(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052030
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240404BHJP
B41J 19/18 20060101ALI20240404BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B41J2/01 107
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J19/18 A
B41J29/393 101
B41J29/393 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158463
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】金澤 学郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
2C480
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EB13
2C056EB36
2C056EB52
2C056EB58
2C056EC07
2C056EC35
2C056EC37
2C056EC77
2C056EE02
2C056FA10
2C056FA11
2C056FB01
2C061AP01
2C061AQ05
2C061KK13
2C061KK18
2C061KK22
2C061KK26
2C061KK33
2C480CA01
2C480CA20
2C480CA30
2C480CB30
(57)【要約】
【課題】直交方向における両ニップ位置間にズレがあり、さらに、直交方向から視たときにノズル列の配列方向が搬送方向に対して傾きが生じていても、記録画像の品質が低下するのを抑制する。
【解決手段】プリンタの制御部は、上流ニップ位置に対する下流ニップ位置のズレ方向と、仮想直線L1に対する仮想直線L2の傾き方向とに基づいて、インクジェットヘッド5を走査方向の一方又は他方の向きに移動させながらノズル5bからインクを吐出させて用紙に画像を記録したときの、当該画像の搬送方向に平行な仮想直線に対する傾き量が小さくなる走査方向の向きを決定する処理と、決定された走査方向の向きにインクジェットヘッド5を移動させながらノズル5bからインクを吐出させて用紙に画像を記録する処理と、を実行可能である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルが配列方向に沿って配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、
前記配列方向と交差する走査方向に前記液体吐出ヘッドを往復移動させる移動機構と、
シート状媒体を挟持しつつ回転することで前記走査方向に交差する搬送方向にシート状媒体を搬送する2組の搬送ローラ対と、
前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御する制御部とを備えており、
前記2組の搬送ローラ対のうち、一方の搬送ローラ対が前記液体吐出ヘッドよりも前記搬送方向上流に配置され、他方の搬送ローラ対が前記液体吐出ヘッドよりも前記搬送方向下流に配置されており、
前記制御部は、
前記走査方向及び前記配列方向に直交する直交方向において、前記一方の搬送ローラ対によってシート状媒体を挟持する上流ニップ位置に対する前記他方の搬送ローラ対によってシート状媒体を挟持する下流ニップ位置のズレ方向と、前記直交方向から視たときの、前記搬送方向に平行であって前記ノズル列を構成する複数のノズルのうち最も前記搬送方向上流にある上流ノズルを通る第1仮想直線に対する、前記配列方向に平行であって前記上流ノズルを通る第2仮想直線の傾き方向とに基づいて、前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の一方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録したときの、当該画像の前記搬送方向に平行な第3仮想直線に対する傾き量と、前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の他方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録したときの、当該画像の前記第3仮想直線に対する傾き量とのうち、当該傾き量が小さくなる前記走査方向の向きを決定する決定処理と、
前記決定処理によって決定された前記走査方向の向きに前記液体吐出ヘッドを移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録する単方向記録処理と、を実行可能であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
シート状媒体にテストパターンを記録するテストパターン記録処理を実行可能であり、
前記傾き方向は、前記テストパターン記録処理によってシート状媒体に記録されたテストパターンの結果に基づいて入力された値であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
シート状媒体に記録された画像を読み取る読み取り部を、さらに備えており、
前記制御部は、
シート状媒体にテストパターンを記録するテストパターン記録処理と、
前記テストパターン記録処理によりシート状媒体に記録されたテストパターンを前記読み取り部で読み取ることで得られた画像データから、前記ズレ方向、及び、前記傾き方向を示す情報を取得する取得処理と、を実行可能であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記ズレ方向に関するズレ量及び前記傾き方向に関する傾き量の両方が許容範囲内である第1条件を満たしているかを判定する第1判定処理と、
前記第1判定処理において前記第1条件を満たしていると判定された場合、前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の一方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録し、且つ前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の他方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録する双方向記録処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記ズレ方向に関するズレ量及び前記傾き方向に関する傾き量の両方が許容範囲を超えている第2条件を満たしているかを判定する第2判定処理と、
前記第2判定処理において前記第2条件を満たしていると判定された場合、前記決定処理及び前記単方向記録処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
シート状媒体への画像記録の開始から終了するまでの時間を短くする時間優先モードと、シート状媒体への記録画像の品質を優先する画質優先モードと、を選択的に設定可能であり、
前記画質優先モードを設定しているときに、前記決定処理及び前記単方向記録処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記制御部は、
シート状媒体に記録する画像の前記搬送方向の長さが所定長さよりも長い場合、前記決定処理及び前記単方向記録処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記決定処理において、前記傾き方向が前記ノズル列を構成する複数のノズルが前記搬送方向下流にあるほど前記第1仮想直線から前記他方の向き側に離れて配置されていることを示し、前記ズレ方向が前記直交方向において前記下流ニップ位置が前記上流ニップ位置よりも前記ノズル列から離れること示す場合、又は、前記傾き方向が前記ノズル列を構成する複数のノズルが前記搬送方向下流にあるほど前記第1仮想直線から前記一方の向き側に離れて配置されていることを示し、前記ズレ方向が前記直交方向において前記下流ニップ位置が前記上流ニップ位置よりも前記ノズル列に近づくこと示す場合、前記走査方向の向きを前記一方の向きに決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記決定処理において、前記傾き方向が前記ノズル列を構成する複数のノズルが前記搬送方向下流にあるほど前記第1仮想直線から前記他方の向き側に離れて配置されていることを示し、前記ズレ方向が前記直交方向において前記下流ニップ位置が前記上流ニップ位置よりも前記ノズル列に近づくこと示す場合、又は、前記傾き方向が前記ノズル列を構成する複数のノズルが前記搬送方向下流にあるほど前記第1仮想直線から前記一方の向き側に離れて配置されていることを示し、前記ズレ方向が前記直交方向において前記下流ニップ位置が前記上流ニップ位置よりも前記ノズル列から離れること示す場合、前記走査方向の向きを前記他方の向きに決定することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状媒体に液体を吐出して画像を記録する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、用紙(シート状媒体)に画像を記録する記録部と、用紙を搬送方向に搬送する搬送部とを含むプリンタについて記載されている。記録部は、複数のノズルが形成されたインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドを搬送方向と直交する走査方向に移動させるヘッド移動機構とを含む。搬送部は、インクジェットヘッドよりも搬送方向上流に配置された搬送ローラ対と、インクジェットヘッドよりも搬送方向下流に配置された排紙ローラ対とを有している。このプリンタでは、搬送部によって用紙を所定量搬送する搬送処理と、記録部によって用紙に画像を記録する画像記録処理とが交互に実行されることで、用紙に画像が記録される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、インクジェットヘッドの複数のノズルは、一方向に沿って配列され、ノズル列を構成している。インクジェットヘッドは、ノズル列が搬送方向に平行となるようにプリンタに取り付けられることが理想であるが、組み付け時の誤差などで、ノズル列が搬送方向に対して交差するように傾くことがある。このようにノズル列が搬送方向に対して傾いている状態で、インクジェットヘッドを走査方向に移動させながら同じノズル列に属するノズルから同じタイミングでインクを吐出する画像記録処理と搬送処理とが交互に繰り返されて、例えば、搬送方向に沿った線分が用紙に記録される。すると、各画像記録処理において記録された線分が搬送方向に対して傾くため、搬送方向に沿って隣接する2つの線分のうち、先に記録される線分の搬送方向上流端と後に記録される線分の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。このズレは、ノズル列の搬送方向に対する傾きが大きいほど、大きくなる。
【0005】
搬送ローラ対及び排紙ローラ対は、用紙を挟持するニップ位置に高低差が生じないようにプリンタの筐体に取り付けられる場合でも、組み付け時の誤差などで、両ニップ位置間に高低差(ズレ量)が生じることがある。また、搬送ローラ対及び排紙ローラ対は、両ニップ位置間に高低差が生じるようにプリンタの筐体に取り付けられる場合もある。いずれにしても、両ニップ位置間に高低差が生じると、搬送ローラ対と排紙ローラ対との間の用紙とノズル列の搬送方向上流に位置する上流ノズルとの間の距離と、当該用紙とノズル列の搬送方向下流に位置する下流ノズルとの間の距離とが異なる。両ニップ位置間に高低差がある状態で、上記のように搬送処理と画像記録処理とを交互に行って搬送方向に沿った線分を用紙に記録した場合、ノズルから用紙までの距離が遠いノズルから吐出されたインクほど用紙への着弾が遅れる。この結果、ノズルから用紙までの距離が遠いノズルから吐出されたインクにより記録された部分ほど、インクジェットヘッドの移動方向側にずれて記録される。つまり、用紙に記録された線分が搬送方向に対して傾く。
【0006】
上記ノズル列の搬送方向に対する傾きによって用紙に記録される画像の傾き方向と、両ニップ位置間の高低差によって用紙に記録される画像の傾き方向とが同じ方向である場合、用紙に記録された画像の傾きが大幅に大きくなる。このため、記録画像の品質が大幅に低下する問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、直交方向における両ニップ位置間にズレがあり、さらに、直交方向から視たときにノズル列の配列方向が搬送方向に対して傾きが生じていても、記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能な液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルが配列方向に沿って配列されたノズル列を有する液体吐出ヘッドと、前記配列方向と交差する走査方向に前記液体吐出ヘッドを往復移動させる移動機構と、シート状媒体を挟持しつつ回転することで前記走査方向に交差する搬送方向にシート状媒体を搬送する2組の搬送ローラ対と、前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御する制御部とを備えており、前記2組の搬送ローラ対のうち、一方の搬送ローラ対が前記液体吐出ヘッドよりも前記搬送方向上流に配置され、他方の搬送ローラ対が前記液体吐出ヘッドよりも前記搬送方向下流に配置されており、前記制御部は、前記走査方向及び前記配列方向に直交する直交方向において、前記一方の搬送ローラ対によってシート状媒体を挟持する上流ニップ位置に対する前記他方の搬送ローラ対によってシート状媒体を挟持する下流ニップ位置のズレ方向と、前記直交方向から視たときの、前記搬送方向に平行であって前記ノズル列を構成する複数のノズルのうち最も前記搬送方向上流にある上流ノズルを通る第1仮想直線に対する、前記配列方向に平行であって前記上流ノズルを通る第2仮想直線の傾き方向とに基づいて、前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の一方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録したときの、当該画像の前記搬送方向に平行な第3仮想直線に対する傾き量と、前記液体吐出ヘッドを前記走査方向の他方の向きに移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録したときの、当該画像の前記第3仮想直線に対する傾き量とのうち、当該傾き量が小さくなる前記走査方向の向きを決定する決定処理と、前記決定処理によって決定された前記走査方向の向きに前記液体吐出ヘッドを移動させながら前記ノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録する単方向記録処理と、を実行可能である。
【発明の効果】
【0009】
直交方向において両ニップ位置間にズレがある状態に起因する、液体のシート状媒体への着弾タイミングのズレによる画像品質に対する影響と、直交方向から視てノズル列が搬送方向に対して傾いている状態に起因する、液体のシート状媒体への吐出位置のズレによる画像品質に対する影響は、液体を吐出する際の走査方向の向きによっては、互いに相殺するように小さくすることができる。
本発明の液体吐出装置によると、直交方向における両ニップ位置間にズレがあり、さらに、直交方向から視たときにノズル列の配列方向が搬送方向に対して傾いている構成において、シート状媒体に記録される画像の搬送方向に対する傾きが小さくなる走査方向の向きを決定し、決定された走査方向の向きに液体吐出ヘッドを移動させながらノズルから液体を吐出させてシート状媒体に画像を記録する。したがって、記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【
図2】
図1に示すインクジェットヘッド及び移動機構の平面図である。
【
図3】
図1に示すプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示すプリンタで印刷を実行する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】記録設定処理を実行する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図1に示すインクジェットヘッドのノズル列が搬送方向に対して傾いたときの状況を示しており、(a)は傾き方向がプラス側であるときの状況を示す図であり、(b)は傾き方向がマイナス側であるときの状況を示す図である。
【
図7】(a)は
図6(a)に示すインクジェットヘッドで記録された線分を示す図であり、(b)は
図6(b)に示すインクジェットヘッドで記録された線分を示す図である。
【
図8】2組の搬送ローラ対が上下方向にズレて配置された状況を示しており、(a)は上流ニップ位置が下流ニップ位置よりも下方にあるときの状況を示す図であり、(b)は上流ニップ位置が下流ニップ位置よりも上方にあるときの状況を示す図である。
【
図9】(a)は2組の搬送ローラ対が
図8に示すように配置された状況でインクジェットヘッドによって左向きの単方向記録で記録された線分を示す図であり、(b)は2組の搬送ローラ対が
図8に示すように配置された状況でインクジェットヘッドによって右向きの単方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図10】
図6(a)に示すインクジェットヘッドによって双方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図11】2組の搬送ローラ対が
図8(a)に示すように配置され、
図6(a)に示すインクジェットヘッドによって右向きの単方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図12】2組の搬送ローラ対が
図8(b)に示すように配置され、
図6(b)に示すインクジェットヘッドによって右向きの単方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図13】2組の搬送ローラ対が
図8(a)に示すように配置され、
図6(b)に示すインクジェットヘッドによって左向きの単方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図14】2組の搬送ローラ対が
図8(b)に示すように配置され、
図6(a)に示すインクジェットヘッドによって左向きの単方向記録で記録された線分を示す図である。
【
図15】第1変形例にかかるプリンタで判定情報の設定制御を実行する際の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態にかかるプリンタ100について、図面を参照しつつ説明する。以下の説明においては、プリンタ100が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向及び前後方向が定義され、プリンタ100を前方から見て左右方向(
図1の紙面に垂直な方向)が定義される。
【0012】
プリンタ100は、
図1に示すように、筐体100a、給送カセット1、搬送部3、切断部4、インクジェットヘッド5、移動機構6、制御部8、排出トレイ9などを有する。
【0013】
給送カセット1は、筐体100a内においてインクジェットヘッド5の下方に配置されている。また、給送カセット1は、ロール状に巻回されたロール紙Rp及びカット紙Kpのいずれかの用紙Pを選択的に搬送可能なように、ロール体R及びカット紙Kpのいずれかを選択的に収容するものである。給送カセット1は、
図1に示すように、トレイ11と、ロール体Rを収容可能なロール体収容部20と、カット紙Kpを複数積層された状態で収容可能なカット紙収容部13とを有している。
【0014】
ロール体Rは、
図1に示すように、円筒状の芯部材Rcの外周面に長尺のロール紙(本発明の「シート状媒体」)Rpがロール状に巻回されたものである。カット紙(本発明の「シート状媒体」)Kpは、カット紙Kp及びロール紙Rpの搬送方向において、ロール体Rを構成する長尺のロール紙Rpよりも短尺の用紙であり、例えばA4サイズやB5サイズの用紙である。新品のロール体Rにおけるロール紙Rpの搬送方向の長さは、例えば、900mm、1200mm、2700mm等である。以降の説明において、ロール体Rから巻き解かれたロール紙Rpとカット紙Kpとを区別しない場合には、「用紙P」と称する場合がある。
【0015】
トレイ11は、
図1に示すように、上方に開口した箱形状を有する。トレイ11は、筐体100aに対して前後方向に沿って挿抜可能である。
【0016】
ロール体収容部20は、
図1に示すように、トレイ11の底壁11aの前方側に配置されており、ロール体Rの下側部分の外周面を支持しつつ当該ロール体Rを回転可能に支持する。ロール体Rは、その回転軸(芯部材Rcの中心軸)が左右方向(ロール紙Rpの幅方向)に沿った状態で、ロール体収容部20に収容される。
【0017】
ロール体収容部20は、
図1に示すように、ロール体Rを収容する凹部21を有する。凹部21の底部に、2つのローラ22,23が設けられている。2つのローラ22,23は、それぞれ、左右方向に延びる回転軸を中心として回転可能である。ロール体Rは、凹部21に収容されたとき、その下側部分の外周面が2つのローラ22,23に支持される。
【0018】
ロール体収容部20は、
図1に示すように、凹部21と連通しかつ上下方向に延びる孔25と、孔25と連通しかつ前後方向に延びる溝26とを有する。これら孔25及び溝26は、共に、ロール体収容部20の底面に開口している。ロール体Rから巻き解かれたロール紙Rpは、孔25及び溝26を通り、インクジェットヘッド5に向けて搬送される。
【0019】
カット紙収容部13は、
図1に示すように、ロール体収容部20よりも後方(すなわち、搬送方向に沿った下流側)部分の底壁11aにより構成されており、カット紙Kpを下方から支持しつつ収容する。カット紙収容部13は、カット紙Kpの長手方向が左右方向に一致し、幅方向が前後方向に一致する姿勢でカット紙Kpを収容する。
【0020】
搬送部3は、給送部41、3つの搬送ローラ対42~44及び搬送モータ45M(
図3参照)を有している。給送部41は、給送カセット1に収容されているロール体R及びカット紙Kpのいずれかの用紙Pを後方に向かって給送カセット1から送り出す。
【0021】
給送部41は、給送カセット1の上方に配置されており、給送ローラ41a、アーム41b及び給送モータ41M(
図3参照)を有する。給送ローラ41aは、アーム41bの先端に軸支されている。アーム41bは、支軸41cに回動自在に支持されている。アーム41bは、バネなどにより給送ローラ41aがトレイ11の底壁11aに接触する方向に付勢されている。また、アーム41bは、給送カセット1を着脱する際に上方へ退避可能に構成されている。給送ローラ41aは、給送モータ41Mからの駆動力が伝達されることで回転する。制御部8の制御により給送モータ41Mが駆動されると給送ローラ41aが回転し、トレイ11内に収容された用紙Pが後方に向かって送り出される。
【0022】
これら3つの搬送ローラ対42~44は、給送部41によって給送された用紙Pを、左右方向と直交する搬送方向に沿って筐体100a内で搬送する。3つの搬送ローラ対42~44は、搬送方向の上流側からこの順で配置されている。搬送ローラ対42は、給送部41によって給送カセット1から送り出された用紙Pを搬送ローラ対43に搬送する。搬送ローラ対43(本発明の「一方の搬送ローラ対」)は、搬送ローラ対42によって搬送された用紙Pを受け取ってインクジェットヘッド5側に送る。搬送ローラ対44(本発明の「他方の搬送ローラ対」)は、搬送ローラ対43によって搬送された用紙Pを受け取って排出する。
【0023】
搬送ローラ対43は、
図1に示すように、インクジェットヘッド5よりも搬送方向上流に配置されている。搬送ローラ対44は、インクジェットヘッド5よりも搬送方向下流に配置されている。これら2つの搬送ローラ対43,44(本発明の「2組の搬送ローラ対」)によって搬送される用紙Pは、後方から前方へと送られる。
【0024】
各搬送ローラ対42~44は、
図1に示すように、駆動ローラ42a~44aと、駆動ローラに連れ回る従動ローラ42b~44bと、で構成されている。各搬送ローラ対42~44の駆動ローラ42a~44aは、図示しない伝達機構を介して搬送モータ45Mから駆動力が伝達される。また、各搬送ローラ対42~44の従動ローラ42b~44bは、バネなどの付勢部材42c~44cによって駆動ローラ42a~44aに向けて付勢されている。これにより、各搬送ローラ対42~44が、駆動ローラ42a~44aと従動ローラ42b~44bとの間のニップ位置で用紙Pを挟持可能となる。そして、制御部8の制御により搬送モータ45Mが駆動されると、各搬送ローラ対42~44の駆動ローラ42a~44a及び従動ローラ42b~44bが用紙Pをニップした状態で回転し、用紙Pが搬送方向に搬送される。
【0025】
また、搬送ローラ対43は、
図1に示すように、搬送ローラ対44よりも下方に配置されている。つまり、搬送ローラ対43によって用紙Pを挟持する上流ニップ位置N1が搬送ローラ対44によって用紙Pを挟持する下流ニップ位置N2よりも下方に位置している。これら上流ニップ位置N1と下流ニップ位置N2は、上下方向(左右方向及び後述の配列方向に直交する方向:本発明の「直交方向」)において、インクジェットヘッド5のノズル5b(後述する)よりも下方に位置している。
【0026】
切断部4は、
図1に示すように、トレイ11の後方端部と搬送ローラ対42との間に位置している。切断部4は、左右方向に細長い固定刃4aと、固定刃4aと接触しつつ左右方向に移動可能な円板状の回転刃4bとを含んでいる。回転刃4bは、制御部8に制御された切断モータ4M(
図3参照)の駆動により、左右方向に沿って往復移動する。回転刃4bは、左右のどちらか一方向に移動するのに伴って、ロール紙Rp及び固定刃4aから回転モーメントを受けて従動回転する。ロール体Rから巻き解かれて搬送されたロール紙Rpは、切断部4により幅方向(左右方向)に切断される。これにより、排出トレイ9に送られるロール紙Rpに後端が形成される。
【0027】
インクジェットヘッド5は、
図2に示すように、複数のノズル5bと、ドライバIC5d(
図3参照)とを含む。複数のノズル5bは、インクジェットヘッド5の下面であるノズル面5aに形成されている。複数のノズル5bは、所定の配列方向に沿って配列されたノズル列5cが左右方向(以下、走査方向と称することがある)に4列形成されるように配置されている。インクジェットヘッド5は、ノズル列5cの配列方向が左右方向と交差するように配置される。本実施形態において、
図2中最も右側のノズル列に属するノズル5bからは、ブラックインクが吐出され、他の3列のノズル列に属するノズル5bからは、カラーインク(マゼンタ、シアン、イエロー)が吐出される。なお、
図2中最も左側のノズル列5cに属するノズル5bからは、マゼンタインクが吐出される。インクジェットヘッド5は、記録指令に基づく制御部8の制御によりドライバIC5dが駆動されると、ノズル5bから各色のインクを微小なインク滴として吐出され、搬送ローラ対43によって搬送された用紙Pに対して画像が記録される。
【0028】
移動機構6は、
図1及び
図2に示すように、キャリッジ6aと、2つのガイドレール6b,6cと、キャリッジモータ6M(
図3参照)とを有している。インクジェットヘッド5は、キャリッジ6aに搭載されている。2つのガイドレール6b,6cは、前後方向に互いに離隔して配置され、各々が左右方向に延設されている。キャリッジ6aは、2つのガイドレール6b,6cを跨ぐように配置されている。キャリッジ6aは、ベルト(不図示)などを介してキャリッジモータ6Mに接続されている。制御部8の制御によりキャリッジモータ6Mが駆動されると、キャリッジ6aがガイドレール6b,6cに沿って走査方向(左右方向)に移動する。
【0029】
排出トレイ9は、筐体100aの上部の前側の側壁を構成し、筐体100aに対して開閉可能である。インクジェットヘッド5により画像が形成された用紙Pは、搬送部3により前方に搬送されて開状態の排出トレイ9に受容される。これにより、用紙Pがプリンタ100(筐体100aの内部)から排出される。
【0030】
次に、
図3を参照しつつ、プリンタ100全体の制御を司る制御部8について説明する。制御部8は、バスによって互いに接続された、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82及びRAM(Random Access Memory)83、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)84、フラッシュメモリ85などを含む。そして、これらが協働して、ドライバIC5d、給送モータ41M、搬送モータ45M、キャリッジモータ6M、切断モータ4Mなどの動作を制御する。例えば、制御部8は、外部機器(例えばPCやスマートフォン)から送信された記録指令に基づいて、ドライバIC5d、給送モータ41M、搬送モータ45M、キャリッジモータ6M、切断モータ4M等を制御して、搬送処理と画像記録処理とを交互に実行し、用紙Pに画像を記録させる。なお、記録指令は、画像のサイズ等を示すヘッダーデータと、記録すべき画像の内容を示す画像データとを含んでいる。また、フラッシュメモリ85には、後述のズレ量G、傾き量θ、許容範囲Q1,Q2、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報が記憶されている。本実施形態においては、工場出荷前の検査により、予めズレ量G、傾き量θ、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報を取得し、これらをフラッシュメモリ85に記憶させている。
【0031】
搬送処理は、3つの搬送ローラ対42~44に所定改行量だけ用紙Pを搬送させる処理である。制御部8は、搬送モータ45Mを制御することによって、3つの搬送ローラ対42~44に搬送処理を実行させる。画像記録処理は、キャリッジ6aを左右方向に沿って移動させながら、ドライバIC5dを制御して、ノズル5bからインク滴を吐出させる処理である。そして、制御部8は、今回の搬送処理と次回の搬送処理との間、用紙Pの搬送を一時的に停止させ、用紙Pの搬送が停止している間に画像記録処理を実行する。つまり、制御部8は、画像記録処理において、キャリッジ6aを左向き(本発明の「走査方向の一方の向き」)または右向き(本発明の「走査方向の他方の向き」)に移動させながら、ノズル5bからインク滴を吐出させる1回のパスを実行する。これにより、用紙Pに対して1パス分の画像記録が実行される。制御部8は、搬送処理と画像記録処理とを交互に繰り返し実行することによって、用紙Pの画像記録可能な全領域に、画像記録することが可能である。つまり、制御部8は、複数回のパスで用紙Pに画像記録させる。
【0032】
なお、制御部8は、CPU81のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC84のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU81とASIC84とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、制御部8は、1つのCPU81が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU81が処理を分担して行うものであってもよい。また、制御部8は、1つのASIC84が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC84が処理を分担して行うものであってもよい。
【0033】
<印刷時の制御>
続いて、プリンタ100の印刷時の制御について説明する。プリンタ100では、印刷を実行するための記録指令を受け取ったときに、制御部8が、
図4のフローに沿って処理を行う。
【0034】
図4のフローについてより詳細に説明すると、制御部8は、まず、記録指令を受け取ったか否かを判定する(S1)。記録指令を受け取っていない場合(S1:NO)、S1を繰り返す。記録指令を受け取った場合(S1:YES)、制御部8は
図5に示すフローに沿って記録設定処理を実行する(S2)。
【0035】
図5のフローについてより詳細に説明すると、制御部8は、記録指令に基づいて今回の印刷がロール紙印刷であるか否かを判定する(S201)。なお、ロール紙印刷又はカット紙印刷であるか否かは、記録指令に含まれるヘッダーデータの画像のサイズに基づいて用紙Pの使用長(搬送方向に沿った用紙Pの長さ)を導出し判定される。つまり、記録する画像サイズ(搬送方向の長さ)がカット紙Kpに収まらない場合、長尺な用紙であるロール紙Rpに印刷するロール紙印刷と判定する。また、ヘッダーデータに用紙Pの使用長のデータが有る場合は当該データに基づいて判定してもよい。また、プリンタ100には、印刷時に使用するロール紙Rp(ロール体R)又はカット紙Kpが予めユーザによって収容されているものとする。
【0036】
ロール紙印刷でないと判定された場合(S201:NO)、制御部8はデフォルト設定又はカスタマイズ設定されたカット紙印刷の設定を維持する(S202)。つまり、カット紙印刷における設定がユーザによってカスタマイズされていない場合、デフォルト設定に維持される。カット紙印刷における設定がユーザによってカスタマイズされた場合、カスタマイズ設定が維持される。これらデフォルト設定及びカスタマイズ設定情報は、フラッシュメモリ85に記憶される。カット紙印刷の設定は、ノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる走査方向の向きが左向き又は右向きに設定された単方向記録、又は、ノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる走査方向の向きが左右交互に実行される双方向に設定された双方向記録が設定されている。なお、本実施形態におけるカット紙印刷のデフォルト設定では、単方向記録が設定されている。S202の処理が終了すると、記録設定処理のフローが終了する。
【0037】
一方、ロール紙印刷であると判定された場合(S201:YES)、制御部8は時間優先モードに設定されているか否かを判定する(S203)。なお、時間優先モードに設定されているか否かの判定は、時間優先モードのフラグがセットされているか否かで判定される。時間優先モードのフラグがフラッシュメモリ85に記憶されることで、当該フラグがセットされ、フラグがフラッシュメモリ85から消去されることで、フラグがリセットされる。また、本実施形態におけるデフォルトでは、時間優先モードのフラグはセットされておらず、画質優先モードのフラグがセットされている。つまり、ユーザによってカスタマイズされることで、時間優先モードのフラグが設定される。時間優先モードのフラグがセットされると、自動的に画質優先モードのフラグがリセット(フラッシュメモリ85から消去)される。また、画質優先モードのフラグがセットされると、自動的に時間優先モードのフラグがリセットされる。用紙Pに対する印刷を単方向記録で行う場合、画像記録処理における1回のパスでのインクジェットヘッド5の移動とは別に当該移動向きとは反対の向きへインクジェットヘッド5を移動させて戻す必要が生じる。一方、用紙Pに対する印刷を双方向記録で行う場合、画像記録処理における1回のパスでのインクジェットヘッド5の移動のみとなる。このため、双方向記録で印刷を行う方がインクジェットヘッド5を戻す必要がない分だけ、用紙Pに対する印刷を開始してから終了するまでに要する時間が短くなる。つまり、ユーザは、印刷に要する時間を短くしたいときに時間優先モードをセットする。
【0038】
時間優先モードに設定されている場合(S203:YES)、制御部8はインクジェットヘッド5の移動向きを双方向に設定する(S204)。つまり、フラッシュメモリ85にインクジェットヘッド5の移動向きを双方向に設定する情報が記憶される。S204の処理が終了すると、記録設定処理のフローが終了する。
【0039】
一方、画質優先モードに設定されており、時間優先モードに設定されていない場合(S203:NO)、制御部8は傾き量θが許容範囲Q1内であるか否かを判定する(S205)。
【0040】
ここで傾き量θについて説明する。インクジェットヘッド5は、ノズル列5cの配列方向が搬送方向と平行となるように取り付けられる。しかしながら、キャリッジ6aのガイドレール6b,6cへの組み付け時の誤差やインクジェットヘッド5のキャリッジ6aへの組み付け時の誤差などにより、
図6に示すように、ノズル列5cが搬送方向に対して傾くことがある。傾き量θは、
図6に示すように、仮想直線(本発明の「第1仮想直線」)L1に対する仮想直線(本発明の「第2仮想直線」)L2の傾き方向D1に関する角度である。仮想直線L1は、搬送方向に平行であってノズル列5cを構成する複数のノズル5bのうち最も搬送方向上流の上流ノズル5b1を通る。仮想直線L2は、ノズル列5cの配列方向に平行であって上流ノズル5b1を通る。本実施形態においては、
図6(a)に示すように傾き方向D1が走査方向の右向き側である場合、プラス側とし、
図6(b)に示すように傾き方向D1が走査方向の左向き側である場合、マイナス側とする。傾き方向D1がプラス側である場合、
図6(a)に示すようにノズル列5cのノズル5bが搬送方向下流にあるほど、仮想直線L1から走査方向の右向き側に離れて配置される。一方、傾き方向D1がマイナス側である場合、
図6(b)に示すようにノズル列5cのノズル5bが搬送方向下流にあるほど、仮想直線L1から走査方向の左向き側に離れて配置される。なお、4つのノズル列5cは互いに平行に形成されているため、1つのノズル列5cについての傾き方向D1及び傾き量θがわかればよい。また、傾き方向D1が走査方向の右向き側である場合、マイナス側とし、傾き方向D1が走査方向の左向き側である場合、プラス側としてもよい。この場合、後述のS209での判定を傾き方向D1がマイナスであるか否かを判定すればよい。
【0041】
許容範囲Q1は、
図6に示す範囲であり、搬送方向に対するノズル列5cの配列方向の傾きの許容範囲である。より詳細には、ノズル列5cが搬送方向に対して傾いていると、用紙Pに記録される記録画像が傾く。上流ニップ位置N1及び下流ニップ位置N2が同じ高さレベルにあり、
図6(a)に示すインクジェットヘッド5で、1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分H1,H2の画像を記録した場合、
図7(a)に示すように、1回目のパスにより記録される線分H1の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分H2の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。なお、1回目のパスと2回目のパスとの間には搬送処理が実行されている。このズレは、傾き量θが大きくなるほど大きくなる。また、同様に、
図6(b)に示すインクジェットヘッド5で、1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分H3,H4の画像を記録した場合は、
図7(b)に示すように、1回目のパスにより記録される線分H3の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分H4の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。許容範囲Q1は、これら線分H1(又はH3),H2(又はH4)に走査方向のズレが生じていてもほとんど目立たず、直線に見える程度の傾き量θとなる範囲に設定されている。
【0042】
図5に戻って、傾き量θが許容範囲Q1内である場合(S205:YES)、制御部8はズレ量Gが許容範囲Q2内であるか否かを判定する(S206)。
【0043】
ここでズレ量Gについて説明する。ズレ量Gは、
図8に示すように、ズレ方向D2に関する、上流ニップ位置N1と下流ニップ位置N2との間の上下方向における離隔量である。ズレ方向D2は、仮想直線L3に対する仮想直線L4の傾き方向である。仮想直線L3は、ノズル列5cの配列方向(ノズル面5aの面内方向)に平行であって上流ニップ位置N1を通る。仮想直線L4は、上流ニップ位置N1及び下流ニップ位置N2を通る。本実施形態においては、
図8(a)に示すようにズレ方向D2が上向き側である場合、プラス側とし、
図8(b)に示すようにズレ方向D2が下向き側である場合、マイナス側とする。ズレ方向D2がプラス側である場合、
図8(a)に示すように、ノズル列5cのノズル5bが搬送方向下流にあるほど、仮想直線L4に近づいて配置される。つまり、ズレ方向D2がプラス側である場合、上下方向において、下流ニップ位置N2が上流ニップ位置N1よりもノズル列5cに近い。一方、ズレ方向D2がマイナス側である場合、
図8(b)に示すようにノズル列5cのノズル5bが搬送方向下流にあるほど、仮想直線L4から離れて配置される。つまり、ズレ方向D2がマイナス側である場合、上下方向において、下流ニップ位置N2が上流ニップ位置N1よりもノズル列5cから離れる。本実施形態においては、
図8(a)に示すように、上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも下方に配置されている。これにより、インクジェットヘッド5に近づく方向に湾曲するカールが用紙P(特にロール紙Rp)に生じていても、搬送ローラ対43によって搬送された用紙Pを搬送ローラ対44によって挟持しやすくなる。なお、下流ニップ位置N2を上流ニップ位置N1よりも下方に配置した場合、インクジェットヘッド5から離れる方向に湾曲するカールが用紙P(特にロール紙Rp)に生じていても、搬送ローラ対43によって搬送された用紙Pを搬送ローラ対44によって挟持しやすくなる。なお、ズレ方向D2が上向き側である場合、マイナス側とし、ズレ方向D2が下向き側である場合、プラス側としてもよい。この場合、後述のS210、S213において、ズレ方向D2がマイナスであるか否かを判定すればよい。
【0044】
許容範囲Q2は、
図8に示す範囲であり、ノズル列5cに対する、2組の搬送ローラ対43,44間を搬送される用紙Pの傾きの許容範囲である。より詳細には、上流ニップ位置N1と下流ニップ位置N2とに高低差があると、その間の用紙Pとノズル5bとの離隔距離が搬送方向上流にあるものと下流にあるものとで異なる。これによって上流にあるノズル5bと下流にあるノズル5bとから吐出されたインク滴が用紙Pに着弾するタイミングが異なる。この着弾タイミングのズレは用紙Pに記録された記録画像に傾きとして現れる。つまり、ノズル列5cの配列方向が上下方向に直交し且つ搬送方向に平行となるようにインクジェットヘッド5が配置され、
図8(a)に示すように上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも下方にある状態で、インクジェットヘッド5を走査方向の左向きに移動させながら1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分J1,J2の画像を記録した場合、
図9(a)に示すように、1回目のパスにより記録される線分J1の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分J2の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。なお、1回目のパスと2回目のパスとの間には搬送処理が実行されている。このズレは、ズレ量Gが大きくなるほど大きくなる。また、同様な状態で、インクジェットヘッド5を走査方向の右向きに移動させながら1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分J3,J4の画像を記録した場合、
図9(b)に示すように、1回目のパスにより記録される線分J3の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分J4の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。このように走査方向の移動向きにかかわらず、同様にして走査方向にズレる。
【0045】
また、ノズル列5cの配列方向が上下方向に直交し且つ搬送方向に平行となるようにインクジェットヘッド5が配置され、
図8(b)に示すように上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも上方にある状態(ズレ量Gが
図8(a)に示すズレ量Gと同じとする)で、インクジェットヘッド5を走査方向の左向きに移動させながら1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分J5,J6の画像を記録した場合、
図9(a)中二点鎖線で示すように、1回目のパスにより記録される線分J5の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分J6の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。なお、1回目のパスと2回目のパスとの間には搬送処理が実行されている。また、線分J5,J6は、線分J3,J4と同様である。したがって、このズレも、ズレ量Gが大きくなるほど大きくなる。また、同様な状態で、インクジェットヘッド5を走査方向の右向きに移動させながら1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分J7,J8の画像を記録した場合、
図9(b)中二点鎖線で示すように、1回目のパスにより記録される線分J7の搬送方向上流端と、2回目のパスにより記録される線分J8の搬送方向下流端とが走査方向にズレる。このように走査方向の移動向きにかかわらず、同様にして走査方向にズレる。許容範囲Q2は、これら線分J1~J8に走査方向のズレが生じていてもほとんど目立たず、直線に見える程度のズレ量Gとなる範囲に設定されている。
【0046】
図5に戻って、ズレ量Gが許容範囲Q2内である場合(S206:YES)、S204に進む。このようにS205,S206を経由してS204に進んできた場合、傾き量θが許容範囲Q1内であり、ズレ量Gが許容範囲Q2内であるため、双方向記録で線分が記録されても、1回目のパスにより記録される線分の搬送方向上流端と2回目のパスにより記録される線分の搬送方向下流端とにズレが生じていてもほとんど目立たず、直線に見える。つまり、
図8(a)に示すように上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも下方にある状態で、
図6(a)に示すインクジェットヘッド5を双方向に移動させながら1のノズル列5cのノズル5bからインク滴を吐出して用紙Pに線分K1,K2を記録した場合、
図10に示すように1回目のパスにより記録される線分K1はインクジェットヘッド5が走査方向の一方の向き(左向き)に移動する際に記録される。この場合、線分K1は、上述の線分H1と線分J1(共に
図10中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、線分H1,J1よりも傾きが大きくなる。2回目のパスにより記録される線分K2はインクジェットヘッド5が走査方向の他方の向き(右向き)に移動する際に記録される。この場合、線分K2は、上述の線分H2と線分J4(共に
図10中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、線分H2,J4よりも傾きが小さくなる。この結果、線分K1の搬送方向上流端と、線分K2の搬送方向下流端とのズレが生じていてもほとんど目立たず、実際には2つの線分K1,K2が連続した直線に見える。
【0047】
ズレ量Gが許容範囲Q2を超える場合(S206:NO)、制御部8はデフォルト設定又はカスタマイズ設定されたロール紙印刷の設定を維持する(S207)。つまり、ロール紙印刷における設定がユーザによってカスタマイズされていない場合、デフォルト設定に維持される。ロール紙印刷における設定がユーザによってカスタマイズされた場合、カスタマイズ設定が維持される。本実施形態におけるロール紙印刷のデフォルト設定では、画質を優先するため、上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも下方にある場合、予め、傾き方向D1がプラスであると、走査方向の向きを右向きに設定されており、傾き方向D1がマイナスであると、走査方向の向きを左向きに設定された単方向記録に設定されている。また、ロール紙印刷におけるデフォルト設定では、上流ニップ位置N1が下流ニップ位置N2よりも上方にある場合、予め、傾き方向D1がプラスであると、走査方向の向きを左向きに設定されており、傾き方向D1がマイナスであると、走査方向の向きを右向きに設定された単方向記録に設定されている。S207の処理が終了すると、記録設定処理のフローが終了する。
【0048】
S205に戻って、傾き量θが許容範囲Q1を超えている場合(S205:NO)、制御部8はズレ量Gが許容範囲Q2内であるか否かを判定する(S208)。ズレ量Gが許容範囲Q2内である場合(S208:YES)、S207に進む。こうして記録設定処理のフローが終了する。
【0049】
ズレ量Gが許容範囲Q2を超えている場合(S208:NO)、制御部8は傾き方向D1がプラスであるか否かを判定する(S209)。フラッシュメモリ85に傾き方向D1がプラスである情報が記憶されている場合(S209:YES)、制御部8はズレ方向D2がプラスであるか否かを判定する(S210)。フラッシュメモリ85にズレ方向D2がプラスである情報が記憶されている場合(S210:YES)、制御部8はノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる走査方向の向きを右向き(単方向)と決定し設定する(S211)。こうして、記録設定処理のフローが終了する。
【0050】
一方、S210において、フラッシュメモリ85にズレ方向D2がマイナスである情報が記憶されている場合(S210:NO)、制御部8はノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる走査方向の向きを左向き(単方向)と決定し設定する(S212)。こうして、記録設定処理のフローが終了する。
【0051】
S209において、フラッシュメモリ85に傾き方向D1がマイナスである情報が記憶されている場合(S209:NO)、制御部8はズレ方向D2がプラスであるか否かを判定する(S213)。フラッシュメモリ85にズレ方向D2がマイナスである情報が記憶されている場合(S213:NO)、S211に進む。一方、フラッシュメモリ85にズレ方向D2がプラスである情報が記憶されている場合(S213:YES)、S212に進む。こうして、記録設定処理のフローが終了する。
【0052】
S209からS210を経由しS211に進むことで、走査方向の向きが右向きに設定される。このように走査方向の向きが設定されることで、記録される線分K3は、
図11に示すように、上述の線分H1と線分J3(共に
図11中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、搬送方向に沿った仮想直線(本発明の「第3仮想直線」)L5に対する傾き量が線分H1,J3よりも小さくなる。また、S209からS213を経由しS211に進むことで、走査方向の向きが右向きに設定される。このように走査方向の向きが設定されることで、記録される線分K4は、
図12に示すように、上述の線分H3と線分J7(
図12中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、搬送方向に沿った仮想直線L5に対する傾き量が線分H3,J7よりも小さくなる。
【0053】
S209からS210を経由しS212に進むことで、走査方向の向きが左向きに設定される。このように走査方向の向きが設定されることで、記録される線分K5は、
図13に示すように、上述の線分H1と線分J5(
図13中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、搬送方向に沿った仮想直線L5に対する傾き量が線分H1,J5よりも小さくなる。また、S209からS213を経由しS212に進むことで、走査方向の向きが左向きに設定される。このように走査方向の向きが設定されることで、記録される線分K6は、
図14に示すように、上述の線分H3と線分J1(
図14中二点鎖線で示す)とを合成した線分となり、搬送方向に沿った仮想直線L5に対する傾き量が線分H3,J1よりも小さくなる。
【0054】
次に、
図4のS3に戻って、制御部8は、S201と同様なS3を実行する。ロール紙印刷であると判定された場合(S3:YES)、制御部8はロール紙Rpの給送を開始する(S4)。つまり、制御部8は、給送モータ41M及び搬送モータ45Mを駆動させ、ロール体Rから巻き解かれたロール紙Rpをトレイ11からインクジェットヘッド5に向けて搬送する。そして、ロール紙Rpの先端が搬送ローラ対43へ到達したときに、当該ロール紙Rpの頭出しを実行する。頭出しにおいて、制御部8は、用紙Pを画像記録開始位置で停止させる。画像記録開始位置とは、用紙Pにおける画像記録領域の搬送方向の先端(下流端)が、複数のノズル5bのうち搬送方向の最下流に配置されたノズル5bと対向する位置である。
【0055】
また、S4において、制御部8は、キャリッジモータ6Mを駆動させて、キャリッジ6a(インクジェットヘッド5)を開始位置へ移動させる。開始位置は、画像記録処理(S5)が実行されるときのキャリッジ6aの移動開始位置であり、記録指令及び記録設定処理に基づいて決定される。S2の記録設定処理において設定されたインクジェットヘッド5の走査方向の向きが左又は右向きの単方向に設定されている場合、キャリッジ6aの移動開始位置は用紙Pに対して設定された向きの移動方向の上流となる。なお、S4において、用紙Pの給送から頭出しまでの動作と、キャリッジ6aの移動動作とは、並行して実行される。
【0056】
次に、制御部8は、S5において、画像記録処理を実行する。つまり、制御部8は、キャリッジ6aを開始位置から移動させながら、ノズル5bからインク滴を吐出させる1回のパスを実行する。このとき、1回のパスにおいて、ノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる向きは、S2の記録設定処理によって設定された向きとする。つまり、S204、S207、S211,S212のいずれかの処理による設定に基づいて、1回のパスを実行する。
【0057】
S2の記録設定処理において設定されたインクジェットヘッド5の走査方向の向きが左又は右向きの単方向に設定されている場合、1回のパスの終了後、用紙Pに対してその移動方向の上流側にキャリッジ6aを戻して停止させる。一方、S2の記録設定処理において設定されたインクジェットヘッド5の走査方向の向きが左右交互に実行される双方向に設定されている場合、1回のパスの終了後、用紙Pに対してその移動方向の下流側でキャリッジ6aを停止させる。
【0058】
次に、制御部8は、S6において、ロール紙Rpが切断されているか否かを判定する。ロール紙Rpの切断の有無の判定は、切断フラグがフラッシュメモリ85に記憶されているか否かで判定される。制御部8は、ロール紙Rpを切断したときに切断フラグをフラッシュメモリ85に記憶させる。なお、切断フラグは今回の印刷が終了すると、フラッシュメモリ85から消去される。ロール紙Rpが切断されている場合(S6:YES)、S9に進む。
【0059】
一方、切断されていない場合(S6:NO)、制御部8は、記録指令に基づいて、ロール紙Rpの後端となる位置が切断部4に到達したか否かを判定する(S7)。ロール紙Rpの後端となる位置が切断部4に到達していない場合(S7:NO)、S9に進む。
【0060】
ロール紙Rpの後端となる位置が切断部4に到達した場合(S7:YES)、制御部8が切断モータ4Mを駆動させ、ロール紙Rpを切断する切断処理を実行する(S8)。このとき、上述したように切断フラグをフラッシュメモリ85に記憶させる。
【0061】
次に、制御部8は、S9において、記録指令に基づいたロール紙Rpへの画像記録が終了したか否かを判定する。ロール紙Rpへの画像記録が終了していない場合(S9:NO)、S10に進み、搬送処理が実行される。
【0062】
次に、制御部8は、S10において、搬送モータ45Mを駆動させて、3つの搬送ローラ対42~44にロール紙Rpを所定改行量だけ搬送させる。この後、S5に戻り、制御部8は、S5~S9の処理を再び実行する。一方、ロール紙Rpへの画像記録が終了した場合(S9:YES)、画像が記録されたロール紙Rpを排出し、フローを終了する。このとき、フラッシュメモリ85に切断フラグが記憶されている場合、制御部8は切断フラグをフラッシュメモリ85から消去する。
【0063】
S3に戻って、ロール紙印刷でないと判定された場合(S3:NO)、制御部8はカット紙Kpの給送を開始する(S11)。つまり、制御部8は、給送モータ41M及び搬送モータ45Mを駆動させ、カット紙Kpをトレイ11からインクジェットヘッド5に向けて搬送する。そして、カット紙Kpの先端が搬送ローラ対43へ到達したときに、ロール紙Rpのときと同様にカット紙Kpの頭出しを実行する。このとき、制御部8は、キャリッジ6aをS4のときと同様に開始位置へ移動させる。
【0064】
次に、制御部8は、S12において、画像記録処理を実行する。つまり、制御部8は、キャリッジ6aを開始位置から移動させながら、ノズルからインク滴を吐出させる1回のパスを実行する。このとき、1回のパスにおいて、ノズル5bからインク滴を吐出させながらインクジェットヘッド5を移動させる向きは、S2の記録設定処理によって設定された向きとする。つまり、S202で維持されたデフォルト設定又はカスタマイズ設定に基づいて、1回のパスを実行する。
【0065】
次に、制御部8は、S13において、記録指令に基づいたカット紙Kpへの画像記録が終了したか否かを判定する。カット紙Kpへの画像記録が終了していない場合(S13:NO)、S14に進み、搬送処理が実行される。
【0066】
次に、制御部8は、S14において、搬送モータ45Mを駆動させて、3つの搬送ローラ対42~44にカット紙Kpを所定改行量だけ搬送させる。この後、S12に戻り、制御部8は、S12,S13の処理を再び実行する。一方、カット紙Kpへの画像記録が終了した場合(S13:YES)、画像が記録されたカット紙Kpを排出し、フローを終了する。
【0067】
以上に述べたように、両ニップ位置N1,N2間に高低差がある状態に起因するインク滴の用紙Pへの着弾タイミングのズレによる画像品質に対する影響と、上下方向から視てノズル列5cが搬送方向に対して傾いている状態に起因するインク滴の用紙Pへの吐出位置のズレによる画像品質に対する影響は、インク滴を吐出する際の走査方向の向きによっては、互いに相殺するように小さくすることができる。本実施形態のプリンタ100によると、印刷が行われる際に、S2の記録設定処理が実行される。S2の記録設定処理においては、S209からS213の処理(本発明の「決定処理」)が行われる。これにより、上下方向における両ニップ位置N1,N2間にズレがあり、さらに、上下方向から視たときにノズル列5cの配列方向が搬送方向に対して傾いている構成において、用紙Pに記録される画像の搬送方向に対する傾きが小さくなる走査方向の向きが決定される。つまり、ノズル5bからインク滴を吐出しながらインクジェットヘッド5を移動させる走査方向の向きが決定され、設定される。そして、S5の画像記録処理において、決定された走査方向の向きにインクジェットヘッド5を移動させながらノズル5bからインク滴を吐出させて用紙Pに画像を記録する。したがって、記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0068】
本実施形態においては、ロール紙印刷を行う際に、S209~S213の処理を実行することがあり、これら処理により設定された走査方向の向きにインクジェットヘッド5を移動させながらノズル5bからインク滴を吐出して画像を記録するが、カット紙印刷を行う際にも、S209~S203の処理を実行してもよい。こうすれば、カット紙印刷により記録された記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0069】
また、制御部8は、S205及びS206により、傾き量θが許容範囲Q1内であり、ズレ量Gが許容範囲Q2内である条件(本発明の「第1条件」)を満たしているかを判定する(本発明の「第1判定処理」)。そして、当該条件を満たしている場合、S206からS204へと進む。これにより、S5の画像記録処理において、ロール紙Rpに双方向記録を行うことが可能となる(本発明の「双方向記録処理」)。このように傾き量θ、ズレ量Gの両方が許容範囲Q1,Q2内である場合、双方向記録を行っても、記録画像の品質が低下し難い。そこで、このような場合には双方向記録を行うことで、記録画像の品質が低下するのを抑制しつつ、ロール紙Rpに対する画像記録が終了するまでの時間が長くなるのを抑制することが可能となる。
【0070】
また、制御部8は、S205及びS208により、傾き量θが許容範囲Q1を超え、ズレ量Gが許容範囲Q2を超えている条件(本発明の「第2条件」)を満たしているかを判定する(本発明の「第2判定処理」)。そして、当該条件を満たしている場合、S208からS209へと進み、決定処理(S209~S2013)が実行される。これにより、S5の画像記録処理において、ロール紙Rpに単方向記録を行うことが可能となる(本発明の「単方向記録処理」)。このように傾き量θ、ズレ量Gの両方が許容範囲Q1,Q2を超えている場合、設定された走査方向の向きにより単方向記録を行うことが可能となる。このため、ロール紙Rpに記録される画像の傾きを小さくして記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0071】
また、制御部8は、S203において、画質優先モードを設定していると判定したときに、S209に進むことが可能となる。つまり、上述したように、S209~S213の処理を行うことが可能となる。これにより、S5の画像記録処理において、ロール紙Rpに単方向記録を行うことが可能となる。つまり、画質優先モードにおいて、ロール紙Rpに記録される画像の傾きを小さくして記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0072】
搬送方向に沿って長尺な画像をロール紙Rpに記録する場合、搬送方向に対するノズル列5cの配列方向の傾き、及び、上下方向における両ニップ位置N1,N2間のズレに起因する、ロール紙Rpに記録される画像の傾きが顕著化し得る。本実施形態における制御部8は、S201において、搬送方向に沿って長尺な画像を記録するロール紙印刷であると判定したときに、S209に進むことが可能となる。つまり、上述したように、S209~S213の処理を行うことが可能となる。これにより、S5の画像記録処理において、ロール紙Rpに単方向記録を行うことが可能となる。したがって、ロール紙Rpに記録される画像の傾きを小さくして記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0073】
また、制御部8は、S209からS210に進み、S210においてズレ方向D2がマイナスであると判定した場合、S212に進む。また、制御部8は、S209からS213に進み、S213においてズレ方向D2がプラスであると判定した場合、S212に進む。これにより、上下方向における両ニップ位置N1,N2の位置関係、及び、搬送方向に対するノズル列5cの配列方向の傾き方向に応じて、ロール紙Rpに記録される画像の搬送方向に対する傾きが小さくなる走査方向の向きを決定することが可能となる。
【0074】
また、制御部8は、S209からS210に進み、S210においてズレ方向D2がプラスであると判定した場合、S211に進む。また、制御部8は、S209からS213に進み、S213においてズレ方向D2がマイナスであると判定した場合、S211に進む。これにより、上下方向における両ニップ位置N1,N2の位置関係、及び、搬送方向に対するノズル列5cの配列方向の傾き方向に応じて、ロール紙Rpに記録される画像の搬送方向に対する傾きが小さくなる走査方向の向きを決定することが可能となる。
【0075】
また、変形例として、制御部8が、S201において、ロール紙印刷であると判定した場合、S209に進んでもよい。こうすれば、搬送方向に沿って長尺な画像を記録するロール紙印刷において記録された記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。また、制御が簡単になる。
【0076】
また、変形例として、S2の記録設定処理においてS201を省略してもよい。この場合、S2の記録設定処理に進んできたときに、S203を実行し、当該S203において、画質優先モードに設定されていると判定した場合、S209に進んでもよい。こうすれば、画質優先モードにおいて用紙Pに記録される記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。また、制御が簡単になる。
【0077】
また、変形例として、S203において画質優先モードが設定されていると判定された場合、S209に進んでもよい。こうすれば、用紙Pに記録される記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。また、制御が簡単になる。
【0078】
また、フラッシュメモリ85に記憶されている傾き量θ、ズレ量G、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報の少なくともいずれかをプリンタ100の初期設定時に導出し、フラッシュメモリ85に記憶してもよい。第1変形例においては、プリンタ100が用紙Pに記録された画像を読み取ることが可能なスキャナ19(
図3中二点鎖線で示す:本発明の「読み取り部」)を有していてもよい。スキャナ19は、制御部8に接続されており、読み取った画像データを制御部8に出力する。この変形例においては、プリンタ100で用紙Pに記録された画像をスキャナ19で読み取り、当該スキャナ19で読み取ることで得られた画像データにより、制御部8が傾き量θ、ズレ量G、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報を導出し、フラッシュメモリ85に記憶する。そして、フラッシュメモリ85に記憶された当該情報に基づいて制御部8がS2の記録設定処理を行えばよい。本変形例においては、後述の判定情報の設定制御が行われるまで、フラッシュメモリ85には傾き量θ、ズレ量G、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報が記憶されていない。
【0079】
<判定情報の設定制御>
本変形例のプリンタ100において判定情報を設定する際の制御について説明する。プリンタ100において判定情報を設定するときには、制御部8は、
図15のフローに沿って処理を行う。
【0080】
図15のフローについてより詳細に説明すると、制御部8は、プリンタ100の電源投入が初期の電源投入であるか否かを判定する(S301)。つまり、本変形例における判定情報の設定は、プリンタ100の初期電源投入時に行われる。なお、判定情報の設定タイミングは、初期電源投入時以外の適宜のタイミング(例えば、初めて用紙Pに印刷を実行するまでのタイミング)に設定していてもよい。プリンタ100の電源投入が初期の電源投入でない場合(S301:NO)、制御部8はフローを終了する。
【0081】
一方、プリンタ100の電源投入が初期の電源投入である場合(S301:YES)、テスト記録処理を実行する(S302)。テスト記録処理では、上記のS11~S14と同様な処理を順に実行することで行われる。このテスト記録処理におけるS12では、キャリッジモータ6M及びドライバIC5dを制御して、カット紙Kpにまずは第1テストパターンを記録する。
【0082】
第1テストパターンは、ブラック線とマゼンタ線とを重ねた4つのブロック画像が2行2列で配置された集合体である。また、第1テストパターンは、ノズル列5cの搬送方向の傾きを検査するテストパターンである。このブロック画像の集合体は、4つのノズル列5cのうち最も外側の2つのノズル列を構成する複数のノズル5bからインク滴が吐出されてカット紙Kpに記録される。
【0083】
次に、カット紙Kpを所定量搬送した後、第2テストパターンをカット紙Kpに記録する。第2テストパターンは、上流側線分と下流側線分とでなり、上流ニップ位置N1と下流ニップ位置N2とのズレを検査するテストパターンである。上流側線分は、1のノズル列5cを構成する複数のノズル5bのうち、搬送方向の中央よりも上流側にある複数の上流側ノズルからインク滴を吐出することで形成される。下流側線分は、1のノズル列5cを構成する複数のノズル5bのうち、搬送方向の中央よりも下流側にある複数の下流側ノズルからインク滴を吐出することで形成される。また下流側線分は、上流側線分がカット紙Kpに記録されてからカット紙Kpを所定量搬送してから、上流側線分を記録したときと同じタイミングで下流側ノズルからインク滴を吐出することで形成される。
【0084】
第2テストパターンの記録が終了した後、カット紙Kpを排出する。こうして、テスト記録処理が終了する。
【0085】
次に、制御部8は、S302により画像の記録されたカット紙Kpの画像を、ユーザがスキャナ19により読み取りを開始したか否かを判定する(S303)。ユーザは、テスト記録処理を実行した後、画像の記録されたカット紙Kpをスキャナ19にセットする。そして、ユーザは、プリンタ100に設けられた開始ボタン(不図示)を押して、スキャナ19によりカット紙Kpの画像の読み取りを開始する。この一連の動作をユーザが実行する、つまり、開始ボタンが押されることで、制御部8がスキャナ19による読み取りを開始したと判定する。一方、開始ボタンが押されない場合は、制御部8はスキャナ19による読み取りが開始されていないと判定する。スキャナ19による読み取りが開始されない場合(S303:NO)、S303を繰り返して、待機する。
【0086】
一方、スキャナ19により読み取りが開始された場合(S303:YES)、制御部8は、第1テストパターンの集合体の輝度情報及び第2テストパターンにおける上流側線分と下流側線分との走査方向のズレ情報を取得する取得処理を実行する(S304)。取得処理では、スキャナ19で読み取った画像データより、輝度情報及びズレ情報を取得する。制御部8は、4つのブロック画像の輝度情報が予め記憶された輝度情報と比較し、傾き量θ及び傾き方向D1の情報を得る。制御部8は、今回得たズレ情報からズレ量G及びズレ方向D2の情報を算出して得る。
【0087】
次に、制御部8は、記憶処理を実行する(S305)。記憶処理では、S304で取得した傾き量θ、ズレ量G、傾き方向D1及びズレ方向D2を示す情報をフラッシュメモリ85に記憶させる。こうして、判定情報の設定フローが終了する。
【0088】
以上のような第1変形例においても、判定情報の設定制御によってフラッシュメモリ85に記憶された判定情報に基づいて、上述したS2の記録設定処理を実行することで、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。また、プリンタ100がユーザの手元に届いてから印刷を行うまでの間に、判定情報をフラッシュメモリ85に記憶させることが可能となる。このため、プリンタ100がユーザの手元に届いた以降のプリンタ100の状態を反映した判定情報に基づいて、上述したS2の記録設定処理を実行することができる。したがって、走査方向の向きの設定を適切に行うことが可能となる。
【0089】
第2変形例として、上述のS302のテスト記録処理において、第1テストパターンのみをカット紙Kpに印刷してもよい。この場合、カット紙Kpに記録された第1テストパターンの結果に基づいてユーザが傾き量θ及び傾き方向D1を示す情報をプリンタ100の操作部(不図示)を操作して入力し、フラッシュメモリ85に記憶させてもよい。なお、ズレ量G、ズレ方向D2を示す情報は上述の実施形態と同様に、予めフラッシュメモリ85に記憶されている。以上のような第2変形例においても、第1変形例と同様な効果を得ることができる。
【0090】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態におけるカット紙印刷のデフォルト設定は、適宜設定可能であり、双方向記録が設定されていてもよい。また、ロール紙印刷のデフォルト設定においても、適宜設定可能であり、双方向記録に設定されていてもよい。また、カット紙印刷及びロール紙印刷のデフォルト設定において、モノクロ印刷やカラー印刷に応じて、単方向や双方向を予め設定していてもよい。
【0091】
上記実施形態においては、制御部8が、S201において、搬送方向に沿って長尺な画像を記録するロール紙印刷であるか否かを判定しているが、シート状媒体に記録する画像の搬送方向の長さが所定長よりも長いか否かを判定してもよい。そして、所定長よりも長い場合(S201:YES)、ロール状に巻回されたロール体Rから繰り出されるロール紙Rp以外の長尺なシート状媒体(例えば、A3サイズ、B4サイズのカット紙Kpや規格サイズ以外のロール状に巻回されていないシート状媒体)に対して長尺な画像を印刷してもよい。つまり、長尺な画像を記録するシート状媒体はロール紙Rpに限定されない。そして、この場合に、S209に進むことが可能であればよい。これにおいても上記と同様に、長尺なシート状媒体に単方向記録を行うことが可能となる。したがって、長尺なシート状媒体に記録される画像の傾きを小さくして記録画像の品質が低下するのを抑制することが可能となる。
【0092】
上記実施形態においては、ロール紙印刷又はカット紙印刷であるか否かは、記録指令に含まれるヘッダーデータの画像のサイズに基づいて用紙Pの使用長(搬送方向に沿った用紙Pの長さ)を導出し判定されているが、記録指令にロール紙印刷であるか否かの情報が含まれていてもよい。この場合、制御部8は、S201において、当該情報に基づいてロール紙印刷か否かを判定すればよい。これにおいても、シート状媒体に記録する画像の搬送方向の長さが所定長よりも長い場合、S201においてロール紙印刷であると判定され、上記と同様な効果を得ることができる。
【0093】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出ヘッドを有する液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出ヘッドを有する装置)にも適用可能である。吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板等であってもよい。ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【符号の説明】
【0094】
5 インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)
5b ノズル
5c ノズル列
6 移動機構
8 制御部
19 スキャナ(読み取り部)
43 搬送ローラ対
44 搬送ローラ対
D1 傾き方向
D2 ズレ方向
G ズレ量
L1 仮想直線(第1仮想直線)
L2 仮想直線(第2仮想直線)
L5 仮想直線(第3仮想直線)
N1 上流ニップ位置
N2 下流ニップ位置
Q1,Q2 許容範囲
θ 傾き量