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特開2024-52026OCT装置およびOCTデータ処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052026
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】OCT装置およびOCTデータ処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240404BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240404BHJP
   G06T 3/4046 20240101ALI20240404BHJP
   G06T 3/4053 20240101ALI20240404BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G06T1/00 290Z
G06T3/40 725
G06T3/40 730
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158459
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】柴 涼介
(72)【発明者】
【氏名】余語 宏文
(72)【発明者】
【氏名】樋口 幸弘
【テーマコード(参考)】
4C316
5B057
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB03
4C316AB04
4C316AB11
4C316AB12
4C316AB16
4C316FA14
4C316FB21
4C316FB29
4C316FZ01
5B057AA07
5B057CC01
5B057CD05
5B057DC40
(57)【要約】
【課題】OCTデータに含まれるノイズフロアの影響を適切に抑制することが可能なOCT装置およびOCTデータ処理プログラムを提供する。
【解決手段】制御部は、OCTデータ取得ステップと補正ステップを実行する。OCTデータ取得ステップでは、制御部は、受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、組織の深さ方向についてのOCTデータを取得する。補正ステップでは、制御部は、データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT光源と、
前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、
前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、
前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記参照光の干渉信号を検出する受光素子と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを取得し、
データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、前記OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行することを特徴とするOCT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のOCT装置であって、
前記制御部は、データ取得位置の深さの単位変化量当たりのノイズフロアの変動量に応じた補正係数に、データ取得位置の深さを掛けた値を、深さに応じた前記補正量として、前記補正処理を実行することを特徴とするOCT装置。
【請求項3】
請求項1に記載のOCT装置であって、
前記OCT装置自身が実際に撮影動作を行うことで取得されたデータにおける、データ取得位置の深さに応じた信号強度の変動量に基づいて、データ取得位置の深さに応じた補正量を求めるための補正パラメータが、前記OCT装置毎に設定されることを特徴とするOCT装置。
【請求項4】
請求項3に記載のOCT装置であって、
前記補正パラメータは、前記OCT装置自身が過去に実行した撮影動作によって取得されたデータに基づいて、前記OCT装置毎に予め設定されていることを特徴とするOCT装置。
【請求項5】
請求項3に記載のOCT装置であって、
前記制御部は、
撮影動作を行う毎に、前記撮影動作によって取得された補正対象のデータそのもの、または、前記撮影動作の前後に取得されたデータに基づいて、前記補正パラメータを設定することを特徴とするOCT装置。
【請求項6】
請求項3に記載のOCT装置であって、
前記補正パラメータは、前記測定光の反射光に起因する信号の増加が表れていないデータであるダークデータの、データ取得位置の深さに応じた信号強度の変動量に基づいて設定されることを特徴とするOCT装置。
【請求項7】
請求項1に記載のOCT装置であって、
前記制御部は、
前記OCTデータが取得された際の、前記受光素子による単位時間当たりの干渉信号の取得回数に応じて、前記補正処理を行う際の、データ取得位置の深さに応じた前記補正量を変更することを特徴とするOCT装置。
【請求項8】
請求項1に記載のOCT装置であって、
前記制御部は、
データ取得位置の深さに応じた前記補正処理が行われた前記OCTデータに基づいて、前記組織の画像データを生成し、
機械学習アルゴリズムによって訓練されており、且つ、入力された画像データの画質を向上させた高画質画像のデータを出力する数学モデルに、生成された前記画像データを入力することで、高画質画像のデータを取得することを特徴とするOCT装置。
【請求項9】
OCT装置によって取得されたデータを処理するOCTデータ処理装置によって実行されるOCTデータ処理プログラムであって、
前記OCT装置は、
OCT光源と、
前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、
前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、
前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記反射光の干渉信号を検出する受光素子と、
を備え、
前記OCTデータ処理プログラムが前記OCTデータ処理装置の制御部によって実行されることで、
前記受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを取得するOCTデータ取得ステップと、
データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、前記OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行する補正ステップと、
を前記OCTデータ処理装置に実行させることを特徴とするOCTデータ処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の原理に基づいて被検体の組織のデータを取得するOCT装置、および、OCTの便利に基づいて得られるデータを処理するためのOCTデータ処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
OCT装置は、OCT光から分割された測定光を被検物に導く一方で、参照光を参照光学系に導き、被検体(例えば被検眼)で反射した測定光と参照光との合成により得られる干渉信号に基づいてOCTデータを取得する。OCT装置は、例えば、眼球または皮膚等の生体組織の断層画像を得る場合等に使用される。
【0003】
被検体(例えば、被検眼等)のOCTデータに含まれるノイズの影響を抑制するための種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、断層画像の深さ方向の一部に表れるFPN(Fix Pattern Noise)を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-156229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OCTデータに含まれるノイズの1つに、OCT装置の機器自体によってOCTデータの全体に発生するノイズフロア(「背景ノイズ」と表現される場合もある)が存在する。ところで、従来は、OCTデータが取得される深さ方向の範囲が狭かったので、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響は確認されていなかった。しかし、近年では、撮影範囲の広角化等の技術の発展に伴い、従来よりも深い範囲で取得されたOCTデータが取り扱われることが多い。深さ方向の広い範囲で取得されたOCTデータには、深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響が顕著に表れやすくなる。また、近年では、OCT装置を介して得られたデータを処理することで、ノイズフロアが強調されてしまう場面も生じている。従って、OCTデータに含まれるノイズフロアの影響を適切に抑制できる技術が望まれる。
【0006】
本開示の典型的な目的は、OCTデータに含まれるノイズフロアの影響を適切に抑制することが可能なOCT装置およびOCTデータ処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供するOCT装置は、OCT光源と、前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記参照光の干渉信号を検出する受光素子と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを取得し、データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、前記OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行する。
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供するOCTデータ処理プログラムは、OCT装置によって取得されたデータを処理するOCTデータ処理装置によって実行されるOCTデータ処理プログラムであって、前記OCT装置は、OCT光源と、前記OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、前記分岐光学素子によって分岐された前記測定光を被検眼の組織に照射する照射光学系と、前記組織によって反射された前記測定光と、前記分岐光学素子によって分岐された前記反射光の干渉信号を検出する受光素子と、を備え、前記OCTデータ処理プログラムが前記OCTデータ処理装置の制御部によって実行されることで、前記受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、前記組織の深さ方向についてのOCTデータを取得するOCTデータ取得ステップと、データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、前記OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行する補正ステップと、を前記OCTデータ処理装置に実行させる。
【0009】
本開示に係るOCT装置およびOCTデータ処理プログラムによると、OCTデータに含まれるノイズフロアの影響が適切に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】OCT装置1の概略構成を示すブロック図である。
図2】ダーク画像40と、ダーク画像40における輝度グラフ41を並べて示す図である。
図3】第1実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行する補正パラメータ設定処理のフローチャートである。
図4図2に示す輝度グラフ41について求められた近似直線LAを示す図である。
図5】第1実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行するOCTデータ処理のフローチャートである。
図6】第2実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行するOCTデータ処理のフローチャートである。
図7】第3実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行するOCTデータ処理のフローチャートである。
図8】組織について実際に取得されたOCTデータの輝度グラフ51と、第1主成分の傾きを示す直線LBを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
本開示で例示するOCT装置は、OCT光源、分岐光学素子、照射光学系、受光素子、および制御部を備える。OCT光源はOCT光を出射する。分岐光学素子は、OCT光源から出射された光を測定光と参照光に分岐する。受光素子は、組織によって反射された測定光と、分岐光学素子によって分岐された参照光の干渉信号を検出する。制御部は、OCT装置の制御を司る。制御部は、OCTデータ取得ステップと補正ステップを実行する。OCTデータ取得ステップでは、制御部は、受光素子によって検出された干渉信号を処理することで生成される、組織の深さ方向についてのOCTデータを取得する。補正ステップでは、制御部は、データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、OCTデータにおける、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響を抑制する補正処理を実行する。
【0012】
OCT装置の機器自体によってOCTデータの全体に発生するノイズフロアは、データ取得位置の深さに依存して強度が変化することが判明した。特に、近年では、深さ方向の広い範囲でOCTデータを取得することが可能となっているので、データ取得位置の深さに応じたノイズフロアの変化の影響が、顕著に表れてしまう事象が頻発している。ノイズフロアの変化の影響が大きくなると、例えば、深い領域と浅い領域の間でノイズの輝度差が生じてしまう結果、OCTデータに基づいて生成される画像の画質が低下する場合がある。さらに、OCTデータに基づいて生成される画像に対して実行される各種処理(例えば、機械学習や画像処理によるアルゴリズムを利用して画像を高画質化する高画質化処理、および、画像における特定の部位(例えば、層および境界の少なくともいずれか)を識別するセグメンテーション処理等)の精度も低下する。従来のアルゴリズムは、ノイズフロアの輝度が深さに関わらず一定であることを前提として構築されていたので、ノイズフロアの影響を適切に抑制することは困難であった。
【0013】
これに対し、本開示のOCT装置(OCTデータ処理装置の場合もある)は、データ取得位置の深さに応じた補正量を用いて、OCTデータに含まれるノイズフロア(つまり、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロア)の影響を抑制する補正処理を実行する。その結果、OCT装置を介して取得されるデータの品質が適切に向上し易くなる。
【0014】
なお、本開示では、受光素子によって取得された干渉信号のスペクトル強度に対するフーリエ変換によって、複素OCT信号が取得される。複素OCT信号に対する処理(例えば、複素OCT信号における振幅の絶対値を算出する処理等)によって、データ取得位置における深さ方向についてのOCTデータ(以下、「RAWデータ」という)が取得される。一例として、本開示では、複素OCT信号に対する処理によって得られるRAWデータに対して、深さに応じた補正量を用いた補正処理が行われることで、ノイズフロアの影響が抑制される。ただし、補正処理の具体的な内容を変更することも可能である。例えば、複素OCT信号に対する補正処理が行われることで、ノイズフロアの影響が抑制されてもよい。また、OCTデータに対する処理(例えば、前述した高画質化処理、およびセグメンテーション処理等の少なくともいずれか)を実行する際のパラメータ(例えば閾値等)に対して、深さに応じた補正量を適用することで、ノイズフロアの影響が抑制されてもよい。
【0015】
なお、本開示では、OCTデータを取得するOCT装置自身が、前述した補正処理を行うOCTデータ処理装置として機能する。従って、OCT装置は、OCTの原理に基づくデータを取得しつつ、取得したデータを適切に処理することが可能である。しかし、OCTデータ処理装置として機能できるデバイスは、OCT装置に限定されない。例えば、OCT装置によって取得されたデータを取得することが可能なパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)等が、OCTデータ処理装置として機能してもよい。また、複数のデバイス(例えば、OCT装置およびPC等)が協働して補正処理を実行することで、OCTデータ処理装置として機能してもよい。
【0016】
また、OCT装置は光走査部を備えていてもよい。光走査部は、照射光学系によって組織に照射される測定光を、光軸に交差する二次元方向に走査させる。OCTデータは、測定光のスポットが光走査部によって測定領域内で二次元方向に走査されることで得られてもよい。ただし、OCT装置の構成を変更することも可能である。例えば、OCT装置の照射光学系は、被検体の組織上の二次元の領域に測定光を同時に照射してもよい。この場合、受光素子は、組織上の二次元の領域における干渉信号を検出する二次元受光素子であってもよい。つまり、OCT装置は、所謂フルフィールドOCT(FF-OCT)の原理によってOCTデータを取得してもよい。また、OCT装置は、組織において一次元方向に延びる照射ライン上に測定光を同時に照射すると共に、照射ラインに交差する方向に測定光を走査させてもよい。この場合、受光素子は、一次元受光素子(例えばラインセンサ)または二次元受光素子であってもよい。つまり、OCT装置は、所謂ラインフィールドOCT(LF-OCT)の原理によって断層画像を取得してもよい。
【0017】
制御部は、データ取得位置の深さの単位変化量当たりのノイズフロアの変動量に応じた補正係数に、データ取得位置の深さを掛けた値を、深さに応じた補正量として、補正処理を行ってもよい。本願発明の発明者が新たに得た知見によると、OCTデータのノイズフロアは、データ取得位置の深さにほぼ比例して減衰していく傾向が見られる。従って、データ取得位置の深さに補正係数を掛けた値が、深さに応じた補正量として用いられることで、深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響が適切に抑制される。また、各々の深さに応じた補正値は、補正係数と深さを掛けるだけで算出される。従って、処理速度の低下、およびメモリの容量の圧迫等が抑制された状態で、適切にノイズフロアの影響が抑制される。なお、補正係数は、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータの一例である。
【0018】
ただし、補正処理の具体的な方法を変更することも可能である。例えば、制御部は、データ取得位置の深さ毎に補正量が個別に規定された補正量データを、補正パラメータとして取得してもよい。制御部は、補正量データによって深さ毎に規定された補正量をもちいて補正処理を行ってもよい。この場合、ノイズフロアが深さに比例しない装置等であっても、ノイズフロアの影響が適切に抑制される。また、制御部は、データ取得位置の深さに伴うノイズフロアの減衰量に対して曲線近似を行い、得られた近似曲線に基づいて、深さに応じた補正量を取得することも可能である。この場合、制御部は、得られた近似曲線に対応する、深さを変数とする二次以上の関数を補正パラメータとして、深さに応じた補正量を取得してもよい。
【0019】
また、深さに応じた補正量を、関数を用いて取得する場合、制御部は、関数の切片も用いて深さに応じた補正量を取得してもよい。この場合、ノイズフロアの影響が、OCTの感度等に関わらず適切に抑制され易くなる。
【0020】
OCT装置自身が実際に撮影動作を行うことで取得されたデータにおける、データ取得位置の深さに応じた信号強度の変動量に基づいて、データ取得位置の深さに応じた補正量を求めるための補正パラメータ(例えば補正係数等)が、OCT装置毎に設定されてもよい。ノイズフロアの強度および変動量等は、OCT光源および受光素子等の種々の要素の影響を受ける。従って、同一の構成のOCT装置が複数製造される場合でも、個々のOCT装置によってノイズフロアの強度および変動量等が異なる場合が多い。従って、各々のOCT装置が実際に取得したデータに基づいて、OCT装置毎に補正パラメータが設定されることで、ノイズフロアに装置の個体差が存在する場合でも、適切にノイズフロアの影響が抑制される。
【0021】
なお、補正係数の代わりに、補正量が深さ毎に規定された補正量データ、または、補正量を取得するための関数が補正パラメータとして用いられる場合でも、OCT装置自身が実際に撮影動作を行うことで取得されたデータに基づいて、OCT装置毎に補正パラメータが設定されてもよい。この場合でも、OCT装置毎の個体差に関わらず適切にノイズフロアの影響が抑制される。つまり、補正処理における、データ取得位置の深さに応じた補正値は、OCT装置自身が撮影動作を行うことで取得されたデータにおける、データ取得位置の深さに応じた信号強度の大きさに基づいて設定されてもよい。
【0022】
ただし、補正パラメータ(例えば補正係数等)は、複数のOCT装置間で共通して用いられる固定値であってもよい。この場合でも、データ取得位置の深さに応じた補正処理が実行されることで、ノイズフロアの影響は適切に抑制される。
【0023】
補正パラメータ(例えば補正係数等)は、OCT装置自身が過去に実行した撮影動作によって取得されたデータに基づいて、OCT装置毎に予め設定されていてもよい。本願発明の発明者が新たに得た知見によると、OCTデータに含まれるノイズフロアは、OCT光源および受光素子等の種々の要素の影響によって変動し易いが、温度等の撮影環境の影響は受けにくい。従って、OCT装置自身が過去に取得したデータに基づいて、補正パラメータがOCT装置毎に予め定められることで、OCTデータを取得する毎に補正パラメータを毎回設定する必要が無くなる。よって、簡易な処理で適切にノイズフロアの影響が抑制されやすくなる。
【0024】
補正パラメータを設定するタイミングは適宜選択できる。例えば、OCT装置が製造された以後、出荷される前に、OCT装置自身が実行した撮影動作によって取得されたデータに基づいて補正パラメータが設定されてもよい。この場合、補正パラメータは、OCT装置の制御部が算出して設定してもよい。また、既に算出された補正パラメータが、OCT装置の記憶装置に記憶されることで、補正パラメータが設定されてもよい。また、OCT装置のメンテナンス時、または部品交換時等に、補正パラメータが設定されてもよい。この場合、OCT装置の制御部は、実際に撮影動作を行うことで取得されたOCTに基づいて補正パラメータ(例えば補正係数等)を設定する補正パラメータ設定処理を実行してもよい。
【0025】
なお、補正係数の代わりに、補正量が深さ毎に規定された補正量データ、または関数等が補正量パラメータとして用いられる場合でも、OCT装置自身が過去に実行した撮影動作によって取得されたデータに基づいて、OCT装置毎に予め補正パラメータが設定されていてもよい。この場合でも、OCTデータを取得する毎に補正パラメータを設定する必要が無くなる。
【0026】
制御部は、撮影動作を行う毎に、撮影動作によって取得された補正対象のデータそのもの、または、撮影動作の前後に取得されたデータに基づいて、補正パラメータ(例えば補正係数等)を設定してもよい。撮影動作を行う毎に補正パラメータが設定されることで、ノイズフロアが撮影環境等の影響を受ける場合でも、より適切にノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0027】
補正パラメータ(例えば補正係数等)は、測定光の反射光に起因する信号の増加が表れていないデータであるダークデータの、データ取得位置の深さに応じた信号強度の変動量に基づいて設定されてもよい。ダークデータでは、撮影対象等によって反射された反射光に起因する信号の増加が生じにくいので、ノイズフロアに起因する信号のみが表れやすくなる。従って、ダークデータに基づいて補正パラメータが設定されることで、実際に発生するノイズフロアに適した補正パラメータが、高い精度で設定され易くなる。
【0028】
なお、補正パラメータは、OCT装置自身が過去に実行した撮影動作によって取得されたダークデータに基づいて、OCT装置毎に予め設定されていてもよい。この場合、高い精度で設定された補正パラメータによって、簡易な処理でノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0029】
また、制御部は、撮影動作を行う毎に、撮影動作の前後に取得されたダークデータに基づいて補正パラメータを設定してもよい。この場合、撮影環境等がノイズフロアに与える影響も抑制されるので、より高い精度でノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0030】
なお、ダークデータに基づいて補正係数を設定するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、ダークデータにおける深さ毎の信号強度についての近似直線を求め、求められた近似直線の傾きに基づいて補正係数が設定されてもよい。近似直線は、例えば、最小二乗法によって求められる回帰直線等であってもよい。また、ダークデータにおける深さ毎の信号強度についての近似曲線に基づいて、データ取得位置の深さに応じた補正処理を行うことも可能である。また、ダークデータにおける深さ毎の信号強度から切片を求め、求められた切片も用いて、深さに応じた補正量が取得されてもよい。
【0031】
なお、補正係数の代わりに、補正量が深さ毎に規定された補正量データ、または関数等が、補正パラメータとして用いられる場合でも、ダークデータに基づいて補正パラメータが設定されてもよい。この場合でも、実際に発生するノイズフロアに適した補正パラメータが、高い精度で設定され易くなる。
【0032】
また、ダークデータの代わりに、測定光の反射光の前記受光素子への入射が許容される通常の状態で取得されたデータ(例えば、被検眼の組織を実際に撮影することで取得されたOCTデータ等)に基づいて、補正パラメータが設定されてもよい。この場合、例えば、取得されたOCTデータにおける深さ毎の信号強度に対して主成分分析を実行し、取得された第1主成分の傾きに基づいて補正パラメータ(例えば補正係数等)が設定されてもよい。一例として、撮影動作によって取得された補正対象のOCTデータそのものに基づいて補正係数が設定される場合等に、主成分分析の手法が適用されてもよい。また、ノイズフロアの影響が高い精度で抑制されたOCTデータから生成される画像では、画像の標準偏差(分散)およびエントロピー等が小さくなる。従って、OCTデータから生成される画像の標準偏差(分散)またはエントロピー等の評価値が小さくなる補正パラメータが探索されることで、補正パラメータが設定されてもよい。
【0033】
制御部は、OCTデータが取得された際の、受光素子による単位時間当たりの干渉信号の取得回数に応じて、補正処理を行う際の、データ取得位置の深さに応じた補正量(例えば、前述した補正係数、補正量データ、関数等の補正パラメータ)を変更してもよい。本願発明の発明者が新たに得た知見によると、受光素子による単位時間当たりの干渉信号の取得回数を増加させると(つまり、受光素子の露光時間を短くすると)、ノイズフロアの信号強度、および、深さに応じたノイズフロアの強度の変化量が、共に大きくなる。従って、受光素子による単位時間当たりの干渉信号の取得回数に応じて、補正処理における深さに応じた補正量を変更することで、より高い精度でノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0034】
また、OCT装置は、測定光を組織上で走査する光走査部をさらに備えていてもよい。制御部は、光走査部による測定光の走査速度と、受光素子による単位時間当たりの干渉信号の取得回数(以下、纏めて「走査レート」という)に応じて、補正処理を行う際の、データ取得位置の深さに応じた補正量を変更してもよい。この場合、走査レートに応じて適切にノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0035】
なお、露光時間または走査レートに応じて深さに応じた補正量を変更する処理は、予め設定された補正パラメータに基づいてOCTデータを補正する場合(例えば、過去に取得されたデータに基づいて、OCT装置毎に補正パラメータが予め設定されている場合等)に、特に有効である。
【0036】
制御部は、データ取得位置の深さに応じた補正処理が行われたOCTデータに基づいて、組織の画像データ(つまり、ノイズフロアが補正された画像データ)を生成してもよい。制御部は、入力された画像データの画質を向上させた高画質画像のデータを出力するように機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、ノイズフロアが補正された画像データを入力することで、高画質画像のデータを取得してもよい。ノイズフロアの影響が補正されていない画像データを数学モデルに入力しても、ノイズフロアの影響が抑制された高画質画像が得られない場合が多い。例えば、数学モデルに画像データを入力しても、ノイズフロアが存在していなければ表れないはずの輝度が高い部分が、数学モデルによって出力される画像に含まれてしまう場合もある。具体的には、数学モデルが訓練される際に、ノイズフロアの影響が小さいOCT装置によって撮影された画像データが学習データとして用いられている場合には、ノイズフロアの影響が大きい画像データを数学モデルに入力しても、数学モデルに用いられた画像データと、高画質化のために数学モデルに入力される画像データの分布が異なるので、高画質画像が適切に得られない場合が多い。特に、深層学習で広く用いられるバッチ正規化を含む数学モデルでは、学習データの平均と標準偏差を用いるため、データ分布の違いによる精度低下が大きくなり易い。これに対し、ノイズフロアが補正された画像データが数学モデルに入力されることで、より高い画質の画像データが取得され易くなる。
【0037】
制御部は、データ取得位置の深さに応じた補正処理が行われたOCTデータに基づいて、組織の断層画像の画像データ(つまり、ノイズフロアが補正された断層画像のデータ)を生成してもよい。制御部は、入力された断層画像に含まれる複数の層および層間の境界の少なくともいずれかの識別結果を出力するように、機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、ノイズフロアが補正された断層画像のデータを入力することで、層および境界の少なくともいずれかの識別結果(セグメンテーション結果)を取得してもよい。ノイズフロアの影響が抑制された断層画像に基づいて、層および境界の少なくともいずれかの識別結果が取得されることで、高い精度の識別結果が得られ易くなる。なお、数学モデルを利用せずに、公知の画像処理等によってセグメンテーション処理が行われる場合でも、高い精度の識別結果が得られ易くなる。
【0038】
制御部は、組織の同一位置に関して異なる時間に取得され、且つ、データ取得位置の深さに応じた補正処理が実行された、少なくとも2つのOCTデータに基づいて、モーションコントラスト画像(例えばOCTアンジオ画像等)を生成してもよい。この場合、ノイズフロアの影響が抑制された高品質のモーションコントラスト画像が生成され易くなる。
【0039】
制御部は、データ取得位置の深さに応じた補正処理が行われたOCTデータに基づいて、Enface画像のデータを生成してもよい。Enface画像のデータは、例えば、測定光の光軸に交差するXY方向の各位置で深さ方向(Z方向)に輝度値が積算された積算画像データ、XY方向の各位置でのスペクトルデータの積算値、ある一定の深さ方向におけるXY方向の各位置での輝度データ、網膜のいずれかの層(例えば、網膜表層)におけるXY方向の各位置での輝度データ等であってもよい。この場合、ノイズフロアの影響が抑制された高品質のEnface画像が生成され易くなる。
【0040】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて説明する。一例として、本実施形態のOCT装置1は、被検眼Eの眼底を被検体とし、眼底組織のOCTデータを取得して処理することができる。取得されたOCTデータに基づいて、三次元断層画像および二次元断層画像等を生成することが可能である。ただし、被検眼Eにおける眼底以外の組織(例えば、被検眼Eの前眼部等)、または、被検眼E以外の被検体(例えば、皮膚、消化器、脳、血管(心臓血管を含む)、または歯等)のOCTデータを処理する場合でも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。OCTデータとは、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の原理に基づいて取得されるデータである。
【0041】
本実施形態では、OCT装置1自身が、後述する各種処理を実行することで、OCTデータを処理するOCTデータ処理装置として機能する。しかし、OCTデータ処理装置として機能できるデバイスは、OCT装置1に限定されない。例えば、OCT装置1によって取得されたOCTデータを取得することが可能なPC等が、OCTデータ処理装置として機能してもよい。
【0042】
図1を参照して、本実施形態のOCT装置1の概略構成について説明する。OCT装置1は、OCT部10と制御ユニット30を備える。OCT部10は、OCT光源11、カップラー(光分割器)12、測定光学系13、参照光学系20、受光素子22、および正面観察光学系23を備える。
【0043】
OCT光源11は、OCTデータを取得するための光(OCT光)を出射する。カップラー12は、OCT光源11から出射されたOCT光を、測定光と参照光に分割する。また、本実施形態のカップラー12は、被検体(本実施形態では被検眼Eの眼底)によって反射された測定光と、参照光学系20によって生成された参照光を合波して干渉させる。つまり、本実施形態のカップラー12は、OCT光を測定光と参照光に分岐する分岐光学素子と、測定光の反射光と参照光を合波する合波光学素子を兼ねる。なお、分岐光学素子および合波光学素子の少なくともいずれかの構成を変更することも可能である。例えば、カップラー以外の素子(例えば、サーキュレータ、ビームスプリッタ等)が使用されてもよい。
【0044】
測定光学系13は、カップラー12によって分割された測定光を被検体に導くと共に、被検体によって反射された測定光をカップラー12に戻す。測定光学系13は、光走査部14、照射光学系16、およびフォーカス調整部17を備える。光走査部14は、駆動部15によって駆動されることで、測定光の光軸に交差する二次元方向に測定光を走査(偏向)させることができる。本実施形態では、互いに異なる方向に測定光を偏向させることが可能な2つのガルバノミラーが、光走査部14として用いられている。しかし、光を偏向させる別のデバイス(例えば、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、音響光学素子等の少なくともいずれか)が光走査部14として用いられてもよい。照射光学系16は、光走査部14よりも光路の下流側(つまり被検体側)に設けられており、測定光を被検体の組織に照射する。フォーカス調整部17は、照射光学系16が備える光学部材(例えばレンズ)を測定光の光軸に沿う方向に移動させることで、測定光のフォーカスを調整する。
【0045】
参照光学系20は、参照光を生成してカップラー12に戻す。本実施形態の参照光学系20は、カップラー12によって分割された参照光を反射光学系(例えば、参照ミラー)によって反射させることで、参照光を生成する。しかし、参照光学系20の構成も変更できる。例えば、参照光学系20は、カップラー12から入射した光を反射させずに透過させて、カップラー12に戻してもよい。参照光学系20は、測定光と参照光の光路長差を変更する光路長差調整部21を備える。本実施形態では、参照ミラーが光軸方向に移動されることで、光路長差が変更される。なお、光路長差を変更するための構成は、測定光学系13の光路中に設けられていてもよい。
【0046】
受光素子22は、カップラー12によって生成された測定光と参照光の干渉光を受光することで、干渉信号を検出する。本実施形態では、フーリエドメインOCTの原理が採用されている。フーリエドメインOCTでは、干渉光のスペクトル強度(スペクトル干渉信号)が受光素子22によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって複素OCT信号が取得される。複素OCT信号に対する処理(例えば、複素OCT信号における振幅の絶対値を算出し、絶対値の対数を取る処理等)によって、データ取得位置における深さ方向についてのOCTデータであるRAWデータが取得される。RAWデータとは、OCT装置1によって取得されたOCTデータそのもの(つまり、後述する補正処理等が行われる前の状態の生データ)である。フーリエドメインOCTの一例として、Spectral-domain-OCT(SD-OCT)、Swept-source-OCT(SS-OCT)等を採用できる。また、例えば、Time-domain-OCT(TD-OCT)等を採用することも可能である。
【0047】
本実施形態では、SD-OCTが採用されている。SD-OCTの場合、例えば、OCT光源11として低コヒーレント光源(広帯域光源)が用いられると共に、干渉光の光路における受光素子22の近傍には、干渉光を各周波数成分(各波長成分)に分光する分光光学系(スペクトロメータ)が設けられる。SS-OCTの場合、例えば、OCT光源11として、出射波長を時間的に高速で変化させる波長走査型光源(波長可変光源)が用いられる。この場合、OCT光源11は、光源、ファイバーリング共振器、および波長選択フィルタを備えていてもよい。波長選択フィルタには、例えば、回折格子とポリゴンミラーを組み合わせたフィルタ、および、ファブリー・ペローエタロンを用いたフィルタ等がある。
【0048】
また、本実施形態では、測定光のスポットが、光走査部14によって二次元の測定領域内で走査されることで、OCTデータが取得される。しかし、OCTデータを取得する原理を変更することも可能である。例えば、ラインフィールドOCT(以下、「LF-OCT」という)の原理によって三次元のOCTデータが取得されてもよい。LF-OCTでは、組織において一次元方向に延びる照射ライン上に測定光が同時に照射され、測定光の反射光と参照光の干渉光が、一次元受光素子(例えばラインセンサ)または二次元受光素子によって受光される。二次元の測定領域内において、照射ラインに交差する方向に測定光が走査されることで、三次元OCTデータが取得される。また、フルフィールドOCT(以下、「FF-OCT」という)の原理によって三次元のOCTデータが取得されてもよい。FF-OCTでは、組織上の二次元の測定領域に測定光が照射されると共に、測定光の反射光と参照光の干渉光が、二次元受光素子によって受光される。この場合、OCT装置1は、光走査部14を備えていなくてもよい。
【0049】
正面観察光学系23は、被検体の組織(本実施形態では被検眼Eの眼底)の正面観察画像をリアルタイムで撮影するために設けられている。本実施形態における正面観察画像とは、OCTの測定光の光軸に沿う方向(正面方向)から組織を見た場合の二次元の画像である。本実施形態では、走査型レーザ検眼鏡(SLO)が正面観察光学系23として採用されている。ただし、正面観察光学系23の構成には、SLO以外の構成(例えば、二次元の撮影範囲に赤外光を一括照射して正面画像を撮影する赤外カメラ等)が採用されてもよい。
【0050】
制御ユニット30は、OCT装置1の各種制御を司る。制御ユニット30は、CPU31、RAM32、ROM33、および不揮発性メモリ(NVM)34を備える。CPU31は各種制御を行うコントローラである。RAM32は各種情報を一時的に記憶する。ROM33には、CPU31が実行するプログラム、および各種初期値等が記憶されている。NVM34は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。後述するOCTデータ処理(図5図7参照)等を実行するためのOCTデータ処理プログラムは、NVM34に記憶されていてもよい。
【0051】
制御ユニット30には、マイク36、モニタ37、および操作部38が接続されている。マイク36は音を入力する。モニタ37は、各種画像を表示する表示部の一例である。操作部38は、ユーザが各種操作指示をOCT装置1に入力するために、ユーザによって操作される。操作部38には、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、フットスイッチ等の種々のデバイスを用いることができる。なお、マイク36に音が入力されることで各種操作指示がOCT装置1に入力されてもよい。この場合、CPU31は、入力された音に対して音声認識処理を行うことで、操作指示の種類を判別してもよい。
【0052】
本実施形態では、OCT部10および制御ユニット30が1つの筐体に内蔵された一体型のOCT装置1を例示する。しかし、OCT装置1は、筐体が異なる複数の装置を備えていてもよいことは言うまでもない。例えば、OCT装置1は、OCT部10を内蔵する光学装置と、光学装置に有線または無線で接続されるPCとを備えていてもよい。この場合、光学装置が備える制御部とPCの制御部が、共にOCT装置1の制御ユニット30として機能してもよい。
【0053】
(ノイズフロアの特性)
図2を参照して、OCT装置1によって取得されるOCTデータに含まれるノイズフロアの特性について説明する。図2では、ダークデータに基づいて生成されたXZ方向に広がる二次元断層画像であるダーク画像40と、ダーク画像40におけるX方向の輝度の平均値をZ方向に応じて示す輝度グラフ41を並べて図示している。Z方向は深さ方向である。図2では、図面の下方である程(+Z方向へ進むほど)、データ取得位置の深さが深くなる。また、図2に示す輝度グラフ41では、右方である程ダーク画像40の信号強度(輝度)が大きいことを示す。
【0054】
ダークデータとは、撮影対象等によって反射された測定光に起因する信号の増加が表れていないOCTデータである。OCT装置1によってダークデータを取得するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、ダークデータは、測定光の反射光の受光素子22への入射が遮断される状態で取得されてもよい。具体的には、OCT装置1における測定光の光路上に、測定光を遮断するシャッターが配置された状態で撮影動作(OCTデータの取得動作)が行われることで、ダークデータが取得されてもよい。また、測定光を光路外に走査させることでダークデータが取得されてもよい。さらに、OCT装置1は、撮影対象についての干渉信号(撮影対象によって反射された測定光と干渉光の干渉信号)が得られない程度に、光路長を大幅に変化させて撮影動作を行うことで、ダークデータを取得することも可能である。さらに、OCT装置1は、撮影対象に測定光を走査したうえで、撮影対象についての干渉信号が含まれていない領域のデータによってダークデータを取得してもよい。ダークデータは、同一位置における複数のデータ(例えば、各々の位置の複数のAスキャンデータ)の平均によって求められてもよい。ダークデータでは、撮影対象等によって反射された反射光に起因する信号の増加が生じにくいので、ノイズフロアに起因する信号のみが表れやすくなる。従って、ダーク画像40において画素の輝度が高くなる要因は、ノイズフロアの影響である可能性が高い。
【0055】
図2に示すように、OCT装置の機器自体によってOCTデータの全体に発生するノイズフロアの強度は、データ取得位置の深さに依存して変化する。詳細には、ノイズフロアの強度は、データ取得位置の深さが深くなる程減衰していく。図2の輝度グラフ41に示されるように、OCTデータのノイズフロアは、データ取得位置の深さにほぼ比例して減衰していく傾向が見られる。
【0056】
また、OCTデータのノイズフロアは、OCT光源11および受光素子22等の種々の要素の影響によって変動し易いが、温度等の撮影環境の影響を受けにくいことが新たに判明した。さらに、受光素子22による単位時間当たりの干渉信号の取得回数を増加させると(つまり、受光素子22の露光時間を短くすると)、ノイズフロアの信号強度、および、深さに応じたノイズフロアの強度の変化量が、共に大きくなることが分かった。以下説明する処理では、上記で説明したノイズフロアの特性の少なくともいずれかを踏まえて、OCTデータ(本実施形態ではRAWデータ)が補正される。
【0057】
(OCTデータの補正方法)
本実施形態(第1~第3実施形態)におけるOCTデータ(RAWデータ)の補正方法について説明する。まず、比較対象として、RAWデータに画像の輝度を割り当てる(色を付与する)ための従来方法の一例について説明する。まず、受光素子22によって検出された干渉信号が処理されることで、RAWデータ「I(dB)」が取得される。次いで、RAWデータ「I」から、ノイズフロアとは異なるノイズの影響が生じやすい浅い領域のデータが除外されたデータが、データ「A」とされる。データ「A」にける平均輝度「μ」と標準偏差「σ」が算出される。閾値を「T=μ+σ」として、データ「A」が二値化される。データ「A」において、閾値「T」を超えた輝度のデータを前景(像が写る領域)のデータとし、前景のデータにおける平均輝度「μ」と標準偏差「σ」が算出される。次いで、オフセット値「C=μ」、およびゲイン値「G=1/(μ+3.75σ-C)」が求められる。求められたゲイン値「G」とオフセット値を用いて、「255*(I-C)/G」によって画像の輝度が割り当てられる。
【0058】
以上説明した例のように、従来方法では、RAWデータ(詳細には、RAWデータから一部の領域が除外されたデータA)から、データ取得位置の深さに関わらず、オフセット値として定数「C」が減算されるのみである。つまり、このような従来方法は、ノイズフロアの強度が深さに依存して変化することが考慮されずに行われている。その結果、ノイズフロアの影響が十分に抑制されない場合があった。これに対し、本実施形態では、OCTデータに対し、データ取得位置の深さに応じた補正処理が行われる。従って、データ取得位置の深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響が、適切に抑制される。
【0059】
前述したように、OCTデータのノイズフロアは、データ取得位置の深さにほぼ比例して減衰していく傾向が見られる。(図2参照)。従って、本実施形態のOCT装置1は、データ取得位置の深さの単位変化量当たりのノイズフロアの変動量に応じた補正係数「a」に、データ取得位置の深さ「z」を掛けた値を、RAWデータ(x、z)から減算することで、RAWデータの補正処理を行う。その結果、深さに依存して強度が変化するノイズフロアの影響が適切に抑制される。また、各々の深さにおける補正値「az」は、補正係数「a」と深さ「z」を掛けるだけで算出される。従って、処理速度の低下、およびメモリの容量の圧迫等が抑制された状態で、適切にノイズフロアの影響が抑制される。なお、補正係数「a」は、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータの一例である。また、本実施形態では、データ取得位置の深さにほぼ比例して減衰するノイズフロアの輝度値の変化から、切片「b」を算出し、切片「b」もRAWデータから減算する。その結果、ノイズフロアの影響が、OCTの感度等に関わらず適切に抑制され易くなる。
【0060】
(第1実施形態)
図3図5を参照して、第1実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行する処理について説明する。第1実施形態のOCT装置1は、補正パラメータ設定処理(図3参照)と、OCTデータ処理(図5参照)を実行する。補正パラメータ設定処理では、OCT装置1自身が実行した撮影動作によって取得されたOCTデータに基づいて、補正パラメータ(本実施形態では、前述した補正係数「a」と切片「b」)が、OCT装置1の個体毎に設定される。OCTデータ処理では、取得されたOCTデータ(RAWデータ)が、予め設定されている補正パラメータに基づいて補正されることで、ノイズフロアの影響が抑制される。
【0061】
図3および図4を参照して、補正パラメータ設定処理について説明する。第1実施形態の補正パラメータ設定処理を実行するタイミングは適宜選択できる。例えば、補正パラメータ設定処理は、OCT装置1が製造された以後、出荷される前に実行されてもよい。また、OCT装置1のメンテナンス時、または部品交換時等に、補正パラメータ設定処理が実行されてもよい。本実施形態では、OCT装置1のCPU31が、NVM34に記憶されたOCTデータ処理プログラムに従って、図3に示す補正パラメータ設定処理を実行する。ただし、補正パラメータ設定処理は、OCT装置1以外のデバイスのコントローラによって実行されてもよい。
【0062】
図3に示すように、CPU31は、走査レートを調整したうえで光走査部14等の駆動を制御することで、ダークデータを取得(撮影)する(S1)。走査レートについては後述する。前述したように、ダークデータとは、測定光の反射光の受光素子22への入射が遮断される状態で取得されるOCTデータである。ダークデータでは、撮影対象等によって反射された反射光に起因する信号の増加が生じにくいので、ノイズフロアに起因する信号のみが表れやすくなる。本実施形態では、OCT装置1における測定光の光路上に、測定光を遮断するシャッターが配置された状態で、ダークデータが取得される。
【0063】
CPU31は、S1で取得されたダークデータの信号強度に基づいて、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータを取得する(S2)。詳細には、本実施形態のS2では、ダークデータのデータ取得位置の深さに応じた信号強度の変動量に基づいて、補正パラメータの一例である補正係数「a」と切片「b」が取得される。従って、ノイズフロアに起因する信号のみが表れやすいダークデータに基づいて補正パラメータ(補正係数と切片)が取得されることで、実際に発生するノイズフロアに適した補正パラメータが、高い精度で取得され易くなる。また、S2では、OCT装置1自身が実際に撮影動作を行うことで取得されたOCTデータ(ダークデータ)に基づいて、補正パラメータ(補正係数と切片)が取得される。よって、ノイズフロアに装置の個体差が生じる場合でも、装置の個体に応じた適切な補正パラメータが設定され易くなる。
【0064】
ここで、図4を参照して、ダークデータに基づいて補正係数を設定するための方法の一例について説明する。図4に示すように、本実施形態では、CPU31は、ダークデータにおける深さ毎の信号強度についての近似直線LAを求める。近似直線LAは、例えば、最小二乗法によって求められる回帰直線等であってもよい。CPU31は、求められた近似直線LAの傾きに基づいて、補正係数を設定する。従って、設定された補正係数は、OCT装置1によって実際に取得されたダークデータのノイズフロアの状態に応じた、適切な係数となり易い。
【0065】
図3の説明に戻る。CPU31は、S2で取得された補正パラメータ(補正係数と切片)を、S1におけるダークデータの取得時(撮影時)の走査レートに対応する補正パラメータとして設定し、NVM34に記憶させる(S3)。走査レートは、光走査部14による測定光の走査速度と、受光素子22による単位時間当たりの干渉信号の取得回数によって定まる。前述したように、新たに得られた知見によると、受光素子22による単位時間当たりの干渉信号の取得回数を増加させると(つまり、受光素子22の露光時間を短くすると)、ノイズフロアの信号強度、および、深さに応じたノイズフロアの強度の変化量が、共に大きくなる。従って、露光時間のパラメータを含む走査レートに応じて、深さに応じたOCTデータの補正量(つまり、補正パラメータ)が設定されることで、より高い精度でノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0066】
次いで、補正パラメータ設定処理が完了したか否かが判断される(S4)。完了していなければ(S4:NO)、次のダークデータ取得時の走査レートが変更されたうえで(S5)、S1~S4の処理が繰り返される。その結果、走査レート(受光素子22の露光時間)に応じて複数の補正パラメータが設定される。補正パラメータ設定処理が完了すると(S4:YES)、処理は終了する。
【0067】
以上説明したように、第1実施形態では、OCT装置1自身が実行した撮影動作によって取得されたOCTデータ(本実施形態ではダークデータ)に基づいて、補正パラメータ(補正係数と切片)が、OCTデータ補正処理(図5参照)の実行前に予め設定される。前述したように、OCTデータのノイズフロアは、温度等の撮影環境の影響は受けにくい。従って、OCT装置1自身が取得したOCTデータに基づいて、補正パラメータがOCT装置1の個体毎に予め定められることで、OCTデータを取得する毎に補正パラメータを毎回設定する必要が無くなる。よって、簡易な処理で適切にノイズフロアの影響が抑制されやすくなる。
【0068】
図5を参照して、第1実施形態におけるOCTデータ処理について説明する。本実施形態では、OCT装置1のCPU31が、NVM34に記憶されたOCTデータ処理プログラムに従って、図5に示すOCTデータ処理を実行する。まず、CPU31は、データを補正する対象のOCTデータ(RAWデータ)が取得されたか否かを判断する(S11)。RAWデータが取得されていなければ(S11:NO)、S11の判断が繰り返される。データを補正する対象のRAWデータが取得されると(S11:YES)、CPU31は、RAWデータを取得(撮影)した際の走査レート(受光素子22の露光時間に関する情報でもよい)を特定する(S12)。
【0069】
CPU31は、補正係数「a」に、データ取得位置の深さ「z」を掛けた値を、深さに応じてRAWデータから減算することで、RAWデータの補正処理を実行する(S13)。その結果、簡易な処理で適切にノイズフロアの影響が抑制される。詳細には、S13では、CPU31は、走査レートに応じて設定された複数の補正パラメータ(補正係数)のうち、S12で特定した走査レートに対応する補正パラメータに基づいて、S11で取得したOCTデータの補正処理を行う。つまり、CPU31は、補正対象のOCTデータが取得された際の走査レートに応じて、OCTデータに対する補正処理を行う際の、深さに応じた補正量を変更する。その結果、走査レートに応じて変動するノイズフロアの影響が、さらに適切に抑制され易くなる。また、S13の処理で用いられる補正パラメータ(補正係数)は、OCT装置1自身が過去に実行した撮影動作によって取得されたOCTデータ(ダークデータ)に基づいて、OCT装置1の個体毎に予め設定されている。従って、補正対象のOCTデータを取得する毎に補正パラメータを毎回設定する必要が無くなる。なお、S13では、RAWデータから切片「b」も減算されることで、より適切にノイズフロアの影響が抑制される。
【0070】
CPU31は、S13の処理が行われた補正済みOCTデータに基づいて、画像データ(例えば、二次元断層画像または三次元断層画像等の画像データ)を生成する(S14)。S14で生成される画像データは、ノイズフロアの影響が抑制された高品質の画像データである。
【0071】
CPU31は、機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、S14で生成された画像データを入力することで、高画質画像のデータを取得する(S15)。S15で使用される数学モデルは、入力された画像データの画質を向上させた高画質画像のデータを出力するように予め訓練されている。ここで、ノイズフロアの影響が補正されていない画像データを数学モデルに入力しても、ノイズフロアの影響が抑制された高画質画像が得られない場合が多い。例えば、数学モデルに画像データを入力しても、ノイズフロアが存在していなければ表れないはずの輝度が高い部分が、数学モデルによって出力される画像に含まれてしまう場合もある。これに対し、ノイズフロアが補正された画像データが数学モデルに入力されることで、より高い画質の画像データが取得され易くなる。
【0072】
CPU31は、機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、S14で生成された画像データを入力することで、画像に写る層、および層間の境界の少なくともいずれか(以下、「特定の層・境界」という)の識別結果を取得する(S16)。S16で使用される数学モデルは、入力された画像(本実施形態では、二次元または三次元の断層画像)に含まれる特定の層・境界の識別結果を出力するように訓練されている。ノイズフロアの影響が抑制された断層画像のデータ(S14で生成された画像データ)に基づいて、特定の層・境界の識別結果が取得されることで、識別結果が高い精度で得られ易くなる。その後、処理はS11へ戻る。
【0073】
なお、CPU31は、組織の同一位置に関して異なる時間に取得された少なくとも2つのOCTデータに対して、データ取得位置の深さに応じた補正処理(S13)を実行したうえで、少なくとも2つのOCTデータに基づくモーションコントラスト画像(例えばOCTアンジオ画像等)を生成してもよい。この場合、ノイズフロアの影響が抑制された高品質のモーションコントラスト画像が生成され易くなる。
【0074】
また、CPU31は、データ取得位置の深さに応じた補正処理(S13)が行われたOCTデータに基づいて、Enface画像のデータを生成してもよい。Enface画像のデータは、例えば、測定光の光軸に交差するXY方向の各位置で深さ方向(Z方向)に輝度値が積算された積算画像データ、XY方向の各位置でのスペクトルデータの積算値、ある一定の深さ方向におけるXY方向の各位置での輝度データ、網膜のいずれかの層(例えば、網膜表層)におけるXY方向の各位置での輝度データ等であってもよい。この場合、ノイズフロアの影響が抑制された高品質のEnface画像が生成され易くなる。
【0075】
なお、第1実施形態では、補正パラメータはOCT装置1自身によって設定される。しかし、他のデバイスによって設定された補正パラメータが、OCT装置1によって取得されてもよい。また、OCT装置1によって取得されたOCTデータに基づいて、作業者が補正パラメータ(例えば補正係数等)を設定してもよい。作業者によって設定された補正パラメータが、NVM34等に記憶されてもよい。また、S14~S16等の処理の少なくともいずれかを省略することも可能である。
【0076】
(第2実施形態)
図6を参照して、第2実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行するOCTデータ処理について説明する。第2実施形態のOCTデータ処理では、補正対象のOCTデータ(RAWデータ)の撮影動作を行う毎に、補正パラメータ(本実施形態では補正係数と切片)を設定するためのダークデータが、RAWデータの撮影動作の前後に撮影される。ダークデータに基づいて設定された補正パラメータが用いられることで、RAWデータの補正処理が行われる。なお、第2実施形態で実行される各ステップのうち、第1実施形態で説明した処理と同様の処理を採用できるステップについては、説明を省略または簡略化する場合がある。
【0077】
まず、CPU31は、被検眼の組織の撮影実行指示が入力されたか否かを判断する(S21)。撮影実行指示が入力されていなければ(S21:NO)、S21の判断が繰り返される。撮影実行指示が入力されると(S21:YES)、CPU31は、光走査部14等を制御することで、被検眼の組織のOCTデータ(RAWデータ)を撮影する(S22)。さらに、CPU31は、S22の撮影動作における走査レートと同じ走査レートでダークデータを取得(撮影)する(S23)。
【0078】
CPU31は、S23において取得されたダークデータの信号強度に基づいて、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータを取得する(S24)。S24における処理および効果については、第1実施形態のS2(図5参照)における処理および効果と同様である。従って、S24の処理の詳細等についての説明は省略する。
【0079】
CPU31は、S24で取得された補正パラメータに基づいて、S22で取得されたRAWデータの補正処理を実行する(S25)。詳細には、CPU31は、S24で取得された補正係数「a」に、データ取得位置の深さ「z」を掛けた値を、深さに応じてRAWデータから減算することで、RAWデータの補正処理を実行する。さらに、RAWデータから切片「b」も減算される。前述したように、S25で使用される補正パラメータは、S22におけるRAWデータの撮影動作の前後(本実施形態では、RAWデータの撮影動作の直後)に撮影されたダークデータに基づいて設定されている。従って、ノイズフロアが撮影環境および装置の個体差等の影響を受ける場合でも、より適切にノイズフロアの影響が抑制され易くなる。また、ダークデータに基づいて補正パラメータが設定されることで、実際に発生するノイズフロアに適した補正パラメータが、高い精度で設定され易くなる。
【0080】
次いで、CPU31は、補正済みOCTデータに基づく画像データの生成処理(S26)、高画質化処理(S27)、および層・境界識別処理(S28)を実行する。なお、S26~S28の処理には、第1実施形態のS14~S16と同様の処理を採用できる。S26~S28の処理の少なくともいずれかを省略できることは言うまでもない。また、CPU31は、第1実施形態と同様に、モーションコントラスト画像の生成処理、および、Enface画像の生成処理等をさらに実行してもよい。
【0081】
(第3実施形態)
図7および図8を参照して、第3実施形態のOCT装置(OCTデータ処理装置)1が実行するOCTデータ処理について説明する。第3実施形態のOCTデータ処理では、補正対象のOCTデータ(RAWデータ)そのものに基づいて補正パラメータが設定され、設定された補正パラメータに基づいてRAWデータが補正される。なお、第3実施形態で実行される各ステップのうち、第1実施形態および第2実施形態で説明した処理と同様の処理を採用できるステップについては、説明を省略または簡略化する場合がある。
【0082】
まず、CPU31は、被検眼の組織の撮影実行指示が入力されたか否かを判断する(S31)。撮影実行指示が入力されていなければ(S31:NO)、S31の判断が繰り返される。撮影実行指示が入力されると(S31:YES)、CPU31は、光走査部14等を制御することで、被検眼の組織のOCTデータ(RAWデータ)を撮影する(S32)。
【0083】
CPU31は、S32で取得された組織のOCTデータ(RAWデータ)に基づいて、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータ(補正係数と切片)を取得する(S33)。S32で取得された組織のOCTデータは、ダークデータとは異なり、測定光の反射光の受光素子22への入射が許容される通常の状態で撮影されている。しかし、通常の状態で撮影されたOCTデータに基づいて補正パラメータを設定することも可能である。
【0084】
図8を参照して、通常の状態で撮影されたOCTデータに基づいて補正パラメータを設定するための方法の一例について説明する。図8の輝度グラフ51でも、図2と同様に、図面の下方である程(+Z方向へ進むほど)、データ取得位置の深さが深くなる。また、右方である程、信号強度(輝度)が大きいことを示す。図8に示す輝度グラフ51では、図2および図4に示す輝度グラフ41とは異なり、撮影対象による測定光の反射光によって信号強度が高くなった部位(つまり、像が写る部位)が存在する。しかし、像が写らない部位では、図2および図4に示す輝度グラフ41と同様に、ノイズフロアに起因する信号強度が表れている。従って、通常の状態で撮影されたOCTデータのうち、像が写らない部位における信号強度に基づいて補正パラメータ(本実施形態では補正係数と切片)を設定することができる。一例として、本実施形態では、CPU31は、取得されたOCTデータにおける深さ毎の信号強度に対して主成分分析を実行し、取得された第1主成分の傾き(図8に示す例では、直線LBの傾き)に基づいて補正係数を設定する。その結果、像が写らない部位における信号強度に基づいて補正係数が設定される。
【0085】
CPU31は、S33で取得された補正パラメータに基づいて、S32で取得されたRAWデータの補正処理を実行する(S34)。詳細には、CPU31は、S33で取得された補正係数「a」に、データ取得位置の深さ「z」を掛けた値を、深さに応じてRAWデータから減算することで、RAWデータの補正処理を実行する。さらに、RAWデータから切片「b」も減算される。前述したように、S34で使用される補正パラメータは、S32において取得されたRAWデータそのものに基づいて設定されている。従って、ノイズフロアが撮影環境および装置の個体差等の影響を受ける場合でも、より適切にノイズフロアの影響が抑制され易くなる。
【0086】
次いで、CPU31は、補正済みOCTデータに基づく画像データの生成処理(S35)、高画質化処理(S36)、および層・境界識別処理(S37)を実行する。なお、S35~S37の処理には、第1実施形態のS14~S16と同様の処理を採用できる。S35~S37の処理の少なくともいずれかを省略できることは言うまでもない。また、CPU31は、第1・第2実施形態と同様に、モーションコントラスト画像の生成処理、および、Enface画像の生成処理等をさらに実行してもよい。
【0087】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。上記実施形態で例示された複数の技術のうちの一部のみを実行することも可能である。例えば、走査レートまたは露光時間に応じてOCTデータの補正量を変更する処理等は、省略することも可能である。
【0088】
上記実施形態では、深さに応じたOCTデータの補正値を決定するための補正パラメータとして、補正係数が用いられている。しかし、OCTデータの補正処理の具体的な方法を変更することも可能である。例えば、CPU31は、OCTデータの補正量が、データ取得位置の深さ毎に規定された補正量データを、補正パラメータとして取得してもよい。CPU31は、補正量データによって深さ毎に規定された補正量を、深さに応じてOCTデータから減算することで、OCTデータの補正処理を行ってもよい。この場合、ノイズフロアが深さに比例しない装置等であっても、ノイズフロアの影響が適切に抑制される。補正量データの設定方法も適宜選択できる。例えば、図3のS2、および図6のS24において、CPU31は、S1またはS23で取得されたダークデータにおける深さ毎の信号強度を、OCTデータから深さ毎に減算する補正量データとして設定してもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 OCT装置
11 OCT光源
12 カップラー
14 光走査部
16 照射光学系
22 受光素子
31 CPU
34 NVM
40 ダークデータ
41,51 輝度グラフ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8