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特開2024-52022マイクロウェルアレイ,その製造方法,及び単一細胞由来エクソソームの解析方法
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  • 特開-マイクロウェルアレイ,その製造方法,及び単一細胞由来エクソソームの解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052022
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】マイクロウェルアレイ,その製造方法,及び単一細胞由来エクソソームの解析方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240404BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158454
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】尾上 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】山形 智咲
(72)【発明者】
【氏名】板井 駿
(72)【発明者】
【氏名】倉科 佑太
(72)【発明者】
【氏名】星野 歩子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA09
4B029AA21
4B029BB01
4B029CC02
4B029GA03
4B063QQ05
4B063QQ20
4B063QS10
4B063QS12
4B063QS39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞接着性と特有の物質透過性とを有するマイクロウェルアレイ,その製造方法,およびそのようなマイクロウェルアレイを用いた単一細胞由来エクソソームの解析方法を提供する。
【解決手段】ゲル本体を含むマイクロウェルアレイ1であって,ゲル本体は,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩を有するマイクロウェルアレイ,及びマイクロウェルアレイを培地5に設置する培地設置工程と,マイクロウェルアレイにおけるマイクロウェルに細胞9を含む液を滴下する細胞滴下工程と,細胞が滴下されたマイクロウェルを,培地と混ざらない液体で覆う工程と,細胞を培養する培養工程と,培養工程の後にマイクロウェルからエクソソーム11を回収する工程と,回収されたエクソソームを解析する工程とを含む解析方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル本体を含むマイクロウェルアレイであって,
前記ゲル本体は,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩を有するマイクロウェルアレイ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
前記ゲル本体は,メッシュサイズが0.1nm以上40nm以下の網目構造を有する,マイクロウェルアレイ。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
前記ゲル本体は,メッシュサイズが1nm以上20nm以下の網目構造を有する,マイクロウェルアレイ。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
各ウェルの直径をd[m]とし,各ウェルの中心間の距離をw[m]としたときに,
10μm≦d≦5cmであり,0.5d≦w≦2dである,マイクロウェルアレイ。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
前記細胞結合性修飾は,アミノ酸残基による修飾である,マイクロウェルアレイ。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
前記ゲル形成組成物又はその塩は,アルギン酸又はその塩である,マイクロウェルアレイ。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイであって,
前記細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩は,
アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド修飾アルギン酸カルシウムゲルを含むマイクロウェルアレイ。
【請求項8】
請求項1に記載のマイクロウェルアレイの製造方法であって,
鋳型上の前記細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物のナトリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えることにより前記鋳型上にゲルを形成する工程と,
前記鋳型を取り外す工程とを含む,方法。
【請求項9】
エクソソームの解析方法であって,
請求項1に記載のマイクロウェルアレイを培地に設置する培地設置工程と,
前記マイクロウェルアレイにおけるマイクロウェルに細胞を含む液を滴下する細胞滴下工程と,
前記細胞が滴下されたマイクロウェルを,前記培地と混ざらない液体で覆う工程と,
前記細胞を培養する培養工程と,
前記培養工程の後に前記マイクロウェルからエクソソームを回収する工程と,
回収された前記エクソソームを解析する工程とを含む
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,マイクロウェルアレイ,その製造方法,及び単一細胞由来エクソソームの解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-72476号公報には,マイクロウェルアレイが記載されている。このようにマイクロウェルアレイは公知である。マイクロウェルアレイは,ウェルに収容した対象細胞を観測するために用いられる。
【0003】
細胞を培養した後に,細胞から放出されるエクソソームを回収できるマイクロウェルアレイが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-72476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,細胞接着性と特有の物質透過性とを有するマイクロウェルアレイを提供することを目的とする。
【0006】
この発明は,細胞培養後に培養系から放出される物質(例えばエクソソーム)を回収できるマイクロウェルアレイを提供することを目的とする。
【0007】
この発明は,そのようなマイクロウェルアレイを製造する方法や,そのようなマイクロウェルアレイを用いた単一細胞由来エクソソームの解析方法を提供することを目的とする。
【0008】
この発明は,上記の課題の何れかを解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,基本的には,マイクロウェルアレイの本体に,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩を有するゲルを用いることで,マイクロウェルアレイが,細胞接着性を担保するとともに,細胞を培養するために必要な物質を透過できるという実施例による知見に基づく。このため,このマイクロウェルアレイは,培地と接した状態で使用されることが好ましい。このため,マイクロウェルアレイデバイスは,培地を収容できる培地収容部をさらに有することが好ましい。
【0010】
この発明のマイクロウェルアレイは,ゲル本体を含む。そして,ゲル本体は,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩を有する。このような修飾を有するので,この発明のマイクロウェルアレイは,細胞結合性を有する。細胞結合性修飾の例は,アミノ酸残基による修飾である。また,ゲル形成組成物又はその塩の例は,アルギン酸又はその塩である。具体的な,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩は,アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド修飾アルギン酸カルシウムゲルである。
【0011】
物質の透過性の観点から,ゲル本体は,メッシュサイズが0.1nm以上40nm以下の網目構造を有するものが好ましく,メッシュサイズが1nm以上20nm以下の網目構造を有するものがより好ましい。
【0012】
各ウェルの直径をd[m]とし,各ウェルの中心間の距離をw[m]としたときに,
10μm≦d≦1cmであり,0.5d≦w≦2dであることが好ましい。このようなサイズであれば,単一細胞由来エクソソームの解析といった用途に好ましく利用できる。
【0013】
この発明のマイクロウェルアレイは,鋳型上の細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物のナトリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えることにより鋳型上にゲルを形成する工程と,鋳型を取り外す工程とを含む方法により,製造できる。
【0014】
この発明のエクソソームの解析方法は,培地設置工程と,細胞滴下工程と,ウェル被覆工程と,培養工程と,エクソソーム回収工程と,エクソソームの解析工程とを含む。
培地設置工程は,上記したマイクロウェルアレイを培地に設置する工程である,
細胞滴下工程は,マイクロウェルアレイにおけるマイクロウェルに細胞を含む液を滴下する工程である。
ウェル被覆工程は,細胞が滴下されたマイクロウェルを培地と混ざらない液体(例えばミネラルオイル)で覆う工程である。
培養工程は,細胞を培養する工程である。
エクソソーム回収工程は,培養工程の後にマイクロウェルからエクソソームを回収する工程である。
エクソソームの解析工程は,回収されたエクソソームを解析する工程である。
【発明の効果】
【0015】
この発明は,細胞接着性と特有の物質透過性とを有するマイクロウェルアレイを提供できる。
【0016】
この発明は,細胞培養後に培養系から放出される物質(例えばエクソソーム)を回収できるマイクロウェルアレイを提供できる。
【0017】
この発明は,そのようなマイクロウェルアレイを製造する方法や,そのようなマイクロウェルアレイを用いた単一細胞由来エクソソームの解析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は,この発明のマイクロウェルアレイの例を説明するための概念図である。
図2図2は,各製造工程の概念図である。
図3図3は,得られたマイクロウェルアレイデバイスを示す図面に代わる写真である。右図は左図の部分拡大図である。
図4図4は,細胞をマイクロウェルアレイに入れミネラルオイルで封をした工程を示す概念図及び図面に代わる写真である。図4(a)は,得られたマイクロウェルアレイデバイスを培地に1日浸した様子を示す。図4(b)は,細胞と同種の細胞の培養で使用した培地の上澄み液を用いて調製した様子を示す。図4(c)は,ミネラルオイルを用いてマイクロウェルを被覆した様子を示す。図4(d)は,得られたマイクロウェルアレイの図面に代わる写真である。
図5図5は,細胞の接着性を示す図面に代わる顕微鏡写真である。
図6図6は,細胞増殖の様子を示す図面に代わる写真と表である。図6(a)及び図6(b)は細胞懸濁液中の細胞濃度を変化させたものである。図6(c)は,結果をまとめた表である。
図7図7は,粒子透過性の検証結果を示す図面に代わる写真及びグラフである。図7(a)は,粒子透過性をまとめたものである。図7(b)は,フルオロセイン,イソシアネート及びデキストランの蛍光強度を示すグラフである。縦軸は蛍光強度を示し,横軸は波数を示す。図7(c)は,蛍光標識エクソソームの蛍光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0020】
マイクロウェルアレイは,例えば特開2017-72476号公報や特開2005-253412号公報に記載されているように公知である。またマイクロウェルアレイの製造方法や使用方法も,これらの公報に記載あれるように公知である。マイクロウェルアレイは,複数の微小なウェル(マイクロウェル)を等間隔に有する装置であり,対象となる核酸などを検出する際に用いることができる。マイクロウェルアレイは,マイクロウェルアレイチップともよばれる。
【0021】
図1は,この発明のマイクロウェルアレイの例を説明するための概念図である。図1に示す例では,マイクロウェルアレイ1は,複数のウェル3(図1では3つのウェルの断面が記載されている)を有し,各ウェルは培地5と接している。ウェル3の壁を介して,培地5がウェル3内に移動できる。そして,各ウェル3は,ウェル上のオイル7(例えばミネラルオイル)により,覆われている。培地が,各ウェルの壁を介して,移動できるので,ウェル内に培地が供給され,培地内で発生した不要な物質も培地へと排出される。一方,ウェル内の細胞9は,ウェルの内壁に接着する。細胞9は,培地側へ移動しないし,他のウェル3にも移動しない。ウェル3の培地には,細胞を培養したことによる培養上清が生じ,その培養上清にはエクソソーム11が含まれる。培養が終わった後には,右のウェルに概念的に記載されるように,マイクロキャピラリーでウェル内の内容物(培養上清やエクソソームを含む)を回収できるようにされる。エクソソームは,ウェルの壁を通過できないので,隣接するウェルに移動したり,培地に移動したりはしない。
【0022】
この発明のマイクロウェルアレイは,基板となるゲル本体を含む。マイクロウェルアレイは,複数のマイクロウェルを有する本体部分があり,その本体部分がゲルにより形成されている。この部分がゲル本体である。ゲル本体の表面には,複数の窪みが存在し,それぞれの窪みがマイクロウェルを構成する。
【0023】
本発明のマイクロウェルアレイは,基板上に複数個のマイクロウェルを有し,1つのマイクロウェルの寸法及びマイクロウェルには特に制限はない。マイクロウェルの形状は,例えば,円筒形であることができ,円筒形以外に,直方体,逆円錐形,逆角錐形(逆三角錐形,逆四角錐形,逆五角錐形,逆六角錐形,七角以上の逆多角錐形)等であることもでき,これらの形状の二つ以上を組み合わせた形状であることもできる。例えば,一部が円筒形であり,残りが逆円錐形であることができる。また,逆円錐形,逆角錐形の場合,底面がマイクロウェルの開口となるが,逆円錐形,逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状である(その場合,マイクロウェルの底部は平坦になる)こともできる。円筒形,直方体の場合は,マイクロウェルの底部は通常,平坦であるが,曲面(凸面や凹面)とすることもできる。マイクロウェルの底部を曲面とすることができるのは,逆円錐形,逆角錐形の頂上から一部を切り取った形状の場合も同様である。
【0024】
マイクロウェルの形状や寸法は,マイクロウェルに格納されるべき非検体の種類や量を考慮して,適宜決定される。マイクロウェルに格納されるべき非検体としては,例えば,動物細胞,酵母細胞または細菌細胞を挙げることができ,さらに動物細胞としては,リンパ球,単球,及び顆粒球のような血液細胞,肝臓や神経などの組織由来の初代もしくは継代培養細胞を挙げることができる。もっとも,この発明では,各ウェルにおいて細胞を培養しつつ,エクソソームを回収できることが好ましい。
【0025】
1つのマイクロウェルに1つの被検体が格納されるようにする場合,被検体の種類(リンパ球の形状や寸法等)を考慮して,マイクロウェルの形状及び寸法を適宜決定すればよい。 各ウェルの直径をd[m]とし,各ウェルの中心間の距離をw[m]としたときに, 10μm≦d≦5cmであり,0.5d≦w≦2dであることが好ましい。このようなサイズであれば,単一細胞由来エクソソームの解析といった用途に好ましく利用できる。10μm≦d≦1.5cmでもよいし,10μm≦d≦1cmでもよいし,100μm≦d≦800μmでもよいし,100μm≦d≦500μmでもよい。0.5d≦w≦1.5dでもよいし,0.5d≦w≦1.4dでもよいし,0.7d≦w≦1.5dでもよいし,0.8d≦w≦1.5dでもよい。ウェルサイズは公知の方法(例えば,対応する鋳型の形状を調整する方法)により,調整できる。
【0026】
1つのマイクロウェルアレイが有するマイクロウェルの数n[個]は,特に制限はない。nは,用途などに応じて適宜調整すればよい。10≦n≦10でもよいし,10≦n≦10でもよいし,10≦n≦10でもよいし,10≦n≦10でもよいし,10≦n≦10でもよいし,10≦n≦10でもよい。
【0027】
そして,ゲル本体は,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩を有する。このような修飾を有するので,この発明のマイクロウェルアレイは,細胞結合性を有する。細胞結合性は,後述する実施例に記載された方法により評価できる。細胞結合性修飾の例は,アミノ酸残基による修飾である。ゲル形成組成物は,ゲルを形成できる化合物であればよい。ゲル形成組成物の例は,多糖類である。ゲル形成組成物は,例えば特表2022-517722号公報,特表2021-528138号公報,再表2019/182099号公報,及び再表2019/167727号公報に記載される通り公知である。この化合物における官能基が,細胞結合性のある基により修飾されたものが,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物である。その塩は,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物の塩である。ゲル形成組成物又はその塩の具体例は,アルギン酸又はその塩である。具体的な,細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩は,アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド修飾アルギン酸カルシウムゲルである。アミノ酸残基の例は,疎水性(非極性とも言う)アミノ酸,親水性(極性とも言う)アミノ酸及び中性アミノ酸のいずれであってもよく,これらが1種又は2種以上修飾されていることが好ましい。複数種類の修飾がなされると様々なアミノ酸やペプチドを結合できることとなる。アルギニンは,親水性アミノ酸のうち塩基性アミノ酸であり,グリシンは疎水性アミノ酸であり,アスパラギン酸は,親水性アミノ酸のうち酸性アミノ酸である。このように性質の違うアミノ酸残基によりゲル形成組成物が修飾されることで,様々なアミノ酸やペプチドを結合できることとなる。
【0028】
疎水性(非極性とも言う)アミノ酸は,疎水性(非極性)を示すアミノ酸であって,アラニン(「Ala」又は単に「A」とも記す),グリシン(「Gly」又は単に「G」とも記す),バリン(「Val」又は単に「V」とも記す),ロイシン(「Leu」又は単に「L」とも記す),イソロイシン(「Ile」又は単に「I」とも記す),プロリン(「Pro」又は単に「P」とも記す),フェニルアラニン(「Phe」又は単に「F」とも記す),トリプトファン(「Trp」又は単に「W」とも記す),チロシン(「Tyr」又は単に「Y」とも記す),メチオニン(「Met」又は単に「M」とも記す)を含む。
なお,疎水性アミノ酸はさらに以下のグループに分けることもできる。
脂肪族アミノ酸:側鎖に脂肪酸又は水素を有するアミノ酸であって,Ala,Gly,Val,Ile,Leuを含む。
脂肪族・分岐鎖アミノ酸:側鎖に分岐型脂肪酸を有するアミノ酸であって,Val,Ile,Leuを含む。
芳香族アミノ酸:側鎖に芳香環を有するアミノ酸であって,Trp,Tyr,Pheを含む。
【0029】
親水性(極性とも言う)アミノ酸:親水性(極性)を示すアミノ酸であって,セリン(「Ser」又は単に「S」とも記す),スレオニン(「Thr」又は単に「T」とも記す),システイン(「Cys」又は単に「C」とも記す),アスパラギン(「Asn」又は単に「N」とも記す),グルタミン(「Gln」又は単に「Q」とも記す),アスパラギン酸(「Asp」又は単に「D」とも記す),グルタミン酸(「Glu」又は単に「E」とも記す),リジン(リシンとも記す。「Lys」又は単に「K」とも記す),アルギニン(「Arg」又は単に「R」とも記す),ヒスチジン(「His」又は単に「H」とも記す)を含む。
なお,親水性アミノ酸はさらに以下のグループに分けることもできる。
酸性アミノ酸:側鎖が酸性を示すアミノ酸であって,Asp,Gluを含む。
塩基性アミノ酸:側鎖が塩基性を示すアミノ酸であって,Lys,Arg,Hisを含む。
【0030】
中性アミノ酸:側鎖が中性を示すアミノ酸であって,Ser,Thr,Asn,Gln,Cysを含む。また,Gly及びProについては,「主鎖の方角に影響を与えるアミノ酸」に分けることもでき,側鎖に硫黄分子を含むアミノ酸,Cys及びMetは,「含硫アミノ酸」に分けることもできる。
【0031】
アルギン酸は,生分解性の高分子多糖類であって,D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には,D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分),L-グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分),およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は,主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり,また,その生物の生育場所や季節による影響を受け,M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
【0032】
細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物の塩における塩の例は,塩酸塩,臭化水素酸塩,硝酸塩,硫酸塩,リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩,シュウ酸塩,マレイン酸塩,フマル酸塩,クエン酸塩,安息香酸塩,メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩,カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩,カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;亜鉛塩;アンモニウム塩,テトラメチルアンモニウム塩;モルホリン,ピペリジン,リジン,グリシン,フェニルアラニン,アスパラギン酸,グルタミン酸等の付加塩である。
【0033】
重量平均分子量Mw
細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物又はその塩の重量平均分子量Mwは,ゲルを形成でき,ある程度の粒子透過性や硬度を維持できればよい。分子量が低すぎると粘度が低くなり,分子量が高すぎるものは製造が困難であるとともに,溶液状にした際に粘度が高すぎて取扱いが悪くなる,長期間の保存で物性を維持しにくい等の問題を生じる。1×10≦Mw≦1×1010でもよいし,1×10≦Mw≦1×1010でもよいし,1×10≦Mw≦1×1010でもよいし,1×10≦Mw≦1×10でもよいし,1×10≦Mw≦1×10でもよいし,1×10≦Mw≦1×10でもよい。重量平均分子量Mwは,ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)又はゲルろ過クロマトグラフィー(これらを合わせてサイズ排除クロマトグラフィーともいう)により測定すればよい。
【0034】
物質の透過性の観点から,ゲル本体は,メッシュサイズが0.1nm以上40nm以下の網目構造を有するものが好ましく,メッシュサイズが1nm以上20nm以下の網目構造を有するものがより好ましい。この孔径分布は,メッシュサイズの測定はTEMにより行える。メッシュサイズは多孔質における孔径(特にメソ孔)を意味する。後述する文献や,JIS Z8831-2:2010(粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性-第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法)に基づいて測定してもよい。
【0035】
先に説明した通り,マイクロウェルアレイの製造方法は,公知である。この発明のマイクロウェルアレイは,鋳型上の細胞結合性修飾を含むゲル形成組成物のナトリウム塩の溶液(プレゲル)に塩化カルシウム(硬化剤)を加えることにより鋳型上にゲルを形成する工程と,鋳型を取り外す工程とを含む方法により,製造できる。
【0036】
この発明のエクソソームの解析方法は,培地設置工程と,細胞滴下工程と,ウェル被覆工程と,培養工程と,エクソソーム回収工程と,エクソソームの解析工程とを含む。
培地設置工程は,上記したマイクロウェルアレイを培地に設置する工程である。培地は,公知であり,対象となる細胞に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
細胞滴下工程は,マイクロウェルアレイにおけるマイクロウェルに細胞を含む液を滴下する工程である。
【0038】
ウェル被覆工程は,細胞が滴下されたマイクロウェルを培地と混ざらない液体(例えばミネラルオイル)で覆う工程である。
【0039】
培養工程は,細胞を培養する工程である。細胞を培養することは公知であり,公知の方法に従って,細胞を培養すればよい。この際に,ウェルが覆われているので,培地が汚染される事態を防止できる。また,ウェルの壁を介して,細胞に培地を供給できる。
【0040】
エクソソーム回収工程は,培養工程の後にマイクロウェルからエクソソームを回収する工程である。例えば,ミネラルオイルに,微細管を挿入し,ウェルの内容物を吸引することで,細胞が放出したエクソソームを回収できる。なお,この例では,エクソソームについて説明した。しかしながら,例えば,幹細胞の培養上清の組成を分析するなど,培地を分析する際にもこの技術を用いることができる。また,マイクロウェルに含まれるエクソソームをそのまま解析する場合は,培養が終わった状態で,エクソソームが回収されていることとなってもよい。
【0041】
エクソソームの解析工程は,回収されたエクソソームを解析する工程である。エクソソーム(エキソソームともよばれる)は,多くの細胞から分泌されて血液(血漿,血清),尿,唾液,母乳など様々な体液中に存在する細胞外小胞(Extracellular Vesicles; EV)の一種である。エクソソームは,体液だけではなく,多くの細胞株の培養上清にも放出されている。エクソソームは,それが由来する細胞の特徴を反映する。エクソソームの大きさは,通常直径30~150nmで,その膜上に特徴的な抗原(CD9, CD63, CD81等)や脂質(ホスファチジルセリン等)を有しており,また内部にはタンパク質,メッセンジャーRNA(mRNA),マイクロRNA(miRNA),DNAを含んでおり,これらの分子が由来細胞の特徴を反映する。
【0042】
回収されたエクソソームは,超遠心法(サンプル中に含まれる成分の比重の違いを利用した遠心分離法),限外ろ過法(半透膜を用いて高分子サンプルと低分子物質を分離する方法),密度勾配遠心法(粒子のサイズ,形状,および密度に基づいて分離する方法),ポリマー沈降法(ポリマーの添加によりエクソソーム等を凝集,沈降させる方法)や,免疫沈降法(エクソソームの膜表面タンパク質に結合する抗体-磁性粒子複合体を反応させ沈降させる方法)などで単離,精製することができる。
【0043】
単離したエクソソームについて,粒子そのもの(粒子数,粒度分布,膜表面タンパク質)や,粒子に含まれる成分(核酸,タンパク質)が分析対象となる。粒子数や粒度分布は,測定機器にて測定できる。膜表面タンパク質については,ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)による測定が一般的である。粒子中の核酸はDNAチップ(マイクロアレイとも呼ばれる)やNGS(Next Generation Sequencer)で解析できる。粒子中のタンパク質は,LC-MS/MSなどを用いて解析される。エクソソームを解析するには,エクソソームの種類を解析するものや,特開2017-156168号公報にきさいされるようにエクソソームの形状分布を解析するもの,エクソソームに関連する疾患について解析するものがある。
【実施例0044】
アルミニウムの型を基に,2回転写させることでPDMSの型を作製し,得られたPDMSの型を用いてマイクロウェルアレイデバイスを作製した。得られたマイクロウェルアレイデバイスを用いて,細胞をウェルに入れミネラルオイルで封をした。また,異なる4種類のアルギン酸カルシウムゲルに関する細胞培養実験を,ゲルシートを用いて行った。得られたマイクロウェルアレイデバイスに対する粒子の大きさによる透過性の違いを調査する実験をした。
【0045】
[実験例1]
マイクロウェルアレイデバイスの製造
図2は,各製造工程の概念図である。アルミニウムの型を基に,2回転写させることでPDMSの型を作製し,PDMSの型を用いてマイクロウェルアレイデバイスを作製した。各工程は以下の通りである。
アルミニウムの切削加工によりアルミニウムの型を作製した。アルミニウムの型は,40mm×40mm×15mmの直方体状で,40mm×40mmの面の中心の7250μm×7250μmの正方形の範囲内に,直径500μm,高さ500μmの円柱を10行×10列の100個を持つ。円柱の中心間の距離は750μmである。40mm×40mmの面には,4角にR1の丸みを持つ一辺25mmの正方形と4角にR1の丸みを持つ一辺25mm正方形が同心に在った際の差分となる図形が深さ250mmで形成されている。
【0046】
図2(i)に示すように,アルミニウムの型を用いて,ポリジメチルシロキサン(poly-(dimethylsiloxane), PDMS)の型を得た。アルミニウムの型をポリ乳酸製の中空の直方体で囲い,アルミニウムの型の上に主剤と硬化剤を10:1の質量比で混合した PDMSを22g流し込み,75℃で90分間加熱することで,PDMSを硬化させた。硬化したPDMSをアルミニウムの型から剥がし,PDMSの型を得た。
【0047】
図2(ii)に示すように,PDMSの型を用いて,マイクロウェルアレイデバイスの鋳型となるPDMSの型を得た。新たなPDMSとの接着を防止するために,PDMSの型にパリレンを厚さ1μm狙いで真空蒸着させて成膜コーティングを行った。パリレンコーティングのされたPDMSの型をPDMSの型より大きな容器に入れ,主剤と硬化剤を10:1の質量比で混合したPDMS を流し込み,75℃で90分間加熱することで,PDMSを硬化させた。硬化したPDMSをPDMSの型から剥がし,40mm×40mmに切り取り,マイクロウェルアレイデバイスの鋳型となるPDMSの型を得た。
【0048】
図2(iii)に示すように,マイクロウェルアレイデバイスの鋳型であるPDMSの型をポリ乳酸製の中空の直方体で囲い,PDMSの型の上に,RGD修飾アルギン酸ナトリウム水溶液を中心に300μL,アルギン酸ナトリウム水溶液を2000μL流し込んだ。PDMSの型の円柱間の空気は,ピンセットを用いて円柱を揺らして除去した。100mMの塩化カルシウム水溶液をアルギン酸ナトリウム水溶液上に4000μL滴下し,5時間放置することでゲル化させ,アルギン酸カルシウムゲルを得た。
【0049】
図2(iv)に示すように,アルギン酸カルシウムゲルをPDMSの型から剥がし,アルギン酸カルシウムゲルからなるマイクロウェルアレイデバイスを得た。これらの作業はクリーンベンチ内で行った。また,PDMSの型はオートクレーブ滅菌,ポリ乳酸製の中空の直方体はUV滅菌したものを使用した。アルギン酸ナトリウム水溶液は滅菌済みである。
【0050】
図3は,得られたマイクロウェルアレイデバイスを示す図面に代わる写真である。右図は左図の部分拡大図である。得られたマイクロウェルアレイデバイスは,40mm×40mm×厚さ約1mmで,中心の7250μm×7250μmの正方形の範囲内に,直径500μm,深さ500μmのウェルを10行×10列の100個を持つ。ウェルの中心間の距離は750μmである。4角にR1の丸みを持つ一辺25mmの正方形と4角にR1の丸みを持つ一辺25mm正方形が同心に合った際の差分となる図形が高さ250mmで形成されている。これは,任意のマイクロウェルアレイデバイスと向き合わせて併用して使用する際に,アライメントマークとしての役割を果たす。
【0051】
図4は,細胞をマイクロウェルアレイに入れミネラルオイルで封をした工程を示す概念図及び図面に代わる写真である。図4(a)は,得られたマイクロウェルアレイデバイスを培地に1日浸した様子を示す。図4(b)は,細胞と同種の細胞の培養で使用した培地の上澄み液を用いて調製した様子を示す。図4(c)は,ミネラルオイルを用いてマイクロウェルを被覆した様子を示す。図4(d)は,得られたマイクロウェルアレイの図面に代わる写真である。
【0052】
図4(a)に示すように,得られたマイクロウェルアレイデバイスを培地に1日浸した。マイクロウェルアレイデバイスを細胞培養ディッシュ上に設置した。24mm×50mm×厚さ約150μmのスライドガラス2枚を,マイクロウェルアレイデバイスと細胞培養ディッシュの間に設置した。この際,スライドガラスはマイクロウェルアレイがある部分に重ならないように設置した。
【0053】
図4(b)に示すように,細胞と同種の細胞の培養で使用した培地の上澄み液を用いて,培養で使用した培地の上澄み液の体積に対する細胞の数が2.5×10cells/mLの濃度となるように調製した。2.5×10cells/mLの濃度の細胞懸濁液を,マイクロウェルアレイデバイスの中央部でマイクロウェルアレイが存在する部分に,マクロピペットを用いて150μL滴下した。
【0054】
図4(c)に示すように,次にフィルター滅菌されたミネラルオイルを,マクロピペットを用いて100μL流し込んだ。その際に,マイクロウェルアレイデバイスの中央部でマイクロウェルアレイが存在する7250μm×7250μmの正方形の範囲より1mmほど離れた箇所から正方形の範囲に向けて流し込んだ。これにより,ウェルからはみ出た細胞懸濁液がミネラルオイルによりマイクロウェルアレイのない部分に押し出された。
【0055】
図4(d)に示されるように,細胞をマイクロウェルアレイに入れミネラルオイルで封をした。
【0056】
この実験例において,用いたRGD修飾アルギン酸ナトリウムは,NOVATACHTMにおいて購入したグリシン-アルギニン-グリシン-アスパラギン酸-セリン-プロリンペプチド修飾高グルロン酸高分子量アルギン酸(商品名:NOVATACHTM MVG GRGDSP)であった。
マイクロウェルアレイの大きさや,ウェルの数などに特に制限はない.ウェルのサイズは対象となる細胞が格納できればよい.ウェルのサイズは原型となるアルミニウムの型の大きさを変えることで直径および高さが10μmから5cm(好ましくは1000μm)程度まで自由に用いることができる.またウェルの形状についても特に制限はない.
【0057】
得られたアルギン酸カルシウムゲルのメッシュサイズは,2wt%のものは約5nmから15nmに分布し,4wt%のものは約5nmから10nmに分布した。メッシュサイズの測定方法は,例えば,K. Y. Lee and D. J. Mooney, “Alginate: Properties and biomedical applications,” Prog. Polym. Sci.,vol. 37, no. 1, pp. 106~126, 2012, doi: 10.1016,j.progpolymsci.2011.06.003.
に記載されている。
一般的なアルギン酸ナトリウムの分子量は,1×10以上2.7×10以下であるので(JOHNSON et. al. Journal of Pharmacy and Pharmacology 1997,49;639-643),この実施例において得れたアルギン酸カルシウムゲルの重量平均分子量も1×10以上2.7×10以下程度であると考えられる。
【0058】
[実験例2]
細胞接着性の検証
異なる4種類のアルギン酸カルシウムゲルに関する細胞培養実験を以下のように行った。
アルギン酸カルシウムゲルからなるシートを,アルギン酸カルシウムの濃度とRGD修飾の有無の異なる4種類のアルギン酸カルシウムゲルについて作製した。2wt%のRGD修飾アルギン酸カルシウムゲル,4wt%のRGD修飾アルギン酸カルシウムゲル,2wt%のアルギン酸カルシウムゲル,4wt%のアルギン酸カルシウムゲルの4種類である。24mm×50mmのスライドガラス上に,500μLの滅菌済みのアルギン酸ナトリウム水溶液を滴下した。アルギン酸ナトリウム水溶液の滴下されたスライドガラスを,100mMの塩化カルシウム水溶液が入ったシャーレに浸し,6時間放置することでゲル化させ,アルギン酸カルシウムゲルシートを得た。得られたアルギン酸カルシウムゲルシートをスライドガラスごと培地の入ったディッシュに移動し,12時間放置した。アルギン酸カルシウムゲルシートをスライドガラスごと細胞培養ディッシュに移動し,培地の体積に対する細胞の数が3.0×10cells/mLの濃度となるように調製した細胞懸濁液を,1000μLディッシュ内に滴下した。ディッシュをCOインキュベータ内に入れ,1日ごとに位相差顕微鏡を用いて細胞の接着の様子を観察した。
【0059】
その結果を図5及び図6に示す。図5は,細胞の接着性を示す図面に代わる顕微鏡写真である。図6は,細胞増殖の様子を示す図面に代わる写真と表である。図6(a)及び図6(b)は細胞懸濁液中の細胞濃度を変化させたものである。図6(c)は,結果をまとめた表である。
図5から,2wt%のアルギン酸カルシウムゲルと4wt%のアルギン酸カルシウムゲルの上では細胞が接着せず,2wt%のRGD修飾アルギン酸カルシウムゲルと4wt%のRGD修飾アルギン酸カルシウムゲルの上では細胞が接着したことが確認された。このことから,RGD修飾のされていない場合は細胞が接着しないゲル材料であっても,RGD修飾がされていれば細胞が接着するという知見が得られた。細胞の足場に細胞接着活性配列のアミノ酸配列が存在することで,細胞表面のインテグリンがゲルに接着することを可能にする。
また,図5から,RGD修飾アルギン酸カルシウムゲルでは2wt%と4wt%のどちらの濃度でも細胞が接着しているが,その程度は異なることが確認された。4wt%RGD修飾アルギン酸カルシウムゲルの方が2wt%RGD修飾アルギン酸カルシウムゲルよりも,接着した細胞のアスペクト比が高く,細胞の接着性が高いことが分かる。これは,ゲルは濃度の違いにより,細胞の接着する環境としての適切さに影響を与える硬さが異なるからである。
細胞接着能という観点のみからは,細胞結合性修飾を含むアミノ酸を含むゲル材料であれば,本マイクロウェルアレイデバイスに利用可能である。さらに,実験により細胞が適切に接着していると確認された濃度のゲルであれば,用いることができる。例えば,RGD修飾アルギン酸カルシウムゲル以外にも,RGD修飾のされていないコラーゲンなどのゲルに,RGD配列を含むタンパク質であるフィブロネクチンのコーティングを施したゲル材料などが考えられる。濃度を調整することで,細胞接着性を維持することができる。
細胞接着性の評価は,顕微鏡写真を用いて播種された細胞のうちゲル上で足を生やしている細胞の割合と細胞のアスペクト比を算出し,細胞培養ディッシュ上での通常の細胞培養の際の播種された細胞のうち足を生やしている細胞の割合と細胞のアスペクト比との比較により行うことができる。細胞培養ディッシュ上での通常の細胞培養での値と同程度であることが望ましいが,求められる程度は細胞の種類や解析する内容により異なる。
図6からは,少量の細胞を培養する際は,購入した培地(Fresh medium;新鮮培地)による培養では細胞が増殖せず,購入した培地を事前に細胞の培養に使用することで細胞からの因子を含ませた培地(Cibdutuibed medium;馴化培地)による培養では細胞が増殖するということが分かった。このことから培地として馴化培地を用いることが好ましいと考えられる。
【0060】
[実験例3]
粒子透過性の検証
粒子の大きさによるマイクロウェルアレイデバイスに対する透過性を以下の実験により調べた。
マイクロウェルアレイデバイスをシャーレに設置し,シャーレをテープで顕微鏡のステージ上に固定した。シャーレの大部分をアルミホイル性の箱で覆い,遮光した。
内径1/16インチで外径0.50mmのテフロン(登録商標)チューブ200mmを,10mmシリコンチューブとルアーフィッティングを用いてシリンジに繋いだ。150μLのミネラルオイルをテフロン(登録商標)チューブから吸引した後,40μLの蛍光試薬をテフロン(登録商標)チューブから吸引した。蛍光試薬とミネラルオイルの入ったテフロン(登録商標)チューブ付きシリンジを用いて,アルミホイル性の箱とシャーレの隙間から蛍光試薬とミネラルオイルを順番にマイクロウェルアレイ上に滴下した。ミネラルオイルによりウェルからはみ出た蛍光試薬がマイクロウェルアレイのない部分に押し出された瞬間を0秒とし,0秒から10分間と,1時間後と2時間後に蛍光観察を行った。この際,顕微鏡全体をアルミホイルで覆うことで遮光し,蛍光試薬の蛍光退色を防いだ。
【0061】
得られた結果を図7に示す。図7は,粒子透過性の検証結果を示す図面に代わる写真及びグラフである。図7(a)は,粒子透過性をまとめたものである。図7(b)は,フルオロセイン,イソシアネート及びデキストランの蛍光強度を示すグラフである。縦軸は蛍光強度を示し,横軸は波数を示す。図7(c)は,蛍光標識エクソソームの蛍光強度を示すグラフである。縦軸は蛍光強度を示し,横軸は波数を示す。図7に示される通り,ウェルに封入されたFITC―デキストランは,時間経過とともにウェルの外へと透過した。一方で,ウェルに封入された蛍光リポソームと蛍光標識エクソソームは,時間経過をしてもウェルの外へと透過しなかった。これにより,細胞培養に必要なデキストランなどの養分はゲル材料を透過してウェルの内部に供給され,エクソソームなどの物質がウェル内に留まることが確認された。
メッシュサイズの調整は,ゲルの濃度の調整により行うことができる。メッシュサイズの測定はTEMにより行える。また,解析の対象となる物質に蛍光標識をした試料を用いて物質透過実験を行うことにより,作製したマイクロウェルアレイに対する対象物質の透過性を評価することができる。これにより,任意の材料を用いた場合でも,解析の対象となる物質に対しての有用性を確かめることができる。
粒子透過性評価は,ウェルに封入した直後の蛍光顕微鏡写真と,時間が経過した際の蛍光顕微鏡写真を撮影し,蛍光粒子の存在する位置の変化を定性的に確認することで実施できる。ImageJにより蛍光顕微鏡写真の輝度を解析することで,蛍光粒子の存在する位置の変化を評価し,定量的に粒子透過性評価を行う。
メッシュサイズの測定がTEMにより行えることや,濃度によりメッシュサイズの調整ができるというのは,以下の論文に記載される通りである。K. Y. Lee and D. J. Mooney, “Alginate: Properties and biomedical applications,” Prog. Polym. Sci.,vol. 37, no. 1, pp. 106~126, 2012, doi: 10.1016/j.progpolymsci.2011.06.003.
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明によれば,マイクロウェルアレイを提供できる。マイクロウェルアレイは,医療機器などにおいて利用されうる。
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