(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052069
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】水素の製造装置および水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/24 20060101AFI20240404BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240404BHJP
【FI】
C01B3/24
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158516
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】朝原 誠
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 武志
(72)【発明者】
【氏名】安里 勝雄
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DB03
4G146AA01
4G146AC27A
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC25
4G146BC34A
4G146DA02
4G146DA45
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二酸化炭素の排出量を削減できる技術を提供する。
【解決手段】水素の製造装置は、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、炭化水素から水素と炭素とを生成し、水素の製造方法は、炭化水素を供給する工程と、供給された炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、炭化水素から水素と炭素とを生成する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の製造装置であって、
炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する、
水素の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素の製造装置において、
前記熱分解における熱源が、製鉄プラントの排熱である、
水素の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水素の製造装置において、
前記温度が、1,200℃以上である、
水素の製造装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の水素の製造装置において、
生成される炭素の純度が、99.7%以上である、
水素の製造装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の水素の製造装置において、
前記炭化水素は、メタンを含む、
水素の製造装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の水素の製造装置であって、
前記炭化水素を供給する供給部と、
供給された前記炭化水素を前記温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する管と、
生成された水素を、前記管の外部へと排出する水素排出部と、
生成された炭素を、前記管の外部へと排出する炭素排出部と、
を備える、水素の製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
生成された炭素を前記炭素排出部に送り出すための螺旋状の排出機構が、前記管の内部に設けられている、
水素の製造装置。
【請求項8】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
前記管の外壁には、熱伝導フィンが設けられている、
水素の製造装置。
【請求項9】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
前記供給部は、前記水素排出部よりも、鉛直方向において上方に位置する、
水素の製造装置。
【請求項10】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
前記管は、製鉄プラントの転炉のダクト内に配置され、前記転炉の排熱によって加熱される、
水素の製造装置。
【請求項11】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
前記水素排出部は、製鉄プラントの還元炉に接続されており、
排出された水素は、前記還元炉に供給される、
水素の製造装置。
【請求項12】
請求項6に記載の水素の製造装置において、
前記管には、前記熱分解のための触媒が実質的に設けられていない、
水素の製造装置。
【請求項13】
水素の製造方法であって、
炭化水素を供給する工程と、
供給された前記炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する工程と、
を備える、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素の製造装置および水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の鉄鋼産業は、国内産業における二酸化炭素排出量の約38%を占めており、カーボンニュートラルの実現に向けた二酸化炭素排出量の削減要求が強まっている。革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50:CO2 Ultimate Reduction System for Cool Earth 50)では、鉄鉱石のコークス還元から水素還元へと変換技術の開発が進められており、二酸化炭素の排出量を30%削減することを目指している。ここで、水素還元の技術においては、大量の水素が安定的に供給されることが求められる。水素の供給に関して、例えば、特許文献1および2には、燃料ガスと原料水蒸気との混合蒸気を、触媒の存在下で加熱する水素製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-013397号公報
【特許文献2】特開2010-159193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載の方法は、燃料ガスと原料水蒸気との混合蒸気を加熱することによる水蒸気改質法であるため、水素と二酸化炭素とが生成する。このため、二酸化炭素の排出量を削減する観点において、更なる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することができる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、水素の製造装置が提供される。この水素の製造装置は、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する。この形態の水素の製造装置によれば、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって水素と炭素とを生成するので、二酸化炭素の排出量を削減できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の水素の製造装置において、前記熱分解における熱源が、製鉄プラントの排熱であってもよい。この形態の水素の製造装置によれば、熱分解における熱源として製鉄プラントの排熱を利用するので、高熱の熱分解を容易に行うことができる。
【0008】
(3)上記(1)または上記(2)に記載の水素の製造装置において、前記温度が、1,200℃以上であってもよい。この形態の水素の製造装置によれば、熱分解の温度が1,200℃以上であるので、水素の収率を向上できる。
【0009】
(4)上記(1)から上記(3)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、生成される炭素の純度が、99.7%以上であってもよい。この形態の水素の製造装置によれば、生成される炭素の純度が99.7%以上であるので、利用価値の高い炭素を製造できる。
【0010】
(5)上記(1)から上記(4)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記炭化水素は、メタンを含んでいてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、炭化水素がメタンを含むので、メタンを主成分とする混合ガスを用いることができ、原料としての炭化水素を容易に入手することができる。
【0011】
(6)上記(1)から上記(5)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記炭化水素を供給する供給部と、供給された前記炭化水素を前記温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する管と、生成された水素を、前記管の外部へと排出する水素排出部と、生成された炭素を、前記管の外部へと排出する炭素排出部と、を備えていてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって水素と炭素とを生成するので、二酸化炭素の排出量を削減できる。
【0012】
(7)上記(6)に記載の水素の製造装置において、生成された炭素を前記炭素排出部に送り出すための螺旋状の排出機構が、前記管の内部に設けられていてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、管の内部に螺旋状の排出機構が設けられているので、管の内部から炭素を排出できる。
【0013】
(8)上記(6)または上記(7)に記載の水素の製造装置において、前記管の外壁には、熱伝導フィンが設けられていてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、管の外壁に熱伝導フィンが設けられているので、伝熱を促進して熱交換の効率を高めることができる。
【0014】
(9)上記(6)から上記(8)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記供給部は、前記水素排出部よりも、鉛直方向において上方に位置していてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、鉛直方向下方側から排出される高温ガスを熱源として利用する場合に、排出ガスの流れと供給部から供給される炭化水素の流れとを反対方向にしやすいため、熱交換の効率を高めることができる。
【0015】
(10)上記(6)から上記(9)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記管は、製鉄プラントの転炉のダクト内に配置され、前記転炉の排熱によって加熱されてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、製鉄プラントの転炉の排熱を利用するので、高熱の熱分解を容易に行うことができる。
【0016】
(11)上記(6)から上記(10)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記水素排出部は、製鉄プラントの還元炉に接続されており、排出された水素は、前記還元炉に供給されてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、排出された水素を還元炉に供給できるので、製鉄における水素需要の全てまたは一部を満たすことができる。
【0017】
(12)上記(6)から上記(11)までのいずれか一項に記載の水素の製造装置において、前記管には、前記熱分解のための触媒が実質的に設けられていなくてもよい。この形態の水素の製造装置によれば、触媒を用いずに熱分解を行うので、触媒に由来する成分が炭素に含まれることを抑制できる。この結果として、炭素の純度を高めることができるので、利用価値の高い炭素を製造できる。
【0018】
(13)本発明の他の形態によれば、水素の製造方法が提供される。この水素の製造方法は、炭化水素を供給する工程と、供給された前記炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、前記炭化水素から水素と炭素とを生成する工程と、を備える。この形態の水素の製造方法によれば、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって水素と炭素とを生成するので、二酸化炭素の排出量を削減できる。
【0019】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、水素の製造システム、炭素の製造装置、炭素の製造方法、炭素の製造システム、鉄の製造装置、鉄の製造方法、鉄の製造システム、製鉄プラント等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】水素の製造装置の概略構成を示す概略説明図。
【
図3】実験装置の概略構成を説明するための説明図。
【
図4】熱分解温度と水素収率との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本開示の一実施形態としての水素の製造装置100の概略構成を示す概略説明図である。
図1では、水素の製造装置100の断面図を模式的に示すととともに、説明の便宜上、水素の製造装置100が設置されている製鉄プラントの構成も破線で示している。水素の製造装置100(以下、「装置100」とも呼ぶ)は、炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、炭化水素から、水素と炭素とを生成する。この熱分解は、いわゆるメタン熱分解である。メタン熱分解では、炭化水素がメタンである場合、下記式(1)で示される反応が起こっている。
CH
4→C+2H
2・・・(1)
【0022】
上記式(1)に示されるように、メタン熱分解では、水素と炭素とが生成する。このため、メタン熱分解では、水素の生成に際して二酸化炭素が発生しない。したがって、本実施形態の装置100によれば、水素の生成過程における二酸化炭素の排出を無くすことができるので、製鉄プラントにおける二酸化炭素の排出量を削減できる。原料の炭化水素としては、特に限定されないが、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等が挙げられる。また、メタンを主成分として、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等を含む混合ガスや、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の何れかを主成分とする混合ガスであってもよい。原料の炭化水素としては、入手容易性の観点から、メタンを主成分とする天然ガスであることが好ましい。天然ガスとしては、在来型の天然ガスの他、シェールガス、タイトガス、コールベッドメタン、メタンハイドレート等の非在来型天然ガスの利用も可能である。熱分解の温度は、水素の収率を向上させる観点から、1,100℃以上であることが好ましく、1,200℃以上であることがより好ましい。なお、1,000℃以上の高温の気相反応では、装置100内部における炭素の堆積を抑制できる。
【0023】
図1に示すように、装置100は、供給部10と、管20と、水素排出部30と、炭素排出部40とを備える。本実施形態の装置100は、製鉄プラントにおける高温ガスの排気経路内に配置されている。より具体的には、製鉄プラントの転炉200のダクト210に設けられている。本実施形態の装置100は、セラミックにより形成されているが、セラミックに限らず、耐熱性を有する任意の材料により形成されていてもよい。
【0024】
供給部10は、管20の内部へと炭化水素を供給する。本実施形態における供給部10は、管20の一端側に設けられている。供給部10には、供給する炭化水素の流量を調整するためのバルブが設けられていてもよい。本実施形態では、供給部10の数が1つであるが、複数であってもよい。管20は、略円筒状の外観形状を有する。本実施形態において、管20は、長手方向が転炉200のダクト210の長手方向と略一致するように、ダクト210内に配置されている。このため、管20は、転炉200から排出される高温の排出ガスに曝されて熱せられる。管20は、供給部10から供給された炭化水素を、高温の排出ガスとの熱交換によって熱分解し、炭化水素の少なくとも一部から水素と炭素とを生成する。本実施形態の管20は、管20の内部に炭素が付着することを抑制するために円筒状の外観形状を有するが、多角筒状等の任意の筒状の外観形状を有していてもよい。管20の詳細な構成については、後述する。
【0025】
水素排出部30は、熱分解によって生成された水素を、管20の外部へと排出する。本実施形態における水素排出部30は、管20の他端側に設けられている。本実施形態では、水素排出部30の数が1つであるが、複数であってもよい。本実施形態の水素排出部30には、炭素をトラップするためのフィルターが設けられている。このフィルターは、特に限定されないが、例えば自動車等に適用される集塵フィルターであってもよい。また、このフィルターは、省略されていてもよい。また、本実施形態の水素排出部30は、製鉄プラントの還元炉300に接続されている。このため、水素排出部30から排出された水素を含むガスは、還元炉300に供給される。製鉄プラントの還元炉300としては、特に限定されないが、例えば、シャフト炉等の高炉が挙げられる。
図1では、複数の還元炉300が図示されているが、還元炉300の数は1つであってもよい。還元炉300では、供給された水素によって鉄鋼石が還元される。このように、装置100で製造された水素が還元炉300に供給されることにより、製鉄における水素需要の全てまたは一部を満たすことができる。装置100によって、比較的安価な炭化水素から比較的高価な水素を製造することができるので、製鉄におけるコスト削減を図ることができる。なお、還元炉300に供給されるガスには、水素とともに炭化水素が含まれていてもよい。また、水素排出部30から排出された水素を含むガスは、還元炉300に限らず任意の箇所に供給されてもよい。生成された水素は、例えばタンク等の容器に充填されてもよく、販売等の他の用途に利用されてもよい。
【0026】
炭素排出部40は、熱分解によって生成された炭素を、管20の外部へと排出する。本実施形態における炭素排出部40は、管20の他端側に設けられている。熱分解によって生成される炭素は固体であるため、炭素排出部40は、装置100において、鉛直方向の下方に形成されていることが望ましい。本実施形態では、炭素排出部40の数が1つであるが、複数であってもよい。炭素排出部40には、装置100の外部への炭素排出量や排出タイミングを調整するための開閉部が設けられていてもよい。炭素排出部40から排出された炭素は、ベルトコンベア等によって次工程に運ばれてもよい。
【0027】
本実施形態の装置100は、管20の一端側よりも管20の他端側が転炉200の炉口に近い側となるように、ダクト210内に管20が配置されている。このため、水素排出部30は、供給部10よりも、鉛直方向において下方に位置する。このような位置関係となるように管20が配置されることにより、転炉200から排出される高温の排出ガスの流れと、供給部10から供給される炭化水素の流れとが反対方向となるため、熱交換の効率を高めることができる。
【0028】
本実施形態では、生成された炭素を炭素排出部40に送り出すための排出機構22が、管20の内部に設けられている。排出機構22は、螺旋状の外観形状を有する。排出機構22は、管20の軸心を中心に回転されて、管20の内部に存在する炭素を、管20の一端側から他端側へと移動させる。この結果として、管20の内部から炭素を排出できるので、管20の内部に炭素が堆積することを抑制できる。排出機構22は、管20の長手方向の少なくとも一部に設けられていることが好ましい。本実施形態の排出機構22は、管20の長手方向において、供給部10の形成位置から炭素排出部40の形成位置までの範囲に亘って設けられているが、管20の長手方向の一部に設けられていてもよい。なお、排出機構22が省略されていてもよい。また、排出機構22が省略された態様においても、供給部10から供給される炭化水素のガスの流れによって、管20の内部に存在する炭素を炭素排出部40へと押し出すことができる。
【0029】
本実施形態では、管20の外壁に熱伝導フィン24が設けられている。熱伝導フィン24は、複数の突起によって形成されている。熱伝導フィン24は、管20の外壁の表面積を増大させることによって伝熱を促進し、この結果として熱交換の効率を向上させる。熱伝導フィン24は、管20の長手方向の少なくとも一部に設けられていることが好ましい。本実施形態の熱伝導フィン24は、管20の長手方向において、供給部10の形成位置から炭素排出部40の形成位置までの範囲に亘って設けられているが、管20の長手方向の一部に設けられていてもよい。例えば、管20のうち転炉200の炉口から遠い領域においては、炉口に近い領域と比較して温度が低くなることが想定される。このため、管20のうち、転炉200の炉口から遠い領域、すなわち、供給部10の周辺の領域が金属によって形成されて、熱伝導フィン24が設けられる形態であってもよい。このような形態によれば、管20の外壁に熱伝導フィン24を容易に加工して設けることができる。なお、熱伝導フィン24は、省略されていてもよい。
【0030】
本実施形態において、管20には、熱分解のための触媒が実質的に設けられていない。このため、触媒を用いずに熱分解を行うので、触媒に由来する成分が炭素に混入することを抑制できる。この結果として、生成される炭素の純度を高めることができるので、利用価値の高い高純度炭素を製造できる。本開示において、「熱分解のための触媒が実質的に設けられていない」とは、生成された炭素をEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)にて元素分析した場合に、触媒に由来する成分の検出量が0.1質量%以下であることを意味する。本実施形態における装置100によれば、触媒を用いずに高温で熱分解を行うので、例えば99.7%以上の純度を有する炭素を製造できる。なお、炭素の純度は、EDXを用いた元素分析により、質量基準で求められる。
【0031】
本開示の装置100は、管20が転炉200の排熱によって加熱されるので、製鉄プラントの転炉200の排熱を利用できる。一般に、転炉200から排出される排出ガスの温度は、1,400℃~1,700℃程度である。転炉200から排出される排出ガスを利用することにより、1,000℃以上2,000℃以下の温度を要する熱分解を容易に行うことができる。この結果として、安定的に大量の水素を製造できる。また、製鉄プラントの排熱を熱源とするため、水素の製造のために別のエネルギー源を要さず、かつ、水素還元製鉄技術において必要となる水素の少なくとも一部を製造することができる。また、本開示の装置100は、管20が転炉200のダクト210内に配置されているので、ダクト210における輻射熱を利用できる。この結果として、熱交換の効率をより高めることができる。なお、転炉200のダクト210内には、装置100が複数配置されていてもよい。
【0032】
ダクト210のうち、管20の配置される領域は、管20の配置されない領域と比較して、断熱性の高い構成であってもよい。例えば、ダクト210のうち鉛直方向下方の領域、すなわち転炉200の炉口に近い側の領域は、断熱性の高い構成であってもよい。このような構成によれば、輻射効果をより高めることができるので、熱交換の効率を高めることができる。断熱性の高い領域(以下、「断熱領域212とも呼ぶ」)には、管20の少なくとも一部が配置されることが好ましく、管20の全体が配置されることがより好ましい。断熱領域212は、例えば、断熱セメント等の断熱性の高い材料によって内張りされていてもよく、セラミック等の耐熱性材料によって形成されていてもよい。
【0033】
ダクト210のうち、管20の配置されない領域は、管20の配置される領域と比較して、放熱性の高い構成であってもよい。例えば、ダクト210のうち鉛直方向上方の領域、すなわち転炉200の炉口から遠い側の領域は、放熱性の高い構成であってもよい。このような構成によれば、過度な高温状態を緩和することができる。放熱性の高い領域(以下、「放熱領域214とも呼ぶ」)は、例えば、水冷や空冷等によって冷却されていてもよい。このような構成によれば、ダクト210の断熱領域212において効率的に水素を製造しつつ、ダクト210の放熱領域214が過度な高温状態となることを抑制できる。
【0034】
B.水素の製造方法
本開示の他の形態によれば、水素の製造方法が提供される。
図2は、水素の製造方法を示す工程図である。水素の製造方法は、炭化水素を供給する工程(P10)と、供給された炭化水素を1,000℃以上2,000℃以下の温度で熱分解することによって、炭化水素の少なくとも一部から水素と炭素とを生成する工程(P20)とを備える。
【0035】
この製造方法によれば、炭化水素を高温で熱分解することによって水素と炭素とを生成するので、二酸化炭素の排出量を削減できる。また、この製造方法によれば、炭化水素を高温で熱分解するので、無触媒で熱分解を進行させることができる。このため、生成される炭素に触媒由来成分が混入することを抑制できる。この結果として、触媒を用いた熱分解と比較して、生成される炭素の純度を高めることができる。したがって、水素を製造する際の二酸化炭素排出量を削減しつつ、利用価値の高い高純度炭素を製造できる。
【0036】
C.他の実施形態:
上記形態における水素の製造装置100では、熱分解における熱源として転炉200の排熱を利用していたが、本開示はこれに限定されるものではない。熱分解における熱源は、転炉200の排熱に限らず、電気炉や高炉等、製鉄プラントにおける他の排熱であってもよい。また、熱分解における熱源は、製鉄プラントの排熱に限らず、原子力発電プラントや火力発電プラント、ごみ焼却プラント等の排熱であってもよい。また、熱分解における熱源は、プラント等の排熱に限らず、専用の熱源であってもよい。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(1)方法
図3は、実験装置の概略構成を説明するための説明図である。
図3では、実験装置の外観構成、断面図および設定温度1,000℃における温度分布について、その位置が対応して示されている。実験装置として小型反応炉を用い、高温反応の実験を行った。
図3の断面図には、説明の便宜上、熱分解の反応部分が破線の楕円で示されている。熱分解の反応部分の長さは40mmとし、各反応温度で実験する際に、長さの誤差が1%以内となるようにした。なお、熱分解の反応部分には、触媒が含まれていない。
図3の温度分布において、横軸は、反応部分の中心からの距離(mm)を示し、縦軸は、定常温度(℃)および定常温度からの相対誤差(%)を示している。また、
図3の温度分布において、円形のプロットは定常温度(℃)を示し、三角形のプロットは温度の相対誤差(%)を示している。
【0039】
炭化水素の熱分解は、以下の条件で行った。炭化水素としては、メタンを用いた。流入メタン流量は、20cc/分とした。流入メタン温度は、25℃とした。反応温度は、600℃~1,700℃の各温度とした。圧力は、1atmとした。滞留時間は、97.6秒(およそ100秒)とした。
【0040】
各温度条件の熱分解について、それぞれ生成された水素の量から水素収率を求めた。水素収率は、理論値を1とした場合の水素生成量の割合とした。また、熱分解によって生成された炭素を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察するとともに、エネルギー分散型X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)にて分析した。EDXは、加速電圧15.0kVにより20μm2の領域を測定した。
【0041】
(2)結果
図4は、熱分解の温度と水素収率との関係を示す説明図である。
図4において、横軸は、反応温度(%)を示し、縦軸は、水素収率を示している。
図4に示される結果から、以下のことがわかった。すなわち、無触媒によるメタン熱分解の水素収率は、800℃以上において急激に増大し、900℃では0.22であり、1,000℃では0.52であり、1,200℃では0.81であった。また、1,200℃以上の反応温度では、水素収率がほぼ一定であった。
【0042】
図5は、生成された炭素を示すSEM画像である。
図5では、1,500℃の熱分解によって生成された炭素のSEM画像を示している。
図5において、紙面左側の画像は、倍率5,000倍におけるSEM画像を示し、紙面右側の画像は、倍率25,000倍におけるSEM画像を示している。
図5に示すように、生成された炭素は球状の外観形状を有し、その平均粒径は約200nmであった。
【0043】
図6は、EDXによる成分分析の結果を示す説明図である。
図6では、1,500℃の熱分解によって生成された炭素における成分分析の結果を示している。
図6に示されるように、熱分解によって生成された炭素は、純度が非常に高く、炭素(C)元素が99.8%であることがわかった。なお、成分分析において極僅かに検出されたアルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)およびガリウム(Ga)の元素は、いずれも測定ノイズであると考えられる。
【0044】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…供給部、20…管、22…排出機構、24…熱伝導フィン、30…水素排出部、40…炭素排出部、100…装置(水素の製造装置)、200…転炉、210…ダクト、212…断熱領域、214…放熱領域、300…還元炉