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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052105
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ポリエステル系繊維の染色方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 3/52 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D06P3/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158579
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】597060379
【氏名又は名称】株式会社田中直染料店
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】北川 一寿
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA02
4H157CA03
4H157CA33
4H157CB16
4H157CB18
4H157DA01
4H157DA17
(57)【要約】
【課題】カチオン化等の前処理をすることなく、ポリエステル系繊維を天然染料で染色できるようにする。
【解決手段】天然染料と、媒染剤と、キレート剤とを含有する染料液又は捺染糊を用いてポリエステル系繊維を染色する染色方法。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然染料と、媒染剤と、キレート剤とを含有する染料液を用いてポリエステル系繊維を浸染する浸染工程を含むポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項2】
前記染料液が、前記媒染剤の含有量を1として、0.5以上2.0以下のモル比で前記キレート剤を含有する請求項1に記載のポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項3】
前記染料液が、前記天然染料の含有量を1として、1.0以上3.0以下のモル比で前記媒染剤を含有する請求項1に記載のポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項4】
前記染料液が、前記キレート剤として、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、トリポリリン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジホスホン酸又はアミノカルボン酸から選択される1種又は複数種類の遊離酸又はナトリウム塩を含有する請求項1に記載のポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項5】
前記染料液を作製する染料液作製工程を含み、
当該染料液作製工程において、前記天然染料を添加した後、前記媒染剤を添加するよりも先に前記キレート剤を添加する請求項1に記載のポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項6】
前記染料液が更に分散染料を含有する請求項1に記載のポリエステル系繊維の染色方法。
【請求項7】
天然染料と、媒染剤と、キレート剤とを含有する捺染糊を用いてポリエステル系繊維を捺染する捺染工程を含むポリエステル系繊維の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系繊維の染色方法に関するものであり、特に天然染料を用いたポリエステル系繊維の染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エコなイメージの付与が引き金となり、天然染料を使用して繊維製品を染色する取り組みが注目されている。繊維製品では、その繊維別の生産割合の60%以上を化学繊維が占めており、その化学繊維の中で最も大きな割合を占めているのがポリエステル繊維である。ポリエステル繊維は天然染料では通常は染まらないことが知られており、従来、ポリエステル繊維に対してカチオン化剤等で前処理を施したり、変性ポリエステルを使用する、天然染料自体を変性することで、天然染料によりポリエステル繊維を染色するようにしている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-233081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記したような、ポリエステル繊維を事前にカチオン化させる方法では、ポリエステルの染色を行う染色工場で使用されている一般的な設備で、従来通りの工程で天然染料を用いた染色を行うことは難しい。すなわち、カチオン化等の前処理を行うために新たな工程を増やす必要があり、場合によっては設備全体の見直しが必要となり、そのため既存設備のまま簡単に行うことができなかった。さらには、前処理を行う場合には、工程数が増えることで排水量が増加したり、また加熱による炭酸ガス排出量が増加してしまい、エコと逆行する結果となってしまう。
【0005】
本発明はこのような問題を解決すべくなされたものであり、カチオン化等の前処理をすることなく、ポリエステル系繊維を天然染料で染色できるようにすることを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明の一実施形態に係るポリエステル系繊維の染色方法は、天然染料と、媒染剤と、キレート剤とを含有する染料液を用いてポリエステル系繊維を浸染する浸染工程を含むことを特徴とする。
また本発明の他の一実施形態に係るポリエステル系繊維の染色方法は、天然染料と、媒染剤と、キレート剤とを含有する捺染糊を用いてポリエステル系繊維を捺染する捺染工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように構成した本発明によれば、カチオン化等の前処理をすることなく、ポリエステル系繊維を天然染料で染色できるようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討した結果、染料液と媒染剤とキレート剤とを混合して作製した染料液や捺染糊を用いることで、カチオン化等の前処理を行うことなくポリエステル繊維を染色できることを初めて見出した。天然染料と媒染剤とキレート剤とを含む染料液や捺染糊を用いることで、前処理なしにポリエステル繊維を染色できる理由については未だ不明な点もある。現在までに得られている知見を基に本発明者が考えるメカニズムについて以下に説明する。以下のメカニズムについての説明は本発明の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
【0009】
すなわち、天然染料と媒染剤とを混合することで配位結合により発色とレーキ化を起こさせ、天然染料が液中で溶けてしまうことを防止できる。そしてさらに金属イオンに対するキレート能を有するキレート剤を混合させることで、レーキ化した天然染料が顔料化して液中に沈殿するのを防ぐことができる。これにより天然染料を、液中に溶解させ過ぎることも沈殿させ過ぎることも防止でき、ファンデルワールス力等の分子間力によりポリエステル繊維と結合させ染着させることができると考えられる。
【0010】
これにより、カチオン化等の前処理を行う必要がないので、既存の分散染料用の染色設備等を用いて、新たな設備や工程を追加することなく天然染料を用いたポリエステル繊維の染色を行うことができる。
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係るポリエステル系繊維の染色方法について説明する。なお、本実施形態の染色方法により染色する被染物であるポリエステル系繊維は、例えば、PET繊維、PEN繊維、PTT繊維、PBT繊維、レギュラーポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、ウレタンや木綿等の各種繊維との混紡繊維等を用いて得られたものであるが、これに限らない。また、ポリエステル系繊維は任意のものであってよく、例えばバラ毛、糸、布帛、ニット、縫製品等であってよいがこれに限らない。
【0012】
[1]第1の実施形態
本実施形態の染色方法は、被染物を浸染により染色する染色方法であり、染料液を作製する染料液作製工程と、作製した染料液を用いて被染物を浸染する浸染工程と、浸染後の被染物を洗浄する洗浄工程とを含んでいる。
【0013】
(1)染料液作製工程
本実施形態で作製する染料液は、天然染料と媒染剤とキレート剤とを少なくとも含有するものであり、必要に応じて分散染料と染料溶解剤とを更に含有していてもよい。これらの原料を水と共に容器内で混合することにより染料液を得ることができる。なおこの染料液は、例えば酢酸や酢酸ナトリウム緩衝液等の任意のpH調整剤を用いてpH4~8に調整しておくのが好ましく、pH4~6に調整しておくのがより好ましい。
【0014】
天然染料を添加した後、キレート剤よりも先に媒染剤を添加すると、液中に金属水酸化物が形成され、天然染料の不溶化や摩擦堅牢度の低下を引き起こし、染色物の品質を低下させる恐れがある。そのためこの染料液作製工程では、容器内に各原料を投入する順番としては、天然染料を添加した後、媒染剤を添加する前にキレート剤を添加するのが好ましい。このようにすることで、天然染料の不溶化を抑制し、ポリエステル繊維を染色しやすくできる。その他の原料は任意の順番により添加してよい。
【0015】
天然染料は、動物由来又は植物由来のいずれであってもよく、媒染剤と結合するものが好ましい。天然染料の具体例としては、例えば、ウコンの根、クチナシの果実、エンジュの花蕾、ヤマモモの樹皮、コガネバナの樹皮、ザクロの果皮、ヌルデの虫瘤(ゴバイシ)、ミロバランの果実、チョウジの蕾、ビンロウジの種子、クルミの果皮、カテキューの幹材、タンガラの樹皮、アカネの根、スオウの心材、ラックダイ、コチニールの虫体、ログウッドの心材等の乾燥物、またはこれらから熱水抽出したエキスが挙げられるがこれに限らない。天然染料は1種のみを用いても2種以上を混合してもよい。
【0016】
染料液中の天然染料の含有量は、その種類、状態及び抽出方法により適宜変更されてよい。
天然染料の含有量が少なすぎると、ポリエステル繊維に染色結果(色)として現れない恐れがある。そのため、天然染料の含有量は、液体植物染料として0.2%o.w.f以上が好ましく、0.5%o.w.f以上がより好ましく、1.0%o.w.f以上がさらに好ましい。一方で、天然染料の含有量が多すぎると、コスト上昇や廃水の濃色化等を生じさせる。そのため天然染料の含有量は、液体植物染料として200%o.w.f以下が好ましく、100%o.w.f以下がより好ましく、50%o.w.f以下がさらに好ましい。
【0017】
例えば、化学染料とのハイブリット染色を行う場合であって、乾燥状態のものを熱水抽出する場合には、天然染料の量は、固形物換算で約10%o.w.f以上約200%o.w.f以下が好ましく、約10%o.w.f以上約40%o.w.f以下がより好ましい。この場合、抽出条件は、乾燥状態の天然染料をミルミキサー等で粉砕した後、20~40g以下を秤量し湯を加えて1リットルとし、これを80~90℃で30分間加熱した後、濾過するのが好ましい。また、天然由来の天然色素エキスを用いる場合には、天然染料は、固形物換算で約1%o.w.f以上約20%o.w.f以下が好ましく、約1%o.w.f以上約4%o.w.f以下がより好ましい。液体植物染料(田中直染料店製)を用いる場合は、約2%o.w.f以上100%o.w.f以下がよく、さらには約2%o.w.f以上10%o.w.f以下がより好ましい。
【0018】
媒染剤は、例えば、錫、アルミニウム、銅、チタン、鉄等の金属塩が好ましいがこれに限らない。密閉型高圧染色やキャリヤー染色を行う場合、媒染剤は、錫、アルミニウム、チタンの金属塩が特に好ましい。錫媒染剤としては塩化錫が好ましく、アルミニウム媒染剤としては水溶性酢酸アルミニウム又は硫酸アルミニウムカリウムが好ましく、銅媒染剤としては硫酸銅又は酢酸銅が好ましく、チタン媒染剤としては硫酸チタニル又は塩化チタンが好ましく、鉄媒染剤としては硫酸鉄、塩化鉄又は木酢酸鉄が好ましいが、これらに限らない。染料液には、これらから選択される一種類又は複数種類の媒染剤を含有させてもよいが、天然染料の色相の再現性の観点から一種類の媒染剤を含有させるが好ましい。
【0019】
媒染剤の含有量は、天然染料の使用量に応じて適宜変更してよい。大半の天然染料(アグリコン)と媒染剤の関係で言うと、天然染料を1として、媒染剤が1.0以上3.0以下のモル比で結合することが知られている。このように天然染料と媒染剤が一定の割合で結合するため、天然染料の使用量が増えると媒染剤も併せて増量させるのが好ましい。このとき、天然染料に対して媒染剤が少なすぎると、染まることのできなかった染料が染色浴中に残ることになり、染料の利用効率が悪くなる。前記した好適な天然染料使用量において浸染用媒染剤として0.2%o.w.f以上が好ましく0.5%o.w.f以上がより好ましく、1%o.w.f以上がさらに好ましい。逆に染料に対して媒染剤が多すぎると、染色廃液の金属量が増加し廃水処理の負荷が大きくなる。前記した好適な天然染料使用量において浸染用媒染液(田中直染料店製)として200%o.w.f以下が好ましく100%o.w.f以下がより好ましく、50%o.w.f以下がさらに好ましい。
【0020】
キレート剤は、金属イオンに対するキレート能を有する安定剤であり、金属イオン安定剤ともいう。具体的にこのキレート剤は、リンゴ酸、乳酸、酒石酸又はクエン酸、トリポリリン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジホスホン酸又はアミノカルボン酸等から選択される1種又は複数種のものである。これらのキレート剤は、遊離酸の状態であってもよく、ナトリウム塩等の状態であってもよい。
【0021】
キレート剤の量は、添加する媒染剤の金属の量に合わせて調整するのが好ましい。媒染剤に対してキレート剤が少なすぎると、染色浴中で沈殿が生じ、染まりにくく、かつ簡単に脱色する質の悪い染色物となる恐れがある。逆に、媒染剤に対してキレート剤が多すぎると、天然染料と媒染剤の配位結合を阻害し、ポリエステル繊維を染められなくなる恐れがある。例えば、添加する媒染剤の金属(媒染金属)とキレート剤とが1:1の割合で結合するものの場合、媒染剤の含有量を1として、キレート剤を0.5以上2.0以下のモル比で含有するのが好ましく、0.8以上1.5以下のモル比で含有するのがより好ましく、1:1の割合で添加するのが最も好ましい。前記好適な天然染料使用量においてアニノールALB((株)田中直染料店製)として0.2%o.w.f以上が好ましく0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。200%o.w.f以下が好ましく100%o.w.f以下がより好ましく、50%o.w.f以下がさらに好ましい。
【0022】
分散染料としては、任意のものを使用することができ、例えば、スミカロン エロー ERPD(住友化学(株)製)、スミカロン レッド ERPD(住友化学(株)製)、スミカロン ブルー ERPD(住友化学(株)製)、スミカロン ターキスブルー SGL(住友化学(株)製)、ダイアニクス B.レッド BSE(DyStar製)、ポリロンシリーズ((株)田中直染料店製)等が挙げられる。
【0023】
染料溶解剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド重縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、多価アルコール等の溶剤系が挙げられる。天然染料として脂溶性の高いものを使用する場合は、染料溶解剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩又は多価アルコール系を使用するのが好ましい。なお染料として溶解度の特に高い配糖体を主成分とするものを使用する場合には、染料溶解剤を添加しなくてもよい。
【0024】
染料溶解剤の含有量が多量になると天然染料の染着率が低下する恐れがあるため、天然染料の溶解性と溶解剤の種類に応じて加減する必要がある。染料液における染料溶解剤の含有量は、例えば、アニノールS(田中直染料店製)として1v/v%以上20v/v%以下あるのが好ましく、2v/v%以上10v/v%以下であるのがより好ましく、3v/v%以上5v/v%以下がさらに好ましい。
【0025】
(2)浸染工程
浸染工程では、上記工程で得た染料液を用いて、既知の染色機を用いて被染物を浸染する。染色機としては、被染物の形状や染色を行う施設の条件に合わせて適したものが選択されてよく、例えば液流染色機、ジッガー染色機、チーズ染色機又はカセ染色機等であってよい。染色条件は、常圧染色又は加圧染色のいずれであってもよい。常圧染色を行う場合は、被染物のガラス転移温度超、100℃以下の温度で15分以上30分以下で行うが好ましく、90℃以上100℃以下の温度で20分以上30分以下で行うのがより好ましい。加圧染色を行う場合は、105℃以上140℃以下で15分以上30分以下で行うのが好ましく、120℃以上135℃以下で20分以上30分以下で行うのがより好ましい。
【0026】
(3)洗浄工程
浸染工程の後、浸染した被染物を洗浄する。洗浄方法は既知の任意の方法でよく、例えば、被染物を水洗した後、水酸化ナトリウムやハイドロサルファイトを用いた還元洗浄を行ってよい。
【0027】
[2]第2の実施形態
次に第2の実施形態にかかる染色方法について説明する。本実施形態の染色方法は、被染物を捺染により染色する染色方法であり、捺染糊を作製する捺染糊作製工程と、作製した捺染糊を用いて被染物を捺染する捺染工程と、捺染後の被染物をスチーミングするスチーミング工程と、スチーミング後の被染物を洗浄する洗浄工程とを含んでいる。
【0028】
(1)捺染糊作製工程
本実施形態で作製する捺染糊は、天然染料と媒染剤とキレート剤とを少なくとも含有するものであり、必要に応じて分散染料と染料溶解剤とを更に含有していてもよい。これらの原料を糊剤及び水と共に容器内で混合することにより捺染糊を得ることができる。第1の実施形態と同様に、この工程において、容器内に各原料を投入する順番としては、天然染料を添加した後、媒染剤を添加する前にキレート剤を添加するのが好ましい。なお糊剤としては既知のものを使用することができる。またこの捺染糊は、任意のpH調整剤(例えば、酢酸や酢酸ナトリウム緩衝液等)を用いて、pH4~8に調整しておくのが好ましく、pH4~6に調整しておくのがより好ましい。添加する各原料の種類や量は、第1の実施形態と同様である。
【0029】
(2)捺染工程
捺染工程では、上記工程で得た捺染糊を用いて、既知の捺染機を用いた方法により被染物を捺染する。捺染方法としては、被染物の形状や染色を行う施設の条件に合わせて適したものが選択されてよく、例えばスクリーン捺染、ロール捺染、スプレー又はインクジェット等が挙げられるが、これに限らない。
【0030】
(3)スチーミング工程
スチーミング工程では、捺染糊をプリント後又は噴霧後の被染物を蒸気で加熱(スチーミング)する。スチーミングの条件は既知のものであってよく、例えば、高圧スチームを用いて130℃で10~30分間行ってよく、また高温スチームを用いて170~180℃で5~10分間行ってもよい。高圧スチームを用いて130℃で15~20分間行なうのが好ましい。
【0031】
(4)洗浄工程
スチーミング工程の後、捺染した被染物を洗浄する。洗浄方法は既知の任意の方法でよく、例えば、被染物を水洗した後、水酸化ナトリウムやハイドロサルファイトを用いた還元洗浄を行ってよい。
【実施例0032】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(1)実施例1
プレセット加工済みのポリエステルダンボールニットをポリエステル系繊維として染色(浸染)に用いた。被染物に対して、分散染料(ダイアニクス エロー ACE 0.0198%o.w.f、ダイアニクス レッド ACE 0.105%o.w.f、ダイアニクス ブルー ACE 0.0183%o.w.f、いずれもDystar社製)と、天然染料(液体植物染料 ログウッド液67、(株)田中直染料店製)0.45%o.w.fと、浸染用媒染剤(浸染用アルミ液、(株)田中直染料店製)0.45%o.w.fと、キレート剤(アニノールALB、(株)田中直染料店製) 0.45%o.w.fと、促染剤(促染剤AN-25、(株)田中直染料店製)3g/Lを湯に添加し、さらに酢酸-酢酸ソーダ系緩衝液を用いてpH5前後に調整し、これを染料液とした。
【0034】
ここでアニノールALBは有機酸塩を主成分とする製剤で、アルミニウムイオンの安定化剤である。浸染用アルミ液は、液体植物染料と同量使用することで金属量と色素量の割合が好適になるように調整された高濃度アルミ塩製剤である。液体植物染料ログウッド液67はログウッド心材に含まれるヘマチンを主成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。促染剤AN25は、特殊非イオン活性剤からなるポリエステル用の天然染料及び分散染料の促染剤である。
【0035】
なお液体植物染料((株)田中直染料店製)は、各々の天然物から混合溶媒により抽出した天然染料であり、品名末尾の数字が100gの製品を調整するために使用した原料植物(乾燥)の重量(g)を示している。例えばエンジュ液25であれば100gのエンジュ液25を製造するためにエンジュ花蕾を25g使用して色素を抽出した製品である。
また浸染用媒染剤((株)田中直染料店製)と、後述する一液用媒染剤((株)田中直染料店製)はいずれも各種金属濃度が0.45~0.55mol/Lに調整された液体媒染剤である。
【0036】
そしてこの染料液を用いて、5kgの被染物を液流染色機にて浴比1:12で、60℃から昇温させ、90~100℃で30分間染色(浸染)した。
【0037】
その後被染物を水洗し、さらに洗浄液(炭酸ナトリウム3g/L、ハイドロサルファイト3g/L)を用いて、浴比1:20で、80℃で20分間還元洗浄を行った。その後、被染物を60℃で15分間湯洗いし、酢酸1ml/Lの液に浸漬し、さらに水洗して仕上げた。
【0038】
これにより、均質で風合いの良い淡色赤味ブルーのハイブリットタイプの染色布が得られた。得られた染色布に対して耐光堅牢度試験を行ったところ、耐光堅牢度は3級以上を満たしていた(染色協力 飯田繊工株式会社;大阪市)。
【0039】
(2)実施例2
平織ポリエステル織物を精練したものをポリエステル系繊維として染色(浸染)に用いた。被染物に対して、天然染料(液体植物染料インド茜液22、(株)田中直染料店製)10%o.w.fと、キレート剤(アニノールALB、(株)田中直染料店製)10%o.w.fと、媒染剤(浸染用アルミ液、(株)田中直染料店製)10%o.w.fと、促染剤(促染剤AN-25、(株)田中直染料店製)3g/Lを湯に添加し、さらに酢酸-酢酸ソーダ系緩衝液を用いてpH5前後に調整し、これを染料液とした。なお液体植物染料インド茜液22は、インドアカネの根に含まれるアントラキノン系染料を主要成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。
【0040】
そしてこの染料液を用いて、ビーカー染色機にて浴比1:50で、冷水から昇温させ、100℃で30分間染色(浸染)を行った。その後被染物を水洗し、洗浄液(タナクリンEX、(株)田中直染料店製 2ml/L)を用いて、浴比1:20で、80℃で10分間ソーピングを行った。これにより、アカネのアルミ媒染による天然染料100%タイプの朱色、風合い良好な平織布が得られた。
【0041】
(3)実施例3
ポリエステルニットを精練及びヒートセット加工したものをポリエステル系繊維として染色(浸染)に用いた。被染物に対して、天然染料(液体植物染料エンジュ液25K、(株)田中直染料店製)5%o.w.fと、キレート剤(アニノールW、(株)田中直染料店製)5%o.w.fと、媒染剤(浸染用錫液、(株)田中直染料店製)5%o.w.fと、分散染料(スミカロン エロー ERPD、住友化学(株)製)1%o.w.fを湯に添加し、さらに酢酸-酢酸ソーダ系緩衝液でpH5前後に調整し、これを染料液とした。なお、液体植物染料エンジュ液25Kは、エンジュ花蕾中の色素(アグリコン)を主要成分として抽出した液体の天然染料である。また浸染用錫液は、液体植物染料と同量使用することで金属量と色素量の割合が一定になるように調整された高濃度錫塩製剤である。
【0042】
この染料液を用いて、液流染色機にて、浴比1:50で冷水から昇温させ、120℃で30分間染色(浸染)を行った。水洗後、ソーピング剤(タナクリンEX((株)田中直染料店製) 2ml/L)を用いて、浴比1:20で、80℃で10分間ソーピングを行った。これにより、エンジュの錫媒染と分散染料によるハイブリットタイプの黄色の風合い良好なニットが得られた。
【0043】
(4)実施例4
平織ポリエステル布をポリエステル系繊維として染色(捺染)に用い、5版重ねてタイダイ柄のプリントを行った。
【0044】
5版それぞれに使用した捺染糊は、いずれも天然染料調整糊と合成染料調整糊とを、重量比で2:8で混合したものである。天然染料調整糊は、その全体の重量を100%として、重量比で、天然染料(液体植物染料、(株)田中直染料店製)25%、媒染剤(一液用媒染剤、(株)田中直染料店製)25%、糊剤(ND捺染糊P、(株)田中直染料店製)50%で調整したものである。合成染料調整糊は、糊剤(CMC系元糊、山光化染(株)製)60%と、水と分散染料とで合計100%としたものである。ND捺染糊P((株)田中直染料店製)はオートスクリーン用の天然染料と金属塩を混合することのできる天然物由来の糊剤と染料溶解剤及び金属イオン安定剤等の配合製剤である。1~5版の捺染糊は以下のように調整した。
【0045】
1版用の天然染料調整糊は、天然染料としてログウッド液67を使用し、媒染剤として一液用鉄液を使用して調整した。1版用の合成染料調整糊は、分散染料として、ダイアニクス ポリエステル エロー 4GS(Dystar社製) 0.165gと、キワロンポリエステル レッド TL-SF(紀和化学工業(株)製) 0.014gと、配合ブルー BG-SF(山光化染(株)製)0.433gとを使用して調整した。なお、ログウッド液67は、ログウッド心材に含まれるヘマチンを主成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。また一液用鉄液は、液体植物染料と同量使用することで金属量と色素量の割合が一定になるように調整されかつ、色素との不溶化を遅延させる成分を添加した鉄塩製剤である。
【0046】
2版用の天然染料調整糊は、天然染料としてログウッド液67を使用し、媒染剤として一液用アルミ液を使用して調整した。2版用の合成染料調整糊は、分散染料として、ダイアニクス ポリエステル エロー 4GS(Dystar社製) 0.110gと、配合ブルー BG-SF(山光化染(株)製)0.131gとを使用して調整した。なお、一液用アルミ液は液体植物染料と同量使用することで金属量と色素量の割合が一定になるように調整されかつ、色素との不溶化を遅延させる成分を添加したアルミニウム塩製剤である。
【0047】
3版用の天然染料調整糊は、天然染料としてスオウ液67を使用し、媒染剤として一液用アルミ液を使用して調整した。3版用の合成染料調整糊は、分散染料として、ダイアニクス ポリエステル エロー 4GS(Dystar社製) 1.487gと、キワロンポリエステル レッド TL-SF(紀和化学工業(株)製) 0.046gと、配合ブルー BG-SF(山光化染(株)製)0.043gとを使用して調整した。なおスオウ液67は、スオウ心材に含まれるブラジレインを主成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。
【0048】
4版用の天然染料調整糊は、天然染料としてウコン液50を使用し、媒染剤として一液用鉄液を使用して調整した。4版用の合成染料調整糊は、分散染料として、ダイアニクス ポリエステル エロー 4GS(Dystar社製) 0.229gと、キワロンポリエステル レッド TL-SF(紀和化学工業(株)製) 0.031gと、配合ブルー BG-SF(山光化染(株)製)0.035gとを使用して調整した。なおウコン液50は、ウコンの根に含まれるクルクミンを主成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。
【0049】
5版用の天然染料調整糊は、天然染料としてウコン液50を使用し、媒染剤として一液用鉄液を使用して調整した。5版用の合成染料調整糊は、分散染料として、配合ブルー BG-SF(山光化染(株)製)0.035gと、スミカロン ターキスブルー S-GL(住友化学(株)製)0.037gとを用いて調整した。
【0050】
そして調整した捺染糊を用いて、オートスクリーン機にて、1~5版のプリント及び乾燥を行った後、高温スチームにより172℃で8分間蒸熱処理をした。
【0051】
そして被染物を水洗した後、苛性ソーダ 2%、プレベンダー RD30(コタニ化学工業(株)製)2%を添加した洗浄液で85℃で1分間洗浄した後、更に洗浄液にハイドロサルファイトを2%加えて洗浄を1分間行った。このRC洗浄をもう一度繰り返した後、水洗した。
【0052】
これにより、天然、合成ハイブリット染色によるグリーン系の多色タイダイプリント布が得られた。その風合いは若干の硬質化を感じられるが許容できる範囲であった。
【0053】
(5)実施例5
ポリウレタン混ポリエステルニットをポリエステル系繊維として染色(捺染)に用いた。
【0054】
重量基準として、糊剤(ND捺染糊P、(株)田中直染料店製)80部、媒染剤(一液用アルミ液、(株)田中直染料店製)5部、天然染料(液体植物染料 エンジュ液25K、(株)田中直染料店製)5部、分散染料(ポリロン ターキスブルー G、(株)田中直染料店製)5部を均一に混ぜ、これに水を適量加えて捺染糊とした。なお液体植物染料エンジュ液25Kは、エンジュ花蕾色素(アグリコン)を混合溶媒により高濃度に抽出した液体の天然染料である。ポリロンは、選択した分散染料を水分散体にした製品である。
【0055】
この捺染糊を用いて、オートスクリーン機で被染物にストライプ柄を捺染し、120℃で30秒間で乾燥した後、高圧スチームで130℃で20分間の湿熱処理を行った。そして水洗後、タナクリンEX((株)田中直染料店製) 2ml/L、ハイドロサルファイト1g/L、水酸化ナトリウム1g/Lの洗浄液で、浴比1:20で、80℃で10分間の還元洗浄を行った。
【0056】
これにより、エンジュのアルミ媒染による黄色と青色分散染料の混色によるハイブリットタイプの緑色ストライプ模様の風合い良好なニットが得られた。
【0057】
(6)実施例6
ポリエステルベルベットの精練したものをポリエステル系繊維として染色に用いた。
【0058】
染料溶解剤(アニノールS、(株)田中直染料店製) 4(V/V)%と、キレート剤(アニノール W、(株)田中直染料店製) 0.2(V/V)%と、媒染剤(一液用アルミ液、(株)田中直染料店製) 5(V/V)%と、天然染料(液体植物染料エンジュ液25K、(株)田中直染料店製) 5(V/V)%と、増粘剤(レベリンE、(株)田中直染料店製) 3(V/V)%、残りを水で100%とし均一に混合して染料液1を作製した。なお、液体植物染料エンジュ液25Kはエンジュ花蕾色素(アグリコン)を混合溶媒により高濃度に抽出した液体の天然染料である。アニノールSはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド重縮合物を主成分とする染料溶解剤であり、アニノールWは有機酸塩を主成分とする金属イオンの安定化剤である。またレベリンEは天然多糖類を主成分とする増粘剤である。
【0059】
染料溶解剤(アニノールS、(株)田中直染料店製) 4(V/V)%と、キレート剤(アニノール W((株)田中直染料店製) 0.2(V/V)%と、媒染剤(一液用チタン液、(株)田中直染料店製) 5(V/V)%と、天然染料(液体植物染料インド茜液22、(株)田中直染料店製) 5(V/V)%と、増粘剤(レベリンE、(株)田中直染料店製) 3(V/V)%、残りを水で100%とし均一に混合して染料液2を作製した。なお、液体植物染料インド茜液 22はインドアカネの根に含まれるアントラキノン系染料を主要成分として高濃度に抽出した液体の天然染料である。一液用チタン液は液体植物染料と同量使用することで金属量と色素量の割合が一定になるように調整されかつ、色素との不溶化を遅延させる成分を添加したチタン塩製剤である。
【0060】
そして、被染物に対して、染料液1をスプレーで散布し、続けて染料液2をスプレーで散布した。乾燥後、高圧スチームを用いて130℃で20分間蒸熱処理をし、その後水洗した。そして、洗浄液(タナクリンEX 2ml/L、(株)田中直染料店製)を用いて、浴比1:20で、80℃で10ソーピングを行った。
【0061】
これにより、エンジュのアルミ媒染とアカネのチタン媒染による、天然染料100%タイプの黄、コーラルピンク、及び生地白のボカシ多色構成の、風合い良好なベルベットが得られた。