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特開2024-52074画像処理装置、磁気共鳴撮像装置、及び、信号分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052074
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】画像処理装置、磁気共鳴撮像装置、及び、信号分離方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158529
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 崇
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 良孝
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA07
4C096AB44
4C096AD13
4C096AD14
4C096AD15
4C096DB06
4C096DC28
4C096DD16
(57)【要約】
【課題】Dixon法を適用して水脂肪分離する際に、推定すべき変数を低減しながら、脂肪マルチピークの各ピーク強度を個別に精度よく算出すること。
【解決手段】異なるエコー時間(TE)で取得した信号から構成された複数の画像を用いて、画像の画素値(信号値)と、各成分の信号強度及びTE等などの撮像パラメータとの関係を表した所定の信号方程式(信号モデル)を解くことで、各成分の信号を分離する際に、信号方程式に含まれる変数(信号強度以外の変数)の少なくとも一つについて、予め簡易的に求めた値を精密化する処理(第1推定処理)を行った後、精密化した当該変数の値を用いて、それ以外の変数(信号強度を含む)を推定し(第2推定処理)、信号分離を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴撮像装置が取得した、異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像データを受け付ける画像受付部と、
前記複数の画像データと信号方程式とを用いて、被検体に含まれる複数の代謝物質について代謝物質毎の信号に分離する信号分離部を備え、
前記信号分離部は、前記信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの値を推定する第1の推定処理と、当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定とを行い、前記複数の代謝物質の信号分離を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部は、前記第1の推定処理において、前記複数の代謝物質が水と水以外の1つの代謝物質であるという制約のもとで、前記少なくとも一つの変数を推定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部が推定する前記少なくとも一つの変数は、見かけの横磁化緩和速度R2及び静磁場不均一に起因した周波数fの少なくとも一方を含むことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部が推定する変数は見かけの横磁化緩和速度R2を含み、
前記信号分離部は、前記第1の推定処理において、水とそれ以外の代謝物質を分離しないで求められる実効的なR2は、一つの代謝物質の見かけの横磁化緩和速度R2に当該代謝物質の固定オフセット値を加算した値であるとの仮定に基づき、前記見かけの横磁化緩和速度R2を推定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部が推定する変数は静磁場不均一に起因した周波数fを含み、前記信号分離部は、前記第1の推定処理において、基準オフセット周波数に対し前記一つの代謝物質のオフセット値を加算した周波数マップを固定値として用い、前記静磁場不均一に起因した周波数fを推定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相をともに同じ値に設定した信号モデルを用いて推定処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相を、それぞれ異なる値に設定した信号モデルを用いて推定処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相をともに同じ値に設定した第1信号モデルを用いた推定処理、及び、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相を、それぞれ異なる値に設定した第2信号モデルを用いた推定処理の一方を選択する処理選択部を備え、
前記処理選択部は、信号分離処理に用いる異なるエコー時間の画像の数に応じて、前記第1信号モデルを用いた推定処理及び前記第2信号モデルを用いた推定処理のいずれかを選択することを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記処理選択部は、前記画像の数が予め設定された数よりも大きいときに、前記第2信号モデルを用いた推定処理を選択することを特徴とする画像処理装置。
【請求項10】
請求項8に記載の画像処理装置であって、
前記異なるエコー信号の画像の数または計測時間、及び、信号分離の精度のいずれかに関する情報のユーザ指定を受け付けるユーザインタフェース部をさらに備え、
前記信号分離部は、前記ユーザインタフェース部が受け付けた情報に基づき、前記第2信号モデルを用いた推定処理を行うか否かを決定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記信号分離部によって分離された各代謝物質の信号を用いて、代謝物質毎の画像、2つの代謝物質の含有比率を表す画像、及び、代謝物質の含有程度を重畳した形態画像の少なくとも一つを生成する画像生成部をさらに備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項12】
被検体から発生する核磁気共鳴信号を計測する計測部と、前記核磁気共鳴信号を用いて画像再構成を含む演算を行う演算部と、を備え、
前記演算部は、前記計測部が異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像と信号方程式とを用いて、前記被検体に含まれる複数の代謝物質について代謝物質毎の信号に分離する信号分離部を備え、
前記信号分離部は、前記信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの変数の値を推定する第1の推定処理と、当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定処理とを行い、前記複数の代謝物質の信号分離を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相をともに同じ値に設定した第1信号モデルを用いた推定処理、及び、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相を、それぞれ異なる値に設定した第2信号モデルを用いた推定処理の一方を選択する処理選択部を備え、
前記処理選択部は、信号分離処理に用いる異なるエコー時間の画像の数に応じて、前記第1信号モデルを用いた推定処理及び前記第2信号モデルを用いた推定処理のいずれかを選択することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項14】
請求項12に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相をともに同じ値に設定した信号モデルを用いて推定処理を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項15】
請求項12に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記信号分離部は、前記第2の推定処理において、エコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相を、それぞれ異なる値に設定した信号モデルを用いて推定処理を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項16】
請求項12に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記信号分離部によって分離された各代謝物質の信号を用いて、代謝物質毎の画像、2つの代謝物質の含有比率を表す画像、及び、代謝物質の含有程度を重畳した形態画像の少なくとも一つを生成する画像生成部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項17】
磁気共鳴撮像装置が取得した、異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像データと信号方程式とを用いて、前記核磁気共鳴信号に含まれる複数の代謝物質の信号を分離する信号分離方法であって、
水以外の代謝物質が1種の代謝物質であるという制約のもとで、前記信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの値を推定する第1の推定ステップと、
当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定ステップとを含む信号分離方法。
【請求項18】
請求項17に記載の信号分離方法であって、
前記第2の推定ステップは、エコー時間がゼロのときの水の信号の初期位相とそれ以外の代謝物質の信号の初期位相とが同じであるとの制約のもと、他の変数の値を推定することを特徴とする信号分離方法。
【請求項19】
請求項17に記載の信号分離方法であって、
前記第2の推定ステップは、エコー時間がゼロのときのエコー時間がゼロのときの、水の信号の位相とそれ以外の代謝物質の信号の位相を、それぞれ異なる値に設定した信号モデルを用いて推定処理を行うことを特徴とする信号分離方法。
【請求項20】
請求項17に記載の信号分離方法であって、
前記複数の代謝物質は、複数種の脂肪を含むことを特徴とする信号分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴撮像装置(MRI装置)で得たデータを処理する画像処理装置に関し、特にMRI装置で取得した画像(MR画像)において被検体に含まれる複数の代謝物質の信号を分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置が対象とする核種は、主として水素の原子核(プロトン)であり、MRI装置で得られる画像は、検査対象組織におけるプロトンの密度など核磁気共鳴によりプロトンから生じる信号を用いて再構成される。水素は主として組織中の水及び脂肪を構成する分子に存在するため、例えば血流など水を主とする組織を画像化する場合には、水中のプロトンからの信号(以下、水信号という)に混入する脂肪からの信号(以下、脂肪信号という)を分離することが必要となる。それ以外にも、MRIで画像化できる主要な組織には、皮下脂肪、骨格筋、骨髄などがあり、これらの組織には多くの脂肪が含まれ、高コントラスト画像を得るために、水信号と脂肪信号を分離することは必須であり、分離画像の画質向上には分離の精度を高めることが重要となる。
【0003】
MRIにおいて、水信号と分離信号とを分離する技術の一つとして、水信号と脂肪信号の共鳴周波数の違い、すなわち化学シフトを利用するDixon法がある。Dixonでは、共鳴周波数の差に起因し、エコー時間TEを異ならせたときに水信号と脂肪信号との位相差が変化することを利用し、TEが異なる複数のエコー信号を得る。TEが異なるエコー信号から、それぞれ画像を算出し、Bloch方程式に基づく信号モデルを定義し、非線形最小二乗法を用いて画像に含まれる水信号と脂肪信号とを分離する。
【0004】
Dixon法では、推定すべき変数として、水の信号強度、代謝物によってピークが異なる脂肪信号について各ピーク(例えば6つのピーク)の信号強度、水と脂肪それぞれの見かけの横磁化緩和速度R2(T2の逆数)、及び静磁場不均一の合計10の変数を推定する必要がある。従って、すべての変数を算出しようとすると、TEが異なる各エコーの画像は少なくとも10画像が必要となる。一般に画像はノイズの影響を受けるため、変数推定の精度を上げるためには、さらに多くのエコー画像が必要となり撮像時間の延長やそれに伴う精度低下という問題がある。
【0005】
この問題、特に撮像時間延長の問題に対し、少ない変数でフィッティングする方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1に記載された技術は、Bloch方程式に基づく信号モデルにおいて、各代謝物のそれぞれの信号強度を用いる信号モデルの代わりに、各代謝物の共鳴周波数と相対信号強度を組み込んだ信号モデルを使用することで、変数を減らし、取得すべきエコー画像の数を減らしている。また特許文献2に記載された技術では、水と脂肪で共通の見かけの横磁化緩和速度(R2)を適用した信号モデルを使用する。この方法では、個別にR2を求める場合よりも水・脂肪画像の精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許7202665号公報
【特許文献2】米国特許7468605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水や脂肪に総括される各代謝物質の信号を分離することにより、画像診断に資する各代謝物質の定量化が可能である。例えば、慢性肝疾患は、炎症による破壊と再生、線維化の進展を経て肝がんを発症ことが多く、慢性肝疾患の病態把握のために肝内に蓄積した脂肪や鉄を精度よく計測すること(肝定量化MRI技術)の重要性が増している。脂肪量(Fat Fraction: FF)を精度よく算出するために、信号の分離の精度を向上することが重要である。また慢性肝疾患では、進行に伴い脂肪に加えて鉄沈着が生じる。鉄沈着はMRIでは見かけの横磁化緩和速度R2の増加として現れるので、R2を正確に把握することで診断能が向上する。
【0008】
これらの課題に対し、特許文献1の方法は、脂肪を1つのピークとした信号モデルよりも、算出される脂肪量の正確度が向上するが、皮下脂肪・骨格筋・骨髄などの脂肪組織によってピークの相対信号強度が異なるため、組織によっては脂肪量の正確度が低下するという課題がある。また各ピークの信号強度を算出することはできない。
【0009】
特許文献2の方法は、水と脂肪で共通の見かけの横磁化緩和速度(実効横緩和速度)R2を適用した信号モデルを使用しているため、個別にR2を求める場合よりも水・脂肪画像の精度が向上するが、水と脂肪が混在した画素ではR2の正確度が低下する。
【0010】
本発明は、これら従来のDixon法の改良技術の課題を解決し、推定すべき変数を低減しながら、脂肪マルチピークの各ピーク強度を安定して精度よく算出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、異なるエコー時間(TE)で取得した信号から構成された複数の画像を用いて、画像の画素値(信号値)と、各成分の信号強度及びTE等などの撮像パラメータとの関係を表した所定の信号方程式(信号モデル)を解くことで、各成分の信号を分離する際に、信号方程式に含まれる変数(信号強度以外の変数)の少なくとも一つについて、予め簡易的に求めた値を精密化する処理(第1推定処理)を行った後、精密化した当該変数の値を用いて、それ以外の変数(信号強度を含む)を推定し(第2推定処理)、信号分離を行うことで、少ない画像数でも変数として求められる各成分の信号強度の精度を向上する。
【0012】
即ち、本発明の画像処理装置は、磁気共鳴撮像装置が取得した、異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像データを受け付ける画像受付部と、複数の画像データと信号方程式とを用いて、前記被検体に含まれる複数の代謝物質について代謝物質毎の信号に分離する信号分離部を備え、信号分離部は、信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの値を推定する第1の推定処理と、当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定とを行い、前記複数の代謝物質の信号分離を行うものである。
【0013】
また本発明のMRI装置は、被検体から発生する核磁気共鳴信号を計測する計測部と、核磁気共鳴信号を用いて画像再構成を含む演算を行う演算部と、を備える。演算部は、上記画像処理装置の機能を備えるものであり、計測部が異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像と信号方程式とを用いて、前記被検体に含まれる複数の代謝物質について代謝物質毎の信号に分離する信号分離部を備える。信号分離部は、信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの変数の値を推定する第1の推定処理と、当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定処理とを行い、複数の代謝物質の信号分離を行う。
【0014】
また本発明の信号分離方法は、MRI装置が取得した、異なるエコー時間で収集した核磁気共鳴信号から作成した複数の画像データと信号方程式とを用いて、核磁気共鳴信号に含まれる複数の代謝物質の信号を分離する信号分離方法であって、水以外の代謝物質が1種の代謝物質であるという制約のもとで、信号方程式に含まれる複数の変数の少なくとも一つの値を推定する第1の推定ステップと、当該推定した変数の値を用いて、他の変数の値を推定する第2の推定ステップとを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、個々の代謝物質の信号を分離した信号方程式を解いて各信号の第2推定を行うのに先立って、第2推定処理に用いる信号方程式に含まれる変数を精密化する第1推定処理を行うことにより、信号方程式を解くために必要な画像数が最小限の数であっても、精度を劣化させることなく安定して信号分離を実現することができる。それにより、各代謝物質が含まれる組織や部位に関する詳細な情報、及び水と脂肪とを精度よく分離した見かけの横磁化緩和速度R2を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体構成を示す図
図2】MRI装置に備えられた計算機の機能ブロック図
図3】実施形態の信号分離処理の流れを示す図
図4】実施形態1で分離する代謝物質の例として、マルチピークの脂肪信号を示す図
図5】実施形態1の脂肪分離処理の流れを示す図
図6】実施形態1の脂肪分離画像の表示画面例を示す図
図7】実施形態1の変形例の流れを示す図
図8】実施形態2の信号分離部の機能ブロック図
図9】実施形態2の脂肪処理の流れを示す図
図10】実施形態2のGUIの一例を示す図
図11】画像処理装置の計算機の機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の画像処理装置および信号方法の実施形態を、図面を参照して説明する。最初に本発明が適用されるMRI装置1の全体構成を説明する。
【0018】
<MRI装置の機能構成>
本実施形態のMRI装置1は、図1に示すように、被検体が置かれる空間に静磁場を生成する、例えば、静磁場コイル11などの静磁場生成部と、被検体の計測領域に対し高周波磁場パルスを送信する送信用高周波コイル12(以下、単に送信コイルという)および送信器16と、被検体から生じる核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル13(以下、単に受信コイルという)および受信器17と、静磁場コイル11が発生する静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル14およびその駆動電源である傾斜磁場電源15と、シーケンス制御装置18と、計算機20(演算部)と、を備える。計算機20を除くMRI装置1の各部を総称して計測部10という。
【0019】
MRI装置1には、発生する静磁場の方向により、垂直磁場方式や水平磁場方式があり、静磁場コイル11は、その方式に応じて、種々の形態のものが採用される。傾斜磁場コイル14は互いに直交する3軸方向(x方向、y方向、z方向)それぞれに傾斜磁場を発生する複数のコイルの組み合わせからなり、それぞれ傾斜磁場電源15により駆動される。傾斜磁場を印加することで、被検体から生じる核磁気共鳴信号に位置情報を付加することができる。
【0020】
なお、図示する例では、送信コイル12と受信コイル13とが別個である場合を示しているが、送信コイル12と受信コイル13との機能を兼用する1つのコイルを用いる場合もある。送信コイル12が照射する高周波磁場は、送信器16により生成される。受信コイル13が検出した核磁気共鳴信号は、受信器17を通して計算機20に送られる。
【0021】
シーケンス制御装置18は、傾斜磁場電源15、送信器16及び受信器17の動作を制御し、傾斜磁場、高周波磁場の印加および核磁気共鳴信号の受信のタイミングを制御し、計測を実行する。制御のタイムチャートは撮像シーケンスと呼ばれ、計測に応じて予め設定され、後述する計算機20が備える記憶装置等に格納される。
【0022】
計算機20は、CPU、メモリ、記憶装置などを備える情報処理装置であり、シーケンス制御装置18を介してMRI装置の各部の動作を制御するとともに受信したエコー信号に対して演算処理を行い、予め定めた撮像領域の画像を得る。計算機20が実現する機能については後述するが、その機能はMRI装置1に含まれる計算機20として実現してもよいし、MRI装置とは独立した計算機やワークステーションなどで実現することも可能である。すなわち計算機20の機能の一部または全部を含む画像処理装置であってもよい。
【0023】
計算機20には、表示装置30、入力装置40、外部記憶装置50などが接続される。表示装置30は、演算処理で得られた結果等をオペレータに表示するインタフェースである。入力装置40は、本実施形態で実施する計測や演算処理に必要な条件、パラメータ等をオペレータが入力するためのインタフェースである。ここでは両者を合わせてユーザインタフェース部という。ユーザは、入力装置40を介して、例えば、計測するエコーの数や、エコー時間TE、エコー間隔などの計測パラメータを入力できる。外部記憶装置50は、計算機20内部の記憶装置とともに、計算機20が実行する各種の演算処理に用いられるデータ、演算処理により得られるデータ、入力された条件、パラメータ等を保持する。
【0024】
計算機20は、上述したように、MRI装置の計測部10の制御と計測部10が計測した信号の処理を行うものであるが、計測部10が計測する核磁気共鳴信号は、組織に含まれる種々の物質(特に水素を含む物質)からの信号の総和として得られるものであり、本実施形態の計算機20では、信号処理の一部として、各物質の信号を分離する機能を備える。
【0025】
このような機能を実現する計算機20の構成を図2に示す。図示するように、本実施形態の計算機20は、計測部10が収集したエコー時間TE毎の計測データに対し、それぞれ、フーリエ変換等の演算をエコー時間毎の画像(エコー画像)を生成する画像再構成部21、画像再構成部21が生成したエコー画像を用いて、その画像中に混在する各物質の信号を分離する信号分離部23、及び計測部10を制御する計測制御部25を備える。計算機20がMRI装置と独立して構築された画像処理装置の場合は、計測制御部25及び画像再構成部21は省略することができる。
【0026】
信号分離部23は、Bloch方程式に基づく信号方程式(信号モデルという)を用いて、信号方程式の変数である各物質の信号を推定し、信号分離を行う。
信号分離の対象となる物質は、プロトンを含む代謝物質であれば、特に限定されないが、具体的には、脂肪(脂質)、コリンとその代謝物など化学シフトが異なる種々の代謝物質に適用可能であり、特に、水と脂肪の各成分との分離に好適に適用される。
【0027】
信号分離に用いられる信号方程式には、各物質の信号値の他に、エコー時間、物質毎のR2、静磁場不均一(基準周波数に対するオフセット周波数)などの変数があり、エコー時間が異なるエコー画像数が多いほど、推定される変数の精度は高くなるが、それは計測時間の長時間化とトレードオフの関係になる。本実施形態では、信号分離処理を、複数の変数のうち少なくとも一つを精密化した後に、精密化した変数を用いて他の変数を推定することで、比較的少ないエコー画像数で、精度よく各物質の信号分離を行う。
【0028】
このため信号分離部23は、複数の変数のうち少なくとも一つを精密化する処理、即ち精度の高い値を推定する処理(第1の推定処理)を行う第1推定部231、及び、第1の推定処理で精密化した変数を用いて、さらにそれ以外の変数、即ち各物質の信号値を含む変数を推定する処理(第2の推定処理)を行う第2推定部232を含む。さらに、第1推定処理に用いる変数の初期値(基準値)を予め算出する基準値推定部230を備えていてもよい。変数の種類によっては、その概ねの値が、経験的或いは別計測によって予め取得できている場合もあり、それを基準値として用いることも可能である。その場合、基準値推定部230は省略される。
【0029】
信号分離部23の各部は、それぞれが複数のエコー画像と所定の信号方程式とを用いて変数の推定処理を行うが、各部で用いる信号方程式は、後に詳述するが、処理の内容によって異なり、基準値推定部230、第1推定部231、第2推定部232の順に精密化された信号方程式となる。
【0030】
計算機20は、信号分離部23の処理結果を利用して各種演算を行うために、例えば、信号分離部23が分離した信号や変数を用いて計算画像を生成する画像生成部234、及び、代謝物質毎に得られた変数の値を用いて、所定の組織における代謝物質の量、割合などを算出する定量値算出部235を備えていてもよい。
【0031】
次に本実施形態のMRI装置による信号分離処理の概要を説明する。図3に処理の流れを示す。
【0032】
<S1:計測及び画像取込>
まず前提として計測制御部25が、シーケンス制御装置18を介して計測部10を制御し、TEが異なる複数の計測データを収集する。計測部10が計測データを収集するためのパルスシーケンスは、TE毎に1枚の画像の再構成に必要な数のエコー信号を収集することができるパルスシーケンスであれば特に限定されない。計測データの数は、「水と各代謝物質とを合わせた数」+「処理に用いる信号方程式に含まれる信号強度以外の変数の数」と同数かそれ以上である。本実施形態では、推定処理を段階的に行うことで、各段階の信号方程式の変数を低減でき、これにより最小限の画像数でも精度を落とすことなく信号分離を行うことができる。
【0033】
画像再構成部21は計測部10が収集した複数の計測データをそれぞれ再構成し、複数(N枚)のエコー画像を得る。信号分離部23は、これら画像を読み込む。
【0034】
<S2:変数の基準値決定>
信号分離部23は、後続する第1推定処理で用いる信号方程式の変数のうち一つ以上の変数の値を当該変数の基準値として決定する。変数の基準値は、基準値推定部230により、S1で取得した複数のエコー画像を用い、物質を分離することなく単純化した信号方程式(モデルM1)に当てはめて推定してもよいし、他の手法で求めた変数の基準値或いは経験的に取得した基準値を用いてもよい。後者の場合には、それら変数の値は、計算機20のメモリ或いは外部記憶装置50に格納しておくことができる。
【0035】
<S3:基準値の精密化>
第1推定部231は、S1で取得した複数のエコー画像と、S2で用いた信号方程式よりも精密化した信号方程式(モデルM2)、例えば、水の信号とそれ以外の代謝物質の信号とを分離した信号モデルを用いて、S2で取得した変数の基準値を精密化する。S2で決定した変数の基準値は、代謝物質の信号を区別することなく算出された値であるため、誤差が含まれている。ここでは、精密化後の変数の値を、S2で得た基準値とそれに対するオフセット値とに分けてモデル化することで精密化する。すなわち、変数の基準値とそれに対するオフセット値とを用いて信号方程式(モデルM2)を構築し、この信号方程式を解くことで変数の推定処理を行い、変数の精密化を行う。
【0036】
なお精密化の対象とする変数は、信号モデルに含まれる変数のうち、代謝物質毎の信号値を除く複数の変数の少なくとも1つとする(たとえば見かけの緩和速度R2や静磁場不均一に起因した周波数f)。精密化する変数を2以上とする場合には、それぞれについて、基準値とそれに対するオフセット値とを分けた信号モデルを用いることで、その精密化が実現できる。
【0037】
また水以外の代謝物質の信号については、各代謝物質の共鳴周波数のピーク値が近いもの同士である場合には、それらを統合した信号値を推定する信号モデルとしてもよいし、そのうちピーク値が最大である代謝物質を代表として、その信号値を推定する信号モデルとしてもよい。
【0038】
推定処理は、複数のエコー画像から与えられる既知の値、即ちエコー時間と各エコー時間で得られる画素毎の信号値、及び信号方程式を用いた非線形最小二乗法による演算であり、これにより、所定の変数について精密化された値が得られる。なお第1推定処理においても、水及びそれ以外の代謝物質の信号値が算出できるが、これは最終的な結果としては採用されない。
【0039】
<S4:信号分離>
第2推定部232は、S3で用いた信号方程式(モデルM2)よりもさらに精密化した信号方程式(モデルM3)、例えば、水以外の代謝物質の信号をそれぞれピーク毎に分離した信号方程式を用いて、当該信号方程式の変数を推定する。この信号方程式(モデルM3)は、各代謝物質の信号値を変数として含む精密化した信号モデルであるため、変数の数が信号モデルM2よりも多くなっているが、少なくとも一つの変数は、S3で精密化した変数の値が固定値として含まれる。従って、複数のエコー画像を用いて信号分離を行う際に、直接精細な信号方程式で信号分離を行う場合よりエコー画像数を低減でき、且つ精度のよい信号分離を行うことができる。
【0040】
<S5:信号分離後の処理>
計算機20は、信号分離部23による信号分離結果を用いて、例えば、代謝物質の水信号に対する割合や、代謝物質同士の比率などを算出し、数値として提示したり画像化したりする。画像化の具体的な例は後述するが、例えば、画像生成部234が、分離した各代謝物質の信号を用いて、代謝物質毎の画像を生成してもよいし、通常のMR画像(プロトン密度画像等)上に、代謝物質の信号値から算出した代謝物質の含有量(水信号の信号値に対する代謝物質の信号値の割合として算出)を重畳してカラー表示してもよい。
【0041】
本実施形態によれば、信号分離処理において、各代謝物質の信号値を変数とする信号モデルを適用して変数を推定する処理に先立って、信号値以外の変数の少なくとも1つ以上の変数について、精密化した値を求める推定処理(第1推定処理)を行うことにより、後続する推定処理(第2推定処理)において、精度の良い変数を固定値として用いることができ、且つ変数を減らすことができるので、第2推定処理における信号の分離精度を落とすことなく、用いるエコー画像数の低減、即ち計測時間の抑制を図ることができる。
【0042】
以下、代謝物質が脂肪である場合を例に、信号分離処理の具体的な実施形態を説明する。
【0043】
<実施形態1>
本実施形態では、組織に含まれる水信号と、脂肪の各成分の信号とを分離する。脂肪の信号は、図4に示すように、(1)CH基のピーク、(2)CH基のピーク、(3)CHCH=CHCH基のピークなど6つのピークを持つマルチピーク信号であり、CH基がピーク強度最大のメインピークである。各ピークの共鳴周波数はわかっているが、各ピーク強度は、脂質の組成によって変化する。本実施形態は、これら各成分の信号分離を行うことで、個別ピークの強度を推定する。
【0044】
以下、図5のフローを参照して、本実施形態の処理を説明する。
【0045】
<S11:画像の読み込み>
図3のステップS1と同様に、計測部10によりエコー時間を異ならせた複数回の信号計測とそれぞれの画像再構成を行った後、信号分離部23は、エコー時間が異なる複数の画像を読み込む。本実施形態では、分離すべき信号は、水信号と6つの脂肪信号であり、7枚以上のエコー画像を読み込む。
【0046】
ここで複数(N枚)の画像のTEをtn(nは1~Nのいずれか)と定義し、各画像の信号(画素毎の信号値)をSnと定義する。
【0047】
<<基準値推定部230の処理>>
<S12:実効R2マップ算出>
基準値推定部230は、読み込んだエコー画像を用いて、以下の信号方程式(1)を解くことにより、実効M0と実効R2*effを算出する。実効M0、実効R2*effは、それぞれ、水とそれ以外の代謝物質を分離していない混合信号強度(M0)、実効的な見かけの横磁化緩和速度(R2*eff)である。
【数1】
式(1)において、tnはn番目のTE、Snは時刻tnの計測信号、M0及びR2*effが変数である(以下、同じ)。
【0048】
式(1)の信号方程式を解く手法は公知であり、例えば、両辺の自然対数をとってから線形最小二乗法で算出する方法(解法1)、ガウスニュートン法やレーベンバーグ・マーカート法などの非線形最小二乗法で算出する方法(解法2)、などを採用することができる。式(1)の信号方程式を解くことで、水及び脂肪を分離していない実効的な見かけの横磁化緩和速度R2*effが算出される。
【0049】
<S13:f0マップ算出>
基準値推定部230は、各エコー画像の複素信号からピクセル毎にオフセット周波数f0を算出し、周波数不均一マップ(fマップという)を得る。
【0050】
マップの算出は公知の方法を採用することができ、例えば、一つの方法として、エコー画像を用いる方法がある。この方法では、各エコー画像の各画素値の位相を算出した後、各画素について-π~+πの折り返しを除去し、位相の傾きを算出する。位相の傾きから、次式により周波数差を算出する。全画素について周波数差を算出することで周波数差マップが得られる。
[周波数差]=[位相の傾き]/2π・ΔTE
【0051】
次に周波数差マップ上に水画素をシード点に設定し、RegionGrowing法を用いて、水と脂肪の周波数オフセットを除去することで、fマップが得られる。水画素のシード点としては、例えば、実効R2算出時に誤差が最小であった画素をシード点に設定することができる。
【0052】
マップの算出の別法として、特許第6014266号に開示される方法を用いてもよい。この方法では、各エコーの複素信号を離散フーリエ空間し、各画素スペクトルを算出する。各画素について、スペクトル絶対値の最大値に対応する周波数を算出する。これを全ての画素について実施し、解法1と同様に、水画素をシード点に設定して、RegionGrowing法を用いて、水と脂肪の周波数オフセットを除去する。
こうして算出したfマップを基準値とする。
【0053】
<<S14:第1推定部の処理>>
ステップS12で算出したR2*effは信号分離せずに算出したものであるので、誤差を含む。同様にfも各脂肪ピークについてそれぞれの周波数オフセットを除去して算出したものではないため、誤差を含む。このステップでは、これら実効R2*eff及びfマップを基準値として用い、精度の高い値を推定するための処理を行う。即ち、基準値を精密化する。
【0054】
このため、「f」+各成分の「オフセット値」として表わされる各脂肪ピークのオフセット周波数を、脂肪マルチピークの周波数の一つ、例えばメインピークの周波数ffatに限定するとともに、R2=「一つの成分のR2」+「固定オフセット(R2 offset)」と定義した信号モデル(信号方程式)を設定し、S12、S13で求めたR2及びfの基準値を初期値として、この信号方程式を解くことで、R2及びfを再度算出する。
【0055】
【数2】
【0056】
この信号方程式も、式(1)と同様に、複数のエコー画像の信号値から非線形最小二乗法により解くことができ、解として、f及びR2が求められる。即ち、ステップS12、S13で算出した基準値であるf及びR2を精密化した値が推定される。
【0057】
<<S15:第2推定部の処理>>
ステップS14までの処理で用いる信号方程式を解くことで、水信号と脂肪信号とは分離できるが、脂肪の各ピークの信号は分離されていない。第2推定部232は、ステップS15で精密化したf、R2及びR2 offsetを固定値として、各ピークの信号を個別に定義した信号方程式(次式(3))を用いて、各ピークの信号を推定する。
【0058】
【数3】
式(3)において、「ρ」は水の信号(実数)、「ρf,p」は脂肪の各ピークの信号(実数)であり、推定すべき変数である。「ff,p」は脂肪の各ピークの周波数であり既知の値であり、f、R2及びR2 offsetは上述したように固定値であり変数には含まれない。またこの信号モデルでは、水と脂肪の信号を、それぞれ実数として求めているため、水と脂肪の各成分の位相を含む項「e」が存在する。本実施形態では、信号モデルに水と脂肪の初期位相が同じであるという制約を設けて、位相を一つのφで定義する。
【0059】
これにより式(3)では、ρ及びρf,pのみが変数となり、少ないエコー画像数で、各成分の信号強度を推定することができる。信号方程式(3)も、式(2)と同様に非線形最小二乗法等の手法により解くことができる。
【0060】
なお式(3)は、後述の画像生成において画素の信号強度(実数)を用いるので信号強度を実数で算出する式としたが、式(2)と同様に複素数で算出する信号方程式とすることも可能である。
<<S16:画像生成>>
【0061】
画像生成部234は、信号分離処理によって成分ごとに得られた信号強度の値及び水及び脂肪のR2、静磁場不均一マップfを用いて種々の画像を生成することができる。画像生成部234が、生成する画像の例としては、水画像、脂肪画像、FatFraction画像(PDFF)、水のR2マップ、脂肪のR2マップ、fマップ、疑似in-phase画像或いは疑似out-of-phase画像などが挙げられる。
【0062】
脂肪画像は、ピーク毎に分離した信号を加算した全ピーク画像としもよいし、ピーク毎の脂肪画像としてよい。同様に脂肪のR2マップについても脂肪の成分毎のR2マップも生成することができる。
【0063】
FatFraction画像は、定量値算出部235が、水と脂肪の合計量に対する脂肪量の割合(FF)を画素毎に算出し、それを画像化したものである。FatFraction(FF)の算出は、式(4-1)に示すように複素信号を用いてもよいし、式(4-2)に示すように、複素信号から絶対値を求め、全体値を用いて算出してもよい。
FF=|脂肪÷(脂肪+水)|×100 (4-1)
FF={|脂肪|÷(|脂肪|+|水|)}×100 (4-2)
【0064】
FatFraction画像についても、脂肪全体についての画像としてもよいし、成分毎の画像としてもよい。
【0065】
疑似in-phase画像は、水信号と脂肪信号の位相が揃った(in-phase)時の画像、疑似out-of-phase画像は、水信号と脂肪信号の位相が反転した(out-of-phase)時の画像である。実際に計測した各TEの信号は、必ずしもin-phase或いはout-of-phaseではないが、式(3)に、推定された各諸量を代入することで、疑似的に所望のTEの画像を得ることができる。
【0066】
画像生成部234が生成した画像(腹部AX面)の例を図6に示す。この例では、画面600の左側に表示された形態画像601の上に、脂肪の各ピークの存在位置が例えば階調を持つカラーで重畳して表示される。右側のブロック602には、ピークの選択、ピークの比率の表示、閾値設定などをユーザが行うためのGUIが表示される。ユーザはこのようなGUIを介して、表示させたいピークやPDFFを選択したり、求めたいピーク比やFFとコリンとの比率を選択したりすることができる。また閾値設定は、形態画像に重畳して色階調表示する場合に、例えば総PDFFに対する各ピークの割合を閾値以上である場合に設定することとし、その閾値をユーザが設定できるようにしたGUIである。数値として閾値を設定するのではなく、ユーザが形態画像上にROI603を設定することで、そのROI603における信号値を基準(閾値)として、それよりも高い場合には表示するようにしてもよい。
【0067】
UI部が、GUIを通じて上述したユーザ設定を受け付け、それを画像生成部234や定量値算出部235に渡すことで、ユーザ所望の処理即ち所望のピーク画像の生成及び表示、ピーク値の算出及び表示を行うことができる。
【0068】
また図6には示していないが、水及び脂肪(全脂肪及び成分毎)のR2のマップも生成することができるので、R2の経時的な変化から、慢性肝炎の鉄沈着の変化を把握することができる。
【0069】
本実施形態によれば、複数のエコー画像と信号モデルとを用いて、複数の代謝成分の信号を分離する際に、各成分の信号以外の変数のうち1つ以上の変数を予め精密化する処理(第1推定処理)を行い、その後信号分離(第2推定処理)を行うことにより、少ないエコー画像数でも安定した結果を得ることができ、得られる分離画像等の精度を向上することができる。
【0070】
<変形例>
実施形態1では、第2推定処理において水と各脂肪ピークの信号を分離する際に、水と脂肪の初期位相が同じであるという制約をおいて、信号方程式を設定したが、水と脂肪の位相をそれぞれ未知数(即ち推定する変数に加えて)、推定処理を行うことも可能である。
【0071】
すなわち第2推定処理で用いる信号方程式を次式のように変更する。
【数5】
【0072】
本変形例では、実施形態1の信号分離処理(図5)の第2推定処理S15は、図7に示すように、信号モデルの変更S15-1、信号分離処理S15-2の流れとなる。
【0073】
本変形例によれば、第2推定処理における変数が増えるため、信号方程式(式(3))を解くために必要なエコー画像数が若干増えるが、より各信号の推定精度を向上することができる。
【0074】
<実施形態2>
本実施形態は、信号分離部23が読み込んだエコー画像数に応じて、実施形態1又はその変形例の処理のいずれかを選択して実行する。
【0075】
本実施形態の信号分離部20の構成を図8に示す。図8において、図2と同じ機能を持つ要素は同じ符号で示す。また図8では、図2に示した画像生成部及び定量値算出部を省略しているが、これらを備えていてもよいことは実施形態1と同様である。
【0076】
図示するように、信号分離部23は、第2推定部が2つの第2推定部232-1、232-2を備えるとともに、処理選択部236を備えている。第2推定部232-1の機能は、実施形態1の第2推定部と同様であり、第2推定部232-2の機能は、変形例の第2推定部と同様である。処理選択部236は、予め設定したエコー画像の数の閾値を用いて、第2推定部232-1、232-2のいずれかを選択する。閾値は、それぞれの推定部が用いる信号方程式に含まれる変数の数によって決めることができ、例えば、第2推定部232-2の変数の数を閾値とし、それ以下であれば、第1推定部232-1を、閾値を超えたときには第2推定部232-2を選択する。
【0077】
本実施形態の処理の流れを図9に示す。図9において図5と同じ処理は同じ符号で示す。
【0078】
本実施形態でも、複数のエコー画像を読み込み、基準値である実効R2及びfマップを算出すること、これら基準値の精密化を行うこと(S11~S14)は図5と同様である。次に、処理選択部236は、画像読み込み(S11)で読み込んだエコー画像の数を閾値と比較し、閾値以下であれば、第1推定部232-1を選択し、閾値を超える場合には第1推定部232-2を選択する(S15-0)。
【0079】
第2推定部232-1、232-2は、ともに第1推定部231により精密化した変数を用いて、推定処理を行うが、第2推定部232-1が選択された場合には、第2推定処理において、水信号の位相と脂肪信号の初期位相(エコー時間0のときの位相)を共通化し、式(3)の信号方程式を用いて、信号分離を行う(S15-1)。一方、第2推定部232-2が選択された場合は、水信号と脂肪信号の初期位相は個別に定義し且つ複数の脂肪成分の信号の位相を共通化し、式(4)の信号方程式を用いて、信号分離を行う(S15-2)。なお、エコー時間が0とはRFパルス印加直後の初期状態を指す。
【0080】
その後、分離画像等を作成し、またFF等を算出し、その結果を表示すること(S16)は実施形態1と同様である。
【0081】
本実施形態によれば、信号分離に使用できるエコー画像の数に応じて、推定を行う信号方程式を切り替えることで、エコー画像数に応じた精度の分離画像であって且つ無理な推定による画質劣化のない分離画像を得ることができる。
【0082】
なお以上の説明では、エコー画像数の閾値が予め設定されており、処理選択部236はその閾値を用いて処理の選択を行う場合を説明したが、ユーザが直接どちらの第2推定処理とするかを選択する構成としてもよい。
【0083】
<変形例>
実施形態2では、信号分離部の第2推定部の処理を、エコー画像の数に応じて異ならせたが、選択肢として、公知或いは別の手法の推定処理を加えることも可能である。その場合、信号分離部自体の処理を、第1推定部の処理を伴う2段階の推定処理で行うか、従来手法の推定処理を行うかを選択する構成とすることも可能である。
【0084】
ユーザが本発明の信号分離処理を選択する場合のGUIの一例を図10に示す。この例では、ユーザが本発明の信号分離、即ち「安定化処理」を採用(ON)するか採用しない(off)かを選択するボタン610や「安定化処理」を実行する場合に、必要となる最小エコー画像数「echo数」の設定ボタン620が表示される。ユーザは、計測部10による計測時間や画像精密度に対する優先度などを考慮して、「安定化処理」を行うか否かの判断を行うことができる。また「安定化処理」を行う場合に、最小限必要なエコー画像数を入力することで、脂肪分離の精度を確保しながら安定化処理を実行することができる。
【0085】
安定化処理が選択された後、第2推定処理について実施形態1の処理とするか変形例の処理とするかを選択可能としてもよく、その選択のためのGUIを表示してもよい。また安定化処理が選択されない場合には、従前の信号推定処理を行うこととしてもよい。
【0086】
以上、本発明のMRI装置とその計算機が行う信号分離処理の実施形態を説明したが、本発明はMRI装置から独立した計算機(画像処理装置2)で実現することも可能であり、その場合、図11に示すように、図2に示す計算機20の構成から、計測制御部25及び画像再構成部21は省かれ、代わりにMRI装置から転送される画像を受け付ける画像受付部27が追加される。画像生成部234及び定量値算出部235は任意であり、省略可能である。
【0087】
信号分離部は、図2又は図8に示す構成のいずれかでもよいし、図2の構成の信号分離部、図8の構成の信号分離部及び従来法による信号分離部など、2種以上の信号分離部23A、23Bを備えて、それを処理選択部236で選択する構成とすることも可能である。
【0088】
それ以外の構成及び機能は、上述したMRI装置の計算機の構成及び機能と同様であり、説明を省略する。
【符号の説明】
【0089】
1:MRI装置、2:画像処理装置、10:計測部、20:計算機、21:画像再構成部、23:信号分離部、25:計測制御部、27:画像受付部、231:第1推定部、232:第2推定部、234:画像生成部、235:定量値算出部、236:処理選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11