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  • 特開-加硫接着剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052040
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】加硫接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 161/06 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
C09J161/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158477
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直人
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EB031
4J040HB31
4J040HD37
4J040JA02
4J040JB05
4J040KA30
4J040KA38
4J040MA02
4J040MA12
(57)【要約】
【課題】従来の接着性能を維持しながら、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る加硫接着剤組成物は、水溶性フェノール樹脂、メルカプトシランカップリング剤、界面活性剤、および水を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フェノール樹脂、メルカプトシランカップリング剤、界面活性剤、および水を含む、加硫接着剤組成物。
【請求項2】
水溶性溶剤をさらに含む、請求項1に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項3】
前記メルカプトシランカップリング剤と前記水溶性フェノール樹脂とを、1:3~5:1の重量比で含有する、請求項1に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項4】
前記メルカプトシランカップリング剤と前記界面活性剤とを、4:1~4:8の重量比で含有する、請求項1に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項5】
前記水と前記水溶性溶剤とを、7:3~2:8の重量比で含有する、請求項2に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項7】
前記水溶性フェノール樹脂が、高水溶性レゾール型フェノール樹脂である、請求項1に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項8】
前記水溶性溶剤が、プロピレングリコールである、請求項2に記載の加硫接着剤組成物。
【請求項9】
金属とニトリルブタジエンゴムとの加硫接着に用いられる、請求項1~8のいずれか1項に記載の加硫接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属とニトリルブタジエンゴム(NBR)との加硫接着剤として、例えば、特許文献1には、ハイオルソ型ノボラックフェノール樹脂、シランカップリング剤、および未加硫のNBRを添加し、有機溶媒溶液として調製した加硫接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/216380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、溶媒として有機溶媒を使用しているため、これらの溶媒の揮散による環境汚染、および作業者への健康被害等が懸念される。したがって、上述のような従来技術は、環境面、および作業場の衛生安全面の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明の一態様は、従来の接着性能を維持しながら、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加硫接着剤組成物は、水溶性フェノール樹脂、メルカプトシランカップリング剤、界面活性剤、および水を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、従来の接着性能を維持しながら、水系であるため、環境汚染を抑制し、かつ作業場の衛生安全面に優れる加硫接着剤組成物を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本願実施例において剥離試験に供したサンプルの表面を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組合せた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
<1.加硫接着剤組成物>
(水溶性フェノール樹脂)
本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物は、水溶性フェノール樹脂を含む。水溶性フェノール樹脂としては、特に限定されないが、水溶性レゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。水溶性レゾール型フェノール樹脂は、下記一般式で表すことができる。なお、下記一般式中、nは1以上である。
【0011】
【化1】
【0012】
水溶性レゾール型フェノール樹脂は、アルカリ金属等の塩基性触媒下において、フェノール類とホルムアルデヒドとを反応させることにより得られる。ここで、フェノール類としては、例えば、m-およびp-クレゾール、これらの混合物、フェノール、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0013】
水溶性フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることにより、硬化剤を添加する必要がない。ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては従来、ヘキサメチレンテトラミンが用いられることが広範囲に知られているが、添加することにより焼付炉および/またはその周辺での汚染が懸念されていた。したがって、水溶性フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることにより、硬化剤を添加する必要がなく、前記のような懸念が生じない。
【0014】
さらに、金属とニトリルブタジエンゴム(NBR)との接着性の観点から、水溶性レゾール型フェノール樹脂の中でも、高水溶性レゾール型フェノール樹脂であることが特に好ましい。本明細書において、「高水溶性レゾール型フェノール樹脂」には、水溶液の形態で販売されているものも含む。本明細書において、「高水溶性」とはフェノール樹脂(水溶液)に水を加えて20倍以上の高い希釈倍率でも希釈できる性質を意味する。高水溶性レゾール型フェノール樹脂水溶液としては、市販品をそのまま使用できる。高水溶性フェノール樹脂水溶液の市販品としては、例えば、BRL-2854、BRL-141B(いずれもアイカ工業(株)製)、PR-961A(住友ベークライト(株)製)が挙げられる。
【0015】
(メルカプトシランカップリング剤)
加硫接着剤組成物は、メルカプトシランカップリング剤を含む。メルカプトシランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン((CHO)SiCSH)、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン((CHCHO)Si(C)SH)、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン((CHO)Si(CH)(C)SH)等が挙げられる。
【0016】
(界面活性剤)
加硫接着剤組成物は、界面活性剤を含む。界面活性剤としては公知のものを使用できるが、接着の観点から、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
【0017】
(水)
加硫接着剤組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水、蒸留水、RO水等を使用することができる。ここで、「RO水」とは、RO(=Reverse Osmosis:逆浸透)膜を通して不純物を除去された水を指す。
【0018】
(水溶性溶剤)
前記加硫接着剤組成物は、水溶性溶剤をさらに含んでいてもよい。水溶性溶剤としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらのうち、衛生安全面の観点からプロピレングリコールが好ましい。
【0019】
〔加硫接着剤組成物に含まれる成分の重量比〕
加硫接着剤組成物に含まれるメルカプトシランカップリング剤と水溶性フェノール樹脂との重量比は、金属とNBRとの接着性の観点から1:3~5:1であることが好ましく、1:2~4:1であることがより好ましく、3:4~2:1であることがさらに好ましく、1:1~2:1であることがよりさらに好ましく、4:3~2:1であることが特に好ましい。なお、加硫接着剤組成物中に含まれる水溶性フェノール樹脂が水溶液の形態である場合、水溶性フェノール樹脂水溶液に溶媒として含まれる水の重量は、前記重量比において水溶性フェノール樹脂の重量に含まれる。
【0020】
加硫接着剤組成物に含まれるメルカプトシランカップリング剤と界面活性剤との重量比は、金属とNBRとの接着性の観点から4:1~4:8であることが好ましく、4:4~4:5であることが特に好ましい。
【0021】
加硫接着剤組成物が水溶性溶剤を含む場合、加硫接着剤組成物に含まれる水と水溶性溶剤との重量比は、金属とNBRとの接着性の観点から7:3~2:8であることが好ましく、7:3~1:1の重量比であることがより好ましい。なお、加硫接着剤組成物中に含まれる水溶性フェノール樹脂が水溶液の形態である場合、水溶性フェノール樹脂水溶液に溶媒として含まれる水の重量は、前記重量比において加硫接着剤組成物に含まれる水の重量には含まれない。
【0022】
上述の通り、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物は、水系であることから、人体や環境に対して悪影響が少ない。したがって、例えば、目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」および目標13「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0023】
また、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物によれば、金属とNBRとを接着させることができる。接着方法としては、特に限定されず、例えば、化成処理を行った金属、または亜鉛メッキ処理を施した金属上に加硫接着剤組成物を塗布し、室温下で3~7分間乾燥させる。その後、150~200℃で5~20分間焼き付け処理を行う。次いで、焼き付け処理に供した金属上にNBRの未加硫配合物を接合させ、150~200℃で2~6分間、プレス加硫を行うことにより、金属とNBRとを加硫接着させることができる。なお、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物であれば、1コート処理(1層塗り)で金属とNBRとを接着させることができる。そのため、作業効率を向上させ、かつコストを削減することができる。
【0024】
さらに、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物を用いて、金属と、加硫接着剤組成物からなる層と、NBRとを含む積層体を得ることができる。前記積層体は、金属、加硫接着剤組成物からなる層、およびNBR以外に他の構成および/または層を含んでいてもよい。前記積層体の製造方法は、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物を用いて金属とNBRとを接着させる工程を含み得る。金属とNBRとを接着させる工程における接着は、上記で説明した方法で行うことができる。
【0025】
<2.まとめ>
本発明には、下記の構成が含まれている。
<1>
水溶性フェノール樹脂、メルカプトシランカップリング剤、界面活性剤、および水を含む、加硫接着剤組成物。
<2>
水溶性溶剤をさらに含む、<1>に記載の加硫接着剤組成物。
<3>
前記メルカプトシランカップリング剤と前記水溶性フェノール樹脂とを、1:3~5:1の重量比で含有する、<1>または<2>に記載の加硫接着剤組成物。
<4>
前記メルカプトシランカップリング剤と前記界面活性剤とを、4:1~4:8の重量比で含有する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
<5>
前記水と前記水溶性溶剤とを、7:3~2:8の重量比で含有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
<6>
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
<7>
前記水溶性フェノール樹脂が、高水溶性レゾール型フェノール樹脂である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
<8>
前記水溶性溶剤が、プロピレングリコールである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
<9>
金属とニトリルブタジエンゴムとの加硫接着に用いられる、<1>~<8>のいずれか1つに記載の加硫接着剤組成物。
【実施例0026】
以下に、本発明の一実施形態を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例および比較例で使用した材料〕
●水溶性フェノール樹脂
・レゾール型フェノール樹脂(高水溶性フェノール樹脂水溶液):BRL-2854(アイカ工業(株)製)
・レゾール型フェノール樹脂(高水溶性フェノール樹脂水溶液):PR-961A(住友ベークライト(株)製)
●メルカプトシランカップリング剤
・3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン:KBM-803(信越化学工業(株)製)
●アミノシランカップリング剤
・N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:KBM-603(信越化学工業(株)製)
●界面活性剤
・モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(非イオン性界面活性剤):ソルボンT-20(東邦化学工業(株)製)
●水
・イオン交換水
●水溶性溶剤
・プロピレングリコール:富士フィルム和光純薬(株)製
〔実施例1~16、比較例1、3~5〕
表1~4に示す成分をそれぞれ混合することにより加硫接着剤組成物を得、金属板上に前記組成物を塗布した。金属板としては、化成処理を行った金属板(SPCC)、または亜鉛メッキを施した金属板(SECC)からなる中空で円板状の金属板を使用した。
塗布した後に室温下で5分間乾燥させ、180℃で10分間焼き付け処理を行った。次いで、焼き付け処理に供した金属板上にNBRの未加硫配合物を接合させ、190℃で2分間、プレス加硫を行い、サンプルを得た。
【0028】
(接着性の評価)
得られたサンプルにニードルを用いた剥離試験を実施し、ゴム残存率を目視で確認した。具体的には、図1に示すように、サンプル(1)の表面上(NBRの未加硫配合物を加硫成形させた側)にニードルの先端を押し当てながら、6か所の引っ掻き傷(2)をつけた。その後、ニードルの先端によって引っ掻かれた箇所以外で、ゴムが残存している箇所を目視で確認し、ゴム残存率を下記の計算式に基づいて算出した。接着性の評価結果を表1~4に示す。
(剥離試験後にゴムが残存している領域)/(剥離試験前にゴムが成形されている領域)×100
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、シランカップリング剤としてアミノシランカップリング剤を使用した比較例1では、SPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が0%であった。一方で、メルカプトシランカップリング剤を使用した実施例1ではゴム残存率が100%であったことから、シランカップリング剤としてメルカプトシランカップリング剤を使用することにより、金属とNBRとを接着できることが明らかとなった。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、比較例2および比較例3は、SPCCおよび/またはSECCのゴム残存率が0%であるか、あるいは実施例2~7と比較して低かった。このことから、金属とNBRとの接着にはメルカプトシランカップリング剤および水溶性フェノール樹脂の両方が必要であることが明らかとなった。
【0033】
【表3】
【0034】
実施例8~12から、溶媒として水溶性溶剤を使用せず、水のみを使用した場合にも、金属とNBRとを接着できることが確認された。
【0035】
【表4】
【0036】
比較例4では、SPCCおよびSECCのいずれにおいてもゴム残存率が0%であることから、溶媒として水を使用せず、水溶性溶剤のみを使用した場合には金属とNBRとが接着しないことが確認された。
【0037】
また、表3の実施例11、および表4の実施例13は、成分および成分の配合比は同じであるが、ゴム残存率が異なっていた。しかし、両者のいずれにおいても高いゴム残存率であったことから、本発明の一実施形態に係る加硫接着剤組成物は、接着性の観点から再現性が高いことが推測される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、加硫接着剤として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:サンプル
2:ニードルの先端による引っ掻き傷
図1