、第二移動ルートL2を摩擦攪拌して再度塑性流動化すればよい。例えば、第一移動ルートL1で摩擦攪拌を行った後に、回転ツールFを被接合部材から離脱させてから、その後、再度回転ツールFを被接合部材に挿入して、第二移動ルートL2を摩擦攪拌してもよい。
【0081】
上記実施形態では、接合工程において、第四重合部Uを一回目に摩擦攪拌接合する第一移動ルートL1と、第四重合部Uを二回目に摩擦攪拌接合する第二移動ルートL2とを有する場合を例示して説明した。第一移動ルートL1と第二移動ルートL2とにおける被接合部材が接合を受ける部分の構造又は組み合わせ態様は限定されず、例えば、被接合部材が重ね合わせられて形成された重合部であってもよく、被接合部材が突き合わされて形成された突合せ部であってもよく、重ね合わせと突合せとによって形成された突合せ重ね部であってもよい。
【0082】
また、例えば、ジャケット本体2の段差側面13を外側に傾斜させてもよい。また、封止体3の板厚を、段差側面13の高さ寸法よりも大きくしてもよい。これにより、接合部が減肉となるのを防ぐことができる。
【0083】
[2.第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。本実施形態では、ジャケット本体の形状及び接合工程が前記した第一実施形態と相違する。
【0084】
[2-1.被接合部材及び接合体]
図20に示すように、本実施形態に係る液冷ジャケット101は、ジャケット本体102と、封止体103とで構成されている。ジャケット本体(第一被接合部材)102は、底部110と、周壁部111と、支持部118とを備えている。底部110は、矩形を呈する板状部である。周壁部111は、底部110の周縁部から枠状に立ち上がる部位である。底部110及び周壁部111の内側には、中空部となる凹部116が形成されるとともに、上方に開口する開口部117が形成されている。
【0085】
支持部118は、板状を呈し、周壁部111の一の内側面から垂直に張り出している。支持部118は、周壁部111の他の内側面には連結していない。周壁部111の内周縁には、周方向全体に亘って段差部114が形成されている。段差部114は、段差底面112と、段差底面112から立ち上がる段差側面113とで形成されている。段差底面112と、支持部118の表面(第一底面)118aとは面一になっている。
【0086】
封止体(第二被接合部材)103は、矩形状の板状部材である。封止体103は、段差部114の外縁と略同等の形状になっている。封止体103は、表面103a、裏面103b及び側面103cを備えている。
【0087】
[2-2.製造方法]
次に、本実施形態に係る接合体の製造方法(摩擦攪拌接合方法)について説明する。本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、を行う。
【0088】
<準備工程>
準備工程は、ジャケット本体102及び封止体103を準備する工程である。ジャケット本体102及び封止体103は、製造方法については特に制限されないが、ジャケット本体102は、例えば、ダイキャストで成形する。封止体103は、例えば押出成形により成形する。
【0089】
<載置工程>
載置工程は、
図21に示すように、ジャケット本体102に封止体103を載置して、各突合せ部及び重合部を形成する工程である。本実施形態では、突合せ重ね部J11及び重合部U11を形成する。
図22に示すように、突合せ部J11Aは、封止体103の側面103cと、段差側面113とが突き合わされて形成された部位である。突合せ部J11Aは、平面視矩形枠状を呈する。また、重合部J11Bは、段差底面112と封止体103の裏面103bとが重ね合わされて形成された部位である。突合せ部J11Aと重合部J11Bで突合せ重ね部J11が形成されている。周壁部111の端面111aと、封止体103の表面103aは面一になっている。
【0090】
図23に示すように、重合部U11は、支持部118の表面(第一面)118aと、封止体103の裏面103bとが重ね合わされて形成された部位である。重合部U11は、平面視矩形を呈する。
【0091】
<接合工程>
接合工程は、
図24に示すように、回転ツールFを用いてジャケット本体102と封止体103とを摩擦攪拌接合する工程である。接合工程では、回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、突合せ部J11A及び重合部U11に沿って回転ツールFを移動させ、途中で回転ツールFを離脱させずに連続的に摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、開始位置SP11に回転ツールFを挿入した後、重合部U11に沿って移動させ、支持部118の先端に達したら、折り返して再度重合部U11に沿って移動させる。中間位置S11の近傍に達したら、突合せ部J11Aに沿って回転ツールFを右回りに移動させ封止体103の回りを一周させる。中間位置S11を通り過ぎたら終了位置EP11で回転ツールFを離脱させる。
【0092】
より詳しくは、まず、回転ツールFを挿入する開始位置SP11を周壁部111の端面111aに設定する。開始位置SP11は、封止体103の表面103a上に設けてもよい。回転ツールFを開始位置SP11に挿入したら、重合部U11に向けて移動させつつ徐々に深く押し込んでいく。
【0093】
<重合部U11:一回目:第一移動ルートL11>
図25に示すように、一回目の重合部U11では、ショルダ部F1の下端面F1aを封止体103の表面103aに接触させつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが重合部U11に達しないように挿入深さD11を設定する。攪拌ピンF2の先端F2aは支持部118に達していないが、塑性化領域Wが表面118aに達するため、重合部U11を摩擦攪拌接合することができる。また、塑性化領域Wが重合部U11に達していない場合であっても、回転ツールFの作用により、封止体3とジャケット本体2との間で凹凸を形成して嵌合する場合や、封止体3とジャケット本体2との間の酸化被膜が破壊されることで両者の基材が一部混ぜ合わされることによって、圧接することができる。
【0094】
図25に示すように、重合部U11を一回目に摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第一移動ルートL11とすると、第一移動ルートL11は、重合部U11の幅方向の概ね中央に設定している。回転ツールFが重合部U11の先端側に達したら、折り返してそのまま二回目の重合部U11の摩擦攪拌接合に移行する。
【0095】
<重合部U11:二回目:第二移動ルートL12>
図26に示すように、二回目の重合部U11では、ショルダ部F1の下端面F1aを封止体103の表面103aにわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが支持部118(重合部U11)に達するように挿入深さD12を設定する。第一移動ルートL11から第二移動ルートL12に移行する際には、回転ツールFの高さ位置を徐々に下げながら(深くしながら)折り返す。
【0096】
図26に示すように、重合部U11を二回目に摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第二移動ルートL12とすると、第二移動ルートL12は、第一移動ルートL11における回転軸Cの位置を基準としたとき、回転ツールFの進行方向に対して左右方向(ここでは右方向)に若干変位している。これにより、一回目の塑性化領域W(Wa)と、二回目の塑性化領域W(Wb)とは若干ずれて形成される。重合部U11において、第一移動ルートL11(一回目)と第二移動ルートL12(二回目)との変位量P11は適宜設定すればよいが、好ましくは0.1<P11(mm)であり、より好ましくは0.2<P11(mm)であり、さらに好ましくは0.3<P11(mm)であり、好ましくはP11<1.2(mm)であり、より好ましくはP11<1.0(mm)であり、さらに好ましくはP11<0.8(mm)である。
【0097】
また、第二移動ルートL12(二回目)における回転ツールFの挿入深さをD12、第一移動ルートL11(一回目)における回転ツールFの挿入深さをD11とした時に、D12<D11×1.25であることが好ましく、D12<D11×1.20であることがより好ましく、D12<D11×1.15であることがさらに好ましい。挿入深さとは、被接合部材の表面(ここでは、封止体103の表面103a)から攪拌ピンF2の先端F2aまでの距離である。
図24に示すように、回転ツールFが中間位置S11の近傍に達したら、そのまま突合せ重ね部J11の摩擦攪拌接合に移行する。
【0098】
<突合せ重ね部J11:第三移動ルートL13>
図27に示すように、突合せ重ね部J11に達したら、ショルダ部F1の下端面F1aを周壁部111の端面111a及び封止体103の表面103aにわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが段差底面112と同じ高さ位置となるように設定された挿入深さD13まで挿入する。当該挿入深さD13を維持した状態で、回転ツールFを右回りに突合せ部J11Aに沿って移動させることにより、突合せ部J11A及び重合部J11Bが摩擦攪拌接合される。重合部U11から突合せ重ね部J11に移行する際には、回転ツールFを移動させつつ回転ツールFの高さ位置を徐々に上げながら(浅くしながら)摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0099】
回転ツールFの回転軸Cは、突合せ部J11Aと重なるようにしてもよいが、本実施形態では、回転軸Cが突合せ部J11Aよりも内側(封止体103側)となるように変位させつつ摩擦攪拌接合を行う。より詳しくは、
図27に示すように、突合せ重ね部J11を摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを第三移動ルートL13とすると、第三移動ルートL13は、突合せ部J11Aに沿いつつ、突合せ部J11Aの内側に若干変位させた位置に設定している。突合せ部J11Aから第三移動ルートL13までの変位量P12は、好ましくは0.1<P12(mm)であり、より好ましくは0.2<P12(mm)であり、好ましくはP12<0.5(mm)であり、より好ましくはP12<0.4(mm)である。回転ツールFを突合せ重ね部J11に沿って一周させ、中間位置S11を通り越したら、終了位置EP11に向けて移動させつつ徐々に回転ツールFを引き上げていく。終了位置EP11に達したら、周壁部111で回転ツールFを離脱させる。
【0100】
以上説明した本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法によっても第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。支持部118を備えるとともに、支持部118と封止体103とを摩擦攪拌接合することで、液冷ジャケット101の強度を高めることができる。
【0101】
[3.第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。本実施形態では、ジャケット本体の形状及び接合工程が前記した第一実施形態と相違する。
【0102】
[3-1.被接合部材及び接合体]
図28に示すように、本実施形態に係る液冷ジャケット201は、ジャケット本体202と、封止体203,203とで構成されている。ジャケット本体(第一被接合部材)202は、底部210と、周壁部211とを備えている。底部210は、矩形を呈する板状部である。周壁部211は、底部210の周縁部から立ち上がる部位である。周壁部211の内側には、中空部となる凹部216,216が形成されるとともに、上方に開口する開口部217,217がそれぞれ形成されている。凹部216,216は、互いの角部が隣接するように形成されている。
【0103】
凹部216の外周縁には、周方向全体に亘って段差部214が形成されている。段差部214は、段差底面212と、段差底面212から立ち上がる段差側面213とで形成されている。なお、段差部214,214の各部寸法は、互いに同一である。
【0104】
封止体(第二被接合部材)203は、矩形の板状部材である。封止体203は、段差部214の外縁と略同等の形状になっている。封止体203は、表面203a、裏面203b及び側面203cを備えている。
【0105】
[3-2.製造方法]
次に、本実施形態に係る接合体の製造方法(摩擦攪拌接合方法)について説明する。本実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、を行う。
【0106】
<準備工程>
準備工程は、ジャケット本体202及び封止体203を準備する工程である。ジャケット本体202及び封止体203は、製造方法については特に制限されないが、ジャケット本体202は、例えば、ダイキャストで成形する。封止体203は、例えば押出成形により成形する。
【0107】
<載置工程>
載置工程は、
図29に示すように、ジャケット本体202に封止体203を載置して、各突合せ部を形成する工程である。本実施形態では、突合せ重ね部J21,J22を形成する。
図30にも示すように、突合せ重ね部J21は、突合せ部J21Aと、重合部J21Bとで構成されている。突合せ部J21Aは、段差側面213と、封止体3の側面203cとが突き合わされた部位である。重合部J21Bは、段差底面212と、封止体203の裏面203bとが重ね合わされた部位である。突合せ重ね部J21は、平面視矩形を呈する。突合せ重ね部J22は、突合せ重ね部J21と同じであるため詳細な説明は省略する。突合せ重ね部J21,J22の角部は一点(中間位置S21)で接している。
【0108】
<接合工程>
接合工程は、
図30に示すように、回転ツールFを用いてジャケット本体202と封止体203とを摩擦攪拌接合する工程である。接合工程では、回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、一方の突合せ重ね部J21に沿って回転ツールFを移動させ、途中で回転ツールFを離脱させずに連続的に突合せ重ね部J21,J22に摩擦攪拌接合を行う。接合工程では、開始位置SP21に回転ツールFを挿入した後、突合せ部J21Aに沿って移動させ、中間位置S21を経由した後、突合せ重ね部J22に突入する。突合せ部J22Aに沿って回転ツールFを移動させ、再度中間位置S21を経由した後、突合せ重ね部J21において摩擦攪拌接合を行っていない部位を摩擦攪拌接合する。突合せ重ね部J21を全て摩擦攪拌接合したら終了位置EP21で回転ツールFを離脱させる。
【0109】
より詳しくは、まず、回転ツールFを挿入する開始位置SP21を周壁部211の端面211aに設定する。開始位置SP21は、封止体203の表面203a上に設けてもよい。回転ツールFを開始位置SP21に挿入したら、突合せ重ね部J21に向けて移動させつつ徐々に深く押し込んでいく。
【0110】
<突合せ重ね部J21>
図30に示すように、回転ツールFが突合せ重ね部J21に達したらショルダ部F1の下端面F1aを周壁部211の端面211a及び封止体203の表面203aにわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが段差底面212と同じ高さ位置となるように設定された挿入深さD21まで挿入する。当該挿入深さD21を維持した状態で、回転ツールFを右回りに突合せ重ね部J21に沿って移動させることにより、突合せ部J21A及び重合部J21Bが摩擦攪拌接合される。
【0111】
回転ツールFの回転軸Cは、突合せ部J21Aと重なるようにしてもよいが、本実施形態では、回転軸Cが突合せ部J21Aよりも内側(封止体203側)となるように変位させつつ摩擦攪拌接合を行う。より詳しくは、
図30に示すように、突合せ重ね部J21を摩擦攪拌接合する際の回転ツールFの移動ルートを移動ルートL21とすると、移動ルートL21は、突合せ部J21Aに沿いつつ、突合せ部J21Aの内側に若干変位させた位置に設定している。突合せ部J21Aから移動ルートL21までの変位量P21は、好ましくは0.1<P21(mm)であり、より好ましくは0.2<P21(mm)であり、好ましくはP21<0.5(mm)であり、より好ましくはP21<0.4(mm)である。
【0112】
<中間位置S21:一回目>
回転ツールFが中間位置S21の近傍に達したら、回転ツールFの高さ位置は変えずに、挿入深さD21を維持した状態で、中間位置S21を通過して、突合せ重ね部J22の摩擦攪拌接合を行う。
【0113】
<突合せ重ね部J22>
図29に示すように、突合せ重ね部J22においては、回転ツールFを右回りに移動させてジャケット本体202と封止体203との摩擦攪拌接合を行う。突合せ重ね部J22においては、突合せ重ね部J21と同一の要領で摩擦攪拌接合を行う。
【0114】
<中間位置S21:二回目>
図29に示すように、回転ツールFが再度中間位置S21に近づいたら、回転ツールFを徐々に押し込みながら(深くしながら)、引き続き突合せ重ね部J22に沿って回転ツールFを移動させる。
図31に示すように、中間位置S21を通過する時、回転ツールFの挿入量は一回目の摩擦攪拌接合時よりも深い挿入深さD22を設定する。本実施形態では、一回目の塑性化領域W(Wa)よりも、二回目に通過する際に形成された塑性化領域W(Wb)の方が深い位置に形成されるよう挿入深さD22を設定する。
【0115】
<突合せ重ね部J21>
中間位置S21を通過したら、突合せ重ね部J21において摩擦攪拌接合を行っていない部位(3辺分)を摩擦攪拌接合する。つまり、突合せ部J21Aに沿って回転ツールFを左回りに移動させてジャケット本体202と封止体203との摩擦攪拌接合を行う。突合せ重ね部J21の全体を摩擦攪拌接合したら、終了位置EP21に向けて移動させつつ徐々に回転ツールFを引き上げる。終了位置EP21に達したら、回転ツールFを周壁部211から離脱させる。
【0116】
本実施形態のように、突合せ重ね部J21,J22が平面視略∞(略無限大のマーク)を呈するように、一箇所で交差する場合であっても、第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。交差する部分(本実施形態では中間位置S21)を二回目に通過する際には、中間位置S21の手前から徐々に回転ツールFを深くしていき、通過後は、徐々に回転ツールFを上げながら移動させることが好ましい。つまり、回転ツールFの高さ方向の急激な移動を避けることで、欠陥の発生を防ぐことができる。
【0117】
なお、本実施形態では、回転ツールFの回転方向は一定としたが、例えば、ジャケット本体202側が常にフロー側(若しくは、封止体203側が常にフロー側)となるように、突合せ重ね部J21及び突合せ重ね部J22において、回転ツールFの回転方向を互いに逆にしてもよい。
また、本実施形態においては、中間位置S21に開始位置を設定し、中間位置S21から突合せ重ね部J21を時計回りに摩擦攪拌接合し、中間位置S21を通過した後、突合せ重ね部J22を反時計回りに摩擦攪拌接合してもよい。このようにしても、ジャケット本体202側が常にフロー側(若しくは、封止体203側が常にフロー側)とすることができる。換言すると、突合せ重ね部J21及び突合せ重ね部J22において、回転ツールFの進行方向を互いに逆にしてもよい。
【0118】
[4.第一変形例]
次に、前記した実施形態の第一変形例について説明する。本変形例に係る摩擦攪拌接合方法では、
図32に示すように、回転ツールKを用いる点で、前記した実施形態と相違する。
【0119】
回転ツールKは、基部K1と、攪拌ピンK2とを備えている。基部K1は、接合装置(図示省略)の出力軸に連結される部位であって、柱状又は推台状を呈する。攪拌ピンK2は、基部K1の下端面K1aの中央から垂下している。攪拌ピンK2は、基部K1の下端面K1a側を基端として先端側に向かうにつれて縮径する、円錐台状を呈する。攪拌ピンK2の先端K2aは、平坦になっている。攪拌ピンK2の外周面には、高さ方向全体に亘って螺旋溝が形成されている。螺旋溝は右巻き又は左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻き(上方から見て反時計回り)になっている。
【0120】
本変形例の準摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、を行う。準備工程では、封止体303の板厚を、第二段差側面13Aの高さ寸法よりも大きく設定している。載置工程は、前記した実施形態と概ね同一である。
【0121】
本変形例の接合体の接合工程では、
図32に示すように、回転ツールKを右回転させつつ、回転軸Cを第四移動ルートL4に重ね合わせつつ、第二突合せ部J2Aと平行となるように回転ツールKを移動させる。攪拌ピンF2の挿入深さは、適宜設定すればよいが、本変形例では先端K2aが第二段差底面12Aと同じ高さ位置となるように挿入深さD4を設定している。接合工程では、攪拌ピンK2のみを被接合部材(ここではジャケット本体2及び封止体3)に接触させ、攪拌ピンK2の基端側は露出した状態で摩擦攪拌接合を行う。
【0122】
本変形例の回転ツールKであっても、前記した実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、接合工程において攪拌ピンK2のみを被接合部材に接触させ、基部K1を被接合部材に接触させない状態で摩擦攪拌接合を行うため、接合装置に作用する負荷を軽減することができる。
【0123】
[5.第二変形例]
次に、前記した実施形態の第二変形例について説明する。本変形例に係る接合体の製造方法では、
図33に示すように、回転ツールGを用いる点で、前記した実施形態と相違する。
【0124】
回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されており、基部G1と、攪拌ピン(基端側ピンG2及び先端側ピンG3)とで主に構成されている。基部G1は、柱状又は推台状を呈し、接合装置の出力軸に接続される部位である。
【0125】
基端側ピンG2は、基部G1に連続し、先端に向けて先細りになっている。基端側ピンG2は、円錐台形状を呈する。基端側ピンG2のテーパー角度Aは適宜設定すればよいが、例えば、135~160°になっている。テーパー角度Aが135~160°であると、摩擦攪拌後の接合表面粗さを小さくすることができる。
【0126】
テーパー角度Aは、後記する先端側ピンG3のテーパー角度Bよりも大きくなっている。
図34に示すように、基端側ピンG2の外周面には、階段状のピン段差部G21が高さ方向の全体に亘って形成されている。ピン段差部G21は、右巻き又は左巻きで螺旋状に形成されている。つまり、ピン段差部G21は、平面視して螺旋状であり、側面視すると階段状になっている。本変形例では、ピン段差部G21は基端側から先端側に向けて左巻きに設定している。
【0127】
図34に示すように、ピン段差部G21は、段差底面G21aと、段差側面G21bとで構成されている。隣り合うピン段差部G21の各頂点G21c,G21cの距離X1(水平方向距離)は、後記する段差角度M1及び段差側面G21bの高さY1に応じて適宜設定される。
【0128】
段差側面F21bの高さY1は適宜設定すればよいが、例えば、0.1~0.4mmで設定されている。高さY1が0.1mm未満であると接合表面粗さが大きくなる。一方、高さY1が0.4mmを超えると接合表面粗さが大きくなる傾向があるとともに、有効段差部数(被接合金属部材と接触しているピン段差部G21の数)も減少する。
【0129】
段差底面G21aと段差側面G21bとでなす段差角度M1は適宜設定すればよいが、例えば、85~120°で設定されている。段差底面G21aは、本実施形態では水平面(ここでは回転軸Cに対して垂直な面)と平行になっている。段差底面G21aは、回転軸Cから外周方向に向かって水平面に対して-5°~15°内の範囲で傾斜していてもよい(マイナスは水平面に対して下方、プラスは水平面に対して上方)。距離X1、段差側面G21bの高さY1、段差角度M1及び水平面に対する段差底面G21aの角度は、摩擦攪拌を行う際に、塑性流動材がピン段差部G21の内部に滞留して付着することなく外部に抜けるとともに、段差底面G21aで塑性流動材を押えて接合表面粗さを小さくすることができるように適宜設定する。
【0130】
図33に示すように、先端側ピンG3は、基端側ピンG2に連続して形成されている。先端側ピンG3は円錐台形状を呈する。先端側ピンG3の先端G3aは平坦になっている。先端側ピンG3のテーパー角度Bは、基端側ピンG2のテーパー角度Aよりも小さくなっている。
図34に示すように、先端側ピンG3の外周面には、螺旋溝G31が刻設されている。螺旋溝G31は、右巻き、左巻きのどちらでもよいが、本実施形態では左巻きに刻設されている。
【0131】
螺旋溝G31は、螺旋底面G31aと、螺旋側面G31bとで構成されている。隣り合う螺旋溝G31の頂点G31c,G31cの距離(水平方向距離)を長さX2とする。螺旋側面G31bの高さを高さY2とする。螺旋底面G31aと、螺旋側面G31bとで構成される螺旋角度M2は例えば、45~90°で形成されている。螺旋溝G31は、被接合部材と接触することにより摩擦熱を上昇させるとともに、塑性流動材を先端側に導く役割を備えている。螺旋角度M2、長さX2及び高さY2は、適宜設定すればよい。
【0132】
本変形例の摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、載置工程と、接合工程と、を行う。準備工程及び載置工程は、前記した第一実施形態と同一である。
【0133】
接合工程では、
図33に示すように、回転ツールGを右回転(正回転)させつつ、回転軸Cを第四移動ルートL4に重ね合わせつつ、第二突合せ部J2Aと平行になるように回転ツールGを移動させる。接合工程では、基端側ピンG2の外周面を、封止体3の表面3j及び周壁部11の端面11aに接触させつつ、先端側ピンG3の先端が第二段差底面12Aと同じ高さ位置となるようい挿入深さD4を設定する。
【0134】
本変形例の回転ツールGであっても、前記した実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、接合工程において、基端側ピンG2の外周面で塑性流動材を押えることができるため、接合表面に形成される段差凹溝を小さくすることができるとともに、段差凹溝の脇に形成される膨出部を無くすか若しくは小さくすることができる。また、階段状のピン段差部G21は浅く、かつ、出口が広いため、塑性流動材を段差底面G21aで押えつつ塑性流動材がピン段差部G21の外部に抜けやすくなっている。そのため、基端側ピンG2で塑性流動材を押えても基端側ピンG2の外周面に塑性流動材が付着し難い。よって、接合表面粗さを小さくすることができるとともに、接合品質を好適に安定させることができる。
【0135】
また、本実施形態の回転ツールGは、基端側ピンG2と、基端側ピンG2のテーパー角度Aよりもテーパー角度が小さい先端側ピンG3を備えた構成になっている。これにより、ジャケット本体2及び封止体3に回転ツールGを挿入しやすくなる。また、先端側ピンG3のテーパー角度Bが小さいため、第二突合せ部J2Aの深い位置まで回転ツールGを容易に挿入することができる。
【実施例0136】
次に、本発明の効果を確認するために、試験1を行った。試験1は、前記した第一実施形態と同じ要領で摩擦攪拌接合を行った。つまり、
図2等を参照するように、試験1では、第二突合せ重ね部J2(第四移動ルートL4)、第四重合部U(第一移動ルートL1)、第一突合せ重ね部J1(第三移動ルートL3)、第四重合部U(第二移動ルートL2)、第三突合せ重ね部J3(第五移動ルートL5)の順で摩擦攪拌接合を行った。
【0137】
実施例において、回転ツールFのショルダ部F1の外径は11.5mmとし、攪拌ピンF2の長さは3.05mmとした。攪拌ピンF2のテーパー角度は26.4°とした。また、攪拌ピンF2の螺旋溝は左巻きとし、回転ツールFを右回転させて摩擦攪拌接合を行った。
【0138】
実施例の第二突合せ重ね部J2(第四移動ルートL4)においては、挿入深さ(周壁部11の端面11aから攪拌ピンF2の先端F2aまでの距離)を3.4mmに設定した。ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材にわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第二段差底面12Aと同じ高さ位置となるように設定した。
【0139】
実施例の第四重合部U(一回目:第一移動ルートL1)においては、挿入深さを3.2mmに設定した。ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材にわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが横架部15の表面15aよりも上に位置するように設定した。
【0140】
実施例の第一突合せ重ね部J1(第三移動ルートL3)においては、挿入深さを3.4mmに設定した。ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材にわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第一段差底面12Eと同じ高さ位置となるように設定した。
【0141】
実施例の第四重合部U(二回目:第二移動ルートL2)においては、挿入深さを3.7mmに設定した。ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材にわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが横架部15の表面15aよりも下に位置するように設定した。
【0142】
実施例の第三突合せ重ね部J3(第五移動ルートL5)においては、挿入深さを3.4mmに設定した。ショルダ部F1の下端面F1aを被接合部材にわずかに押し込みつつ、攪拌ピンF2の先端F2aが第三段差底面12Gと同じ高さ位置となるように設定した。
【0143】
比較例では、第四重合部Uの一回目と二回目の回転ツールFの高さ位置を同じ高さ位置とした。その他の条件は、実施例と同じである。
【0144】
前記した実施例によれば、二回目の第四重合部Uの摩擦攪拌接合時において、一回目よりも回転ツールFを深く挿入するため、摩擦攪拌接合を二回目に行う際の減肉分を補うことができる。つまり、回転ツールFの移動ルートが重複している場合であっても被接合部材の表面に欠陥の生成を抑えることができた。
【0145】
一方、比較例では、一回目と二回目の回転ツールFの高さ位置を同じ高さとしているため、二回目の摩擦攪拌接合を行う際に塑性流動を行う材料が減り、表面欠陥が発生した。