(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052073
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ピッチコントロール剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20240404BHJP
D21C 9/08 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
D21H21/02
D21C9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158526
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川頭 勇太
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG43
4L055AG88
4L055AH22
4L055AH29
4L055BD10
4L055FA06
(57)【要約】
【課題】 しみ出し欠点の抑制とピッチ分散性の向上とを実現可能なピッチコントロール剤の提供。
【解決手段】モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cとを含有するピッチコントロール剤であって、
界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤であり、
界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される界面活性剤であるピッチコントロール剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cとを含有するピッチコントロール剤であって、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤。
【請求項2】
前記界面活性剤Bが、曇点が40~80℃である、第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物及び第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物の少なくとも一方である、請求項1記載のピッチコントロール剤。
【請求項3】
前記界面活性剤Cの曇点が、60℃以上である、請求項1記載のピッチコントロール剤。
【請求項4】
界面活性剤Aが、ポリオキシアルキレンひまし油、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル並びにポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載のピッチコントロール剤。
【請求項5】
紙の製造工程におけるピッチコントロール方法であって、
製紙工程水系に、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール方法。
【請求項6】
製紙におけるピッチ欠点の発生を抑制する方法であって、
パルプスラリーに、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチ欠点の発生抑制方法。
【請求項7】
モノテルペンと、非イオン界面活性剤A1と、非イオン界面活性剤B1と、非イオン界面活性剤C1とを含有するピッチコントロール剤であって、
前記非イオン界面活性剤A1が、ポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油の少なくとも一方であり、
前記非イオン界面活性剤B1が、アルキル基の炭素数が10~15であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記非イオン界面活性剤C1が、アルキル基の炭素数が16以上である、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法及びピッチ欠点の発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工程(なかでも特に抄紙工程)においてはピッチによる障害が発生することが問題となっている。これを抑制及び/又は防止するために、様々な薬剤の開発が行われている。ピッチとは、木材、パルプ及び紙等から遊離した天然樹脂やガム物質、さらには紙及びパルプの製造工程で使用される添加剤等に由来する有機物を主体とする非水溶性の粘着物質のことをいう。
【0003】
一般に、ピッチは、紙及びパルプの製造における工程水、すなわち、パルプスラリーや白水等の中においてコロイド状態で分散している。しかし、何らかの外的作用がピッチに作用することによってそのコロイド状態が破壊され、その結果、ピッチが凝集して巨大化すると考えられている。外的作用としては、例えば、大きな剪断力、pHの急激な変化、及び硫酸バンド(硫酸アルミニウム)の過剰添加等がある。
凝集して巨大化したピッチは、その粘着性により、ファンポンプ、配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト及びロール等の製造装置類に付着するだけでなく、この付着物が剥離して紙やパルプに再付着する。ピッチが再付着することによって、形成された紙の汚点及び/又は欠点が紙製品の品質を低下させ、さらには発生する断紙が生産性・作業性を低下させる等の障害を引き起こす。
【0004】
欠点の一つとしてしみ出し欠点があり、近年、このしみ出し欠点の発生が大きな問題の一つになっている。しみ出し欠点は、ピッチに含まれる蜜蝋やパラフィンワックスが、抄紙後の加熱乾燥工程において溶け出し、紙表面にしみ出すことで生じる欠点をいう。古紙として蝋引き段古紙の回収量の増加に伴い、しみ出し欠点の発生頻度が増加しているため、しみ出し欠点の抑制が求められている。
【0005】
ピッチ障害を抑制するために、様々な方法が提案されている。特許文献1は、ポリオキシエチレンアルキルアミン化合物である非イオン界面活性剤を用いたピッチ障害の抑制方法を開示する。特許文献2は、ポリオキシアルキレンアルキルアミンブロック共重合体、有機ホスホン酸及び非イオン界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルアミンを除く)を有効成分とするストーンロール汚れ防止剤を用いた、ストーンロールからの湿紙の剥離性の改善方法に関する。同文献は、該ストーンロール汚れ防止剤によってピッチの堆積を防ぐことを開示する。特許文献3は、ポリオキシアルキレンアルキルアミン及びポリオキシアルキレンアルキルアミドからなる群から選択される一つと、金属イオン封鎖剤とを含むピッチコントロール剤を開示する。特許文献4は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、d-リモネン、メタケイ酸ナトリウム、硫酸ラウリル、炭酸プロピレン及びそれらの混合物を用いて、パルプ紙料中のワックスを分離除去する方法を開示する。特許文献5は、リモネン、ノニオン性界面活性剤及びアルカリ性化合物を含む薬剤を使用して、製紙工程におけるピッチ障害を防止する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63-23320号公報
【特許文献2】特開平11-217787号公報
【特許文献3】特開平04-352893号公報
【特許文献4】特表2003-517520号公報
【特許文献5】特開2008-007862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、製紙工程におけるピッチの発生を十分に抑制できているとは言えず、特に、抄紙後に得られる紙表面におけるしみ出し欠点の抑制と、製紙工程において発生し得るピッチの分散性向上とを実現可能な新たな薬剤が求められている。
【0008】
本開示は紙の製造工程において、しみ出し欠点の抑制とピッチ分散性の向上とを実現可能なピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法及びピッチ欠点の発生抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一態様として、モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cとを含有するピッチコントロール剤であって、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤に関する。
【0010】
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程におけるピッチコントロール方法であって、
製紙工程水系に、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール方法に関する。
【0011】
本開示は、その他の態様として、製紙におけるピッチ欠点の発生を抑制する方法であって、
パルプスラリーに、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチ欠点の発生抑制方法。
【0012】
本開示は、その他の態様として、モノテルペンと、非イオン界面活性剤A1と、非イオン界面活性剤B1と、非イオン界面活性剤C1とを含有するピッチコントロール剤であって、
前記非イオン界面活性剤A1が、ポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油の少なくとも一方であり、
前記非イオン界面活性剤B1が、アルキル基の炭素数が10~15であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記非イオン界面活性剤C1が、アルキル基の炭素数が16以上である、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示は、一又は複数の実施形態において、しみ出し欠点の抑制とピッチの分散性の向上とを実現可能なピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法及びピッチ欠点の発生抑制方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、d-リモネン、並びに下記の界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cを含有する薬剤組成物によれば、ワックス等に由来するしみ出し欠点を抑制するとともに、製紙工程において発生し得るピッチ分散性を向上できる、という知見に基づく。
界面活性剤A:HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤
界面活性剤B:アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤
界面活性剤C:アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される界面活性剤
【0015】
d-リモネンといったモノテルペン、及び上記3種類の界面活性剤(界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤C)を含有する薬剤組成物によって、ワックス等に由来するしみ出し欠点の抑制効果と、製紙工程において発生し得るピッチ分散性の向上効果との双方を実現できるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
界面活性剤A及び界面活性剤Bを含有することにより、薬剤組成物中のモノテルペンの可溶化状態を、製剤(水溶液)及び処理液(パルプスラリー)中で安定に保つことができ、その結果、モノテルペンによるピッチの溶解性及び/又は除去効果が向上され、紙表面におけるしみ出し欠点の発生を抑制できると考えられる。また、上記薬剤成分に加えて界面活性剤Cを含有することから、ピッチの凝集を抑制してピッチの分散性を向上し、ピッチが巨大化するのを抑制できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
本開示における「ピッチ」とは、製紙工程におけるパルプが含有する、機械パルプやクラフトパルプに由来する樹脂状物質の他、古紙パルプに由来する合成樹脂を総称するものをいい、また、これらの樹脂などが凝集して集塊化することにより形成される粘着性物質ともいうことができる。本開示におけるパルプとしては、一又は複数の実施形態において、晒化学パルプ、未晒化学パルプ、晒機械パルプ、未晒機械パルプ、古紙パルプ(DIP)及びブロークパルプ等が挙げられる。晒化学パルプ及び未晒化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)及びサルファイトパルプ(SP)等が挙げられる。晒機械パルプ及び未晒機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP)等が挙げられる。
【0017】
本開示における「ピッチの分散性向上」とは、一形態として、製紙工程において発生しうるピッチの大きさを小さくすること等が挙げられる。
【0018】
本開示における「しみ出し欠点」とは、抄紙工程においてピッチが抄き込まれることに起因して紙表面に生じるピッチ由来の欠点であって、ピッチに含まれるワックス等の樹脂成分が紙表面に溶け出してしみ状になるしみ出し欠点をいう。
【0019】
本開示における「しみ出し欠点の抑制」とは、一形態として、紙表面に生じうるしみ出し欠点の個数(欠点数)を減らすこと、及び/又はしみ出し欠点の大きさを小さくすること等が挙げられる。本開示における「しみ出し欠点の抑制」とは、一形態として、紙表面に生じうるしみ出し欠点の平均径としみ出し欠点の数とから算出される欠点面積(=欠点数(個)×平均径(mm))を小さくすること等が挙げられる。
しみ出し欠点の個数、サイズ及び面積は、実施例に記載の方法により測定及び算出できる。
【0020】
本開示における「HLB(hydrophilic lipophilic balance)」は、一又は複数の実施形態において、以下のグリフィン式を用いて算出することができる。
HLB=20×(親水部の式量の総和/分子量)
【0021】
本開示における「曇点」は、非イオン界面活性剤水溶液の温度を上昇した場合に白濁し相分離が生じる温度をいい、例えば、ISO 1065 1991(エチレンオキシドから得られる非イオン系界面活性剤及び混合された非イオン系界面活性剤-曇点の決定)に記載された測定方法により測定できる。界面活性剤Bは前記ISO規定で定められる測定方法A(蒸留水中で測定)により測定できる。界面活性剤Cは前記ISO規定で定められる測定方法C(10%食塩水中で測定)により測定できる。
【0022】
[ピッチコントロール剤]
本開示のピッチコントロール剤は、一態様として、モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cとを含有する。
界面活性剤A:HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤
界面活性剤B:アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルである界面活性剤
界面活性剤C:アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される界面活性剤
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、製紙工程水系に添加することにより、ピッチの分散性を向上させることができるとともに、しみ出し欠点の発生を抑制することができる。よって、本開示のピッチコントロール剤によれば、一又は複数の実施形態において、製紙工程において発生しうるピッチトラブルを抑制することができ、かつ、得られる紙製品の品質を向上することができる。
本開示のピッチコントロール剤の用途としては、一又は複数の実施形態において、紙又はパルプの製造工程におけるピッチの分散性向上及び/又はピッチの凝集(巨大化)抑制のための使用、及び抄紙後に得られる紙表面におけるピッチ由来の欠点の発生抑制のための使用等が挙げられる。また、本開示のピッチコントロール剤の用途としては、一又は複数の実施形態において、抄紙後に得られる紙表面におけるしみ出し欠点の発生抑制のための使用、及びしみ出し欠点の発生が抑制された古紙の製造のための使用等が挙げられる。
【0023】
本開示における「製紙工程」とは、原質系、原料調成系、白水循環系及び白水回収系(以下、これらを併せて「循環水系」とも云う。)を包含するパルプ/紙を製造する工程を意味し、さらには、抄紙マシンにおいてワイヤーパートやプレスパートから排出される水溶液(いわゆる「白水」)の回収系及び再利用系までを含めた水循環工程全体を含みうる。本開示における「製紙工程水系」としては、一又は複数の実施形態において、パルプスラリー及び白水をはじめ、原質系、原料調成系、白水循環系及び白水回収系といった循環水系の工程水、及び水循環工程水系に供給される工業用水や再利用水を含みうる。
【0024】
<モノテルペン>
本開示において「モノテルペン」とは、テルペン化合物のうちイソプレン単位2個からなる炭素数が10の化合物をいう。モノテルペンとしては、一又は複数の実施形態において、単環式モノテルペン、複素環式モノテルペン及び非環式モノテルペンが挙げられる。単環式モノテルペンとしては、一又は複数の実施形態において、d-リモネン、パインオイル、ターピネオール、及びテレビン油等が挙げられる。
【0025】
<界面活性剤A>
界面活性剤Aは、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤である。界面活性剤AのHLBは、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、9.7以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、10.5以下又は10.4以下である。
【0026】
界面活性剤Aとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレンひまし油、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、並びにこれらの混合物等が挙げられる。本開示においてアルキレンオキシド(AO)は、オキシエチレン基(EO)及びオキシプロピレン基(PO)の少なくとも一方である。本開示において、AOにEO及びPOが含まれる場合、EO及びPOの付加形態は、ブロックでもよく、ランダムでもよく、グラフトでもよく、順序も限定されなくてもよい。
【0027】
ポリオキシアルキレンひまし油としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンひまし油が挙げられる。ポリオキシアルキレン硬化ひまし油としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油及びその誘導体を含むことができ、好ましくはポリオキシエチレン硬化ひまし油が挙げられる。ポリオキシアルキレン硬化ひまし油の誘導体としては、一又は複数の実施形態において、ラウリル酸ポリオキシエチレン硬化ひまし油及びモノイソステアリン酸ポリオキシエチレン硬化ひまし油等のモノ脂肪酸ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン硬化ひまし油コハク酸等が挙げられる。
【0028】
ポリオキシエチレンひまし油及びポリオキシエチレン硬化ひまし油におけるエチレンオキシドの付加モル数は、一又は複数の実施形態において、25以下であり、製剤安定性のさらなる向上及び欠点発生のさらなる抑制の点から、22以下又は20以下である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、10以上又は15以上である。
【0029】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンのアルキル基の炭素数は、15以下であり、一又は複数の実施形態において、製剤安定性のさらなる向上及び欠点発生のさらなる抑制の点から、14以下又は13以下である。アルキル基の炭素数は、同様の点から、一又は複数の実施形態において、10以上又は11以上である。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(イソデシルエーテルEO)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウリルエーテルEO)、及びポリオキシエチレントリデシルエーテル(トリデシルエーテルEO)等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンイソデシルアミン(イソデシルアミンEO)、ポリオキシエチレンラウリルアミン(ラウリルアミンEO)、及びポリオキシエチレントリデシルアミン(トリデシルアミンEO)等が挙げられる。
【0030】
界面活性剤Aは、一又は複数の実施形態において、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0031】
<界面活性剤B>
界面活性剤Bは、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。
【0032】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシプロピレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0033】
界面活性剤Bは、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物及び第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物の少なくとも一方であり、同様の点から、第2級アルコールのポリエチレンオキシド(EO)プロピレンオキシド(PO)付加物及び第1級アルコールのポリエチレンオキシド(EO)プロピレンオキシド(PO)付加物の少なくとも一方である。EO及びPOの付加形態は、ブロックでもよく、ランダムでもよく、グラフトでもよく、順序も限定されなくてもよい。
【0034】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、12~14が好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基は、一又は複数の実施形態において、イソデシル基、ラウリル基、及びトリデシル基等が挙げられる。
【0035】
界面活性剤Bは曇点を有する。界面活性剤Bの曇点は、一又は複数の実施形態において、40℃~80℃である。界面活性剤Bの曇点は、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、41℃以上、42℃以上、又は43℃以上が好ましい。界面活性剤Bの曇点は、同様の点から、75℃以下、70℃以下、65℃以下、60℃以下、又は59℃以下が好ましい。
【0036】
界面活性剤BのHLBは、一又は複数の実施形態において、8~15である。界面活性剤BのHLBは、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、14以下、13.5以下、13以下又は12.5以下である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、9以上、9.5以上又は10以上である。
【0037】
第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物は、一又は複数の実施形態において、第2級アルコールのOH基にオキシアルキレン基(AO)を付加させたポリオキシアルキレンセカンダリーアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレン第2級アルキルエーテルともいうことができる。第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレン第2級アルキル(C12-14)エーテル(ポリオキシエチレンセカンダリーアルキルエーテル)、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン第2級アルキル(C12-14)エーテル(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセカンダリーアルキルエーテル)等が挙げられる。EO及びPOの付加形態は、ブロックでもよく、ランダムでもよく、グラフトでもよく、順序も限定されなくてもよい。
第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物におけるAOの付加モル数は、一又は複数の実施形態において、7~28であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、21以下である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、8以上又は9以上である。
第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物がEO/PO付加物である場合、EOとPOとのモル比(EO/PO)は、一又は複数の実施形態において、50/50~90/10であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、55/45~85/15、60/40~85/15又は60/40~80/20である。
【0038】
第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル(イソデシルエーテルEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル(イソデシルエーテルEO/PO)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ラウリルエーテルEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル(ラウリルエーテルEO/PO)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(トリデシルエーテルEO)、及びポリオキシエチレンオキシプロピレントリデシルエーテル(トリデシルエーテルEO/PO)等が挙げられる。
第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物におけるAOの付加モル数は、一又は複数の実施形態において、5~28であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、12以下である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、10以上である。
第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物がEO/PO付加物である場合、EOとPOとのモル比(EO/PO)は、一又は複数の実施形態において、50/50~90/10であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、60/40~85/15、又は70/30~85/15である。
【0039】
界面活性剤Bは、一又は複数の実施形態において、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0040】
<界面活性剤C>
界面活性剤Cは、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される。
【0041】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンのアルキル基の炭素数は、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、16~22が好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのアルキル基は、一又は複数の実施形態において、セチル基、ステアリル基、オレイル基、及びベヘニル基等が挙げられる。
【0042】
界面活性剤Cは曇点を有する。界面活性剤Cの曇点は、一又は複数の実施形態において、60℃~95℃である。界面活性剤Cの曇点は、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、65℃以上、又は70℃以上が好ましい。界面活性剤Cの曇点は、同様の点から、90℃以下、又は85℃以下が好ましい。
【0043】
界面活性剤CのHLBは、一又は複数の実施形態において、11~17である。界面活性剤CのHLBは、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、16以下、15.8以下又は15.5以下が好ましい。同様の点から、一又は複数の実施形態において、12以上、又は12.5以上が好ましい。
【0044】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンセチルエーテル(セチルエーテルEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(セチルエーテルEO/PO)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(ステアリルエーテルEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル(ステアリルエーテルEO/PO)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(オレイルエーテルEO)、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル(オレイルエーテルEO/PO)等が挙げられる。
ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシエチレンセチルアミン(セチルアミンEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルアミン(セチルアミンEO/PO)、ポリオキシエチレンステアリルアミン(ステアリルアミンEO)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルアミン(ステアリルアミンEO/PO)、ポリオキシエチレンオレイルアミン(オレイルアミンEO)、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルアミン(オレイルアミンEO/PO)等が挙げられる。
界面活性剤CにおけるAOの付加モル数は、一又は複数の実施形態において、12~32であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、25以下である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、15以上である。
界面活性剤Cのポリアルキレンオキシド付加物がEO/PO付加物である場合、EOとPOとのモル比(EO/PO)は、一又は複数の実施形態において、75/25~95/5であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、85/15~90/10である。
【0045】
ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、一又は複数の実施形態において、アミンの窒素原子にPOが直接付加していてもよい。よって、一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手それぞれにPOが少なくとも1つ結合していてもよい。
特に限定されない一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレンアルキルアミンは、下記式(1)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物であってもよい。
【化1】
式(1)において、Rは、炭素数16~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の少なくとも一方であり、n1、n2、m1、m2、l1及びl2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、m1+m2+l1+l2が12~25である。
【0046】
式(1)において、n1及びn2はオキシプロピレン基の平均付加モル数であり、m1及びm2はオキシエチレン基の平均付加モル数であり、l1及びl2はオキシアルキレン基の平均付加モル数である。
n1+n2は、一又は複数の実施形態において、2、3又は4であり、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、2又は4が好ましい。n1は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。n2は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。
m1+m2+l1+l2は、一又は複数の実施形態において、12~25の整数であり、好ましくは12~20又は14~20である。m1+m2は、一又は複数の実施形態において、2~20であり、好ましくは12~20である。
【0047】
ポリオキシアルキレンアルキルアミンは、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物であってもよい。式(2)において、Rは、炭素数16~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基である。式(2)におけるRは、式(1)と同じである。
【化2】
【0048】
式(2)において、n1及びn2はオキシプロピレン基の平均付加モル数であり、s1及びs2はオキシエチレン基の平均付加モル数である。
n1+n2は、一又は複数の実施形態において、2、3又は4であり、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、2又は4が好ましい。n1は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。n2は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。
s1+s2は、一又は複数の実施形態において、12~25の整数であり、好ましくは12~20又は14~20であり、より好ましくは12~20である。
【0049】
界面活性剤Cは、一又は複数の実施形態において、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0050】
本開示のピッチコントロール剤におけるモノテルペンと界面活性剤Aとの配合割合は、一又は複数の実施形態において、重量比で1:99~99:1であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1:0.5~1:2又は1:1~1:2が好ましい。
【0051】
本開示のピッチコントロール剤におけるモノテルペンと界面活性剤Bとの配合割合は、一又は複数の実施形態において、重量比で1:99~99:1であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1:0.5~1:5又は1:0.5~1:2が好ましい。
【0052】
本開示のピッチコントロール剤におけるモノテルペンと界面活性剤Cとの配合割合は、一又は複数の実施形態において、重量比で1:99~99:1であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1:2~1:50又は1:2~1:25が好ましい。
【0053】
本開示のピッチコントロール剤における界面活性剤Aと界面活性剤Bとの配合割合は、一又は複数の実施形態において、重量比で1:99~99:1であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1:0.5~1:5又は1:0.5~1:2が好ましい。
【0054】
本開示のピッチコントロール剤におけるモノテルペンの含有量は、一又は複数の実施形態において、0.5重量%以上であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1.0重量%~5.0重量%又は3.0重量%~5.0重量%が好ましい。
【0055】
本開示のピッチコントロール剤における界面活性剤Aの含有量は、一又は複数の実施形態において、0.5重量%以上であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、1.0重量%~5.0重量%又は3.0重量%~5.0重量%が好ましい。
【0056】
本開示のピッチコントロール剤における界面活性剤Bの含有量は、一又は複数の実施形態において、1.0重量%以上であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、2.0重量%~10.0重量%又は6.0重量%~10.0重量%が好ましい。
【0057】
本開示のピッチコントロール剤における界面活性剤Cの含有量は、一又は複数の実施形態において、10重量%以上であり、しみ出し欠点の抑制効果をさらに向上させる点から、15重量%~30重量%15重量%~25重量%が好ましい。
【0058】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、他の工程添加剤を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。その他の工程添加剤としては、一又は複数の実施形態において、消泡剤、スケールコントロール剤、スライムコントロール剤、他のピッチコントロール剤、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、サイズ剤、潤滑剤、剥離性向上剤、及び洗浄剤等が挙げられる。
【0059】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料等をさらに含有してもよい。
【0060】
本開示のピッチコントロール剤は、モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cと、分散媒(例えば、水等)と混合して製剤化することにより製造することができる。必要に応じて、上記のその他の薬剤を混合してもよい。
【0061】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、パルプ中のピッチへ直接作用させる内添型ピッチコントロール剤として使用してもよいし、間接的にピッチの付着を抑制する作用をもたせるために外添型ピッチコントロール剤として使用してもよい。
【0062】
本開示は、その他の態様として、モノテルペンと、上記の界面活性剤Aと、上記の界面活性剤Bと、上記の界面活性剤Cとを配合することを含む、ピッチコントロール剤の製造方法に関する。本開示の製造方法において、各薬剤の配合時に添加(混合)する順番は特に制限されるものではなく、水と界面活性剤Cとを混合した後、界面活性剤A及び界面活性剤Bと混合し、ついでモノテルペンと混合してもよいし、水と界面活性剤Aと界面活性剤Bと界面活性剤Cとを混合した後、モノテルペンを混合してもよいし、4つの成分すべてを同時に混合してもよい。特に限定されない一又は複数の実施形態において、本開示の製造方法は、水と界面活性剤Cとを十分に混合すること、水と界面活性剤Cとの混合物に界面活性剤A及び界面活性剤Bを添加して十分に攪拌混合すること、水と界面活性剤Aと界面活性剤Bとの混合物にモノテルペンを添加して十分に攪拌混合すること、及び、モノテルペンと界面活性剤Aと界面活性剤Bと界面活性剤Cの混合物に水を添加して混合することを、この順番で行うこと含む。
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cの配合割合が上記の割合となるように、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cを配合する工程を含んでいてもよい。
【0063】
[ピッチコントロール剤の第2の形態]
本開示は、さらにその他の態様として、モノテルペンと、非イオン界面活性剤A1と、非イオン界面活性剤B1と、非イオン界面活性剤C1とを含有するピッチコントロール剤に関する。
非イオン界面活性剤A1:ポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油の少なくとも一方
非イオン界面活性剤B1:アルキル基の炭素数が10~15であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル
非イオン界面活性剤C1:アルキル基の炭素数が16以上である、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアルキルアミン
【0064】
<モノテルペン>
モノテルペンとしては、上述の通りである。
【0065】
<非イオン界面活性剤A1>
非イオン界面活性剤A1であるポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油としては、一又は複数の実施形態において、上記の界面活性剤Aとして例示したものが使用できる。
【0066】
<非イオン界面活性剤B1>
非イオン界面活性剤B1としては、一又は複数の実施形態において、上記の界面活性剤Bとして例示したものが使用できる。
【0067】
<非イオン界面活性剤C1>
非イオン界面活性剤C1としては、一又は複数の実施形態において、上記の界面活性剤Cとして例示したものが使用できる。
【0068】
本形態のピッチコントロール剤におけるモノテルペン、非イオン界面活性剤A1、非イオン界面活性剤B1、及び非イオン界面活性剤C1の配合割合並びにそれらの含有量は、上記の界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cの配合割合並びにそれらの含有量と同様である。
【0069】
[ピッチコントロール方法]
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程におけるピッチコントロール方法に関する。本開示のピッチコントロール方法は、製紙工程水系に、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含む。本開示のピッチコントロール方法によれば、一又は複数の実施形態において、ピッチの分散性を向上させることができるとともに、しみ出し欠点の発生を抑制することができる。よって、本開示のピッチコントロール方法によれば、一又は複数の実施形態において、製紙工程において発生しうるピッチトラブルを抑制することができ、かつ、得られる紙製品の品質を向上することができる。
本開示のピッチコントロール方法において、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cは、本開示のピッチコントロール剤と同様である。本開示は、その他の態様として、製紙工程水系に、本開示のピッチコントロール剤を添加することを含む、ピッチコントロール方法に関する。
【0070】
薬剤の添加量は、一又は複数の実施形態において、製紙工程水系におけるパルプスラリーのパルプ固形分、ピッチの発生状態及び古紙原料の種類等に応じて決定することができる。モノテルペンの添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ濃度)に対して5ppm~1000ppmであり、好ましくは25ppm~500ppmである。界面活性剤Aの添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分に対して5ppm~1000ppmであり、好ましくは25ppm~500ppmである。界面活性剤Bの添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分に対して5ppm~2000ppmであり、好ましくは50ppm~1000ppmである。界面活性剤Cの添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分に対して5ppm~2000ppmであり、好ましくは50ppm~1000ppmである。
【0071】
モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cの製紙工程水系への添加は、一又は複数の実施形態において、連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B及び界面活性剤Cの製紙工程水系への添加は、一又は複数の実施形態において、これらの4成分を予め水と混合して添加してもよいし、それぞれ別々に添加してもよいし、4成分のうち少なくとも2又は3成分を予め水と混合して添加してもよい。
【0072】
薬剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、マシンチェスト、ミキシングチェスト、原料パルプチェスト及び種箱、並びにそれらの配管等が挙げられる。薬剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、パルパー、リファイナー、スクリュープレス、ダブルセパレーター、精選スクリーン、ロータリースクリーン、ウォッシャー、シックナー、ディスクフィルタ、及びファンポンプ等が挙げられる。
【0073】
本開示のピッチコントロール方法は、一又は複数の実施形態において、ピッチが付着する製造装置に、本開示のピッチコントロール剤を噴霧することを含んでいてもよい。本開示のピッチコントロール剤の噴霧は、一又は複数の実施形態において、本開示のピッチコントロール剤を洗浄シャワー水に添加して行ってもよい。また、ピッチコントロール剤を紙・パルプ製造工程水で希釈してから、製造装置に散布、噴霧又は浸漬してもよい。対象となる製造装置としては、特に制限されるものではなく、一又は複数の実施形態において、ワイヤー、フェルト及びロール等が挙げられる。
【0074】
対象となる製造装置としては、特に制限されるものではなく、一又は複数の実施形態において、ワイヤー、フェルト及びロール等が挙げられる。ロールとしては、一又は複数の実施形態において、センターロール、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、サクションロール、ペーパーロール、及びバッキングロール等が挙げられる。その他の設備としては、一又は複数の実施形態において、スライスリップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、及びカンバス等が挙げられる。
【0075】
本開示のピッチコントロール剤の噴霧は、一又は複数の実施形態において、製造設備の稼動前又は稼動中に、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0076】
[ピッチ欠点の発生抑制方法]
本開示は、その他の態様として、製紙におけるピッチ欠点の発生を抑制する方法に関する。本開示のピッチ欠点の発生抑制方法は、パルプスラリーに、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含む。本開示のピッチ欠点の発生抑制方法によれば、一又は複数の実施形態において、しみ出し欠点の発生を抑制できるとともに、ピッチの分散性を向上させることができる。よって、本開示のピッチ欠点の発生抑制方法によれば、一又は複数の実施形態において、高い品質の紙製品を製造でき、かつ製紙工程において発生しうるピッチトラブルを抑制することができる。
本開示のピッチ欠点の発生抑制方法において、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cは、本開示のピッチコントロール剤と同様である。本開示は、その他の態様として、パルプスラリーに、本開示のピッチコントロール剤を添加することを含む、ピッチ欠点の発生抑制方法に関する。
【0077】
本開示における「ピッチ欠点の発生抑制」とは、一又は複数の実施形態において、紙表面に生じうるピッチ欠点の面積を小さくすること等が挙げられる。ピッチ欠点の面積は、ピッチ欠点の個数とピッチ欠点の平均径とを掛け合わすことにより求めることができ、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0078】
本開示のピッチ欠点の発生抑制方法における、各薬剤の添加量及び添加箇所等は、本開示のピッチコントロール方法と同様である。
【0079】
[紙の製造方法]
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを製紙工程水系に添加することを含む紙の製造方法に関する。また、本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、本開示のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む紙の製造方法に関する。本開示の紙の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、製紙工程において発生しうるピッチトラブルを抑制しつつ、高い品質の紙製品を製造できる。
本開示の紙の製造方法における製紙工程水系への本開示のピッチコントロール剤、及び各薬剤の添加は、本開示のピッチコントロール方法と同様に行うことができる。
【0080】
製造される紙の種類は、特に限定されず、一又は複数の実施形態において、新聞用紙、印刷用紙、情報用紙、包装用紙、衛生用紙、雑種紙、段ボール原紙、紙器用板紙、及び雑板紙等が挙げられる。印刷用紙としては上質紙やコート紙等が例示でき、情報用紙としてはPPC用紙や感熱紙原紙等が例示でき、包装用紙としては純白ロール紙や晒クラフト紙等が例示でき、衛生用紙としてはティッシュペーパーやトイレットペーパー等が例示でき、雑種紙としては食品容器原紙や塗工印刷用原紙などが例示でき、段ボール原紙としてはライナーや中しん原紙などが例示でき、紙器用板紙としては白板紙や色板紙などが例示でき、雑板紙としては石膏ボードや紙管原紙などが例示できる。
【0081】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] モノテルペンと、界面活性剤Aと、界面活性剤Bと、界面活性剤Cとを含有するピッチコントロール剤であって、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤。
[2] 前記界面活性剤Bが、曇点が40~80℃である、第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物及び第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物の少なくとも一方である、[1]記載のピッチコントロール剤。
[3] 前記界面活性剤Cの曇点が、60℃以上である、[1]又は[2]記載のピッチコントロール剤。
[4] 界面活性剤Aが、ポリオキシアルキレンひまし油、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル並びにポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、[1]から[3]のいずれかに記載のピッチコントロール剤。
[5] 紙の製造工程におけるピッチコントロール方法であって、
製紙工程水系に、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール方法。
[6] 製紙におけるピッチ欠点の発生を抑制する方法であって、
パルプスラリーに、モノテルペン、界面活性剤A、界面活性剤B、及び界面活性剤Cを添加することを含み、
前記界面活性剤Aが、HLBが9.6~10.6であり、曇点を有さない非イオン界面活性剤であり、
前記界面活性剤Bが、アルキル基の炭素数が10~15であり、曇点を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記界面活性剤Cが、アルキル基の炭素数が16以上であり、曇点を有する、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチ欠点の発生抑制方法。
[7] モノテルペンと、非イオン界面活性剤A1と、非イオン界面活性剤B1と、非イオン界面活性剤C1とを含有するピッチコントロール剤であって、
前記非イオン界面活性剤A1が、ポリオキシアルキレンひまし油及びポリオキシアルキレン硬化ひまし油の少なくとも一方であり、
前記非イオン界面活性剤B1が、アルキル基の炭素数が10~15であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記非イオン界面活性剤C1が、アルキル基の炭素数が16以上である、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群から選択される、ピッチコントロール剤。
【0082】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0083】
[モノテルペン]
d-リモネン (富士フィルム和光純薬社製)
[非イオン界面活性剤]
下記表1に示す非イオン界面活性剤(受注生産品)について、HLB及び曇点を求めた。下記表1において、EO及びPOの括弧内の数字はそれぞれの付加モル数を示し、EO/POの括弧内の数字はEOとPOとのモル比を示す。ステアリルアミンPO(2)EO(15)は、ステアリルアミンの窒素原子にPOを付加した後EOを付加されている。
【表1】
【0084】
[HLBの測定]
HLBは、以下のグリフィン式を用いて算出した。
HLB=20×(親水部の式量の総和/分子量)
[曇点の測定]
界面活性剤Bの曇点は、ISO 1065 1991(エチレンオキシドから得られる非イオン系界面活性剤及び混合された非イオン系界面活性剤-曇点の決定)に記載された測定方法A(蒸留水中で測定)により測定した。界面活性剤Cの曇点は、前記ISO規定で定められる測定方法C(10%食塩水中で測定)により測定した。
【0085】
[ピッチコントロール剤の調製1]
d-リモネン、界面活性剤A、界面活性剤B、界面活性剤C、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水を用いて、下記表2に示す配合量(重量%)の実施例及び比較例のピッチコントロール剤を調製した。具体的には、実施例1~5のピッチコントロール剤は、まず、水と界面活性剤Cとを十分混合した後、界面活性剤A及び界面活性剤Bを添加して混合しこれらを十分撹拌した後、さらにd-リモネンを添加して混合することにより調製した。参考例1のピッチコントロール剤は、まず水、界面活性剤A及び界面活性剤Bを混合しこれらを十分撹拌した後、さらにd-リモネンを添加して混合することにより調製した。比較例2及び3のピッチコントロール剤は、まず、d-リモネンと水とを混合し、(NaOHを含有する場合は)NaOHを添加してさらに混合することにより調製した。下記表2に各成分の配合量(重量%)を示す。
【0086】
[しみ出し抑制効果の確認試験]
下記表2に示すピッチコントロール剤を用いて、しみ出し欠点の抑制効果の確認試験を行った。確認試験は、下記の手順で行った。
段ボール古紙を離解して得られた3重量%パルプスラリーを80g(絶乾2.4g)に蝋粒(蝋引き段古紙表面の蝋を粒状に成形したもの)0.01gを添加した。得られた蝋粒添加パルプスラリーに、下記表4に示す各薬剤を対パルプ(絶乾)1重量%添加し、40℃で25分間攪拌処理を行なった。手抄きにより坪量120g/m2の紙を抄き、画像解析によって欠点の個数・大きさを計測した。その結果を下記表2に示す。なお、d-リモネンの対パルプ(絶乾)濃度は、100ppmであった。
<欠点の個数及び大きさの計測方法>
1)手抄きした紙をカメラ(商品名:デジタルスチルカメラCyber-shot DSC-WX500、SONY製)で撮影して画像データを取得した。撮影は、1.3倍に拡大して行った。
2)画像解析ソフトウェア「AP-NLT」(精密ウェーブ社製)を用いて紙上の滲み出し欠点を検出した。
3)画像解析ソフトウェア「AP-NLT」(精密ウェーブ社製)を用いて検出箇所の個数と大きさ(検出箇所の面積から算出)を計測した。
<欠点面積の算出方法>
得られた欠点の大きさの平均径を算出し、算出した平均径と得られた検出箇所の個数(欠点数)とを用いて下記式より欠点面積を算出した。その結果を下記表2に示す。
欠点面積=欠点数(個)×平均径(mm)
<しみ出し防止率>
得られた欠点面積を用いて下記式よりしみ出し防止率(%)を算出し、得られたしみ出し防止率の値に基づき、しみ出し防止性を以下の基準で評価した。
しみ出し防止率(%)={(欠点面積blank)-(欠点面積add)}/(欠点面積blank)×100
欠点面積blank:ブランクの欠点面積
欠点面積add:ピッチコントロール剤を添加した場合の欠点面積
<評価>
◎:しみ出し防止率が85%以上
〇:しみ出し防止率が65%以上85%未満
△:しみ出し防止率が35%以上65%未満
×:しみ出し防止率が35%未満
【0087】
[ピッチ分散試験]
(1)模擬ピッチ溶液の調製
模擬ピッチ(50%アビエチン酸、10%オレイン酸、10%パルミチン酸、10%コーン油、5%オレイルアルコール、5%ステアリン酸メチル、5%β-シトステロール、及びカプロン酸コレステロールの均質な混合物)を30重量%となるようにエタノールに溶解した後、ズダンIV(富士フィルム和光純薬(株)製)の0.03重量%の添加により赤く染色して、模擬ピッチ溶液を調製した。
(2)ピッチ分散試験
下記表2に示すピッチコントロール剤と、(1)で調製した模擬ピッチ溶液とを用いてピッチ分散試験を実施した。試験は下記の手順で行なった。
300mlビーカーに水道水250mlを採取しピッチコントロール剤を50μl添加した後、マグネティックスターラーを用いて3分間攪拌した。模擬ピッチ溶液を300μl添加し1分間攪拌した(スターラーの回転数:400rpm)。攪拌を止めてから5分後にビーカー上部から模擬ピッチを観察・撮影し、画像解析によって模擬ピッチの個数・大きさを計測した。画像解析には画像解析ソフトウェア「AP-NLT」(精密ウェーブ社製)を使用した。模擬ピッチの個数は0.033μm以上のものを計測対象とした。
<ピッチ抑制率>
得られたピッチ最大径の値に基づき、ピッチ抑制率を以下の基準で評価した。
ピッチ抑制率(%)={(最大径
blank)-(最大径
add)}/(最大径
blank)×100
最大径
blank:ブランクの最大径
最大径
add:ピッチコントロール剤を添加した場合の最大径
<評価>
〇:ピッチ抑制率が75%以上
△:ピッチ抑制率が50%以上75%未満
×:ピッチ抑制率が50%未満
【表2】
【0088】
上記表2に示すとおり、実施例1~5のピッチコントロール剤は、しみ出し欠点の抑制とピッチ分散性の向上との双方を実現することができた。
【0089】
[ピッチコントロール剤の調製2]
d-リモネン、ひまし油EO(20)(界面活性剤A)、下記表3に示す界面活性剤B、ステアリルアミンPO(2)EO(15)(界面活性剤C)及び水を用いて、実施例1と同様の手d順で、ピッチコントロール剤を調製した。d-リモネン、ひまし油EO(20)(界面活性剤A)、界面活性剤B、及びステアリルアミンPO(2)EO(15)(界面活性剤C)の配合量は、実施例1と同様にした。表3における曇点及びHLBは、上記と同様にして求めた。
調製したピッチコントロール剤を用いて、上記[しみ出し抑制効果の確認試験]と同様にして、しみ出し欠点の抑制効果の確認試験を行った。その結果を下記表3に示す。
【表3】
【0090】
上記表3に示すとおり、いずれのピッチコントロール剤も、しみ出し欠点を抑制することができた。特に、界面活性剤Bとして、炭素数が12~14であり、かつ曇点が40~80℃である、第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物又は第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物を使用した場合、及び、イソデシルエーテルEO/POを用いた場合も、同様に欠点面積をさらに小さくすることができた。中でも、曇点が50~60℃であり、かつHLBが10.4~12.4である、第2級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物又は第1級アルコールのポリアルキレンオキシド付加物を使用した場合、並びに、イソデシルエーテルEO/POを使用した場合に、欠点面積を特に小さくすることができた。
【0091】
[界面活性剤Cについて]
上記実施例で界面活性剤Cとして使用したステアリルアミンPO(2)EO(15)及びセチルエーテルEO(20)に加え、さらに、ステアリルアミンPO(2)EO(20)、ステアリルアミンPO(2)EO(30)、ステアリルアミンEO(20)、ステアリルエーテルEO(20)及びセチルエーテルEO(15)を用いて、界面活性剤C単独のピッチ分散性の評価を上記ピッチ分散試験に記載した方法と同様に行った。その結果、上記界面活性剤Cは、いずれもピッチ分散性の向上効果が確認された。中でも、ステアリルアミンPO(2)EO(20)及びステアリルアミンEO(20)は、上記実施例で使用したステアリルアミンPO(2)EO(15)と同じレベルの高いピッチ分散性向上効果を示した。
上記表2に示すとおり、界面活性剤CとしてセチルエーテルEO(20)又はステアリルアミンPO(2)EO(15)を含むピッチコントロール剤は、いずれも、しみ出し欠点の抑制とピッチ分散性の向上との双方を実現できることが示されている。したがって、上記の界面活性剤Cを含むピッチコントロール剤であっても、実施例のピッチコントロール剤と同様の効果が得られることが予測される。