(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052063
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】杭の打設工法
(51)【国際特許分類】
E02D 7/22 20060101AFI20240404BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
E02D7/22
E02D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158510
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 佳勝
(72)【発明者】
【氏名】菅 将憲
(72)【発明者】
【氏名】スウ ガイキ
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050CB04
2D050CB05
2D050CB23
2D050EE06
(57)【要約】
【課題】地盤に打ち込まれた杭の杭頭部を補強することができ、杭が高止まりしたときに杭の打ち込みを改善することができる杭の打設工法を提供する。
【解決手段】杭の打設工法は、打設機20で、接続治具10を一方向に回転させながら、鋼管杭1を地盤に打ち込みつつ、螺旋翼13が地表に到達する位置まで鋼管杭1を地盤に打ち込む第1打設工程S2と、第1打設工程後、打設機20で、接続治具10を一方向に回転させながら、螺旋翼13で地盤30を締め固めることにより地表31に陥凹部32を形成しつつ、陥凹部32に杭頭部1bが露出した状態で収容されるまで鋼管杭1をさらに打ち込む第2打設工程S3と、を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打設機で杭を打設する杭の打設工法であって、
前記打設機は、前記杭の上端部に接続される接続治具を有しており、
前記接続治具は、
前記杭の上端部を挿入するための下方開口を有し、上方が閉じた円筒状の治具本体と、
前記治具本体の外周面から外方に突出し、前記杭の軸線まわりの一方向に回転したとき前記治具本体外周の土を下方に押し込み、前記一方向に対して逆方向に回転したときに、前記治具本体外周の土を上方に掻き出す螺旋翼と、を備えており、
前記打設工法は、
前記打設機で、前記螺旋翼が地表に到達する位置まで前記杭を前記地盤に打ち込む第1打設工程と、
前記第1打設工程後、前記打設機で、前記接続治具を前記一方向に回転させながら、前記螺旋翼で前記地盤を締め固めることにより前記地表に陥凹部を形成しつつ、前記陥凹部に杭頭部が露出した状態で収容されるまで前記杭をさらに打ち込む第2打設工程と、を含むことを特徴とする杭の打設工法。
【請求項2】
前記第2打設工程において、前記杭の打ち込み力が、所定値以上になったときに、前記打設機で、前記接続治具を逆回転させることにより、前記締め固めた地盤に対して前記螺旋翼の螺旋形状により生じる推進力を前記杭の下方に加えながら、前記杭を地盤に打ち込むことを特徴とする請求項1に記載の杭の打設工法。
【請求項3】
前記第2打設工程後に、前記陥凹部内において、前記杭頭部を埋設することにより、前記地盤に対する前記杭の支持を補強する補強部材を設けることを特徴とする請求項1に記載の杭の打設工法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の杭の打設工法に用いられる前記接続治具であり、
前記杭は、木杭またはコンクリート杭であり、
前記治具本体には、前記杭の前記上端部を挿入した状態で、前記上端部の端面に当接する当接部材が設けられており、
前記当接部材は、軸受を介して、前記治具本体に回転自在に取り付けられていることを特徴とする接続治具。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の杭の打設工法に用いられる前記接続治具であり、
前記杭は、先端翼が形成された鋼管杭であり、
前記治具本体には、前記鋼管杭に形成された凸部に係合する係合溝部が形成されており、
前記先端翼により前記杭が貫入する回転方向に、前記一方向が一致するように、前記螺旋翼が形成されていることを特徴とする接続治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等を支持する杭の打設工法に係り、特に、地盤に打ち込まれた杭の杭頭部を補強する打設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の杭の打設工法としては、埋設された杭の周縁領域を除去して、杭を露出させるステップと、除去した領域の底部に補強層を形成するステップと、補強層に当接する鍔部材を露出された杭に取り付けるステップと、を含む(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、構成の杭の打設工法は、杭頭部の地盤を排土するため、残土処分費が発生する。また、杭頭部(基礎直下)周辺地盤が埋め戻し地盤であるため、水平耐力に問題がある。
【0005】
さらに、たとえば鋼管杭を地盤に打ち込む際、地盤の状態が強固で、打設機による地盤への打ち込みが不能となり、所定の深さまで鋼管杭を打ち込むことができず、高止まり状態で鋼管杭を切断して終了する場合がある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、地盤に打ち込まれた杭の杭頭部を補強することができ、杭が高止まりしたときに杭の打ち込みを改善することができる杭の打設工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑みて、本発明に係る杭の打設工法は、地盤に打設機で杭を打設する杭の打設工法であって、前記打設機は、前記杭の上端部に接続される接続治具を有しており、前記接続治具は、前記杭の上端部を挿入するための下方開口を有し、上方が閉じた円筒状の治具本体と、前記治具本体の外周面から外方に突出し、前記杭の軸線まわりの一方向に回転したとき前記治具本体外周の土を下方に押し込み、前記一方向に対して逆方向に回転したときに、前記治具本体外周の土を上方に掻き出す螺旋翼と、を備えている。
【0008】
前記打設工法は、前記打設機で、前記螺旋翼が地表に到達する位置まで前記杭を前記地盤に打ち込む第1打設工程と、前記第1打設工程後、前記打設機で、前記接続治具を前記一方向に回転させながら、前記螺旋翼で前記地盤を締め固めることにより前記地表に陥凹部を形成しつつ、前記陥凹部に杭頭部が露出した状態で収容されるまで前記杭をさらに打ち込む第2打設工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
前記のごとく構成された本発明の杭の打設工法は、第1打設工程では、杭を地盤に打ち込みつつ、螺旋翼を地表に到達させることができる。続いて、第2打設工程では、打設機で、接続治具を一方向に回転させながら、螺旋翼で地盤を締め固めつつ、杭がさらに打ち込まれるので、杭周面の地盤の密度が高まることにより、杭周面の摩擦力が高められ、杭の引き抜き力を高めることができる。杭頭部に隣接して地盤に埋設された杭の部分は、締め固められた地盤により、支持されるので、地盤に対する杭の支持力を高めることができる。この結果、排土しながら打設したものに比べて、杭の鉛直支持力を高めることができ、水平移動を抑制することができる。なお、第1打設工程では、打設機で杭を地盤に打ち込むとき、杭の種類に合わせて接続治具を一方向に回転させながら打ち込むようにしてもよい。
【0010】
さらに、陥凹部は、螺旋翼で前記地盤を締め固めることにより前記地表に形成されるので、たとえば、雨水等が陥凹部に溜ったとしても、地盤に浸み込み難く、緩むことが無いため、杭の支持状態を安定して保持することができる。なお、第1打設工程の前に、前記杭を地盤に鉛直に立設し、前記杭の前記上端部を前記治具本体の下方開口に挿入し、前記接続治具に前記杭を装着する装着工程を含んでもよく、第1打設工程の途中に、この装着工程を含んでもよい。したがって、「前記打設機で、前記螺旋翼が地表に到達する位置まで前記杭を前記地盤に打ち込む」とは、第1打設工程において、接続治具が装着されていない状態で、杭を地盤に打ち込む場合も含まれ、杭の打ち込み量(地表から突出した杭の部分の高さ)を規定した打ち込み動作のことを意味する。
【0011】
より好ましい態様としては、前記第2打設工程において、前記杭の打ち込み力が、所定値以上になったときに、前記打設機で、前記接続治具を逆回転させることにより、前記締め固めた地盤に対して前記螺旋翼の螺旋形状により生じる推進力を杭に下方に加えながら、前記杭を地盤に打ち込む。
【0012】
この態様によれば、上述した杭の打設工法では、一方向に接続治具を回転させながら、杭を打ち込むと、地盤が締め固められるため、杭の打ち込み抵抗が上昇し、杭をそれ以上打ち込めないことが想定される。そこで、杭の打ち込み力が、所定値以上になったときに、接続治具を逆回転させることにより、螺旋翼の螺旋形状に起因した(すなわちネジの効果による)推進力を杭の下方の地盤に加えながら、杭を地盤にさらに打ち込むことができる。杭の打ち込みが進んだ後、一方向に接続治具を再度回転させてもよく、その際に掻き出された土を陥凹部に投入してもよい。なお、この逆回転により、螺旋翼で締め固められた地盤の一部の土が掻き出しされる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記第2打設工程後に、前記陥凹部内において、前記杭頭部を埋設することにより、前記地盤に対する前記杭の支持を補強する補強部材を設ける。
【0014】
この態様によれば、補強部材を設けることにより、鉛直方向および水平方向に対する杭の移動を、補強部材で拘束し、地盤に対する杭の支持を補強することができる。このような補強部材は、陥凹部に砕石を充填し、砕石を締め固めることにより、形成してもよく、陥凹部に、コンクリートを流し込み、これを固めてもよい。
【0015】
本発明に係る杭の打設工法に用いられる前記接続治具は、前記した杭の打設工法に用いられ、前記杭は、木杭またはコンクリート杭であり、前記治具本体には、前記杭の前記上端部を挿入した状態で、前記上端部の端面に当接する当接部材が設けられており、前記当接部材は、軸受を介して、前記治具本体に回転自在に取り付けられている。
【0016】
この態様によれば、接続治具を用いることにより、第2打設工程で、接続治具を一方向に回転させたとしても、第1打設工程で打ち込まれた木杭またコンクリート杭を、第2打設工程において、回転することなく、地盤に打ち込むことができる。
【0017】
ところで、上述した如く、木杭またコンクリート杭は、回転させずに地盤に打ち込まれる(貫入させる)。このため、第2打設工程において、締め固められた地盤の土により、それ以上打ち込めない(すなわち、高止まりする)場合がある。このような場合には、高止まりした木杭またはコンクリート杭を切断することがあった。しかしながら、このような場合であっても、接続治具を逆回転させれば、螺旋翼が、螺旋翼の螺旋形状に起因して(すなわちネジの効果により)、杭の打ち込み方向に、接続治具とともに杭に推進力を付与することができるため、高止まりした木杭またはコンクリート杭を地盤にさらに押し込むことができる。
【0018】
前記接続治具の好ましい態様としては、前記した杭の打設工法に用いられる前記接続治具であり、前記杭は、先端翼が形成された鋼管杭であり、前記治具本体には、前記鋼管杭に形成された凸部に係合する係合溝部が形成されており、前記先端翼により前記杭が貫入する回転方向に、前記一方向が一致するように、前記螺旋翼が形成されている。
【0019】
この態様によれば、接続治具を用いることにより、第1打設工程において、接続治具の係合溝部に係合された鋼管杭は、接続治具とともに、一方向に回転する。これにより、先端翼により杭が貫入する方向(すなわち、一方向)に回転し、鋼管杭の貫入は、先端翼により促進される。
【0020】
さらに、第2打設工程では、一方向(杭が貫入する方向)に回転させた接続治具により、地盤が締められるとともに、先端翼により鋼管杭の貫入は促進される。ここで、鋼管杭が高止まりした場合であっても、接続治具を逆回転させれば、螺旋翼の螺旋形状に起因したネジの効果で、杭の打ち込み方向に、接続治具とともに杭に推進力を付与することができるため、高止まりした鋼管杭を地盤にさらに押し込むことができる。なお、この場合には、先端翼により、鋼管杭が引き抜き方向に推進力が作用するが、鋼管杭に対して、打ち込み力を作用させているため、抜けあがることはなく、正転と逆転を繰り返すことで、鋼管杭を支障なく、地盤にさらに打ち込むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の杭の打設工法によれば、地面に打ち込まれた杭の杭頭部の杭周辺摩擦力を増大することができ、杭の鉛直支持力、水平支持力を向上でき、補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る杭の打設工法の第1実施形態で用いる鋼管杭を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA-A線断面図である。
【
図2】
図1に示す鋼管杭を打ち込むための打設機と接続する接続治具を示し、(a)は正面図、(b)は中央縦断面図である。
【
図3】(a)、(b)はそれぞれ接続治具の変形例の正面図である。
【
図4】本発明に係る杭の打設工法で用いる打設機を示し、(a)は左側面図、(b)は正面図である。
【
図5】本発明に係る杭の打設工法の第1実施形態の各工程を示す模式図である。
【
図6】
図5に示す各工程に続く各工程を示す模式図である。
【
図7】
図6に示す各工程に続く各工程を示す模式図である。
【
図8】本発明に係る杭の打設工法の第2実施形態の各工程を示す模式図である。
【
図9】
図8に示す各工程に続く各工程を示す模式図である。
【
図10】
図9に示す各工程に続く各工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る杭の打設工法の第1実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る杭の打設工法で用いる鋼管杭を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA-A線断面図である。
【0024】
先ず、本実施形態に係る杭の打設工法で用いる鋼管杭1について、
図1を参照して詳細に説明する。鋼管杭1は、鋼製のパイプ材2で形成され、地盤に対して鉛直に打ち込まれ、たとえば建物等の基礎を支持するものである。パイプ材2の両端部は溶接等で閉じられているが、開口のままでもよい。鋼管杭1の一端部(下端部)には、鋼板で形成された螺旋状の先端翼3が溶接等で固着されている。ただし、先端翼3は、螺旋形状に限定されるものではなく、鋼管杭の先端に傾斜した一対の半円板を固着した翼などであってもよく、鋼管杭1の貫入を促す形状のものであれば、先端翼3の形状は、特に限定されるものではない。
【0025】
螺旋状の先端翼3は、パイプ材2の外周面に沿って、旋回しながら上昇するように固着されている。具体的には、鋼管杭1を打設機で一方向に回転したとき、鋼管杭1を地中に進入させるような正方向螺旋翼となっている。たとえば、鋼管杭1を鉛直に立て、平面視で一方向(時計回り)に回転させたとき、鋼管杭1が先端翼3により地中に貫入するように、螺旋状に傾斜している。先端翼3は、おおよそ1周分形成されているが、複数周分形成されていてもよい。
【0026】
鋼管杭1の上部の杭頭部1bには、外周面から外側に向けて突出する凸部4が形成されている。凸部4は、矩形の鋼板で形成されており、杭頭部1bの外周面に軸方向に沿って溶接等で固着されている。凸部4は、後述する接続治具10の治具本体に形成された係合溝部14に係合するようになっている。なお、係合用の凸部4は、外周の複数個所に形成されていてもよい。たとえば、凸部4が2個の場合は、平面から見たとき、軸の対角位置に形成されていると好ましい。なお、鋼管杭1の内周面に凸部4を設けて、鋼管杭1の内部に接続治具10の一部が挿入され、その挿入された部分に、係合溝部14を設けてもよい。このように、鋼管杭1の凸部4と、接続治具10の係合溝部14とが、回転方向に係合するのであれば、その位置は限定されるものではない。
【0027】
つぎに、鋼管杭1を地盤に打ち込むための打設機と接続するための接続治具10について、
図2を参照して説明する。
図2において、接続治具10は、鋼管杭1の上端部1aを挿入するための下方開口11を有し、上方が閉じた円筒状の治具本体12と、を備えている。さらに、接続治具10は、治具本体12の外周面から外方に突出し、鋼管杭1の軸線まわりの一方向に回転したとき治具本体12外周の土を下方に押し込み、一方向に対して逆方向に回転したときに、治具本体12外周の土を上方に掻き出す螺旋翼13と、を備えている。なお、治具本体12の螺旋翼13は、鋼管杭1の先端翼3の螺旋方向とは、逆方向となっている。
【0028】
すなわち、治具本体12の螺旋翼13は、たとえば鋼板で形成され、円筒状の治具本体12の外周を時計方向(一方向)に周回しながら上昇するような形状をしており、治具本体12に溶接等で固着されている。ここで、螺旋翼13は、円筒状の治具本体12の外周面の法線方向に沿った翼幅が、治具本体12の先端側から基端側に進むに従って広くなる形状を有している。これにより、螺旋翼13により形成された陥凹部32を、駒形(楔型または円錐状)の空間を有した形状にすることができる。なお、螺旋翼13の形状はこれに限定されるものではなく、たとえば、螺旋翼13の形状は、翼幅が同じ幅となる形状であってもよい。このような治具本体12を時計方向に回転させると、治具本体12の外周の土を下方に押し込み、反時計方向(逆回転)に回転すると、治具本体12の外周の土を上方に掻き出し、この逆回転により、締め固めた地盤に対して螺旋翼の螺旋形状に起因した推進力を杭に下方に加える。接続治具10は、治具本体12の上部に、後述する打設機20に接続するための小径の接続部12aが設けられている。
【0029】
接続治具10は、円筒状の治具本体12を構成する外周壁に、下方に開口する係合溝部14が形成されている。係合溝部14は、下方の入り口部分の幅が小さく、上方の奥部分の幅を大きく形成されており、鋼管杭1の凸部4が挿入され、凸部4に係合溝部14が係合するようになっている。係合溝部14は、治具本体12の螺旋翼13の始まる前の外周壁の部分から上方に形成され、螺旋翼13の終わりの下方の外周壁まで形成されている。
【0030】
接続治具10の治具本体12には、下方開口11の上部に、鋼管杭1の上端部1aを挿入した状態で上端部1aの端面に当接する当接部材15が設けられている。当接部材15は軸受(図示せず)およびスラストベアリング17を回して治具本体12に回転可能に取り付けられている。具体的には、当接部材15は治具本体12の下方開口11の内径より僅かに小さい外径の円盤で形成されており、円盤の中心が軸受けを構成する中心軸16で回転自在に支持されている。また、当接部材15の上面と治具本体12の下面との間に、スラストベアリング17が設置されている。さらに、当接部材15の外周面と、治具本体12の内周面との間に、Oリング(パッキング)18が位置しており、スラストベアリング17に塵埃が侵入するのを防止している。
【0031】
上述した接続治具10の変形例について、
図3を参照して説明する。
図3は、接続治具の変形例の正面図である。
図3(a)に示される接続治具10Aは、2つの係合溝部14A、14Bを有するものである。接続治具10Aを構成する治具本体12Aは、下端部に2つの係合溝部を有するため、螺旋翼13が上方に移動した位置に形成されている。この接続治具10Aでは、係合溝部が2つあるため、鋼管杭1との接続状態が安定する特長を有している。
【0032】
また、
図3(b)に示される接続治具10Bは、治具本体12Bの上下方向の長さが大きく設定されている。この接続治具10Bでは、螺旋翼13の上部が長いため、地盤の地表から深い位置まで土を締め固め、陥凹部を形成することができ、陥凹部を砕石等の補強部材で埋設して地盤に対する鋼管杭1の支持を、より強力に安定して補強することができる。なお、
図2および
図3では、螺旋翼13は、治具本体12、12A、12Bを一周して形成されているが、2周以上形成されてもよい。
【0033】
つぎに、地盤に鋼管杭1を打設する打設機20について、
図4を参照して説明する。
図4は、地盤に鋼管杭1を打設する打設機20として、重機の正面図と左側面図を示している。
【0034】
図4において、打設機20は、車台20Aの上に操縦室、エンジンルームを備えている。車台20Aにはアーム21が垂直状態に保持されており、アーム21は油圧シリンダにより、傾斜状態あるいは水平状態に角度を変えることができる構成となっている。アーム21には、昇降ヘッド22が上下動可能に装着されている。昇降ヘッド22には、鋼管杭1を接続するための接続治具10が下方に連結固定され、治具本体12を旋回させるための油圧モータ等の駆動部(図示せず)が組み込まれている。昇降ヘッド22の下方に接続治具10を装着し、治具本体12の下方開口11に鋼管杭1の上端部1aを挿入して保持する。そして、昇降ヘッド22を上下に昇降させて接続治具10に下方に向けて打ち込み力を加え、必要に応じて治具本体12を回転させることで鋼管杭1を地盤に打ち込むことができるように構成されている。
【0035】
前記の如く構成された鋼管杭1を、接続治具10を用いて打設する、第1実施形態の杭の打設工法について、
図5から
図7を参照して以下に説明する。なお、第1実施形態の杭の打設工法は、先端翼3を有する鋼管杭(貫入鋼管杭)1に適用するものであり、後述する第2実施形態の杭の打設工法は、先端翼を有さない木杭またはコンクリート杭に適用するものである。
【0036】
鋼管杭1の打設工法は、
図5(a)、(b)に示すように、鋼管杭1を地盤30に鉛直に立設し、鋼管杭1の上端部1aを接続治具10の治具本体12の下方開口11に挿入し、接続治具10に鋼管杭1を装着する(装着工程S1)。この装着工程S1では、鋼管杭1の上部の外周面に形成された凸部4を、接続治具10の係合溝部14に挿入して係合し、たとえば鋼管杭1を回転させることで、凸部4を係合溝部14の入り口部分から奥部分に移動させ、鋼管杭1を接続治具10に吊り下げることができる。なお、杭が木杭やコンクリート杭の場合には、木杭およびコンクリート杭に凸部4を設けないため、木杭およびコンクリート杭を立てた状態で、接続治具10の下方開口11を降下させ、接続治具10を上方から接続治具10に装着する。なお、杭が木杭やコンクリート杭の場合には、木杭やコンクリート杭に、凸部4を設けないため、接続治具10の係合溝部14に、木杭やコンクリート杭は係合しない。なお、杭を吊るワイヤーに再度テンションを掛けることで、打設位置の微調整を可能にする。
【0037】
この装着工程S1のあと、
図5(b)、(c)に示すように、第1打設工程S2に進み、打設機20で鋼管杭1を地盤30に打ち込みつつ、接続治具10の螺旋翼13を地表31に到達させる。ただし、螺旋翼13が地表に到達する位置まで鋼管杭1を地盤30に打ち込むことができるのであれば、たとえば、別の一般の接続治具を装着した(接続治具10を装着しない)状態で、打設機20を用いて鋼管杭1をその位置まで打設し、その後、第2打設工程S3を行う前に、接続治具10を装着し、第2打設工程S3を実行してもよい。さらに、第1打設工程S2の途中まで、別の一般の接続治具を装着した(接続治具10を装着しない)状態で、打設機20を用いて鋼管杭1を地盤30に打ち込み、その後、打ち込んだ状態の鋼管杭1に対して、上述した装着工程を実施し、螺旋翼13が地表に到達する位置まで鋼管杭1を地盤30に打ち込んでもよい。
【0038】
なお、この第1打設工程S2では、杭が鋼管杭1の場合に、接続治具10を一方向に回転させながら実施する。先端翼3で掘られた地盤30の土30aは柔らかい状態となっている。打設機20の昇降ヘッド22で、接続治具10を介して鋼管杭1に下方への打ち込み力F1を加えて地盤30に貫入させる。
【0039】
なお、杭が木杭やコンクリート杭の場合には、木杭およびコンクリート杭に、凸部4を設けないため、接続治具10の係合溝部14に、木杭およびコンクリート杭は係合しないため、接続治具10を回転させないで実施してもよい。ただし、接続治具10を回転させたとしても、接続治具10には、治具本体12に回転自在に取り付けられた当接部材15が設けられているため(
図2(b)参照)、接続治具10を回転させたとしても、木杭およびコンクリート杭は回転しない。
【0040】
続く第2打設工程S3では、
図6(a)に示すように、第1打設工程S2後、打設機20で、接続治具10を一方向(CW)にさらに回転させながら、螺旋翼13で地盤30を締め固めることにより地表31に陥凹部32を形成しつつ、陥凹部32に杭頭部が露出した状態で収容されるまで鋼管杭1をさらに打ち込む。
【0041】
なお、第2打設工程S3において、接続治具10では、治具本体12の下方開口11に上端部を挿入した鋼管杭1は、回転自在に取り付けられた当接部材15に当接しているが、鋼管杭1は凸部4が接続治具10の係合溝部14と係合し、鋼管杭1は接続治具10とともに回転するため、当接部材15の回転自在の機能は不要となっている。したがって、杭として鋼管杭1のみを使用する場合は、接続治具10の下方開口11の内部に位置する当接部材15、スラストベアリング17、Oリング18は不要となる。
【0042】
第2打設工程S3では、
図6(b)に示すように、鋼管杭1の打ち込み力F1が、所定値以上になったときに高止まりする。このような場合に、打設機20で、接続治具10を逆回転(CCW)させることにより、締め固めた地盤に対して螺旋翼13の螺旋の形状により生じる推進力F2を鋼管杭1の下方に加えて、鋼管杭1を地盤30に打ち込むことができる。鋼管杭1の打ち込み力F1とは、鋼管杭1を地盤30に打ち込むために要する力であり、たとえば荷重計などで測定してもよい。したがって、鋼管杭1の打ち込み力F1が、所定値以上になったときとは、たとえば、鋼管杭1の下端の先端翼3が、地盤30中の異物33に突き当たって鋼管杭1の貫入が困難になったとき、または、螺旋翼13で地盤30を締め固め過ぎて、地盤30に対して鋼管杭1の抵抗が大きくなり過ぎたときである。
【0043】
このような場合、打設機20の昇降ヘッド22で接続治具10に打ち込み力F1を付与するとともに、接続治具10を逆回転させ、逆回転している螺旋翼13で鋼管杭1に下方への推進力F2を加えることで異物33を粉砕あるいは移動させ、鋼管杭1が高止まりした状態を回避して、貫入を続けることができる。この結果、鋼管杭1をより深く地中に貫入させることができ、鋼管杭1の貫入状態が安定する。
【0044】
第2打設工程S3により、
図6(c)に示されるように、螺旋翼13で地盤を締め固めて陥凹部32を形成し、陥凹部32に杭頭部1bが露出した状態で収容される。杭頭部1bを収容する陥凹部32の周囲の地盤は、締め固められた地盤30bとなる。第2打設工程S3のあと、
図7(a)に示されるように、陥凹部32内に砕石等の充填材34が充填され、
図7(b)に示されるように、充填材34はタッピングランマ40により締め固められて補強部材35が形成される(補強工程S4)。補強部材35は、陥凹部32内において、杭頭部1bを埋設することにより形成される。補強部材35は、地盤30に対する鋼管杭1の支持を補強するものである。ここで、杭頭部1bを埋設するとは、杭頭部1b全体を埋設する場合ばかりでなく、たとえば、杭頭部1bの一部(たとえば端面)が露出し、それ以外の部分が埋設されていてもよい。締め固められた地盤により、陥凹部32の周囲には補強領域36が形成されるとともに、補強部材35を設けることにより、鋼管杭1の鉛直支持力を高めることができ、水平移動を抑制することができる。
【0045】
補強工程S4の後、
図7(c)に示されるように、補強部材35の上に、基礎45が安定した状態で構築される(S5)。基礎45を構築する場合、陥凹部32内の空間には土が埋め戻される。杭頭部1bが補強された補強部材35、杭頭部1bの上に構築されるものは基礎に限られるものでなく、建物を構成する躯体としての鋼柱や構造体であってもよい。
【0046】
つぎに、先端翼のない木杭またはコンクリート杭を、接続治具10を用いて打設する、第2実施形態の杭の打設工法について、
図8から
図10を参照して以下に説明する。なお、木杭やコンクリート杭は、
図1に示される鋼管杭1とは異なり、木製軸部、コンクリート製軸部を有し、杭頭部1bの凸部4は無く、先端翼3も無い軸体で形成されている。以下、木杭1Aの打設を説明する。
【0047】
木杭1Aの打設工法は、
図8(a)、(b)に示すように、木杭1Aを地盤30に鉛直に立設し、木杭1Aの上端部を接続治具10の治具本体12の下方開口11に挿入し、接続治具10に木杭1Aを装着する(装着工程S11)。この装着工程S11では、接続治具10は木杭1Aの上部に接続治具10が被せられた状態となっている。
【0048】
この装着工程S11のあと、
図8(b)、(c)に示すように、第1打設工程S12において、打設機20で木杭1Aを地盤30に打ち込みつつ、接続治具10の螺旋翼13を地表31に到達させる。この第1打設工程S12は、杭が木杭1Aであるため、接続治具10を回転させないで実施する。杭が木杭やコンクリート杭の場合、木杭1Aは接続治具10を回転させないで実施するため、地表31から地盤30に直接貫入される。なお、第1打設工程S12では、上述した如く、別の一般の接続治具を装着した(接続治具10を装着しない)状態で、打設機20を用いて鋼管杭1を打設してもよく、その途中まで、これを行い、それ以降、接続治具10を装着して第1打設工程S12を行ってもよい。
【0049】
続く第2打設工程S13では、
図9(a)に示されるように、第1打設工程S12後、打設機20で、接続治具10を一方向(CW)にさらに回転させながら、螺旋翼13で地盤30を締め固めることにより地表31に陥凹部32を形成しつつ、陥凹部32に杭頭部1bが露出した状態で収容されるまで鋼管杭1をさらに打ち込む。
【0050】
第2打設工程S13では、木杭1Aは地盤30に固く貫入しているため、回転不能の状態となっている。しかしながら、接続治具10では、治具本体12の下方開口11に上端部を挿入した木杭1Aは、回転自在に取り付けられた当接部材15に当接しているため、木杭1Aに対して接続治具10は自由に回転できる。すなわち、木杭1Aを中心として、接続治具10は自由に正逆転できるようになっている。なお、杭として木杭1Aやコンクリート杭のみを用いる場合、接続治具10の治具本体12に形成された係合溝部14は不要である。
【0051】
第2打設工程S13では、
図9(b)に示されるように、木杭1Aの打ち込み力F1が、所定値以上になったときに、打設機20で、接続治具10を逆回転(CCW)させることにより、締め固めた地盤の土を螺旋翼13で掻き出しつつ、螺旋翼13の螺旋形状により生じる推進力F2を木杭1Aの下方に加えながら、木杭を地盤30に打ち込む。木杭1Aの打ち込み力F1とは、木杭1Aを地盤30に打ち込むために要する力である。したがって、木杭1Aの打ち込み力F1が、所定値以上になったときとは、たとえば、木杭1Aの下端が、地盤30中の異物33に突き当たって木杭1Aの貫入が困難になったとき、または、螺旋翼13で地盤30を締め固め過ぎて、地盤30に対して木杭1Aの抵抗が大きくなり過ぎたときである。
【0052】
このような場合、打設機20の昇降ヘッド22で接続治具10に打ち込み力F1を付与するとともに、接続治具10を逆回転させ、逆回転している螺旋翼13で木杭1Aに下方への推進力F2を加えることで異物33を移動させ、木杭1Aが高止まりした状態を回避して、貫入を続けることができる。この結果、木杭1Aをより深く地中に貫入させることができ、木杭1Aの貫入状態が安定する。
【0053】
第2打設工程S13により、
図9(c)に示されるように、螺旋翼13で地盤を締め固めて陥凹部32を形成し、陥凹部32に杭頭部1bが露出した状態で収容される。杭頭部1bを収容する陥凹部32の周囲の地盤は、締め固められた地盤30bとなる。第2打設工程S13のあと、
図10(a)に示されるように、陥凹部32内に砕石等の充填材34が充填され、
図10(b)に示されるように、充填材34はタッピングランマ40により転圧されて補強部材35が形成される(補強工程S14)。締め固められた地盤により、陥凹部32の周囲には補強領域36が形成されるとともに、補強部材35を設けることにより、鋼管杭1の鉛直支持力を高めることができ、水平移動を抑制することができる。
【0054】
補強工程S14の後、
図10(c)に示されるように、補強部材35の上に、基礎45が安定した状態で構築される(S15)。基礎45を構築する場合、陥凹部32内の空間には土が埋め戻される。杭頭部1bが補強された補強部材35、杭頭部1bの上に構築されるものは基礎に限られるものでなく、建物を構成する躯体としての鋼柱や構造体であってもよい。
【0055】
以上、述べたように、本発明の杭の打設工法によれば、杭の杭頭部1bに合わせて陥凹部32を締め固めた地盤30bで形成し、陥凹部32内に補強部材35を設けることで杭頭部1bを補強し、杭の鉛直支持力を高めることができ、水平移動を抑制することができる。また、杭の高止まり状態が発生したとき、杭の地盤への貫入を改善して貫入状態を安定させることができる。さらに、陥凹部32は締め固めて形成するため、残土排出量を削減でき、残土処分費を低減できる。
【0056】
さらに、本発明の接続治具によれば、接続治具10の係合溝部14に鋼管杭1の凸部4を係合させ、接続治具10とともに鋼管杭1を回転させるため、先端翼3により鋼管杭1の貫入が促進されるとともに、高止まりを改善できる。また、木杭1Aやコンクリート杭の場合には、高止まりが発生しても、接続治具10を逆回転させ、螺旋翼のネジ効果を利用して木杭1Aを回転させることなく、地盤に打ち込むことができる。
【0057】
このように、実施形態によれば、第1および第2実施形態のいずれの場合であっても、第2打設工程では、接続治具10を一方向にさらに回転させながら、螺旋翼13で地盤30を締め固めつつ、鋼管杭1(木杭1A)がさらに打ち込まれるので、杭周面の地盤の密度増大により、杭周面の摩擦力が高め、杭の引き抜き力を高めることができる。杭頭部1bに隣接して地盤に埋設された鋼管杭1(木杭1A)の部分は、締め固められた地盤30により支持されるので、地盤30に対する鋼管杭1(木杭1A)の支持力を高めることができる。この結果、排土しながら打設したものに比べて、鋼管杭1(木杭1A)の鉛直支持力を高めることができ、水平移動を抑制することができる。また、陥凹部32は、螺旋翼13で地盤30を締め固めることにより地表31に形成されるので、たとえば、雨水等が陥凹部32に溜ったとしても、雨水等が地盤30に浸み込み難く、緩まないため、鋼管杭1(木杭1A)の支持状態を安定して保持することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【0059】
たとえば、陥凹部32内において、杭頭部を砕石で埋設して地盤に対する杭の支持を補強するための補強部材を設ける例を示したが、砕石に限られるものでなく、生コン、モルタル等を用いて補強部材を設けてもよく、たとえば、コンクリートブロックなどのプレキャスト材を補強部材として配置してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:鋼管杭(杭)、1A:木杭(杭)、コンクリート杭(杭)、1a:上端部、1b:杭頭部、3:先端翼、4:凸部、10:接続治具、11:下方開口、12:治具本体、13;螺旋翼、14:係合溝部、15:当接部材、17:スラストベアリング、20:打設機、30:地盤、31:地表、32:陥凹部、33:異物、34:充填材(砕石)、35:補強部材、36:補強領域、F1:打ち込み力、F2:推進力