(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052011
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】環境配慮型樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20240404BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20240404BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20240404BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240404BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K3/20
C08K9/04
C08L23/26
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158438
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】山崎 元
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB01Y
4J002BB031
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB08X
4J002BB09X
4J002BB111
4J002BB151
4J002BB20X
4J002BB21X
4J002DE076
4J002FB086
4J002FD020
4J002FD130
4J002FD206
4J002FD20X
4J002FD20Y
(57)【要約】
【課題】 環境への負荷を抑え、地球温暖化の一因と考えられているCO2の発生を抑止し、又は発生したCO2を吸着するようなカーボンニュートラルに近づけた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン系樹脂(但し相溶化剤に該当するものを除く)と、水酸化マグネシウムと、任意選択的に相溶化剤とを含み、該水酸化マグネシウムの表面が無処理であるか又は水酸化マグネシウムの重量に対して2.5重量%未満の脂肪酸で処理されており、該相溶化剤は、無機化合物と相互作用可能な官能基を含有する樹脂であり、前記ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して水酸化マグネシウムを10~250重量部含み、相溶化剤の量がポリオレフィン系樹脂と該相溶化剤の合計100重量%に対して30重量%以下であり、密度が1.020~1.650g/cm3である、樹脂組成物である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂(但し相溶化剤に該当するものを除く)と、水酸化マグネシウムと、任意選択的に相溶化剤とを含み、
該水酸化マグネシウムの表面が無処理であるか又は水酸化マグネシウムの重量に対して2.5重量%未満の脂肪酸で処理されており、
該相溶化剤は、無機化合物と相互作用可能な官能基を含有する樹脂であり、
前記ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して水酸化マグネシウムを10~250重量部含み、
相溶化剤の量がポリオレフィン系樹脂と該相溶化剤の合計100重量%に対して30重量%以下であり、
密度が1.020~1.650g/cm3である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記相溶化剤が無水マレイン酸変性のポリオレフィン又はエチレン-無水マレイン酸-アクリル酸メチル三元共重合体である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
更に、セルロースを、ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して5重量部以下の量で含む、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
二酸化炭素が飽和した状態の水(23℃)に21日間浸漬したときの重量の増加が1.00重量%以上であり、かつ、湿度93%の二酸化炭素雰囲気(23℃)に21日間静置したときの重量の増加が1.00重量%未満である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された樹脂組成物を用いた、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境配慮型樹脂組成物、特に、ポリオレフィン系樹脂を含み水中で二酸化炭素を吸収する、環境に配慮した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは広範、大量に用いられる樹脂成分であり、現代の産業において切り離して考えることはできないものである。ポリオレフィンを含む樹脂組成物には、難燃性などのポリオレフィンにはない特性を付与する目的で、金属塩などの無機化合物をフィラーとして混錬して用いられることがある(特許文献1、2)。ポリオレフィンは絶縁材料として用いることができるが、電線・ケーブルのような敷設後長期間にわたって使用される用途では、耐用年数を伸ばす目的でホスフィン酸の金属塩を添加した組成物などが検討されている(特許文献3)。
【0003】
一方で昨今、環境保護の意識の高まりと共に、環境問題におけるプラスチックの扱いが注目されている。海洋におけるマイクロプラスチックの浮遊のような環境問題、脱炭素社会を目標にしたCO2発生量の削減は、プラスチックにおける不可避の課題となりつつある。ポリオレフィンは有害ガスの発生がないためポリ塩化ビニルから置き換えが進んでいる材料であるが、焼却時には地球温暖化の一因と考えられているCO2を発生し、比重も軽く海洋で浮遊しやすく表層に残留しやすい。樹脂の持つこのような点は、短期間で環境への影響を与えるため、樹脂製品を処分、分解する際に環境問題を考えたときの弱点となりうる。ポリオレフィンを分解する微生物が見出されるなどしているが、環境への残留を減らし生物への影響を抑えること、また樹脂を炭素の循環サイクルに乗せ、カーボンニュートラルを実現するための手段を確立することは、環境問題の改善に向けた極めて重要な課題である。
またポリオレフィンは基本的に炭素、水素を主要成分とする有機物であるので、無機化合物を混錬するには均一性、物性の維持、改善のために相溶化剤を用いることがある。こうした組成物では樹脂・フィラー界面でなんらかの反応が伴っており、単独の化学物質とは挙動が変わってくることも、樹脂製品の処分、分解プロセスまで含めて樹脂製品を製造にするにあたり、考慮すべき課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-147555号公報
【特許文献2】特開2020-164837号公報
【特許文献3】特開2018-203949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂を利用した成形品は広範、大量に用いられており、そのぶん環境へ与える負荷も大きい。そこで本発明は、環境への負荷を抑え、地球温暖化の一因と考えられているCO2の発生を抑止し、又は発生したCO2を吸着するようなカーボンニュートラルに近づけた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリオレフィンの環境対応を考えるうえで混練した樹脂組成物での挙動を明らかにすることを目的に検討をすすめ、その中でも最適条件を見出すことができ、本発明を完成した。
本発明は、ポリオレフィン系樹脂(但し相溶化剤に該当するものを除く)と、水酸化マグネシウムと、任意選択的に相溶化剤とを含み、該水酸化マグネシウムの表面が無処理であるか又は水酸化マグネシウムの重量に対して2.5重量%未満の脂肪酸で処理されており、該相溶化剤は、無機化合物と相互作用可能な官能基を有する樹脂であり、前記ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して水酸化マグネシウムを10~250重量部含み、相溶化剤の量がポリオレフィン系樹脂と該相溶化剤の合計100重量%中30重量%以下であり、密度が1.020~1.650g/cm3である、樹脂組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境への負荷を抑え、地球温暖化の一因と考えられているCO2の発生を抑止し、又は発生したCO2を吸着するようなカーボンニュートラルに近づけた樹脂組成物を提供することができる。
本発明の組成物は、樹脂の熱分解時に生じる又は環境中の二酸化炭素を水酸化マグネシウムが吸収して地中に豊富に存在する炭酸マグネシウムとなるため、樹脂由来の炭素を二酸化炭素として大気中に放出する量を抑えながら炭素の循環サイクルに乗せることができる。また、組成物の密度が大きいため、万一投棄されたとしても海中に浮遊するといったマイクロプラスチックの問題が発生しないだけでなく、海底で樹脂部分が崩壊して、炭素を炭酸マグネシウムとして循環させることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例4及び21の組成物の21日浸漬前後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂(但し相溶化剤に該当するものを除く)と、水酸化マグネシウムと、任意選択的に相溶化剤とを含み、該水酸化マグネシウムの表面が無処理であるか又は水酸化マグネシウムの重量に対して2.5重量%未満の脂肪酸で処理されており、該相溶化剤は無機化合物と相互作用可能な官能基を有する樹脂であり、前記ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して水酸化マグネシウムを10~250重量部含み、相溶化剤の量がポリオレフィン系樹脂と該相溶化剤の合計100重量%中30重量%以下であり、密度が1.020~1.650g/cm3である、樹脂組成物に関する。以下、本発明の樹脂組成物について、項目ごとに具体的に説明する。
【0010】
[ポリオレフィン系樹脂]
本発明の樹脂組成物には、ポリオレフィン系樹脂が配合される。ポリオレフィン系樹脂の例としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレン系樹脂などの炭素数3以上のα-オレフィンの単独若しくは交互共重合体、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンの共重合体(エチレン-α-オレフィン共重合体)、高圧ラジカル法エチレン(共)重合体、極性基含有オレフィン系共重合体などが挙げられる。ただし、後述する相溶化剤に該当するものは除かれる。
【0011】
ポリオレフィン系樹脂の例としてのポリエチレンには、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンが含まれる。
低密度ポリエチレン樹脂は、密度が0.910~0.935g/cm3、MFRが0.05~100g/10分の範囲のもの、好ましくは、密度が0.915~0.930g/cm3、MFRが0.1~50g/10分の範囲のものが好適に使用される。そのほか、低密度ポリエチレン樹脂として、後周期遷移金属触媒により製造される直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が使用されうる。
中密度ポリエチレン樹脂は、密度が0.935~0.940g/cm3、MFRが0.05~100g/10分の範囲のもの、好ましくは、密度が0.936~0.939g/cm3、MFRが0.1~50g/10分の範囲のものが好適に使用される。
高密度ポリエチレン樹脂は、密度が0.940~0.970g/cm3、MFRが0.05~100g/10分の範囲のもの、好ましくは、密度が0.945~0.960g/cm3、MFRが0.1~50g/10分の範囲のものが好適に使用される。
そのほか、ポリエチレン樹脂としては、イオン重合で製造されるポリエチレン樹脂などを用いることもできる。イオン重合によるポリエチレン樹脂は、文献成書『ポリエチレン技術読本』(松浦一雄・三上尚孝編著 工業調査会刊行 2001年)のp.123~160、p.163~196などに記載されている方法により製造することが可能である。即ち、チーグラー系触媒、シングルサイト系触媒などを使用して、スラリー法、溶液法、気相法の各重合様式にて、各種の、重合器、重合条件、触媒にて製造することが可能である。
【0012】
炭素数3以上のα-オレフィンの単独若しくは交互共重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、例えばプロピレンとエチレンとのブロック共重合体、ランダム共重合体などが挙げられる。
【0013】
高圧ラジカル法エチレン(共)重合体としては、高圧ラジカル重合法によるエチレン単独重合体(低密度ポリエチレン樹脂)及びエチレン・ビニルエステル共重合体などが挙げられ、これら低密度ポリエチレン樹脂などは公知の高圧ラジカル重合法により製造され、チューブラー法とオートクレーブ法のいずれの方法で製造してもよい。
【0014】
極性基含有オレフィン系共重合体としては特に、極性基含有ポリエチレンが好ましい。極性基としては、エステル基又はチオエステル基が挙げられる。具体的な極性基含有オレフィン系共重合体としては、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体を含むポリオレフィンが挙げられる。エチレンとα,β-不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の代表的な共重合体として、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-エチルメタクリレート共重合体などのエチレン-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの二元共重合体が挙げられる。オレフィンに対するその他のコモノマーの含有量は、その他のコモノマーの総量で3~40重量%、好ましくは3~30重量%、より好ましくは5~20重量%の範囲である。このような極性基含有オレフィン系共重合体は、水との親和性が高く水酸化マグネシウムの炭酸塩化に伴う樹脂組成物の崩壊に有利な点で好ましい。
【0015】
エチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンを主成分とし、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。
これらの中でも特に好ましいものとしては、酢酸ビニルを挙げることができる。エチレン50~99.5重量%、ビニルエステル0.5~50重量%、他の共重合可能な不飽和単量体0~49.5重量%からなる共重合体が好ましい。更にビニルエステル含有量は3~30重量%、特に好ましくは5~20重量%の範囲で選択される。
【0016】
[水酸化マグネシウム]
本発明の樹脂組成物は、水酸化マグネシウムを含む。水酸化マグネシウムとしては、樹脂組成物の難燃剤として一般的に使用される水酸化マグネシウムを用いることができる。例えば、海水等から得られる塩化マグネシウムをアルカリ処理して得られる水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム鉱石(マグネサイト)を焼成、水和して得られる水酸化マグネシウム、ブルーサイト鉱石を各種ミルで粉砕・表面処理した水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0017】
本発明の樹脂組成物において水酸化マグネシウムは、樹脂組成物の分解時に発生する又は環境中に存在する二酸化炭素を吸収する役割を果たす。これにより、環境への負荷を抑えて炭素を地球環境に循環させることが期待される。従来、水酸化マグネシウムは白化現象を起こすため見た目の観点などから敬遠される傾向があったが、本発明者らは、水酸化マグネシウムの化学反応が炭素の循環サイクルに利用可能であることを見出し、本発明を完成されるに至った。
【0018】
水酸化マグネシウムは、任意選択的に脂肪酸により処理されていてもよい。脂肪酸処理された水酸化マグネシウムは、例えば、脂肪酸又はその塩で水酸化マグネシウムの粒子を表面処理することにより得られる。表面処理方法としては、例えば、湿式法、乾式法等の公知の方法を用いることができ、特に限定はされないが、湿式法が好ましい。
【0019】
表面処理剤として用いる脂肪酸又はその塩としては、金属水和物の表面処理剤として従来用いられているものの中から適宜選択することができ、特に限定はされない。脂肪酸としては、例えば、炭素数8以上の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を挙げることができ、好ましくは炭素数10~22の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸である。炭素数8以上の飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、炭素数8以上の不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸等が挙げられる。中でも、好ましくは、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘン酸及びリノール酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、ステアリン酸及びオレイン酸から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
脂肪酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、及びカルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩が好ましく用いられ、アルカリ金属塩がより好ましい。脂肪酸及びその塩は、それぞれ1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
脂肪酸処理されている場合の、水酸化マグネシウムにおける脂肪酸の処理量は、脂肪酸処理前の金属水和物100重量%に対し、2.5重量%未満である。上限としては、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下である。下限としては、好ましくは0.3重量%以上である。脂肪酸の処理量が上記範囲内であることにより、良好な機械的特性等が得られやすい。なお、脂肪酸の処理量は、例えばエーテル抽出量等により測定することができる。
【0022】
脂肪酸処理された水酸化マグネシウムとしては、市販品を用いてもよい。脂肪酸処理された水酸化マグネシウムの市販品としては、例えば、協和化学工業社製の商品名キスマ5A、キスマ5AL及びキスマ5B等、神島化学工業社製の商品名マグシーズN-6、マグシーズN-4、マグシーズLN-6及びマグシーズBN-6等を挙げることができる。
【0023】
本発明に使用される金属水和物は、本発明の特性を損なわない範囲で、必要に応じて、未処理又は脂肪酸処理された水酸化マグネシウムとは異なるその他の金属水和物を含有していてもよい。その他の金属水和物としては、脂肪酸以外の処理剤で処理された水酸化マグネシウム、表面処理がされた金属水和物、及び表面処理されていない未処理の金属水和物を挙げることができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物においては、本発明の効果を阻害しない程度において、脂肪酸以外で処理された水酸化マグネシウムを含んでいてもよい。脂肪酸以外での表面処理剤としては、有機シラン、リン酸エステルが挙げられる。脂肪酸以外の表面処理剤として用いる化合物、例えば有機シランやリン酸エステル又はその塩としては、金属水和物の表面処理剤として従来用いられているものの中から適宜選択することができ、特に限定はされない。
【0025】
有機シラン化合物としては、金属の表面処理剤として用いられる公知の化合物を用いることができる。例えば、ケイ素原子に対して炭化水素基が1~3個、アルコキシ基やアルコキシシリル基のような加水分解性基が1~3個、合計4つ結合した化合物、又はこの条件を満たすシラン化合物が部分的に縮合した化合物が挙げられる。また、炭化水素基と加水分解性基を各々少なくとも一つずつ有するオリゴマー状のシラン化合物を用いることもできる。
【0026】
リン酸エステルは、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル又はリン酸トリエステルのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。リン酸エステルとしては、例えば、炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキルリン酸エステル及びアルケニルリン酸エステルを挙げることができる。アルキルリン酸エステル及びアルケニルリン酸エステルにおいて、アルキル基の炭素数及びアルケニル基の炭素数は、10~22であってもよい。アルキル基の炭素数が8以上のアルキルリン酸エステルとしては、例えば、ステアリルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステル、ミリスチルリン酸エステル、パルミチルリン酸エステル等が挙げられる。アルケニル基の炭素数が8以上のアルケニルリン酸エステルとしては、例えば、オレイルリン酸エステル、パルミトレイルリン酸エステル等が挙げられる。
リン酸エステルの塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、及びジエタノールアミン塩等のジアルコールアミン塩が好ましく用いられる。リン酸エステル及びその塩は、それぞれ1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
シラン化合物又はリン酸エステル処理された水酸化マグネシウムは、例えば、シラン化合物又はリン酸エステル又はその塩で水酸化マグネシウムの粒子を表面処理することにより得られる。表面処理方法としては、例えば、脂肪酸処理における表面処理方法と同様の方法を挙げることができる。脂肪酸以外で処理された水酸化マグネシウムは、製造コストの抑制及び炭酸ガス吸収効率を良好に保つ観点から、水酸化マグネシウムの総量に対して10重量%以下の量で含まれていることが好ましい。
【0028】
水酸化マグネシウム以外の金属水和物としては、金属元素と、水酸基又は結晶水の少なくともいずれかとを有する化合物であれば特に限定はされず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの金属水酸化物、及び水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウムなどの珪酸塩の水和物などが挙げられる。
【0029】
金属水和物が上記その他の金属水和物を含有する場合、上記その他の金属水和物の含有量は、本発明の特性を損なわない範囲で調整されればよく、特に限定はされないが、金属水和物の合計100重量%中、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。特に、水酸化カルシウムは強アルカリ性であり作業環境に注意が必要であることから混錬にはあまり適さないこと、水酸化アルミニウムは炭酸塩を形成しても容易に分解してしまうという点が組成物において不利にはたらくことがあり得ることから、上記その他の金属水和物を含有しないことが最も好ましい。
【0030】
また、本発明に使用されるマグネシウムを含む金属水和物の平均粒径は、特に限定はされないが、樹脂組成物の成形加工性及び機械的特性に優れる点から、好ましくは0.1~5.0μmであり、より好ましくは0.5~2.0μmである。
【0031】
[相溶化剤]
本発明において、相溶化剤は、上記ポリオレフィン系樹脂と水酸化マグネシウムとの相溶性を向上する樹脂である。本発明における相溶化剤は、無機化合物、特にマグネシウムと相互作用することが可能な官能基を有する樹脂である。相溶化剤を含有することにより、ポリオレフィン系樹脂と水酸化マグネシウムとの相溶効果が向上し、樹脂組成物の切断時伸び等の機械的特性が向上する。相溶化剤は、以下に例示するものをはじめ、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
上記相溶化剤が有する官能基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、グリシジル基、カルボニル基、アミノ基及びトリクロロシリル基から選ばれる少なくとも1種の官能基であることが、相溶効果が高い点から好ましい。中でも、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の極性基であることがより好ましい。本発明に使用する相溶化剤の具体的な例としては、極性基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂、及び極性基含有三元共重合体(極性基含有ターポリマー)が挙げられる。
【0033】
極性基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂に酸などを作用させてその物性を変化させたものである変性ポリオレフィン系樹脂、特に酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができる。変性ポリオレフィン系樹脂は、樹脂組成物に機械的強度、特に衝撃強度を付与する役割で用いることができる。
【0034】
変性ポリオレフィン系樹脂は、(i)不飽和カルボン酸又はその誘導体、(ii)エポキシ基含有化合物、(iii)ヒドロキシル基含有化合物、(iv)アミノ基含有化合物、(v)有機シラン化合物、(vi)有機チタネート化合物などの官能基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂を挙げることができる。なお、上記極性基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂は、典型的には、単独重合体又はエチレン-α-オレフィン共重合体であるポリオレフィン系樹脂を上記極性基含有化合物で変性した樹脂である。
(i)不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸又は無水物、或いはそれらの金属塩などが挙げられる。
(ii)エポキシ基含有化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル及びα-クロロアリル、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸などのグリシジルエステル類又はビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p-グリシジルスチレンなどが挙げられるが、特に好ましいものとしてはメタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルを挙げることができる。
(iii)ヒドロキシル基含有化合物としては、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(iv)アミノ基含有化合物としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの3級アミノ基が挙げられる。
(v)有機シラン化合物としては、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシランなどが挙げられる。
(vi)有機チタネート化合物としては、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタネート、チタンラクテートアンモニウムなどが挙げられる。
【0035】
変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を官能基含有化合物及び有機過酸化物の存在下で加熱することにより変性して得られる。官能基含有化合物の含有量を所望の範囲、好ましくは0.05~10重量%、より好ましくは0.1~8.0重量%としたもの、又は該変性物を未変性ポリオレフィン系樹脂に混合してその含有量を上記範囲に調整したものが用いられる。
【0036】
変性に用いるポリオレフィン系樹脂のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテンなどのオレフィンが一般的に用いられ、特に種類は制限されないが、エチレンを用いることがより好ましい。変性ポリオレフィン樹脂の例として好ましいものは、酸変性ポリオレフィン樹脂、特に無水マレイン酸で変性させたポリエチレンが挙げられる。
【0037】
<極性基含有ターポリマー>
極性基含有構成単位を含む三元共重合体を相溶化剤として用いることもできる。前記極性基含有三元共重合体において、極性基含有構成単位が含む極性基は、中でも、酸性基が好ましく、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0038】
上記極性基含有三元共重合体としては、中でも、酸性基含有コモノマーと、酸エステル基含有コモノマーと、エチレンとの三元共重合体が好ましい。より具体的には例えば、ラジカル重合性酸コモノマーと、アクリル酸エステルコモノマー、メタクリル酸エステルコモノマー及びカルボン酸ビニルエステルコモノマーから選択される1種のコモノマーと、エチレンとの三元共重合体を好ましく用いることができる。
【0039】
上記ラジカル重合性酸コモノマーとしては、具体的には例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられ、中でも無水マレイン酸が好ましい。
上記アクリル酸エステルコモノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、中でもアクリル酸メチルが好ましい。
上記メタクリル酸エステルコモノマーとしては、具体的には例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、中でもメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
上記カルボン酸ビニルエステルコモノマーとしては、具体的には例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0040】
上記極性基含有三元共重合体の具体例としては、例えば、エチレン-アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸エチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸エチル共重合体等のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体が好ましく、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体がより好ましく、エチレン-アクリル酸アルキルエステル-無水マレイン酸三元共重合体がより更に好ましく、エチレン-アクリル酸メチル-無水マレイン酸三元共重合体が特に好ましい。
【0041】
上記極性基含有三元共重合体において、上記コモノマーの含有量は、三元共重合体中の極性基含有構成単位、すなわち極性基含有コモノマーに由来する構成単位の含有量が5~40重量%となるように調整することが好ましい。極性基含有構成単位の含有量が5重量%未満では、金属水和物との接着性が不十分となるおそれがあり、40重量%を超えると耐久性が低下する傾向がある。また、上記極性基含有三元共重合体においては、酸性基含有コモノマーに由来する構成単位の含有量が、0.05~10重量%であることが好ましく、0.1~8重量%であることがより好ましい。
【0042】
上記極性基含有三元共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、成形方法に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、0.01~100g/10分であることが好ましく、0.02~80g/10分であることがより好ましく、0.05~50g/10分であることがより更に好ましい。上記極性基含有三元共重合体のMFRが0.01g/10分未満では、流動性が低くなって成形が難しくなるおそれがあり、100g/10分を超えると、耐衝撃性又は耐久性が低下するおそれがある。
上記極性基含有三元共重合体は、例えば、チューブラー反応器、オートクレープ反応器等を使用して、高圧ラジカル重合法等により製造してもよいし、或いは、中低圧法で、金属錯体を触媒とし、イオン重合によって製造してもよい。
【0043】
<その他の相溶化剤>
上記相溶化剤は、本発明の特性を損なわない範囲で、上記極性基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂、及び上記極性基含有三元共重合体以外のその他の相溶化剤を更に含有していてもよい。その他の相溶化剤としては、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体及びエチレン-メタクリル酸共重合体を挙げることができる。
上記相溶化剤が上記その他の相溶化剤を含有する場合、上記その他の相溶化剤の含有量は、耐熱性の低下を抑制する点から、相溶化剤の総量100重量%中、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0044】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、必要に応じ、本発明の特性を損なわない範囲で、上記ポリオレフィン系樹脂、水酸化マグネシウム及び相溶化剤以外のその他の成分を更に含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、セルロース、脂肪酸両性金属塩、難燃助剤、安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、加工性改良剤、充填剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、白化防止剤、気泡防止剤、造核剤、着色剤、滑剤、プロセスオイル、シリコーンオイル、カーボンブラック等の各種添加剤及び補助資材を挙げることができる。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、更にセルロースを含有していてもよい。セルロースを含有することにより、マグネシウムが炭酸ガスを吸収する効率が更に向上する。さらに、セルロースは植物中に豊富に存在する成分であるので、環境への負荷を増やすことがない。セルロースを添加する場合のその含有量は、ポリオレフィン系樹脂と相溶化剤の合計100重量部に対して1~20重量部であることが好ましく、3~10重量部であることがより好ましい。1重量部より多く用いることで有意に炭酸ガスの吸収効率を高めることができ、20重量部以下の量で用いることで、コンパウンド時の作業性の向上や臭気の発生の抑制に効果的である。セルロースとしては、天然由来のもの、人工的に合成したもののいずれも用いることができ、セルロース鎖の一部が化学修飾されていてもよい。
【0046】
難燃助剤としては、例えば、赤リン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、リン酸カルシウム、酸化ジルコン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、二硫化モリブデン、粘土、ケイソウ土、カオリナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、ゼオライト、ハイドロマグネサイト、有機ベントナイトなどを挙げることができる。上記難燃助剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記難燃助剤の含有量は、上記金属水和物100重量部に対して50重量部以下とすることが好ましい。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、更にシリコーンオイルを含有していてもよい。シリコーンオイルを含有することにより、樹脂組成物を混練する際に高トルク下で発生するスクリュー鳴き(スクリュー回転に伴う甲高い異音)を抑制し、それにより、樹脂組成物及び混練機へのダメージを抑制することができる。また、シリコーンオイルは難燃助剤としての役割もあることから難燃性の低下を抑制することができる。
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、及びこれらのシリコーンオイルに有機基を導入した変性シリコーンオイルが好適である。
本発明の難燃性樹脂組成物がシリコーンオイルを含有する場合は、ベース樹脂及び相溶化剤の合計100重量部に対し、シリコーンオイルの含有量が0.1~5重量部であることが好ましい。シリコーンオイルの上記含有量が0.1重量部未満では、シリコーンオイルによる効果が得られ難く、5重量部を超えると、加工性に問題が生じる場合がある。
【0048】
また、本発明の樹脂組成物は、例えば有機過酸化物、シラン系架橋剤等の架橋剤、又は架橋助剤を添加することにより架橋させることができる。また、本発明の樹脂組成物は、電離性放射線を照射するなどにより架橋させることもできる。
【0049】
[組成物]
本発明の樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂、水酸化マグネシウム、場合により相溶化剤を含む組成物である。本発明の脂組成物は、前記の各成分を後述する所定の配合割合で、任意の順序にて配合して、一軸押出機、二軸押出機、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーなど通常の混練機を用いて混練、造粒することによって製造することができる。この場合、均一に混合されていることが組成物の分解プロセスを考慮すると望ましいため、各成分の分散を良好にすることができる混練、造粒方法を選択することが好ましく、特に二軸押出機を用いて、混練、造粒することが経済性等の面から好ましい。混練機は異なる混練方法による複数の機械を用いて多段階の混練としてもよい。
【0050】
本発明の樹脂組成物において、上記水酸化マグネシウムの含有量は、ポリオレフィン系樹脂及び相溶化剤の合計100重量部に対して10~250重量部であればよいが、好ましくは50~250重量部であり、より好ましくは70~230重量部であり、さらに好ましくは80~220重量部である。水酸化マグネシウムの含有量が10重量部未満では、十分な炭酸ガス吸収効率が得られないおそれがあり、250重量部を超える場合には材料が脆化し、硬くなり、製品の可撓性や機械的強度が低下する可能性がある。なお、水酸化マグネシウムの含有量は、水酸化マグネシウムの仕込み量から求められる量であってもよい。
【0051】
本発明の樹脂組成物に相溶化剤を用いる場合における、その含有量は、ポリオレフィン系樹脂及び相溶化剤の合計100重量%中1~30重量%であることが好ましく、より好ましくは3~20重量%、更に好ましくは5~18重量%である。上記極性基含有化合物で変性されたポリオレフィン系樹脂の上記含有量が1重量%未満では、相溶効果が十分に発揮されない場合があり、30重量%を超える場合には、炭酸ガスの吸収効率が低下する可能性がある。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、その全体の密度が1.020~1.650g/cm3である。密度が1.030~1.600g/cm3になるようにすることが好ましい。密度が1.020g/cm3以上であれば、海水に対して沈むことが十分に期待される。このため、万一海洋に投棄されたとしても海洋生物等に対する悪影響が小さいだけでなく、海底で埋まった状態での分解も促進される。密度が1.650g/cm3以下であれば、成形品としたときの重量が大きすぎることがないので好ましい。樹脂組成物の密度は、ポリオレフィン系樹脂、水酸化マグネシウム、相溶化剤の配合量を調整することで、調整することができる。
【0053】
<特性>
本発明の樹脂組成物は、空気中では二酸化炭素に対して安定であるが、水と二酸化炭素が豊富な環境(水中)に置かれることで二酸化炭素を吸収し、水酸化マグネシウム部分から崩壊していく。ここで、空気中で安定とは、空気中で組成物中の水酸化マグネシウム二酸化炭素を吸収する量が僅かであることを意味し、より具体的には、湿度93%の二酸化炭素雰囲気(23℃)に21日間静置したときの重量の増加が1.00重量%未満であることを意味する。また、二酸化炭素を吸収する、とは、二酸化炭素が飽和した状態の水(23℃)に21日間浸漬したときの重量の増加が1.00重量%以上であることを意味する。
【0054】
水酸化マグネシウムは水の存在下で二酸化炭素を吸収して炭酸マグネシウムを生成する。炭酸マグネシウムは天然に豊富に存在する無機化合物であって、炭酸マグネシウムの生成は環境へ負荷を与えるものではない。樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂のような有機物は、熱分解により二酸化炭素を生じるが、同じく樹脂組成物に含まれる水酸化マグネシウムが二酸化炭素を吸収しうるので、樹脂組成物を構成する成分の中でカーボンニュートラルを達成しうる。熱分解しない場合でも、例えば自然環境中(水中)では、本発明の樹脂組成物に含まれる水酸化マグネシウムは水中の二酸化炭素によって炭酸マグネシウムになる。このとき樹脂組成物はマグネシウム分の離脱により多孔質となり表面積が増大するため、分解細菌などとの接触で樹脂部分が分解する速度が増大することが期待される。さらに本発明の組成物は二酸化炭素濃度の高い海底に沈降した状態でこのような分解プロセスをとり得る。海洋への投棄を推奨するものではないが、いずれにしても、大気中に二酸化炭素を放出する量を抑えつつ、地球環境へ炭素を循環させることが、本発明の組成物により可能となる。
【0055】
本発明の一態様は、樹脂組成物を用いた成形品である。本発明の樹脂組成物は、押出・射出成形による各種製品、例えば包装用フィルム、食品容器、コンテナー、ケーブルに用いることができるが、本発明の趣旨からすればその用途は特に限定されるものではないことが当業者には理解される。
【実施例0056】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例及び比較例で用いたものは、以下のとおりである。
<使用原料・薬剤>
EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体) (日本ポリエチレン製 A1150)
EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体) (旭化成製 EF1510)
LDPE(低密度ポリエチレン) (日本ポリエチレン製 LD100)
LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン) (日本ポリエチレン製 UF240)
HDPE(高密度ポリエチレン) (日本ポリエチレン製 HD322W)
PP(ポリプロピレン) (日本ポリプロ製 BC6DRF)
無水マレイン酸変性LLDPE (日本ポリエチレン製 L6100M)
エチレン-無水マレイン酸-アクリル酸メチル三元共重合体 (日本ポリエチレン製 ET220X)
セルロース(平均粒子径 約32μm) (日本製紙社製 W-200Y)
水酸化マグネシウム (平均粒子径 約1μm) (協和化学工業社製 キスマ5)
水酸化マグネシウムは、120℃に加温して脂肪酸とともにミキサー処理を行った。ステアリン酸の量は処理量が0~10,0wt%、オレイン酸の量は処理量が2wt%となるように添加した。
水酸化マグネシウム (平均粒子径 約1μm、3.5%リン酸エステル処理) (協和化学工業社製 キスマ5J)
フェノール系酸化防止剤 (BASF社製 イルガノックス1010)
【0058】
<実施例1~7、比較例1~7:樹脂組成物、試験サンプルの調製>
樹脂部分と酸化防止剤などの添加剤、水酸化マグネシウムをミキサー(東洋精機製作所製ラボプラストミル)で溶融・混練し、樹脂組成物を得た。樹脂組成物を180℃でプレスし厚さ1mmのシートを得た。シートから引張試験用にJISK6251 5号試験片、及び炭酸ガスによる重量変化測定用に60mm四方に切り出した試験片を作成、また海水への浮沈確認用のサンプルを4mmφのポンチで打ち抜いて作成した。樹脂組成物を構成する成分の種類及び配合は、表1に示すとおりである。
【0059】
<水に対する浮沈試験>
2Lのイオン交換水に市販の海水天日干しの天然塩(NaCl 92%)を3.4wt%溶解させ人工海水とした。この人工海水を5Lのビーカー(直径15cm)に入れ撹拌子を回して流速を付与、ビーカー最外周部で1kt(≒0.5m/s)となるようにした。海流の速度は潮流の速い地域を除けば概ね0.5~1kt程度であり、これにより、海洋環境を再現している。このとき最外周のビーカー底面からの水面高は130mmHとなった。これに各サンプルを投入し最外周部での浮沈を目視及び水面から沈んだ深さで確認した。試験片の沈降が確認されたとき、判定を良好とした。
【0060】
<炭酸ガス吸収重量増の測定方法(水浴法)>
60mm四方、1mm厚のサンプルシートの重量(a)を測定する。シャーレに前記サンプルシートを置いて重量(b)を測定する。次いでシャーレにイオン交換水を張りチャンバー内に入れ、チャンバーに炭酸ガスを導入し、全置換後に50ml/minで炭酸ガスを流し続ける。一定期間(21日)後にチャンバーからシャーレごとサンプルを取り出し、80℃のオーブンで24時間水分除去・乾燥する。乾燥後のシャーレ・サンプル重量(c)を測定し、炭酸ガス吸収重量増(wt%)を、(c-b)×100/aとして算出する。
【0061】
<炭酸ガス吸収重量増(空浴法)>
(A:乾燥状態での試験)
吸排気のライン、および温湿度計をつけたデシケータ下部にシリカゲルを敷いて、吊り下げ用ハンガーに60mm四方、1mm厚のサンプルを事前に重量(a)を測定して吊り下げる。デシケータ内を炭酸ガスで全置換後50ml/minで炭酸ガスを流し続ける。一定期間(21日)後デシケータからサンプルを取り出し、80℃のオーブンで24時間水分除去・乾燥後、サンプル重量(b)を測定し、炭酸ガス吸収重量増(wt%)を、(b-a)×100/aとして算出する。
(B:多湿状態での試験)
吸排気のライン、および温湿度計をつけたデシケータ下部に水を張り、吸入ラインからチューブを介して炭酸ガスを水中にバブリングする。吊り下げ用ハンガーに60mm四方、1mm厚のサンプルを事前に重量(a)を測定して吊り下げる。温湿度計のプローブはサンプル近傍に設置し、デシケータ内を炭酸ガスで全置換後50ml/minで炭酸ガスを流し続ける。一定期間(21日)後デシケータからサンプルを取り出し、80℃のオーブンで24時間水分除去・乾燥後、サンプル重量(b)を測定し、炭酸ガス吸収重量増(wt%)を、(b-a)×100/aとして算出する。
炭酸ガスで飽和した状態で行われる上記試験において、21日間での炭酸ガス吸収による重量増加量として1重量%を判定基準とした。重量増加が1重量%以上であるとき、判定を良好(〇)とした。水浴法において重量増加が1重量%以上であると、海水中に5年(1825日)置かれることで炭酸ガスの吸収がほぼ完了する(水酸化マグネシウムが全て炭酸マグネシウムになる)と算定される。
【0062】
<引張強度>
JIS C3605(2022)に準じ、ポリエチレンコンパウンド品の強度規格に準じて10MPaを判定基準とした。引張強度が10MPa以上であるとき、判定を良好(〇)とした。
【0063】
実施例1~7、比較例1~7の各組成物における、浮沈試験、炭酸ガス吸収重量増加、引張強度の試験結果を、以下の表1に示す。浮沈試験、引張強度、炭酸ガス吸収量のいずれもが良好であるとき、総合判定を〇とした。
【0064】
【0065】
表1が示すように、ポリオレフィン系樹脂の種類によらず、水酸化マグネシウムの添加により水中での1重量%以上の炭酸ガス吸収が起きる。水酸化マグネシウムを添加していない比較例1~7では、炭酸ガス吸収による重量増加は見られなかった。比較例で僅かに重量が減少することがあるのは、誤差、乾燥時のベース樹脂の添加剤や揮発分が昇華したことなどが考えられる。また、実施例の樹脂組成物は、従来の樹脂組成物と同様の強度を有しており、従来の樹脂組成物と同じように利用することが可能である。
【0066】
<実施例8~11>
ステアリン酸で処理された水酸化マグネシウムの量を表2記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、マグネシウム含有量の異なる組成物を調製した(実施例8~11)。実施例8~11の組成物における各種試験の結果を、類似する配合である実施例1、比較例7とともに、表2に示す。表2からは、水酸化マグネシウムの量に比例して炭酸ガスの吸収量も増加することがわかる。
【0067】
【0068】
<実施例11~15>
水酸化マグネシウムの表面処理を行うステアリン酸の量を表3記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、マグネシウム含有量の異なる組成物を調製した(実施例12~14)。また、ステアリン酸に代えて2重量%のオレイン酸を用いて水酸化マグネシウムの表面処理を行い、同様の組成物を調製した(実施例15)。実施例11~15の組成物における各種試験の結果を、表面処理を行うステアリン酸の量を増やした配合である比較例8~10、またリン酸エステルを用いた比較例11とともに、表3に示す。
【0069】
【0070】
脂肪酸の表面処理量を2.5重量%未満とすることで、炭酸ガスの吸収量が大きく、効率よく水酸化マグネシウムをMgCO3へ変換できていることが分かる。脂肪酸処理量の2.5重量%以上の場合は、脂肪酸が水酸化マグネシウム表面と水分との接触を抑え込んでいるため、重量増加が抑えられている。リン酸エステル処理はMgCO3への変換効率が遅い。化学的に水酸化マグネシウム表面を保護していると考えられるため、リン酸エステルを用いて処理すると炭酸ガスの吸収効率が高くはならなかった(比較例11)。
【0071】
<実施例16~20>
相溶化剤の量、種類を表4のように変更した以外は実施例1と同様に組成物を調製した。各種試験の結果を合わせて表4に示す。
【0072】
【0073】
表4からは、相溶化剤の量が増えると強度は増すが炭酸ガス吸収量は減る傾向があることがわかる。相溶化剤の量が大きくなると、水酸化マグネシウム表面に存在する相溶化剤が水分との接触を抑え込む程度が強くなることを示唆している。
【0074】
<実施例21、22>
セルロースを更に添加すること以外は実施例4、5と同様の配合で、組成物を調製した(実施例21、22)。各種試験の結果を表5に示すが、セルロースを添加することで炭酸マグネシウムへの移行が促進されることがわかる。これはセルロースが試験片の厚み方向への導水路の役割を果たしており、内部まで炭酸ガスの吸収が進行しやすくなっているためと推察される。
【0075】
【0076】
<実施例23:空浴法による炭酸ガス吸収量の測定>
上記<炭酸ガス吸収重量増(空浴法)>にしたがって、実施例1の組成物に対して炭酸ガス吸収量を測定した。結果を表6に示す。表6から、水中へ浸漬させた方が圧倒的に炭酸ガス吸収は多くなる一方で、大気中で使用しているうちは炭酸ガスの吸収は抑えられていることがわかる。このことから、本発明の組成物は結露が生じない限りプラスチック成型品に損傷が少なく使用することができ、水に直接触れた状態になると炭酸ガス吸収による損傷・崩壊が進むことが期待される。
【0077】
【0078】
<SEMによる微細構造の観察>
実施例4及び21の組成物について、浸漬試験前後でのSEM写真を撮影した(
図1)。試験前のサンプル表層はマトリックスの樹脂と水酸化マグネシウムが密になっており隙間などがみられない。試験後は試験片表層の水酸化マグネシウムの抜けが発生しているようで穴が開いた多孔質な状態になっている。更にセルロースを添加した系では繊維状のものが残っているようにも見られ穴あきが目立つ。近年、ポリオレフィンを分解するような細菌も見つかっており、サンプルが一度海底まで沈んで土砂をかぶれば、サンプルの多孔質化による表面積増大によりこうした細菌による樹脂部分の分解加速が期待できる。また水酸化マグネシウムが炭酸マグネシウムとなって組成物から抜けだすことで、海面まで再浮遊しても紫外線による樹脂部分の崩壊加速が期待される。
本発明の樹脂組成物は、従来の樹脂と同様に利用することができ、かつ、処分時に発生する又は環境中の二酸化炭素を吸収することで、環境への負荷を低減することができる。このため、本発明の樹脂組成物は、オレフィン系樹脂の各種成型品に対して利用可能である。